OQ通信第16号 - 日本建築防災協会

被災建築物
第
16号
平成26 年3 月24日
応急危険度判定
OQ通信
○応急危険度判定・被災度区分判定の経緯
応急危険度判定は、余震による二次災害を防ぐため
1989年(平成元年)に「ATC-20」と呼ばれる被
に地震発生後出来るだけ迅速に行われる被災度の判
災度判定マニュアルが作成され各自治体では判定体
定です。この様な判定は、過去には、行政担当者、建
制の整備が進められ、その後発生したロマプリータ地
築士、学識経験者などによりそれぞれ独自の判断で個
震やノースリッジ地震等では大きな成果をあげた経
別に行われてきました。しかしながら、この様な判定
緯があります。
を独自に行うのはそう簡単ではありません。経験と直
国内では、総合技術開発プロジェクト「震災構造物
感で被災建物の安全、あるいは、危険を短時間に判定
の復旧技術の開発」の終了後、その成果の普及版とし
しなければならないからです。災害の規模が小さいと
て、平成3年に一般財団法人日本建築防災協会より
きは個別の判定でよいが、災害の規模が大きくなると
「震災建築物等の被災度判定基準及び復旧技術指針」
判定が必要な建物の数も多くなります。恐らく従来の
(応急危険度判定及び被災度区分判定)が発刊された。
個別対応では間に合わなくなるでしょう。この様な考
その後応急危険度判定については、兵庫県南部地震等
えより、震後の被災建物の危険度の判をあらかじめ用
での実施体験を踏まえ、応急危険度判定が迅速かつ適
意されたマニュアルにより、トレーニングされた技術
切に行えるよう平成8年に「被災建築物応急危険度判
者により組織的に行うシステムの必要性が1980年
定マニュアル」が作成されました。
頃より認識され始めました。
また、技術的な基準が整備された後、実際に判定活
1980年(昭和55年)南イタリア地震の際、被災
動を行う応急危険度判定士を養成、登録する応急危険
度判定がやや組織的に行われたことを契機として、国
度判定士認定制度が1991年(平成3年)に静岡県、
内では建設省(当時)が1981年(昭和56年)から
1992年(平成4年)には神奈川県で制度化され、そ
総合技術開発プロジェクト「震災構造物の復旧技術の
の他の各自治体においてもうごきが広がりました。国
開発」を進め、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造建
内で初めて応急危険度判定が実施された阪神・淡路大
築物の被災度判定法から復旧技術までの一貫した手
震災以降、応急危険度判定体制全国的な整備が進めら
法の開発が推進されました。
れ、平成8年に全国被災建築物応急危険度判定協議会
この間、1985年(昭和60年)にメキシコ地震が
起こり、ほぼ完成していた鉄筋コンクリート造建築物
が設立され、その後各地で発生した地震において成果
をあげています。
の被災度判定法を適用して国際協力として実施され、
その成果が検証され、その妥当性が確かめられました。
これを機に米国でもその重要性が認識され、
問い合せ先 :
TEL
FAX.
発行/全国被災建築物応急危険度判定協議会
ホームページアドレス http://www.kenchiku-bosai.or.jp/oq/※OQ 通信のバックナンバーは協議会 HP から閲覧でき
ます。
応急危険度判定・被災度区分判定の歴史
年
代
摘
要
実施主体
1980 年
イタリア南部地震において応急危険度判定試行
イタリア
1981 年
総プロ「震後建築物の復旧技術の開発」の作成
日本
1985 年
応急危険度判定、被災度区分判定の原案
日本
メキシコ地震で上記原案を用いて判定実施
JICA 日本チーム
応急危険度判定の開発開始
アメリカ
応急危険度判定基準(ATC-20)を作成
アメリカ
ロマプリエータ地震において応急危険度判定の適用
アメリカ(サンフランシスコ)
1991 年
震災建築物等の被災度判定基準および復旧技術指針の発刊
日本建築防災協会
1992 年
応急危険度判定士制度の発足
静岡県、神奈川県
1994 年
ノースリッジ地震において応急危険度判定の実施
アメリカ(ロスアンゼルス市、サンタモニカ市)
三陸はるか沖地震において被災度判定の試行
八戸市
1995 年 1 月
兵庫県南部地震において応急危険度判定の実施
神戸市他
1995 年 12 月
新潟県北部地震において応急危険度判定の実施
新潟県笹神村
1996 年 4 月
全国被災建築物応急危険度判定協議会設立
(以下「全国協議会」
)
1996 年 8 月
宮城県北部地震において応急危険度判定の実施
鳴子市
1997 年 3 月
鹿児島県薩摩地方を震源とする地震において応急危険度判定の
鹿児島県宮之城町、鶴田町
1989 年
5月
実施
1998 年 1 月
被災建築物応急危険度判定マニュアルの改定
日本建築防災協会,全国協議会
1998 年 7 月
民間診断士に対する補償制度を運用開始
全国協議会
1999 年 9 月
初めて全国規模での連絡訓練を実施
全国協議会
1999 年 9 月
トルコ・マルマラ地震において、建築物危険度診断(応急危険 建設省、兵庫県、大阪府等
度判定)専門家が派遣され、危険度診断実施に関する技術支援
を実施
1999 年 10 月
台湾・集集地震において、建築危険度判定(応急危険度判定) 建設省、兵庫県、大阪府等
専門家が派遣され、危険度診断実施に関する技術支援を実施
2000 年 12 月
鳥取県西部地震において応急危険度判定の実施
米子市、境港市他
2001 年 3 月
芸予地震において応急危険度判定の実施
広島市、呉市他
2001 年 9 月
震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針の改定
日本建築防災協会
2003 年 7 月
宮城県北部地震において応急危険度判定の実施
宮城県矢本町、鳴瀬町他
2004 年 10 月
新潟県中越地震において応急危険度判定の実施
長岡市、小千谷市他
2005 年 3 月
福岡県西方沖地震において応急危険度判定の実施
春日市他
2007 年 3 月
能登半島地震において応急危険度判定の実施
七尾市、輪島市他
2007 年 7 月
新潟県中越沖地震において応急危険度判定の実施
柏崎市、出雲崎市、刈羽村他
2011 年 3 月
東北地方太平洋沖地震等において応急危険度判定の実施
仙台市他
訓練コーナー
タブレット型情報端末機器を活用した応急危険度判定模擬訓練について
静岡県くらし・環境部建築住宅局建築安全推進課 川合健司
●はじめに
●比較
静岡県では、H24、25 年度と供試建物を利用した応急危
険度判定模擬訓練において、
(独)建築研究所の協力を得てタ
2つのツールについて、実際に使用した判定士の意見を基
に良い点、悪い点を整理してみました。
ブレット型情報端末機器(iPad 等の iOS 機器)による応急
危険度判定支援ツール(以下「判定支援ツール」という。
)を
試験的に活用し、従来の紙による調査票を使用した判定方法
表2-1 配布における比較
区分
(以下「従来ツール」という。
)による判定と併用して実施し
てきました。表1のとおり事例も3件となったことから、実
良い点
際に使用した上での両ツールの良い点、悪い点について比較
することとします。
悪い点
表1 判定支援ツールによる訓練実績
年度
24
24
実施主体
藤枝市
木造平屋
参加判定士
13 班 27 名
鉄骨造 2 階(格技棟) 20 班 40 名
磐田市
鉄筋コンクリート造2階(校舎)
富士市
富士宮市
うち10 名使用
区分
良い点
鉄骨造 2 階(体育館) 20 班 40 名
鉄筋コンクリート造4階(校舎)
うち20 名使用
●静岡県における取り組み
平成 24 年度の藤枝市での模擬訓練では、タブレット型情
悪い点
判定支援ツール
基本情報(個人名や番
号など)の自動反映、
プルダウンによる選択
で省力化が図れるほ
か、入力ミスが減少す
る。
タブレット等の入力や
保存方法に慣れる必要
が有る。
報端末を活用した応急危険度判定を全国で初めて実施しまし
た。日中強い日差しの中で実施すると、画面が見にくくなる
ことや、うまく保存できない場合があるなどの不具合も一部
見受けられましたが、タブレットのタッチ操作に慣れた若い
判定士からは、建物の傾きを図るアプリなどの利用でこれま
でより短時間で調査を終了できたなどの意見をいただきまし
た。
平成 25 年度の富士市での模擬訓練時では、前年度の倍の
10 台のタブレット型情報端末が用意できたため、参加者の
半数の方が判定支援ツールを経験することができました。事
前に会議室において入力方法等を予習した上で訓練に臨んだ
ことや、昨年のエラー内容等を改善したツールが配布された
ことで、システムトラブル等もなく、判定支援ツールを使用
従来ツール
既に実施本部で配
備済
実施本部にて判定
グッズの受領が必
要
表2-2 入力における比較
(市営住宅:傾き有) うち10 名使用
静岡県
静岡県
25
供試建物
判定支援ツール
本体ツールの他、傾斜
計アプリなども無料で
配信されているため、
予め個人でダウンロー
ドするなど準備可能
実施本部で機器の準備
が難しいため、基本個
人で準備必要
従来ツール
紙なので入力に
特別な操作は不
要。
個人の裁量で自
由な記載が可能。
基本情報をその
たびに記載しなけ
ればならない。
入力項目漏れや
誤字などが発生す
る恐れあり。
表2-3 集計における比較
区分
判定支援ツール
パソコンに接続しデータ
を転送するだけでエクセ
良い点 ルに取り込み、即座に集
計が可能。
集計した元情報は、個人
所有のタブレット等に残
るため、応急危険度判定
悪い点 で知り得た個人情報につ
いて適切な管理が必要と
なる。
●まとめ
従来ツール
調査結果情報は、紙
の手渡しにより調査
者へは残らないた
め、情報の管理が簡
単。
調査結果情報は紙
のため、調査件数
が増えると集計入
力作業に多くの労
力がかかる。
スマートフォンやタブレットの普及に併せて、判定支援ツ
したほぼ全員が判定結果を入力することができました。
ただ、
ールの需要ももっと大きくなると思われます。今後の訓練で
システム上、必要項目を全て入力しないと保存することがで
も判定支援ツールと従来ツールをうまく併用し、実際の災害
きなかったため、入力漏れの箇所を捜すことに時間がかかっ
では少しでも早く、多くの被災建築物を判定できる体制整備
ている判定士が何人か見受けられました。
を研究していくことが必要だと感じました。
Q&A
質
Q1
問
応急危険度判定はいつ頃から行われているのか
回
答
A1
平成7年の阪神・淡路大震災の際、国内で初めて応急危
険度判定が実施されました。
その後、各地で発生した地震において成果をあげていま
す。
Q2
応急危険度判定とは
A2
地震後の余震等による二次災害を未然に防止するため、
被災した建築物の被害の状況を調査し、その建築物が使用
できるか否かの判定・表示を応急的に行うことです。調査
結果は、「危険」(赤紙)、「要注意」(黄紙)、「調査済」(緑紙)の
三種類の判定ステッカー(色紙)のいずれかにより、見や
すい場所に表示します。
これは、罹災証明のための被害調査ではなく、建築物が
使用できるか否かを応急的に判定するものです。
Q3
応急危険度判定士とは
A3
応急危険度判定士は、被災地において、地元市区町村長
または都道府県知事の要請により、応急危険度判定を行う
建築技術者です。応急危険度判定士は、都道府県知事が行
う講習会等を受講して認定登録を受けています。
応急危険度判定士は、判定活動に従事する場合、常に
身分を証明する登録証を携帯し、
「応急危険度判定士」と明
示した腕章及びヘルメットを着用します。
Q4
応急危険度判定は誰が行うのか
A4
一般的には、建築物の所有者、管理者が自らの責任でそ
の安全性を確保することが求められます。
しかし、被災時には所有者等がその安全性を自ら確認す
るのは困難であり、歩行者など第三者に被害が及ぶ可能性
もあります。求められます。
このようなことから住民の安全確保のため、市町村が震
災直後の応急対策の一環とし、応急危険度判定を実施する
ことが必要であり、都道府県は管内被災市町村の行う判定
活動の支援を行うことが望ましいと考えられます。
Q5
判定業務においてアスベスト含有建材の粉塵など
への対処はどうすればよいですか。
A5
アスベスト含有建材が、破損しておりアスベストが飛散
している可能性のある場合は、速やかにその場を離れてく
ださい。このような場合は、判定ステッカーの注記欄及び
判定調査表のコメント欄に「アスベスト飛散の恐れがある」
旨を記入し、近づかないよう周知すると共に、市町災害対
策本部に連絡してください。
(実際の判定の際には、市町災
害対策本部の担当者の指示に従い、調査を行ってくださ
い。
)
Q6
応急危険度判定調査表において、
被災度のランクを A6
A,B,Cと3つに分けているのに対し、各項目の危
1,2,3という数字は、電算入力する上で入力しやす
険度の判定は1,2,3となっているのはなぜですか。 いように作られているためです。なお、被災度のランクを
Aランク、Bランク、Cランクと呼び、危険度のランクを
「調査済」
「要注意」
「危険」として呼び方を分けているの
は、混同を避けるためです。
Q7
「コメント欄の記入方法」において、
「どの構造躯体」 A7
「どの落下物」が危険なのか、個別に部材を特定する必
「構造躯体である1階の柱が大きな損傷を受けて危険で
要があるのですか。
す。」「屋外看板が落ちかけており危険です」等といった、具
体的な記述をすることによって、建築物所有者・歩行者等
が判断できるようにして下さい。
Q8
隣家が木造で、調査建物がSRC造であり、隣家木 A8
造が崩壊する可能性がある場合、調査建物への影響が
判定調査表「2.隣接建築物・周辺地盤等及び構造躯体に
多少あると考えられるが、調査建物自体はAランクで 関する危険度 ①隣接建築物・周辺地盤の破壊による危険」
も要注意Bランクとすべきですか。
により判定します。
隣家が崩壊し、調査建物に影響を及ぼす危険がある場合
はCランク、被害を受けそうだが、危険性の程度が不明確
な場合はBランクと判定して下さい。
Q9
外観だけでは、S造、RC造、SRC造の区別がし A9
にくい場合があると思われますが、事前に構造種別は
構造種別に対しての事前の情報提供は基本的に行ってお
教えてもらえるのですか。
りません。S造とRC造の別はノックした音や感触から判
断してください。RC造とSRC造については、地上階数
が8以上であれば、SRC造と考えてください。また、混
構造の場合は、被害の状況を確認の上、主たる構造形式を
判断することになりますが、必要に応じ他の調査表を活用
し、調査表欄外等にその状況を記述してください。
(
『被災
建築物応急危険度判定マニュアル』P4 4.調査方法 [解
説](4)
)
【OQ通信第16号の編集にあたって】
本号は、東北地方太平洋沖地震等からはや3年、今一度、被災建築物応急危険度判定の立上げ当時を含めた歴史的な記事及
び、これから訓練または、判定活動に使用することが予想される iPAD を使用した訓練の記事を掲載させていただきました。
そのため、冊子の構成としては、今回も単調なものとなってしまいましたが、お読みいただいておわかりのとおり、内容は
今後の応急危険度判定の体制づくりにきっとお役立ていただけることと思います。
なお、今後、掲載して欲しい記事等がございましたら、是非ともご連絡を頂きたいと思います。
OQ通信第 16 号作成委員
主 査
田口
委 員
香川 政治
香川県土木部建築課建築指導室主任
足立圭太郎
山口県土木建築部建築指導課技師
富樫 智史
宮城県土木部建築宅地課技師
市丸 雄基
佐賀県県土づくり本部建築住宅課副主査
横田 麻琴
新潟県土木部都市局建築住宅課技師
森口 泰仁
国土交通省住宅局建築物防災対策室係長
大迫慎太郎
三重県県土整備部建築開発課技師
木村 行道
公益社団法人日本建築士会連合会常務理事
事務局
浩
神奈川県建築安全課グループリーダー
一般財団法人日本建築防災協会