ROAD TEST No 5146 AUDI RS Q3 アウディRS Q3 このRS Q3まで、クワトロGmbHはSUVにRSバッジを与えることを頑なに拒み続けてきた。 Qシリーズ初のRSモデルはヒット作か、はたまたほかのRSモデルとの違和感が際立つのか。 photo: Stuart Price WE LIKE.............................誰もが愛さずにはいられないであろう5 気筒エンジン、乗り心地とハンドリングの絶妙なブレンド、満足できる品質のインテリア WE DON’T LIKE.........標準装備されてしかるべきオプションの価格設定、飛ばすほどにみるみる悪化する燃費、洗練さに欠ける変速 標準装備のアロイホイールは、欧州仕様は19イ ンチ、日本仕様は20インチである。通常はツイ ンスポークタイプだが、追加コストなしでこの ロータータイプも選択が可能だ。スポーク部は マットブラック塗装となる。 106 AUTOCAR 11/2014 ヘッドライトのクラスター外周を、LEDと光ファイバー を用いたデイタイムランプが縁取る。ハイ/ローとも HID灯体で、対向車の眩惑を軽減する自動ダイナミッ クレンジコントロールを備える。 パンパー左右に独立して設置された縦長 のダクトは、ブレーキへの導風に使用され る。重量のある高出力SUVに求められる 制動性能を実現すべく、ブレーキの冷却 能力向上を図るために用意されたものだ。 アウディが誇るドライブトレイン、そしてこのク ルマのチューナーの名が、もう少し大きく、わか りやすく表示されていてもいい……と思って眺 めていたら、こんなところに記されていたか。 ※掲載車両は英国仕様であり、 装備そのほかが日本仕様と異なる場合があります。 ACJ138_P106-113_roadtest.indd 106 2014/09/17 17:53 Audi RS Q3 ROAD TEST HISTORY MODEL TESTED テスト車両概要 ●モデル名:アウディRS Q3 ●車両本体価格: 732.0万円 ●日本発売時期: 2014年3月18日 ●最高出力: 310ps/5200-6700rpm ●最大トルク: 42.8kgm/1500-5200rpm ●0-97km/h加速: 5.0秒 ●113-0km/h制動距離: 50.7m ●最大求心加速度: 0.87G ●テスト平均燃費: 9.5km/ℓ ●二酸化炭素排出量: 206g/km 日本仕様は全車共通となるエクステリアだが、 欧州仕様では2 種類のパッケージオプションを 設定している。それにより、フロントのブレーキ ダクトやルーフスポイラーの両端が、マットアル ミかブラックに変更できる。 RS Q 3 は、Qシリーズ初の RSモデル だ。2012年にコンセプトモデルを公開した クワトロGmbHだが、彼らはそのイメージ をSUVに反映することに消極的だった。 過去には並外れた動力性能を持つディー ゼルエンジン搭載の Q 7 V 12 TDIにRS バッジを与える案も挙がったが、即座に却 下されたらしい。 とはいえ、クワトロ部門は R 8 のような スーパースポーツではなく、背の高いクル マによって成功を収めてきた歴史を持つ。 RSの名を持つ最初の市販車は、80アバン トをベースとしたRS2なのだ。 リヤディフューザーを本当に効果的に機能させ るならば、横幅を広くし、しかも地面スレスレに 設置させる必要がある。市販車の多くに見られ るこの手のデザインは、 したがっておおむねルッ クス優先だと思ったほうがいい。 クワトロの伝統 “RS” の歴史ははじまった。 1994年のRS2アバントから リヤウィンドウ両端のモールは、平坦ではない 形状となっている。これにより整流効果を生み、 乱流を抑制して空気抵抗を減らすとともに、ガ ラスへの汚れなどの付着を防止する。 シルバーのドアミラーは、アウディの高性能モデ ルのトレードマークだ。欧州仕様のスタイリング パッケージでブラック仕様を選択しても、ここだ けはシルバーフィニッシュのままになる。 www.autocar.jp ACJ138_P106-113_roadtest.indd 107 107 2014/09/17 17:53 ON THE INSIDE ベースモデルのQ3で気に入らなかったダイヤル式エアコンは、RS クワトロ・システムの高性能を、 コーナリング時だけでなくオフロード アウディドライブセレクトはコンフォート/オート/ダイナミックの3モー モデルでもそのままだ。設定温度を大きく変えようとすると、 クリック でも有効活用してくれる、 ヒルディセントコントロールを装備する。欧 ドがプリセットされており、ステアリングやスロットル、変速のマッピン グを変更できる。 ダンパーには作用しない。 音をかなりの回数、聞かされることとなる。 州では3万円強のオプションだが、 日本仕様では標準装備だ。 ENTERTAINMENT エンターテインメント CD/DVDプレーヤー、地デジチューナー、FM/ AMラジオを搭載する。HDDへのCDの取り込 みや動画ファイルの再生も行える。465Wの大 出力で、14スピーカー/10チャンネルアンプを 備えるBOSEサラウンドサウンドシステムも標 準装備されている。 COMMUNICATIONS コミュニケーション マルチメディアインターフェイス “ MMI 3 G を搭載する。標準装備のBluetoothは Plus” 108 ディスプレイを見ながら簡単に接続でき、ハ ンズフリー通話やオーディオが使用可能だ。 2スロットのSDカードリーダーも備える。MP3 プレーヤーとのリンクにも対応するが、プレー ヤーごとに適合するアダプターが別途必要 で、いずれも8640円とやや割高だ。 NAVIGATION GPSナビゲーション HDDタイプが標準装備だ。カラーディスプレ イは7インチの高解像度タイプで、ボタンひと つでダッシュボード内へ格納できる。使い勝手 は、競合他社の装備品に比べて優れているほ うだといえるだろ。 AUTOCAR 11/2014 ACJ138_P106-113_roadtest.indd 108 2014/09/17 17:53 Audi RS Q3 ROAD TEST HOW BIG IS IT? n mi x m ma 0m m 80 60m 10 926mm 930m m 0.33 3561261 litres n mi m ax 0m m m 60 60m 9 2603mm 58% 1580mm 840m 960m m min m m ax サイズはどれくらい? 881mm 39% 42% 4410mm VISIBILITY TEST 視認性テスト FRONT Turning circle: 11.8m HEADLIGHTS 標準装備のスポーツシートは、サポートと快適性のバランスに優れる。視点の高さも、スポーツタイ プではないベースモデル用のシートとさほど差はない。 1571mm 1841mm 細身のピラーと高い着座位置 により、前方の見晴らしはよ い。一方、 なだらかに後傾する ルーフラインのため、後方は やや見づらい。 1577mm アダプティブ機能付きのバイ キセノンタイプで、視界は良 好である。欧州ではオプショ ンの自動防眩機能も日本では スタンダードだ。 Centre 理想的なペダル配置といえる。 ブレーキペ ダルは幅広く、左足ブレーキもやりやすい。 ステアリングコラムにごくわずかなオフセッ トがあるものの、ほぼ気づかないレベルだ。 20mm ステアリングホイールとペダルの配置 10mm WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT 150mm 標準的なシート位置での 足元スペース:840mm コンパクトなサイズゆえ、レッグスペースの制約は避けられない。 しかし、それ以上に後席の乗員が 不自由を感じるのは、後下がりのルーフに起因する頭上の圧迫感だろう。 ク ワトロ GmbH はアウディ全車 やすい仕事により、アウディは他メー に彼ら名義の最上級グレードを カーに先んじて、大トルクを誇るター 設定しようという計画を急ピッチで進 ボディーゼル車の聖域にガソリン車を め、セダン、ステーションワゴン、クー 送り込んだのである。 ペ、そしてカブリオレを制覇した社内 こうしたモデルを受け入れるのに十 チューナー軍団の関心はいよいよQブ 分なほど小型SUV市場が膨れ上がっ ランド、すなわちSUVへと向けられた。 ているのは明らかだが、果たしてこの ライバルたちは中~大型セグメントに クルマはトレンドセッターとなれるだろ 手を付けているが、ネッカーズルムの うか? あるいは中途半端で不必要な 首脳陣はこれには与せず、先鋒に指 存在と見なされるのだろうか? 名したのはコンパクトSUVのQ3であ る。 これはベルトコンベアのようなアウ ディの新型車投入と市場の成長に急 意匠と技術 DESIGN&ENGINEERING ★★★★★★★☆☆☆ 幅:1000-1050mm 奥行き:850-1670mm 高さ:450-740mm ラゲッジルームの容量は、通常時で460ℓ、後席をすべて前倒しにすると1365ℓとなる。これは、ほ とんどのCセグメントハッチバックを上回る数字だ。 き立てられての決定だが、結果として アウディのように大型のフロントグ 生まれたRS Q3は、 この未開のジャン リルを持つ場合、 コンパクトSUVをエ だが、RS Q3で外観以上に興味深 はおおいに賛同する。 ルの先陣を切る形となった。 レガントに見せるのはたやすくない作 いのは、拡大された体躯に収まる心臓 RS Q3の最高出力は310ps、最大 現在、ライバルは唯一、メルセデス 業だが、さらにむずかしいのが滑稽に 部である。TT RSの2.5ℓ直5ユニット トルクは42.8kgmであるが、それらが のGLA45 AMGがあるのみだが、発 ならない程度にアグレッシブなルック が、新たな仕事先を見つけられたのは 5200rpmで同時に発生できる特性を 売はRS Q3が先だ。 また、BMW X1 スに仕立てることだ。RS Q 3はその 喜ばしい。何しろVWグループのコン 知れば、きわめてたくましいパワーユ は今のところMディビジョンの干渉を 点、かなり慎重にデザインされている パクトなプラットフォームには、より歴 ニットだとわかるだろう。 受けてはおらず、 レンジローバー・イ が、 このクルマを見たテスター陣の評 史の長いRS用多気筒エンジンは搭載 トランスミッションは、7 段 DCT が ヴォークもハイパフォーマンス戦線に 価は、多くがほぼ適正バランスという できない。そこでアウディが、過給圧を 標準だ。それとかなりハイギヤードな は踏み入れていない。シャシーを共 程度にとどまった。スポーティだが、笑 高めすぎた4 気筒はRS バッジを付け ファイナルレシオが、206g/kmという 用するRS3から310ps/42.9kgmの いものになるほど極端な膨らませぶり たクルマにふさわしくないと考えて 5 CO₂排出量に貢献している。そして、 2.5ℓ直5エンジンを移植するというた はではない、 というわけだ。 気筒を選んだのだとしたら、われわれ コンパクト系アウディや VWグループ www.autocar.jp ACJ138_P106-113_roadtest.indd 109 109 2014/09/17 17:53 ON THE ROAD TRACK NOTES サーキットテスト の他車に使われているハルデックス 製システムを介し、4輪を駆動する。 フ T3 ルタイム4WDだが、当然ながらハンド ■ドライサーキット アウディRS Q3 ラップタイム: 1 分 20 秒 2 アウディRS3スポーツバック 参考タイム: 1 分 15 秒 6 T6 T2 T5 T7 ボディコントロールに優れ、ブレーキは タフで、動力性能も十分だ。ただし、ハン ドリングのバランスは、攻め込むほどに フロント優勢の傾向が顕著になる。湿り 気味だった路面は、ラップタイムにはマ イナス要因となった。 リヤアクスルには、 トルクベクタリング 機構やスポーツディファレンシャルの T1 T4 リングはフロント重視である。そして、 Start/finish 類は備えていない。 サスペンションは、フロントがマク T 1でのハードブレーキングでもピッ チングがほぼ出ないのは、ボディコン トロールに優れる証拠だ。 T7では、ブレーキを残してコーナリ ングしたとしても、ハンドリングはま ずニュートラルを維持できない。 ファーソン・ストラット、 リヤが4リンク で、前後ともコイルスプリングと通常 のダンパーとの組み合わせである。わ れわれは、サーキット走行ですぐにブ ■ウェットサーキット アウディRS Q3 ラップタイム: 1分17秒4 アウディRS3スポーツバック 参考タイム: 1分10秒4 レーキがフェードしてしまう経験をア T1でのオーバースピードはロー ルを誘発し、続く左コーナーでス ロットルオフによるオーバーステ アを引き起こす原因となる。 ウディの高性能モデルでたびたびし T5 ているが、このRS Q 3にはひと工夫 T6 T7 T3 グリップが足りず、 ヨーが素早いため、ス ライドが予期できない。4WDシステムは 前後トルク配分をせわしなく切り替える。 ESPはオンのままにするのがベストだ。 T4 T2 T1 一貫したアンダーステア傾 向は、フロント内輪で T3と T4 のエイペックスをとらえ ることを困難にする。 1.8s 2.6 3.6 4.7 6.1s 0 145 161km/h 129 7.6s 5s ているだけに、多少のアップグレード を施しただけで、RS Q3はずっと高額 97 113 1.9s 2.8 3.8 5.0s 6.4s 0 177km/h 193km/h 14.3s 17.7s 10s アウディRS3スポーツバック 48km/h 64 80 11.8s 9.5s 129 8.2s 5s 10.2s 209km/h 225km/h な値付けにふさわしい見映えとなって 27.4s いる。 もっとも目立つのが、 ファブリック 21.9s 15s 145 161km/h 20s 25s からナッパレザーに変更された内装の 177km/h 193km/h 209km/h 225km/h 15.8s 19.4s 24.5s 32.1s 12.6s 10s 15s 20s 25s 30s 48-0km/h 8.1m 0 ル特有のフラットボトムタイプに変更 に、計器類は盤面にバックライトを備 えるタイプとなり、パドルは望ましいサ 80-0km/h 22.3m 10m WET 内張りと、標準的な円形からRSモデ されたステアリングホイールだ。同様 ■制動距離 97-0km/h 制動時間 : 2.80 秒 DRY 室内 INTERIOR ★★★★★★★★☆☆ の品質を賞賛した。それをベースにし アウディRS Q3 113 ジー” が採用されているのである。 われわれは2年前、Q3のインテリア ■発進加速 テストトラック条件 : 湿潤路面 / 気温 8℃ 0-402m 発進加速 : 13.6 秒(到達速度 : 165.9km/h) 0-1000m 発進加速 : 24.9 秒(到達速度 : 210.2km/h) 48km/h 64 80 97 ドなのは当然として、365 mm 径の フロントディスクに “ウェーブテクノロ T8 Start/finish が施されている。前後ベンチレーテッ 20m 9.1m 48-0km/h イズに拡大され、 ゴルフボールのよう 113-0km/h 43.3m 30m 40m 24.8m 80-0km/h なシフトノブにはディンプルが刻まれ 50m 50.7m 113-0km/h た。 また、新たに装着されたエンジンス ターターボタンは、少しばかりセンター コンソールの小物入れを圧迫してい ON THE LIMIT 限界時の挙動 110 クワトロGmbHが送り出してきた作品 ウェットでの横グ 255/55R20タイヤは、 適性重視の枠から外れてみると、はじめは てそれを矯正してくれるが、悪化させるこ 群は、 しばしばわれわれのテストでトップ リップが不十分だった。 クワトロ・ドライブ アンダーステアだったはずが、突如として とも少なくない。 10に入るラップタイムをマークしてきた。 トレインも、RS4アバントやRS5がそうで オーバーステアに転じる挙動変化を示す ドライ路面では、高いスタビリティを発揮 しかしこのRS Q3だけは、その栄誉に浴 ようになる。いったんスライドしはじめてし してくれた。ただしそれは、旧来のアウディ が見せたパワーオン・アンダーステアの兆 あったように、 グリップ限界を超えてさえも することはできなかった。 とくにウェット路 確実かつ正確なコーナリングを可能にす まうとハルデックス4WDはそれを解決で 面では、ウォームハッチどころか出来のい るものではなかった。 きず、 ドライバーはコントロールの回復に 候にとどまらず、それ以上のものを犠牲に いファミリーハッチにもおよばない。 試しにESC のモードを切り替えて、快 四苦八苦する羽目に陥る。パワーは時とし したうえで成立している。 AUTOCAR 11/2014 ACJ138_P106-113_roadtest.indd 110 2014/09/17 17:53 Audi RS Q3 ROAD TEST るものの、上級感の演出効果を考慮す み込むと、ほぼどのギヤでも、どんな れば許容できるだろう。 回転数からでもひたすら回り続ける。 欧州仕様では、電動フロントシート 最大トルクは1500~5200 rpmの やGPSナビ、 ダッシュボードのカーボ 回転域で発生され、その上限でピーク ンファイバートリムなどといったキャビ を迎える出力は6700rpmまで保たれ ンの魅力を高める装備類の多くがオ る。結果、きわめてフラットな出力とト プションだが、日本仕様はほぼフル装 ルクの特性はもちろん、非常にフレキ 備とされている。テスト車両の装備で シブルなパフォーマンスが得られてい オプションになるものとしてはパノラ る。比較的小さく安価な選択肢である マガラスサンルーフがあるが、 これに RS Q3が、ポルシェ・カイエンGTSや は19万円と、なかなか大きなエクスト BMW X5 M50dといった高価でパワ ラコストが必要だ。 フルな大型4WDをスプリントでしのげ だが、そういった装飾的な部分以外 るのは、そういう出力特性の恩恵だ。 の基本的素養に、このRSには欠けて 非合法的な速度域まででさえ、2倍の 乗り心地は硬いが快適。ロードノイズはやや気になる。 いるものがある。ベースの Q 3から受 プライスを掲げるレンジローバー・ス が、 これら強弱両極の中間域では迷い RS Q3は多くのアウディRSモデル け継がれておりどうにもならないそれ ポーツ・スーパーチャージドと互角に を見せる。 ときとして手動変速に遅れ と同様、速く走らせるのが簡単だ。 オー は、後席のレッグスペースである。Q3 渡り合えるかもしれない。 が生じ、 ときおりキックダウンが遅くな ト/コンフォート/ダイナミックのモード はコンパクトクロスオーバーの部類に 中間ギヤを使っての加速では、5.0 る。そして全般的に見て、ZFの素晴ら が選べるドライブセレクトはサスペン 入るモデルだが、そういう認識があっ 秒という0-97km/hのタイムが示す以 しい8段A/TやAMGの7段セミA/Tの ションの基本的な特性に作用せず、 ダ たとしても、背の高い人は膝まわりの 上に、感覚的には速く思える。生産終 ような輝きは欠落している。 ンパー自体にもアダプティブ機構の設 窮屈さを受け入れがたいはずだ。ま 了になったRS3にさえ、48-113km/h た、いくらスポーティ志向のクルマと 加速はわずか0.3秒遅れるにすぎず、 の走行状況に適応する運動性能の妥 定はないが、パッシブながらたいてい はいえ、眉毛が届くのではないかと思 X5 M50dには0.7秒勝るのだ。 乗り心地と操縦安定性 RIDE&HANDLING ★★★★★★★☆☆☆ うほど頭上を圧迫するスロープルー スロットルレスポンスは、低回転で もしもクワトロの技術陣がRS Q 3 ている。過度な、 もしくは急激なボディ フは許容しかねる。小柄な人であれば はソフトでターボ車を運転しているの に、ハッチバックのRS3と同じ程度の の動きを許容せず、かといって乗り心 地が破綻するほど硬くないのだ。 協点を見いだしたセッティングとなっ どちらも不満はないかもしれないが、 が明白だが、それ以外はとても良好 横グリップやステアリングレスポンス、 決して十分とはいえないだろう。 だ。ペダルの動きに対してきわめて正 ロールコントロールといった、 フットプ もちろん、一般的な尺度から見れば 荷室はまずまず広く、容積は460ℓ 確に反応し、 ドライバーが必要として リントの小さなクルマに備わっていた かなり硬い部類だが、高速道路で落ち だ。後席はトランクスルーが可能で、8 いる駆動力を正確に提供してくれる。 らハッピーな要素を手段を選ばずに与 着かないほど硬められてはいないし、 万円の追加で自動開閉テールゲート 5気筒エンジンのサウンドは、TT RS えていたとしたら、その代償は大きな 荒れた路面で必要なしなやかさが欠 が追加できる。 や RS 3とまったく同じように刺激的 ものになったはずだ。 落しているわけでもない。 なお、ロード で、 ターボノイズはきわめて少ない。 幸いにも、その分野での妥協の重 ノイズは多少ながら発生し、20インチ ただひとつ、無条件に賞賛できな 要性を、彼らは認知していたらしい。お タイヤがそれを助長するが、気に障る ほどの音量ではない。 動力性能 PERFORMANCE ★★★★★★★★☆☆ い困惑の種は、SトロニックことDCT かげで、優秀なSUVの必修科目ともい ハイパフォーマンスSUVに移植す ギヤボックスだ。 この変速機、全開で うべき日常的な使い勝手のよさに悪 結果としてハンドリングが無個性に るエンジン選びで、RS3やTT RSの5 のシフトとローンチコントロールを用 影響をおよぼすことなく、スポーティな なったのは、アウディにとっては不幸 気筒ターボに目を付けたアウディの出 いたスタートは素晴らしい。Dレンジで 目的にも合致したクルマに仕上がって だろう。 コーナーに突っ込み、脱出で 発点は正しい。扱いやすくスムーズな の走行やとくに急いでいないときに いる。最近試乗してきた速いSUVは、 加速し、隆起を乗り越えてもドラマ性 反面、ひとたびスロットルペダルを踏 は、 とてもスムーズで気に障らない。 だ 多くがその点で不合格だった。 はなく、のんびり走ろうが、神経を研ぎ UNDER THE SKIN ニューウェーブ到来 外周波形ブレーキディスクは、そもそも異物の排出に有効 外周部を軽量化することで 回転慣性が減少するのも、 波形ディスクのメリットだ。 なことからダート用オートバイで採用されはじめたアイテムで ある。オートバイや自転車では一般的になりつつあるが、四輪 での採用例はこれまで希だった。 考え方はじつにストレートである。最大直径が同じ円形ディ スクと比べ、外周を波状に削ぎ落とした分だけ軽量化できる 一方、円周は同等の径を確保でき、放熱性を維持できる。パッ ドは切り欠き部までを覆うので走行風に触れやすくなり、冷 却のみならず乾燥にも有利だ。もっとも、ルックス面でのア ピールも、インゴルシュタットの狙いではあるだろう。 一方、体積の減少したディスクは、円形のものより高温に なりやすい。熱ダレが不安だが、冷却性能の改善によって耐 フェード性は向上しているとアウディは説明する。 ア ウ ディによれ ば 、フ ロント ディスクは円形のものより、1 枚当たり0.5kg軽量だという。 しかし、問題はある。円形ディスクに比べて形状が複雑なの で、生産コストが高いのだ。また二輪の専門家によれば、パッ ドの減りが早く、ノイズも大きくなりがちだという。 www.autocar.jp ACJ138_P106-113_roadtest.indd 111 111 2014/09/17 17:53 DATA LOG SPECIFICATIONS 計測テストデータ ■今月の数字 31g/km ■メカニカルレイアウト ノーマル Q 3との顕著な違 いは、エンジンまわりにあ る。横 置きのままだ が 直 列 5 気筒を搭載し、それに 対応して強化された吸気 / 冷却系が占めるスペース が大きくなっているのだ。 ハルデックス4 WDや前ス トラット/ 後 4リンクの足ま わりは通常モデルから継 承された。ブレーキは拡大 し、複雑化されている。 64 litres 直 4エンジンのメルセデスGLA 45 AMGに対し、CO ₂排出量は31g/ k m 多い( A 45 比なら+45 g / k m だ) 。一方で、パワーは50ps少ない。 6dB RS Q3は、ディーゼルモデルのQ3 2.0 TDIより静粛性が高い。その差 は、3速レブリミットまで回すと6dB、 113km/h走行時では4dBだ。 ■エンジン性能曲線 406 55 42.8kgm /1500-5200rpm Power output (ps) 355 310ps /5200-6700rpm 48 304 41 253 35 203 28 152 21 101 14 51 0 Torque (kgm) ■エンジン 駆動方式: フロント横置き4輪駆動 形式: 直列5気筒ターボ, 2480cc ブロック/ヘッド: アルミ軽合金 ボア×ストローク: φ82.5×92.8mm 圧縮比: 10.0:1 バルブ配置: 4バルブDOHC 最高出力: 310ps/5200-6700rpm 最大トルク: 42.8kgm/1500-5200rpm 許容回転数: 7000rpm 馬力荷重比: 182ps/t トルク荷重比: 25.2kgm/t 比出力: 125ps/ℓ 7 0 Engine (rpm) 2000 4000 6000 0 8000 ■シャシー/ボディ 構造: アルミニウムモノコック 車両重量: 1700/1770kg(実測) 抗力係数: 0.33 ホイール: 8.5J×20 タイヤ: 255/35R20 ダンロップ・SPクワトロマックス スペアタイヤ: 補修キット ■変速機 形式: 7段DCT ギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉 ①3.56/7.7②2.52/13.0③1.67/19.6 ④1.02/26.9⑤0.78/35.1⑥0.78/43.1 ⑦0.63/52.1 最終減速比:(1/4/5)4.733, (2/3/6/7)3.944 澄まして攻めようが、特別なことは何 も起こらない。ステアリングにしても、 コミュニケーション性に優れてもいな ければ鋭いわけでもない。 これはハー ドなセッティングに切り替えても同じこ とだ。シャシーは進路を変えたがらな いわけではないが、 とくにグリップがい いわけでも、打てば響くわけでもなく、 結局は楽しいわけでもない。 4WD車にスポーティな運動性能を 与えるプロセスにおいて、アウディは やや無害な方向に調教しすぎたので ■燃料消費率 オートカー実測値 総平均 ツーリング 動力性能計測時 メーカー公表値 市街地 郊外 混合 燃料タンク容量 現実的な航続距離 CO₂排出量 消費率 9.5km/ℓ 10.7km/ℓ 3.4km/ℓ 消費率 8.2km/ℓ 14.5km/ℓ 11.4km/ℓ 63ℓ 598km 206g/km ■サスペンション 前: マクファーソン・ストラット/ はないだろうか。 とはいえ、 ことさら驚 ■静粛性 アイドリング: 49dB 3速最高回転時: 77dB 3速48km/h走行時: 63dB 3速80km/h走行時: 65dB 3速113km/h走行時: 68dB コイル+スタビライザー 後: 4リンク/コイル+スタビライザー ■ステアリング 形式: ラック&ピニオン (電動アシスト) ロック・ トゥ・ロック: 2.60回転 最小回転半径: 5.90m ■安全装備 ABS, ESC, EBD, ASR, EDL, BA Euro N CAP/5つ星 乗員保護性能: 成人94%, 子供85% 歩行者保護性能: 52% 安全補助装置性能: na ■ブレーキ 前: φ365mm通気冷却式ディスク 後: φ310mm通気冷却式ディスク くことでもない。過去に送り出されたク ワトロ謹製のパフォーマンスカーが、 常にもっともエキサイティングであり 続けたわけではないのだから。 購入と維持 BUYING&OWNING ★★★★★★★☆☆☆ RS Q3のベースプライスは732万 円で、 日本仕様の装備内容は充実して いる。おもな有償オプションとしては、 ■発進加速 ■中間加速 〈秒〉 実測車速mph(km/h) 秒 30(48) プライバシーガラス (7万円) とパノラ ■最高速 1.9 mph(km/h) 20-40(32-64) 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th 1.9 3.1 - 40(64) 2.8 30-50(48-80) 1.9 2.7 3.9 5.3 50(80) 3.8 40-60(64-97) - 2.8 3.9 5.0 6.5 9.0 60(97) 5.0 50-70(80-113) - 2.9 4.0 5.3 6.8 8.3 70(113) 6.4 60-80(97-129) - 3.3 4.1 5.5 7.3 9.2 80(129) 8.2 70-90(113-145) - - 4.2 5.7 7.7 10.2 90(145) 10.2 80-100(129-161) - - 4.7 6.0 8.3 11.2 100(161) 12.6 90-110(145-177) - - 5.8 6.4 9.1 12.5 110(177) 15.8 100-120(161-193) - - - 7.3 10.0 - 120(193) 19.4 110-130(177-209) - - - 9.2 - - 130(209) 24.5 120-140(193-225) - - - - - - 140(225) 32.1 130-150(209-241) - - - - - - 150(241) - 140-160(193-257) - - - - - - - - 1 2 3 4 5 6 7 マガラスサンルーフ( 19 万円)、自動 53km/h 7000rpm 92km/h 7000rpm 138km/h 7000rpm 188km/h 7000rpm 246km/h 7000rpm 250km/h 5774rpm 250km/h* 4786rpm * claimed 開閉式テールゲート (8万円) が挙げら れる。ほかは赤く塗装されたブレーキ キャリパー( 7 万円)やダイヤモンドス テッチのシート (11万円) と、機能的に は不要なアイテムである。 そのパフォーマンスと4輪駆動シス テムを秤にかければ、重量税の負担 はやむなしだ。総合燃費は9.45km/ℓ で、これは公称値よりも悪いが、覚悟 していたよりはマシだった。 真のリセールバリューはまだ見極め ROAD TEST 一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。 112 注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両重 量を使用しています。 © Autocar 2014. テスト結果は権利者の書 面による承諾なしに転用することはできません。 がたいが、ハイパフォーマンスSUVは ニッチモデルで、中古車供給量の少な さが値崩れを防ぐだろう。 AUTOCAR 11/2014 ACJ138_P106-113_roadtest.indd 112 2014/09/17 17:53 Audi RS Q3 ROAD TEST ROAD TEST No 5146 Audi RS Q3 AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論 ★★★★★★★☆☆☆ 「速くてユーティリティに優れているが ドライビングの魅力はいささか平凡だ」 TESTERS’ NOTES ●テスターのひと言コメント Q3のスイッチ類が、先代A3で使い古さ れたそれのほぼ流用なのは、今でも受け 入れがたい。732 . 0 万円の RS 仕様で は、 ダッシュボード全体にその失望を抱く ことはないだろう。 マット・ソーンダース ブラシフィニッシュの金属ペダルはエン スー好みの見た目だけでなく、運転向き のシューズで踏むにもピッタリだ。ただ し、底の厚いブーツを履いてオフロード に繰り出すなら、最適とはいいがたい。 も ちろん、そんな不満を抱くオーナーは、そ う多くはないだろうが。 ニック・キャケット SPEC ADVICE ●購入にあたっての助言 クルーズコントロールは死角モニター/ レーンアシストとのセットオプションだ。 サンルーフやプライバシーガラス、自動 テールゲートなども標準装備ではない。 本国で標準装備される19インチタイヤ があれば乗り心地は改善されるだろう が、日本での設定はない。 現 在、 日本では7車種のアウディRSモデルが市販され したがって、 このコンパクトSUVは有能な真のRSといえ ている。バリエーションが多すぎると感じさせない理 る。ただし、 より純粋な意味での素晴らしいパフォーマンス 由は、 この手の高性能モデルに4WD車が珍しいという周 辺事情もあるが、時間をかけてアウディが確立してきたコ 4WDとは呼べない。優れたエンジンを積んでいるが、一部 のアウディRSモデルと同様、扱いやすさと使い勝手を追 ンセプトによるところも大きい。それは、日常遣いで実感で 求するあまり、 ドライビングの魅力を失いすぎたと思えてな きる豪華さや洗練度、スペースを兼ね備えたパフォーマン らないのだ。 ドライバーに関心を抱かせ続けるには、運動 スカーという、RS2アバント以降のすべてのRSに通底す 性能面の楽しさが不可欠だが、その点は不十分である。 と る資質である。今回、俎上に載せたSUVのRS Q3にも、そ はいうものの、歴史の浅いニッチ市場において、今のとこ れは本質的に息づいている。 ろランキング争いに食い込む一台なのは間違いない。 TOP FIVE 1st 2nd 3rd JOBS FOR THE FACELIFT ●マイナーチェンジ時に望むこと ・ローグリップ時における4 WDシステ ムの制御をもっと予測しやすいもの に、もしくは駆動力配分を50 : 50で固 定できるようにしてほしい。 ・ギヤボックスの変速を、より直感的に してほしい。 ・シャシーのフィードバックと敏捷性を 高めてほしい。 5th 4th PORSCHE ALPINA LAND ROVER AUDI VOLVO ポルシェ マカン・ターボ アルピナ XD3ビターボ ランドローバー レンジローバー・イヴォーク アウディ ボルボ 車両価格 最高出力 最大トルク 0-97km/h加速 最高速度 燃料消費率 (混合) 車両重量 (公称値) CO₂排出量 997.0万円 400ps/6000rpm 56.1kgm/1350-4500rpm 4.7秒 266km/h 11.2km/ℓ 2000kg 208g/km 邦貨換算約1090万円 350ps/4000rpm 71.4kgm/1500-3000rpm 4.9秒 (0-100km/h公称) 251km/h 15.2km/ℓ 1910kg 174g/km 605.0万円 240ps/5500rpm 42.8kgm/1500-5200rpm 7.1秒 (公称) 217km/h 12.8km/ℓ 1790kg 181g/km 732.0万円 310ps/5200-6700rpm 47.9kgm/4000-4500rpm 5.0秒 250km/h (リミッター) 11.4km/ℓ 1700kg 206g/km 718.9714万円 304ps/5600rpm 44.9kgm/2100-4200rpm 7.3秒 (0-100km/h公称) 210km/h 9.3km/ℓ 1930kg 249g/km われわれは こう考える われわれは速いSUVなど好きにな れないと思っていたが、 このマカン はとても説得力がある。 このジャンルでは一頭地を抜く。 わ れわれの最愛のコンパクトSUVかも しれない。 ただし、 現在は完売。 動力性能ではRS Q3の足元にも およばないのだが、 運動性能ではこ ちらのほうがはるかに優勢である。 パンチは確かに強烈だ。 しかし、 もっ とクレバーなフットワークの習得が 必要だろう。 厳密にはほかのモデルと同水準で はない。大きく速いが、 その分、 大食 らいだ。 結論 ★★★★★★★★★☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★☆☆☆ ★★★★★★☆☆☆☆ Macan Turbo XD3 Biturbo ★★★★★★★★★☆ Range Rover Evoque RS Q3 RS Q3 XC60 T6 R-Design XC60 T6 Rデザイン www.autocar.jp ACJ138_P106-113_roadtest.indd 113 113 2014/09/17 17:54
© Copyright 2024 Paperzz