シリコンバレーにおけるイノベーション Connected Cars と

NEDOシリコンバレー事務所委託調査
シリコンバレーにおけるイノベーション
Connected Cars と Autonomous Cars
調査報告
ALT ビジネス・コンサルティング
1
目次
1. エグゼクティブサマリー
1.1.
コンシュマー・エレクトロニクス・ビジネスにおける地殻変動
4
1.2.
Autonomous Cars(自動運転車)
6
1.3.
イノベーションの震源地としてのSilicon Valley
10
1.4.
1.5.
報告書の目的
所感
12
12
1.6.
報告書作成に関して
14
2. 社会インフラとしてのブロードバンド無線通信のイノベーション
2.1. 米国における4G LTE ネットワークの配備と社会的インパクト
2.2. 米国における4GLTEの普及状況
2.3. ケーススタデイ: Verizonの戦略
15
18
21
3. 破壊的イノベーションの震源地としてのシリコンバレーとそのエコシステム
3.1. スタンフォード大学と産業界
3.2. Apple と Google
25
27
3.3.
3.4.
自動車業界
スタートアップ、エンジェル、ベンチャー・キャピタル、法律事務所
30
31
4. Connected Cars
4.1.
4.2.
Connected Cars を考える上での基本的なフレームワーク
DSRC (Dedicated Short Range Communications)
4.3.
4.4.
4.5.
ケーススタデイ:Peloton Technology Inc.
40
車載インフォテイメント(IVI: In-Vehicle Infotainment)をめぐる業界の動向 48
ケーススタデイ:GM
55
33
38
4.6. ケーススタデイ:Mercedes-Benz
4.7. 各社の Silicon Valley における車載インフォテイメントをめぐる動き
4.7.1. BMW Group Technology Office USA
64
70
70
4.7.2. ホンダ・シリコンバレー・ラボ
4.7.3. トヨタ・インフォテクノロジー・センター/トヨタ・テクニカルセンター・
シリコンバレー・オフィス
4.8. 今後の方向性(まとめ)
73
76
82
2
5. Autonomous
Cars
5.1. 背景
5.2. 日米欧主要企業の動向
5.2.1. GM
5.2.2. Ford
5.2.3. Mercedes-Benz
5.2.4. Volkswagen Group (Audi)
5.2.5. BMW
5.2.6. 本田技研
5.2.7. 日産自動車
5.2.8. トヨタ自動車
5.3. Google - Driverless Car
86
88
88
88
89
89
90
90
91
91
92
Stanford 大学 CARS
Autonomous Cars の開発を Silicon Valley で進めている各社の活動
(含む Connected Cars、その他の活動)
5.5.1. Bosch
101
101
5.5.2. デンソー
5.5.3. Ford
104
107
5.5.4. 日産
5.5.5. Volkswagen Group-Electronics Research Lab
109
111
5.4.
5.5.
5.6.
5.7.
自動運転に向けたカリフォルニア州の法律整備の動き
今後の方向性
6. 破壊的イノベーションとビジネス機会
6.1. Silicon Valleyが向かっている方向
6.2. ビジネス・チャンス
96
122
122
124
125
3
1. エグゼクティブサマリー
1.1.
コンシュマー・エレクトロニクス・ビジネスにおける地殻変動
米国のラスベガスで、年の初めに賑わいを見せる Consumer Electronics Show(CES)
は、2014 年も世界各国から 15 万人の来場者を集め、世界最大のビジネス・イベ
ントとなった。 2012 年までは、Microsoft が、初日の Keynote Speech を行うこと
が慣例であった。 2014 年は、初日に Audi の会長が車に乗って舞台に登場し、
Connected Cars、Piloted Driving、Laser Head Lighting の 3 点について約 1 時間 Keynote
Speech を行った。 翌日以降の一連の Keynote Speakers は、ソニーの平井社長、
Yahoo CEO の Marissa Mayer、半導体大手の Intel 社など、また、Technology Innovators
として Keynote Speech を行ったのは、無線通信事業者大手 AT&T Mobility の CTO、
無線通信半導体最大手 Qualcomm の会長、無線通信インフラ最大手 Ericsson の CEO、
そしてサンフランシスコを拠点とするハイテック技術専門系のウエッブ情報誌
TechCrunch 共同創立者であった。
(CES 2014 ウエッブサイトより、2014 年 1 月 6 日引用)
4
米国では、Verizon Wireless による 2010 年の 4G LTE の導入をきっかけに、 AT&T
Mobility など他の無線通信事業者もブロードバンド無線通信のインフラ整備の
競争に追随し、モバイル・インターネットに適した All IP 無線通信インフラが完
備されつつある。 例えば、2014 年 1 月 1 日現在、Verizon Wireless は、全米 316
百万人1の人口の 97%を LTE でカバーしている2。 新たな無線通信環境を得て、
米国のコンシューマ・エレクトロニクスでは、モバイル・インターネットが中
心になり、スマートフォン、タブレット、車載インフォテインメント、それら
を支えるネットワーク、半導体、ソフトウエアなどがビジネスを拡大させ、CES
には参加しない世界のリーダーである Google、Apple、Facebook などの影響力も
加わって、米国に留まらず、モバイル・インターネットの流れが世界的な大き
な潮流となって来ている。 この潮流に自動車が加わったのも、つい最近の出
来事であった。 もはや、モバイル・インターネットは生活必需品であり、その
アプリケーションもスマートフォン、タブレット、車載インフォテインメント
などのハードを超えた世界の中で、それぞれの場とユーザーのニーズに応じた
適切なソフトと UX(ユーザー・エクスペリエンス)が柔軟に選択されるように
なって来ている。
ニューヨークの昨年までの市長だった Bloomberg がオーナーのビジネス情報
誌”Bloomberg”の 2014 年 1 月 10 日付け記事に、2013 年の 12 月 2 日に発表され
た Accenture3による世界の車の購入者購買選択行動を分析した結果が掲載され
た。 Accenture のレポートによれば、車の購入者の間で、最新技術を用いた
“Connected Cars”への関心が高くなって来ていることが示された。 最新の車載
技術の中には、カーナビや交通情報、自動運転の一部の機能による高度運転支援
システム、車内エンターテイメント、仕事の生産性や学習の効率を高めるための
車載機材、運転者の運転パターンを保険会社が分析するためのブラック・ボック
スなど、様々な次世代技術が入って来ている。 従来の馬力などのエンジン性能
に対する選好傾向に対して、自動車に乗っている間でも、最新の技術を使って、
人々と繋がっていたり、情報を入手したりすることが可能な”Connected Cars”が
より好まれ、選ばれる傾向にある。 調査結果では、39%の購入者が、それを最
も重視していることが判明した4。 因みに、運転性能を重視している購入者の
割合は、14%で、新技術を好んで選ぶ購入者の半分以下であった。
Source: US Census Bureau 2013
http://www.verizon.com/investor/DocServlet?doc=vz_bulletin_2013_4q.pdf, 2014 年 2 月 2 日引用
3 http://newsroom.accenture.com/article_display.cfm?article_id=5919, 2014 年 2 月 2 日引用
4 Bloomberg "Autos Morph Into iPhones as Buyers Want WiFi with Wheels” by Keith
Naughton-Jan 10, 2014, 2014 年 2 月 2 日引用
1
2
5
CES の Keynote Speech で、Audi 会長 Rupert Stadler は、ゲストとして、米国大手
無線通信事業者の AT&T Mobility CEO Ralph de la Vega およびシリコンバレーで
成長著しい半導体開発会社 NVidia 会長の Jen-Hsun Huang を舞台で紹介し、Audi
の車が、それ自身常時 LTE 無線通信ネットワークに繋がった Mobile 通信機器と
しても機能する Connected Cars であることを強調していた。 同時にモバイル・
インターネットの巨人である Google や Qualcomm とも戦略的な提携をしている
ことも発表していた。 Rupert のポイントは、Audi 単独 1 社では、顧客満足を
高めるハイテック車載機器や車内でのサービスの提供が十分には出来ない。 シ
リコンバレー企業および AT&T Mobility などとアライアンスを組みながら、
Project を進めてきていることで、Connected Cars を実現し、その価値を高め、さ
らには自動運転への開発成果につながって来ていることを強調していた。 例え
ば、その一例に、自動運転の頭脳となる zFAS 車載コンピュータを NVidia と共
同開発したことを挙げている。
(zFAS:International CES 2014 Audi ブースにて筆者撮影 2014 年 1 月 8 日)
1.2.
Autonomous Cars(自動運転車)
Audi は、Volkswagen Group に属する会社で、Volkswagen Group は、シリコンバ
レーの北西側に位置する Belmont に、Electronics Research Lab を持っている。こ
れについては、このレポートの第 5 章で、詳しく触れるが、2005 年及び 2007 年
に Stanford 大学が DARPA の自動運転・コンペティションに参加するために、
Volkswagen と自動運転の技術開発を共同で行った。 2010 年 4 月には、ドイツ
メルケル首相の出席のもと、Stanford 大学のキャンパスの中に前年設立された
6
Volkswagen Automotive Innovation Lab(Volkswagen の寄付によって建てられた研
究所)のオープニング・セレモニーで、Valet Auto Parking のデモを行っている。
(Volkswagen Automotive Innovation Lab:2014 年 1 月 23 日筆者撮影)
Audi は、自動運転を表す言葉として“Piloted Driving”と言う表現を使い、Ford
は”Automated Driving”、Mercedes-Benz が”Intelligent Drive”、GM は“Autonomous
Driving”と言う表現をそれぞれ使っている。
Autonomous Driving に関しては、自動化のレベルによっていくつかのステップが
あ り 、 米 国 の 運 輸 省 が 2013 年 5 月 30 日 に 発 表 し た ”Automated Vehicle
Development”に関するポリシー5の中では、それを 5 つの段階に分けている。(筆
者翻訳)
-----------------------------------------------------------------------------------------------------1.
非自動化(レベル0)
:運転手がブレーキ、ハンドル、アクセル、推進力を、
常時完全にコントロールしている
2.
特定機能の自動化(レベル1):1 ないしは複数の特定のコントロール機能
からなる自動化、例えば、電子セフテイーコントロールあるいは自動ブレー
キなど、運転手が自動車を十分に制御できるような状態に復帰するよう自動
U.S. Department of Transportation Releases Policy on Automated Vehicle Development
NHTSA 14-13, May 30th, 2013
5
7
的にブレーキをかけたり、スピードの出し過ぎをコントロールしたりする機
能のレベル。
3.
複合的な機能の自動化(レベル2):少なくとも 2 つ以上の主要な機能が協
調して機能するように設計され、その自動化機能によって、運転手がそれら
の主要な機能をコントロールすることから解放されることが可能なレベル。
4.
限定的なレベルでの自動化(レベル3):Google Car はこのレベルでの一つ
の事例であるが、運転手がセフテイーにかかわる重要な機能を交通状況、環
境状況により、適宜自動レベルからマニュアルレベルに切り替えることが可
能な自動化レベル。また、運転手がマニュアルで運転することが必要である
ような状況をモニターしていて、それが必要な場合に、自動から運転手に切
り替えることが可能な自動化レベル。運転手が状況に応じてコントロールす
る必要を認識していて、必要に応じて十分余裕を持って切り替えることが可
能な自動化レベル。
5.
完全自動化(レベル4):このレベルの自動車は、すべての重要なセフテイ
ー機能を果たし、目的地に到着するまでの道路状況をモニターできるように
設計されている。人を乗せているか、乗せていないかにかかわらず、運転手
は、目的地とナビゲーションのインプット以外は、期待されていず。車をコ
ントロールすることは期待されていない。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------Audi、Ford、GM、Mercedes-Benz などの意図としては、自動運転の部分的な機
能を徐々に実用化し、レベル 3、さらにはレベル 4 へ向けて、実用化を進めて行
くために、それを表現するためのマーケテイング・メッセージをこれらの言葉に
託したのではないかと推測される。
BMW、Ford、GM、本田、Mercedes-Benz、日産、トヨタ、Volkswagen Group(Audi)
など自動車大手は、既に様々な形で、自動運転の機能を部分的に、導入し始めて
いる。 Bosch、Continental、Delphi、デンソーなどの部品大手も、自動化に向け
た Solutions を開発しながら、それを自動車業界へ提供始めている。 Stanford
大学 CARS Director Dr. Beiker によると、自動運転の技術の 80%はほぼ確立しつ
つあるが、残りの 20%を開発し、テストし、車に実装し、販売するまでには、
8
まだ相当時間がかかるとのコメントを頂いた6。
要素技術は確立しつつあり、
今後は、徐々に、実装のために、安全性・信頼性などのテストを積み重ね、レベ
ルを高め、自動運転の部分的な機能を高度運転支援システムとして、市場に導入
してゆくことになると思われる。
車の自動運転の実用化のポイントは、次の通りと思われる。


利用者が最小の努力と最小の注意で対応できるユーザーインターフェー
スの開発
車の周囲の状況をリアルタイムで 3 次元マップとしてとらえ、さらに車


以外の移動体(風で吹き飛ばされている物体も含め)の移動経路を予測
し、4 次元マップを作り、それを認識判断する技術。
コントロール・システムとして、効率的で、遅延が少なく、信頼度の高
いアルゴリズムやプラットフォームの開発
外部からの環境情報データを、ネットワークを通じて逸早く取り込む通
信機能の高度化
それらを支えるマイクロプロセッサーやメモリー、イメージセンサー、
加速度センサーなど多様なセンサー群などの半導体の開発
自動運転の頭脳となる車載可能なコンピュータの開発
さらにはレーザー・レーダー、無線通信機器、エンジン、アクチュエー

タ、ブレーキなどの制御機器の高度化
技術の標準化



そのような中での社会全体としての課題は、下記の通りであると思われる。
1.法律・行政の対応による環境整備
2.レベルの異なる車両間の事故などが起きた場合の、事実関係の確認、責任
(Liability)をだれが負うのか、保険会社はどのように対応するのか、保険料
はどのような新しい体系になるのかなど、社会経済制度的な環境の整備
3.ドライバーの意識改革: どのようにユーザーの期待度を調整してゆくか、
如何に誤った期待で車を操作しないようにするか。
実際の運転に影響を与える消費者の、自動運転機能に対する、適切な期待度を確
保するために、今後マーケテイング・メッセージは、益々重要な役割を果たすよ
6
2014 年 1 月 23 日の Dr. Sven Beiker へのインタビューの折にコメントを頂いた。
9
うになると推測される。
1.3.
イノベーションの震源地としての Silicon Valley
自動運転に関する総合的なエコシステムを整え、カリフォルニア州や米国運輸
省に影響を与えながら、環境を一歩一歩整備して来ているのが、シリコンバレ
ーである。 そのような中で、Google Car は、逸早くネバダ州やカリフォルニア
州の道路交通法の改正を経て、公道での実験を行い、米国運輸省が定める自動
運転のレベル分類のレベル 3 に位置付けられている。 そして、Google からは、
4 年以内に、Google の Driverless ソフトが載った車 、 Google Car(Google 自身
が自動車を製造販売するかどうかは別にして)が世に出るようなメッセージも、
出されている7。
IT(インターネット)・半導体・無線通信などが推進力となっているイノベーシ
ョンの性格から、世界的な破壊的イノベーションの震源地は、いつの間にかシリ
コンバレーになってしまった。 Google、Apple、Facebook、Oracle、Amazon.com、
Salesforce.com、SAP、VMware、HP、Cisco、Intel、Qualcomm、Ericsson、Microsoft、
NASA、Lockheed Martin など、名前を上げれば切りがないほどの巨大企業が集積
するばかりではなく、ここはかの有名なスタートアップ(ベンチャー企業)とイ
ンキュベータ(ベンチャー育成インフラの提供企業)、エンジェル(初期シーズ
段階での投資家)やベンチャー・キャピタル、それを支える法律家集団の集積地
で、Stanford 大学と UC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)が世界中
から集まってくる選りすぐれた人材を教育し、その中から生まれてくる革新的な
アイデアを絶え間なく供給しているのである。 これらの研究大学に加え、シリ
コンバレーの引力に引き付けられた世界中の優れた技術者が、この地に続々と集
まって来ている。 インドや中国だけでは無く、フランス・ドイツ・イタリア・
英国などの欧州勢、チェコ、エストニア、ロシアなど様々な国々から、PhD ク
ラスの技術者が続々集結し、棲みつき、人材の宝庫になっている。
7
http://www.bloomberg.com/news/2013-02-06/self-driving-cars-more-jetsons-than-reality-for-googl
e-designers.html, 2014 年 2 月 8 日引用
10
(Google Map より、2014 年 1 月 18 日引用)
近年、目立つ動きは、移動体通信業者と大手自動車会社の研究開発部隊のシリコ
ンバレーへの集積である。 特に、自動車関係は顕著である。 2005 年以来、
DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:インターネットの源泉とな
る開発を手掛けたことでも有名な米国国防省の新規技術開発機関)の主催する
Autonomous Vehicle の Competition に参画し、成果を上げ続けてきた Stanford 大
学が、2008 年 3 月エンジニアリング・スクール(工学系大学院)、ビジネス・ス
クール(経営大学院)およびロー・スクール(法律大学院)などと共同して、全
学の共同プロジェクト CARS (Center for Automotive Research at Stanford)を立
ち上げた。 このプロジェクトの責任者は、ダイムラーベンツで開発をリードし
ていた J. Christian Gerdes である8。 そこに全世界の大手自動車会社が参画する
ことにより、シリコンバレーへの集積が加速された。 因みに、上述の DARPA
の Competition で活躍した Stanford 大学と MIT の開発者は、Google に引き抜かれ、
Google の Driverless Vehicle の事業化へ向けての開発を進めている。
サンフランシスコ湾の南西側約 60km の間に細長く位置する、San Mateo、Belmont、
San Carlos、Redwood City、Menlo Park、Palo Alto、Mountain View、Sunnyvale、
Santa Clara、San Jose などの市からシリコンバレーは形成されている。Stanford
大学に隣接する Palo Alto 市(Stanford 大学のキャンパスは広大で、鎌倉市の面積
より幾分小さいが、港区と千代田区を併せた面積よりも大きい、それ自身が Palo
8
http://me.stanford.edu/groups/design/automotive/, 2014 年 1 月 18 日引用
11
Alto とは別の行政単位になっている)には、米国の大手通信業者の Verizon、AT&T、
日本の NTT DoCoMo、自動車大手の GM、Ford Motor、Bosch の開発センター、
Tesla 本社などがある。 Google のキャンパスがある Mountain View には、トヨ
タ、ホンダ、BMW などの開発センターがあり、Sunnyvale には、Mercedes-Benz、
日産の研究開発センターや、KDDI の開発センターがある。 Delphi は Los Altos
に、デンソーは、San Jose に、Softbank/Sprint の開発センターは、San Carlos に、
Volkswagen の開発センターは、Belmont 市に位置している。
1.4.
報告書の目的
本報告書では、シリコンバレーが形成するエコシステム中での、Connected Cars、
車の自動運転(Autonomous Cars)を、業際的なダイナミックな動きといくつかの
具体的な企業の試みを見ながら、整理することで、今後のこの分野におけるビジ
ネスの機会と発展を検討するための参考資料として頂ければ幸いである。
1.5.
所感
残された聖域、自動車の IT 化、ネットワーク化をめぐって、自動車産業、IT 産
業、無線通信サービス産業、そしてさまざまなスタートアップが、激しくしのぎ
を削っている。 結果、技術革新は進み、安全を高める車車間通信、よりユーザ
ーに便利な車載インフォテイメント、遠隔地からの車の診断・ソフトの更新、車
のセンサーから発信する多様なデータを利用したアプリケーションの開発
(OBD9を利用した保険業界の動きなど)、自動運転(高度運転支援システム)
、
ビッグデータなど、さまざまなソリューションの市場導入準備が進む。
車載インフォテイメントに関しては、市場のニーズが強く、HMI ヒューマン・
マシン・インターフェース(音声認識、タッチパネル、運転手を撮るカメラ、画
面情報の表示方法など)の改善などで安全性を重視したソリューションが各社よ
り積極的に展開されると思われ、様々なビジネス機会が広がっている。
一方、レベル 4 に相当する自動運転に関しては、道のりが遠いと言っても過言で
はないだろうか。 自動運転技術の高度化に伴い、これらの技術革新の実用化を
妨げるものは、技術革新よりも、おそらく社会的な要因が大きくなってくると思
OBD:On-Board Diagonostics は、車の自己診断とその結果を報告出来ることを意味している。車
のエンジン、ブレーキ、ステアリングなどのシステムの情報を取り出せるデバイスが販売されている。
これらの情報を分析すると運転手の運転パターンなどもわかり、事故確率などを分析できる。
9
12
われる。 Google の会長の Schmitd が 2014 年 1 月にスイスのダボスで行われた
世界経済フォーラムで、コンピュータ化と失業問題に言及した10が、自動車のロ
ボット化は、労働の機会を奪うことになる。
技術革新は止められないが、そ
れによってもたらす社会問題も大きな課題となる。 丁度、イギリスの産業革命
期に、ラッダイト運動がおこったように。
集団訴訟の多い米国では、事実を正確に把握もしくは反映せずに企業を訴えるケ
ースがしばしば起こる。 ブランドを大切にする企業としては、事実ではないに
しても、これらの訴訟は、リスクである。 新技術を導入する場合の法律の整備
(ルール作り)、保険のような社会経済制度の整備、そして消費者の新技術に対
する理解度を高める教育など課題が多い。 そのために、たとえ技術の解決策が
出来たとしても、米国運輸省が定義するレベル 4 に相当する自動運転への道のり
は遠い。 部分的な自動運転技術の導入にしても、消費者の期待度を適切にガイ
ドすることが大きな課題となると思われる。
おそらく業界全体として自動運転に関する社会認知度を上げながら一歩一歩進
んでゆくことで、技術革新の成果のスムースな導入が図られるのではないかと思
われる。 例外が起こるとすれば、産業が、コンピュータやスマートフォンなど
モバイル IT 産業で起こったように、水平分業化(コンピュータのクラウド・サ
ービスの世界で起こっている)し、これを利用して、大手企業ではリスクが大き
すぎて実行できないようなビジネスを、リスクがほとんどない中小規模企業、ス
タートアップなどが果敢に市場に打って出て、実行し、社会を動かすようなケー
スであろう。 その可能性は、依然として残されている。
Google の共同創立者の Brin によれば、Driverless Cars をめぐる Google のビジネ
スモデル 11は今の自動車会社のビジネスモデルと全く異なるので(英文では、
“We’re not trying to fit into an existing business model,” Brin said.)、Google による車
の IT 化、ロボット化は、車の新しい利用の在り方をもたらし、新しいビジネス
モデルを生み出すことになり、さらに自動車産業の水平分業化を加速することに
なるかもしれない。 そして、Google Car のソフトが、丁度パソコンにおける
Microsoft Windows やスマートフォンにおける Android のように、多くの車にと
って共通に利用される 1 つの自動運転の共通 OS(プラットフォーム)になる可
http://www.bbc.co.uk/news/business-25872006, 2014 年 2 月 8 日引用
http://www.newyorker.com/reporting/2013/11/25/131125fa_fact_bilger?currentPage=all,
2013 年 11 月 25 日付け The New Yorker の記事は Google Driverless Project に関する長文の解説を
試みている、2014 年 2 月 4 日引用
10
11
13
能性もあるのではなかろうか。
ビッグデータであるが、本質的な興味は、もちろん人間の行動である。 自動運
転の機能が、段階的に投入されると、それに対する運転手の反応・行動パターン
に対して自動車会社としての関心が高まる。 ビッグデータにより、技術・製品
改良や製品の教育に対する情報から販売方法まで含んで多様な分野にわたるわ
たり利用されることになると考えられるが、個人情報の保護を含めて、いろいろ
と今後議論される分野になると思われる。
1.6.
報告書作成に関して
報告書作成に当たっては、各社のプレスリリース、CES 2014 での各社プレスキ
ット、CES 会場における展示、各社ウエッブサイト、一般雑誌、新聞記事など
の公表されている情報と、筆者によるインタビュー時に掲載することを了解して
いただいた内容を利用した。 脚注は、参考文ないし引用文と、参考もしくは引
用した日を示す。
14
2.
社会インフラとしてのブロードバンド無線通信のイノベーション
2.1.
米国における4G LTE ネットワーク配備と社会的インパクト
2012 年 6 月 1 日、米国無線通信事業者の大手 Verizon Wireless は、Hughes Telematics
を 6.1 億ドルで買収することを発表した。12 Hughes Telematics 社は、テレマテ
ィックス業界のリーダー的な存在で、Connected Cars に不可欠な基本的な機能を
ビジネスとして確立していた。 例えば、M2M(Machine-to-Machine)通信によ
る遠隔地からの車の診断・修理サービス、GPS を利用したロケーションベース
のサービス、コールセンターなど核となるサービスを持っていた。 Hughes
Telematics の買収により、Verizon は、無線データ通信サービスに加え、総合サー
ビスプロバイダーとして、自動車、IT、無線通信などの業界が融合された
Connected Cars と言う新たなビジネス領域への参入を果たし、Mercedes-Benz と
言う最大の顧客を獲得した。 2012 年 7 月 26 日には、買収が完了し、Verizon
Telematics として発足した。
(2014 年 CES の Mercedes-Benz ブースにて 1 月 8 日筆者撮影)
GM の Telematics 分野の子会社である OnStar は、EDS 及び Hughes Electronics
Corporation と協業13しながら、1995 年に設立され、それ以来、無線通信サービ
スプロバイダーとしての Verizon とも協業してきた。 Verizon がこの分野で垂
Verizon のプレスリリースより
http://www.verizon.com/investor/news_verizon_to_acquire_hughes_telematics_inc_06012012.ht
m, 2014 年 1 月 24 日引用
13 http://en.wikipedia.org/wiki/OnStar, 2014 年 2 月 3 日引用
12
15
直統合へ向かう中、代わって AT&T Mobility が GM 2015 年モデル(2014 年夏に
発売予定)OnStar の LTE ネットワークサービス・プロバイダーとなり、この新
しい取り組みが 2013 年 2 月に発表された14。 発表の主なポイントは、AT&T
のスマートフォン・ユーザ-が持つデータプラン(1契約でタブレット、ノー
ト PC などとシェアできる)を、GM の OnStar にも適用し、OnStar のために新
たなデータ利用契約を結ぶ必要がないと言う点にあった。 もちろん、スマー
トフォンのデータ契約とは別に、OnStar から直接データサービスを購入するこ
ともできる。 GM の 4GLTE OnStar サービスでは、車内が Wi-Fi ホットスポッ
トになり、同乗者が Tablets やノート PC を使うことが出来る。 また、アプリ
ケーション・ストアーを通じて、いろいろなソフトをダウンロードできるなど
の特徴がある。
(2014 年 CES GM Chevrolet ブース
1 月 8 日筆者撮影)
2014 年 CES では、AT&T が、GM に加え、Audi15と提携することや、自動車会
社の開発を支援する場として、AT&T Drive Studio and Global AT&T Drive Platform
をアトランタに設置することなどを発表した16。 なお、Verizon Telematics は、
Mercedes-Benz、Volkswagen、State Farm などと既にパートナーとして協業してい
る17。
14
http://media.gm.com/content/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/2014/J
an/0105-4g-lte.html, 2014 年 1 月 24 日引用
15
http://www.att.com/gen/press-room?pid=25192&cdvn=news&newsarticleid=37375&mapcode=co
nsumer, 2014 年 1 月 24 日引用
16
http://www.att.com/gen/press-room?pid=25186&cdvn=news&newsarticleid=37369&mapcode=co
nsumer|innovation-releases, 2014 年 1 月 24 日引用
17 Verizon Telematics のウエッブサイトより:http://www.verizontelematics.com/#, 2014 年 1 月 24
16
GM は、OnStar、Audi は、Audi connect®など米国でのテレマティックサービス
を既に自社グループ内に持っているため、競合関係になる Verizon を避けたと推
測される。 米国内に自社でテレマティックスサービスを構築することを考え
ていない自動車会社は、例えば、Mercedes-Benz のように、自社ブランドでカス
トマイズできる、Verizon Telematics のような水平分業化されたテレマティックス
会社を選ぶ方向に進むと予測される。
米国での本格的なブロードバンド無線データ通信の幕開けは、2007 年に起こっ
た。 その年に、Verizon Wireless が世界に先駆けて18米国で LTE ネットワークの
展開を決め、公表した。 2010 年 12 月には、LTE ネットワークが始動し、2014
年年初では、Verizon Wireless が全米の人口 3.14 億人の約 97 %(3.05 億人)を LTE
でカバーするに至った。 Verizon Wireless を追う形で、AT&T Mobility、Sprint、
T-Mobile が LTE ネットワークを展開し、米国では、一気に広域ブロードバンド
無線データ通信のネットワーク環境が整い始めた。
iPhone が初めて発売されたのは、2007 年 6 月であるが、しばらくの間、ニュー
ヨークやサンフランシスコの大都市圏では、インターネットにつながりにくく、
商品の斬新さを別にすると、ネットワークに繋がる商品としては、快適な商品
とは言いにくい状態であった。 2010 年に始まった LTE ネットワークの拡大・
充実とともに、Google の Android も含め、スマートフォンが普及し、日常生活
に不可欠なものとなっていった。
このような環境下で、人々は、家にいるとき、仕事をしているとき、電車で外
出しているとき、そして歩いているときに、常にネットワークに繋がっている
状態を楽しむことが出来るようになった。 車を運転しているときが、最後に
残された聖域となった。 この残された機会をめぐって、自動車会社、Apple や
Google などの IT 会社、そして、無線通信事業者がこの新しいビジネスの場の支
配力を強めようとしている。
この章では、Connected Cars や Autonomous Driving にとって欠かすことが出来な
い無線通信インフラ側について分析を試みた。
日引用
18 厳密に言うと、北欧が最初に(2009 年)LTE を展開した。しかし影響力としては Verizon が最初
としても良いと思う。
17
2.2. 米国無線通信事業者業界と4G LTE 普及状況
米国の無線通信事業は、業界として、4 社寡占体制であり、Verizon Wireless と
AT&T のシェアが高く、市場の約 70 %弱を占めている。Sprint は 3 番手で、
T-Mobile USA が 4 番手である。各社の業績発表からまとめると以下の通り。
Verizon
AT&T
Sprint
T-Mobile
2013 度事業結果 (収入、利益は 12 か月累計)
加入者数
収入 経常利益率 LTE カバー率
102.8 百万人 690 億ドル
32.1% 97 %-305 百万人
110.4
699
25.6
85 %-270 百万人
55.3
46.7
355
244
- 5.2
4.1
64% -200
66 %-209
この業界で、鍵となるビジネス要素は以下の通りである。
① 電波枠の確保(ライセンスの取得)
② 膨大なネットワークインフラへの投資のための資金調達力
③ 受信感度の良く、カバー領域が広いネットワークの構築
④ ネットワークを計画通り建設する組織力
⑤ ネットワークを障害無くメインテナンスする運営能力
⑥ 米国の電波行政・独禁法などに通暁していること
⑦
⑧
⑨
⑩
行政に対する渉外・交渉力
集客力のためのマーケティング力
自社ネットに繋げる機器の調達力・交渉力
付加価値サービスの開拓力
例えば、常時、通信が出来て当たり前のビジネスで、自然災害による通信不通、
イベントに伴う限られた範囲内での極度の通話の集中などの多様な変化に対し
的確に対応する能力が問われるビジネスである。 米国の東海岸で良く見られ
る長期にわたる大規模停電の際に、常時接続を維持するために、アンテナタワ
ーにバッテリを装備するのはふつうであるが、バッテリでは、通常 4 時間ない
しは 8 時間程度しか持続しない。 例えば、Verizon の Tower の 80 %には、バッ
テリ以外に発電機がついていて、自然災害の際にも通信の常時接続を可能にし
ている19。
Verizon 社 Innovation Center-West の責任者の Jack Tang 氏に 2014 年 1 月 22 日に伺った話か
ら。
19
18
このような要素を考慮すると、既存事業者の買収以外には、他業種からのこの
業界への参入障壁は高く、不可能と考えても良い。 米国の電波行政を統括し
ている FCC (The Federal Communications Commission)のリードの下で、市場にお
ける競争促進(つまり 2 社独占を防ぐために)のために、外国資本の導入を推
進するための法改正が行なわれた20。 その結果、ソフトバンクが Sprint を買収
する道が開かれたのである。
移動体に対する通信としては、衛星通信があるが、広範囲を一つの衛星がカバ
ーするために、電波使用効率が悪く、カバー地域当たりの電送容量が小さいた
め、Connected Cars や Autonomous (Driving) Cars から来る双方向データ通信需要
を満たすことは不可能である。
このような事情から、米国で広域無線通信を必要とする Connected Cars や
Autonomous Cars を推進してゆくためには、米国の 4 つの無線事業者とどのよう
な形でパートナーシップを築きあげるかが、戦略上極めて重要になって来てい
る。
ここで、無線通信事業者の広域ブロードバンド無線通信の状況を簡単に振り返
ってみたい。なお、米国では 4G LTE と言う語をビジネス上利用するが、日本で
使う 3.9 G と技術レベルは同じで、日本で使用する 4G は、次世代の無線通信技
術を指し、米国のマーケティング用語である 4G とは別物である。
Verizon Wireless:
全国をカバーする LTE Network を 2014 年年初にほぼ(人口比 97%)確立した。
周波数帯は、広域カバーに効率的な 700 MHz での展開をほぼ終え、AWS
(Advanced Wireless Service の略)を利用した展開を推進することで、より帯域の広
い(よりパイプの太い)LTE ネットワークを展開して来ている。 大都市の混
雑地域では、最大 40 MHz21の帯域で LTE のサービスを行っている。 Verizon
Wireless 創業以来の CDMA は、併存させながらも、LTE 主体の運営を進めてい
る。 2015 年には、現在 CDMA で利用している PCS (1.9GHz)に LTE を展開して
20
http://www.fcc.gov/document/foreign-ownership-second-report-and-order, 2014 年 1 月 18 日引
用
21
http://www.droid-life.com/2013/12/06/verizon-boosts-4g-lte-network-capacity-expands-to-40mhz-i
n-major-cities/, 2014 年 2 月 3 日引用
19
ゆく予定となっている22。
Verizon の特徴は、創立以来の伝統で、品質重視で
ある。 因みに、Verizon の名前の由来は、Veritas (ラテン語で真実)、Horizon(地
平線)で、地球が丸いと考えられる以前の時代では、地平線は直線であると考
えられていた。 真の地平線は、弧を描いていることから、それを真実の地平
線 (Veritas Horizon)となづけた。
AT&T Mobility
従来からの 3G のネットワークを All IP ベースの高速なデータ転送可能な
HSPA+(4G)にアップグレイドし、全国をほぼカバーしている。これに加えて、
700 MHz で LTE ネットワークを展開し、一部地域では従来の PCS (1.9 GHz)で
も LTE を展開中23、2014 年 1 月 7 日に AT&T からのプレス発表文24によれば、新
たに追加の AWS の電波枠を得て、LTE の展開をさらに加速する予定との事。こ
の発表文よれば、LTE のカバレッジは、2014 年年初で、2.7 億人(人口比 86%)
となっている。
Sprint
Sprint は、米国の無線事業者の中で、もっとも幅広い電波ライセンスを所有して
いる。その周波数帯域は、800 MHz、1.9 GHz 及び 2.5 GHz にわたり、LTE 展開
に適した周波数である25。 LTE Network の展開を着実に進め、2013 年末には、
2 億人26(人口比 64%)以上をカバーし、全米 300 マーケットに展開済である27。
CES 2014 での Sprint CTO Stephen Bye のコメント28によれば、2014 年内だけで、
http://www.verizonwireless.com/news/article/2013/07/future-of-4G-LTE-nicola-palmer.html,
2014 年 2 月 3 日引用
23 http://www.fiercewireless.com/story/att-starts-using-pcs-spectrum-lte-service/2013-11-08,
2014 年 2 月 3 日引用
22
24
http://about.att.com/newsroom/att_agrees_to_acquire_aws_spectrum_from_aloha_partners_ii_lp
.html,
25
http://www.fiercewireless.com/story/sprint-spark-combine-lte-800-mhz-19-ghz-and-25-ghz-will-of
fer-50-60-mbps-pe/2013-10-30,
26
http://www.fiercewireless.com/story/sprint-spark-combine-lte-800-mhz-19-ghz-and-25-ghz-will-of
fer-50-60-mbps-pe/2013-10-30, 2014 年 1 月 18 日引用
27
http://newsroom.sprint.com/news-releases/sprint-poised-for-2014-breakthrough-following-year-o
f-network-advances.htm,
28 http://www.fiercewireless.com/story/sprints-bye-2014-year/2014-01-08,
20
1 億人(人口比 32 %)をカバーする LTE Network を展開する予定であるとのこ
と。 Wireless 業界の有力なオンライン業界紙である Fierce Wireless によれば、
2014 年半ばには、2.5 億人(人口比 80 %)をカバーする模様29。
T-Mobile
T-Mobile は、従来の 3G の周波数帯である PCS (1.9 GHz)では、全米をカバーす
る電波ライセンスを持たず、ビジネス展開上の大きなネックであった。 2006
年に行われた AWS のオークションで、全米をカバーするライセンスを落札した。
2013 年より、LTE を展開し、2014 年初現在で、LTE Network のカバー率は、66 %
(2.09 億人)である。30
LTE ネットワーク以前では、音声通話、メッセージングが、付加価値の高い通
信メデイアであったが、無線データ通信がビジネスの中心になる中で、パイプ
を拡充するためにインフラ投資が必要とされ、米国の通信事業者も投資回収を
進めるために、付加価値をもたらす新たなビジネスモデルの構築を急いでいる。
2.3.
ケーススタデイ―:Verizon Wireless の戦略
Verizon Wireless は、2000 年に Bell Atlantic、Airtouch などの無線事業者 4 社が合
併して生まれた会社で、株主は、Verizon Communications と英国の Vodafone であ
った。 2013 年には、Verizon Communications が Vodafone の持ち分を買収し、
100 % Verizon Communications の子会社となった。 Verizon Communications の現
会長で CEO の Lowell McAdam は、Verizon Wireless の CEO から Verizon Group 全
体の責任者になった人で、Verizon 全体のビジネスの中で、無線通信の比重が大
きくなったことを示している。
一方の AT&T Mobility の前身は、Southwestern Bell(のちに SBC)と Bell South
のジョイント・ベンチャーで、Cingular と言う名前であった。 親会社の SBC
が 2005 年に AT&T を買収した結果、名称が変わり AT&T Mobility となった。Bell
29
http://www.fiercewireless.com/story/sprint-spark-combine-lte-800-mhz-19-ghz-and-25-ghz-will-of
fer-50-60-mbps-pe/2013-10-30,
30
http://newsroom.t-mobile.com/phoenix.zhtml?c=251624&p=irol-newsArticle&ID=1903058&highl
ight=, 2014 年 2 月 28 日引用
21
South も AT&T と合併し、現在の AT&T Mobility のオーナーは、AT&T Inc.となっ
ている。 現在の AT&T Inc.と以前存在した AT&T Corp.とは、名前は似ている
が、別の法人である。
Verizon Wireless の親会社の Verizon Communications の歴史をたどると、New
Jersey 州に拠点を置いていた旧 AT&T に行き着く。 旧 AT&T は、巨大会社で
あるために、独禁法の観点から 7 つの地域通信会社と 2 つの小規模な通信会社
に分割された。 AT&T から分離した最大手で、ホワイトハウスや連邦政府が位
置する Washington DC や New York などを地盤とする Bell Atlantic と旧 AT&T と
は別に独立して存在していた通信事業者の GTE が合併し、2000 年に Verizon
Communications が発足した。 伝統的に品質重視の会社である。
前項で触れたように、LTE に関しては、2007 年から準備を始め、2010 年末から
実際のサービスを開始し、その後ネットワークの拡大に努め、2014 年初で、米
国人口 3.14 億人のうち 3.05 億人をカバーするまでになっている。 LTE をサポ
ートする周波数帯は、広範囲な地域をカバーできる 700 MHz と比較的中領域を
カバーする AWS (1.7 GHz、2.1 GHz)からなっている。700 MHz 帯については、
米国全域をカバーできるだけのライセンスを得ている。AWS に関しては、東海
岸は、かなりきめ細かく全域を、大陸の西側に関しては、大都市などの拠点を
押さえている。
Verizon の中長期技術戦略の核心にあるインフラ技術は、次のページの図にある
ように、LTE の Network、Cloud Data Centers, 光ファイバー網、そしてそれを支
える Global IP Network Services である。
22
(Source: Verizon ウエッブサイト31 CTO Tony Melone が野村メデイア・テレコミュニケ
ーション・サミットで使用したスライドの一部、2014 年 1 月 18 日引用)
この図は、2012 年 5 月 30 日に野村メデイア・テレコミュニケーション・サミッ
トで、CTO の Tony Melone によって発表された時に使用されたプレゼンテーシ
ョンスライドからの写しである。 脚注にあるように Verizon Communications の
Investor Relations の中の資料として公開されているため、ウエッブサイトからア
クセスが可能である。
このスライドが示している通り、Verizon は、核心にあるインフラを強化し、サ
ービスの質を高め、その上で、データサービスの通信サービス事業者に加え、
垂直統合的に、映像ビジネス、健康医療に関するビジネス、そしてテレマティ
クスに参入し、ビジネスを確立しようとしていることが読み取れる。 因みに、
FiOS TV は、光ファイバー上での TV Contents 放送サービスで、 Redbox は Video
Contents のレンタル小売業である。
31
http://www.verizon.com/investor/DocServlet?doc=nomura_summit_melone_53012.pdf
23
前ページの野村メデイア・テレコミュニケーション・サミットで、CTO の Tony
Melone によって発表された翌日、2012 年 6 月 1 日に、 Hughes Telematics の買
収の発表が、Verizon よりされたことは大変に印象の強いものであった。
Verizon は、GM OnStar での 15 年にわたる協業で、この分野のビジネスの将来性
と核心になる競争力は何かと言う事を理解していたのではないかと思われる。
Hughes の強みは、GPS Trucker であり、遠隔から車の診断をし、車の中のソフト
ウエアを更新できる技術である。 通常は、車のディーラーまでユーザーが車
を持って行って、更新しなければならなかったのを、これで安く・簡単に更新
することが出来るようになった。 また、Verizon と協業している Mercedes-Benz
の mbrace32サービスでは、メカニックやタイヤのパンクなどの問題を起こした場
合、ディラー・サービス部隊が、出張修理に来てくれる。 これは、車の修理
に必要な情報を遠隔地から入手できるので、適切な対応策を予めサービス部門
で把握して、出張修理に出かけることが出来るからである。 また、 Verizon
Telematics のサービスを受けている車の場合、州の DMV(運転免許証とか自動
車の車検を管理している州の自動車管理局)へ遠隔地からスモッグ証明書(車
の排気ガスが一定の条件を満たしているかの証明書)を、ボタンを押すだけで
送信出来るので、スモッグテストのための長い列に並ばなくて済む33。
32
33
http://www.mbusa.com/mercedes/mbrace, 2014 年 2 月 4 日引用
http://www.verizontelematics.com/press/industry.php, 2014 年 2 月 4 日引用
24
3.
破壊的なイノベーションの震源地としてのシリコンバレーとそのエ
コシステム
3.1.
Stanford 大学と産業界
(Stanford 大学ウエッブサイトより、http://www.stanford.edu/about/, 2014 年
2 月 4 日引用, 大学正門からこの正面建物まで、直線でパームの並木通りが約 1.5
km ある)
サザンパシフィック鉄道やセントラルパシフィック鉄道のオーナーで、事業で
大成功を収めた、カリフォルニア州知事、後にカリフォルニア選出上院議員に
もなった、Stanford が、亡くなった一人息子を偲んで、個人が所有する広大な
牧場に、1891 年に創立した大学が Stanford 大学である34。 Stanford は、亡く
なった自分の子供の代わりに、カリフォルニアの子供たちに、教育と自分の遺
産を継がせたかったのである。 当時としては、唯一男女共学の大学で、初め
34
http://www.stanford.edu/about/history/, 2014 年 1 月 26 日引用
25
から開かれた校風を持つ大学であった。 20 世紀初頭には、エンジニアリング、
医学、ビジネス、法律、教育の専門大学院を創設した35。
1939 年には、Stanford 大学の教授からの励ましもあり、卒業生の David Packard
と William Hewlett がガレージ(車庫)で企業を起こした36。 ヒューレット・
パッカ-ド(HP)社の創立である。 伝統的に、学生に起業を進める校風があり、
大学のキャンパスの中には、Industrial Park があり、HP の本社は、この中に
ある。 第二次世界大戦後、続々と新しい企業が、Stanford 大学の周辺に生ま
れ、コンピュータ関連産業の世界の中心地になった。 1990 年代に成長著しか
った Workstation の Sun Micro 社の SUN は、Stanford University Network の略
である。 1981 年に画期的な RISC と呼ばれるコンピュータ性能を飛躍的に高め
る構造を開発した John Hennessey 教授は、その技術の事業化のために、大学の
sabbatical years(リフレシュするための休職特権)を使って会社を起こし、
MIPS Computer 社の共同創業者になった。 John Hennessy は、現在の Stanford
大学学長である37。
近くは、Google の創業であるが、大学の中で開発したサーチ・エンジンを企業
化し、そのビジネスを拡張した結果、現在の Google にまで成長した38。 Stanford
は、Google の創業期に、大学院生の Brin や Page が開発した Search Engine 特
許の Google へのライセンスを認める代わりに、Google の株を取得し、2005 年
に Google の株を売却した時には、約 3.36 億ドル(約 330 億円)のキャシュを
得ている。39 因みに、Stanford 大学の現在の基金は、187 億ドルで、日本円で
換算すると、約 1 兆 9 千億円である40。
このように技術革新を大学自体が活発に支援するとともに、大学の中では、毎
週のように成功した、あるいは失敗したスタートアップの創業者が学生に、経
験談を語り、ベンチャー・キャピタルの経営者が経営のノウハウを教え、正式
なカリキュラム(選択科目)の中に、企業の起こし方と言うクラスもある。 総合
大学であるため、学生は、経営に必要な資金管理、法律的な対応など様々な学
習の機会が得られている。
35
36
37
また、公開講座があり、卒業した学生あるいは一
http://www.stanford.edu/about/history/, 2014 年 1 月 26 日引用
http://www8.hp.com/us/en/hp-information/about-hp/history/history.html, 2014 年 1 月 26 日引用
http://www.stanford.edu/dept/president/biography/, 2014 年 1 月 26 日引用
38
http://www.redorbit.com/news/education/318480/stanford_earns_336_million_off_google_stoc,
2014 年 1 月 26 日引用
40 http://facts.stanford.edu/, 2014 年 1 月 26 日引用
39
26
般社会人にもクラスが開かれている。
つまり、Stanford 大学は、技術革新と
そのビジネス化のエンジンになっているのである
3.2. Apple と Google
Apple Inc.
Apple は、1976 年に Steve Jobs とその仲間が Los Altos にある Steve の親の家
のガレージで、Apple I の製造販売のために始めた会社である。それまで Steve
は、ゲーム会社の Atari に勤めながら、Stanford でクラスを取ったり、コンピ
ュータに関心ある仲間のネットワークに参加したりしていた。 仲間の
Wazniak は HP に勤めながら、PC を自分で作り上げていた、それが Apple I で
ある。 Wazniak を何とか説得して、HP を辞めさせ、Steve と一緒に Apple
を始め、最初の注文は、50 台、総額$25,000 であった。 それ以来、Steve は、
コンピュータの世界での人と機械の関わり(ヒューマン・マシン・インターフ
ェース-HMI)をいかに使う人にとって分かり易く直感的に操作できるかを追
求してきた41。
1984 年に発売された Macintosh は、グラフィック・ユーザー・インターフェス
(GUI)を採用し、ユーザーインターフェースに革命をもたらした。 Microsoft
がそれに匹敵するような Windows ソフトを出すことが出来たのが、漸く 1990
年になってからのことである。Apple は使いやすさで、Microsoft を凌駕し、大
学では、論文作成のために、学生が好んで Apple を使っていた42。
Microsoft が Apple に GUI で追いついたころには、Steve Jobs のチームは、
Multimedia の世界での新たなコンピュータの利用法を開発した。 それは、
1991 年に発表された。QuickTime である43。 QuickTime は、Multimedia デ
ータを格納するためのファイルフォーマットで、現在も利用されている。 現
在のビデオの MPEG4 のファイルフォーマットのベースが、QuickTime のファ
イルフォーマットであることは国際標準化機構(ISO)も認めている通りである。
それがために、映画産業、放送局などでの映像編集用に、Apple の PC が好んで
使われている理由となっている。
41
Steve Jobs by Walter Isaacson, page 88
42筆者の経験
43
http://en.wikipedia.org/wiki/QuickTime, 2014 年 2 月 4 日引用
27
Steve Jobs は、1997 年には、一度解雇された Apple に戻り、コンピュータ技術
を使って、使いやすく便利で楽しめる iPod と iTunes とを一体になって展開し、
ユーザーにとって使いやすい音楽・ビデオの総合ビジネスを確立した。 いわ
ゆるモバイル機器における UX (User Experience : ユーザ・エクスペリエンス)44
革命である。 2007 年には、消費者にとって使いにくい携帯電話業界に、UI
が直感的で使いやすく、品質も高く、楽しめて、常時持ち運びできるコンピュ
ータ、iPhone を発売し、市場に革新をもたらした。
Steve Jobs/Apple の根底に流れている考え方は、コンピュータをいかに使いや
すく、ユーザーにとって身近で、便利で、かつ使って楽しく、有意義なものに
するか(UX)と言う点にあり、UI と Multimedia を、それを実現する核と位置
付けたと推測される。
2013 年に発表された iOS 7 では、新たにさまざまなフィーチャーが追加された
が、特に自動車への対応は、全く新しい動きで、今後注目に値する。
Apple 社の 2013 年の発表文及び、ウエッブサイトによれば、 車のダシュボー
ドに iOS が搭載されている場合には、iOS のデバイスがシームレスに繋がり、
統合される。 つまり、iPhone 5 及びその後継モデルと車載機器が繋がり、車
に取り付けられた画面やコントロールあるいは Siri Eyes Free を使って、
iPhone と相互にやり取りができる。 そのため、使いやすく安全に電話を掛け
たり、好きな音楽にアクセスしたり、メッセージを送ったり、受信したり、地
理案内を得たりすることが可能になる。 必要なことは iPhone にやらせ、運転
に集中することができるように設計されている45。
Steve 亡き後の Apple が、本来の強みに焦点を当てて、現在のパラダイムから
自動車の中での楽しみに、革新をもたらすのか、それとももう一段別の次元の、
車そのものに関わる UI の世界も統合することで新たなイノベーションを起こ
すのか、興味がある世界である。
1993 年に Apple で、User Experience Architect と言う肩書を持っていた Dr. Donald Norman が
持ち込んだ言葉であり、考え方。http://en.wikipedia.org/wiki/User_experience
45 http://www.apple.com/ios/whats-new/, 2014 年 2 月 4 日引用
44
28
Google46
Google の創立者の Larry Page と Sergey Brin は、Stanford のコンピュータ・
サイエンスの大学院生として在学時に、検索エンジンを開発し、1998 年 9 月に、
Sun Micro の共同創立者の Andy Bechtolsheim から、10 万ドルの小切手を投
資資金として得て、Menlo Park にある家のガレージを借りて、会社を設立した。
1999 年 6 月には、シリコンバレーVC のメジャーである、Sequoia Capital と
Kleiner Perkins が、合計 0.25 億ドル(約 25 億円)を出資、2001 年には、Eric
Schmidt が参加し、CEO に就任した。2005 年には、Google Maps がスタート、
2006 年には、YouTube を買収、2007 年には Android の発表、2010 年 Google Car
の発表、2012 年メガネコンピュータ(Glass Project)の公表、2013 年 6 月 Waze
の買収、2014 年 1 月 OAA (Open Automobile Alliance)の発表。2014 年 1 月家
庭用サーモスタット Nest の買収を発表47。
1998 年に 10 万ドル(約 1 千万円)で発足した Google が 2014 年 1 月 24 日現
在総資産評価額で、3754 億ドル(約 37 兆 5 千億円)の巨大企業に変身を遂げ
たことになる。その原動力は、科学技術によって課題を克服し、人類に貢献し
ようと言う強い意志であり、その実現性のリスクを顧みず、強い意志と実行力
を持った人々に、投資をしようとする投資家がシリコンバレーに存在すること
である。
Google Android の強みは、Google の総合力の強みであり、Google の強みは人
のライフスタイルの中に入り込んで、ありとあらゆる問題解決に積極果敢に取
り組むところにある。 2014 年 1 月 13 日には、Nest を買収した。 Nest は、
いわゆる、Smart Home 確立をビジョンとする会社である。 Google は Android
を買収して、モバイル IT の世界で、今日を築き上げた。 Driverless Car を開
発中の Google が、車を発売するのは、4 年くらい先とのコメント48があるが、
Google が自動車産業へどのような形で参入するのか、次の手に注目したい。
Google のこれまでの足跡、https://www.google.com/about/company/timeline/, 2014 年 2 月 4 日
引用
47 http://www.google.com/about/company/history/
46
48
http://www.bloomberg.com/news/2013-02-06/self-driving-cars-more-jetsons-than-reality-for-googl
e-designers.html
29
3.3.
自動車業界
シリコンバレーに、自動車各社の研究・開発・技術ソーシングセンター・VC が
集積していることは、既に述べたが、地図で見てみると下記の様である。
シリコンバレー地図:自動車産業と Apple/Google/Stanford 大学
(地図は Google Map を使用、住所は、各社のウエッブサイトより、
作成 2014 年 1 月 26 日)
第 4 章、第 5 章で、詳細に触れるが、自動車産業をシリコンバレーに惹きつけ
ている要因は、以下の通りと推測される。
① Apple、Google の存在
② Intel、NVidia のようなプロセッサー半導体設計会社の存在
③ センサーなどの半導体設計会社の存在
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の技術者の存在
ソフトウエア―・アルゴリズムの開発技術者の存在
インターネット関連技術者の存在
Cloud、Big Data 関連専門家集団の存在
Connected Cars で利用されるアプリケーション・ソフト・ベンダーの存在
スタートアップ企業とそれを成功に導くエコシステムの存在
Stanford 大学のリソースの存在
30
などがあり、特にスタートアップ企業の中には、世界的な大企業では、ブラン
ドイメージなどのために、リスクを取りきれないような試みを、果敢に取り組
むことで、破壊的なイノベーションを起こす可能性も考えられるので、目を離
せない状況にあると推測される。 例えば、ワイオミング州(Wyoming)は、
人口が 60 万人弱で、面積は 253,348 km²で本州(約 228,000 km²)より少し大
きめの州であるが、ここで、自動運転をしている大手自動車メーカーの車が、
前方の車の急ブレーキに対応して急ブレーキで止まったところ、後ろから来た
トラックが追突した場合、この事故がたちまち全世界に報道され、場合によっ
ては、ブランドイメージに傷がつく恐れもある。 一方、スタートアップであ
れば、失敗は経験として評価され、問題解決して、もう一度やり直すことが可
能なので、リスクを取りやすい。 仮に、自動車業界での水平分業化が進むと
すれば、このようなスタートアップが、自動車を造り、自動運転の安全性や品
質を実証し、成功の暁には、買収されることも可能性としては否定できない。
3.4.
スタートアップ、エンジェル、ベンチャー・キャピタル、法律事務所
Stanford 大学同様、MIT や Harvard など優秀な大学が集まっている Boston が、
インターネット時代に、技術革新のトップリーダーになっていないことに関し
ては、いろいろな議論があるが、ある識者によると、ボストンは、金融街のあ
る New York の影響下で、リスクを大胆にとって、スタートアップを育成する
エンジェルやベンチャー・キャピタルが育たなかったとコメントしていた。 金
融街は、金融商品でリスクを取るが、技術を評価して、その技術への投資のリ
スクを取ると言うポジションに無いからと言うコメントであったように思う。
真意の程は実証研究していないので不明であるが、この議論に一理あるのでは
ないかと感じている。 確かに、1980 年以前では、コンピュータ技術の中心は、
IBM にしても Unisys、GE にしても、Digital Equipment(DEC)にしても、Xerox、
Bell Lab にしてもほとんど全て東海岸であった。
Sun Micro を Scott McNealy と共同で起業した Vinod Khosla は、シリコンバレ
ーで有数の Venture Capital である Khosla Venture の創業者である。昨年
Stanford 大学ビジネス・スクールで、Venture Sprit に関して Khosla が講演し
たのを拝聴したが、彼の投資の判断ポイントは、投資対象のベンチャー企業が、
人類の抱えている問題(環境汚染、食糧確保、エネルギー、新物質、ナノテク
ノロジー、インターネットの利用など)を解決するためにブレークスルーを起
こすべく果敢に取り組んでいるかどうか、その企業の CEO が、反対論が多い中
でも信念を通し、現実の解をもたらすべく、全力投球しているかが、最大の投
31
資基準であると強調していた。
シリコンバレーの法律事務所や特許事務所も、エンジェルや Venture Capital
(VC)と似たような運営を行っているところが多い。つまり出世払いである。も
ともとキャシュゼロの企業家と仕事をするので、法律家であるが、エンジェル、
VC、シリコンバレーの企業家、大学教授との日ごろからのネットワークを駆使
して、ビジネスのにおいを嗅ぎ、経営者の意欲を評価したうえで、仕事をする49。
投資家や法律家に加え、スタートアップを指導し、ネットワーク構築を助け、
法律的な指導もしながら、投資家に紹介するインキュベータと称するスタート
アップ育成企業も大きな役割を果たしている。インキュベータの経営者も、ス
タートアップの挑戦するテーマ、企業家精神を見ながら大胆にスタートアップ
を育成してゆくことで、投資の回収を図っている。
49
Silicon Valley Forum が開催した、パネル討論での法律事務所からのコメント
32
4. Connected Cars -
Connected Cars をめぐる Silicon Valley の動き
4.1. Connected Cars を考える上での基本的なフレームワーク
この章では、Connected Cars とそれをめぐる Silicon Valley の各社の動きについて
考察してみたい。 Connected Cars という言葉で包括される領域はかなり広い。
そのため、この言葉を使うことにより、一体何が議論されているのか、拡散し
て分かりにくくなる傾向がある。
Connected Cars と Autonomous Cars(自動運転車)についても、当初別々に考え
ていたが、一緒に考えた方が、全体を理解しやすくなることも Dr. Beiker からの
アドバイスであった。 Driverless Cars(USDOT の定義したレベルでのレベル4
50
)のレベルに到達するまでには、いろいろな環境要件が整ってこなければなら
ないが、その一つが、車車間通信(DSRC)である。また、車の遠隔地(Cloud)
からの診断、ソフトウエアの差し替えサービス、インターネットを通じた気象
条件、交通事故情報、道路工事状況、災害情報(地震や台風による土砂崩れで
通行止め)、直近の地図などの情報は、自動運転にとって、不可欠の情報となる
と推測される。筆者なりに、これを図式化すると下記の通りとなる。
無線通信技術の革新とその配備により、日常生活の中に 常にデータ通信が入
り込むことで、通信が、消費者にとって、水や空気のような存在になった。 安
全性を重視するなかで、ネットワークから断絶した唯一残された領域が、車を
50
http://www.nhtsa.gov/About+NHTSA/Press+Releases/U.S.+Department+of+Transportation+Rel
eases+Policy+on+Automated+Vehicle+Development, 2014 年 1 月 31 日引用
33
運転している移動中の時間である。
少し古い調査結果であるが、2010 年 4 月から 5 月にかけて Pew Research Center
によって行われた、無作為に約 2,300 人抽出した電話調査によると、この時点で
既に成人の 4 人に1人は、車を運転中に、携帯電話でメッセージのやり取りを
し、60% 強の人が運転中に電話をしていた。 同乗していた人の回答では、約
50% 弱の人が、運転中にドライバーが電話を使っていたと答え、そして、実に
44%の同乗者は、危険を感じていた51。
また、既に、エクゼクテイブ・サマリーの中で触れているが、ビジネス情報
誌”Bloomberg”の 2014 年 1 月 10 日付けの記事に、2013 年 12 月 2 日に発表され
た Accenture52 による世界の車の購入者購買選択行動を分析した結果が掲載され
ていた。 Accenture のレポートによれば、全世界の車の購入者の間で、最新技
術を用いた“Connected Vehicle”への関心が高くなって来ていることが示された。
最新の車載技術の中には、カーナビや交通情報、自動運転の一部の機能による
高度運転者支援、車内エンターテイメント、仕事の生産性や学習の効率を高め
るための車載機材、運転者の運転パターンを保険会社が分析するためのブラッ
ク・ボックスなど、様々な次世代技術が入って来ている。 従来の馬力などの
エンジン性能の選択基準に対して、自動車に乗っている間でも、最新の技術を
使って、人々と繋がっていたり、情報を入手したりすることが可能な Connected
Cars がより好まれ、選ばれる傾向にある。 調査結果では、39%の購入者が、
Connected Cars を、購入動機として最も重視していることが判明した 。 因み
に、運転性能を重視している購入者の割合は、14%で、新技術を好んで選ぶ購入
者の半分以下であった53。
このような調査の結果から明らかなように、インターネットに対する安全性を
大前提とした強い消費者の潜在需要があり、消費者も車載インフォテイメント54
に高い価値を見出すビジネス環境となり、あとは、それを実現するための技術
の完成を待つばかりと言う状況に至った。
http://www.pewinternet.org/Reports/2010/Cell-Phone-Distractions.aspx, 2014 年 1 月 30 日引用
http://newsroom.accenture.com/article_display.cfm?article_id=5919, 2014 年 1 月 30 日引用
53 Bloomberg "Autos Morph Into iPhones as Buyers Want WiFi with Wheels” by Keith
Naughton-Jan 10, 2014, 2014 年 1 月 6 日引用
54 車載インフォテイメントは、In-Vehicle Infotainment の訳語、前ページの図で示されたエンター
テイメントと情報支援を併せた領域を定義する言葉。
51
52
34
一方、その対極は、車の安全性を高めるための Wi-Fi を利用する車車間通信であ
る。米国では、FCC は 2004 年 2 月 10 日に、5.9 GHz 帯のうち 75 MHz を ITS の
ために特別に割り当て、5.9 GHz の信頼性を高めるために、その利用ルールを発
表した55。 この周波数を利用して、車車間通信や路車間通信を実現し、車同士
の衝突回避や、路上の障害物を事前回避するための情報シェアリングで、車の
安全性を著しく改善しようとするものである56。
(Toyota Info Technology Center USA Inc. 提供資料、2014 年 1 月 29 日)
車車間通信を行うためには、それぞれの車に Wi-Fi を搭載し、得たデータをプロ
セスする回路とソフトが必要である。 発信する情報は、BSM(Basic Safety
Message)と呼ばれるもので、BSM の Part 1 では、車の位置情報、進行方向、ス
ピード、アクセルの状況、車輪のステアリングの角度、車の大きさなど核とな
るデータが車から発信される57。 このための車載機器は、相対的に格安である
ため、幅広く普及することが期待されているが、ある識者の話によれば、昨年
末には決まるはずだった DSRC の標準に関して、USDOT(連邦運輸省)は決定
を延ばしていたが、2014 年 2 月 3 日 USDOT NHTSA は、プレスリリースをし、
漸く、車車間通信に向けて具体的なステップを取ってゆくことを発表した 58。
まだ、決定には、相当時間がかかりそうであるが、自動運転の様々な機能が段
http://fjallfoss.fcc.gov/edocs_public/attachmatch/FCC-03-324A1.pdf, 2014 年 1 月 27 日引用
http://www.its.dot.gov/DSRC/dsrc_faq.htm, 2014 年 1 月 27 日引用
57 http://ntl.bts.gov/lib/46000/46000/46089/Final_PKG_FHWA-JPO-12-021_508_PDF.pdf, 2014
年 1 月 27 日引用
58 http://www.its.dot.gov/press/2014/v2v_lightvehicles.htm, 2014 年 2 月 6 日引用
55
56
35
階的に入ってくると、DSRC が重要な役割を果たすため、遅くとも、2017 年な
いしは 2018 年までには、実際に利用できるようになるのではないかとのコメン
トがあった。
車車間通信に比較し、路車間通信を配備するためには、広大な米国では、政府
の負担が大きく、実現には、かなり遠い道のりであると推測される。
車の保守・サービスの観点で、通信を通じた自動車の管理情報システムでは、
例えば、Verizon Telematics(旧 Hughes Telematics)社が開発してきた、自動車向
け通信特有のサービスがある。 GPS による車の位置情報の追跡、遠隔地から
の自動車の診断とソフトウエアのアップデート(自動車会社のサービス・ステ
ーションまで出かける手間を省ける)、車の非常通報などである。 この種のサ
ービスは、今後益々、車の自動化、インターネット化が進む中、重要になって
くると思われる。
Information Assistance は、最新の地図、最新の渋滞状況、最新の道路の路面のコ
ンディション、道路工事や道路閉鎖の状況、最新の気象状況、車の他人とのシ
ェア情報などを適宜ドライバーに提供する機能である。 将来、自動運転のた
めに、Information Assistance は環境情報提供の不可欠な手段となると思われる。
一般に、Entertainment と Information Assistance を併せて、車載インフォテイメン
ト(英語では In-Vehicle Infotainment System:IVI)と呼んでいる。
“Connected Cars”と呼ぶ場合、下記の 4 つのカテゴリー59のどれに属するかで、目
的も、具体的な技術開発も、ビジネスモデルも違ってくると思われる。
59
分類は、Stanford 大学 CARS Executive Director Dr. Beiker より、直接ご指導いただいた。
36
この章では、これらのテーマを Silicon Valley における各社の動きと関連させな
がら報告したい。 初めに、元祖”Connected Cars (Vehicles)”と言っても良い位
置付けにあり、交通事故の大幅な削減を目指した、Wi-Fi を用いて車車間、路車
間通信を行う DSRC について報告したい。 そして、この車車間通信を実際に
ビジネスに応用しようとしている Silicon Valley のスタートアップである Peloton
Technology 社の実例を紹介したい。 また、DSRC の米国自動車業界のリーダー
であるトヨタの、Silicon Valley の拠点である Toyota Info Technology Center USA
の報告の中でも、さまざまな活動の中の1つとして DSRC 関する活動に触れた。
車載インフォテイメントに関しては、Silicon Valley 発のスマートフォンが生み出
したライフスタイルを、そのまま車の中に持ち込みたいと言う消費者の強い購
入動機に触れ、それを満たす車載インフォテイメント・システムの基本となる
技術プラットフォームについて報告した。 車載インフォテイメントへの各社
の取り組みに関して、ケーススタデイとして、GM と Mercedes-Benz について詳
しく報告し、さらにこの報告書全体のテーマである Silicon Valley における
Connected Cars のイノベーションと言う観点で BMW、本田、トヨタの活動につ
いて報告したい。
最後に、車両の保守・車両にまつわる管理サービスについても、Mercedes-Benz
のケースの中で触れてみたい。
37
4.2.DSRC (Dedicated Short Range Communications)
DSRC の目的は、増え続ける車の事故を減らし、車同士、あるいは人との衝突を
未然に避けるようなシステムを開発・配備することにある。 電波を利用して、
車車間通信、路車間通信を実現し、接近中の他の車から発信する電波情報を受
けて、車の運転手に警告を与える試みである。 これにより、建物や他の車の
陰など視野に入ってこない自動車も運転手は認識できる。
(Toyota Info Technology Center USA Inc. 提供資料、2014 年 1 月 29 日)
その実現のために、5.9 GHz の専用周波数帯を利用して、Wi-Fi(802.11ac)で、
車車間、路車間通信を実現する。 1999 年、米国 FCC は、5.9 GHz 帯を ITS の
専用周波数として割り当て、2008 年に米国運輸省 ITS プログラムは、DSRC の
接続性に関するフレームワークを決めた。
乗用車の分野では、リーダーシップをとるトヨタに加えて、本田、日産、GM、
Ford、Volkswagen、Mercedes-Benz、現代の 8 社が参加して、米国の 6 都市(カ
リフォルニア州のサンフランシスコ、ミネソタ州のミネアポリス、テキサス州
のフォートワース、バージニア州のブラックスバーグ、フロリダ州のオーラン
ド、ミシガン州のデトロイト)で実証実験を進めてきた。その結果、80%の参加
者が DSRC の有効性を評価した。 路車間通信は、政府による投資額が大きく、
配備には、相当な時間がかかると思われるが、車車間では、コストも相対的に
38
安いので、2020 年までには、市場に登場する可能性が大きい。
乗用車分野に比し、トラックの分野では、コスト追求型のトラックを運営する
輸送会社が、意思決定することにより、同時期に多量のトラックに DSCR を装
備することが可能である。
これに着目した、Stanford 大学で車両運動力学などを研究した工学博士(ドクタ
ー)が、Silicon Valley で、企業(スタートアップ)を起こした。 ドクターは、
DSRC を利用して、車車間通信を実現し、トラックの燃費と運転手による事故の
削減を目指した総合システムを開発し、米国運輸省の支援も得て、ビジネスを
2014 年の第二四半期に立ち上げようとしている。
この事例を見てみると、DSRC の便益が具体的な形で実現され、同時にシリコン
バレーのスタートアップの活力と知恵とリスクを取る企業家精神が、読み取れ
る。 自動車産業の中では、小さい存在であるが、経験を通じて、将来大きな
影響力を持つような存在になる可能性もあるので、ここで事例研究として詳し
く取り上げてみた。
39
4.3.
ケーススタデイ:
Peloton Technology Inc.
Peloton Technology Inc.
www.peloton-tech.com
60
概要
Peloton Technology Inc.は、米国の長距離トラック運送業界に着目し、現時点でビ
ジネスにすぐ応用できるさまざまな技術を融合し、特別の電子的な道路インフ
ラの無いフリーウエイやローカルの道路でのトラックの隊列走行を可能にした。
現行の米国道路交通法でも、問題はなく、強いて言えば、風圧を抑制し、エネ
ルギーの消費量を抑えるために、車間距離を最適ポイントに詰める事もあり、
地方の警察によっては、車間距離の詰め過ぎで、問題にすることもありえる。
しかし、このプロジェクト自身、米国運輸省連邦ハイウエー行政庁(Federal
Highway Administration)からサポートを得たプロジェクトでもあり、ビジネスの
妨げとなるような問題ではないと思われる。
詳細は、後述する通りであるが、より具体的には、現在利用できる車車間のコ
ミュニケーション技術(DSRC)、エンジン・ブレーキ自動制御技術、広域無線
通信ネットワーク、および Cloud サービス・Big Data などを融合した総合的なネ
ットワークシステムサービスで、トラックの隊列走行支援サービスをビジネス
化し、長距離トラック輸送業界にイノベーションを引き起こそうとしている。
60
Peloton Technology Inc.社より提供の資料より、2014 年 1 月 6 日
40
2014 年第二四半期には、FedEx、UPS や Walmart などの大手運送業者と、パイロ
ットレベルではあるが、実際の運用を始める予定である。
4.3.1. Peloton Technology Inc.の背景
61
Peloton Technology Inc.は、2011 年に、現 CEO の Josh Switkes によって創立され
た。 Josh は、Stanford 大学エンジニアリング・スクールの機械工学科で、車両
運動力学と制御に関する研究を行い、2006 年に工学博士号を得た。 その後、
Volkswagen 社エレクトロニクス研究所(詳しくは第 5 章 Volkswagen ERL 参照)
で 2 年間研究し、いくつかのスタートアップを経て、2010 年より、Peloton
Technology Inc. 設立の準備に入り、2011 年に同社を立ち上げた。
Josh の Stanford 大学時代の恩師で、かつ Peloton Technology Inc. の技術面での経
営陣である Chris Gerdes は、Stanford 大学の自動車工学をリードする教授で、
Stanford 大学の次世代自動車に関する総合的な学際プロジェクト CARS (Center
of Automotive Research at Stanford) のプロジェクト総責任者である。 CARS は、
Stanford 大学の全学を上げたプロジェクトで、エンジニアリング・スクール、ビ
ジネス・スクール、ロー・スクールなどから総勢 34 人の教授及び研究陣が兼任
で参加している。 Chris は Stanford 大学に参加する前には、Daimler-Benz の車
両システム技術センターの車両運動力学と制御に関するプロジェクトのリーダ
61
Peloton Technology Inc.社より提供の資料より、2014 年 1 月 6 日
41
ーであった。 Chris の指導を得た Josh が興した会社が Peloton Technology Inc.で
ある。
4.3.2.
ビジネス機会
広大な米国の国土では、トラックの運転手が走る道路の大部分は、市街地では
なく、人里離れたハイウエーである。
(Peloton Technology Inc.
提供資料より、2014 年 1 月 6 日)
米国長距離トラック業界には、ハブ(全米にいくつかの限られた輸送拠点を形
成し、そこから拠点間輸送と自転車の車輪のスポークのように四方にローカル
輸送を行う)を中心に運営している FedEx、UPS などや、大陸横断(約 4800 km)
などの長距離運送を行っている J.B. Hunt など、相対的に人口が多い都市間で運
営している Walmart など多様なビジネスモデルが存在する。
それぞれのトラック業者によって、ニーズが異なるものの、共通性としては、
何もない原野を走る長距離運転、それに伴う運転者の孤独がある。 経済的に
は、燃料消費量の削減と事故削減、トラックの効率的な運用が、比較的薄いマ
ージンで運営されるこの業界にとって大きな課題となっている。 米国の平均
的な長距離トラックの走行距離は、一年間に、216,000 km (135,000 マイル)
で、そのうちの 78%(168,000 km)は、都市間の何もない原野の走行距離となっ
ている。 因みに、一回の積み荷でこのような長い距離を走る長距離トラック
には、運転席のすぐ後ろに、小部屋とその中に寝台があり、いつでも休息をと
れるようになっている。
42
(Peloton Technology Inc.
作業場、2014 年 1 月 6 日筆者撮影)
隊列を組んで走行する場合、約 12%の燃費節約が可能とみられ、その節約額は、
1 年間に 1 台当たり約 80 万円で、
FedEx や UPS ように多量にトラックを保有し、
運用する大手業者にとっては、大変貴重な節約となると推定されている。 運
転手も隊列走行で、孤独感を脱することが出来、トラック業者から見ると、事
故の削減や個別運転手の運転履歴による管理、保険会社との保険料をめぐる節
約、貨物情報の即時把握など、大きな便益が期待できる。
4.3.3. 隊列走行
“Peloton”とは、フランス語で、小さな塊の意味で、自転車の競技などで、先頭に
立つと風のために消費エネルギーが大きくなるので、消費エネルギーを節約す
るために、先頭の直後に何台もの自転車が繋がって走る様を表現した言葉であ
る。 また、”Platooning”とは、語源は、フランス語の”Peloton”で、通常軍隊の
小規模部隊をさす。 転じて、自動車の隊列走行を”Platooning”と呼ぶようになっ
た。
Peloton Technology Inc.の隊列走行サービスが業界にもたらす貢献は、画期的で、
そのためもあり、先に触れたとおり、業界大手の FedEx がアドバイザーになり、
2014 年第二四半期に、FedEx、UPS や Walmart などとのパイロットが始まろうと
している。
43
具体的には、長距離トラックが隊列を組むことが可能となる車車間のコミュニ
ケーション・システム(DSRC)とエンジン・ブレーキ制御システムを利用した
車間距離制御システムを総合的に開発した。 また、隊列をトラック同士が効
率よく形成するために、Cloud を通じて、近くを走行している Peloton Technology
Inc.のサービスを受けているトラック同士に、個別の運送会社の枠組みを超えて
連絡し、隊列を組み易くする環境を提供している。 この結果、個々のトラッ
クの安全性の確保、運転手の疲労削減、消費燃料の節約などの具体的な効果が
得られる。 さらに、多量のトラックを所有するオーナーに対しても、運送中
のトラックにかかわるあらゆるデータを提供できるようにすることにより、所
有トラック群の効率的な運用、ネットワークを利用した即時的なデータの収集
とその Big Data の解析、それによる経営の効率化などの便益がはかられている。
(Peloton Technology Inc. 提供資料から、2014 年 1 月 6 日)
このような総合的な利便性をもたらす、Peloton Technology の System は、既に入
手可能な、大手自動車部品メーカーのデンソーの ”V2X” 技術のうち車車間技術
を、また Delphi のブレーキ・アクセル制御技術などを利用している。
下記の Peloton Technology Inc.のスライドにあるように、後続車が一定の車間距
離を保てるような、レーザー・レーダーによる車間距離の識別と制御、前走車
両と後続車両の通信リンクによる前走車両の前方視野映像のビデオ・ストリー
ムを利用した後続車への情報シェア、あるいは後続車から見た前走車両のバッ
ク映像の前走車両への情報シェア、ネットワーク運用センターを介した、積載
重量・相手のトッラク運転者情報など様々な情報支援を行えるようなシステム
にデザインされている。
44
(Peloton Technology Inc.提供資料より、2014 年 1 月 6 日)
(Peloton Technology Inc.提供資料より、2014 年 1 月 6 日)
Peloton シス テム では 、 下記 のス ライ ドで 説 明さ れて いる よう に 、 Peloton
Controller と言うボックスが全体のシステムの心臓部になっている。 その上で
動くソフトウエアのアルゴリズムと全体のシステムが、この会社のビジネスの
核心である。 スタートアップの Peloton Technology が、既存のトラック製造業
界に、このようなシステムを開発して、参入できるのも、SAE International(Society
of Automotive Engineers International)62による自動車に関する各モジュール間の
62
http://www.sae.org/automotive/, 2014 年 2 月 1 日引用
45
Interface 標準化のおかげである。
(Peloton Technology Inc.提供資料より、2014 年 1 月 6 日)
4.3.4.
ビジネスモデル
Peloton Technology 社のビジネスモデルは、コスト意識の高く、マージンの薄い、
この業界に参入しやすいようにするため、Peloton Controller Box に補助金を付け
てコストより安くボックス販売をしている。 それを補う形で、走行距離に応
じた、1マイルあたりのサービス料をチャージすることで、部品ボックスの販
売促進費(購入原価と販売価格の差分)を回収し、かつネットワークサービス
料の固定費の回収と利益の確保を行うビジネスモデルになっている。 携帯電
話やプリンターなどのビジネスモデルと似ている。
4.3.5.
印象
Peloton Technology Inc.は、長距離トラック業界と言う、かなりコスト対ベネフィ
ットが明瞭で、かつ変動要素が少ない、限定された市場で、最新の技術の組み
合わせで、イノベーションを起こしつつある。
現在、スマートフォンをはじめとする携帯端末の核心部の無線通信特許を圧倒
的に所有し、モバイル・プロセッサーを半ば独占的に供給する、San Diego に本
46
拠を置く、Qualcomm 社の最初のビジネスは、長距離トラック業界にイノベーシ
ョンをもたらすものであった。 創業者の Irwin M. Jacobs63は、MIT で電子工学
とコンピュータのドクターを取得し、MIT で電子工学の、カリフォルニア大学
San Diego 校では、コンピュータ・サイエンスとコンピュータ・エンジニアリン
グの教授を務めた科学者であった。
Irwin が、初期に開発したシステムの一つが、1985 年に開発した OmniTRACS と
言う、当時世界で最も技術的に進んだ双方向のモバイル用衛星通信とそれを利
用した追跡システムであった。 この技術を用いて、Irwin は、1985 年 7 月 1 日
に Qualcomm 社を創立した。 Irwin の指導の下に、通信技術の開発を進め、
Qualcomm 社は、今やモバイル通信業界になくてはならない存在へと成長した。
おそらく、Peloton Technology Inc.も、長距離トラック業界と言うビジネスの変数
要素が少ない業界からビジネスを始めることにより、経験を積み重ね、個々の
技術とシステムを磨き上げ、長距離トラック業界から、将来は、乗用車を含む
広範囲なビジネス領域へ、自動車メーカーの枠を超えて、裾野を広げて行くこ
とと思われる。
Silicon Valley のサクセス・ストリーには、スタートアップから始め、世界の巨
大企業へと発展するケースが、数えきれないほどある。
4.4.
車載インフォテイメント(IVI: In-Vehicle Infotainment)をめぐる
業界の動向
4.4.1. 概要
車載インフォテイメントのプラットフォームをめぐる動きは、2013 年、2014 年
Irwin Jacobs の IEEE ウエッブサイトに表示されている履歴書
http://www.ieeeghn.org/wiki/index.php/Irwin_M._Jacobs
63
47
と年を追うごとに活発になって来ている。
経過を追ってみると、








2007 年に Ford が Windows Embedded Automotive 7 で SYNC を展開開始
2009 年に BMW が中心になって Genivi が結成された。
2013 年 2 月 26 日 Ford が、GENIVI Alliance を通して、スマートフォンと Ford
の開発した車載機器との機器間インターフェス・アプリケーション、AppLink
を開示することを発表した。
2013 年 5 月 27 日トヨタテクニカルディベロップメント(TTDC)は、Linux
ベースの車載情報機器向けプラットフォーム「Tizen IVI」向けの開発成果を
披露した。
2013 年 6 月 10 日の Apple による iOS 7 in the car の発表、
2013 年 10 月 1 日、CEATEC で、トヨタ自動車、Tizen IVI 上で動作する UI
Manager の開発環境とサンプルホームスクリーンの開発成果を公表64。
2014 年 1 月 6 日の OAA (Open Automotive Alliance)の発表
2014 年 1 月 7 日 Ford による業界初めてのデベロパー。コンファレンスの開
催の発表
2007 年 6 月 29 日に、Apple が iPhone を発売して以来、スマートフォンが急速に
コンシューマの間に広がり、Google も 2005 年に Android を買収し、2008 年 10
月 22 日に Android ベースのスマートフォンを発売した。 これ以降のスマート
フォンの普及は目を見張るばかりで、調査会社の IDC によれば、全世界のスマ
ートフォンの 2013 年の出荷実績は1億台を超え、2017 年には、年間 1.6 億台に
迫る勢いである65。 顧客が、スマートフォンを車内に持ち込み、それを利用し
たいと言う、前述した市場環境の中で、自動車業界全体で、これに急速に対応
する形で、さまざまな車載インフォテイメントのプラットフォームをめぐる動
きが活発したのである。 例えば、新興勢力である Linux をベースとした Tizen
のメンバーには、Samsung、NEC、富士通、Huawei、Panasonic、カシオなどのデ
バイス・ベンダーや NTT DoCoMo、KT、Orange、Vodafone、Sprint などの通信
事業者もメンバーとなっている66。 これに対応する形で、トヨタテクニカルデ
ィベロップメントが IVI の開発を進めているものと推測される。
64
65
66
http://www.ceatec.com/news/ja-webmagazine/j098, 2014 年 1 月 30 日引用
http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS24461213, 2014 年 1 月 31 日引用
http://www.tizenphones.com/, 2014 年 1 月 31 日引用
48
下記の表に主要プラットフォームをまとめてみた。
(各団体、各社ウエッブサイトより、コメントは 2014 年 1 月 31 日筆者記入)
4.4.2.
Windows Embedded Automotive 7
Microsoft 社の Windows Embedded Automotive 7 に関する 2010 年 7 月に出版され
たホワイトペーパーによれば、
次の通りである。
「Windows® Embedded Automotive 7 は、最先端の IVI システムを開発するため
にデザインされている。 Windows® Embedded Automotive 7 は、Microsoft の最
新の埋め込み型の OS と Windows® Automotive と Microsoft® Auto platforms をベ
ースにしている。 それにより、通信、エンターテインメント、ロケーション
ベースでのサービスなどを構築するための標準化された、業界での実績のある
49
プラットフォームになっている。 この中には、Windows® Embedded Compact 7
で活用できる数百のコンポーネントに加え、大規模な統合化され、テストを受
け、それ自身がフレキシブルなミドルウエア・コンポーネントやツール類が含
まれている。 それ故、Windows Embedded Automotive 7 を利用した IVI システ
ムは、広範囲な自動車メーカーや車種に展開できる。 このようなツール類や
Microsoft のパートナーによるエコシステムを生かすことで、IVI を市場に供給す
るベンダーは、開発コストの削減と発売時期を早めることが出来、一方で、顧
客であるドライバーが車の中にライフスタイル持ち込むことが出来るようにな
る。」67
さらに詳しくは Microsoft 社のウエッブサイト、及びそこに掲載されているホワ
イトペーパーを参照頂きたい68。
4.4.3.
QNX
QNX 社の 2014 年 1 月 31 日のウエッブサイトによれば、QNX 社の概要は次の通
りである。
「QNX は、卓越した埋め込み型デザインのためのミドルウエア、開発ツール、
リアルタイム OS ソフトなどとそのサーポートサービスを提供する会社である。
これまでの 30 年以上に亘り、QNX のソフトウエアは日々の生活の中で、大きな
役割を果たしてきている。ドライブするとき、店で買い物をするとき、テレビ
を見るとき、インターネットを利用するとき、あるいはライトをつけるときに、
QNX の制御システムが活躍している。 例えば、航空管制システム、手術用機
材、原子力発電所などのような、非常に信頼性が要求されるシステムに QNX ソ
フトウエアが選ばれる傾向にある。 車載のラジオやインフォテイメント・シ
ステムから最新のカジノのゲーム端末まで、クールなマルチメデイアの機能が、
QNX のソフトウエアによって実現されている。
QNX を活用することで、QNX の顧客は、革新的であるとか、高品質で、頼れる
http://www.microsoft.com/windowsembedded/en-us/windows-embedded-automotive-7.aspx,
Microsoft 社 Windows Embedded Automotive 7 のホワイトペーパーより筆者翻訳、2014 年 1 月 31
日引用
68 http://www.microsoft.com/windowsembedded/en-us/windows-embedded-automotive-7.aspx,
2014 年 1 月 31 日引用
67
50
とか言われるような形で、それぞれの会社の商品のブランドイメージを高めて
いる。 Cisco, Delphi, GE, Siemens, Thales など世界のリーダー企業は、通信、自
動車、医療機器、オートメーション、セキュリテイ―などの市場で、信頼性、
拡張性、高機能を実現できる唯一のソフトウエアとして、QNX ソフトウエアシ
ステムを利用している。開発のライフサイクルを完全にサポートする。
埋め込み型ソフトウエアの市場に特化し、実績済みの専門性を持つことにより、
世界の最大手のデバイス製造業者やシステム・インテグレータから信頼を勝ち
得た。 開発を進めている会社は、フィーチャー・リッチな QNX® Neutrino®
RTOS 及び高度に統合化された QNX® Momentics®開発スイートを用いることで、
市場化を早めることが出来る。 広範囲にわたる、フレキシブルなサポート・
プログラム、専門的なトレーニング、専門家によるコンサルティング、カスト
マイズされた技術援助などにより、顧客の開発サイクルのあらゆる段階で開発
を加速化することが出来る。69」
詳しくは、QNX 社のウェブサイトを参照頂きたい。
4.4.4. Tizen
Tizen に関しては、日本語のウエッブサイトが開設されているので、そちらを参
照頂きたい。概要を引用すると下記の通りである。
「Tizen は、オープン ソース、標準ベースのソフトウエア プラットフォームで、
スマート フォン、タブレット、ネットブック、車載インフォテインメント デバ
イス、スマート テレビなど複数デバイス カテゴリーにおける主流モバイル オ
ペレーター、デバイス メーカー、およびシリコン サプライヤーによってサポー
トされています。 Tizen では、消費者がデバイスを替えても移植できる、革新
的なオペレーティング システム、アプリケーション、およびユーザー エクスペ
リエンスを提供しています。 Tizen プロジェクトは、Linux Foundation 内に属し、
テクニカル ステアリング グループの管理下にあります。技術運営グループは、
デバイスのバーティカルをサポートするためのワーキンググループを形成する
とともに、プラットフォームの開発と提供に重点を置いた、オープンソース プ
ロジェクトのプライマリ意思決定機関です。
QNX 社ウェブサイト、http://www.qnx.com/company/index.html, より、2014 年 1 月 31 日翻訳
引用
69
51
Tizen 協会は、サービスモデルの要件の収集、識別、促進、および業界全体のマ
ーケティングや教育など、業界における Tizen の役割をガイドするために設立さ
れました。
Tizen は HTML5 に基づいて、アプリケーション開発者向けの堅牢で柔軟な環境
を提供します。 HTML5 の堅牢な機能とクロスプラットフォームの柔軟性によ
り、急速にモバイルアプリケーションとサービス向けに望まれる開発環境になり
つつあります。 Tizen SDK と API により、開発者は複数のデバイスセグメント
で実行するアプリケーションを作成するために HTML5 と関連するウェブ技術
を使用することができます。」70
4.4.5.
iOS 7 in the car
2013 年 6 月 10 日に発表されたプレスリリースは、下記 Apple 社ウエッブ(日本
語)で概要を見ることが出来る。
https://www.apple.com/jp/ios/whats-new/, (2014 年 1 月 31 日引用)
iOS 7 in the car に関する記述は下記の通り。
「あなたの iOS デバイスと iOS でできる体験を、車のダッシュボードシステム
とシームレスに連係させる。 それが iOS in the Car です。 あなたの車に iOS in
the Car が搭載されている場合、車に組み込まれたディスプレイとコントロール、
または Siri のアイズフリー機能を使って、接続されている iPhone 5 以降を操作で
きます。だから、電話をかける、音楽を聴く、メッセージをやり取りする、道順
を調べる、といった様々なことを簡単に、安全にできるようになります。やる必
要があることはすべて iPhone にまかせて、あなたは運転に集中しましょう」
(上
記ウエッブサイトの発表文の一部より関連部分のみ 2014 年 1 月 31 日引用)
発表会場での iOS 7 in the car に関するプレゼンテーションに関しては、CNET が
放映したビデオが YouTube にアップロードされている。
https://www.youtube.com/watch?v=_Jlib29dxTw
70
https://www.tizen.org/ja/about?langswitch=ja, 2014 年 1 月 31 日引用
52
4.4.6.
The OAA (Open Automotive Alliance)
OAA の 2014 年 1 月 31 日のウエッブサイトによれば、OAA の概要は次の通りで
ある。
「OAA は、グローバルな技術アライアンスで、自動車業界のリーダーは、
アンドロイド・プラットフォームを 2014 年に車に搭載し始めることをコミット
した。
現在、10 億台以上の車が使用されている。日々の生活の中で、非常に多くの目
的のために車に頼っている。しかし、まさに現在、日常生活の中で車とそれ以
外のモバイル・技術との間の接続は、かならずしもシームレスにつながってい
る状況にはない。 OAA は、業界をリードしている自動車会社とテクノロジー
の会社によって結成されたグループで、技術によって、誰にとっても、安全で、
シームレスに繋がり、より直観的に操作できる車を作ろうとするビジョンを
Group の中で共有している。
グローバル・パートナー:
OAA のメンバーは Connected Car のビジョンを共有している事。 そして、この
ビジョンを実現させるために、共通のプラットフォームに向けて共同開発する
ことを確約する必要がある。
車の中のイノベーションを加速化すること:
車の中のイノベーションを加速することに集中するため、オープンで、カスト
マイズでき、拡張性があるようなアプローチを採用する。 共通のプラットフ
ォームがあれば、イノベーションを推進し、誰にとっても車をより安全で、直
感的なものにすることが出来ると信じている。
オープンな道をオープンなエコシステムで:
このようなオープンな開発モデルと共通プラットフォームを持つことで自動車
会社は容易に最先端の技術を顧客であるドライバーに提供することが出来、デベ
ロパーが安全で拡張性のある形で、ドライバーや乗員に強力なエクスペリエンス
を与えることが可能になる。71」
71
http://www.openautoalliance.net/#about,
2014 年 1 月 31 日引用翻訳
53
4.5.
ケーススタデイ:GM72
General motors (GM)
Advanced Technology Silicon Valley Office (ATSVO)
(オフィス外観 2014 年 1 月 26 日筆者撮影)
4.5.1.
Advanced Technology Silicon Valley Office
GM の Advanced Technology Silicon Valley Office (ATSVO) は 2006 年に Palo Alto
に設立された小規模(10 名以下程度)なオフィス・研究所で、主な役割は大きく2
点あると考えられる。

72
シリコンバレーにあり、GM 車に応用できる新しい技術をスカウトすること、
と director の Frankie James, Ph.D.は 2013 年のインタビューで述べている73。
ソフトやエレクトロニクスの技術力(外部からの)だけではなく、製品化で
きる段階のものか、ベンダーは GM の要求等に応えることができるかを見極
める為、実際に研究所で試すこともある。この際、車メーカーだからこそノ
Silicon Valley を軸に、GM のインフォテイメントの動きをまとめてみた。情報のソースは、GM のウエ
ッブサイト、CES2014 でのプレスキット、及び一般情報誌による GM の ATSVO 担当責任者へのインタビ
ュー記事である。 GM の Silicon Valley の拠点は、Palo Alto 市に位置している。
73
http://www.fastcompany.com/3020884/innovation-agents/gms-innovation-hunter-is-a-fast-driverlooking-to-speed-up-car-development, November 4, 2013, 2014 年 1 月 26 日に引用
54
ウハウがある、安全性、必要性、機能性などを考慮するのも鍵だという74.

ATSVO 元 managing director Byron Shaw 氏 が、 責任者であった時の
2011 年のインタビューでシリコンバレーのこれからの自動車の開発におけ
る重要性をこう述べている。 「競争力をもちつづけるには、最新、最高の
ソフトウエア、エレクトロニクスは必須で、そのためにはシリコンバレーに
参加しなければならない」(原文:if you want to be competitive you have to have
the best software and electronics in the industry, and you won’t get there if you don’
t participate in Silicon Valley”75
シリコンバレーには、無数の技術系ベンチャー企業、アップルやグーグルとい
った次代をリードする IT 企業、活発な投資活動、自動車各社の研究所、そして
それらの事情に精通している、Stanford CARS 研究所がある。次世代の connected
cars を開発する上で、この地で情報を集め、外部とのコネクションを作ること
もここに自動車各社が拠点をもつ理由となっている。
(Stanford CARS 研究所に関係している会社の多さがネットワークの広さを表し
ている http://automotive.stanford.edu/about.html)
近年では、以前は 60 ヶ月であった Product life cycle が、現在(2011 年インタビ
ュー当時)は 30 ヶ月に短縮され、トヨタなどはそれを 12 ヶ月にしようとして
いるため、技術力だけでなく、オープンソースのソフト開発、共同研究/開発
しやすい環境, パートナーシップ等、product cycle が速いシリコンバレー企業流
74
http://www.xconomy.com/san-francisco/2011/09/08/to-bring-driving-into-the-infotainment-age-gm
s-palo-alto-office-melds-silicon-valley-fancy-with-detroit-pragmatism/, 9/8/11, 2014 年 1 月 24 日引
用
75
http://www.xconomy.com/san-francisco/2011/09/08/to-bring-driving-into-the-infotainment-age-gm
s-palo-alto-office-melds-silicon-valley-fancy-with-detroit-pragmatism/, 9/8/11, 2014 年 1 月 24 日引
用
55
のアプローチ が今後自動車産業にも重要になってくると Shaw 氏は指摘してい
る76。
その言葉を裏付けるように、GM は 2009 年に in-Vehicle Infotainment (IVI)用 オ
ープンソースのソフト開発(Linux based)を進めるため、BMW, Delphi, Intel,
Magneti Marelli, PSA Peugeot Citroën, Visteon and Wind River と共同で GENVI
(http://www.genivi.org/) というアライアンスを立ち上げ、 また 2014 年 の
CES では 2014 年中の Android 車内搭載を目指し、Audi, Google, Honda, Hyundai,
NVidia とともに Open Auto Alliance (http://www.openautoalliance.net/) を結ん
だことを発表した。
4.5.2.
活動実績例
1. HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)改良に貢献。Cadillac Cue
infotainment システムに HTML5 プラットフォームを導入。HTML5 プラット
フォームはアプリケーションの developer にとって参入しやすい環境である。
(キャデッラック
Cue の画面
http://www.cadillac.com/cadillac-cue.html より、
2014 年 1 月 24 日引用)
2.車の貸し借りをオンラインで仲介する RelayRides というソーシャルネットワ
ーク会社を GM venture と GM の子会社で一連のネットワーク関連のサービ
76
http://www.xconomy.com/san-francisco/2011/09/08/to-bring-driving-into-the-infotainment-age-gm
s-palo-alto-office-melds-silicon-valley-fancy-with-detroit-pragmatism/, 9/8/11, 2014 年 1 月 24 日
引用
56
スを担当する OnStar 社に紹介。 RelayRides
は鍵の受け渡しの簡易化を模索し
ており、OnStar と提携することで、OnStar 会員は鍵の受け渡しが、携帯上のア
プリで可能になった77
。
General Motors
(http://media.gm.com/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/2011/
Oct/1005_relay.html,)
4.5.3.
GM
Venture
77
http://www.xconomy.com/san-francisco/2011/09/08/to-bring-driving-into-the-infotainment-age-gm
s-palo-alto-office-melds-silicon-valley-fancy-with-detroit-pragmatism/, 9/8/11, 2014 年 1 月 26 日
引用、及び
http://wheels.blogs.nytimes.com/2012/07/19/relayrides-and-onstar-inaugurate-car-sharing-progr
am/, 7/19/2012, 2014 年 1 月 24 日引用。
57
GM は 2010 年より、GM
venture, LLC
を設け、クリーンテック, インフォテ
イメント, 先端材料技術, そのほかの自動車技術など、またこれまでの
バリューチェーンやビジネスモデルの革新のためにも投資活動おこなっている
78
。 GM ventures はミシガンにあるものの、シリコンバレー含む各地で積極的
な投資活動を行っている。シリコンバレーでは ATSVO の技術研究者と密接に連
携をとり、また NY TIMES のリポートによれば、実際に ATSVO にも人を配置し
て、投資先を探している79。
4.5.4
GM 全体での connected cars への取り組み
GM は現在 IT 化に向けて非常に力を入れており、テキサス州 Austin, ジョージ
ア州 Roswell, ミシガン州 Warren, に加えて Phoenix 郊外、AZ にも 1,000 人規
模の IT Innovation Center が 2014 年春に開設予定である80。
( http://media.gm.com/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/201
3/Mar/0306-chandler.html, 2014 年1月 26 日引用)
このセクションでは現在 GM 車が商品化している、また商品化を発表している
テクノロジーをいくつか取り上げる。
78
http://www.autonews.com/article/20130901/OEM/130829922/gm-ford-take-separate-silicon-valle
y-paths-to-gain-edge-in-innovation-#axzz2rXwTa9UX, 9/1/ 2013, 2014 年 1 月 26 日引用
79
http://dealbook.nytimes.com/2012/09/03/multinationals-stake-a-claim-in-venture-capital/,
9/3/21012, 2014 年1月 26 日引用
80
http://media.gm.com/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/2013/Mar/0306
-chandler.html, 3/6/2013, 2014 年 1 月 26 日引用
58
OnStar~車に埋め込みがたの connectivity
GM は 1995 年にいち早く connected car の重要性を認識し Electronic Data Systems
and Hughes Electronics Corporation とともに、OnStar corporation を設立した。
1996 年には第 1 世代(アナログ)のサービスを開始し(2006 年モデル、第 6 世代以
降は CDMA デジタル)81、 2014 年 CES では第 10 世代、4GLTE 対応を発表。
Chevrolet の一部車種(Corvette、Impala、 Malibu、 Volt)で 2014 年夏より、AT&T
の 4G LTE ネットワークを利用し、ネットワークの高速化を実現する82。 また
OnStar デバイスに組み込まれている機能にとどまらず、Wi-Fi Hotspot として、
携帯電話、タブレットなども車内で Wi-Fi 利用可能になる。 他にも Buick, GMC,
Cadillac で利用可能83.
OnStar サービスの ハードウェアは購入時に車に埋め込まれており、2014 年 1 月
末現在、車の購入から 3 ヶ月は無料お試し期間がある。 それ以降は月々の契約
料を支払い、Automatic Crash Response 自動衝突防止機能 Emergency Services(緊
急時連絡) Hands-Free Calling (ハンズフリー電話機能 ) RemoteLink Mobile
App(遠隔機能の携帯アプリ), Remote Service (遠隔操作機能)、Stolen Vehicle
Assistance (盗難防止機能) Roadside Assistance, Vehicle Diagnostics (車体自己診断)
Turn-by-Turn Navigation (リアルタイムのナビ) などのサービスをこのハードウ
ェア経由でできる84。
車に据付の OnStar ハードウェア
(https://www.onstar.com/web/portal/remarketing?g=1, )
GM Promises "Star Treatment," Dumps Old OnStar Subscribers
http://www.consumeraffairs.com/onstar, 05/19/2007, 2014 年 1 月 26 日引用
81
82
http://www.freep.com/article/20140105/BUSINESS0101/301050138/GM-General-Motors-AT-T-4
G-Consumer-Electronics-Show, 1/5/14、2014 年 1 月 31 日引用
83
http://media.gm.com/content/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/2014/J
an/0105-4g-lte.html, 1/5/14、2014 年 1 月 26 日引用
84 https://www.onstar.com/web/portal/planspricing?g=1,
2014 年 1 月 26 日引用
59
OnStar のグローバル infotainment の責任者である Mary Chan, President of Global
Connected Consumer は 2013 年 7 月 13 日のインタビューで OnStar の意義につ
いて、従来のスマートフォンを介しての connectivity と違い、車に埋め込まれて
いる高速 connectivity は車から直接得た情報を発信、活用できるというメリット
があり、それが今後市場をリードしていくのに重要、と強調している85。
ユーザーインターフェース:Chevrolet MyLink
MyLink
のメイン画面
(http://www.chevrolet.com/mylink-vehicle-technology.html, )
CES 2014 に合わせたプレスリリースによると、Chevrolet の MyLink と呼ばれる
UI は声に反応する新しい UI、またスマートフォンに近づいた機能(アプリ)の
導入が見られる。

Siri eyes free integration(Siri eyes free integration)
MyLink の一貫の機能である Siri アイズフリー統合システムでは iPhone
の操作をハンズフリーで行うことが可能である。 アドレス帳中の連絡先に
音声のみで電話の送受信をおこなう、テキストメッセージの送信(電話番号
および連絡先か、AM/FM 放送のチャンネル、iTunes ライブラリーの曲を自
由に選択することが可能。 カレンダーの操作もハンズフリーで可能。iOS 6
85
http://media.gm.com/content/media/us/en/onstar/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/201
3/Jul/0703-chan.html, 2014 年 1 月 26 日引用
60
& 7 対応で、Volt、Malibu を始めとする6車種で使用できる。 アイホンを
MyLink radio に接続し(Bluetooth),
ハンドル上のボタンで、Siri eyes free integration の開始、終了86。

Chevrolet App Shop
Chevrolet 各車種に搭載されている MyLink のスクリーンから直接様々なア
プリケーションを購入できるシステムを CES2014 で発表。音楽、ニュース、
天気、交通情報、vehicle information などのアプリを、スマートフォンを開か
なくても車内で管理できるというメリットがある。 具体的には、個々の車
のデータを使いオンデマンド診断や点検の告知、車検等の予約、ディーラー
の場所等の情報をするアプリ、そして、iHeartRadio (1500 もの全米のラジオ
放送局に接続可能)、Priceline.com(オンラインホテル予約サイト)、The Weather
Channel (代表的な天気予報番組のアプリ)など、現在、携帯電話に搭載され
ているようなアプリがある87。
(http://media.gm.com/content/media/us/en/onstar/news.detail.html/content/Pages/news
/us/en/2014/Jan/0105-appshop.html, )
86
http://media.gm.com/content/media/us/en/onstar/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/201
3/Jul/0703-chan.html, 2014 年 1 月 26 日引用
87
http://media.gm.com/content/media/us/en/onstar/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/201
4/Jan/0105-appshop.html, 2014 年 1 月 26 日引用
61
4.6. ケーススタデイ:Mercedes-Benz
Mercedes-Benz Research & Development North America, Inc./A Daimler Company
http://www.mbrdna.com/
(2014 年 1 月 26 日筆者撮影)
4.6.1.
Mercedes-Benz Research & Development North America, Inc.概要
Mercedes-Benz Research & Development North America 社のウエッブサイト88によ
れば、1994 に Palo Alto に設立され、2013 年 11 月 19 日に Sunnyvale に新たに本
社ビル(上記写真)をオープンした Mercedes-Benz Research & Development North
America, Inc.(略称:MBRDNA)は、 Daimler North America Corporation が 100%
所有する関連会社である。 北米における研究開発を統括する当本社は、現在、
MBRDNA のプレジデント・CEO の Johann Jangwirth の下、北米における下記 4
つの部門を統括している。
1.
Group Research & Advanced Engineering USA Division
(Sunnyvale CA, Portland OR, Long Beach CA, Montvale NJ)
2.
3.
4.
TechCenter USA Division (Ann Arbor MI, Long Beach CA)
eDrive & Powertrain USA Division (Redford, MI)
Advanced Design North America Division (Carlsbad, CA)
Mercedes-Benz や他の Daimler のグループ会社のための、研究、先端技術、商品
開発、テスト、そして最先端のデザイン・プロジェクトになどに研究の焦点を
88
http://www.mbrdna.com/index.php, 2014 年 2 月 1 日引用
62
当てている89。
Sunnyvale の本社には、2013 年 11 月現在、約 200 名が働いていて、スペース的
には、約 72,000 スクエア・フィート90(約 6,700 平米)あり、まだ増員の余裕が
あるスペース規模になっている91。 下記 YouTube ウエッブサイトには、新本社
ビルのオープニングの際の紹介ビデオが掲載されている。
http://www.youtube.com/watch?v=WmeCIodKPxU,
また、本社オープ二ングの際に公開された本社ビルの内部は、CNET のウエッブ
サイトで見ることが出来る。
http://reviews.cnet.com/2300-13746_7-10019212.html,
Mercedes-Benz Research & Development North America(略称:MBRDNA)社や
Mercedes-Benz Club of America( ユ ー ザ ー 会 ) の ウ エ ッ ブ サ イト に よ れ ば 、
Connected Cars に関連する研究開発は、北米では、Sunnyvale を拠点として展開
していると考えられる92。 1994 年に自動車業界では先駆けて、Silicon Valley に
拠点を構えた、Mercedes-Benz の意図は、Mercedes-Benz クラブの中での、現 CEO
Johann Jangwirth(JJ)のメッセージからも明らかである。 JJ は、次のように述
べている。
「Silicon Valley は、イノベーションが起こりやすい肥沃な環境にある。 そこに
は、ほとんど努力しないでも研究者の間でネットワーキング(人の繋がりの意
味)が出来、リスクを取り、失敗を許容するサポーテイブな人の交わりがあり、
将来性のあるアイデアを実践するための資金と経験を持った人々がいる。
この新しい 21 世紀に、デジタル・ライフスタイルの形が整ってきている。
MBRDNA の拠点から 10 マイル以内で、集積回路、パソコン、インターネット
が開発された。 それを追うように、すぐにフェースブックなどのソシアルメ
デイアやデジタル音楽、iPods, iPhones, iPads そして mobile Internet が生まれた」
89
http://www.mbrdna.com/about.php, 2014 年 2 月 1 日引用
90
http://www.bizjournals.com/sanjose/news/2013/03/26/mercedes-benz-rd-unit-moving-to.html?pag
e=all, 2014 年 2 月 1 日引用
91
http://www.losaltosonline.com/special-sections2/sections/on-the-road/46280-mercedes-benz-opens
-r-d-lab-in-sunnyvale, 12/04/13、2014 年 2 月 1 日引用
92
http://www.mbca.org/star-article/january-february-2013/epicenter-innovation-%E2%80%93-merc
edes-benz-research-development-north-a, 2014 年 2 月 1 日引用
63
この英文は以下の通り。
「JJ noted that the Silicon Valley environment is a fertile ground for innovation, with
networking among researchers that occurs almost without effort, supportive attitudes
toward risk taking and accompanying tolerance for failure, and funding and expertise to
back the practical applications of promising ideas.
JJ summarized overall trends in the digital lifestyle that have taken shape in this new
century. Within 10 miles of the MBRDNA shops, the integrated circuit, personal
computer, and Internet were developed, he noted, and were soon followed by social
media, digital music, iPods, iPhones, iPads and the mobile Internet.」93
シリコンバレーのイノベーションのスピードとデジタル・ライフスタイルの核
心を取り込み、Mercedes-Benz や AMG、世界中の顧客の UX(ユーザー・エクス
ペリエンス)をより優れたものに磨き上げるために必要な、最先端技術やイノ
ベーションに、MBRDNA は強い焦点を当てている。
4.6.2.
活動分野
Sunnyvale 本社内にある Group Research & Advanced Engineering94の活動は下記の
通り、
1. Apple や Google のような、シリコンバレーに位置し、世界をリードするよう
な、コンシューマ・エレクトロニクス・IT 各社との協業関係の推進
2. 最高品質の車載インフォテイメント、テレマティ―クスの設計、そして、デ
ジタル・ライフスタイルを十分に楽しめるような UX の日々の改善・強化。
 Mercedes-Benz A クラスでは、iPhone とのシームレスな連携のためのソ
フトとそのユーザーインターフェースを社内開発し、2012 年に搭載した。
 Mercedes Smart Car のユーザーは、$300 位の iPhone のクレードルなどが
入ったハードウエア・キットを購入し、iPhone のアプリケーション・ス
トアーでソフトウエアを購入すると、ハンズフリーのスピーカーフォン
や、インターネットラジオ、駐車場情報など、を入手することが出来る。
93
http://www.mbca.org/star-article/january-february-2013/epicenter-innovation-%E2%80%93-merc
edes-benz-research-development-north-a, 2014 年 2 月 1 日引用
94 http://www.mbrdna.com/group-research.php, 2014 年 2 月 1 日引用
64
これを開発したのが、この部門であった。
 詳しい機能は、
 ハンズフリー・ブルートゥ-ス・スピーカーフォン
 米国内のナビゲーション
 ガソリンスタンド情報の表示
 一番安いガソリンスタンド情報
 交通渋滞情報
 事故情報
 インターネットラジオ
 AM/FM/CD・インターネットラジオの曲名の確認
 駐車場情報
 iPhone の曲名リストを運転中に見られるように文字を大きくする・
ボタンも大きいなど。
 米国向け、先進的な運転補助システムやシャシーの設計
 燃料電池自動車のテスト、技術標準化のための規制当局へのサポー
ト
 その他、米国市場の動向に関するリサーチと分析
Sunnyvale 本社内にあるもう一つの部門は、The Advanced User Experience Design
division(先端的 UX 設計部門)95で、活動内容は下記の通り。
新しいデジタル技術によって、今までできなかった新しい UX を構想し、設計し、
プロトタイプを作る。 先進的で、量産車向けに、実際に使えて、有益で、美
しく、使って楽しい、そんな経験を生み出すために、ユーザー・リサーチ、ヒ
ューマン・ファクター、トレンド・リサーチ、設計などのパートナーと密接に
組んで仕事をしている。
この分野では、以下の3点に焦点を当てている。
1.
Mercedes-Benz 車のためのデジタル・デザイン・ランゲージを創造する
2.
3.
95
こと
将来のデジタル・カーに向けて車載機器とハードウエア・ソフトウエア
のインターフェースを設計する事。
モバイルやクラウドに繋がった製品の UX を開発する事。
① 自動車と人間との関係が急速に進化しているので、先進的な UX 設
http://www.mbrdna.com/advanced-user-experience-design.php, 2014 年 2 月 1 日引用
65
計チームの役割は Mercedes-Benz のユーザーと良好な関係を保つた
めにもきわめて大切である。
MBRDNA は、Stanford 大学 CARS の Affiliate member となっている。
4.6.3.
Mercedes-Benz 車載インフォテイメント・システム96
(2014 年 1 月 8 日 International CES 2014 Mercedes-Benz ブースで筆者撮影)
mbrace:
Mercedes-Benz の車載インフォテイメント・システムで、ダッシュボードにイン
ターネットを持ち込んだシステムである。 車内に持ち込むスマートフォンやコ
ンピュータを車に接続させることが出来る。
安全及びセキュリテイ・サービス:
万一事故が起こった場合には、自動的に緊急事態を知らせる機能がある。また、
助けが必要になれば、すぐにセンターとコンタクトを取れる。 エアバッグや
シートベルトのテンションが異常になると、自動的に車の位置情報などとその
状況を知らせる。 盗難防止機能もある。(Verizon Telematics の機能)
mbrace のサービス内容は、次のウエッブサイトからの抽出・引用、
http://www.mbusa.com/mercedes/mbrace?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_campaig
n=Brd%7CContent%7CCorp%7Cmbrace2&utm_term=+mbrace2%20+mercedes%20+benz&utm_
content=s0wKxQ7fu_dc|pcrid|34323479335|pkw|+mbrace2%20+mercedes%20+benz|pmt|b,
2014 年 2 月 1 日引用
96
66
Send2Benz:
コンピュータを使用して Google Map 上で、目的地の住所、ルートなどをインプ
ットし、それを車のカーナビに電送することが出来る。 リモートから車の診
断をして、必要であれば、ソフトウエアを、通信ネットワークを利用して差し
替えることが出来る。 駐車場で、駐車した場所を忘れても、スマートフォン
で場所を確認でき、また鍵のし忘れも確認できる。
Travel & Assistance:
旅行先などで、車を離れていても、スマートフォンを使って、目的地を Google
Map 経由でカーナビに入力したり、mbrace サービスのコンシェルジェへ連絡し
たりしてガイドを受けることが出来る。 不慣れな土地で、道案内が必要な時
にコンシェルジェが案内してくれる。
In-Vehicle App:
( http://www.mbusa.com/mercedes/mbrace#!layout=/mbrace/remote_access&waypoi
nt=mbrace-remote_access, 2014 年 2 月 1 日引用)
ドライバーが運転以外の事で気が散らないように工夫された、HMI(ヒューマ
ン・マシン・インターフェース)のために、運転中でもインターネットから必
要な情報を取ることが出来る。iPhone、Android をつなげて利用できる。
67
4.7.
各社の Silicon Valley における車載インフォテイメントをめぐる
動き
4.7.1.
BMW Group Technology Office USA97
BMW Group Technology Office USA
http://www.bmwgroup.com/e/0_0_www_bmwgroup_com/forschung_entwicklung/netzwerk/office_
mountain_view.html
(2014 年 1 月 26 日、筆者撮影)
概要
1998 年 6 月に設立された BMW Group Technology Office USA は、直接、ドイツ、
ミュンヘンにある FIZ (Forschung und Innovation Zentrum – Research and
97本稿作成に当たって
BMW Group Technology Office USA 及び BMW Group FIZ (リサーチ・イノベー
ション・センターのドイツ語略:ミュンヘンにある)のウエッブサイトを参考にした。
68
Innovation Center)にレポートしている98。
99
(BMW
ドイツ
イノベーションセンター、BMW ウエッブサイトより)
世界的なハイテックのセンターであるシリコンバレーから、最新の技術を、い
ち早く自動車に取り込み、常にイノベーションを起こしてゆくことが、BMW
Group Technology Office のミッションとなっている。 イノベーションのアイデ
アは、FIZ から出てくる場合とシリコンバレーから提案する場合があり、前者の
場合には、シリコンバレー側が FIZ をサポートする形で FIZ のプロジェクトに
参加する。 シリコンバレーからアイデアを出す場合には、ユニークな新しい
技術を用いたプロジェクト案を FIZ に提案し、FIZ のバック・アップを得て、展
開する。
活動分野
シリコンバレーが主に担当する戦略的なテーマは以下の 7 つである。
1.HMI (Human – Machine Interface)
2.メカトロニクス:センサー、アクチュエータ、エレクトロニクスなどの融合
技術
3.Infotainment:情報、コミュニケーション、エンターテインメントに関する分
野
4.テレマティ―クなどを通じた運転支援
5.ビジネス・コミュニケーションのための新しいポータルなどの検討
6.材料工学とその製造に関するテーマ、例えば形状記憶合金など
98同上
BMW Blog より、
http://www.bmwblog.com/2011/05/07/bmwblog-visits-fiz-bmw-forschung-und-innovation-zentru
m/
99
69
3.の車載インフォテイメントに関しては、これまで Real time OS の QNX ベー
スで自社開発を進めてきている。 2009 年 3 月に発表された GENIVI Alliance を、
Delphi, GM, Intel, PSA Peugeot Citroen, Wind River Systems などと設立、Linux と
Wind River Systems のミドルウエア・リアルタイム OS をプラットフォームにオ
ープンソースで推進している。なお、Wind River Systems は、2009 年 6 月に Intel
に買収された100。 BMW のインフォテイメント及び通信システム部門責任者の
Graham Smethurst が、現在 GENIVI Alliance の Board の議長を務めている。 因
みに、プレジデントは、PSA Peugeot Citroën が担当している101。
大学連携
BMW は、Stanford 大学 CARS の Affiliate Member となっている。
100
101
http://www.windriver.com/news/press/pr.html?ID=6921, 2014 年 2 月 1 日引用
http://www.genivi.org/board-and-officers, 2014 年 2 月 1 日引用
70
4.7.2.
ホンダ・シリコンバレー・ラボ
Honda Silicon Valley Lab
Honda R&D Americas, Inc.
www.hondasvl.com
(2014 年 1 月 17 日筆者撮影)
概要
2011 年 5 月に設立されたホンダ・シリコンバレー・ラボは、
(株)本田技術研究
所の米国法人 Honda R&D Americas, Inc. に所属し、IT 分野で世界の中心になっ
ているシリコンバレーで起こるイノベーションをいち早く取り込む Open
Innovation の活動を数十名で行っている。 シリコンバレーで発生するさまざま
な先進的な技術を持つスタートアップ企業の技術を評価し、Due Diligence を行
う。 優れた技術を持つスタートアップ企業とは、共同でプロトタイプを作成
し、実用性が高く評価された技術に関しては、オハイオや日本の開発部隊に移
管される。
活動分野
活動分野は、
①
②
③
④
Connected Cars
HMI (Human Machine Interface)
Big Data
Security/Safety
71
の 4 つの分野からなっている。自動運転技術に関しては、ホンダ・シリコンバ
レー・ラボは、担当していない。
Connected Cars の分野では、地の利を生かし、Apple、Google、Evernote など IT
の大手、中小あるいはスタートアップなどの企業との協業を進めている。 ホ
ンダ/アキュラを愛用するユーザーは、スマートフォンをはじめとしたモバイ
ル・インターネットの愛用者であることもあり、これらのユーザーの利便性を
増すための開発を進めている。 CES 2014 で発表されている通り、Google のス
マートフォン・タブレットなどに利用されている Android OS をベースに、Android
スマートフォンを車に接続したり、車に Android を Embedded(車載)したりす
る試み(Open Automotive Alliance)が始まった。 ホンダは、GM・Audi などと
この戦略提携に参加することを決め、シリコンバレー・ラボも OAA との協業の
役割を担っている。 因みに、2013 年 7 月に Apple から発表された”iOS 7 in the
Car”は、ユーザーが持ち込んだ iPhone・iPad などの iOS 機器を Bluetooth や USB
で、車両のコンソールにつなげることが出来る。 ホンダは、 “iOS 7 in the car”
に対応することを発表しており、シリコンバレー・ラボが Apple との協業を推進
している。
HMI の分野では、安全性を最重視し、分かり易く、使いやすい、かつ楽しめる
インターフェースを、最先端の開発ベンダーと協業しながら開発している。よ
り具体的には、センサー、ディスプレイ、音声によるインターフェース、ある
いはタッチパネルなどの触れることによるコミュニケーションなどに関して、
外部最先端イノベーションを取り入れた HMI のプロトタイプの開発などを行っ
ている。
Big Data 分野では、車の走行により日々得られる膨大なデータを、ユーザーの
日々の生活をより楽しく、より効率的なものにするために、安全と個人情報の
保護を犠牲にすることなく、いかに役立てるかを検討している。 具体的には、
Big Data を利用した新しいサービス体系やより優れた UX(ユーザー・エクスぺ
アリアンス)のプロトタイプの開発を行っている。その中には、画像処理など
の最先端の技術に関する取り組みも含まれる。
Security/Safety 分野では、安全で信頼性の高い車載システムと Cloud の開発を進
めている。 ホンダは、何よりも安全を第一に置いて、この考えに妥協するこ
となく、開発を進めている。
72
なお、ホンダ・シリコンバレー・ラボでは、ベンチャー・キャピタル投資活動
は行っていない。
協業に関するマネジメント・プロセス
最先端技術を持つスタートアップなどとのプロトタイプの協業については、次
のようなステップで進めている。
1. 秘密保持契約(NDA)を締結した上でのスタートアップ企業が持つ技術に関
する詳細な検討
2.
3.
4.
5.
技術、人材、企業などの評価・確認(Due Diligence)
プロトタイプ作成のための計画作りなどの準備
プロトタイプ・プロジェクトの推進
最終結果の確認、内容が優れていればホンダ開発部隊への移管
外部団体との連携
シリコンバレーでの外部団体との連携では、
Stanford University CARS、Auto Tech Council などがある。
73
4.7.3. トヨタ・インフォテクノロジー・センター
/トヨタ・テクニカルセンター・シリコンバレー・オフィス
トヨタ・インフォテクノロジー・センター・U.S.A.,INC.
Toyota InfoTechnology Center, U.S.A., Inc.
http://www.us.toyota-itc.com/
(Toyota Info Technology 社から提供いただいた写真と 2014 年 1 月 28 日に筆者が
撮影した写真を使用)
概要
2001 年 4 月 2 日に設立したトヨタ・インフォテクノロジー・センターは、(株)
トヨタ IT 開発センターの 100%出資会社で、Palo Alto にある Stanford Research
Park に設立、2008 年に現在地の Mountain View Research Park に移り、米国での
ビジネス・技術トレンド調査・ビジネスモデルの検討などの活動を行う New York
Office も含め、総勢約 40 名のメンバーで活動を行っている。 なお、ミシガン
州に本社を置くトヨタ・テクニカル・センター、ニューヨーク市に本社のある
Toyota Motor North America、ケンタッキー州に本社のある Toyota Motor
Engineering & Manufacturing North America からも駐在者がおり、同じオフィスフ
ロアーで、Toyota InfoTechnology Center と共同で研究開発を行っている。
世界のイノベーションをリードする IT 業界の主要企業が集積するシリコンバレ
ーを中心に、米国における技術開発動向、社会現象を深く理解し、車を利用す
74
るユーザーのニーズと市場の状況を的確に把握することで、最先端の通信情報
技術を車の進化に生かし、実用化に向けた新技術の開発や提案に積極的に取り
組んでいる。 具体的には、


将来のニーズ、市場、IT 関連業界動向などの探索、
技術シナリオ/ロードマップの作成・提示、外部連携を含めた開発企画/事業
企画など、
 プロトタイピング、先行開発、外部技術のベンチマーク、テストベッド環境
の構築と活用などの開発・評価
を行い、提案・実証実験を通じて、車の製品化への貢献をしている。
(トヨタ IT 開発センターウエッブサイトより引用、2014 年 1 月 29 日引用)
高度運転支援システムに関しては、ミシガン州の Toyota Technical Center で対応、
シリコンバレーでの直接の研究開発は行っていないが、シリコンバレーで研究
開発中の技術は、高度運転支援システムへの応用も将来可能な内容を含んだも
のになっている
活動内容
全ての活動のゴールは、事故や渋滞などのネガティブな要素の最小化とユーザ
75
ーが運転することの喜びや魅力を最大化することである。ここ数年は、全体の
研究開発プロジェクトのうち製品の実現に直接貢献できるようなテーマも強化
してきている。
活動分野は、主に、
①
ビジネス・リサーチ
②
Connected Services
③
Intelligent Computing
④
Wireless・Network
の4つの分野からなっている。
ビジネス・リサーチ
モバイルマーケット等の市場動向の把握と分析、Last One Mile Mobility などがあ
る。 Last One Mile Mobility とは、公共交通手段や新たなモビリティサービスと
クルマが社会システムの中でどのように適切に融合すべきかを研究するもので、
車のシェアなどの社会的な枠組みに関する研究もその1つである。
Connected Service
クルマが外部のデジタル世界とつながる場合の将来サービスを、ユーザ・エク
スペリエンス向上の観点から、クルマからクラウドまでの全体システムとして
PoC を定義する活動に取り組んでいる。ベストな UX(ユーザー・エクスペリエ
ンス)という観点からは、運転阻害要因を極力排除し、必要な情報に必要な時
にアクセスできる環境が重要であり、それを検証するために HMI(ヒュマン・
マシン・インターフェス)を考慮したプロトタイプを組み上げ、ユーザー評価
やビジネスとしての成立性の検証も行っている。
INTELLIGENT COMPUTING
想定される未来の運転や Connected Life などの世界に入り込んで深く探索し、納
得のゆくアルゴリズムやアイデアを研究している。具体的な研究領域としては、
パーソナライゼーション、画像認識、Agent Technology、ソフトウエア品質保証、
ロボット、AI などがある。
76
NETWORK
無線通信と車に関するイノベーションのフロンテイアで、研究開発を行ってい
る。 例えば、DSRC(Dedicated Sort Range Communication)、Connected Vehicles
の分野での車車間、路車間通信の標準化など。 具体的には、以下のようなプ
ロジェクトに取り組んでいる。
 Data Networking
 Mobile I/P
 SmartGrid Integration
 Connected Vehicle Integration,
 Crash Avoidance Metrics Partnership (CAMP)
DSRC (Dedicated Short Range Communication)
ITS 技術の中で、DSRC プロジェクトは、トヨタが米国での標準化の推進にリー
ダーシップを取っているプロジェクトの1つで、例えば、Toyota Info Technology
Center US に所属する John Kenny 氏は、2013 年 11 月 13 日、米国の自動車業界
を代表して、米国下院の通信技術に関するエネルギー・商業委員会で、DSRC の
重要性に関して証言を行ったり102、 輻輳制御技術については、2013 年 6 月にド
イツのドレスデンで開催された IEEE Wireless Vehicular Communication
symposium (WiVEC)で、Toyota Info Technology Center US に所属する G. Bansal and
J. Kenney の 2 氏が“Achieving Weighted-Fairness in Message Rate-based Congestion
Control for DSRC Systems”と言う論文で Best Paper Award を受賞したりしている
103
。
DSRC プロジェクトの目的は、増え続ける車の事故を減らし、車同士、あるいは
人との衝突を未然に避けるようなシステムを開発・配備することにある。 電
波を利用して、車車間通信、路車間通信を実現し、路側機や接近中の他の車か
ら発信する電波情報を受けて、車の運転手に警告を与える試みである。 これ
により、建物や他の車の陰など視野に入ってこない自動車も運転手は認識でき
る。
http://www.toyota.com/about/news/corporate/2013/11/26-3-Advises.html, 2014 年 1 月 29 日引
用)
103 http://us.toyota-itc.com/publications/, 2014 年 1 月 29 日引用)
102
77
DSRC は、5.9 GHz の専用周波数帯を利用して、車車間、路車間通信を実現しよ
うとするプロジェクトである。 1999 年、米国 FCC は、5.9 GHz 帯を ITS の専
用周波数として割り当てた。2008 年に米国運輸省 ITS プログラムは、DSRC の
接続性に関するフレームワークを決めた。 トヨタに加えて、本田、日産、GM、
Ford、Volkswagen、Mercedes-Benz、現代の 8 社が参加して、米国の 6 都市(カ
リフォルニア州のサンフランシスコ、ミネソタ州のミネアポリス、テキサス州
のフォートワース、バージニア州のブラックスバーグ、フロリダ州のオーラン
ド、ミシガン州のデトロイト)で実証実験を進めてきた。その結果、80%の参加
者が DSRC の有効性を評価した。路車間通信は、政府による投資額が大きく、
配備には、相当な時間がかかると思われるが、車車間では、コストも相対的に
安いので、2020 年までには、市場に登場する可能性が大きい。
Smart Grid
米国エネルギー省の Smart City/Grid インデイアナ州パイロットプロジェクトに、
地域電力会社 Duke Energy、トヨタ自動車(株)、Toyota Motor Engineering &
Manufacturing North America とともに参加している。 この実験は 2013 年年初よ
り始まり、1年程で完了。 目的は、パワー・グリッドの負荷の均等化と最適
な車の充電方法の確立にある。 そのためにトヨタは、プリウス・プラグイン・
ハイブリッドを 5 台提供し実験に参加している。
このプロジェクトでは、SAE (Society of Automotive Engineers:技術標準化を推
進している技術者の団体)が開発した通信スタンダードをベースにした需要対
応システムを通じて電力グリッドの昼夜の負荷を均等化することを実験してい
る。 この通信スタンダードは、車と電力会社との間で、双方向でデジタル通
信を行えるようなプロトコルになっている。 また、時間帯によって変動する
電力料金を前提に、ユーザーにとって最適化する方法の開発もこのプロジェク
トには入っている。
トヨタは、世界で初めて、電力供給用のケーブルの上で通信を行い、トヨタ・
スマートセンターとクラウドベースで、コミュニケーションを取りながら、自
動車のユーザーの個別使用戦略と地域の電力需要に応じた、バランスのとれた
充電方法を開発した。
78
4.8.
今後の方向性
(まとめ)
Connected Cars の今後の方向性を考える上で、もう一度冒頭に触れた基本的なフ
レームワークを考えてみたい。
自動運転に向けての Connected Cars
自動運転(レベル4:USDOT 基準)に向けて、ステップ・バイ・ステップで、
高度運転支援システム機能が車に実装されてゆくものと思われる。 自動運転に
向けての技術が高度化するにつれ、人に代わって車が周囲の環境を理解し、その
上で、どのように動くのかを判断する機能の必要性が高まる。 まさに人間のよ
うに、周囲の環境を全身の感覚を使って理解し、周囲の動くものがどのように動
くかを推測し、相手に対して全身を使ってコミュニケートし、不確実性を極小化
し、予期せぬ衝突を避けながら、目的地に向かうのである。 これは膨大な情報
とその処理が必要なプロセスである。
このような情報処理を支えるのが、 高度運転支援システムのアルゴリズムであ
り、外部からインプットされる環境情報データである。 車自身が持つ、画像セ
ンサー、加速度センサー、レーザー・レーダーなどの多様なセンサーに加え、
79
DSRC を利用した車車間情報・路車間情報、広域無線通信ネットワークや GPS
などを通じてインプットされる、時を追うごとに刻々と変化する最新の詳細な道
路情報、気象情報、地図情報、位置情報などは、自動運転に不可欠なインプット・
データとなると思われる。
そして、車が、ソフトウエアで装備される度合いが高まるほどに、遠隔地から、
車を診断し、必要に応じて即座にソフトを差し替えるなど、車にとって欠くこと
が出来ない機能が必要になる。 既に、Mercedes-Benz のケースで見たように、
Verizon Telematics 社と協業することにより、この機能は実際の車に配備されて来
ている104。
車にとって本質的な上記 Connected Cars の機能は、車が高度化すればするほど、
その必要性が高まる。 1 つの重要な課題は、徐々に高度化する自動運転の機能
を、それぞれの段階で、どのような HMI(ヒューマン・マシン・インターフェ
ス)を通して、誰でも簡便に制御できるようにするかにある。 Silicon Valley の
各社研究開発センターの活動状況にしめされているように、車載インフォテイメ
ントへの取り組みと合わせて HMI の研究が盛んにおこなわれている。
また、もう1つの重要な課題は、高度運転支援システムの機能を持った車が、そ
れを持たない大半の車と道路上に混在する、長い時間のかかる移行過程で、現在
より道路交通の安全性を高めて行くためにどのような対応策を進めて行くかと
いうに点にある。 例えば、高度運転支援システムを装備した乗用車が前走の車
の急ブレーキで、前走の車に衝突しないように自動的に衝突回避をした時に、後
ろを走っていた高度運転支援システムを持たないダンプカーが追突すると言う
ような事故が起こる可能性がある。 このような事態が発生する確率を下げるた
めに、DSRC などの車車間通信は、Peloton Technology のケースで考察したよう
に、現実的な解決策として、具体化を進める必要があるのではないかと推察する。
車載インフォテイメントとしての Connected Cars
一方、インターネットがどこでも使われる時代に急速に入って来ている現代、人
と人とのコミュニケーション(Connected People)、人とクラウドとの通信などイ
ンフォテイメントの世界も、車の基本的な制御・管理とは別の世界の顧客満足度
104
http://www.verizontelematics.com/, 2014 年 2 月 2 日引用
80
と言う点で、きわめて重要になって来ていることは既に述べたとおりである。
消費者のニードが高いと言う事もあり、今や Connected Cars と言葉は車載インフ
ォテイメントを表す言葉のようになって来ている程である。
ここで、米国におけるスマートフォンの回線加入者の状況を見てみたい。
comScore Reports によれば、2013 年 10 月現在のスマートフォン総加入者数は、
149.2 百万人で、そのうち Android が 52.2 %、Apple が 40.6 %、Blackberry が 3.6 %、
Microsoft が 3.2%であった105。 調査会社の IDC の 2014 年 1 月 27 日の発表文に
よると、全世界の 2013 年におけるスマートフォンの出荷総合計は、約 10 億台で
あった。携帯電話の総出荷数が約 18 億台であったので、スマートフォンの比率
は約 56%になる106。 2013 年 9 月 4 日の IDC の調査発表によれば、2013 年出荷
ベース見込みで iPhone と Android 合計が全体の 92.2 %の占め、iPhone のシェア
が 16.9 %、Android のシェアが 75.3 %であった107ことから、Nokia Windows Phone
がイタリアなどで善戦していることを考慮しても、Android と iPhone の優位性は
当面変化が無いと考えられる。
車載インフォテイメント・システムから見て、ドライバーの持つスマートフォン
の種類を選択することはできないので、プラットフォームが HTML5 などにより、
どのスマートフォンにも柔軟に対応できる必要がある。
あるいは、クラウドでメデイア・コンテンツを共有して、時により、場所により、
スマートフォンで、あるいは車載インフォテイメントで楽しむと言うパターンも
あるが、今の段階では、通信回線料が高く、現実的ではない。 ガレージに入っ
ている間に、Wi-Fi で、車載インフォテイメントとシンクロナイズして、データ
をそっくり移してしまうとか、USB あるいは Bluetooth でつなぐと言うのが常識
的な対応であろう。 ただし、New York などの大都会で、駐車場と家が離れて
いる場合は、これも難しいので、USB と Bluetooth に頼る方法がボトムラインで
は必要である。
電話やメッセージ、電子メール、ウエッブアクセスなどは、相対的にデータ容量
105
http://www.comscore.com/Insights/Press_Releases/2013/12/comScore_Reports_October_2013_US
_Smartphone_Subscriber_Market_Share, 2014 年 2 月 2 日引用
106 http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS24645514, 2014 年 2 月 2 日引用
107 http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS24302813, 2014 年 2 月 2 日引用
81
が低いので、無線通信で合理的なコストで対応できると想定される。 無線通信
事業者次第であるが、1つの回線加入で、SIM カードを複数枚発行するような
無線通信事業者の場合には、電話、メッセージ、電子メール、ウエッブアクセス
などの機能は、車を運転中は、車載インフォテイメントの側で処理できるような
対応も可能であろう。この場合、スマートフォンは、メモリ・ストレージとして、
コンテント用に車載インフォテイメント・システムに接続することとなる。
OEM による車載インフォテイメントのプラットフォームの選択は、高度運転技
術に関わる情報の取り扱いを行わないのであれば、規模の経済性、アプリケーシ
ョンの豊かさ、地図表示の速さなどの選択基準で、行われるのではないかと推測
される。
課題は、スマートフォンを繋ぐ、繋がないにかかわらず、車を運転中のドライバ
ーが、インターネットや電話に気を取られて事故を起こさないような、直観的で、
使いやすい HMI を開発することにある。 HMI は、前項で触れた自動車の制御
そのものの HMI との整合性も必要で、前項で触れた通り、各社、Silicon Valley
の研究所では、HMI の研究が主要研究テーマになっている。
HMI のデザインの世界で、Silicon Valley のスタートアップの中から、リスクを
取りながら思い切った斬新なアイデアが生まれてくる可能性はあるので、今後と
も Silicon Valley は目を離せない地域であろう。
82
5.Autonomous Cars
5.1. 背景
自動運転に向けた初期の試みは、1980 年代後半に Mercedes-Benz のリードの下
に欧州の EUREKA Project PROMERTHEUS108 109によってはじめられた。 この
ころのコンピュータと言えば、IBM パソコンの 3 世代目の PS/2 が世に出た頃で、
演算スピードは 50 MHz であった。 Google 社の Android ベースの最新スマー
トフォンの演算スピードが 2 GHz であることを考えると、40 倍の演算能力の違
いがある。 丁度それは、まだ十分な計算能力を持つコンピュータが無い時代
に、月に着陸し、地球に戻ってくると同じような果敢な試みと言ってよいので
はないかと思われる。
EUREKA Project の成果を受けて、1995 年には、Mercedes-Benz の試作機が、ド
イツのミュンヘンからデンマークのコペンハーゲンまでの 1600 km を往復し、
アウトバーンでは、時速 175 km を達成している110。
この伝統を受け継ぎ、Mercedes-Benz は、2013 年 8 月には、ドイツのマンハイ
ムからフォルツハイムまで、103km にわたり、市街地や田園地帯の自動運転の
試験を S-500 ベースの試作機を用いて行い成功している111。
Mercedes-Benz は、”Intelligent Drive”と言う新しい言葉を用いて、自動運転の部
分的な機能を現在の E、S クラスに適用し、消費者に実際に販売している。 C
クラスにも近い将来この機能を搭載する予定である。 さらに、2020 年までに
は、自動運転の車種を販売開始する予定とみられる112。 勿論、実際に販売さ
れるまでには、自動運転のレベルによるが、各国毎に道路交通法が改定される
必要が出てくる場合ある。
http://www.eurekanetwork.org/project/-/id/45, 2014 年 1 月 10 日
http://en.wikipedia.org/wiki/EUREKA_Prometheus_Project, 2014 年 1 月 10 日
110 http://en.wikipedia.org/wiki/EUREKA_Prometheus_Project, 2014 年 1 月 10 日
111 2014 年 1 月 8 日、CES 2014 会場で Video によるデモを行っていた。
112http://ces.mercedes-pressevents.com/pi/Handout_2011-01-07_CES2014.pdf, 2014 年 1 月 7 日
CES 2014 でのプレスリリースより, 2014 年 1 月 10 日引用
108
109
83
このような Mercedes-Benz にみられるような自動運転の進歩は、コンピュータ性
能の飛躍的な向上、半導体の集積度の向上、OS や人工知能ソフト技術、センサ
ー技術などの革新など無くしては不可能だったと言っても多言ではないかと思
われる。
別項で、触れている通り、Mercedes-Benz も、コンピュータ・ソフトウエア技術
の世界的な拠点であるシリコンバレーに米国での開発本社機能を構え、そのミ
ッションは、Connected Cars、Advanced Driving System、Autonomous Driving の 3
つ113である。
米国では、EUREKA Project と同時期に、DARPA (Defense Advanced Research
Projects Agency)が資金を出して、自動運転の開発を開始し、さまざまな試みがさ
れたが、現在の自動運転の動きに最も大きな影響を与えているのは、The DARPA
Grand Challenge である。 2004 年、2005 年、2007 年に、自動運転の懸賞を掛け
たコンテストを DARPA が主催し、ここで活躍した、Stanford 大学、Carnegie Mellon
大学、および MIT の自動運転車両を開発設計したエンジニアの多くが、Google
に入社し、Google の自動運転技術の主軸になった。 因みに、Carnegie Mellon
大学と GM は自動運転の共同開発パートナーとなっている。
Google では、2008 年に、Driverless Cars のプロジェクトが開始され、2013 年末
現在、ネバダ州、フロリダ州、カリフォルニア州、ミシガン州で、自動運転の
ための法律が出来、2012 年 8 月現在既に 30 万マイル(48 万 km)の試乗距離を
達成した114。
この間、自動車各社が、自動運転技術の開発を行ってきて、高度化運転支援シ
ステムとして、自動運転の部分的な機能を、実装し、実際に販売され始めてい
る。 2020 年には、レベル 3, 4 ではないにしても、何らかの形で高度な自動運
転機能が埋め込まれた車両が市場導入されることになりそうである。
2013 年 11 月 21 日開催 VLAB イベントにおける Mercedes-Benz 研究所、
Director Luca Delgrossi,
Director のコメントより、http://www.vlab.org/article.html?aid=484, 2014 年 1 月 10 日
114 http://googleblog.blogspot.hu/2012/08/the-self-driving-car-logs-more-miles-on.html, 2014 年 1
月 10 日
113
84
5.2. 日米欧主要企業の動向
5.2.1. GM
米国有力紙 US Today の 2013 年 8 月 30 日付けの報道115によると、GM は、米国
議会の公聴会で、2020 年までにある程度自動化された車を市場に出荷できるで
あろうと証言したとのこと。 ただし、Driverless Cars のような目的地を入力す
れば、車が自動的に動いて目的地まで運んでくれるようになるまでには、まだ
20-30 年先の事で、目下の懸案は、自動化されたハンドル操作の開発にあると述
べている。 「GM は、
“Super Cruise:スーパー・クルーズ”と呼ぶシステムを開
発している。 スーパー・クルーズはレーダーとカメラを利用して、ハンドル
を操作し、車線の中を正しく走れるようにする。 レーダーが前走している車と
の安全な車間距離を保持し、必要な場合には完全に停止するようブレーキを自
動的に踏む。」116 GM の[デザインと技術]と言う GM が直接管理しているウエ
ッブサイトでは、「現時点では、GM の車とトラックには、前走の車のスピード
に合わせて、クルーズ。コントロールを調整するアダプテイブ・クルーズ・コ
ントロールや、車の横の視覚に入らないところの警告装置、自動駐車支援など
完全自動化運転に向けの構成要素を既に持っている」と言及していた117。 ア
ダプテイブ・クルーズ・コントロールは、ほとんどの自動車会社が、既に上級
車種には取り付けている機能である。
5.2.2.
Ford
2013 年 12 月 12 日に、Ford は、2025 年以降の自動車がどうあるべきかの青写真
を描いて、次世代の自動車を開発している、そのための自動運転車を発表した118。
また、2014 年 1 月 22 日には、Ford が MIT と Stanford 大学とそれぞれ共同開発
115
http://www.usatoday.com/story/money/cars/2013/08/30/gm-general-motors-self-driving-autonomo
us-car/2725091/, 2014 年 2 月 4 日引用
116
http://www.usatoday.com/story/money/cars/2013/08/30/gm-general-motors-self-driving-autonomo
us-car/2725091/, 2014 年 2 月 4 日引用
117 http://www.gm.com/vision/design_technology/emerging_technology.html, 2014 年 2 月 4 日
118
http://corporate.ford.com/news-center/press-releases-detail/pr-20131212-ford-reveals-automatedfusion-hybrid-research-car, 2014 年 2 月 4 日引用
85
することを発表した119。
MIT は、自分以外の車・人など動くものがどのよう
に動くかの予測技術を、Stanford 大学は、車の周囲にある車にとっての障害物を
認識する技術の開発をすることになっている。 両チームが開発に利用する車
は、“Fusion Hybrid”試作機で、Lidar センサーでリアルタイムに周囲の地図を作
成することが出来る。
5.2.3
Mercedes-Benz
Mercedes-Benz は、CES 2014 で、ビデオでの Demonstration を行った。このビデ
オは、先に説明したとおり、2013 年 8 月には、ドイツのマンハイムからフォル
ツハイムまで、103km にわたり、市街地や田園地帯の自動運転の試験を S-500
ベースの試作機を用いて行いテストしている様子を撮影したものである。 ド
イツの中心市街特有の石畳の道を、信号で止まったり、横断歩道で歩行者を認
識して停止したり、前走のバスの停車に合わせて追い抜いたり、その運転ぶり
は、人が運転しているような風に思えるほどであった。
“Intelligent Drive”機能が取り付けられた、現在発売されている最新の車には、
既に 20 以上の”Intelligent Assistance Systems”(高度運転支援システム機能)が
提供されている。 5 年以内には、バレット・パーキングのように、建物の玄関
まで自動的に車が出て来て、また駐車場に自動的に停まりに行くようになるで
あろう。
5.2.4.
しかし、自動運転が実用化するまでには、まだ時間がかかる120。
Volkswagen Group (Audi)
Audi 社の CES 2014 での展示の最大のポイントの1つは、自動運転用の車載コン
ピュータ開発成果であった。 Audi 社は、同時に、自動パーキングとハイウエ
ーでの自動運転車のデモを行った。 Audi は、2014 年より、自動運転の一部の
機能、を A9-A7 の車種に搭載し、販売する予定である。 2020 年までには、”Piloted
Driving”(高度運転支援システム)機能で、道路を走ることが出来るようになる
が、実際に利用できるかは、法律次第である。 運転手はいつでも支援が必要
なときに、自分の判断で自動支援機能を受けることが出来るような車を Audi か
119
http://techcrunch.com/2014/01/22/ford-partners-with-mit-and-stanford-to-research-autonomouscars/, 2014 年 2 月 4 日引用
120 http://ces.mercedes-pressevents.com/pi/Handout_2011-01-07_CES2014.pdf, CES 発表文より
引用、2014 年 2 月 4 日引用
86
ら出すことになろうとのこと121。
5.2.5.
BMW
BMW は、2011 年 8 月 30 日にプレスリリースした時点で、自動運転テスト車が
既に 5000 km 走りこんでいた。 2013 年 2 月 26 日のプレスリリースでは、以下
のように述べている。 「BMW Group と Continental は協力して、運転支援シス
テムの開発を進めることを決めた。 1 月に、両社の締結覚書にサインした、そ
れにより高度運転支援システムを実現できる電子的な Co-Pilot システムを開発
する事となった。 この研究パートナーシップの主なゴールは、2020 年まで及
びそれ以降に高度自動運転機能を実現することにある。」122
では、テストコースで、Autonomous Car のデモを行った123。
5.2.6.
2014 年の CES
本田技研
ホンダは、実用化時期は公表されていないが、2013 年 11 月 14 日付けで公開さ
れている「ホンダの考える高度運転支援」 とタイトルのついたプレゼンテーシ
ョン資料に詳しく書かれている124。 それによると、開発を進めている項目は
下記の通りなる。
 Advanced Collision Mitigation Brake System
 LKAS(Lane Keeping Assist System)
 Honda の協調型自動運転技術
 4輪、2輪、カート、人の協調による共存安全コンセプト
 外界センサーと通信の協調による全方位安全コンセプト
 自動バレー・パーキング
2013 年 10 月に開催されて ITS 2013 東京世界会議で上記高度運転支援システム
121
http://www.audiusanews.com/pressrelease/3332/149/audi-ceo-rupert-stadler-piloted-driving-beco
me-reality, Audi 社の CES プレスリリースより、2014 年 2 月 4 日引用
122
https://www.press.bmwgroup.com/global/pressDetail.html;jsessionid=vVhSSy3HGb131g2BNChs
WWFJK1rLZgqXDbJpT3ZZhR3QWbQwn0R4!-1949101833?title=heading-for-europe-s-motorwa
ys-in-a-highly-automated-bmw-bmw-group-and-continental-team-up-on-next&outputChannelId
=6&id=T0137270EN&left_menu_item=node__5236, BMW 社のプレスリリースより、2014 年 2 月
5 日引用
123 http://www.wired.com/autopia/2014/01/bmw-builds-self-drifting-car/, 2014 年 2 月 4 日引用
124 http://www.eiseisokui.or.jp/ja/pdf/sympo_2013/pre05.pdf, 2014 年 2 月 5 日引用
87
のデモを行った。
5.2.7.
日産自動車
日産は、2013 年 8 月 28 日に、2020 年までに、自動運転の技術を複数車種に搭
載することを発表した125。 その主な内容は下記の通り(原文を転写)、

日産自動車は、2020 年までに革新的な自動運転技術を複数車種に搭載する予定です。

この計画に沿って、現在、初の自動運転車開発専用のテストコースを日本で建設中
です。

2020 年以降、2 回のモデルチェンジの中で、幅広いモデルラインナップに同技術を
搭載することを目標としています。

日産はマサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学、カーネギーメロン
大学、オックスフォード大学、東京大学など*のトップレベルの大学と共同で研究を
実施しています。また、その他にも世界有数の研究機関や新興企業などとの共同研
究の拡大も目指しています。

日産は、80 年間に亘り築いた高い技術力やイノベーションを、自動運転車に向けた
シャシーやデザインの革新に向けて活用して行きます。
2013 年開催された CEATEC Japan の会場で高度運転支援システムのデモを行っ
た。また ITS 2013 東京 世界会議デモ高度運転支援システム対応車の展示を行
った。
5.2.8.
トヨタ自動車
2013 年 10 月 11 日、トヨタは、2010 年代半ばに、高度運転支援システムを実用
化の予定と発表。 その内容は、
「トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ)は、自動運転技術を利用した、高速道路(含
む、自動車専用道路)における次世代の高度運転支援システム「オートメイテ
ッド ハイウェイ ドライビング アシスト」(以下、AHDA*1)を開発した。
AHDA は、先行車両と無線通信しながら追従走行する「通信利用レーダークル
ーズコントロール」と全車速域で道路の白線などをセンサーで検出し、あらか
じめ算出された最適なラインを走行するよう操舵を支援する「レーントレース
125
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2013/_STORY/130828-02-j.html, 2014 年 2 月 4 日引
用
88
コントロール(Lane Trace Control)」との連携により、安全運転の支援や運転負荷
の軽減を行う」126である。 AFP によれば、2013 年 10 月 10 日、
「高速道路にお
ける高度運転支援システム(Automated Highway Driving Assist、AHDA)」技術を
使った新型車のプロトタイプのデモ走行を東京都内で公開した127。
5.3.
Google - Driverless Car128
DR. Sebastian Thrun は、ミュンヒェンの講演会で、近い将来 Stanford 大学のロボ
ット工学の教授を辞めて、自分が創設した Online の大学に力を注ぐことを発表
した129。 Thrun は、ドイツ生まれで、ドイツの大学で博士号を取り、1995 年に
Carnegie Mellon(GM と自動運転の共同開発を行っている大学)で教職に就き、
そして、2003 年 Stanford 大学の准教授に就任した。 そこで、開発に携わった
のが、DARPA の自動運転のコンペティションで、2005 年に優勝した“Stanley”
であり、2007 年に準優勝した”Junior”である130。 そして Google Driverless Car
Project の創立者である131。
もう一人の主人公は、Anthony Levandowski で、子供のころベルギーで教育を受
け、カリフォルニア大学バークレー校出身の技術者、Google Car Project の技術責
任者である。
Levandowski は、DARPA プロジェクトの話を聞いて刺激され、大学の工学部の
中で、ヤマハのオートバイを使って、オートバイの自動運転のプロジェクトを始
めた。 そして、DARPA の 2005 年のコンペティションにオートバイの自動運
転車として参加した。 そして、2007 年には、Levandowski は、Google で Thrun
と一緒に働くことになった。
http://www2.toyota.co.jp/jp/news/13/10/nt13_057.html, 2014 年 2 月 4 日引用
http://www.afpbb.com/articles/-/3001287?pid=12135699, 2014 年 2 月 4 日引用
128 この部分を書くにあったって、
2013 年 11 月 25 日付け The New Yorker の記事、
“Auto Correct:
Has the self-driving car at last arrived? by Burkhard Bilger November 25, 2013“を参考にし、引
用した。
129 http://allthingsd.com/20120125/watch-sebastian-thrun-leaves-stanford-to-teach-online/, 2014
年 2 月 5 日引用
130 http://www.newyorker.com/reporting/2013/11/25/131125fa_fact_bilger?currentPage=all, 2013
年 11 月 25 日付け The New Yorker の記事は Google Driverless Project に関する長文の解説を試み
ている、2014 年 2 月 4 日引用
131 脚注 21 と同じ 2014 年 2 月 4 日引用
126
127
89
Google のオフィスは、Mountain View にあり、1990 年代初めに隆盛だった Silicon
Graphics(Stanford 大学教授の Jim Clark が創立した3D コンピュータ・グラフィ
ックスの会社)のキャンパスがあったところに展開している。 Google の Office
は、機密保持のために厳密にコントロールされている。 しかし、Google の社風
は、Sergey Brin が日ごろから行っているように「Google の技術で、社会を根本
的に変革したい。」と言う、Silicon Valley のチャレンジ精神を体現している。
広いキャンパスの駐車場に、従業員が仕事をしている間、沢山の車が駐車して、
使われていない。 これほど無駄なことはない。 Driverless Cars があれば、こ
んなに駐車することなく、もっと、多くの人が車をシェアできて、有効活用が出
来ると言うのが、Sergey の考え方である132。 この考え方は、ビジネスモデル
と言う観点でみると既存の業界と全く異なっている。 つまり、Google が成功
すると破壊的なイノベーションが起こる。 その点で、Google の Driverless Car
の試みは、自動車産業界にとって異質である。 2014 年 1 月中旬、Google は、
2011 年に提出したタクシー料金を広告で割り引くシステムに関する特許を米国
の特許庁から認められた133。 特許の申請者は、Google Driverless Cars Project を
推進しているメンバーである。
前出 Thrun と Levandowski の Google での最初の仕事は、Google Street View の作
成だった。2008 年 2 月に、Levandowski に Discovery Channel から“Prototype This!"
(これ試作品)と言う番組に出ないかとの誘いが入り、それから 5 週間で、プリ
ウスを改造して、試作品を造り、San Francisco のベイ・ブリッジの真ん中にある
Treasure Island まで、試走させる了解をハイウエイ・パトロールから許可を取り、
走らせたのが Google Car の始まりである。 それから数か月後に、Google の経
営者の Page と Brin は、このプロジェクトに、グリーン・ライトをだし、その際
には、お金の事は一切触れず、何人必要か、その人をどう手当てするのかと言う
質問しただけだった。
Google Car Project では、毎週月曜日にエンジニアのリーダークラスが集まる集会
があるが、ここに集まるエンジニアの出身地は世界中に散らばっている。 ベル
http://www.newyorker.com/reporting/2013/11/25/131125fa_fact_bilger?currentPage=all,
2013 年 11 月 25 日付け The New Yorker の記事は Google Driverless Project に関する長文の解説を
試みている、2014 年 2 月 4 日引用
132
133
http://techcrunch.com/2014/01/23/google-awarded-patent-for-free-rides-to-advertisers-locations/?
utm_source, 2014 年 2 月 7 日引用
90
ギー、オランダ、カナダ、ニュージランド、フランス、ドイツ、中国、ロシアな
どであった。 Thrun は、例の DARPA の Grand Challenge に参加したエンジニア
を選りすぐって採用した。 Chris Urmson は、ソフトの担当として、Levandowski
は、ハードの担当、Mike Montemerlo は、地図の担当、そして、法律家、レーザ
ーの設計者、インターフェースの専門家、など、最初は、自動車のエンジニアを
経験した人を意識的に避けて、採用した。
実際に、テストをいろいろと重ねるうちに、DARPA や、最初に作った試作機で
は、人が利用する実用の車に向いてないことが分かり、もう一度ゼロから車つく
りをやり直すことになった。
Page や Brin が目標設定した実際の道路の上で、10 万マイルに到達するまでに一
年半掛かった。 最初の試走は、Monterey から Cambria までで、筆者も走った
ことがあるが、約 160 km 距離があり、ほとんど片側1車線しかなく、断崖絶壁
と、ヘアピンカーブや崖崩れがあったりする、曲がりくねった勾配のある道が永
遠と続く風光明媚な、ハイウエー1号線である。 さらにサンフランシスコの町
の中を走ったり、橋を渡ったり、あらゆる天候とさまざまな道路を経験すること
になった。 2013 年 11 月現在、3 台134の自動運転試験車があり、1 台は改造し
た Prius、もう 1 台は、Lexus で、Prius はどこでも走れるが、Lexus はハイウエー
しか走れない。現在までに、既に 50 万マイル(80 万キロ)走りこんでいるが、
事故は起こしていない。
Bloomberg.com の 2013 年 2 月 5 日の記事135によれば、Levandowski は、2013 年
の初めに、米国 SEA (Society of Automotive Engineers)の会合で、Google Driverless
Car に関連して、次のように発言している。 「人が運転するよりより安全な車
を作る所まで技術が進んできている。 来年、皆さんのガレージに Google Car
をお届け出来るとは言えないが、向こう 5 年以内には、この技術を世に出せると
見ている。 どんな形で出すかは、まだ決めていないが。」
また、安全性、信頼性に関しても次のように発言している。 「信頼性が十分
に担保されるように Google Car の開発を進めているので、どんな条件の下でも、
システムが安全に作動すると信じているし、理解もしている。 どのようにシ
ステムを信頼できるか。 どれがどのように作動するかをどのように知ること
134
3 台ではなく、12 台と言う記事も見かけたが、事実は不明。The New Yorker の記事に従った。
135
http://www.bloomberg.com/news/2013-02-06/self-driving-cars-more-jetsons-than-reality-for-googl
e-designers.html, 2014 年 2 月 8 日引用
91
が出来るか。
誤動作を理解し、それを極小化するための適切なプロセスをど
のように設計するか。どのように冗長性のあるブレーキを持たせるか。などな
ど。」 Bloomberg の記者が電子メールで、Google のスポークスマンである Jay
Nancarrow に問い合わせをした時の返事では、「Google のフォーカスは、技術そ
のものにある。」つまり、Google が販売用の車を製造する事には、興味を持って
いないと Bloomberg は述べている。
Google は自動車会社ではなく、ソフトの会社なので、実際の車として世に出る
ときには、どこかの自動車会社と協業して、Driverless Car をだすことになろう。
最初のビジネスモデルが、Brin の言うように、タクシー的な公共的な輸送手段
として登場するのか、日々の生活の中で車を必要としない大都市住民をターゲッ
トした自動車クラブ的なもの(リゾートクラブ的に、入会金を払い、必要なとき
に車を予約し、その時に利用時間に応じたある程度の料金を支払う)になるのか
は未定/不明である。
おそらく、Google が開発したソフトを、コンピュータの OS のように、他の自動
車会社がライセンスを受け、それぞれの会社の車に搭載することになるのではな
いかと推測される。
92
5.4.
Stanford 大学 CARS
Center for Automotive Research at Stanford
http://automotive.stanford.edu/
(Dr. Beiker 背景の写真は、VAIL の内部
2014 年 1 月 23 日筆者撮影)
136
概要
2008 年 10 月 1 日に、CARS は発足し、2010 年 3 月には、Volkswagen Automotive
Innovation Lab (VAIL)に拠点を移した。VAIL には、7 つの車が入るベイがあり、
外には車をストックできる広々としたスペースがある。
写真は、The Volkswagen Automotive Innovation Laboratory (VAIL)の模型と自動運転テスト車
(CARS ウエッブサイトより)
136
93
(写真は、VAIL とテスト車、2014 年 1 月 23 日筆者撮影)
CARS は、次世代の車とドライバーにとって、不可欠となるようなアイデアやイ
ノベーションを発想し、実際に作ってみて、実装してゆくことをミッションと
している。 そのビジョンとしては、これまでに無かったような安全で、高性
能で、人類が生存するための自然環境を維持できるような、その上ドライブを
することが楽しめるような自動車を、構想することにある。 そのために、専
門領域を超えた、学際的なプログラムとして、Stanford 大学の中に設立された。
Stanford 大学の多様な分野から 34 人の教授・研究スタッフと学生を集め、産業
界をリードする研究者と一緒になって、研究活動を進めている。
CARS のコミュニティを形成しているメンバーは、保険業界の All State、State
Farm、自動車製造業界の BMW、Chrysler、Ford、GM、本田、現代、Mercedes-Benz、
日産、ルノー、トヨタ、Volkswagen、Volvo、トラック製造会社の Paccar、自動
車部品のデンソー、Delphi、Bosch、ブリジストン、半導体のインテル、そして、
Stanford Law School、Stanford Business School などからなっている。137
(上図は、CARS
137
ウエッブサイトより)
http://me.stanford.edu/groups/design/automotive/
94
活動分野138
1.
ドライバー支援
ドライバー支援の行き着くところは、完全自動運転で、そこでは、ドライバー
が居なくても、ドライバーが行わなくてはならないあらゆるタスクを、自動的
に行うことが出来る。 現実的には、この状況を実現するためには、技術的、
社会的、法律的、経済的なさまざまな大きな革新が必要で、長い時間がかかり
そうである。 完全自動運転以前の技術開発としては、ドライバー支援システ
ムが重要で、この分野の活動を CARS では行っている。
その時々の交通状況
に即応してドライバーを適切な方向に導くようなドライバー支援システムを機
能させるためには、
①
センサー類: 車の周囲を認識するカメラ、レーザー、レーダー、GPS な
ど
②
コンピュータ・アルゴリズム:
 センサーから来るあらゆるデータを処理する
 通行の妨げになる障害物を発見する
 状況をカテゴライズする
 どのような道筋を進むかを計画する
 自動車についている様々なアクチュエータを駆動する
などが必要である。 ドライバー支援システムにより、安全性、道路交通の効
率化が進み、ドライバーにとっても便利で楽しいドライブが期待できる。 技
術的にはいろいろとチャレンジングなこともあるが、この分野では、法律的な
部分や、人間的な要素、経済的な面でもいろいろと考えなければならないこと
が多い。139
2.
代替エネルギー
車両を駆動させるための代替エネルギーにより、運輸部門が与える環境への負
荷を減らし、再利用できない資源への依存度を減らすことが可能となる。 目
下、電力駆動が代替エネルギーとしてもっとも有力になっている。 この実用
のためには、消費者の移動手段の利用の仕方(たとえば、車両の移動範囲を限
定するなど)を変える必要が出てくる。 それを実現するためには、消費者が
138
139
この項全体の内容は、CARS の 2012 年 8 月作成の Whitepaper と Dr. Beiker から得ている。
CARS White Paper dated 2012 年
95
移動手段の利用の仕方を変えやすくするための情報システムが必要になるであ
ろう。 将来の消費者のために、代替エネルギーの生産、配送、貯蔵システム
の開発も必要である。
3.
Connected Mobility
Connected Mobility と言った場合、大きく 2 つのカテゴリーに分かれる。 一つ
は、現在あるインターネットや電話を経由したデータ、音声通話などの通信ネ
ットワークに自動車をどのように統合するかと言うカテゴリーであり、もう一
つは、車車間、車路間のような移動手段特有のネットワークをどのように自動
車に統合するかと言うカテゴリーである。 このようなネットワークの繋がり
により、交通の安全と効率が増し、個々の移動時間の過ごし方がより充実した
ものになることは、確実である。 情報通信技術がこのような改善をもたらす
ことは間違いないが、一方で、車の中に持ち込まれてくる新しいメデイアによ
って、運転が妨げられることや、信頼性のあるモバイル通信インフラを築き上
げることは大きなチャレンジである。
4.
Mobile Society
従来とは違った観点から、人々が移動する社会のニーズを考えてみる。
例え
ば、カーシェアリング、移動手段を提供する自動車会社など利用の在り方に関
する考え方、特定の目的のために頻繁に利用するケースを考えた車のコンセプ
ト、お年寄りのニーズとか若い世代の興味など、特定の人口構成や価値観を考
慮した利用の在り方に関するコンセプトなどから考えてみる。
5.
CARS の位置付け
CARS 自身は、上記の 4 つのテーマに関して、エンジニアリングと設計にのみ集
中し、経済的、ビジネス的な課題、社会心理学的な課題、資源環境に問題、行
政・規制に関する課題などには、直接は深く掘り下げ検討することはしない。
これらのテーマは、Stanford 大学学内の専門的な部門と広い観点で交流・検討し
て行く。
研究プロジェクト例
On-Line Vehicle Data Mining
96
Wireless Power Transfer to Moving Vehicles
Behavioral Change of Electric Mobility
Legal Aspects of Autonomous Driving
Autonomous Driving
X-by-wire Design
Human Assistance Research
Driver Modeling and Research
Solar Car Project
産業界との関連
CARS は、メンバー制で、下記のような活動をしている。
 シンポジウム
 例:自動運転に関する法律的なフレームワークの探索
 メンバーが選んだトピックについて焦点を当てた検討
 自動車におけるインターネット・アップリケ―ションと協業領域
 自動車にかんする研究トピックの最新状況の連絡
 Stanford 大学やシリコンバレーでの自動車関連のニュースやイベントの連絡
 学生向けクラス、セミナー・シリーズ、プレゼンテーション
 自動運転、将来の自動車に関するビジョンに関するクラス






学生と起業のための仕事の機会の紹介
インターシップや学生と産業界との紹介
研究所とのコンタクトをアレンジする
個別の興味分野の研究者の紹介、プロジェクトのキックオフ
施設やインフラへのアクセル
訪問研究員の自動車研究棟の利用、基本的なニーズへの対応
97
5.5.
Autonomous Cars の開発を Silicon Valley で進めている各社の活動
(含む Connected Cars、その他の活動)
5.5.1
Bosch140
Robert Bosch Research and Technology Center
http://www.bosch.us/content/language1/html/rtc.htm
(Bosch Palo Alto 研究所、2014 年 1 月 26 日筆者撮影)
概要
1999 年 Robert Bosch LLC は、Palo Alto 研究センターを設立した。 2014 年 2 月
現在、26 人のエンジニアを募集中。
Bosch の CES 2014 のプレスリリースによると、自動運転のプロトタイプを作製
していて、全体のシステム・インテグレーションはドイツの Abstatt(Stuttgart
140下記の情報は、ウエッブサイトで公表されている情報、CES
2014 プレスキット及びメデイアで報道さ
れた内容によって構成した。
98
の北にある)で、機能の開発は Palo Alto で行っている。
既に、2014 年からは、Bosch が開発した Traffic Jam Assistant(渋滞支援)が市場に
出ることになっている。 Highway Pilot では、高速道路の入り口から出口まで、
自動的に運転支援するシステムが目下開発されている。完全自動化に至るまで
には、いくつもの段階を経て開発が進んでゆくものと考えている。
自動運転
超音波パーキング支援装置は、車を空いているパークングスペースに案内する
システムであるが、既に実用化されている。 運転手がすることは、アクセル
を踏み、ブレーキを踏むだけである。 2015 年には、拡張パーキング支援装置
を発売する予定で、これは、遠隔操縦で、混雑したパーキング・スペースに車
を駐車させる機能である。 将来は、360 度見通せるビデオカメラで、パーキン
グを探し出し、車自身が自動的にパーキングするようになる。
交通渋滞支援システムは、2014 年に、一連のシリーズの第一弾を実用化する予
定であるが、この機能は、高速道路で、時速 35 マイル(56 km)以下で機能し、
同一車線で、止まったり、走ったり、自動的にできる。 さらに将来は、自動
的に車線変更もできるようになる。
Adaptive Cruise Control(ACC)は車線自動保持機能付きで、既に販売されている
が、これに加えて、高速道路支援システムも、2020 年までには、実用化される
予定で、時速 80 マイル(128 km)で、高速道路の入り口から出口まで、自動で
運転できるようになる。このために下記のような開発が必要である。

自動化のためには、車の周囲 360 度にある全ての存在を認識しなければなら
ない。 そのために、強力な融合されたセンサーのデータといろいろなセン
サーから逐一入ってくる情報をリンクさせなければならない。

ソフトのセキュリテイ:アルゴリズムの機能が、複雑で、未だ経験したこと
が無いような事態に対しても適切に対応できなければならない。
ハードのセキュリテイ:制御ユニット、データ転送、ブレーキのようなアク
チュエータ、ステアリングなどが最大限に機能し、安全を担保するものであ
る必要性がある。
カーナビ用のデータは、信頼性があり、1分以内の最新のデータでなければ
ならない。 地図に記された、あるいは車のセンサーで入ってくるデータに


99
対比して、車の位置を決める、その精度は、数 10 センチの範囲内でなけれ
ばならない。 GPS はおおよその位置を確認する程度で、センサーで正確な
位置付けをする必要がある。
このため、従来の車のテスト方法ではだめで、精密度を要求されるテスト方法
を作り出さなければならない。
活動分野
数十人の技術者が活動しているとみられる。
下記テーマで人材を募集中141。
1. Autonomous Driving R&D
2. Visual Computing
3. Speech and Natural language processing
4. Augmented Reality
5. Data Science and Data Mining
6. Data Analysis and Statistician
7. Web Graphics and 3D Visualization
8. Alternative Fuel
9. Multi-Scale simulation for brake pad design
10. Biostatistician
141
http://www.linkedin.com/job/q-engineering-c-bosch-l-san-francisco-jobs, 2014 年 2 月 6 日引用
100
5.5.2. デンソー
(株)デンソー シリコンバレー・オッフィス
Denso International America, Inc.
Silicon Valley Office
(2014 年 1 月 14 日筆者撮影)
概要
デンソー・シリコンバレー・オフィスは、サンホゼ国際空港を臨む、地の利を
得た場所にある。デトロイト、ロサンゼルスなど米国内拠点の移動には大変便
利であるとともに、全日空の San Jose 就航で、日本からのアクセスも便利にな
り、大変立地に恵まれたところに位置している。 シリコンバレー・オフィス
は、(株)デンソーの米国本社 Denso International America, Inc.に所属する NA
Research & Engineering Center(デトロイト近郊)のシリコンバレー事務所と言う
位置付けとなっている。
101
シリコンバレーと言う立地条件を生かして、逸早く最先端の技術を取り込むべ
く、新規技術の探索、Open Innovation の推進に加え、今後 R&D を強化するため
増員を計画している。Stanford 大学にも特別研究生として(株)デンソーより 2
名が派遣され、Computer Science を研究している。
活動分野
向こう 5 年から 10 年先の研究開発のための新規技術の探索、オープン・イノベ
ーションの活動に加え、概要で述べたとおり、R&D の強化も図っている。
自動車部品のビッグ3として、
 幅広い既存の商品群に関わる
 新技術を持つスタートアップの探索
 技術の取り込み
 デンソーの技術とシリコンバレーのスタートアップとの共同開発あるいはジョ
イント・ベンチャーの創設など
 イノベーションが進む新規分野(例えばバイオテックなども含む)への
 新技術を持つスタートアップの探索
 技術の取り込み
など、オープン・イノベーションを行っている。 例えば、別項の Peloton
Technology, Inc.の項で触れたとおり、Peloton Technology のシステムの中に、デン
ソーでは R&D の段階にある V2X の技術が生かされているが、将来の事業化に
102
向けて、早い段階で、スタートアップと協業することも行っている。



R&D のテーマとしては、
自動運転のアルゴリズムの開発
Cyber Security
Big Data とその Application の開発
など、先端ソフト分野に力を入れて行く方向である。
大学との連携
技術開発面で、Stanford、MIT、University of Michigan と密接な連携を取って
いる。
Stanford 大学には、2 人の Visiting Scholar が(株)デンソーから派遣されて
いる。
103
5.5.3.
Ford142
Ford Silicon Valley Lab
http://fordsvl.com/
(2014 年 1 月 23 日筆者撮影)
概要
2014 年 1 月 22 日、Ford が、Stanford 大学及び MIT に自動運転の研究を委託
することを発表した。 Ford が目指す機能は、自動車の周囲の 3 次元地図を作
成し、前方にある車やトラック、障害物を認識したうえで、追い越し、車線変
更などの最適なドライブの在り方を決めるコンピュータ・アルゴリズム、及び 3
次元地図の中で、他の車や歩行者が、次にどのように行動するかを予見するコ
ンピュータ・アルゴリズムを確立することにある。前者のアルゴリズムの開発
を Stanford 大学に、後者の開発を MIT に研究委託する143。
2007 年に、Ford は、Connected Cars への取り組みの一環として、’SYNC”を
142下記の情報は、ウエッブサイトで公表されている情報、プレス発表文及びメデイアで報道された内容に
よって構成した。
143
http://www.latimes.com/business/autos/la-fi-hy-ford-mit-stanford-autonomous-vehicle-20140122,
0,7039751.story#axzz2rhg1OxM6, 2014 年 1 月 27 日引用
104
Ford の一部の車に車載展開を始めた。 2011 年には、”AppLink”の展開を始め、
2013 年には、”AppLink”の API (Application Interface) を GM などの競合他
社に対しても GENVI 経由でオープンにした。 “SYNC”は、Microsoft の
“Windows Embedded Automotive 7”をベースにしており、Windows
Embedded Automotive 7 を OS(オペレーティングソフト)としている自動車会
社は、他に、日産、Kia、Fiat などがある。
2014 年 6 月には、業界初の Application Developer Conference を開催する予定
で、それに向けて Mobile Application Competition を 1 か月間開催することに
より、潜在的な App 開発者を発掘し、開発ツールの支給を進めている144。
このような背景の中で、Ford Silicon Valley Lab は、ミシガン州本社と連携し
ながら、益々その重要な役割を果たしていると推測される。
活動分野
Ford Silicon Valley Lab のウエッブサイトによれば、Open Innovation の活動
を進めていて、特に UX(ユーザー・エクスペリエンス)と Big Data について焦
点を置いているとの事145。 UX には、アプリケーションから HMI (ヒューマ
ン・マシンインテーフェース)まで含み、幅広い活動が必要な分野である。
シリコンバレーの会社、サンフランシスコ湾岸にある Stanford 大学や UC
Berkeley 大学などと協業することで、人々の移動体験やいろいろな課題の解決
を形造ってゆく。 全世界の消費者の日々の生活に便利さと心地よさをもたら
す助けをするために、シリコンバレーの革新的で企業家精神に満ちた精神をす
べてに入れ込んでゆくことを目指している。
144
http://news.cnet.com/8301-11389_3-57613703/ford-races-to-create-standard-for-connected-cars/,
2014 年 1 月 27 日引用)
145 http://fordsvl.com/research.html, 2014 年 1 月 27 日引用)
105
5.5.4.
日産
日産リサーチセンター・シリコンバレー/オープン・イノベーション研究所
Nissan Research Center, Silicon Valley/Open Innovation Lab
http://www.nissan-global.com/EN/NRC/
http://nissannews.com/en-US/nissan/usa/releases/renault-nissan-alliance-opens-bigger-silicon-val
ley-research-center-to-enhance-advanced-research-and-development
(2014 年 1 月 26 日に筆者撮影)
概要
2011 年に Mountain View に設立された日産―ルノー共同の Advanced Research
Center は、設立当初から autonomous driving and connected cars に焦点を置いてシ
リコンバレーで、拡充を図ってきた。 2013 年 2 月 18 日に、新たに The Nissan
Research Center Silicon Valley (NRC-SV)を Sunnyvale に開設し、それまでの
Advanced Research Center の業務を引き継ぎ、拡充した。 新設された NRC-SV
は、日本の日産総合研究所と連携しながら、選ばれた領域に対しての責任をも
つことになる。
活動分野
1.自動運転の研究: 安全で、ストレスが無い移動を実現すること。
2.Connected Vehicles の研究:エネルギーと時間の有効活用のためにインフラや
106
インターネットの研究にも立ち入る。
3.HMII(ヒューマン・マシン・インターフェース・インタラクティブ)分野の
研究、Autonomous Vehicles や Connected Vehicles のエクスペリエンスを強化す
ることになる。
 Connected Vehicles サービスやユーザーインターフェースシステムのデ
ザインのプランニング、開発は、上記の補完関係になる146。
4.スタートアップとの連携
5.Healthcare 分野の研究も行っている。
現在数十人のメンバーを今後拡充してゆく予定。
因みに、Silicon Valley 研究所の責任者の Dr. Marteen Sierhuis は、Mountain View
の NASA Ames Research Center(Ames は人名)で、火星の自動探索車の研究を
行っていた研究者である147。
外部パートナー・団体との連携
Apple iOS 7 in the Car
Stanford University CARD、UC Berkeley,
Auto Tech Council などがある。
146
http://nissannews.com/en-US/nissan/usa/releases/renault-nissan-alliance-opens-bigger-silicon-v
alley-research-center-to-enhance-advanced-research-and-development, 2014 年 1 月 29 日引用
147 http://www.vlab.org/article.html?aid=484, 2013 年 11 月 21 日に Stanford 大学で開催された
VLAB(サンフランシスコ湾地域で開催される MIT 企業フォーラムで Stanford 大学で開催されるこ
とが多い)での Dr. Sierhuis のコメント。筆者も参加していた。このウエッブサイトでは、録画され
たビデオを見ることが出来る。
107
5.5.5.
Volkswagen Group148
Volkswagen/Audi
Volkswagen Group of America, Inc. –Electronics Research Lab
http://www.vwerl.com/
( http://www.volkswagenag.com/content/vwcorp/content/en/brands_and_products.html,
Volkswagen Group ブランド・製品サイトより、2014 年 2 月 4 日引用)
148訪問時の議論を元に、ERL
の Web Site 引用も含め報告許可をいただいた内容で、この報告を作成した。
また、2014 年 CES の Audi 社のブース及びプレスキットからも引用している。 したがって、特に筆者に
よるコメントが無い限り、Volkswagen Group の資料(日本語訳の文責は筆者にある)
、写真の引用である。
なお、Volkswagen Group は、下記のブランド各社よりなっている。
108
(Silicon Valley Belmont にある Volkswagen Group ERL:2014 年 1 月 26 日筆者撮影)
概要
1998 年に Sunnyvale に設立された Electronics Research Lab (ERL)は、その後研究
開発の拡張に伴い、2002 年 12 月には Palo Alto へ移り、さらに 2011 年には、シ
リコンバレーの北西に位置している Belmont に新たな研究開発拠点を設けた。
そこでは、広々としたオフィス、作業場、そしてプロトタイプ作成エリアから
なるスペースに、135 人のメンバーが働いている。 その構成員は、ソフトウエ
ア・エンジニア、エレクトロニクス・エンジニア、メカニカル・エンジニア、
ヒューマン・ファクター・リサーチャー、デザイナーなどからなる。
各チームは、下記にあるように 6 つのチームよりなっている。
ERL の
(ERL のウエッブサイトより、2014 年 2 月 4 日引用)
109
また、2009 年 10 月には、Volkswagen の寄付により、The Volkswagen Automotive
Innovation Laboratory (VAIL) 149が Stanford 大学のキャンパスの中に開設され、
2010 年 4 月に行われたオープニングのセレモニーには、ドイツのメルケル首相
が出席している150。
(Stanford 大学キャンパスにある Volkswagen Automotive Innovation Laboratory、
2014 年 1 月 23 日筆者撮影)
ERL は、Volkswagen Group of America Inc.に所属し、世界に展開するグループ全
体の研究所として活躍している。 Volkswagen Group がシリコンバレーに着目し
たのは、常に世界を変えるほどのアイデアや商品をシリコンバレーが世界に送
り続けていること、そして、世界でも最も活発な、投資家、アーテイスト、研
究者・学者、企業家が、一つのコミュニティを形成している点にある。
Volkswagen としては、このコミュニティに参画し、優秀な人材を惹きつけ、そ
のベンチャー精神を Volkswagen の商品の中に生かし、Volkswagen もコミュニテ
ィの一員として、貢献することを目指している。
2014 年 CES で、Volkswagen Group の Audi CEO Rupert Stadler が Keynote Speech
を行い、Connected Cars、Piloted Driving、Laser Head Light の 3 点を説明した。 そ
の中で、印象的であったのは、自動パーキングや交通渋滞の中での車の制御を
行うプロセッサー基板(参照:次ページ写真)に関する発表であった。
149
http://www.stanford.edu/group/vail/
150
http://athome.volkswagengroupamerica.com/innovating/volkswagen-automotive-innovation-lab/
110
(CES 2014 Audi ブースに展示、1 月 8 日筆者撮影)
車の持つ多様なセンサーから来る情報とネットワークから来る情報を瞬時にプ
ロ セ ス す る プ ロ セ ッ サ ー 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト に は 、 Graphics Processor と
System-on-a-chip のビジネスで高い評価受けている NVidia が参加し、多大な貢献
をしている。 NVidias の Tegra シリーズ151は、タブレット・コンピュータやス
マートフォンの心臓部に使用されていて、最新モデルの低電力消費・ハイパフ
ォーマンスの Tegra-K1 は、大変画期的なプロセッサーであるとの評価がされて
いる。
Audi の会長の Rupert Stadler は、Audi とシリコンバレー企業との密接な連携、モ
バイル・データ通信の AT&T およびモバイル通信モジュールの Qualcomm との
提携を Keynote Speech で強調していた。
活動分野
活動分野は、ERL のウエッブサイトから次ページ引用したものであるが、多様
なものとなっている。特に、自動運転については、2005 年からの Stanford 大学
との長いコラボレーションの歴史がある。
http://www.nvidia.com/object/tegra.html,
http://www.nvidia.com/object/visual-computing-module.html
151
111
152
(ERL のウエッブサイトより、2014 年 2 月 4 日引用)
152
http://www.vwerl.com/our-work
112
1.自動運転
2005 年に、DARPA の主催する自動運転の Competition で Stanford 大学とコラボ
レーション行い、Volkswagen の車両を改造し(愛称“Stanley”)、Stanford チーム
が優勝した。 引き続き 2007 年には、DARPA の Urban Challenge で、Volkswagen
Passat Station Wagon (愛称”Junior”)を改装し、Stanford 大学とコラボレーショ
ンを行い、Stanford チームが 2 位となった。 その成果は、量産向けのセンサー
を組み込んだ試作機(Junior 3)に生かされ、Volkswagen Group が持つ Auto parking
などの技術開発に生かされた。 2009 年 10 月には、The Volkswagen Automotive
Innovation Laboratory (VAIL) が Stanford 大学のキャンパスの中に開設され、その
オープニングのセレモニーが、概要の項で触れたとおり、2010 年 4 月に、ドイ
ツのメルケル首相の参加を得て行われた。 10 月の開設の際と、オープニング・
セレモニーの際には、Valet Auto parking のデモが行われた。 その後、Stanford
大学及び Oracle と自動運転に関するコラボレーションを行い(プロジェクト名:
The Audi Pikes Peak TTS project)、その成果として、Audi に自動運転のための最
先端のハードとソフトを載せて、2010 年 8 月には、ユタ州の Bonneville Salt Flats153
で楕円形のコースとコロラド州にある自動車レースで有名な一般道の Pike Peak
Highway を模したコースで自動運転を行い、時速 209 km まで出すことに成功し
ている。
さらに 2010 年 9 月には、実際に、コロラド州の Pike Peak Highway の 20km に及
ぶ登攀コースを、最高時速 76km を出し、27 分で、自動運転で登る事に成功し
ている。
( http://www.2dayblog.com/2010/09/18/audi-driverless-car-goes-on-pikes-peak-%E2%
80%98crashless%E2%80%99-helicopter-crashed-instead/, より 2014 年 2 月 4 日引用)
153
http://www.autoweek.com/article/20130821/carnews01/130829987
113
自動運転に関する Volkswagen Group の次のテーマは、さらなる自動運転技術の
向上と実際に利用するユーザーにとって有益な自動運転技術をどう確立するか
の 2 点にかかわっているとの事。 2014 年 CES での Audi の自動運転デモでは、
ラスベガスの高速道路での自動運転を行い。車庫入れ、及びパーキングの自動
運転を Smartphone で操作するデモを行っていた。
2.HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)
車両システムの高度化・複雑化とともに、以前では考えられなかったような運
転操作判断のために、情報の表示とその操作が必要になった。 安全性を最重
視した車両設計の環境下で、車載インフォテイメントにおける人の好みや必要
性に関わる選択を反映させるため、運転操作中の人間への最小の負担で、情報
の表示や操作が行えるような HMI の研究開発がされて来ている。
Volkswagen Group は、自動運転技術の一環として、既に、衝突回避、視野から外
れた部分に関する警告、状況対応型のクルーズ・コントール、走行車線ガイダ
ンスなどの運転支援システムを実際販売されている車に搭載している。 今後
益々運転支援システムの機能拡充を進めて行くが、それに伴い、HMI チームは、
これらの支援システムと相互に関連させた、より直観的な HMI の開発を進めて
行く。このような制御・警告システムは、半自動運転、あるいは完全自動運転
の中での人間が介在する部分を明快にしてゆくことになる。
154
(写真は、 CES 2014 Audi のブースで 2014 年 1 月 8 日に筆者が撮影)
写真は、運転席のセンターボックスにあるダイヤルで、ダイヤルの上部の円形
の平らな部分がタッチセンサーになっていて、指でなぜることにより、文字入
力をできるようになっている。
154
CES 2014 で Audi が展示した Infotainment 対応車に搭載
114
(Audi CES 2014
Press Kit より、2014 年 2 月 4 日引用)
3.Audi Connect155(Connected Cars)
Audi は、2005 年ころより、ハード・ソフトのパートナーと取り組んできた。 2009
年には、”Audi Connect Internet Services”は、車のプレミアとして高い評価を受け
るようになった。 2014 年 1 月に発表した OAA(Open Automotive Alliance)参加
により、情報の多様性を取り込み、UX をさらに充実させることになる。 この
アライアンスに参加している企業は、GM、ホンダ、現代、Google と NVIDEA
の計 6 社である156。Android を車に Embedded し、常時 LTE ネットワークでつ
なげ、Google Earth や様々なインターネット上のアプリケーションを楽しむこと
が出来、その上車内の Wi-Fi 環境も合計 8 台まで端末をつなげることが可能にな
っている。OAA で主導的な役割を Google と果たすためには、Google の近くに
開発部隊を持つことが重要であるため、ERL の重要性は高まると思われる157。
Audi Connect は、車の運転手や乗員が、インターネットを通じた最新の情報へア
155
http://www.audiusanews.com/newsrelease.do;jsessionid=773B89CAD8252071C5355157DD8724
26?&id=2286&allImage=1&teaser=what-audi-connect&mid=, 2014 年 2 月 4 日引用
156 http://www.openautoalliance.net/#about, 2014 年 2 月 4 日引用
157 筆者コメント
115
クセスできる優れた 158環境を提供している。現時点では下記のようなサービス
が利用できる。
① Voice-activated Google Earth (first-to-market)
“The MMI® Navigation plus” で Google Earth™が利用できる.
Google Earth
の 3 次元の地形図の上に、SiriusXM のリアルタイムの交通情報を重ねることが
出来、Audi のカーナビの道路地図情報やこれから向かう前方の景色を重ねるこ
とが出来る。
② Google Local Search
Google のデータをもとに、レストラン、ホテル、空いている時間、価格、利用
者の評判など、旅行の際の詳しい情報を得ることが出来る。地図上に表示され
た車の現在地及び近くのガソリンスタンドやレストランの位置情報も得られる。
③ Real Time Information
リアルタイムの走行中の周辺の気象、道路状況、最新のニュース、ガソリンス
タンドの位置、ブランドなどの情報
④ My audi Destination
登録済のユーザーへの限定サービスであるが、ユーザーは、PC 上に表示された
Google Map 上で、目的地の入力ができ、それがカーナビに自動的に送られて、
カーナビが、目的地まで案内してくれるサービス。トヨタ、日産、Mercedes-Benz、
BMW も、カーナビの種類により、同様なサービスを受けられる。
⑤ Rolling Wi-Fi Hotspot
工場出荷時点でモバイル・ブロードバンド通信機能が埋め込まれていて、車内
で Secure な Wi-Fi ホットスポットが使え、8 台まで機器を繋げることが出来る。
4.センサーとイメージプロセッシング
次世代の車両でより安全と使いやすさを求めて、今までに無いようなセンサー
の技術とコンピュータによる Vision Algorithms の研究を続けている。例えば、
LIDAR ( Light Detection And Ranging)、レーザー、カメラ技術などである。静態
的や動態的なオブジェクトを見出し、車両の周りの環境や状況を認識するイメ
ージプロセッシング技術やアルゴリズムの研究を行っている。結果として、車
が運転手に代わる第二の両眼を持ち、運転手が気付かない差し迫る危険を運転
手に知らせるか、自動的に回避するための認識技術の研究を行っている。
116
Intelligent Urban Mobility
将来の Connected Urban Vehicle 向けの技術開発をすることがこのプロジェクト
の目標となっている。 プロジェクトには、多数の大学が参画している。具体
的には、
 UC San Diego
 University of Southern California
 UC Berkeley PATH
 The University of Michigan Transportation Research Institute (UMTRI)
日々、益々、多忙な毎日の中で、多忙なスケジュールとソシアルライフの両立
を図るために、どうしても、同時並行的に多様な事を処理しなければならない。
このような状態の中で、ストレスと気が散る状態は、移動中には、危険である
とともに、生活の質を落とす要因になる。 車の中で、インターネットに常時
つながっている状態を Audi は作り出すことで、少しでもこの種のストレスを和
らげようとしている。
このプロジェクトでは、自動車が、運転手の好みや、ニーズ、個人的なスケジ
ュールを理解する技術開発を行っている。 自動車が Cloud に繋がり、走行中の
町を理解し、それが運転手の移動にどのような影響を与えるかを理解し、運転
手のある特定のニーズに対する支援をする技術を開発している。 1つの開発
例は、カーナビのアプリケーションで、モバイル機器のルートを更新しながら、
利用可能な駐車場へと運転手を案内するアプリケーションソフト開発である。
5.Connectivity Enabled Eco-Conscious Driving
ローエミッションで、燃料効率のより良い車を開発するために、Audi と ERL が
サポートして、いくつかのカリフォルニアの大学で、プロジェクトを進めてい
る。 このプロジェクトのビジョンは、ユーザーがコラボレートできるような
Connected Cars と Intelligent Vehicles を作り出し、無駄な動きを避けて、環境保全
のために役に立てるようにすると言うところにある。
環境を意識したカーナビでは、刻々と変わる最新の交通情報と道路の質や速度
制限のような特性を、更新された地図上に示すことにより、より効率的な運転
が可能となり、より良い環境を保全することに貢献できる。
117
Connected Cars のエンジンも情報をネットワークから入手することにより、より
良いエミッションを生み出すようにエンジンを自動的に制御することが出来る。
Audi では、走行中にこれから急坂を上る必要がありかつ気象条件はより厳しく
寒くなることを予め理解していて、トランスミッションや空調が全体の効率性
を考慮に入れて、自動的に調整するようなこともできるようにプログラムを進
めていて、このプロジェクトの1つのテーマとなっている。
外部団体との連携
 Stanford University
 UC San Diego
 University of Southern California
 UC Berkeley PATH
 The University of Michigan Transportation Research Institute (UMTRI)
118
5.6.自動運転に向けたカリフォルニア州の法律整備の動き
2012 年 10 月 25 日、カリフォルニア州知事、Jerry Brown が、Google のキャンパ
スで、SB 1298 と言う、カリフォルニア州の道路やハイウエーで、自動運転の車
が走るための法律的なフレームワークと安全基準を作るための法案にサインし
た。
2013 年 11 月 29 日、カリフォルニア州の公道で自動運転のテストを管理する法
規制の提案が出された。 2014 年 1 月 14 日までに、この法規制案に対するコメ
ントの受付を行った。既にコメントを受け、その内容の検討に入っている。
SB1298 により、2015 年 1 月 1 日までに、自動運転車のテストと一般ドライバー
による実際の使用許可に関する法規制を DMV が施行しなければならないこと
が決まっている。
なお、カリフォルニアに加え、ネバダ、フロリダ、ミシガン州では、既に自動
運転のテストを公道で行うことが出来る。
5.7. 今後の方向性
2015 年には、カリフォルニア州に、全米に先駆けて、Driverless Cars に関する道
路交通法が出来、この法律の中には、自動運転の車が事故を引き起こした際に
必要な保険の規定も盛り込まれるので、これが他の州にどのような形で広まっ
てゆくか、注視する必要がある。 歴史的に、カリフォルニア州は、全米の他
の州に先駆けて、新しい規則を打ち立てる伝統があり、例えば、通信によるプ
ライバシーの保護も、カリフォルニア州が一番厳しく、通信事業者は、それに
したがって内部ルールを決めている。 今回も一度カリフォルニア州で確立し
た後に、各州に広まってゆくのではないかと推測できる。
集団訴訟が、それをビジネスにしている弁護士によって、比較的容易に起こる
米国では、大手自動車会社は、例え、技術的に完全な自動運転が可能になった
としても、段階的に、注意深く、部分的な自動運転の機能を市場に投入してゆ
くものと思われる。
119
一方 Google であるが、自動車会社になろうとは考えていないので、何らかの段
階で、Google の開発成果を自動車メーカーと提携しながら、世に出そうとする
のではないかと思われる。 この場合も、Brin の考え方にあるように、豪華な
高級車と言うより、市街地向けの eVehicle やハイブリッド車のような通勤やラス
ト・1 マイルの交通手段となるような車両が対象になると思われる。
筆者の感想であるが、自動運転などは、最後は、自動車の基本機能になってし
まうと思われるので、現在、個別企業がそれぞれ自社の開発力を生かして、自
動運転の取り組みをしているが、将来は、水平分業化が進むと思われるので、
その意味で、Tier 1 の Bosch、デンソー、Continental、Delphi などの動きは注意
深く見て行く必要があるのではないかと感じた。
120
6. 破壊的イノベーションとビジネス機会
6.1.
Silicon Valley が向かっている方向
Silicon Valley が世界に影響を与え、リードしている分野は、IT イノベーション
の分野である。 コンピュータ技術で、人類が太陽系を超え、太陽系外に機材を
到達させることが出来る今日、IT 技術は、過去の単一目的、単一組織のためだ
けに開発されカストマイズされたコンピュータ・ソリューションの世界を破壊し、
共通の目的とプロセスに標準を併せた水平分業的なクラウド・サービスの世界を
作り上げた。 このために、巨人だった IBM は、過去から脱皮するのに大変苦
しんでいる。 通信の世界は、1990 年代から 20 年間の内に、交換機の時代から
デジタル通信の All IP の時代へと変革を遂げ、通信産業の大幅な構造変革をもた
らした。 コンシューマ電子機器がデジタル化することにより、コンシューマ・
エレクトロニクスの世界は、大幅な産業構造の変革に遭遇した。 垂直統合と言
うこれまでの強みが逆に高コストを生み出し、水平分業で競争に強みを発揮でき
なかったために、ビジネスから退場を強いられた会社の姿は、生々しい記憶とし
て残っている。 これらの変革の背後には、いつでもコンピュータ技術の革新と
それを梃として Silicon Valley のスタートアップから成長してきたハイテック企
業群がいたことも事実である。
今、コンピュータ・サイエンスの関心は、ロボットに向かい、自動車の自動運転
に向かっている。 車が持つ様々なセンサー群を使って、車の周囲の 3 次元地図
を作り、地図上のすべての存在とその特性を理解し、さらにその地図の中から移
動する物体毎の特性に応じた移動経路の予測をすることで 4 次元の地図を作り、
そこから、車としての自分の目的を達成するための動き方を決め、次の瞬間には、
また新しい地図を構築している。 これが、自動運転の座標である。
第 5 章の Google の項で見たように、Google の創立者の Page と Brin が、入社し
たばかりの Stanford 大学の教授を兼任していた Thrun とヤマハのオートバイで自
動運転オートバイを造った Levandowski に与えた最初の仕事が、Google Map の
Street View 作りに参加することであった。 そして、Thrun と Levandowski は、
自動運転プロジェクトの出発点として、相応しい仕事と理解して、如何に的確な
Street View 作りとそれを Google Map の上に反映させるか熱意をもってこのプロ
ジェクトに取り組んだ。
121
そして、今年になって、Ford が MIT と Stanford に依頼したのが、上記の 4 次元
地図の作成の素になるアルゴリズムの開発である。
Google が既に 80 万 km 以上テストしながら磨き上げてきた、アルゴリズムと地
図情報のエッセンスを、それぞれの自動車会社が、別々に並列的に開発し、その
投資額を自社の車の販売コストの中でそれぞれ回収することが、社会的、経済的
に合理的なのか、考えさせられる。 ドイツの街並みや田園地帯を 100 km 以上
に亘って、自動運転テストを行った Mercedes-Benz は、Google のこの分野におけ
る競合相手となる可能性を持っているが、すべての自動車会社が Google や
Mercedes-Benz のような開発を行うことは、経済合理性に合わず、投資対効果で
採算が合わず撤退する会社が出てくるのではないかと思われる。
水平分業して、Google からこのソフトをライセンス受ける、あるいは、Google
に伍して優れた品質を持つ会社のライセンスを受けて、自社の強みを生かした
Autonomous Cars を生産・販売する方が合理的なような気がする。 水平分業の
世界では、バリューチェーンの中の個別プロセスに圧倒的な強みを持つ企業のみ
生き残れると言う原則を、既に多くのビジネスで見てきている。
IT 技術とイノベーションの逸早いビジネス化に強みを持つ Silicon Valley は、
Google を先達として、自動車の IT イノベーションの世界でも、水平分業的に産
業に貢献してゆくことになるのではないかと筆者は考える。
6.3.
ビジネス・チャンス
ビジネス・チャンスは、このような変革期には、様々なところに、生まれてく
ると思われる。 例えば、車載インフォテインメントを考えただけでも、新し
いユーザーインターフェースが必要になる。 表示画面の設計、表示管、タッ
チパネル、コンピュータ・マウスに相当するインプット・デバイス、新しいア
プリケーションソフト、OBD を利用した用途別ソリューション。 車車間通信
では、Wi-Fi による通信と他の車から来た情報の情報処理、情報の高度な利用な
どに関わるデバイスとソフト。 自動運転では、無数の機会があると思われる。
そして、人間の行動分析に威力を発揮するビッグデータである。 おそらく、
レベル4の自動運転車の登場する以前のこれからの時代には、高度運転システ
ムを装備した自動車とビッグデータとが表裏一体となり、運転手の行動分析を
しながら、自動運転の最適化、自動運転の理想を目指して、ビッグデータが大
きな役割を果たしてゆくものと推測される。 その意味でも、Connected Cars と
122
Autonomous Cars とは、切り離せない関係にあると思われる。
Silicon Valley は、今後とも、最新の技術を生み出し、それをビジネスとして実践
してゆく源泉となり、今後の自動車業界に大きく貢献して行く技術集積地の 1
つになることは間違いないと思われ、おそらくそのために、自動車各社がこの
地に技術研究開発拠点を設け、今後ともそれを強化して行く事になると推測さ
れる。
以上。
123