フラッシュストレージ

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1000 倍速も!
フラッシュストレージ
高速化、長寿命化の仕組み
特 集
最新フラッシュストレージ 高速化、長寿命化の仕組み
フラッシュメモリーを全面搭載した
「フラッシュ
ストレージ」
。新興ベンダーに加え、大手ベン
ダーの製品も出そろった。HDDとは桁違いの
高速性を生かす仕組みと、寿命を延ばす仕
組みを紹介する。
(島津 忠承)
フラッシュメモリーを全面的に採用
したストレージ「フラッシュストレー
ジ」の新製品が昨年から相次いで登場
し て い る。 米Fusion-io、 米Violin
フラッシュメモリーを
搭載したモジュール
Memory、米Pure Storageといった
写真提供:日本IBM
新興ベンダーが先行していたが、米
EMC、米HP、米IBM、米NetApp、
の場合、100 ∼ 200IOPSとされる。一
析などのことだ。これらはいずれも、
米Dell、日立製作所といった大手ベン
方、フラッシュストレージの場合、ラ
ランダムアクセスの高い性能が求めら
ダーが次々と発売。バリエーションが
ンダムアクセスのI/O性能は、ストレー
れる。
広がった。
ジベンダーの公称値で10万∼ 100万
例えば仮想環境は、一般に複数の仮
IOPS以上。HDDと比較すると、数百
想マシンで1台のストレージを利用す
∼数千倍の性能が出る計算になる。
る。そのため、ストレージ内の領域を
フラッシュストレージの特徴は、ラ
HDDのようにディスクを回転させ
区切って仮想マシンに割り当てる。
ンダムアクセスがハードディスクドラ
たりヘッドを移動させたりといった動
Pure Storageのストレージを販売する
イブ(HDD)のストレージと比べて桁
作が必要ないことなどが、ランダムア
東京エレクトロンデバイスの岩田郁雄
違いに速いことだ。
クセスにおける大幅な高速化につな
氏(CN事業統括本部 CNプロダクト
ストレージのI/O性能は、1秒当たり
がっている。
事業部 事業部長代理)は、
「各領域の
の処理I/Oリクエスト数を意味する
ランダムアクセスが高速という特徴
仮想マシンがそれぞれI/O処理を要求
「IOPS」
(Input/Output Per Second)
は、最近の企業情報システムで広がる
するため、ランダムアクセスが多発す
で表す。小さいサイズのデータに対す
用途で価値が高い。サーバー仮想化や
る」と指摘する。
るランダムアクセスは、一般的なHDD
デスクトップ仮想化、ビッグデータ分
ランダムアクセスの高速性能を評価
ランダムアクセスを高速化
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NIKKEI SYSTEMS 2014.5
高速化の課題(1)
コントローラーによる遅延
高速化の課題(2)
モジュール内部の遅延
➡処理をハードウエアで実行
➡HDD前提の動作をフラッシュ前提に変更
➡書き込み時にDRAMを活用
➡読み書きを妨げずに無駄領域を常に解放
フラッシュモジュール
フラッシュ
モジュールの
コントローラー
ストレージ
コントローラー
サーバー
SANスイッチ
フラッシュ
ストレージ装置
高速化の課題(3)
ネットワークの遅延
➡CPUの大容量バスに直結
フラッシュメモリー
長寿命化の課題
書き換え回数の制限
➡装置全体でウエアレベリング
➡重複排除で書き込みを削減
特 集
フラッシュモジュールの例
日立製作所の
「Hitachi Accelerated Flash」
最新フラッシュストレージ 高速化、長寿命化の仕組み
1 フラッシュメモリーの高速性を生かせない三つの課題と長寿命化の課題
図
フラッシュメモリーはHDDに比べてランダムアクセスが桁違いに高速であり、それによって従来のストレージにない新たなボトルネックが生じた。その高速化の課題三つ
に対する工夫と、長寿命化の課題に対する工夫を取り上げる
して、ユーザー企業の間でフラッシュ
ストレージの導入が進んでいる。例え
低価格化が進み、逆転するケースも
HDDより並列構成の多重度を減らせ
る分だけコストを節約できる。
ば医薬品卸のスズケンは今年3月、営
従来、フラッシュストレージの普及
スズケンの武川浩久氏(情報システ
業支援システムに利用する共有スト
を妨げる最大の要因は、HDD搭載の
ム本部 システム開発部 副部長)はフ
レージを更新するに当たり、IBMのフ
ストレージに比べて割高なコストだっ
ラッシュストレージを導入した際、
ラッシュストレージ「FlashSystem
た。しかしフラッシュメモリーの価格
HDD搭載のストレージも検討した。
840」を選択した。これ以外にも、
「幅
は年々低下傾向にある。EMCジャパ
ほぼ同等のI/O性能と、同社が必要な
広い業種から、多種多様な用途で引き
ンの笹沼伸行氏(システムズ・エンジ
ストレージ容量を実現する構成でコス
合いがある」と、日本IBMの佐野正和
ニアリング本部 プロダクト・ソリュー
トを試算したところ、
「初期費用に、5
氏(システム製品事業本部 ストレージ
ション統括部 ソリューション部 シニ
年間の保守費用や電気代を加えると、
セールス事業部 ソリューション部長
ア・システムズ・エンジニア)は、
「FC
フラッシュストレージのほうが割安
システムズ&テクノロジー・エバンジェ
(Fibre Channel)向け毎秒1万5000回
リスト)は話す。
転のHDDの最小容量モデルと、SSD
だった」
(武川氏)
。
高速性を生かせない課題を克服
ガートナー ジャパンの鈴木雅喜氏
(Solid State Drive)の最小容量モデ
(リサーチ部門 ITインフラストラク
ルを比較すると、価格は3倍程度にま
ストレージにフラッシュメモリーを
チャ&セキュリティ リサーチ ディレ
で差が縮まった」と説明する。
載せるだけで、その高速性を最大限に
クター)は、
「新技術を使った製品は
低価格化によって、高いI/O性能が
生かせるわけではない。HDDに比べ
段階的に浸透していくものだが、フ
要求される用途では、HDD搭載のス
て桁違いに速いだけに、従来のスト
ラッシュストレージは多くの企業が一
トレージより総コストが割安になる
レージのアーキテクチャーでは、主に
斉に導入に前向きになっている」と指
ケースも出てきた。HDDで高いI/O性
三つの遅延が課題になる。それは、
(1)
摘。早ければ今後数年で、企業のビッ
能を確保するには、多数のHDDやサー
コントローラーによる遅延、
(2)モ
グデータ分析が一段と広まり、それを
バーを並列構成にする必要があり、コ
ジュール(従来のドライブ装置に相当)
支える基盤としてフラッシュストレー
ストアップ要因となる。フラッシュス
内部の遅延、
(3)ネットワークの遅延
ジが普及すると予測する。
トレージは単体で見ると割高だが、
― である(図1)
。
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