Title 枝管付きループ管型熱音響冷凍機の高性能化に関する

Title
枝管付きループ管型熱音響冷凍機の高性能化に関する研究
Author(s)
経田, 僚昭
Citation
要旨
Issue Date
2014-03-22
Type
Thesis or Dissertation
Text version
none
URL
http://hdl.handle.net/2297/38960
Right
学位授与機関
金沢大学
学位の種類
博士(工学)
学位授与年月日
2014年3月22日
学位授与番号
甲第4035号
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http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
博 士 論 文 要 旨
枝管付きループ管型熱音響冷凍機の高性能化に関する研究
Study on performance improvement of loop-tube-type
thermoacoustic refrigerator with branch resonator
金沢大学自然科学研究科
システム創成科学専攻
氏名 経田 僚昭
Thermoacoustic cooler is one of promising device for utilization of unused thermal
energy. The objective of this paper is to study acoustic field and temperature field in the
looped-tube-type thermoacoustic cooler and its performance improvement. The
numerical simulation and experiment were carried out for various thermoacoustic stacks
composed of mesh screens whose size of aperture was different under constant porosity.
Firstly, using finite-difference time-domain (FDTD) method, pressure, velocity and
phase difference of sound wave were calculated for various stack structure. Since the
calculated results were almost agree with the experimental results, the validity of
analytical model was depicted. It was also found that the traveling-wave component
increases with increasing flow resistance of the stack defined by aperture size of the
mesh.
Secondly, heat-pumping process in the stack was numerically simulated taking
account of heat exchange between the solid wall and the oscillating fluid. As the results,
thermoacoustic cooling effect was clarified in relation to the thermal response of stack
and the phase difference between pressure and velocity of the sound wave. The
optimum size of aperture in the stack for thermoacoustic cooling was depicted
experimentally and analytically.
Finally, the performance improvement of a loop-tube-type thermoacoustic cooler was
investigated by desigining of the new stracture of the stack and the looped tube. As the
resutls, high performance of the proposed multi-mesh stack and multi-looped tube
structure were indicated experimentally and analytically in comparison to single mesh
stack and single-looped tube structure.
地球温暖化などの環境問題への対応,東日本大震災に伴う原子力発電の安全性の問題など我
が国のエネルギー構造の見直しが進む中,廃熱や自然エネルギーの有効利用が重要な課題とな
っている.気体の圧縮と膨張による温度変化を利用して熱輸送を行う熱音響冷却システムは,
(1)可動部が無い簡単な構造,(2)廃熱や太陽光など多様な熱源に対応可能であること,(3)冷媒
を用いる必要が無いことなどの特徴を有し,環境調和型の次世代冷凍システムとして注目され
ている.しかし,現状では冷却性能が低く,装置形状を含めた高性能化が課題となっている.
このような課題に対応するためには,音波による熱輸送機構のさらなる理解と様々なシステム
形状に対応できる数値解析モデルの構築が重要となる.本研究は以上の観点のもとで,枝管共
鳴管付きループ管型熱音響冷凍機を対象に,音場および温度場の数値解析手法の確立とそれを
用いた数値計算による高性能化のためのスタック構造と流路形状を追究したものである.本論
文は以下の 9 章で構成されている.
第 1 章「緒論」では,本研究の背景と工学的意義が述べられ,次いで熱音響現象に関する従
来の研究を概観すると共に,本論文の目的を明らかにした. 第 2 章「熱音響冷却システム」では,音と熱が関連する現象の具体例を示すとともに,音波
の形態である定在波と進行波についてそれぞれの特徴と概略を示した.また,狭い流路を音波
1
が 通 過 す る こ と に よ る 熱 の 輸 送 機 構 を 熱 交 換 の 応 答 性 を 表 す 無 次 元 数 ( 熱 的 応 答 性 ) ωτ
=ωr02/( 2a )(ω:角振動数,τ:熱緩和時間,r0:水力半径,a:温度伝導率)と関連づけて提示
した.
第 3 章「実験装置および方法」では,本研究で用いる実験装置の構成と実験方法について示
した.実験装置は図1に示されるように,進行波音波による高い熱輸送効果が期待できる枝管
長さ 180mm,ループ管周長 869mm の枝管付きループ管型熱音響冷凍機とした.スタックの仕様
を表 1 に示す.スタックはステンレス製メッシュを長さ 50mm に積層した構造とした.本研究
では,空隙率を 0.74
0.77 の条件でほぼ一定とし,積層するメッシュの番数#16
操作することで ωτ を 0.14
#60 の条件で
1.83 の範囲で変化させた.音場計測として,音圧,粒子速度,音圧
と粒子速度の位相差を 2 センサー法を用いて測定した.
第 4 章「理論解析」では,時間領域差分法(Finite-Difference Time-Domain method:FDTD 法)
による音場解析と気相・スタック流路壁面間の熱交換を考慮した熱輸送モデルを連成した数値
解析手法を提示した.物理モデルは,出口に吸収境界を置くことで理想的な進行波音場内に平
行平板流路スタックを設置したモデル(図 2)と,装置形状を与えた枝管付きループ管型熱音響
冷凍機の 2 次元モデル(図 3)の2種類を用いた.作動流体である大気圧空気を理想気体とみな
し,音場については連続の式が式(1)で,減衰係数を考慮した運動方程式が式(2)および式(3)で与
えられる.式中の p は音圧,vx, vz は x, z 方向の粒子速度,ρ は密度,η は減衰係数で空気部では
η =2kαρc/ (k2-α2)1/2(k :波数,α:音波吸収係数,c:音速),スタック部では金属繊維積層体の流れ抵
抗 R =2.73×10-16(ρm3.62/df2)(ρm:かさ密度,df :メッシュ線径)を与えた.温度場については,気相
に対して移流項,圧力項,熱伝導項からなるエネルギー式を式(4)で,スタック固体壁に対して
非定常熱伝導方程式を式(5)で与えた.
# !v !v &
!p
= "! % x + z (
$ !x !z '
!t
(1)
"#
$v x $p
=
+ %v x
$t
$x
(2)
"#
$v z $p
=
+ %v z
$t
$z
(3)
!
!
! CP
# !T
!T
!T & # !p
!p
!p & # !2T !2T &
= " ! CP % v x
+ vz
( + % + v x + vz ( + ! % 2 + 2 (
$ !x
!t
!z ' $ !t
!x
!z ' $ !x
!z '
(4)
! S CS
" !2T !2T %
!TS
= "S $ 2S + 2S '
!t
!z &
# !x
(5)
2
第 5 章「進行波音波による熱音響冷却」では,可逆的な熱輸送が実現される理想的な進行波
音波による熱輸送機構を第 4 章の音場ー温度場連成解析による数値計算により検討した.気体
圧縮・膨張に伴い,スタック流路内では気体の温度変動に伴う気相—壁面間の熱交換によりス
タック流路内部とスタック下方における気体の温度変動の間に時間位相差と振幅の差が生じる
ことが分かった.次に,温度変動の差と速度変動が関係するエネルギー式の移流項を検討した
ところ,スタック下端において一周期の間で冷却として働く時間が優勢となり,スタック内外
の温度差と流速の方向が熱の輸送を誘起することが明らかとなった.冷却性能として音波 10 周
期時点でのスタック両端の温度差ΔTS を求め,ωτ との関係で整理した.その結果,ωτ が小さい
スタックほど,冷却性能が向上することが定性的に確認された.
第 6 章「枝管付きループ管型熱音響冷凍機における冷却性能の数値シミュレーション」では,
進行波音波と定在波音波が混在する枝管付きループ管型熱音響冷凍機を対象に,音場特性と音
波による熱輸送機構を数値計算により検討した.まず,音場計算の結果,管内は 1/4 波長共鳴に
近い状態であることが示されるとともに,圧力振幅,速度振幅,および圧力・粒子速度の位相
差の分布はほぼ実験結果と一致し,本解析モデルの妥当性が確認された.また,スタックを構
成するメッシュの目開きを変化させた計算の結果,スタック流路径が小さくなり流れ抵抗が増
加すると,管内を伝播する音波の進行波成分が増加し,圧力振幅値が低下することが分かった.
図 4 にスタック中心位置における圧力振幅と位相差をスタックの熱的応答性との関係で示す.
本システムは流れ抵抗の比較的小さな ωτ =0.552
り,ωτ =0.14
1.83 のスタックで定在波型熱音響冷凍機とな
0.189 で進行波型熱音響冷凍機となることが明らかとなった.次に,温度場の計
算の結果,スタック冷却端(下端)を境界とした移流項の変動は ωτ =1.83, 0.14 両方のスタック
とも音圧基準で一周期のうち冷却として働く時間が優勢となり,振動流場における移流項が冷
却端での熱輸送を誘起することが示された.速度・温度変動で生じるエンタルピーフラックス
と熱伝導項を合わせたエネルギーフラックス(式(6)(7))を一周期で時間平均した値を求め,微
小要素におけるその収支を求めた.スタック内外の領域におけるその分布を図 5 に示す.
!
hx = "v x C p (T # T 0 ) # $
%T
%x
(6)
hz = "v z C p (T # T 0 ) # $
%T
%z
(7)
エネルギーフラックスが負の値,すなわちスタック下方が冷却となる範囲はその位置における
!
変位振幅とほぼ一致し,目開きが小さく熱的応答性の高いメッシュほどスタック下端に形成さ
3
れる冷却領域が狭くなることが見出された.このことは,スタック下端に設置する冷却用熱交
換器の寸法決定に関連して重要である.次に,冷却性能の指標として,スタック下方向に 50mm
スタック流路幅 D の範囲におけるエネルギーフラックス収支の積分値を求めた結果を図 6 に
示す.これより,スタック両端の温度差の実験結果(図 6(a))とエネルギーフラックス収支の積
分値の計算結果(図 6(b))は定性的に一致することが見出された.すなわち,本解析モデルを用
いて熱音響冷凍機の冷却性能を最大とするスタック流路径(熱的応答性 ωτ)を推定できること
が明らかとなった.
第 7 章「スタック構造の最適化による熱音響冷却の高性能化」では,枝管付きループ管型熱
音響冷凍機におけるスタック構造の最適化による性能向上を実験的に追究した.まず,管内に
Phase adjuster で装てんすることでスタック内の圧力と粒子速度の間の位相差を変化させた実験
を行い,圧力・粒子速度の位相差と冷却性能を最大とするスタックの熱的応答性 ωτ の関連づけ
を行った.その知見に基づき,図 7 に示されるように,スタック内部の位相差分布に応じて各
位置で最適な熱的応答性 ωτ を与えるメッシュを段階的に配置するマルチメッシュ型スタック構
造が提案された.熱音響冷却実験の結果,図 8 に示されるように単一メッシュ型スタックで最
も性能の優れた#30 メッシュ積層型スタックを上回る冷却性能が得られ,マルチメッシュ型スタ
ックの有効性が明らかとなった.
第 8 章「流路形状による熱音響冷凍機の高性能化」では,枝管付きループ管型熱音響冷凍機
における流路形状の改良よる冷却性能の向上を追究した.本研究で用いた枝管付きループ管型
熱音響冷凍機では,音波による熱輸送効果の低い定在波成分がスタック位置において支配的と
なる.そこで,図 9 に示すようにスタック(以下,スタック 1)下方にバイパス管に相当するル
ープ管(以下,ループ 2)を新たに追加することで,スタック 1 領域の音場特性を強制的に進行
波成分が支配的な特性に変換し,かつループ 2 内にスタック(以下,スタック 2)を設置するこ
とでスタック 2 からも冷却効果を得るマルチループ管型熱音響冷凍機を提案し,音場と温度場
の解析的検討を行った.音場解析の結果から,スタック 1 中心付近の位相差がループ 2 の追加
で 0°へ近づける効果があること,ループ 2 内にも位相差 0°となる位置を形成できること示した.
これにより,スタック 1 中心部で位相差 0°の進行波音波による冷却効果を得ながら,スタック 2
による冷却効果を得ることが可能となる.マルチループ管型熱音響冷凍機全体で得られる冷却
能力(エネルギーフラックス収支の積分値)を温度場を数値解析した結果,図 10 に示されるよ
うにスタック 1 に#60 メッシュを配置し,スタック 2 に#60 メッシュを配置した組み合わせによ
り単一スタック(#16 メッシュ)を配置した通常の枝管付きループ管型熱音響冷凍機を超える冷
却性能が得られた.以上の結果から,ループ管のマルチ化による冷却性能向上の可能性が示さ
れた.
第 9 章「結論」では,本研究で得られた知見を結論としてまとめている.
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Fig. 1 Schematic diagram of experimental apparatus
Table. 1 Geometric parameter of mesh stack
Fig.2 Analytical model of traveling-wave type thermoacoustic cooler
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Fig.3 Analytical model of loop-tube-type thermoacoustic cooler with branch resonator
Fig.4 Effect of ωτ on pressure amplitude and phase difference
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Fig.5 Distribution of energy density
Fig.6 Effect of ωτ on thermoacoustic cooling
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Fig.7 Design of multi-mesh stack
Fig.8 Cooling performance of single-mesh and multi-mesh stack
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Fig.9 Multi-looped tube type thermoacoustic cooler
Fig.10 Cooling heat flux in the single-looped tube type
and the multi-looped tube type thermoacoustic cooler
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