避難行動要支援者(災害時要援護者)対策について-市区町村における課題 伊藤久雄( 認定NPOまちぽっと) 1.避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針の策定(「災害時要援護者の避難支 援ガイドライン」の改定) 災害時要援護者対策については、これまで国としては「災害時要援護者の避難支援ガイ ドライン」(2006 年(平成 18 年)3 月)を示し、市町村にその取組み促してきた。 しかし、2011 年の東日本大震災においては、被災地全体の死者数のうち 65 歳以上の高 齢者の死者数は約 6 割であり、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約 2 倍に上った。 他方、消防職員・消防団員の死者・行方不明者は 281 名、民生委員の死者・行方不明者は 56 名に上るなど、多数の支援者も犠牲となった。 こうした東日本大震災の教訓を踏まえ、2013 年に災害対基本法が改正され(2013 年 6 月 21 日公布、2014 年 4 月 1 日施行)、避難行動要支援者名簿を活用した実効性のある避難支 援がなされるよう、次の事項が定められた。 ① 避難行動要支援者名簿の作成を市町村に義務付けるとともに、その作成に際し必要な 個人情報を利用できること ② 避難行動要支援者本人からの同意を得て、平常時から消防機関や民生委員等の避難支 援等関係者に情報提供すること ③ 現に災害が発生、または発生のおそれが生じた場合には、本人の同意の有無に関わら ず、名簿情報を避難支援等関係者その他の者に提供できること ④ 名簿情報の提供を受けた者に守秘義務を課すとともに、市町村においては、名簿情報 の漏えいの防止のため必要な措置を講ずること 避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針は、この法改正を受けて「災害時要 援護者の避難支援ガイドライン」を全面的に改定したものであり、留意すべき事項および 関連する参考となる事項を示している。 要介護高齢者や障害者等の避難行動要支援者や避難支援等関係者の犠牲を抑えるために は、事前の準備を進め、迅速に避難支援等を行うことが必要となる。国は、市町村におい て地域の特性や実情を踏まえつつ、災害発生時に一人でも多くの避難行動要支援者の生命 と身体を守るという重要な目標を達成するため、本取組指針を活用し、適切することを促 している。 2.東京都の対応 東京都は 2013 年 2 月 19 日、東日本大震災の教訓を踏まえて「災害時要援護者対策に係 る指針及び避難所管理運営の指針」を改訂している。この指針では、 「今後は国の動向を踏 まえ、適宜改訂を行っていく」とされていたが、災害対基本法の改正と避難行動要支援者 の避難行動支援に関する取組指針の策定を踏まえた改定はまだ行われていない。ただし、 東京都の災害時避難支援対策については、東京都障害者施策推進協議会(第5回専門部会 資料、2014 年 12 月)の資料がある。東京都も、 「地域防災計画の修正、避難支援プラン(全 体計画)の改訂、名簿作成方法の変更などの必要性が生じている」との認識のもとに検討 をすすめていると思われる。 <東京都障害者施策推進協議会資料で示されていること> ■ 地域防災計画・避難支援プラン(全体計画)に定める事項 ○ 全体計画において定める事項 【地域防災計画において定める必須事項】 ・避難支援等関係者となる者 ・避難行動要支援者名簿に掲載する者の範囲 ・名簿作成に必要な個人情報及びその入手方法 ・名簿の更新に関する事項 ・名簿情報の提供に際し、情報漏えいを防止するために市町村が求める措置及び市町 村が講ずる措置 ・要配慮者が円滑に避難のための立退きを行うことができるための通知又は警告の配 慮 ・避難支援等関係者の安全確保 【地域防災計画以外に全体計画において定める事項】 ・名簿作成に関する関係部署の役割分担 ・避難支援等関係者への依頼事項(情報伝達、避難行動支援等の役割分担) ・支援体制の確保 ・具体的な支援方法についての避難行動要支援者との打合わせを行うに当たって、調 整等を行う者 ・あらかじめ避難支援等関係者に名簿情報を提供することに不同意であった者に対す る支援体制 ・発災時又は発災のおそれがある時に避難支援に協力を依頼する企業団体等との協定 締結 ・避難行動要支援者の避難場所 ・避難場所までの避難路の整備 ・避難場所での避難行動要支援者の引継ぎ方法と見守り体制 ・避難場所からの避難先及び当該避難先への運送方法 他 ■ 都の役割 ○研修により円滑な法改正対応(計画策定・先進的な取組)を支援 ○都指針の改訂により要配慮者対策全体を後押し ○包括補助事業の延長(予算要求中) ■ 市区町村の役割 ≪法により義務化された事項≫ ○避難行動要支援者名簿の作成 ○名簿情報を提供する際の個人情報への配慮 ≪国指針により必要とされた事項≫ ○避難支援プラン(全体計画)の作成 ※法に規定はないが、策定することが適当とされている。 ≪さらなる支援体制構築のための取組≫ ○避難支援プラン(個別計画)の作成 ○地域の共助力向上のための取組(訓練等) ■ 参考 2013 年4月1日現在の状況 ①全体計画・・策定済 45 区市町村 未策定 17 区市町村(うち 13 区市町村は平成 25 年度中策定予定) ②個別計画・・策定済 13 区市町村 策定途中 35 区市町村 ③災害時要配慮者名簿・・整備済 50 区市町村 整備中 11 区市町村 未着手 1 区市町村 *上記 61 団体のうち、他団体への情報提供 55 区市町村 3.市区町村の課題 先の東京都資料における 2013 年 4 月 1 日現在の状況は、災害時要援護者の避難支援対策 の調査結果(総務省消防庁、2013 年 7 月 5 日)からのものである。この全体計画、個別計 画、災害時要配慮者名簿の策定状況を踏まえて、国の指針にもとづいた市区町村の課題を 整理しておきたい。 ・東京都の詳細:別紙を参照(PDF) (1) 全体計画、個別計画 全体計画は 2013 年 4 月 1 日現在未策定 17 市区町村のうち、13 区市町村は 2013 年度中 に策定を終えたと思われる。残ったのは昭島市、福生市、瑞穂町、小笠原村であるが、 現段階の状況は把握できていない。 個別計画を策定済みの市区町村は 2013 年 4 月 1 日現在、墨田区、世田谷区、渋谷区、 杉並区、足立区、武蔵野市、府中市、小金井市、日野市、東久留米市、瑞穂町、桧原村、 新島村の 13 市区町村である(現段階の状況は把握できていない)。 (2) 避難行動要支援者名簿(災害時要援護者名簿) 2013 年 4 月 1 日現在、未整備(整備途中)の市区町村は葛飾区、三鷹市、日野市、あ きる野市、大島町、利島村、神津島村、御蔵島村、八丈町、青ヶ島村、小笠原村の 11 市 町村であり、未着手は国立市である。島しょの町村が多いが、あえて整備の必要性がな いところもあったと思われる。ただし、改正災害対策基本法では義務化されている。 (3) 名簿の整備方式 名簿の整備方式は、①関係機関共有方式、②同意方式、③手上げ方式の 3 種類がある が、それぞれの組み合わせによるところも多い。災害対策基本法の改正によっても、名 簿の整備方式は変わらない。そこで、都内の整備方式を一覧(未着手の国立市を除く 61 市区町村)にしておこう。 ア 関係機関共有方式: 個人情報保護条例において保有個人情報の目的外利用・第三 者提供が可能とされている規定を活用して、要援護者本人の同意を得ずに、平常時 から関係機関等の間で情報を共有する方式 イ 同意方式: 要援護者本人に直接的に働きかけ、必要な情報を収集する方式 ウ 手上げ方式: 要援護者登録制度の創設について広報・周知した後、自ら要援護者 名簿等への登録を希望した者の情報を収集する方式 ア 方式 関係機関共有方 式 イ 同意方式 ウ 手上げ方式 エ アとイの組み合 わせ アとウの組み合 わせ イとウの組み合 わせ ア、イ、ウの組 み合わせ その他 オ カ キ ク 市区町村 計 江東区、足立区、江戸川区、町田市、多摩市、奥多摩町、利島 8 村、御蔵島村 目黒区、葛飾区、三鷹市、小平市、日の出町、大島町、三宅村、 8 八丈町 港区、新宿区、文京区、中野区、青梅市、東村山市、福生市、 8 瑞穂町 千代田区、世田谷区、豊島区、八王子市、新島村、神津島村、 7 小笠原村 中央区、墨田区、渋谷区、板橋区、小金井市、国分寺市、武蔵 9 村山市、稲城市、西東京市 品川区、北区、荒川区、練馬区、立川市、武蔵野市、東久留米 9 市、羽村市、西東京市 大田区、杉並区、府中市、昭島市、調布市、日野市、狛江市、 10 東大和市、清瀬市、あきる野市 台東区、青ヶ島村 2 この一覧を整理すると次のようになる。関係機関共有方式をふくむ方式が多く、要援護 者名簿等への登録を同意もしくは希望した者のみを整備する方式を上回っていることをど う評価するかが課題である。いずれにしても、個別計画を策定した市区町村が少ないとい う状況と合わせて考えていくことが必要である。 ① 関係機関共有方式をふくむ方式 34 団体 ② 関係機関共有方式をふくまない方式 25 団体 ③ その他 2 団体 (4) 名簿の記載内容 横浜市は、名簿の記載内容について災害対策基本法改正によって内容を追加する必要 がるとして、パブリックコメントを行った上で、2014 年 4 月に災害対策基本法当該規定 と横浜市震災対策条例規則を施行した。名簿記載内容の改正は以下のとおり。都内自治 体でも同様な対応が必要となるのではないかと思われる。 今までの名簿の項目 ①氏 名 ②住 所 ③年 齢 ④性 別 2014年4月以降の名簿の項目 ①氏 名 ②住所又は居場所 ③年 齢 ④性 別 ⑤電話番号その他の連絡先 ⑥避難支援を執拗とする事由 追加した3項目 (介護等、障害等といった情報) ⑦その他必要な事項 (緊急連絡先などを想定) <参考資料> ○ 避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(本文) http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h25/pdf/hinansien -honbun.pdf ○ 避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針の概要 http://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/youengosya/h25/pdf/hinansien -gaiyou.pdf ○ 東京都災害時要配慮者対策について(東京都障害者施策推進協議会 第5回専門部会 資料) http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/shougai_kyogi /dai7ki/senmonbukai5.files/261216_8.pdf ○ 山梨県『災害時要配慮者支援指針』の策定について https://www.pref.yamagata.jp/ou/kankyoenergy/020072/file/siensisingaiyou.pdf ○ 宮城県避難行動要支援者等に対する支援ガイドライン(2013 年 12 月) http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/238323.pdf ○ 愛知県市町村のための災害時要配慮者支援体制構築マニュアル(2014 年 12 月) http://www.pref.aichi.jp/chiikifukushi/manual.pdf ○ 横浜市・災害対策基本法の一部改正に伴う対応について(災害時要援護者関係分) http://www.city.yokohama.lg.jp/asahi/madoguchi/chishin/chikatsu/chiikinokats udou/kurenkai/pdf/2601/25nendo1gatsu1-2.pdf ○ 府中市「地域防災計画」の修正について-災害時要援護者対策関係(2014 年 3 月) http://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/singikyogi/bosaibohan/bosaikaig i/H25_4jishinbukai.files/besshi3_siryou4.pdf ○ 災害時要援護者の避難支援対策の調査結果(総務省、2013 年 7 月 5 日) http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h25/2507/250705_1houdou/01_houdou shiryou.pdf
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