世界トップレベル研究拠点における 電子実験ノートの導入

世界トップレベル研究拠点における
電子実験ノートの導入
ケーススタディ
• 有機化合物の研究を行う名古屋大学のトランス
フォーマティブ生命分子研究所では、実験情報
をメンバー間で共有するニーズが急速に拡大
• WEBベースで情報共有を可能にする、検索性能
にも優れたBIOVIA Notebook Cloudを導入
• モバイルデバイスを使って、実験結果や写真の
取り込みも研究現場で簡単に実行
• 同じ実験を繰り返すなどの無駄を排除し、記
録・報告作業のスピーディ化で研究効率が向上
世界トップレベルの研究所で急務となった
実験情報の共有という課題
名古屋大学は、1939年に創設された名古屋帝国大学を母体
とする伝統ある国立大学です。愛知県名古屋市千種区にある
東山キャンパスは、敷地面積69万㎡という広大な敷地に数
多くの充実した施設を持ち、中央には地下鉄名城線の駅(名
古屋大学駅)まで存在するというスケールの大きさが印象的
です。また、名古屋大学は数多くの人材を輩出していること
でも知られ、過去にノーベル賞受賞者を6名も送り出してい
ます。最近では、青色発光ダイオード(LED)の研究成果によ
りノーベル物理学賞を授与された赤崎勇教授、天野浩教授の
功績が記憶に新しいところでしょう。
その名古屋大学で、文部科学省の「世界トップレベル研究拠
点プログラム (WPI)」のひとつに採択され、有機化合物研究
を進める組織として2013 年に創設されたのが「トランス
フォーマティブ生命分子研究 所(以下 ITbM)」です。伊丹
健一郎教授を拠点長に、第一線の研究者たちが合成化学と動
植物科学の融合による生命科学の探求に注力しています。
ここでは、有機合成により生命科学を根底から変える革新的
機能分子と言われる「トランスフォーマティブ生命分子」を
生み出すことを命題として研究活動が続けられており、有機
化合物の合成、ライブラリ化に取り組んでいます。
こうした環境にあるITbMでは、関係する研究者の増員や、
メンバーの入れ替わりが頻繁に行われることに加え、研究拠
点が複数の場所に分散していて、お互いのやっていることが
見えづらいということもあり、情報を確実に共有するという
ことに対するニーズが急速に高まっていました。
名古屋大学の理学研究科では、従来、一般的な紙の実験
ノ ー トを使って日々の研究プロセスや結果を記録してきま
したが、ITbMの有機化学研究(伊丹研究室)に携わるメン
バーだけでも現在約70名いて、生物化学に関する研究員も
含めると、ITbM全体で150名にも及んでおり、紙の実験ノー
トでは情報共有が現実的に行えないという状況にも面して
います。
ITbMで有機合成のプロジェクトを推進する名古屋大学理
学研究科の山口潤一郎 准教授は、「同じ実験を、別の場所
で、違う人間が繰り返して行うことに、メリットは何ひとつ
ありません。実験内容の共有化というのは私たちの大きな課
題だったのです」と話します。
そこでITbMでは、電子実験ノート(ELN)導入の検討に入
りました。
複数のメーカーのELN製品を調査、検証した結果、ITbMの
求めるニーズに最も合致したのがダッソー・システムズ・バ
イオビアの『BIOVIA Notebook Cloud』でした。
「私たちの研究室のPC環境は大半がMacでしたが、一部で
Windowsのアプリケーションを利用している者もいます。
ですから、電子実験ノート選定の条件として、両方のインフ
ラを意識せずに活用できるということがまず必須要件で
した。『BIOVIA Notebook Cloud』は、WEBベースのクラ
ウドサービスで、Mac、Windowsといったインフラに依存せ
ずにアクセスできるという点で他を大きくリードしていて、
選定する際の最も大きな決め手となりました」(山口准教授)
クラウド環境の実験データ記録により
研究効率と保全性が向上
従来型の紙の実験ノートのメリットは、持ち運びが容易で、
思いついたアイデアをすぐにノートにメモできるという点で
す。デジタルに移行すると、この機動性が失われるというデ
メリットはありました。
しかし山口准教授は、『BIOVIA Notebook Cloud』にはそれ
と引き換えにしても余りある優位性があると判断しました。
第1に共有性です。ITbMでは、産学官連携プロジェクトと
して関係者が常に研究過程の情報をシェアして、研究活動
の活性化を図ると同時に、無駄な実験を排除することで作
業の効率化を追求することも求められています。そのため
には、ELN導入による情報共有手段の強化は必然の選択でし
た。『BIOVIA Notebook Cloud』を活用することで、離れた
場所で共同研究を進めるプロジェクト・メンバーのコミュニ
ケーションをリアルタイムに図っていくためのWEBインフ
ラを手に入れました。
第2に検索性の高さです。実験プロトコル、実験結果、検
討条件などを始めとする様々なキーワードで、誰でもが簡
単に検索できるようにすることは、これからの時代におい
て、研究プロセスのスピードアップのための必須要件です。
『BIOVIA Notebook Cloud』が持つ高い検索性能と優れた
インターフェイスによって、ITbM内の検索精度は徐々に向
上しつつあります。
第3に構造式を容易に記録できるという点です。ITbMでは、
有機化合物の構造式を描画、記録するためのアプリケーショ
ンとしてChemDrawを利用しています。『BIOVIA Notebook
Cloud』には、このChemDrawで制作された構造式データを
シームレスに取り込む機能が標準搭載されています。優れ
た検索機能によって、構造式による検索も容易に行えます。
「 研究の世界では、いまや論文を紙で読むというこ
とも激減し、ほとんどがデジタル形式で公開されイン
ターネット経由で読まれています。個人のスケジュー
ルでさえ、PCやスマホで管理する人が、私も含めてど
んどん増えています。様々な世界で電子化、デジタル
化が進む中で、実験ノートだけがいまだにアナログで
あるということ自体がナンセンスなのではないでしょ
「私たちは月に一回の報告会で研究成果の発表を行っている
のですが、ELNを導入したことで、報告会向けの資料作成の
準備が格段に楽になりました。化合物の構造式をデータとし
てELNに記録しておけば、それをそのまま報告会の場でスク
リーンに投影して見せることができ、さらには、何をどうや
ったのかという実験プロセスの詳細まで提示することも可
能です。研究成果の情報共有を深めるという意味合いにお
いて、とても大きな進歩だと感じています」(山口准教授)
うか。実験記録の電子化というのは時代の必然なの
だと思います」
また、化学ポータルサイトの運営にも携わる山口准教授は
「電子実験ノートを運用するために、メンテナンスに時間と
手間が取られるサーバーを自分で独自に管理することは避け
たかった」と言い、データを外部委託サーバーに置くことに
関して躊躇は無かった、と語っています。
加えて、ITbMのようなWPIに採択された産学官プロジェク
トにおいては、今後、実験ノートを適正に記録し、改ざんを
防止するセキュアな環境を準備することは不可欠な条件とな
りつつあります。この点でも『BIOVIA Notebook Cloud』が
提供する履歴管理と第三者認証による改ざん防止機能は、実
験、研究内容の保全性向上に寄与します。
ボーダレスな研究組織の実現に向けて
さらにITbMでは、BIOVIA Notebookのモバイルデバイス向け
アプリを活用したデータ共有も積極的に行っています。
スマートフォンやタブレットなどでBIOVIA Notebookのモバ
イル・アプリを使えば、実験現場を離れることなく、シンプ
ルで使い勝手のよいインターフェイスを通して、予定された
作業リストや実験の実行手順を手軽に確認したり、キーボード
や手書き認識機能、ボイスレコード機能を使って実験結果を
入力、撮影した写真も手軽に取り込むことが可能になります。
「入力した実験データを時
間や場所を問わずに確認で
き、実験したその場で写真
を撮ってWEB経由でシステ
ムに転送するということが
難なく出来るようになった
のは、私たちにとってイメ
ージしていた以上の大きな
付加価値でした」(山口准
教授)
このように『BIOVIA Notebook
Cloud』が持つ高い性能を駆使
することによって、ITbMでは
組織全体での研究効率、ひい
ては研究内容のクオリティの
向上が進みつつあります。
名古屋大学大学院理学研究科
物質理学専攻化学系 准教授 山口潤一郎 氏
コストパフォーマンスの観点については「比較的安価に利用
できている」(山口准教授)と言い、クラウドサービスなの
で初期費用が不要な点も「導入障壁の低さ」につながってい
ると指摘します。今後にいては「コスト面での優位性を保っ
てもらうことはもちろんですが、ユーザーが拡大してきても
サーバーの処理能力が低下するようなことがないよう、今の
サービス品質を維持して行ってほしい」(山口准教授)とコ
メントされています。
そして、山口准教授が目指しているのが「ボーダレスな研究
組織」の実現です。
現在はまだ、ELNをITbM内のプロジェクトの一部のメンバ
ーの間で利用しているにすぎませんが、将来的には研究所全
体、あるいは学内全体にまで拡大利用していくことも有り得
ない話しではない、と言います。
山口准教授は、今後の大学の研究組織のあり方についてこう
語ります。
「これからの時代の研究組織は、閉鎖的な旧態依然とした研
究室という枠組みのままでは、その競争優位性も失われてい
くのではないかと感じています。私は、いずれ研究室という
概念が取り払われて、情報とリソースがフリーに行き交う
ボーダレスな研究組織が必ず実現される時代がやってくると
考えています。その時に、研究成果をビジュアルな生データ
で誰でもが見られる電子実験ノートのようなツールが、研究
者同士のコミュニケーションをスムーズに展開するための手
段になっていくのだろうと思っています。ビジネスの世界が
否応無しにグローバルへと拡大しているのと同様、研究の世
界もボーダレス時代へと突入していきます。その準備を怠る
ことだけは避けなければいけません」
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