LTEのための Evolved HD Voice

エリクソンホワイトペーパー
Uen 284 23-3160 Rev B | 2014年10月
LTEのための
Evolved HD Voice
新しいモバイル音声の体験
Evolved HD Voiceは、LTEネットワークに対応した次世代のモバイル音声サービスを
実現します。2G、3G、LTEのネットワークの現在のHD音声サービスを活用しつつより
高品質の音声と音楽を提供し、
ユーザーエクスペリエンスをさらに向上させます。
はじめに
スマートフォン時代の真っ只中、
様々なデバイスを介したデータトラフィックの使用量は増加の一途
をたどっており、
人々の通信のあり方は変わり続けています。
2009年には、
データトラフィックが音声
通話を上回ってモバイルネットワークにおける支配的なトラフィックとなり[1]、
データトラフィックが安
定的に増大する一方で、
音声トラフィックの伸びは横這いの傾向です[2]。
こうしたトレンドは、
音声通
話の重要性が失われつつあることを示しているように見えるかもしれません。
しかし音声サービスが今
でも重要な役割を果たしていることに疑いはありません。
なぜなら音声サービスは本質的に携帯電話
や固定電話による通信サービスの一部であり、
人々は音声サービスの品質が高まることを当然のこと
として期待しているからです。
通信事業者は現在、
通信サービス市場の急速な変化に直面しています。
市場においてスマートフォ
ンを介した多種多様な通信の選択肢が生まれている中、
消費者は以前にも増して音声通話の品質面
に敏感になっています。
エリクソン・コンシューマラボレポートによれば、
ネットワークの通信速度、移動
通信のカバレッジ、
音声通話の品質がユーザーによるモバイル通信事業者の満足度評価で最も重要
なポイントであることが分かっています[3]。
だからこそ通信事業者は、
サービス品質を確保しつつ品質
差別化の新たな機会を見つけ出す必要に迫られているのです。通信分野における絶え間ない技術の進
展により、高まるユーザーの期待に応えるべく音声通話サービスの改善が可能です。
こうした改善の結
果として通信事業者は今やビデオ通話、
ビデオ会議、IPべースのメッセージングその他の魅力的でフレ
キシブルなIPベースの通信サービスを提供できます。
また企業セグメントにおいては、
モバイルエンター
プライズを実現し、高品質の音声・ビデオ通信サービスをアクセス手段やデバイスを問わずに確実かつ
シームレスに提供するという新たな事業機会も存在します。
多くの通信事業者は音声通話事業の展開に当たり、AMR-WB (Adaptive Multi-Rate Wideband)
を採用したHD音声を導入してモバイルネットワークの音声品質を向上させてきました。
HD音声サー
ビスを利用すると、
騒々しい環境であっても通話相手と近くで話しているように感じられるので、
通信
の効率が高まります。
標準化された十分に成熟した技術であるHD音声は、2014年までに70カ国を超える国々で100社
以上の通信事業者によって提供されています[4]。
現在、
世界市場では300を超えるHD対応デバイス
が入手可能であり、
最新の3GおよびLTEデバイスの大部分にHD音声機能が組み込まれています。
こ
のため通信事業者は、
サービス導入当初からユーザーの多くにこのサービスを提供することが可能に
なっています。
現在、HD音声がグローバルに展開されている一方で、HD音声の品質向上はすでに次の段階に進ん
でおり、IPベースの通信ネットワークを対象に進化したHD音声がLTEネットワーク向けに現れようとし
ています。
VoLTEに対応した次世代のテレコムグレードの音声コーデックとして、3GPPによって標準化され
た新しいソリューションが登場しました。
この新しい音声コーデックは、3GPP標準ではEVS
(Enhanced Voice Service)と呼ばれています。本ペーパーでは、
この新しいソリューションの利点
と、現在市場にある既存の音声サービスとの関係について説明します。LTEネットワークがグローバ
ル規模で着実に拡大し、
その加入者数が2014年中期に2億4千万人に達しようとしている中[6]、LTE
ベースの音声サービスの重要性は世界市場でますます高まっています。
現在の音声サービスをLTEネットワークに対応して進化させるこの新しい標準化されたソリューショ
ンに関して全面的な支持が得られれば、
すべての携帯電話ユーザー、
通信事業者、
さらには通信業界
全体がその恩恵を受けることになるでしょう。
あらゆる通信がIP化される将来の世界に向けて、
グロー
バルに相互運用可能な高品質の音声サービスの構築を続けていくことがきわめて重要です。
LTEのためのEvolved HD Voice • はじめに
2
HD音声とは
人間の聴覚
人間の聴覚は20 Hz ~ 20,000Hz [7]
の周波数をカバーする一方、人間の声は少な
くとも 50Hz ~ 12,000Hz [8] の周波数
の範囲に広がります。
しかし従来の電話 (固
定と移動の両方) は、
およそ 300Hz ~
3,400Hzという狭い帯域で音声を送信しま
す。今日の電話の音声品質に制約があるのは
そのためです。
たとえばF音をS音から確実に区別するた
めに必要な聴覚情報は、
従来の電話よりも
高い周波数に含まれています。
聞き間違いの可能性は、
航空管制などの
重要な通話や無線通信において使われる無
線用アルファベットが開発された理由の一つ
です。
H D 音 声はこの制 約を取り除きます。
50Hz ~ 7,000Hzの広帯域のスペクトル
で、
この目的に特化したAMR-WBやG.722
などの広帯域コーデックを使用するため、高
品質でより自然な音声が再現され、明瞭性と
音声認識のレベルが改善されます。
LTEのためのEvolved HD Voice • はじめに HD音声がユーザーに及ぼす効果
従来の電話では、
地下鉄 [9] などの公共
交通機関の利用している時の音声品質が最
も低いと感じられます。列車が生成する背景
雑音がその大きな要因であり、電話の発信側
と着信側の両方がよく聞こえない状態にな
ります。
音声が明瞭となるHD音声を使うことで、
ユーザーは、通常では通話が不可能と思える
ような交通量が多い道路、工事現場、悪天候
時などの雑音のひどい環境下でも会話する
ことができます。
さらにこの技術により、留守番電話が明瞭
となり、電話会議の効率が上がり、音声-テキ
スト変換アプリの性能も向上します。
最高の
音声品質での通話が可能になり、
ユーザー
のストレスが軽減されます。
モバイルネットワークでのHD音声の提供
HD音声サービスを提供する事業者は、
そ
のコアおよび無線ネットワークでこのサービ
スをサポートする必要があります。
電話の発信側と着信側の両方で、
このサー
ビスをサポートするAMR-WBコーデックに
対応した端末を利用する必要があり、
また高
品質のマイクとスピーカーを含む広帯域のス
ペクトルに適した高度な音響デバイスを必要
とします。
多くの2Gおよび3G端末がすでに
HD音声に対応しています。またすべての
VoLTE対応スマートフォンがデフォルトコー
デックとしてH D 音 声をサポートしてお
り、LTEネットワーク上のHD音声に対応して
います。
3
HD音声の進化
音声サービス市場の細分化化を回避
通信ネットワークがオールIPネットワークへ移行しようとしている現在、LTEをはじめとする新技
術により音声サービスの品質がさらに改善される可能性があります。
しかしユーザーがIPベースの異
なる音声アプリで互いに高品質な音声で通話するためには、音声サービスに相互運用性のある音声
コーデックを使用しなくてはなりません。様々な音声コーデックが開発されて市場に投入されている
今、音声サービス市場が細分化し、結果としてコード変換に要するコストの増加と品質の低下を招く
リスクが発生しています。既存の音声コーデックとの相互運用性と後方互換性がなければテレコム
グレードのサービスの利点が失われ、事業者が提供するモバイル音声サービスのユーザーすべてに
不利益をもたらしかねません。
したがって通信業界は団結して既存の音声技術を活用しグローバルな規模であらゆる端末で機能
する高品質の音声サービスをユーザーに提供するため努力することが求められているのです。
オールIP化された通信環境での進化した音声サービス
通信事業者による音声サービスは、今日の回線交換 (CS) 音声ネットワークからパケット交換 IP
ネットワークへ徐々に移行し、VoLTE [10]がテレコムグレードの電話サービスの提供基盤となりま
す。
ビデオ通話や会議のような付加価値サービスを音声サービスに簡単に追加できることで、加入者
にとってのメリットを増やすことができます。VoLTEサービスは2012年8月に初めて導入されまし
た。2014年中には複数の事業者がサービスを開始し、
ここ数年でさらに多くの事業者によるサービ
ス開始が期待されています。VoLTEサービスでは端末がデフォルトでHD音声コーデックをサポート
しているのでユーザーはVoLTEサービスの利用当初からHD音声を体感することができます。
初めてサービスを経験したユーザー [11] が証言しているように、HD音声は非常に高品質な音声
を提供します。
音声サービスがオールIPネットワークに
移行すれば、
ユーザーエクスペリエンスをもっと向上さ
LTEのためのEvolved HD Voice (EVS)
せるために音声技術をより容易に改良する余地が生ま
れます。
またHD音声の導入後を狙った開発努力がすで
2G/3G/LTEのHD音声 (AMR-WB)
に始まっています。
2G/3Gの従来の音声 (AMR)
3GPPにおいて、数多くの通信企業 (通信事業者およ
びインフラ、チップセット、端末、技術ベンダ) によ
全帯域
り、
VoLTE用の次世代のテレコムグレードの音声圧縮
超広帯域
技術が標準化されました。3GPPではこの新しい技術と
広帯域
音声コーデックをEVSと呼んでいます。背景情報につい
ては付録を参照してください。
狭帯域
ユーザーはEVSコーデックによって通話と音楽にお
いて新しい音を体験します。Evolved HD Voiceサービ
50 300
3400
7000
14000
周波数 (Hz)
スは、
どのような通信環境においてもより明瞭で自然な
自然な音声、音、高音質な音楽
音声品質を提供します。
また、保留メッセージ、音声ガイ
ダンス、
その他の類似サービスに大幅に改善された品
より自然な音声、理解しやすく、認識しやすい
質を提供します。
たとえばコンサート会場のライブ音楽を携帯電話を
通して聴くと、
かつてないほどリアルな印象を得られる
図 1 携帯音声サービスのための可聴帯域幅。Evolved HD Voiceは人間の音声周波数範囲全域
でしょう。
に対応することによって自然な音声と音楽をユーザーに提供します。
これは可聴周波数範囲全体をカバーするより広い
可聴帯域 (図1を参照) のサポートと本来は主に音響
機器コーデックに使われる新しいコーディング方法の
採用によって実現されます。
LTEのためのEvolved HD Voice • HD音声の進化
4
Evolved HD Voiceは、図2に示すように、LTEや
WCDMA、GSMにおけるHD音声と完全に相互運用可能
な、HD音声の拡張サービスです。Evolved HD Voiceは、HD
音声と競合するソリューションではなく、HD音声を補完する
ソリューションで、
HD音声をサポートするネットワークに投
資された資源を有効に活用できます。
また、
Evolved HD Voice
は、
通信事業者のネットワーク効率が向上するように設計され
ています。
通信事業者はEVSコーデックを使うことで、
今日の狭
帯域の音声サービスやHD音声サービスと同等のサービス品
質を維持しつつ、
サービスに必要な帯域幅を減らすことができ
ます。
あるいは現在使用している帯域幅を維持しながら、
サービ
ス品質を大幅に向上させることも可能です。
また3つ目の可能
性として、
ビットレートを増やすことで、
かつてない品質の音声
サービスや音楽サービスを提供することも可能です (図3
参照)。
では通 信 事 業 者はH D 音 声 への投 資を継 続するか
Evolved HD Voiceに賭けるか、
いずれかを選ばなくてはな
らないのでしょうか。Evolved HD VoiceがHD音声を補完
するものであることを考えると、
むしろここで通信事業者が検
討すべきなのは、
活用したいEvolved HD Voiceのメリット
と、
それを導入する時期でしょう。通信事業者がEvolved HD
Voiceを採用すれば、HD音声も自動的にそれに含まれること
になります。2Gや3GでHD音声を新たに展開するのはまた別
の話になります。従来型の2G/3G (CS) ネットワークを持つ
通信事業者がEvolved HD VoiceベースのVoLTEへの投資
を考えている場合は、HD音声の相互接続性やサービスの継
続性を確保するために従来型のネットワークにHD音声を導
入するのが妥当と言えます。
LTE
LTE
EVSコーデック
VoLTE
LTE
EVSコーデック
AMR-WB
HD Voice
VoLTE
GSM-WCDMA
図2: LTEネットワークで機能するEvolved HD Voice (EVSコーデック) は、LTEや
GSM、WCDMAネットワークにおけるAMR-WBコーデックとの相互運用性もサポートし
ます。
音声/音楽の品質
速度 (kbps)
フル帯域
超広帯域
EVS
(>13.2)
EVSコーデックによる
HD音声の改善:
• 同じ容量で音声/音楽の品質が向上
EVS
(13.2)
• 同じ品質で音声容量が増加
広帯域
AMR-WB
(12.65)
EVS
(<13.2)
狭帯域
AMR
(12.2)
EVS
(<13.2)
• 高品質の音楽サービスを提供可能。
13.2kpbsより高いフルバンドモー
ドを推奨
モバイルネットワークにおける音声容量
図3: LTEネットワークに対するEVSコーデックのメリット
今後の音声サービスのための通信事業者の資産の活用
新しい技術に進化する際は、通信事業者がすでに持つ貴重な資産、具体的にはテレコムグレードの
音声サービス品質や世界的な相互運用性を活用してサービスを構築することが重要です。
通信事業者が活用すべき最初の重要な資産は、
テレコムの音声サービスがモバイルブロードバンド
のカバレッジが良い場所に限らず提供可能な高い品質です。
モバイルネットワークでは、
コアネットワー
クや無線ネットワークでのQoSメカニズムを利用することで、
VoLTEベースのテレコムグレードのVoIP
サービスを常に他のどんなデータトラフィックよりも優先し、
これらの重要なリアルタイムサービスの品
質を保証します。
一方、
OTT (Over the Top) のVoIPサービスは、
モバイルブロードバンドアクセスによ
るベストエフォート型のデータサービスとして提供されるため、
ユーザーに対して高い音声サービス品
質は保証されません。
HD音声のコーデックで得られる著しい効率向上により、
通信事業者は、
無線周
波数 (RF) の容量に大きな影響を与えることなくサービスを実現できます。
Evolved HD Voiceベース
のVoLTEの新しいコーデックは、
より高品質であるにもかからわらず、
RF容量を追加したり、
VoLTEの
インフラをアップグレードする必要がありません。
通信事業者が活用すべき二つ目の重要な資産は、世界的な相互運用性です。電話ユーザーを一意
に識別する、何十億もの電話番号によるE.164の世界的なコミュニティは、通信事業者にとって大き
な資産です。電話サービス事業者は長年にわたって、電話番号を使って世界のどの電話にも接続でき
る世界最大のコミュニティを構築してきました。通信事業者はこの世界的なコミュニティを基盤とする
ことで、OTTとの競争において大きなアドバンテージを維持し、何十億ものユーザーに相互運用可能
な音声サービスを提供し続けることができます。他の何者も、
このような相互運用性を備えた高品質
なサービスを提供することはできていません。成功を収めたこのサービスをさらに活用し、Evolved
HD Voiceといった相互運用可能な新たな音声技術をサポートして音声品質をさらに発展させるこ
とで、業界全体とその何十億ものユーザーに大きな利益がもたらされることでしょう。
LTEのためのEvolved HD Voice • HD音声の進化 5
事業者のビジネス上の
メリット
HD音声による優れた音声品質の提供と、Evolved HD Voiceによるさらに優れた音声品質の提供に
は、一般市場と法人市場の両方で通信事業者のビジネス上の利益につながる複数の利点があります。
ユーザーの通話回数と通話時間の増加
通信事業者が従量制を採用していれば、
HD音声の導入により利用時間が増えることが良いビジネ
スチャンスとなります。
使い勝手が向上することで、
加入者がより多くの通話を行うようになり、
また平
均通話時間も長くなります。
にぎやかな街路など、
従来は通話が困難であった状況でも通話が可能と
なります。
ある調査によれば、
HD音声ユーザーの96%が、
商用サービスについて非常に満足している
か、
または全く不満がないと回答しています[12]。
このようなユーザー満足度は、直接的な課金の増加
または解約の減少という形で収益に結実します。
魅力的なスマートフォン料金プランの提供
従量制をやめてデータサービスや音声サービス、
SMSサービスを組合わせた料金プランを始めた
通信事業者については、
プランの上限内で利用時間が増えても利益の向上は見込めません。
ただしこ
の場合であっても音声品質は活用すべき重要な要素です。
HD音声によりもたらされた品質向上を経
験したユーザーは、多くの場合、HD音声対応の端末に乗り換えたいと考えます。
テレコムグレードのEvolved HD VoLTEネットワークは、
ブロードバンドのカバレッジが悪くてOTT
のサービスが利用できない可能性がある地域でも高品質の音声サービスの提供が可能であり、
通信
事業者にさらなるメリットをもたらします。
つまり、
通信事業者は、
高速ブロードバンドと高品質な音声をセットにした魅力的なスマートフォン
パッケージプランにより、
高い品質と信頼性を旗印とするブランドイメージを構築してサービスを差別
化し、
ユーザーを取り込むことが可能となります。
高品質の音声サービスが法人カスタマーにもたらす利益
高品質の音声サービスやビデオ会議サービス、
音声認識サービスなどを含む法人向け通信サービ
スパッケージを提供して企業のモバイル化を促進すれば、
通信事業者に大きなチャンスがもたらされ
ることでしょう。
より高品質の音声は、
効率の向上やコスト削減、
仕事環境の生産性向上につながりま
す。
現在では、
最高のユーザーエクスペリエンスを達成できる通信手段は必ずしも固定回線ネットワー
クに限られませんが、依然として固定回線ネットワークは重要であり、高品質の音声、特にHDビデオ会
議ソリューションの音声はどの固定回線においても重要です。
すべての企業を結ぶ高品質の通信サー
ビスを通信事業者間で提供することで、
市場規模が大幅に拡大し、
国内外の企業通信により大きな利
益がもたらされるのは間違いありません。
LTEのためのEvolved HD Voice • 事業者のビジネス上のメリット
6
ネットワークへの影響
ネットワークにEvolved HD Voiceを導入する方法
Evolved HD Voiceは、LTEアクセスに基づく3GPPシステムで利用可能なIMSベースのテレコムグ
レードのVoIPサービスになります。
そのためLTEのサポートと3GPPのEPC (Evolved Packet Core)
ネットワークが、
その直接的なシステム要件と なります。
これは基本的には、GSMAがPRD IR.92と
して要件をまとめた現在のIMSベースの3GPP VoLTEの使用以外には要件が存在しないことを意味
します[13]。
つまりEvolved HD Voiceクライアントを除けば、
その導入のためにソフトウェアのアップ
グレードが必要な可能性があるネットワーク・エンティティは、関連する制御機能を備え、
IPネットワー
ク境界でメディア変換を実行するか、
または集中的にメディア処理機能を実行するもの、
つまり一般に
はSBG (Session Border Gateway)/BGF (Border Gateway Function) とMRF (Media
Resource Function) となります。
システムがすでにIR.92に準拠してAMR-WB (HD音声) ベースのVoLTEをサポートしている場合は、
ネットワークがすでにアーキテクチャの前提条件を満たしているため、
制御プレーンにEVSコーデック・
サポートを追加する以外に重要なアップグレードは必要ありません。
SBG/BGFの追加のアップグレー
ドにより、
CS 2G/3GのHD音声実装とのトランスコーダなしのインターワーキングや、
たとえば固定網
やインターネットといったその他のHD音声コーデックへのトランスコーディングが可能になります。
マルチパーティ会議やボイスメールなどの
付加サービスがEvolved HD Voiceのすべ
ての潜在的な機能強化の恩恵を受けために
コアネットワーク
は、EVSコーデックをフルサポートするように
IMSコア
CSコア
MRFをアップグレードすることをお勧めしま
HD
す。
EVS
音声
その直接的なメリットには、
たとえば音声
HD
電話会議の体感品質向上や高品質の音楽
音声
MGCF
ガイダンスなどがあります。
しかしそのよう
BGF
MGW
MSC-S/
MRFP
MGW
なアップグレードは時を争うものではなく、
事業者の戦略に従っていつでも行うことが
音声通話の継続
できます。
アップグレードしなくても事業者
のネットワークがすでにHD音声をサポート
している場 合 は 、付 加 サ ービスの 運 用
は、EVSコーデックのAMR-WB相互運用
モードに依存するだけです。
Evolved HD Voiceの恩恵を享受するに
HD
HD
EVS
は、
端末のクライアント (UE) が新しいEVS
音声
音声
コーデックをサポートしている必要がありま
す。
クライアントの処理能力や端末の音響機
VoLTE
2G/3G対応CS音声
能が特定の要件を満足する必要もあります。
Evolved HD Voiceで可能となる新次元
の品質を十全に享受するためには、
クライア
図4:Evolved HD VoLTEの導入によるネットワークへの影響
ントデバイスの 音 響 機 能 が 、超 広 帯 域
(SWB、
最大14kHzまで) またはフルバンド
(FB、
最大20kHzまで) のオーディオ周波数
域に対応するように適切に設計されている必要があります。
デバイスの音響条件に関する要件は、現在3GPPにより策定されています。
またSWBとFBの運用で
は、
ノイズ抑制やエコー除去などのUEのスピーチ強化機能が、
オーディオ帯域幅の拡大をサポートす
ることも必要になります。
Evolved HD Voiceのシステムへの影響について、
図4に概要を示していま
す。
HD
音声
既存のHD音声機器
新しいEVSソフトウェアによる
従来機器のアップグレード
DECT(デジタル
高度化コードレス電話)
などの固定ブロード
バンド•アクセス
PSTN
インター
ネット/Wi-Fi
HD
音声
7
LTEのためのEvolved HD Voice • ネットワークへの影響
7
ボイスメール
デバイス
会議
WCDMA
相互接続
HD Voiceの
世界
GSM
CDMA
固定
LTE
図5:HD及びEvolved HD Voiceの世界
どこでも高品質の音声サービスをサポートする方法
すべてのユーザーが世界中の友人、
同僚、
ビジネスパートナーと一緒にHD音声を使える高品質の
音声接続の世界を実現するには、事業者がHD音声をサポートするすべてのユーザーのモバイルネット
ワーク間で相互接続を確保できなければなりません。
HD音声を提供するモバイル事業者が複数存在する国は29ヶ国あり[14]、
事業者はすでに多国間
ネットワークの相互接続を開始しています。
相互接続はEvolved HD Voiceの導入後も継続され、
そ
の場合今日のHD音声はフォールバック用に維持されることになります。
LTEから2G/3Gネットワーク
へのシームレスなHD音声ハンドオーバーにより、LTE/VoLTEと2G/3Gネットワーク間の移動が効率
的に処理されるので、
音声品質への影響はありません[15]。
HD音声コーデックのサポートとHD対応
デバイスをサポートする固定VoIPネットワークも、
モバイルネットワークと相互接続できます。
HD音声とEvolved HD Voiceは、
あらゆるネットワークにとって貴重なソリューションとなり、
ユー
ザーがあらゆるデバイスでどこからでもあらゆる場所に高品質の音声電話を行えるグローバルなエコ
システムへと発展する可能性を秘めています。
図5をご覧ください。
事業者は、
フルHD音声とEvolved
HD Voiceの可能性を活用するためにも、相互接続性の確保に投資する必要があるのです。
LTEのためのEvolved HD Voice • ネットワークへの影響
8
まとめ
音声は世界中で個人的な通信手段として価値が認められており、
また事業者にとっては、
データと
音声を組合せた料金プランにおいて魅力的な音声サービスの提供が重要な要素であり続けることで
しょう。高品質の音声サービスに関連する事業者のビジネスケースは、既存顧客からの収益増加、解
約の減少、新規顧客の取り込みが中心となっています。高品質の音声サービスの導入によってユー
ザーの通話回数と通話時間が増え、
また事業者は消費者や企業にとって魅力的な高品質のサービ
スバンドルを提供することで、加入者のロイヤルティとブランド価値を高めることができます。
HD音声対応のネットワークとデバイスはすでに世界中に広く普及しており、
また大幅に増え続けて
います。LTEネットワークでEvolved HD Voiceを利用すれば、音声と音楽の両方についてサービスを
一層向上させることができます。
しかし可能な限り最高のユーザー経験を提供し、消費者市場で広く優
れた音声品質を確立するには、
すべてのネットワーク間でのサービスの相互接続が必要となります。
GSM、WCDMA、CDMA、LTE、固定ネットワークにおけるHD音声はLTEネットワークにおける
Evoloved HD Voiceと共に、
新たなIPベースの通信サービスと組み合わせることで、
ユーザーエクス
ペリエンスを向上させることができます。
たとえば再生されたボイスメールはより明瞭になり、
ユーザー
は何度も聴き直す必要はなくなります。音声テキスト変換アプリの誤変換を減らすことができ、
またHD
ビデオ会議により遠隔会議の効果を高めることもできます。
声がはっきりと聞こえることが分かってい
るので記者が直接スタジオに電話をすることにより、
生放送の信頼性が大きく高まる可能性がありま
す。
肝心なのはその性能です。音声品質の向上は、人々、企業、社会に変化をもたらし、事業者とユー
ザーの両方に価値を提供し続けることでしょう。人々はHD音声とEvolved HD Voiceを使い、事業
者のサービスを経由して電話番号を持っている誰とでも高品質の音声通信を継続的に享受できる
のです。
今日の音声サービスをEvolved HD VoiceベースのLTEネットワークに発展させるという方向で通
信業界が一丸となれば、
業界とそのユーザー全体が利益を得ることになり、
事業者はオールIPベース
の通信環境においてグローバルに相互運用が可能な高品質の音声サービスの構築を続けることがで
きるはずです。
LTEのためのEvolved HD Voice • まとめ
9
付録
標準化の背景
3GPPは2010年、
HD音声を次のレベルであるEvolved HD Voiceに高度化する新しい音声
コーデックとして、EVSの標準化を目指す作業項目 [16] を策定しました。EVSは世界中に展開
された3GPPベースの音声サービス上に構築され、
かつ今日のAMR-WBベースのHD音声との
相互運用性を維持します。
3GPPは主要なEVSコーデック仕様 [17] を承認したばかりであり、
また3GPPシステムでEvolved HD Voiceをサポートするための標準化作業も、
3GPPリリース
12の一部として近々完了するものと予想されています。
EVSコーデックについては、3GPP LTEネットワークの全般的なサービス品質とサービス展開
コストに明確な利益をもたらすという目標が掲げられています。
つまりEVSコーデックをベースと
するEvolved HD Voiceが3GPP LTEネットワーク上で支配的な音声サービスとなる可能性が
あるのです。
さらにEvolved HD Voiceは、3GPP LTEシステムの枠組みにとどまらず、
CSネット
ワーク [18]、
Wi-Fi等の他の移動/無線ネットワーク、
固定網からWebRTCの利用を含むイン
ターネット上の展開に至るまで用途が拡大されることも考えられます。
高品質で圧倒的な臨場感のQoEを実現するマルチパーティ会議や音声・動画通信など、従来
型のテレコムグレードの電話サービスの枠を飛び越えたユースケースも想定されています。
スト
リーミング音声/ビデオやオフラインの音声/ビデオの配信手段としてEVSコーデックを活用
するシナリオも十分考えられます。
Evolved HD Voiceの導入時期
3GPPがEVSコーデックの選択とEVS標準仕様を承認した今、Evolved HD Voiceの実装と展
開の開始が可能となっています。2015年内には商用サービスの開始が予想されています。
LTEのためのEvolved HD Voice • 付録
10
出典
1.
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3.
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4.
GSA, Mobile HD Voice, available at: http://www.gsacom.com/hdvoice/
5.
GSA, Mobile HD Voice, ibid.
6.
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7.
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3GPP, TS 26.445, EVS Codec Detailed Algorithmic Description, available at: http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_
series/26.445/26445-c00.zip;
3GPP, TS 26.446, EVS Codec AMR-WB Backward Compatible Functions, available at: http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_
series/26.446/26446-c00.zip;
3GPP, TS 26.447, EVS Codec Error Concealment of Lost Packets, available at: http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_series/26.447/26447-c00.zip;
3GPP, TS 26.448, EVS Codec Jitter Buffer Management, available at: http:/www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_
series/26.448/26448-c00.zip;
3GPP, TS 26.449, EVS Codec Comfort Noise Generation (CNG) Aspects, available at: http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_
series/26.449/26449-c00.zip;
3GPP, TS 26.450, EVS Codec Discontinuous Transmission (DTX), available at: http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/26_
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18. 3GPP, Support of EVS in 3G Circuit-Switched Networks, 3GPP work item description, available at: http://www.3gpp.org/ftp/tsg_sa/WG4_CODEC/TSGS4_80/Docs/S4-141034.zip
LTEのためのEvolved HD Voice • 出典
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関連文書
>> Ericsson Review, 1/2011, Bo Burman, Anders Eriksson, Andreas Bergqvist, Klaus Schneider & Håkan Djuphammar,
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>> 3GPP, TR 22.813, Study of use cases and requirements for enhanced voice codecs for the Evolved Packet System
(EPS), available at: http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/22_series/22.813/22813-a00.zip
>> Stefan Bruhn, December 2013, Enhanced Voice Service for the LTE: Building upon the Mobile Voice Success Story,
IMTC 20th Anniversary Forum, available at: http://www.youtube.com/watch?v=nS3yEShcG3Y
LTEのためのEvolved HD Voice • 関連文書
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略語集
AMR-WB Adaptive Multi Rate Wideband
BGF Border Gateway Function
CS
circuit-switched
DECT Digital Enhanced Cordless Telecommunications
EVS Enhanced Voice Service
FB fullband
MGCF Media Gateway Control Function
MGW Media Gateway
MRF Media Resource Function
MRFP Multimedia Resource Function Processor
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RF radio frequency
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