3A17 自重補償多関節型 Float Arm の研究: シングルプーリを用いた Float Arm VI の開発 広瀬 茂男 大西 正志 ○河上 篤史(東工大)Claudio Semini(スイス工科大) Float Arm VI: Wire-Driven Weight Compensation Mechanism with Single Pulleys Shigeo Hirose, Masashi Onishi, *Atsushi Kawakami, Tokyo Tech., Claudio Semini, ETH. Abstract - In this paper, the wire-driven weight-compensation mechanism is proposed. This mechanism is made by constructing a robot arm by parallelogram link mechanism, extending one link of its parallelogram link mechanism, attaching a pulley with free-rotation at the terminus of it, twisting wire round a pulley, and applying tension. Changing the extending length of each links, it provides proper compensation torque. Moreover, a new torque limitation mechanism by using the friction of O-rings is proposed. The performances of Float Arm VI with these new mechanisms are also given. Key Words: Weight-Compensation Mechanism, Hyper-Redundant Manipulator, pulley, wire 1. はじめに 自由度の高い多関節アームは障害物のある狭い 環境で有効である。しかしリンク節数が増加するに 従い、アームの重量増加によって根元節でのアクチ ュエータ負荷トルクが増大し、それがアクチュエー タ大型化の原因となりさらに重量が増加するとい う設計上の悪循環が起きる。この問題を解決するた めに、アクチュエータを根元節に集中させる[1][2]、 自重補償機構を設ける[3][4][5][6][7][8]といった設計法が 提唱されてきた。 当研究室ではすでに、ワイヤと二重プーリを用い た自重補償多関節ロボットアームFloat Arm V(Fig.1) を開発している[7][8]。Float Arm Vは、ワイヤ張力を アーム各関節に二重プーリを介して変化させなが ら伝達し、姿勢によらず自重補償力を一定に発生で きる軽量な多関節ロボットアームである。 本論文ではFloat Arm Vを実用機に近づけるべく さらに改良し、ワイヤとシングルプーリによる自重 補償機構を採用した新しい多関節ロボットアーム Float Arm VIを開発する。 Fig.1 Float Arm V 2. 自重補償機構 2.1 パラレルリンク機構 自重補償機構を実現するために、Float Arm V はパ ラレルリンク機構を採用している(Fig.2)。シリアル リンク機構では根元節で必要な自重補償力 Ps が先 端節の姿勢の影響を受けるのに対し、パラレルリン ク機構では、先端節の姿勢が変化してもその負荷ト ルク変動をパラレルリンク構造が吸収するため、必 要な自重補償力 Pp を一定にすることができる[5][7][8]。 2.2 ワイヤと二重プーリを用いた自重補償機構 Float Arm V ではこのパラレルリンク機構に加え、 ワイヤと二重プーリを用いた自重補償機構を有す る[7][8]。多自由度ロボットアームでは、根元節に近 づくにつれて必要な自重補償力が増大するが、各節 にバネを搭載して自重補償する場合(Fig.3 左)、自重 補償力の増大に対応するために根本節に近づくほ ど大きなバネが必要になり重量の増加を招く。 Fig.2 Serial Link Mechanism and Parallelogram Linkage mechanism Fig.3 Wire-driven weight compensation mechanism 第23回日本ロボット学会学術講演会(2005年9月15日~17日) Fig.6 Overview of the compact torque limiter Fig.4 Weight compensation mechanism with double pulley Fig.7 Compact torque limiter 2 n − 1 La Ln = W + Wa 2 FW とすることで適切な自重補償トルクを得ることが できる。Float Arm VI では本機構を採用し、機構の シンプル化とメンテナンス性の向上を目指す。 Fig.5 Weight compensation mechanism with single pulley ワイヤを用いた自重補償機構(Fig.3 右)ならば、カ ウンターウェイトの重量をワイヤ張力により各関 節に伝達するため、各節の重量増加を抑えることが できる。Float Arm V ではワイヤ張力をリンクアーム に伝えるプーリに直径の異なる二つのプーリを組 み合わせた二重プーリを用いており(Fig.4)、その直 径比 R1/R2 を適切に設計することより節ごとの張力 を変化させ、適切な自重補償力を発生できる。 しかし Float Arm V では、二重プーリによりワイヤ 系が複雑化しメンテナンス性の低下を招いていた。 2.3 シングルプーリを用いた張力変化機構 一方、二重プーリを使用せずシングルプーリを用 い、各リンクのピッチ軸から後端側プーリの回転中 心までの距離(レバー)のみを調節しても、各節に かかる自重補償トルクを変化させることができる と考えられる(Fig.5)。各節のレバー長さ L1 と L2 に着 目し、L2 > L1 となるようにすることで、ワイヤ張力 は同じままで根元節の自重補償トルクをより大き くすることができる。レバー長さの比を適切に設定 することで、各節の自重を支えるのに十分な自重補 償力を発生できる。多節化した場合も同様であり、 一般に n 節目のレバー長さ Ln を 3. トルクリミッタ機構 3.1 小型トルクリミッタ機構の原理 Float Armのような多自由度アームは、アームに外 力を受けた場合、各節アクチュエータに大きな負荷 トルクがかかる。設計荷重を越える過大な負荷トル クはアクチュエータを損傷するおそれがある。これ を防ぐためにアクチュエータ保護機構を搭載するこ とは非常に有用であるが、著しい重量増加は抑えな ければならない。そのため、小型軽量なトルクリミ ッタの開発が必要である。そこで我々は、Oリングを 摩擦体とする新しい小型軽量なトルクリミッタを開 発し、Float Arm VIの駆動機構に内蔵した(Fig.6)。 本トルクリミッタは、駆動するギヤをOリングで挟 み、それを駆動軸のフランジとワッシャの間で挟み 込んでダブルナットで締め付ける構造となっている。 限界トルクの設定はダブルナットの締め付けを変え てOリングの摩擦力を調整して行う。普段は駆動軸と ギヤの間ではOリングを介して動力伝達が可能であ るが、あらかじめ設定した限界トルクを超える負荷 トルクが駆動ギヤにかかると、駆動ギヤとOリングと の間で滑りが生じ、駆動軸にまで負荷トルクが伝達 されない仕組みとなっている。 本機構は出力ギヤ内部に組み込めるため、非常にコ ンパクトなトルクリミッタを実現できる(Fig.7左)。 3.2 特性実験 開発した小型トルクリミッタの特性確認実験を行 った(Fig.7右) 。摩擦体としてOリング以外に皿座金 などを用いた場合の実験も行った。 ナットの締め付け距離x[mm]と限界トルク[kg・cm] の関係をFig.8に示す。Oリングを用いた場合、設定ト ルクをナット締め付け距離により調整でき、特に設 定トルクをFloat Arm VIで使用するRCサーボモータ (三和電子機器(株)製「ERG-VX」)の最大出力トル ク(カタログ値で13[kg・cm])以下にしてモータを 保護できることがわかる。一方Oリング以外の摩擦体 を使用した場合、限界トルクに部品の取り付け位置 などの条件が大きく影響するため、本トルクリミッ タ用の摩擦体として不適当であることがわかった。 Fig.8 Characteristics of the compact torque limiter 4. Float Arm VI の開発 4.1 仕様 ワイヤとシングルプーリを用いた自重補償機構と モータの過負荷保護用トルクリミッタを用い、新し く自重補償多関節アームFloat Arm VIを製作した (Fig.9)。全体の仕様をFig.10上に、1節あたりのリン クの仕様をFig.10下に示す。 4.2 制御系 Float Arm VIでは、メインの制御をPCとマイコン (TITech SH2)で行い、各リンクに制御用マイコン (TITech SH2 Tiny)を1つずつ搭載する。TITech SH2 とTITech SH2 TinyはCANで接続され、指令を各リン クに一斉送信できる。将来的にTITech SH2 Tinyにタ ッチセンサー等を接続可能である。 4.3 自重補償力の検証実験 Float Arm VIの自重補償機構の性能確認を行った。 Float Arm VIのピッチ軸関節をフリーに回転できる ようセットし、ピッチ軸の角度を変化させ、アーム 姿勢を支える際に必要な関節トルクを測定した。そ の際、カウンターウェイトの重量を設計値20kgの周 辺で19.3kgから21.3kgまで0.5kgおきに変化させて実 験を行った。そのうち最もトルクが少なかった20.8kg の時の結果をFig.11に示す。自重補償力が作用して関 節トルクをほぼゼロに保っていることがわかる。し かし、関節トルクは角度に応じて微かにに変動して いる。これはリンクがピッチ軸周りに回転する際、 ワイヤの張られる向きが微小に変化するための影響 と考えられる。カウンターウェイトの重量が設計値 より重くなったことも同じ原因によると考えられる。 4.4 剛性の検証実験 Float Arm VI では設計時に配慮し、リンクのねじり 剛性・曲げ剛性を強化している。Float Arm V および VI のねじり剛性と曲げ剛性を測定し、比較した (Fig.12)。Float Arm V に比べ Float Arm VI のねじり剛 Fig.9 Float Arm VI Wire tension(theoretical) [kg] 60 Counter weight(theoretical) [kg] 20 Link1 lever length L1[mm] 7 Link2 lever ratio L2/L1 2.1 Link3 lever ratio L3/L1 3.3 Link length[mm] 450 Link width[mm] 87 Link height[mm] 100 Link weight[kg] 1.16 Gear ratio (pitch axle) 15.4 Gear ratio (yaw axle) 18.4 Range[deg] (pitch axle) -25~50 Range[deg] (yaw axle) -180~180 Fig.10 Spec of Float Arm VI 性・曲げ剛性が向上していることがわかる。 4.5 基礎動作実験 Float Arm VI を実際に駆動し、さまざまな姿勢をと らせる基礎動作実験を行った(Fig.13)。Float Arm VI は広い可動範囲内をスムーズに運動した。 5. 結論と今後の課題 多関節ロボットアームの自重補償機構に関して、リ ンク節ごとにシングルプーリを配置しそのレバー比 を変えて自重補償力を調整する新しい自重補償機構 を提案し、それを用いたFloat Arm VIを開発しその性 能を実験により確認した。またこれに搭載する小型 トルクリミッタも開発し性能を実験により確認した。 今後は本研究をベースに、近接センサーによる障害 物回避法の検討、本自重補償機構を応用した実用的 な作業支援アームの開発等を進めていく。 謝 Fig.11 Compensation torque of Float Arm VI 辞 本研究は文部科学省科学研究費(21 世紀 COE プログ ラム)を使用して行われました。 参 考 文 献 [1] S. Ma, S. Hirose, H. Yoshinada; “CT Arm-Ⅰ: Coupled Tendon Driven Manipulator Model Ⅰ-Design and Experiments”, Proc. IEEE Int.Conf. on Robotics and Automation, pp.2094-2100 , (1992). [2] Shugen Ma, Shigeo Hirose, Hiroshi Yoshinada; “Development of a hyper-redundant multijoint Manipulator for maintenance of nuclear reactors”, Journal of Advanced Robotics, Vol 9, No 3, pp.281-300 (1995). [3] Nathan Ulrich, Vijay Kumar, “Passive Mechanical Gravity Compensation For Robot Manipulators”, Proceedings IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp.1536-1541, April 1991. [4] Just L. Herder; ”Conception of balanced spring Mechanisms”, ASME Design Engineering Technical Conference 1998. [5] S. Hirose, R. Chu; “Development of a Lightweight Torque Limiting M-Drive Actuator for Hyper-Redundant Manipulator Float Arm”, ICRA 1999, pp.2831-2836. [6] 桑原裕之, 広瀬茂男, ”重力補償型多関節アームに関 する基本的考察”, 第 12 回日本ロボット学会学術講演 会予稿集, 3, pp1109-1110. [7] Shigeo HIROSE, Tomoyuki ISHII, Atsuo HAISHI, "Float Arm V: Hyper-Redundant Manipulator with Wire-Driven Weight Compensation Mechanism", Proceedings IEEE International Robotics and Automation, pp.368-373, ICRA 2003 in Taiwan. [8] 石井 智之, 葉石 敦生, 広瀬 茂男, “ワイヤー張 力による自重補償機構を備えた Float Arm V の性 能評価”, 第 8 回ロボティクスシンポジア予稿集, pp.216-221, 2003 年 3 月. Fig.12 Deformation characteristics of Float Arm Fig.13 Basic motion of Float Arm VI
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