片頭痛の慢性化

片頭痛の慢性化
片頭痛の慢性化
「たかが頭痛」と軽くみて市販薬で対処していたり、不適切な治療を受けていると、片頭
痛が慢性化してくると言われています。
反復性の片頭痛は、約3割が自然に治癒し、約4割が症状は変わらず、残りの3割が慢
性化して増悪するとされています。
片頭痛の慢性化には、脳の器質的な変化が関連すると考えられています。
脳内の痛み調節システムが異常を来し、痛み刺激に感作された状態を引き起こしてくる
とされています。このため、頭痛が慢性化した患者では、通常では痛みと感じない刺激す
ら痛みとして認識するようになり、光や音、臭いなどの刺激にも反応するようになります。
特に注意すべきことは、発作時に服用する急性期治療薬の使い過ぎによる片頭痛の慢性
化で、このような頭痛は薬物乱用頭痛と呼ばれています。片頭痛の慢性化した患者の約半
数は 薬物乱用頭痛が原因となっていると言われています。薬物乱用頭痛の原因として最も
多いのは、市販の鎮痛薬の乱用と言われていますが、医師が日常的に頭痛患者に処方する
鎮痛薬やトリプタン製剤、エルゴタミン製剤でも薬物乱用頭痛の原因となります。
急性期治療薬の使用に関して、「月に 10 回未満であれば薬物乱用頭痛のリスクには全く
なりませんが、それ以上、特に月の半分以上服薬している場合は、薬物乱用頭痛を生じる
リスクが高くなってきます。
また、加齢に伴って、片頭痛は慢性化して来ます。これは慢性片頭痛と呼ばれ、「薬物乱
用がなく、片頭痛が月に 15 日以上の頻度で3カ月以上続くものと規定されています。
慢性化した片頭痛の中には、症状が緊張型頭痛様に変化することもあり、変容生片頭痛
とも呼ばれます。加齢とともに、肩凝りやめまい、不眠などの緊張型頭痛様の症状が片頭
痛に加わり、片頭痛そのものの症状が変化して来ます。
中高年期の患者では変容生片頭痛患者が少なくなく、このような患者さんが自覚する愁
訴は頭痛以外のものが多くなってくるので、片頭痛が基盤にあることを見落として、更年
期障害や緊張型頭痛と間違われることもあります。
一昔前までは片頭痛は若年女性に多く、閉経とともに治癒すると考えられていました。
-1-
しかし、これからは、片頭痛は進行して慢性化する疾患と認識を改め、早期に診断して、
適切な治療で慢性化を阻止する必要があります。
これまで述べて来ましたように、急性期治療薬の服薬日数が、「月に 10 回以上になる場
合は、薬物乱用頭痛に陥る可能性があり、これを防ぐために予防療法を組み合わせること
が勧められています。
これまでガイドラインでは、「有害事象が少ない薬剤を低容量から開始し、十分な臨床効
果が得られるまでゆっくり増量し、2~3カ月程度の期間をかけて効果を判定するとされ
ています。以前にも予防薬について述べましたが、これらの予防薬を1種類ずつ投与して
いくのか、あるいは当初から数種類併用して投与すべきかについてコンセンサスが得られ
ていないことが最大の問題となっています。
予防薬として使われる薬剤は各種ありますが、これらがすべての患者さんに効くというわ
けではありません。予防治療の有効率は決して高いものではありません。
ほとんどの薬剤が、有効率は 30 ~ 40 %、すなわち 10 人中3~4人しか効きません。し
かし、個人差が激しいので、薬によって有効率は異なります。効かなかった場合には、他
の薬に変えてまた、2~3カ月様子をみる、という気長な対応が必要です。
また、効果を確認できるまでの期間も短くないのです。
予防治療に使われるどの薬剤も、効果を発揮するまでには4週間くらいはかかります。
はじめの2週間くらいはまったく効かないのが普通です。3~4週めになっていくらか
頭痛の回数が減っていると感じたら、効果があったと考えてよいでしょう。なかには、2
カ月めになってやっと効果がはっきりしてくることもあります。
こういった理由から、多くの患者さんは、予防薬の効果が現れるまでの期間が長く、極
めて緩やかな効き方しかしません。
確かに、数年間にわたって、1種類ずつ処方されておられる場合もあるようですが、こ
のような方式は、あくまでも偉い先生方がされた場合のことで、じっと我慢して服用され
ておられる方々は少ないのではないでしょうか?
このように考えますと、予防薬の効果が得られるまでに、急性期治療薬の服薬日数が、
「月
に 10 回以下に抑えることが可能かどうかということです。実際には、このように単純には
いかない場合が多々遭遇されます。
このように考えるなら、片頭痛そのものを見直す必要に迫られてくると考えます。
-2-
これまでも度々述べておりますように、セロトニン、ストレートネックの2つの視点
抜きには片頭痛治療は考えられないと思っています。
セロトニンの慢性不足により、痛みに対する感受性が高まり、ちょっとした刺激に反
応しやすくなり、さらにストレートネックを形成し、以下のような機序で慢性化していく
ことはこれまで述べた通りです。
「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
従来から、このような視点が欠如していたために、片頭痛の慢性化そのものが説明でき
ない部分が存在していたように思えてなりません。
こういった観点から、慢性片頭痛、薬物乱用頭痛を治療して行かない限り、従来の考え
方ではドロップアウトしてしまうものと考えます。
薬物乱用頭痛をどのように考えるか
頭痛薬の飲み過ぎが、頭痛の原因になることってあるんでしょうか?私は 10 年くらい片
頭痛にずっと悩まされています。そのおかげで毎食後に頭痛薬を飲むクセがついてしまい
ました。
頭痛薬はロキソニンを主に服用しています。パソコン仕事がメインです。
朝起きた瞬間から鈍い頭の重さに悩まされ、PCの電源を入れて椅子に座った直後には
-3-
いつものいやーな痛みが襲ってきます。
酷い時には布団から出られないほどの頭痛。これでは仕事も普通の生活さえできません。
病院に行って脳内の検査をしてもらったところ、先生からは特に原因は見当たらない、
とのこと。
そんなはずはないと思って、いろんな病院を訪ねるも、みんな先生は首を横に振って「薬
で様子をみてくださいね。」としかいいません。
先日、酷い先生に否定されました。
「あなた、そんなに薬が美味しいの?薬ばかり飲んでるから頭痛になるんだよ。それで訪
ねて来られても困る。甘えないでください。」
ものすごく腹の底から怒りを感じました。きっとこの先生は頭痛に苦しんだことがない
んだって。痛くて痛くて仕方がなく病院に訪れているのに、なんでそんなことを簡単に言
えるのだろう。自分が情けなくて泣けてきました。
でも、確かに薬を飲み続けています。あまり高額な薬を服用するのはイヤなので(キツ
イ&高い)、ロキソニンを毎食後に飲んでいます。
とにかく今から起きる頭痛を少しでも軽くすればいい。それ一心で飲んでいます。
でも最近、胃が痛い。きっと薬の影響で胃がボロボロになってきているのでしょう。で
も頭痛薬がないのは怖い。
精神的なものも影響していると思いますが、頭痛薬を飲みすぎることは危険な事でしょ
うか?
また頭痛薬が頭痛を引き起こしている、ってことは本当にあるのでしょうか?あの医者
の言葉がどこかで引っかかっています。
どなたかお詳しい方、教えてください。はやく頭痛を治したい。本当にそれだけです。
このように、この方の苦悩は想像を絶するようです。
この方の頭痛は、典型的な「薬物乱用頭痛」です。
国際頭痛分類第 2 版の分類では、以下のようになっています。
慢性片頭痛
chronic migraine
-4-
A. 頭痛は以下の a, b を満たし、1ヶ月に15日間以上、3ヶ月を超えて続く。
薬剤の乱用は無い。
a. 頭痛は次の2項目以上
1. 片側性
2. 拍動性
3. 中等度から重度の頭痛
4. 歩行、階段昇降などの日常的な動作により頭痛が増悪する
あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
b. 頭痛の発作中に少なくとも以下の1項目以上
1. 悪心 または 嘔吐(あるいはその両方)
2. 光過敏 および 音過敏
B. 他の疾患により起こるものでは無い。
新規発症持続性連日性頭痛
new daily-persistent headache
A.頭痛は 3ヶ月を超えて続き、B-D を満たす。
B.頭痛が発症時または発症後、3日未満から寛解することなく、連日みられる。
C.次の痛みの特徴のうち少なくとも2項目を満たす。
1.両側性
2.圧迫感または締めつけ感(非拍動性)
3.軽度から中等度の頭痛
4.歩行または階段を昇るなどの日常的な動作により増悪しない。
D.1、2の両方を満たす。
1.光過敏、音過敏、軽度の悪心はあっても、1項目のみ。
2.中等度または重度の悪心、嘔吐のいずれもない。
E.他の疾患により起こるものでは無い。
薬物乱用頭痛
medication-overuse headache
-5-
A.頭痛は1ヶ月に15日以上存在し、C および D を満たす。
B.薬剤を3ヶ月を超えて定期的に乱用している。
C.頭痛は薬物乱用のある間に出現もしくは著明に悪化する。
D.乱用薬剤の使用中止後、2ヶ月以内に頭痛が消失、
または以前のパターンに戻る。
1.トリプタン乱用頭痛
triptan-overuse headache
上記の診断基準に適合する。
3ヶ月以上の期間、定期的に1ヶ月に10日以上トリプタンを摂取している。
(剤形は問わない)
トリプタンの乱用は片頭痛の頻度を増加させ、 慢性片頭痛の頻度を増加させる可能性があ
る。これはエルゴタミン乱用よりもトリプタン乱用の方がより早く起こるエビデンスがあ
る。
2.鎮痛薬乱用頭痛
analgesic-overuse headache
上記の診断基準に適合する。
3ヶ月以上の期間、定期的に1ヶ月に15日以上鎮痛薬を摂取している。
3.エルゴタミン乱用頭痛
ergotamine-overuse headache
上記の診断基準に適合する。
3ヶ月以上の期間、定期的に1ヶ月に10日以上エルゴタミンを摂取している。
物質離脱による頭痛
headache attributed to substance withdrawal
カフェイン離脱頭痛 caffeine-withdrawal headache
A.両側性 および/または拍動性の頭痛で C、D を満たす。
B.2週間を超えて、1日200mg以上のカフェイン摂取があり、それが中断または遅
延されたもの。
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C.頭痛は最後のカフェイン摂取後、24時間以内に出現し、100mg のカフェインに
より、1時間以内に軽快する。
D.頭痛はカフェインを完全に中止し、7日以内に消失する。
-------------------------------------------------------------------------------また、2006 年に慢性片頭痛、薬物乱用頭痛の診断基準が改訂されています
慢性片頭痛の改訂基準
A 1.5.1
慢性片頭痛
( Appendix 1.5.1 Chronic migraine )
頭痛(緊張型または片頭痛あるいはその両方)が月に 15 日以上の頻度で3ヵ月以上
A
続く
B
1.1 前兆のない片頭痛の診断基準をみたす頭痛発作を 少なくとも 5 回は経験している
患者におこった頭痛.
C
少なくとも 3 ヵ月にわたり,次の C1 または C 2あるいはその両方を満たす頭痛が
月に 8 日以上ある.すなわち,前兆のない片頭痛の痛みの特徴と随伴症状がある.
1 .以下の a ~ d のうちの少なくとも 2 つを満たす.
(a) 片側性
(b) 拍動性
(c) 痛みの程度は中程度または重度
(d) 日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛
のために日常的な動作を避ける.
そして,以下の a または b の少なくともひとつ.
(a) 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
(b) 光過敏および音過敏
2.上記 C 1の頭痛発作に進展することが推定される場合にトリプタン又はエルゴタ
ミン製剤による治療により頭痛が軽減する.
D.
薬物乱用が存在せず,かつ,他の疾患によらない.
-7-
薬物乱用頭痛の改訂基準
A 8.2 薬物乱用頭痛の診断基準
( Appendix 8.2 Medication overuse headache)
A 頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在する.
B 8.2 のサブフォームで規定される 1 種類以上の急性期・対症的治療薬を 3 ヵ月を超え
て定期的に乱用している
1. 3 ヵ月以上の期間,定期的に1ヵ月に 10 日以上エルゴタミン,トリプタン,オ
ピオイド,または複合鎮痛薬を使用している.
2. 単一成分の鎮痛薬,あるいは,単一では乱用には該当しないエルゴタミン,トリ
プタン,オピオイドのいずれかの組み合わせで合計月に 15 日以上の頻度で 3 ヵ月を超え
て使用している.
C 頭痛は薬物乱用により発現したか,著明に悪化している.
慢性連日性頭痛とは
頭痛診察医の頭痛のタネ「慢性連日性頭痛」は Silberstein が 1994 年に提唱した頭痛で、
ほぼ連日、3カ月を超えて頭痛が出現し、人口の4%を占め国民の重大な健康障害のひと
つとみなされています。ただ、この頭痛のタイプは 2004 年の国際頭痛分類 第2版には採
用されていません。慢性連日性頭痛の第Ⅰ型「変容性片頭痛」とは、当初の発作性片頭痛
が経過中に頻度が増加し、頭痛日数が多くなった状態です。それと同時に片頭痛の特徴が
薄れて緊張型頭痛との境界があいまいとなります。昔。「混合性頭痛」という頭痛のタイプ
がありましたが、この名称にピッタリの頭痛です。変容の要因のひとつに鎮痛薬や片頭痛
治療薬(トリプタン、エルゴタミン)の乱用があります。変容性片頭痛は薬物乱用の有無
にこだわりませんが、国際頭痛分類 第2版では変容性片頭痛を慢性片頭痛あるいは薬物乱
用頭痛に分ける方針をとっています。すなわち、慢性片頭痛=変容性片頭痛-薬物乱用頭
痛
ということです。
ニワトリが先かタマゴが先か
-8-
ここで疑問が湧いてきます。慢性連日性頭痛の患者さんはつらい頭痛が毎日のように続
くので、当然ながら消炎鎮痛薬を毎日のように服用します。薬を飲みすぎるから頭痛がす
るのではなく、頭痛がするから薬を飲むのではないか・・・。タマゴ=薬物乱用頭痛、ニ
ワトリ=慢性頭痛としますと、ニワトリが先かタマゴが先かという議論がしばしば戦わさ
れることになってしまいます。
薬物乱用頭痛は 1980 年代から常識となった
すでに、1934 年にエルゴタミンによる乱用頭痛は報告されておりましたが、1950 年代
ころから鎮痛薬でも乱用頭痛の誘因になることが報告されるようになりました。スイスの
腕時計職人は、細かい作業をしますので頭痛が絶えません。そこでサンドイッチに鎮痛薬
を塗って食べる習慣が生まれました。ところがかえって頭痛が増えたというエピソードが
紹介されています。
その後も鎮痛薬の持続的使用による頭痛悪化例が次々と報告され、1980 年代には鎮痛薬
乱用頭痛が世界的に認知されるようになりました。Mathew らは 1982 年に片頭痛が鎮痛薬
の乱用などにより慢性連日化することを発表し、「変容性片頭痛」と命名しました。これが
Silberstein の慢性連日性頭痛、国際頭痛分類 第2版の慢性片頭痛へと継承されています。
慢性片頭痛は鎮痛薬が登場する前からあった
世界初の鎮痛薬・アスピリンの登場は 1899 年ですから、20 世紀以前には薬物乱用によ
る変容性片頭痛はなかったはずです。ところが、慢性片頭痛としか考えようのない頭痛が
17 世紀に既に記載されています。その記載者は、ウイリス動脈輪で有名な Thomas Willis
です。ウイリスの言うには「私はある非常に高貴な婦人の往診に行かされました。彼女は 20
年以上も頭痛に悩まされ、最初は間欠的でしたが、連続性のものになっていった・・・12
歳を過ぎるころから頭痛に取り付かれるようになり・・・発作の間、光も、会話も、雑音
も、どのような運動も耐えがたく、部屋を暗くしてベッドの上に座り、誰ともしゃべらず、
眠りもせず、食べ物も摂らないでいました。最初のころは間をおいて現れ・・次第に回数
が増し、最近では頭痛のないときが珍しくなった」
-9-
この記述を読むと「ニワトリが先」説に軍配を上げたくなります。
片頭痛は慢性化する疾患である
片頭痛はふつう 40 歳を過ぎますと軽快に向かいます。成人片頭痛患者さんを 12 年間
追跡した Lyngberg らの報告では、完全・部分寛解:42 %、不変:38 %でした。一方、20
%は変容性片頭痛つまり片頭痛が慢性化しました。片頭痛の慢性化に関与するいくつかの
危険因子が同定されています。その危険因子として、ただちに修正が不可能とされるもの
に、片頭痛であること、遺伝、女性、年齢、社会的階層(教育レベル・収入)、頭部外傷が
挙げられ、修正可能のものとして、発作頻度、薬物乱用・カフェイン、肥満、ストレスの
多い生活、精神的な共存症・うつ、いびきー睡眠時無呼吸症候群と睡眠障害が指摘されて
います。そのなかでも重視されるのが「薬物乱用」です。複合鎮痛薬やトリプタンは3カ
月以上にわたり月に 10 日以上服用すると片頭痛が慢性化する可能性があります。
慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の診断定義
慢性片頭痛の診断は、薬物乱用頭痛の有無の確認から始めます。国際頭痛分類 第2版で
は、薬物乱用のある連日性の片頭痛を診たときには、1.前兆のない片頭痛、2.慢性片
頭痛の疑い、3.薬物乱用頭痛の疑いの3つの診断をつけて、乱用薬物を2カ月間中止し、
頭痛が同じように続けば慢性片頭痛、軽快すればそれまでの頭痛は薬物乱用頭痛であった
と診断します。慢性片頭痛患者さんは急性期治療薬を乱用と言えないまでも頻回に服用し
ている患者さんに多いのです。慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の境界はあいまいです。オリジ
ナルの指針はあまりにも原理主義的すぎて実用に耐えなかったことから。2006 年に
慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の改訂基準が示されました。かいつまんで言うと、慢性片頭痛
は片頭痛の特徴を内在する慢性連日性頭痛(ただし、薬物乱用頭痛ではない)、薬物乱用頭
痛は急性期治療薬の乱用がある高頻度頭痛と言えます。
慢性片頭痛の予防と治療
まず、薬物乱用頭痛の原因となった急性期治療薬を中止します。中枢神経の感作を回避
- 10 -
するために片頭痛発作の早期治療を行います。急性期治療薬の乱用を防ぐために予防治療
を行います。矯正可能な慢性化の原因(肥満、精神的な共存症、睡眠時無呼吸症候群と睡
眠障害など)を除去します。薬物乱用頭痛は再発しやすいので、患者教育(薬物乱用の害、
適宜早期服薬・予防療法の必要性など)がきわめて大切です。
エピローグ(まとめにかえて)
片頭痛は進行性疾患です。片頭痛慢性化(変容)には脳の感作が関与します。薬物乱用
は慢性化(変容)の最大のリスクです。頭痛発作の高頻度化は脳の感作を招きます。慢性
片頭痛の脳には機能的・器質的変化が起こり難治となります。患者教育が片頭痛を泥沼化
させないためのポイントになります。日頃から服薬指導(急性期治療薬の使用は月 10 日
を超えないよう、その範囲内では早期服薬をするなど)を怠らないようにすることが大切
です。高頻度の片頭痛には予防薬を併用します。
以上のように、間中信也先生は、慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の関係について述べられて
おられます。
ところで。このような「薬物乱用頭痛」はどのようにして起きるのでしょうか?
これまでは、以下のような説明がオーソドックスのようです。
鎮痛薬の長期乱用などに伴い興奮性が非常に高まった状態になるという見方があります。
また、鎮痛薬を絶えず飲んでいますと、伝わってくる痛みを鎮痛薬が取ってくれるので、
脳の痛み抑制センターが仕事をしなくなり、ちょっとした痛みでも、痛い、と感じるよう
になります。するとまたすぐに鎮痛薬を飲む、センターはますます仕事をしなくなる、ま
た痛みを感じる、また薬を飲む、という悪循環に陥ります。
また、このようにも申されます。痛み止めを多く飲み過ぎると、脳の痛みの調節系は働
く必要がなくなり、脳の痛みの番人がさぼってしまいます。ちょっとした痛みにも、さら
に痛み止めを飲むことになり、悪循環になります。痛み調節系の機能低下により頭痛が毎
日くるようになったと思われます。
- 11 -
ところで、私は、以下のように考えております。
これまで、「慢性頭痛の神経学的側面」の最初の部分で述べましたように、「ストレス」
はあらゆる病気の原因になります。慢性頭痛ではストレスが関与していると指摘されて来
ました。ところで、ストレスとは何でしょうか。ストレスには次の3つの種類があります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
1.物理的ストレス
2.精神的ストレス
3.化学的ストレス
――――――――――――――――――――――――――――――――
物理的ストレスというのは、人間が生きているだけで感じてしまうストレスのことです。
暑さ、寒さ、冷たさなど肌で感じてしまうものは、物理的ストレスとして分けられます。
騒音などもその一つです。
精神的ストレスは、別名心理的ストレスともいい、現代社会においてはこのストレスが
一番多いと考えられています。仕事、家事、人間関係などの自分が苦手とする分野に対し
て、長時間その環境にいることで、体が自然と拒否してしまい、精神的ストレスに陥って
しまいます。物理的ストレスが誘発してしまう恐れもあり、油断できないといえます。
化学的ストレスとは何でしょうか。聞きなれない名前ですが簡単に説明すれば、「薬、お
酒、栄養不足」から来るストレスを化学的ストレスといっているのです。お酒はストレス
を発散させるものとして、昔から親しまれていますが、「飲みすぎては体に毒」という言葉
があるように体にストレスとして負担を掛けていきます。また、薬は現代の医療において、
欠かせないものですが必ず副作用というものがあり、これがストレスになるのです。
薬物乱用頭痛の場合、このように鎮痛薬、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤の飲み過
ぎは、当然、化学的ストレスになって来ます。
ストレスは個人差というものがあります。ストレスに強い人と弱い人はいるのです。
ストレスに強いかどうかは生まれつきの性格や経験によって左右されると考えられてきた
のですが、最近の脳科学の研究によって、そうではないことが分かってきましたのです。
ストレスに対する耐性の違いは”脳の活性化”と深く関わっているのです。
「ストレスに弱いとセロトニンの量が減少しやすい」です。
人間の体は、肉体的、精神的、物理的、化学的なストレスを受けると、脳内の視床下部
- 12 -
のストレス中枢が刺激されるのです。そうすると、セロトニンが多く放出され、その量が
減少してしまうのです。いずれにせよ、ストレスに対応するセロトニンの分泌量が少ない
と、痛みを感じやすくなって来ます。これが、薬剤乱用頭痛へと繋がっていくものと思わ
れます。
いずれにしても、長期間にわたって「鎮痛薬、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤」を
飲み続けますと「セロトニンの枯渇状態」を引き起こす結果に至り、「薬物乱用頭痛」を引
き起こして来るものと思われます。
日本神経学会の「慢性頭痛治療ガイドライン 2002」で示される薬剤長期乱用に伴う頭痛
治療の基本として
1.原因薬剤の中止
2.薬剤中止後に起こる頭痛への対処
3.予防薬の投与
が挙げられておりますが、こういった方針でも難渋するケースが多いのが実情です。
私は、このような状況を踏まえて、上記3つを行いつつ、セロトニン生活を徹底して進
め「セロトニン神経の活性化」を図り、さらに慢性頭痛の「慢性化」を助長させているス
トレートネックの改善に努めることの2点を必須の方法と考えております。
このようにすることで、早期に「薬物乱用頭痛」から離脱出来、再発も殆どなくすこと
が可能と考えております。また、こういった場合の予防薬の投与方法も、もともと、この
ような「薬物乱用頭痛」での予防薬の効果が乏しかったことを反省し「多剤併用療法」が
妥当と考えております。
参考・引用文献
間中信也:片頭痛の慢性化について、脳神経外科速報 22 巻3号 2012
Silberstein SD,et al: Classification of daily and near-daily headaches: proposed revision to the IHS
criteria. Headache 34:1-7,1994
国際頭痛学会・頭痛分類委員会:国際頭痛分類 第2版
京、2007
- 13 -
新訂増補日本語版、医学書院、東
Boes CJ,et al: Chronic migraine and medication-overuse headache through the ages . Cephalalgia
25: 378-390,2005
Mathew NT, et al : Transformation of episodeic migraine into daily headache : analysis of
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Lyngberg AC , et al : Prognosis of migraine and tension-type headache : A population-based
follow-up study. Neurolpgy 65: 580-585,2005
Lipton RB et al : Ten lessons on the epodemiology of migraine. Headache 47: Suppl 1:s2-9,2007
竹島多賀夫、他:慢性片頭痛と薬物乱用頭痛の付録診断基準の追加について。日本頭痛学
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日本頭痛学会編:慢性頭痛の診療ガイドライン。医学書院、東京, 2006
Bigal ME, Lipton RB: Clinical course in migraine: conceptualzing migraine transformation .
Neurology 71 : 848-855,2008
日本神経学会編:慢性頭痛治療ガイドライン 2002
森田啓子:ストレスと脳、サンランド
インターネット
田村正年:頭痛.com 田村脳神経クリニック
ホームページ
片頭痛は進行性疾患である????
片頭痛は進行性疾患です。片頭痛慢性化(変容)には脳の感作が関与します。薬物乱用は
慢性化(変容)の最大のリスクです。頭痛発作の高頻度化は脳の感作を招きます。慢性片
頭痛の脳には機能的・器質的変化が起こり難治となります。
竹島多賀夫先生によれば、反復性の片頭痛は、約3割が自然に治癒し、約4割が症状は
変わらず、残りの3割が慢性化して増悪するとされています。
成人片頭痛患者さんを 12 年間追跡した Lyngberg らの報告では、完全・部分寛解:42 %、
不変:38 %でした。一方、20 %は変容性片頭痛つまり片頭痛が慢性化しました。
このように、片頭痛の中には慢性化していくものがあり、進行性疾患とされます。
それでは、どうしてこのような経過を辿ることになるのでしょうか。
これまで、片頭痛の生涯経過は以下のように考えられておりました。
- 14 -
これは片頭痛を起こさせる直接的な原因であるセロトニンという神経伝達物質が関与し
ているとされ、このため年齢とともに現れ方が変化していきます。
小児期には、腹痛、嘔吐など、消化器系の症状のほうが目立ち、症状の現れ方に男女差
はみられません。セロトニンに限らず神経伝達物質は、受容体という鍵穴にはまることで
細胞に作用します。子供の場合は、脳のセロトニン受容体が未発達で、セロトニンと受容
体の結びつきが希薄なために、頭の痛みが生じにくいと考えられています。
思春期には徐々に頭痛の訴えが増えて来ます。とくに女性は、初潮を迎える頃から片頭
痛を発症する人が増えてきます。
20~40 歳代には、月に数回、頭がズキンズキンと痛む片頭痛の発作を繰り返すように
なります。片頭痛の患者さんの男女比は1対4程度で女性が圧倒的に多いようです。
女性ホルモンとセロトニンとの関連から、初潮を迎える頃から、女性に多くなり、成
成熟期になり、この変動が著明となり 30 歳頃にピークを迎えます。
更年期以降、片頭痛はふつう 40 歳を過ぎますと軽快に向かいます。片頭痛が出にくく
なる一方、緊張型頭痛のようになったり、耳鳴り・めまい・不眠などの不快な症状が続い
たり、性格変化がみられたりする場合があります。
これに、ストレートネックの要素が加味されて、片頭痛の発症の様相に変化が見られ、30
歳以降に発症される方も増加し、さらにこれが更年期女性の片頭痛を複雑にして来ます。
このことは、30 歳以降のストレートネックの改善が困難であるとの経験とも符号します。
そして、脳血管が動脈硬化を起こして、血管の反応性に乏しくなったり、神経系内の反応
性の鈍化などによって、発作が起きにくくなり、最終的に終息していきます。
この間に、諸々の要因が加わることによって、慢性化していくことになります。この慢
性化の要因として、先日も述べましたような因子として、ただちに修正が不可能とされる
ものに、片頭痛であること、遺伝、女性、年齢、社会的階層(教育レベル・収入)、頭部外
傷が挙げられ、修正可能のものとして、発作頻度、薬物乱用・カフェイン、肥満、ストレ
スの多い生活、精神的な共存症・うつ、いびきー睡眠時無呼吸症候群と睡眠障害が指摘さ
れています。そのなかでも重視されるのが「薬物乱用」です。複合鎮痛薬やトリプタンは
3カ月以上にわたり月に 10 日以上服用すると片頭痛が慢性化する可能性があります。こ
れらの危険因子の殆どは、「慢性的なセロトニン不足」によるものであり、頭部外傷・頸部
- 15 -
外傷(ムチウチ)に関与したものはストレートネックによるものと考えられます。
これらについて、さらに掘り下げて考察してみることにします。
これまで、再三、申し上げておりますように、片頭痛は「セロトニン」」と「体の歪みか
ら引き起こされるストレートネック」「遺伝的素因」の3つが複雑に絡み合って発症してく
るものと思われます。
「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
このように、ストレートネックが長期間持続することによって、片頭痛が慢性化し、さ
らに「慢性的なセロトニン不足」も関与してくるものと思われます。
それでは、国際頭痛分類第 2 版では片頭痛の中の前兆のない片頭痛の診断基準として、
以下のようになっています。
1.1 前兆のない片頭痛( Migraine without aura )
A.B ~ D を満たす頭痛発作が 5 回以上ある
B.頭痛の持続時間は 4 ~ 72 時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C.頭痛は以下の特徴の少なくとも 2 項目を満たす
- 16 -
1.片側性
2.拍動性
3.中等度~重度の頭痛
4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のた
めに日常的な動作を避ける
D.頭痛発作中に少なくとも以下の 1 項目を満たす
1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)
2.光過敏および音過敏
E.その他の疾患によらない
前兆のある片頭痛の場合、2回発作を繰り返して、正式に片頭痛と診断されていますが、
初回発作だけでも、片頭痛を誰でも疑うことが出来ます。
しかし、前兆のない片頭痛の場合、「反復性発作性緊張型頭痛」との区別が困難である場
面は多々遭遇されます。こうした場合、敢えて「片頭痛なのか、緊張型頭痛なのか」の区
別が必要なのでしょうか?
この2つとも共通の基盤から発症しているはずです。
具体的には、セロトニン不足とストレートネックが関与しているものと思われます。
このため、初回発作の段階から、この両者への対策を講じていく必要があります。
患者さんによっては、初回の発作の時点から頭痛発作が激烈の場合、救急で医療機関を
受診されます。ところが救急の現場ではCTの画像検査で異常がないため、そのまま鎮痛
薬を投与されて帰されます。しばらくは全く何ともなく、2回目の発作を起こされます。
また激しければ再度、救急で受診され、またCT検査をされます。また異常なしというこ
とで、そのまま追い帰されます。このようなことを発作の都度されれば、患者さん自身は
どのように思われるのでしょうか。しばらくはじっと我慢しておれば軽快するため、じっ
と我慢されるか鎮痛薬を服用され経過をみることになります。このような頭痛を5回経験
しない限り医師の立場からは片頭痛の診断を下してもらえないことになってしまいます。
- 17 -
ということは患者さんサイドからは、5回経験もすれば、医療機関を受診しても、「心配
ない」としか言われないと考えて医療機関を受診されなくなります。
このようにして、5回の発作を繰り返されるうちに、「片頭痛が熟成」される結果となり
ます。あたかも、ガンを発育させて診断を下すに等しい診断過程を踏んでいるわけです。
こうなると、患者さん自身は、医療機関に受診しても「分からない」だろうと考えます。
そして、市販の鎮痛薬を服用しながら、じっと我慢されることになります。
(こうした患者さんの述懐は多々聞かされます)
そして、ストレートネックが放置されたまま持続し、さらに「セロトニン不足」を来す
ような生活を強いられることによって、今まで効いていた「市販の鎮痛薬」が効かなくな
ったり、薬物乱用頭痛になる一歩手前にような状態になって、改めて「医療機関」を受診
されるといった構図になっています。
こういった側面から、片頭痛を慢性化させています。ここは、どなたに責任があるので
しょうか?
一概には、患者さんの「無知」とは責められないと考えられます。
こういう意味合いから、初回の発作の段階で、どのように対処しなくてはならないかは
明白であろうかと思われますので、繰り返さないことにします。
そして、慢性化の危険因子として、ただちに修正が不可能とされるものに、片頭痛であ
ること、遺伝、女性、年齢、社会的階層(教育レベル・収入)、頭部外傷が挙げられ、修正
可能のものとして、発作頻度、薬物乱用・カフェイン、肥満、ストレスの多い生活、精神
的な共存症・うつ、いびきー睡眠時無呼吸症候群と睡眠障害が指摘されています。
これらのうち、発作頻度、薬物乱用・カフェイン、肥満、ストレスの多い生活、精神的
な共存症・うつ、いびきー睡眠時無呼吸症候群と睡眠障害は、いずれも「セロトニン不足」
に由来するものであり、これらは、発症当初から「セロトニン生活」を励行させるように
指導さえ怠らなければ、予防可能なものばかりのものです。
そして、修正が不可能とされるものとされる、「頭部外傷。頸部外傷(ムチウチ)」です
が、これも先日「ムチウチと頭痛」の部分で詳述しましたように「ストレートネック」と
の係わりが存在します。これは当然、改善可能なはずです。
残された部分の「遺伝、女性、年齢、社会的階層(教育レベル・収入)」は今後の検討課
題ですが、これらも、何とかなっていくものではないでしょうか?
このように「セロトニン」「ストレートネック」の観点から考えて治療を進めるかぎり、
- 18 -
慢性化は十分に防げるものがいくらでもあるのではないでしょうか?
こうして考えるかぎり、果たして本当に「片頭痛は進行性疾患」なのでしょうか?
ただ、現段階で言えることは、ストレートネックの改善は出来るだけ早くから是正に努
めることが最低限必要で、30 歳を超えると困難な点は事実のようで、このあたりが分岐点
となっているようで、こういった点からはなお「進行性疾患」と考えざるを得ないようで
す。こうしたことからも、片頭痛発作当初から、ストレートネックの改善が必要のようで
す。
片頭痛は進行性疾患???
ある「頭痛研究者」は、最近、以下のように指摘されます。
片頭痛の発症メカニズムを研究されている方の多くは、脳内の血管の収縮や伸張が起き
てからのメカニズムについて言及されています。そして、そのメカニズムに沿って色々な
特効薬が開発されています。
うまく、これらの薬を使い分け、活用すると一時的辛さから逃れられ、非常に過ごしや
すくなるのは事実です。しかし、アスピリンをはじめ、副作用が弱いといわれるトリプタ
ン系製剤でも、片頭痛体質を良くするものは全くありません。いや、短期的に症状を和ら
げますが、中長期的には片頭痛体質を悪化させるだけの「両刃の剣」なのです。
以前は、年をとるといつのまにか片頭痛を発症しなくなったという方が多かったように
思います。
しかし、これらの薬を服薬し続けてきた方ほど、気圧に過敏になるなど、薬漬けの生活を
余儀なくさせられています。
それも、かなり重度なもので、日本や世界の一流の頭痛専門医に治療していただいてい
るにもかかわらず、低気圧が近づくたびにアイスノンを鉢巻きでまき、日に幾度となく鎮
痛剤とイミグランを飲んでいる70歳の婦人を見るたびに、現在の頭痛専門医が何たるか
を疑問に思うのです。決して、頭痛専門医は片頭痛を重篤化するのが目的では無いはずな
のに。
- 19 -
このように指摘されます。
以前から、脳血管が動脈硬化を起こして、血管の反応性に乏しくなったり、神経系内の
反応性の鈍化などによって、発作が起きにくくなり、最終的に終息してくるとされていま
した。このように、片頭痛は、ある年齢に達すれば自然に発作そのものが起きなくなると
されていましたが、別の「頭痛研究者」は、片頭痛は進行性疾患であり、慢性化するもの
と認識を改めるべきとされます。
こういった考えに至った根拠として、以下のようにも指摘されていました。
片頭痛の場合、一般の鎮痛薬で痛みを抑えていると、一部の脳の活性が高まり、そこに
つながる血管が異常拡張して、痛みが生じ、血管の異常拡張がさらに脳の活性をもたらし、
それが再び血管の異常拡張へとつながり、つまり、悪循環が終わらなくなるのです。それ
によって常に片頭痛がある状態になります。また、血管の拡張が繰り返されると、血管自
体に炎症やむくみが残って、さらに頭痛を起こしやすくなります。
一部の先生方はこういった見解を述べられ、極めて軽い片頭痛発作でも「トリプタン製
剤」を使用すべきと勧めておられます。
これに対する反論として、片頭痛の重症化には、最初の研究者の指摘されるように、「ト
リプタン製剤」の服用が関係しているのではないかとの指摘も存在します。
確かに、従来から、市販の鎮痛薬にしても、トリプタン製剤にしても、服用回数に関し
て注意するように言われて参りました。具体的には、月に 10 回以内に抑えるように言われ
てきました。ところが、患者さんによっては、発作回数が多くて、発作予防薬を服用する
にも関わらず、月に 10 回以上服用される方々もおられました。このような方々に対して、
「薬物乱用頭痛」になることを懸念して、トリプタン製剤は、月に 10 回までしか処方しな
いという先生もおられました。これに対して、トリプタン製剤が「効いているのであれば、
月に 10 回以上になっても仕方ないし、効いている薬を”薬物乱用頭痛”を恐れて処方しな
いのは”人道的に問題がある”のではないか」という考えをされる先生もおられます。
このように、片頭痛の慢性化の原因としての「薬物乱用頭痛」の関与は、現在では誰で
も異論はないはずです。このようにみれば、「薬物乱用頭痛」がどのような機序で起きてく
るのかという根本的な点の説明がなされていないことが最大の問題点と思われます。
具体的には、これらの薬剤が「化学的ストレス」となって「慢性的なセロトニン不足」
を来すものなのか、あるいは「ミトコンドリアの機能低下を引き起こし、活性酸素の増加」
を招来しやすくするものなのかという点です。
- 20 -
このような根本的な「発生機序」を抜きに考えている点が混乱のもとと思われます。
また、別の観点から検討を行う必要があると思われます。
それは、「片頭痛が進行性疾患である」と考えを改めるべきとされます。このような考え
方は、トリプタン製剤が出現前には存在しなかった考え方です。
トリプタン製剤が販売されてから、10 年以上経過しました。このような時代にあるわけ
ですから、そろそろ「トリプタン製剤出現」後の片頭痛の実態調査を行うべきです。
トリプタン製剤により、片頭痛患者さんが果たして恩恵を被っているのか、(短期的な薬
剤効果でなく、中長期的にみて、果たしてどうなのか、ということです)、さらに片頭痛の
予後にどのような影響があったのか、という「疫学調査」が必要とされます。
これなくしては、これまでの議論は何もないことになります。
これは、とりもなおさず、「ガイドライン」の正当性が問われることになります。
皆さんは、この点に関して、どのように思われるのでしょうか?
片頭痛の慢性化とは?
片頭痛の慢性化とは?
難治性片頭痛患者をどのように診断・治療するか
これは、Headache Clinical & Science Vol.4 No.1 2013/5 (メデイカルレビュ社)の特集の
記事です。K大学の教授の司会のもとに3名の「頭痛専門医」の座談会形式で述べられて
いました。(今月の最新版です)
相変わらず、「国際頭痛分類 第2版」の診断基準をもとに、慢性片頭痛と薬剤乱用頭痛
の診断基準について話し合われていました。
なぜ、このような「国際頭痛分類 第2版」の診断基準に厳格に従う必要があるのかとい
う疑問です。実際に、このような患者さんを診ますと、この診断基準に合致するような方
々は極めて少ないというのが、私の実感です。このため、こうした場合、厳密に区別する
必要があるのかどうかということです。
そして、治療面で、「予防薬の使用法」について言及されていました。
- 21 -
問題は、予防薬の効果がどの程度なのかは、「頭痛専門医」であれば、よくご存じのはず
です。なぜ、このような治療効果しか得られないのかという反省が全くない点がまず問題
とすべきです。慢性片頭痛まで至らない、ただ単に「発作回数」が多い場合に使用しても、
その効果自体は、たかが知れていることは、これまでも当ブログでも述べました。この程
度の効果しか得られない「予防薬」が「慢性片頭痛」に有効であるとされます。信じられ
ない思いがしました。果たして、本当なのでしょうか?
る論法でしかないことを全く自覚しておりません。
こういった考えは患者を愚弄す
この点は、私が指摘するまでもなく
「現実に、慢性頭痛で、ほとほと困り果てておられる」患者さんには信じられない点だと
思われます。こういった、現実を全くご存じではないのでは・・と勘ぐりたくなります。
何を考えておられるのかと、「広島弁」で表現すれば「頭をカチ割ってやろうか」といった
表現しかできません。はしたなくて、済みません。
結局のところ、慢性片頭痛に至らせないためには「開業医」の啓蒙が必要と主張され、
あたかも、慢性片頭痛に至る原因は、開業医のせいにされます。
私は、一般開業医として、この記事を読んで、何か”寂しい”思いをさせられました。
何か、どこかが狂っているとしか思えません。まさに、責任転嫁そのものとしか思えま
せん。
私も、一般内科医として、医師になって以来、過去 45 年間頭痛患者さんを診せて頂いて
おります。一般開業医のせいに、仮にされるとすれば、頭痛専門医は、この私が医師にな
って以後の過去 45 年間の間に、何を「研究」されておられたのかを、お聞きしたく思いま
す。
私が医師になった当時と現在と比べ、全く進歩がないのは、どういった理由なので
しょうか?
このような事実は、どなたも自覚されておられないようにしか思えてなりま
せん。トリプタン製剤が、片頭痛治療に使われるようになったことを、片頭痛治療の進歩
とでも申されるのでしょうか?いつまで、こういった考えを押し通されるのでしょうか?
時代錯誤も甚だしいと考えるべきです。10 年前なら、いざしらず・・
まず、”開業医の無知のために、慢性片頭痛が作られる”という点です。
私は、決して、このような見解は全く、納得しかねる点です。
私は、「頭痛専門医」が金科玉条のものとして遵守される「国際頭痛分類 第2版」に、
- 22 -
この根源があると考えております。
と言いますのは、前兆のある片頭痛であれば最初の1回目でも、片頭痛の診断は可能で
すが、問題は、前兆のない片頭痛の診断を下す場合です。この場合、「国際頭痛分類 第2
版」では、5回同様の頭痛発作を繰り返して初めて「片頭痛」の診断が下されるように決
められております。ということは、最初に頭痛が起きた場合、中には、余りにも頭痛の激
しさのあまり、救急で医療機関を受診される場合もあります。ところがCTなどの画像診
断で異常所見はないはずですから、当然、対症的に鎮痛薬を処方され追い返されます。と
ころが、いずれまた再度、頭痛発作が起きてきます。そして、また酷い頭痛であれば、ま
た救急で受診され、また画像検査を繰り返され、異常がないわけですから、また追い返さ
れます。このように、2度目も起きれば、当然「片頭痛の疑い」とでも一言本人に言えば
すむことですが、何も言わずれずにまた追い返されるのが殆どです。
このようなことを繰り返すうちに、本人は「2,3日もすれば治まる」ということを”
学習”します。この「2,3日間」が耐えられなければ鎮痛薬を服用されます。
このような方々は、それ以降、頭痛発作に見舞われても「医療機関を受診しても、高い
画像検査をされるだけで、恐らく異常なし」と言われ追い返されるに違いないと判断し、
毎回、鎮痛薬で我慢することになります。このような方々には、周囲に同じように頭痛を
訴えておられる方も多く、このような方々は、殆ど鎮痛薬で我慢されるのを観察されてお
られるわけで、これを見習って鎮痛薬を服用しつつ、痛みを耐えることになり、鎮痛薬の
服用回数などは気にされることはまず、ありません。このようにして、市販の鎮痛薬が効
かなくなって初めて医療機関を受診するといった構図になっています。
また、別の場合は、頭痛の初発した段階で医療機関を受診され、画像検査をされ「異常
なし」とただそれだけで追い返されます。再度、発作が起きても、また検査をされ、また
追い返されます。このようなことが繰り返された場合、患者さんはどのように考えるでし
ょうか?
受診しても医者からは、何の説明もなく「ただ、異常なし」と突き放された場
合、医師は「自分の痛み(苦しみ)」を理解してくれず、このため周囲からも冷たい目で見
られることになり、本人は絶望感しかありません。このため、5回目の片頭痛と診断され
るべき時点では、もう医療機関は信用されず、自分で「ただ、ひたすらに、痛み」を耐え
るか、市販の鎮痛薬しか頼らなくなってしまい、挙げ句の果ては「薬物乱用頭痛」に追い
込んでいくことになってしまいます。少なくとも、最初の発作時に、片頭痛の疑いとして、
頸椎レントゲン検査でストレートネックの確認を行い、「セロトニン生活の励行」と「スト
- 23 -
レートネックの改善」に努めさせれば、片頭痛はなくなってしまい、薬物乱用頭痛までに
は至らず、当然慢性片頭痛となることはないはずです。
しかし、このような配慮がなされず、大半は、このような経過を辿って「薬物乱用頭痛」
へと移行してしまっております。最大の問題点は、このような視点が、現在の「頭痛専門
医」にはないということです。このような「自覚」が全くない方々が「一般開業医」を責
める資格があるのでしょうか。これは、どなたの責任なのでしょうか?
本当に、開業医
の責任なのでしょうか?
こういった点は、「頭痛専門医」が、救急を担当される医師に啓蒙すべき事項ではないで
しょうか?
向ける矛先が違うように思われますが・・・。啓蒙すべき対象が的外れとし
か言えません。この点は過去を振り返って、厳粛に反省すべきと考えます。
話をもとに戻します。上記の3名の頭痛専門医の方々には、片頭痛をどのように考え、
どのようにして慢性片頭痛、もしくは薬物乱用頭痛に至るのかという”ストーリー”に全
く欠けている点です。
少なくとも「頭痛専門医」と称されるからには、自分独自の「片頭痛に対する考え」があ
って然るべきと考えます。ただ、症候論に終始するとすれば、ただの”素人”と全く変わ
らないと考えますが、このあたりはどうなのでしようか?ここが最大の疑問です。この点
は、「国際頭痛分類」に拘っておられる点が、全てを物語っております。
私は、これまで当ブログで申し上げている通りに、片頭痛は「セロトニン神経の働きの
悪さ」が基本的に存在すると述べて参りました。
このセロトニン不足のため「体の歪み」を引き起こし、これがストレートネックを形成
させる原因となってきます。このストレートネックが長期間持続することによって、以下
のような病態が引き起こされてきます。
ストレートネック→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
- 24 -
↓
脳の過敏性、頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
このようなストレートネックの存在すら全く念頭になくこのために片頭痛を慢性化させ
る原因となっています。
そして、市販の鎮痛薬やトリプタン製剤を服用しすぎますと、これが「化学的ストレス」
となって、さらにこれが「脳内セロトニン不足」を助長することとなり、このために「痛
みを感じやすくなり」結果として「薬物乱用頭痛」から「慢性片頭痛」を作ってくると考
えております。
このため、原因薬剤の中止は必要ですが、予防薬の投与だけで、慢性片頭痛が改善され
る訳はありません。これらの3方の患者さんは、恐らくドロップアウトしているのを「改
善」されたものと思い込んでおられると思われます。
実際に、これらの3方に受診されておられる読者の方々からメール相談を受けており、
まず間違いのないところです。このような「予防薬」だけで軽快するのであれば、どなた
も苦労しないと考えます。
また、片頭痛の慢性化の要因として、頭部外傷・頸部外傷が挙げられています。これら
は、すべてストレートネックを引き起こす原因になっています。
頭痛専門医は、概して「頭痛とストレートネックはエビデンスなし」と全く無視され、
ストレートネックを改善させることは全く念頭になく、このために頭部外傷・頸部外傷が
慢性化の要因として挙げられますが、ストレートネックさえ改善すれば、決して困難なも
のではありません。このように、ムチウチとストレートネックの関連についての知識が欠
如している上に、ストレートネックを治す”術”を持っていないための結果に過ぎません。
また、食品中の「有害物質」が体内に長く蓄積することによって、これが、また「化学
的ストレス」となって、脳内セロトニン不足を引き起こして、これも慢性化の要因ともな
ります。頭痛専門医には、このような有害物質を排除する方法としての「デトックス」と
いう考え方が全く存在せず、このために、慢性片頭痛の治療上難渋しているものと考えて
- 25 -
います。
このように考えれば、今回の座談会に出席された3名の「頭痛専門医」は、専門医とし
て何を考えているのでしょうか?
自分の無知を公開しているとしか思えません。これを、
開業医の無知と非難されておられます。私は、いくらでも「慢性片頭痛」へ移行させない
手段はいくらでもあると考えております。
啓蒙すべきなのは「開業医」なのでしょうか?
全く、信じられない思いがします。恥を知れということの、ただの一言です。
今回、参入された分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は、この片頭痛の慢性化につい
て、どのようにお考えなのでしょうか?
是非とも、お伺いしたいところです。
このように見ますと、果たして片頭痛を慢性化させている張本人はどなたなのでしょう
か?
疑問だらけです。以上が、
「馬鹿な一開業医」が思ったことです。お粗末さまでした。
皆さんは、どのようにお考えなのでしょうか。以上私が述べたようなことは全く念頭に
なく、あなた方が受診されている”先生様”は、”やみくも”に診ておられるということを
忘れてはなりません。こういった”無節操な考え方”で診ている限り治るものも治らず、
挙げ句の果ては、開業医に責任を転嫁されており、全く無責任としか思えません。
私の主張に疑問を持たれる方は「Headache Clinical & Science Vol.4 No.1 2013/5 (メデイ
カルレビュ社)の特集をご覧頂きたいと考えております。これが、現実の「頭痛専門医」
の考え方であり、これが「全て」のようです。この根底には、片頭痛は「神秘的で、不思
議な病気」であるという「神懸かりの思想」からくる考え方、そのものであり、およそ「科
学者」の考え方ではないということを認識しない限り、何時までも「このような方々」に
翻弄され、苦しむのは「自分自身」なのです。こういった意味で、今回の分子化学療法研
究所の後藤日出夫先生の著書”お医者さんにも読ませたい「片頭痛の治し方」は、現在、
「片
頭痛でお悩みの方々」は、是非とも、ご覧になられ、これまでの「頭痛専門医」の治療の
あり方を反省・反芻すべきと考えます。
- 26 -
私は、このような「頭痛専門医」が未だ「頭痛専門医」が愛読される雑誌に、このよう
な記事を”臆面もなく”出されている事実を憂えているからです。冒頭に「片頭痛の”初
期”診断」の問題点を述べました。「頭痛専門医」の治療方針が、どこまで「一般の片頭痛
患者」さんのコンセンサスが得られるのか、ここを私は問うているのです。いつまでも「ト
リプタン製剤」に頼り切った時代は終結しており、今後は、再度改めて「片頭痛患者さん」
から、”冷ややか”にかつ”冷静に、見つめ直される時代が、到来したことを、
「頭痛診療」
を行う立場の方々は認識しなくてはならないと考えます。そうでもしなければ、「頭脳明晰
な、片頭痛」の方々から、見放されていく運命にあることを・・・
”片頭痛は医療機関では治らない”
第5回
片頭痛の慢性化
片頭痛の慢性化
「たかが頭痛」と軽くみて市販薬で対処していたり、”不適切な治療”を受けていると、片
頭痛が慢性化してくると言われています。
竹島多賀夫先生によれば、反復性の片頭痛は、約3割が自然に治癒し、約4割が症状は
変わらず、残りの3割が慢性化して増悪するとされています。
成人片頭痛患者さんを 12 年間追跡した Lyngberg らの報告では、完全・部分寛解:42 %、
不変:38 %でした。一方、20 %は変容性片頭痛つまり片頭痛が慢性化しました。
これまで、片頭痛の生涯経過は以下のように考えられておりました。
これは片頭痛を起こさせる直接的な原因であるセロトニンという神経伝達物質が関与し
ているとされ、このため年齢とともに現れ方が変化していきます。
小児期には、腹痛、嘔吐など、消化器系の症状のほうが目立ち、症状の現れ方に男女差
はみられません。セロトニンに限らず神経伝達物質は、受容体という鍵穴にはまることで
細胞に作用します。子供の場合は、脳のセロトニン受容体が未発達で、セロトニンと受容
体の結びつきが希薄なために、頭の痛みが生じにくいと考えられています。
思春期には徐々に頭痛の訴えが増えて来ます。とくに女性は、初潮を迎える頃から片頭
- 27 -
痛を発症する人が増えてきます。
20~40 歳代には、月に数回、頭がズキンズキンと痛む片頭痛の発作を繰り返すようにな
ります。片頭痛の患者さんの男女比は1対4程度で女性が圧倒的に多いようです。
女性ホルモンとセロトニンとの関連から、初潮を迎える頃から、女性に多くなり、成成
熟期になり、この変動が著明となり 30 歳頃にピークを迎えます。
更年期以降、片頭痛はふつう 40 歳を過ぎますと軽快に向かいます。片頭痛が出にくく
なる一方、緊張型頭痛のようになったり、耳鳴り・めまい・不眠などの不快な症状が続い
たり、性格変化がみられたりする場合があります。
これに、ストレートネックの要素が加味されて、片頭痛の発症の様相に変化が見られ、30
歳以降に発症される方も増加し、さらにこれが更年期女性の片頭痛を複雑にして来ます。
このことは、30 歳以降のストレートネックの改善が困難であるとの経験とも符号します。
とくに女性の場合は、30 歳頃までには結婚・出産・育児を経験されることになり、それ
までの生活習慣が一変し、とくに片頭痛治療上、基本となる「睡眠時間」が十分にとれな
い期間ができ、このために片頭痛が一挙に増悪することになります。
そして、脳血管が動脈硬化を起こして、血管の反応性に乏しくなったり、神経系内の反
応性の鈍化などによって、発作が起きにくくなり、最終的に終息していきます。
この間に、諸々の要因が加わることによって、慢性化していくことになります。この慢
性化の要因として、ただちに修正が不可能とされるものに、片頭痛であること、遺伝、女
性、年齢、社会的階層(教育レベル・収入)、頭部外傷が挙げられ、修正可能のものとして、
発作頻度、薬物乱用・カフェイン、肥満、ストレスの多い生活、精神的な共存症・うつ、
いびきー睡眠時無呼吸症候群と睡眠障害が指摘されています。そのなかでも重視されるの
が「薬物乱用」です。複合鎮痛薬やトリプタンは3カ月以上にわたり月に 10 日以上服用
すると片頭痛が慢性化する可能性があります。これらの危険因子の殆どは、「慢性的なセロ
トニン不足」によるものであり、頭部外傷・頸部外傷(ムチウチ)に関与したものはスト
レートネックによるものと考えられます。
片頭痛の慢性化には、脳の器質的な変化が関連すると頭痛専門医は考えているようです
が、決してそのようなものではなく、上記の要因を念頭に置くべきです。
脳内の痛み調節システムが異常を来し、痛み刺激に感作された状態を引き起こしてくる
- 28 -
とされて、このため、頭痛が慢性化した患者では、通常では痛みと感じない刺激すら痛み
として認識するようになり、光や音、臭いなどの刺激にも反応するようになります。特に
注意すべきことは、発作時に服用する急性期治療薬の使い過ぎによる片頭痛の慢性化で、
このような頭痛は薬物乱用頭痛と呼ばれています。片頭痛の慢性化した患者の約半数は 薬
物乱用頭痛が原因となっていると言われています。薬物乱用頭痛の原因として最も多いの
は、市販の鎮痛薬の乱用と言われていますが、医師が日常的に頭痛患者に処方する鎮痛薬
やトリプタン製剤、エルゴタミン製剤でも薬物乱用頭痛の原因となります。
急性期治療薬の使用に関して、「月に 10 回未満であれば薬物乱用頭痛のリスクには全く
なりませんが、それ以上、特に月の半分以上服薬している場合は、薬物乱用頭痛を生じる
危険性が高くなってきます。
また、加齢に伴って、片頭痛は慢性化して来ます。これは慢性片頭痛と呼ばれ、「薬物乱
用がなく、片頭痛が月に 15 日以上の頻度で3カ月以上続くものと規定されています。
慢性化した片頭痛の中には、症状が緊張型頭痛様に変化することもあり、変容性片頭痛
とも呼ばれます。加齢とともに、肩凝りやめまい、不眠などの緊張型頭痛様の症状が片頭
痛に加わり、片頭痛そのものの症状が変化して来ます。
中高年期の患者では変容性片頭痛患者が少なくなく、このような患者さんが自覚する愁
訴は頭痛以外のものが多くなってきますので、片頭痛が基盤にあることを見落として、更
年期障害や緊張型頭痛と間違われることもあります。
一昔前までは片頭痛は若年女性に多く、閉経とともに治癒すると考えられていました。
しかし、これからは、片頭痛は進行して慢性化する疾患と認識を改め、早期に診断して、
適切な治療で慢性化を阻止する必要があります。
これまで述べて来ましたように、急性期治療薬の服薬日数が、「月に 10 回以上になる場
合は、薬物乱用頭痛に陥る可能性があり、これを防ぐために予防療法を組み合わせること
が勧められてきました。
これまでガイドラインでは、「有害事象が少ない薬剤を低容量から開始し、十分な臨床効
果が得られるまでゆっくり増量し、2~3カ月程度の期間をかけて効果を判定するとされ
ています。これらの予防薬を1種類ずつ投与していくのか、あるいは当初から数種類併用
して投与すべきかについてコンセンサスが得られていないことが最大の問題となっていま
- 29 -
す。
予防薬として使われる薬剤は各種ありますが、これらがすべての患者さんに効くというわ
けではありません。予防治療の有効率は決して高いものではありません。
ほとんどの薬剤が、有効率は 30 ~ 40 %、すなわち 10 人中3~4人しか効きません。し
かし、個人差が激しく、薬によって有効率は異なります。効かなかった場合には、他の薬
に変えてまた、2~3カ月様子をみる、という気長な対応が必要とされています。
また、効果を確認できるまでの期間も短くありません。
予防治療に使われるどの薬剤も、効果を発揮するまでには4週間くらいはかかります。
はじめの2週間くらいはまったく効かないのが普通です。3~4週めになっていくらか
頭痛の回数が減っていると感じたら、効果があったと考えてよいでしょう。なかには、2
カ月めになってやっと効果がはっきりしてくることもあります。
こういった状況で、多くの患者さんは、予防薬の効果が現れるまでの期間が長く、極め
て緩やかな効き方しかしません。
確かに、数年間にわたって、1種類ずつ処方されておられる場合もあるようですが、こ
のような方式は、あくまでも偉い先生方がされた場合のことで、じっと我慢して服用され
ておられる方々は少ないのではないでしょうか?
このように考えますと、予防薬の効果が得られるまでに、急性期治療薬の服薬日数が、
「月
に 10 回以下に抑えることが可能かどうかということです。実際には、このように単純には
いかない場合が多々遭遇されます。
このように考えるなら、片頭痛そのものを見直す必要に迫られてくると考えます。
これまでも度々述べておりますように、ミトコンドリア、セロトニン、ストレートネ
ック、有害物質の摂取の4つの視点抜きには片頭痛治療は考えられないと思っています。
セロトニンの慢性的な不足により、痛みに対する感受性が高まり、ちょっとした刺激
に反応しやすくなり、さらにストレートネックが形成され、以下のような機序で慢性化し
ていくことはこれまで指摘してきました。
「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
- 30 -
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
従来から、このような視点が欠如していたために、片頭痛の慢性化そのものが説明でき
ない部分が存在していたように思えてなりません。
最近、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は、「有害物質」が体内に蓄積され、これも
慢性化の要因とも述べておられ、デトックスを推奨されます。
一方、片頭痛の「国際頭痛分類 第2版」による診断基準での問題点がこれまで指摘され、
前兆のある片頭痛の場合、2回発作を繰り返して、正式に片頭痛と診断されるとされて
いますが、初回発作だけでも、片頭痛を誰でも疑うことが出来ます。
しかし、前兆のない片頭痛の場合、「反復性発作性緊張型頭痛」との区別が困難である場
面は多々遭遇されます。こうした場合、敢えて「片頭痛なのか、緊張型頭痛なのか」の区
別が必要なのでしょうか?
この2つとも共通の基盤から発症しているはずです。
具体的には、セロトニン不足とストレートネックが関与しているものと思われます。
このため、初回発作の段階から、この両者への対策を講じていく必要があります。
患者さんによっては、初回の発作の時点から頭痛発作が激烈の場合、救急で医療機関を
受診されます。ところが救急の現場ではCTの画像検査で異常がないため、そのまま鎮痛
薬を投与されて帰されます。しばらくは全く何ともなく、2回目の発作を起こされます。
また激しければ再度、救急で受診され、またCT検査をされます。また異常なしというこ
とで、そのまま追い帰されます。このようなことを発作の都度されれば、患者さん自身は
どのように思われるのでしょうか。しばらくはじっと我慢しておれば軽快するため、じっ
と我慢されるか鎮痛薬を服用され経過をみることになります。このような頭痛を5回経験
- 31 -
しない限り医師の立場からは片頭痛の診断を下してもらえないことになっています。とい
うことは患者さんサイドからは、5回経験もすれば、医療機関を受診しても、「心配ない」
としか言われないと考えて医療機関を受診されなくなります。
このようにして、5回の発作を繰り返されるうちに、「片頭痛が熟成」される結果となり
ます。あたかも、ガンを発育させて診断を下すに等しい診断過程を踏んでいるわけです。
こうなると、患者さん自身は、医療機関に受診しても「分からない」だろうと考えます。
そして、市販の鎮痛薬を服用しながら、じっと我慢されることになります。
(こうした患者さんの述懐は多々聞かされます)
そして、ストレートネックが放置されたまま持続し、さらに「セロトニン不足」を来す
ような生活を強いられることによって、今まで効いていた「市販の鎮痛薬」が効かなくな
ったり、薬物乱用頭痛になる一歩手前にような状態になって、やっと(改めて)
「医療機関」
を受診されるといった構図になっています。
こういった側面から、片頭痛を慢性化させています。ここは、どなたに責任があるので
しょうか?
一概には、患者さんの「無知」とは責められないと考えられます。
こういう意味合いから、初回の発作の段階で、どのように対処しなくてはならないかは
明白であろうかと思われます。
このように「ミトコンドリア」「セロトニン」「ストレートネック」「有害物質の摂取」の
観点から考えて治療を進めるかぎり、慢性化は十分に防げるものがいくらでもあるのでは
ないでしょうか?
こうして考えるかぎり、本当に「片頭痛は進行性疾患」でしかないようです。
ただ、
現段階で言えることは、ストレートネックの改善は出来るだけ早くから是正に努めること
が最低限必要で、30 歳を超えると困難な点は事実のようで、このあたりが分岐点となって
いるようで、こういった点からはなお「進行性疾患」と考えざるを得ないようです。こう
したことからも、片頭痛発作当初から、ストレートネックの改善が必要のようです。
薬物乱用頭痛をどのように考えるか
以下、はある患者さんからの質問です。
- 32 -
頭痛薬の飲み過ぎが、頭痛の原因になることってあるんでしょうか?私は 10 年くらい片
頭痛にずっと悩まされています。そのおかげで毎食後に頭痛薬を飲むクセがついてしまい
ました。
頭痛薬はロキソニンを主に服用しています。パソコン仕事がメインです。
朝起きた瞬間から鈍い頭の重さに悩まされ、PCの電源を入れて椅子に座った直後には
いつものいやーな痛みが襲ってきます。
酷い時には布団から出られないほどの頭痛。これでは仕事も普通の生活さえできません。
病院に行って脳内の検査をしてもらったところ、先生からは特に原因は見当たらない、
とのこと。
そんなはずはないと思って、いろんな病院を訪ねるも、みんな先生は首を横に振って「薬
で様子をみてくださいね。」としかいいません。
先日、酷い先生に否定されました。
「あなた、そんなに薬が美味しいの?薬ばかり飲んでるから頭痛になるんだよ。それで訪
ねて来られても困る。甘えないでください。」
ものすごく腹の底から怒りを感じました。きっとこの先生は頭痛に苦しんだことがない
んだって。痛くて痛くて仕方がなく病院に訪れているのに、なんでそんなことを簡単に言
えるのだろう。自分が情けなくて泣けてきました。
でも、確かに薬を飲み続けています。あまり高額な薬を服用するのはイヤなので(キツ
イ&高い)、ロキソニンを毎食後に飲んでいます。
とにかく今から起きる頭痛を少しでも軽くすればいい。それ一心で飲んでいます。
でも最近、胃が痛い。きっと薬の影響で胃がボロボロになってきているのでしょう。で
も頭痛薬がないのは怖い。
精神的なものも影響していると思いますが、頭痛薬を飲みすぎることは危険な事でしょ
うか?
また頭痛薬が頭痛を引き起こしている、ってことは本当にあるのでしょうか?あの医者
の言葉がどこかで引っかかっています。
どなたかお詳しい方、教えてください。はやく頭痛を治したい。本当にそれだけです。
このように、この方の苦悩は想像を絶するようです。
この方の頭痛は、典型的な「薬物乱用頭痛」です。
- 33 -
ところで。このような「薬物乱用頭痛」はどのようにして起きるのでしょうか?
これまでは、以下のような説明がオーソドックスのようです。
鎮痛薬の長期乱用などに伴い興奮性が非常に高まった状態になるという見方があります。
また、鎮痛薬を絶えず飲んでいますと、伝わってくる痛みを鎮痛薬が取ってくれるので、
脳の痛み抑制センターが仕事をしなくなり、ちょっとした痛みでも、痛い、と感じるよう
になります。するとまたすぐに鎮痛薬を飲む、センターはますます仕事をしなくなる、ま
た痛みを感じる、また薬を飲む、という悪循環に陥ります。
また、このようにも申されます。痛み止めを多く飲み過ぎると、脳の痛みの調節系は働
く必要がなくなり、脳の痛みの番人がさぼってしまいます。ちょっとした痛みにも、さら
に痛み止めを飲むことになり、悪循環になります。痛み調節系の機能低下により頭痛が毎
日くるようになったと思われます。
ところで、私は、以下のように考えております。
これまで、
「慢性頭痛の神経学的側面」の最初の部分で述べましたように(文献 42)、
「ス
トレス」はあらゆる病気の原因になります。慢性頭痛ではストレスが関与していると指摘
されて来ました。ところで、ストレスとは何でしょうか。ストレスには次の3つの種類が
あります。
――――――――――――――――――――――――――――――――
1.物理的ストレス
2.精神的ストレス
3.化学的ストレス
――――――――――――――――――――――――――――――――
物理的ストレスというのは、人間が生きているだけで感じてしまうストレスのことです。
暑さ、寒さ、冷たさなど肌で感じてしまうものは、物理的ストレスとして分けられます。
騒音などもその一つです。
精神的ストレスは、別名心理的ストレスともいい、現代社会においてはこのストレスが
一番多いと考えられています。仕事、家事、人間関係などの自分が苦手とする分野に対し
- 34 -
て、長時間その環境にいることで、体が自然と拒否してしまい、精神的ストレスに陥って
しまいます。物理的ストレスが誘発してしまう恐れもあり、油断できないといえます。
化学的ストレスとは何でしょうか。聞きなれない名前ですが簡単に説明すれば、「薬、お
酒、栄養不足」から来るストレスを化学的ストレスといっているのです。お酒はストレス
を発散させるものとして、昔から親しまれていますが、「飲みすぎては体に毒」という言葉
があるように体にストレスとして負担を掛けていきます。また、薬は現代の医療において、
欠かせないものですが必ず副作用というものがあり、これがストレスになるのです。
薬物乱用頭痛の場合、このように鎮痛薬、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤の飲み過
ぎは、当然、化学的ストレスになって来ます。
ストレスは個人差というものがあります。ストレスに強い人と弱い人はいるのです。
ストレスに強いかどうかは生まれつきの性格や経験によって左右されると考えられてきた
のですが、最近の脳科学の研究によって、そうではないことが分かってきましたのです。
ストレスに対する耐性の違いは”脳の活性化”と深く関わっているのです。
「ストレスに弱いとセロトニンの量が減少しやすい」です。
人間の体は、肉体的、精神的、物理的、化学的なストレスを受けると、脳内の視床下部
のストレス中枢が刺激されるのです。そうすると、セロトニンが多く放出され、その量が
減少してしまうのです。いずれにせよ、ストレスに対応するセロトニンの分泌量が少ない
と、痛みを感じやすくなって来ます。これが、薬剤乱用頭痛へと繋がっていくものと思わ
れます。
いずれにしても、長期間にわたって「鎮痛薬、エルゴタミン製剤、トリプタン製剤」を
飲み続けますと「セロトニンの枯渇状態」を引き起こす結果に至り、「薬物乱用頭痛」を引
き起こして来るものと思われます。
日本神経学会の「慢性頭痛治療ガイドライン 2002」で示される薬剤長期乱用に伴う頭痛
治療の基本として
1.原因薬剤の中止
2.薬剤中止後に起こる頭痛への対処
3.予防薬の投与
- 35 -
が挙げられておりますが、こういった方針でも難渋するケースが多いのが実情です。
私は、このような状況を踏まえて、上記3つを行いつつ、セロトニン生活を徹底して進
め「セロトニン神経の活性化」を図り、さらに慢性頭痛の「慢性化」を助長させているス
トレートネックの改善に努めることの2点を必須の方法と考えております。
このようにすることで、早期に「薬物乱用頭痛」から離脱出来、再発も殆どなくすこと
が可能と考えております。また、こういった場合の予防薬の投与方法も、もともと、この
ような「薬物乱用頭痛」での予防薬の効果が乏しかったことを反省し「多剤併用療法」が
妥当と考えております。
片頭痛は進行性疾患???
分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は、最近、以下のように指摘されます。
片頭痛の発症メカニズムを研究されている方の多くは、脳内の血管の収縮や伸張が起き
てからのメカニズムについて言及されています。そして、そのメカニズムに沿って色々な
特効薬が開発されています。
うまく、これらの薬を使い分け、活用すると一時的辛さから逃れられ、非常に過ごしや
すくなるのは事実です。しかし、アスピリンをはじめ、副作用が弱いといわれるトリプタ
ン系製剤でも、片頭痛体質を良くするものは全くありません。いや、短期的に症状を和ら
げますが、中長期的には片頭痛体質を悪化させるだけの「両刃の剣」なのです。
以前は、年をとるといつのまにか片頭痛を発症しなくなったという方が多かったように
思います。
しかし、これらの薬を服薬し続けてきた方ほど、気圧に過敏になるなど、薬漬けの生活を
余儀なくさせられています。
それも、かなり重度なもので、日本や世界の一流の頭痛専門医に治療していただいてい
るにもかかわらず、低気圧が近づくたびにアイスノンを鉢巻きでまき、日に幾度となく鎮
痛剤とイミグランを飲んでいる70歳の婦人を見るたびに、現在の頭痛専門医が何たるか
を疑問に思うのです。決して、頭痛専門医は片頭痛を重篤化するのが目的では無いはずな
のに。
- 36 -
このように指摘されます。
以前から、脳血管が動脈硬化を起こして、血管の反応性に乏しくなったり、神経系内の
反応性の鈍化などによって、発作が起きにくくなり、最終的に終息してくるとされていま
した。このように、片頭痛は、ある年齢に達すれば自然に発作そのものが起きなくなると
されていましたが、別の「頭痛研究者」は、片頭痛は進行性疾患であり、慢性化するもの
と認識を改めるべきとされます。
こういった考えに至った根拠として、以下のようにも指摘されていました。
片頭痛の場合、一般の鎮痛薬で痛みを抑えていると、一部の脳の活性が高まり、そこに
つながる血管が異常拡張して、痛みが生じ、血管の異常拡張がさらに脳の活性をもたらし、
それが再び血管の異常拡張へとつながり、つまり、悪循環が終わらなくなるのです。それ
によって常に片頭痛がある状態になります。また、血管の拡張が繰り返されると、血管自
体に炎症やむくみが残って、さらに頭痛を起こしやすくなります。
一部の頭痛専門医はこういった見解を述べられ、極めて軽い片頭痛発作でも「トリプタ
ン製剤」を使用すべきと勧めておられます。
これに対する反論として、片頭痛の重症化には、後藤先生の指摘されるように、「トリプ
タン製剤」の服用が関係しているのではないかとの指摘も存在します。
確かに、従来から、市販の鎮痛薬にしても、トリプタン製剤にしても、服用回数に関し
て注意するように言われて参りました。具体的には、月に 10 回以内に抑えるように言われ
てきました。ところが、患者さんによっては、発作回数が多くて、発作予防薬を服用する
にも関わらず、月に 10 回以上服用される方々もおられました。このような方々に対して、
「薬物乱用頭痛」になることを懸念して、トリプタン製剤は、月に 10 回までしか処方しな
いという先生もおられました。これに対して、トリプタン製剤が「効いているのであれば、
月に 10 回以上になっても仕方ないし、効いている薬を”薬物乱用頭痛”を恐れて処方しな
いのは”人道的に問題がある”のではないか」という考えをされる先生もおられます。
このように、片頭痛の慢性化の原因としての「薬物乱用頭痛」の関与は、現在では誰で
も異論はないはずです。このようにみれば、「薬物乱用頭痛」がどのような機序で起きてく
るのかという根本的な点の説明がなされていないことが最大の問題点と思われます。
具体的には、これらの薬剤が「化学的ストレス」となって「慢性的なセロトニン不足」
- 37 -
を来すものなのか、あるいは「ミトコンドリアの機能低下を引き起こし、活性酸素の増加」
を招来しやすくするものなのかという点です。
このような根本的な「発生機序」を抜きに考えている点が混乱のもとと思われます。
また、別の観点から検討を行う必要があると思われます。
それは、「片頭痛が進行性疾患である」と考えを改めるべきとされます。このような考え
方は、トリプタン製剤が出現前には存在しなかった考え方です。
トリプタン製剤が販売されてから、10 年以上経過しました。このような時代にあるわけ
ですから、そろそろ「トリプタン製剤出現」後の片頭痛の実態調査を行うべきです。
トリプタン製剤により、片頭痛患者さんが果たして恩恵を被っているのか、(短期的な薬
剤効果でなく、中長期的にみて、果たしてどうなのか、ということです)、さらに片頭痛の
予後にどのような影響があったのか、という「疫学調査」が必要とされます。
これなくしては、これまでの議論は何もないことになります。
これは、とりもなおさず、「ガイドライン」の正当性が問われることになります。
皆さんは、この点に関して、どのように思われるのでしょうか?
ここで、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生の「片頭痛慢性化」についての論説を頂
きました。以下、掲載させていただくことにします。
「片頭痛の慢性化」について
1、「有害物質」と「片頭痛の慢性化」
有害物質の片頭痛慢性化への影響は、次の二つに分けて考えています。
①、体内への蓄積性は少ないが、日々、毒性を“慢性的”にとり続けるもの
(有機リン系残留農薬、無機ヒ素など)
②、体内への蓄積性があり蓄積されていくことにより“慢性的”な毒性を生じるもの
(PCB、ダイオキシン類、カドミウム、有機水銀など)
- 38 -
①の有機リン系残留農薬(輸入小麦など)、無機ヒ素(玄米、ヒジキなど)とも、基本的に
は摂取をやめることにより障害の進行は収まるはずですが、細胞の新陳代謝の無い脳細胞
がダメージを受けると障害の影響が収束していくにはかなりの長時間が必要となるように
思っています。
有機リン系農薬はアセチルコリン分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を失活させ、
無機ヒ素はミトコンドリア ATP アーゼの SH 基と結合し酵素活性を失活させます。また、
ヒ素は ATP のリンの部分に置き換わることで ATP の機能を阻害するとも言われています。
有機リン農薬については、食品に含まれる残留農薬の影響以外に、樹木に散布される農
薬の曝露による影響もあるようです(著書「・・・真実」の38ページに関連記述がありま
す)。
特にエスキモー在住地区からの人達がニューヨークを集団見学した折、エスキモー人だ
けがバタバタと倒れた、その原因が数日前に街路樹に散布された有機リン系農薬であった
という逸話(事実?)があります。
パラオキソナーゼ活性の低い特定の子どもの脳過敏が日々の食パンやパスタであったと
いうことも全くありえないことではないように思います。
無機ヒ素の脳への影響は血液脳関門の未熟な幼児期までが顕著とされていますが、成人
に対する脳への影響については不確なことが多いように思います。
基本的に①の有害物質の毒性を回避するには、それらを摂取しないことがベストですが、
有機リン系残留農薬については国産小麦に変える(輸入品より残留農薬量が少ない可能性
が高い)ことや、ヒ素については次項の水銀やカドミウムなどと同様なデトックスが可能
と思われます。
②の有害物質はいずれも発がん性で問題となるものばかりです。ヒ素を含めダイオキシ
ン類、PCB、カドミウム、メチル水銀など発がん性物質は、発がんまでに至らなくともそ
れらによりダメージを受けた細胞の免疫系作用にともなう活性酸素が発生するため、慢性
的な「酸化ストレス」の原因の一つと考えています。
また、脳神経細胞への直接的な影響として次のように考えています。
- 39 -
・ダイオキシン類:
主に胎児期の曝露でドーパミンやドーパミン受容体結合部位が減少することや、胎児期
の曝露や授乳による曝露を受けた産仔が思春期になると縫線核のセロトニン産生細胞が著
しく減少していたとの動物実験結果があります。
このようなことが原因で成人になってから脳神経障害による疾患(片頭痛以外にも、う
つ病やパニック障害なども)を発症することもありうるのではないでしょうか。
成人になってからのダイオキシン類曝露の影響は小さいように思っています。
・メチル水銀:
メチル水銀はアセチルコリンの合成酵素(コリンアセチルトランスフェラーゼ)の SH 基
と結合し、アセチルコリンの合成を阻害します。
メチル水銀の生物学的半減期は70日程度ですがが、脳では7~20年といわれていま
す(「・・真実」の14ページ~18ページに関連記述があります)。メチル水銀は血液脳関
門を比較的容易に通過すること、および脳での蓄積性が高いことから、胎児・乳幼児の問
題だけでなく、成人に於いても現実的に多くの脳神経障害の一因になっていると考えてい
ます。
特に、日本人は欧米人に比較し魚介類の摂取量が多いことや、日本は火山帯が多いこと、
過去多量の有機水銀系農薬が使用されたことなどの影響もあるのかもしれません。
以前、重金属の脳神経系への有害性については、鉛(鉛水道管/水道水、自動車の燃焼排
ガス、化粧用白粉など)が私達にとって最も危険な重金属だったと思いますが、今日では
魚介類から摂取される水銀の影響が最も大きいように思います。
鉛、水銀、ヒ素、カドミウムなどの重金属は SH 基を含む酵素やタンパク質と結合しま
すので、ATP 酵素への影響以外にもさまざまな SH 基酵素代謝障害や細胞組織傷害を与え
ます。
デトックスに関しては、重金属類は硫黄との反応性が高いため、重金属を含む食品をと
る可能性が高い場合には、食事時にニンニク、ニラ、ネギ、たまねぎなど硫黄化合物を含
む食品を同時摂取することにより体内への吸収を抑制(排泄を促進)することが可能です。
- 40 -
またこれらの食品に含まれる硫黄化合物は血中の重金属とも反応し排泄が促進されます。
ご存知のように、重金属類についてはキレートにより排泄する医療法が一部で行われて
います。
・カドミウム:
カドミウムは非常に蓄積性の高い重金属ですので、多くの場合年をとってからの腎障害
や骨粗鬆症の真の原因となっていると考えています。
脳神経細胞への影響としては、カドミウムは血液脳関門を容易に移行しないとされてい
ますが、タンパク質分解酵素、タンパク質、イオンチャネルの亜鉛と置換し、ノルアドレ
ナリンやドーパミンの濃度を増加させ、神経伝達物質の産生に必要な酵素を傷害するとい
われています。
以上、有害物質の現実的な摂取量や性質などを考慮しますと、片頭痛の慢性化としてか
かわる可能性のあるものは、「パラオキソナーゼ活性の低い人達の有機リン系残留農薬の日
常的な摂取」と「メチル水銀の脳内蓄積による影響」ではないかと思います。
勿論、成人になってからの片頭痛発症原因として考えられるものは胎児・乳幼児期のダ
イオキシン類や無機ヒ素がかかわっているように思っています。
しかし、これらが片頭痛の直接的な引き金になっているというより、私達が目指してい
る片頭痛の治し方!に於いて、さほど効果の上がらなかった方たちの原因となっている程
度のことかもしれません?むしろ、これらの有害物質は「酸化ストレス」を高めることのよ
って、片頭痛にかかわっている部分が多いのかもしれません。
また、ダイオキシン類や PCB は体脂肪に蓄えられますので、授乳などが無い限り、あま
り効果的なデトックス方法は無いようです(授乳により母親は肌が綺麗になったり、アレ
ルギー疾患がよくなったが、子どもはひどい湿疹とアレルギー疾患というのにはいつも違
和感を持って聞いております)。
しかし、蓄積性のある有害物質はほとんどが脂溶性であり皮脂からは、わずかですが排
泄されますので、汗をかく運動やサウナ、入浴などは多少効果があるのかもしれません。
一旦排泄された有害物質は3時間後には皮脂が元の有害物質を含む状態に戻るとのことか
- 41 -
ら、3時間おきに発汗すると効果的といわれています(事実関係は??ですが)。
また、断食などで絶食すると体脂肪に溶け込んでいる有害物質が血中に流入し、有害物
質障害を起こすことがあるといわれています(断食でダイオキシン類が解毒・代謝されるこ
とはありません)。
なお、デトックスに関しては食品からの有害物質、医療用薬、飲酒などの解毒代謝負荷
を軽減することも重要と考えますが、それら以上に腸内細菌からのアンモニアや硫化水素
などの内因性有害物質をいかに抑制するかということが重要と考えています。
腸内細菌の乱れが遺伝的な体質ということであったり、慢性化の原因である、とされる
ことが多いよう思っています。
先日も記述しましたが、デトックスの最重要項目は、
「腸内細菌の健全化」だと思います。
2、「薬物乱用頭痛」と「片頭痛の慢性化」
・トリプタン:
トリプタン製剤は5- HT 1 B、1 D に作用するホルモンと考えると、投与量の量的な
間違いが無い限り、あまり慢性化への影響は無いのかもしれません(血中トリプタン高濃度
でセロトニン受容体の抵抗性が増す!という報告書を見つけたかったのですが私の調べた
範囲では見つけることができませんでした。ホルモン系ではそういった実験結果が多いよ
うに思いましたので。しつこく調べてみる必要があるかもしれませんが!?)。
現在、トリプタン製剤は適量を、少ない頻度で服薬した場合には、片頭痛の慢性化はし
ないのではないかと思っています。
ただし、服薬頻度が高くなれば半減期が比較的短いとは言え、平常時のトリプタンの血
中濃度は上がることになりますので、(セロトニン+トリプタン)濃度変化は起きやすくな
ると考えられます。
閉経とともにセロトニンの濃度変化が小さくなるのとは逆に、トリプタンを連続的に服
薬すればするほど、平常時の(セロトニン+トリプタン)濃度は高く、セロトニン濃度変
化を大きくしたと同様な作用を引き起こすと考えてみました。
結局、安易にトリプタンを服薬すればするほど血中の(セロトニン+トリプトファン)濃
- 42 -
度は上がっていき、片頭痛を起こしやすくなる。そのため、さらにトリプタンが必要にな
るという悪循環に陥っているのではないかと今のところ考えています。
・抗てんかん薬:
片頭痛患者への安易な抗てんかん薬の投薬には非常に疑問に思っています。先日、東京
での友の会の席上、担当医師が変わったため、デパケンを服薬できなくなった片頭痛男子
の母親に対し、その友の会での講演者でもある頭痛専門医が「デパケンを飲ませないと将来
てんかんになるぞ!」と叱責し、「その医師をすぐに変えろ!」と叫んでいました。
私は必要に応じてのてんかん予防のための服薬は必要とは思っていますが、てんかんを
起こしたことの無い少年にまで、「脳過敏症候群」と称して抗てんかん薬を常用させるのは
如何なものかと思います。
少年期からてんかん薬を常用すると生涯離脱症状の危惧で抗てんかん薬から離脱できな
いことになってしまうのではないかと考えているためです。
抗てんかん薬の慢性化に関する薬理的なメカニズムは承知していないのですが、デパケ
ンの血中濃度を高めに維持することにより薬効を得ることは理解しています。麻薬にも似
たところがあるのかもしれません?
なお、デパケンが GABA の合成酵素を失活させ GABA 濃度を高めること、およびカル
シウム&ナトリウムチャネルに作用することは承知しています。
カルシウム&ナトリウムチャネルへの働きについては、先日マグネシウムイオンの重要
性で記述したとおりです。
一方、GABA はグルタミン酸からビタミン B6 や亜鉛を補酵素として合成されますが、
このときマグネシウムが充分にないとこの補酵素は活性化されません。また脳細胞膜を安
定化し、浸透圧の調整(カルシウムの細胞内の取り込みすぎを防ぐ)してるタウリンもマグ
ネシウムとビタミン B6 によりアミノ酸から合成されます(ご存知のことをしつこく記述し
ていると思いますが、文脈の関係上お許しください)。
このようなことから、明らかにマグネシウムの欠乏的症状である脳過敏症に対して、マ
グネシウムの重要性すら全く考慮することもなく、デパケン!デパケン!と叫ぶ、「この頭
痛専門医」に狂気さえ感じました。いずれにしろ、「脳過敏症候群」なるもののほとんどは、
- 43 -
マグネシウムの適正な摂取により、改善されると信じています。
著書80ページの女性(実年齢57歳)の方は、ほぼ毎日(トリプタンは20回/月程度)
服薬されていましたが、以下だけで、一ヵ月後には5回程度まで改善されました。
①生活リズムを正す、寝る時間、起きる時間を1時間以上狂わせない。昼寝は30分以内、
②朝は万能健康ジュースだけ
③精製加工植物油はとらない(シソ油、エキストラバージンオイルだけ可)
その後、「ラブレクラウト」とマグネシウムをとるようになって、3ヵ月後以降はほとん
ど片頭痛薬が必要のない「普通の日常」ができるようになりました(今日でも、大きな出来事
があり、ストレスや生活のリズムが乱れると薬が必要となることはあるようですが)。
この方は片頭痛発症の前には必ず肩の凝りを生じますので、今はストレートネックとの
関連で解決策があればほぼ完治するのではないかと思っています。
ということは、この方は機能的に慢性化するほどの強いダメージを受けていなかったと
考えることも出来、嘔吐など発作の恐怖からただ単に薬を飲み続けることによって、片頭
痛をおきやすい状態になり、そのためにさらに薬を飲むといった悪循環に陥っていたこと
に大きな原因があったようにも思えます。
いざという時には適正な服薬ができるという安心感の下で、日常の食習慣や生活習慣を
正し、精神的・物理的ストレスを排除することによって片頭痛は治る!のではないかと信
じています。
ただ単に、薬の飲みすぎが片頭痛をより改善困難な病気にしていると信じています。
でも、私達にとっても、まだ一つだけ気がついていないことがあるような気はしていま
すが。
- 44 -