Measurement of Branching Fraction and Time-dependent CP

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Title
Measurement of Branching Fraction and Time−dependent CP Asymmetry
Parameters in B0→K0π0 Decays : Abstract of the Dissertation and the
Summary of the Examination Results
Author(s)
藤川, 美幸希; 林井, 久樹; 野口, 誠之; 宮林, 謙吉; 寺尾, 治彦; 羽澄, 昌
史
Citation
博士学位論文 内容の要旨及び審査の結果の要旨, Vol.26, pp.155-160
Issue Date
2009-08
Description
博士(理学),博課第422号,平成21年3月24日授与
URL
http://hdl.handle.net/10935/1158
Textversion
publisher
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氏名(本籍)
藤川美幸希
学位の種類
学位記番号
博士(理学)
学位授与年月日
平成21年3月24日
学位規則第4条第1項該当
学位授与の要件
(滋賀県)
博嘉応422号
人間文化研究科
論 文 題 目
Measurement of Branching Fraction and Time−dependent
OP Asymmetry Parameters in B O一>K O z O Decays
(BO→KOπo崩壊における崩壊分岐比と時間に依存する
CP非対称パラメタの測定)
論文審査委員
(委員長)教授 林井久樹 教授 野口 誠之
准教授宮林謙吉 教授 寺尾治彦
教授 羽澄昌史
(高エネルギー加速器研究機構)
論文内容の要旨
本学位論文は、中性B中間子(BO)が中性K中間子(KO)と中性パイ中間子(πo)に崩壊する
反応(BO→KOπo)の崩壊分岐比と崩壊率の時間依存性を測定した研究論文である。後者の崩壊率
の時間依存性の研究では、BO中間子からKOπoに崩壊する場合と反BO中間子からKOπoに崩壊する
場合とを地甚し、その時間依存性の違いから粒子・反粒子対称性の破れ(以下CP対称性の破れと呼
ぶ)の大きさを表す2個のパラメタの値を測定している。
中性B中間子の崩壊におけるCP対称性の破れの研究は、2008年にノーベル物理学賞を受賞した小
林・益川理論を実験的に検証する上でもっとも適した反応として、高エネルギー加速器研究機構(K
EK)のBファクトリー実験(ベル実験)でここ10数年に渡って取り組んで来た課題である。小林・
益川理論の正しさはbクォークから。クォークへの遷移反応(以下b→c遷移と呼ぶ)であるBO→
J/ψKs反応等の研究によってBelle実験と米国スタンフォード線形加速器センターの実験(Babar
実験)によって2003年頃までに独立に確認された。本研究のテーマであるBO→KOπo崩壊はbクォー
クからsクォークへの遷移反応(以下b→s遷移と呼ぶ)であり、b→c遷移に比べて、崩壊過程に
ペンギン図と呼ばれる新たな寄与が加わることにより、より複雑な反応となっている。このことから、
逆に、小林・益川理論に含まれない別の起源によるCP非対称性を探るのに適した過程であるとして
注目されている大変興味深い過程である。
論文は本論文7章と付録から構成されている。
第1章「序論」では、本研究の背景となる事項、宇宙における粒子・反粒子非対称性とCP非対称
性の関連性から始まり、素粒子の標準理論および標準理論の枠内でCP対称性の破れを説明する小林・
益川理論の概要が説明されている。また、BO中間子は「混合」という現象によって反Bo中間子に時
間とともに変化する性質を持つこと、BO中間子系では、2種類の異なった種類のCP対称性の破れ、
「BL反BO混合によるCPの破れ」とB中間子の崩壊振幅中の「直接的なCPの破れ」が可能であ
ること、前者の混合によるCP対称性の破れを測定するためには、 BO(反BO)中間子の崩壊を時間
の関数として測定することが重要であることが理論式と共に丁寧に説明されている。さらに、近年
BO→K+π一崩壊とB+→K+πo崩壊において、 B中間子系で始めて直接的CPの破れが観測されたこ
と、その過程が今回のテーマであるBO→KOπo崩壊とアイソスピン保存則で密接に結びついている
ことから、BO→KOπo過程の直接的なCPの破れの測定が標準理論を越える物理の探求の上で非常
に重要であることが説明されている。
第2章「実験装置」では、現在、世界最高のビーム強度を誇っている高エネルギー加速器研究機構
(KEK)の電子・陽電子衝突型加速器(KEKB)とそこに設置された大型汎用素粒子検出装置で
あるベル測定器の概要が説明されている。特に、本実験で重要となる粒子の崩壊位置を高精度で決定
する飛跡検出器、πoの再構成に重要となる光子検出器および粒子識別装置の構成と性能が詳しく議
論されている。
第3章「事象選別」では、ベル測定器で収集したデータから目標とする崩壊過程を如何に抜き出す
かについて、その詳細が記述されている。目標とするBO→KOπo反応の崩壊分岐比は10−6のレベル
である。これは、100万個の事象の中から1個の事象を探し出すことを意味している。そのために用
いた背景事象の抑制方法、粒子識別の方法、運動力学的な制約条件が説明され、その結果、最終的に
如何に高い信号対ノイズ比で信号事象が得られたかについて記述されている。
第4章「崩壊分岐比の測定」では、2008年までにベル実験で収集された全データを用いたBO→KO
πo過程の崩壊分岐比の測定について議論されている。崩壊分岐比を求めるのには、もとのBO生成事
象数の決定、事象の検出効率、背景事象数および信号数を精度よく求めることが重要となる。そのた
めに、性質のよく分かっている反応を用いた検出効率や背景事象の系統的な評価が重要であり、論文
ではその方法とその誤差について詳細に記述されている。観測されたBO→K:sπo信号数は634事象で、
得られた崩壊分岐はBr(Bo→Koπo)=(8.71+/一〇.50(統計誤差)+/一〇.43(系統誤差)であっ
た。この結果は現在もっとも高い精度の測定の一つである。なお、ここでK:sとはKO中間子の寿命
の固有状態の一つで寿命の短い方の中間子を意味している。
第5章「CP非対称度の測定」では、 BO→KOπo事象のCP非対称パラメタの測定について詳し
恒
く説明されている。実験的にCP非対称度を測定するためには、 BOがKsπoに崩壊した位置の決定
とそのB中間子がBOか反BOであるかを識別することが重要である。前者、崩壊点の決定はKsの崩
壊点とその飛行方向から外挿してBOの崩壊点を決める方法が取られた。後者、’BOか反Bを区別する
ために、本実験では、e++e『→T(4s)→BO+反BO反応で生成されたB。対が量子力学的なコ
ヒーレント状態にあり、ある時刻で一方のB中間子がBeであるか反B。であるか分かれば、同時刻に
他方のBの状態が決まるという量子力学の巧妙な原理(EPRパラドックスと呼ばれている)が用い
られている。測定された崩壊幅の時間依存性から、検出器固有の時間分解能や背景事象の効果を考慮
して、最終的に得られたCP非対称度の結果は
Scp=+0.67+/一〇.31(統計誤差)+/一〇.08(系統誤差)、
Acp= 0.14+/一〇.13(統計誤差)+/一〇.06(系統誤差)
である。ここでScpはBo・反Bo混合によるCP非対称度でAcpはB中間子の崩壊過程に存在する
直接的なCP非対称度である。
第6章「結果の議論」では、得られた崩壊分岐比とCP非対称パラメタの結果について議論されて
いる。以上の測定は、我々と米国スタンフォード線形加速器センターの同様なBファクトリー実験
(Babar実験)でのみ測定可能であり、両者の測定精度はほぼ同じレベルである。ただ、直接的CP
非対称度Acpの結果は誤差内ではあるが両者に少し差がみられる。今回の研究で明らかになった重
要な点は以下の2点である。一つは、以前の実験で見られていたb→c遷移とb→s遷移におけるC
P非対称度Scpの値の差が、今回の測定により縮まりよく一致するようになったこと。もう一つは、
BO→:K+pi一、 B+→:K+πo崩壊で観測されている直接的。.P非対称度の大きさから標準理論を仮定し
て予想されるBO→:KOπ。モードのCP非対称性度と観測値された非対称度Acpとの間には、標準偏
差にして1.9σの差がみられるということである。これらの興味深い結果の精度をさらに向上するた
あには、今後、より高い統計のデータによる研究が重要であると結論している。
第7章「まとめ」では、本論文全体の総括が述べられている。
付録では、解析では重要であるがよりテクニカルな事項、A)最尤法によるフィットの方法、 B)
BO中間子と反BO中間子の区別の方法、 C)時間差分布の分解能を決ある要因、 D)モンテカルロ法
による系統誤差の詳細、E)BO→KLπo反応の解析結果について説明されている。
論文審査の結果の要旨
本学位論文は、中性B中間子(BO)が中性K中間子(KO)と中性パイ中間子(πo)に崩壊する
反応(BO→KOπo)の崩壊分岐比と崩壊率の時間依存性を測定した研究論文である。後者の崩壊率
の時間依存性の研究では、BO中間子からKOπoに崩壊する場合と反B。中間子からKOπoに崩壊する
場合とを比較し、その時間依存性の違いから粒子・反粒子対称性の破れ(以下CP対称性の破れと呼
ぶ)の大きさを表す2個のパラメタの値を測定している。
中性B中間子の崩壊におけるCP対称性の破れの研究は、2008年にノーベル物理学賞を受賞した小
林・益川理論を実験的に検証する上でもっとも適した反応として、高エネルギー加速器研究機構(K
EK)のBファクトリー実験(ベル実験)でここ10数年に渡って取り組んで来た課題である。小林・
益川理論の正しさはbクォークから。クォークへの遷移反応(以下b→c遷移と呼ぶ)であるBO→
J/ψ:Ks反応等の研究によってベル実験と米国スタンフォード線形加速器センターの実験(Babar
実験)によって2003年頃までに独立に検証された。本研究のテーマであるBO→KOπo崩壊はbクォー
クからsクォークへの遷移反応(以下b→s遷移と呼ぶ)であり、b→c遷移に比べて、崩壊過程に
ペンギン図と呼ばれる新たな寄与が加わりより複雑な反応となっている。このことから、逆に、小林・
益川理論に含まれない別の起源によるCP対称性の破れを探るのに適した過程であるとして注目され
ている興味深い過程である。
第1章「序論」では、本研究の背景となる事項が説明されている。まず、宇宙における粒子・反粒
子非対称性とCP非対称性の関連性から始まり、素粒子の標準理論および標準理論の枠内でCP対称
性の破れを説明する小林・益川理論の概要が簡潔に説明されている。次に、BO中面子は混合という
現象によって反BO中間子に時間とともに変化する性質を持つこと、 BD中間子系では、2種類の異なっ
た種類のCP対称性の破れ、すなわち、「BL反BO混合によるCPの破れ」と「直接的CPの破れ」
が可能であること、前者の混合によるCP対称性の破れを測定するためには、 BO(反BO)中間子の
崩壊を時間の関数として測定する事が重要であること等、実験の背景として不可欠な事項が理論式と
共に丁寧に説明されている。さらに、近年BO→K+π一崩壊とB+→K+πo崩壊において、 B中間子系
で始めて直接的CPの破れが観測されたこと、その過程が今回のテーマであるBD→KOπo崩壊とア
イソスピン保存則等で密接に結びついていることから、BO→KOπo過程の直接的CPの破れの測定
が標準理論を越える物理の探求の上で非常に重要であることが指摘されている。
第2章「実験装置」では、現在、世界最高のビーム強度を誇っている高エネルギー加速器研究機構
(KEK)の電子・陽電子衝突型加速器(KEKB)と大型汎用素粒子検出装置(ベル測定器)の概
恒
要が説明されている。特に本実験で重要となる粒子の崩壊位置を高精度で決定する飛跡検出器、π。
の再構成に重要となる光子検出器および粒子識別装置の構成と性能が詳しく議論されている。
第3章「事象選別」では、ベル測定器で収集したデータから目標とする崩壊を如何にして抜き出す
かについてその詳細が記述されている。目標とするBO→KOπo反応の崩壊分岐比は10−6のレベルで
ある。これは、100万個の事象の中から1個の事象を探し出すことを意味している。そのたあに用い
た背景事象の抑制方法、粒子識別の方法、運動力学的な制約条件が説明され、その結果、最終的に如
何に高い信号対ノイズ比で信号事象が得られたかについて記述されている。
第4章「崩壊分岐比の測定」では、2008年までにベル実験で収集された全データを用いたBO→K。
πo過程の崩壊分岐比の測定結果について議論されている。崩壊分岐比を求めるには、最初に生成さ
れたBOの個数の決定、事象の検出効率、背景事象数および信号数を精度よく求めることが重要とな
る。そのために、性質のよく分かっている反応を用いた検出効率や背景事象の系統的な評価が重要で
あり、論文ではその方法について詳細に記述されている。観測されたBO→Ksπo信号数は634事象で、
得られた崩壊分岐比は
Br(Bo→Koπo)=(8.71+/一〇.50(統計誤差)+/一〇.43(系統誤差)
であった。この値は現在もっとも精度の高い測定の一つである。なお、ここでKsとはKO中間子の
質量・寿命の固有状態の一つで寿命の短い方の中間子を意味している。
第5章「CP非対称性の測定」では、B。→KOπo事象のCP非対称パラメタの測定について議論
されている。CP非対称度の測定には、 BoがKsπoに崩壊した位置の決定とe++e一→T(4s)
→BO+反BO反応で同時に生成されているもう一つの(反)BO中間子の崩壊点、およびそれがBOで
あるか反BOであるかの決定が重要である。前者、崩壊点の決定はKsの崩壊点とその飛行方向から
外挿してBOの崩壊点を決める方法が取られた。後者、 BOか反Bを区別するために、本実験では、
e++e一→T(4s)→BO+反BO反応で生成された中性B中間子対が量子力学的なコヒーレント状
態にあり、ある時刻で」方のB中間子がBOであるか反B。であるか決まれば、同時刻に他方のBの状
態が決まるという量子力学の巧妙な原理(EPRパラドックスと呼ばれている)が用いられている。
測定された崩壊率の時間依存性から、検出器固有の時間分解能や背景事象の効果を考慮して、最終的
に得られたCP非対称度の結果は
Scp=+0.67+/一〇.31(統計誤差)+/一〇.08(系統誤差)、
Acp= 0.14+/一〇.13(統計誤差)+/一〇.06(系統誤差)
である。ここでScpはBo・反Bo混合によるCP非対称度でAcpはB中間子の崩壊過程に存在する
CP非対称度(直接的CP非対称度)である。
第6章「結果の議論」で議論されているように、以上の測定は、我々と米国スタンフォード線形加
速器センターの同様なBファクトリー実験(Babar実験)でのみ測定可能である。両者の測定精度
はほぼ同じレベルであり、崩壊分岐比と混合によるCP非対称度Scpの両者の値は誤差の範囲内で
よく一致している。一方、直接的CP非対称度Acpの結果は誤差の範囲内ではあるが両者に少し差が
みられる。今回の研究で明らかになった重要な点は以下の2点である。一つは、以前の実験で見られ
ていたb→c遷移とb→s遷移におけるCP非対称度Scpの値の差が、今回の測定により縮まり、両
者がよく一致するようになったことである。もう一つは、BO→K+π一,B+→K+πo崩壊で観測され
ている直接的CP非対称度の大きさから標準理論を仮定して予想されるBO→KOπoモードのCP非
対称性度と観測値された非対称度Acpとの間には、標準偏差にして1.9σの差がみられるということ
である。これらの研究結果は非常に興味深く、B中間子系のCP対称性の破れの現象の包括的な理解
に向けて非常に重要な研究であると考えられる。また、結果は今後さらにデータ量を増加し、より高
い統計での研究が重要であることを強く示唆している。
以上、本論文でなされた研究は、素粒子物理学に新しい知見を加える研究であり、高く評価される。
また、本研究の内容は、2008年8月に米国フィラデルフィアで開催された「高エネルギー国際会議」
や9月にローマで開催された「国際CKMとユニタリティートライアングルに関する国際研究集会」
および日本物理学会で発表され、国際的に高い評価を受けている。本論文の成果は、国際誌岱掲載す
る論文としてほぼ執筆が完了し、現在、学術論文の最終稿をベル実験グループ内で検討中である。
よって、本学位論文は、奈良女子大学博士(理学)の学位を授与されるに十分な内容を有している
と判断した。
恒