収差補正法各論 Comparison of various aberration correction methods

学振 132 委員会・電子光学基礎講座
2015 年 2 月 6 日
収差補正法各論
Comparison of various aberration correction methods
津野勝重
Katsushige Tsuno
EOS 津野
Electron Optics Solutions Tsuno
[email protected]
1. はじめに
昨年の基礎講座では御自身もi中心人物のひとりであった岡山による 4 個の 4 極子から成る
基本軌道上に置かれた 8 極子による球面収差(Cs)補正が紹介された。この補正法は過去最も
多くの研究が行われた。1990 年に岡山iiによる実験的成功が報告され、1999 年に Krivanekiiiが
成功し、2002 年に最初の商業生産機による発表ivがなされている。
一方、1994 年 Zachvによって SEM 用の 4 段 4 極子基本軌道上の 8 極子 Cs 補正と、電場・磁
場重畳 4 極子による色収差(Cc)補正が発表された。Zach の方法は、SEM の商用機として日
本電子から、その後ホロンが半導体検査装置用として販売している。同様に日立viで独自の
開発が行われた。収差補正の応用に革命的な Cs 補正法は、1996 年に Haiderviiによって発表
された 6 極子補正法で、収差補正電子顕微鏡の 9 割以上を占めている。現在は、20~80kV
の低加速 TEM 向けの Cc 補正器の研究viiiとモノクロメータの普及ixが行われている。
多極子収差補正器の歴史的発展とその間に発表された論文と学会のプローシーディングス
のリスト、製造販売元の CEOS と NION 搭載した電子顕微鏡販売元の FEI, JEOL, Zeiss、日
立についての Hawkesxによる解説が Ultramicroscopy 2015 年に出版が予定されている。ここ
では歴史的記述はここまでにし、以下では収差補正法相互の関係について解説する。
2. Scherzer の基準と軸対称場による収差補正
Schelzer の 1936 年の論文xiに上げられた負の収差が作れない条件と、1947 年xiiに提案された
補正法を以下に示す。以下の基準は Scherzer の弟子で、同じ大学の教授を定年まで勤め(現
1
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在は Ulm 大学教授)、今では収差補正の理論的指導者と目
されている Rosexiiiによる解説から取ったがその順番は変
えてある。
共通条件: 物面、像面が共に実像。
第一: ミラーを除く。 --> ミラー
第二: 静電場又は静磁場。 -->時間変化する場
第三: 場とその傾きが連続。
--> 薄膜レンズ
第四: 空間電荷がない。 --> 空間電荷制御レンズ
図 1. レンズ場と正の Cs。
第五: 場の分布が軸対称。 --> 多極子レンズ
実像を作ることは共通の前提条件であり他の条
件と AND の関係にある。電子は直接観察が出来
ないので、必ず実像を作って人の目に見える光に
変換する。それ以降はお互いに OR の関係となる。
図 1 に示すように、レンズは中心に穴を持つので
場の分布は中心で弱く、周辺で強くなる。このた
め中心から離れた電子ほど早く収束し実像を作
る。これを正の Cs とする。負の Cs は虚像を作る
軌道条件で実現する。そこで、レンズを使った収
差補正では虚像が作る負の収差より小さい収差
で同じレンズ作用の実像レンズと合成しなけれ
ばならない。これに対して、図 2 に示すように、
ミラーは負の収差を持つ軌道が実像を作る。図 3
ではミラーが Cc も負になることを示している。
ただ、ミラーでは、補正器に入るビームと出て行
図 2. 静電ミラーが負の Cs を持ちな
がら実像を作る説明図。(a)赤線は、
軸上の電場分布。穴のない電極の作る
電場は中心で最も強く、周辺で弱くな
る。(a)は電極が透明でレンズとして
働く場合の仮想的な軌道。(b)はミラ
ーとして(a)を折り返したもの。
くビームが同じ軌道を通るので、両者を分離する
ビームセパレータを必要とし、その開発がむしろ
主要な課題となる。このため、TEM や SEM に応
用されたことはなく、もともとビームセパレータ
が使われている LEEM と、LEEM と類似の光学系
を持つ PEEM で広く使われている。ミラー補正器
の論文は、Rempferxivの長年にわたる研究とその
図 3. 図 1(a)に対応する軌道で、エネ
FEI による製品化、ベルリンの加速器に接続され
ルギーの違う 2 本ビームを描いてい
xv
た Rose の設計に基づく Schumidt の論文、IBM で
xvi
進められた Tromp の論文の 3 種類がある。
る。(b)に対応する反射軌道は入射軌
道と重なるため描いていない。
2
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時間的に変化する場による収差補正
xvii
は、パルスレーザーを用いた PEEM
でエネルギーによる光電子の速度の
違いに応じて、レンズ場の強さを最適
値に変化させることによる色収差補
正が成功している。不連続場を用いる
方法は、薄膜レンズの研究として名古
屋大学xviiiで長きにわたって研究され
た。空間電荷xixは凹レンズとして作用
図 4. アインツェルレンズ、減速レンズ、アイン
するので負の収差を作ることが出来
ツェルレンズの組み合わせで 100V の入射電子を
る。実際、図 4 に示すように、100V
10V に減速した系における空間電荷の効果。
の加速電圧で入射した電子ビームを
途中で 10V に減速した系で、レンズによる収束位置がビーム電流を増すと遅れることから
空間電荷が凹レンズ作用をしていることが分かる。ビーム電流を増すとビームが発散する。
3. 多極場による収差補正
シェルツァーの基準では電場・磁場の軸対称性を外した場合に負の収差が実現出来ること
を述べている。多極子を使った収差補正法は、軸対称性から分類すれば表 I のように表わさ
れる。軌道や収差も非軸対称なのが、4 段 4 極子を基本軌道とする 4-8 極子法、軸対称な収
差を作り出すのが 6 極補正子、軌道も軸対称にするのが Wien 補正法である。
表 I. 収差補正の方法と何が軸対称でどこまで軸対称を外しているか。
収差補正法
電場・磁場
軌道
収差
4-8 極子 Cs, Cc
非軸対称
非軸対称
非軸対称
6 極子 Cs
非軸対称
非軸対称
軸対称
Wien, Cs, Cc
非軸対称
軸対称
軸対称
一次の Wien Cc
非軸対称
軸対称
軸対称
もう一つ重要な点は、6 極子以上の多極子はレンズ作用をしないことである。Cs は 6 極子
成分を他のラウンドレンズ又は 4 極子レンズで作った基本軌道の上に重ねることで行われ
る。これに対して、Cc は 4 極子によって作られる。4 極子にはレンズ作用があるため、基
本軌道の生成と収差の補正が混合する。しかも、Cs 補正は電場でも磁場でも良いが、Cc 補
正は電場が必要である。このことが、Cc 補正が高い加速電圧では行いにくい理由を作り出
している。ただ最近、大阪大学の西と日立ハイテクの伊藤xxは磁場コイルのみで Cc 補正が
可能と主張している。これまでの歴史からは、Cs よりも Cc 補正が難しいことが分かる。
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4.非軸対称収差: 4 段 4-極子を用いた Cc 補正
1994 年に Zachiv によって発表された SEM 用 Cs, Cc
補正は、その学会発表が衝撃を持って迎えられた。
図 5. 4 段 4 極子基本軌道の模式図。
誰もが信じていなかった収差補正の成功とその調整
手続きの詳細な発表であったからである。その発表は日本で開催された国際会議で行われ
たが、それに先立つ半年前にドイツの国内会議の発表では何ら関心を集めず、国際会議に
招待されたニュースによって、補助金などが付き始めたと言うどこかの国と同じような注
目であったと聞いている。
基本軌道は模式的に図 4 で表
わされる。4 極子レンズは、X
方向に収束(凸レンズ)すれば
Y 方向には発散(凹レンズ)す
る。そのため最初のレンズ(左
端)でビームが 2 つの方向に分
かれる。最初に収束方向に来
図 5. 基本軌道の XZ, YZ 面の軌道並びに各位置でのビー
たビームを 2 番目の 4 極子の
ム形状。
中心を通すと、ここではレン
ズ作用はしないが、最初発散レンズだった側で収束レンズにして、このビームを 3 番目の 4
極子の中心を通す。このようにして、図 4 のような平行四辺形の基本軌道が形成される。
この基本軌道によって作られる収差は全体として正である。というのも、第 1 と第 4 の 4
極子では、最初が発散の場合は最後が収束であるから、発散レンズで作られた負の収差は
収束レンズでキャンセルされる。第 2 と第 3 の 4 極子については、発散レンズはいずれも
軸上を通っているので収差は作らず収差は X, Y いずれの軌道でも収束レンズで作られるの
で、全収差は正になる。磁場 4 極子で作る基本軌道上で Cs 補正を行う場合には、2 番目と
3 番目の 4 極子に 8 極場を重畳したが、これは昨年岡山 i によって詳細に説明された i。
Cc 補正の場合は、同じ 2 番目と 3 番目の 4 極子に静電 4 極場を重畳する。図 5 に置いて X
方向では 3 番目の 4 極子、Y 方向では 2 番目の 4 極子で発散となるように調整する。もちろ
ん、これで基本軌道の収束も再調整しなければならない。この発散電場 4 極子の-Cc が磁場
4 極子の+Cc より 2 倍以上大きければ最後に-Cc が残る。と言うのは、2, 3 番目の 4 極子に
おいて、電場 4 極子は発散レンズ作用もする。磁場 4 極子は、この電場 4 極子が作る発散
場をキャンセルするための収束場を作る他に、図 4,5 に示した基本軌道を維持するためにも
使われる。このように、電場レンズが磁場レンズより大きな Cc を作ることを利用して 4 極
子による収差補正が行われる。重要なことはこの他に、4 極子は X 方向が発散ならば Y 方
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向は必ず収束することである。このため、補正の発散場を与える電場レンズは必ずもう一
方の収束場となる軌道が光軸を横切るように通さなければならない。
Zach の磁場・電場重畳型 4 極子による Cc 補正に至るまでの間に、軸外収差を作らないため
の対称軌道を作る 5 段の基本レンズ系が使われた。また、最初の Scherzer の提案では 4 極
子ではなく、円筒レンズを使うことが提案され、初期の研究では円筒レンズが使用された。
FIB 加工機などで
シャープなエッジ
を必要とする場合、
イオンビームの収
差補正では磁場を
使うとその電流が
図 6. 4 段電場 4 極基本軌道上に加減速レンズを入れた Cc 補正器。
大きくなる。電場 4 段 4 極子基本軌道を使ってxxiCc 補正を実現した例もある。第 2、第 3
の 4 極子に重畳する-Cc は、減速で実現する。図 6 に示すように、第 2, 3 番目の 4 極子の前
に減速レンズ、後に加速レンズを置く構成を取る。減速すると収差が大きくなるが、その
理由は、低加速ではなく、ビームの角度が大きくなることによる。
5. 6 極子による Cs 補正 vii
図 7 は対物レンズ、投影レンズを含む 6
極補正子のレンズと補正子の構成図で
ある。また、図 8 に、その中を通る軸対
称な基本軌道を示した。Axial Ray は、
像のフォーカスを作る軌道で、Field Ray
は倍率を示す軌道でもあり、電子回折面
図 7. 6 極 Cs 補正子のレンズ構成
を示す軌道でもある。6
極子は収差を付加する
だけで基本軌道に変化
は起こらない。6 極補正
子は 2 個あり、対物レ
ンズの後のトランスフ
ァーレンズ 1, 2 の後と、
引き続くトランスファ
ーレンズ 3,4 の後に置
図 8. 6 極補正子内の軸対称基本軌道。
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かれる。最初のトランスファーレンズ対は、第一 6 極子へのビームの入射条件を決め、後
のトランスファーレンズ対は電子ビームを反転させて第二の 6 極子に入れる働きをする。6
極子は大きな二次収差を作り、その二次収差を第二の 6 極子でキャンセルさせるために軌
道が反転される。Cs は、6 極子が作る二次収差に比べると小さな軸対称な収差である。
図 9 左図に示す様に、6 極子では差し向
かいの極は反対極のため中心軸上にも
場があり、電子は偏向力を受ける。実際
の 6 極子は磁場で作られているが、図 9
右図は電場 6 極子で Cs 生成の原理を示
している。電子はマイナスの電荷を持っ
ているので、偏向方向はプラスの極に向
図 9. 磁場 6 極子と電場 6 極子中での Cs の発生。
かう。この時、プラス側にある電子は、
偏向によって電子はより外側に来るので、電場はより強くなり、偏向量も大きくなる。こ
れに対し、マイナス極側の電子は、中心に向かって偏向されるので電子が受ける電場の強
さは中心に近づくため弱くなり、偏向量も少なくなる。電場の強さが中心から外側まで同
じであったと考えた時の偏向量に対して、いずれの場合もより外側に偏向されることにな
る。偏向は軸対称で常に外向きであるから負の Cs が現れたことになる。ところが、偏向量
はこの軸対称な収差よりずっと大きい
ため、ビームは図 10 に示すような 3 角
形に歪む。この歪を補正するのが、トラ
ンスファーレンズによって軌道を反転
した後に置かれた第二の 6 極子の役割
である。Cs は軸対称に作られるので加
算され、二次収差はビームが反転してい
るので差し引かれて零になる。
図 10. 6 極子によって作られた二次収差。
6. 非対称場で対称な軌道を作り出す Wien 補正子xxii
図 11 (a)に電場方向を含む ZX 面(上の軌道)と磁場方向を含む ZY 方向(下)のウィーン軌道を
示してある。ZX 面の二本の軌道はエネルギーの違いによる分離を示している。また、軌道
の中央に生じた最初の収束では大きな二次収差による三角形が見られる。これらの収差と
分散を除けば、(b)の 6 極補正子の基本軌道と同じである。ウィーンフィルタでは一個の多
極子で電場 e1,と磁場 b1 のダイポール項による X 方向への一次の収束と 4 極子 e2, b2 によ
る X 方向に凹レンズ、Y 方向の凸レンズ作用を併せてラウンドレンズフォーカスを実現し
ている。これに対して、6 極補正子ではラウンドレンズ二個によってこれを行っている。
6
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ウィーン補正子では、基本軌道上にさ
らに 6 極子 e3, b3、8 極子 e4, b4 の各成
分を重畳することが出来、一個の多極
子を使って収差補正に必要な全ての電
磁場成分を供給する。つまり、全系を
一つの式で表現することが出来る。こ
のことは、収差理論に大きなメリット
をもたらしてくれる。式による展開は
ここでは示さないが、Orloff 編集の
Handbook of Charged Particle Optics
xxiii
Second Edition の Hawkes
の
図 11. (a). WienCs, Cc 補正器と(b). 6 極子 Cs
補正器の基本軌道の比較。
Aberrations の章の 277 ページから 286
ページにわたって、ウィーン補正子の
Cs, Cc がどのように作られるかを式に
よって示している。電子軌道と収差を
式で表現することによって、必要な収
差だけを作り出すための条件が明らか
になる。6 極補正子の場合には、Cs 以
外の収差も作られるが、それらは実験
によって像を見ながら取り除くしかな
い。あるいはシミュレーションによる
数値計算でも明らかにできる。もちろ
ん、実際の装置では機械精度の狂いな
どによる寄生収差が付け加わる。ウィ
図 12. ウィーン補正子の第一収束と第二収束で
ーン補正子の場合にはあらかじめ式に
の収差図形を後で示す係数 m に対して示した。
よって、余分な収差の発生しない条件
が明らかになっているので、実験的に取り除かなければならないのは寄生収差と計算から
のずれの小さい収差だけとなる。このことは、電源安定度に対する補正装置の大きな精度
要求を緩和してくれるものと期待される。全ての項を一つの素子で実現出来ることによる
デメリットもある。それは、ラウンドレンズ成分を多極子場で作らなければならないため
に、電極間に大きな電圧が掛ることである。放電を避けるため、最大の加速電圧が制限さ
れる。各極間のギャップを 0.7mm~1mm 取ると、最大加速電圧は 3~5kV 程度となる。ウィ
ーン補正子が実用化されない最大の理由が理解不足と共に、ここにある。図 12 の収差図形
は 4 極子電場 e2 と磁場 b2 をウィーン条件(e2-b2= -1/4)を満たしながら変化させている。左
側の二組のパターンがエネルギーの異なるビームの一回目の収束、右のパターンが二回目
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収束での収差図形である。一回目の
収束では全体的なビームの形は三
角形であるが、角度別に表示すると
二次のコマ収差である。二回目収束
では、分散と二次の幾何収差が消滅
している。図は二次収差までを表示
しているので、Cc 以外の色収差が
残り楕円となるが、丸い Cc だけを
取り出す条件がある。6 極補正子で
は、Cc の補正は出来ないが、ウィ
ーン補正子では電場の多極子を持
図 13. 二次の色収差が丸くなる(Cc だけになる)条
つため両者の補正が出来る。
件と零を通って正から負に代わる条件は、6 極子成
分の大きさによって決まる。
図 13 に示すように、
6 極子を(e3-b3)
=m/16 で固定すれば 4 極子 m の変
化によって Cc=0 を経由して正負の
値を取らせることが出来る。ここで
4 極子のパラメータとした m の値
は、表 I のように定義される。ここ
m
-2
-1
0
e2
0
-1/8 -2/8 -3/8 -4/8 -6/8 -8/8
b2
2/8
1/8
0
1
2
4
6
-1/8 -2/8 -4/8 -6/8
表 I. パラメータ m と電場・磁場の二次の係数 e2, b2
の関係。
で 6 極子成分(e3-b3)は e3 だけで与えても b3 だけで与えても良い。
次に Cs 補正の条件を見てみよう。
Cs=0 となる条件は m2-12m+12=0
という二次式によって与えられる。m
の値は 2 個あるが図 14 からわかるよ
うに、Cc が負の値を取ることが出来
る条件で Cs=0 となるのは m=1.010 の
付近だけである。この付近での m の
変化に対する収差図形の変化を描い
たのが図 14 の下の図である。図 14
には上で求めた Cc も描いているが、
こちらは直線となる。
図 14. Cs, Cc と m の関係及び Cs=0 付近の収
差図形。
図 15 に示すのは、6 極子成分と 8 極子成分をどのように調整すれば 3 次の収差を丸くす
ることが出来るかを示したものである。赤と青の線は色収差によるビーム形状の変化で
3 次の色収差によってもビームの形は大きく変化する。しかし、6 極成分を b3=5m2/144
8
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に設定し、
8 極子を e4-b4= -29m2/1152
に設定することによって、3 次の幾
何収差も 3 次の色収差も丸くなり、
開口収差(Cs を含む収差)以外には 3
次の Cc しか含まない。ここでは図
形によって結果を示しているが、こ
れらは式を解いて求めた結果である。
このように巨大な収差の中にうずも
れた Cs, Cc を探し出すのではなく、
同等程度の収差を与える収差補正が
実現されるのがウィーン補正法であ
る。
図 15. 3 次の収差を丸くする、即ち Cs を含
む開口収差だけにする 6 極及び 8 極子成分。
4. 新しい Cc 補正法
Rose は Geometrical Charged Particle Opticsxxiv の 274 ページに Wien Filter の定義の一般化を
行っている。従来型のフィルタを第零次のウィーンフィルタとした。そこではローレンツ
力は F = e(E + vB) と表わされ、このフィルタはエネルギー分散を持つ。この式で表わされ
る力を零となるように電場・磁場を調節したものを第一次のウィーンフィルタと呼んだ。
力を作る成分は、2 極子と 4 極子成分であるから、ウィーンフィルタからレンズ作用を取り
除いて収差を作る項だけを切り出したものが第 1 次のウィーンフィルタと言うことになる。
ここには、4 極子成分も含まれる。4 極子は Zach の 4 段 4 極子の所で説明したように、基
本軌道を作るとともに、色収差も発生する。
一方、細川xxvは、新しい Cc 補正法として、6 極子による Cs 補正と同様の厚肉の 4 極子によ
って Cc が作られるとした。両者は全く別の補正法として発表され、互いの方法を参照する
こともなく、両者ともに実験的な成功を達成したが、商品化・実用化にまでは至らなかっ
た。しかし、上で述べたように、Wien 補正子による Cs 補正は、本質的に 6 極補正子と同じ
もので、6 極補正子が Cs 以外の収差を垂れ流しにして後で実験的に取り除いているのに対
して Wien 補正子では予め Cs 以外の収差を多極子の組み合わせによって取り除いている所
に違いがあるだけだと説明した。そのことを両 Cc 補正法に当てはめて考えると、細川の方
法と Rose の方法は同じ第一次の Wien 補正子であると言うことが出来る。
所が、両者の具体的方法を眺めてみると、基本軌道は Zach の Cc 補正法と同じ 4 段 4 極子
が用いられている。これでは第一 Wien 補正子とは言えない。Wien 補正子は軸対称な軌道
を使って、軸対称な収差を作るものである。少なくとも軸対称な収差を利用しない限り、6
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極 Cs 補正法と同じ原理とは言えない。両者が最初に提案した方法を推し進め 4 段 4 極子は
用いないようにするべきである。ただし具体的な方法をここに提案することは差し控える。
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