ロータリ切削工具を用いたインコネル 718 の切削加工

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あいち産業科学技術総合センター
研究報告 2014
研 究 ノート
ロータリ切 削 工 具 を用 いたインコネル 718 の切 削 加 工
河 田 圭 一 * 1、 児 玉 英 也 * 1
Cutting of Inconel718 with Rotary Cutting Tool
Keiichi KAWATA *1 and Hideya KODAMA *1
Industrial Research Center *1
ニッケル基耐熱合金などの難削材を対象とした切削工程では、高能率・高寿命化を実現できる加工技術
の ニ ー ズ が 非 常 に 高 い 。そ こ で 、本 研 究 で は イ ン コ ネ ル 718 を 対 象 と し た 切 削 加 工 の 高 能 率 ・ 高 寿 命 化 を
目 標 に 、セ ラ ミ ッ ク 製 の 駆 動 式 ロ ー タ リ 工 具 を 用 い た 加 工 実 験 を 実 施 し た 。そ の 結 果 、① MQL、OoW、水
溶性の順に摩擦係数は大きくなる、②切削速度が速くなるにつれて摩擦係数は大きくなる、③速度比を大
き く す る と 摩 擦 係 数 も 増 加 し 、速 度 比 が 0.4 よ り も 大 き い と 工 具 が 欠 け て 加 工 が で き な い こ と が 分 か っ た 。
1.はじめに
加工点を被削材中心から 12°上方へ加工点をずらすこ
ロータリ切削工具による加工は、円形状の刃を回転さ
とにより、工具の逃げ面が被削材と干渉しないようにし
せることにより、工具全周の切れ刃を利用した切削が行
た 。 油 剤 に は 、 極 微 量 潤 滑 法 (Minimum Quantity
えるため、摩耗や加工熱を切れ刃全体に分散することが
Lubrication、以下 MQL)、油膜付き水滴法(Oil on Water
可能となり、難削材の加工に利用されている。ロータリ
droplet、以下 OoW)、エマルションタイプの水溶性切削
切削工具は、排出される切りくずとの摩擦を利用して工
油剤の 3 種類を用いた。
具を回転させる従動式と、モータなどにより強制的に回
回転式切削動力計
転させる駆動式に分けられる。これまで、アルミニウム
被削材
合金を対象として、駆動式ロータリ切削工具のすくい面
上に微細なテクスチャを施し、切りくずとの摩擦を低減
する研究を行ってきた
1)
。一方、ニッケル基耐熱合金な
どの難削材を対象とした切削工程では、高能率・高寿命
化を実現できる加工技術のニーズが非常に高い。そこで、
本研究ではインコネル 718 を対象とした切削加工の高能
率・高寿命化を目標に、セラミック製の駆動式ロータリ
MQL・OoW 供給ノズル
工具を用いた加工実験を実施した。本年度は、加工に用
いる油剤や切削速度などの加工条件が摩擦や工具損傷に
図1
与える影響について調べた結果を報告する。
加工実験の様子
表1
加工条件
被削材
インコネル 718
工具
材種:サイアロン φ10mm
すくい角:3° 逃げ角:0°
切削速度
150~300m/min
くい面に働く、垂直方向および水平方向の切削抵抗を求
工具傾斜角
10 度
めることで、摩擦係数を算出した。それぞれの加工条件
切込み
0.3mm
における切削抵抗と摩擦係数の値は、被削材の端面から
送り
0.6mm/rev
40mm を加工したときの平均値とした。加工条件を表1
工具周速
15~60m/min
に示す。切削工具の材種にはチッ化珪素をベースとした
切削油剤
MQL(植物油 50mL/h)
2.実験方法
実験は、図1に示すような複合加工機を用いて行った。
回転式切削動力計により加工中の切削抵抗を測定し、す
サイアロンを用いた。すくい面は工具研削盤を用いて丸
OoW(植物油 50mL/h、水 20mL/min)
棒から形成した。工具には逃げ角を設けていないので、
水溶性(20 倍希釈、吐出量 12L/min)
*
1 産業技術センター 自動車・機械技術室
27
定結果を図6に示す。油剤には MQL を用いた。摩擦係
3.実験結果及び考察
数は速度比とともに増加した。さらに、速度比が 0.4 よ
3.1 油剤の影響
切削速度 150m/min、工具回転速度 30m/min の加工条
件における各切削油剤の切削抵抗の測定結果を図2に
りも大きい条件では、加工の途中で工具が大きく欠けて
しまい、加工を継続することができなかった。
示す。水平方向の力は MQL、OoW、水溶性の順に小さ
順に大きかった。この結果を用いて、摩擦係数を算出し
600
た結果を図3に示す。その結果、摩擦係数は MQL、OoW、
500
水溶性の順に小さいことが分かった。加工後のすくい面
の様子をマイクロスコープにより観察した結果を図4
に示す。どの油剤においても刃先のチッピングが観察さ
れた。しかし、水分量が多く冷却効果の大きい油剤ほど
チッピングは多く、刃先形状が大きく変化した。このこ
0.5
400
0.4
300
0.3
200
0.2
100
0.1
0
0
0.7
100
200
300
切削速度 [m/min]
0.6
図5 切削速度の影響
400
0.5
700
0.7
0.3
600
0.6
200
0.2
500
0.5
100
0.1
400
0.4
0
0
300
0.3
300
切削抵抗 [N]
0.4
400
200
図3 摩擦係数の比較
0.2
水平方向
垂直方向
μ
100
図2 切削抵抗の比較
0
0
0.2
0.4
速度比Vt/Vw
摩擦係数
500
摩擦係数
切削抵抗 [N]
600
水平方向
垂直方向
0.6
0
とが、摩擦を大きくした原因の一つと考えられる。
700
0.7
水平方向
垂直方向
μ
摩擦係数
700
切削抵抗 [N]
かった。一方、垂直方向の力は MQL、OoW、水溶性の
0.1
0
0.6
図6 速度比の影響
1mm
(a)MQL
1mm
1mm
(b)OoW
(c)水溶性
図4 加工後のすくい面の観察結果
4.結び
駆動式ロータリ切削工具を用いてインコネル 718 の切
削実験を実施した結果、以下のことが分かった。
(1)MQL、OoW、水溶性の順に摩擦係数は大きくなった。
3.2 切削速度の影響
(2)切削速度が速くなるにつれ摩擦係数は大きくなった。
速度比(=工具周速 Vt/切削速度 Vw)を 0.2 一定と
(3)速度比を大きくすると摩擦係数も増加した。さらに速
して、切削速度を 150~300m/min に変化させたときの
度比が 0.4 よりも大きいと工具が欠け、加工できなか
切削抵抗と摩擦係数の測定結果を図5に示す。油剤には
った。
MQL を用いた。切削速度の増加とともに摩擦係数は増
加する傾向が見られた。加工後の刃先を観察すると、切
付記
削速度の増加とともにチッピングが多く見られたことか
本研究は、平成 25 年度「知の拠点」重点研究プロジ
ら、切削速度が速くなるにつれ、被削材の凝着量が多く
ェクト事業「低環境負荷型次世代ナノ・マイクロ加工技
なることが推測される。
術の開発」において実施した。
3.3 速度比の影響
切削速度 150m/min 一定として工具回転速度の変更に
より速度比を変化させたときの切削抵抗と摩擦係数の測
文献
1)河田,糸魚川,則久,石川:日本機械学会 2011 年度
年次大会 DVD-ROM 論文集,11(1)