学校の遊泳用プール腰洗い槽の 除菌効果

学校の遊泳用プール腰洗い槽の
除菌効果
大腸菌を用いた汚染モデルでの検討
正晃(株)山口営業所
宇部市学校薬剤師
小林 晃子
[目的]
∗ プール入水時の腰洗い槽の使用について
∗ 腰洗い槽を使用した場合の除菌効果を明らかにして、
使用の検討材料にする。
∗ 腰洗い槽を使用する代わりにシャワーで洗い流す場合は
どの程度使用すれば除菌効果があるのか
人体汚染モデル:大腸菌を付着させた水着
腰洗い槽モデル:腰洗い槽と同濃度の水槽
を使用して使用時間と除菌効果について検討
[背景]
学校の水泳プール: 水泳プールの衛生基準を満たすこと
衛生基準
(1) 遊離残留塩素 0.4mg/ℓ以上であること。また、1.0mg/ℓ以下である
ことが望ましい。
(2) pH 値 5.8 以上8.6 以下であること。
(3) 大腸菌 検出されないこと。
(4) 一般細菌 1mℓ中200 コロニー以下であること。
(5) 有機物等 過マンガン酸カリウム消費量として12mg/ℓ以下であること。
(6) 濁度 2 度以下であること。
(7) 総トリハロメタン 0.2mg/ℓ以下であることが望ましい。
(8) 循環ろ過装置の処理水 循環ろ過装置の出口における濁度は、0.5 度
以下であること。 また、0.1 度以下であることが望ましい。
腰洗い槽: 遊離残留塩素濃度50∼100mg/ℓ
【腰洗い槽について】
学校の水泳プールは、一度に多数の児童生徒等が入り、シャワーで
身体を十分に洗浄することが時間的に困難なことも多いため、授業の
開始直後に遊離残留塩素濃度が急激に低下することがある。
特に、浄化設備がない入替え式の水泳プールにおいては、水質が悪
化し、遊離残留塩素濃度の維持が困難な場合が多いため、腰洗い槽
を設置し、使用することが求められる。
また、循環ろ過装置及び塩素の自動注入装置が設置されている水
泳プールにおいても、比較的短時間で有効な洗体方法である腰洗い
槽の使用は、衛生管理上有効な方法である。
学校においては、関係者の指導助言を得るなどし、腰洗い槽の使用
について十分に検討することが重要である。
なお、腰洗い槽の遊離残留塩素濃度は50∼100mg/ℓ とすることが
望ましいとされているが、高濃度の塩素に過敏な体質の児童生徒等に
対しては、腰洗い槽を使用させないで、シャワー等の使用によって十分
に身体を洗浄するように指導する必要がある。
文部科学省 学校環境衛生マニュアルより抜粋
腰洗い槽
シャワー
プール
腰洗い槽使用時間:約15秒
遊離残留塩素濃度50∼100mg/ℓ
シャワー使用時間: 約20秒
流量0.5L/分
腰洗い槽の使用:使用に関しては各学校の状況に一任
状況判断の根拠は?
[材料]
大腸菌を用いた汚染モデル
1.大腸菌に汚染された水泳着モデル
学校で使用するスクール水着(ポリエステル100%)を
2cm×3cmにカットしてEOG滅菌
Escherichia coli(大腸菌)のコロニーをその水着片に塗布
(106個/一片)
2.腰洗い槽の次亜塩素酸ナトリウム溶液モデル
ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム(Milton CP ®)で
100ppmに調製した水槽
[方法] 1.腰洗い槽浸漬法(100ppm塩素液浸漬法)
Escherichia coli(大腸菌)のコロニーを塗布した水着片
(106個/一片)
遊離残留塩素100ppm液へ浸漬
水着を経時的に取り出す
30秒、1分、2分、5分、10分後
塩素の不活化0.5%チオ硫酸ナトリウムブイヨン液20mLに注加
超音波処理37kHz・10分間
トリプチケースソイ寒天培地37℃・24時間培養
生菌数の測定
2.流水洗い流し法
Escherichia coli(大腸菌)のコロニーを塗布した水着片
(106個/一片)
流水で洗い流す
流量(0.5L/分)
30秒、1分、2分、5分後に
ブイヨン液20mLに注加
超音波処理37kHz・10分間
トリプチケースソイ寒天培地37℃・24時間培養
生菌数の測定
108
大
腸
菌
数
/
水
着
片
106
100ppm塩素液 浸漬
104
102
0
1分
2分
5分
10分
浸漬および流水時間
図1.遊離残留塩素液に浸漬および流水後の水着に付着した大腸菌数(n=3)
表1. 遊離残留塩素液に浸漬および流水後における汚染水着の除菌率(n=3)
腰洗い槽モデル
100ppm塩素液に浸漬
浸漬時間
菌数
(cfu/水着片)
菌除去率(%)
流水で洗い流す
流量(0.5L/分)
菌数
(cfu/水着片)
菌除去率(%)
4.3×107
0
3.0×106
30秒
2.7×106
10
4.0×104
99.90
1分間
1.9×106
36.66
6.2×103
99.99
2分間
1.2×104
99.60
4.0×102
99.99
5分間
2.5×103
99.91
10分間
0
100
100
99.999
[結語]
• 実験モデルにおいて
100ppmの遊離残留塩素液(腰洗い槽モデル)
に30秒∼1分の浸漬では除菌効果はない.
• 腰洗い槽モデル5分間と流水モデル30秒間が
同様の除菌効果
(菌除去率99.9%)
• 30秒しっかりと流水で洗い流したほうが
より安全で有効な方法だと推奨される.
プール入水時の腰洗い槽の使用について
¾ シャワーが十分に浴びれる状態であれば腰洗い槽は不要
¾ シャワーで洗い流す場合は30秒間使用すれば除菌効果が
ある。
¾ 腰洗い槽を使用する場合、2分以上使用すれば除菌効果が
期待できる。