カーボンナノチューブ成膜プロセスの開発

ULVAC TECHNICAL JOURNAL No.64 2006
カーボンナノチューブ成膜プロセスの開発
中野美尚*,山崎貴久*,村上裕彦*
1.はじめに
カーボンナノチューブ(以下 CNT)はグラファイトの
シートを丸めて筒にしたストロー状の構造をした物質で
ある。直径が数 nm から数十 nm 程度,長さが数μmか
ら数 mm と高いアスペクト比を持ち,高導電性,高熱伝
導性,
機械的な強靱性など特徴的な物性があることから,
ナノテクノロジー分野を中心に半導体や医療,バイオな
どの広い分野で応用が期待されている。これまで,我々
は成膜方法や基板調製法などを工夫することによりCNT
写真1 CN-CVD-200TH
の成長形状や配向性を制御することを試みてきた1,2)。
本稿では半導体の配線と熱伝導材料として利用すること
ランプ
を考えた場合の CNT の成長方法や形状について紹介す
る。
サンプル
排気
ガス
2.CNT の成膜方法
正面
石英反応管
SiC サンプルホルダー
反射膜
まず,CNT 成膜方法と基板の調製方法を述べる。
CNT の成膜方法には大きく分けて固体炭素源を蒸発さ
せて CNT を作製するアーク法やレーザーアブレーショ
ン法3,4)などの蒸発法と,炭化水素等を分解してCNT
断面
を作製する化学気相合成(Chemical Vapor Deposition :
図1 CN-CVD-200TH 模式図
CVD)法の2種類がある。蒸発法は触媒を使用しない
場合もあるが,通常は両手法共に Ni や Fe,Co などの遷
造は図1の模式図のようになっており,石英反応管周囲
移金属やこれらを含む合金を触媒として用いる。成長す
る CNT の太さなどの形状や配向性は,触媒の粒径,凝
に配置された赤外線ランプの光を中央にある SiC ステー
集のし易さなどの基板状態と成長の手法に影響される。
ジに集光して加熱する。10 ℃/秒程度の急速昇温が可
そのため,CNT の成長,形状を制御するためには基板
能である。また,ガスは加熱されないため,反応管内壁
の作製技術と成膜方法の開発が必要となる。本研究では
などでのアモルファスカーボンの生成がほとんどない。
原料の供給や大面積基板への成膜などを考慮し,CVD
写真2に CN-CVD-200TH とマッフル炉で垂直配向成長
法で成膜を行い,基板とプロセスを工夫することにより
させたCNT の断面 SEM 写真を示す。CN-CVD-200TH で
目的のCNT を成長させた。
は CNT のみが成長しているが,ガスが加熱されるマッ
CNT の成膜方法は,アセチレンを原料とした熱 CVD
フル炉ではアモルファスカーボンが CNT 表面に堆積し
法と,水素とメタンの混合ガスを原料としたリモートプ
てしまっているのが分かる。アセチレンを原料とした熱
ラズマ法を使用した。熱 CVD 法は写真1に示す管状の
CVD 法では 10 μ m /秒という高速成長が可能であるこ
ゴールドイメージ炉(CN-CVD-200TH)を使用した。構
とが特徴である。
リモートプラズマ法には図2の模式図に示すマイクロ
波プラズマ装置を使用した。直径 50mm の石英管に
* (株)アルバック 筑波超材料研究所
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この半導体のVia Hole は絶縁層内に設けられているた
め,プラズマ CVD などのイオンや電子でチャージアッ
プさせたり,バイアスを印加する必要がある手法は使用
できない。そのため,熱 CVD 法とリモートプラズマ法
が適している。ここでは,熱 CVD 法は反応時間が短く
て済むが低温成長が難しいため,より低温で成長可能な
マッフル炉
写真2
CN-CVD-200TH
リモートプラズマ法を用いた。
写真3はシリコン基板に Fe を1 nm 成膜した基板を
熱 CVD(アセチレン)で成長させた CNT
650 ℃で成長させた CNT の断面 SEM 写真である。15 μ
m 程度の長さで垂直配向している。650 ℃では温度が高
ガス
いため,温度を 450 ℃へ下げて成長させた。しかし,Fe
触媒では成長しなかった。そこで,触媒を Co としたと
プラズマ
ころ写真4のように成長した。しかしながら,きれいに
マイクロ波電源
網
プ
ラ
ズ
マ
垂直配向していない。これは,垂直配向は CNT 同士の
基板
分子間力により起こることから,今回の場合は CNT の
網
密度が小さいために垂直配向しなかったと考えられる。
均熱板
ステージ
これに対し,TiN をバッファ層として FeNi を成膜した
赤外線ランプ
基板を 450 ℃で成長させた結果の SEM 写真を写真5に
示す。このようにバッファ層と触媒を選ぶことで,低温
図2 リモートプラズマ装置模式図
500W でマイクロ波を横から導入してプラズマを発生さ
せる。反応ガスを石英管上部から導入し,プラズマ中を
通って分解したガスを加熱した基板上へ導入して CNT
を成長させる。その際,プラズマを網に通すことでイオ
ン成分を排除し,ラジカル種を用いて反応させる。ラジ
カル種を原料とするため,通常の熱 CVD 法と比較して
450 ℃程度と低温でCNT の成長が可能である。
CNT 成長用の基板には Fe,Ni,Co を成膜した。ま
た,触媒粒子の凝集を防ぎ,CNT 直径を細く保つため,
さらに成長温度の低温化のために Ti や Ta,TiN,Al な
どを触媒と基板の間にバッファ層として成膜した。
写真3 リモートプラズマ法によるCNT
Fe 触媒,650 ℃
3.Via Hole へのCNT 成長
現在,半導体の配線として Cu が使用されている。し
かし,配線の微細化が進むにつれ,現在の Cu を用いた
技術では,微細領域への配線の作製が困難になり,また
Cu に流すことができる電流密度の観点からも Cu の使用
は困難となる。特に,絶縁層に設けられた細孔(Via
Hole)内の垂直方向の配線: Via 配線が問題になる。そ
こで,大電流密度を流すことが可能な直径数 nm の CNT
を束にして Via Hole 内に成長させることで,Cu 配線の
代わりとすることが可能である。また垂直成長の他に,
半導体の配線として利用する場合には,他の半導体プロ
セスの関係上,成長温度を 400 ℃∼ 350 ℃以下にする必
写真4 リモートプラズマによるCNT
Co 触媒,450 ℃
要がある。
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できれいに垂直配向した CNT を成長させることができ
しまったりして CNT が成長しない。そのため,Cu やAu
た。
と密着させるためのバッファ層を成膜する必要がある。
そこで,バッファ層を TiN,触媒を FeNi として,
今回は,実際に放熱材料として使用されることが予想
450 ℃で Via Hole へ CNT を成長させた。SEM 写真を写
される Cu を基板とした。触媒には Fe,Ni を用いた。成
真6に示す。このように今回は 450 ℃で Via Hole 内に
長方法は熱CVD 法とリモートプラズマ法を使用した。
CNT を成長させることができた。実際にはまだ温度が
まず Cu にバッファ層無しで触媒を成膜し,成長させ
高く,バッファ層と触媒の組み合わせや膜厚,また成長
たところ,熱 CVD 法でもリモートプラズマ法でも触媒
プロセスの最適化によりさらなる低温化の必要がある。
が剥がれてしまうか触媒が凝集して微粒子にならず
CNT が成長しなかった。そこで,一般にバッファ層と
4.金属上へのCNT 成長
して使用される Ta や TiN をバッファ層として用いた。
Ta をバッファ層とした場合は垂直配向せずにランダム
近年,電子回路の急速な高集積化がすすみ,電子部品
に成長した。TiN をバッファ層,Ni を触媒とし,熱
や回路からの発熱が問題となっている。そこで,CNT
CVD を行った場合,写真7のようなナノコイルが成長
の高熱伝導性を利用して放熱用の材料として使用するこ
した。これは,基板中の窒素原子の存在などにより欠陥
とが考えられている。半導体などにチップから CNT を
が生じるためと考えられる。Fe 触媒やリモートプラズ
成長させる方法もあるが,高温で成長させることができ
マ法を用いた場合はランダムに成長した。
ないため,Cu などの熱伝導の良い金属から成長させる
そこで,基板として単体で CNT が垂直配向して成長
必要がある。しかしながら,Cu や Au などに直接触媒を
する Si と Al をバッファ層として Cu 基板上へ成膜した。
成膜した場合,触媒層がはがれてしまったり,凝集して
Al は低融点であるため,成長温度が低いリモートプラ
写真5 リモートプラズマによる CNT
FeNi 触媒,バッファ層TiN,450 ℃
写真7 熱 CVD 法で Cu 上へ成長させたCNT
触媒 Ni,バッファ層TiN,700 ℃
写真6 Via Hole へ成長させたCNT
FeNi 触媒,バッファ層TiN,450 ℃
写真8 リモートプラズマ法で Cu 上へ成長させたCNT
触媒 Fe,バッファ層Al,600 ℃
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ズマ法を用いた。その結果,写真8のように Cu 板上に
とを示している。また,Cu 上など通常 CNT が垂直配向
も CNT を垂直に成長させることができた。このように,
成長しない基板に CNT を垂直配向成長させることがで
熱伝導性の高い金属上に CNT を成長させることで,
きたことから,CNT 利用の幅を広げることができる。
CNT を放熱用の材料として使用することができる。
今後は,CNT の応用の可能性をもっと広げるために,
さらに低温で成長できるようにする必要がある。
5.まとめ
参考文献
絶縁層 Via Hole 内とCu 上にCNT を垂直配向成長する
ことができた。これにより,CNT が半導体の配線や電
1)ULVAC Journal No.62 (2005) 22.
子部品等の放熱材料として利用できる可能性が示され
2)中野美尚 他,電子材料9(2004)25.
た。Via Hole のように,イオン種やバイアスの印加がで
3)T. W. Ebbesen and P. M. Ajayan, Nature, 358 (1992)
きない場所へ CNT を低温で成長できることは半導体分
220.
野のみではなく,絶縁体などにも CNT を成長できるこ
4)A. Thess et al., Science, 273 (1996) 483.
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