2015.01 (臨時号

米国特許保護適格性に関するガイドラインの解説
2015 年 1 月 6 日
河野特許事務所
弁理士 河野英仁
1.概要
特許保護適格性判断に大きな影響を与える Alice 最高裁判決1を受けて USPTO は
2014 年 12 月 16 日米国特許法第 101 条(保護適格性)に関する内部ガイドラインを公表
した。本ガイドラインは即日効力を有し、2014 年 12 月 16 日以前及び以降の全特許出
願に対し適用される。以下本ガイドラインの注意点について解説する。
2.審査フローチャート
米国特許法第 101 条の審査は以下の流れに沿って行われる。
1
Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 573 U.S. __, 134 S. Ct. 2347 (2014)
1
クレームが方法,機械,
No
製造物若しくは組成物
であるか否か?
ステップ 1
Yes
No
クレームが自然法則、自然現象、
抽象的アイデアを対象として
いるか否か(司法例外か否か)?
ステップ 2
Yes
Mayo Test パート 1
クレームが司法例外を
Yes
遙かに超える追加の要素に
No
言及しているか否か?
ステップ 2
Mayo Test パート 2
クレームは米国特許法
クレームは米国特許法
第 101 条に規定する
第 101 条に規定する
保護適格性を有する。
保護適格性を有さない。
3.ステップ 1
ステップ 1 はクレームのカテゴリーが米国特許法第 101 条に規定する方法,機械,
製造物若しくは組成物であるか否かを判断するものである。
すなわち、米国特許法第 101 条では「新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組
2
成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は,本法の定める
条件及び要件に従って,それについての特許を取得することができる」と規定しており、
クレームの対象が「方法,機械,製造物若しくは組成物」であるかを判断する。ここで、
クレームが信号、伝送媒体等を対象とする場合、ステップ 1 で NO となり、米国特許法
第 101 条に規定する保護適格性を有さないこととなる。なお、カテゴリーの属否につい
ては MPEP 2106(I)を参照されたい。
ステップ 1 にてクレームのカテゴリーが米国特許法第 101 条に規定する方法,機械,
製造物若しくは組成物である場合(ステップ 1 でYES)
、ステップ 2 へ移行し、Mayo
最高裁判決2で判示された 2 パートテストを行う。
4.ステップ 2 パート 1
(1)司法例外
ステップ 2 パート 1 では、クレームが自然法則、自然現象または抽象的アイデアを対
象としているか否か(司法上認識されている例外か否か)を判断する。
最高裁判例3により、クレームが自然法則、自然現象または抽象的アイデアを対象と
している場合、保護適格性を有さないと判断される。自然法則、自然現象及び抽象的ア
イデアは司法例外と呼ばれており、これらはそもそも万人が自由に使用することができ
るものであり、独占権を付与することは妥当でないからである。
(2)司法例外間の区別
司法例外は自然法則、自然現象及び抽象的アイデアの 3 つに分類されるが、明確な線
引きを行う事はできず、複数の司法例外に該当する場合がある。
例えば、数学的公式は、科学的事実を表現するものであり司法例外に該当するが、裁
判所により抽象的アイデア及び自然法則に属すると判断されている。
同様に、天然物は、自然に発生した物の使用に結びついているため、司法例外に該当
するが、裁判所により自然法則及び自然現象と判断されている。
以上のことから、ステップ 2 パート 1 の分析では、クレームのコンセプトが少なくと
も一つの司法例外に属するということを特定すれば十分である。
(3) 自然法則及び自然現象
Mayo Collaborative Serv. v. Prometheus Labs., Inc., 566 U.S. __, 132 S. Ct. 1289
(2012).
3 Diamond v. Chakrabarty, 447 U. S. 303, 308 (1980)
2
3
自然法則及び自然現象には、自然発生する原理/物質、及び、自然に発生するものと比較
して著しく異なった特性(Markedly Different Characteristics)を有さない物質が含まれる。
自然法則及び自然現象の例としては以下が挙げられる。
単離した DNA4
どのように特定化合物が体によって代謝されるかに基づく相関5
信号を送信するための電磁気学6
脂肪質要素と水の結合に内在する化学原理7
(4)抽象的アイデア
抽象的アイデアは裁判所により、例として基本的な経済プラクティス、特定の人的行
動を組織する方法、アイデアそのもの、数学的関係/公式を含んで特定されている。例え
ば以下の例が挙げられる。
受け渡しリスク軽減8
ヘッジング9
契約関係の生成10
商品または通貨としての広告の使用11
手形交換所を通じた情報処理12
新規情報及び記憶情報の比較とオプションを特定するための規則の使用13
情報を編成し、記憶し送信するためにカテゴリーを使用すること14
数学的相関を通じて情報を編成すること15
Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc., 569 U.S. __, 133 S. Ct.
2107 (2013).
5 Mayo
6 O’Reilly v. Morse, 56 U.S. 62 (1853)
7 Tilghman v. Proctor, 102 U.S. 707 (1881)
8 Alice
9 Bilski v. Kappos, 561 U.S. 593 (2010).
10 buySAFE, Inc. v. Google, Inc., ___ F.3d ___, 112 USPQ2d 1093 (Fed. Cir. 2014)
11 Ultramercial, LLC v. Hulu, LLC and WildTangent, ___ F.3d ___, 112 USPQ2d 1750
(Fed. Cir. 2014)
12 Dealertrack Inc. v. Huber, 674 F.3d 1315 (Fed. Cir. 2012)
13 SmartGene, Inc. v. Advanced Biological Labs., SA, 555 Fed. Appx. 950 (Fed. Cir.
2014)
14 Cyberfone Sys. v. CNN Interactive Grp., 558 Fed. Appx. 988 (Fed. Cir. 2014)
(nonprecedential)
15 Digitech Image Tech., LLC v. Electronics for Imaging, Inc., 758 F.3d 1344 (Fed. Cir.
2014)
4
4
ビンゴゲームのマネージング16
ゴムの硬化時間を計算するためのアレニウス式17
アラームリミットをアップデートする公式18
定常波現象に関する数学的公式19.
ある数値表現形態を他に変換する数学的処理20
(5)自然に基礎を置いた製品(Nature-based products)
自然に発生する製品、及び、自然に発生する製品と基本的に相違がない人工製品は、
自然法則に属する「天然物 products of nature」と判断される。自然に基礎を置いた製
品限定を含むクレームが、「天然物」であるか否かを決定するに際しては、著しく異な
った特性分析(Markedly Different Characteristics Analysis)を使用する。
著しく異なった特性分析は、自然に基礎を置いた製品とその自然発生対応物とを自然
状態にて比較する。また比較に際しては、製品の構造、機能、及び/または性質に基づき
ケースバイケースで評価する。
ここで、クレームが、著しく異なった特性を有する自然に基礎を置いた製品を含む場
合、クレームは「天然物」例外を記載しておらず、保護適格性を有すると判断される(ス
テップS2A NO)。
一方、クレームが自然状態において製品の自然発生対応物に対して著しく異なった特
性を有さない製品を含む場合、クレームは司法例外を対象としており(ステップ
2A:YES)、保護適格性分析は、クレームにおける追加要素及び例外を著しく超えるかを
決定するためにステップ 2B に進む。
5.ステップ2B パート 2
司法例外を対象とするクレームは、全体として例外そのものを遙かに超えるものであ
るか否かが判断される。すなわち、クレームに「発明概念“inventive concept”」が含ま
れているかが判断される。
保護適格性を得るためには、司法例外を対象とするクレームは、司法例外に対し意味
Planet Bingo, LLC v. VKGS LLC, ___ Fed. Appx.___ (Fed. Cir. 2014)
(nonprecedential)
17 Diamond v. Diehr, 450 U.S. 175 (1981)
18 Parker v. Flook, 437 U.S. 584 (1978)
19 Mackay Radio & Tel. Co. v. Radio Corp. of Am., 306 U.S. 86 (1939)
20 Gottschalk v.Benson, 409 U.S. 63, 67 (1972)
16
5
のある方法で、追加の特徴を含んでいる必要があり、また当該追加の特徴は例外を独占
するものであってはならない。
(1)「遙かに超える」を満たす例
・他の技術または技術分野に対する改良
・コンピュータそのものの機能改善
・特別な機械を用いて司法例外を適用すること
・特別な article の異なる状態または物への変換または還元(reduction)をもたらすこと
・クレームを特定の有用なアプリケーションに限定する、当該技術分野において十分に
理解され、ルーチンであり、一般的なこと以外の特別な限定を追加すること、または、
一般的とはいえないステップを追加すること
・司法例外の使用を特別技術環境に普通に結合する以上の意味のある限定
(2)「遙かに超える」を満たさない例
・文言「適用する apply it(またはこれと同等のもの)」を司法例外に追加すること、ま
たは、抽象的アイデアをコンピュータ上で実装するために単なる命令を追加すること
・普遍性の高いレベルで特定されている、十分知られ、ルーチンであり、産業分野にお
いて知られている一般的アクティビティを、司法例外に単に付加すること。例えば、
十分に理解され、ルーチンであり、産業分野において広く知られている一般的なアク
ティビティである一般的機能を実行する汎用コンピュータを超えない抽象的アイデ
アに対するクレーム
・重要でない余分なソリューションアクティビティを司法例外に追加すること。例えば
自然法則または抽象的アイデアに併せた単なるデータ収集
・司法例外の使用を、特別な技術環境または使用分野に普通にリンクさせること
(3)判断手順
クレームが全体として例外そのものを遙かに超えて記載している場合、クレームは保
護適格性を有し(ステップ2B:YES)
、保護適格性分析は終了する。
例外を特許保護適格性ある適用に変換している意味ある限定がクレームにおいて存
在しない場合、そのようなクレームは例外そのものを遙かに超えるものではなく、保護
適格性を有さず(ステップ2B:NO)、米国特許法第 101 条に基づき拒絶される。
審査官が米国特許法第 101 条に基づいて拒絶する場合は、司法例外がクレームのど
こに記載されているかを特定すると共に、なぜ司法例外と見なされるかを説明しなけれ
ばならない。さらに審査官は、クレームが他の要素を含んでいる場合、当該要素を拒絶
6
理由において特定すると共に、当該要素が司法例外に対して遙かに超えるものを追加し
ていないことを説明しなければならない。
6.合理化保護適格性分析
審査の効率化を目的として、司法例外を記載しているかもしれない、または記載して
いないかもしれないクレームであるが、全体としてみた場合に、クレームが明らかに司
法例外との結びつきを求めていない場合、審査官は合理化分析を適用することができる。
上述したとおり、事実上司法例外の保護を求めている疑いがある場合、クレームが司
法例外を遙かに超えるか否かの完全分析を行うべきであるが、全体としてみた場合に、
クレームが明らかに司法例外との結びつきを求めていない場合、完全な分析を行う必要
は無い。
司法例外の他に意味のある限定を記載した複雑な工業産業製品または方法を対象と
するクレームは、実用的適用を十分に限定しているため、完全な保護適格性分析は不要
である。
例えば、一定の数学関係を使用する操作制御システムを有するロボットアーム部品は、
明らかに、数学的関係の使用に結びつくよう試みておらず、保護適格性を決定するため
に完全な分析は必要とされない。
また、自然に基礎を置いた製品を記載しているが明らかに自然に基礎を置いた製品に
結びつくよう試みていないクレームは、「天然物」例外を特定するための著しく異なっ
た特性分析は不要である。
例えば、自然発生ミネラルが塗布された人工股関節を対象とするクレームは、当該ミ
ネラルと結びつくことを試みていないため、著しく異なった特性分析は不要である。同
様に、単に補助的な自然に基礎を置く組成物を含んだクレーム製品、例えば金またはプ
ラスチェックでできた電気接点携帯電話を対象とするクレーム、または、木製装飾を有
するプラスチック製椅子は、「天然物」例外を特定するために自然に基礎を置いた組成
物分析を必要としない。そのようなクレームは不適切に自然に基礎を置いた製品との結
びつきを試みていないからである。
7.完全審査
審査官は、オフィスアクションにおいて米国特許法第 101 条の判断のみを行う事は
できず、その他の特許要件(新規性、非自明性及び記載要件等)も併せて行わなければ
ならない。
7
8.コメント
Alice 最高裁判決により、ステップ2パート 2 における実務上の取扱いが大きく変わ
った。抽象的アイデアにどの程度発明概念を追加すれば保護適格性を有すると判断され
るかは、ケースバイケースであり、保護適格性が否定された事件のクレームと、保護適
格性が肯定された事件のクレームとを比較分析することにより、ある程度傾向が見えて
くる。否定された代表的な例は Ultramercial 事件21及び buySafe 事件22であり、肯定さ
れた例は DDR 事件23である。
本ガイドラインに対しては意見募集が行われており、締め切りは 2015 年 3 月 16 日
である。
本ガイドラインは以下の URL からダウンロードすることができる。
http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2014-12-16/pdf/2014-29414.pdf
以上
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http://www.knpt.com/contents/cafc/2014.11.26.pdf
http://www.knpt.com/contents/cafc/2014.11.06.pdf
http://www.knpt.com/contents/cafc/2014.12.24.pdf
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