砥石エッジによる研削加工へのフローティングノズルの効果

D69
砥石エッジによる研削加工へのフローティングノズルの適用
二ノ宮進一*,○樊強**,石田實**,清水俊晴+,岩井学***,植松哲太郎***,鈴木清**
*
武蔵工業大学,**日本工業大学,***富山県立大学,+ヤマザキマザック
Application of a floating nozzle to grinding process using an edge of grinding wheel
Musashi Institute of Technology: Shinichi NINOMIYA,
Nippon Institute of Technology: Fan QIANG, Minoru ISHIDA, Kiyoshi SUZUKI
Yamazaki Mazak Co.: Toshiharu SHIMIZU, Toyama Prefectural University: Manabu IWAI, Tetsutaro UEMATSU
In order to apply the floating nozzle method to an angular grinding on the external cylindrical grinding, basic experiments
of V groove grinding with the wheel edge were performed on the surface grinding machine. The results showed that the
floating nozzle method maintained the control of the wheel edge wear and the improvement of the surface roughness
compared with a conventional nozzle.
1.はじめに
円筒研削において,アンギュラ研削は,砥石をある角度(一
般には 30°)傾斜させて取り付け,段付加工物の円筒部およ
びショルダ(肩)部を同時に加工する方法である1,2).この方
法は,円筒とショルダ間のコーナーRが小さい場合に特に有
効な加工法であるが,砥石先端の摩耗が問題となる.
著者らは,研削液使用量の低減と研削点への研削液の確実
供給を両立できるフローティングノズル(Fノズル)法を用い
て,総形研削性能を向上できることを明らかにしている 3).
また,薄刃砥石による切断加工では,研削液を砥石外周面と
側面に効率よく同時供給可能なことを示している4).
本研究では,円筒ワークのアンギュラ研削にフローティン
グノズル法を適用(図1)することを目的に,平面研削盤上で
傾斜させた材料を砥石エッジで研削する模擬的な基礎実験を
行い,フローティングノズル法による加工性能を通常ノズル
法と比較した.
フローティングノズル
β
切込み方向
図1 Fノズルを適用した
アンギュラ研削の模式図
WA砥石
切込み方向
SCM材
通常ノズル
図3
2.実験方法および条件
円筒ワークのアンギュラ研削時にフローティングノズルを
適用することを前提にして,各種実験データの採取が容易な
平面研削盤を使用した.アンギュラ研削では砥石軸を所定量
傾斜させるが,本実験では所定角度に傾斜できるワーク固定
治具を作成し,砥石エッジを利用してV溝成形する実験を行
った(図2,3).材料が回転運動しないので,平面プランジ
研削することでワークと砥石に相対運動を付与した.砥石は
WA120 で,β=10°にドレッシングした傾斜面と外周面を使っ
て SCM 材に V 溝(L=30mm)加工した.ワーク傾斜角は水平 0°
に対し,10°,20°,30°および 45°とした.砥石切込み方
向は,それぞれの傾斜角度で直角方向になるように ay および
ax を計算で求めた(図4).フローティングノズルの取り付け
位置は,研削点手前 90°で外周面および側面の両面に供給で
きるようにした.研削液流量は,フローティングノズルおよ
び通常ノズルともに3l/min である.実験条件を表1に,各
傾斜角度で成形する溝形状の模式図を図5に示す.各条件で
5本の溝加工を行った.
図2 平面研削盤上での V 溝
加工実験の状況
通常ノズルによるV溝
加工実験状況
表1
図4
切込み方向と溝形状
(α=10°)
実験装置および実験条件
使用機械
NC 平面研削盤 (PSG52DXG,岡本工作機械)
WA120 J V36R(φ205mm×幅 19mm,ノリタケ SA)
砥石
側面部にβ=10°の傾斜を付与
被加工材 SCM420H(HRC60~65,L30mm×幅 28mm×t16mm)
フローティングノズル:
快削樹脂(吐出径φ16mm),取付角=45°,Q=3l/min
ノズル
通常ノズル:
平型(24×1mm),研削点から 50mm,Q=3l/min
研削液
ノリタケクール NK-Z(50 倍希釈)Q=3L/min
Vs=1800m/min ,Vw=0.7m/min,ay=3μm/pass,
研削条件 up & down, L=30mm ,200pass/本×5本,
ワーク傾斜角度 10°,20°,30°,45°
単石ダイヤモンドドレッサ,砥石外周面,側面共通,
ツルーイング
Vs=1159m/min,Vw=200mm/min
条件
粗 a=10μm/pass,仕 a=5μm/pass,各 10pass
Fx
切込み方向
砥石
3.研削実験結果および考察
3.1 傾斜角度 30°での各種研削特性の比較
円筒のアンギュラ研削時に多用されている砥石傾斜角(α
=30゜)を考慮して,まず本実験では,ワーク傾斜角度 30°に
設定して,2種類の研削液供給方法でV溝を5本連続加工し,
ワーク
2008 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集
−327−
Fy
(a)10°
(b)20°
(c)30°
図5 各傾斜角度における V 溝形状の模式図
(d)45°
D69
切込み方向摩耗長さ µm
.
5 本目
1 本目
Fノズル
溝部の表面粗さ μm
通常ノズル
切込み方向磨耗長 さ μm
F
通常
ワークに創成されたV溝コーナーR形状を比較した(図6).
1 本目
2 本目
3 本目
4 本目
5 本目
Fノズルを用いると,溝コーナーの形状崩れが抑制されて
切込方向
いる.図7は切込み方向(α⊥)の砥石先端部摩耗長さを測
定した結果である.Fノズルによって砥石切込み方向の摩
耗も溝5本目を加工した後で 20%程度低減した.砥石外周
部によって創成された溝部の表面粗さおよび加工面性状を
比較すると,両者ともわずかな研削焼けがみられているが,
図6 傾斜角度 30°における加工後の溝コーナ部の形状
Fノズルを用いた場合,通常ノズルと比べて,
僅少ではあるが,スクラッチ痕が抑制され,表
30
1.2
面粗さが良好になることがわかった(図8,9).
1
通常
3.2 各種傾斜角度での比較
Fノズル
20
0.8
ワーク傾斜角度 10°,20°および 45°におい
通常ノズル
0.6
て,Fノズルと通常ノズルの両者の結果を比較
Fノズル
0.4
10
した.それぞれの角度で加工した後のV溝コー
0.2
WA120V,SCM420,
ナーR形状および切込み方向の砥石先端部摩耗
ワーク傾斜角度 30°
0
0
長さを溝加工1本目および5本目について図 10,
Ra
Rz
Rzjis
1本目 2本目 3本目 4本目 5本目
11 に示す.いずれの角度においても,Fノズル
図8 加工後の溝部表面 図9 CCD による加工
溝加工本数
を用いることによって溝先端部の形状崩れが抑
粗さ
図7 切込み方向摩耗長さ
表面性状の比較
制され,砥石の切込み方向の摩耗長さが 5~20%
程度減少していることがわかった.
10°
20°
45°
次に,各角度において,1本目と5本目の溝
通常
F
通常
F
通常
F
加工終了直前の研削抵抗を単位幅当たりの値で
比較した(図 12).それぞれのワーク傾斜角度で
溝部の除去体積量が異なるため単純に比較する
ことは難しいが,砥石軸方向の抵抗 Fx(溝部左側
による抵抗)および法線抵抗 Fy(主として溝部右
側による抵抗)は,5本目の溝加工時において通
常ノズルが若干大きくなっている.紙面上,結
図 10 各傾斜角度における V 溝コーナーR形状の比較
果を示さないが,スパークアウト中の抵抗は,
砥石側面部および外周面部において,研削液膜が研削点に侵
35
溝1本目
溝5本目
30
入する際の突入圧力で通常ノズルよりもFノズルが若干高く
25
なる.しかしながら,実際の加工での研削抵抗が,両ノズル
20
において同等もしくは逆転していることから,Fノズルによ
15
10
って砥石の切れ味が持続していると考えられる.したがって,
5
Fノズルは,砥石エッジを利用した加工であっても,均一な
0
薄い液膜となった研削液が研削点に確実供給され,その結果,
通常
F
通常
F
通常
F
通常
F
研削液の作用が十分に発揮されて砥石エッジの形状崩れを抑
10°
20°
30°
45°
制していることが明らかになった.
ワーク傾斜角度 °
5.参考文献
1) 精機学会編著:精密工作便覧,コロナ社(1970)617.
2) 庄司克雄:研削加工学,養賢堂(2004)76.
3) 鈴木清,二ノ宮進一,岩井学,植松哲太郎:ガラス端面研削における
フローティングノズルの効果,砥粒加工学会誌,47,11 (2003) 620.
4) 二ノ宮進一,鈴木清,岩井学,清水俊晴,植松哲太郎:研削液使用量
を 低 減 す る 薄 刃 砥 石 用 研 削 液 ノ ズ ル の 開 発 , 精 密 工 学 会 誌 , 73,
7(2007)786.
2008 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集
−328−
砥石軸方向Fx N/mm
各傾斜角度における切込み方向摩耗長さ
6
1本目 通常ノズル
1本目 Fノズル
5本目 通常ノズル
5本目 Fノズル
5
4
3
2
1
0
10°
20°
30°
45°
ワーク傾斜角度 α°
(a) 砥石軸方向の研削抵抗 Fx
法線方向Fy N/mm
4.おわりに
アンギュラ研削にフローティングノズル法を適用するこ
とを目的に,平面研削盤上で傾斜させた SCM 材料を砥石エ
ッジで研削するV溝加工実験を行った結果,必要最小量の研
削液を研削点に確実に供給できるフローティングノズル法に
よって,V溝コーナー部の形状崩れの抑制,砥石エッジ部の
摩耗の低減および加工面性状の向上が可能であることを確認
した.
本研究にご協力いただきました (株)ノリタケスーパーア
ブレーシブ,(株)ソディック,(社)砥粒加工学会「導電性ダイ
ヤモンドの精密加工への応用に関する研究分科会」
,日本工業
大学 中山尚浩君に厚く御礼申し上げます.
図 11
6
1本目 通常ノズル
1本目 Fノズル
5本目 通常ノズル
5本目 Fノズル
5
4
3
2
1
0
10°
20°
30°
45°
ワーク傾斜角度 α°
図 12
(b) 法線研削抵抗 Fy
溝加工終了直前の研削抵抗の比較