Eimeria.acervulina (Ea) 、 E.brunetti (Eb) 、 E.maxima (Em) 、 E

鶏 コ ク シ ジ ウ ム 病 の 診 断 に お け る リ ア ル タ イ ム PCR の 活 用
紀北家畜保健衛生所
○鳩谷珠希
亀位
山田陽子
徹
豊吉久美
【背景および目的】
鶏 コ ク シ ジ ウ ム 病 は Eimeria 属 原 虫 の 寄 生 に よ る 腸 炎 を 主 体
と す る 疾 病 で 、 育 成 率 や 産 卵 率 な ど の 生 産 成 績 を 悪 化 さ
せ 、 養 鶏 産 業 に 多 大 な 被 害 を も た ら す 。 本 県 の 病 性 鑑 定
成 績 に お い て も コ ク シ ジ ウ ム が 関 与 し た 事 例 が 少 な く な
い 。
本 病 の 診 断 は 、 鶏 の 症 状 や 糞 便 中 の オ ー シ ス ト 数 、 病
理 組 織 検 査 に よ り 実 施 し て い る が 、 Eimeria 属 の 特 定 は 形
態
学
的
観
察
の
み
で
は
困
難
で
あ
り
、
こ
れ
ま
で
E i m e r i a . n e c a t r i x 感 染 の 一 例 を 除 き 、本 病 と 診 断 す る の
み で あ っ た ( 図
い る
5
種 類 の
1 ) 。 そ こ で 今 回 、 国 内 で 問 題 と な っ て
Eimeria 属 に つ い て 、 リ ア ル タ イ ム
P C R ( r P C R ) に よ る 検 出 を 試 み 、 過 去 に 本 病 と 診 断 し た
事 例 に つ い て 追 加 検 討 を 行 っ た 。
【材料および方法】
2006~2013 年に鶏コクシジウム病と診断した 7 症例のうち、ホ
ルマリン固定時間が長く、遺伝子検査に適さない症例を除く 5 症例
(症例 1~5)の腸パラフィン標本、計 12 羽分を用いた。
腸 パ ラ フ ィ ン 標 本 を 薄 切 し 、 市 販 の D N A 抽 出 キ ッ ト を 用 い て DNA
を 抽 出 し 、必 要 に 応 じ て D N A の 精 製 と 濃 縮 を 行 い 、r P C R に 供 し た ( 図
2 ) 。川 原 ら の 報 告 ( 2 0 0 8 ) を も と に 、 E i m e r i a . a c e r v u l i n a ( E a ) 、
E.brunetti(Eb) 、 E.maxima(Em) 、 E.necatrix(En) 、
E.tenella(Et)にそれぞれ特異的なプライマーを作成した。rPCR
は SYBR GreenⅠを用いたインターカレーター法で行い、増幅産物
の 融 解 曲 線 分 析 で 得 ら れ た 波 形 と T m 値 に よ り 、陽 性 対 照 と の 相 同 性
を確認した。なお、陽性対照は、日生研株式会社から分与されたも
のを用いた。
【結果】
陽性対照 5 種類の T m 値は E a 、E b 、E m 、E n 、E t の順にそれぞれ
87.0℃、81.5℃、80.0℃、79.0℃、86.5℃で川原らの報告と同
様の傾向であった(図 3)。
< 症 例 1>
○概要
2013 年 5 月 発 生 、 採 卵 鶏 2 羽 (No.1~ 2)、 153 日 齢 、 産 卵 率 低 下 の
原因究明。
○ 腸 の 解 剖 ・ 病 理 組 織 所 見 (図 4)
小腸粘膜に偽膜形成し、偽膜形成部位に出血と多数のシゾント確
認 (No.2)。 十 二 指 腸 ~ 空 回 腸 粘 膜 固 有 層 深 部 に 第 2 代 シ ゾ ン ト 多 数
形 成 、 異 物 巨 細 胞 性 肉 芽 腫 形 成 (No.2)。
○ 推 測 さ れ る Eimeria 属
病 理 組 織 所 見 か ら En 感 染 と 診 断
○ rPCR 結 果 (図 5)
No.2 か ら En 検 出
○最終診断
En 感 染
< 症 例 2>
○概要
2012 年 10 月 発 生 、 採 卵 鶏 3 羽 (No.1~ 3) 、 50 日 齢 、 死 亡 羽 数 増
加の原因究明。
○ 腸 の 解 剖 ・ 病 理 組 織 所 見 (図 6)
小 腸 腫 大 ( No.1~ 3)。
十 二 指 腸 : 粘 膜 表 層 ~ 固 有 層 に 有 性 生 殖 期 の 虫 体 (マ ク ロ ガ メ ー
ト、ザイゴート、未熟オーシスト等)多数寄生
空回腸:粘膜固有層~深部に有性生殖期の虫体多数寄生
盲腸:粘膜上皮~固有層に有性生殖期の虫体多数寄生
○ 推 測 さ れ る Eimeria 属
十 二 指 腸 、 空 回 腸 へ の Ea、 Eb、 Em、 盲 腸 へ の Eb、 Et 寄 生
○ r-PCR 結 果 (図 7)
3 羽 全 て か ら Eb、 1 羽 か ら Em 検 出
○最終診断
Eb、 Em の 混 合 感 染 と 診 断 し た 。
3 羽 か ら Eb が 検 出 さ れ 、 Eb の 病 原 性 が 比 較 的 強 い こ と 、 1 羽 か ら
Em が 検 出 さ れ 、 Em の 病 原 性 は そ れ ほ ど 強 く な い こ と か ら 、 症 状 や 病
変 は Eb 主 体 と 判 断 し た 。
< 症 例 3>
○概要
2010 年 1 月 発 生 、 肉 用 鶏 3 羽 (No.1~ 3) 、 82 日 齢 、 斃 死 の 原 因 究
明。
○ 腸 の 解 剖 ・ 病 理 組 織 所 見 (図 8)
小 腸 粘 膜 充 血 (No.1)、 内 容 物 チ ー ズ 様 (No.1,2)
十二指腸:粘膜固有層~深部に有性生殖期の虫体多数寄生
(No.1,2)
空 回 腸 : 粘 膜 表 層 ~ 固 有 層 に 有 性 生 殖 期 の 虫 体 多 数 寄 生 (No.1,3)
盲 腸 : 内 容 物 に 多 数 の オ ー シ ス ト (No.2,3)
○ 推 測 さ れ る Eimeria 属
十 二 指 腸 、 空 回 腸 へ の Eb、 Em、 盲 腸 へ の Eb、 Et 寄 生
○ rPCR 結 果
1 羽 (No.3)か ら Et 検 出
○最終診断
Et と Eimeria 属 の 混 合 感 染 と 診 断 し た 。
N o . 3 か ら 盲 腸 に 寄 生 す る E t が 検 出 さ れ た が 、十 二 指 腸 と 空 回 腸 に
寄 生 す る Eimeria 属 が 検 出 さ れ な か っ た こ と か ら 、 rPCR に よ る 検 出
は不十分と判断した。
< 症 例 4>
○概要
2009 年 9 月 発 生 、 採 卵 鶏 、 46 日 齢 (No.1,2)、 中 雛 斃 死 の 原 因 究
明。
○腸の解剖所見
小 腸 内 容 血 様 物 (No.1)、 小 腸 粘 膜 点 状 出 血 (No.2)、 小 腸 粘 膜 肥 厚
(No.1)、 小 腸 に 鶏 回 虫 1~ 2 匹 寄 生 (No.1~ 2)
○ 腸 の 病 理 組 織 所 見 (図 9)
十二指腸:粘膜上皮を中心に有性生殖期の虫体軽度~重度寄生
(No.1,2)、 内 容 物 に 多 数 の オ ー シ ス ト (No.1)
空 回 腸 : 粘 膜 固 有 層 深 部 に 第 2 代 シ ゾ ン ト (No.1,2)
盲 腸 : 粘 膜 上 皮 ~ 固 有 層 深 部 に 有 性 生 殖 期 の 虫 体 (No.1,2)、 内 容
物 に 多 数 の オ ー シ ス ト (No.1,2)
○ 推 測 さ れ る Eimeria 属
十 二 指 腸 へ の Ea、 空 回 腸 へ の En、 盲 腸 へ の Eb、 Et 寄 生
○ rPCR 結 果
い ず れ の 鶏 か ら も Eimeria 属 検 出 さ れ ず
○最終診断
En と そ の 他 Eimeria 属 の 混 合 感 染 と 診 断 し た 。
空 回 腸 の 病 変 か ら E n 感 染 が 特 定 で き た が 、r P C R で 何 も 検 出 さ れ な
かったため、感染種を特定することはできなかった。
< 症 例 5>
○概要
2006 年 7 月 発 生 、 採 卵 鶏 2 羽 (No.1,2)、 142 日 齢 、 斃 死 の 原 因 究
明。
○腸の解剖所見
空 回 腸 腫 大 し 偽 膜 形 成 (No.1,2)
○ 腸 の 病 理 組 織 所 見 (図 10)
空 回 腸 : 上 皮 ~ 固 有 層 に 有 性 生 殖 期 の 虫 体 多 数 寄 生 (No.1,2) 、 粘
膜 の 壊 死 ・ 剥 離 (No.2)
盲 腸 : 粘 膜 出 血 (No.1,2)、 粘 膜 の 壊 死 (No.2)、 内 容 物 に 多 数 の オ
ー シ ス ト (No.1,2)
○ 推 測 さ れ る Eimeria 属
空 回 腸 へ の Ea、 Eb、 盲 腸 へ の Eb、 Et 寄 生
○ rPCR 結 果
い ず れ の 鶏 か ら も Eimeria 属 検 出 さ れ ず
○最終診断
鶏 コ ク シ ジ ウ ム 病 (Eb の 関 与 疑 う ) と 診 断 し た 。
空回腸と盲腸に有性生殖期主体のコクシジウムが確認され、発症
日 齢 も 142 日 齢 と 産 卵 開 始 時 期 で あ っ た こ と か ら Eb の 関 与 を 疑 っ た
が確定することはできなかった。
【考察】
腸 パ ラ フ ィ ン 標 本 か ら DNA を 抽 出 し 、 r PCR を 実 施 し た 結 果 、 症 例
1 ~ 2 で は 、病 理 組 織 検 査 で コ ク シ ジ ウ ム が 確 認 さ れ た 全 て の 鶏 か ら
Eimeria 属が検出され、感染種を特定することができた。しかし、
症 例 3 ~ 5 の 過 去 4 年 以 上 前 の 症 例 で は 、1 羽 か ら 検 出 さ れ た の み で 、
感 染 種 を 特 定 す る こ と は で き な か っ た ( 図 1 1 ) 。P C R の 効 率 は 固 定 ・
包埋されたパラフィン標本の状態に直接左右されると言われてお
り、時間経過等何らかの要因により遺伝子が検出されなかったもの
と推察した。パラフィン標本を用いて rPCR を実施する場合は、パ
ラフィン標本の状態により遺伝子が検出されない場合があるので、
病理組織検査を併用して検出漏れがないか確認することが必要と思
われた。
症例 2 については、今回 rPCR を実施し内容を再検討した結果、
Eb による発症事例と判明した。Eb による症状や病変はそれほど特
徴 的 で は な く 、他 の E i m e r i a 属 と 混 同 さ れ る こ と 等 に よ り 、国 内 で
の発生報告事例は少ない。川原らは 2006~2007 年に国内浸潤状況
調 査 を 行 い 、E b は 特 に 種 鶏 お よ び 採 卵 鶏 農 場 で 高 率 に 浸 潤 し て い た
と 報 告し て い る 。E b は病 原 性 が 比較 的 強 いに も 関 わ ら ず 、ワ ク チ ン
が開発されておらず、発症時期も一様でないことから、農場への浸
潤が判明した場合は十分な注意が必要である。
パラフィン標本を用いた rPCR は、混合感染の場合等、病理組織
検査等形態観察のみで Eimeria 属を特定できない場合に有用であ
ることがわかった。今後はパラフィン標本だけでなく、現場の状況
に応じて、腸管や糞便材料にも rPCR を活用していきたい。
r P C R を 鶏 コ ク シ ジ ウ ム 病 の 診 断 に 取 り 入 れ る こ と で 、感 染 種 を 特
定 す る こ と が 可 能 と な っ た 。E i m e r i a 属 は そ の 種 類 に よ り 、発 症 し
や す い 時 期 や 病 原 性 が 異 な る 。特 定 し た E i m e r i a 属 に 応 じ て 、ワ ク
チン接種等の衛生対策を検討し、これまでより踏み込んだ農場指導
に役立てたいと考えている。
【参考文献】
1)Kawahara, F. et al:Detection of Five Avian Eimeria Species
by Species-Specific Real-Time Polymerase Chain Reaction Ass
ay.Avian Dis
2)矢 野 敦 史 : パ ラ フ ィ ン 標 本 を 用 い た リ ア ル タ イ ム PCR に よ る 鶏 コ
ク シ ジ ウ ム 病 の 分 類 . 平 成 22 年 度 全 国 家 畜 保 健 衛 生 業 績 発 表 会 抄
録
3) 川 原 史 也 : 鶏 コ ク シ ジ ウ ム 症 と 壊 死 性 腸 炎 を 再 考 す る . 鶏 病 研 究
会 報 49, 19-24(2013)
4)川 原 史 也 : 鶏 コ ク シ ジ ウ ム 症 の 対 策 お よ び 今 後 の 戦 略 . 鶏 病 研 究
会 報 48, 185-191(2012)
5)角 田
清 : コ ク シ ジ ウ ム 病 . 日 本 畜 産 振 興 会 , 253-263(1969)