人工関節感染の診断と治療:米国感染症学会による実践的臨床ガイドライン 監訳のことば 2012 年 12 月、米国感染症学会(IDSA:Infectious Disease Society of America)から「人 工関節感染の診断と治療:米国感染症学会による実践的臨床ガイドライン」が公表された。 人工関節は QOL の改善に極めて有効である一方で、人工関節感染(prosthetic joint infection;PJI)は最も深刻な合併症である。PJI の治療のためには、抗菌薬の長期投与が 必要になることが多く、侵襲的な手術を 1 回のみならず何度も受けねばならない場合があ り、最悪の場合、肢切断や歩行不能に至ることもある。 PJI は、医療関連感染症(healthcare-associated infection;HAI)の1つである手術部 位感染症(surgical site infection;SSI)という側面を有し、予防が重要なことは論をまた ない。しかし、現在の医療では一生涯に発症するリスクは 1~2%でありゼロにはできない。 また、PJI の治療のための濃厚な医療曝露は、さらなる医療関連感染症のリスクにもなる。 本ガイドラインでは、整形外科医だけではなく、感染症科医や内科医など関係する様々 な専門家どうしの緊密なコラボレーションを推奨している。このガイドラインを利用する ことで、人工関節を有する患者のマネージメント(PJI を疑う段階を含む)の見通しがよく なり、ひいては予後の改善につながることが期待される。 本ガイドラインは欧米の専門家が集まって作成されたものである。当然だが、国によっ て患者背景、医療体制、治療方針には相違点がある。興味深いことに、本文中にあるよう に米国では 2 期的再置換術が好まれ、欧州では 1 期的再置換術が好まれる。日本での抗菌 薬に焦点をあてると、用法用量や承認状況が本邦では異なっており単純にガイドライン通 りの治療をあてはめることはできないだろう。PJI に特徴的な点として長期静注治療の必要 性があるが、外来静注抗菌薬療法(OPAT)ができるかどうかによって、患者の QOL 向上、 病院の在院日数短縮化、そして医療費抑制が達成できるかどうか変わってくる。 最後に、今回の翻訳で重視した点は2つある。1つ目は、感染症科医と整形外科医が共 同で翻訳作業に携わった点である。2 つ目は、感染症科医と整形外科医のお互いが不慣れな 専門用語を、巻末の用語集に整理・統一する形で監訳したことである。なお、SCVs という まれな細菌や chronic suppression という感染症治療の用語など、定まった日本語訳が存在 しないものはそのままにした。 PJI 診療は、コントロバーシャルの塊といってもいいぐらい議論を呼ぶ分野であるが、こ のガイドラインの存在が困難に直面したときに参考になると幸いである。 監訳者 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科部 久保健児 ●Translation Supervisor: Satoko Otsu, MD, MPH, DTMH, CTH Director, Division of Infectious Diseases Japanese Red Cross Society Wakayama Medical Center Kenji Kubo, MD Division of Infectious Diseases Japanese Red Cross Society Wakayama Medical Center ●Translators (text): Ryota Hase, MD Division of Infectious Diseases Kameda Medical Center Nobuhiro Komiya, MD, MPH, DTMH Division of Infectious Diseases Japanese Red Cross Society Wakayama Medical Center Kenji Nakatani, MD Terunobu Iwai, MD Sadaki Mitsuzawa, MD Division of Orthopedic Surgery Japanese Red Cross Society Wakayama Medical Center ●Translators (figures, tables): Hirosuke Nakata, MD Kohei Ohmune, MD Division of Infectious Diseases Japanese Red Cross Society Wakayama Medical Center The IDSA wishes to express its gratitude to Dr Hiroo Toyoda for his careful review of this translation. 米国感染症学会は、本翻訳についての詳細なレビューをしていただいた Hiroo Toyoda 博士 に対し感謝の意を表明する。 人工関節感染の診断とマネージメント:米国感染症学会の実践的臨床ガイドライン このガイドラインは人工関節感染の患者の治療に関わる感染症専門家、整形外科医やその 他の医療従事者のために作成された。人工関節感染の治療とマネージメントについてエビ デンスやオピニオンベースでの推奨を掲載している。治療としては、デブリードメントの みで人工関節を温存する治療法や、2 期的再置換術、1 期的再置換術、永久的人工関節抜去 術、切断術などが含まれる。 キーワード 人工関節感染(PJI) 、外科的治療、抗菌薬 エグゼクティブサマリー 背景 人工関節置換術は、患者の QOL の改善に非常に有効である。手術のメリットは、症状の 緩和、四肢・関節機能の回復、移動能力の改善、自立である。この手術の最も深刻な合併 症の一つが人工関節感染(Prosthetic joint infection:PJI)である。PJI のマネージメント は、ほぼ全例で外科的治療と長期抗菌薬治療(静注または経口)が必要になる [1-4]。莫 大な数の基礎研究や臨床研究が行われてきたにもかかわらず、PJI の定義、診断、マネージ メントについて、多くの疑問が未解決のままである。このガイドラインは、PJI に関する診 断および内科的・外科的治療についてのコンセンサスステートメントである。多くの状況 でガイドライン作成委員会はエキスパートオピニオン(専門家の意見)に基づいた推奨を 行っているが、これは、特定の推奨事項を支持できるだけのデータが限られており、また 臨床的な状況に対して同じように有効と考えられるさまざまな異なったプラクティスのパ ターンがあるためである。 PJI 患者のケアで必要不可欠な要素は、関係する内科的・外科的専門家(例 整形外科、 形成外科、感染症科、内科)全員の緊密な協力である。このガイドラインを参照すること で、PJI に関する合併症、死亡率、医療費を減らすことが期待されている。ガイドライン作 成委員会は、全医療機関が必ずしも、このガイドラインの推奨事項を実践するために必要 な資源を有しているとは考えていない。時には、適切な専門施設への紹介が必要な場合も ある。このガイドラインの各セクションは、クリニカルクエスチョン(clinical questions) の提示、推奨ナンバーと推奨事項、推奨事項を支持する最も関係のあるエビデンスの要約、 の順に示した。ガイドライン作成委員会は、他の IDSA ガイドラインの作成プロセスに従 い、エビデンスレベルと推奨グレード[5]のシステマティックな重みづけ(表 1)を使用し た。方法、背景、エビデンスサマリーの詳細はフルテキストに示した。コントロバーシャ ルな部分で、データが限られているか意見がわかれていてさらなる研究が必要な領域は、 この文章全体の中で示すとともに、ガイドラインのフルテキストの「今後の研究課題」の セクションで取り上げた。 表 1. 推奨の強さ・エビデンスの質 カテゴリー/グレード 定義 推奨の強さ A 使用すべきまたはすべきでないという推奨事項を裏付けるエビデンスが十分にある。 B 使用すべきまたはすべきでないという推奨事項を裏付けるエビデンスがある程度ある。 C 推奨事項を裏付けるエビデンスが不十分である。 エビデンスの質 Ⅰ 1件以上の適切な無作為化比較試験に基づくエビデンス Ⅱ 1件以上の適切にデザインされた非無作為化臨床試験、コホートまたは症例対照解析 研究(複数施設のデータが望ましい)、複数の時系列研究、または劇的な結果を示した 非対照試験に基づくエビデンス Ⅲ 臨床経験、記述的研究、または専門家委員会の報告に基づく権威ある専門家の意見 によるエビデンス 出典:[5]. カナダ公共事業・政府サービス省大臣の許可を得て転載・改変(2009). I.PJI を診断するために、どのような術前評価、術中検査を実施すべきか、また PJI の定義は何 か? 推奨 術前評価(図 1) 1. 次のような場合には、PJI を疑わなければならない(B-III) :①人工関節部位の廔孔の 存在や創部から排膿が続く場合、②急性発症の人工関節部の痛みを認める場合、③人工 関節置換術後に時期に関わらず、人工関節部に慢性的な痛みを認める場合(とくに痛み から解放された時間がなかった場合や、置換術後数年以内に慢性的な痛みを認める場合、 あるいは既往で人工関節部位の創傷治癒に問題があった場合や表層・深部感染の既往が あった場合で慢性的な痛み続く場合) 。 2. PJI を疑う場合には、詳細な病歴聴取と身体診察を評価項目に含めるべきである(C-III) 。 聴取すべき病歴項目として、人工関節の種類、人工関節置換術の施行日、当該関節の手 術歴、人工関節置換術後の創傷治癒に関わる問題、遠隔部位感染、現在の臨床症状、薬 剤のアレルギー歴と内服困難歴(drug intolerances) 、基礎疾患、穿刺・手術時に提出 した検体の最新の微生物検査結果、局所抗菌薬治療を含めた抗菌薬治療歴が挙げられる (C-III) 。 3. 臨床的に PJI の診断がはっきりしない場合には、PJI を疑う全ての患者で、赤血球沈降 速度(ESR)と C 反応性蛋白(CRP)を測定すべきである。ESR と CRP の異常値を 組み合わせることで最も優れた感度と特異度を示すと考えられる(A-III) 。 ●廔孔 または 創部から排膿が続く場合 ●急性発症の人工関節部の痛み ●慢性的な人工関節部の痛み 整形外科へ紹介 ●病歴と診察 ●人工関節の単純写真 ●赤沈とCRP ●血液培養* 感染疑い 感染を疑わない 関節穿刺で ・細胞数 ・白血球分画 ・好気培養・嫌気培養 感染疑い または 確定 手術を予定 感染を疑わない ●術中所見 ●病理組織* ●3~6検体の培養 ●人工関節の超音波処理* *詳細、定義は本文を参照 図1.術前および術中のPJIの診断 略語:CRP, C-反応性タンパク質 4. PJI を疑う全ての患者で、単純 X 線写真を撮影すべきである(A-III)。 5. 臨床的に PJI の診断が明らかで、手術が予定されており、かつ、抗菌薬投与を手術前ま で安全に待てる状況以外においては、PJI を疑う全ての患者で診断目的の関節穿刺を実 施すべきである。慢性的な人工関節部位の痛みを認める患者において、説明のつかない ESR や CRP の上昇がある場合(A-III)や、臨床的に PJI を疑う場合にも関節穿刺が 勧められる。ただ、同じような状況であっても、手術が予定されていて、検査の結果に よってマネージメントが変わらない場合には、関節穿刺は必要でないこともある。関節 液の検査項目には、 細胞数、 白血球分画、 好気培養・嫌気培養を含めるべきである (A-III) 。 臨床的に結晶性関節炎が鑑別になる場合は、関節液の結晶分析も提出する。 6. 患者の状態が安定している場合には、培養検査に関節液を採取する前に最低 2 週間抗菌 薬投与を控えることで、微生物の検出率を高めることができる(B-III) 。 7. 発熱や急性発症の症状を認める場合や、患者が他の感染を合併していたり、黄色ブドウ 球菌のような血流感染を起こしやすい原因菌を保有していたりするような状態であっ たり、または疑われるような状態である場合には、複数の血液培養(好気培養、嫌気培 養)を提出すべきである(B-III) 。 8. PJI の診断に、骨シンチグラフィ、白血球シンチグラフィ、MRI、CT、PET のような 画像検査はルーチンでは使用すべきではない(B-III) 。 PJI の術中診断 9. 人工関節周囲組織の術中病理組織診は、解釈に精通した病理専門医がいる場合には、非 常に信頼度の高い診断検査である。人工関節の再置換術時に病理組織診を行うべき状況 は、外科医が臨床的に感染を疑っていて、病理結果がマネージメントに影響を与えるよ うな場合である。それは、たとえば、1 期的再置換術を行うか 2 期的再置換術を行うか を決定する場合などである(B-III) 。 10. デブリードメントや人工関節抜去術を行う際には、微生物学的診断を得る確率を最大に するために、最低でも 3 つ、理想的には 5 つか 6 つの術中検体(人工関節周囲組織)あ るいは抜去した人工関節そのものを好気培養、嫌気培養に提出すべきである(B-II) 。 11. 可能であれば(6.を参照) 、術中の培養検査を提出する前に最低 2 週間抗菌薬投与を控 えることで、微生物の検出率を高めることができる(A-II) 。 PJI の定義 12. 人工関節とつながる廔孔(a sinus tract)を認めることは、PJI の明確な根拠(definitive evidence)である(B-III) 。 13. デブリードメントや人工関節抜去術時に提出された人工関節周囲組織の組織診を病理 専門医が確認し、急性炎症所見(acute inflammation)を認める場合には、PJI が強く 示唆(highly suggestive evidence)される(B-II) 。 14. 人工関節周囲に他の理由で説明できない化膿所見(purulence)があることは、PJI の 明確な根拠(definitive evidence)である(B-III) 。 15. 術中に提出した二つ以上の培養、または術前の穿刺液の培養と術中の培養において、同 じ微生物(属・種名の同定検査および通常の感受性検査により区別がつかない)を検出 した場合、PJI の明確な根拠(definitive evidence)と考えられる。単一の組織培養ま たは関節液培養から病原性の強い微生物(例 黄色ブドウ球菌)が発育した場合も、PJI が存在すると考えられる。複数の組織培養のうち一つだけ、または単一の穿刺液の培養 から、通常コンタミネーションと考えられる微生物(例 CNS、Propionibacterium acnes)を検出した場合には、PJI の明確な根拠と考えるべきではなく、それ以外の根 拠に基づいて評価を行うべきである(B-III) 。 16. 上記の基準を満たしていなくとも、PJI が存在することはありうる。臨床医は全ての術 前、術中の情報を見直し、各症例が PJI かどうかを臨床判断(clinical judgment)で見 極めるべきである(B-III)。 II.PJI 患者の治療で、どのような外科的治療戦略を検討すべきか? 推奨 17. 外科的治療に関する最終決定は、必要に応じて適切なコンサルテーション(例 感染症 科、形成外科)を行った上で、整形外科医が行うべきである。(C-III) 18. PJI を発症した患者で、人工関節の固定にゆるみがなく、かつ廔孔もなく、人工関節置 換術から約 30 日未満または感染症状の出現から 3 週間未満の場合には、人工関節を温 存したままのデブリードメントを検討すべきである(図 2;A-II) 。以上の基準は満たし ていないが、他の外科的治療ができないか、またはリスクが高い場合には、同じように 人工関節を温存したままのデブリードメントを検討してもよい。ただし、感染の再燃は より起こりやすい(B-III)。 症状の期間<3週間 もしくは 人工関節術後<30日 はい いいえ ●人工関節の固定性が確実 ●廔孔がない ●感受性をもつ経口抗菌薬が使える はい いいえ デブリードメントと人工関節の温存 人工関節抜去術** *抗菌薬はchronic suppressionやバイオフィルム感染の治療に 使用されるものが推奨される。(詳細は本文を参照) **図3・推奨18を参照し、例外的なポイントについてはエビデンスサマリーを 参照すること。 図2 PJIのマネジメント 患者の特徴** ●THA ●軟部組織が良好 ●術前に原因菌が同定されている ●良好な残存骨量 ●バイオアベイラビリティの良好な 経口抗菌薬に感受性がある ●抗菌薬含有骨セメントを固定用に使 える ●骨移植の必要がない 患者の特徴** ●軟部組織が不良 または ●微生物の治療が困難で & ●感染に対して2期的再置換術歴がない または 2期的再置換術歴があり失敗の 理由が判明している & ●2期的再置換術が技術的に可能 & ●良好な機能的予後が期待できる 1期的再置換術* はい いいえ *アメリカではあまり一般的ではない **相対的な適応は本文を参照 2期的再置換術 図4へ 図3 PJIのマネジメント-人工関節抜去術 略語: THA 人工股関節置換術 ●壊死性筋膜炎 または ●残存骨量が非常に少ない または ●軟部組織の被覆ができない または 失敗 または ●感染コントロールのために人工関節抜去術、 関節固定術を以前試みたが失敗 または ●内科的治療法がない または ●人工関節除去術、固定術よりも切断の方が機 能的に有益*⋀ いいえ はい 患者の基礎疾患により手術ができない* または 患者が手術を望まない* いいえ はい 人工関節抜去術や 関節固定術*⋀ 内科的治療のみ 切断術を考慮 専門病院へ紹介 *TKAもしくはTEAのみ適応 ⋀相対的適応は本文を参照 図4 再置換術の適応ではない患者におけるPJIのマネジメント 略語:TEA, 肘関節置換術、TKA, 膝関節置換術 19. 米国では 2 期的再置換術が一般的である。2 期的再置換術が適応となるのは、1 期的再 置換術の対象にならず全身状態的に複数回の手術ができる患者や、残存する軟部組織や 骨欠損の量から判断して外科医が人工関節の再置換術が可能と判断する患者である(図 3;B-III)。ガイドライン作成委員会としては、治療の成功率を評価するために、再置 換術前の ESR、CRP の測定を推奨している(C-III) 。ガイドライン作成委員会として は、最初の再置換術が失敗しても、状況によっては、その後の 2 期的再置換術も成功し うると考えている(C-III)。 20. 米国では PJI に対して 1 期的置換術は一般的ではないが、THA 後の PJI 患者で、術前 に原因菌が同定されていて、その原因菌がバイオアベイラビリティの良好な経口抗菌薬 に対して感受性があり、被覆に適した軟部組織がある場合、1 期的再置換術を考慮する ことがある。骨移植が必要で、有効な抗菌薬含有骨セメントが使えない場合には、失敗 のリスクがより大きい(図 3;C-III)。 21. 永久的人工関節抜去術を考慮してもよい場合とは、①歩行不能の患者、②残存骨量が少 ないか、被覆に必要な軟部組織に乏しい、または、抗菌薬の選択肢が限られる高度耐性 菌の感染の場合、③大手術を何回もできない全身状態、④2 期的再置換術に失敗し、再 び 2 期的再置換術をした場合の再発リスクが受け入れられない場合である (図 4;B-III) 。 22. 切断術は最後の選択肢ではあるが、症例によっては適切な場合もある。緊急性のある症 例を除いて、切断術を行う前に、PJI の治療の経験がある専門家のいる施設に紹介する ことが推奨される(図 4;B-III) 。 III.デブリードメントのみで人工関節を温存した後の内科的治療をどうするべきか? 推奨 ブドウ球菌による PJI 23. 原因菌別に最適な静注抗菌薬(表 2)とリファンピシン 300~450mg/回×1 日 2 回の併 用療法を 2~6 週間行った後に、リファンピシンと経口抗菌薬の併用療法を、THA の感 染では計 3 ヶ月、TKA の感染では計 6 ヶ月継続する(A-I) 。肘関節、肩関節、足関節 の感染では、THA の感染と同じやり方で治療してもよい(C-III)。リファピシンと併用 する経口抗菌薬は、シプロフロキサシン(A-I) 、レボフロキサシン(A-II)が推奨され る。①感受性試験結果、②アレルギー、③内服困難(intolerances) 、④内服困難疑いな どを理由にキノロン以外を考慮する場合、第二選択の併用薬としては、ST 合剤(A-II)、 ミノサイクリンやドキシサイクリン(C-III)、経口第 1 世代セファロスポリン(例 セ フ ァ レ キ シ ン )、 抗 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 用 ペ ニ シ リ ン ( 例 ダイクロキサシリン dicloxacillin;C-III)などがある。リファンピシンが、アレルギー、毒性、内服困難の ために使用できない場合には、ガイドライン作成委員会は原因菌に最適な静注抗菌薬に よる 4~6 週間の治療を推奨する(B-III)。 24. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II) 。 25. 経口抗菌薬による chronic suppression(長期抑制療法、以下 chronic suppression とす る)を投与期間を決めずに行う場合は、①感受性試験結果、②アレルギー、③内服困難 (intolerances)を考慮して、セファレキシン、ダイクロキサシリン dicloxacillin、ST 合剤、またはミノサイクリンといった上記のレジメンが使える(表 3;B-III) 。リファ ンピシン単独の chronic suppression は推奨されない。リファンピシンの併用による chronic suppression も一般的には推奨されない。ガイドライン作成委員の1人は、特 定の状況下において、リファンピシン併用の chronic suppression を行っている (A.R.B.) 。リファンピシンによる治療を行った後の chronic suppression に関しては、 全員が一致して推奨しているわけではない(W.Z.、D.L.)。chronic suppression を行う 場合、効果と毒性について、臨床症状と検査所見のモニタリングが勧められる。chronic suppression を行うかどうかの決断は、①治療初期の段階でリファンピシンを使用でき るかどうか、②人工関節のゆるみの進行や、残存骨量の減少の可能性、および③長期間 の抗菌薬投与による有害性など、患者の個々の状況を考慮しなければならない。したが って、chronic suppression は、更なる人工関節再置換術、人工関節抜去術、切断術が 適していないかまたは拒否した患者のためにとっておくのが一般的である。 他の微生物による PJI 26. 原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの高い経口抗菌薬によ る 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;B-II) 。 27. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II) 。 28. 経口抗菌薬による chronic suppression を投与期間を決めずに行う場合は、①感受性試 験結果、②アレルギー、③内服困難(intolerances)を考慮して、上記レジメン(表 3) が使える(B-III)。グラム陰性桿菌による PJI に対して、フルオロキノロンによる治療 を終えた後に chronic suppression をするかについては、全員が一致して推奨している わけではない(W.Z.、D.L.)。chronic suppression を行う場合、効果と毒性について、 臨床症状と検査所見のモニタリングが勧められる。chronic suppression の効果と有害 性に関しては,上述と同様に考慮する。 表2.PJIのコモンな原因菌に対する静注またはバイオアベイラビリティの良好な経口抗菌薬治療(本文に記載がない限 りB-Ⅲ) 微生物 第一選択薬 代替薬 オキサシリン Nafcillin 1.5–2 g 静注 4~6時間毎 感受性ブドウ球菌 (MSSA・MSCNS) a a コメント バンコマイシン 静注 15 mg/kg 12時間毎 リファンピジンに感受性がある または または 場合で、デブリードメントのみで セファゾリン 1–2 g 静注 8時間毎 ダプトマイシン 6 mg/kg 静注 24時間毎 人工関節を温存した場合または または または 1期的再置換術の場合における、 リネゾリド 600㎎ 経口または静注 12時間 リファンピシン併用療法に関す 毎 る推奨は本文を参照すること。 ダプトマイシン 6 mg/kg 静注 24時間毎 リファンピジンに感受性がある 耐性ブドウ球菌 または 場合で、デブリードメントのみで (MRSA・MRCNS) リネゾリド 600㎎ 経口または静注 12時間 人工関節を温存した場合または 毎 1期的再置換術の場合における、 b セフトリアキソン 1–2 g 静注 24時間毎 オキサシリン バンコマイシン 静注 15 mg/kg 12時間毎 c d リファンピシン併用療法に関す る推奨は本文を参照すること。 ペニシリン ペニシリンG 2000-2400万単位 静注 24時間 バンコマイシン 15 mg/kg 静注 12時間毎 4-6週。アミノグリコシドの追加 感受性腸球菌 毎 持続静注または6分割 または は選択肢。 (Penicillin-susceptible または ダプトマイシン 6 mg/kg 静注 24時間毎 バンコマイシンはペニシリンア Enterococcus spp.) アンピシリン12g 静注 24時間毎 または レルギーがある場合のみ。 持続静注または6分割 リネゾリド 600㎎ 経口または静注 12時間 毎 ペニシリン バンコマイシン 15 mg/kg 静注 12時間毎 リネゾリド 600㎎ 経口または静注 12時間 4-6週。アミノグリコシドの追加 耐性腸球菌 毎 は選択肢。 (Penicillin-resistant または Enterococcus spp.) ダプトマイシン 6 mg/kg 静注 24時間毎 緑膿菌(Pseudomonas セフェピム 2g 静注 12時間毎 シプロフロキサシン 750mg 経口1日2回 4-6週。アミノグリコシドの追加 aeruginosa) メロペネム 1g 静注 8時間毎 または400㎎ 静注 12時間毎 は選択肢。 またはセフタジジム 2 g 静注 8時間毎 2剤併用療法は患者の臨床状況に e 基づいて考慮されうる。スペーサ ーにアミノグリコシドを使用し た場合、原因菌がアミノグリコシ ドに感受性があれば、左記で推奨 した静注または経口薬の単剤療 法を行うことにより、ダブルカバ ー(2剤によるスペクトラムカバ ー)になる。 エンテロバクター属 セフェピム 2g 静注 12時間毎 シプロフロキサシン 750mg 経口 (Enterobacter spp.) Ertapenem 1g 静注 24時間毎 または400㎎ 静注 12時間毎 腸内細菌科 in vitroの感受性に基づきβラクタム系の静注 4-6週 4-6週 または シプロフロキサシン 750mg 経口 1日2回 β溶血性レンサ球菌 ペニシリンG 2000-2400万単位 静注 24時間 バンコマイシン 15 mg/kg 静注 12時間毎 (β-hemolytic 毎 持続静注または6分割 バンコマイシンはアレルギーが streptococci) または ある場合のみ。 4-6週 セフトリアキソン 2 g 静注 24時間毎 プロピオニバクテリウ ペニシリンG 2000-2400万単位 静注 24時間 クリンダマイシン 600~900mg 静注 8時間 4-6週 ム・アクネス(アクネ 毎 持続静注または6分割 毎または バンコマイシンはアレルギーが 菌;Propionibacterium または クリンダマイシン 300~450mg 経口 1日4 ある場合のみ。 acnes) セフトリアキソン2 g 静注 24時間毎 回 または バンコマイシン 15 mg/kg 静注 12時間毎 a 抗菌薬の用量は、患者の腎機能・肝機能に基づいて調整する必要がある。抗菌薬の選択は、in vitroの感受性だけでは なく、患者の薬物アレルギー、内服困難、薬物相互作用の可能性、禁忌に基づくべきである。有効性と安全性に関して の臨床症状・検査結果のモニタリングは、以前のIDSAのガイドラインを参照すべきである[6]。 フルオロキノロンの使用時は、QTc間隔の延長と腱断裂の可能性について話し合い、モニタリングするべきである。い かなる抗菌薬を使用する際もクロストリジウム・ディフィシル大腸炎の可能性について話し合っておく必要がある。 b フルクロキサシリンはヨーロッパで使われることがある。オキサシリンも代替として使える。 c メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対するセフトリアキソンの使用に関してコンセンサスはない(本文参照)。 d バンコマイシンの目標トラフ値は、原因菌と感受性、リファンピシンの使用やバンコマイシンの局所投与等にもとづ いて、現場の感染症科医師の指導の下で選択されるべきである。 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の治療のためのガイドラインが最近公開された。[155, 164] (これらのガイドラインでは、バンコマイシンの用量は、バンコマイシンのトラフ値が定常状態で15〜20となるように 投与することを推奨している。MRSAによるPJI治療において、リファンピンを併用しない場合や局所のバンコマイシン 含有スペーサーを使用しない場合は、この15~20というトラフ値が適切かもしれないが、リファンピンまたはバンコマ イシン含有スペーサーを併用する場合にこのような高いトラフ濃度が必要かは不明である。このような状況においては、 少なくとも10以上のトラフ値が適切かもしれない。またオキサシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)の 治療において、このような高いバンコマイシンレベルを目標とした用量が必要かも不明である) e 他の抗緑膿菌カルバペネムも同様に使える。 表3.chronic suppression に使用されるコモンな経口抗菌薬(本文に記載がない限り B-Ⅲ)a,b 微生物 第一選択薬 代替薬 オキサシリン感受性黄色ブドウ球菌 セファレキシン500mg 経口 1日3回または4回 ジクロキサシリン 500mg 経口 1 日 3 回または 4 回 (MSSA・MSCNS) または クリンダマイシン 300 mg 経口 1 日 3 回 セファドキシル 500mg 経口 1 日 2 回 アモキシシリン・クラブラン酸 500mg 経口 1 日 3 回 オキサシリン耐性黄色ブドウ球菌 ST 合剤 1DS 錠(訳注:日本の SS 錠では 2 錠) 経 (MRSA・MRCNS) 口1日2回 ミノサイクリン or ドキシサイクリン 100mg 経 口 1日2回 β 溶 血 性 レ ン サ 球 菌 ( β -hemolytic ペニシリン V 500mg 経口 1 日 2 回または 4 回 streptococci) または セファレキシン500mg 経口 1日3回または4回 アモキシシリン 500mg 経口 1 日 3 回 ペニシリン感受性腸球菌 ペニシリン V 500mg 経口 1 日 2 回または 4 回 (Penicillin-susceptible Enterococcus または spp.) アモキシシリン 500mg 経口 1 日 3 回 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa) シプロフロキサシン 250-500mg 経口 1 日 2 回 エ ン テ ロ バ ク タ ー 属 (Enterobacter コトリモキサゾール ST 合剤 1DS 錠(訳注:日本 spp.) の SS 錠では 2 錠) 経口 1 日 2 回 プロピオニバクテリウム・アクネス(ア ペニシリン V 500mg 経口 1 日 2 回または 4 回 セファレキシン 500mg 経口1日3回または4回 クネ菌;Propionibacterium acnes) または ミノサイクリン or ドキシサイクリン 100mg 経口 1 日 2 回 in vitro での感受性に基づいた経口βラクタム系抗菌薬 アモキシシリン 500mg 経口 1 日 3 回 a 抗菌薬の用量は、患者の腎機能・肝機能に基づいて調整する必要がある。抗菌薬の選択は、in vitroの感受性だけでは なく、患者の薬物アレルギー、内服困難、薬物相互作用の可能性、禁忌に基づくべきである。 b 有効性と安全性に関しての臨床症状・検査結果のモニタリングは、患者の担当医の臨床判断にもとづいて行うべきで ある。フルオロキノロンの使用時は、QTc間隔の延長と腱断裂の可能性について話し合い、モニタリングするべきであ る。いかなる抗菌薬を使用する際もクロストリジウム・ディフィシル大腸炎の可能性について話し合っておく必要があ る。 IV.2 期的再置換術を行うかどうかによらず、人工関節抜去術を実施した後の内科的治療は? 推奨 29. 原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの高い経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;A-II)。 30. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II)[6]。 V.1 期的再置換術を行った後の内科的治療は? 推奨 ブドウ球菌による PJI 31. 原因菌別に最適な静注抗菌薬とリファンピシン 300~450mg/回×1 日 2 回の併用療法を 2~6 週間行った後に、リファンピシンと経口抗菌薬の併用療法を計 3 ヶ月間投与するこ とが推奨される(表 2;C-III) 。リファンピシンと併用する経口抗菌薬は、シプロフロ キサシン(A-I) 、レボフロキサシンが推奨される(A-II)。①感受性試験結果、②アレ ルギー、③内服困難(intolerances)などを理由にキノロン以外を考慮する場合、第二 選択の併用薬としては、ST 合剤(A-II)、ミノサイクリンやドキシサイクリン(B-III) 、 経口第 1 世代セファロスポリン(例 セファレキシン) 、抗黄色ブドウ球菌用ペニシリ ン(例 ダイクロキサシリン dicloxacillin;C-III)などがある。アレルギー、毒性、内 服困難のために、リファンピシンが使用できない場合には、ガイドライン作成委員会は 原因菌に最適な静注抗菌薬による 4~6 週間の治療を推奨する。 32. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは公表されているガイドラインに従うべきである (A-II) 。 33. 経口抗菌薬による chronic suppression を投与期間を決めずに行う場合は、①感受性試 験結果、②アレルギー、③内服困難(intolerances)を考慮して、セファレキシン、ダ イクロキサシリン dicloxacillin、ST 合剤、またはミノサイクリンといった上記レジメ ンが使える(表 3;B-III) 。リファンピシン単独の chronic suppression は推奨されず、 リファンピシンの併用による chronic suppression も一般的には推奨されないが、ガイ ドライン作成委員の1人は、症例を選んでリファンピシン併用の chronic suppression を行っている(A.R.B.) 。リファンピシンによる治療を行った後の chronic suppression に 関し ては、 全員 が一致 して 推奨し てい るわけ では ない( D.L.、 W.Z)。 chronic suppression を行う場合、効果と毒性について、臨床症状と検査所見のモニタリングが 勧められる。chronic suppression を行うかどうかの決断は、①治療初期の段階でリフ ァンピシンを使用できるかどうか、②人工関節のゆるみの進行や、残存骨量の減少の可 能性、および③長期間の抗菌薬投与による有害性など、患者の個々の状況を考慮しなけ ればならない。したがって、chronic suppression は、更なる人工関節再置換術、人工 関節抜去術、切断術が適していないかまたは拒否した患者のためにとっておくのが一般 的である。 他の微生物による PJI 34. 原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの高い経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;A-II) 。 35. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II)[6]。 36. 経口抗菌薬による chronic suppression を投与期間を決めずに行う場合は、感受性試験 の結果、アレルギー、内服困難を考慮して、上記レジメン(表 3)が使える。グラム陰 性桿菌による PJI に対して、フルオロキノロンによる治療を終えた後に chronic suppression をするかについては、全員が一致して推奨しているわけではない(D.L.、 W.Z)。chronic suppression を行う場合、効果と毒性について、臨床症状と検査所見の モニタリングが勧められる(25.参照)。 Ⅵ.切断術(amputation)を受けた PJI 患者に対してどのように内科治療を行えばよいか。 推奨 37. 感染した骨・軟部組織がすべて切除出来ており、敗血症や菌血症を伴っていないと判断 されるようであれば、原因菌に最適な抗菌薬治療を、切断術後 24-48 時間まで行うべき である。敗血症や菌血症を伴っているような場合には、それらの病態に応じた治療期間 が必要である(C-Ⅲ) 。 38. 感染した骨・軟部組織を手術で十分に取り切ることが出来なかった場合(例 THA 感 染に対する腰の関節離断術(disarticulation)や、TKA のロングステムが切断レベルよ り上位に伸びてしまった場合)には、原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイ ラビリティの良好な経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;C-Ⅲ)。 39. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II)[6]。 緒言 人工関節置換術は患者の QOL の改善に非常に有効である。手術のメリットは、症状の緩 和、四肢・関節の機能回復、移動能力の改善、そして自立である。この手術の最も深刻な 合併症の一つが人工関節感染(Prosthetic joint infection:PJI)である。累積発症率は、 人工関節のタイプや初回手術か再置換術かでも異なるが、米国で 2009 年に行われた約 100 万件の初回の人工股関節置換術(total hip arthroplasties:THAs)と膝関節置換術(total knee arthroplasties:TKAs)のうち、約 1-2%の患者が後に PJI を発症していた[2、7-10]。 米国では 2030 年までに年間 400 万件の THA、TKA が行われるようになると見込まれてお り、PJI の数も増加していくと考えられる[11]。 PJI の診断は困難な場合もあり、血清学的検査、放射線画像検査、微生物検査など様々な 診断技術を駆使しなければならない。PJI の治療には多くの場合、手術と長期間にわたる静 注と経口の抗菌薬治療が必要となる[1-4]。PJI に関しては既に多くの基礎、臨床研究が行わ れているが、最適な診断戦略・マネージメントに関しては未だ一定の見解が得られていな い。このガイドラインの最大の目的は、現在のところ未解決となっている PJI の診断・治 療に関する問題に対して、コンセンサスを示すことである。多くの場面でガイドライン作 成委員会はエキスパートオピニオンに基づく推奨をしている。これは、特定の推奨を支持 する十分なデータが限られていたり、ある臨床上の問題については有効性において同等と 考えられるいろいろなやり方があったりするからである。 治療に関するアプローチで重要なのは、関係各科(整形外科医、形成外科医、感染症科 医、総合内科医など)の専門医の密接な協力である。このガイドラインに沿った診療を行 うことで PJI に関連した合併症、死亡率、コストを下げることが出来ることが期待される。 医療機関によってはこのガイドラインにある全ての推奨に従うことが出来ない場合もある ことと思う。場合によっては適切な医療機関に患者を紹介することが必要な状況もあるだ ろう。 ガイドライン作成委員会は以下のようなクリニカルクエスチョン(臨床上の問題点)に 言及した。 (Ⅰ) PJI を診断するために、どのような術前評価、術中検査を実施すべきか、また PJI の定義は何か? (Ⅱ) PJI 患者の治療で、どのような外科的治療戦略を検討すべきか? (Ⅲ) デブリードメントのみで人工関節を温存した後の内科的治療をどうするべきか? (Ⅳ) 2 期的再置換術を行うかどうかによらず、人工関節抜去術を実施した後の内科的治 療は? (Ⅴ) 1 期的再置換術を行った後の内科的治療は? (Ⅵ) 切断術(amputation)を受けた PJI 患者に対してどのように内科的治療を行えば よいか。 診療ガイドライン "診療ガイドラインとは、医師や患者がある特定の臨床的な状況に置かれた際に、適切に臨 床決断を下すための一助となる指針を系統的に述べたものである”[12]。優れたガイドライ ンであるために必要であるのは、妥当性、信頼性、再現性、臨床的適用可能性、臨床的柔 軟性、明瞭性、集学的な作業プロセス、エビデンスの吟味、および作業プロセスの明示で ある[12]。 方法論 作成委員会の構成 PJI を専門とする感染症科医、整形外科医の専門家を北米、欧州から招集した。作成委員は PJI に関する臨床および基礎研究の両方の経験を有している。 文献のレビューと分析 作成委員のうち 2 名(D.R.O.、E.F.B)が、公表されている文献のレビューを最初に行った。 1966 年から 2011 年までの MEDLINE のデータベース、 Cochrane library のデータベース、 MD Consult、Up to Date、National Guidelines Clearinghouse からの文献検索を何度も 行った。最新は 2011 年 4 月に"joint prosthesis"、"PJI"といった複数のキーワードを利用 して検索した。見つかった論文の引用文献についても手作業で検索を行った。 作成手順の概要 PJI のマネージメントに関するエビデンスを評価するに当たっては、他の米国感染症学会 (IDSA)ガイドラインと同様の手順に従った。まずエビデンスの質・推奨グレードの系統 的ランク付けを行った(表 1)[5]。PJI のマネージメントに関する推奨は、主に症例報告、 非ランダム化後方視的症例集積研究、それと 1 つの単施設ランダム化臨床試験の検討から 行われた。 エビデンスに基づくコンセンサス作成 作成委員会のうち 2 名(D.R.O.、E.F.B)が公表されている文献をレビューし、最初の草案 を作成した。この第一稿を電子媒体で全作成委員に回覧しレビューした。次にこの 2 名 (D.R.O.、E.F.B)がこれらのコメントをもとに再編集し、第 2 稿、第 3 稿が電子媒体でレ ビューされた。コンセンサスの一致を見なかった項目に関しては、作成委員の中で電子メ ール、電話会議上で、あるいは実際に会って検討を行った。全ての作成委員が最終稿の内 容に同意した。ピアレビューとして外部からのフィードバックを得て、そのコメントは全 作成委員によりレビューされ変更された。IDSA の基準・診療ガイドライン委員会(the IDSA Standards and Practice Guidelines Committee;SPGC)および理事会の評価、承認を受 けた後に公表された。 ガイドラインおよび利益相反 全作成委員は、IDSA の実際に、潜在的に、または明確な利益相反であると判断される金銭 的あるいはそのほかの利害関係を開示する方針に従った。専門家委員会のメンバーは IDSA の利益相反開示文書を手渡され、本ガイドラインの施行によって影響を受ける可能性のあ る製品を開発している企業との関係を開示するように求められた。雇用関係、コンサルタ ント関係、株式保有、謝礼金の受領、研究資金の受領、専門家としての証言、企業の顧問 委員の就任などの情報開示が要求された。作成委員会では利益相反により各メンバーの役 割を制限すべきかについて個々の事例ごとに判断した。利益相反の可能性が考えられる関 係を"付記”の項に記した。 今後の改訂時期 作成委員長、SPGC リエゾンアドバイザーおよび委員長が、毎年最近の文献を調査した 結果に基づき、ガイドラインの改定の必要性を決定する。必要であれば全作成委員が改訂 すべき点があるかどうか検討のため再び招集される。作成委員会は適宜、SPGC および IDSA の理事会にガイドラインの改訂を勧告し、その評価と承認を仰ぐ。 PJI の診断と治療に関する推奨事項 I.PJI を診断するために、どのような術前評価、術中検査を実施すべきか、また PJI の定義は何 か? 推奨 術前評価(図 1) 1. 次のような場合には、PJI を疑わなければならない(B-III) :①人工関節部位の廔孔の 存在や創部から排膿が続く場合、②急性発症の人工関節部の痛みを認める場合、③人工 関節置換術後に時期に関わらず、人工関節部に慢性的な痛みを認める場合(とくに痛み から解放された時間がなかった場合や、置換術後数年以内に慢性的な痛みを認める場合、 あるいは既往で人工関節部位の創傷治癒に問題があった場合や表層・深部感染の既往が あった場合で慢性的な痛み続く場合)。 2. PJI を疑う場合には、詳細な病歴聴取と身体診察を評価項目に含めるべきである(C-III) 。 聴取すべき病歴項目として、人工関節の種類、人工関節置換術の施行日、当該関節の手 術歴、人工関節置換術後の創傷治癒に関わる問題、遠隔部位感染、現在の臨床症状、薬 剤のアレルギー歴と内服困難歴(drug intolerances)、基礎疾患、穿刺・手術時に提出 した検体の最新の微生物検査結果、局所抗菌薬治療を含めた抗菌薬治療歴が挙げられる (C-III) 。 3. 臨床的に PJI の診断がはっきりしない場合には、PJI を疑う全ての患者で、赤血球沈降 速度(ESR)と C 反応性蛋白(CRP)を測定すべきである。ESR と CRP の異常値を 組み合わせることで最も優れた感度と特異度を示すと考えられる(A-III) 。 4. PJI を疑う全ての患者で、単純 X 線写真を撮影すべきである(A-III)。 5. 臨床的に PJI の診断が明らかで、手術が予定されており、かつ、抗菌薬投与を手術前ま で安全に待てる状況以外においては、PJI を疑う全ての患者で診断目的の関節穿刺を実 施すべきである。慢性的な人工関節部位の痛みを認める患者において、説明のつかない ESR や CRP の上昇がある場合(A-III)や、臨床的に PJI を疑う場合にも関節穿刺が 勧められる。ただ、同じような状況であっても、手術が予定されていて、検査の結果に よってマネージメントが変わらない場合には、関節穿刺は必要でないこともある。関節 液の検査項目には、 細胞数、 白血球分画、 好気培養・嫌気培養を含めるべきである (A-III) 。 臨床的に結晶性関節炎も疑われる場合は、関節液の結晶分析も行う。 6. 患者の状態が安定している場合には、培養検査に関節液を採取する前に最低 2 週間抗菌 薬投与を控えることで、微生物の検出率を高めることができる(B-III) 。 7. 発熱や急性発症の症状を認める場合や、患者が他の感染を合併していたり、黄色ブドウ 球菌のような血流感染を起こしやすい原因菌を保有していたりするような状態であっ たり、または疑われるような状態である場合には、複数の血液培養(好気培養、嫌気培 養)を提出すべきである(B-III) 。 8. PJI の診断に、骨シンチグラフィ、白血球シンチグラフィ、MRI、CT、PET のような 画像検査はルーチンでは使用すべきではない(B-III) 。 PJI の術中診断 9. 人工関節周囲組織の術中病理組織診は、解釈に精通した病理専門医がいる場合には、非 常に信頼度の高い診断検査である。人工関節の再置換術時に病理組織診を行うべき状況 は、外科医が臨床的に感染を疑っていて、病理結果がマネージメントに影響を与えるよ うな場合である。それは、たとえば、1 期的再置換術を行うか 2 期的再置換術を行うか を決定する場合などである(B-III) 。 10. デブリードメントや人工関節抜去術を行う際には、微生物学的診断を得る確率を最大に するために、最低でも 3 つ、理想的には 5 つか 6 つの術中検体(人工関節周囲組織)あ るいは抜去した人工関節そのものを好気培養、嫌気培養に提出すべきである(B-II) 。 11. 可能であれば(6.を参照) 、術中の培養検査を提出する前に最低 2 週間抗菌薬投与を控 えることで、微生物の検出率を高めることができる(A-II) 。 PJI の定義 12. 人工関節とつながる廔孔(a sinus tract)を認めることは、PJI の明確な根拠(definitive evidence)である(B-III) 。 13. デブリードメントや人工関節抜去術時に提出された人工関節周囲組織の組織診を病理 専門医が確認し、急性炎症所見(acute inflammation)を認める場合には、PJI が強く 示唆(highly suggestive evidence)される(B-II) 。 14. 人工関節周囲に他の理由で説明できない化膿所見(purulence)があることは、PJI の 明確な根拠(definitive evidence)である(B-III) 。 15. 術中に提出した二つ以上の培養、または術前の穿刺液の培養と術中の培養において、同 じ微生物(属・種名の同定検査および通常の感受性検査により区別がつかない)を検出 した場合、PJI の明確な根拠(definitive evidence)と考えられる。単一の組織培養ま たは関節液培養から病原性の強い微生物(例 黄色ブドウ球菌)が発育した場合も、PJI が存在すると考えられる。複数の組織培養のうち一つだけ、または単一の穿刺液の培養 から、通常コンタミネーションと考えられる微生物(例 CNS、Propionibacterium acnes)を検出した場合には、PJI の明確な根拠と考えるべきではなく、それ以外の根 拠に基づいて評価を行うべきである(B-III) 。 16. 上記の基準を満たしていなくとも、PJI が存在することはありうる。臨床医は全ての術 前、術中の情報を見直し、各症例が PJI かどうかを臨床判断(clinical judgment)で見 極めるべきである(B-III)。 エビデンスサマリー 診断:術前評価 PJI の分類は、人工物留置後の感染のタイミングと、考えられる感染経路に基づいたもの である[13、14]。この分類は、治療選択の臨床決断に際して役立つことがある。留置後 1~ 3 か月以内の感染は“早期型(early)”と分類され、留置後数か月から 1、2 年してから生じた 感染は“遅延型(delayed)”と分類される。両タイプとも人工物を留置する最中に感染するこ とが最も多いと考えられている。早期型感染はしばしば、局所症状として、蜂窩織炎、紅 斑、腫脹、痛み、排膿、創傷治癒遅延が起こり、発熱や悪寒といった全身症状は伴う場合 もあれば伴わない場合もある[4、15]。遅延型感染は、人工物を留置後何年かしてから生じ る慢性感染と同様に、通常明確な症状を示さず発症する。たとえば、全身症状を伴わない 慢性の痛みや人工物の緩みなどである。病歴や身体所見からは、感染のない人工物の緩み と区別することは難しい。 人工物の痛みはどんな痛みであっても PJI のことがあり得るが、 とくに留置後 2、3 年以内の痛みで明らかな機械的理由がない場合や、創傷治癒に問題があ った場合、表層や深部の感染の既往がある場合には、PJI をより疑うべきである。 留置後 1~2 年以上たってから生じた“晩期型(late)“感染は、人工物への血行性転移によ る感染か、留置時に感染していたものが遅れて発症したものと考えられる。血行性感染は、 留置後早期にも起こることもある[16]。晩期型感染でよくみられる特徴は、体のあらゆる部 位(例:皮膚軟部組織、呼吸器、尿路)に同時または最近の感染症がある状況下で、急性 発症の痛みを伴う急性化膿性関節炎症候群(acute septic arthritis syndrome)として発症 することである[13、14、16-18]。 PJI の診断の際、人工物の種類、留置の日付、関節の手術歴、臨床症状、薬のアレルギー と内服困難な薬剤歴、基礎疾患、PJI に対する過去または最近の抗菌薬治療歴(局所投与を 含む)などの情報を臨床医は集めるべきである[19、20]。 PJI の診断が不確かなときの診断の補助として、さまざまな血液検査や X 線検査がある [21-23]。単純 X 線写真はよく撮影されるが、感度・特異度は低い[24]。単純 X 線写真は、 皮質骨の瘻孔のような明らかな感染の証拠を認めることはめったにないが、慢性疼痛の他 の原因が明らかとなったり、診断・治療の経過観察のためのベースラインになったりする。 繰り返しの検査がもっとも有用かもしれない。CT、MRI、シンチ(FDG-PET を含む)は、 費用が高く検査できる施設が限られており、人工物による画像のアーチファクトもあるた め、他の検査に比べてめったに有用ではない[1、4、22]。使われるとすれば、テクネシウム 標識骨シンチと白血球シンチグラフィの併用がよく用いられる。その理由は、利用がしや すいことと、感度・特異度が妥当だからである。白血球数、CRP、赤沈の有用性について は、何人もの研究者によって長く議論されてきた[1、4、21、25、26]。こういった検査は、 感染の証拠、たとえば瘻孔があったり、急性化膿性関節炎があるような時には診断に必要 ではないのは明らかである。白血球数、CRP、赤沈は非特異的で、とくに人工物を留置し た直後や、炎症性関節炎がある場合は偽陽性であることが非常に多い[21]。これらの場面に おいて PJI を予測するカットオフ値は最近提案されているが、まだ検証が必要である[27]。 ベースラインとして利用できるならば、有用かもしれない。人工物の部位に痛みがあり、 慢性 PJI の疑いがある患者の評価には、CRP は赤沈よりも正確と考えられる[21、26、28、 29]。CRP と赤沈の両者が同時に陽性または陰性であれば、もっとも良い陽性予測値 (PPV) ・陰性予測値(NPV)が得られる[21、28-30]。IL-6 やプロカルシトニン値の有用 性のデータは非常に少ないが、IL-6 値は非常に有用と考えられる[26、31、32]。患者が発 熱していて臨床的に疑う状況や、他の感染症を合併している場合、あるいは菌血症を引き 起こしやすく転移性の感染症の原因になることが知られている微生物(たとえば黄色ブド ウ球菌)を保菌しているような場合は、菌血症の合併を除外するために血液培養検査を行 うべきである。たとえば、感染性心内膜炎の疑いがある患者や、ペースメーカー留置患者 の場合は、血液培養採取を考慮するのが妥当であり、感染性心内膜炎を疑う度合いによっ ては経食道エコーも行うべきである。 術前に穿刺した関節液を、細胞数、白血球分画、グラム染色、好気培養・嫌気培養検査 に提出するとよい。診断のための関節穿刺は、急性 PJI を疑ったら全例で行うべきである。 ただし、臨床上診断が明らかで、手術を予定していて、術前の抗菌薬投与を差し控えるこ とができる場合は、術前の関節穿刺は必須ではない。また、関節穿刺は、人工物に慢性の 痛みがある状況で、赤沈や CRP が上昇したり、臨床上 PJI を強く疑うような場合にも施行 すべきである。もし手術を予定しており、関節穿刺の結果が治療方針に影響しないならば 必要ないかもしれない[19、21、22、30、33]。基礎疾患に炎症性関節炎がなく、TKA から 6 か月以上経った状況において、TKA の感染を検出する感度は、カットオフ値を関節液中 の白血球分画で好中球 65%以上とすると 97%、関節液白血球数 1700 個/μL 以上とすると 94%である[34]。このカットオフ値は、人工関節がない状況で化膿性関節炎を示唆するカッ トオフよりずっと低い。最近のある研究によれば、THA に関連したすべての感染症患者の 中から PJI を検出するのに、カットオフ値を関節液白血球数 4200 個/μL とすると感度 84%、 特異度 93%であった [35]。他の人工物タイプにおける関節液白血球数の有用性については、 研究中である。関節液白血球数 27800 個/μL 以上、および分画の多形核白血球が 89%以上 であれば、術後早期に TKA の感染を予測できることが最近分かってきている[27]。したが って、細胞数から感染を予測するには、人工物の種類と、留置からの時間とを照らし合わ せて解釈しなければならない。 診断:術中評価 術中の人工物周囲組織の病理組織検査は、感度(>80%) 、特異度(>90%)とも比較的 高い。よって、術前評価で感染が確定できないときに、再置換術(revision arthroplasty) をすべきか人工関節抜去術(resection arthroplasty)をすべきかの決定にあたって、熟練 した病理学者がいる状況では病理検査が使える[21、30、36-38]。しかし、残念ながらこの 病理組織検査の結果は、感染がある部分を適切に採取できたかにも左右され、また、PJI 診断の経験がある病理医がすべての施設にいるわけではないので、各施設の病理医の専門 分野に左右される。最近の報告によると、病原性(virulence)が低い微生物によるものは 急性炎症が少ないとされる[39]。 PJI を適切に診断するために、少なくとも 3 個、できれば 5、6 個の人工物周囲の術中組 織検体を、執刀医が最も感染を疑う部位から採取し、好気培養・嫌気培養に提出すべきで ある[40、41]。5、6 個より少ない検体では、培養の感度を下げてしまう。人工物周囲組織 の培養期間は、標準化されていない。最適な培養期間はわからないが、14 日間まで培養期 間を延長すれば、原因微生物、とくに Propionibacterium spp.(プロピオニバクテリウム) を同定できる可能性が高まる。Propionibacterium は、人工肩関節置換(total shoulder arthroplasty:TSA)術後の感染の原因菌として一般的である[42]。新しい検体処理技術が 原因微生物の同定に役立つこともある[43]。可能であれば、検体採取前に少なくとも 2 週間、 抗菌薬投与を差し控えることで、検出率が上昇する[41]。再置換術の際の予防的抗菌薬を、 術中組織の培養の感度を上げるために差し控えるかどうかは、術前の PJI のリスクをもと に決めるべきである。病歴、診察、赤沈、CRP、そして術前の穿刺液からリスクが低いと 判断されたならば、予防的抗菌薬は標準的なガイドラインに沿って投与すればよい。PJI のリスクが高いのであれば、組織培養の検出率を最大にするために再置換術前の予防的抗 菌薬投与を差し控えることは、適切と思われる。摘出した人工物そのものを超音波処理 (sonication)して好気培養・嫌気培養に提出することも可能である。超音波処理は人工物 表面から細菌を回収するために使われ、従来の組織培養と比較して、好気培養・嫌気培養 の感度を改善することができる[41、44]。人工股関節・人工膝関節の PJI において、人工 物周囲組織 1 検体の培養の感度は、超音波処理を行った場合、処理を行わない場合と比べ て、78.5%対 60.8%(P<0.01)と高かったという報告がある[41]。この技術は真菌と抗酸 菌の分離については証明されていない。グラム染色は、診断検査としては組織検体の感度 が低いため有効ではないが、超音波処理された検体では感度が高くなる[40、41、45、46]。 他の場合と同様、検査室でのコンタミネーションによるグラム染色の偽陽性も報告されて いる[47]。グラム染色陽性で培養陰性という場合は、臨床医は事前の抗菌薬の使用も含めた 臨床情報を再検討し、細菌検査室とグラム染色の結果が抗菌薬治療の最適化に役立つかど うか議論して決める必要があるだろう。PCR 等による迅速診断検査は、ルーチンの臨床検 査として用いられていない [48-50]。 PJI の定義 何が PJI の構成要素なのか、標準化された定義はない。したがって、PJI の治療に関す る文献の解釈は難しい[51]。明確に PJI の診断ができるのは:①複数の人工物周囲の検体培 養から同じ菌が検出された場合、②超音波処理された人工物検体が陽性の場合、③メタル オンメタル(metal-on-metal;MOM)の関節置換術の失敗など他の原因がないのに人工物 周囲に膿が観察される場合[52]、④人工物に続く瘻孔を認めた場合である。典型的な感染の 所見や症状がないと PJI の診断はより困難である。たとえば、人工関節の緩みや関節痛は、 不顕性感染(occult infection)あるいは、非感染によっても起こりうる。病理医が病理組 織学検査で感染と矛盾しない急性炎症を認めた場合は、PJI を強く示唆するが、再置換術時 の人工物周囲組織における急性炎症の定義は単一ではなく、病理医の間でも解釈にきわめ て幅があるので、注意すべきである [21、36-38、53]。ガイドライン作成委員会は、術中検 体のうち 2 つ以上の培養が陽性であれば、PJI の明確な根拠(definitive evidence)になる と考える。Atkins らの研究によると、3 つ以上の培養が陽性であれば、PJI であるかどう かの検査後確率が最良になることが示されている。しかし同時に、股関節・膝関節の再置 換術の際、術中検体培養が 2 つ陽性であった場合、感染の病理組織学的所見と比較して、 感度・特異度は許容できることも示している [40]。この場合、検査室に非現実的な量の検 体を提出せずにすむ。1検体の人工物周囲組織培養だけ陽性で、コンタミネーションとし てよくみられる細菌(例:コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Propionibacterium)が検出され たときは、必ずしも PJI の明確な根拠(definitive evidence)と考えるべきではなく、他に 得られた証拠を組み合わせて評価すべきである[40、51]。臨床医は、PJI があるのかどうか 明確でないときは臨床判断(clinical judgment)をすべきであり、病歴や診察、術前・術 中検査を再検討して感染があるかどうかを決定すべきである。 II.PJI 患者の治療で、どのような外科的治療戦略を検討すべきか? 推奨 17. 外科的治療に関する最終決定は、必要に応じて適切なコンサルテーション(例 感染症 科、形成外科)を行った上で、整形外科医が行うべきである。(C-III) 18. PJI を発症した患者で、人工関節の固定にゆるみがなく、廔孔もなく、人工関節置換術 から約 30 日未満または感染症状の出現から 3 週間未満の場合には、人工関節を温存し たままのデブリードメントを検討すべきである(図 2;A-II) 。以上の基準は満たしてい ないが、他の外科的治療ができないか、またはリスクが高い場合には、同じように人工 関節を温存したままのデブリードメントを検討してもよい。ただし、感染の再発はより 起こりやすい(B-III) 。 19. 米国では 2 期的再置換術が一般的である。2 期的再置換術が適応となるのは、1 期的再 置換術の対象にならず全身状態的に複数回の手術ができる患者や、残存する軟部組織や 骨欠損の量から判断して外科医が人工関節の再置換術が可能と判断する患者である(図 3;B-III)。ガイドライン作成委員会としては、治療の成功率を評価するために、再置 換術前の ESR、CRP の測定を推奨している(C-III) 。ガイドライン作成委員会として は、最初の再置換術が失敗しても、状況によっては、その後の 2 期的再置換術は成功す ると考えている(C-III) 。 20. 米国では PJI に対して 1 期的置換術は一般的ではないが、THA 後の PJI 患者で、術前 に原因菌が同定されていて、その原因菌がバイオアベイラビリティの良好な経口抗菌薬 に対して感受性があり、被覆に適した軟部組織がある場合、1 期的再置換術を考慮する ことがある。骨移植が必要で、有効な抗菌薬含有骨セメントが使えない場合には、失敗 のリスクがより大きい(図 3;C-III)。 21. 永久的人工関節抜去術を考慮してもよい場合とは、①歩行不能の患者、②残存骨量が少 ないか、被覆に必要な軟部組織に乏しい、または、抗菌薬の選択肢が限られる高度耐性 菌の感染の場合、③大手術を何回もできない全身状態、④2 期的再置換術に失敗し、再 び 2 期的再置換術をした場合の再発リスクが受け入れられない場合である (図 4;B-III) 。 22. 切断術は最後の選択肢ではあるが、症例によっては適切な場合もある。緊急性のある症 例を除いて、切断術を行う前に、PJI の治療の経験がある専門家のいる施設に紹介する ことが推奨される(図 4;B-III) 。 エビデンスサマリー 最もよく行われる PJI の外科的治療は、①デブリードメントメントのみで人工関節を温 存する治療(debridement with prosthesis retention)、②1 期的再置換術(1-stage exchange) または 2 期的再置換術(2-stage exchange) 、③人工関節抜去術(resection arthroplasty) 、 ④関節固定術(arthrodesis) 、そして⑤切断術(amputation)がある[54]。これらの外科的 治療のどれが最適な選択かについて検討したランダム化臨床試験はない。現在入手できる データは、単施設での比較のないコホート研究と、これらのコホート研究をもとにした決 定分析(decision analysis)[55]である。感染症科医は、個々の患者ごとの外科的マネージ メント戦略を最終決定するために、整形外科医と緊密に治療にあたるべきである。 外科的マネージメントを患者ごとに最終決定するにあたって、影響を与える因子は数多 くある。たとえば、①症状の期間、②人工関節年齢(joint age) 、③早期 early・遅延 delayed・ 晩期 late、④原因菌とその感受性パターン、⑤人工関節の安定性、⑥基礎疾患などがある。 他にも、⑦人工関節周囲の軟部組織の性状、⑧抜去術後に再建手術ができるかどうか、⑨ 臨床医の専門的経験、⑩患者の考え方なども影響する。 ガイドライン作成委員会は、THA と TKA の外科的治療に関して入手可能な限りの公表 されているデータをレビューした。図 1~3 は、それらのデータと作成委員会のエキスパー トオピニオンに基づいて作成した外科的マネージメントの初期アルゴリズムである。最終 的な手術決定は、患者とよく相談した上で整形外科医によって判断される。 感染した人工物を抜去しない場合のデブリードメントは、直視下関節切開もしくは関節 鏡で施行が可能である。直視下関節切開は、広範なデブリードメントとポリエチレンライ ナーの交換が可能であり、これがもっとも実績のある方法である。関節鏡下のデブリード メントは、直視下関節切開と比較してアウトカムが悪いという結果が増えている[62、76]。 感染した人工物を抜去しない場合のデブリードメントの成功率は、14~100%である[56–58、 60–62、64、66–74、76–78、81–84]。この外科手術の結果は、術後早期(30 日以内)の PJI で固定が良好である場合や、血行性感染で症状発症から短期間しかたっていない場合に、 特に良好である。治療失敗のリスクが増加する報告があるのは、瘻孔のある患者の場合や [2,67]、黄色ブドウ球菌でリファンピシンの併用療法をしなかった場合や[67]、MRSA、グ ラム陰性菌[85-90]といった特定の原因菌による感染症の場合である。デブリードメントの みで人工関節を温存して治療に失敗した場合は、すでに示した PJI の定義を満たすことに なり、患者にとって耐えがたい痛みが遷延することになる。アルゴリズムに基づいてマネ ージメントすることは、良好なアウトカムをもたらすと考えられ、ガイドライン作成委員 会ではそれを推奨しているが、アルゴリズムは他にもいくつかあり、どんな状況であって もそれぞれの患者に応じた判断をすべきである[2、80、83、85、88、91]。最近の研究で、 デブリードメントを行い人工物を温存した治療に失敗したあと 2 期的再置換術を行った場 合は、アウトカムがより悪いかもしれないと報告されている。このデブリードメントを行 い人工物を温存した治療の全体的な有用性を決定するには、さらなる臨床データが必要で ある[84、92]。 1 期的再置換術の内容は、全ての人工物のパーツと骨セメント(ポリメタクリル酸メチル、 polymethylmethacrylate:PMMA)の除去と、壊死した骨・軟部組織のデブリードメント、 人工物の抜去、そして新しい人工物の挿入である。この方法は、THA の感染に対し 80~90% の成功率であり、成功するかどうかはデブリードメントの達成度によることが多い[93–95]。 新しい人工関節の固定には、抗菌薬含有セメントを使用している場合がほとんどである[94、 96]。最近の決定分析の論文では、2 期的再置換術よりも 1 期的再置換術の方がよいとして いる[95]。THA 以外の人工関節や、抗菌薬含有セメントではなく骨移植を行う場合では、 この 1 期的再置換術に関するデータは非常に少ない[94、97–99]。また THA の感染におい ては、1 期的再置換術の有用性に関する論文は、アメリカよりもヨーロッパからの報告の方 が多い。この違いの理由は、アメリカでは適応になる患者数が少ないからかもしれない[100]。 論文で報告されている 1 期的再置換術の適応基準は、患者が比較的健康であり、十分な骨 軟部組織が残っていて、治療しやすい原因菌の場合などである。治療しやすい原因菌とは、 一般的にはレンサ球菌(streptococci)のことであり、①腸球菌(enterococci)、②メチシ リン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitive staphylococci;MSSA) 、③緑膿菌以外 のグラム陰性菌(nonpseudomonal gram-negative organisms)は、該当しない。腸球菌と 真菌は、SVCs(small colony variants)による感染と同様に、治療困難なものと考えられ ている[2、88、94、101]。ガイドライン作成委員会は、少なくとも原因菌は経口抗菌薬に 対して感受性で、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能:bioavailability)がとても優 れていなければならないと考えられる。瘻孔のある患者に対する 1 期的再置換術は、一般 的には推奨されない。1 期的再置換術の潜在的なメリットは、患者にとっても医療全体にと っても追加手術が減ることであり、それにより合併症の割合とコストが低減できる[91、95]。 アメリカでは、2 期的再置換術は、人工物の緩みを伴う慢性の PJI の治療に対して最もよ く施行されている[102-116]。最近のレビューでは、全体の成功率は 87%である。2 期的再 置換術は、感染した人工関節のパーツとセメントの除去、および感染した人工関節周囲組 織のデブリードメントからなる。局所治療として抗菌薬含有セメントや抗菌薬含有デバイ スがよく使用されている。抗菌薬含有セメントは、手術前または手術中に、外科医が手術 室内で抗菌薬と混合する。非常に稀ではあるが、この局所の抗菌薬投与が全身性の毒性を 持つ可能性があることを知っておくべきである[112、115]。抗菌薬含有のスペーサー(非可 動性・可動性)は、人工物を永久的に温存するまでの期間、死腔を埋め、局所抗菌薬治療 を行うのによく用いられる[108、117]。ガイドライン作成委員の中には、MRSA・SCVs・ 真菌の感染では、スペーサー使用を推奨しないメンバーもいる。その理由は、感染の根治 において有害と考えられるからである(W.Z.)[2、118]。MRSA による PJI に、スペーサ ーを使用して成功した報告もある[119]。人工関節抜去術から再置換までの期間は、著しく 幅があり 2 週間から数カ月である。抗菌薬含有セメントとスペーサーを使用するかどうか は、ランダム化比較試験で評価されていない[105、108]。全身的抗菌薬投与は、多くのセ ンターで人工関節抜去後 4~6 週間投与されている(表 2)。限られた施設のみだが、抗菌薬 の最適量を知るために血清殺菌試験(serum bactericidal test)を行っているところもある。 しかし、ガイドライン作成委員の中でこの検査の使用経験のある委員はいなかった[120]。 人工関節を抜去してから、数週~数か月後が、新しい人工物を挿入する第 2 期(a delayed or second stage)となるが、このタイミングは人工物のタイプによって異なる。セメント を併用できるかは技術的な問題によって異なる。米国 FDA は、再置換術時の固定としてい くつかのアミノグリコシド含有セメントを承認している[107]。 2 期的再置換術の最適な患者とは、慢性感染で、十分な骨量が残存していて、少なくとも 2 回の手術を受ける意志があって、医学的に問題がない場合である[2、4、121–123]。瘻孔 があったり、MRSA・腸球菌・カンジダ属のような治療困難な微生物の感染の場合も、2 期 的再置換術は適応可能である。以前のコホート研究では、抜去後 3 週間以内の早期の再置 換術は、失敗率が高かった[110]。ヨーロッパでのコホート研究では、抜去後 2~6 週間以内 の再置換術で良好なアウトカムが得られたが、これは、MRSA・腸球菌・多剤耐性グラム 陰性菌以外の感染という限られた状況で、全身的な抗菌治療を行った場合である[2]。4~6 週間の静注抗菌薬療法と、その後 2~8 週間の抗菌薬中止期間を経た後に、待機的に再挿入 を行うと成功率は非常に高い。この方法は、アメリカでよく用いられている[13、104、106、 120]。可動性スペーサーを用いることによって、患者の機能的アウトカム(functional outcome)を損なう事なく、抗菌薬中止期間をより延長することができる。より最近のケー スシリーズでは、抗菌薬含有スペーサーを使用して静注抗菌薬療法を非常に短期間のみ施 行、もしくはまったく行わずに、良好な結果を得たという報告があるが、ガイドライン作 成委員会は現時点で推奨しない[109、113]。より早期の再置換、もしくは可動式スペーサー の使用により、特に膝関節において機能改善を認めている。 人工関節抜去術から再置換術までの期間に、臨床的評価と検査結果に基づいて感染の残 存がないかを評価するとよい。さらに再置換術の際には、術中所見と人工関節の周囲組織 の病理検査に基づいて、感染の残存がないか評価できる。ガイドライン作成委員会は、再 置換術の前に、 治療の成功を評価するために術前の赤沈と CRP を検査するように推奨する。 CRP と赤沈の上昇が持続する場合は、人工関節抜去術後の PJI 遷延を正確に反映しないか もしれないという最近の研究があるが、再置換術のタイミングを決定するにあたって、追 加のデブリードメントが必要かどうかは臨床の全体像を考慮して解釈すべきである [124–126]。再置換術の前に関節液検査と関節穿刺液の培養を行うことを推奨する研究者も いる[125-127]。ガイドライン作成委員会は、すべての患者で関節穿刺をするのは賛成しな いが、臨床的に感染の遷延が懸念される場合、症例によっては使えると考えている。2 期的 再置換術の第 2 期(再置換時)に、術前検査および外科医と病理医の術中所見結果から急 性炎症が疑われた場合は、基本的にはデブリードメントが追加される[53]。もし、2 期的置 換術の終了後に感染が再発したとしたら、2 回目の 2 期的再置換術は1回目より成功率が低 い[102, 116, 128–130]。しかし、ガイドライン作成委員会は、状況を選べば、2 回目の 2 期 的再置換術も成功しうると考える。 永久的人工関節抜去術(Permanent resection arthroplasty)では、感染した人工関節の 抜去を行うが、 再置換術は行わない[94、131–136]。 TKA の抜去術の後、荷重 (weight bearing) に耐えうる関節固定をすることもある。関節固定術は、外固定(an external fixator)もし くは髄内釘(intramedullary nail)によりなされる[137、138]。最近では、永久的人工関 節抜去術の適応は限られている。これらが有用なのは、①歩行不能の患者、②残存骨量が 少ない、③被覆に必要な軟部組織に乏しい、④薬物治療が無効または効きにくい高度耐性 菌の感染の場合、⑤全身状態から判断して大手術は困難な場合、⑥2 期的再置換術に失敗し 再び 2 期的再置換術をしても再発の危険性が高くて受け入れられない患者である。永久的 人工関節抜去術は、歩行可能な患者でも切断を回避するためにしばしば行われる。通常、 この手術後は、静注抗菌薬療法または、高いバイオアベイラビリティを有する経口抗菌薬 療法を 4~6 週間行う。これによる感染の根治率は 60~100%であるが、2 期的再置換術で 報告されている成功率よりは低い。この成功率の低さの違いは、選択バイアスによるもの かもしれない。 切断術を要するかもしれない状況は限られているが、①デブリードメントのみでは反応 しないような壊死性筋膜炎がある場合、②深刻な骨量減少、③軟部組織による被覆が不十 分か不可能、④最初の人工関節抜去術後も感染コントロールが困難な場合では、切断術が 考慮される。また、⑤人工関節の抜去術・関節固定術よりも切断術の方が、長期的にみて 機能的アウトカムが良いと考えられる場合にも、切断術を考慮すべきである(たとえば歩 行不能患者など)。 III.デブリードメントのみで人工関節を温存した後の内科的治療をどうするべきか? 推奨 ブドウ球菌による PJI 23. 原因菌別に最適な静注抗菌薬(図 2)とリファンピシン 300~450mg/回×1 日 2 回の併 用療法を 2~6 週間行った後に、リファンピシンと経口抗菌薬の併用療法を、THA の感 染では計 3 ヶ月、TKA の感染では計 6 ヶ月継続する(A-I) 。肘関節、肩関節、足関節 の感染では、THA の感染と同じやり方で治療してもよい(C-III)。リファピシンと併用 する経口抗菌薬は、シプロフロキサシン(A-I) 、レボフロキサシン(A-II)が推奨され る。①感受性結果、②アレルギー、③内服困難(intolerances) 、④内服困難疑い、など を理由にキノロン以外を考慮する場合、第二選択の併用薬としては、①ST 合剤(A-II)、 ②ミノサイクリンやドキシサイクリン(C-III)、③経口第 1 世代セファロスポリン(例 セファレキシン)、④抗黄色ブドウ球菌用ペニシリン(例 ダイクロキサシリン dicloxacillin;C-III)などがある。リファンピシンが、アレルギー、毒性、内服困難の ために使用できない場合には、ガイドライン作成委員会は原因菌に最適な静注抗菌薬に よる 4~6 週間の治療を推奨する(B-III)。 24. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II) 。 25. 経口抗菌薬による chronic suppression(長期抑制療法、以下 chronic suppression とす る)を投与期間を決めずに行う場合は、①感受性結果、②アレルギー、③内服困難 (intolerances)を考慮して、セファレキシン、ダイクロキサシリン dicloxacillin、ST 合剤、またはミノサイクリンといった上記のレジメンが使える(表 3;B-III) 。リファ ンピシン単独の chronic suppression は推奨されない。リファンピシンの併用による chronic suppression も一般的には推奨されないが、ガイドライン作成委員の1人は、 症例を選んでリファンピシン併用の chronic suppression を行っている(A.R.B.) 。リフ ァンピシンによる治療を行った後の chronic suppression に関しては、全員が一致して 推奨しているわけではない(W.Z. D.L.)。chronic suppression を行う場合、効果と毒性 について、臨床症状と検査所見のモニタリングが勧められる。chronic suppression を 行うかどうかの決断は、①治療初期の段階でリファンピシンを使用できるかどうか、② 人工関節のゆるみの進行や、残存骨量の減少の可能性、および③長期間の抗菌薬投与に よる有害性など、患者の個々の状況を考慮しなければならない。したがって、chronic suppression は、更なる人工関節再置換術、人工関節抜去術、切断術が適していないか または拒否した患者のためにとっておくのが一般的である。 他の微生物による PJI 26. 原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの高い経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;B-II) 。 27. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II) 。 28. 経口抗菌薬による chronic suppression を投与期間を決めずに行う場合は、①感受性結 果、②アレルギー、③内服困難(intolerances)を考慮して、上記レジメン(表 3)が 使える(B-III) 。グラム陰性桿菌による PJI に対して、フルオロキノロンによる治療を 終えた後に chronic suppression をするかについては、全員が一致して推奨しているわ けではない(W.Z.、D.L.) 。chronic suppression を行う場合、効果と毒性について、臨 床症状と検査所見のモニタリングが勧められる(25.参照) 。 エビデンスサマリー ブドウ球菌によるPJIに対してデブリードメントのみで人工関節を温存した場合、ガイド ライン作成委員会は、βラクタム系抗菌薬もしくはバンコマイシンのいずれかとリファン ピシンの併用療法を2~6週間推奨している。ただし条件として、原因菌がこれらの抗菌薬 に対して感受性であり、さらにリファンピシンが安全に使用できる場合である(表2)[74、 78]。リファンピシンは、常に他の抗菌薬と併用で使用すべきである。というのもリファン ピシンの活性はバイオフィルム形成に対してであり、単剤使用すれば高率に耐性をもつよ うになるからである[2、77、143]。ブドウ球菌がオキサシリン感受性であれば、ナフシリ ン、オキサシリン、セファゾリンが、リファンピシンと併用する静注薬として適している。 オキサシリンに感受性のブドウ球菌に対するセフトリアキソンの使用は別記する(IV.人工 関節抜去術の項目参照) 。オキサシリン耐性のブドウ球菌であれば、バンコマイシンがリフ ァンピシンと併用する薬剤として第1選択である。オキサシリン耐性かつバンコマイシン 耐性のブドウ球菌の場合や、患者がこれらの薬剤にアレルギーや副作用があって使えない 場合、代替薬はダプトマイシンまたはリネゾリドである[88、144–148]。バンコマイシンの 副作用はよく知られていて、白血球減少、耳毒性、まれには腎毒性といったものがある。 一方、リネゾリドで覚えておかねばならない副作用は、血球減少、末梢性ニューロパシー、 視神経炎、モノアミンオキシダーゼ阻害薬・選択的セロトニン再取り込み阻害薬を併用し た場合のセロトニン症候群、乳酸アシドーシスである[149–155]。また、リネゾリド開始前 に貧血がある患者は、重症の貧血もより多く認めることがある[156]。さらに、リファンピ シンの併用により、リネゾリドの濃度が低下する可能性を示した報告もある[150]。しかし、 このリネゾリドとリファンピシンの併用は、ヒトでも実験モデルでも有効であったという 別の報告もある[147、157]。ダプトマイシンに関しては、報告されている実績はさらに少 ない。ダプトマイシンの副作用として、横紋筋融解症、ニューロパシー、好酸球性肺炎が あり、モニタリングが重要である[6、164]。ダプトマイシンを使用する場合、可能であれば スタチンを中止する。ダプトマイシンで治療中に、ダプトマイシン耐性の出現も起こって いる[163、165]。ダプトマイシン耐性の出現は、最近の実験モデルでは認められなかった [158]。さらに、ヒトでいえば6mg/kg相当の用量でダプトマイシンとリファンピシンを併用 しても、リファンピシンに対する耐性も出現しなかった。ブドウ球菌以外のPJIに対して、 デブリードメントで人工関節を温存した場合、ガイドライン作成委員会は、感受性検査の 結果に基づいて、表2に示した静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの優れた経口薬に よる治療を開始するのは妥当と考える。デブリードメントで人工関節を温存した後に、好 気性グラム陰性菌の感染で感受性があればキノロン系抗菌薬の使用はアウトカムを改善す るかもしれない[166、167]。 ブドウ球菌による整形インプラント感染において、デブリードメントを行い人工物を温 存した場合に、キノロンとリファンピシンの併用療法が有用かを評価したランダム化比較 試験が1つある。これは、感受性のあるブドウ球菌による PJI と骨折内固定材料の感染が 対象であった[78]。ITT 解析では統計学的有意差はなかったが、治療を完遂できた患者では シプロフロキサシンとリファンピシンの併用が統計学的に有益であった。最近のコホート 研究でも、シプロフロキサシンとリファンピシンの併用療法の高い有効性が示されている [62]。全ての抗菌薬と同様に、キノロンの副作用(腱障害、QTc 延長)とリファンピシンの 副作用(肝炎、重篤な薬物相互作用)のモニタリングは重要である。また別のコホート研 究によると、レボフロキサシンもブドウ球菌の PJI に対して安全性と有効性が示されてお り、その優れた in vitro 抗ブドウ球菌活性から、感受性菌に対して使われやすいかもしれな い。キノロンに耐性の場合、リファンピシンと併用できる内服薬は、感受性があれば、ST 合剤、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、セファレキシンのような経口第1世代セファ ロスポリンが選択肢となる。ヨーロッパでは、リファンピシンとの併用薬として、フシジ ン酸も使用されてきた[57]。リファンピシン併用の経口抗菌薬は有用で、合計 3-6 ヶ月で治 療を終了できる(THA 感染では 3 ヶ月、TKA 感染では 6 ヵ月) 。 経口抗菌薬による chronic suppression(長期抑制療法) デブリードメントを行い人工関節を温存する場合、ガイドライン作成委員会としては次 のような状況では chronic suppression を行うことには賛成しない。それは、①非ブドウ球 菌の PJI において静注抗菌薬療法をした場合や、②ブドウ球菌感染による PJI で、リファ ンピシンと、キノロンや他の薬を併用して 3-6 ヵ月間投与した場合である。ガイドライン作 成委員の中には、①リファンピシン併用療法後に全く chronic suppression をしない人 (D.L.、 W.Z.)がいる一方で、②デブリードメントを行い人工関節を温存した場合、患者が問題な く内服できるのであれば、全例において chronic suppression を推奨する人や、③選択的に 使用する人もいる。たとえば、高齢者や免疫抑制患者、ブドウ球菌の PJI でリファンピシ ンを併用できなかった場合、非ブドウ球菌の PJI で高齢の場合、基礎疾患のために追加手 術が不可能な場合、治療が失敗した場合に肢切断になってしまう可能性がある場合などで ある。リファンピシン単独やリネゾリドは、漠然と chronic suppression に用いるべきでは ない。chronic suppression としてリファンピシン併用療法もまた一般的には推奨されない が、症例を選んで chronic suppression にリファンピシン併用療法を用いる委員(A.R.B.) もいる[62]。表 3 に chronic suppression に用いられる抗菌薬のサマリーを示す。 経口薬による chronic suppression ができない場合や中止する場合には、中止した時点で 治療失敗のリスクが 4 倍に増加し、中止後 4 カ月以内が最も治療失敗のリスクが高いとい う最近の報告がある[62]。しかしこの研究では、chronic suppression を中止した患者の大 半は治療に成功しており、患者の多くは chronic suppression がなくても治癒するが、その 患者群を特定するのは困難であると述べられている[62]。したがって、このようなケースの 場合は、内服中止後早期の治療失敗がないかをフォローすることが重要である。この論文 の著者らは、患者の大半に少なくとも 6 ヵ月の静注または経口抗菌薬が投与されている点 も指摘している。若年患者に chronic suppression を用いるかは賛否両論だが、症例に応じ て施行するべきであろう。chronic suppression をする患者では治療失敗と抗菌薬の副作用 をモニターすべきである(表 3) 。 IV.2 期的再置換術を行うかどうかによらず、人工関節抜去術を実施した後の内科的治療は? 推奨 29. 原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの高い経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;A-II)。 30. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II)[6]。 エビデンスサマリー アメリカでは、人工関節抜去術を受けた患者は、一般的に抜去術から再置換術まで、4-6 週間の静注抗菌薬療法またはバイオアベイラビリティに優れた経口抗菌薬療法を受ける [13、14、104]。黄色ブドウ球菌のような、より毒性の強い微生物の場合には、ガイドライ ン作成委員の大半が 6 週間投与している。原因菌別の最適治療を、表 2 に示す。オキサシ リン感受性のブドウ球菌にはセファゾリンかナフシリンが推奨され、MRSA にはバンコマ イシンが推奨される[2、88、104]。オキサシリン感受性のブドウ球菌に対して、セフトリ アキソン単独を用いることはコンセンサスが得られなかった。ガイドライン作成委員会は、 短いフォローアップの後ろ向きコホート研究で、オキサシリン感受性のブドウ球菌による 骨関節感染と PJI に対してセフトリアキソンを用いることは有用だった、という報告を認 めた[172-174]。全ての人工物が抜去された状況でリファンピシンは併用薬としてルーチン に推奨されない。抜去された状況でバイオフィルム活性薬が必要かどうかを支持するデー タはなく、一方で、リファンピシンの毒性は少なくはない。2 期的再置換術を施行する患者 では、組織培養や超音波処理液の培養が得られるまではその検出率を向上させるために、 予定している人工関節抜去術より前の抗菌薬投与を差し控えるべきである。しかし、PJI が根治したと考えられる場合には、再置換術の際に手術部位感染予防のために標準的ガイ ドラインにしたがった予防抗菌薬の投与を行うべきである。 V.1 期的再置換術を行った後の内科的治療は? 推奨 ブドウ球菌による PJI 31. 原因菌別に最適な静注抗菌薬とリファンピシン 300~450mg/回×1 日 2 回の併用療法を 2~6 週間行った後に、リファンピシンと経口抗菌薬の併用療法を計 3 ヶ月間投与するこ とが推奨される(表 2;C-III) 。リファンピシンと併用する経口抗菌薬は、シプロフロ キサシン(A-I) 、レボフロキサシンが推奨される(A-II)。キノロン以外を①感受性結 果、②アレルギー、③内服困難などを理由に考慮する場合、第二選択の併用薬としては、 ST 合剤(A-II) 、ミノサイクリンやドキシサイクリン(B-III) 、経口第 1 世代セファロ スポリン(例 セファレキシン)、抗黄色ブドウ球菌用ペニシリン(例 ダイクロキサ シリン dicloxacillin;C-III)などがある。アレルギー、毒性、内服困難のために、リフ ァンピシンが使用できない場合には、ガイドライン作成委員会は原因菌に最適な静注抗 菌薬による 4~6 週間の治療を推奨する。 32. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは公表されているガイドラインに従うべきである (A-II) 。 33. 経口抗菌薬による chronic suppression を投与期間を決めずに行う場合は、①感受性結 果、②アレルギー、③内服困難を考慮して、セファレキシン、ダイクロキサシリン dicloxacillin、ST 合剤、またはミノサイクリンといった上記レジメンが使える(表 3; B-III) 。リファンピシン単独の chronic suppression は推奨されず、リファンピシンの 併用による chronic suppression も一般的には推奨されないが、ガイドライン作成委員 の1人は、症例を選んでリファンピシン併用の chronic suppression を行っている (A.R.B.) 。リファンピシンによる治療を行った後の chronic suppression に関しては、 全員が一致して推奨しているわけではない(D.L.、W.Z) 。chronic suppression を行う 場合、効果と毒性について、臨床症状と検査所見のモニタリングが勧められる。chronic suppression を行うかどうかの決断は、①治療初期の段階でリファンピシンを使用でき るかどうか、②人工関節のゆるみの進行や、残存骨量の減少の可能性、および③長期間 の抗菌薬投与による有害性など、患者の個々の状況を考慮しなければならない。したが って、chronic suppression は、更なる人工関節再置換術、人工関節抜去術、切断術が 適していないかまたは拒否した患者のためにとっておくのが一般的である。 他の微生物による PJI 34. 原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティの高い経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;A-II) 。 35. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II)[6]。 36. 経口抗菌薬による chronic suppression を投与期間を決めずに行う場合は、感受性試験 の結果、アレルギー、内服困難を考慮して、上記レジメン(表 3)が使える。グラム陰 性桿菌による PJI に対して、フルオロキノロンによる治療を終えた後に chronic suppression をするかについては、全員が一致して推奨しているわけではない(D.L.、 W.Z)。chronic suppression を行う場合、効果と毒性について、臨床症状と検査所見の モニタリングが勧められる(25.参照)。 エビデンスサマリー 1 期的再置換術が施行される状況には 2 通りある。1 つ目は、意図的に 1 期的再置換術を 行う場合で、術前に原因菌を同定し最適な静注抗菌薬またはバイオアベイラビリティ良好 な 経 口 薬 を 4-6 週 投 与 し て か ら 再 置 換 術 を 行 う 方 法 で あ る 。 こ の 場 合 、 chronic suppression を併用する場合としない場合がある(表 2)[14、101]。2 つ目は、意図せずに 1 期的再置換術となってしまう場合で、無菌的緩みを予測して 1 期的再置換術を施行したが、 術後に複数の培養から同一の微生物が陽性となり、PJI の診断がつく場合である[13、 14、 175]。この 1 期的再置換術は、80-100%の成功率であると報告されている。ブドウ球菌に 感受性がある場合、バイオフィルムに作用する抗菌薬としてリファンピシンを使用するこ とができ、デブリードメントのみで人工関節を温存した場合の THA 感染と同様のレジメン が用いられる。ただし、この状況でリファンピシン併用療法が有効であるとする臨床的デ ータはない。他の後ろ向き研究では、chronic suppression として経口抗菌薬が有用であっ たとしている[175]。感染再発を避けるために、経口抗菌薬による chronic suppression を 行うことは、ガイドライン作成委員の大部分が支持した(表 3) 。chronic suppression を勧 めるかどうかの決断は、リファンピシンを使用できるかどうか、人工関節のゆるみの進行 や、残存骨量の減少の可能性、および長期間の抗菌薬投与による有害性など、患者の個々 の状況を考慮しなければならない。したがって、chronic suppression は、更なる人工関節 再置換術、人工関節抜去術、切断術の適応ではないかまたは拒否した患者のためにとって お く の が 一 般 的 で あ る 。 リ フ ァ ン ピ シ ン 単 独 や リ ネ ゾ リ ド は 、 漫 然 と し た chronic suppression に用いるべきではない。リファンピシンの併用療法も、一般的には推奨されな いが、ガイドライン作成委員の 1 人は限られた状況においてのみ行っている(A.R.B.)[62]。 フランスの研究者らは、1 期的再置換術の施行前に最大 6 ヵ月に及ぶリファンピシンを含 む併用療法を経口レジメンで行う方法を報告した[66、71]。この方法のデメリットとしては、 抗菌薬治療をしている途中で、人工関節のゆるみが出現し痛みを伴う可能性がある。 Ⅵ.切断術(amputation)を受けた PJI 患者に対してどのように内科治療を行えばよいか。 推奨 37. 感染した骨・軟部組織がすべて切除出来ており、敗血症や菌血症を伴っていないと判断 されるようであれば、原因菌に最適な抗菌薬治療を、切断術後 24-48 時間まで行うべき である。敗血症や菌血症を伴っているような場合には、それらの病態に応じた治療期間 が必要である(C-Ⅲ) 。 38. 感染した骨・軟部組織を手術で十分に取り切ることが出来なかった場合(例 THA 感 染に対する腰の関節離断術(disarticulation)や、TKA のロングステムが切断レベルよ り上位に伸びてしまった場合)には、原因菌別に最適な静注抗菌薬またはバイオアベイ ラビリティの良好な経口抗菌薬による 4~6 週間の治療が推奨される(表 2;C-Ⅲ)。 39. 外来静注抗菌薬療法のモニタリングは、公表されているガイドラインに従うべきである (A-II)[6]。 エビデンスサマリー これらの推奨のデータは、研究者のエキスパートオピニオンや 2 期的再置換術のデータ から推測したデータに基づくものである。原因菌別の最適抗菌薬治療は、切断術後 24-48 時間まで施行すべきであるが、適応は、全ての感染した骨軟部組織が外科的に除去され、 敗血症や菌血症の合併がない場合である。もし敗血症や菌血症があるなら、抗菌薬の治療 期間は、それらで推奨される期間にしたがって決めるべきである。もし切断術後に感染し た骨軟部組織が残存する場合(例 THA 感染に対する腰の関節離断術(disarticulation) や、TKA のロングステムが切断レベルより上位に伸びてしまった場合)には、慢性骨髄炎 の治療と同様に、原因菌別の最適な抗菌薬を静注またはバイオアベイラビリティの良好な 経口薬で 4~6 週間投与することが推奨される。外来静注抗菌薬療法のモニタリングはガイ ドラインに従う[6]。 今後の研究課題 臨床研究課題を合理的に作成する第一段階は、情報のギャップを確認することである。 IDSA のガイドライン作成の過程において、情報ギャップは自然に整理される。それゆえに、 IDSA ガイドラインは、重要なクリニカルクエスチョンと推奨を支持するエビデンスの質が 示されている。ガイドラインの著者らと IDSA 研究委員会と SPGC のメンバーとが作成し たクリニカルクエスチョンを以下に示す。これにより PJI の診断と治療に関する研究課題 を知ることができる 疫学 それぞれの異なる関節置換術の PJI の発症率は? PJI を発症しやすい患者のリスクフ ァクターは? PJI の診断と治療法を改善する今後の研究のために、どのようなデータベー スと疫学情報が有用か(例:国家レベルの症例登録)? 診断 PJI の原因菌をより適切に同定するために、PCR のような迅速診断を使えるか? の診断における人工物の超音波処理とビーズミル処理の役割とは? 微生物を同定するのに最適な培養時間は? PJI バイオフィルム形成 PJI の診断における関節液中と血清の炎症バ イオマーカーの役割とは? PJI の診断において、分子生物学的、放射線学的、細菌学的に 最も良い方法とは? 治療 PJI の治療において、最も有効で、費用対効果の高い外科的・内科的治療のアルゴリズム は? 経口と静注治療はどちらの有効性が高いか、または、長期間の静注治療の代わりに 経口薬へスイッチ(step-down)する方法の有効性は? ブドウ球菌感染の PJI に対するリ ファンピシン併用療法の効果は? MRSA やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の治療において、 バンコマイシンの代わりとなるものは? chronic suppression の役割は? 適応となるの はどんな時か? 適切な用量は? suppression に適切な抗菌薬は? 1 期的再置換術、2 期的再置換術はどちらが良いのか? 2 期的再置換術をする場合、再 置換のタイミングはいつが適切なのか? PJI のアウトカムを予測するのに統計、微生物検 査、血清炎症マーカー、画像検査で有用な指標は何か?) 予防 歯科処置や、胃腸や泌尿器などに侵襲的な処置を受けた患者の予防的抗菌薬投与の役割 とは? 術前の黄色ブドウ球菌のスクリーニングおよびムピロシンとクロルヘキシジン浴 による除菌(decolonization)の役割は? 手術室での高濃度酸素療法は PJI の予防に有効 か? 手術時の低体温や輸血などの PJI 予防の役割は? Terminology(用語集) ※日本語版の作成にあたり、監訳者が下記のように統一した ■Clinical microbiology pathogen / organisms 原因菌(病原菌、原因微生物) pathogen-specific antimicrobial therapy 原因菌別の最適治療 isolation and identification 分離と同定 the yield (likelihood) of recovering an organism 検出率 histopathological examination 病理組織診(病理組織学的検査) sonification / sonication / ultrasonication 超音波処理 sonicate fluid 超音波処理された液体 beadmill processing ビーズミル処理(容器の中にビーズを充填して回転させ、検体を粉 砕する処理) in vitro sensitivities / in vitro susceptibility 感受性試験の結果 susceptible [resistant] to drug A 薬剤 A に対して感受性[耐性] bioavailability バイオアベイラビリティ(生物学的利用能) (投与された薬剤の何%が血 中に入って作用するか) highly bioavailable oral antimicrobial therapy バイオアベイラビリティの良好な経口抗 菌薬治療 intravenous antimicrobial therapy 静注抗菌薬療法 outpatient intravenous/parenteral antimicrobial therapy 外来静注抗菌薬療法(OPAT) Staphylococci / Staphylococcus species (spp.) ブドウ球菌属(S. aureus と CNS を含む) S. aureus 黄色ブドウ球菌 coagulase-negative Staphylococcus コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS) MSSA メチシリン感受性黄色ブドウ球菌 MRSA メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 MSCNS メチシリン感受性 CNS MRCNS メチシリン耐性 CNS oxacillin-susceptible staphylococci オキサシリン感受性ブドウ球菌(MSSA と MSCNS を含む) oxacillin-resistant staphylococci オキサシリン耐性ブドウ球菌(MRSA と MRCNS を含 む) small colony variants(SCVs) small colony variants(小型コロニー変種、適切な日本 語訳は確立していない) Streptococci / Streptococcus spp. レンサ球菌属(β-hemolytic streptococci β溶血性レン サ球菌を含む) Enterococci / Enterococcus spp. 腸球菌属 Pseudomonas spp. シュードモナス属(P .aeruginosa 緑膿菌を含む) Enterobacteriaceae 腸内細菌科(E. coli 大腸菌、Klebsiella クレブシエラ、Enterobacter エンテロバクタ―などを含む) Propionibacterium spp. プロピオニバクテリウム属(P. acnes アクネ菌/にきび菌を含む) Candida spp. カンジダ属 rifampin リファンピシン(リファンピン) (日本化学療法学会用語集では「リファンピシ ン」を採用) co-trimoxazole ST 合剤 fusidic acid フシジン酸 companion drugs 併用薬 allergy, toxicity, intolerance 順に、アレルギー、毒性(有害性、副作用) 、内服困難(内 服に問題があること、不耐性、忍容性) chronic suppression chronic suppression(長期抑制療法、適切な日本語訳が確立して いない) ■Orthopedics medical treatment 内科的治療(薬物治療を含む) surgical treatment / strategies / management / intervention 外科的治療(手術を含む) debridement / surgical debridement デブリードメント(デブリードマン、デブリドメン などと記載される、 「デブリ」と略されることもある、感染、壊死組織を除去し創を清浄化 することで他の組織への影響を防ぐ外科処置のこと) prosthesis / prosthetic joint 人工関節(prosthesis も「人工関節」の訳語に統一した) prosthetic joint infection 人工関節感染(PJI) early 早期型(留置後約 3 か月以内) delayed 遅延型(留置後約 3 か月~1,2 年) late 晩期型(留置後約数年以降) superficial [deep] infection 表層(浅部)感染 [深部感染] surgical site infection 手術部位感染(術野感染) remote infection 遠隔部位感染(術野外感染) metastatic infection / dissemination 転移性感染(播種) sinus tract 瘻孔 drainage 排膿 septic arthritis 化膿性関節炎 synovial fluid 関節液 open arthrotomy 直視下関節切開術 arthroscopy 関節鏡 total hip arthroplasty / replacement 人工股関節置換術(THA / THR) total knee arthroplasty 人工膝関節置換術(TKA) total shoulder arthroplasty 人工肩関節置換術(TSA) primary arthroplasty 置換術 revision arthroplasty / revision prosthetic joint surgery / reimplantation / exchange revision 再置換術 debridement and retention of the prosthesis デブリードメントのみで人工関節を温存す る治療(人工関節を温存したままのデブリードメント) resection arthroplasty / excision arthroplasty / removal of the prosthesis 人工関節抜去 術(切除関節形成術) permanent resection arthroplasty 永久的(恒久的)人工関節抜去術 1-stage exchange / direct reimplantation 1期的再置換術 two-stage exchange / staged reimplantation 2期的再置換術 a delayed or second stage 第2期 arthrodesis 関節固定術 disarticulation 関節離断術 amputation 切断術 metal-on-metal (MoM) implant メタルオンメタル人工関節 (金属のカップとボールでで きた人工関節) polymethylmethacrylate cement PMMA セメント(骨セメントの一種でアクリル系樹脂) antibiotic impregnated / antimicrobial-impregnated cement 抗菌薬含有セメント static or articulating spacers 非可動性・可動性スペーサー tendinopathy 腱障害
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