グローバルスタンダード最前線 次世代光アクセスシステム(NG-PON2)の 標準化動向 あ さ か こ う た 浅香 航太 か に じゅんいち /可児 淳一 NTTアクセスサービスシステム研究所 伝送容量の増大,多種サービスの びITU-T SG15/Q2(Study Group15/ 勧告化が完了しています. 収容および柔軟なネットワーク運用 Question2) で 議 論 さ れ て い ま す. を目指し,現在標準化団体において FSANは,将来光アクセスシステムの やシステムのパワーバジェットなどの 活発な審議が進められている次世代 技術について議論を行う業界団体で, 物理層仕様を規定し,2013年12月に 光アクセスシステム(NG-PON2)の 合意形成された方式や技術をITU-T 合意済みです.承認に向けた最終コメ 標準化動向について報告します. に提案することで,国際標準化活動に ント審議において,技術課題を解決す 貢献しています. る審議に多くの時間を割いたため, 将来光アクセス システム 2014年12月に承認されました. 次世代光アクセスシステム (NG-PON2) 将来光アクセスシステムについては, G.989.2は,NG-PON2の 波 長 配 置 ま た,G.989.3はNG-PON2の 波 長 および帯域の割当プロトコルなどを含 伝送容量10 Gbit/s級のPON(Passive 40 Gbit/s級PONシステムは,次世 む 伝 送 コ ン バ ー ジ ェ ン ス(TC: Optical Network) シ ス テ ム ま で は 代光アクセスシステム(NG-PON2: Transmission Convergence) 層 を 規 IEEE(Institute of Electrical and Next Generation-PON2)と呼称され 定 し,2014年12月 のITU-T SG15本 Electronics Engineering)およびITU-T ており,2010年にFSANで議論が開 会議でも活発な審議が行われました. (International Telecommunication 始され,ITU-TではG.989シリーズと このようなステータスから,G.989シ して標準化が進められています. リーズのすべての勧告化が完了するの Union-Telecommunication Standardization Sector)で標準化が G.989シリーズを構成する各勧告と 完了しています.最先端の光アクセス 標準化ステータスを表 1 に示します. システムとして,現在,10 Gbit/s級 G.989は,G.989シリーズに用いられ NG-PON2のシステムイメージを図 のPONシステムをベースに,波長多 る用語の定義を規定し,2015年 7 月 1 に示します.従来のPONシステム 重(WDM: Wavelength Division に 合 意(consent) す る 予 定 で す. では,マス(一般)ユーザ向けのみに Multiplexing)技術を導入し伝送容量 G.989.1は,NG-PON2の シ ス テ ム 要 サービスを展開していましたが,NG- の増大とサービス拡張性を強化した40 求 条 件 を 規 定 し,2013年 3 月 承 認 PON2ではマスユーザに加えて,ビジ Gbit/s級 のPONの 標 準 化 がFSAN (approval)済みであり,G.989シリー ネスユーザおよびモバイルユーザも同 (Full Service Access Networks) ,およ ズでは現時点(2014年12月)で唯一 一の光アクセスシステムにより収容す は,2015〜2016年となる見込みです. ■システム構成 表 1 G.989シリーズ各勧告と標準化ステータス 勧告番号 74 勧告名称 説 明 G.989 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2) : Definitions, abbreviations and acronyms NG-PON2(G.989シリーズ) で用いられる用語や定義 2015年 7 月合意予定 G.989.1 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2): General requirements NG-PON2の要求条件 2012年 7 月合意済 2013年 3 月承認済 G.989.2 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2): Physical-layer specifications NG-PON2の物理層仕様 2013年12月合意済 2014年12月承認済 G.989.3 40-Gigabit-capable passive optical networks (NG-PON2): Transmission-Convergence (TC)-layer specifications NG-PON2の伝送コンバー ジェンス(TC)層仕様 2015年 7 月合意予定 NTT技術ジャーナル 2015.1 標準化ステータス ることを想定しています.NG-PON2 Point-to-Point(PtP)型のWDM(PtP 粋を表 2 に示します(1).TWDM-PON の基本システムは,従来の時分割多重 WDM)オーバレイの適用が期待され における波長多重数は上り ・ 下り各 (TDM: Time Division Multiplexing) ています.また,NG-PON2において 4 (オプションで各 8 )であり,伝送 技 術 に 加 え てWDM技 術 を 用 い た は,WDM技術の導入に伴い,在庫管 速度は 3 パターンを仕様化していま TDMとWDMの ハ イ ブ リ ッ ドPON 理コストの低減および誤接続防止の観 す.例えば波長当りの上り ・ 下り伝送 (TWDM-PON: Time and Wavelength 点から,光加入者線ネットワーク装置 速度10 Gbit/s(上り ・ 下り総帯域40 Division Multiplexing-PON)システ (ONU:Optical Network Unit)のカ Gbit/s)はビジネスユーザ向けに,波 ムですが,モバイルなど厳しい伝送遅 ラーレス化が仕様化されています. 長当りの上り伝送速度2.5 Gbit/s(上 延条件が要求されるサービスについて ■要求条件 り総帯域10 Gbit/s) ,下り伝送速度10 はオプションとして規定されている G.989.1で規定された要求条件の抜 Gbit/s(下り総帯域40 Gbit/s)はマ スユーザ向けへの適用が考えられま す.分岐数および伝送距離はそれぞれ ビジネスユーザ 256分岐以上および40 km以上を支持 することを仕様化していますが,アプ RRH PtP WDM オーバレイ マスユーザ ルータ PtP WDM BBU 度,分岐数,伝送距離は異なります. そのため,下り総帯域40 Gbit/s,伝 モバイル ネットワーク TWDM TWDM TWDM TWDM モバイルサービス 上位ネットワーク OLT リケーションによって最適な伝送速 送距離20 km,分岐数64など支持すべ き組み合わせについても仕様化してい ます. ■波長装置 NG-PON2の 物 理 層 仕 様 で あ る BBU: Baseband Unit RRH: Remote Radio Head ONU 図 1 NG-PON2のシステムイメージ G.989.2においては,波長配置が図 2 のように規定されます.既存のPON システムや10 Gbit/s級PONとの共存 を図るため,NG-PON2向けの波長域 表 2 NG-PON2の要求条件(G.989.1より抜粋) システム 総帯域 (波長数 4 の場合) TWDM-PON(基本システム) PtP WDM オーバレイ(オプション) 下り40 G(10 G × 4 λ), 上り40 G(10 G × 4 λ) 下り40 G(10 G × 4 λ), 上り10 G(2.5 G × 4 λ) 下り10 G(2.5G × 4 λ), 上り10 G(2.5 G × 4 λ) 分岐数 1:256 伝送距離 40 km 共存 サービス すべての既存PONシステム (映像配信システム含む) マスユーザ,ビジネスユーザ,モバイルバックホウルほか は,TWDM-PON用 に 上 り1524〜 1544 nm(Wide Banad option) お よ び 下 り1596〜1603 nmが 規 定 さ れ ま す.上り波長域については,ONUに 適用する波長可変技術や波長チャネル 間隔(最小50 GHz, 最大200 GHz)に 応 じ て,Wide Band optionに 加 え て Reduced Band option(1528 〜 1540 nm), Narrow Band option(1532 〜 1540 nm)の 3 種類が仕様化されます. NTT技術ジャーナル 2015.1 75 グローバルスタンダード最前線 TWDM 上り TWDM 1596∼1603 nm 下り Wide: 1524∼1544 nm NG-PON2(G.989.2) Shared spectrum: 1603∼1625 nm Reduced: 1524∼1540 nm Narrow: 1532∼1540 nm PtP WDM オーバレイ Expanded spectrum: 1524∼1625 nm 下り 上り 10G-EPON XG-PON 1575∼1580 nm 1260∼1280 nm 上り 下り GE-PON,G-PON Regular: 1260∼1360 nm GE-PON G-PON Reduced: 1290∼1330 nm G-PON Narrow: 1300∼1320 nm 1200 1260 1300 Video 1550∼1560 nm 1360 1400 1480 1500 1600 1625(nm) 図 2 NG-PON2の波長配置 NG-PON2では上り波長域にC帯が使 G.989.3は,ITU-Tで勧告化された10 信器および受信器の低コスト化が重要 われることになるため, 1 波長当りの Gbit/s級PONシ ス テ ム のTC層 仕 様 と な る 一 方 で, サ ー ビ ス 運 用 中 に 伝送速度が10 Gbit/sの場合は,ONU G.987.3をベースに,波長の割当プロ ONUの波長可変機能により割当波長 送信器に外部変調方式を適用するな トコルを補充するコンセプトで標準化 を切り替えることで,NG-PON2シス ど,波長分散耐性の向上を図る必要が が進められています.具体的には,波 テムの高機能化が期待されています. あります.また,PtP WDM用には, 長IDの規定法,ONU初期登録時の波 高機能化の一例として,波長切替によ 既存PONシステムなどとの共存を図 長割当法,サービス運用中のONUの る 光 加 入 者 線 終 端 装 置(OLT: ることを想定した「Shared spectrum」 波長切替シーケンスなどが補充される Optical Line Terminal)プロテクショ として1603〜1625 nmが規定され,さ 予定です. ン(高信頼性化)技術を図 3 に示しま らに,グリーンフィールド向けを想定 し た「Expanded spectrum」 と し て 1524〜1625 nmが規定されます.なお, 波長切替による 高機能化 す.通常時に,OLTを構成する 3 つ の光加入者ユニット(OSU: Optical Subscriber Unit)盤は,それぞれ 3 PtP WDMについては,波長域のみが NG-PON2では,波長ごとに異なる つの異なる波長が割当てられて運用さ 規定され,波長数,上り ・ 下りの波長 ONUを製造 ・ 管理する必要をなくす れており,OSU#1, OSU#2, OSU# 3 配置および波長チャネル間隔は規定さ ために,ONUの送信器および受信器 は, そ れ ぞ れONU1, ONU2お よ び れません. に波長可変機能を持たせることを必須 ONU3,ONU4と通信を行っていると としています.そのため,波長可変送 します.ここで,OSU# 2 に故障が発 NG-PON2のTC層 仕 様 で あ る 76 NTT技術ジャーナル 2015.1 λ1u ONU1 ONU2 ONU3 λ2u OSU #1 λ2u ONU1 波長 3(λ3u)に 切り替え ONU3 ONU2 λ1u OLT λ3u の最新標準化動向として,NG-PON2 について紹介しました.今後は, G.989 故障修理 OSU #1 λ3u ONU4 ここでは,将来光アクセスシステム OSU #3 ONU4 波長 1(λ1u)に 切り替え 故障発生 OSU #2 λ3u λ1u 今後の展望 OLT OSU #2 OSU #3 図 3 波長切替によるOLTプロテクション技術 シリーズの改訂(Amendment)文書 の審議を通じて,主にPtP WDMの仕 様化が進展するものと思われます. NTTでは,将来光アクセスシステム の審議に積極的に参画し,国際標準化 活動に貢献していきます. ■参考文献 生した際には, 通信断絶を防ぐために, 行っている間に通信への影響を与えな ONU2およびONU3は,それぞれ波長 いことが求められるため,ONUの波 を切り替える(ONU2はλ2uからλ1u 長可変送信器および受信器には,高速 へ,ONU3はλ2uからλ3uへ切り替え な波長切替機能が求められます. る)ことにより別のOSU(ONU2は 一方で,このようなサービス運用中 OSU# 1 ,ONU3はOSU# 3 )に 接 続 の波長切替は行わずに,ONUの初期 され,通信を継続することが可能とな 登録時のみ波長切替を行う場合は, ります. ONUに高速な波長切替機能は不要と 従来のPONシステムにおけるプロ (1) ITU-T Recommendation G.989.1:“40-Gigabitcapable passive optical networks(NG-PON2) : General requirements,” 2013. なります.これらの背景のもとに, テクションでは,冗長性確保のために G.989.2では,ONUに波長切替時間ク 予備OLTと光スイッチを導入する必 ラスが規定されます.波長切替時間 要がありましたが,NG-PON2におけ クラスは 3 段階にカテゴライズされ, るプロテクションは,ONUの波長を クラス 1 , 2 ,および 3 は,それぞれ 切り替えるだけで実現可能なため,予 <10 μs, 10 μs 〜25 ms, 25 ms〜 1 s 備系の装置類が不要となる特長があり と規定されます.このようなクラス分 ます.このほかにも,トラフィックが けは,ネットワークの高機能化に必要 少ない場合に,すべてのONUを同一 な波長切替時間への要求条件と,現状 の波長に切り替えて同一のOSU盤に の波長可変送受信器の性能に基づいて 接続することにより,ほかのOSU盤 行われています. をスリープモードで運用する低消費電 力化技術も期待されます.これらの機 能を実現するうえでは,波長切替を NTT技術ジャーナル 2015.1 77
© Copyright 2024 Paperzz