第 49 回日本理学療法学術大会 (横浜) 5 月 30 日 (金)17 : 10∼18 : 00 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 運動器!骨・関節 13】 0640 MNA!SF を用いた大腿骨近位部骨折患者の受傷前栄養状態の評価と ADL との関連 ―神戸市地域中核病院における多施設共同研究― 山田真寿実1),坂本 裕規1,4),井上 達朗2),岩田健太郎1),山添 忠史3),中馬 優樹3),田中 利明2) 1) 神戸市立医療センター中央市民病院 リハビリテーション技術部, 西神戸医療センター リハビリテーション技術部,3)済生会兵庫県病院 4) 神戸大学大学院保健学研究科 2) リハビリテーション科, key words 大腿骨近位部骨折・栄養状態・多施設共同研究 【はじめに,目的】 「大腿骨頚部! 転子部骨折診療ガイドライン改定第 2 版」 は大腿骨近位部骨折患者の予後予測因子として年齢,認知症,受傷前歩 行能力などを挙げている。しかし,国外における先行研究では観察研究において,血清データから栄養状態を定義し,低栄養状 態が死亡率の上昇やせん妄の遷延,在院日数延長の予後に寄与している事を明らかにしている。簡易栄養状態評価表(以下 MNA" SF) は質問紙を用いて栄養状態を 3 段階に分類し,血清データを含む客観的な指標とも関連が強い点で簡便で有益な評価 法である。本疾患における MNA" SF を用いた術後 ADL やリハビリテーション経過に関する報告はない。そこで本研究は MNA" SF を用いて受傷前栄養状態を評価し,術後 ADL との関連を検証した。 【方法】 第 3 次救急総合病院 1 施設,第 2 次救急総合病院 2 施設の計 3 施設で前向き調査を行った。それぞれ 2013 年 6 月から順次調査 を開始し,10 月 31 日までに入院した患者を調査対象とした。対象者は 65 歳以上の大腿骨近位部骨折患者 58 名のうち,転倒以 外の受傷機転例,術後荷重制限例,MNA" SF 聴取不可例を除外した 35 名とした。対象者を MNA" SF により低栄養群(0" 7 point) ,リスク群(8" 11point) ,良好群(12" 14point)に分類し,年齢,性別,BMI,骨折部位,手術名,受傷前歩行能力,既往 歴,入院時血清アルブミン値(以下 Alb 値) ,ヘモグロビン値(以下 Hb 値) ,CRP,下腿周径,握力を評価した。アウトカムと して FIM(術後 2 日目,退院時) ,術後 2 週での Timed Up and Go test(以下 TUG),5chair stand(以下 5CS)を測定した。ま た各歩行練習開始に要した日数,理学療法単位数,在院日数,転帰を調査した。統計学的解析は one" way ANOVA,Kruskal" Wallis 検定を行い,事後検定として Tukey" Kramer 法,Steel" Dwass 法を用いた。カテゴリー変数は χ2 検定を行った。有意水準は 5% 未満とした。 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は各施設における倫理委員会の承諾を得て行った。また対象者には実験の目的と方法を説明し,同意を得た上で実施し た。 【結果】 対象者は MNA" SF により,低栄養群 4 名(11.4%) ,リスク群 13 名(37.2%) ,良好群 18 名(51.4%)に分類された。各群を比 較した結果,Alb 値がリスク群(3.7±0.4 g! dl:平均±標準偏差) ,良好群(3.9±0.5g! dl)ともに低栄養群(2.5±1.1 g! dl)に比 べ有意に高かった(P<0.01)。Hb 値は良好群(12.7±1.8g! dl)が低栄養群(9.2±1.7g! dl)に比べ有意に高かった(P<0.05) 。下 腿周径はリスク群(27.1±1.5cm)と良好群(29.6±3.0cm)が低栄養群(26.0±1.2cm)との間に有意差を認めた(P<0.05) 。握 力に差はなかった。メインアウトカムである FIM は運動項目において術後は差を認めなかったが,退院時に低栄養群 47.0±15.7 点,リスク群 49.1±18.4 点,良好群 70.0±14.4 点となり良好群とリスク群との間で有意差を認めた(P<0.05) 。TUG,5CS に差 はなかった。手術" 歩行器歩行開始までの日数が低栄養群 16.0±11.0 日,リスク群 9.8±5.5 日,良好群 5.3±2.6 日で低栄養群と良 好群間に有意差を認めた(P<0.05)。単位数,在院日数に差はなかった。 【考察】 本研究で MNA" SF を用いて評価した受傷前栄養状態が術後 ADL とリハビリテーション経過に影響を与える事を明らかにし た。また Alb 値と Hb 値において 3 群間に差を認めた事は,MNA" SF の客観的指標としての有用性を示唆している。本疾患の MNA を用いた介入研究では入院中の評価で低栄養群 0" 3%,リスク群 28" 29%,良好群 69" 71% とし,適切な栄養介入により入 院期間中の栄養摂取量の改善や 3 か月後の QOL 低下を軽減させたと報告している。また,70 歳以上の股関節骨折患者を対象と した介入研究で介入群におけるせん妄の短期化と在院日数の短縮を報告している。本研究では受傷前栄養状態と術後 ADL との 関連を明らかにし,MNA" SF の予後予測としての有用性を明らかにしたが今後は最終的な歩行能力の把握など長期的予後との 関連を検証する必要があると考える。 【理学療法学研究としての意義】 MNA" SF は短時間で簡便に実施でき,本疾患の機能予後を評価する事ができる点で臨床上有益な評価法であると考える。
© Copyright 2024 Paperzz