症例検討 ステロイド外用剤の混合について

症例検討 ステロイド外用剤の混合について
H26.1 金町店
保湿剤とステロイド外用剤の混合は、コンプライアンス向上の目的や混合による相乗効果を期待して
行われることがある。
副作用の軽減を目的として混合を指示する場合もあるが、皮膚外用剤は一般的に吸収を高めるために
基剤中に薬物を最大限まで溶かすことにより飽和しているため、大部分の薬物が基剤中に結晶で存在し
ている。そのため、数倍に希釈しても基剤中に溶けている薬物濃度はほとんど影響されないといわれて
いる。実際、アンテベート軟膏は表示されている濃度の 500μg/g の約 1/16 である 30μg/g しか基剤に
溶けていない。そのため、2 倍や 3 倍に希釈しても理論上その基剤中の濃度は変わらないと考えられる。
つまり、希釈してもステロイドの強さは変わらず、場合によっては透過性の変化により効果が増大し
てしまう可能性もあるので注意が必要となる。
コンプライアンス向上の目的で混合する場合にも、混合による安定性の変化や変質・分離が起こるこ
とを念頭において、混合の可否を考慮しなければならない。
混合する上で注意する点
混合する上で注意する点
1. 混合後も基剤の特性が維持できるように、同じ性質の基剤同士を混合する。
油脂性
水溶性
O/W 型
W/O 型
ゲル
油脂性
○
×
×
△
×
水溶性
×
○
△
×
×
O/W 型
×
△
△
×
×
W/O 型
△
×
×
△
×
ゲル
×
×
×
×
×
○:可能、△:組み合わせによっては可能、×:不可
O/W 型基剤は混合により乳化が破壊されやすい(レスタミンコーワ Cr.、ザーネ軟膏)。
W/O 型基剤は混合により透過性が高まるため効果が増大することがある(ヒルドイドソフト軟膏、パスタロン)。
透過比
+ヒルドイドソフト
+パスタロンソフト
アンテベート軟膏単独
0
1
2
3
2. pH の変化
17 位にエステル基、21 位に OH 基をもつステロイドは他剤との混合で pH がアルカリ性に傾くこと
により、17 位のエステルが転移し、加水分解を起こすことで含量が低下する。
代表薬剤:ロコイド、ボアラ、リンデロン V、リンデロン VG
→リンデロン V 軟膏とパスタロンソフト軟膏を混合すると効果は 1/8 になるといわれている。
例:デルモゾール G 軟膏(pH4.0~7.0)
ヒルドイドクリームとの混合(機械練)…混合直後の pH7.73、ステロイド含量 38.8%
ヒルドイドソフト軟膏との混合(機械練)…2 週間後 pH4.7~5.8、含量低下なし
(但し、ヘパリン類似物質とゲンタシンとの相性が悪く、ゲンタシンの含量が 4 週間後には 71.2%
にまで落ちるため配合不適)
一般的に、ステロイド外用剤は酸性で安定であり、pH5.0~7.0 の間になるように調整されている。
そのため、アルカリ性に傾いている薬剤との混合には注意が必要である。
一般的な保湿剤の pH
・ パスタロンクリーム 10%
pH 約 7.4
・ パスタロンソフト軟膏 10% pH 約 7.8
・ ヒルドイドソフト軟膏 0.3% pH 約 5.4
・ ヒルドイドクリーム 0.3%
pH 約 7.8~
7.8~8.0
・ オイラックスクリーム 10% pH 約 7.0~
7.0~8.7
・ ザーネ軟膏 0.5%
pH 約 7.5~
7.5~8.4
また、ビタミン D3 製剤は酸性で不安定である。
3. 後発品との混合
先発品と後発品では添加物が異なるため、基剤の pH やみかけの pH が異なることがあるため、変更時
には注意が必要である。
また、ヒルドイドローションは油に有効成分を溶かしてあり、ビーソフテンローションは水に有効成
分を溶かしているなど、吸収率が異なる薬品もある(ヒルドイドの方が吸収率↑)。
例:ドボネックス軟膏との混合
先発品:デルモベート軟膏との混合では 2 週間後のステロイド含有率 98.3%
98.3%
後発品:マイアロン軟膏と混合では 2 週間後のステロイド含有率 37.2%
37.2%
(25℃・湿度 60%条件下、1:1 で軟膏板での混合)