Title 日本貿易と経済発展 Author(s) 小島, 清 Citation Issue Date 1958

Title
Author(s)
日本貿易と経済発展
小島, 清
Citation
Issue Date
Type
1958-09
Book
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/15412
Right
Hitotsubashi University Repository
187
第2編経済発展と国際貿易
理論的研究一一
第6章 比較生産費の決定因
§1 比較生産費の性格菅
一国でどの商品が輸出でき,どの商品を輸入した方が利益であるかという国際
競争力を左右する要因のうち最も重要なものは,いうまでもなく比較生産費であ
る乙リカァドオないしトレンスから始まる比較生産費説の学説史的展開には多く
の修正と発展が含まれている。だがわたくしの見るところ比較生産費の本質的な
性格は次の2点にある。1つはその「比較的」comparativeという性格,いいか
えればr比率の比率」によらて考えるという性格であって,これが分業と貿易の
可能性の根源をなす。2つはその「静態的」staticな性格であり,このためにき
わめて形式的なシェーマにすぎないという点である。
比較生産費はたとえば第6ユ表のごときものである。すなわち2国(アメリカ)
で1ドルで生産される『X商品(綿布)の一定量と同じ量だけ作るのに1国(日本)
では50円かかるのに,2国で同じく1ドルで生産されるY商品(機械)の一定
量と固じ量だけ作るkは1国では200円かかるということである。いま1一
のX
商品の生産費を、Px,、1国の』Y商品の生産費を・Pyを 2国のをそれ ぞれ辺戯
ρヱ,と
いう符号であらわすとLよ、ケq、ユ 揮の生産費比率はぞx:1∼y予59円 ;.2⑳円=1i;4
蛎るのに1掴で姓産費比率畝:ρア=Mである・この2つの生螺比
率をさ・らに比較したものの大小が比較生産費にほかならない6・
すなわち,
一
Px/Pyく汐ノρy あるいは,
葺傍<・(数 は÷<÷) 1(h)・
襲 本章はわたくしのセミナーにおける村上光義君との討論に負うところが多い.記し
て感謝の意を表する.
188
第6章比較生産費の決定因
であるならば,1国ではX商品を輸出しY商品を輸入すべし(2国ではその逆)と
いうのである。その理由時ぞx/Pyの方がρ。/ρyよりも小さいから,1国のY商
品の生産費Prに比べてのX商品の生産費Pxは,2国におけるρアに比べて
の九という生産費よりも割安であるからであるというのである。つまり1国の
Pxが2国の九に比べて絶対的に安いかどう’か,’また1国の1∼yが2国のちに
比べて絶対的晦葡かと問うのではなくじて・葺傍というr比率の
比率』においてPxがr比較的に」(あるいは相対的に)割安であるというのである。
もとより比較生産費差は為替相場を導入し,それによって換算すれば,簡単に
絶対価格差に直すことができる。たとえば1ドルー100円という為替相場で換算
すれば,第6.1表は第6・2表のような円建絶対価格差になり,2国におけるより
も1国のX商品が安く,逆にY商品が高いことは一目瞭然である。だが為替相場
がどう決まるかはむずかしい問題である。それは輸出額と輸入額,あるいは国際
収支が均衡するところに決まらねばならない。その均衡為替相場がいかなるレー
、トであろうとも,それがX商品に”?いての2国対1国の生産費比率,1ドル対50
円と・Y商品についての1ドル対200円の隣界内にあるかぎり・1国も2国もと
もに輸出できるとともに輸入できる。したがって分業と貿易が可能である。つま
り為替相場を用いて絶対価格差に直すという迂路を経なくても,割高・割安が見
出せ,分業と貿易の可能性と方向を指示できることが比較生産費の特色である。
その本質は「比較的に」ないし「比率の比率」で判断するという点にある。
第6ユ表 、第6・2表
!・.国
b副2国.
2 国
11 ドル1 ドル 1
X 商 晶
X商 品 50円 100円
,糊
Y 1商 品 200 円 100 円
商 品
比較生産購正確には葺傍く・ということが分業と貿易の基本原理
であることは,均等生産費差,す々わち,
馨傍一・:” 、.、、.1(・2)
のときには貿易利益が生じえないことを反省すれば明瞭であろう。たとえば,
189
§1比較生産費の性格
第6.4表
第6。3表
2.0ドル
品品
0.5ドル
商商
50円
200円
XY
品品
商商
X Y
巨劇2国
巨副2国
50円
200円
2ドル
1ドル
第6.3表がそれである。1国がX商品を1単位だけ2国に輸出し・たとしよう。2国
ではx商品1単位に対してY商品1/4単位以下しか与えようとしないであろう。
2国がY商品を1/4単位だけ交換に与えたとしても,それは1国にとって,X商
品1単位の生産に必要な50・円分のコストでもってY商品をみずから生産した場
合にえられるY商品の量と同じであって,少しも利益をもたらさないのである。
だから均等生産費差の場合には貿易は行われない。
いま1つ注意しておくべき・は第6』4表のごとき・場合である。そこでは1国の生
産費比率はPx/Pr−1/4であるのに2国のそれはρ、/カクー2/1である。づまり1
国ではY商品に比べX商品が安いのに,2国ではその逆にY商品に比べX商品が
高い。こういう場合を時に特別のケースとし,絶対的生産費差と呼ぶこともある。
しこれは比較生産費差の一般式毎葺く・に当 まる・1つまり第6・・
表に比べ第6.4表は比較生産費の開きが大きいというだけであって,旬ら特別の
ケースではないのである。
以上が比較生産費の第1の性格たるr比較的」という考え方である。ところが比
較生産費は第6.1表のごときが与えられれば,割高・割安がわかり,どういう方
向に分業と貿易をしたらよいかを指示するだけであって,そのほかのことは何も
物語っていない。つまり一時点において与えられた比較生産費年基くきわめて静
態的な形式的なシェーマにすぎない。われわれは比較生産費のできあがる背後に
あるものと,さら忽比較生産費をかえていく要因とを追求しなければならない。
っまり比較生産費の決定因と比較生産費変動の決定因とを究明しなければならな
い』もとより2つの決定因は同じものである。しかも,比較生産費が指示する方
向に従う貿易からえられる利益と,決定因の望ましい変動方向とがしばしば矛盾
をきたすところに問題がある。それが自由貿易主張と保護貿易主張,あるいは工
業国対農業国,ないし先進国対後進国という対立の根本に横たわる原因であると
190
第6章 比較生産費の決定因
思われる。それゆえに比較生産費決定因の究明はますます必要である。
1ここで強調しておき・たいことは,比較生産費説の静態的性格は修正され克服さ
れねばならないが,そのr比較的性格」はあくまでも生かされねばならないとい
う、蕊≧であう,比較的性格獄分業≧貿易の基本原理である。自国も相手国も輸出
する とともに輸入し,お互に生き・繁栄でき’るという相対的競争の基本原理であ
る@したがって比較生産費説の静態的性格を克服し,それを動態化するに当って
もf比較的性格」は放棄されるどころか,ますます強く生かされねばならないの
である。
「比較的性格」は静態的な国際均衡論においても基本原理である。比較弾力性の
原理1)がこれである。それは為替需給均衡の安定性に関する最近の珪論進歩によ
って精緻に展開されるにいたった。だがr比較的性格」は国際貿易の動態分析に
おいてどのように生かされるべきであろうか。すでに若干の展開は果されている。
第1は,一国と外国との,人口や所得水準の成長率,需要の所得弾力性などの比
較的相違が,各国の輸入需要と国際収支をいかに変えていくかの分析である。そ
れは主として国際貿易の需要面の動態に視点がおかれているので.これをかりに
比較需要成長率の原理と呼んでおこう。2)第2には,X・Y二財についての一国と
外国との生産性成長率の比較的相違が国際貿易と国際収支をいかに変えていぐか
の分析である。3》生産性の変化は,生産方法の変化に基因しており,それは生産
要素の諸価格,所得分配の複雑な変化と結合して,商品コストを変化させる。つ
まり比較生産費が変動する。わたくしはかつてこれ存r比較成長率の原理」,一正
確には「要素報酬率の比較成長率原理」として提唱した。4)だがそれは比較生産費
1)小島清,外国貿易・新版,1957,P.50以下参照.
2) この点について興昧ある展開が発表された.篠原三代平r産業構造と投資配分」経
済研究7 1957●10。
3) 比較需要成長率と比較生産性成長率との2問題はしぱしぱ複合した形で吟味されて
いる.それはヒックス教授のinaUgural lecture以来急速に展開されつつある国際経
済学の中心問題の1っである.」.R.Hicks,“An Inaugural Lecture,”0渥力74Eoo・
麗o吻ゼo Pσカ673,June1953・H・一G・Johnson・“lncreasing Prpduc‡ivity}Income and
Price Trends,and the Tra礎e Balance,”Eoo%o窺∫o∫o%7%¢」,Sept,1954.ノ∫\島清
「経済成長と国際貿易」一橋大学創立80周年記念論集,下巻,1955。
4)小島清,国際経済論,1950,第9章.
§1比較生産費の性格
ユ91
説が形式的であるのと同様に単に形式的な提示にすぎなかった。ほんとうに重要
なのは比較生産費を変動させる動態的要因の究明でなければならない。本章なら
びにこれに続く研究において,比較生産費の本質的な決定因をまず吟味してみた
い。r
が本質的な決定因であるかが判明すれば,比較生産費の動態化への途5)も
おのずから明らかになってくるであろう。
ところで比較生産費の決定因としては数多くのものが考察に取り入れられねば
ならない。第1に需要側の状態も無視されてはならない。けだし一定時点におけ
.る比較生産費というのは,その時点における需要を遜たすだけ生産した場倉の諸
財の華費を意尉肋弊ある・したがっ儒要酸動す瀧資麹鮒噸
えられ,諸財のコストも変動を被るのである。第2に1比較生産費が各国におけ
る自然資源・気候,外部経済・非経済,労働の質(技術水準・熟練度・勤労意欲
・器用さなど),企業者精神さらには社会的』・政治的秩序などの生産のアトモス
フィアに左右されることも事実である.。これらもず閥そ考慮匠入れねぼなぢだ“
のであるが・以下曝開に糟餌理講厳密化のためりそ紛を一応考慮外
とする。そ.して生産は資本と労働という二要素の結合によっ.てのみ行われるもの
と仮定する。また二国(1函ど2国)二財(X財とY財)毛デルにかぎる。各国
の労働と資本の質は等しいものと仮定する。このような簡単化のうえに,さらに
生産函数と要素価格比率解ついて特定の仮定を追加することによって,比較生産
費決定因のヘクシャー=オリーン理論6)が成立することは周知のところである。
われわれの考察もそれを踏襲する。そのように考察を局限するにもかかわらず,
問題はなおかなり複雑である。1それは究明すべき問題のr比較的性格」に基因す
るといわざるをえない。
5) 静態シェーマの動態化について建元敦授がすぐれた方法を提示されている.建元正
r弘r経済成長と国際収支」大阪大学経済学会編,中西寅雄博士還暦記念論文集,1957.
比較生産費の動態化の試みについ・ては・本書第7章ならびに・渡辺太郎r資本蓄積と比
較生産費説」大阪大学経済学,1958・1,参照。現実問題への1つのアプリケーション
については,海老原武邦rドル不足と貿易構造の調整」アナリスト,1957・11を見よ・
6) Eli Heckscher,“The Effect of Foreign Trade on the Distribution of Income,”
1∼θσ4∫%43 づ% 渉ゐg Tゐθ07ツ o/1%云θ〆%σ蕗oπ4」一丁744θ,1949。
Berti10hlin,1撹θ77θg∫o%」伽41窺67π癖oπσ1T7認6,ρambridge,Mass。,1933,
ヘクシャー=オリーン理論の核心は,商品ごとに生産技術係数ないし生産函数が異
192
第6章比較生産費の決定因
§2同一技術係数
まず最も簡単なケースとして第6.5表のごとき場合を検討しよう。符号を次の
ように決めておく。1国については大文字,2国については小文字であらわす。
X商品についてはプラィムを付さず,Y商品について磧プライムを付す。一般的
には大文字,ノンプラィムで,つまり1国のX商品について説明する。いま商品
の生産費Pは次のように計算できるとする。
P=潤V・L+∬∼●C (2.1) .
ここでLとCは商品単位当りの生産に必要とされる労働量と資本量であり,四
は労働の価格すなわち賃金率,Rは資本の価格すなわち利潤率一利子率である。
上の方法で算出された第6.5表の比較生産費は
先/葺く・暢器:ll/、号、日・・795
なることと,国ごとに生産要素の配在比率が違いそれらの相対価格が異なることとの
二条件から比較生産費の発生を証明していることにある・だがその二条件は労働と資
本という一般的(genera1)な生産要素で表示されている・これに対してハロッドがその
1撹θ7紹∫∫伽σJEoO初擁‘5の改訂版の序文において次の批判を提出 し, 遂にこの理論
を本文の中に取り入れなかったことが注目される・すなわち日く「オリーン教授によ
る試みは古い比較生産費説を,諸商品の生産に異なる割合で必要とされる資本と労働
のごとき一般的な生産要素と関連させて再述しようとした一一そういう諸生産要素の
配在比率の違いは諸国間の生活水準の大きな差を導くかもしれないが,数量的重要さ
をもつ比較生産費をもたらさないであろう・……わたくし自身は本書の取扱を生産要
素の特殊性に基かせている。もしも各商晶の生産について生産要素が特殊であるなら
ば,サムエルソンの結論は,彼自身も認めるように,成り立たないのである.」(R.F.
Harrod, 1π’θ7π4ガo%4J Eooπo翅∫63♪ Revised and Reset ed., Ca血bridge,1957,
P・viii・).また次を参照.R・F・Harrodp“Factor−price Relations Under Free
Trade,” Eoo%o”2∫o ∫o%γπσ1, June 1958.
確かにハロッドの指摘は一理がある・だがハロッドの主張はつぎつめるとr熱帯だ
から熱帯産物ができる.」というごとぎ特産物貿易にだけはぴったり当てはまることに
なる・そういう特産物貿易の重要性は減退したのではあるまいか.さらにハロッドの
いう特殊生産要素は時とともに変っていくであろう.そして特殊性を変えていく要因
こそ何であるかが問われねばなるまい・それこそ資本蓄積を軸とする経済発展であろ
う。とすると,ハロッドのいう特殊生産要素が比較生産費決定の一要因であることも
確かに無視できないが,ヘクシャー=オリーン理論の指摘するところも,著しく重要
な要因であり十分に検討する価値があるものと思われる.ことに特殊性を強調しすぎ
ることは,動態とか発展の問題への途を閉ざすおそれがあると思われる.他方,特殊
的生産要素という第3要素を取り入れて,、三生産要素モデルを作って吟味することは
興味ある課題である。
193
§2同一技術係数
第6・5表
要素価格
(1)一一 (2)一
労働 資本
品品
晶品
商商
2国
{
商商
XYXY
1国
{
技術係数
労働 資本
(3)生産費
1.5 0.5
75円 150円
0.75 1。0
75円 150円
1。5 0.5
1ドノレ 1ドノレ
メ㌧=2.00ドノレ
0。75 1.0
1ドノレ 1ドノレ
ρタニ1。75ドノレ
Px=187。50円
Py=206.25円
2
比較生産費馨/舞1器/1。75
=0.795
となり,1国のX商品の生産費Pxが割安であることがわかる。そのような比較
生産費が成立するために,第6.5表を組み立てるに当っておかれた仮定は次のよ
うである。
1,各商品についての生産技術係数は両国において全く同一である。すなわち,
L=1,C=6,Zノ=1’,C’=o’ (2.2)
それゆえにこの§2の検討をr同一技術係数」のケースと呼んでおく。
2・ しかしX商品に比べY商品はより資本集約的な技術係数をとる。すなわち,
C o C’ ピ
τ=7一く丁=丁 (23)
3・』ゴ各国内においては生産要素の移動は自由であり,要素市場の完全競争に従
ドって,等質の生産要素は各産業で同一の報酬をうる。すなわち賃金格差や利
潤率格差鳳存在しない。
1匹甲,R−R初一ω’,7一〆 』 (2。4)
4・ しかし労働と資本の相対価格において,1国の方が2国よりも労働が割
安,資本が割高である。すなわち,
W B” ω ωノ
ア=ヤ〈7=7 . (2・5)
第6.5表とそあ背後にある仮定とから次の命題が導かれる。
〔命題1〕 同一技術係数,国内的要素価格差不存在の場合には,一国は外国に
比べ割安な生産要素をより多く用いる商品の生産において,比較優位をもつ。
この命題はヘクシャー一オリーン以来,ほとんど自明の理として認められ,特
194 第6章比較生産費の決定因
別の証明を与えられていない。だが理論の厳密性のためには証明を必要とする。
それを試みれば以下の通りである。
(2.1)式により,
舞廃器誰/藩参 .(・・6〉
豹分
十 ω7ω7.σ[”
双釧号
・
++cτ
ヱ丑R・
[一 +
.
︵︵ω丁
一一
露στ
++ 藷確ア
/ +
盤ω丁
十十 器旦R
(2・2)・(2・4)の条件を代入すれぽ,
十
四 zo 『 C ω C’ C C’
一●一÷一●一十一9一十一●一一
R 7 R L 7 L/ L L,
最後の式の分子から分母を差し引く、と,
D一儒夢)(募一分
(2・7)
となる。
Px〆九
/万く1、が成立する物には・(2・7)蝉負に姉ばよン㌔
そこで
・しかるに仮定(2・3)によりαLくC’/L’であるから(2・7)式の第・2括弧肉は正
であり,また仮定(2.5)により耳7Rくω/7であるから第1括弧内は負であり,
したがって(2.7)式は必ず負になるのである。(2・7)式から次の解釈が与えられ
るであろう。すなわち,CアLがσ/Llに比べて小さければ小さいほど,また卿R
が刎7に比べて小さければ小さいほど,1国X財の国際競争力が強くなう。
以上が〔命題1〕の証明であるが,(2・7)式から次のような系論が容易に導け
るであろう・すなわち比較生産費孝がなくな嚇生産甦舞/奇・に
なるためには(2.7)式が0になること.したがってその第1括弧内が0にな
ればよい。いいかえれば,
確 /卿
万/一7=1 (2・8)
§3均等技術係数格差
・195
になればよい。7)このことは次のように一般的に表現することができる。
〔系論1〕 同一技術係数,国内的要素価格差不存在の場合に,均等生産費差(為
替相場で換算すれば諸商品の価格の国際的均等化)をもたらすためには,各要素
の相対価格比率(為替相場で換算すれば絶対価格)は両国で均等化せねばならな
いQ8)
§3一
等技術係数格差
§2ではX商品の生産方法はただ1つであり,日・米両国に共通であり,Y商
品についても同様であるという向ゲ技術傑数の仮定のもとで,〔命題1〕をえた。
だが次のような疑問が直ちに提出されよう。つまり日本では労働が豊富で賃金が
割安であるから,おなじX商品(あるいはY商品)を作るについても,アメリ
カに比べより多く労働を使い,資本塗節約するような生産方法を採用するであろ
う。こ璽ように両国で生産方法が異なる場合においては,どのような条件がみた
されれば,有意義な命題が導かれうるであろうか。それは§2の同一技術孫数ケ
一ス.とは著しく異なった条件を必要とするであろうか。
まず第6.6表のごとき数字例を検討しよう。この表で1国(日本)は2国(ア
メリカ)に比べ,X・Yいずれの商品の生産においてもより労働集約的・より資本
7)(2・7)式がoになるためにはc’/L■=c/Lとなって,第2括弧内がoになれば
よいともいえる.しかしそういうことは,C/LくCノ’L’という根本仮定を排除するこ
とになるから,考慮外とする・
8) 均等生産費差に達した限界単位についてはもはや貿易は行われない(第6.3表参
照) 要素
率麟的に不艦す欝号崖キ・であり が
つて比較生産費差が存在する・す鵬葦/考キ・の状態から出発して・椛
が均等化するまでの過程において,各国で両財の生産量の変動が生ずる.変動量は生産
転換における各生産要素供給の価格弾力性に依存する.さらに§2のように固定的単
一技術係数を仮定しない場合には技術係数の変化にも依存する。生産量変動の結果,
需要との差額として輸出量と輸入量が規定されてくる・だから需要状態を所与とすれ
ば,国際的要素価格差と比較生産費差が大ぎければ大きいほど,生産変動量と貿易可
能量とはそれだけ大きいといえる.したがってまた国際分業は比較生産費差に基くと
いう代りに,貿易均衡に到達した状態から振り返ってみて,そこに到達するまでに生
ずる「比較生産変動量」に基くといってもよいであろう・この点については次を参照,
K.Lancaster,“TheHeckscher・OhlinTradeMo(ie1;AGeome垣cTreatment,”
Eooπo勿2記4,Feb.王957,p.25.
196
第6章比較生産費の決定因
節約的な生産方法を採用している。けだしX商品については,
÷器辛看
.であり,Y商品については,
C’ 1 〆 150
−fア竃一く7=一
L 1 1 75
である。このように両国で生産方法が違うにもかかわらず,1国がX財生産にお
いて比較優位をもつという比較生産費は成立している。すなわち,
葺傍く… lll:1/1:ll一・・7♀3
である。
第6,6表
(1)一
品品
品晶
商商
2国
{
商商
XYXY
1国
{
技術係数
労働 資本
要素価格
労働 資本
(2)一
(3)生産費
100/63 25/63
75円 150円
Px=178.5円
1 1
75円 150円
Pア=225,0円
150/11975/119
75/119 150/119
1ドノレ 1ドノレ
ρ露=1.89ドノレ
1ドノレ 1ドノレ
ρク=1・89ドノレ
比較生産費鋼鉦lll:1/1:ll一・・793
そこで第6。6表の背後におかれたエッセンシャルな条件を振り返って見よう。
1.第6.6表は1・2国に共通な次のダグラス函数に基いて技術係数が決められ
て跡る。すなわちX財については,
を Ox一砿吾Cぎ
Y財については
ユ Oy=6びC5
ただし0は産出量,δは常数である。
だが上のダグラス函数は生産函数にういての次の条件をみたしている。す
なわち,ω生産函数は一次の同次式あるいほ投入規模・産出量比例の原則
constant retums to scaleに従っている。一ダグラス函数では羅数の和が
§3均等技術係数格差
197
1になればそうなるσ(ロ)各生産要素(労働と資本のそれぞれ)の限界生産
力は逓減する。この2つとすでに述べたの.各財の生産函数は両国で共通で
あること,この3つが必要な条件である。これを表現し直すと次のようにな
る。
・国のX財・x−F(ムC)一五∫(号)
2国のx財傷一F(ω級テ)
(3.1)
・国のY財・y一礁σ)一刀9(号)
2国のY財ら一σ(ろ♂)一・9(チ)
2.第6.6表に仮定したダグラス函数では,X財における労働分配率は2/3で
あるのにY財におけるそれは1/3である。その結果,』1国におけるx財の資
本・労働比率に比べY財の資本・労働比率の方が大きい。すなわち,
C 25 C’ 1
一一一く一一一
L 100 L’ 1
2国においても同様である。.すなわち,
6 75 0’ 150
才=蕊く7』75
である。しかも,
呈/募一予厚一去
となっている。このゆえにr均等技術係数格差」と名づける。’いいかえれば,
いずれの国においてもあらゆる要素価格比率のもとで常にX財に比べY財の
方がより資本集約的な生産方法を必要とするが,その資本集約度の格差,し
たがって比較技術係数格差は,両国で均等である。
必要な条件を再表現すれば,次の通りである。
岳傍一デ/チ ,、、..、 (&3)
号く争デ〈チ(認鵬灘) ⑱…
198
第6章 比較生産費の決定因
3. §2におけると同様に,各国内で要素価格差は存在しない。
一 w筥四’,R=R’,ω署ω’,7=〆 ・、(3、4)
4・§2におけると同様に,1国の方が2国よりも,労働が割安,資本が割高
である。
四 耳” ω ω’
一一一く一一一7 (3.5)
R R’ 7 7
第6.6表とその背後にある仮定とから次の命題が導かれる。
〔命題2〕 両国に共通な生産函数,均等技術係数格差,国内的要素価格差不存
在の場合には,一国は外国に比べ割安な生産要素をより多く用いる商品の生産に
おいて,比較優位をもつ。
〔命題1〕は〔命頚2〕と多くの点で類似していることが気づかれるであろう。
すなわち〔命題1〕では,両国に共通な生産函数の代りに・両国に共通な単一の
生産方法を各財について仮定した。その結果生ずる
L=」,C篇o,L’=」ノ,Cノ=o’ (2.2)
という仮定は(3.2)の条件を満足している。そのほかの点では相違がないので
ある。だから〔命題1〕は〔命題2〕の簡単な特殊ケース葦とみなしえないこと
もないが,〔命題1〕では生産方法が単一で確定的であるのに,〔命題2〕では生
産方法は確定的ではなく連続的な生産函数である点において,根本的に性格を異
にするのである。
一 〔命題2〕は次のように証明できょう。’)(3.2)∼(3。5)の仮定があるから.1国
についてだけ証明すれば足りる。各生産の資本・労働比率C/Lをρであらわす
と,仮定(3.3)から
ρx〈ρy,ρ∬くρン 、(3・6)
(3.1)式を微分すれば各生産要素の各生産部門における限界生産力が求められ
る。
9) この証明方法については次を参照。
R.W.Jones,“FactorProportions andtheHeckscher−Ohlin Theorem,”Rθ漉ω
oゾE‘o移o翅∫o S伽4」θε,1956−57,Vol.XXIV,No.63,pp.5−6.
§3均等技術係数格差 . 199
靴駕呼欄/
.婁艶州・『1⑳
最適資源配分を達成するためには,要素価格比率が各生産部門における労働と
資本の限界生産力の比率に等しくならねばならない。すなわち,
署一矯一溜 、 (3・8)
均衡においてはXとYの相対価格比率は,’両生産部門における労働(または資
本)の限界生産力(それぞれの財ではかった)の比率に等しくなる。すなわち,
』Px た(ρr) 9’(ρY)
一= = (3.9)
Pr h(ρx) ∫’(ρx)
この相対価格比率は各財の採用する資本・労働比率ρの大小と比例的に変化す
る。けだし,(3,9)式をρxで微分すると,
.4(葺)=4(多ll紹)=幽)舞(ρx脇)ヂ(ρx)
唖 4ρx {∫’(ρx)}’
(3.10)
(3。・3〉式を微分し,4ρy/4ρxを解き’,(3.10)式に代入すると.・
’(葺){4(ρr)γヂ(ρX)
_ (ρx一ρr) (3。11)
4ρX 9(ρy){∫’(ρX)}2
をうる。このうち∫”(ρx)は負である。けだしそれは資本の限界生産力は逓減す
ることを耐から・また仮定(3・3)・(3・6)によりρx<ρrであり随の鄭す
べて正である。それゆえに(3.11)式は正である。すなわち,
欄》。if卿y ..
4ρx I
『:(312)
要するにPX/PyはρXの増加函数であることがわかり』,これを次のように示
200
第6章比較生産費の決定因
すことカミでぎる。
Px
一一s(ρx)
Pr
(3.13)
ところで,(3.8)式をρxに関して微分すると,
4(嘉).(ρX)f(ρX)一ヂ(ρX)h(ρX)
一 (3.14)
4ρx {∫’(ρx)}2
がえられる。∫”(ρx)は負で昂り,他の項はすべて正であるから,(3。14)式は正
解なる・いいかえればWIR獄ρxの増加牽数である。すなわち
ρX一ψ(署) , ..r、13・・5)
以上は1国について吟味したのであるが,生産函数は両国に共通であると仮定
ざれているから,、2国についても,次のことが成立するや
ρ∫
τ=S(ρメ) 』『.
(3・16)’
傷一ψ(夢)、.、 ∬、 蕊・7)
しかるに仮定(3・5)により巧7Rくω/r・であり・ψは両国に共通な増加函歎で
あるから,
ψ(署)〈ψ(チ)
・『、一 (3・・8)
したがっ七,
ρx<ρエ 』1 (3.19)
S(ρx)<S(ρ∬) . (3・20)
ゆえ匠,』
Px ρ∬
一く一 (3.21)
Pr あ
となる。
結果を図によって要約しよう 。まずわれわれの仮定する両国に共通な生産函数
は第6.1図軽)のようである。第6.1図は横軸に労働量(L),縦軸に資本量(C)
をとった平面上に,X財の等生産量曲線群 (その1っがXX曲綜)乏Y財の等生産
量曲線群(その1つがy「曲線)を画いたものである。XX曲線(yy曲線についても
201
§3均等技術係数格差
同じ)が原点に向かって凸であるこ
とは労働・資本の各限界生産力が逓
第6,1図
︹イ︾
C
減し,両者の限界代替率も逓減する
γ
ことをあらわす。原点を通る直線,た
とえば0σ線上で,同じスロープの
x
6
B
要素価格比率線が次々の等生産量曲
γ
、、
&
retums to scaleの仮定はみ、たされ
るQ
4
線に接することによって,constant
κ
、、
0
L
さて第6.1図㈲のように,XX曲
線とyy曲線が1回しか交わらない
C
x
y
㈲
!λ
ならば,いかなる要素価格比率のも
/
/
るが,明らかにゐ点の』ρ一C/Lの方.
ノ/
ノ
/
/
/
X
γ
冥
﹃
Y財生産はδ点の生産方法を採用す
/
/
■
/ B
ープであるならば,X財生産は4点,
/
.\
、
、4
けだし要素価格比率がσ6線のスロ
!X
6
方が,常により資本集約的である。
一ノ
/・v
/
α
とでも,X財生産に比べY財生産の
/
〆
/
0
L
が大きい。要素価格比率が点線のス
ロープであれば,X財生産は且点,Y財生産はB点の生産方法を採用するが,
そこでも明らかにβ点のρ一C/Lの方が大きいのである。つまりこれが(3。3)・
(3。6)のρx〈ρめρ。〈臼という仮定である。
じ
しかしながら第6.1図(ロ)のように,XX曲線とyy曲線とが0λ線上で同一
スロープの接線をもつ場合には問題が残る。1・2国の要素価格比率線が0λ線
の上側か下側かのどちらかで,2つの等生産量曲線に接するならば,1国でY財
がより資本集約的ならば2国でも同様になる(その逆の場合には逆になる)。ところ
が図示のように,1国では0λ線の下側で,2国ではその上側で生産均衡点が定
まるならば,1国ではY財(β点)がX財(ハ点)よりも資本集約的であるのに,
202
第6章比較生産費の決定因
2国ではX財(σ点)淋Y財(δ点)よりも資本集約的であるというよう柔に,反対
になる。こういう場合が「レオンチェフの逆説」を導く可能性をもつ。1りだが本
章ではそういう場合は排除されており,第6.1図翰のごとき場合だけに考察はか
ぎられている。
次に第6。2図の右側のダイヤグラムは,(3.15)・(3.17)でえ・られたような,資
本集約度ρxが要素価格比率卿R(またρκが刎7)の増加函数であることを示
第6。2図
ρ藩一ρ∫
磯“一ρx
0 0
ωア
烈丑
丑』 Px
P膨 一
PY
10) レ亥ンチ土フ自身の見解は次の2論文である.
W.W.Leontief,“Domestic Production and Foreign Tra征e:the American
Capital Position Re−examine{1,” P■oo8β4伽93』oプ 緬8∠4彫θ万04%Pゐπosoρ海oσ1
So‘」θ砂,Sept.28,1953,also E‘o犯o”¢∫σ1κ紹”z4あoπ4」6,Feb.1954。
1)itto,“FactoτProportions and the Structuτe of American Trade=Further
Theoretical and Empirical Analysis,” 刃8び魏o oゾE‘o%o卿Jo34屈5躍’」3”63,
Nov。1956.
本文に述ぺた点については次を参照.
R.W,Jones,oρ.o露.,PP。6−9.
Kelv呈n Lancaster,“The Heckscher−Ohlin Trade Mode互:A Geometric Treat−
me璽夢”Eoo%o雁oσ,Feb,1957,pp.37−9。
なお最近幾つかの注目すべき』レオンチェフ批判があらわれている.
And−e DaniOre,“American Trade Stmcture an〔l Comparative Cost Theory,”
E・・”・伽1撹卿σ伽4」θ,Aug。1956.
M勾ha1憂ad Amine Diabシ丁加〃短’845’4’83C砂」’41Po3薦oπ碗4’ho5〃卿’解β
oノ」∫s Fo7θ∫gπ コ『γσ」θ, 1956.
渡辺太郎rレ才ンティエフの逆説と伝統的理論」大阪大学経済学会編,中西寅雄博
士還暦記念論文集,1957.
どこに掲げたものよりも以前のレオンチェフ批剰文献については,小島清,外国貿
易・新版,P.270,およぴ本書巻末参考文献を見よ
.
§3均等技術係数格差
203
す。これは労働が割安であるほど機械よりも労働がより多く用いられ,資本が割
安である橡ど機械化が行われ労働にとって代るという常識と一致することであ
る。左側のダィヤグラムは(3・13)・(3・16)の示すように,生産函数の仮定によ
りρx<ρrなるかぎり,商品価格比率Px/Prは資本集約度ρxの増加函数であ
る(また拓/ρyは告の増加函数である)ことをあらわしている。
そこで仮定により四/R〈”ケであると,ρx〈ρ∫となり,その結果,Px/Py〈
九/ρyが必ず成立することがわかるのである。11)
.次に均等生産費差Px/Py一ヵノρyになる条件を求めよう。それは明らかに,
1ρx一ρエ,ρr一ρッ’すなわち生産方法が両国で同一にならねばならず,そのために
は珊R一ωノ〆すなわち要素価格比率は両国で全く均等にならねばならない。 こ
のことは為替相場を導入すれば,各要素価格は両国で絶対的に均一にならねばな
らないということを意味する。これが国際的要素価格均等化論12)の証明するとこ
ろにほかならない。13)そして〔系論・匂と全く類似する次の系論が導ける。
〔系論2〕 両国に共通な生産函数,国内的要素価格差不存在の場合に,均等生
11
,繍慧齢隻謂躍譲躍琴㌶謂鵡欝離惣驚磁
では両国に共通な固定的技術係数を塚定する のに,後者では両国に共通な生産函数を
仮定していることである.本章と伺・じ問題意識をもつすぐれた展開として渡辺太郎教
授の「比較生産費説に関する一つの覚書」大阪大学経済学,第5巻第3・4号,1956・3
がある.
12) 小島清,外国貿易・新版,P.220−7に概要が与えられている,多くの文献のうちと
くに, Sven(l Laursen,“Pro(iuction Functions and ther Theory of International
Trade,”。4彫07づ‘σηEooπo”z言o Rθz雇θω,Sept.1952.
P.A.Samロelson,“Prices of Factors anαGoods i且General Equi1圭brium,’}
五∼6σ」6躍 oLf Eooπo”2∫o Sず%4∫θs・ 1953−54.
13) 比較生産費の時間にわたる動態的変化のプロセスを跡づけること,いいかえれば比
較生産費説の動態化が,以上の考察をもとにして可能となる.ある出発点における1国
と2国の資本・労働比率c/Lと0/1,生産要素の相対価格比率罪/1∼と”ノγ,ならびに
比較生産費知舞が与淋ている・CILや物時間にわたる変化率噸の
資本蓄積率と人口増加率によって異なる、しかしそれの変化がw1Rと刎アの変化と
して表現されるかぎり,その大小関係がどうなるかが確定されれば,第6.2図によっ
て新し砒較生産費舞/葺が見騰のである・
渡辺太郎教授のr資本蓄積と比較生産費説」大阪大学経済学,1958・1における比
較生産費説の動態理論化の試みは上述の線に沿い,変化の過程を分析しているのであ
るが,その核心はほとんどすべて第6・2図によって説明されうるように思われる.
204
第6章比較生産費の決定因
産費差をもたらすためには,同一技術係数にならねばならない。そう、なれば〔系
論1〕と全く同様に,、各要素の相対価格比率と絶対価格は両国で均等化せねばな
らない。
§4 比較格差への分解
以上§2・§3にわたっては,国内的要素価格差不存在のもとで比較生産費差の
生れる条件を求めた。その条件を明らかにするために,両国の生産係数の絶対的ま
たは相対的な均等性を前提せざるをえなかった。これまでに明らかになったこと
は,比較生産費差発生のエッセンシャルな条件は,一方.技術係数がCノ五一〇μく
σ/刀 /・または÷/号弄腸く・であり・鵬要素価格比率が
励R一砂’/R1<刎7一ω’/〆である1ならば,必ず’Px/Py<九/ちという比較生産
費が発生する乏いうごとであった。
もとよりわれやれは,分析をもっと一般化するためには』生産係数に関する均
等性の仮定も,要素価格に関する国内的格差不存在の仮定もとりはずしたいので
昂る。だがそれがどこまで可能であろうか・もとよ,りそ,ういう仮定をはずしたた
めに,何ら有意絵結論をえないならぼむだなことである。そういう模索を今後
続けたいのであるが,その序説として,ここに幾つかの比較格差に分解する方法
を吟味しておきたい。
労働分配率(labor’s share)が比較生産費決定因として何らかの基準を提供し
ないであろうか。この点についてまずヴァィナーの注目すべき1つの問題提起が
あることを指摘しておこう・「商品の総費用に占める労働費用④割合」すなわち
労働分配率が商品ごとには異なるが各商品について両国で同じならば,労働費用
だけで見た比較生産費と総貨幣費用で見た比較生産費とは一致することを,ヴァ
イナーは指摘しているのである。14)
ヴァィナーの命題は次のよう醸現徳よう・遼労即配率創であ励す
と,それは, 、 、 . 』.. 』』
14)Jac・bViner,S’剛θs伽∫hθ丁乃θ・7フ・プ1吻脚碗・丁嘘,1937,PP・
510−2。 . .
205
§4比較格差への分解
四。L 砂・L
∠=
砂・L十R・C P
(4.1)
であり,したがって,
イ・P=旧「●L (4.2)
となる。この関係から次式が成立する。もし∠一δ,イーδ’ならぽ,
Px ∠・Px r・L ・・
一c・・一・
Pr ∠’・Pr π”・L’
一 = . (4,3)
搬 δ・九 ω・1
ち δ㌔ち ω’・」1
さらに,1γ=P「ノ,zσ=ω1ならば,・
先/{冠チ/チ . (…)
逆に,L−」,L’一1’ならば,
舞/葺一号/号.
(4・5)
(4・3)式は,イーδ,イーδ’ならば,すなわち各商品の労働分配率が両国で共通
ならば,賃金格差や利潤率格差が各国内に存在していても,比較生産費差は労働
費用だけで見た比較生産費差と一致する,という1つの基準を提供している。
(4・4)式は労働分配率が両国に共通であるとともに,各国で賃金格差が存在し、
ない(W一四’・ω一が)、ならば,比較生産費は商品単位当りに必要とされる労働
量すなわち労働能率の比率(比較労働能率格差)吾/チだけに依存することを
あらわす。これが古典学派の労働価値説的比較生産費説である。15)
(4・5)式は労働分配率が両国に共通であるとともに,各商品生産についての労
働能率が両国で同じならば,すなわち五一」,L’一1’ならぱ,比較生産費は比較賃
金鮭調号だけに依存することをあら嫉
同じことをホルヒハイマーやクラヴィス16〉に従って別の表現に直そう。
15) マルクス経済学の側からこの問題への接近が始められた・次を参照.行沢健三,国
際経済学序説,1957,pp.167−93.
16)Karl Forchheimer,“The R61e of Relat圭veWage I)i丘erences in Inte環national
Trade,”Q%47」θ〃夕∫oz‘7πσJ o/Eoo麗o翅Joε,Nov.1947,pp。17−9.
正rving B.Kravis,“AvaiIability and Other In丘uences on the Commodity
Composition of Trade,”∫o%〆紹」・o/poJ∫蕗昭J Eooπo郷ッ,April1956}p。144,
206
第6章比較生産費の決定因
(4.2)式は次のように書きかえられる。
1
P−17・L一 (4.6)
∠
したがづて,
Px、 四 L イ
Py 『’ L〆 ∠
カκ=ω’」●ポ ・
ρア ω’ 」’ δ ∼τ一 ・・
(4・7)
」
・』
こF郁誰/号を比較賃金鰭(2)畜/チを比較労働能率鰭(3〉
チ/÷を比較労働分配率格差と名づけよう・・そこで・国が測において比
較優位をもち.Px/Pr<ρ。/ρンになるためには,次のいずれかまたはそれらの複合
に基くのである。すなわち
(1)砂/四’<ω/ω’1国x財の賃金砂が比較的に割安であるか,
(2)L/1!<1/〆Lが比較的に小ざい,すなわち1国x財における労働能率が比
較的にすぐれているか,
(31イ/イ>δ/δ〆1国x財の労働分配率∠が比較的に大きいか,である。一
このように比較生産費発生の原因,国際競争力優位の要因を3つの比較格差に
分解することができ’るならば,問題はわりあいに簡単になり,実証分析とも直結
しうるようになる。しかしこのように3つの比較格差への分解が可能であるに
しても,§3までに行らた比較生産費決定因の基本分析を無用とするものではな
い。その理由は以下で次第に了解でき’るであろう。
振り返ってみると,同一技術係数ケースは次のような分析を行っていることに
なる。すなわち(4。7)式において,(1)国内的要素価格差不存在の仮定により,
蓄/券一・としている・(2)同一技術係数の仮定により・似腸で
あるから弟/チー・とし る・したがつて(3)・国がX財で比較優位をも
つ唯一の理由は∠/イ>δ/δ’となることである。要するに,同一技術係数,国内的
要素価格差不存在のもとでは,比較労働分配率格差が存在するかぎり比較生産費
差が発生し,前者が均等になれば後者もまた均等生産費差になるのである。
だが(4.7)式による3つの比較格差への分解は,なぜ労働分配率格差が生じ,
‘§4比較格差への分解
207
比較生産費差が生ずるかの原因をいささかも明らかに して恥ない・その原因は
§2の基本分析のように,一方,技術係数が(a)CIL−6/Z〈C’/L怯61/」〆であるの
に,要素価格比率の国際間の関係が,(b〉耳7R−r/R’<ω/7一ω’/〆であること
に基く。要するに比較生産費発生の核心は(a)比較技術係数と〔b)比較要素価格
比率との乖離に存するのである。
同一技術係数ケースのもとで,労働分配率格差が比較生産費の原因であるかの
ように見えるからといって,労働分配率格差だけに眼をつければよいかという
と,それは誤りである。けだし直ちにわかることであるが,共通生産函数の均等
技術係数格差ケースでは常に労働分配率は両国で共通であったにもかかわらず比
較生産費差が発生したのである。均等技術係数格差ケースは次のような分析をし
ていることになる。すなわち(4.7)式において(1)国内的要素価格差不存在の
仮定により』蓄儲一・とじてい調共通生麟の仮定によりチ愕
一1としている。したがって(2)1国がx財で比較優位をもつ唯一の理由はLIL’
〈」μ’となることである。17)すなわち1国x財の労働能率が比較的にすぐれてい
るからである。
だがここでもまた上のような比較労働能率格差が発生し,なぜ比較生産費差が
生じたかの原因は明示されていない。その原因は§3め基本分析のように,比較技
術係数格差が(a)号/募一チ/チしかし1rc/L<σ/岬〈♂麿あるの
に,r
較要素価格差が(b)耳7R−r/R’くω/7一初’/7’であって,(a〉と(b)とが
乖離することに存する。 f
これまで(1)賃金格差,(2)労働能率格差,(3)労働分配率格差という3つの比
較格差を指摘したのであるが,問題はそれだけにつきるのではない。(1一∠)は資
本分醇率capita1’s shareであるが,それは』
1∼・C R・C
1一∠f= = ’ (4.8)
研・L十R・C P
である。したがって,、
・7)第6・聯 て知舞一畜/ナーP卸一灘 が確が脚る・
208
第6章 比較生産費の決定因
.1
P−R・C・ . (4・9)
1r∠
Px R .C 1一∠’
Py・ 1∼’ C’ 1一∠
= ● 。 (4.10)
汐∫ γ ‘ 1一δ〆
ち 〆 o’ 1一δ
がえられる。ここで1国がX財において比較優位をもつ条件が2つ追加される。
すなわち,
(4)Rμ∼’く7/ピ 1国x財の資本価格(利子率一利潤率)Rが比較的に割安であ
ること。
(5)C/c’<6/0’cが比較的に小さい,すなわち1国x財における資本の生産能
率が比較的にすぐれていること。なお∠については先に見たことと同じである。
かくて5つの比較格差がえられる。;8)そしてこのように分解することは,確か
に1つ1つについての実証分析を可能にする。だが注意しなければならぬこと
は,1つ1つの比較格差において有利な条件をもつということ,たとえば比較賃
金格差において砂が割安であることは,ほかの条件が不変ならば,それだけi
国X財のコストを低め国際競争力を増すことを示すにすぎない。いいかえれば1
つ1つは国際競争力を強めるそれぞれ1つの条件にすぎないのである。そして,
たとえば『が割安である、ことがLを大き’くするとか,Rを割高にするとかとい
う因果関係は明示されていないのである。つまりそれらの変数をプ義的に結びつ
ける生産函数が明示されていないのである。比較生産費決定因は依然として比較
生産係数と比較要素価格比率にある。5つの比較格差は個々の徴候にすぎない。
比較生産係数と比較要素価格比率の基本分析において,これまでに簡単化してき
た賃金格差・利潤率格差を追加して,しかも有意義な比較生産費決定因の基準を
求めることが,今後に残された課題である。
§5賃金の均等格差
要素価格差について§4で明らかにされた1っのことは,比較優位産業におい
18) もとより5っの比較格差のFうち4っがわかれぱ,他の1っはおのずから決定される.
§5賃金の均等格差
209
てわりあいに多く使用する生産要素に対して割安な報酬を与えるような要素価格
差を設ければ,それだけ輸出産業の国際競争力が増すということであった。いい
かえれば,労働集約的なX財において比較優位にある1国では,X財の賃金率
Wをとくに低くして,珊研く刎がになるように,外国の賃金格差ω/ω’より
も一層大きく四に不利な賃金格差を設ければ,それだけ国際競争力が強化され
る。また資本集約的なY財において比較優位にある2国では,Y財の利潤率
〆をとくに低くして,刃/丑’<7/〆になるーように,外国の利潤率格差珊丑よりも
一層大きく〆に不利な利潤率格差を設ければ.それだけ国際競争力が強化され
る。このことはほとんど自明のことがらであって証明を必要としないであろう・
だが要素価格差が国際競争力を強めるかという問題につき,吟味しておき・たい
興味ある1つのケースがある。上に要約したのは,1国において外国に存在す
る賃金格差を上回るほどのrに不利な賃金格差を設ければ,1’国の労働集約的
奉廻嘱騨争力は増すということであった・だが一国と姻においてともに
賃金格差が存在するがそれらが均等な格差であったならば,一体国際競争力にい
かなる効果を与えるであろうか。事実どこの国においても繊維工業の賃金は重化
学工業のそれよりも低く1し.かも,ぴったりではないにしてもそういう賃金格差
は多くの工業国においてほぼ均等格差(equalizing di丘erence)であることが実
乖されている。19)このようないわば世界的な賃金格差のもつ比較生産費と国際競
争力へめ効果を究明してみたいのである。利潤率格差についても同様な考察が可
19)古くはタウシックの実証があり,その均等賃金格差の論理がマノィレスコの工業保
護貿易論に対するヴァイナーやオリーンの批判の根拠にならたことが想起される.ま
『た最近では米・英・日などの賃金格差がかなり均等であるというクラヴィスの指摘があ
る.
F.W.Taussig,1漉7耀伽4J T7認θ,Ne脚York,1927,pp.46−60,pp.161−77.
M.Manollesco,7加丁加oηoプP70’副’oπ4〃41漉解4”o耀JT7446,London
1931.
Jacob Viner,“A Review of Miha互1Manoilesco,The Theory o£Protection
an廿Intemational Tra(1e,” in his1短67κσ蕗oη¢J E60πo,痂oε,The Free Press,
1951,pp,119−22,reprinte¢from∫o%7耀J o∫Po’漉6σJ E‘oπo卿夕,Feb.1932.
Bertil Ohlin,“Protection and Non・Competing Groups,”四¢勉σ餌30肋ガ」∫ohθε
Zし70h∫σラ 1931。1.
Irving B。Kravis,“Availability and Other In∬uences on the Commodity
Composition of Trade,”/0%7紹10∫PoJ漉cσJ Eoo”粥y,Apri11956.
な お本書第5章参照.
210 第6章比較生産費の決定因
能であるが,検討の方法は以下で展開するのと全く同一であるし,資本の可動性
の方が労働よりも大きく利潤率均一化の傾向はわりあいに強いので,考察は省略
することにする。
一同」技術係数ケースについて検討しよう。基本仮定は§2におけると同様に.’
C o C’ o〆
τ一7〈丁一7一 ’(5・・)
罪 卿 耳” ω’
アーく7同時に一万一く7 . (5・2)
とする。
つまり両国においてX財がY財よりも労働集約的であり,1国では2国
よりもいずれの産業においても賃金が割安である。した参って1国はX財におい
て,2国はY財において,比較優位をもち,
舞/奏・
となることが期待される。
§2と異なる仮定は,簡単化のため両国で利潤率格差は存在しない,すなわち,
R 7
一〒7=一=7一=1 (5.3)
R 7
とするが,賃金格差は両国で存在し,しかも均等格差々であるとする。すなわち,
予v ω
一=一=7一=々 . (5。4)
砂’ 歌ワ
§2の(2・6)式におけると同じ操作を上の条件を入れて行うと・次式がえられ
る。
D一(号一子)(争÷・÷)∵‘』一(515ヂ
つまり(2。7)式の最後の項が1/々だけ修正を被る。 このPが負ならば比較生
産費は期待通り舞崎<・となるのであるカ㍉仮定㈹によ卿括弧は
負であるから,第2括弧が正ならば期待通りになるが,後者が負ならば比較生産
費は逆転する。第2括弧の正負は次の函係に依存する。
房ヲ募に応じて・第2括弧は…暗たが・で器葺
そこでゑの値のいかんによって異なってくる結果を順次吟味せねばならない。
まずゐ一1の場合であるが,それはまさに§2の(2・7)式そのものである。つ
§5賃金の均等格差
211
まり両国で賃金格差も利潤率格差も存在しない,§2で吟味したケースにほかな
らない。そのような要素価格差不存在の場合に比べ,為の値のいかんによって比
較生産費差が拡大するか縮少するか,さらに比較優位が逆転するかどうか,いい
かえれば国際競争力が強まるかどうかを検討してみよう。
.鋳号傍 (ケース・)
仮定(5・・)により募/募く・である・・国砒較優位をもつべきX財はY
財に比ぺより労働集約的である。したがって両国に均等な賃金格差も々一ル/四’
一醐<・であり・x財労働者に不利であるが・々一を/募rである・つまり
両国で均等な賃金格差が技術係数格差に等しいとしよう。この条件を(5.r5)式に代
入すると,第2括弧がo,したがってD=o,Px/Pr=ρ。/ρyとなり,比較生産費
差は消失する。つまり1国のX財における比較優位と国際競争力とは失われる。
・塑÷/募 .. (ケース2)
均等賃金格差ゐは依然としてX財労働者に不利であるが,技術係数格差と同
じ程度には不利でないとしよう6たとえばx財(繊維)の資本集約度CILはY
財(機械)のそれC’/L’の1/2であるが,賃金率はY財の1に対してx財では
1/2以上,たとえ繧3/4であるというごとき状況である。この場合には(5.5)式
の第2括弧は正,したがってP〈o,Px/Py<ρ.Zちとなり,1国は依然とし
て労働集約的なX財に比較優位をもつことになる。だが明らかに(5.5)式の第2
括弧の絶対値は,ゐ一1の場合に比べ小さくなり,それだけDの絶対値つまり比
較生産費差は縮少し,それだけ1国のX財輸出(逆にいえば2国のY財輸出)の
国際競争力優位は減退する。
・〉を/募〉々 ’.一 (ケース3)
均等賃金格差彦は依然としてX財労働者に不利であるが,技術係数格差よ
りも一層不利になったとしよう。たとえばCILC’μ’一1/2=1であるのに々一
卿P7’=刎ω’一1/4というごとき状況である。この場合には(5.5)式の第2括弧
は負になり,したがってP>0・Px/Pr〉カ、/ρアとなる。つまり1国は労働集約
212
第6章比較生産費の決定因
的なX財ではなくむしろ資本集約的なY財において比較優位をもつように,比較
生産費が逆転するのである。
々〉・〉号/号 (ケース4)
すでに見たように世界的に賃金率は繊維工業の方が重化学工業よりも低い。し
たがって上述の三ケースのように々〈1と仮定するのが現実的である。だがあえ
てX財の方が高賃金であり々〉1であると仮定しよう。この場合には(5.5)式の
第2括弧は明らかに負になるのみでなく,その絶対値もた一1の場合に比べ増大
する。いいかえれば比較生産費はPx/Py<刎ρンとなり期待通り1国は労働集
約的なX財において比較優位をもつのみならず,比較生産費差は要素価格差不存
在の場合に比べ拡大するので,それだけ1国のX財輸出(2国のY財輸出)の国
際競争力優位は強まるのである。
上述の結果は,§3で行った両国に共通な生産函数を仮定する一層複雑なケー
スについても,同様にえられるのであるが,その詳論は省く。20!
上述の結果は一見するといささか逆説的にひびくであろう。しかしそれは熟考
するといささかも逆説的ではない重要な問題を含んでいるのである。.日本は繊維
工業を低賃金にすればするほどその国際競争力が強まるという.のが常識であろ
う。この常識論からいうと上述の結果は逆説的に見えるかもしれない。だがこの
常識論は一層正確にはrアズリカにおける賃金格差において繊維工業が低賃金で
ある以上に,・日本の繊維工業の賃金格差を低めれば」といわねばならず,そのか
ぎりにおいて正しい。だが日本においてもアメリカにおいても賃金格差が均等で
あるとき,その均等賃金格差のあり方については問題は全く異なるのである。
20)§3における(3.4)。(3。5)の代りに§5の(53)・(5,4)を仮定すると,(3.11)
式は次のように修正される.
4(舞){4(ρY)}騨(ρX)
= (ρx一ρ堂・た) (3.11)1
4ρX 9(ρr){∫’(ρX)}2
この修正は(5.5)式の(2。7)式に関する修正と全く同じ意味をもつ.したがって1国
にっいての々とρx/ρrの大小関係,および2国についての盈とρ」ノ伽の大小関係
について,本文で行った単一技術に関する4ケースに対応する組合せを求め, 順次吟
味するならば,若干複雑にはなううが本文における≧同じ結論がえられることがわか
るであろう.
§5賃金の均等格差
213
(ケース2)は均等賃金格差において繊維工業(X財)が低賃金であることは,
賃金格差不存在の場合に比べ,日本の繊維輸出競争力を強めるどころかかえって
弱めることを示唆しており,(ケース1)はそういう繊維工業の低賃金格差が技術
係数格差と等しくなれば日本の繊維輸出競争力は全く失われ喬ことを教えている
のである。これらのことは現実にはたとえば次のことを意味しよう。日本が繊維
工業の低賃金を武器として対アメリカ輸出を増加したとしよう。アメリカが日本
製繊維品の輸入を防邊する1つの有力な方策は,日本におけると同程度の賃金格
差になるようにアメリカの繊維工業の賃金を低くすること.である。そうすると日
・米の比較生産費差は縮少し日本の繊維輸出の競争力は弱まってくる。日本は再
び繊維工業を一層低賃金におさえ輸出競争力を増そうとするであろうq再びアメ
リカが均等賃金格差になるようにその繊稚工業の賃金を低下させるであろう。や
がて比較生産費差は消失し,日本の繊維輸出競争力は皆無に帰しよう。これは全
く悪循環である。つまり日本は繊維輸出の競争力を強めるために匿相手国よりも
大き・な,繊維に不利な賃金格差をもたねばならぬが,ほかの国もそれに対抗する
ために,繊維工業の低賃金格差が世界的な存在となり,さらにそういう均等格差
が拡大する欺らば,日本の繊維輸出競争力自体を弱めるのである。
悪循環を抜け出す途があるであろうか。(ケース4)が1つの示唆を与えてい
’よう。アメリカにおいても繊維工業の方が機械よりも高賃金ならば,日本でも繊
維工業の方を高賃金にした方がかえって日本の繊維工業輸出競争力を増すという
ことである。またそのことはアメリカの機械輸出競争力をも増すのである。世界
的になぜ繊維エ業と重工業とで賃金格差が存在するのか・またその格差炉ごうし
て変化するのかは,別の慎重な究明を必要としよう。ただ繊維工業の方が重工業
よりも高賃金になるということはほとんど望めないであろう。だから外国におい
ては,とくに世界経済の指導国たるアメリカにおいては,賃金格差が存在しない
ことが望ましい。その方が世界的に繊維工業炉低賃金であるよりも日本の繊維輸
出競争力を強めることになるのである。またもしアメリカの動き・を刺激として世
界的に繊維工業の賃金が高まの,賃金格差が縮少する傾向にあるならば,日本に
おいてもそれに比例 して躊躇するこ・となぐ繊維工業の賃金を高め,賃金格差を縮
214
第6章 埣較生産費の決定因
少することが望ましい。均等賃金格差以上の日本の繊維工業の低賃金から生ずる
いわばエキストラの国際競争力優位だけに目を『うばわれて,世界的な均等賃金格
差の縮少から生ずる国際競争力の増加の利益を忘れてはならないのである。
(ケース3)は別の重要な示唆を与えている。日本のごとき労働豊富・資本稀少
な国が1労働集約的なX財(繊維)でなく資本集約的なY財(機械)において比
較優位をもつことができ,その国際競争力が強まるのにはどうなったらよいかと
いう周題に対する1つの解答である。それは世界的に均等な賃金格差が,技術係
数格差以上に,X財で割安・Y財で割高になればよい。このことはアメリカで賃
金格差がX財であまりにも割安・Y財であまりにも割高になると,そのことが資
本集約的なY財においてアメリカがもっくいた競争力の優位を相殺してしまうの
そ,かえって日本がY財で比較優位をもつことになるのである。 だがそういう大
き・な世界的賃金格差はほとんど起りそうにないであろう・ただ次のことは・(ケー
ス2)の裏はらであって,はっき・りといえよう。すなわちアメリカの立場から見
ても,X財に不利,Y財に有利な均等賃金格差は,アメリカのもっている資本集
約的なY財における比較優位を強めるのではなく弱化する。むしろY財の賃金が
割安になることがアメリカの比較優位を強める。しかしそれは経済発展の別の視
点から見れば決して望ましいことではない。だからアメリカにとっても均等賃金
格差は存在しない方が望ましいであろう。
結局,繊維工業は低賃金,重工業は高賃金であり,しかもそれは世界的にかな
り均等な格差であることが現実だとしても,その存在は労働集約的なX財に比較
優位をもつ1国の国際競争力も,また資本集約的なY財に比較優位をもつ2国の
国際競争力も,いずれをも強めるものでなくかえって弱めるものである。とすれ
ば均等賃金格差は消去する方が望ましいのである。実現不可能ではあろうが,相
互に比較生産費差を拡大し,えらるべき貿易利益を増大するのに最も望ましいこ
とは、為〉1となること,つまり労働集約的な産業において資本集約的な産業に
おけるよりもかえって割高な賃金が世界的に普及することである。そのような方
向に向かう徴候が皆無ではない。アメリ1カにおいてサーヴィスやハンド・メイド
製品が最も割高であることが1つの例としであげうるであろう。
215
第7章 資本蓄積と国際分業
睾1 赤松博士「産業莞展の雁行形態」
日本の産業と貿易の発展を,総合弁証法の体系に依拠して,統一的に実証され
た赤松博士の研究は,そのすぐれたヴィジゴンにおいて,その広範に適用可能な
法則性において,まさに世界に誇るべぎ独創的な業績である。それは国際分業の
動態理論の中核を形づくるものである。
赤松博士のこの分野における展開は,相互に関連する次の3つの実証研究から
成り,それらが1つの統一理論を成している。それは第1に,産業発展の雁行形
態,第2に,世界経済の異質化と向質化,そして第3に,貿易地域の近接化と遠
隔化,これである。り 次第に明らかになるよケに,第1の命慶が基本であり,第
2・第3はその対外的現象形態であるから,
3者の統一理論をもここでr産業発
展の雁行形態論」と名づけておく。この統一理論はおそらく次の表現によって最
もよくあらわされているであろう6rここに産業発展の雁行形態というのは幾つ
』かの意味をもつのであるが,1つの共通的な意味は後進産業国あるいは新興産業
国の産業が先進産業国の産業を摂取し,それを追跡しつつ成長発展するばあいに
一般的に成立する発展法則を指すのである。」2)
1) この分野に関する赤松博士の主要著作は次のものである.
文献1r吾国経済発展の綜合弁証法」商業経済論叢第15巻上照,PP,179−210,
文献2「新興国産業発展の雁行形態」経済新秩序の形成原理,1945,後編第3章,
pp.299−314.
文献3経済政策,1950,pp。162−3。
文献4「わが国産業発展の雁行形態一機械器具工業にっいて一」一橋論叢 1956・
11, pp.68㌣80.
文献5r世界経済の異質化と同質化」経済新秩序の形成原理,後編第2章・pp・249
−98(商業経済論叢・1932・7より転載).
文献6「世界経済の構造変動」世界経済の構造と原理・1950・第2章・P章・38−75・
文献7「東亜貿易の歴史的類型」東京商科大学東亜経済研究所,東亜経済研究年報
1, 1942, pp.73−131.
以下では文献番号によって引用する.
2) 文献4,P.68.
216
第7章資本蓄積と国際分業
ところで第1のr産業発展の雁行形態」には,厳密には区別さるべき2つない
し3つの形態が含まれている。すなわち,’
Ia.雁行形態の基本型3)と博士が名づけられるものであって,各産業がそれぞ
れ,輸入の次に生産,生産の次に輸出が時を隔てて次々に興gてくることであ
る。この基本型がわが国の幾つかの産業について,綿密にき’れいに実証されでい
る。雁行形態という名称はおそらくこの実証分析のグラフ化からえられたもので
あろう。
Ib・雁行形態の変型りの第1として,消費財から生産財へ,あるいは農業から
軽工業,さらに重化学工業へというように,産業が時を隔てて次々に興ってくる
ことである。次々に興る各産業のそれぞれが,輸入一生産一輸出の基本型を経る
ことはいうまでもない。
1α雁行形態の変型の第2として,消費財においても粗製品から精巧品へ,.生
産財においても消費財生産手段を生産する生産財から,さらに生産財を生産する
高度生産財へというように,進展することである。
理論的には粗製品と精巧品』あるいは低次生産財と高次生産財とは,それぞれ
別の商品であり異なった産業であ資とみることができるから,Ic。とIb.とには
本質的な違いがない。両者を一括して,雁行形態の変型と呼ぶことにする。要す
るにそれは,一国が最初はX財(農業)だけ生産でぎる状態から,X財のほかに
Y財(軽工業)も,さらにはZ財(重化学工業)も,生産できるように,より高
度な産業をも保有するように生産が多様化することである。わたくしは赤松博士
のr雁行形態の変型」を「生産の多様化」と規定することにする。
いかにして生産の多様化が可能になるかを究明するヒとが残されているが,そ
れと同様に,雁行形態の基本型における各産業の輸入一生産一輸出の進展がいか
にして可能になるかも問われねばならない。それは比較生産費において初めに比
較的劣位にあり輪入されていたものが,生産方法の改善,生産能率の向上,コス
トの低下をまって,比較的優位に立つようにまで進展することによって可能にな
3)文献4,PP.69−70.
4)文献4,P.70.
§1 赤松博士r産業発展の雁行形態」 217
ることは疑う余地がない。したがってr雁行形態の基本型」は各産業のr生産の
能率化」を意味すると解してよいであろう。そして雁行形態の基本型と変型,い
いかえれば生産の能率化と多様化との選択にこそ,後述のように,国際分業の基
本問題が横たわっていると考えられるのである。
いま赤松博士の実証結果を象徴的に画いてみると第7.1図のようになる。X財
(農業),Y財(繊維工業),Z財(機械)の三産業を考える。y・・y、・巽という
ごとき・符号の添字の1は輸入,2は生産,3は輸出をあらわす。しかし,たとえ
ば農業のごときにおいて,雁行形態の基本型がはっき・りあらわれない場合も生ず
るであろう。ここでy、とかZ,という工業生産のカーヴは,それにほぼ平行す
る原材料(半製品を含む)輸入カーヴを随伴するという仮定を追加しておく。さ
らに厳密性を犠牲に』していえば,y,とZ、カーヴは生産を示すと同時に原材料
輸入をも示すもの.とみよう。
第7・1図 産業発展の雁行形態
Z
Z
皿×/
岬岬/!1
〆/
薪
皿’
3 Z
y
!影八
、 4
、 夕
ポーー数量︵対数目盛︶
糞 ノ∼
X2 ×3 1yユ Y2 y3 Z量 Z2 Z3 一一一一一時問
第7・1図において,X・Y・Z各産業において,輸入一生産一輸出という雁行形
態の基本型が時を隔てて繰り返されている。しかし,第1に,瓦・}㌔・ろという
各産業の生産カーヴだけを抜き出すと,時を経る.につれて次第に生産が多様化し
てくることがわかるであろう。第2 に,輸入力一ヴだけを抜き出してみると,箔
(繊維品輸入),y、(繊維原材料輸入),Z、(機械輸入),2ち(機械用原材料輸入)
というように次々に輸入が高度化するqこのうちy・ζ■・の製品の輸入はいっ
たん増加して価噸退するが・恥乙φ原材榊入眼く続くであろう・
.このほかに.二人口増加と農業生産の相対的減少とに伴う食糧輸入の増加が当然に
考慮に入れられねばならない。こうしで一時期における輸入商品構成と次の時期
218
第7一章資本蓄積と国際分業
におけるそれ∼;はおのずから異なってくる。これがいわば輸入商品構成の雁行形
態である。第3に,同じように輸出カーヴだけを抜き出してみると,X・(農業品
輸出),「、(繊維品輸出),Z、(機械輸出)が次々に興ってくる。X、のようにやが
て衰退してしまうものと,y、のように増加速度はにぶるがなかなか減退しないか
あるいは停滞的なものと,■、のように急速に増加しつつあるものとが生ずるであ
ろう。こうして輸出商品構成の雁行形態が検出できるのである。第2と第3とを
あわせて,貿易商品構成の雁行形態5)と総称してよいであろう。
一国の産業発展は他の諸国の同様な産業発展とのシーソー・ゲームの中におい
て行われる。一国の産業発展と貿易商品構成の雁行形態が順調に進展するために
は,外国の発展段階が一段階ないし数殺階ずれていて,相互に補完関係が保持さ
れねばならない。お互に同じ段階に達して競争関係に立つにいたるとき,相互の
産業発展は矛盾と相剋に陥るであろう。6)こういう諸国の産業発展の関係を適確
に捉えたものが,赤松博士のr世界経済の異質化と同質化」という理論である。
それが産業発展の雁行形態のコロラリーであることはいうまでもなレ・。だがそれ
が,厳密にいって基本型のコロラリーであるか,それとも変型のコロラリーであ
るかという点は,1つの問題である。、同じことは貿易構成の雁行形態についても
,
悶題である。
世界経済の異質化と同質化は細別すると2つの概念が含まれているようであ
る。第1は,一国と特定の外国との産業構造が異質的になるか同質化するかとい
う関係であう。これがおそらく異質化・同質化の基本型であって,同質性→異質
化や同質化→高度異質化というのが典型として考えられるであろう。第2は,大
5) r後進国は第1・段階において先進国より完成品を輸入し,自己固有の特産ならびに
原料品を輸出する.第2段階においては後進国は完成資本財生産手段を輸入し,完成
消費財の自己生産を開始する.ここにおいて生産手段としての原料の輸入も開始され
る.第3段階において完成消費財の輸出が起り,資本財の自己生産も行われきたる・第
4段階としては資本財の輸出が起外他面において往々消費財輸出の減退を生ずる.
これは低次後進国にその自己生産が起り,雁行的発展を追跡しきたるためである・」
文献7・p.74.
6) 産業発展のシーソー・ゲームに伴う」国と諸外国との競争ないし補完関係の変動
は,ブラウンの貿易結合度指数によってかなりよく捉えることがでぎる.本書第1章
参照。
§1
赤松博士r産業発展の雁行形態」
219
ぎっぱにいって世界経済構造が全体として,19世紀セは工業国イギリス対爾余の
後進農業国という異質化状況にあったのが,20世紀にはいってから工業が世界中
に普及したため大なり・小なり同質化したということである。これを異質化・同質
化の変型と見てよいであろう。
各国が雁行形態の変型すなわち生産の多様化を推進するとき,すべての国の産
業構造が同質的になり,世界経済全体の構造も同質化することは自明である。そ
の中で,特定二国聞で異質化とか高度異質化とかの異質化・同質化の基本型が発
現しうるのは,わずかに両国間の多様化段階の時期のずれにすぎない。7)赤松博
士における「世界経済の異質化と同質化」峠全体としてそのように考えているも
のと思われる。そうであるとすれば,それは雁行形態の基本型のコロラリーでは
1なくして,主として雁行形態の変型のコロラリーであるということになろう。
わたくしには,、雁行形態爾基本型すなわち生産の能率化の対外的発現の重要性
・を一層つきつめてみる必要があるように思われる。生産の多様化と違って生産の
餌率化は,後に明らかにす資ように,一国と外国との能率験階め違いをもたらす
が,必ずしも産業構造の同質化をもたらすものではない。また諸国が生産を多様
化レ世界経済が同質化してきているのは事実であるにしても,・その中で国際分業
と貿易の利益が,生産の多様化の若干の犠牲において生産を能率化するごとによ
って,もたらされることを認めねばならない。生産の能率化と多様化の選択,そ
の複雑な相互関係にこそほんとうに究明すべき問題がひそんでいる。そのために
は,異質化・同質化という生産の多様化と結びついた1つの概念のほかに、生産
の能率牝と結びあった異能率段階化・等能率段階化という別の概念を必要とする
ものと思われる。
産業発展のシーソー・ゲrムにおいて異質化・同質化の基本型が見出されると
き,.どこの国も異質経済を求めて貿易市場を拡大していくことは当然である。こ
7) r最も重要な雁行形態の1は後進諸国の発展段階がそれぞ晒異な為ことによって1
つの産業のそれぞれの国におげる雁行的発展が時期のずれにおいてつぎつぎに現れて
くることである・J r諸国産業の雁行形態が諸国において重なり合うことな.く・時間の
隔りにおいて雁行的であるときに国際分業は順調に行われうるのである・」
文献4,p.71.
220
第、7章資本蓄積と国際分業
こに一国の貿易市場(あるいは貿易地域)構成の雁行形態婁)が見出される。それは貿
易商品構成の雁行形態と表裏の密接な関係にあることはいうまでもない。つまり
一・
の産業発展の雁行形態が,ある外国との間に異質化を,他の外国との間に同
質化をもたらし,一国貿易の商品構成と地域構成とを刻々に変えていくのである.
このようにして赤松博士の3つの実証研究は,産業発展の雁行形態論として1
つの統一理論にまとめあげられるのである。そしてこの理論に基いて,後進諸国
における雁行的発展の予測を行い,一r自国と後進国との雁行のずれを考慮しつつ
将来の輸出需要の変化と輸出品の転換とに配慮を払う」9)というように,政策に
役立たせることを企図されているのである。本章は赤松博士の実証研究に満腔の
敬意を払い,その企図に全面的に賛成しつつ,その企図を生かすために博士の体
系の若干の理論的展開を試みようとするものである。10〉展開に当って,博士の体
8) 「先進国の貿易は近接地より漸次遠隔地に向かってその貿易域を拡大せるに対し
て・後進国としての日・支は遠隔地より漸次近接地に向かってその貿易域を集敏しぎ
たった・」「さらに,新興国の工業品輸出はその産業の発展に伴って近接後進国より遠
隔後進国に向かって拡大し,輸出分布度は大となる.輸入の側においても工業原料は
良質を求めて遠隔地に及ぶ・」文献7,pp・77−8・
名和教授が創唱されたところの,日本貿易の市場構成と商品構成とを組み合わせた
3環節論は.雁行的産業発展の対外的発現の把握として興味あるシェーマである.す
なわち,〔第1環節〕生糸=綿花および機械の対米貿易.〔第2環節〕綿製品=重工業
原料の対英帝国貿易.〔第3環節〕機械および雑製品=食料の対満州・中国貿易.だ
がこのシェーマにおいても,いかにして環節の構成が変化していくのかの原理とメカ
ニズムが十分に究明さるべき課題として残されているであろう.
名和統一,日本紡績業と原棉問題研究,1937,p.463.同,日本資本主義と貿易問
題,1948,PP.22−3,内田穰吉「日本資本主義と貿易依存度」経済思潮,第1輯,
1946・松井清,日本の貿易,1954,PP。37−42.吉村正晴「日本貿易政策」1956。
pp.95−105.
9) 文献4,p.72.
10) 赤松博士の実証研究はまさにキール世界経済研究所の次の2大研究を総合したもの
と比肩せらるべぎである.Walther G.R碓mann,B7漉訪1%4%3≠矧・1700−1950.
translated by W.0.且enderson and W.H.Chaloner,Oxford,1955.Wemer
Schlote,β7漉3h O”θ73θ4s T7σ4θ,〃o卿1700’oガhθ1930’3・translated by W・王L
Chalonerβnd W.0.Henderson,Oxford,1952.
ホフマンはイギリス産業の雁行的発展を次の第7.2図のように画いて要約してい
る.この図の横軸は全産業の基本趨勢を示し,縦軸は産出量の対数がとられている.
したがって各産業のカーヴは,基本趨勢を100とした指数である.たとえば基本趨勢
が年2%の成長率であるのに,A産業の年成長率が5%のときには,後者から前者を
差し引いた3彩という超過成長率がこの図表から判断でぎる.
§1 赤松博士r産業発展の雁行形態」
221
系においていささか曖昧に残されている点について克服せねばならぬ問題がある
ように、思われる。
最も根本的な問題は,博士の実証研究が形態分析にどどまっていて,』動因分析
が十分に果されていないということである。雁行形態の基本型(生産の能率化)と
・変型(生産の多様化)1とが,いかなる基本的変数の函数として進展しぐいくのであ
ろうか。わたくしにはその基本的変数は何にもまして資本蓄積である,いいかえ
れば資本対労働比率が高まることであると確信される。わたくしはすでに,雁行
形態の基本型(生産の能率化)は,比較生産費において初めに比較的劣位にあり輸
入されていたものが,生産方法の改善,生産能率の向上,コストの低下をまって,
比較的優位に立つようにまで進展することによって可能になることを指摘した。
その生産方法の改善,』生産能率の向上,コストの低下は,資本蓄積が進み資本対
労働比率が高まり,より資本集約的な生産方法に移ることによって可能になるこ
第7.2図
20
『、、
ヤ ヤ ヤ ¥
¥ \¥\¥’
150
A
B
C
100
Ho丘血annラ」み∫4.,P.182。
このようにして画かれる各産業の生産量の盛衰カーヴは対数拠物線Iogarithmic
P㎜b・laすな 1・gy一・+(1・幽(1劉がの形をとる・各産業は(・)拡張
段階,すなわち生産量の成長率が逓増する段階,〔2)生産量の成長率が逓減する遅い
成長段階,(3).生産量の絶対的低下(ただし基本趨勢に比べて)に陥る衰退段階,この
3段階を経るのが普通である.またA産業の次にB産業というように時を隔てて産業
が興ってくる(雁行形態)のであるが,各カーヴの始期と終期の間の長さは一定でな
いし,Aカーヴの始期のどれだけあとでBカーヴが始まるか,さらにCカーヴがいっ
始まるかの期間についても一般的にいうことはでき’ない。ホフマンは100年以上にわ
たってデータをあつめイギリスの諸産業について上の3時期を検出しているのである
(以上,Hoffmam,」房4.,PP,180−6)・
なお工業ヨーロッパ諸国の産業発展の雁行形態については,次の2著から多くの実
証研究が果しうるであろう.
Ingvar Svennilson,G70祝ンず苑4解4S如9”4∫∫oπ」%渉hθEπ70ρ04πEoo箆o吻」y・United
Nations,1954. Charles P.Kindleberger, Thθ Tθ7彫s oゾ』T■44θ : A E%70ρθ4η
C4sθS魏む,W玉1砂,1956.
、222
第7章資本蓄積と国際分業
とは明らかである♂1)雁行形態の変型(生産の多様化)についても同様であるσ・
X・Y・Z財はそれぞれ生産函数が異なり,与えられた労働と資本の価格比率のも
.とでは,X財よ、りも.Y財は,、Y財よりもZ財はさらに一層,常に資本集約的な生
産方法をとる。そうであるならば資本蓄積が進み一国の資本対労働比率が高まっ
て初めて,X財のほかにより資本集約的なY財も・さらにZ財も生産し.うるにい
.たる。つまり生産の多様化も資本蓄積の函数と見うるのである。そして資本蓄積
が進むにつれ,生産の能率化と多様化との2つが可能になる。しかし両者の賜に
はかなりの選択の余地が残されており,そこに興味ある国際分業の動態問題が発
生する。それが本章の究明しようとする課題である。
もとより赤松博士も.形態分析の中に理論的に編み込まれてはいないが,資本
蓄積こそが産業発展の雁行形態の基本動力の1つであることを,折に触れ指摘さ
れている。すなわち第. 1に,.rここに後進諸国の工業化が出発するのであるが,
この工業化の要件とし・ては国内に販売市場が存在する之 ど∫また生産設備を建設
するための資本蓄積があることデさ らに生産技術が導入されることなどである。
国内市場はすでに輸入品市場亡して開拓されているのであるから,輸入品にとっ
て代るだけの価格と品質の条件を備えた国内生産が行われねばならない。わが日
本においては資本蓄積と技術習得とがき’わめてめざましい勢をもって達成された
ことが回想せられる。ゴ2)第2に,後進国の軽工業化につれ,「消費手段または素
朴品の工業は世界的に同質化される傾向にある。異質化の範囲は主として生産手
段工業,あるいは精巧品工業と原料または生活資料生産との間に局限される傾向
’をとる。しかして,またこの残されたる異質性の範囲も資本蓄積の増大によって
次第に狭小となり,同質性の領域が拡大する傾向をもっている。」13)第3に.「ま
た他方,先進工業国においても,その資本蓄積が増大するときば,比較的生産費
の視点より有利な産業も供給の増大に伴うその利潤率の低下のために,比較的劣
勢な産業と等しい立場となり,蓄積資本は比較的劣勢な産業に も投下せらるるに
11) その最も明確な理論化はロビンソンである.Joan Robinson,丁舵・Aoo%瑠%」罐02彦
o/Cσρ舘σ」,1956,Bk。II.
12) 文献4,PP.68−9。
13)文献5,PP,259−60.
§21っのモデル
223
いたる。すなわち資本蓄積の増大は比較的生産費説の説く国際分業の利益を否定
することとさえなるのであって,このために主業国間においても,農業国・工業
国の間と等しく同質化の傾向を生ずる。」14)すなわち第1は資本蓄積を動力とす
る後進国の生産の能率化,第2は資本蓄積の進行による後進国の生産の多様化,
第3は同じく資本蓄積の高度化に伴う先進国の多様化の指摘である。そして,第
2と第3は後進国と先准国の生産の多様化につれ, 』世界経済㊤同質化とその矛盾
が深まることを警告しているのである。
ところで,諸国が生産を多様化し,世界経済が同質化してくるにつれて,国際
分業と貿易は確かに不安定な(p∫ecariOUS)ものになってくる。そこに世界貿易
の得来の重大問題が樟たわ?ている。この点に関する季松辱士の結論はどうであ
ろうか。曰くrかくして世界経済の同質化を助長した経済的国家主義は,ある意
辱で自己存超趣する経済的領域◎拡大への努力匹タρ墾自から工業化したこと
のため年先った自然的地盤を再び自戸の内部にとg.もギさ1んとして広域的自給化
の方向嗜進みつつ南畢・他方解世界経済同箪作φ構璋的矛盾は国困の弩済統制を
招来し従来硯卑申主毒経済を否定するにいたφつつ鞄る♀しかし・またこの甲
家的統制によって生産力が漸次国内的に均勢を得,生産と消費とが調和されき’た
るときは,おのずから世界弩済卵同質準g反華ぴ葎和し,卑然的,、また国民的制約
を基礎とする世界経済的異質関係が安定的に保持鷺られることも可能である。」15》
§2 1つのモデル
われわれのモデルは「国際的要素価格均等化論」16)の展開として求められう。
14) 文献5,P.260.
15)文献5,PP.297−8.
16) 国際的要素価格均等化論に関する文献は数多くある1その『中で本章の考え方の基礎
となったものは次の諸文献である.Svend Laurs6n,‘‘Pr6duction Functions and
the Theo耶of International Trade,” 且卿召γ∫o雌Eω擁駕‘6Roか魏o,Sept。1952。
J.E.Meade,T744θα%4 彫θ肋〆θ,1955,Part II工曼、.皐9璃P9又Rob麺sgq烹f‘E裂cto1二
Proportions and Comparative Advap七age・” Q紹■惚γケ∫oπ7%!、oゾE60%o卿Jos・
May and Aug.1956・ R・。S。Eckaus,、‘‘Th今Facto鶏P;6pQrtions Problem in
Underdevelope(l Areas,”∠4彫θ7ゴo碗E60πo卿ゴ01∼甜勉o,Se勲t。1955.
資本蓄積と国際分業という別の観点から本章の考え方に深レ・影響を与えたものは,
D.M.Bensusan−Butt,ご‘A・Model of Trade and Accumulation,’㌧4勉θ7Jo朋Eooπo.
,π∫oRo加θzσ,Sept.1954である.
224
第7章資本蓄積と国際分業
それは(a)各産業ごとに生産函数が異なることと,r(b)各国における労働対資本
の資源比率が異なるという2つの条件のもとで,各国の資源の最適利用,各産業
への最適配分を決定する理論である。17)
いまX(農業),Y(繊維工業)・Z(重化学工業)の三財につき,次のような
ダグラス型生産函数(P−6L為σ)を仮定する。18)
3 1
ユ ユ
1 1
ユ P■串1.0×LiC荏
1 3
Px=LO×L婆C‘
PアゴLO×L2C茗
0「」ogPx=
f」・gL+…flOgC
・or logPゼ引ogL+70gC
0r JogP・=
0gL+70gC
ただしPは産出量,Lは労働量,Cは資本量,δは常数である。騒数はた+ブー1
であるから,投入規模・産出量比例の原則(co狂stant retums−to scale)を仮定して
いる。上の生産函数に労働量Lを一定(900)とし資本量Cと産出量Pとを変
数として当てはめると,第7・1表(1)欄が求められる。そのX、・X、・X、という符
号はX財の3種の生産方法を意味しているが,それは同じX財の生産について順
次,より資本集約的な,より高度な生産方法をあらわしている。y、…y、,■1…Z,
、
についても同様である。
第7.1表(2)欄の生産要素価格は次のように算出できる。例をX、丁生産方法に
とろう。X財産出量575のうち,既述のダグラス函数に基いて,3/4は労働の分
け前となり(すなわち575×3/4−431),残りの1/4は資本の分け前となる(すなわち
575×1/4−144)。431のX財は900単位の労働に分けられるから,労働単位当りの
報酬,』すなわちX財ではかった労働の価格∫Lは431÷900−0.4791となる。同
様にしてX財ではかった資本の価格ノlcは144÷150−0。9583となる。したがっ
て労働と資本の価格比率左:んは1:2となる。このような方法によって,第
7・1表(2》欄のように,X・Y・Zのそれぞれの財ではかった労働と 資本の価格と,
17)以下のモデルは,本書第9章において幾何学的に解明したものを,ダグラス函数を
用いて数字例によって例解しているという関係にある.
18) ダグラス函数につ.いては次を参照されたい.
P.H。Douglas,T々6Thβ07yげ躍4963,1934.篠原三代平,雇傭と賃銀,1949,
第4章.
225
§21っのモデル
素率 量
3 π
産
働 本
畿㍊
コス ト
産方法
ヂ
労 資’要比 生
ヌ生産物
(1)生産函数
生
塵鱈
第7。1表
X財
瓦瓦瓦
L C L:C P
575
0.4791 0.9583 1:2
2.087
618
684
0。5150 0.772護 1:1、5
1.942
0.5700 0.5700 1 :1
1.754
900 300 3=1
450 2:1
600 1.5=1
Z財
■Z■
900 1:1
食∪50
Y財
y1・900
r2 900
y3 900
37
39
0
6
900 150 ・6:1
900 200 4.5:1
0.3533 0,7067 1:2 、
2.830
0.4083 0.6125 1:1.5
2.449
0.5000 0.5000 1:1
2.000
9001,350 2/3:1 1,220
0.3389 0.6778 1 :2
2.951
900 1,800 ’0.5:1 1,510
0.4194 0.6291 1:1.5
2.384
9002,700 1/3:12,051
0.5697 0。5697 1:1’
1.755
’その相対比率が求められる。
次に第7.1表(3)欄の各財のコストπを次のように算出する。再びX、につい
て説明しよう。この生産方法においては,∫が∫c−1:2の相対価格をもつ労働
900と資本150とで,575単位のX財が生産される。したがって労働の単位価格
を1とおけば,X財900の総コストは1×900+2×150−1,200であり,X財の単
位当りコストπxは1,200÷575−2。087となる。すなわちこのπxは,X,とい
う生産方法を採用したときの,労働ではかったX財のコストである。同様な方法
によって,各財の各生産方法によるコストを労働ではかったものが算出できる。
それが第7・1表(3)欄である。各財につき,より資本集約的な・より高度な生産方
法がとられるほど,コストが低廉に巌ることがわかるであろう。そのような各財
についてのコストの低下を生産の能率化と呼ぶことにする。コストの単位である
労働の払った労苦とか犠牲は各財の各生産方法を通じて一定であるから,生産が
能率化し商品のコストが低下するほど労働者の生活水準が向上しうることはいう
までもない。また生産の能率化につれ要素価格比率が労働に有利に資本に不利に
亀
変ることも明らかである。
226
第7章 資本蓄積と国際分業
生孝要素の国内移動が自由でありヶ自由堪争によってその価格づけが行われ,
したがって各産業を通じて各生産要素の価格は均一になるものと仮定する。この
ことは,ノがん一1;2であるならば三産業においてそれぞれ、X、・y押Z、という
生産方法を採用せねぽならぬことを意昧する。一方でX産業でX、隼産方法がと
られ,他方でY産業で乳隼産方法がとられるなら犀,当然に両産業間に賃金格
差と利潤率努差が発生するが・そういうことは生じな“ものと仮定す巻中である。
、このように仮定すると,第7.2表のように,各産業で要素価格が均与匠なる3つ
の(あるいぱもっと多くの)セヅトが選び出せる。セット1に比ベセット亘ではす
べての産業がより能率的になる。 したがって各セヅトを能率段階と呼んでも1よい
であろう。また同じ要素価格比率がとられると,いいかえれば同じセシトの中で
は,X財に比べるとY財はより資本集約的であ.り,Z財はY財よりも憎層資本集
約的な生産方法をとることがわかる.これ炉ダグラス函数によってあらわした生
産函数に関する根本的仮定である。
以上が生産函数に関する仮定である。次に各国における資源比率ならびにその
変化については任意に仮定の数字をあげることにする。ただ資源比率の変化を明
らかにしようとするならば,次のような方法が考えられる。年々の資本蓄積率か
ら年々の人口増加率を差し引いたものを純資本形成率と名づけよう。これが労働
対資本の配在比率を変える原因となる。たとえば現在,労働900対資本150をも
っている国は妻純資本形成率を7とすれば,%期後の資本量Cは∫
C−150×(1+7)π・
となるから,労働900対上のCという比率が銘期後の資源比率となるのであ
る。たとえばA・B・C三国がす飛て労働900対資本150という同じ資源比率か
ら出発するとし,%一〇。117β一〇2,7c−0,3と仮定するならば,第7.3表がえら
れる。第5期と第6期の中間ごろには,資本量はA国では200,B国では400,C
国では600の水準に達する。 こういうA国を後に後進国,B国を中進国,
C国を
先進国とそれぞれ仮定するのである。・
こうして問題は,所与の資源比率めもとで各国はまず外国貿易を考察外におい
ド
て,いかなる資源配分を選ぶかということである。各国が異なったセットを選ぶ
227
§21つのモデル
第7。2表
C111
2・ L
L
β
6
22
ら
司c脚鰯鋤d
あ。 Lん
左 ん.
0 0 0
L
O O
9O
9
9
1 五
セ セ
艸及若乙艸
P
盆’
575
π
2.087
1.000
−636
2.830
1.356
2.951
1。414
・1,220
:ノむ=1:1.5
L.
C L;c
P π
X2 900
200 4.5:1
618 1.942
y2 900
600 1.5:1
735 2,449
1.261
ユ,510r 2.384
1。2276
Z, 900
セット 皿:
XyZ
L
1,800 0.5:1
左
:ノヒコ1:1
900
C L:C
300 3:1
900 1:1
900
2,700 1/3:1
900
π’
1.000
. P』
’
π π
684.
1.754 1。000
900
2.00D1
一一
ならぼ異なるセシトでぼX・Y・Zのコスト
’1.1402
1.755茸 1.000
聖051
第ブニ3表 資本蓄積量
比率・(第7・2表にπ’として示してある)が導.
うので,比較生産費差が発生する。そこで.、
う。世界価格比率が与えられれば,生産額,
を極大ならしめる資源配分が決定されプそ
れは貿易前と違ったセットであるこどがわ
かり,両者の比較によって貿易利益がはウ、
き’りと算定でき’るであろう。さらに世界の
セ
うち一国が資本蓄積を進めて従来とは異な.
ったセヅトに移るならば,ほかの国は再調・
整を必要とされよう。このような諸国の経
済発展のシーソー・ゲームが生み出す国際
7。4≧0・1
75
8910
012364
分業と貿易を行った方が有利になるであろ
A、国.、
期
150.0
155」0『
160.5、
C 国
B、国
7β=0・2
7cこ0.3
150.0
150.0
』180.0
1白5.0
253.5
216.0.
176.5
259.2
392。5
184.2ド
311.0
428.4
202.6.
373,25
556よ9
724.0
222.9
447.9
.245.1
537.5
、941.2
269.7
645.0
1,223.6
296.6
774.0
1,590。7 −
326.3
928.8
2,067.9
分業の動態的変動を究明しようとするのが,このモデルのねらいである。
228
第、7章.資本蓄積と国際分業
§3 資源の最適配分
第7・1表の各財の各生産方法についての要素比率L:Cをあらわせば第7.3図
のOX、,OX,,OX、……の動径が画ける。たとえばOX、線は労働4対資本1とい
う技術係数をあらわしている。OX、線とOX、線にかこまれた範囲内(これをセ
ット域 Xと呼ぶ)に・IPxという符号を 第7.3図
つけたX財の等生産量曲線の一部が画げ
z3 z2 z、 y3
9 /
る。もちろん等生産量曲線は無数に画嘗 ノ
巴 ノ /y2
け,群をなしている。同様に0ヱ線と / /
C / −/ γ1
0}㌔線の範囲内(セット域y)にY財
!//!
/ の等生産量曲線群(Py曲線の群)の一部
が,また0■、線と0■、線の範囲内(セ
ット域■羽にZ財の等生産量曲線群(Pz
曲線の群)の一部がそれぞれ画ける。10
///
_ / ー
く ノ
/!
1 / 1¥3
/ . !
ノ ノノ
4襲託/境
O
’ Lab。rL
線ならびにそれと平行な無数の線は∫が∫c−1:1という要素価格比率を示すが.
それはOX、,oyl,0■,なる動径上におい宅各等生産量曲線に接する。図示して
■
いないが,!L:∫c−1:2のとき・にはOX、10玖,0■、動径上において要素価格比率
線は各等生産量曲線匠接する。・また∫が∫c−1:1.5 のときには0瓦,0鶏,0ろ
動径上において要素価格比率線は各等生産量曲線に接する。したがって,たとえ
ばセット1のもとでは各財の生産点はOX,,oy、,OZ、・各動径の上に定ま1る。後
に第7。4図のように生産函数を画き直すときには,それらの動径の交点において
は必ず各財の等生産量曲線は外接し,均一の要素価格比率を与えるのである。さ
らにまた,一定の要素価格比率のもとでは,たとえば第7.3図のかッ・2三点の
比較からわかるように,X財に比べるとY財は常により資本集約的であり,Z財
はさらに一層より資本集約的な生産方法をとるのである。
資本と労働の存在量を示すボックスハ4/Vの中に各セヅト域を画き直すと第7・4
図がえられる。後に検討する中進国Bを例にとり,横軸に労働900を,縦軸に資
本400をとる。第7.3図でえられたセット域を,M点から上方にセット域yと
229
§3資源の最適配分
第7・4図 B国(900;400)
セット域Xと■とを,
z3 z2 zl y3 y2
1
11
1ー
ノ
. !ノノ!/ゐ
ー’
γ1
κ Z
’ Z
︷
’
/’
!’
/’
’
c場
ク・
’
μ/
’∠
/
’ 〆
//、一.g//臨
方法を見出すことであ
!竺
への幾つかの資源配分の
’
ノ
/
、/ゐ∼, /. r
用をはかるような,各財
X M
O巷一霊一1
ず労働と資本との完全雇
XX
それぞれ画く。問題はま
Labor」一一
。,
1
亙;om冨の
■とを,N点から下方に
る。
すでに明らかにしたように,一一定の要素価格比率のもとでは,それに対応する
各財の動径の交点において資源の完全雇用と最適利用の条件がみたされる。まず
セット1をとろう。このときには,NX、線と、M箔線の交点αと,NXf.線と
MZ、線の交点6とが容易に見つかる。σ点では労働gooの1/6をx財の生産
に,その5/6をY財の生産に配分すれば労働の完全雇用がはかられる。上の116
と5/6 を資源配分比重と呼ぶことにする(N4』と惚の水平距離を㎜vの水平距離
で割ったものが,1/6と5/6である。こういう方法で容易に資源配分比重を見出すことがで
ぎる)。
資本400は・X・生産方法で必要とされる資本150(箏7・1表・第7・2表参照)に資
源配分比重1/6をかけたもの,すなわち25をx財の生産に,y、生産方法で必
要とされる資本450.に資源配分比重5/6をかけたもの,・すなわち375をY財の生
産に,それぞれ配分すれば完全利用がはかられる。生産量は,X、生産方法によ
る生産量575に資源配分比重1/6をかけた95・83のx財と,y、生産方法による
生産量636に資源配分比重 5/6・をかけた530のY財とがえられる。したがって資
源配分比重を見出すことが重要である。なおこのように資源配分比重を活用でぎ
る,のは,各財の生産にっいてconstant retums to scaleが仮定されているから
である。ゐ点における資源配分比重は,琴財が、19/24ズz財が5/24である。
上のように,X財とY財,あるいはX財とZ財という二財の生産組合せは可能
であるが,Y財とZ財という組合せはこの国では不可能である。それは第7.4図
ではセット、域yとセット域■とが交わっていないことで示されている。そうで
230
第、7.章.資本蓄積と周際分業
A国 (900ぽ200)
(1)資源配分
{鐸‡馨』
セ・
一
ツ[躬]∫濁150×孝一・4翫75
271 1,350×一置 56.25
/
第7・4表
(2)生 産 量
5
PX575×一一479,17
6
1
Py636x一諄106.00
6
Pxl
II
一 募帰碕轡玉1石誓…
π1r=2。830 y17幕133r67
γ 3=612.84
πX=2,087 フ「X富551。04
PZ・・22bxか5・・83
πZ=2。951 7Z== 62.40
計 200.00
ト
3
2r1 1,350×一= 27
150_
計 200
πX==2,087 τ7’−=479、17
7す×餐一55L・4
24
固∫濫蔀l
(3〉コス1ト (4)生産額
▽『 =613.44
134
PX575x一=513。67
150
πX==2rO87 72『罵513.67
13
P7636x一=55.12
マ=2・830 yr=69・51
150
3
PZ1,220×一一24。40
150
πZ冒2,951 耳72r=29,95
7 雷613.13
”搬一閥』一6i藪τσ⊇面
”i匠ヨ:藪2一” …ザ2三ろfぎ”
1V富618
B国・(900=400)
セ臨、∫欝彗
1
P−575×一=95。83
πX冒21087
γ−=95.83
’t
6
計 400
でr636×下=530・00
πy=2r830
7y冨668響33
ツ暁,∫愛識望蠣
19
P−575x一=455。21
24
ト/
計 400.00
24
・詳、臨l
/
1
2『1 1,350×一=150
9_
計 400
㎜颪∫ア董一嗜甑i董奮
/計 4。。
セ
旭,/愛灘重二芸
ト/
亙 §⋮i講
8
計 400
ε
▽「 =764.16
πX呂2。087
5
PZ1,220又一=254,17
24
πZ冨2,951
Py735×0。5冨367。5
耳7Z豊312・02
7 =767ワ23
1
PX575X一冨287、5
2
7
P■F 636x一冨247。3
18
1
PZ1,220×『富135.56
9
”ア!『筍語苅1ぎ;含西1σT
7−一455。21
πX=2.087
72藍r富287。5
πr寓2,830
▽r−311.8
πZ富2,951
r
−’
憂;工藪ガ』
冨7冒29449
72F;166.4
..互_!76蟹
γπ藷6◎.o
U7■F冨463薗4
y旨772.4
P− 618×一冒540.75
7
8
1
PZ15510×}=188。75
8
Pπ618xO.8−494。4
、Pr 735×0.1召73,5
Pzユ,510xO,1−151.0
πX=1・942
πZ冨2・384
τ72r=540,75
γZ=231,71
7 富772.46
πX=1,942
π1r冒2・449
πZ冒2,384
72r=494、4
y’
昌92・7
7Z=185,4
7i772.5
§3姿題、9、、最、適
」
5
×3・300×一認250
− 6
一
[Bσ]一
900×
231
駈、分..
5
P渓6寧4×τ一570・0
πXゴ1・754
1
Pr900×一一150,0
6
π】7耳2,000
γ2r冨570,0
77=189・15
y.一759・15
1臨、∫愛諜窒1禰
!計…244。。.。
23
P−684×一;655,5
24
1
PZ2,051ズー一85.46
24
π−5L754
πZ=1。755
7」『二655,5
▽「
=104曾9
7 =760.4
ト
378 、
〔
X3 300×一冨252
378
Px684×一菖574,56
450
πX二L754r
7−=574・56
−71
ド
[Bε]ノy3
71
Pr900×一一142.00
π7−2、000
多71v=179.06
1
Pz2,051×一一4・56
πZ罵1,755
γZ= 5・60
皿
450
900×
=142
、
lZ32,7・。×⊥一6
し
450
450
450
計 400
y =759.22
C 国 (900:600)
[Cα].優1,ll3菱3:ll:二5器
/
Pπ575×0,625=359。375
1PZ 1,220×0,375;45715’
τ2『富2。087
π2r=2。951
計 600,00
セ
7X=359.375
7Z=561,627
7 冨921.002
了 ,ら,/蹄o†晒
ツ
、
ZI lp350x一=225
トー
・畠 6_
計一 600
ぺ XL『 150×0.4= 60
∫
r1 450×0.3=135
甲/響1・350×瞬一畿
r西訳弄・・600×LO蠕
;,C,、優、灘1二纂二墾
Y計 600
ト
F
5
P17 636x一=530.0
6
1
PZ1,220×一一203・3
6
π7=2薗830
7】r=668r33
πZ52・951
yz讐249・57
▽「 =917.90
PX575×D,4箒230。O
π2r二=2.087
7』f=230、0
7r=240.6
7Z=449.3
P7 636x O,3=190隆8
π】r=2.830
pz1〕220×0・3−366.0
πZお2,951
Pr735琴LO−735
π1F=呂・.449
y】r冨926。8
y =926.8
π2『彊1響942
π2r=2.384
7』r=463、5
γZ;=463・4
ワF=926、9
7篇919.9
P− 618−xO・75=463.5
pZ1,510xO。25認377.5
抽倭難灘
叫桑翻襯磯18罵藩翫㎜簿ii
PX 618×0.6=370,8
Pr735×02器147』O
PZ1,510×0・2−302・0
π』r二1・942
πr=2。449
πZ騙2.384
▽』r需370,8
γ7===185。4
▽「
r=370.7
▽’露926、9
セ
ツ[Cl]優以撒雛:盤弩2,lll菱1:lll二lll二175諺二ll鷺急 彰委二lll:1
ト 、
計 600.O
V’=913.2
耳畷難≡叢雛騰鵬…1鰻簾
潭) (1)欄の資源配分は資本についてだけ示してあるが・労働の醍分は総労働量900に資源配分比重をか
ければ容易に求められる・
(2)欄の生産額は世界価格比率をπ■3π7認Zd:1・261:L2276としたときのX財ではなかった
、生産量の価値である..
232
第7章資本蓄積と国際分業
あると労働・資本両者の完全雇用が達成できないのである。このことは第7。2表
セヅト1におい丁・LとZ・の資本必要量が450と1・350とであって・ともに
資本存在量400を上回っていることからも明らかである。
しかしながら二財の生産組合せだけでなくX・Y・Z三財の生産組合せも可能で
ある。第7・4図のδ点から考察を始めるならば,その点からX・Z二財の生産を
若干ずつ減らしていけばX・Z二財のほかにY財の生産も可能になる。作図上で
は1VX、線上の一点とMZ、線上の一点とをつなぐ線が,ハ4y、線と平行になるよ
うな,三財の生産組合せは,労働・資本の完全雇用を保証する。そういう資源配
分は無数にある。第7・4図のc点とo’点とはその1つのケースである。そこで
はoo〆線はハ4歎線と平行であり,oo’の水平距離がY財への資源配分比重を与
える。つまり労働は,X財にハ西6,Y財に60’,Z財にMi6’の各水平距離だけ
配分されるのである。σ0’のごとき線がさらに一層右に平行移動するとついに 4
点に達し,そこではX・Y二財だけが生産されるようになるのである。
同様の方法によって他のセヅトのもとでの資源配分をも容易に見出すことがで
きる。セヅトn1のもとでは4点でX・Y二財を,あるいはθ点でX・Z二財を
生産するか,∫と∫’点のごときでX・Y・Z三財を生産することができる。セヅ
ト皿のもとでは,g点でX・Y二財を、あるいはh点でX・Z二財を生産する
か,げとづ’点のごときでX・Y・Z三財を生産することができる。
いま後進国Aは900:200,中進国Bは900:400,先進国Cは900:600とい
う労働・資本比率にあるとしよう。これは第7.3表において,各国がほぼ第5期
ど第6期の中問にある状態である。各国について第7,4図において行ったよう な
検討を試みるならば,第7.4表のような各国の資源配分の一覧表がえられるであ
・ろう。ただしこの表には,二財への資源配分は網羅されているが,三財への資源
配分は多くの可能性のうちの1つだけが掲げられている。
第7。4表に示された多くの生産組合せ(ProductionPo6sibilityore岱cient
facet)のうち,どれが極大の生産額を各国に保証する最適生産であるかを決める
には,三財の世界価格比率が与えられねばならない。、第7.4表(4)欄には世界価格
比率がπx:存:πz−1:L261:1.2276である場合,すなわちセヅト■のコスト
§3資源の最適配分
233
比率と等しい場合における,三各国の各生産組合ぜの生産額yが算出されている。
したがってyはX財ではかった生産額ということになる。1上と違ったいろいろ
な世界価格比率を与えて同じようにyの算出を試みるとよい。そのような検討
によって発見されるのは次の2つの命題である。
第1に,世界価格比率にコスト比率が一致する場合に,その世界価格比率のも
とでの生産額が,極大になる。第7・4表(4)欄によると,A・B・C三国とも,世界
価格比率にコス1ト比率が等しいセッ、ト■の生産組合せを選ぶと,他のセヅトの生
産組合せよひも,生産額がいちばん大きい。このことは限界的極大原理から明らか
である。たとえばB国をとると,セット■の[B4],[B。],[Bノ]ではほぼ772の
生産額となるのに,セット1ではほぼ765,セヅト皿ではほぼ759にすぎない。
他の国についても同様である。上のセット丑の生産額が他のセヅトのそれを上回
る差額は,貿易前に他のセットをとっていたのが貿易開始によってセット皿に移
ったものとすれば,国際分業と貿易の利益19)にほかならない。貿易開始期に比較
生産費差が存在したということは,われわれのシステムでは一国と外国とが異な
るセヅトをとっていたからにほかならないから,貿易開始は当然にセットの移行
を伴うのである。このことはまた,’所与の世界価格比率のもとで国際分業を行い
生産額を極犬にするためには,あまり低い能率段階を選んでもならないし,そう
かといってあまり高い能率段階をとるのも損であることを意味している。これ
が,後に明らかにするように,調和的な国際分業を形成するために守られなけれ
ばならない1つの重要な命題である。
第2に,同じセットの中では,一財の生産に完全特化しようが,二財の組合せ
生産を行おうが,それとも三財をともに生産しようが,同じ生産額を与える。
いいかえれば,・同じセット内では,生産を特化しようと多様化しようと,無差別
(indifferent)である。このことは第7。4表(4)欄の各国につき同一セット内の生産
額を比較すれば明らかである。もとより算出された生産額は若ギの相違をきたし
19)貿易の利益には所与の所得のもとにおける諸財の購入組合せ,まだ消費組合せが変
ることによって生ずる効用の増大が当然に含まれなければならない.しかしここでは
そういう効用の増大は考慮外として,一国の生産額,したがって所得の増大だけを,
貿易利益の第1次指標とみなすのである.
234
第7章資本蓄積と国際分業
ているけれども,それは端数の処理などに基く誤差である。このような結果にな
るのは,各産業を通じて労働と資本とが限界生産力ならびに報酬が均一になるよ
うに配分されること,さらに各産業の投入規模についてconstant retums重o
scaleが仮定されているからである。一しかしながら,もし各産業において大規模
生産の利益のごとき’increasing retums to scaleの法則が働けば,生産を多様
化するよりも特定産業に特化した方がその生産規模を大きくすることができるの
で,利益をえることはいうまでもない。つまりそういう場合には国際分業の利益
がそれだけ一層大きくなるのである。2。)だがこのような特化の追加的利益を問題
外としconstant retums重o scaleを依然として仮定するならば,先に述べたよ
うに,各国は同一セヅト内ならば,大なり小なり生産を特化し国際分業化しよう
が,生産を多様化しアウタルキー化しようが,無差別であるということになる。
そしてこのことが国際分業と貿易を不安定なものにする1つの根本原因になるの
である。
§4 生産の多様化と能率化
一国の資本蓄積が進み資本・労働比率が増大するにつれ,2つ中ことが可能に
なる。1つは生産の多様化であり,他は生産の能率化である。だがこの2つは同
じことではない。2つは区別されねばならず,両者の選択にこそ経済発展の進路
と速度がかかっているといえる。またそこに国際分業の興味ある問題がひそんで
いるのである。
第1に,資本・労働比率が増大するにつれ生産を多様化することができる。第
20) 国際分業の利益が大規模生産が可能になることに基くことを強調したのはオリーン
である。B.Ohlin,1撹θ77βg∫o%σ」σπ41撹θ7%4’∫oπ〆T744θラ1933,
本文とは逆に各産業の規模についてdecreasing retums to scaleの法則が働く
場合には,国際分業の利益がそれだけ帳消しにされることになる.これは農業におけ
る土地のごとき・かぎられた資源がある場合に発生する.耕地を拡大しうるかぎりに
おいては農業への特化が有利であるが,その限界に達すると,他の生産要素の投入に
関してdecreasing retums to scaleが働き出すから,特化をやめて,他の生産を
もするように多様化した方が有利になるであろう.decreasingretumstoscaleの
他の原因としては,経営管理能力の限界とか,過度の大都市化の弊害とかがあげられ
よう.
§4 生産の多様化と能率化
235
7.4表の後進国Aを例にとろう。資本・労働比率が150:900ならばこの国はX、
生産方法をとってX財の生産だけを行うよりほかに,資本・労働の完全雇用をは
かる途は残されていない。こういう状態からいかにして資本を蓄積して抜け出す
かに,後進国経済発展の最初にして最も困難な問題が横たわっていることはいう
・までもない。21)それは問わないことにして,資本蓄積が進み200:900に資本g
労働比率が高まったとしよう。この際,要素価格比率をかえず,実質賃金を不変
におさえておくことができ’れば,第7.4表のA国のように,[A、]生産組合せに
よってX財のほかにかなり多くのY財を生産することができ・るし,さらに[A6]
のようにX財のほかにごくわずかであるがY財もZ財もすべて生産することもで
きるようになる。資本蓄積をまって初めて生産が多様化できるのは,X財に比べ
てY財はより資本集約的であり,Z財はさらに一層資本集約的であるからにほか
ならない。
第2に,資本・労働比率が増大するにつれ,各財の生産方法をより資本集約的
な,より能率の高い生産方法に移すことができ’る。すなわち各産業の生産を能率
化することができる。第7.4表のA国では,[A。],[Aδ],[A‘]などのセット1で
はX,という低い生産方法をとっていたが,セット皿の[A4]に移ればより資本
集約的な,より高いX、生産方法をとりうるのである。
つまりA国においては,一方生産を多様化するにも,他方X財の生産を能率化
するにも,ともにより多くの資本が要求される。そこで両者の選択に直面する。
そのいずれが望ましいかは,政治的価値判断を別にし純経済的利益だけを問題に
するならば,生産額の大小で判断さるべく,それは世界価格比率に依存する。も
し世界価格比率がセヅト1のコスト比率πx:々:πz−1:1。356:1.414に等しい
ならば,セヅト1をとり生産を多様化した方が有利である。しかし世界価格比率
が上と違い,幾らかでもX財が割高で,Y・Z財が割安であるならば,生産を能
21) た とえぱ次を参照.
Ragnar Nurkse, P70ゐ」6吻ε o∫ C砂舜4J Fo7卿σ海oπ 魏 U%40749%Joρθ4
Co%π≠7∫95,1953.
R。R。Nelson,“A Theory of the Low−Level Equilibrium Trap,” ∠4甥8γJo㈱
E‘o%o%∫0 1∼θo∫6zσ,Dec.1956.
236
第7章資本蓄積と国際分業
率化し[A4]を選んだ方が有利である。セヅト皿のコスト比率πx:毎:πz−1=
1。261:1.2276は上の条件をみたしているのであるが,このコスト比率に等しく
世界価格比率が決まっているものとして計算した場合には,第7.4表(4)欄のよう
に,セヅ.ト1の多様化は613の生産額を与えるのに,セヅト五の能率化では618
に達する。両者の差額が[A4]を選んで国際分業化した場合にえられる貿易利益
にほかならない。ここでA国にとっえは,国際分業の利益は能率化の本源的利益
にほかならない。しかし能率化の本源的利益を獲得するためには国際分業化しな
ければならないという必然性にある。 これが重要な問題である。けだし先進国に
:おいては必ずしもそうならないというアシンメトリー(asymmetry)があり,そ
こに国際分業システムの矛盾と不安定性どが生まれるからである。この点を以下
において究明し、てみよう。
だがその前に能率化の本源的利益について若干の注釈を加えておこう。その利
び
益は第1に』X・Y・Zすべての財のコストが低下することである。これはセヅト1
の労働ではかったコスト,すなわちπx=2.087,鞭一2。830,πz−2。951をセヅト
豆の労働ではかったコスト,すなわちπx−1.942,πy−2.449,πz−2.384と,さ
らにはセヅト巫のコストと比較すれば明瞭である。労働ではかったコストが低下
するということは,労働1単位で購入でき’る商品の量がふえることであり,労働
者の実質賃金と生活水準が向上することにほかならない。これを国際的に見れ
ば,能率段階を高めるほど対外競争力が強くなり,為替相場を引き上げることが
でき,結局,生産要素交易条件が有利になるということである。そしてすべての
国が同じ能率段階に達するならば』所得水準は国際的に均一になるのである。第
2に,能率段階を高めるほど要素価格比率は労働に有利に資本に不利に変る。労
働価格1に対する資本の価格は,セヅト1の2から,セットEのL5へ,さらに
セット皿の1へと,労賃が割高になり,利潤率が低下するのである。だからその
かぎりにおいて,労働者は能率化を最も有利とするであろうが,資本家は多様化
を企図するかもしれな小。だが低い能率段階の多様化に固執すれば,外国の競争
に圧倒されるであろうし,低賃金のために有効需要の不足に陥るであろう。結
局,資本家にとっても,資本蓄積につれ利潤率低下の犠牲を甘受しつつ能率化せ
§4 生産の多様化と能率化
237
ねばならぬであろう。22)このように純経済的視点から見れば,能率化の利益は高
く評価されねぽならねのであるが,それにもかかわらず現実には多くの国が多様
化とか,つりあいのとれた発展ないしアウタルキー化を,政治的価値判断とか国
際貿易の不安定性から,強く希求していることも否定でき’ないのである。われわ
れは純経済的観点だけから見て政策基準となるべき命題を導きたいのである。
さて,次の命題は論理的に定立しうるであろう。すなわち,同じ資本・労働比
率をもって能率段階の高次化をはかるためには,より資本集約的な財の生産を縮
小し,より資本非集約的(すなわち労働集約的)な財の生産を拡大するようにし
なければならない。この命題はもし分けるならば2つになる。すなわち①より
資本非集約的な財の生産を拡大するときは,能率段階の高次化をはかりうる。し
かし,(2)より資本集約的な財の生産を拡大するためには,能率段階を低めねば
ならず,生産の能率化に反する。この2つが同じ命題の帰結であることはいうま
でもない。
A国についての命趨〔1)はすでに説明した。A国がセヅト■の[A4]から,そ
こで特化していたX財よりも一層資本集約的なY財やZ財を生産するためには,
セット1におりねばならない。・これが命題(2)である。
中進国Bについても同様である。X財に比べればY財はより資本集約的であ
り,同じrくX財に比べればZ財は一層資本集約的であ る。そこで第7.4表の[B、]・
と[B4],[B西]と[B。]をそれぞれ比較すると,高いセヅト■ではより資本非集
約的なX財の生産が増大し,より資本集約的なY財またはZ財の生産が減少する
ことがわかるであろう。[B4コと[Bg]・[B、]と[B』をそれぞれ比較しても同じ
ことがわかる。三財を生産する場合は,資源配分の可能性が数多くあり,第7.4
表の数字例は恣意的な1ケースだけが掲げられているから,この数字例からはは
っきりとはいえない点がある。けれども,[B、]と[Bノ],さらに[Bゴ]を比べる
と,より高い能率段階におけるほどX財の生産が増加し,Y財とZ財の合計生産
量が減少することは確かである。けだしX財はY財とZ財のいずれよりも資本非
集約的であるからである。これらが命題〔1),(2)を証明している。
22) Joan Robinson,ThθAooκ卿%」4∫Joπ‘ザC4ρ露σ」.1956,参照.
238
第7章資本蓄積と国際分業
かくして資本・労働比率の最も低い後進国Aやそれがわりあいに低い中進国B
では,能率段階を高めるためには,最も資本非集約的なX財をいちばん多く生産
し,資本集約的なY・Z財の生産は少なくしなければならない。さらにY・Z財
のうちでは,より資本非集約的なY財をより多ぐ生産し,最も資本集約的なZ財
の生産を極小にせねばならない。このようになることはより資本集約的な財の生
産を犠牲にするという国際分業化に導くであろう。もとよりどれだけの貿易が行
われるかは各国の需要状態を明示し,それと比べてでなければ,いえないけれど
も,大なり小なり分業化の方向であるといえよう。したがって後進国と中進国に
とっては生産の能率化をはかるためには国際分業化しなければならない。いいか
えれば国際分業化は生産の能率化のために必要不可欠であり,両者は平行すると
いえるのである。
後進国と中進国がより資本非集約的な財の生産に集申することを有利とする以
上,調和的な国際分業システムを形成するためには,先進国Cがより資本集約的
な財の生産に集中し,それを最も多く生産することが要求される。果してそれは
先進国の利害と一致するであろうか。命題(2)の当然の帰結である炉,第7.4表
のように,先進国Cが最も資本集約的なZ財をより多く生産するためには,(a)
セット巫よりもセヅト11,さらにセット1というようにより低い能率段階におり
ねばならない。』したがって先進国では国際分業化することと生産の能率化とは矛
盾をきたす。たとえば[C日のように,先進国では能率段階を高めた方が,X・Y・Z
三財のつりあいのとれた生産をはかりうる。23)つまり先進国では能率化しても生
産の多様化が可能であり・少なくとも後進国や中進国が要請するようにZ財の生
産に分業化することは必要でもないし必ずしも有利でもない。ここに能率化と分
業化(逆にいえば多様化)に関する後進国および中進国対先進国のアシンメトリーが
見出される。ここに国際分業システムの矛盾と不安定性の根源がある。(b)・先進
国C自体としては能率化を目ざすのは当然であろう。・C国が乍ヅト1から■さ・
23) このことはキンドゥルバーガーのいうように,後進国に比べ先進国の方が資源転用
の弾力性が大き’いということをあらわしている.
C.P.Kindleberger,Thθ Tθ7卿3 0プT7σ4θ,1956・
本書第9章「経済発展と交易条件」参照・
§5 国際分業の調和と不調和
239
さらに皿へと能率化すればするほど,後進国と中進国が欲するZ財の生産が減少
して,逆にそれらの国が生産できるX財またはY財の生産がC国で増加する。こ
れらは国際分業システムの矛盾を大きくする。(c)しかしながら同じ能率段階内
ではX・Y・Z三財を生産し.ようと,X・Yコ財,またはX・Z二財を生産しようと,
あるいはどれか一財を生産しようとC国自体にとらては無差別である。三財のう
ち一財ないし二財の生産が放棄されるか著しく縮小されれば,なお国際分業の可
能性が生まれる。またその際どの財の生産が放棄されるかによって・後進国と中
進国のそれぞれに与える影響は著しく異なる。たとえば[C彦]がとられてY財の
生産が放棄されれば,おそらく後進国Aは困難に陥るが中進国Bは利益を受ける
であろう。また[Cg]がとられるとほかの国に与える影響は全く異なってくるで
あろう。
.こういうわけであるから,国際分業システムがどうなるか,また調和的に発展
す為かどうかは,先進国がいかなる経済発展をとるかの態度いかんに・大き・くか
かっているといえる。その若干の様相を検討するのが§5の課題である6
§5 国際分業の調和と不調和
国際分業システムが調和的になるかどうかは先進国の態度にかかるところが大
きい。先進国Cのとる態度いかんによって生ずるであろう国際分業のパターンの
若干を吟味してみよう。
[ケースα]第1に,C国が能率段階をあまり高めることなくセット皿にとど
まったとしよう。[C4]を選びY財に特化するとき’には世界的にZ財の不足をき
たすことが明瞭であるから,それは考察から省くことにする己C国が[C、]を選
んでX・Z二財の生産に集中するときには,B国は[B』を選んでX・Y二財の生
産に集中し,A国は[A4]を選んで,X財の生産に完全特化することが,それぞれ
有利であろう。これを国際分業の[ケース司と呼ぶ。このときの各国ならびに
世界の生産量と貿易の方向は第7.5表と第7・5図にまとめてあるようになる。24)
24)各国の生産の種類とその量,ならびに貿易の方向を決定する問題についてはFrank
D.Graham,丁舵丁加o型び1鋭6〆π4♂Joπ41y4’初3,1948と,彼の理論をリニァ・
240
第7章資本蓄積と国際分業
第7・5図
第7。5表 [ケースα]
A 国
618.0 0 ・0
1
Z
Px Py Pz
夢喉
率p
比:
生 産 量
1・・…
B 国 309.0 367.5 0
1。0 1.19 0 .
C 国
1。0 0 0.81
世 界
463。5 0 377.5
1,390.5 367.5 377.5
〔Ad〕
1・…26・・27
Y
〔Bご〕
Z
Y
Z
X
〔C。〕
このような選択が各国に有利であるのは次の理由に基く。第1にすべての国が
セット丑を選ぶから,そのコスト比率πx:πY:πzr1;1・261:1・2276が世界価
格比率として支配的になる。この世界価格比率のもとでは各国ともセヅト■をと
ることが生産額を極大にする。いいかえればほかのセットをとった場合に比べ貿
易利益がえられるのである。第2に,世界合計の生産量比率は,第7・5表に示し
たようにPx:Py:Pz−1:0.26:・0。27となる。各国ともほぼこの比率に近いよ
うに三財を需要するとすれば,第7.5図のような方向に貿易が行われることにな
る。つまり世界生産量比率よりも多い比率を占める各国のある財は輸出でき, 前
者よりも少ない比率を占める他の財は輸入した方がよい。かくて三国ともお互に
輸入するとともに代りに輸出でき・る一という,補完的な双方的な貿易が可能セあ
り,国際分業システムは調和的に運行されうる。
C国が[C、]を選ぶ以上,A国は[A4]を選んだ方が最も有利であることは明
らかであるが,B国にとってはなお[B4]を選ぶか,それとも[B、]や[Bノ]を
プログラミングによって発展させた諸展開とを取り入れねぱならぬ多くの問題が残さ
れている.後者については,T・M・W虹itin,“Classical Theory,Graham’s Theoτy,
and Li取ear Programming in International Tra(le,” Q%σ7∫θ7」‘ソ ∫oπ7πσJ oプ’
E‘oπo”2尭3,Nov.1953.
Lionel McKenzie,“On Equ玉librium in Graham’s Model of World Trade and
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小宮隆太郎rアクティヴィティ・アナリシスと国際貿易の理論」理論と統計,有沢
教授還暦記念論文集1,1956.
241
§5 国際分業の調和と不調和
選ぶかの選択の余地が残されている。けだし同じセヅト内では,無差別である。
だが[B,]をとれば世界全体としてY財の生産が皆無になるから,それはとりえ
ないであろう。[B刀をとるときには,第7,5表に示したものに比べ,世界全体
のY財の生産量が減り,Z財の生産量がふえる。したがって[B4]を選ぶべきか
それとも[B∫]を選ぶべきかは,世界全体の需要状態に依存する。だが[B4]を
選んですら,世界全体のY財生産量はZ財よりも少ないのであるから,B国は
おそらくY財をなるべく多く生産するように[B4]をとることが最も有利であろ
う。また[B4]をとるのに比べ[B刀を選べば世界貿易量はおそらく減少するで
あろう。けだしB国のZ財輸入需要とY財輸出供給が減少することは明らかであ
るからである。
第7・6表 [ケースα’] 第7.6図
B国1.3・9・・367・5・
C国i37・・8・47・・3・2・・
世界
率砺
0
産:
Z
量p
r
産P
生坂
A国16・8…
4
離
〔Ad〕
Y
1。0 0 0
11・・…4…8・
Z
X
X
1.0 1.19 0
1・・297・85手4・53・2・・D・…4・
Y
〔B4〕
・・23
〔C,〕
Z
[ケースα’] C国にとって同じセット皿の中の[C,]をとるか,それとも[C/]
をとるかは全く無差別である。そこで今度はC国が[C∫]を選んだものとしよう・
このときに,B国はやはり[B4]を,A国もやはり[A4]を選ぶことが有利であ
る。これを[ケースα’]としよう。このとき・の生産量と貿易方向は第7.6表と第
7・6図のよrうになる。 世界全体の生産量比率はPX:Py=PZ−1。0:0.4:0.23
に,[ケースα]に比べY財の割合がふえ,Z財の割合が減る。貿易の方向は変
らないが,おそらく貿易の量は減少するであろう。1けだしC国のY財輸入需要と
Z財輸出供給が減少することは明らかであるからである。なおB国に[B4]でな
く[Bノ]を選ぶ余地が残されていることは,[ケースα]におけると同様である。
[B∫]を選べぱ貿易の量は一層減少するであろう。
以上の[ケースα]と[ケースα’]の考察を通じていいうることは,各国の資
242
第7章資本蓄積と国際分業
本・労働比率がかなり違うとき,すべての国が等しい能率段階をとるかぎり,調
和的な国際分業が成立する。これを等能率段階分業と名づけよう。しかしC国や
B国に同じ能率段階内でどのような生産組合せを選ぶかの選択の余地がかなり残
されている。だがどのような生産組合せを選ぼうと,各国の資本・労働比率がか
なり違うかぎり,貿易の方向は変らない。変化を被るのは貿易の量だけである。
異質化とか同質化というのは,一国と相手国の保有する産業の構成比に関する
形態的比較が主眼であるといえる。A国がX財の生産に完全特化する[A4]に対
するB国のセット豆の生産組合せは[B4],[B。],[Bノ]のいずれでも,また同じ
く[A4]に対するC国のセット■の生産組合せは[C4],[C、],[C∫]のいずれで
も,等能率段階異質化と見ることができる。これに対してB国とC国との間で生
ずる[B。]対[C、],あるいは[B∫]対[C∫]の関係は等能率段階同質化である。
最後に[B4]対[C。],[B4]対[Cノ],〔B、]対[C∫],[Bノ]対[C、]のごとき関係
が見出せる。それは既述のものよりも一層複雑な等能率段階異質化である。これ
が高度異質化という概念に相当するであろうが,後にさらに吟味するであろう。
そこで異質化・同質化という概念を用いて前述の結論をいいかえるならば,こ
うである。各国の資本・労働比率がかなり違うとき,すべての国が等能率段階を
とるかぎり調和的な国際分業が可能である。ただし貿易量は,等能率段階で同賓
化するよりは等能率段階で異質化する方が,一層大きくなる。25》
等能率段階分業においては各国の労働と資本の実質報酬が均一になることが注
目され参ばならない・すなわち4・B・C三国のいずれにおいても・労働単位当り
の実質報酬はX財ではかって0,515に,資本単位当りの実質輯酬はX財ではかっ
て0・7725解なる・それは第74表の瓦生産方法による要素輝格である。われ
われの仮定から生ずる当然の帰結であるが,念のため[ケースα]について検算
すれば,第7,7表(p,244)のようである。このことは,労働900に対する資本が
200と400と600というように,三国でかなり違うにもかかわらず,等能率段階
.25) 大規模生産の利益を伴うとぎには,等能率段階同質化に比べ等能率段階異質化は,
余分の利益をもたらすことになる.これが工業国間の高度異質化を有利とし,それを
刺激する大ぎな原因であろう.
§5 国際分業の調和と不調和
脇
分業を行えば各国の労働と資本の実質報酬ひいて各国の生活水準が均一化するこ
とを意味する。26)それは生産要素の国際的移動なくしても貿易だけを通じて達成
されるのである。同じ生活水準を達成してこそ初めてEconomic Integrationが
はかりうるとのミュールダールの主張がある。27)等能率段階分業は1つの理想的。
調和的国際分業システムである。等能率段階分業においては諸国聞の生産要素交
易条件は1であり,いわゆる等価交換が実現する。そこでは不等価交換はいささ
かも発生しないのである。
次に先進国Cがセヅト皿に能率段階を進めた場合の国際分業システムを吟味し
てみよう。C国はその高い資本・労働比率から見てセット巫に能率化でき・る余力
は十分にもっており,かつ能率化することはその国だけの立場から見れば明らか
に望ましいことであるから,それをほかから阻止するわけにはいかない・そのう
えC国がセヅト皿に能率化すれば三財のコストは,πx−1.754,πy−2.000,πz一
1.755となり,低い能率段階におけるよりもすべて低廉になる。つまりセット巫
に能率化した方が対外競争力が強まるのである。世界価格比率は対外競争力の強
26) 国際的要素価格均等化論の厳密な証明によれば,要素価格の相対比率ならびに絶対
価格の国際的均等化のためには,すべての国がすべての商品を生産し,一方国がいず
れかの商品を生産しないことがあってはならない(非完全特化の条件)とされている.
(たとえば次を参照.P.A.SamudsoH,“lntemational Trade an(1the Equalisa−
tion of Factor Prices/l Eooπo溺∫o∫o%耀α」,June 1948・Ditto, “Prices of
Pactors and Goo(1s in General Equilibrium,” 1∼θ擁θzoげEoo館o御Jo S∫%4∫θs,
・1953−54.)ところがわれわれがえた結果では,A国はX財だけ,B国はX・Y二財だ
けに特化し,C国はX。Z二財またはX・Y。Z三財を生産しても,つまり一方国また
は双方国に完全特化が生じても,なお要素価格の国際的完全均等化が実現されたので
ある,こういうわれわれの結果が均等化理論の修正を要求するものであるかどうかは,
今後十分に検討されねばならない.つまり,X財のごとき一財だけがすべての国で共
通の生産方法で生産されれぱよいのかもしれない.あるいはグレーアムのいうように,
A・B。C三国の生産費がリンク商品を通じて連環しておればよく,すぺての国がすべ
ての商品を生産する必要はないのかもしれない.共通の一商品,あるいはリンク商品
において生産方法が同、じで,要素価格が国際的に均一ならば,他の商晶における要素
価格もまた,各国内の完全競争条件によって,国際的に均一になることが期待できる
からである.
われわれのモデルは二生産要素・三財・三国であって,生産要素の数よりも財と国
の数が多い.このことが国際的要素価格均等化の機会を多くし容易にし,すべての国
がすべての商品を生産することを必要としなくしていることも十分に考慮に入れられ
ねばならない(J.E.Meade,丁紹4θ碗4roJ∫σ78,1955,PP.385−90,参照)。
27) Gumar Myrda1,∠4π1撹θ7π観oπσJ Eoo%o鰐,P70ゐJg硲伽4P70sρθo≠s,1956。
躍
第7章資本蓄積と国際分業
第7。7表
A伊 財
吋要素・価格
B
国
C
国
開
/要穎価格
隠
/要素計価格
生産額.労働の分け前
生産額 資本の分け前
3
[618 × 一自463.5
4
1
618 × 一=;154.5 ’
4
/乙=463.5÷900=0.515
ノヒ=154.5÷200=0.7725
3
309 × 一=231.75
4
1
463。4×一=231.7
1
309 × 一= 77.25
4
1
463.4×一=231。7
463.45
308.95
/1}=463.45÷900=0.515
ノヒ=308,95÷400=0。7725
3
463,5×一=347.6
4
1
463。4×一;115.9
1
463.5×一=115.9
4
3
463.4×一=347.6
463.5
463.5
/乙=463.5÷900=0.515
ノヒ=463.5÷600=0.7725
2 −
4 −
2 −
4 −
いC困の上のコスト比率が支配的になるであろう。先庭はすべての国がセヅト皿
をと為からそのコスト比率が世界価格比率と.なろと述べたが,むしろいちばん能
鞄㌣マトをとる先進国あコスト比鞘世界価靴靴なるといいかえ妨が
正しいであろう。
[ケーネβ]C国が[Cg]を選ぶ≧きには世界的にZ財が不足するこ二≧が明ら
かであるからこれは考察から省く。そこでC国が[Cゐ]を選んだ場合を[ケースβ]
とする。世界価格比率がセット皿:のコスト比率≧等しくなるのであるから,ほかの
国もセット皿:をとることが各国の生産額を極大にする。したがってB国はセヅト
皿の[Bg]を選ぶであろう。しかしA国はその低い資本・労働比率のゆえにセヅト
皿には移りえず,依然としてセット皿の[A4]を選ばねばなら瞼であろう.。そこで
[A4],[B4コ,[C乃]という組合せの国際分業の[ケースβ]における生産量と貿易
方向は第7。8表と第7.7図のようになるであろう。すなわち世界的にX財(農業
品)が生産過剰に陥り.・Y㌔Z財(工業品)が不足してくるであろう。そこでA国
はB国からY財を,C国からZ財を輸入するが,代りにそれらの国へX財を輸出
することが不可能であるか非常な困難に直面するであろう。つまりA国に国際収
245
§5 国際分業の調和と不調和
第7,8表 [ケースβ]
生 産 量
生産量比率
Px Py Pz
Px :Pア =Pz
A国16・8…
0
1・・…
1
C国1598・5・256・4 1
B 国[
570.0 150.0 0
第7,7図
〔Ad〕
、∠義.
1.0 0。26 0
1.0 0 0.43
世界1・・786・5・5…256・4
1・・・…8…4
支困難が発生する。A国の[A4]対B国の[Bg],また[A4]対C国の[C乃]と
いう関係は異能率段階分業なのであるが,それはこのように必ずしもうまく運行
するとはかぎらない。それは,B・C国合計としてより資本集約的なY・Z財(工
業品)の生産が少なく,そのためにB・C国がそれぞれX財(農業品)をかなり
多く生産し,自給的になるからである。28〕B国の[B4]とC国の[C』との関係
は複雑な等能率段階異質化であって調和的であるらけだしB国はY・Z二財(工
業品)のうちY財の生産に特化し,C国はZ財に特化するからである。
[ケースβ’]上のように世界的にX財が過剰で,Y・Z財が不足しているとす
れば,B・C国はX財をなるぺく減らしY・Z財をふやすようにせねばならない。
B国が[B“]をやめて[B乃]か[B∫]に移るとき・には,Z財がY財より.もより資
本集約的であるので,・X財の生産がかえってふえる。だから上の目的を達するた
めにはB国は[Bg] にとどまった方がよい。残る途はC国が[C月をやめてX・
Y・Z三財の生産に多様化し,、[C’]をとることである。そこで[A4コ,[B〃],[C’]
の組合せを国際分業の[ケースβ’]としよう。その生産量と貿易方向は第7.9
表と第7.8図に示した通りである。
C国が[q]をとるために,C国ではX財生産がかなり減少し,Y財生産がふ
28) このことが真実であるとするならば,世界の農業品,したがって後進国への交易条件
.の不利化はうまた世界的ドル不足は,アメリカが能率段階を高めすぎるからであると
いうことになる・つまりアメリカが能率段階を高めすぎ,その段階、においてより資本
集約的なY・Z財の生産を維持・拡張するためには資本不足に陥るので,より資本非
集約的なX財(農業)を維持・拡大せぎるをえない・そし.てこのことが後進農業国を
圧迫するこ.とになるのである.アメリカが工業品においてだけでなく,農業品におい
ても強大な輸出競争力をもつ理由の1つがこういうところにあるのかもしれない.
246
第7章資本蓄積と国際分業
第7・9表 [ケースβ’]
生 産 量
Px Pr PZ
0
〔A4〕
Px:Py:Pz
1・・…
A 国
618.0 0
B 国
570.0 150.0 0
1.0 0.26 0
C 国
444。6 270.0 102.55
i・・…6・…23
世 界
第7.8図
生産量比率
1
lL632・642・・…2・551・・…26…6
〔B8〕
\
〔C三〕
z
え,Z財生産は幾らか減少するであろう。この結果,C国はA国からX財を輸入
しY・Z二財をA国に輸出することになる。つまりA・C国閲の異能率段階分業
が緊密に行われることになる。ところが今度ここで国際収支困難に陥るのはB国
である。B国はZ財を生産しないのでそれをC国から輸入せねばならない。しか
しその対価としてのY.財のC国への輸出は,C国がY財生産を輸出でき’るほど十
分に行っているから,困難に陥る。B国はC国に,Y財でなくむしろX財をより
たやすく輸出できるであろう。他方B国とA国の貿易は低とんど不可能になるで
あろう。B国はA国からのX財輸入をほとんど欲しないであろうし,B国のA国
へのY財輸出は,C国の競争に直面してやはり困難に陥るであろうからである。
このように[ケースβ]においてはC国対B国の貿易は補完的になるが,A国
は国際収支困難に陥るし,[ケースβ’]においてはC国対A国の貿易は補完的にな
るが,B国は国際収支困難に陥る。つまり先進国Cが高い能率段階に移ることに
よって世界のどこかに国際収支困難を生み出す己これが戦後のドル不足を物語っ
ているのではあるまいか。いいかえると先進国アメ’リカの他国よりも速い経済成
長(資本・労働比率の高度化)はドル不足を生むといえるのである。2’)[ケースα]
や[ケースα’]において調和的国際分業が成立したのに[ケースβ]や[ケース
β’]においては不調和に陥る原因はこうである。世界全体としての資本・労働比
率は,C−200+400+600−1,200対L−900+900+900−2,700,いいかえれば
29) アメリカの他国よりも速い生産性改善がドル不足の原因であるかどうかが,J.R・
Hicks,“An Inaugura1,Lecture,”0跡074E60箆o卿∫o P4ρ673,June1953に始ま
る論争的問題である一・それについては,小島清r経済成長と国際貿易」一橋大学創立
80周年記念論集,下巻,1955,参照・
§5 国際分業の調和と不調和
247
c=L−1;9/4である。この世界全体の資源比率に照応する世界全体の最適能率段
階が存在する。それがわれわれの例では{ケースα]や〔ケースα〆コのセヅト■
であった5ところがC国がセット皿に移り,ほかの国もセット皿に移ることを
刺激されると,世界全体としてより資本集約的なY・Z財の生産が減少して不足
し,より資本非集約的なX財の生産が過剰になってくる。このために[ケースβ]
や[ケースβ’コのように,どこかの国が国際収支困難に陥り,国際分業は不調和
をき’たすのである。
このことは,調和的な国際分業を維持・発展させるためには,世界全体の最適
能率段階に照応するように先進国はみずからの能率段階を定めねばならず,それ
よりも高い能率段階をとることをつつしまなければならないという要請を物語っ
ている。いいかえれ ば,国際分業の中において先進国が能率段階を高めるため
には,自国だけの資本蓄積を行うのでなく,他国の資本蓄積をも促進し,あるい
は他国に投資を行い,世界全体の資本・労働比率を高めるのでなければならない
のである。ここにより進んだ国の海外投資の必然性がある。
第7.8表の[ケースβ]においては,A国に対しB国とC国は異能率段階にあ
った。異能率段階閲では必然的に要素価格が異なる。すなわち低い能率段階の国
抵ど労働が割安で資本が割高である。したがって労働または資本,あるいは両者
の国際的移動が刺激されるのである。上のA国対C国,あるいはA国対B国の間
の要素価格差を具体的に示せば次のようである。セット11をとるA国におけるX
財の労働ではかったコストは1・942であるのに,セヅト皿をとるB・C国におけ
るX財の労働ではかρたコストは1・754である。しかもX財は世界市場で均一の
価格で取引される。したがってA国対B・C国の労働の交換比率は1.942:1.754
−1.107:1とならねばならない。すなわちA国の労働のほぼ1.1単位とB・C国
の労働1単位とが等価である。30)逆にいえばX財ではかった労働の価格は,第
30) A国の労働のほぼ1,1単位とB・C国の労働1単位とが交換されるということを,
等価交換と見るぺきかそれとも不等価交換と見るべぎかについては,議論が分れるで
あろう.それは,A国の資本蓄積が進み,あるいはB・C国から資本が移動してき
て,A国もセット皿に能率化できて,等能率段.階分業が可能になった状態,そしてそ
こで三国の要素価格が均等化した状態に比べれば,確かに不等価交換である・しかし
ながら,A国の与えられた資本・労働比率と国際的資本移動の停止している状態のも
248
第7章資本蓄積と国際分業
7・1表に見られるように,A国の0。515対BρC国の0,57、であって,労働の交
換比率1,107=1の逆数に等しい。同じくX財ではかった資本の価格は,A国の
0.7725対B・C国の0.57である。いいかえれば資本の交換比率は1:1.355で
あって,A国において割高である。
§6 自由貿易条件の歪曲
生産要素の国際移動は行われないものとしよう。そうであれば[ケースβ]に
おけるA国,あるいは[ゲースβノ]におけるB国幟国際収支困難に陥る。この困
難を回避する途は残されているであろうか。[ケースβ]においてA国が国際収
支困難に陥っ』だのは,A国は世界的に生産過剰なX財だけに特化し,世界的に生
産不足なY・Z財を全く生産しなかったからである。そこでA国はX財の生産を
縮小し,Y・Z財をも生産するよう『に多様化することを刺激されるであろう。だ
がY・Z財はより資本集約的であるから,多様化するためには能率段階を下げね
ばならない。結局これまでのセット■の[A4]をやめてセヅト1の』[A。]をとる
ことになるであろう。
同様に考えると,[ケースβ’コにおレ・てB国が国際収支困難に陥ったのは最も
資本集約的なZ財をみずから生産せずこれをC国から輸入しなければならなかっ
たからである。そこでB国もX』Y財のほかにZ財をも生産するように多様化す
ることを刺激されるであろう。B国はセヅト皿:の[B,]をとっても,、あるいはセ
ヅト五の[Bノ]をとっても三財を生産でき・るのであるが,より資本非集約的なX
財を少なくし資本集約的なY・Z二財の合計をなるべく多く生産するためには,
セヅト1の[B。]を選ばねばならない。
とでは,A国の労働1.1単位対B・C国の労働1単位という交換比率は,それぞれの
労働の生産力にマッチするものである・したがって与えられた状態のもとでは,独占
とか保護措置などの自由競争条件の歪曲が存在しない以上,等価交換であると見なけ
ればならない.少なくとも先進国B・Cの労働が後進国Aの労働を搾取するというわ
けではない.そうではなくて,A国ではB。C国に比べ資本が不足しているから資本
が割高であり,.それゆえに労働集約的な生産方法を採用せざるをえず,ために労働の
生産力と価格が低くなるのである・A国の資本蓄積の促進と国際的資本移動だけが根
本的解決策であるといえる・
249
§6 自由貿易条件の歪曲
第7,10表 [ケース7]
生産量比率
Px Py PZ
Px :Py l:Pz
15・3・755・・鍛・4
B 国
1,0 0。107 0.047
287・5247溶135・6い・…86・・47
1
C 国 444.6 270.0 102.6 1・・…6…23
世 界.
■
1・・以5・8572・4262・6
第7.9図
〔Aご}
r/、
A国
生 産 量
〔Bc〕 〔C,〕・
1.0 0.46 0畳21
[ケース月 こうして[A.],[B。],[C日の組合せを[ケース7]と名づけるな
らば,そのときの生産量と貿易方向は第7.10表と第7.9図のようになる。世界全
体の生産量比率はPx:Pr:Pz−1。0:0.46:0.21となり,[ケースβ]や[ケース
β’]一に比べ,X財が減り,Y・Z財がふえ,[ケ門スα’]に近い状態に達しているb
つまりここではすべての国が多様化し,これまでの諸ケ[スに比べ犬なり小なり
自給化している。だがA・B国の多様化は輸入関税その他の何らかの保護措置な
くしては不可能であるαけだしC国のコスト比率はセッ ト皿のπx:
πr:πz−1.0:
1、1402;1・0であるのに,A・B国のコスト比率はセヅト1のπx:πr:πz−1、0:
1。356二1。414・であるから,Y・Z財は,A・B国においてC国より.も割高であり,
ほうっておけばC国の競争によって打ち負がされるからである。一だから当然に何
らかの保護措置が採用され,第7.9図のように,A国対C国,B国対C国の貿易
は遮断されるものと仮定せざるをえない。つまσA国対C国,B国対C国のよう
に異能率段階において双方国が多様化し同質化することは,自由貿易のもとでは
成立しえず,もし貿易が現実に幾らかでも行われたとすれば,自由貿易条件の何
らかの歪曲が含まれていると考えねばならない。異能率段階間の自由貿易は,
[ケースβユや[ケースβ’]におけるA国対B国,A国対.C国のように,一方国
(A国)が一財の生産に完全特化するのでなければありえないのである。第7.9図
に見られるように,A国とB国との間にはなお若干の分業と貿易が可能である。
それは等能率段階同質化の基礎にたつ貿易である、。
[ケ謡ス7]には自由貿易条件の歪曲が含まれるので,ほかのケースに比べ,各
国別の,また世界全体の生産額が減少する。一例として[ケース7コと世界の生
250
第7章資本蓄積と国際分業
第7.11表』[セットM]
X財において左:ん=1:2
Y。Z財においてん:ん=1:一 r き 9
数
P
函ゴ
躍
yMZ
X1
産L
n
生C
︵L
7
(2)要素 価格
(3)生産物コスト
∫乙 ノヒ 九:ん
π π
〆
900 150
6:1 575
0.4791 0.9583 1:2
2.087 1.000
900 700
9
一:1 794
7
9
0.4411 0。5671 1:一
7
2.267 1.086
0.4722 0.6671 1:一
2.117 1.014
9.
9002,100 ∼:1 1,700
7
79’
7
産量比率がそれと類似する[ケースα’]とをとり,一両者の世界生産量を[ケース
α’
の世界価格比率πx:πy:π2=1:1.261:1。2276で評価すれば,世界生産額は
[ケースα’]では2,317.3になるのに,[ケース7]では2,290にしかならない。、
この差額が保護貿易措置による世界全体の能率の損失を意味するのである。
[ケース7’]自由競争の歪曲の興味ある一例として・ある国,たとえぱB国に
おいて産業間で要素価格差が発生している場合を吟味しておこう。いま第7.11表
に示したようなゼットMがB国においてとられるものとする。すなわちX財(農
業)における要素価格比率は∫L:∫c−1:2であり,Y・Z財(工業)においては
∫L:∫c−h9/7であるとする。つまり.賃金は農業において低く,工業において高
いという格差があり,資本の価格(利潤率)は農業において高く工業において低
いという格差があるものとする。そういう格差がいかにして発生し存続するのか
の原因はここでは問わない。このようなセットMにおいては,コスト比率は,
πx:πy:πz=2.087:2.267:2.117=1:1.086=1.014となり,セット皿における
価格比率1:1。1402:1に接近する。すなわちB国がセットMをとるならば,セ
ット皿をとるC国と対抗し競争して,工業品Y・Z二財を生産し輸出することが
でき’るようになるであろう。
労働900と資本400とをもつB国は,セットMをとるならば第7.12表のよう
な資源配分が可能になる。この資源配分と生産量を,B国がセット皿をとった場
合と比較してみよう・第7・12表のEBMgコは第7・4表の[Bg]と対応する。前者
§6
251
自由貿易条件の歪曲
第7.12表.
(1)資 源 配 分
(2)生、産 量
rx、 ・5・×−一900
6
Px 575×一==313.64
[B吻]櫨7,認歪3趨・
セ
t
昏 11 11
11
5
Py 794×一=360.91
11
400
計
ツ
臨]仔撫鴛
Z瓢・ 2,100×一=
39 39
ト
5
P■ 1,700×一=217.95
39
計、「 400
噺階寓
/
M』
34
Px 575×一=501.28
39
■
1
ZM 2,100×一= 100
21
400
計
2
Px 575x一=383.33
3
2
Py 794〉と一=226.86
7
1
Pz 、1,700×一=・ 80.95
21
の方がX財の生産が減ってY財の生産が増加することがわかる。また第7.12表
『の[B痂]は第 7.4表の[B』と対応する。前者の方がX財の生産が減ってZ1財
Pの生産が増加することがわかる。この2つのことから,セットMをとるならばセ
ジト巫に比べ,X財(農業)の生産が減ってY財とZ財(工業)の生産を一層拡大
しうることがはっきりとわかる。けだし完全雇用を保つための二財への資源配分
は正確かつ一義的であるからである。さらに第7・12表の[B躍]は第7・4表の
tB’]1に対応する。ここではたまたま前者の方がX財の生産が減ってY財とZ財
の生産が増加しているような数字例があげられている。三財への資源配分の可能
性は無数にあぐから,上の数字例は一義的なものセほない。 しかし土財について
の比較からわかるように三財生彦においても,・セットMをとればセット皿に比
べうX財をより少なく,Y・Z二財をより多く生産することが必ず可能であると理
諦的に結論することができる。
拳所爆鱗勿ト皿あ・[q]をとる・したがっ碓界鰯比率はπ歯:πY:
πz−1:1.1402=1になる。後進国Aは自由貿易を行い[A4]をとる。そして中進
第7章資本蓄積と国際分業
25β
第7。13表 [ケース〆]
第7.10図
生 産 量
生産量比率
Px pア PZ
Px :Pア :Pz
0
0
B 国
383.33 226.86 80.95
1.0 0監59 0.21
C 国
444.6 270.0 102。55
1.0 0.61 0.23
世1界1,446.0 496。86183.5
1.0 0 0
1.0 0134 0.13
Y ’Y
Z x Z X
〔B戸〕・
、︹、
618.0
、
二
C
A 国
〔Aゴ〕
3
国Bは国内に要素価格差を発生させるセットMの[B餓]をとるものとしよう。
B国のコスト比率は既述のようにπx:πr:π■一1:1。086=1.014であり,世界価
格比率とほぼ等しくなる(計算を繰り返せば世界価格比率と全く等しくなるセッ
トMを見出すことができ・る)。つまりB国は対外的にはC国と競争できる地位にた
つのである。.こういう組合せを[ケース7’]と名づけよう。その各国の生産量と
国際分業の方向は第7.13表と第7.1Q図に示した通りである。
第7。13表からわかるように,B国はC国と著しく類似した生産量比率31)ない
し産業構造をもつことになる。つまりB国はC国に比べ資本・労働比率が低いの
であるが,国内に要素価格差を発生させるならば,よ り資本集約的なY・Z財を
拡大して,C国と類似の産業構造をもちうるのである。B・C国の産業構造が同
質的であり,そのうえコスト比率もほぼ等しいので,この二国間では貿易は行わ
れないであろう。したがってB国もC国もともに,第三国市場Aに対してY・Z
二財を輸出し,A国からX財を輸入することになるであろう。
国内の産業間に要素価格差が存在することは自由競争条件の1つの重大な歪曲
であり,それだけ能率を低下させる。いまB国が[Bゴ]を選んだときの生産量を,
31) マルクス経済学においてしばしば諸産業の不均等発展が指摘され,社会主義国にお
いては均衡的計画的経済発展が基本原理であることが強調されている・だが不均等発
展を問題にする以上,何が規範としてのr均等」発展であるふが厳密に明らかにされ
ねばならない.それは農業1対軽工業0.5対重工業・0.25と“うごとき単なる比例
性であるのか,それとも需要に見合った各産業の生産量という意味なのか,はたまた
限界生産力と要素価格が各産業で均一になるという資源の最適配分の意味であろう
か.要素価格の不均等の矛盾を内包していても単なる比例性を確保すればよいという
のであろうか・われわれにおいては資源の最適配分をおいてはほかに統一原理は存在
しないものと思われる,
§7 世界経済の異質化と同質化
253
世界価格比率πx:πY:πz−1:1.1402:1で評価すれば,総生産額yは741.03で
あるのに,[BM」]の生産量を同じ世界価格比率で評価すると722.95にしかなら
ない。両者の差額だけが自由競争条件の歪曲に基く一能率の損失である。
上のような能率の損失をきたすにもかかわらず,中進国Bは,[ケースβ’]の
ごときにおいて陥る国際収支困難を回避するためには,農業(X財)を低賃金に
おさえて工業(Y・Z財)の拡大をはからねばならないであろう。32)事実日本のご
とき中進国は,こういう賃金格差に基いて急速な工業化をはかってきたと思われ
るのである。
§7 世界経済の異質化と同質化
ごれまでに検討した国際分業の若干のパターンのう、ち,[ケ7スα]と[ケー
スα’
とは調和的・理想的なものであって,われわれが今後追求し実現せねばな
らぬパターンであろうが,それにほぼ近い状態は,r.19世紀においてイギリスを中
心とする自由貿易システムのもとに建設されたといえよう。1二それに対して,[ケ
ースβ]と[ケースβ’]・とはう20世紀にはいってアメリカが中心的指導国にな
ってからの,深刻な永続的ドル不足と構造的不均衡に悩まされている世界経済の
矛盾を画き出しているといえよう5そして[ケース7]は,イギリスがポンド圏
を形成し,あるいは西ヨ」ロジバがヨーロヅパ決済同盟地域を形成して,対ドル
差別待遇をはかって,ドル不足を緩和ないし克服しようとしている現状をうつし
出しているといえようし,・[ケース〆]は日本のごとき中進国が国内に不均衡を
残しつつ,先進国との国際競争を試みている状況をうつし出しているといえるで
あろう。
以上の諸ケースの考察からわれわれはまた「世界経済の異質化と同質化」とい
う問題に対しかなり正確な解答が準備できたと思う。まず二国間の関係において
は次のような区分ができ’よう。
32) 農業部門から工業部門への労働の移動を刺激し促進するために必要とされる賃金格
差も,われわれの方法によ、り,厳密に算定でき・るであろう・本書第弓章ならびに第8
章参罵・
254
第7章資本蓄積と国際分業.
㈲ 等能率段隣異質化…「…こ.れに獄→方国が一産業に完全特化し相手国が多様
化するという単純な等能率段階異質化と,両国とも多様化するがそのうち数
種の産業にっいて分業すうという複雑な等能率段階異質化とがある・しかレ
単純な等能率段階異質化は複雑なそれの特殊ケースであり,ごくまれに発生
するものと考えられる。それゆえに,等能率段階異質化というときには,大
体,複雑な等能率段階異質化のことであると見てよいであろう。
㈲ 等能率段階同質化
⑥ 異能率段階異質化
(α)異能率段階同質化
ここで注意すべき・ことは,第1に,等能率段階で異質化するがそれとも同質化
するか,いいかえれば(助と⑥のいずれの関係に陥るかは,当事国の生産能率上
の利害にとっては全く無差別であるということである。もとより同質化するより
は異質化した方が貿易量は犬きくなる。しかしそうした方がよいかどうかは両国
の需要状態による。つまり需要状態に合致するように, 同質化または異質化が合
意的に (volu耳tarily)に決定されるのである・(ただし異質化にぶって大規模生
産の利益が追加的にえられるであろうことは,ここでは考慮外とする)。
ところが第2に,異能率段階においては,膚由貿易に任せるかぎり,また貿易
利益を獲得しようとするかぎり,⑥の異能率段階異質化をとらねばならない。し
かもそれは』一方国が多様化し,相手国は必ず一産業に完全特化しなければなら
ない。けだし異能率段階ではすべての商品のコストが両国で異なるから,低能率
段階の国は,比較的優位の一産業に完全特化せねばならないのである。したがっ
て異能率段階異質化は,価格競争力によって強制される1つの強制的(forced)
異質化である。』したがってまた(d)の異能率段階同質化ということは,自由貿易
のもとでは成立せず,価格競争力を歪曲する保護手段ないし国内の完全競争のゆ
がみによってのみ,存在しうるのである。
ここで⑥異能率段階異質化を強制的異質化と,また③の等能率段階異質化を
合意的異質化と特徴づけたのである淋,前者は従来の慣用語たる異質化に,後者
は高度異質化に対応すると見てよいであろう。もとより異質化とか高度異質化と
§7 世界経済の異質化と同質化
255
かいう従来の慣用語は,1歴史的段階変化を叙述する概念であって,一必ずしも理論
的概念ではない。すなわち異質化というのは,多くの同質的な農業国の中に1つ
ないし数個の工業国が発生した状態をさしていた。だがその状態は農業国と工業
国が異能率段階にあり,前者は農業に完全特化し,後者は農業と工業とに多様化
するという意味を含んでいるであろう。だからその状態はわれわれの異能率段階
異質化に対応すると考えうる。また高度異質化というのは世界に工業が普及した
段階において,工業国相互間で,一方国は軽工業品を輸出し相手国は重化学工業
品を輸出するというような分業関係をさすのである。もちろん両国とも農業生産
も行っていることはいうまでもない。この2つの国が現実に等能率段階にあった
かどうかは聞題であるが,理論的にはそのような分業は複雑な等能率段階異質化
をおいてはあり『えない。
そこで,形態的に二国聞の産業構造が異質化しているか,.それとも同質化して
いるかということよりも,それらが等能率段階におけるものか,それとも異能率
段階におけるものかを検証することが,r→層重要であることがわかる。同じく異
質化しているにしても,』それが異能率段階の強制的異質化であるならば,貧富の
差を必然的に伴うものであり,低能率段階国の多様化を刺激しやすいrものであっ
て,必ずしも望ましいものではない。最も理想的な分業は等能率毅階の合意的異
質化あるいは高度異質化である。また同じく同質化であっても,異能率段階同質
化は自由貿易の歪曲を含む矛盾にみちた最も望ましくない状態であるが,等能率
段階同質化は必ずしもそうでなく,たとえ貿易量は少なくなるにせよ,真に平等
の基盤において合意的な貿易を相互に行うことができ・る。・
次に,異能率段階異質化に比べ,等能率段階異質化は,世界経済全体としてみ
れば,一層同質化していることになるであろうが, それはかえらて望ましいこと
である。すべての国が等能率段階にあるならば世界経済全体として同質化するこ
とは決して破壊を導かない。むしう平等の理想に近づくことである。之だ世界経
済全体の同質化が,異能率段階国間において,.多くの保護手段にうっ痙えて,推
し進められているところに,ほんとうの矛盾があるのである。
これまでは先進国のとる態度いかんによって国際分業のパタrンがどう変る
256
.箏.ヱ童_資本蓄積煮国際分巣1
か,また中進国や後進国がいかに適応せねばならないかを吟味してき’た。それで
は今度は逆に後進国,一般的にいえば,より資本・労働比率の低い国のとる態度
いかんによって果して国際分業のパターンが変るかどろか,またより資本・労働
比率の高い国がそれに適応し再調整しなければならないかどうかを,考えてみよ
う。こういう問題についても,先進の国と後進の国との間にアシンメトリーが見
られる。けだし,⑧先進の国が多様化するには能率段階を高めればよかった。し
かも能率段階を高めればすべての商品においてコストが低下して国際競争力が強
まる。それゆえに後進の諸国は適応・調整を必要とされたのである。ところが,(b)
後進の国が多様化するためには能率段階を低めねばならない。能率段階を低めれ
ばすべてめ商品においてコストが高くなり国際競争力が弱まる。このことは後進
の国の多様化(工業化)がきわめて困難であり,保護措置の防壁なしには行いえな
いことを意味する。しかしそのことは同時に,より先進の国は,後進国が多様化
しても,何らみずからの進路を変更する必要のないことをも意味している。けだ
し後進国がみずから国際競争力を弱めて先進国の優位を強化してくれることにな
るからである。.それゆえにまた,後進国が多様化するからといって,それに刺激
されて,中進国や先進国でも,能率段階を低めるごとは有利なことではないので
あるQ
§8「
された問題
われわれのモデルを要約すれば次のよ・う年なる。(1)X・Y・Z三財につき,後
のものほど,より資本集約的なダグラス生産函数をとるとし,A・B・(〉三国につ
き’,後のものほど資本・労働比率が高いものと仮定する。(2〉上の2つの仮定に
基き・各国が資本と労働の完全雇用を達成する諸種の資源配分可能性,ならびに各
資源配分に対応する要素価格と商品のコストとが一義的に見出せる。(3)各国の各
資源配分に基くコスト比率は比較生産費にほかならないから,世界価格比率が与
えられれば,各国の最適資源配分と極大生産が決まり,国際分業と貿易方向のパ
ターンが決定できる。 同時に各国の国際分業利益もは・っきりとつかみうる。(4〉三
国のうちの先進国Cがいかなる資源配分を選ぶかによって国際分業パターンが,
§8 残
された問題
257
時に調和的になり,時に不調和に陥るという,国際分業ペターンの変動が明らか
に・される。.
{われわれは第7・3表の資本蓄積量変化表のごときものによって,一定期問後の
三国の資本・労働比率が予測できるならば,一定期聞後において可能な国際分業
のいろいろなパターンを画き出すことがでぎ,その中から理想的・調和的なもの
を発見することができよう。そしてそれを1つの規範とすることができ・よう。
われわれのモデルをどのような問題にいかに適用すべきであるかは,今後に残
された課題である。次のような1つの適用方法が考えられよう。これまでA・B・
C三国としたものを,1一国の経済発展のA段階・B段階・C段階とおきかえて考
えることができ・る。そうすると一国は各発展段階において多くの資源配分の可能
性めうち,1生産の多様化か能率化かの選択にいつも直面しているわけである。最
も望ま・しい急速な経済発展をとげるためには,いかなる選択をすぺきかという問
題が吟味できることになるめである。33)
二われわれσ)モデルばr国際的要素価格均等化論」の線に沿って非常に簡単化さ
れている。現実問題への適用に当ってはなお多くの事項が考慮に入れられねばな
らず,それだけモデルは修正を必要としよう。そういう必要な考慮事項の若千を
掲げておこう。
11われわれは資本と労働の2つだけを生産要素とし,それだけで生産函数を
、作りあげた。だが現実にはそのほかに多くの種類の生産要素が協力する・こと
はいうまでもない。資本と労働以外の生産要素として重要なのは,③土地・
天然資源・気候のごとき・人為的に増すことのできにくい自然的要因と,’(b)企
業者精神・経営管理能力・科学的進歩・外部経済・国家の経済政策・社会秩
序のごとき・無形の生産要素とであろう。ミードは両者をひっくるめて生産の
環境(atmosphere)と呼んでいる。34)確かに自然的要因が国際分業を大きく
規制したことは否定でぎない。それは資本・労働比率が低い能率段階におい
てとくにそう・であった。だが資本・覚働比率の高度化につれて自然的要因の
33) それにっいては,[本書第8章参照.
34) J. E.Meade, T7α46 4%4 昭o肋76,1955,p. 348 丘。
258
第7章資本蓄積と国際分業
制約力は薄まってき・たといえる。また無形の生産要素の大小とか能率が,資
本・労働比率の高度化とほぼパラレルに変化することも承認できるであろ
う。そうであるとすれば,資本・労働比率の高度化を中心にして経済発展モ
デルを考えることは十分に意義があるといえるであろう。
2,われわれは一方において大規模生産の利華を,他方において運送費の存在
を考慮外においた。前者は国際分業の利益を強め,後者は逆に弱める。それ
だけモデルの修正をほどこさねばならない。
3.われわれは一応生産要素の国際的移動は行われないものと仮定してモデル
.を展開した。』[だがわれわれのモデルによって,一国と外国が異能率段階に立
つならば資本と労働の価格が両国で必然的に相違し,したがってそれらの国
際的移動が行われなければならないという原因を明らかにすることができ1
た。生産要素の国際的移動とくに資本の移動が発生することによって,諸国
の利用しうる資本・労働比率がどう変り,その結果,国際分業パターンがど
う変るかを究明することは,われわれのモデルを利用して行いうる残された
興味ある問題の、1つである。
4,われわれのモデルは自由競争条件をみたす価格メカニズムのもとにおける
各国の選択を前提にして,国際分業パターンを吟味した。だが政府の経済政
策・商業政策などの千渉が,どれほど各国の経済発展のプロセスと国際分業
パターンとを変容させるであろうか。35)われわれもすでにその1,2の例とし
て[ケース7コと[ケース〆]とを検討した。しかしそういう政府の役割の
限界とか合理性36)とかを一層究明しなければならぬであろう。
35) 赤松博士は新興国経済発展において保護政策と国際的資本移動とが重要な役割を演
ずることを強調している.
rかかる産業発展の雁行形態は1つの弁証法的過程である.輸入完成品の増大は,
ここに国民の購買力が集中するため固有産業の低下,あるいは衰滅をぎたす矛盾に逢
着する・この矛盾を止揚せんとする力は,1つは固有産業における資本が利潤高き・輸
入品の製造業に自然的に流動しきたること,ならびにこの動向を国家の経済政策が促
進することに存す・」(赤松要,経済新秩序の形成原理,p.300),
rか』く世界経済の同質化の傾向は主として資本蓄積の増大と,その必然的宿命とし
て後進国への移動に基くものである・」(同,p。258)。
さらに博士は最近r雁行的関税政策」を展開されている。
36) ミードの前掲書におけるsecona−bestという政策目標が1っの手がかりになるで
あろう。
§9 補論4数学モデル
259
5.われわれのモデルでは需要側の分析は全く無視され,需要を反映するもの
としての世界価格比率が与えられるものとしてき’た。』需要側をもモデルの中
に入れて一般均衡化することは残された問題であるる
6.要素価格比率のいかん,いいかえれば所得配分のいかんが,資本蓄積のス
ピードを左右するという問題がある。資本蓄積をスピード・アップするため
には,生産を多様化した方がよいか,それとも能率化した方がよいかという
選択問題につきあたるであろう。これも残された問題である。37)
§9 補論一 数学モデル・
柴田裕教授がわたくしの本章での分析を数学モデルとして厳密化され,貴重な
コメントを与えられるとともにそのコメントを補うように一層の展開をはかられ
た。38)柴田教授の新展開部分についてはなお再検討を必要ξするものと思われる
炉,わたくしのモデルの基本部分に関する数学的厳密化に?野ては異論をもたな
いので,教授の許しをえて,それを付記しておきたい。
ある一国に存在する生産要素は労働(L)と資本(C)の象とし,これら生産要
素を用いてX・Y・Z三財を生産するものとする。生産函数は次のようなダグラス
型であるとする。
Px一βx(Lx)触(Cx)な
Py=By(LY)々r(Cr)ノr (1.1)
Pz=Bz(Lz)勉(Cz)ブz
ただし乃は各財の産出量,一易は常数,L,とqは各財の生産に用いられた労働
量と資本量である。
々,+ゐ=1 (」=X,Y,Z)
すなわちconstant retums to scaleを仮定する。・また,
37) この問題についてはLloyd A・Metzler・“Tariffs,・the Teτm釘of Trade and
Distribution of National Income,” ∫o%7πσJ o∫PoJ薦04J Eoo%oηz夕,Feb.1949。
Ditto,“Ta雌s,エntemational Demand7and Domestic Welfare,” ∫o%7郷」
‘ゾ・Po”’5041Eooπo卿あAug・1949が1っの手がかり塗与えるであろう・、
38) 柴田裕稿,、小島清著r外国貿易。新版」の書評,一橋論叢、1958・1・柴田裕r資
本蓄積と国際貿易一小島モデルについて一」経済研究,195$f1・
レ
260 第7章・資本蓄積と国際分業
/ …
唾
、 々r 々z
〉一〉一
「.,卿ゴY、ブz直か嬬
すなわちX財生産は最も労働集約的であり,Y財生産はX財よりは労働非集約
! い
釣,いいかえれば資本集約的であり,Z財生産は最も資本集約的であるとする。
L=Lx+Lア+Lz
一 (1。2)
影C−Cx+Cy+Oz
これは常に労働の完全雇用と資本の完全利用がはかられるものと仮定することで
ある。 ボ ゾ
X・Y・Z三財の生産に用いられた労働と資本の価格を先∫と瓦∫(」一X,Y,』Z)
であらわせば,それらは各財ではかった限界生産力に等しいものとする。したが
って
/霧一々・・{}・\
メ
・ (∫=X,Y,Z). (1.3)
’㌧》一 P
ゾ F∫α一ブ∫・一ユr一
ρ C∫
また各財のコストを労働で測って,それをπパづ一X,Y,Z)とすれば,
履一(4+q奮)÷年妾(・+奇)
1 L
.●。 π戸一・ユ (げ=X,Y,Z) 、r (1.4)
々∫ P,
各財の価格はこのコストに等しいものとする。
(1.1)式から深の等生産量曲線が導ける(第7・3図,P・228参照)。
_碗
q;B」(L,)’万(6=X,Y,Z) (1.5)
ただし易は既述のように初期条件によって決まる常数である。辞9)等生産量曲線
39) 生産函数に限界をつけると一層現実に近いモデルとなろう.たとえばX財(農業)
はきわめて原始的な方法でも生産でき・るから限界をつけないが,Y財(繊維工業チで
はcッ/Lフ≧1/1・5,z財(重化学工業)ではc。ノL2≧3/1でなければならぬというよう
に下限を画するのである・こうすることは資本蓄積が低く資本が割高(左施が小)
である後進国では工業をもちえないこと,資本蓄積が進行して資本が安くなり∫Lがc
二111。5以上に達して初めてY財の生産をもちうるようになること,さらに∫Lグc−
1/1以上になるほどに資本蓄積が進行して初めてZ財をも導入しうることを明らかに
するのに役立つであろう。このことは第7.3図では,動径oy’!とかOZ、.OZ2は存
§9 補論一数学モデル
261.
の勾配は二生産要素の価格比率を与える。それは,
4q ん, 盈, q
一一=一=一・一 (」=X,Y,Z) (1』6)
4L, ∫α ゐ Lゴ
であらわされる。国内では生産要素の移動は自由であり,したがって,どの産業
においても二隼産要素の価格比率は等しいものとする。
いま各産業に共通な生産要素価格比率左,/∫αをβとおき・かえると,(1.6)式’
の耐ゐは与えら一∫ぢデダー弱えられれば各財で採用すべき生産方−
法C,/ちが決まる。それが決まれば(1・1)式で各財の産出量P」が決まり,そ
れらが決まれぱ(1・4)式で各財のコストー価格π’が決まる・つまり生産要素価:
格比率βによって各財の相対価格π’が一義的に決定されるのであるから,βを・
価格指標として用いることができる。
、/
/ところでわれわれの問題は・価格指標βが与えられるとX・Y・Z三財への最
適資源配分がいかに行われ,各財の生産量がどうなるかを決めることである。各一
財の生産費一価格πゴも一義的に決まることは上に述べた。だから「βが与えら・
れると」という代りに,「πfが与えられると」といいかえても全く同じである。
いま各財生産への資源(労働)配分比重を劣,y,2であらわす。・すなわち,
Lx Lr Lz
劣=一, 夕=一ジ之=一
L L L
とする。特定のβによって決まる各財の生産方法をq5/L」卜(」一x,Y,z)とす一
る。最適資源配分は次の連立方程式を解いて,資源配分比重 .諾,ッ確を求¢れ遷二
よい。
五・∬+L・夕+五・∼二L、
Cx鮮 Cr鮮 一Czβ 一 (1・7)
・L噛+ ・L・ツ+ ・ム・2コC
Lx5 Ly3 L■β
未知数がκげ,∼の3つであるのに方程式は2つであるから解けない。、どれか
一財の資源配分比重が0である(このとぎには二財だけの生産になる)か,それ
在しないことを意味する.それに応じて第7。4図が変り『,ために労資完全雇用のため
の資源醒分の可能性が一層制約を被ることがわかるであろう・なおこの問潭について
は本書第9章,p。299を参照されたい・以上柴田教授のコメントに負うものである(一
橋論叢,1958・1,pp.72−3).
262
第7章資本蓄積と国際分業
があらかじめ与えられれば解ける。こうして資源配分が決まれば,(1.1)式に従
って各財の生産量が決定できることはいうまでもない。
どれか一財の資源配分比重をあらかじめ与えねばならないことは,このモデル
の1っの欠陥である。この欠陥は形式的には労働Lと資本Cのほかに第3の
生産要素一たとえば天然資源ハπ一を追加することによって解決できよう。だ
がこのことは欠陥であると同時に長所でもあるといえよう。けだしある一財の資
源配分比重,したがってその生産量を政策目標として与えることができ・るからで
ある。たとえば国防目的その他の理由からX財(農業)は自給できるようにすべ
しとか,Z財(重工業〉をある一定量に拡大すべしとかいうふうに,政策目標が
与えられるのが普通であるからである。
以上の基本的モデルをいかに国際分業の問題に適用するかを考えてみよう。
1。A・B・C三国において資本・労働比率C/Lがそれぞれ異なり,そのうえ生
産要素の価格比率β一ノ五ZZcも異なるならば,各国の各財の生産量と価格比
率は違ってくる。つまり比較生産量と比較生産費は国際的に相違をもち,こ
こに国際分業と貿易の可能性が生まれる。勘
2。貿易が完全に行われる’ときには三財の価格比率は世界的に均一にならねば
ならない。つまり世界的価格比率勾が与えられる。与えられたπ,のもとで
各国が最適資源配分を達成すると,各国の各財の生産量と,新しい生産要素
価格比率が決まる。そういう生産量を各国各財への需要量と比べれば,41)各
40) これが第6章で詳論した問題である.
41) わたくしのモデルでは需要側を明示的には組み入れていない,柴田教授の新展開の
1っは需要側をモデルに組み入れたことにある。もっとよい組入れ方があるかどうか
は吟味を要する問題である・需要側を入れて体系を完全にすれ礒,生産要素価格比率
も財の価格比率も体系外から与える必要はなくなり,』体系内で一義的に決まることに
なる・わたくしが需要側を導入しなから乏のは本章の分析はおもに』factor leve1に
おける問題を取り扱っているからであり,需要側は、gooasleve1において取り扱う方
がわかりやすいと考えたからである・なお需要側の入れ方についてわたくしが最近懐
いているアイディアは,r能率段階(セット)の違いに応じて三財への所得支出割合
が相違する.」というふうに,需要条件を仮定するζ、とであるドも う1つ,「資本への
分け前の総額に対する一定割合が資本蓄積に向けられる弓という仮定を追加し・これ
によって能率段階を高めれぼ高めるほど資本蓄積が急速になるというふうに,モデル
を修正すると「 も1興味ある試みだと思われる.
§9 補論一数学モデル
263
国各財の輸出量または輸入量が確定でき,貿易は現実化する。
3・各国の純資本形成率がわかり〕,資本・労働比率の時閥にわたる変化が与えら
れるならば,比較生産費の時間的変化,実現される各国各財の生産量と貿易
量,世界価格の変化などをそれぞれ明らかにすることができるであろう。42)43)
42) 柴田教授は基本モデルの幾つかの興味あるoperationを展開されている.経済研
究,1958・1,PP,69−71.
43) 柴田教授のほかに,渡辺太郎教授がr資本蓄積と比較生産費説」大阪大学経済学,
1958・1,pp。26一9においてわたくしの「資本蓄積と国際分業」モデルに対し,それ
は丁いわば比較静態的であって動態的ではないことになお不満をおぼえるのである・
すなわち,小島教授は資源の配在比率を異にする2つの経済にあらわれるべき差異を
比較したのであって,ある配在比率から他の配在比率へ進んだときにある1つめ経済
がこうむるべぎ変化の過程を分析していないのである.」(P,28)と批判を与えられた.
この批判はある程度確かに正しい。しかしながら何をもって「動態的」というのであ
ろうか.単に時間∫を入れるということなら,そういう形にわたくしのモデルをあら
ためることは遜ずしも困難ではない・わたくしは,、人口の増加や資本蓄積率を与件と
するかぎり,比較静態分析でよいのではないかと思う。・
わたくしにとっては第6章と本章や次章とは相互に補い合う関係にあるものと思
う.ただ第6章が比較生産費の方向とか変化のプロセスを示すin伽e smal1の分析
であったのに比べ,本章や次章のモデルは一国の総資源配分から見て国際分業のパタ
ーンがどう変っていくかを検討するint血elargeの分析である点に特色がある.
なお渡辺教授は同じ論文(pp.27−8)で,わたくしの 「比較成長率」原理(小島
清,国際経済論,1950,第9章.外国貿易。新版,1957,PP.208−9)について(a)
それが規範的な原理であることと,(b}これとは別に,もう1つの国際分業の動態理
論(本章の分析)を展開したと指摘された.
いずれも正しい指摘なのであるが,r比較成長率」原理と r資本蓄積と国際分業」
モデルとの関連を述べることを許されるならば,次のようである・すなわち,一国の
生産要素がただ1つである,あるいは事実そうではなくてもbalesのごとき複合生
産要素単位を用いてあたかも一生産要素であるかのごとくに分析する場合には,「比較
成長率」原理でこと足りる。だが同様な問題でも生産要素が2つ以上になると,「資
本蓄積ど国際分業」モデルのごとき複雑な分析を必要とする・両者は全く同じねらい
一動態的国際分業理論の樹立一をもつものであり,全く別のものではないのであ
る_ただ、’「比較成長率原理」の一層精密な展開が必要であるが∫それはいまだ果され
ていない.その展開は長期的逓減生産費下の国際貿易を追究するごとによって1つの
通路が開かれるであろう・小島清r国際貿易の均衡条件一逓減生産費ケースー」
思橋論叢,1958‘2,参照.
264
第8章 資本蓄積と産業構造
§1はしがき
Joan Robinsonは弱蓄積accumulation weakと強蓄積accumulation strong
という概念を提供した。1)技術進歩が行われ労働時間当り産出量が増加するとき
には,技術進歩が必要労働時聞を短縮するのと同じ率で,労働力に見合う生産キ
ャパシティ、が拡大するのでなければ(就業時問の短縮を別≧すれば)失業が発生
する。生産キャパシティの拡大は資本蓄積によってのみ可能となる。 そこで技術
進歩が要求する率よりも資本蓄積率が遅い場合を弱蓄積といい,その逆の場合を
強蓄積というのである。前者では失業(技術的失業)が発生し実質賃金の引上げ
は抑圧されるが,後者では実質賃金は向上する。Robinsonはこれらの概念を本来
技術進歩との関連において提起したが,彼女自身述べているように,2)それは資本
蓄積が人口増加に追いつかない場合に発生する失業と本質において同じである。
以下においては弱蓄積・強蓄積なる概念を必ずしも技術進歩と関係めない場合
(あるいは技術が一定の場合)にも拡張して用いることにする。
本章は,日本の経済発展のパースペクチブを頭に画きつつ,農業から繊維工業,
さらに繊維工業から重化学工業への産業構造高度化のプロセス,ならびにそのス
ピードのいかんが,弱蓄積または強蓄積の状態に陥らせる重要な原因の1つであ
ることを,1つのモデルに従って理論的に究明したい。3)もとより弱蓄積・強蓄
1) Joan Robinson, Thβ丑60%窺麗」4’∫o% oプC4ρ露4」,1956,PP.94−6.
2) ・1δ」4.,P.95.
3) 日本経済の分析に適用された大川教授や篠原教授の2部門分割論,.また後進国経済
発展に適用されたSinger,Nurkse,Mandelbaumなどのモデルに興味を感ずる.本
章もそれらのモデルのねらうところと本質的に同じであるが,本章が何らかを付加し
えているならば幸である。大川一司丁不均等成長と低位雇用」日本経済の分析,第2
巻・同r労働への分配率上昇の諸条件」経済研究,一1957・1,篠原三代平r経済進歩と
‘価格構造」日本経済の分析..第2巻.宮沢健一r経済発展と産業別生産性」中山編・
日本経済の構造分析,上巻.藤沢袈裟利「生産性と労働入口の移動」同1下巻.H。W・
Singeτ,“Th)e Mechanics of Economic Development−4Quantitative ApProach,”
§21つのモデル
265
積は資本供給増加量に比べて相対的に考えられねばならないことであるが,ここ
では資本供給増加量そのものは与えられるものと仮定し,それと比べて産業構造
高度化が要求する資本需要量の過大・過小がときに弱蓄積に,ときに強蓄積に陥
れることを追究するのである。
§21つφモデル4》
いまX(農業)・Y(繊維工業)・Z(重化学工業)の三財につき,次のような
ダグラス型生産函数(P−6L盈Cノ)を仮定する。
む Px−1.0×群C蛋
3 1
・r!・gPx= 」09五+τ1・gC
■一2 ■峯
C C
■傷 3星
L L
× ×
己上 −
0 0
一一 一一
P P
γ Z
1 1
・r
logPア= logL+万logC
1 3
I」・gPz=
・r
logL÷70gC
ただしPは産出量,Lは労働量,Cは資本量,δは常数である。累数はた+ゴコ1
であるからconstant retums to scaleを仮定している。上の生産函数に労働量
Lを一定(900)とし資本量Cと産出量Pとを変数として当てはめると,第8,1
表(1)欄が求められる。その瓦・瓦・瓦という符号はX財の3種の生産方法で
あり,同じx財の生産について順深より資本集約的な』より高度な生産方法を意
味している。y、・y、・Y,ならびに■、・Z、・Z、についても同様である。
第8.1表(2)欄の生産要素価格は次のように算出でき・る。すなわち,
(産出量P×労働の分け前為)÷労働量L一労働の価格∫L
(それぞれの財ではかった)
ならびに.
(産出量Px資本の分け前ゴ)÷資本量C一資本の価格ん
(それぞれの財ではかった)
である。
1%4∫伽E‘o%o卿Jo R召加召解,Aug。1952, Ragnar Nurkse,P〆06」θ吻30ゾCの甜41
Fo吻σ’Joπ伽ひπ4074ωθ10ρ04Co纏師θ3,1953.K。Mandelbaum,Thθ1π吻ε一
云〆づ4JJ之4’♂oπ oプBσo々zσσ74 ∠【7θσ5, 1945, 1955・
4) このモデルは前章におけると全く同一であるが,若干説明を変えていることと,こ
のモデルを十分に理解してほしいこととのため,煩をいとわず再述することにする・
266
第8章資本蓄積と産業構造
第・8.1表
900
450 2:
6001.5:
900 1:
︵3︶
900
900
一一
比率な
Y財
Z財
ryY
ZZZ
900
150 6:
2004.5:
300 3:
畢茄
900
資本鳶
瓦瓦瓦
X財
900
C
難
(2)要素価格
労働左
労働 L
生産方法
竺資
生産物コスト.
カ グ
575 0。4791 0.9583 ;2
2.087 1.043
618 ・ 0.5150 0。7725 =1.5
1.942 1.294
684 0.5700 0.5700 :1
1。754 1.754.
636
0.3533 0.7067 :2
2.830 1.415
735
0。4083 0.6125 :1.5
2。449 1.633
900
0.5000 0.5000 :1
2.000 2.000
900 1,350 2/3:1 1,220
0.3389 0.6778 :2
2.951 1.475
9001,8000.5:1 1,510
0.4194 0.6291 :1.5
2.384 1.589
9002♪700 1/3:12,051.
0.5697 0.5697 :1
1.755 1.755
第8,1表(3)欄の生産物コストは2通り算出しである。生産物単位コストの算
出式は
(五×L+∫c×C)÷P
であるが,この際③労働の価格左.を各財の各生産方法を通じて1とおいた場
合のコストが力欄であり,(b)資本の価格んを各財の各生産方法を通じて1と
おいた場合のコストがρ’欄である。つまりρは労働ではかった生産物のコスト
であり,グは資本ではかった生産物のコストである。
各財につき,より資本集約的な,より高度な生産方法をとるほど,労働の生産
能率が高まり実質賃金が向上する。これを生産の能率化と呼ぼう。たとえばX、生
産方法からXl生産方法に移るならば,要素価格比率∫L:∫cは1:2から1:1
に,労働に有利に資本に不利に変る。このことは(乱)労働の価格(貨幣賃金)が
一定不変ならば,資本の価格(貨幣利子率)が半分に低落することによって,生
産物コストー価格を2.087から1.754に低落させる。貨幣賃金が不変で商品価
格が低落するから実質賃金は増大する。㈲貨幣利子率が不変ならば,貨幣賃金
が2倍に騰貴することによって,生産物コストー価格は1.043から1.754に騰
267
§21っのモデル
貴する。だが貨幣賃金の騰貴率よりも商品価格の騰貴率の方が小さいので,実質
賃金は増大する。’実際には上の③と㈲の複合も生ずるのであるが,一実質賃金
は必ず騰貴する。
生産要素の産業聞移動が自由であり,自由競争によってその価格づけが行われ,
したがって各産業を通じて各生産要素の価格は均一になるものと仮定する。この
ことは∫がん一1=2であるならば三産業においてそれぞれX、・y、・Z、という
生産方法を採用せねばならぬこと,また生産物の価格が算出されたコストに一致
せねばなちぬことを意味する。r一方でX産業ではXl生産方法がとられ,他方で
Y産業ではy,生産方法がとられるならば,当然に両産業間に賃金格差か利潤率
格差かまたは両者が発生するが,そういう場合は後に§5で検討する。そこで第
8.2表のように各産業で要素価格が均一になる3つの(あるいはもっと多くあ)
セットが選び出せる。セットαに比ベセットβではすべての産業がより能率的に
なる。したがって各セットを能率段階と呼んでもよいであろう。ここで,同じ要
素価格比率がとられると,いいかえれば同じセヅトの中では,X財に比べるとY
財はより資本集約的であり,Z財はY財よりも一層資本集約的な生産万法をとる
ことがわかる。これがダグラス函数によってあらわしたこのモデルに関する根本
1 匁淵黒c
謂黙諭號
900
900
2
C111
900
1
C111 Cヱー− L
・ 1
及臨ろ
L
oooooo
999
7
ト
瓦巧ろッ
セ
セッ トβ
五 6 22
β L5
3 11
β
45
15
n ⋮L
■、 gOO
5
X1 900
y1 900
1 L
2 L セ ツ ト ¢
1 1 丘
左 丘
第8。2表
P
575
636
1,220
P
618
735
1,510
P
684
900
2,051
268
第8章資本蓄積と産業構造
的仮定である。
次に資本量:労働量という資源比率については次の段階を単純に仮定する。す
なわち,
資源比率段階 A (C150:L900)
〃 B(C250:L900)
〃1 C(C400:L900)
〃 D (C600:L900) 、
ム国の資本蓄積率が労働力増加率を上回ることによって,こういう資源比率段階
が高まり,一国全体の資本係数が高度化すると考えてよいであろう。
§3 産業構造高度化の限界
さて問題は,与えられた生産函数とそのときどきの資源比率のもとで,諸産業
べの最適資源配分を決定することである。この際労働の完全雇用と資本の完全利
用とが,1常に至上目標として達成されるものと仮定する。
r三財のうち,⑧X。Y,㊥)X・Z,(0)Y・Zという二財ずつへの労資の完全雇用
を達成する資源配分は,次の方法で容易に確定でき・る。たとえばL−900,C−250
のときのX、生産方法とy、生産方法への資源配分は,次の連立方程式を解けば
よい。
900劣+900ッ=900(L)
150劣十450ッ=250(C)
解は劣一2/3,ッー113となるが,それを資源配分比重と呼ぼう。constant retums
to scaleが仮定されているから,各生産方法の生産量Pにこの資源配分比重を
揖ければ,各財の生産量も容易に求められる。
三財への資源配分の可能性は数多くあり一義的でない。しかし労資の完全雇用
を保証するという制約のもとで各財への資源配分の限界を確定することはでき・
る。(a)X、・・y、二生産方法だけへの資源配分比重は,上述のように,滞、一2/3,
y、一1/3となった。⑳)上と同じ条件のもとで,X、生産方法とZ、生産方法だげ
への資源配分比重は. κ,d1/12,.a、d!12となる。このことは@)ッ、一1/3にすれ
269
§3 産業構造高度化の限界
1ば,Y財のほかにX財は生産でき’るがZ財は全く生産できない,また(b)之、一1!12
1にすればZ財のほかにX財は生産でき’るが1Y財は全く生産でき’ないという,2つ
1の限界を意味する。そこで(G)もしエ、を2/3よりも大き’く11112よりも小さく
.すれば,ッ、<1/3,2、<1112なる範囲内で,x財のほかにY財もz財も若干ずつ生
・産でき・るようになる。つまりX・YとX・Z各二財だけ・への資源配分を求めるこ
.とによって,X財《の資源配分め限界を確定することができる。5)
上のような方法で求めたものが第8.3表である。その[A司とか[恥]とい
う符号は,資源比率段階Aにおいてセヅトαをとった場合とか,資源比率段階
Bにおいてセヅトβを選んだ場合とかを,それぞれあらわ.している。
われわれは第8.3表(1}欄に注目したい。それは2つのことを示すであろう。
第8。3表
L=C
︵3︶
︵2︶
︵1︶
資源比率段階
Z財への資源配 Y財への資源配
X財への資源配
が0の場合の
が0の場合の
Y財への資源配 Z財への資源配 分比重の限界
比重
比重
A(900:150) 〔A司
y、≦0
∼、≦0
1
1≦;一
12、≦一
B(900=250) [B函]
一3
12
∫1=1・
2 11一≦簸≦一
12
1
2≦一
1之.≦;一冒一32
7 31一≦為≦一
5
、≦一
59、≦一
1 19一≦∬、≦一
[C5]
1
2≦一
122≦一
[CY]
1
3≦一
123≦一
[Bβ]
32
8
C(900:400) [C函]
D(900:600) [D函]
6
2
24
8
6
24
フ、≦1
3
z、≦一
24
1 7一≦エ2≦一
8
5 23.一≦1劣。≦1−
4
−」一
5
9≦鑑、≦一 8
8
122≦一
[D司
y2≦1
[D日
1
3≦一
2
30≦;∬.≦二一一】一4
4
123≦一
8
1 7一≦ヱ3≦一
8
5) 三財への資源配分はbox diagramによってたやすく検討できる.それについては
前章第7.4図r(p.229)参照.
270
第8章資本蓄積と産業構造
(1)X財は農業,Y・Z財は工業と仮定されているから,資源比率段階の高度
化に応じて,また採用する能率段階に応じて,農業セクターがどのくらいの資源
配分比重をもちうるかがわかる。(la)資源比率段階が高度化するにもかかわらず
、同じ能率段階を選ぶならば([A司から[B司へ,さらに[Cのべというように
移るならば),.農業を縮少し工業を拡大し.うることは明らかである。』しかし(Ib)
同じ資源比率段階で能率段階を高めるならば([B司から[B臼へという、ように
移るな.らば),農業はかえって拡大し工業は縮少しなければならない。
(II)Y財は繊維工業,Z財は重化学工業と仮定され亡いるが,前者を相対的に
縮少して後者を拡大する重化学工業化は,上の(lb)と同様に農業の拡大を必要
とする。たとえば第8.3表(3)欄の[B司についての限界2/3<∬、<11/12におい
て,x財への資源配分比重が劣、一2/3であ為ならば,夕、一1!3,2、一〇である。こ
の状態からz財の生産を拡大しようとするならば,i劣、の限界は急速に11/12の
加近づく・つま膿業は力齢て拡大せねばなら1ない・たとえば∼・=1/34に
し紗とするとき幣は・∫・』19/勘・=4/24と妨ね瞳弦い・駐19/24と
いうのは, 夙の限界たる2/3と11/12のちょうギ中闇である。そしてκfが限
界の中問にあるときにはフ、:之、一4;1の比率になるるこのことはわれわれの仮定
したダグラス函数のもとでは他の能率段階についでも等しく妥当する・.そしてそ
れは1つの重要な基準を提供している。すなわちY財べの資源配分比重1に対し
てz財への資源配分比重を1/4以上に高めるためにiは,x財への資源配分比重を
限界の中間よりも多くしなけれぽならないのであるb
かくしてわれわれは,資源比率,l X財への資源配分比重謬,ならびにY財とZ
財との資源配分比重の比率2砂の3者が与えられる1ならば,上の基準に照して,
いかなる能率段階が選びうるかを判断することができる。
問題を2つに分けよう。第享は資本蓄積が進行し資源比率段階が高まるのに応
じて生ずる産業構造変動である。この際2つの選択がありうる。
(助 [A。、]→[B岡→[C己というように能率段階の高次化を優先的な目標とする
もので,これを能率化選好と名づけよう。そのとき・には躍の下限は1→7/8→15/6,
κの上限は1→31/32→23/24というように,ごくわずかずつしか小さく・ならない。
§3
産業構造高度化の限界
271
つまりいつまでも農業セクターが大きく,工業化ないし生産の多様化は遅々』とし
て進まない。その代り農業の生産能率は急速に高まる。これが後進国の国際牙業
化に通ずる選好である。
⑳)[A司→[B司→[C司という・ように進むとしよう。このとき・には蛋の下限
.は1→2/3→1/6,∬の上限は1→11/12→19〆24というように,先の能率化選好に
.比べ,急速に小さくなる。つまり急速に農業セクターを縮少し工業化をはかり「う
ゐ。そのうえ躍の下限と上限の聞の幅も急速に広まるので,Z財の比重も高め
うる,すなわち重化学工業化も相当なテンポで果しうることを示している。要す
るにこの選択は能率段階の高次化を犠牲にして,生産の多様化ないし産業構造の
高度化を優先的な目標とするものである。これを多様化選好と名づけておこう。
第2の問題は,同一資源比率段階における能率化選好と多様化選好との比較で
あ畜δ本質としては第1の問題と異ならない。しかし,農業から繊維工業へ,ま
売繊維工業から重化学工業へ急激な切替えをはかる産業構造転換期に生ずる問題
を取り出して吟味するのに役に立っ。たとだば資源比率段階Cにおいて[C司,
[C5],[C臼のいずれを選択するかである。[CT]を選べば,労働生産性を向上し
その実質賃金を高める強蓄積状態を維持することができるが,工業をごくわずか
しかもつことができない。工業化するためには[Cβ]か[Cのを選ばねばなら
ぬが・[9τ]からぞういラ状態へ移る吻.頂毒れば・実質賃傘を切一φ下げねぼなら
ない。つまり弱蓄積状態に陥る。[C3]では工業セクターへの資源配分比重の最
高は1/2であるが,最高の1/2を工業セクターが占めれば,それは資本集約度の
低いY財(繊維工業)に振り向けねばならず,Z財(重化学工業)を全くもつこ
とができない。そこでたとえば工業セクターの資源配分比重が1/2以上で,しか
も重化学工業をかなり保有するためには[C司を選ばねばならない。弱蓄積と実
質賃金低下の矛盾はそこでは一層大きくなるのである。
順序を逆にして要約すればこうである。同一資源比率段階において資本集約度
.の低い産業の能率化選好をとれば強蓄積を維持でき’るが,その際多様化選好をと
れば弱蓄積に陥り1能率化選好の場合に比べて能率段階を低めねばならない。同
様に,資本蓄積が進み資源比率段階が高まる場合にも,能率化選好をとれば強蓄
272
第8章 資本蓄積と産業構造
積を維持できるが,多様化選好をとれば弱蓄積に陥りやすいのである。
§4 日本経済への当てはめ
1900年頃からの日本経済が趨勢として強い多様化選好をとり,急速に産業構
造を高度化してき’たことはほぼ間違いがないことである。前述のモデルを’日本経
済に大ざっぱに適用してみて,弱蓄積に陥って悪循環的発展を経験した時期と強
蓄積を維持して調和的発展を享受した時期とを発見してみよう。6)もとより日本
経済全体の資源比率とか,各産業の資本係数も,さらに第3次産業の存在なども
追究していないから,現実的ではなく不完全である。ただそういう多くのデータ
が整った場合に当てはめうるモデルとその考え方を示すことだけを,ここでは目
的としている。
大川教授の推計による第1次産業有業人口の全有業人口に占める比率を示せば
第8.4表のようである。その表の最終欄に()内に示した比率を大ざっぱでは
あるがわれわれのモデルにおけるX財への資源配分比重劣とみなそう。また第
8・4表の各期は第8、3表の資源比率段階と次のように対応するものと啄なそう。
すなわち,第0期一A段階,第1期・第2期一B段階,第3期・第4期一C段
階。このような当てはめが許されるとすれば,第3,3表③欄の基準によって
、第,、脹4表・∫
︵各︶ ︵暑︶ ︵書︶ ︵去︶
第0期
第1期
第1次産業有業人口比率
(1)
1878−1902 (25力年)
82.3∼69.9彩
第2期
1903− 12 (10力年)
66,5∼63。0%
第3期
1913− 27 (15力年)
59。2∼52.0彩
第4期
1928− 42 (15力年)
50。5∼44。6%
大川r司編,日本経済の成長率,P・26,第11表による・
6) 日本経済の強蓄積と弱蓄積とのもっと詳しい実証分析は本書第4章において試み
た.また資本・労働比率の変化については次を参照。Gustav Ranisン“Factor Pro・
portions in Japanese Economic Development,”z4,πθ7∫o伽Eooπo卿∫‘R⑳魏o,
Sept.1957。
273
§4 日本経済への当てはめ
8
5
第1期 1
y2 600×一= 75
量︻一
柔
[恥]∫瓦200×各一175
57
[Aφ] X1 150×LOコ150
57
第0期
m
〇
産L
×
生5
(1)資源配分釜
ー坂
第8・5表、
期
(1.00)
7
Px 618×一コ541
8
1
ぞy735×厄一一92
2
Px 575×一二383
3
第2期 1
1
y’1 450×一=150
Py 636x一=212
3
3
鳩1二言二1:l 3
Px 618×一二371
5
/
[恥コ∫瓦・5・×そ一100
第3期 [Cβ]
tろL8・・書6・
X、150×一=75
第π期
∫
第4期
[Dβ]
2
7
y’1 450x一=175
18
1
2r1 1,350x一=150
9
1
.X2 200×一=100
2
1
y2 600x一=200
3
1
Z21,800×一二300
6
(1.00)
(0,17)
.(1。00)
(0。55)
(1。00)
11
Pr 735×一;270
30
(0。73)
1
Pz i,510×一= 50
(0.14)
30
膨、/ 1
(3)生産量比率
1
Px 575×一=288
2
7
Py 636×一=247
18
1
Pz1,220x一=136
9
1
Px 618×一=309
2
1
Py 735×一;245
3
1
Pz1,510x一=252
6
(1.00)
(0.86)
(0。47)
(LOO)
‘(0.79)
(0.81)
菅資源配分は資本についてだけ示してあるが,労働の配分は労動900に上の各
資源配分比重を掛ければ容易に求められる。
inspectionを行い,各期の資源配分を画いてみることができる。それが第8・5表
である。
第0期 ここでは[A司を選ばねばならず,低いX、生産方法でX財だけの生
産に専念しなければならぬことは自明である。
第1期 第8.4表により∬一7/8とした。また重化学工業の資源配分比重3は
この時期にはほとんど0であったとみなしてよいであろう。そうであるとすれ
ぽ,第8.3表により[Bβ]を選ぶことがでぎ,謬,=7/8,夕,一1/8,β、一〇となる。
r第2期 第8・4表においてヱは213に縮少するとされた。その条件をみたす
274
第8章資本蓄積と産業構造
ためには,第8.3表によれば,[B司を選び,劣、一213,ッ、一1/3,2、一〇というよう
に,重化学工業(Z財)をもちえない状態にある。
第3期第8.4表において藩は3〆5に一層縮少するとされた。この条件をみ
たしつつ,[C司,[C5],[CT]のいずれを選びうるかは,重化学工業化の程度,
すなわち∼〃に依存する。[cβ]が選ばれたとしよう。そうすると,芳一3/5は
1/2<劣、<7/8なる限界の中間よりも左の下限に近い。したがって∼/ッ〈1/4にな
ることが期待される。事実,第8・5表の[Cs]においては,劣、一3/5,フ、一11/30,∼,
一1/30,したがって2、ケ,一1/11となる。この資源配分の計算はL−900,c−400
から,まずx財に配分される資源(労働は900×3/5−540,資本は200×3/5−120)
を差し引き・,その残りの資源を既述の方法によって二産業YとZに配分したので
ある。
第4期第8.4表において濫は112にまでさらに縮少するとされた。この条
件をみたしつつ,[C司,[Cβ],[CY]のいずれを選びうるかは再び重化学工業化
の程度に依存する。だが[Cβ]を選べば」、一1/2,夕、一1/2,9、一〇となる。だか
ら重化学工業(Z財)を少しでももとうとするかぎり,[Cβ]は選びえず,能率
段階の低い[C司に移らねぽならない。そうすると第8.5表に示したように,
∬、=1/2シy、篇7/18,∼、=1/9,9、/ly、=2/7となる。・
以上のような推論を前提とするならば,次¢ように要約でき’る。
㈲第0期から第1期への肇展過程は[A司から・[B5]への移行を実現した。
それは資本集約度の最も低いX財(農業)の生産方法の改善・高次化という能率
化選好を主とし,資本蓄積量の余裕が生ずるにつれて,わりあいに資本集約度め
低く労働吸収力の大きいY財(繊維工業)をごくわずかもつようにした。したが
って強蓄積を維持することができ’,・実質賃金が向上しつつ経済が発展するという
調和的経済発展を実現した。利子率一利潤率の変動は,実質賃金が労働生産性の
向上率に比べより多くまたはより少なく騰貴したかどうかにかかわるから,一義
的にいうことができ’ないが,こういう調和的発展期には利潤率も高まることがで
ぎたと期待してよいであろう。
(ロ)第1期から第2期への過程は[B司から[B司への能率段階の逆転という
§4 日本経済への当てはめ
275
矛眉を含む。それは急速な工業化に基因する。すなわちY財(繊維工業)の資源
配分比重yを第1期の1/8から第2期の1/3にまで急激に高めた(第8・5表の
(3)欄に示した生産量比率で見れば,X財の生産量1に対しY財の生産量を,第1
期の0.17から第2期の0・55にふやした〉。だから第1期から第2期への過程を
産業構造転換期とみることができる。そこでは工業を拡大するために,工業自体
の生産方法を前よりも能率の劣った資本集約度の低いものにせねばならぬだけで
なく,生産要素市場の自由競争を前提とすれば,農業をも低い生産方法に逆転さ
せることによって,労働の完全雇用と資本の完全利用を達成せねばならぬのであ
る。したがって弱蓄積に陥り,実質賃金は明らかに低下し,利潤率もおそら尋低
下するという悪循環的経済発展を経験したのであろうっもとよりここでは産業構
造転換期の矛盾を強く浮びあがらせるために,第1期と第2期の間に資源比率が
変化しなかったと仮定しているから,現実とはその点でギャップが生ずる。だが
資本蓄積が進み資源比率が現実に高まったにしても,その資本蓄積率が急速な工
業化のスピードに追いつかなかったならば,上述と同じ弱蓄積に陥るのである。
㈲ 第2期から第3期を通ずる発展過程は[B・]から[q5]へ,能率段階の高
次化とともに産業構造の高度化をも達成した。それは臼)と性質を同』じく する強
蓄積の調和的経済発展期であると見ることができる。その秘訣は資本蓄積率に比
べて過大の重化学工業化をしなかったこと,いいかえれぱ繊維工業(Y財).の拡
大とその生産方法の改善を主軸として発展したことに昂る。
←)第3期か.ら第4期への過程は,(ロ〉と同様に,[Cβ]から[C司への能率段
,階の逆転をきた』した悪循環的経済発展である。それは急速な重化学工業化を敢行
・した産業構造転換期であり,・弱蓄積に陥ったと思われる。
繰り返しことわっておくが,上述のごとぎ,臼)明治時代と㈲1920年代とは
強蓄積の調和的経済発展期であるに対し,(ロ〉1910年前後と口1930年代とは零
蓄積に陥りた悪循環的経済発展期であるとする説明は,1つの,しかし有力な,・
原因を理論的に指摘しようとしているだけであって,すべての原因を究明し総合
的診断を下そうとしているわけではないのである。
なお第8・5表の最後に[Dβ]として示したように,資本蓄積が一層進行し資源
276
第8章 資本蓄積と産業構造
比率段階が一層高まるならば,そこで初めて, ∬、一112にまで縮少しながら,
y、=1/3,9,一1/6,之,砂、=1/2(
Yとzの生産量比率はほぼ1:1)になるような,
高能率にしてしかも三産業のバランスのとれた産業構造をもちうるようになる。
こういう状態ないしはもっと高能率の[D了]のごとき状態に,第2次大戦後の現
在または近き・将来に到達することが期待されるのである。
ところでX財とZ財の資源配分比重の比率ψは現実にはどうであったか。そ
れを見出す正確な資料をもたないが,第8・6表によって一応の見当をつけること
にしょう。この表は商工省調工場統計による職工規模5人以上の民営工場につい
第8.6表 工場雇用者比率(%) てだけの雇用者を,重化学工業とその他工業
とに分類してその比率(第(2)欄)を求めた
(1)壬’レ遇
(2)缶’レ昌
悲
豊
重化学工業 .重化学工業
全 工 業 その他工業 ものである・職工規模5人以上だけとか・民
1gog 12.2 13.g、1 営工場にかぎるとか,金属・機械・化学を重
14 15.6 18。5〆6
化学工業と一括していることとかに問題が残
ll髪:1瓢■されよう・だが本章では獺のための一応の
% 27.9 38.7∫3見当がえら繍ば足りるのである。
3・ 24沿 き3.2、⊥ 第8・6表(2)欄をわれわれのいうgZyであ
31 24.6 32.6∫3 るとみなそう。それは,1909−14年の第2期
認34蕊3637
32 27.1 37.2 においてほぼ1/6であったものが,1919−28
89
0ー4
ワ一 44
3
3
29.2
41。2
34.4
52.4
36.7
40.2
58.0
年の世界恐慌期,また重化学工業への産業構
67.2
造転換の始期にかえって若干減少するがほぼ
44.4
79.8
年の第3期に113にまで増加した。1930−31
1/3を保った。それが1938年の1以上,さ
51。0
104.1
55。5
58.3
59.7
124.7
らに1942年に2に達するまで,1932年以
139.8
降急速に増大しているのである。
148.1
66.6
199.4
重化学工業は金属。機械・化学の
合計.
経済企画庁,雇用問題研究資料,
No.7,第12表・第21表により算出。
そこで第8.6表(2)欄を第8.5表で判明す
る2ケと比較しそのギャップを見出すなら
ば,第8.5表を修正する必要,またその修正
がすでに画いた経済発展にいかなる圧力をも
§5要素価格差の効果
277
ったかを推論することができよう。
第2期については,第8.5表では∼、=0であるのに,現実には第8.6表のよう
に之砂=1/6であったとすれば,[B司よりももっと低い能率段階(それを[B函一]
と呼ぼう)にまで一層大きく実際には逆転し,そうすることによってZ財をも生
産せねばならなかったであろうと推論でき・る。
第3期については,第8.5表では9,〃、=1/11であるのに,現実には2〃一1/3
であったとすれば,[Cβ]よりは低い,しかし[C司よりは高い能率段階の〔Cβ一]
をとらねばならなかったと推論できる。
第4期については,第8.5表ではβ、砂、〒2/7であるから,第8.6表の1930−32
年頃にかぎり[C司は妥当するといえる。だが1933年以降の2〃は之、〃、謀2/7
に比べ急速に増加しているから,それは能率段階の[C函_],[C仏_]等への一層
の低下を必要とし,それだけ実質賃金を一層引き下げざるをえない大きな悪循環
的発展に陥ったであろうと推論できる。もとよりこの期間にも資本蓄積は進行し
たであろうから,それと比較して相対的に見てのことである。
§5 要素価格差の効果
産業構造転換期は困難な調整を必要とする。要素市場の自由競争を前提とする
かぎり,すべての産業の低生産方法への逆転と実質賃金の切下げが強制される
し,利潤率もおそらく低下せざるをえない。このような困難な調整過程が,産業
ごとに違った能率段階の生産方法を採用し(能率段階格差の発生),したがって産
業間に要素価格差を発生させることによって,幾らかでも容易にされるであろう
か。またそうすることによって,目標とする産業(Y財なりZ財なり)の拡大が
どれだけ促進されるであろうか。7)これらの効果を簡単に吟味しておこう。
まず第1の産業構造転換期(ロ)を例にとって,二財の場合におけるX財からY
財産業への転換すなわち繊維工業化を検討してみよう。すでに第8.3表で検討し
たのは(瓦,乳)という生産方法の組合せの[Bβ]から(X、,γ、)といろ組合せの
7) 日本経済におけるこういう問題,と、くに賃金格差の役割を強調しているのは,篠原
三代平「日本経済の長期動態と貿易理論」国際経済,第6号ならびに,同,所得分
配.と賃銀構造, 1955である・なお本書第5章参照・
278
第8章資本蓄積と産業構造
[B司への転換であった。能率段階格差を設けるのに2つの途が考えられる。1
つはX財を高能率段階にとどめY財だけを低能率段階にするという,(X、,y、)
なる生産方法の組合せ,すなわち[Bβ’]であり,他はそれと逆の(X、,L)と
いう生産方法の組合せ,隔すなわち[βφ’]である。
能率段階格差の設定が目標とするY財(繊維工業)の拡大をどれだけ促進する
かを見出すには,一X財への資源配分比重劣の下限がどれだけ小さくなるかを検
討すれぽよい。第8.7表の(1)欄がそれを算出したものである。[Bβ]ではX財の
縮少,Y財の拡大がいちばん少なく,両産業の能率段階をともに低めた[B・5]に
おいてY財の拡大が最大になる。だが[Bβ’]と[B函’]とを比べると,後者の方が
Y財の拡大を前者よりも大き・くすることがわかる。つまりY財(繊維工業)の拡
大を目標とするのであれば,その産業では高い能率段階の生産方法(より資本集
約的な生産性の高い生産方法)を採用し,ほかの産業では低い能率段階の生産方
法を採用した方がよいという結論がえられる。ただしこれは単に目標とする産業
のでき・るだけ大きな拡張という目的だけについてであることを留意せねぽならな
いQ
第8・7表 資源比率段階B(L900:C250)
(X2,y2)
[B5’]
(X2,γ、)
[B函’]
(X、,y2)
[B・5]
(X、,r、)
︵1︶
生産方法の組合せ
[Bβ]
X財への資源配分比重の下限
7
一く万2
8
4
一く罪2
5
7
.一
9
2
一く筋
3
∬1
or
0.875<劣2
or
0.800<劣2
or
0,777<劣1
or
0.666<劣1
X財のコスト
Y財のコスト
(2)X:Y財のコスト比率
ィヘ
ρ カ’
〆』
カ
グ
ρ グ
[Bβ]
1.942 1.294
2.449
1.633
1:1.261 1:1.261
[Bβ’]
1.942 1.294
2.830
1.415
1:1.457 1:1.093
[Bω’]
2.087 1.043
2.449
1.633
1:1.173 1:1.565
[B函]
2.087 1。043
2.830
王.415
1:1.356 1:1.356
ρ庶利潤率格差のある場合F グは賃金格差のある場合
§5要素価格差の効果
279
能率段階格差が生ずれば,異能率段階では要素価格比率が異なるので当然に産
業間嗜薯素価格差が発生し,諸財のコスト比率を変化させる。このことの吟味は
目標とす6産業の国際競争力’を強めるにはどうしたらよいかという観点から重要
であるαすでに触れたように,産業聞の要素価格差は,(紛産業間で賃金絃均一
であるが,r利潤率に格差がある場合,㈲産業聞で利潤率は均一であるが,賃金
に格差淋ある場合,および(G)前2者の複合,という3つの形態をとる。より高
い能率段階ではより低い能率段階に比べ,③ならば利潤率が低くなり,(b)なら
ば賃金が低くなる。第8.7表の下半部に伺の利潤率格差の存在する場合のコス
トをカとして,㊤)の賃金格差の存在する場合のコストをガとして算出してあ
る・その第(2)欄のコスト比率によって,目標とするY財の国際競争力が強まる
かどうかが判断できる。
Y財のコスト比率が最低廉になるのは[Bβ’]におけるρ’である。すなわちY
財において他産業よりも低い能率段階を.とりかつ低い賃金をとった場合である。
その次に低廉になるのは[Bωqにおけるρである。すなわちY財において他産
業よりも高い能率段階をと るが利潤率が低い場合である。このことは低廉な生産
要素をより多く使うようにすればコストが安くなるという比鞍生産費の拡張原理
から承認できる。8〕そして上の2者,つまり要素価格差を設けた場合は,[B5]や
[B司の要素価格均一の場合よりも,目標とするY財のコスト比率が低廉になる
ことに注目せねばならない。
そヒで次の結論がえられよう。目標とする産業の国際競争力を強めるためには
(ただしその目的だけにかぎる),要素価格差を設けた方がよい。だがその際,賃
金格差を設けるかそれとも利潤率格差を設けるかの処方を誤ってはならない。Y
財をなるべく拡大するためには[Bω’]を選ぶべき・であった。その際同時にY財の
国際競争力を強化することをもねちうならぱ,Y財の賃金を他よりも低くするの
ではなく9)その利潤率を低めねばならないのである(補助金などによる救済策が
8) 本書第6章参照.
9) 日本繊維工業の急速な伸張が低い賃金格差に基くと指摘されている(前掲,篠原教
授論文)。、しかしわたくしは,繊維工業の発展期にはその賃金は農業よりも高かった一
一同様に重化学工業の拡張期にはその賃金は他産業よりも高かった一一一と思う.した
280・
第8章資本蓄積と産業構造
必要であろうが)。
第2の産業構造転換期⇔については本来は三産業間の種々の能率段階格差の
組合せを1つ1つ吟味し比較すべきであるが,それは複雑であり有意義な考察を
許さない。そこでX財はX、生産方法をとり,rその資源配分比重は1/2であると
仮定して論を進める。こうすることによってすでに第8。3表で検討した[Cω]と
め比較が可能になるし,Y財とZ財への資源配分比重の比率∼かの変化,つまり
重化学工業化の程度だけに問題をしぼることができ’る。結果は第8.8表にまとめ
た通りであり,上にX財と比べてY財といったことを,Y財に比べてZ財とおき
かえれば,上に述べた諸結論がそのまま妥当することがわかる。
第8,8表(1》欄において,[C司渉重化学工業(Z財)の最大の拡張を許すこと
はいうまでもないが・それに次ぐものは(X・,y・,■、)なる生産方法組合せをと
第8。8表 資源比率段階C(L900;C400)
1
ただし κ、=一
2
生産方法の組合せ
[Cβ’]
[C5’ノ]
[C函’]
[C函]
(X1,y2,Z2)
(X、,Y2,■、)
(X1,r1,Z2)
(X1,Y1,■1)
ω
23 1
y2=
8・之2=
14 1
ツ2=一ン21=
30 30
23 4
ツ1皿一,22囚}
54 54
7 2
y1=一, 21=一
18 18
g2 1 14
‘y2 23 322
21 1 23
夕2 14 322
∼2 4 56
y1 23 322
∼1 2 92
ッ1 7 322
X財のコスト 汐=2.087,ρ〆=1.043
Y財のコスト
Z財のコスト
(2)X:Y:Z財のコスト比率
メト
ρ グ
だヒ
カ ρ’
ρ ρ’
[Cβノ] 2.449 1。633
2。384 1.589
1:1.173:1・142 1=1.565:1.523
[Cβ”] 2.449 1.633
2.951 1.475
1:1.173:1.414 1:1.565:1.414
[Cφ’] 2.830 1。415
2.384 1.589
1:1.356=1.142 1=1.356:1.523
[C函] 2,830 1.415
2.951 1.475
ρは利潤率格差のある場合
1:1.356:1.414 1:1.356:1.414
グは賃金格差のある場合
がって繊維工業の強い国際競争力の秘訣は他に求められねぱならない・それはこの産
業の比較生産係数と比較生産能率が高かったことにあると推論される・本書第5章,
第6章を参照.
§5要素価格差の効果
281
る[Cφ’]である。つまり目標とするZ財だけを高能率段階にし他をより低い能率
段階にとどめると,わりあいに多くZ財を拡大することができ・る。(2)欄のよう
にZ財の国際競争力を最も強くする方策は,[Cφ’]のρである,すなわちZ財だ
けを高能率段階にしその利潤率を低くすることである。ここでもZ産業の賃金を
他よりも低めることは有効でない([C函’]のρ’を見よ)。なおY・Z両財を含
めた全工業の国際競争力の立場から見た最善の選択は[Cβ’]のカであることが
わかるであろう。
もとより能率段階格差と要素価格差の導入は極大原則をゆがめるので,経済全
体の何らかの損失を招来するであろう。それを十分に注意せねばならぬのである
が,それにもかかわらず産業構造輯換期の困難な調整を少しでも容易にするため
の最適な格差を発見するという問題は,検討する価値が大きいであろう。
282
第9章 経済発展と交易条件
§1 問
題
キンドクルバーガー教授がヨーロヅパ工業国の交易条件について興味ある実証
研究1)を発表した。わたくしも本書第3章において日本の交易条件について若干
の実証を試みた。これらの2つの研究を通じて,一層の究明を要する,幾つかの
注目すべき傾向が見出されている。
第1に,キンドゥルバーガーの研究によれば,工業ヨーロヅパ全体の交易条件
は,とくに経常勘定指数で見ると,1870−1950年の80年以上にわたって,驚く
べき・ほ.どわずかの幅の変動しか示していない。その変動の幅は10%内外にすぎ
ない。2)つまり交易条件の長期的恒常性が見出せるのである。イギリスだけをと
ると変動の幅はやや大きくなるが,そこでもやはり長期的恒常性が見出せる。だ
がもう1つ注目すべぎことは,実証の可能なイギリスについて,急速な工業化と
貿易構成転換の時期であった1800−60年において,約60彩に及ぶ急激なほと
んど直線的な交易条件の長期的低落をきたしていることである。
日本の交易条件についてもほぼ同様な傾向が見出せる。3)明治時代の資料は不
正確を免れないから,考察から省くことにする。ただ参考までに述べれば,1913
年を100とするr日本貿易精覧」の交易条件指数では・1880年の129・4から
1905年の132.4の期間にわたって,ほとんど恒常であったといえる。それ以後
についてみると次のような繰返しをきたしている。
1) Charles P.Kindleberger, 7’海6 T6γ彿30ゾT7σ46: A E%70ρ6σ%C43θS’%4y,
the Technology Press and Wiley,1956.わたくしの試みた書評,世界経済評論,
1956・7を参照されたい.最近次のコンパクトな形の論文が,発表された.Charles
P.Kindleberger,“The Terms of Trade an(l Economic Development,”Rω.oゾ
E‘oπo漉03¢π4S’σ’∫3ガoε,Feb.1958,SupPlement.および同じ箇所におけるH,
W.SingerとG.M.Meierのコメント参照・
2) Kindleberger, 丁珍θ T87卿s oプT7σ4θ,づゐげ4.,PP.26−7.
3) 本書,P.101,第3.1図,参照.
§1 問
題
283
第1期 急激な不利化。1906年の142。3,および1907年の145.1から,1913
年の100への不利化。
第2期循環的安定。循環を含むけれども・19撃年の100から1929年の102・3
あるいは1931年の100。2にわたる安定期。
第3期急激な不利化。1931年の100・2から1937年の60.8への急激な不
利化(以上1913年一100の商品交易条件指数)。
第4期循環的安定。今次大戦後の交易条件は,経済企画庁指数と新たな大蔵
省指数との食い違いもあり確実ではないが,1934−36年の最悪の交易条件に比べ
10∼20彩がた上回る水準において,10彩ぐらいの幅で変動しているものと考え
てよいであろう。
上の第1期は日本の輸出が特産の第1次商品から繊維製品に転換した貿易構成
転換期であったことは聞違いなく,それが交易条件の急激な不利化の原因であっ
たと思われる。第3期における交易条件の不利化は幾つかの原因が重なった結果
であろう。生糸・綿製品など衰頽産業の為替切下げを挺子とする無理な輸出ドラ
イヴ,大量の資本輸出による満州経営,大規模な軍需品輸入などこれであるが,
それらとともに,繊維工業品から重化学工業品への輸出の転換期であったことも
否定できないであろう。
以上のごとき・イギリスと日本の交易条件の傾向から,次の2つの命題が樹立し
う.るものと思われる。
[命題1]各国の産業構造と貿易構成,したがって世界の国際分業構造がわり・
あいに安定している時期には,交易条件はコンスタントな長期的趨勢をもつ一
長期的交易条件恒常性の命題。
[命題2] 各国の産業構造と貿易構成,しがたって世界の国際分業構造が,大
規模な1回かぎりの構造変動を経験する時期には,交易条件は構造変動国に急激
・に不利化する傾向をもつ一構造的交易条件不利化の命題。
キンドゥルバーガーの発見した第2の注目すべき傾向がある。それは交易条件
は後進国(および老熟国)に長期的に不利化するという傾向である。
[命題3] 後進国交易条件不利化の命題。
捌
第9章経済発展と交易条件
後進国に交易条件が不利化するのは,後進国がもっぱら第1次商品の生産に特
化しその輸出に集中するからではない。けだしキンドゥルバーガーの検証によれ
ば,工業ヨーロヅパの輸出工業品対輸入第1次商品という交易条件は1872年か
ら1952年にわたってあまり大きな変化を示していない。4)交易条件が第1次商品
に長期的に不利化するという一般に信じられている命題は妥当ではない。にもか
かわらず,等しく第1次商品を工業ヨーロッパに輸出している諸国を幾つかのグ
ループに分けて考察してみると,先進国であるアメリカの方が.アルゼンチン・
オーストラリヤ・カナダ・南阿などの新地域よりも,さらにそれら新地域は一層
の後進国たる熱帯の低開発地域よりも,それぞれより有利な交易条件を享受して
いる5)ことである。経済進歩とか先進化のスピードが早ければ早いほど,交易条
件はますます有利になってV・く傾向があるというのである。6)つまり交易条件が
長期的に後進国に不利化する傾向があるのは,第1次商品輸出国であるためでは
なく,むしろ後進性自体のためであると見るのである。
以上3つの命題を理論的に吟味するのが本章の課題である。もとより検出され
た3つの傾向自体を鵜呑みにするのでなく再検証してみる必要があろう。ここで
は3塵向を一応是認して,その原因の理論的究明に集中する。‘実証が困難である
か不完全であるときには,理論的推理によって補うことがますます必要であるか
らである。一国の交易条件は,その国と外国(世界全体)の経済発展と循環との
複雑な相互依存的なかみ合いによって変動するものであるから,交易条件の変動
原因は無数にあるといってよい。したがってそれらの申から支配的原因を抽出し
ようとすることはむだであるかもしれないし,また危険であるかもしれない。に
4)1872年=98,1900年=108,1913年=100,1928年=97,1952年=109,である
(Kindleberger,弼4。,P.267より算出).
5) Kindleberger,訪∫4.,pp.235−9.
6) 経済発展のスピードの早い国に交易条件が有利化するという傾向は,工業ヨーロッ
パを構成する8力国の交易条件を相互に比較することによってもつかまれるとキンド
ゥルバーガーはいっている.すなわち1913年から52または53年の間の交易条件を
見ると,発展の早いスエーデン・スイス・ベルギーには有利化し,停端的なイタリー・
フランスおよびオランダには不利化していることが対照的であり,中間に位するドイ
ツ・イギリスの交易条件は大ぎな変化を見せていないのである(Kindleberger,∫房4,7
pp.237−8)。
§2 交易条件の長期的恒常性
285
もかかわらず交易条件の支配的変動原因の追求ということは,一国の経済政策に
とって,また国際経済の将来にとって,不可欠の重要性をもつ。7)そして,わた
くしはこの課題は諸国の経済発展(第7章で検討したごとぎ)にまでさかのぼる.こと
なくしては,解きえないものと確信するのである。
§2 交易条件の長期的恒常性
一国の交易条件が一定の長期にわたって,景気循環的変動を含むけれども,趨
勢として恒常であるとしよう。ここに長期というのは,1つの大き’な構造変動≧
次の構造変動とにはさまれた期間である。この期間の長さは資本主義の初期と現
代においては異なるし,国によっても異なるであろう。日本については,明治時
代の約25力年とか,1913年から31年にかけての約20力年とかが,これであ
る(おそらく日本のような急速な経済成長国では,構造変動が次々に起され,交
、易条件の長期的恒常期が次第に短くなるであろう)。交易条件の長期的恒常期は
諸国の生産構造と需要構造(趣味・嗜好)が比較的に安定し.国際分業関係と貿
易の方向(輸出入品の構成と相手地域の構成)もまたわりあいに安定している期
間である。
一国Aと外国B(爾余の世界全体)との二国モデルを考える。A・B国ともに
経済成長をとげているのであるが,究極の状態としてともに定常状態(stationary
state)に到達したとしよう。つまり両国の生産函数も需要函数も不変であり人口
も増加しないと仮定しよう。この定常状態における国際貿易は静態分析によって
解明することができ・る。そこでは国際貿易均衡の安定条件がみたされれば,唯一
の均衡が存在する。景気変動や不規則な衝撃によって均衡からの乖離が生じて交
易条件が循環的または不規則な変動を被るにしても,常に唯一の均衡と均衡交易
条件にもどるから,長期的交易条件は恒常性を示すことがわかる。そのうえ静態
的安定条件の吟味は,長期的交易条件恒常性のために要求される若干の重要な条
件を教えるであろう。
国際貿易均衡安定条件の静態分析はオファー曲線について行いうる。詳しい証
7) 交易条件の理論と実証については,小島清,交易条件,1956を参照されたい.
286
第9章経済発展と交易条件
明を省くが,マーシャルやミードの導いたように8)A国オファー曲線の弾力性伽
とB国オファー曲線の弾力性徳との和が1より大,すなわち伽+伽>ゴであ
るならば,均衡は安定的である。第9ユ図は安定的なケースであって,点線の矢
印が示すように,均衡か ら離れても唯一の均衡点Qに収徹し,交易条件は長期
的に恒常性を保つ。第9.2図は伽+ηβ〈1なる不安定ケースである。砺+ηβく1
なる条件は,2つのオファー曲線の一方に接線を引いたときに,他方のオフナー
曲線がこの接線の上方(原点から見て)から交ることである。’)両曲線の交点で
両曲線に共通な接線が引けるときには伽+ηβ一1である。したがってまた一方
の曲線への接線の下方から他方の曲線が交るときにはη4+伽〉1であって,安
定的である。不安定ケースにおいては,第9・2図の矢印が示すように,いったん
不安定均衡点Qから離れると再びQ点にもど5ないで・安定的均衡点たるP
またはRに収敏する。しだがって大幅な交易条件の変動をき’たす。ここに蔦の
§2で検討する構造的交易条件変動の1つの可能性がある。けだし産業構造と需
要体系が変動し貿易構成の転換が行われようとする直前の状態は,経済全体のオ
第9・1図
第9.2図
君
Y
Y
B
Q
々
み P
(
R
B
0
X O
X
8) Alfred Maエsha11, ハ40勿gッ,C7θ4μ4π4Co郷彫6〆6θ, 1929, pp.337−8and pp。
353−4.
J.E.Meaae,Aσ60卿o∫7夕oゾ1鋭θ解σ’Joπ4J T7α4θ,1952,pp.87−90.
なお次を参照・
P。A.Samuelson,Fo吻磁琵oπs oジE‘oπo吻σ∠4紹砂sゴ3,1947,pp.266−9,
日比野勇夫,経済動態分析の基礎,1954,pp.186−90.
9) J.E.Meade,必」4.,pp.89−90.
287
§2 交易条件の長期的恒常性
ファー曲線が非正常型に陥り,まさに不安
第9.3図
定均衡点に立っていると考えられるからでY
乃
ある。
タ
κ”一一一『『、、、B/
いま1つ吟味すべきは,一方国(または
1
両国)のオファー曲線が不変生産費(また
Q’
!
/
/
!
//
は逓減生産費)下のオファー曲線であるケ
ースである。不変生産費下のオファー曲線
Q
/
K B
は,第9。3図のOKBあるいはOK’B’で
示したように,直線部分(不変代替率によ
る生産転換をあらわす部分)と曲線部分(需o
X
要変化による貿易志向変動をあらわす部分)とから成る折線であらわされる。1G)
まず③A国のオファー曲線は0・4,B国のオファー曲線はOKBであるとしよ
う。このときはB国はY財の生産に完全特化している。均衡はQ点で達せられ
るが,η4+肋>1なる条件をみたすか臥安定的である。ところが⑥今度はA
国のオファー曲線は前と同じOAであるがB国のオファー曲線が0πB’である
としよう。両曲線の交点はQ’であり,交易条件はOK’線のスロープになる。
Q’点においてηガ切β〉1なる安定条件はみたされる。だからこの安定条件をみ
たすという意味ではQ’は安定的均衡点である。だがそれは別の意味で不安定で
ある。けだしB国はK’点においてY財の生産に完全特化する。0κ’線の交易条
件はB国の二財生産費比率と同じであるから,この交易条件での貿易は少しも利
益をもたらさない。したがって貿易するかしないかは全く無差別である。B国は
貿易をするかもしれないし,しないかもわからない。もしQ’点で貿易をしたと
すれば,B国は完全特化することはでき・ず,X財の一部(輸入だけでは足らない
分)を自国で生産しなければならない(Y財は国内用と輸出用の合計を生産す
る)。だがB国はX財の生産を一層増し,Y財の生産と輸出をそれだけ減らした
ならば,そのオファー曲線がOKBになり,貿易均衡がQ点に定まり,交易条
10) 小島清r国際貿易の均衡条件一不変生産費ケース」一橋論叢,1955・12・PP・9−
10,ならびにr国際貿易の均衡条件一逓減生産費ケース」一橋論叢,1958。1・参照・
288
第9章経済発展と交易条件
件が有利化することをさとるであろう。したがって0・4オファー曲線上の0か
らQ’にいたる間のどこに均衡点が定まるかは不確定である。つまりα点は唯
一の均衡点でないという意味において不安定であるといわざるをえない。
上のことは次のように考えると一層合理的であろう。OKBはB国のオファー
曲線であるとする。B国と類似のオファー曲線をもつC国が存在し,B・C国合
計のオファー曲線がOK’β’になるとしよう。A国とB国だけが国際市場で貿易
していたときには,Q点で安定的均衡を保っていた。ところが新たにC国が国際
市場に登場すると,B・C国が協定することなく競争するならば,均衡点はQ’ま
たはその近くに追いやられる。交易条件はY財に大幅に不利化する。B・C国の
いずれかが貿易利益がえられないからという理由で国際市場から脱落すると,交
易条件は再び大幅にY財に有利化する。だがC国はいったん国際市場にはいり込
んだ以上,脱出することは容易でない。このために交易条件は後進国B・Cに不
利にとどまる。後進国が不利な交易条件を回避できる途は,第3商品に転換する
ことであるが,それは後述のように困難である(B・C国のオファー曲線の直線
部分の傾斜を若干異なるように画くと,現実問題に一層近づくであろうが,問題
の中心は以上と異ならない)。このケースは,→方では国際市場構造の変動に伴
う構造的交易条件変動の主要原因(次節§3の課題)を説明するであろうし,他
方では後進国交易条件不利化の主要原因(§4・§5の課題)を与えている.のである。
以上の分析から次のことがわかる。
第1に,交易条件が長期的恒常を保つために憾,国際均衡の安定条件がみたさ
れていなければならない。
第2に,二国(あるいはすべての国)において二商品(すべての商品)がとも
に生産され,いずれの国もいずれかの商品に完全特化するようなことがないこと
一非完全特化の条件。完全特化は不変生産費(または逓減生産費)ケースにお
いて発生しやすい。U)さらに不変生産費になるのは,後に検討するように生産函
数と一国の諸資源の割合との特定の関係に基く。一国ま.たは双方国が完全特化に
11) 逓増生産費ケースでも,一国の資源が非常に小さいと,完全特化せざるをえない場
合が生ずる.
§2 交易条件の長期的恒常性
289「
陥っている場合には,たとえ国際均衡の安定条件がみたされていても,生産の一
義的均衡を保証していないから,国際均衡はなお不安定であり,交易条件は,需
要の変動と,それに伴う国際分業関係の変動によ、って,大幅に変化する可能性を
もつ。
いま一国が輸入品と競争する商品も含めてすべての商品を生産し,国内の資源
の移動が完全に自由であり,生産要素価格は常に均一になるとしよう。このと
き’,輸入品価格が低落したとしよう。交易条件は一時的にこの国に有利化する。
だが輸入がふえ輸入競争産業は圧迫される。この産業が逓増生産費法則に従って
いるならば,輸入価格と同じコストになるまで生産を縮少』し,生産要素を排除す
る。生産要素は国内産業や輸出産業に低い価格で移っていき・,均一にな るまでこ
の国一般の生産要素価格を引き・下げるであろう。そして輸出品コストと価格を引
き・下げるであろう。輸入食糧・原料の価格低落も輸出品コストの低下に役立つ。
結局貿易収支が均衡にもどるまで,こういう調整が続けられる。この国の生産函
数と需要函数が不変にとどまるかぎり,すべてはもとの状態にもどり,交易条件
ももとの水準にもどるであろう。生じた変化は,生産要素価格と商品価格の一律
的低下(したがって実質所得水準は不変)だけである。
上の調整が為替切下げによって行われたとしても同じである。輸入価格(外貨
建・邦貨建ともに)低落の結果入超に陥り,為替切下げを行ったとしよう。まず
為替切下げ率が,最初の輸入価格低落をちょうど相殺し,かつ輸出品の対外(外
貨建)価格を輸入価格(外貨建)低落率と同じだけ低落させるようなものである
ならば,邦貨建輸出入価格は全く変らないし,外貨建輸出入価格は一律に低下し
たことになり,交易条件は不変にとどまるであろう。次に為替切下げ率が輸入品
の邦貨建価格を騰貴させる程度のものであったとしよう。輸入品が食糧であれば
賃金を,それが原料であれば製品の原料コストを騰貴させ,結局は輸出コストと
邦貨建価格を騰貴させる。1為替切下げの最初の短期的効果は輸入価格(邦貨建)
を騰貴させ輸出価格(邦貨建)を不変にしておくから,交易条件を不利に転じさ
せるが,上のような長期的調整を終るならば,交易条件を再びもとの水準にもど
してしまう。ここでは結局生産要素価格と商品価格(邦貨建)の一律的騰貴によ
,
290
第9章経済発展と交易条件
って,調整が行われたことになる。12)
第9・4図
このように長期にわたる生産要素
Y
‘o
の価格と移動による調整を考慮に入
\
\
\
れるならば,いいかえれば生産要素
\\
刈’ α
、
の均衡を考えの基底におくならば,
\\ 、 \ 一、
o
\ 1湾\\19一…一一∬
交易条件が案外コンスタントに保た
R ! \ ’
れるゆえんがわかるであろう。した
/ P \
Q \ B4 ! \
がってまた,交易条件の構造的変動
とか後進国への不利性とかも,生産
ノ \グ \
\
0
X
\
\
要素均衡の問題に帰一することがわ
\
\
6 かるであろう。
\
\
わ’
眼を動態に転じよう。一定の国際分業関係にある二国(あるいはニグループ)
が,その分業方向をかえないで,同じ率で経済成長を遂げるならば,交易条件は
\
長期にわたって不変に保たれるであろう。
第9・4図13)において0σ4はA国(あるいはAグループ)の経済成長径路,
066’はB国(あるいはBグループ)の経済成長径路であるが,A国の成長率
σθ704がB国の成長率δδ’/06に全く等しければ,14)契約線4’δ’はもとの契約
12) キンドゥルバーガーは次のようにいっている.r二国における価格・賃金政策の違
いは,国際収支に影響し,ひいて為替相場を変えさせるであろうが,交易条件は変動
を被らないであろう、jK1ndleberger.必’4.,p.247.
またHarry G.Johnson,“lncreasing Prodロctivity芝Income−Price Trends・an(l
the TradeB31ance・”E‘oπo痂010%耀41♪Sept・1954 もこの考え方をサポートす
るであろう.
為替切下げ効果をロビンソン流の部分均衡分析から,一層一般均衡的な分析にもっ
ていかねぱならぬというのが最近の展開である.そういう一般均衡的効果を考慮に入
れると究極において,二重生産要素交易条件は変るが・商品交易条件はあまり影響を
受けないことになる.
E.V.Morgan,“The Theory of Flexible Exchange Rates,” z4耀万o伽
Eooπo吻Jo1∼θz雇θzo,June1955.
Fritz Machlup,“Relative Prices and Aggregate Spen匪ing in the Analysis
of Devaluation,”且卿67づ04πE60%θ雁‘1∼θ加卿,June1955,参照.
13) こういう図表の画き方については,小島清,交易条件,1956,PP.55−72.
14)第9。4図のようにA国の経済成長が04から04’へ, B国のそれが0ゐから0わ’
へ向かうとぎには,両国の所得弾力性はともにユゥニティであって等しい.上掲のジ
ョンソンの展開には両国の所得弾力性が等しいというケースが明示されている.
§2 交易条件の長期的恒常性
291
線σ6と平行になり,新均衡点9’における交易条件(α線のスロープ)はもと
の均衡点における交易条件と全く同一になる。
そこで動態・において交易条件が長期的恒常をえるには,すでに掲げた静態均衡
の2条件に加うるに,次の2条件が必要とされる。またこの2条件の与えられる
蓋然性があるであろうかが問われねばならない。
第1に,国際分業関係が一定の方向に定められていて撹乱されないことである。
それはA・B国の経済成長の方向が一定であるときに保証される。典型的には各
国の生産函数と需要函数が不変で・単に人口(生産要素)増加だけが生ずるときにぞ
そうなるであろう。15)われわれは構造変動の生じない期聞を長期と定義したので
あるから,国際分業関係の変動は,理論的には排除されている。現実についてみ
ると,一国の労働総量と資本総量の比率はかなり長期にわたって不変であり,それ
は徐々に変っていくにしても,.たとえば農業から工業への構造変動は,労働・資
本比率のかなり大幅な変動を経過した暁でなければ行われ難いようである。その
証明は生産要素均衡論によって与えられる。他方需要体系(趣味・嗜好)の構造変
動も所得水準のかなり大幅な向上を経過した暁においてのみ生ずるようである。
第2に,A・B国(あるいはA・Bグループ)の経済成長率がほぼ均等でなけれ
ばならない。この保証ないし蓋然性があるであろうか。成長はときにA国,ときに
B国の方が大きいであろう。A国ないしAグループの経済成長が先に起れば均衡
はまずP点(第9.4図)に定まるであろう。A国は市場開拓の努力をし,次々
に新市場をBグループに編入していくであろう。それはBグループの経済成長に
ほかならない。他方Bグループ側でも,P点はQ点に比べると交易条件がY財
に有利になっているので,生産拡大とか,これまで国際市場に参加していなかっ
た国の新加入とかが刺激されるであろう。つまりA国に比べてBグループは一国
ずつでは経済成長率が遅いけれども,Bグループに含まれる国の数がふえること
15) 経済成長径路0αは, 社会を構成する各個入(あるいは代表的個入)の(a)みた
された需要と(b)みたされない需要(生産代替曲線からbliss−pointまでの距離)と
から成っている.生産函数と需要函数が不変であれば,上のla》対㈲の比率は変ら
ない・しかし人口(生産要素であり需要者である)が増加すれば,上のla)対㈲の
比率を変えないで,経済成長径路は拡大するであろう.生産函数と需要函数が変動す
る場合は別の取扱が必要である(次節§3はその一例)。
292
第9章経済発展と交易条件
によって,Bグループ全体としてはA国とほぼ均等の成長率をもつようになる。
こうしてBグループの経済成長をまって新均衡点Q’に落ち着くであろう。この
閻に.もとより景気循環を経験するであろう。とまれ相互の市場拡大努力が成功す
れば相互のほぼ均等な経済成長を保証するものと考えられる。移民とか国際投資
とかが,相手グループの遅れた遅い経済成長を促進し,成長率を均等化させると
いう効果も大きく貢献するであろう。
上のBグループの外延的拡大過程は,Bグループが農業国であって不変生産費
のオファー曲線(第 9.3図参照)をもつ場合には,Bグループの限界的輸出者に
なる国の不変生産費比率の近くに交易条件は圧迫され,その水準で交易条件が長
期的に恒常に保たれる可能性が強い。けだしすでに第9。3図について説明した
ように,景気変動あるいはA国の成長によって交易条件が若干Bグループに有利
化すると,すぐに新しい第3国がBグループにつけ加わるからである。
§3 交易条件の構造的変動
構造的交易条件変動は,発展しつつある国における生産性の特定産業にかたよ
、った改善(biased improvement)によってひき起される・ものと思われる。16》した
がって人口とか需要函数とかは不変とみなし,特定産業においてのみ生産改善が
行われ,生産函数が変ると仮定して,考察を進めることがよいであろう。発展し
つつある国を先走国と後続国,あるいは先進国と中進国とに分けて考察する。
まず先進国への交易条件の構造的不利化は,先進国で輸出産業にかたよって生
産改善が行われるときに生ずる。第9.5図において,A国を先進国,・B国を後進
農業国群とする。A・B両国で経済成長径路と貿易志向を変化させる他のいかな
る変動も生じないのに,A国の輸出産業(X財)においてのみ生産が改善され,
その結果,A国の経済成長径路が0σから0グに変ったものとする。これにつ
れてA国の貿易志向をあらわすオファー曲線はOAからα4’に拡大する。国際
16) J.R.Hicks,“An Inaugural Lecture,”0覇074Eoo%o厩o P砂67ε,June 1953・
小島清「経済成長と国際貿易」 一橋大学創立80周年記念論集下巻,1955・10・
W.M.Corden,“Economic Expansion anαIntemational Trade:A Geometric
ApProach・”0がb74Eo・Pσ,673,Ju珊1956ン参照.
§3 交易条件の構造的変動 293
均衡はQからQ’に移る。交易条件はαから 第9・5図
Y \ \ \ \﹃ o
βへ,X財すなわちA国に不利に転ずる。17) Y
いまA国のX財産業が技術進歩とか大規模
生産とかによって急速なコスト低下を見ると
しよう。資本と労働とは他の産業からこの産
業に移ってき,この産業の急速な拡大を見る
であろう。A国の賃金の一般水準は引き上
0
X
げられるであろう。X財産業の賃金もこの一
般水準に支配されるので,その賃金騰貴は生
産性向上をはるかに下回るであろう。このためにX財の価格はかなり低落し,他
の財の価格は若干騰貴するであろう。X財の価格低落はコスト低落の限界と需要
条件とによって制約される。結局諸産業を通じて賃金率が均等になり,その賃金
率のもとで利潤率が均等になるところまでX財産業が拡張され,その点でX財と
他の財の交易条件が均衡に落ち着くであろう。
次に中進国の輸出構成転換過程における交易条件の変動を吟味しよう。第9.6
図18)において,0召はA国(先進国)の経済成長径路,0・4曲線はA国のオファ
ー曲線,06はB国(後進国)Φ経済成長径路である。.この二国に加うるに,
Oo−04なる経済成長径路をもつC国(中進国)が存在するとしよう。0δとOo
の合計として,B・C国合成経済成長径路OBが,また合成オファー曲線08が
画ける。したがってA国嫡X財を輸出し,B国とC国はY財を輸出するという三
国間の国際均衡が9点で,α線の交易条件のもとで達せられていた。
いまC国がX財(輸入競争財)にかたよった生産改善を果したとする(X財を
工業品とすれば,これが中進国の工業化過程である)。その結果,まずC国.の経済
17) 新しい製品を先進国が生産し輸出するときも,その生産増加が需要増加を上回るな
らば,X財にかたよった生産改善と同じ結果をもたらすであろう.デモンストレイシ
ョン効果によって後進諸国の需要が新製晶にかたよって増大するときには,先進国交
易条件の不利化はそれだけ少なくなるであろう.
18) このような三国問貿易の図表化の方法については,鐙yoshi K:ojima,“Equilibri−
u血in Intemational Trade:A Diagエammatic Analysis bf the Case6f Incre・
asing Cost,”7『加イ4鰯4’30∫ ∫加研歩o’ε⑳4s扉z4昭吻鰐,Oct.1955,参照.
294
第9章 経済発展と交易条件
第§。6図
Y
A’
II拳\
1
\ \ \
αβ γ
パ’
¥α
\
、
、
鴻
篭
脅♂†
B
﹃’1♂†d
B
、 、
一一、
Q亭
、
¥、 B
Qノ・
X
0
\
\ \
c⋮十c’
1
Ψ
b
、
B
B’
成長径路がOoからOo’に変ったとしよう。B・C国合成経済成長径路はOBか
B’
らOB’に変る。4B1が新契約線になるがそれは6点を通る。B国だけのオファ
ー曲線はOB’曲線になり,Q1点で0!1オファー曲線と交わる。B・C国合成の
オファー曲線を画くとこれもQ’点でOAオファー曲線と交わる。つまりこうい
う状態に達すると新交易条件(β線のスロープ)とC国の生産費比率とは一致す
るので,C国は貿易をしなくなり,A国とB国の間だけで貿易が行われることに
なる。C国が無貿易にいたる過程,つまりC国がX財(工業)の国内生産を拡張
しその輸入を圧迫するが,まだX財を輸出するにいたらない段階では,交易条件
がα線からβ線にY財に有利化し,それはC国の従来の輸出品であるから,交
易条件はC国に有利化し続ける。
さてC国がX財(工業)の生産改善を一層推し進めると,C国はY財輸出から
X財輸出に一転する。またその生産改善はそれまでは偏輸入産業生産改善であっ
たのが,すでに先進国について見たのと同様な,偏輸出産業生産改善に一転する。
第9。6図において,Ooから0♂にC国経済成長径路が変ったことは,書き替え
ると04から04’に変ったことに等しい。6/04’線はσQ’6線と平行になり,
§3 交易条件の構造的変動
295
C国にとって貿易への刺激が失われることを示している。ところが一層X財生産
改善が進むと,その経済成長径路は04”になる。こうなるとA国とともにC国
もX財を輸出しうるのであり,その合成経済径路は,OAからOA’に変り,両
国合成オファー曲線はα4’曲線になる。0・4’オファー曲線とB国のオファー曲
線0β〆との交点たるQ”が新しい国際均衡点であり, その交易条件は7線の
スロープに定まる。
7線はβ線に比べて,さらにα線に比べれば一層,交易条件がX財に不利に
Y財に有利に変ったことを意味する。したがって工業化を推し進めた中進国Cに
とっては,最初の国内工業化の段階では,貿易量縮小を伴って,交易条件が旧来
の輸出品Y財に有利化するが,次の輸出工業化の段階では,貿易量拡大を伴って,
交易条件が新輸出品X財に不利化するという変動になるのである。さらに,C国
が小さな国であって,その輸出がY財からX財へ変っても世界の両財の価格には
少しも変動を及ぼさなかったとしよう。このような場合でもC国の交易条件は大
きな変動を経験するであろう。たとえばC国の貿易構成転換前後を通じて世界の
交易条件は,X財2単位に対してY財1単位が与えられるものとしよう。C国が
Y財を輸出していたときには,C国にとっての交易条件は2であったが,いまや
X財を輸出するようになるとC国にとっての交易条件は0・5に変ったのである。19)
C国の貿易方向転換によって先進国Aの交易条件も影響を受ける。α線からβ
線さらにr線への変化であれば,A国の交易条件も明らかに不利化している。だ
がここで,日本の交易条件が1907−13年,あるいは1931−37年において構造的
不利化を経験したにもかかわらず,先進国イギリスにおいては大きな交易条件変
動は生じなかったことが想起されねぱならない。その理由はおそらく第1に,日
本の貿易方向転換は世界価格を左右するほど大きな影響をもたなかったかもしれ
ないことである。もとよりそれは日本自身の交易条件には,上述の理由により,
構造的不利化をもたらした。第2に,先進国イギリスは輸出品としてX財のほか
に第3の商品(Z財)をもつように,一層先行するならば,確かにX財について
の交易条件はC国の影響によって不利化するにしても,Z財を含む輸出全体とY
19) 実証に当っては困難な指数問題につき・当る.
296
第9章経済発展と交易条件
財輸入との関係では,交易条件が不利化しないかもしれない。これが先進国の高
度異質化と多様化の問題である(§5で考察する)。こういう高度異質化と多様化
を果しえないならば,先進国もまた交易条件を申進国の進出に引き’ずられて不利
化するか,、そうでなければ中進国を圧倒するためにみずから積極的にX財価格を
切り下げるかせねばならぬであろう。後者の事態がダンピング的輸出ドライヴに
ほカ》ならなレ、。
§4後進国交易条件の不利化(A)一キンドゥルバーガーの理論一
r交易条件は後進国(.および老熟国)に長期的に不利化する」どいうキンドゥ
ルバーガーの命題については,若干の補足的説明を必要としよう。対ヨーロッパ
工業国交易条件が長期にわたってアメリカにとっては有利化し,新地域や熱帯に
とって不利化したというとき・,各地域は広いカテゴリーとしての第1次商品をヨ
ーロヅパに輸出し工業品を輸入するけれども,輸出第1次商品と輸入工業品のタ
イプと多様性において,地域ごとに違っている20)ことはいうまでもない。つまり
大きなカテゴリーとしては第1次商品輸出・工業品輸入という貿易の方向にある
にしても,その輸出入品の構成の違いと構成変化のスピードの違いが重要であり,
それらが経済発展段階の交易条件に及ぼす効果を規定するとみるのである。高
く評価される商品の生産と輸出に転換していくことができる国に交易条件は有
利化するるしかし有利な交易条件は,その商品の生産拡張が世界需要との関係で
価格を低下させるにいたれば,享受でき’なくなるのであるから,一から他へ,次
次に生産を,したがって資源を転換できる能力とさらにその速度も重要である。21)
資源転用の能力と速度の違いは,一方では「潜在的競争または着手potential
competition or entry」いいかえれば「長期的独占力」の違いをもたらす。潜在的
競争は先進国ならびに工業品についてはわりあいに少なく,後進国ならびに第1
次商品については大きい。22)資源転用の能力と速度の違いは,他方では,放棄の
20) Kindlebergerシ7hθ Tθ7”z30ゾT744θ,づ房4.,p,236.
21) 16」4.,[p.239.
22) 1房4,,p.251.
§4 後進国交易条件の不利化(A〉
297
難易(comParative ease of exit)の違いをもたらす。23)後進国において農業を放
棄して工業に移ることは容易でないが,先進国においてA工業を縮少してB工業
を拡大することはわりあいにたやすいであろう。そこでキンドゥルバーガーは新
産業着手・旧産業放棄能力(capacity to enter且ew industries and to quit old)
と総称している。鋤
キンドゥルバーガーは次のような1つのモデルを提示している。25)
L ③他国にとって着手が困難であるが,自国にとってはわりあいに着手が
容易な産業があり,その生産を開始すれば,この国は世界市場において供給
独占的地位を占め,有利な価格を享受しうる。⑳)だが,有利な交易条件を
保ち続けるには,従来の輸出品価格が低下をみるときに容易にその産業を縮
少・放棄でぎなければならない。だがこの産業の放棄は他の有利な産業への転
換の難易によって規定される。そこで◎’他国の着手困難な産業へ次々に転
換しうる資源転用の弾力性が大きければ,次々に高い評価を受ける商品だけ
を輸出品としてもつことになり,交易条件は常に最高に保たれるであろう。
2・これに反して,一国の資源が全く非弾力的であるために,価格騰貴をみる
産業の生産を増加することもでき・ないし,そうかといって価格低落をみる産
業の生産を縮少することもできないときには,この国の交易条件は,輸出品
への需要状況と競争国の適応力とに左右されて,ときに有利に,とき・に不利
になるであろう。
3・最後に,自国においても外国においても着手容易・放棄困難な産業に一国
の資源が集中しているときには,この商品の価格が騰貴すれば,ほかの国が
すぐに着手して生産をふやすので,供給は弾力的になる。価格が低落すると
きには,内外国で放棄が困難なので,供給は非弾力的になる。このために交
易条件はこの国にいつも最低になる。
以上のごとき・キンドゥルバーガーの解明は次のことを裏書ぎしているであろう。
23) 1ゐ∫4.,p.252.
24) 1扉4.,p.306.
25) 1ゐ♂4.,pp.255−6.
298
第9章経済発展と交易条件
③ 先進国においては,資源転用弾力性が大き・いので,生産は多様化され高度
化される。生産の多様化・高度化は価格の低落する商品を放棄し価格の騰貴する
商品に転換させるので,交易条件は常に有利に保たれる。
(b)後進国においては,資源転用弾力性が小さいので,最初に着手したかぎら
れた産業に完全特化しその状態に膠着される。しかもそういう生産は後進国一般
にとって着手容易・放棄困難な産業であるので,この種産業への完全特化の外延
的拡張が行われる傾向があり,ために交易条件を常に不利に圧迫する。
したがってキンドゥルバーガーのように先進国と後進国における資源転用弾力
性の大小というよりは,それに規定されるには違いないが,もっと適切に,(a・)
先進国における生産の多様化・高度化の能力と,①)後進諸国における完全特化
と外延的拡張の傾向とが,交易条件の前者への有利化ないし恒常化,後者への不
利化を規定しているといった方がよいであろう。
§5後進国交易条件の不利化(B)一最適資源配分の理論一
キンドゥルバーガーの資源転用弾力性とか経済的適応力(economic adaptabili−
ty)とかいう概念はきわめて包括的で曖昧である。一体その大小は何に依存する
であろうか。彼においては明確に規定されていない。それは土地の大小・天然資
源の豊富さ・資本の稀少性・技術・労働の能力・教育・企業者精神・過去の遺産・
市場の大小などのすべてに依存するといわざるをえない。だがそのように漠然と
いわないで,もう少し厳密に理論化できるはずである。商品ごとに生産函数が一
定の違いをもつことと,各国において資源配在比率が違うこととの2つを前提と
し,この・2前提の1もとで各国資源の諸産業への最適配分,最適利用を論ずる資源
の国際分析が,解答を与えてくれるであろう。それについてはすでに第7章にお
いて数字例を用いて詳しく吟味した。以下ではダイヤグラムによって再展開し問
題を一層明瞭にしてみたいと思うのである。26)
26) ここで用いる国際的生産要素価格均等化論のダイヤグラム分析については,主とし
て次の諸論文に負うところが多い.
RGmney Robinson,“Factor Propor擁ons and Compara七ive Advantage;Part
I,” Q%σ7’9グ」‘γ ∫o%7κσJ oゾEooκo翅づ05,May 1956.
299
§5 後進国交易条件の不利化(B)
第9・7図
二生産要素一L(労働)とC(資
∼﹄
本)一によって生産される三商品 C、p岬
竃
一X(農業品),Y(繊維品),Z(機
e J
(Z♪
械)を,三国一A(後進国),B(中
c
(YJ
ゐ
進国),C(先進国)一について考
察する。
(xフ
各商品については第9.7図のよう
α
な生産函数が与えられているものと
する。各商品につき・選択できる広い
範囲の技術係数がある。X財につい
0
La亀or
ては04線と0δ線にかこまれた範囲内に等生産量曲線群が画ける。同様にして
Y財についてはOo線と04線,Z財については06線と0∫線にかこまれた篤
囲内にそれぞれの等生産量曲線群が画ける。これらを以下において,生産函数域
X・Y・Zと呼ぶことにする。27)ただX財に比べればY財は常により資本集約的生
産函数をとり,Y財に比べればZ財は常に一層資本集約的生産函数をとるという
R.I S.Eckaus,“The Fac重or Propor重ions Problem呈n Unde雌eveloped Areas,”
4耀7卿%E6・箆・痂σRg面θ躍・$ept・195眠
丁.M.Rybczynski,“Factor Endowment an(1Relative Commo(ii‡y Prices,”
E‘oπo郷Joσ・Nov.1955.
27) 第9,7図は既掲第7.3図(P.228)とき・わめて類似するがいささか異なっていること
に注意されたい.第7.2図ではダグラス函数を基礎にして,3っの生産要素価格比率
に対応する生産方法だけを動径OX、,OX,,OXぎなどで示し,これをセット域と呼ん
だのである.ダグラス函数は無限の範囲をもつから,別の生産要素価格比率に対応し
て無限の動径が可能性としては画ける.そのうちで選んだセットに対応するものだけ
を代表的に画いたのがセット域であった.だからセット域は生産函数の上下限を限定
するものではない。限定を付するためにはPP.260−1注)39で示唆したようにしな
けれぱならない.これに対して第9.7図ではダグラス函数のごとき特定の函数を仮定
しているわけでなく,動径0σ と 0ゐの範囲内に存在する生産函数を仮定してい
る.したがって04,0ゐという動径は明らかに生産函数の上下限を画しており,これ
こそ生産函数域と呼ぶにふさわしいであろう.したがって第7、4図(P.229)のよう
にボックス・ダイヤグラムに直したとぎには,同じ添字をもつ動径,たとえばOX、
とoy、の交点は必ず同一生産要素価格比率を与える.これに対し第9。11図(P.301)
などでは生産函数域を画する2っの線,たとえば丼αと砿oの交点Aは同一生産
要素髄格比率を与えるわけではなく・同一生産要素価格比率は両財の等生産量曲線の
外接点においてのみ与えられる.このことも注意しなければならない.
300
第9章経済発展と交易条件
重要な制約があるものとする。また各財
第9,8図
c
の生産は資本・労働の投入に関してcons−
tantretumstoscaleであるとする。第
B
9。7図に画かれた各財の生産函数は各国
にとって既知であり共通であるとする。
各国における資源存在量は第9.8図に 9
マ α
示したごときものであるとする・すな
A
ちA国は0σ量の資本とσ・4量の労働を
D
保有し,最も資本稀少・労働豊富である。
一一一一一Labor
C国は最も資本豊富・労働稀少である。B国はA・C国の中間の資本対労働比率
をもっている(第7章のように,一国が資本蓄積を進めてAからBへ, さらに
Cの段階へと進むものと考えてもよい)。
さて問題は各財についての生産函数と各国の資本対労働比率とに制約されて,
各国がいかに資源を各財の生産に配分するのが最も能率的であるかを決めること
である。この際各国は次の2つを目標として行動するものとする。すなわち第1
に,各国は完全雇用を達成・維持することを至上目標とする。第2に,各財の世
界価格,したがって需要が与えられたときに,各国は利潤を極大にするために各
財の極大生産をはかるものとする。いいかえれぱ,完全雇用考慮と世界価格とが,
各国の国際分業の方向とその生産量を規定するものとする。
説明の便宜上,A国(後進国)から始めよう。資源配分は第9.9図のごとき・ボ
ヅクス・ダイヤグラムを用いて解明できる。M点から右方に・またN点から左
方に向かって,労働が各財の生産に配分された量をはかる。M点から上方に,ル
点から下方に向かって,資本が各財の生産に配分された量をはかる。三財を仮定
しているから,(1)XとY, 第9・9図(A国)
Labor一
ノ e4 e バ
(2)XとZ,(3)YとZという
(zl (yl ぺ
し
の
ゆ 3組の組合せがえられる。 唱
ト
と
9
9 ω
いま第9・7図に仮定された1
誓、
σ
{z)
b e’ ∫翼
盟
生産函数域を,M点から上
一Labor
301
§5 後進国交易条件の不利化(B)
方に生産函数域Yと生産函数域Zとを,N点
第駄10図(A国)
から下方に生産函数域Xと生産函数域Zと
口}
を,それぞれ画く。これから3組の生産代替
、
¥
¥
¥
¥
、
、
曲線が求められる。
真国は労働豊富・資本稀少であるので,各
0
∫ X
財の生産について最も労働集約的な技術を用
12︸
いねばならないであろう。X財とY財の組合
せについては,1協線に沿ってY財の生産を
が第9。10図(1)に示されたη代替線にな
る。ここで注意すべきは全資源をX財の生産
㌧
Z
ることが有利である。そういう生産の組合せ
エ X
Yμ 0
拡大し,坪M線に沿ってX財の生産を拡大す
o
に集中的に用いて,N点からM’点に達しな
いと,完全雇用が達成されないことである。たとえばY財の生産をMからgま
で進め・X財の生産を亙からhまで進めると,資本はすでに完全雇用であるが,
労働はghだけ失業せざるをえないのである。同様にして,X財とZ財の組合せ
については1VM線と砿θ線から,またY財とZ財の組合せについてはM6線
と1V4線から,第9.10図(2)の%9生産代替線と,第9.10図(3)の鐙生産代替
線とがそれぞれえられる。
いま各財の世界価格をX1:Y1:Z1と仮定しよう。そういう二財ごとの交
易条件は第9.10図に細い実線で示してある。さてA国がX財の生産だけに完全
特化せねばなら識ことは,それが完全雇用を達成する唯一の途であることから明
らかである。この結論は世界価格との関係から見ても同じである。第9.10図(3}
によれぼ,世界価格比率と比べてA国はZ財よりはY財に特化した方がよいよう
に見えるが,①によれば,Y財よりもX財に完全特化した方がよいことがわかる。
さらに(2)によればZ財よりもX財に完全特化した方がよいことがわかるのであ
る。
次にB国(中進国)について見よう。まずY財とZ財の組合せは,A国におけ
302
第9章経済発展と交易条件
第9・11図(B国)
∫ ε d
ぐ N
み
第9.12図(B国)
Y
〔D,
、p
∬
4
α
q
・ //
β 改
め
/ /
\
0
X
τ
醒 eF ∫r
から求められ,第9.12図(3)の鐙生産代
Z
︵21
ると同様に,第9,11図の1吻線と1V6’線
2
替線がえられる。X財とY財の組合せについ
c
ては,生産函数域Xと生産函数域Yとが重な
P
り合ろ菱形(AとBにかこまれた部分)が
D
第9.且図に発生する。この菱形内では両財
の等生産量曲線が相互に外接する点の軌跡が
求められる。第9ユ1図の瓦4BMから求め
た生産代替曲線が第9.12図(1)の∬ッ曲線で
0
x
π
Y
9
(31
ある。それは2つの直線部分典4とβ劣と,28)
\
弧
曲線部分・4βとから成っている。曲線部分・
眠
眠
\
\
の上で生産が行われれば完全雇用が保証され
る。同様にしてX財とZ財の組合せについて
は,第9.11図の1》CPMから第9.12図(2)
の塒生産代替曲線が画ける。
0
z
z
われわれは三財を取り扱っているのであるから本来三次元図を画かねばならな
い。それはかなり複雑であるので二財ずつ組合せた3つの図に分割しているので
28) η曲線の直線部分卸4とBκは,A国について述べたと同じ方法で求められる・
303
§5 後進国交易条件の不利化(B)
N
。 //
/、
。。 Eノ 。、 //
c/ //
b
カ/グ /
/
/ケ
P
∫ ρ ぼ
翻4///
第9・13図(C国)
第9・14図(C国)
Y
り
m
\
\
P
q
B N
\\
\
0
X
湿
Z
(21
M rぐ” ∫『
2
C
ある。だが COnStant retUmStOSCaleが
P
仮定されているから,この仮定に沿うように
ρ
無数の罪y・鵜・銘なる各生産代替曲線を画
き・,三財生産の合計が労働・資本の一万また
は両者の完全雇用を保証する経合ぜを求める
ことがでぎる。ただその際生産代替曲線の直
X
工
Y
131
線部分の上においては,また直線部分上の組
0
合せにおいては,二生産要素の完全雇用は与
えられない。曲線部分の上,およびその組合
写
\
せにおいてのみ二生産要素の完全雇用が保証
恥
されるのである。
』さて世界価格線(細い実線)を第9.12図
の3つの図に画くと,(1)・(2)図では汐点で,
③図ではッ点で生産を行うことが最適であ
ることがわかる・(2)ではX財とZ財を生産
0
3 Z
すべきことを教えているが,(3)図ではZ財は比較的劣位にありY財に特化すべ
304
第9章経済発展と交易条件
きことを教えている。結局B国は,ω図の示すようにX財とY財とを生産し,
完全雇用を保つべきである。
最後にC国(先進国)においては,第9.13図と第9.14図の示すように,X
とY,XとZ,YとZのすべての組合せにおいて曲線部分をもつ生産代替曲線が
画ける。世界価格を与えると,第9.14図の各ρ点で生産が行われる。つまり,
X・Y・Z三財が全資源の完全雇用を保証するような割合で生産されるのである。
以上のA・B・C三国の比較は次の2点を明瞭にしている。③労働豊富・資本
不足の後進国は,完全雇用を保つために,労働集約的産業に完全特化せねばなら
ない。またその生産代替曲線は直線になる。(b)資本蓄積が進み,労働に対する
資本の割合が多くなるほど,生産は多様化し高度化する。その生産代替曲線は曲
線になり,完全雇用を保証する生産組合せは次第に多くなる。したがって資源転
用の可能性ないし弾力性は大きくなる。
上の結論(司に,第1次生産については潜在的競争が大き・いという事情を加え
るならば,すでに第9・3図について説明』したように,後準国交易条件が不利化す
る理由は明らかである。キンドゥルバーガーの後進国交易条件不利化の命題は証
明でき’たわけである。
最後に果したい課題は,先進国では上の結論⑤がえられるが,それゆえに果
して交易条件が有利に保たれるか,ということの証明である。これまでは世界価
格をX1:Y1:Z1と仮定してき’た。いまY財の価格だけが低落して,X1:
Y O.8:Z1になったとしよう。この新価格比率は9.10,9.12,9。14の各図に
点線で示してある。ただしX:Zの価格比率は不変である。第9・10図から明ら
かなように,X財を輸出しY・Z二財を輸入するA国は,生産は少しも変えずに
交易条件の有利化を経験する。B国はX・Y二財を生産し,Y財だけを輸出して
X・Z二財を輸入していたであろう。世界価格の変動は,第9.12図(1)のように,
生産点をρからgに変えさせ,Y財の生産を減らしX財の生産をふやさせる。29)
交易条件はB国に不利化する。C国はX・Y・Z三財を生産し,Y・Z二財を輸出
しX財を輸入していたであろう。世界価格の変動は,第9・14図(1)・(3)のように
29) X財は農業品であるから,これ砿工業国の再農業化を要求する事態である.
§5 後進国交易条件の不利化(B)
305
生産点をρから4に変えさせ,Y財の生産を減らし,X・Z二財の生産をふやさ
せる。C国の交易条件は不変であるか有利化するであろう。少なくともB国のよ
うに不利化しないであろう。けだし輸出品Yの価格は低落するがその輸出量は減
らされる。他の輸出品Zの価格は相対的に騰貴しその輸出量はふやされる。しか
もZの輸出によってXを輸入する交換比率は変らないからである。さらにまた先
進国Cは,いままでのY財輸出をやめてそれを輸入し,Z財の輸出に集中するこ
ともできる。そうであればY財に不利な世界価格の変動は,C国の交易条件の有
利化をもたらすのである。このこ≧は,最初に掲げた先進国交易条件の長期的恒
常性の命題を支持する別の理由をなすものである。
306
第10章 経済発展と貿易利益
§1 問
題
日本の経済発展と貿易についてこれまでに行った実証的分析と理論的研究から
わたくしが現在到達した視点は,1)次のようである。すなわち日本経済は急激な
構造変動を敢行して産業構造と貿易構造を近代化し高度化し,急激な構造変動に
噂
接続して経済と貿易の着実な安定的成長を経験する。しかし.やがて遠からず次の
創造的破壊すなわち構造変動に突入する。このような急激な構造変動と着実な安
定的成長との繰返しを経つつ発展してきた。それは決して一直線的な発展ではな
く,次々の構造変動的脱皮を含む段階的発展であり,先の雁に続いて後の雁が飛
翔するという雁行形態的発展であり,あるいは伸びる前に縮むという尺取虫的発
展である。2)ここでは恩師赤松要博士の術語を惜りて r日本経済の雁行形態的発
展」と呼びたい。
集計量(aggregate)としての実質国民所得だけで観察すると,日本経済はほと
んど一直線的な成長を示し,景気循環はトレンドの中に没し去ってしまう。3)この
ような見解が一橋大学経済研究所グループ,なかんずく篠原教授の立場であると
解され,大阪・京都大学グループから,日本経済にも明瞭な景気循環があったと
の批判が提出されている4)ことは周知のところである。だがわたくしがここで強
調したいのは景気変動的観点ではなく,後進国ないし新興国がどうしても敢行し
なければならない構造変動的脱皮の問題である。世界経済に占める地位がそれほ
1) 本章は日本の経済発展と貿易に関する実証と理論の両面にわたる結論的省察であ
る.したがって前章までの叙述と重複するとともに,若干の修正もほどこされてい
る.この修正は思索の発展としてやむをえない.本章の展開をわたくしの最近の見解
だと受け取られたい.
2) 本書第7章を見よ.
3) 篠原三代平r工業生産の成長率」都留重人・大川一司編,日本経済の分析,1953,
PP,67−70。同様の意見は大川一司教授によっても,同書,P・43に述べられている・
4)青山秀夫編,日本経済と景気変動,1957,P.5,PP.127−8,PP.134−5・その他
各所.
§1問
題
307
ど大きくない日本経済のごときにおいては,その構造変動は外界の大きな景気変
動を契機にして行われ,したがって両者が符合する場合も多かったであろう。だ
が景気変動と構造変動とは本質的に異なるものであることにあらかじめ注意しな
ければならない。5)
構造変動を検出するには,国民所得を1本の集計量としてでなく,農業・工業
・サービス業などに分割(disaggregate)し・,工業もさらに繊維工業・重化学工
業などの幾つかに再分割することが必要であり,同様に輸入や輸出もそれぞれ1
本の集計量としてのみ捉えるだけでなく,その商品別・地域別構成を分析しなけ
ればならない。このように幾つかの部門に分割し,その比例関係の変動態様を分
析することによって初めて,農業中心の経済発展から農業のほかに繊維工業をも
もつ経済発展・さらには農業+繊維工業+重化学工業の均衡的発展へというごと
き,国民所得の直線的成長の背後にありその基礎となっている国民経済構造の変
動焼臆らかになるであろう。あるいは,今まで輸入していた商品が今度は輸出さ
れるというごとき貿易面の重大な構造変動も明らかになってこよう。そのような
輸出入の構造変動を無視して,これも1つの集計量である交易条件を用いて,日
本経済発展のメカニズムを理論的に一般化することは,はなはだ危険であると思
われる。
ところで,上のような構造変動的脱皮を含む日本経済の雁行形態的発展におけ
る貿易の役割はどのように捉えるべき・であろうか。日本の場合については明らか
に二側面に分けて考えうる。第1は,日本経済の構造変動的脱皮は,輸入が先行的
に質的に変り量的に急増大することによって実現された。これを輸入先行的構造
変動と名づけたいのであるが,産業の構造変動を促進し実現させたものとしての
輸入の重要な役割がこれである。第2は,新しい産業構造が確立された着実な安
定的成長期において,内需と並んで,あるいはそれを上回って,拡大することに
よって,輸出が重大な役割を演じた。つまp経済の安定的成長期における輸出の
5) 赤松博士は経済変動を,発展変動・循環変動・構造変動の3種に分けられている・
赤松要・経済政策,1950・第4章・同著,経済政策概論乳1954,第3章一第5章・
一ドも“Structural Argument”をとくに取り上げていることが注目される.J.E.
Meade,T7σ46翻4四6がσ紹,OxforδUniversity Press,1955,各所、
308
第10章 経済発展と貿易利益
役割である。
これらの二側面に日本貿易の動態的役割がある。いいかえれば貿易を含んだ日
本経済の雁行形態的発展の姿が画き出せる。だがもう1つ,なぜ着実な安定的成
長を続けている経済がやがて構造変動に突入しなければならないのか一構造変
動の必然性一,また安定的成長がどのような状態に到達したときに構造変動が
ひき’起されるのかという問題が残される。
本章では第1に,果して日本経済の雁行形態的発展が見出せるかというデータ
の検討を行い,第2に,上述の3つの課題,とくに日本貿易の動態的役割を追求
し,そして第3に,発展過程における貿易利益の捉え方についての理論的反省を
試み.てみたいQ
§2 日本経済の雁行形態的発展
日本が本格的に工業化を開始した日露戦争直前の1900年頃からの日本経済の
構造変動を示す諸指標が,第10.1図に並ぺられている。入手しうる必要最小限
にとどめた。実証された現実の動き・そのままではなく,それを加工したトレンド
が直かれている。したがって現実それ自体よりは,理論的考察に便利なように,
著しく単純化されている。ことに直線として画かれている部分には,現実には多
くの景気循環的サイクルが含まれているのであるが,構造変動を主眼とする目的
から,省かれている。
次のように期間区分が見出されよう。6)
IA期 1901−06年 IB期 1906−19年
豆A期 1919−21年 コ:B期 1921−29年
皿A期 1929−30年 皿B期 1930−37年
IVA期 第2次大戦直後一1951年 IVB期 1951年以降
IA期とIB期,.ならびに五A期とコ:B期とではわれわれのいう雁行形態的発
展がかなりき’れいに当てはまるが,それ以降の1930年代と戦後については解釈
の困難な点が残される。そこで1つの大胆な解釈を提示してみよう。問題は皿A
’ 6) 第2章ではこの期間区分に従って考察した。
§2 日本経済の雁行形態的発展
309
(1929−30年)という世界恐慌期において被った諸指標の変動を単に景気変動と見
るか日本経済の構造変動と見るかである。これを,世界恐慌という大きな景気変
動によって被った日本経済の混乱であって,日本経済本来の構造変動ではないと
解釈したい。そして日本経済自体の構造変動(重化学工業化)は1934・35年頃
から起ったと解釈したいのである。7)つまり皿A期に第10,1図の諸カーヴに生じ
ている急変動を無視して,諸カーヴを1921年と34年を一直線につなぐのであ
る(細い点線で示されている)。このように仮定すると幾つかの新しい解釈が可能に
なり・雁行形態的発展が典型的に当てはまるようになる。そして1921−34年を
豆B’期,1934−37年を皿A’期といいかえたい。そうすると,IA・互A・皿A’の
各期は構造変動期であり,IB・豆B’が安定的成長期であるといいうる。ただし
巫A’の構造変動がいつまで続いたかは,戦争への突入のため不明確である。戦
後については一応WAが構造変動期,WBが安定的成長期だとしておくが,折に
触れて述べるように,この解釈には疑問が残される。確定的な解釈はもう少し長
い期間を経過してみなければ果しえない。
上述のような新解釈はもとより第2章で行った輸入函数などの厳密な推計に基
いているわけではない。したがって以下の考察はやはり推計を基礎とする最初の
期間区分について考察することを基本とし,新解釈を適用した方がどれだけすっ
きり修正でき・るかを検討することにしたい。
1.輸入構造
第10.1図の上半部に貿易依存度の趨勢的変化が示されている。まず輸入依存
度M/yであるが,第2章で詳論したように,日本の経済発展とくに産業構造の
構造変動と安定的成長の繰返しにつれ,それは規則的に変化している。すなわち
第1に,1901−06年(およびその前後1∼2年)のIA期や,1919−21年(お
よびその前後1∼2年)の■A期において輸入依存度が急激に上昇している。こ
れがそれらの期とそれにおのおの接続するI B期ならびに11B期の各前半を通ず
る産業構造変動に先行し,それを促進し実現させた輸入の先行的構造変動のあら
われである。
7) この点で第2章の見解が修正されている。
310
第10章 経済発展と貿易利益
第10・1図 日本経済の構造変動指標
(IA)
歪y 11 //
(IB)X
(HB)(皿A}(血B)
4グジ
1
(WAフ
(四Bナ
\ \
\ M
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対数目
・ 碧6432 ・蹴號31
・匪 6認3・2・ 碧 65
﹀ 1 ’ ’1
3・
薯
¥ \
\
13 6 10 1315 1921 25 2930 343738 4951 56
ハ4XM7ハ4ノ砿那yly、r2
資 料:一,一,一,一, , , ,一……巻末付表.
y y y’ y y y y yr
1%……本書,p.106,および稲葉秀三・相原茂編,現代日本経済論,
1958,p.122.
輸出・・『日本統計研究所編, 日本経済統計集,195ε,pp.176−7,
pp.180−1.
第2に,輸入構造変動期における輸入依存度MIYの急上昇の内容は,I A期
では全製品輸入依存度11傷/yと原料輸入依存度M./yとの増大であり,豆A鰯
では全製品輸入依存度と食糧輸入依存度砥/yとの増大である。日本の加工貿易
の特色からして当然に,M.ノyは輸出依存度x/yと第2次産業比重鶏/yぐとく
、に前者)の動きに支配され,き’れいに共変している。X/yやy,/yはI A期で
§2 日本経済爾雁行形態的発展
311
は上昇,皿A期では急減したので,1匠./yもそれと同方向に動いたのである。だ
から1吻yゐ急増大と輸入構造変動は,全製品輸入か食糧輸入か,ないし両者の
急増大に基くといえる。工業化のためには,一方で全製品輸入の大部分をなす機
械その他の資本財の輸入が必要であり,8)他方,農業部門を相対的に縮少して資
本・労働を工業部門に送り込み,その穴うめに食糧輸入を増すことが必要不可欠
だからである。ここに輸入先行的構造変動の中核がある。
第3に,I B期とか1正B期は経済の安定的成長期であり,これらの期の初めと
その直前の輸入構造変動期において,一回かぎりの大規模な構造変動を敢行した
諸産業が,おのおのの趨勢的成長率に沿って,いわば均衡を保ちつつ伸びて行く
時期である。I B期はそれ以前の農業中心の経済から粗繊維工業の発展を基軸と
する経済に移った期であり,豆B期は繊維工業の高級化と能率化を達成した期で
ある。.こういう安定的成長期においては,全輸入函数はきわめて安定的であり,
一定の限界輸入性向値∠1田∠yに下限を規定され,それに漸近するように,輸
入依存度珊Yは期首の高い値から期末の低い値に漸減している。9)
第4に,上述のように安定的発展期において総輸入函数が安定的になるのは,
期間申M./y’の漸増,1叫/yの不変性,嶋/yの急減がお互に相殺される結果
である。だがそのうち原料輸入が全輸入函数の安定性を規制する支配的な要因で
ぺ
ある。期閲申1田yは漸減的なのにM./yは漸増的であることから,疑問が提出
Mγ M7 y、
されるかもしれない。一一一・一という関係にあるが,このうち第2次産
y y2 y
業比重y,/yは漸増するし,・第2次産業の原料輸入函数は,総輸入函数とは逆
に,負の切辺をもつ安定的な函数であり,その限界性向・∠廻.μ鴎は期間中安定
的な一定値である。1。)M.のMに占める比重の大きいこともいうまでもない。
8) ルーベンスによると,資本財輸入の総輸入に占める割合は次のように変化し,構造
変動期に上昇していることが明らかである。
1868 1896 1899 1904 1914 1920 1924
期95_93_1903_13_19_23_29
彩 12.7 17.2 12.8 14.0 11.6 15.8 12.51
Edwin P.Reubens,“Foreign Capita互and Domestic Development in Japan,”
Eoo%o痂o G70魏h:B7σ語」,1雇宛,∫砂伽,ed。by S.Kuzne重s,W.E.Moore,and
J。J.Spengler,Duke Univ.Press,1955,p.204.
9) 本書,PP.45−52を見よ.
10) 本書,PP.58−61を見よ.
312
第10章 経済発展と貿易利益
だから総輸入函数を安定的に保つ支配的な力は,第2次産業の原料輸入函数の安
定性であるといえる。ただM/y’とM./yが漸減と漸増というふうに方向が違う
ことは,先行する輸入構造変動期における全製品輸入依存度の急増大と安定的成
長期にはいってからのその減少とに基くといえる。
要約すると次のようになる。輸入は産業構造変動に先行して急増大するが,そ
の最大の構造変動は資本財を主とする全製品と食糧との輸入急増大である。とこ
ろが経済の安定的成長期にはいると,輸入なかんずく原料輸入は国内経済活動の
発展と歩調を一にしてそれをささえるように規則的に変化したのである。
以上は豆Aに続く安定的成長期を豆B(1921−29年)と見て考察したのである
が,これを1B(1921−34年)におき・かえるとどうなるであろうか。上の法則性
はそのまま妥当する。珊y線は豆B期の傾向をそのまま延長すると1934年水
準のところにくる。だから世界恐慌による輸入依存度の急低落とそれを取り戻す
ための上昇とが行われたことになるにすぎない。堰。/y線の1921年と34年と
を点線のようにつなぐことはいささか妥当を欠くであろう。むしろ世界恐慌が生
じなかったならば1亙B期の領向が1934年まで延長され,それが1937年の水準
に急低落したであろうと解釈した方がよいかもしれない。1934−37年の構造変
動期皿A’においてM./yの急低落が生じたであろうとする理由は,重化学工業
化が原料輸入依存度を低下させるであろうからである。なお重化学工業化が1934
年から本格化したと見る1つの理由は,その頃に1臨/yの上昇が生じているか
らである。しかし国際収支困難と戦争への突入のため皿A’期の構造変動は明確
に捉えられないし,未完成であった,したがって戦後にもち越されたものと解釈
されよう。
2,産業構造
国民所得yを第1次産業所得靴,第2次産業所得y、,第3次産業所得y、の
3つに分け,各産業所得の国民所得に占める比重玖/y,y・ノy,}マyが第10。1
図の中段に示されている。1900年以降の日本の経済発展が工業化を基軸として
行われたことの結果として,またそれをささえるものとして,農業が相対的に減
少したことは当然である。y、/yは1903年の48.1%から1929年の25.o鰯へ,
§2 日本経済の雁行形態的発展
313
さらに1937年の18.0彩へと急速に低下している。戦争の影響によって戦争直
後のr、/yは,1948年に31.8彩,1949年に27.4%というふうにかなり1930
年代に比べ高まったが,以降急速に低下し1956年には19.1%に落ちている。
1903年から37年にわたる戦前期におけるγ、/yの低下はほとんど一直線的で
あるが,1929年の25.0彩から30年の19.5彩への一回かぎりの急低下が例外
的に注目される。世界恐慌が第1次産業にとくにひどく影響したことは見逃せな
い。しかしそれを無視して,皿B’期を通じて1921年と34年とをつないだ点線
のように,直線的に低下したと解してもよいであろう。
次に第2次産業(工業)の比重yl,/「であるが,それはIB・豆B・:肛Bの各期
聞内においてはほぼ同じ率で着実に上昇している。輸入構造変動期においては,
それに刺激されささえられてL/yも急上昇することが期待される。I A期では
そうなっているが,豆A期においてはかえって急低落している。だが豆A期では
γ、/Yが大幅に上昇していることに注目せねばならない。}τ,/yはI A期の構造変
動においてもかなり高まっている。第3次産業は一方商業と,他方,鉄道・通信機
関・道路・電力・ガスなどの公共事業が大部分を占めるのである。いずれも工業
の外部経済を形成するものとして・工業の発展と能率化とに必要不可欠である。
だから第2次産業と第3次産業とは平行にか,あるいは後者が若干前者に先行し
て構造変動をひき・起しかつ伸びるべきである。y、/y臼が豆A期に低下したのは,
第1次大戦中の輸出ブームの反動としてX/yが大幅に急低下したためにそれよ
りも少ない率で低下せざるをえなかったことから生じた例外であり,本来y,ノy’
はy、/「とともに輸入構造変動期には急上昇するはずである。だから,輸入の先
行的構造変動に続いて,第3次産業の拡大が起り,11)両者にささえられて第2次
産業の構造変動が接続するという順序を経るのが,構造変動の典型的なプロセス
であろう。「いずれにしても輸入の先行的構造変動は第3次と第2次産業のいずれ
かまたは両者の構造的拡大と能率化に貢献したことは明らかである。12)
11) 青山秀夫編,日本経済と景気変動,1957,PP.13−5,参照.
12〉
資本財輸入を建設資材と生産設備とに2分類すると,建設資材の割合は次の通りで
ある.それを100%から差し引いたものが生産設備の割合であることはいうまでも
ない.
314
第10章 経済発展と貿易利益、
上の.ように,輸入→第3次産業→第2次産業という順序に,構造変動期に急拡
大するのが正常であるとすれば,経済の安定的成長期においては,M/yの成長率
が最小または負,}㌔/yの成長率が最大,乳/yの成長率は両者の中間(y,/yの
それより小)となることが典型的な動きであるといえる。IB期はこの基準にぴ
ったり合致するが,11B・皿A・皿Bを通ずる期についてはいささか複雑である。
この解釈の困難が豆B’期をとることによって回避できる。つまり皿A期の急変
動を無視して,M/y,y,/y,y,/yの各カーヴの1921年と34年とを一直線に
つなごう(細い点線で示されている)。そうすると上の基準にぴったりと沿う典型的
な動ぎを示すことになるのである。
ついでに戦後の動きを上の基準に照してみると,WA期についてはいうまでも
なくIVB期(1951−56年)においてすら,ルf/yの成長率が最大でy,/yがこれに
つぎ,}私ノyはほとんど増加していない。このことから見ると、,戦後は現在まで
構造変動の過程にあり,いまだ安定的成長期にはいっていないと判断すべきかも
しれないという疑問をもつ。
第10・1図には産業構造変動を示すもう1つの指標として罵が画かれている。
これは民営工場雇用者中に占める重化学工業(金属・機械・化学の合計)雇用者の割
合である。とれによって第2次産業を軽工業と重化学工業とに細分した構造を示
そうとしたのである。この1協は1920年代はほぼ25%で不変であったのが,
1932年以降急速に増加し,38年には51・0鰯,1942年には66・6%に達している。
これによって重化学工業化が本格化したのは1930年代にはいってから,ことに
1934・35年頃からであり,その頃に生じたM解/yの増加と符合することが了解
できればよいのである。戦後の醜が低くしかも1951年から55年にかけて減
少していることは,重化学工業化のかけ声に反しており,むしろ意外のことであ
1868 1896 1899 1904 1914 1920 1924
期 _95 _98 _1903_13 _19 _23 _29
% 44。3 34。9 51・6 42。5 57。4、 54・8 52・8
(Edwin P.Reubens,oρ.σ鉱.,P。204,Table VI・4から算出。)
建設資材は第3次産業用,生産設備は第2次産業用とみなしうるならば,第3次産
業用資本財輸入がかなり多いこと,なかんずく1914年以降はそれ以前に比べ比率が
増大していることが注目される.
§2 日本経済の雁行形態的発展
315
るが,重化学工業の質的向上を計算に入れねばならないであろう。
3,輸 出梼造
輸出は,新しい産業構造が確立され新興産業が順調に成長してまず内需を充足
してから,本格的に伸張するものと期待できる。第10.1図のトップに画かれて
いるX/yカーヴは,IB・11Bまたは丑B’の各安定的成長期において,低い水準
から高い水準に,y、ノYよりも高い増加率で急速に伸張している。ここでも五B期
よりは五B’期をとった方がベターである。つまり世界恐慌のために被った輸出
の大きな後退を1934年頃までかかって急速に回復し,ようやく1920年代の傾向
線上に近づけたのである。13)だが1930−34年のこのような急速な輸出の回復伸
張が,輸出ドライヴに陥らざるをえなかったことは見やすいところである。X/y’
の増加率の方が鶏/yの増加率より.も高いけれども,前者は期首の著しい低い水
準から上昇しているのである。だから期の前半において内需拡充が先行し,期の
後半にいたって輸出伸張がリードしたと見ることが許されよう。このことは後に
検討する珊yとX/yとの関係において一層はっき’りしてくる。
輸出構造を示す若干の指標が第10.1図の下段に画かれているが,それらはす
べて全輸出額に占める各商品の割合である。第1に,全製品比重はIB期と豆B’
期においてそれぞれ急速に増加しており,X/yの変化(その豆Bヂ期をとると)と密
接に対応している。生糸・綿糸などが原料用製品として分類されて全製品の中に
含まれていないために問題はあるが,工業化進行の成果としての全製品輸出増加
がX/y’の上昇をもたらした主要浮揚力であると判断でき’る。
第2に,主要輸出品のうち生糸と絹織物の比重は同じような動き・を示してい
る。IA・IB期に低下,互A・互B期に復活するが,巫A・皿B期に急落するとい
う動き’である。もちろんそれらは』1900年以前に上昇し,旧来の農産輸出品にと
って代るという過程をもった。1920年代(1正A・皿B)の復活は,高級化された生
糸・絹織物め輸出増であって,それ以前とは同一に論ずべきではないであろう。
結局,1900年までの上昇と1919年までの下降という低級生糸・絹織物の成長・衰
13)一 書,P.80の第2次産業輸出函数において,’1906−29年の回帰線がちょうど1933
年と34年の中間を通っていることが注目される・
316
第10章 経済発展と貿易利益
退と,1919−29年の上昇と38年までの下降という高級生糸・絹織物の成長・衰
退という,2つの循環があったと見てよい。今次大戦直後における2商品の高い
比重は,輸出規模の僅小に基因することであるから考慮外にしてよいであろう。
第3に,基本的な加工貿易品は綿糸と綿織物であるが,綿糸の成長・衰退の循
環が先行し,綿織物のそれが後続している。1典とI B期は両者の平行的上昇過
程にあったが,11:Aの構造変動期において,綿糸は衰退し,高級化した綿織物が
成長するという,はっきりした交替が生じている。綿織物輸出は全輸出と同様に
世界恐慌によって大きな打撃を受けているが,このひずみを除外すれば1934年
まで上昇して,それ以降後退過程にはいったと見てよく,その傾向が戦後にも継
続されている。
第4に,重化学工業品の代表としての機械類輸出は,第1次大戦中に上昇した
1つの山をもっているが,欧米の輸出余力が後退した真空状態におけるもので,
むしろ例外であると見てよい。したがって本格的な輸出伸張は1930年代にはい
ってから,ことに1934年からである。1934−37年の亜A’を構造変動期と見る
ゆえんである。ここで綿織物は下降段階にはいり,逆に機械類は顕著な上昇段階
にはいった。だが後者の比重が前者の比重を上回って交替するまでにはいたらな
かった。.その交替は戦後の1953年までもち越された。だから戦後はいまだ豆A
期における綿糸から綿綿物へ卑交替と類似する能率化的構造変動期であるのでは
ないかと,ここでも反省させられる。と同時に機械類輸出比重が1953年以降伸
び悩みむしろ低落していることが問題である。
かくして輸出構造における雁行形態的発展はかなり明瞭に捉えうる。第1は,
大ざっぱにいって,生糸・絹織物のごとき・特産品輸出から加工貿易品輸出への交
替である。第2は,加工貿易品の中における綿糸から綿織物へさらに機械類へと
いう交替である。
輸出構造の雁行形態的発展は,それに先行しあるいは平行する産業構造の雁行
形態的発展が映し出されたものにほかならず,さらに産業構造の雁行形態的発展
はそれに先行する輸入構造の雁行形態的発展をささえとしたものである。こうし
て第7章P。217に典型化して画いた雁行形態的発展図式が完成するのである。こ
§2 日本経済の雁行形態的発展
317
のように検出された事態は結局生産が多様化するということにほかならない。つ
まり農産物のほかに生糸・絹織物も,次いで綿糸・綿織物をも,さらには機械類を
も生産でき輸出しうるようになったのである(農産物・綿糸・絹織物などが輸出
としてはほとんど陰をひそめたがそれらの生産が消滅したわけではない)。こうい
う生産の多様化を,赤松博士に従い雁行形態の変型14)と呼んでもよいであろう。
・4.国 際収支
構造変動のメカニズムの問題に一歩ふみ込むことになるが,ここで国際収支の
動き’に触れておくのが便利である。第10.1図トヅプに画かれたXlyと1田y両
線のギャヅプは貿易収支を示す。X/y’線が珊y’線を上回っていれば出超を,
その逆であれば入超を意昧することはいうまでもない。国際収支の動きを検討す
るためには貿易収支だけでは不十分であり,運賃収入などの貿易外収支を考慮に
入れねぱならないが,貿易収支を第1の手がかりとし,国内経済と関連づけるこ
とがまずもって必要であろう。
ここでもIf B期でなく豆B’期をとる方がベターであるが,そうするとI Bと
か1正B’とかの安定的成長期の途中においてX/yとMIYの両線が交叉してい
ることが見てとれる。つまり安定的成長期の前半では入超であり,それが後半に
はいると輸出が伸張して出超に転ずるのである。他方,I A期とか豆A期とかに
典型的にあらわれているのだが,構造変動期には輸入の急増と輸出の伸び悩みま
たは減退のために,巨額の入超に陥っている。こういう傾向とは全く逆に,輸出
ドライヴによって出超を生み出して構造変動を敢行しよ、うとした例外が皿:A’期
(1934−37年)である。
入超に陥る構造変動期と安定的成長期の前半とでは国内経済の拡充がはから
れ,それが成熟するにつれ安定的成長期の後半の輸出伸張の局面に移行し出超を
生むという,繰返しが行われている。そこでこの観点からする期間区分を次のよ
うに決めることができよう。15)すなわち,
14) 本書第7章,P.216を見よ.
15)青山秀夫教授は,1906−13年を蓄積の局面,1914−19年を前進の局面,1920−31
年を蓄積の局面,1932−39年を前進の局面と区画されている(青山秀夫編,日本経
済と景気変動,1957,PP、6−7)。われわれの区画とほぼ一致するのであるが,1934一
1234
318
第10章 経済発展と貿易利益
国内拡充の局面
1901−14 年
入超
輸出伸張の局面
1914−19年
出超
国内拡充の局面
1919−29年
入超
輸出伸張の局面
1930−34 年
出超化(実際には若干の入超)
これに続いて国内拡充の局面がおとずれたはずであるが,1934−37年は輸
出伸張によって構造変動がはかられた。だがそれは不十分であり戦後にもち
越された。
5・国内拡充の局面 1949−56年 入超
戦後については,1951年までに大規模な構造変動は一応完了し,それ以降安
定的成長期にはいったと見るべきか,それとも今なお構造変動過程にあると見る
べきかについて判断に苦しむのであるが,少なくとも今なお国内拡充の局面にあ
ることは確かであり,それが数力年続いた後にやがて輸出伸張の局面に転ずるの
ではあるまいか。あるいは戦前の発展プロセスとは違って,構造変動と成長とが
2∼3力年の短期間でいわばなしくずし的に繰り返し行われるというのであろう
か。1949∼1953,1956・57年というふうに繰り返し国際収支の壁にぶつかりつ
つ,急速に重化学工業化と能率化をはかっていることは周知の通りである。いず
れにしてもいま少し時聞の経過をまたねば確定的判断に到達しえない。、
構造変動に先立って輸出伸張の局面をもったことは重大な意味をもつ。輸出伸
張の局面で稼いだ外貨が構造変動を実現するための重要な資金となるからであ
る。唱
が日本では輸出伸張局面で稼いだ外貨は現実に行った規模の構造変動を完
逐するには不十分であったのであり,そこに外国資本や援助の流入がもった重要
な役割が見出される。
第1の構造変動(1901−06年)に先行して外貨の蓄積があったはずはない。だ
からこの構造変動を含む国内拡充の局面において生じた国際収支の不足は,ほ≧
んどが外国資本の流入によってカヴァーされた。1904−14年の貿易入超は7億
37年を構造変動期と見るかどうかについて見解を異にする.だが,青山教授らが景
気循環の検出を主目的とされているに対し,われわれは構造変動視点に立っているこ
とに,’根本的な相違がある.
§2 日本経済の雁行形態的発展
319
2,700万円,経常勘定赤字は、9億8・900万円,流入資本額は13億7,000万円
と見積られる。経常勘定赤字がすべて外資でまかなわれたわけであるが,前者は
輸入額の17妬に達した。第2の構造変動(1919−21年)を敢行するに当っては
さいわいに第1次大戦中に蓄積したかなり巨額の外貨(1915−19年の経常勘定
黒字は30億6,300万円)があったが,それでも不足しやはり相当額の外資(9億
9,000万円)が流入している。一1920−29年の経常勘定赤字は23億1,900
万円で輸入額の10%に達した。第3の構造変動(1934−37年)を敢行するに当っ
ては外資の支援は全くなかった。その直前にかなりの輸出ドライヴを行ったけれ
ども,せいぜい世界恐慌による後退を回復する程度で十分な出超を生みえなかっ
た。だからこの構造変動は旧産業の輸出を強行しつつ新産業に必要な輸入をまか
なうという困難なプロセスであり,そのうえ巨額の対満投資(1932−36年の期
聞に13億8,800万円)を敢行しようとした。16)一対満投資の輸出額に対する割
合は12%に達レた。もちろん戦争に突入したため成果は判明しないが,この構
造変動は国蔭収支困難に直面して不成功に終ったガ例とみなしてよいであろう。
そして未完成であったこの構造変動が戦後において巨額の援助にささえられて初
めて実現されつつあるのである。一1945−51年の援助は21億ドルに達し貿易
入超と一致する。それは輸入額の39%をカヴァーした。
とまれ日本のような後進国ないし新輿国が構造変動的脱皮を実現するために
は,・蓄積外貨なり外国資本や援助とかの対外支払手段のかなりの息つぎがなけれ
ば不可能であるといい切ってよい。したがってまた今後においても一層の構造変
動的脱皮を敢行するには入超と対外借款はある程度やむをえないことであろう。
先にまとめたように,構造変動と安定的成長とを繰り返して生産の多様化を達
成したのだが,そのプロセスに爵ける生起の時間的順序は次のようになる。
’∼
玉灘麹的一を・.Ex曲1㎞騨の倉拙・ 飛翻的
3.工業化一4。輸出伸張
ド
a.国内拡充の局面 b,輸出伸張の局面
外資→入超 . ・ 出超+外資→入超
16) 本書第3章,§5,PP.117−22を見よ。
320
第10章 経済発展と貿易利益
このプロセスの本質は,加工貿易産業の発展に典型的に見出されるように,そ
れまで輸入されていた商晶が構造変動を契機にしてまず国内産業として確立し,
次いで輸出にまで伸張して行くという脱皮である。これを赤松博士は雁行形態の
基本型17)とされた。このような脱皮が実現するためには,比較生産費において初め
に比較的劣位にあり輸入されていたものが,生産方法の改善,生産能率の向上,
コストの低下をまって,比較的優位に立つようにまで進展するという「生産の能
率化」がなければ果しえなかったはずである。生産の能率化のメカニズムとそこ
忙働いた輸入と輸出の役割が究明されねばならない次の問題である。
§3 日本貿易の動態的役割
これまでの考察によって,⑧構造変動期における輸入の役割と,⑤安定的成
長期なかんずく輸出伸張の局面における輸出の役割とが表面的にはほぼ明らかと
なったのであるが,以下ではもう一歩進めて,生産費・価格構造(cost−price
stmcture)の分析を通じて,上のごとき日本経済発展の二局面のメカニズムにお
ける輸入と輸出の役割をそれぞれ追究してみたい。
われわれが検出した構造変動期は,I A(1901−06年),互A(1919−21年),皿A’
(1934−37年),IVA(戦後一1951年)の4期であったが,このうちI A期は確かに
農業中心から繊維工業をもあつように生産の多様化を敢行・した構造肇動期であっ
た。だが1正A朗は農業と繊維工業のほかにもっと別の産業をもとうとしたという
よりは,むしろそれらの生産の能率化を急激に進めようとしたのだと解すること
ができる。それらの産業りほかに重化学工業をも拡大レた次の多様化的構造変動
は皿A’期であり,IVAの戦後は皿:A’において多様化された生産の能率化をは
かっているのだと解しうる。つまり多様化的構造変動はI A期(繊維工業化)と
:肛A’期(重化学工業化)の2つであり,IIA期と∫VA期とは能率化的構造変動
だと解したい。18)後者に比べ前者のタイプの構造変動の方が困難が大きいことは
17) 本書第7章,§1,PP.216−22を見よ.
18)第3章,第4章および第8章では,1905−13年と1932−37年を構造転換期とし,
2つの構造転換にはさまれた期間を産業構造安定期とみなした。
321
§3 日本貿易の動態的役割
第10・2図 日本経済の生産費・価椿溝造指標
いうまでもない。
変動であるにしろ巨額の資本
を必要とする。したがって資
対
数目盛oo
そのいずれのタイプの構造
㌔∼
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‘亘A,
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49 5} 56
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盛
本蓄積が人口増加率を上回っ
て急速に行われ,一国全体の
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C
資本・労働配在比率が高ま
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り,資本・労働の相対価格比
率が低まるのでなければ構造
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変動は敢行しえない。外資や
’
資本蓄積に関する調査は残
100
念ながらいちばん不完全であ
る。第10.2図に示したん/y
も不完全な資料であるが,年
貯蓄額に外資や正貨の純流入
額を加え,対外投資純額を差
し引いた,いわば国内投資額
を計算しこれを国民所得に対
する割合として示したもので
ある。国内向資本形式率と呼
んでおこう。1901−06年の期
1.3・6 1αユ3・15 19・21 % 2930 343738
P」 Pg P∫
資料:Pg・可・耳・P甥・c”’巻末付表・
real wage,1abor’s share…本書P.136,
p.138.
14
一一…本書p.148,
y
fo
一…Gustav Ranis, “Factor Propor一
∫L
tions in Japanese Economic De・
velopment,”丑卿θ7∫o㈱E‘o%o痂σ
Rθρ招ω, Sept. 1957, p.597,
TableII (邦訳, アメリカーナ,
1958●3, p。23)。
悶は不明であるがそれに続く1910年まで,また1919−25年の期間に,国内向
資本形成率が高いことが注目される。つまり構造変動期には外資や在外正貨引揚
げを含んだ国内投資すなわち資本蓄積率が後続の安定的成長期よりも高かったの
であり,これが構造変動を逐行させた基本動力であると認めうる。1936年以降
322
第10章 経済発展と貿易利益
がやはり不開であるが,重化学工業化期において資本蓄積率が低いことが一驚に
値する。これは無理な対満投資を強行したからであろう。このゆえに1930年代
の構造変動はいちばん大きな困難に直面したのである。
第10.2図に示した∫c/∫Lカーヴはラニスの算出したもので,1928−32年基
準の一般卸売物価でデフレートした実質資本財価格と,同年基準の生計費指数で
デフレートした実質賃金との比率であり,資本・労働の要素価格比率をあらわし
ている。それは必ずしもわれわれの目的にぴったりと合致するとはいえないが,
趨勢を示すには役に立つ。この要素価格比率は,14/yにおける変化と対応して,
1』
と11Aの構造変動期とその直後に,資本の価格が急速に割安になるように変
化している。資本が割安になることによって生産の多様化や能率化が初めて可能
になるのである。
次に商品の生産費の動き・に眼を転じよう。第10.2図のCカーヴがそれを示し
ている。これは製造工業における労働の生産性指数の逆数であるから,労働投入
量であらわした商品生産費を示している。残念ながら1914年以前の数字を欠く
ので,Cカーヴの細い点線は想像の傾向にすぎない。1つの新興産業のコストは
次の変化を経るものと期待できる。すなわち,③輸入機械などに助けられて勃興
した創業期には,創業費や設備投資費用がかさむのに操業度は低いためにコスト
はしばらくの間逓増する。(b)生産規模が拡大するにつれある時期からコストは逓
減に転じ,市場の拡大・操業度の上昇などにつれコストは急速に低下する一大
規模生産の利益。⑥拡大の極点に達するともはやコストは低下せず,不変にとど
まるかかえって逓増に転ずる。これが一産業の創業期・拡張期・安定ないし衰退
期に照応する。19)最後の衰退期には往々にして固定費を無視し経常費だけをカヴ
ァーする価格での安売りをし延命策をころずる。これが真正輸出ドライヴをもた
らすことになる。一産業の衰退期は次の新興産業の創業期ないし拡張の初期と重
なるであろう。これが多様化的構造変動期にほかならない。
図示のCカーヴは旧産業も新興産業も含む総合指数であるから,一義的解釈を
19)第3章,P.104では拡張期・安定期・衰退期の3期をあげたが,拡張期に先立つ
創業期をつけ加えたい・
§3 日本貿易の動態的役割
323
許さない。それにもかかわらず,1919−22年の構造変動期におけるコスト騰貴,
1922−34年の拡張期における50%余に及ぶコスト低落,そして1934−37年の
次の構造変動期における生産費不変の傾向がかなりはっき’りあらわれている。同
様な変化が,IA・I B期にも生じたと期待できる。構造変動期における機械な
どの輸入がコスト低下を可能にしたし,内需とともに輸出の拡張が大規模生産に
よるコスト低下を実現させたと解してよいのである。
次に商品価格の動きを示すものとして・Pg(一般物価指数)・P/P摺(輸入相対
価格指数,ただしP魏は輸入価格指数)・P・/Pg(輸出相対価格指数・ただ・しP・は
P P P
輸出価格指数)・P轟(交易条儲数)の4つ緬練ている・茸=爺茸
という関係にあることはいうまでもない。第1に構造変動に先行してPgが騰
貴していることが注目される。インフレ的傾向が新産業の勃興・構造変動・経済
開発を刺激するのである。第2に,皿A’の重化学工業化期は例外であるが,I A
や丑Aの構造変動期においてPg/P卿が騰貴している。これは輸入品が国内物価
に比べ割安になることを意味し,それが輸入依存度を急上昇させ,構造変動を健
進したのである。20)外資や在外正貨の利用とこのようなPg!・P溺の有利な変動こ
そ,日本の構造変動的脱皮を成功させた重要な要因である。このことは交易条件
P払P摺の有利な変化といいかえてもよい。けだしP。/・P解はIA・11A両構造変
動期においてPg/・P翅と全く平行な動きをしているからである。
第3に,やはり1930年代を例外として,構造変動期または構造変動期とその
直後には輸出相対価格P∫/Pgは不利化するが,やがて有利に転じている。21)こ
ういう価格変動が,輸出は構造変動期ないし国内拡充の局面においては伸び悩む
が,やがて輸出伸張の局面に転ずるという変化を刺激したのである。第4に,交
易条件の動きは先に少し触れたのであるが,IAと豆Aの構造変動期に有利化し,
その直後(ほぼ国内拡充の局面の終り頃まで)不利化するが。輸出伸張の局面
(I Bと五B期の後半〉においては景気循環的変動を含むけ・れどもほぼコンスタ
・ントである。この輸出伸張の局面がCカーヴに示されるコスト低下期であるこ
20) もっと詳しい分析は第2章,PP.53−6でなされている・
21)第2章,PP。85−9における詳細な分析を見よ・
324
第10章 経済発展と貿易利益
とと対比されねぱならぬ。コストが低下するのに交易条件は不変であるから,貿
易利益は増大し,実質賃金real wageや労働分配率Iabor’s share(図示してあ
る)の向上に大いに貢献したのである。
ところが第5に,1930年代においては,為替切下げの直接的衝撃による1930
年から31年にかけての.Pg/P四とP、ノPgの大幅な不規則的変化の後,37年に
かけて両者ともに低落し,交易条件は40彩も直線的に不利化した。しかもこの
間,国内物価Pgは急激に騰貴している。だから1931−34年には世界恐慌によ
る輸出後退を回復するための輸出ドライヴが,さらに1934−37年には重化学工
業化や対外投資ならびに軍需輸入をまかなう外貨獲得のための輸出ドライヴが,
それぞれこの時期にかぎり例外的に強行されたものと判断せざるをえない。しか
も1934−37年はコストがもはや低下しなくなったときに交易条件の大幅な不利
化がひき起されたのである。その結果が実質賃金や労働分配率を圧追し低落させ
たことは見やすい道理である。22)もう1つの多様化的構造変動期であるI Aにお
いてもその直後に労働分配率の若干の低下が生じていることが注目される。
以上の考察から次のような結論を導きうる。
第1に・構造変動期における輸入の役割は・本質的に生産の多様化を敢行させ
ることにある 。多様化の敢行において,(司過去の蓄積外貨や外資・援助に助け
られた資本財の輸入が,資本・労働配在比率を急速に高め,資本・労働価格比率
を低め,もってより資本集約的な産業の創設と拡大を可能にした。⑥交易条件が
有利化し,資本財輸入の費用を割安にした。⑥だが多様化的構造変動の生産力
効果が結実するには,構造変動期に続く安定的成長期における生産の能率化をま
たねばならない。往々にして多様化された産業構造の能率化のためにもう1つの
能率化的構造変動をさえ敢行せねばならなかった。だから多様化的構造変動期自
体においては,伸ばすべき・産業以外の産業における資本集約度の低下,能率段階
の引下げ,実質賃金の切下げ,したがって産業間賃金格差の発生などが,必要で
あったであろう。このような矛盾は1934−37年の重化学工業化期におけるよう
に,外資の援助なしに輸出ドライヴ・交易条件の不利化を通じて輸入資金をまか
22) この解明が第3章と第4章の主題であった,
§3 日本貿易の動態的役割
325
なう場合に,克服し難いほどのものとなってあらわれる。
第2に,安定的成長期における輸出の役割は,生産の能率化を促進し完成させ
ることである。それは(助輸出伸張による市場の拡大が内需とともに,新興産業
の大規模生産化を可能にし,コストを急速に低下させる。①)輸出伸張が雇用機
会を拡大する。⑥コストは低下するのに交易条件は不変に維持されるので,貿
易利益は増大し,これが所得水準を高め,資本蓄積を促進する。その資本蓄積が
一層の能率化とコスト低下を可能にする。そういう循環的な成長の加速度化が達
成される。@輸出伸張は出超化をもたらし,外貨の蓄積が次の構造変動を刺激
し支持する。
第3に,構造変動の必然性は次の諸点に見出される。(昂)安定的成長が終末に
近づくとコスト低下は行きづまり,むしろ逓増に転ずる。それは構造変動によっ
て採用した技術の下での最適資源配分が達成されたからである。このことは構造
変動期に急上昇した輸入依存度が漸減して最適依存度に到達すること23)に最もよ
く表現される。⑩新興産業に対する内外需要拡張の限界につき当る。ことに海
外市場は,日本よりも後進の国が日本よりもやや遅れて日本と同じ発展径路をと
るとき.同質化のため急速に需要の限界に達する。そこで別の新商品をも生産し
輸出することを可能にする多様化的構造変動か,従来の輸出品の競争力を強化す
る能率化的構造変動かが必要とされる。⑥資本蓄積が進行して資本・労働配在
比率が高まりその価格比率が低まり,かつ若干の外貨が蓄積される ことが,構造
変動を有利としそれに踏み切らせる。もとよりそれらのにない手は創造的破壊の
意欲にもえる企業家にほかならない。
日本が実際に経験したものよりも,外貨蓄積や外資流入がはるかに大きく,安
定的成長期がもう少し長い期間にわたって継続したならば,賃金格差に代表され
る二重構造の発生も少なくかつそれは安定的成長期中に解消されえたであろう。
不幸にして日本は,あまりにも少ない余裕をもって構造変動を敢行し,あまりに
も短い期間に急速な成長を果し,次の構造変動に移らねばならなかった。それゆ
えに,二重構造の矛盾を解消することなくむしろそれを累積する結果になったの
23)第2章,PP,45−52を見よ,
326
第10章 経済発展と貿易利益
である。
以上のような構造変動と安定的成長,生産の多様化と能率化の繰返しの原理的
究明は,第7章と第8章に展開したモデルによって最もよく果されている。他
方,幾つかの構造変動期についての外資のトランスファー・メカニズムとか,安
定的成長期におけるコスト低下のプロセスと輸出の役割とかについて,詳しい実
証研究を果したい意欲にかりたてられる。こうして初めて,動態過程における貿
易利益の捉え方についての理論的反省が可能になるであろう。
§4 貿易利益の捉え方
これまでに検討してきた日本の経済発展に演じた貿易の動態的役割についての
実証分析を頭において,貿易利益の捉え方について広くとられている見解に対し
て,若干の反省的批判を試みてみたい。
第1に,日本経済が構造変動を含む雁行形態的発展をとげたことにかんがみ
て,いかなる局面について貿易利益を把握しようとするのかをあらかじめ明らか
にしておかねばならぬということである。つまり,輸入先行的構造変動期におけ
る貿易の役割ないし利益なのか,それとも経済の安定的成長期におけるそれなの
かによって,全く捉え方が異なるということである。
たとえば篠原教授は,長期的交易条件低下傾向の演じた役割を問題にしている
のであって貿易利益を直接の対象としているのではないと断わっていられる24》の
であるが,交易条件が貿易利益と密接かつ重大な関連をもつことはいうまでもな
い。交易条件の吟味から貿易利益の把握へ移行できるものとすると,篠原教授の
ように,日本の交易条件は明治以来長期的に不利化したというのではあまりにも
行き過ぎの一般化に陥る。25)同じく交易条件が不利化するにしても,それが構造
変動期であるか,生産性の急速に向上する安定的成長期であるかなどによって,
貿易利益に対する意味は全く異なるのである。
24)
篠原三代平「日本経済の長期動態と貿易理論」国際経済学会編,「ドル不足と日本貿
25)
易,1955,P.67.
本書第3章を見よ.
§4貿易利益の捉え方
327
またたとえば,所得拡張の被乗数たるべきものは輸出量増分であるのかそれζ
も出超額増分であるのかについては論争のあるところであるが.そのいずれかま
たは双方を用いて貿易の雇用と所得に対する乗数効果を検出し,これを貿易利益
の重要な構成項目の1つとするのが普通である。そういう吟味はしばしばハロヅ
ド流の成長率理論と結合して行われている。26)ここでもまた一体そういう理論は,
㈲景気循環過程,(b)構造変動期,(0)安定的成長期における経済成長,この3者
のいずれにいかに適用さるべきであろうか。適用する局面をあらかじめ明らかに
し,それに対応する正しい理論を取り上げねばならないのである。
読第2に,貿易利益の測定可能性の問題である。つまり全く測定の不可能な利益
とある程度測定の可能な利益とがある。もとより経済発展における貿易の役割は
多面的である。技術導入とか文化的・社会的・政治的変革にも貿易は深大な影響
を与えた。2η別の例では,自国では全く生産でぎない商品が世界価格で輸入でき
ることの効用上の利益は,はかりしれないほど大きいであろう。そういう貿易の
闘接的ない.し非経済的利益は,貿易が封鎖された戦時中の・生活がいかにミゼラブ
ルなものであったかを回想することによって,初めて実感で、きるていのものであ
る。さらにまた構造変動期における貿易利益とくに輸入の役割は,かなり質的な
ものであって量的な測定を許さない部分が多い。したがって何らかの方法で構造
変動期の貿易利益を量的に測定し,それが小さなものないし以前に比べ利益の減
少とあらわれたとしても,構造変動を促進し完遂させた貿易の貢献は過小評価さ
、れてはならないのである。
第3に,貿易利益の分離可能性の問題がある。つまり貿易利益とか貿易の責献
』を,経済発展の諸力の貢献とその利益から分離して検出することはほとんど不可
26) たとえば,馬場啓之助r貿易利益の分析」農業綜合研究,7の4,1953・10、同
r貿易乗数と交易条件」経済研究,1953・4」東畑精一・大川一司編,日本の経済と農
業,上巻,1956,第1章第3節.
藤井茂,経済発展と貿易政策,1958,PP.10−8,PP。73一87(わたくしの書評,r一
橋論叢,1958・10を参照されたい).
27)たとえばW.W。Lockwo耐,丁加Eoo吻痂o Pθ∂oJoρ耀κ≠げ1砂碗,σ70ω地
¢鍛JS≠7%6∫%741Cゐσ”4β,1868一ヱ938,0xfordUniv。Press,1955,PP。318−46.中
山伊知郎監訳,日本の経済発展(下),1958,PP.423−63を見よ、
328
第10章 経済発展と貿易利益
能であるということである。のみならず貿易の拡大と経済発展一般とが時に矛盾
対立することさえある。たとえば構造変動期においては輸出が伸びないか,かえっ
て減少しその分だけ内需に振り向けうることが,構造変動を促進し・それに接続す
る経済発展を大きくすることさえ考えうる。あるいはたとえ安定的成長期に交易
条件が不利化するにしても,それは経済全体の生産性向上や過剰人口の圧力と結
合しているものであることを見逃してはならない。ここでも一方,いかなる局面
について貿易利益を捉えようとするのかをはっき’り認識するとともに,他方,た
とえ何らかの方法で貿易利益が計測されえたにしても,それは経済発展一般に下
属し包摂されるものであるから,独立のものとして過小評価してはならないので
ある。 隔
これらの3点を頭において,構造変動期における貿易利益と,安定的成長期に
おける貿易利益との二側面に明別して,わたくしなりの貿易利益の提え方のアイ
ディアを述ぺてみよう。もとより十分に完壁な方法に到達したわけではなく,む
しろ今後詳細に展開するに当ってのプログラムなり注意点の指摘にとどまる。
1.椿造変動期の貿易利益
構造変動の前後の比較を第10.3図によって検討しよう。・4β曲線は構造変動
前の生産代替曲線であり,α線のスロープで示される世界価格比率 (一交易条件)
の下でP点で極大生産をなしダそうしてえた所得を汐点で二財の購入に向け極
大満足(無差別曲線1、で示される)を達成していたとしよう (図表で大文字は
生産,小文字は消費に関連した符号である)。したがってこの国はX財(農業品
としよう)を輸出しY財(工業品)を輸入するという方向の国際分業と貿易を行
っていたのである。ところが世界価格がβ線のスロープ(β。・β、・β、・β、の各
線は平行で同一のス・ロープをもつ)に,X財が割安にY財が割高に転じたとしよ
う。このようなY財に有利な交易条件の変化は,X財の生産を縮少しY財の生産
を拡大するという生産転換つまり工業化を刺激する。ところがすでに明らかにし
たように生産転換は一定の条件が整わねば行いえないものであり,現実にはなか
なかたやすいことではない。そこで依然としてP点での生産を継続し交易条件
の不利化をしばらく甘受することになろう。その際には消費点はガに,達成さ
329
§4貿易利益の捉え方
れる満足は1、無差別曲線に
第1馳.3図
Y
なり,これは以前の1、の状
σ
態に比べると著しい満足の低
下,したがって所得水準の低
落を意味する。モノカルチュ
アの後進農業国はこういう状
態に追い込まれやすい。
β3‘
β”
擁
、p s
βrB1
βP
このようなX財に不利な交
易条件が永続すれば,この国
はどうしても生産転換を敢行
せざるをえない。まず従来の
\
\
\
R 殴
¥ 5
β
、 ¥
¥ ¥
ア ¥ ’。
Q ¥
K 乾
19
P1 、 f3
P
,,“2
資本・労働配在比率,したが
β3
A へ
って従来の生産代替曲線AB
α β。 β} β捧
の上で生産転換を行らたとしよう。生産はQ点,消費は9点でそれぞれ極大を
達成し,いまやY財を輸出しX財を輸入するようにな り,・国際分業と・貿易の方向
は→転した。・だがこの状態における満足(1、無差別曲線で示される)が1、の状
態に比べると依然として著しく低いことは明白である。
ところが,♪外資や援助の流入によって輸入資本財が大幅にふえ,,資本…労働配
在比率が急激に高まり,それに応じて生産代替曲線が・4B’に変った’としよう。28)
つまり資本集約的なY財の生産可能量は増加するが労働集約的なX財の生産可能
量は増加しないという変化である。これが輸入先行的構造変動のねらいである。
とういう 生産代替曲線の変形は,産業間に要素価格差を設けることによっても幾
らか可能である。29)構造変動の結果,生産はR点で消費は7点でそれぞれ極大
に達し,前のケースよりも大量のY財を輸出し代りにX財を輸入し(貿易量の大
28) 生産代替曲線が・4Bから∠4β’・のように変形することは,本書第9章における資
本・労働比率の低いB国の状況を示す第9・11図。第9・12図(p,302)・から・それが
高いC国の状況を示す第9.13図・第9。14図(P,303)に移ったと考えれぱ了解でき・
よう。なお,小島清,外国貿易・新版,1957,PP.110−3を参照されたい。
29)本書第7章PP。250−3ならびに第8章PP,279−81を見よ.
330
第10章 経済発展と貿易利益
小はベクトル鈎よりもR7が大きいことで示されている),より高い満足1、
を達成することができる。これが輸入先行的構造変動の生産力効果である。そう
いう生産力効果が果して獲得でき・るかについては,第5章・第6章で検討したご
とき比較生産費の動態的決定因に関する十分な予測が必要であり,30)加うるに第
1章・第7章で検討したごとき国際分業の動態において構造変動後の輸出の世界
経済に占める地位とか世界価格比率の動向とかも正しく予測せねばならない。
上のような輸入先行的構造変動を達成した後は,資本と労働が比例的に増大す
れば,生産代替曲線がノ4”.B4のように,ABヂと同じ形を保ちつつ拡大し,1、よ
りも高い満足1,を達成でき・るようになるであろう。これが構造変動に接続する
安定的成長期である「。そこでは資本蓄積率の方が人口増加率よりも大きく,ため
に生産供替曲線は#層たて長に変形しつつ拡大していくことも十分に考えうるこ
とである。
なぜ生産転換すなわち工業化を敢行せぎるをえなかったかということがまず問
題となろう。それは生産転換を敢行しなければ,生産をP点で消費をψ’点で行
うごとき,貿易をしない場合よりも不利な状態(消費点グが生産可能境界且β
線の内側にあることからわかる)を続けなければならないからである。このこと
は資本と労働が比例的に増加しAB線と同じ形で生産代替曲線が拡大していく場
合においても,拡大した各曲線について常に妥当する。後進国のように人口増加
率の方が資本蓄積率を上回る場合には,生産代替曲線はハβ曲線よりもよこ長に
変形しつつ拡大していくが,そうであればますます従来のX財輸出・Y財輸入の
貿易方向は損失を大き・くしていくであろう。31)
われわれの中心課題は,以上のような輸入先行的構造変動を含む場合の貿易利
益をいかに測定するかということにある。もしも図示のように効用無差別曲線が
実際に画きえ・そのオーダーの高低によって貿易利益を捉えうるなうば,それは図
’30) リストの幼稚産業保護論の中核もこの点にある・F・List,D4εNσ∫和π41βSy3≠θ翅
4傑PoJ∫∫∫30々θπ0罐oπo吻づθ,1841・次を参照,藤井茂,経済発展と貿易政策,1958,
第『5章.
31) 後進国が工業化した方がよいかどうかについては次を見よ・小島清,交易条件,
1956, pp.221−7.
§4貿易利益の捉え方
331
示した通り,すべて判明する。だが効用無差別曲線は理論的トクールにすぎな
く,貿易利益の実際的測定には多くの困難を伴う。効用という尺度による貿易利
登の計測はあきらめねばなるまい。ことに現実に生ずるテイスト(taste)の変化
をも考慮に入れると,事実上不可能に近いであろう。そうではなくして,P・Q・
R・Sのごとき生産点における実質所得を計測し比較することが,実際に役立つ
捉え方といえよう。
そこで最初に,生産点における実質所得の比較とレ・う目的にとって,商品交易
条件はどれだけ役に立つであろうかを省みておこう。世界価格比率したがって商
品交易条件はα線からβ線に,X財に不利に,Y財に有利に変っだという事実
しか与えない。かりにα線のスロープをX財1単位対Y財3単位,β線のそれ
をX財1単位対Y財0.8単位の交換比率だとしよう。ところがこれだけの事実が
問題にしているこの国の商品交易条件指数を次のように変化させることになる。
勧α線からβ。線に変った場合,つまり依然としてX財が輸出品であるとき・に
は,商品交易条件は3/1からo.8/1に,前者を100とする指数に直せば100から
26.6に不利化したことになる。㈲β。線からβ、・β. ・β、線への変化は輸出品が
X財からY財に変ることであるから,図示のスロープは同じであるにもかかわら
ず,この国の商品交易条件は0。8/1から1/0.8に56彩だけ有利化したことにな
、
る。結局商品交易条件指数は100脅ら26・6にいったん不利化し・構造i変動によ
ってそれが41.6に幾らかもとに戻ったというふうに算出されるのである。
上の㈲は構造変動期における商品交易条件指数のabsurdityを物語るにナ分
である。つまりもしも貿易の方向が変らなければ指数は不変であったのに,.単に
輸出入品が入れ変らたということだけで56彩の有利化だと指数化されるのであ
る。現実にはX・Y財だけ’でなく多数の商品があり,従来の輸出入が継続される
ものと,輸入品であったのが輸出品に転換するものまたその逆のものとが,いろい
ろのウェイトをもち,それらが総合されて1つの商品交易条件指数としてあらわ
されている。だからその解釈はきわめて困難であり,むしろ単的に,構造変動期
の商晶交易条件指数はなにごとをも物語らないと受け取らた方がよいであろう。
商品交易条件指数が有意義なのは,輸出と輸入の構成がかなり安定し夫き・く変化
332
第10章 経済発展と貿易利益
しない安定的成長期にかぎられるのである。32) ㌔
商品交易条件は,その重要性を発揮する安定的成長期においてすら,それだけ
では貿易利益の十分な指標とはなりえない6貿易量や輸出品の生産性の変化を考
慮に入れなければならない。結局,構造変動期においては商品交易条件を貿易利
益の測定手段とすることは許されない。それではどんな方法が残されているので
あろうか。
’構造変動前のP点と輸入先行的構造変動後のR点との比較にかぎろうび既述
のように商品交易条件指数を用いると混乱を生ずるのであるが,分子と分母が逆
転することのな㌧・指数,たとえば一般物価指数をデフレーターとして用いてP点
と・R点の実質所得額を見出し,これを比較すればよい。その際困難な指数問題
がうき・まとうことはやむをえない。実質所得額を比較するということは,たとえ
従来はX財を輸出していたのに今やY財を輸出するよろに変り,ために商品交易
条件指数は混乱に陥るにし七も,従来X財を作り今やY財を作るようになった生
産要素は同いであるから,生産要素価格で見た実質所得額の変化こそが,構造変
動の効果をあらわすものと考えられるからである。こうして発見できる実質所得
額の変化は,もとより全経済の発展に基くものであって貿易だけの貢献を示すも
のではない。ここで貿易利益を分離できないという問題につき当る。強いてそれ
を求めようとするならば,P点とR点のそれぞれにおける実質所得額に輸出依存
度(=輸入依存度)を乗じたものの変化を求めることが1つの方法であろう。だ
がそれも構造変動期の貿易の役割を真に正しく評価したものとは到底みなすこと
ができないことはいうまでもない。
わたくしは,P点からQ点への移行は同一量の労働と資本の投入のもとにお
ける価格変化に刺激された生産転換であるから,これを価格効果と見たい。33)そ
32) これが本書第3章における,篠原教授の長期的交易条件不利化論に対するわたくし
の批判の技術的論拠の1つになっている・なお第9章pp・294−6も参照されたい.
33) これは比較生産費に従う国際分業本来の効果である。しかし貿易方向を逆転せざ
るをえないここでの効果は正負両面をもっている.第10.3図でK点を無貿易の均
衡点であったとしよう・P点から(レ点への変化は,lal P点からκ点への変化と,
lb)K点からQ点への変化とに分けうる.(a)は旧貿易方向の放棄ということであり,
従来の比較優位の喪失という損失を意味する・他方は(b)新貿易方向の創出ないし新
§4貿易利益の捉え方
333
してQ点からR点への移行が輸入先行的構造変動に基く生産力効果であり,そ
れこそ構造変動期における貿易(とくに輸入)のcriticalな役割34)であろうと思
う。そういうように2つの効果に分割し,貿易のcriti¢alな役割を正しく評価で
きるような,指数方式が案出しうるものと思うのである。
2.安定的成長期の貿易利益
構造変動を完了した後の経済の安定的成長期における貿易利益の把握について
は,すでに触れたように,貿易乗数論を適用して雇用・所得効果を検出すること
が広く行われている。しかしわたくしには,単的にいって,乗数論は景気循環の
短期現象には著しく有効であるが,長期の経済成長に対する貿易の貢献を評価す
喬には適切でない道具のように思われる。
所得創出の基数となるべきものは輸出量なりやそれとも正の貿易差額なりやの
問題35)は必ずしも重大なものではない。けだし乗数式というものはきわめて形式
的であ、って,お互にヲンシステン、トであるように乗数項と被乗数項とを適当に組
み替えうるからである。問題は現実の経済のどのような状況において何が真に所
得創出の基数となるかという経済学的判断にある。その判断から乗数論は景気循
環に適用しうるが経済成長に適用することは無理だとめ結論にくるのである。
輸出Xの増加のためには直ちに原料輸入ルf。が必要であるのが普通であるか
しい比較優位の獲得という利益である.la)の損失と㈲の利益との比較ということよ
りも・世界の需要状況と価格比率が変れば,それに応じて,la)の損失のいかんにか
かわらず〔b)の利益を獲得するように生産を転換せざるをえないのである・
34) 赤松博士の供給乗数ないし輸入乗数は構造変動期について有効に適用でぎるであ
ろう.赤松要,世界経済の構造と原理,1950,第8章。KanameAkamatsu,“The
Theory of‘Supply−Multi1}lier’in Reference to the Post−war Economic Situa−
tion in Japan,”11纏σ」3げ’舵研∫oお%ゐ43雇z40446卿y,No。1,0ct。1950.渡辺太
郎r資本不足国における輸入の役割」理論経済学,1953・5.
原料や投資用全製品の輸入の役割をも取り入れた乗数式の一層の整備が必要であ
る・それについて示唆的なものは次の論文である.宮沢健一「国際収支と貿易乗数
一原料循環を考慮せる新貿易乗数の提案 」横浜大学論叢,1957・12・同「貿易
乗数と産業連関」経済研究,1953・7・JJ,Polak,“Balance of Payments Problems
of Countries Reconstructing with the Help of Foreign Loans,” Q%σπ6■砂
∫o%”2σ」 げEooπo”z∫63,Feb. 1943,reprinted in Rθσ4魏g3 ∫π渉hθ 7hθoγ夕oプP
1%’67πσがoπσl T〆σ46,ed.by H:.S.Ellis and Lloyd A.Metzler,1949.
35) それについては,小島清,国際経済理論の研究,1952,第8章r外国貿易乗数」
PP・275−305・藤井茂,経済発展と貿易政策,1958,pp、,73−8,参照・
334
第10章 経済発展と貿易利益
ら,被乗数は(X−M.)とすべきである。だが不況から好況に転ずる場合,M、の
ストックが十分にあればXの増加は必ずしも砿の輸入を必要としない。つま
り短期的には輸出全額Xを被乗数とみなすことができ・る。またXの増加が他の
独立項目たる投資1に影響を与えないときにのみ,Xの増分を所得創出の基数
とすることの有意義性がある。短期の景気循環過程においてはXの増加は必ず
しも1の増加を必要とせずして生じえよう。しかし経済成長の長期動態におい
ては,Xの増加は必ずや1の増加を必要とし,そのほかの係数の複雑な変化を伴
うであろう。こうなるとXの変化とその貢献を分離することはむずかしくなる。
これらのことが上の結論に帰着した理由である。r
ところで経済発展とか経済成長のモーター・フォースはいうまでもなく資本蓄
積であるから,安定的成長過程における貿易の役割ないし貿易利益も,資本蓄積
への貢献と、いう視点にしぼって考究することが本筋であろうと思われる。それは
資本への需要すなわち投資機会の創出・拡大という側面と,資本の供給つまり資
本形成という側面とにおける貿易の役割に分けて考察しうる。
第1の資本需要面においては,輸出の拡張が有効需要を高西有利な投資機会を
増大することはいうまでもない。しかも「分業は市場の範囲に依存する」』
いわ
れるように,内需だけでなく輸出需要が追加されることが,国内の分業を促進
し,大規模生産の利益を獲得させ,操業度の上昇を可能にさせ,かれこれ生産の
能率化とコストの低下を実現するのに強力に役立つので毒る。内需だけの小さい
弾力性の需要曲線が,外需が付け加わることによって大きな弾力性のそれにキン
クするということはしばしば経験されるところである。輸出に伴うこのキンク的
需要増大の貢献を過小評価してばならない。結局輸出拡張に伴う需要増大が,有
利な投資機会と生産の能率化とを相互促進的に高めるといえるのである。
上のような貢献をいかに測定すべき・であろうか。その測定方法を詳論しうるま
でに構想が熟しているわけではない。1点だけを指摘しておきたい。つまり乗数
分析のように,・輸出増分そのものを被乗数としこれを乗数倍したものを貿易の経
済成長への貢献とみなしてはならないであろう。そうではなくして,国民所得の
成長率をy,.輸出の成長率を泣であらわすと,後者が前者を上回る分,すなわ
§4貿易利益の捉え方
335
ち(X−y’)だけを安定的成長過程における貿易の資本需要拡大効果と見たい。36)
このことは当然に輸出依存度x/yの上昇をもたらす。だから輸出依存度の上昇
分をこそ,重要な指標と考えたいのである。
それは次の理由に基く。第1に,景気変動過程ではなく長期の経済成長過程に
おいては,輸出の拡張,輸出産業の成長はそれと同率の輸出産業用投資ちの増
大を必要とする。つまり丈は姦のあらわれにほかならないと見るのである。
第2に内需向生産拡大のための投資身の増大がもとより必要である。資本係数
あるいは乗数が期聞中一定であるとす繍丈一ち瓦蚤+《・一諭と
なる。したがってX〉マであるためにはL〉y〉賜という成長率の順序にな
る。だがX/yは日本では多くても20%程度であるから,y≒ゐとみなしてよ
いであろう。.こうすれば叉〉マであることは毒〉ちということであり,淫一マ
盟毛一為という差額分だけ輸出拡大が経済成長をリードしたという結論にくる。
第3に,輸出依存度X/yの増大は,同一利潤率を獲得できる投資機会の拡大が,
輸出産業用投資みにおいて内需産業用投資島よりも急速であったことを意味
するのである。
第2の資本供給面については3つの視点から貿易の役割が吟味されねばならな
い。資本形成率を大き・く左右するものは資本家所得すなわち利潤額である。そこ
で第1に,輸出産業用投資と内需産業用投資とで利潤率が均一で期間中一定であ
るとしても,菜>アしたがって毒〉ちである以上,輸出拡大の資本形成への貢
献はX1「の増大率に比例して大きくなるといわねばならない。第2に,安定的
成長期においては輸入依存度珊yが期首の高い率から期末に向けて漸減するこ
とが考慮に入れられねばならない。日本では輸入は食糧・原料および投資用全製
品であり,それらは内需と輸出向生産のためのコストの一部であると受け取って
よい。そうであるとM/rの減少はそれだけ輸入というコストの節約,したがっ
て利潤の増加をもたらすはずである。そこで安定的成長期には,輸出依存度x/Y
の漸増のみならず輸入依存度ルηyの漸減も,つまり(X/y「一114/y)という貿易収
36) 戦後の日本貿易について興味ある分析が果されている.建元正弘r経済成長と日本
の貿易」経済評論,1958・8・,
336
第10章 経済発展と貿易利益
支改善の成長率が,資本形成に貢献すると見てよい。第3に,商品交易条件の動
きと製品コストの動きとのギャヅプは,利潤率の変化を左右するものと考えてよ
い。商品交易条件が変らないのに投入労働費用が低下すれば,それだけ輸出単位
当りの利潤率は大きくなるからである。
以上のような貿易による資本形成の変化趨勢をあらわす近似的指標として疹要
素所得交易条件を採用してよいであろう5それは、‘
θP、 θQ1
θP。 θQ。
毎σr丑鰍×100
ゴ
∫PD 彦F。.
であった。この指数は商品交易条件変化率IT。に輸出量の変化率ダを揖けたもの
を,投入労働量ではか.った輸出晶コスト∫で割ったものである。』7。と9は大
きくなるほど,∫はコストが低落して小さくなるほど貿易利益を大きくすること
を示す・つまりこの要素所得交易条件指数の上昇率に比例的に』輸出産業の資本
形成率が増加すると解してよい。ただ上の指数は,貿易収支が常に均衡している
か,あるいは均衡している輸出入額についてのみの貿易利益をあらわす。したが
って輸入依存度の漸減から生ずる資本形成の促進を考慮に入れるには,それだけ
修正をほどこさねばならない。たとえば輸出ノ輸入比率を’B−X/114とし,その
変化率をβ、/β。とし, 上式の分子に追加すればよいであろう。
以上は資本家所得一利潤の増加が資本形成の原動力であるという視点から検討
した。だがしばしば輸出拡大を基軸とする国民所得総額と1人当り所得水準の増
大が個人貯蓄率を高めるという理由があげられる。37)これはやはり乗数分析的な
考え方である。だが経済の長期成長過程において個人財蓄率が増大するかどうか
は「相対所得仮説」(消費性向についてのデモンストレーション効果)にかんが
みて,はなはだ疑問とせざるをえない。38)やはり資本家所得への貿易の貢献を重
視せねぱならぬであろう。
37) たとえば藤井茂,経済発展と貿易政策,1958,P,17.だが藤井教授は,別の箇所
(PP。81−2)では,資本家所得の増大を強謂されている。両者のいずれにより大ぎな
役割を認められているのかが疑問とされる。
38) 篠原三代平,消費函数,1958,第5章,参照.
§4貿易利益の捉え方
337
最後にハロッドの成長率理論39)GC−3−6の利用方法について一言しておき
たい。Gは産出高の成長率∠y/y,Cは資本係数∠Kμy−1μヱ s、は貯蓄率
X−M
S/兄δは正の貿易差額率ないし出超率 である。この式が,適正成長率
y
傷が自然成長率G.よりも大きく長期的沈滞にある先進成熟国では,出超率一
対外投資率西だけ貯蓄率Sの一部を減殺することが,その長期沈滞を免れるの
.に必要であり好都合であること,その逆に(㌔〈(}。という状況にある後進未開発
国では対外借入(負の6)を受け入れることが・その過小な貯蓄率を補ってイン
フレ傾向を終東させ成長を速めるということ,すなわち国際投資の貸付国・借入
国双方にとっての調和的な役割とその必要を説明するのに,またそれだけの目的
に用いられている。40)
だがここで疑闘とされるのは,第1に,後進国ないし新興国は雁行形態的経済
発展をとげるのが普通であるとすれば,外資導入の必要は構造変動期にかぎられ
るのであって,常にそれを必要とするわけではないということである。構造変動
を敢行しおえた安定的成長期には,もはや外資導入ではなくして新興産業への海
外市場の開拓・拡張こそ必要である・つまりその段階に達すると先進国の出超で
はなくしてその入超化こそ要請されるのである。ここでもまたハロッド成長率理
論式がどの段階に適用できるかを慎重に考慮しなければならないのである。後進
国が常に外資導入を継続することは到底不可能であり,その利払の負担だけでも
破局的なものになろう。
第2には,ハロッド的成長率理論が上の目的だけに利用されるのでなく,もっ
と広範な問題に適用でき・ないか,そして国際経済の動態理論の中核をなすように
改装できないであろうかという問題である。それにはGC−3という集計量とし
ての1本の成長率ではなく,ハロッドも試みているように,41)輸出部門と国内生
産部門との,少なくとも2部門またはそれ以上に分割した部門別分析モデルに改
39) R.F.H:arrod,To躍4743σP』翅‘z郷∫o Eoo難o”露os,London・1952。
40)藤井茂,前掲書,PP。14−7,PP.84−7.
北川一雄,経済発展と外国貿易,1953,第6部・
入江猪太郎「輸出入成長率にっいての断想」国民経済雑誌,91の5・
土屋六郎r資本供給における貿易の役割」経済学季報,1957・与・
41) R.F.Rarroαン02).o舘.,pp.106−15.
338
第10章 経済発展と貿易利益
装することが必要であろう。さらにはドマール42)のいう投資の有効需要効果と生
産力効果との均衡とかラヅグの問題を入れて,部門別分析を果すことが必要であ
ろう。
経済の発展過程における貿易利益の把握方法について素描だけしか与えること
ができなかった。その正確な展開は今後の硯究に譲ることにしたい。とまれ,容
易なことではないが,切れ味のよい,現実に即した,動態的国際経済理論の確立
が望まれること切なるものがある。
42) Evsey・D.Domar,Es3の73初’hg T加oηげEooπo擁6σγo魏ゐ,Oxford Univ.
Press, 1957, esp.Chap. IV。
339
付
表
第1A表輸出入依存度一戦前……………………一一340
第1B表輸出入依存度一戦後・……一・一…・一・・………342
第2A表.価格・数量指i数一戦前一一…一・………一…b・343
第2B表 価格・数量指数一戦後・一…・……・一一……・344
第3表部門別分析指数…・・………一・一…………一9……・345
第4表 綿織物と生糸の指数一…一……一・一一………一一づ346
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図︵。っ︶
懸量論舞
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一.O卜
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O.一吟
oD.頂
O.寸ゆ
目.一〇っ
ト。卜oo
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O.孕っoう
一.oっゆ
O。卜寸
頃.Oゆ
の.O吟
O.oうの
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一.寒
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表
付
342
付
343
表
第2A表 価格・数量指数一戦前(1913=100)
9m
入数量
Q∫
出数量
(4)
(3)
P∫ ×100P吼純交易条件
年
(2)
Q恥×100Q∫総交易条件
(1)
数
数
1894
95
24.0
26.8
22.3
24.1
107.6
111.2
115.4
130.4
96
97
98
99
1900
35.3
39.7
53.7
41.9
45.1
21.4
28.8
27.4
34.3
29.4
165.0
137.8
196.0
122.2
153.4
125.7
120.9
131.7
135.1
124.4
01
02
03
04
05
42.1
48.6
58.7
61.9
85.0
41.9
42.8
46.3
50.9
50.5
100.5
113.6
126.8
121.6
168.3
111.4
122.7
131.3
06
07
08
09
10
72.7
80.9
74.3
74.5
78.5
59.1
56.9
56.2
65.4
74.7
74.6
88.9
16
17
18
19
80.9
91.0
100.0
84.7
86.8
100.2
94.2
108.7
132.4
131.6
100.0
100.5
119.5
146.0
165.0
、166.0
85.0
92.6
135.8
140.8
13.2
14.9
99.0
126.9
120.7
122.9
128.0
133.1
17.3
17.8
20.4
23.5
25.7
124.3
123.9
28.6
32.1
34.2
40.5
49.5
100.0
107.1
105.5
93.5
89.6
99.1
』121.2
132.4
108.5
104.1
116.9
123.0
142.2
132.2
113.9
105.1
142.3
145.1
131.8
131.3
108.7
117.8
119.7
117.8
120.1
107.3
120.8
108.4
102.4
100.0
107.3
101.9
100.0
104.9
105.9
102.3
工00.0
100.0
84.3
72.6
68.6
57.1
65.5
95.3
12L6
93.6
95.8
100.7
105.2
106.5
105.7
91.8
81.9
100.0
91.2
87.1
98.7
138.9
123.1
106.9
177.9
182.0
199.1
186.0
114.0
130.4
110.2
139.3
170.3
130.4
136.4
165.2
142.9
109.2
113.2
128.7
129.3
112.5
104.4
123.1
124.9
113.2
109.9
26
27
28
29
30
209.4
221.5
216.8
226.9
207.1
177.7
198.4
209.7
232.2
225.0
117.8
111.6
103.4
108.3
109.0
100.4
102.3
102.1
102.6
107.2
108.3
102.5
31
32
33
34
35
241.8
236.9
233.3
252.0
268.4
235.2、
275.1
300.8
361.9
418.5
102.8
36
37
38
280.9
246.3
464.3
478.8
440.3
’20
21
22
23
24
25
150.〇
29893
97.7
92.0
(7)
P忽x100 Pg輸出相対価格
工業生産
数
11
12
13
14
15
(6)
(5)
Pσ×100 P鴨輸入相対価格
97.4
95.4
100.2
86.1
77.6
69.6
64.1
89.0
82.2
72.7
71.4
60.5
62.3
55.9
69.2
60.8
64.5
100.9
96.0
116.8
113.2
12L2
111.9
109.4
101.5
96.2
97.7
95.7
100.8
100.5
94.0
101.4
96.5
90.6
103.0
107.8
102.3
108.7
106.2
(8)
工業労働
産性指数
1914=100)
52.0
60.1
60.0
62.4
72.4
81.0
82.9
100.0
101.5
105.0
100.0
128.1
148.1
166.4
179.5
182.9
102.1
108.1
109.3
105.3
111.2
180.6
210.6
226.3
244.8
251.6
99.0
105.9
’94.1
123.8
131.8
134.0
98.8
93.7
94.5
93.1
289.4
305.8
334.9
371.0
348.4
149.3
156.1
167.5
166.9
185.6
92.3
91.5
83.3
78.2
81.4
78.7
78.0
347.1
381.0
437.4
484.6
522.4
189.0
197.6
208.2
204.9
204.9
93.7
88.3
96.6
73.9
68.9
66.8
557.4
120.3
113.8
101.0
(1)・(2)=第1A表の実質輸移出額Xならびに実質輸移入額Mを1913=100とする指数に直したものである.
1913年においてはX=715。7(100万円),M昂795.2(100万円),したがってM」X=79.5(100万円)の
入超であったが,この入超額はXの11.1%に相当する.
(4)・(5)・(6)=P餌罵輸出価格指数・P肌=輸入価格指数・Pg=一般物価指数・これらは第1A表による・
(7):r本邦生産数量指数」商業経済論叢,16巻3号,1938・11,pp.478−9.
(8)=篠原三代平,所得分配と賃銀構造,1955,p,11.
344
付
表
第2B表 価格。数量指数一戦後(1953=100)
(3)一勉×100
Q盟
輸入数量指数
輸出数量指数
総交易条件
51.3
83.9
56.5
68.6
73.6
87、3
92.4
78.6
79.7
98.5
94.5
100.0
133.3
174.1
138.3
12・7・8
100.0
3ーワ醤
11.7
40.1
78.8
100,0
103.6
108.9
馬一
純交易条件
49
49
1
8
56
F鵬
046
6
34
34
1
52
53
54
55
5
1948
49
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(4)丑L×100
100.0
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100.0
77.7
62、6
99.8
96.2
100.0
102.8
103.7
66.6
97.4
、109.1
97.1
92.7
89.3,
(1)。(2):第1B表の実質輸出額Xならびに実質輸入額Mを1953dOOとする指数に直したものである.
1953年においてはX458,9(10億円)シM=867.5(10億円),したがってM−X=408.6(10億円)の
入超であったが,この入超額はXの8910%に相当ずる・
(4)・(5)・(6)=Pの冨輸出単価指数・」玩罵輸入単価指数・Pg=総合卸売物価指数・これらは第1B・表による・
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346
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143.5
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141.6
133.3
116.2
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194.5
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161.7
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105.3
104.5
109.9
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117.8
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(1913二
100.0
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(10)
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(1923二100)
100)
100.0
106.4
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131.7
148.9
164.0
233.7
234.8
107.8
125.7
119.7
142.0
170.5
209.4
231.0
197.4
215.5
130.1
169.9
130.1
184.0
216。7
200.3
195.6
198.4
206.3
201.5
178.1
152.5
143.1
145.3
218.6
258.4
272.5
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233.5
178.8
169.8
170.7
165.9
124.8
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76.7
276.2
271.7
240.1
251.7
273.4
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117.0
134.1
136.8
140.2
64.8
63.9
64.6
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70.5
62.9
56.8
49.4
51.1
57.2
51.9
43.7
47.8
44.2
40.7
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83.6
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量指数
(1923=100)
一般物
94226
2
18
59
99
0
1
0
11
223餌25
21
69.8
63.7
輸出数
(8)
糸件oo
61
71
81
92
0
1
15
100.0
生産費指数
(7)
生 糸
︶条ー
14
ぬ
綿 織物
プ毅⑧
格指数
格指数
1913
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(5)
︶
糸
価
数
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輸
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輸出価
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(3)
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綿交①一③
(1)
綿織物
物量数
②織騰
綿輸指
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表
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ユ26.6
87.1
103.7
100.0
93.8
84.5
(1)・(2)・(3)・(6)・(7);東洋軽済新報社,日本貿易精覧.1935, 1931年以降は,神戸商大商業研究所,重要
経済統計,第11輯,1938の指数で1930年において日本貿易精覧の揖数にリンクした・
(5)・(10):都留重人・大川一司編,日本経済の分析,第2巻,1955,p.353.
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'*=1jJ
;i :, 1953 ・ 5.
365
索
引
鐙論諜、餓望麗晶更1)
A
赤松 要……94,104,111,128,215,258,306,
Corden W.M.一…一………薗一一……292
D
307,338
ダグラス函数……………160》196,224,259
悪循環説一……一97,104,114,117,125,129
第1次商品・・一…・………じ…・一…一24》115
的経済発展…一・…132,133,142,143,
大規模生産の利益…146,234,242,254,258,
150,272,275
322
安定的成長期・……・…一…一・307,311,333
第3次産業・・一……一…・…9・・一56,64,75
青山秀夫一…………・…42・63・3q6・313・317
代用弾性…・・………!一・・………………響『・117
AubreyレHenry G.…一……・……・・一4,21
Dani6re,Andr6・………・……・…………202
B
デフレーター………一・・一り・…∵………43
デモンストレイション効果一一…293,336
馬場啓之助…一・・一・……・…・…・一42,327
Diab,Amine Muhamand……………202
Baldwin,Robert E.……一・・………・・…107
Domar,Evsey………り一…・・…………・・338
Balogh,T.…一………._,_・・=…一………4
ドル不足一・一…………・・1ン4,2457246,253
米価率一………・一一・一・一一…130y139
同質化一・一………一・・一一……22,242
Bensusan−Butt7D.M.一…・……・…・…・223
DouglaSp P.H.・………一一…・一・………224
biased improvement………一一・一…・292
貿易乗数論一………………・………一…・333
E
一結合度…・……一・一・・2,14,22,32738
海老原武邦一・…………一…・一・一……・…191
一利益一89,100,123ン2277233,236,324,
Eckaus7R.S.一・一… 。・一一一・り一り一・・一223》299
326β27
Economic Integration… 一畠一・一一一り・・幽一243
一市場一………………・一・…一40,13,220
Ellinget,Bamarαand H且gh−g・・……・180
一収支 一・・一一・一・一D一・一一一一。…・一・一82ン85
援 助 一一一一一一。・一一・一一一一一・90,93,318
Brown,A.J.一甲一……………・……………14
遠隔新輸入市場…・・一……一甲…一一……30
ブラウン指数…・……一……・……2,14,15
異能率段階化一・……………一3一……・…219
部門別分析一………………・…一・一…・一56
同質化………一9一ひ・…り・……254
C
Chang, Tse Chun…・…_・…・・…………42
異質化…………一◎一・・一ひ…254
異質化一・一・一…一・・……一922,242,254
賃金格差……一…………薗一・…129,165,170
F
低 …・… 一99・129,130,150・153・162
Forchheimer2K.………1737176,177,205
調和的(経済)発展一133,142,143,149,272
藤井 茂…………42,327,330,333,336,337
中進国…一………40,13,20,164,184,293
藤野正三郎一・一・…一……・g・・…一・……126
366 索
引
藤沢袈裟禾U −264
比按資本係数格差………一・一……ひ…・・485
不等価交換 ………・一…・243,247
一資本生産能率…一……………・……168
G
一的 (性格)一一一一。156,187,188.,190,191
Hilgerdt,Folke一…・……………………111
外部経済…………一……6………………313
比率の比率…・…一一一…・…154,166》188
外地米移入………………一響……一・一…・141
Ho廷mam7Walther G.…………一……・104
外貨蓄積……一…………・………一…一318
Huやer・J・Richard……D…一一………り102
一手取率一………………・・一…9一・61,64
Humphrey,Don D.一・……一・一…・一孕…4,21
外国資本……72,83,104,120,121,152,318
技術係数…………一一一・一・…157,192ン193
,一
歩・………・9一……・一・・……・…・…124
1
市村真一……一9・…一…・……………14,99
雁行形態一216,218,220,306,308,317,320
1mlah,Albert H.一…1…………・……103
Graham7D一……・…………・り・…・・一……・239
1mport content… 一一・一一・9・・一一・一・・一56781
H
花原二良匡一・一・一・一一一… 一・一一一・一一一・。『一一・97
董[arris,S.E.………………一・………一・…4
入江猪太郎・……・…………・……………337
」
弱蓄積・一一………一・…………2647271
Harrod,R.F.……………一…。一…9192,337
実質賃金一・一一一…・…………127,324
林 雄二郎…………・……・・……一……9…72
JohnsonンH.G.………………一・…190,290
Heckscher,Eli………………・…・・一・一・191
JonesラR.W.・・一…………一・……1987202
ヘクシャー=オリーン理論………一……・191
重化学工業化……22,53756,61,70,75,146
日比野勇夫………………一曾一;一…一…286
純資本形成率・・………………・一……・・226
Hicks,J.R.一………………・一β190,2467292
乗数効果………………一・…・………・』…327
非完全特化の条件…一……………・243,288
比較弾力性・ ………………一…一 ・・……・ 90
需要の所得弾力性・…………一…響116,190
一技術係数………………一り齢」辱一・……157
K
需要成長率………・……・…・………190
海外投資一…・r………一・…………149,247
一格差…………一一・…一g一一1667204
金森久雄…一……………・42,44,56,65,165
一賃金格差………130,167,1807205,206
完全特化…・…・一……・……・・……288,301
一能率格差…一一一P・・9・・…・…………180
為替ダンピング……………一…・………108
一利潤率格差一……・・一……・………168
一相場一…………一・……155・15弓7188
一労働分配率格差…一……一…167,206
郎餓輸出……一………ひ一一…………・』81
一労働能率格差一・・……・一167・205,206
Kindleberger,Char真es P。……4,101,1037
一成長率………一………・……………263
一生産費………一一…・………279,320
238,282,284,290
一生産費説…F・…1一…一響…・一154,187
一格差………………・『・………………209
一生産費の動態化・…・監乙…一一・…191,203
ゴヒ刀1二雄 一。一r一・一・・一r一曹一。一曾一一・。乙晶一・一337
均等鼓術係数格差・一・一……・…・161,197
一生産変動量一………………・………195
木内 孝………………一・……………・・…噸42
一生産要素比率…・…一・一……・……157
・高度補完関係…一一………・……∴・13,20
壷小
367
引
高度異質化…11,22,28,35,38,218,242,254
交易条件一 一94,96,139,323,324
一82,89,117
純
生糸 ………9一……・………125
綿織物 。_____ゆ_..,響__p、一薗125
総 _隆_◎____,__・一一一一一96,117
商品 一・94,95,101,109,123,290,
331
所得 。一95,96,108,109,110,123
要素 ………96,124,236,243,290
要素所得 一・…・…一・96,124,336
小島 清……21,42,81,89193,94,96,107,
114,124,143,190,203,246,285,287,290・
292,329,330》333
小宮隆太郎………………………………240
国内拡充の局面………41,62,64,75,83,318
・一 場狭墜…一…………・一97》987108
国際分業構造係数……』…………・…26,29
一収支困難…………65,100,117,246,319
一競争カ……9,10,129,130,153,187,279
M
MacDougall7Donald 一・……・……・・4,176
Machlup,Fritz……………・…一…一・…290
MandelbaumジK.…………一・…・……265
Manδilesco, M.ゆ一一一一一・… 一ひ一・・一一・・り・209
Marris7 R. 1,.。一響一一り… ””””響r一一・・一り”114
Marshal1,Alfred…・“……・・りg…・…・…286
松井 清 。一一・一・9一・一一』一一。・94,97,150,220
McKenzie,Liouel一一・。一一・一一・一・一一薗一。240
Meade,J.E。 一一・一一223,243,257,286,307
Meier,Gg M.…響……・………・…………282
Metzler》Lloyd A.………………一・……259
三菱経済研究所…………り……………ρ…・3
宮沢健一……一………・・…………264,333
]M[organ,D.J9 ・………………・・………114
Morgan,E.V.・……………一…………290
無形の生産要素…………一……・………257
無差別曲線一…………・…9……………328
Myfdal7Gunnar・・一一… 一一… 一一一一一。一・243
一的要素価格均等化論一一203,223.243,
N
257,298
Kravis,Irving B.…174,175,181,182,205,
209
中山伊知郎…・…
・100
強 蓄 積 ・一・一・一・・一一一・。一・一一一一一・264,271
名和統一…一…
・94,97,220
恐慌時輸出 。一・一。一一・・一・一・一一一一一一一一。112
Ne1SQU, R.R.D”璽
−235
供給乗数………………一9・・……・………333
1』
Lancaster, K.”一一 一 一 ・ ・195,202
1,aursen,Svend……・… ・… 203,223
Lebergot㌻・ Stanley …・
,,
一175
Leontief,W.W.……… ・ ・176,202
Liesner7 }{. E.一・一一・”。g
・・42,70
List,F.一・……………一・・… ・330
Lockwood,William W.
一。
7,100,102,116,
123,327
日本貿易精覧・…
−43,577120
.二重構造………・
・165,184,325
二面性一………
・32
野田 孜……一…
・42,140
農工業国間の貿易一
_21
能率段階………
−226,267
逆転…・
−274
格差哩…
_277
能率化選好……・
−270
本源的利益
−236
的構造変動
−316ン320
Nurkse,Ragnar…
”235,265
368
索
引
生産性改善…・・……………・一・∴一124ン125
0
一多様化・一・216,234,271,298,304,317
Ohlin,Berti1・ 一191,209,234
生産要素の配在比率……………・・…・…157
大川一司一 ……・42,105,135,148,264
国際的移動……………・・甲一・258
大来佐武郎・… ・一………・…・・164
セッ ト域 ・一・一一一一一一二。一・一・一。・一。一一一・・228
柴田銀次郎………………一『……………122
P
柴田 裕げ………………・・………………259
Paish,P.W.…………
PolakJ.J.…一……
一114
資源配分……49,70,199,224,227,228,268,
−427333
273,298,325
プライス・メカニズム・
1
比重………一一一・……229少268
Rr
一比率段階……………・・…曹…………268
一転用の弾力性一238,296,297,298,304
Ranis,Gustav……………・……一……272
資本分配率(分け前)一・・160,168,207,224
レオンチェフの逆説………………一・…202
一蓄積率一・…143,147,151,221,264,321,
Re観bens,Eαwin P.………………311,314
334
リニア・プログラミング………一!……240
一移動一・……………・………………119
Robinson, Joan……… …133,222,237,264
篠原三代平……94,97,98,99,100,102,113,
Robinson,Romney一……一…・223,298
118,125,1292130,131,138,139,147,149シ
労働分配率(分け前)……127,137,151,160.
170,173,185ン190,224,2647277,306,326,
167,197,204,224,324
3361
Rostow,W.W。______.,………103
白石 孝一一一一・一一一一。一一一。… 一一一一94,111
Rybczynski,T.M.、……・孕…一一…・…二299
Singer,E.W.・…・・…………p・・…264,282
S
T
Samuelson,P。A.……………203,243y286
大量生産の利益………一…h…一・………185
産業発展の雁行形態……………』…・齢…215
女寸ミ茜投資 一・一一一・一一・・一一・一・一一・一一一・・一122
一不均等発展……………一・・………252
一均衡的成長………………一・………105
一構造安定期…………一一・………123
一構造転換期………………104,146,271
建元正弘…42,78,94,98,116,152,176,191,
335
多様化選好……………一・一……………271
的構造変動……一…一…響320,322
三環節論………………一響………………220
Taussig7F.W.・…・…・…一…・一…・209
Sc五10te,Wemer………………・・…・112,220
逓減生産費……一………・薗……………287
成長率理論………………一・………327,337
等価交換………………一・…………243,247
関 桂三・…・……………『…………179,180
特需……』・………・・『』・…………・…甲・9D
生産アトモスフイア(環境)…157,191,257
、等能率段階化…・・1…………一・…………219
一技術係数……………………………193
向質イヒ’……………・一242,254
一函数域……・……・ご…一『……………299
異質化…………一・…一・242,254
一能率化・・…・217,219,225,234,266,320
投入規模・産出量比例の法則
一力効果……………一・9・…一…330,333
(constantretumstoscale)……160シ
索
東洋紡績経済研究所………一・……・…177
”.”度
等生産量曲線…………一……・…………200
粛格三存
価健依
信素沢入
吉要行輸
196,201,224,229,234
東洋経済指数・…・・…一……・・一…・…・101
Trif五n7Robert・一一一… 一孕孕r……・・■…… … 4
土屋六良B 一一・一・・一。一・隆甲一一一… 一・一・・一・・一337
369
引
原料
−94
・}
28・250・266・277
−205
・・40,42,67,310
一58,62
全製品 ……・一………………70
輸入乗数一…甲…一…・…プ………一一・333
u
内田穰吉・……………・…『一一…………・97
内田忠夫……・・一…・…・置…一・…一42,51
一能カー一・…一・・……一▼・・一・95,124
一性向………一………し・…・…・…一……P42
一先行的構造変動…71,73,74,83,85,307・
上野裕也一・…一………・甲…一一・…・42,152
311,329
梅村又次…・・…一……一・……1367137,139
一単価指数…一……・……・・…・一43754
V
111}117,1247127,132》150,315,3177319ク
Viner7Jacob・一……・…・・一…・1752204・209
322,324
輸出ドライヴ……89}99,104,1057108,110,
一依存度一・・一』一一・・一・40,112,113
W
一結合度……………一一一響……一一26ン33
渡辺太郎_,._』..94,、9、,2。2,2。3,263,333
一性向・…・『…………・・…・……………・隆・80
Whitin7T.M.・…・一…一一・…・甲一240
一伸張の局面・一一一41,62,64,75,83,317
一単価指数…P・・…………・・一…………・一43
Y
由田盛太郎…・………一…一・一…____g7
山田雄三一9一一一。一9−7一一一・一e・… 一・一・42ン143
幼稚産業保護論………一・……・………330
吉村正晴・………一…・・P・……一…一層一・置97
Z
在外正貨 …一■・一・・『…9・・一『・一………119,152
ZupnickフEIliot…………一・・…一……一・…4
日本貿易と経済発展
蠣
昭和 33 年 9 月 20 日 印 届1』
清治吉堂
印刷者
小国大株
発行者
孝
正報
島 技
元沼社
絵
著 者
昭和33年9月30日発行
印刷所
発行所難国元書房
東京都千代田区神田五軒町一
ら マ
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