焼酎残渣の高温高圧ガス化におけるタール閉塞対策

研究レポート
焼酎残渣の高温高圧ガス化における
タール閉塞対策
エネルギア総合研究所 再生可能エネルギー利用技術担当 和田 泰孝
尾山 圭二
1
まえがき
(1)含水性バイオマス
我が国の1次エネルギー供給量は原油換算で570
百万kL(2010年度)である。この約5%程度のバ
イオマス資源が国内で発生し,4分の3程度は有効
活用されているが,未利用分が1次エネルギーの約
1.3%,原油換算で7.4百万kLに相当する。図1に未
利用バイオマス資源を示す[1]。この約半分が食品廃
棄物・家畜排泄物・下水汚泥といった廃水=含水性
バイオマスである。これらは高い含水率ゆえに不燃
であり,利用可能程度まで脱水・乾燥処理するには
コストがかさむため,低コストな活用技術の開発が
求められている。写真1に研究に使用している含水
性バイオマス「麦焼酎の蒸留残渣」を示す。
超臨界水ガス化技術の概念を示す。水自身が反応物
なので脱水や乾燥が不要,熱回収により高いシステ
ム効率が望める,短時間で有機物を完全に分解可能,
[11]
‒
等の特徴から世界中で研究が進められている[5]
。
当担当は,国内の再生可能エネルギーの有効活用の
観点から研究を進めている。
図2 超臨界水ガス化技術の概念
図1 日本国内の未利用バイオマス賦存量
(3)本研究における課題
ガス化触媒である活性炭を原料に懸濁させた触媒
懸濁スラリーを用いることを提案し[12][13],主原料
として採卵鶏糞を用い1t−wet/dの高温高圧ガス化
パイロット試験装置による実証試験を行ってきた。
採卵鶏糞は灰分(無機固形物)を多く含んでおり,
二重管式熱交換器のジャケット側(内管と外管の間)
で閉塞が発生した[14]。灰分に対する有効な対策が
得られず,灰分の少ない焼酎残渣を原料として選
定し評価を行った[15]。しかし二重管式熱交換器の
チューブ側(内管)でタールによる閉塞が発生し試
験装置を停止している[16]。
今回タール閉塞対策の検討を行ったので結果[17]
について報告する。
2
写真1 麦焼酎の蒸留残渣
(2)超臨界水ガス化技術
高温高圧の超臨界水が持つ高い化学反応性を利用
すると,含水性バイオマス中の有機物を分解して清
浄化し,かつ,燃料ガスが製造できる[2]‒[4]。図2に
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高温高圧ガス化試験装置
図3に高温高圧ガス化パイロット試験装置のフ
ローを示す[18]。
ガス化原料は高圧ポンプで23.7MPaに昇圧され,
熱交換器・加熱器で600℃へ加熱されて超臨界状態
となる。ガス化反応器内で有機物の分解とガス化が
進行し1∼2分程度で完全にガス化する。気液分離器
で清浄化された廃水と燃料ガスが分離され,燃料は
ガスタンクに貯留され廃水は排出される。なお,燃
料ガスの主成分は水素・メタン・一酸化炭素・二酸
化炭素である。
エネルギア総研レビュー No.35
焼酎残渣の高温高圧ガス化におけるタール閉塞対策
表1 試験条件
項 目
Run(試番)
活性炭添加率
焼酎残渣固形分
活性炭/焼酎残渣
スラリ−流量
試験時間
反応器温度
反応器圧力
単 位
−
wt%−wet
wt%−wet
−
L/min
[h:m]
℃
MPa
活性炭の閉塞抑制効果確認試験
23-7 24-2 24-1 23-3 24-5
0
0.5
1.0
2.5
5.0
5.0
4.0
4.0
5.0
5.0
0
0.125 0.25
0.5
1.0
0.76
8:17 4:30 4:04 6:07 6:09
600
23.7
表2 ガス化原料(麦焼酎残渣)成分分析結果
図3 パイロット試験装置と二重管式熱交換器
3
試験内容および結果
二重管式熱交換器チューブ側のタール対策とし
て,
「ガス化反応触媒である活性炭添加によるター
ル生成反応の抑制」と「水洗によるタール洗浄」を
検討した。効果を確認するため,活性炭添加率を変
化させる「活性炭の閉塞抑制効果確認試験」および
水洗運転を行う「タール洗浄効果確認試験」の2種
類の試験を実施した。
(1)活性炭の閉塞抑制効果確認試験
活性炭添加率を0%,0.5%,1.0%,2.5%,5.0%
と変化させ,熱交換器チューブ側の圧力損失の推移
により効果を確認した。表1に試験条件を示す。
なお,表2に示す麦焼酎残渣の成分分析結果から,
試験に使用した麦焼酎残渣に大きな差異はないこと
を確認している。
図4が試験結果である。各試験条件の熱交換器
チューブ側の圧力損失を示しており活性炭濃度が高
いほど圧力損失の上昇が抑制されていることが分か
る。活性炭添加率2.5%および5.0%でタール閉塞の
抑制が可能と考えられる。
図5は熱交換器ジャケット側の結果である。灰分
や活性炭粗大化物による閉塞が懸念されたが,活性
炭添加率5.0%でも圧力損失の上昇は0.2MPa以下
で安定し,閉塞の兆候はなかった。
エネルギア総研レビュー No.35
項 目
単 位
C
H
N
S
P
CI
K
Ca
水分
灰分
HHV
真密度
wt%−dry
wt%−dry
wt%−dry
wt%−dry
wt%−dry
wt%−dry
wt%−dry
wt%−dry
wt%−wet
wt%−dry
MJ/kg−dry
kg/m3−dry
Run23-7
Run24-2
Run24-1
Run24-5
50.1
6.74
4.72
0.33
1.62
0.28
0.90
0.18
93.2
3.57
22.4
1,420
Run23-3
50.7
6.62
4.48
0.34
0.78
0.25
0.89
0.09
88.7
3.73
22.4
1,400
図4 活性炭の閉塞抑制効果確認試験結果
(熱交換器チューブ)
図5 活性炭の閉塞抑制効果確認試験結果
(熱交換器ジャケット)
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研究レポート
(2)タール洗浄効果確認試験
焼酎残渣を5.0%含むガス化原料を3時間ガス化運
転を行い,水に切り換え1時間装置内を水洗し,再
度切り換えてガス化原料を3時間通液ガス化する運
転パターンで試験を行った。熱交換器チューブ内の
タール洗浄効果は,試験中の圧力損失の推移で確認
した。試験条件を表3に示す。
表3 試験条件
項 目
単 位
タール洗浄効果確認試験
Run(試番)
−
24-3
活性炭添加率
wt%−wet
1.0
焼酎残渣固形分
wt%−wet
5.0
活性炭/焼酎残渣
−
0.2
スラリ−流量
L/mint
0.76
3hガス化→1h水洗→3hガス化
試験時間
[h:m]
反応器温度
℃
600
反応器圧力
MPa
23.7
表4 ガス化原料(麦焼酎残渣)成分分析結果
(3)24時間連続ガス化試験結果
これまでの試験結果から,タール閉塞対策として
適切な濃度の活性炭添加が有効であると判断した。本
技術の実用化には,大型装置で長時間安定的にガス化
処理を継続できることが不可欠である。そこで24時
間連続ガス化試験を行い上記対策の効果を確認した。
表5 試験条件
項 目
単 位
53.2
Run(試番)
−
wt%−wet
2.5
wt%−wet
5.0
項 目
単 位
Run24-4
C
wt%−dry
24時間連続ガス化試験
24-6
24-7
H
wt%−dry
6.89
活性炭添加率
N
wt%−dry
4.47
焼酎残渣固形分
S
wt%−dry
0.34
活性炭/焼酎残渣
−
0.5
P
wt%−dry
0.57
スラリ−流量
L/mint
0.76
CI
wt%−dry
0.21
K
wt%−dry
0.58
Ca
wt%−dry
0.06
水分
wt%−wet
87.0
灰分
wt%−dry
2.76
HHV
MJ/kg−dry
23.1
真密度
kg/m3-dry
1,420
なお表4に示す麦焼酎残渣の成分分析結果から,試
験に使用した麦焼酎残渣は他の試験の残渣と大きな差
異がないことを確認した。
図6にタール洗浄効果確認試験の結果を示す。残念
ながら水洗終了直後から圧力損失が上昇しており,洗
浄効果は確認できなかった。水洗終了直後,洗浄水に
より活性炭が希釈されガス化触媒の効果が低下して
タールが生成やすい状況となってタールが生成したと
推測する。なお本試験の活性炭添加率は1.0%と低濃
度のため,水洗前からタールが生成され機内に滞留し
ていたと考えられる。その上で洗浄中に活性炭が希釈
されるため,原料切替後にタールが更に生成して急速
に圧力損失が上昇したと考えられる。
Page 6
図6 タール洗浄効果確認試験結果
試験時間
[h:m]
反応器温度
℃
600
反応器圧力
MPa
23.7
17:48
7:07
活性炭の添加率は,実用化時のコストを考慮し,ガ
ス化原料である麦焼酎残渣固形分5.0%と同濃度 濃度
比=1/1(活性炭5.0%)ではなく,半分の濃度 濃度
比=1/2(2.5%)を選択した。試験条件を表5に示す。
なお表6に示す麦焼酎残渣の成分分析結果から,使用
した麦焼酎残渣は他の試験の残渣と大きな差異がない
ことを確認した。
図7に24時間ガス化運転試験結果を示す。
試験は2回行った。
Run24-6で は 約18時 間 の 連 続 運 転 に 成 功 し た。
チューブ側の圧力損失は12時間安定的に推移してい
る。それ以降,ゆっくりとした上昇が観察されたが
17時間後自然に回復している。残念ながら機器故障
により17時間48分で試験中断したが,24時間以上連
続運転が可能であると推察された。
しかしRun24-7では,5時間後に瞬時閉塞した。直
後に自然回復したが,除々に圧力損失が上昇したため
エネルギア総研レビュー No.35
焼酎残渣の高温高圧ガス化におけるタール閉塞対策
7時間後に試験を中断した。試験後の管内観察結果か
ら,タール閉塞と確認している。
表6 ガス化原料(麦焼酎残渣)成分分析結果
項 目
単 位
Run24-6
C
wt%−dry
51.0
Run24-7
49.9
H
wt%−dry
6.57
6.82
N
wt%−dry
4.91
5.04
S
wt%−dry
0.34
0.31
P
wt%−dry
0.66
0.90
CI
wt%−dry
0.22
0.22
K
wt%−dry
0.60
0.73
Ca
wt%−dry
0.07
0.11
水分
wt%−wet
87.2
87.9
灰分
wt%−dry
3.10
4.10
HHV
MJ/kg−dry
22.8
19.5
真密度
kg/m3-dry
1,420
1,420
(4)考 察
超臨界水ガス化反応において,炭水化物,脂質,
タンパク質,繊維質等の物質ごとで反応性に大きな
差異があることが報告されている。Run24-6はガ
ス化原料に二条麦焼酎残渣を,Run24-7は六条麦
焼酎残渣を使用した。元素分析は両者で差がなかっ
たが,物質の差異の影響を受けた可能性が考えられ
る。今後,栄養項目分析を行い確認する予定である。
また,添加する活性炭を増やす(例:麦焼酎残渣
固形分と同濃度とする。濃度比=1/1,活性炭添加
率5.0%)ことも今後検討する。
なおRun24-7試験後の管内を観察し,閉塞部の
タール滞留状態が確認できた。これを受け,タール
の滞留を防いで下流へ押し流す対策を検討した。対
策工事を計画し,すでに一部終了している。
4
ま と め
焼酎残渣は現在廃棄物処理されており,処理コス
トが高いため,本技術を実用化する際に事業採算性
が見込める。しかしながら実用化にあたっては,ター
ル閉塞等の課題解決と大型装置による長時間連続安
定運転の実現が必要不可欠である。その後は,実用
規模装置の実証試験や無人運転等を事業フィールド
にて検証する必要もある。
これらの課題は,公的補助金を活用しながら研究
テーマ「含水性バイオマスのエネルギー変換技術」
の中で解決に取り組んで行く。
エネルギア総研レビュー No.35
図7 24時間ガス化運転試験結果
謝 辞
麦焼酎残渣を提供して頂いた中国醸造株式会社の
関係者の方々に感謝の意を表します。
[参照資料]
1) 平成22年12月経済産業省資源エネルギー庁「再生可能
エネルギーの全量買取制度について」
2) Y. Matsumura et al.,Biomass and Bioenergy,
29,269-292(2005)
3) Y. Matsumura et al.,J. Jpn. Petrol. Inst.,56,
1-10(2013)
4) A. A. Peterson et al.,Energy Environ. Sci.,1,
32-65(2008)
5) D.C. Elliott et al., Ind. Eng. Chem. Res., 32,
1542-1548(1993)
,
6) A. Kruse et al.,J. Supercrit. Fluids,53,64-71
(2010)
7) M. J. Antal et al.,Ind. Eng. Chem. Res.,39,
4040-4053(2000)
8) M. Watanabe et al.,Biomass Bioenergy,22,
405-410(2002)
9) P. D’Jesús et al.,Ind. Eng. Chem. Res.,44,
9071-9077(2005)
10)S. R. A. Kersten et al.,Ind. Eng. Chem. Res.,45,
4169-4177(2006)
11)S. Stucki et al.,Energy Environ. Sci.,2,535-541
(2009)
12)X. Xu et al.,Ind. Eng. Chem. Res.,35,25222530(1996)
13)A. Nakamura et al.,J. Chem. Eng. Jpn.,41(5),
433-440(2008)
14)中村他,第20回日本エネルギー学会大会講演要旨集,
198-199(2011)
15) 尾山,エネルギア総研レビュー 第29号,2-6(2012)
16) 和田他,第21回日本エネルギー学会大会講演要旨集,
3-07-4(2011)
17) Y. Wada et al.,The EU BC&E 2013 Proceedings,
887-890(2013)
18) A. Nakamura et al.,J. Chem. Eng. Jpn.,41,
817‒828(2008)
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