皮膚科領域 におけるCS-807の 臨床的検討

VOL.36
1093
CHEMOTHERAPY
S-I
皮 膚 科 領 域 に お け るCS-807の
赤 枝 民 世 ・朝 田 真 木 ・尾 口
臨床 的検 討
基 ・朝 田 康 夫
関西医科大学皮膚科学教室(主 任 朝田康夫教授)
皮 膚科 領 域 の各種細 菌 感染 症 患 者 に対 して,新 経 口抗 菌剤CS-807を
投 与 しその 有 効 性,安 全性
を検 討 した。
1)皮
膚 感 染 病 巣 よ り分 離 し た 菌 は15株 で,S.aureus5株,S.epidermidis4株,Pept
ostreptococcus2株,S.pyogenes,S.agalactiae,Citrobacter
1株 で あ り,そ の うち13株 につ い てMICを
2)皮
3)副
lentum各
測 定 した。
膚 感 染症 患者22例 に対す るCS-807の
や改 善2例 で有 効 率 は90.9%と
diversus,Eubactenum
臨 床 効 果 は治癒4例,著
明 改善8例,改
善8例,や
な った。
乍用 は2例 に下痢 症 状 を認 めた が,投 薬 中止後 速 や か に症 状 の改 善 がみ られ た。
CS-807は 三 共株 式 会 社 で 開 発 され た経 口用 セ フ ァロ
スポ リン系抗 生物 質 で,Fig.1に
示 す 化 学構 造 式 を有 す
る抗菌剤 で あ る。 本 剤 はR-3763と
い う経 口 吸収 が 不 可
1.対
1.対
象 お よび方法
象
昭 和61年10月 か ら昭 和62年3月
まで の6月 間 に 当科
能であるが,強 力 な抗 菌作 用 を持 った物 質 を エ ステ ル化
を受 診 した 患者 の うち 皮 膚 感 染 症 患 者22例(男5夙
する ことによ って経 口吸 収性 を高 め た薬 剤 であ る。 従 っ
女17例)を
てCS-807は 腸 管 内 で 加 水 分 解 さ れ,活 性 なR-3763と
40か ら70kgで あ った。 対 象 疾 患 は発 生 機 転
してグ ラム陽性 菌及 び陰 性 菌 に対 して幅 広 い抗 菌作 用 を
過 あ るいは 治療 効果 が近 縁 と考 え られ るI-VL群
発揮 し,β 一lactamaseに 安 定 で あ る た め に 本 酵 素 産 生
群 に分 類 した(Table1)。
す な わ ち,1群2例(毛
株に も抗菌 力 を有す る ことが認 め られ て い る。
炎2例),II群7例(痴1例,痴
腫 症1例,急
今 回我 々は,皮 膚感 染 症 患 者 に お い てCS-807を
臨床
3例,蜂
対 象 と した。 年 齢 は17歳 か ら79歳,体
重は
病変 の経
の疾 患
嚢
性爪囲炎
窩 織 炎2例),III群0,IV群0,V群9例(集
応用 し,そ の有効 性,安 全性 を検討 し若 干 の考 察 を加 え
籏 曲座瘡2例,化
報告する。
庖性 座 瘡2例),VL群4例(手
術 創 の 二 次感 染2例,帯
状 疸 疹 の二 次感 染1例,カ
ポ ジー水 痘様 発 疹症 の二 次感
Fig. 1
CS-807
Chemical
stmcture
of CS-807
and
R-3763
染1例)で
症性 粉 瘤5例
膿
あ った。 これ ら疾 患 は重 症度 に よ り分 け る と
重症2例,中
2.投
膿 性汗腺 炎1例,炎
等症16例,軽
症4例 で あ った。
与 方 法 お よび効 果 判 定
1回 投与 量 を100mgと し朝 夕1日2回
計200mgを 投与
した。 投 与 期 間 は 原則 と して7∼10日
間 としたが病状
に応 じて 日数 を短縮 又 は延 長 した。 併 用 薬 は本 剤 の効 果
判 定 に影響 を及 ぼす もの は避 け,穿 刺,切 開 な どの外 科
的 処 置 も最 小 限 に と どめ た。 効 果 判 定 は投 与 開始 時 の
自 ・他覚 症状,所 見 と3日,5日,7日,お
R-3763
の 自 ・他覚 症状
よ び10日 後
所 見 と を比 較 し,治 癒,著 明 改 善,改
善,や や 改善,不 変,増 悪 の6段 階 で判 定 し,投 与終 了
時 の改 善 度 を もとに最 終 全般 改 善度 を6段 階 で評 価 した。
また,投 薬 前,投 薬 中,お よ び投 薬 後 に可能 な限 り病 巣
か ら細 菌 の 分離 培 養 を行 い細 菌 学 的効 果 を菌消 失,菌 減
少,菌 交 代,不 変,不 明 の5段 階 で判 定 した。
1094
MAY,1988
CHEMOTHERAPY
Table
1
Target
例(症 例No.4)は
infections
内服 開 始 当 日 よ り同 症状 が 出現 したた
め4日 目で投 与 を中止 した。 他 の1例(症
例No.8)は 内
服10日 目 よ り症 状 が 出現 した が投 与 を 中止 す る にいた
らず 治療 効 果 を検 討 し得 た。2例
とも投与 終了後 には症
状 は速 やか に 消失 した。 臨 床 検 査 所見 で は明 らかにCS
-807投 与 に よ る副 作 用 と思 わ れ る異 常 検 査値 を示 した
症 例 は認 め られ なか っ た。
IIL考
案
近 年 セ フ ェム系抗 生 物 質 に も急速 に耐 性 菌が増 加 して
お り従 来 の セ フ ェム系 抗 生物 質 に耐 性 の菌 に も効 力を発
揮 す る新 しい セ フ ェム 系薬 剤 の 開 発 が所 望 され てい る聾
㌔
R-3763を
エ ス テ ル化 し経 口投 与 を可 能 に したCS-807
も新 し く開発 され た セ フ ェム系 薬剤 の1つ であ る。本剤
II.結
1.細
はそ れ 自体 に抗 菌作 用 はな いが,経 口投 与後 腸管内で脱
果
エ ステ ル化 されR-3763と
菌 学 的効 果
臨 床 検 討 し た22例
中12例
の 病 巣 か ら 投 与 前 に15株 の
4株
」peptostreptocpccus
う ち13株
Enterobacter,Serratia,indole(+)」Proteusに
で あ っ た 。 ま た,15株
に つ い てCS-807(R-3763)のMICを
し た 結 果S.aureusで
epidermidisで
の
測定
は3.13μg/ml(4株/4株),S.
CCLCFT,AMPCよ
は0.10
diversusで
CS-807投
2.臨
は1.56μg/血1で
与 後 の 菌 消 失 率 は100%で
は0.20μg/ml,
安 全性 が 検 討 され3),確 た る もの とな りつつ ある。そ こ
あ っ た 。 な お,
で 他 の新 セ フ ェム 系抗 生 剤 と同等 の 効果 を得 た4)。病巣
投 与 し た22例
の 成 績 をTable2に
示 した。
た だ しNo.17に 関 し て は10日 後 の 改 善 度 を 最 終 全 般 改 善
度 と し て い る 。22例
2%),著
や や 改 善2例(9.1%)で
な った。 さ らに 対 象 疾 患 グ ル ー プ別 の 有
77.8%の
3.副
で そ れ ぞ れ100%,V群
結 果 を 得 た(Table
で
3)。
作用
対 象 患 者22例
中2例
あ り,副 作用 として
2例 に下 痢症 状 を認 め た ものの 投薬 中止 又 は終了後速や
る と思 われ る異 常 検 査値 も認 め られな か った。 さらに他
善8例(36.3%),
改善 以 上 を有効 とす る と有 効
効 率 は,1群,II群VI群
か ら分離 した菌 の 消 失率 は100%で
か に症 状 は 消失 した。 一 般臨 床 検 査で は本薬 剤 に関連す
の 最 終 全 般 改 善 度 は 治 癒4例(18.
明 改 善8例(36.3%),改
率 は90.9%と
で今 回皮 膚 科領 域 で の本剤 の有 効 性,安 全 性 について検
討 し た。皮 膚 感 染症 患 者22例 にお ける有 効 率 は90.9%
あ った。
床効果
CS-807を
どに 対 す る抗 菌 力は
り優 れ て い る こ とが証 明 され
てい る2)。既 に泌 尿 器 科,外 科 領 域 で は本剤 の艦
μg/mlと1.56μg/ml,LS.pッo野enesとS.galactiaeで
Eubacterium lentumで
も安 定なた
め本 酵 素 産生 株 に も抗 菌 力 を有 す る もので ある。 また動
pneumoniae,E.aeroogenesな
spp.で
は0.05μg/ml,Citrobact
菌 力 が及 ん で い る。 さ らに β-lactamaseに
も抗
物 実 験 の 結 果,S.pngununiae,E.coli,K.
は0.39μg/ml(2株/3株),12.5μg/
ml(1株/3株),Peptostreptococcus
グ ラ ム陽 性 菌,陰 性 菌の
口用 セ フ ァ ロス ポ リン系 薬 剤 が 抗 菌 力 を有 して いない
spp.2株,S.
pyogenes,S.agalactiae,Citrobacter diversus,
Eubactelrui lentum,各1株
在 す る。 か か る活 性R-3763は
双 方 に及 ぶ広 範 囲 な抗 菌 スペ ク トル を有 し,こ れ まで経
細 菌 を 分 離 し得 た 。 そ の う ち わ け は ∫a醐eus5株,S.
epidermidis
して吸 収 され 循環 血液 中 に存
に 下 痢 が み られ た 。 そ の う ち1
の セ フ ェム 系経 口抗 生 物 質 に比 較 し200mg/dayと
いう
少 量 で 同等 の有 効 率 を得 られ る こ とを考 え合 わせ る と本
剤 は皮膚 科 領域 にお い て も十分 その効 果 を発 揮 し得 る薬
剤 で あ る と思 われ る。
VOL.36
S-1
1095
CHEMOTHERAPY
Table 2
Clinical summary
of CS-807
NT:
Not
tested
1096
CHEMOTHERAPY
Table
Efficacy
紺 野 昌 俊:
Final global assessment
rate(%)=Cured+Excellent+Good/No.of
文
1)
3
total
antibacterial
今 日 の 治 療 指 針,
3)
S., Iwata, M., Tajima,
buchi, H., Yanagisawa,
H., Nakao,
H., Kumaz-
active
Cephalosporin.
In
vitro and
in vivo
第35回
26 ICAAC,
日 本 化 学 療 法 学 会 総 会,
CS-807,
M., Magari-
awa, J. and Kuwahara, S.: CS-807, a new orally
activity,
New Orleans,
La., 1986.
810,
1984
2) Sugawara,
of CS-807
cases•~100
献
セ フ ェ ム 系 薬 剤,
MAY. 1988
4)
盛 岡,
梅 原 茂 夫,
新 薬 シ ン ポ ジ ウ ムII
1987.
小 原 淳 伸,
下 江 敬 生,
望:
皮 膚 科 領 域 に お け るCefuroxime
-AX)
の 基 礎 的 ・臨 床 的 検 討
Suppl.
5:
1023-1026,
1986。
米 谷 育 子, 野 原
axetil (CXM
。Chemotherapy
34
VOL.
36
S-1
1097
CHEMOTHERAPY
CLINICAL
STUDIES
OF CS-807
IN THE
DERMATOLOGICAL
FIELD
TAMIYO AKAEDA, MAKI ASADA, MOTOI OGUCHI and YASUO ASADA
Department
of Dermatology,
Kansai Medical University
In a clinical study, CS-807, a new cephalosporin
various dermatological
(Director.
Prof. Yasuo Asada)
antibiotic, was administered
orally to 22 patients with
infections, to evaluate its usefulness and safety.
1) Fifteen bacterial strains isolated from cutaneous lesions were: S. aureus(5), S. epidermidis(4), Peptostreptococcus(2), S. pyogenes (1), S. agalactiae(1), Citrobacter diversus(1), Eubacterium lentum(1).
2) In 22 patients given CS-807 orally, clinical efficacy was assessed as: 4 cured (18.3%), 8 excellent (36.3%),
8 good (36.3%), and 2 fair (9.1%). Overall clinical efficacy of the grug was 90.9%.
3) Two patients
complained of diarrhea after administration
disappeared immediately after withdrawal
of the drug.
of CS-807. But these adverse reactions