立山有料道路(立山黒部アルペンルート)の除雪について 宮崎 洋一*1

立山有料道路(立山黒部アルペンルート)の除雪について
宮崎
洋一*1、若林
1.はじめに
修*2
及び関係団体からなる「立山ルート除雪組合」を組織し、除
立山黒部アルペンルートは、立山連峰を貫き富山県立山町
雪を実施している。
(千寿ヶ原)と長野県大町市(扇沢)を結ぶ山岳観光ルート
また、総除雪量は、室堂ターミナル駐車場の除雪も加える
で、昭和46年に全線開通し、年間100万人近い観光客を迎え
と約130万m3(東京ドーム1杯分)にもなることから、ブルド
ている。
ーザ8台、ロータリ除雪車4台、バックホウ5台など全部で19
立山有料道路は、アルペンルートの一部を形成し、中部山
台の除雪機械により作業にあたっている。
岳国立公園内を走る管理延長14.4kmの山岳道路であり、県道
富山立山公園線の桂台∼美女平間(5.5km)及び追分∼室堂間
(8.9km)の2区間から構成されている。また、その間の美女
平∼追分間(13.4km)については、有料期間終了により県へ移
管されているが、富山県道路公社が県から管理委託を受けて、
桂台∼室堂全線(27.8km)を一体的に管理している。
立山有料道路
桂台∼美女平 称
弥
L=5.5km
名
陀
滝
桂
ヶ
台 美
原
666m
立
女
1930m
山
平
駅
977m
475m
美女平∼追分
L=13.4km
27.8km
雪
立山
の
3015m
大
谷 室
堂
2450m
大
観
峰
2316m
黒
黒
部
部 黒
ダ
平 部
扇
湖
ム
1828m
沢
1455m 1470m
1433m
立山有料道路
追分∼室堂
L=8.9km
立山黒部アルペンルート
図1 立山黒部アルペンルート概要図
写真2 立山有料道路除雪で使用するロータリ除雪車
2.2除雪作業の特殊性
(1)厳しい気象条件
アルペンルートの開通日が観光サイドからの強い要請もあ
り年々早まっており、これに間に合わせるため、現在、厳冬
期の1月下旬から作業を開始している。
表1 立山黒部アルペンルート開通日 (月.日)
年度
写真1 立山有料道路を走る高原バス
2.立山有料道路(桂台∼室堂)の除雪
2.1除雪の概要
桂台
∼
美女平
美女平 弥陀ヶ原
∼
∼
弥陀ヶ原 天狗平
天狗平
∼
室堂
S46
6.1
4.24
5.2
5.27
57
5.22
4.20
4.25
5.1
62
5.17
H2
5.13
4.20
4.25
8
5.6
4.20
4.23
12
4.3
4.10
4.20
16
5.1
4.10
4.17
25
5.1
4.10
4.16
26
4.29
4.10
4.16
4.20
4.28
本道路沿線の平均積雪深は、美女平付近で約 4m、室堂付
立山有料道路(桂台∼室堂)の除雪実施体制は、本道路が
近で約 8m であり、現地は一面ほとんど雪で埋まっているた
富山県を代表する観光地「立山」へのアクセス道路であるこ
め、除雪作業は、周辺の景色からは道路法線が全くわからな
とから、富山県、道路公社、立山黒部貫光(株)など関係機関
い状況の中で行わなければならない。
*1 富山県道路公社立山有料道路管理事務所、*2 富山県道路公社工務課
このため、前年秋の雪が積もる前までに、春の除雪の目印
となる 6∼9mの丸太ポールを道路路肩に設置するとともに、
(1)パイロット除雪
4.0m
正確な道路位置の把握のため、平成 10 年から GPS を利用し
た道路位置情報システムを導入している。
1m程度
雪面
雪
ブルドーザ(GPS搭載)
路面
側溝
センターライン
(2)1車線除雪
4.0m
写真3 道路に設置された丸太ポール
ブルドーザ
森林帯:バックホウ
ロータリ
また、気温も−10℃∼−20℃となることから、燃料の凍結
対策として、軽油と灯油の混合油を燃料として使用している。
(2)特殊な労働環境
雪崩の発生や天候の急変による遭難のおそれがあることか
ら、作業の安全確保のため、山の気象予報専門会社と契約し、
ロータリ
バックホウ
路面
1.5m以下
側溝
センターライン
当該エリアの詳細な気象予測情報や雪崩発生の危険情報を入
手し、作業実施において活用している。
また、美女平から室堂へ向けての本格的な除雪には、宿泊
(3)2車線拡幅除雪
6.0∼10.0m
して作業に従事することが必要となるが、宿泊所における飲
料水の水源となる雪解け水が確保できる時期まで待たなけれ
ばならない制約がある。
(3)自然環境の保全
ロータリ
バックホウ
国立公園内の作業となるため、樹木を傷つけないよう、美
女平∼弘法間の森林帯では、ブルドーザを使用しないことと
路面
側溝
しているほか、ロータリ除雪車からの投雪は樹木に影響がな
い箇所へ行うこととするなど、現地状況、植生等にあわせ慎
重に作業を行っている。
センターライン
図2 除雪方法概要図
2.3除雪の方法
(1)パイロット除雪
まず GPS システムを装着したブルドーザが道路センター
位置に道筋をつける。
(2)1 車線除雪
次に、ブルドーザで 1.5m 程度の積雪深まで掘削していき、
残りをロータリ除雪車で投雪し、1 車線幅を確保する。なお、
森林帯では、ブルドーザを使用せず、バックホウ、ロータ
リ除雪車により作業を行う。
(3)2車線拡幅除雪
その後、バックホウで両側の雪壁を崩し、それをロータ
リ除雪車が雪壁を越えて吹き飛ばして、2車線を拡幅除雪
する。
写真4 GPS 搭載したブルドーザによる初期除雪
(m)
20
18
16
14
12
10
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26 (年)
図3 大谷地点の最大積雪深の推移
写真5 ブルドーザによる1車線除雪
3.2大谷の除雪方法
大谷での除雪は、ロータリ除雪車では雪壁が高すぎて雪を
吹き上げられないことから、パイロット除雪の後、ブルドー
ザ 2 台が並走して、雪面をカンナで削るように少しずつ掘
り下げながら、除雪を行う。
写真6 森林帯におけるバックホウとロータリ
除雪車による除雪
図6 大谷除雪の概要図
20m に迫る鉛直な雪の壁を作り上げるには、GPS システ
ムで位置を確認しながらとはいえ、並走する 2 台のブルド
ーザの息を合わせるとともに、正確な道路の位置を周囲の形
状を見ながら補正していく必要があり、高度な作業技術が求
められる。
写真7 2車線拡幅除雪作業
3.雪の大谷(克雪から利雪へ)
3.1雪の大谷
標高 2,450m の室堂付近は世界でも有数の豪雪地帯である
が、その中でも「大谷」地点は、地形的に吹き溜まりとなる
ため特に積雪が多く、本道路沿線で最も積雪の多い地点とな
っており、除雪作業の最大の難所となっている。
過去 20 年の平均積雪深は約 16mで、最高積雪深は平成
12 年の 20mであり、6 月以降も 10m 以上の雪が残っている。
写真8 ブルドーザ 2 台並走による雪壁の切り下げ
また、大谷地点での作業時間は、2 台のブルドーザで、通
常、実稼働約 10 日間、延べ稼働時間約 200 時間を要してお
り、年によっては、戻り雪のため、更に長期間を要する場合
もある。
3.3克雪から利雪(雪の大谷ウォークの実施)
本道路の除雪により出来上がる約 500m の雪壁の区間を
「雪の大谷」と呼んでいる。
「雪の大谷」では、雪壁の迫力さが県外観光客に大変好評
(人)
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
であったことから、これを観光資源として活用し、観光客が
0
雪壁を間近に体感することができるイベントとして、「雪の
17
大谷ウォーク」が平成 6 年度から実施されている。
18
19
20
21
22
23
24
25
26 (年)
図7 雪の大谷ウォーク来場者数
実施当初は、大谷区間の除雪が1車線であったことから、
4 月下旬の数日間、時間を限定したものであったが、平成
4.おわりに
12 年度からは、現在のように 2 車線除雪し、片側 1 車線を
立山有料道路の除雪は、積雪期における観光バス等の安全
歩行者専用として自由に散策できるようにしており、イベン
な通行を確保するため、先人の経験の積み重ねに加え、
ト開催期間も、現在は、アルペンルート全線開通日の 4 月
GPS など最新の技術、大型除雪機械の導入により、安全か
16 日から 6 月 22 日までとなっている。
つ迅速な除雪の実施に努めてきたところである。
平成 27 年春の北陸新幹線開業により、国内外からさらに
多くの観光客がアルペンルートを訪れることが予想されるこ
とから、これまで以上、しっかりと取り組んでいく必要があ
る。
また、除雪協力会社はもとより、山小屋関係者には最新の
気象情報の提供や宿泊の協力、立山黒部貫光㈱には資金面で
多大な協力を得るなど、アルペンルートに関係する様々な方
の協力があって成り立っており、関係者の皆様には、この場
をお借りして感謝申し上げます。
写真9 雪の大谷ウォーク
また、イベント来場者数は、イベント開催期間の拡大や富
山―台北便の就航により、近年急増しており、特に、台湾、
タイなど雪にあまりなじみがない地域の外国人観光客に人気
となっており、多い時には 1 日 1 万人が訪れている。
今シーズンの総来場者数は、過去最多の約 26 万人のお客
様にお越しいただいており、通算来場者数も今シーズンで
200 万人を達成するなど、今やアルペンルートの最大の見ど
ころとなっている。
もちろん日本人にとっても、非日常的な光景であり、ぜひ
一度はこの 20m に迫る雪壁の圧倒的な迫力と感動を体感し
に訪れていただきたい。
写真10 早春の立山有料道路