研究力IRとしての、研究力指標と財務指標との関係についての分析と考察 ―中規模国立大学群を中心とした考察― 山口大学・大学研究推進機構・大学研究戦略部・URA室 シニアURA 田丸雅敏 はじめに: 大学改革が多くの国立大学に求められている。外部競争的資金獲得の大学間の競争や、基盤的な運営資金の漸減という環境の中で、研究投資と教育投資につい て各大学にはより難しい選択を求められている。そうした問題意識について何らかの示唆を得るために、自大学が属する中規模大学を中心に、大学の研究力指標と財務指標を 分析・考察した。本発表では、大学の事業規模を示す経常費用、研究の主体者である教員規模、大学が研究に使う研究経費、研究者に渡る総研究資金、その結果としての、 論文数を指標にした研究力との相互の関係について大学タイプ別の違いや中規模校の特徴について考察した。また、外部競争的資金との関係についても考察した。 大学別経常収益源比較 ステークホルダー としての国民・社会 資本金 運営費交付金 補助金 顧客 大学 知識・技術・資格 教育 50,000 その他 科研費 機関分 40,000 受託事業収益 (外部競争資金) 学界・産業界 地域・社会 診療経費 45.0% 43.3% 附属病 院収益 SHU IMA CHI ME ATA (百万円) 100,000 25,000 90,000 80000 y = 17.539x R² = 0.9403 70000 60000 50000 I AMA 40,000 20,000 KA UKO 10,000 0 V 人 0 1000 2000 3000 0 4000 大学の運営経費に占める運営費交付金は、教員数 と高い相関性があったが、特にRU9リーグについて は同規模の非RU9大学とは差が大きかった。 総研究経費(A)〈横〉と 研究経費(B)〈縦〉 両者には高い相関がある 自己努力率(B/A)%に差 TO 5,000 2,000 3,000 人 MA 経常費用〈横〉に対する 総研究資金比率〈縦〉 経常費用〈横〉と論文数〈縦〉 病院経費の有無で異なる。 II,III,IV,V大学群内の差が大きい 資金規模が大きい程論文数も多い V大学群で差が大きい YA 45% I V IV 0 1,000 IV 0 人 2,000 1,000 2,000 3,000 研究経費(自己持ち出し分)も 総研究資金同様の傾向があっ た。大学群内の大学間差が大 きくなる傾向があった。 教員数〈横〉と論文数〈縦〉 4,500 y = 7E-07x2 - 0.0296x 4,500 4,500 y = 0.2313x R² = 0.724 2.50 4,000 15.0% BE 43% III 10.0% II 0 0.0% 百万円 0 10,000 20,000 30,000 総研究資金に占める研究 経費(自己持ち出し分)に 差(直線の上側/下側)があ った。 50,000 両者には高い相関性がある 25,000 2,500 2,000 15,000 50,000 両者には相関がある、獲得額 が大きい程研究経費の増加 率は低い 12,000 百万円 III V 0 IV y = 0.9891x + 453.76 R² = 0.9898 百万円 0 y = 0.0009x + 0.8625 R² = 0.9664 2.000 10,000 20,000 30,000 外部資金獲得額と総研究資金との は直線関係があり、外部資金®研 究資金だけでなく研究投資®外部 資金という関係が示唆された。 0.000 2,000 0 千円 0 y = -9E-06x2 + 0.6711x - 291.85 R² = 0.958 4,000 III 5,000 10,000 15,000 百万円 0 教員のパフォーマンスでは、総研究 資金Vs論文数の関係では大学間差 が大きかったが、外部資金獲得額に ついては、直線関係になった。 10,000 20,000 30,000 研究経費(自己持ち出し分)は 運営規模が大きい大学程少な 目になる傾向があった。 20,000 0.00 0.000 30,000 5,000 2,000 1,500 効 率 が 良 い 2.50 2.00 TA TO 1.50 BE 1.00 WA 1,000 0.50 百万円 0 10,000 20,000 30,000 外部資金®論文数、論文数 ®外部資金の関係が示唆 された。 2.50 15.000 百万円 YA 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 千円 0 5,000 10,000 15,000 教員のパフォーマンスを見る と大学間の差が大きかった。 文系比率や、業務教員数の 影響が示唆された。 YKO YA SKO IBA BA KA AMA MA BE WA TO TA KI SHU ATA ME CHI TE IMA GI y = 7.4231x + 0.3143 R² = 0.8877 0.00 0.0% 20.0% 50,000 100,000 大きい大学程、外部資 金獲得額が益々高くな る傾向があった。 TU UKO 効 率 が 良 い YKO y = 0.0002x + 0.2661 R² = 0.748 500 0 10.000 0 両者には直線関係 TU UKO SKO IBA BA KA AMA WAMA BE TA SHUTO KI ME TMA GI TE IMA CHI BA MA 5.000 III 0 千円 3.00 YA IBA AMA V 経常費用総研究資金比率〈横〉 と論文数/教員〈縦〉 3.00 y = 0.1915x + 288.56 R² = 0.9373 II 5,000 一人当たりのパフォーマンスで みると、大学間差が大きい。文 系比率や、業務教員数の差影 響が示唆された。 総研究資金と論文数(研究力) には直線関係があった。群内 の大学間差は大きかった。 大学間差が大きい、文系比率 や業務教員数に関係か? 2,500 IV 4.000 II 10,000 10,000 IV 百万円 0 外部資金と論文数には 相関性がある。 3,000 6,000 0 3,000 15,000 0.50 y = 0.1912x + 237.4 R² = 0.9573 外部資金/教員〈横〉と 論文数/教員〈縦〉 3,500 II IV I YA I AMA BA BE MA TO TA WA SHU SMA ME KI CHI ATA TE IMA GI 1.00 外部資金〈横〉と論文数〈縦〉 4,000 8,000 10,000 2,000 4,500 V I 1,000 教員数が多い大学程論文数 (研究力)が益々増える傾向 があった。群内の大学間差 は大きかった。 外部資金〈横〉と研究経費〈縦〉 6.000 5,000 人 0 10,000 8.000 500 IV 0 100,000 大学の事業規模が大きい程 論文数(研究力)が益々増え る傾向があった。群内の大学 間差は大きかった。 外部資金/教員〈横〉と 総研究資金/教員〈縦〉 千円 I 百万円 0 1,000 V III 500 IV 0 V>I>II>IV>IIIの差がある II V V KA 1.50 1,500 1,000 III 500 10.000 20,000 V 1,000 100,000 1,500 y = 5E-06x2 - 0.2275x + 5144.6 R² = 0.9425 20,000 UKO SKO IBA 2,000 12.000 百万円 2.00 2,500 研究経費(自己持ち出し分) も総研究資金同様の傾向が あった。大学群内の大学間 差は大きかった。 大学規模が大きい程 外部資金獲得額も大きい 25,000 TU YKO 3,000 I 100,000 百万円 I 3,500 2,000 大学の事業規模がほぼ同じ でも総研究資金の比率に違 いがあり研究への積極性に 違いがあった。 外部資金〈横〉と総研究資金〈縦〉 4,000 2,500 百万円 0 3,500 3,000 1,500 2 y = 0.4682x + 184.48 5.0% y = 5E-11x - 3E-06x + 0.1353 R² = 0.9732 R² = 0.9238 2,000 y = 0.0011x2 - 0.8517x + 881.77 R² = 0.9234 4,000 I II IBA 55% KI 59% + 985.75 R² = 0.9368 50,000 経常費用〈横〉と外部資金〈縦〉 大学群内の大学間差が大きい 3.00 百万円 0 100,000 総研究資金/教員〈横〉と 論文数/教員〈縦〉 総研究資金ほど論文数は多い II, IV,Vの大学群内の差は大きい 教員数が多い程論文数も多い II,,IV,V大学群内の差が大きい 50,000 大学の事業規模が大きい大学 程研究資金も益々多くなる傾向 があった。大学群内の大学間差 は大きかった。 総研究資金〈横〉と論文数〈縦〉 IV 0 百万円 0 II III V 2,000 IV 0 人 0 3,000 5,000 V III 2,000 V 5,000 3,000 IV 6,000 4,000 II III 5,000 3,500 20.0% I 6,000 10,000 II III y = 2E-06x2 - 0.0491x + 1694.5 R² = 0.949 I 15,000 5,000 4,000 V 25.0% BA 53% 8,000 百万円 10,000 8,000 II 10,000 研究経費(自己持ち出し分)も 同様 大学群内格差が大きい y = 4E-06x2 0.1702x + 4499.1 R² = 0.9394 百万円 20,000 百万円 30.0% 経常費用〈横〉と研究経費〈縦〉 12,000 25,000 4,000 II 総研究資金は教員数が多い 程、益々多くなる傾向があっ た。大学群ごとに大学間の差 が大きかった。 大学の事業規模(運営資金)は教員 数に比例するが、病院なし大学群と 病院あり大学群では、当然傾きが違 った。 35.0% 12,000 y = 0.0022x2 0.7817x + 1298.1 R² = 0.8826 I 0 1,000 大きい大学程研究資金大きい II,III,Vの大学群内で差がある 10,000 AKI IV AMA 0 実際に教員の研究に使われる総研究資金は科研費の直 接(簿外)と受託研究費以外に、大学財源からの研究経 費がある。研究経費については大学間差が大きい。 6,000 y = 42.807x R² = 0.9441 30,000 ME ATA 8,000 I 15,000 IBA 20000 SHU IMA CHI 経常費用〈横〉と総研究資金〈縦〉 10,000 II 30000 10000 MA WA TA TO KI III MESHU IMA ATA CHI 50,000 40000 20,000 BE 60,000 KI 研究経費(自己持ち出し分)も同 様大学群内格差が大きい 百万円 y = 0.0062x2 5.5613x + 4278.1 R² = 0.8982 YA BA 80,000 70,000 0 12,000 百万円 百万円 結局はこ の金額が 各大学 の政策に よって差 が出る。 運営費交付金 病院診療費 その他収入 教員数〈横〉と研究経費〈縦〉 教員数大きい大学程研究資金 大きい、II,III,Vの大学群内で差 教員数が大きい程 経常費用は大きい 研究者に 最終的に 渡る総研 究資金 研究 経費 補助金・寄付金 科研費 類簿外 (10,000) 教員数〈横〉と総研究資金〈縦〉 教員数〈横〉と経常費用〈縦〉 受託事業 研究経費 科研費(間接) 大学の経常収入(企業の売上高)は、診療収入・運営費交付金・学納金が三大収入です。 教員数・学生数・学部構成が類似の6大学を比較すると、収入規模や特に、診療収入・ 運営費交付金に差がある。費用では、人件費と診療経費が大半を占める。 大学には、教育・研究・社会貢献の3つの重要な役割がある。大学病院 のある大学では、教育・研究・診療という社会サービスの対価として、 学納金・診療収入・各種研究委託料や寄付金を得ている。 90000 30,000 研究経費 KI -10,000 教員数と運営交付金との相関性は高い (●RU9) 受託事業収益 (間接分) 受託研究 10,000 事業経費 0 運営費交付金額と教員数+大学ステータス? 受託事業収益 (直接分) 40,000 大学財源 10,000 運営交付金 総研究資金 簿外 簿内 50,000 教育経費 20,000 42.7% 学生納付金 研究成果・知的財産 人材(職業人、専門家) 競争的資金 科研費(直接分) 人件費 40.0% 20,000 患者 研究資金・寄付金 一般 管理費 45.9% 43.7% 寄付金 収益 病院・医療サービス 研究 その他 30,000 診療収入 大学病院 利益剰余金 経常利益 60,000 補助金 学生 大学別経常(科目別)費用比較(百万円) (百万円) 60,000 科研費 直接配分 学納金 国立大学における、研究資金の流れ 同規模病院あり中堅国立大学の収入(経常収益)と運営資金(経常費用)比較 国立大学における、商品・サービスと対価の交換 40.0% 総研究資金比率が高い程、教員 のパフォーマンスは高く、10%前 後の大学間差が大きかった。 計算条件 教員数、経常費用、研 究経費、総研究経費( 定義は図参照)、外部 資金獲得額(定義は図 参照)は、平成23,24年 の値の平均値を用いた 。財務データーは各大 学の財務諸表から、教 員数は、大学四季報記 載数とした。同規模大 学、収益・経費グラフの 6大学は平成23年単年 の数字、運営費交付金 額は平成23年。論文数 は会計年の翌年の平 成24,25年の値を SCOPUS から各機関 毎に検索し平均した。 大学カテゴリー I 旧制大学を母体と した病院あり大規 模総合大学 II 旧制医科大を母体 とした地域総合大学 III 病院ありの地方総 合大学 IV 病院なしの地方総 合大学 V 理工系単科大学 まとめ ① 大学の運営資金規模(経常費用)やその中で多くを占める運営費交付金は教員数を反映していた。 ② 教員に渡る総研究資金や研究経費は、大大学(資金、教員数)程益々多い金額になっていた。®資金力格差の広がり? ③ 大学事業規模(経常費用)に対する総研究資金比率は病院「あり」と「なし」ではベースが異なるが、規模が同じでも大学に よって異なった。また、総研究資金に占める自己持ち出し分(研究経費)の割合(持ち出し率)も異なり、大学によって研究 投資の積極性に差があった。 ®研究投資への大学差 ④ 研究力の指標である論文数は、運営資金規模(経常費用)、教員数、総研究資金が多い程多くなった。つまり、機関として総 力戦では、ヒトとカネのスケールメリットが大きいといえる。一方教員一人当たりのパフォーマンスの考察では、大学間差が 大きく、大学によって文系比率や業務教員数が異なることが示唆された。 ®研究力総力戦はヒトとカネ ⑤ もう一方の研究力指標でもある外部資金獲得額については、やはり、大学規模が大きい程多かった。また、外部資金は 大学の総研究資金や研究経費の原資でもあり高い相関性があった。外部資金と論文数には直線関係の相関があり資金 が多い程論文数は多く、また論文数が多い程外部資金は多い相補的な関係が示唆された。 ®外部資金獲得は研究力の原資でもあり、大学の研究投資リターンでもある ⑥ 全体として、II,IIIの中規模の病院あり大学群や、IV,Vの大学群では研究資金の確保に積極的な大学が見られた。 ®中規模や小規模程、大学間で研究投資への積極性の差が大きい 資金面から機関として研究力向上法 運営経費の中から工面して出来るだけ 総研究資金を増やしましょう。 経常費用に占める総研究資金を見直 しましょう。(特に、ベンチマーク大学と の比較点検を行いましょう。 外部資金の増減に関係なく、総研究資金 の水準を維持するために、自己持ち出し の研究経費を柔軟に考えましょう。 外部資金・総研究資金・論文数には相互 に高い相関性があり、研究投資は外部 資金獲得に必須であることを理解しまし しょう。
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