ハードとソフトの両方の価値を高め 単価と集客力の持続を目指す

[二代目経営者インタビュー]
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
ハードとソフトの両方の価値を高め
単価と集客力の持続を目指す
㈲関口企業 代表取締役社長
市川 春樹
■事業の現状
改装後は料金を値上げしてエリア内で
<いちかわ・はるき>
も高額な料金のホテルとなりました
1976 年生まれ、36 歳。レジャーホテ
ル歴 11 年。8年前に代表取締役に就
祖父がホテルをはじめたのが約40
が、2年経った現在も売上げは伸びて
年前。父が継いで、私が11年前から
います。厳しい環境だからと“守る”だ
携わり、8年前に代表取締役に就任し
けでは事業は縮小していくだけです。
ました。私が携わってからは、不況が
受け継いだ資産を守るためにも“攻め”
オーダーされます。魅力的なメニュー
進みレジャーホテルの市場環境も厳し
が必要だと思っています。
を用意しても老朽化した客室からでは
くなり、この数年、各店舗とも売上げ
オーダーさないでしょう。客室のグレ
は低下傾向となっていました。
■経営・運営の重視ポイント
任。神奈川・静岡で「ホテル くちなし
城」など4店舗を経営。
ードとメニュー自体の魅力、ハードと
神奈川県下でも料金の低下はかなり
現在のお客様の好みは多様化してい
ソフトが伴って評価されているといえ
進んでいます。しかし、現在は「安け
ます。すべてのお客様から評価されよ
ます。
れば、お客様が来る」時期は終わった
うとせず、ターゲットを絞り、いわば
今後、既存店舗についても、全面改
とみています。料金を下げても、安さ
ピンポイントで訴求力のあるハード、
装は難しいのですが、ハードとソフト
以外のプラスアルファの魅力がなけれ
ソフト・サービスを提供していくこと
の両面から価値の向上に取り組んでい
ば、集客が難しくなってきていると思
が必要だと考えています。
く考えです。そのためには、当然なが
います。また、高料金でも価値を認め
同時に、レジャーホテルの集客力を
ら資金が必要。攻めの経営のために
られ高集客を続けているホテルも実際
持続させるためには、ハードとソフト
も、借入と収益のバランスのとれた健
にあるわけです。従来のような高稼動
両面の価値が必要です。ソフト・サー
全な財務内容を重視した経営に臨まな
が見込めない時代ですから、やはり適
ビスだけでは限界があり、ハードだけ
ければならないと思っています。
正な客単価が必要であり、それでもお
では持続しないと思います。
また同時に、スタッフを育成し組織
客様に選ばれるホテルづくりを進めた
社長に就任した直後、1店舗にコス
的な運営ができる体制づくりにも取り
いと思っています。
トを抑えた改装を施しました。改装直
組みたい。スタッフのレベルアップを
2年前に、厚木の「くちなし城」を
後は売上げが回復したのですが、1年
図るためには、私自身の経営者として
全面改装しました。政令改正前に4号
程度で低下傾向に転じてしまったとい
のレベルアップも必要です。この数年
営業ホテルを改装すべきかどうか。不
う経験があります。
で多くの尊敬できる経営者と出会うこ
況の進むなかで多額の投資をして回収
厚木の店舗は、改装に合わせ本格的
とができました。市場環境は厳しくて
できるのかどうか。不安要素は多く、
な飲食サービスを開始しました。これ
も、人の環境は恵まれていると思って
悩みました。しかし、高単価・高価値
も飲食に実績のある先輩経営者のホテ
います。今後も、諸先輩経営者から学
で高集客できている諸先輩方のホテル
ルで数か月間、修行させていただいて
び、同世代の経営者仲間と切磋琢磨し
を見せていただき、相談に乗っていた
の取組みでした。現在では2,800円の
て、将来の事業発展に向けて臨んでい
だくなかで、いま改装すべきと決断。
ステーキセットや高額のシャンパンも
きたいと考えております。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
31
[二代目経営者インタビュー]
地道に顧客満足を確保しながら
ターゲットを絞り込んだ戦略が必要
㈲共栄 代表取締役
大谷 哲鎬
■事業の現状
当 社 の「HOTEL STELLATE」 が オ
ープンして11年目です。この10年で
新宿・歌舞伎町の状況も大きく変化し
やサービスの強化などで回復を図って
<おおたに・てつたか>
きました。しかし、この数年の売上げ
1974 年生まれ、38 歳。11 年前からホ
はやはり微減傾向です。
■経営・運営の重視ポイント
テル事業に携わり、2009 年に代表取
締役に就任。「HOTEL STELLATE」を新
宿・歌舞伎町で経営。
ました。数軒のレジャーホテルやビジ
現在の供給過剰の状況下で、単価・
を打ち出し、目的客を獲得していくこ
ネスホテルが新規オープンし、レジャ
組数を確保するために、オーソドック
とが求められると思っています。
ーホテルの客室増加だけでも300室以
スですが、誘客の強化と来店客を満足
歌舞伎町の客層は幅広い。しかしす
上と思われます。その一方で、2003
させ固定客化していくことを重視して
べての客層に対応するのではなく、タ
年から始まったいわゆる“ 歌舞伎町浄
取り組んでいます。
ーゲットを絞り込んだ戦略が必要だと
化作戦 ” で飲食店・風俗店が減少し、
現在のお客様は事前にホテルの情報
考えています。中高年の富裕層、価値
遊び場所を歌舞伎町から他の繁華街に
をネットで比較検討してホテルを選ん
を認めればお金を使う若年層……。ど
変えた人たちも少なくない。同時に不
でいる。ホームページを含め、ネット
ういった層をセグメントするのか、見
況が進み、遊興費が減少し、出張等の
での情報発信を工夫し自社ホテルに誘
極めも重要になると思います。
経費も抑制される……。以前の歌舞伎
導することが求められます。そして、
直近に迫った問題は、現在の店舗の
町は“ 眠らない街 ” でしたが、現在で
顧客満足のためには、まず確実に清潔
改装です。20 ~ 30年も同じ店舗で利
は終電で帰宅する人たちが多く、朝ま
で不備のない客室を提供すること。支
益を生み出せるとは思っていません。
で営業している飲食店はかなり減少し
払った金額に見合った満足を提供でき
ソフト・サービスで目新しさを提供し
ています。
ているかどうかの検証も重要。ホーム
ても付帯的な魅力。レジャーホテルの
こういった状況下で、レジャーホテ
ページにはアンケートフォーマットも
売物はあくまで客室です。しかし、今
ルの需給バランスが崩れ供給過剰とな
掲載し回答者には粗品を提供していま
後、従来と同じようなデザイン、設
り、その結果、料金の値下げ、利用時
す。また、レジャーホテルの接客機会
備、利用システムでいいのかどうか。
間の長時間化、ショートタイムの増加
は限られますが、接客時の印象はホテ
それで価値観の変化した利用者ニーズ
などが進み、多くのホテルが収益性を
ルのイメージを大きく左右する。フロ
を掴めるのか、事業として利益を生み
低下させているのが現状といえます。
ントの接客対応も重視しています。
出せるのか。真剣に検討しなければな
当社ホテルは、全面改装でのオープ
今後、少子高齢化が進み、デフレも
らない時期にきていると思います。す
ン以後、清掃・メンテナンスの注力や
より進むと思われます。さらに厳しく
でにビジネスやカプセルホテルも新し
定期的なクロス張替えなどで客室の清
なる環境のなかで、周辺ホテルと同じ
い形態が登場し始めています。今後
潔さを維持することに加え、売上げが
土俵で戦ったのでは、限られたパイの
は、既成概念に捉われず、新たな宿泊
低下傾向を示すと、利用者に“ お得感 ”
奪合いで最終的には価格競争に陥って
業態の可能性も含めて考えていかなけ
を感じさせるような利用時間帯の変更
しまう。今後は、これまで以上に特色
ればならないと思っています。
32
LH-NEXT 2012 ● vol.14
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
リスクを避け利益を確保しながら
企業化を進めて次の展開を目指す
㈱トップス 代表取締役
小関 乃
■事業の現状
当社のホテル事業は、祖父母が30
年ほど前にはじめ、父が継いで10年
前に全面改装し、私は三代目で7年前
時に “エコ ” への取組みはお客様にも
<おぜき・だい>
告知し、ホテルのイメージアップにも
1984 年生まれ、28 歳。レジャーホテ
つながっています。
■経営・運営の重視ポイント
ル歴7年。2011 年に代表取締役に就
任。神奈川・伊勢原で「HOTEL TOUR D’
ARGENT 銀の塔」を経営。
から携わり、昨年に代表取締役に就任
若者層のレジャーホテル離れが指摘
窓口として、固定客の再来店を促すツ
しました。
されています。しかし、決してレジャ
ールとして、ブログ、ツイッター、フ
郊外のホテル集積地に立地し、エリ
ーホテル自体へのニーズが低下してい
ェイスブックで情報を発信していま
ア全体の集客力が低下傾向の状況で
るとは思いません。遊興費が減り、行
す。新メニューの開発や食材の情報な
す。私が携わりはじめた頃は、すでに
きたくても行けない。同時に、カップ
ども発信。ホテルの裏側で、どのよう
不況の影響もあり売上が低下しはじめ
ル間の意識・行動が変わり、男性が直
な人がどのような取組みをしているの
ていました。そのなかで運営の仕方を
接的に「ホテルに行こう」と言いにく
かを公開することで、信頼感につなげ
学び、財務面も含めホテル経営を理解
い男女関係になってきているのではな
たいと考えています。
しはじめ、積極的に売上回復に向けて
いかと思います。
1店舗の経営であり、これまで父も
頑張ろうとしはじめたときにリーマン
このような状況下で求められるのは
私も運営の現場に臨む取組方でした。
ショック、ようやく持ち直したところ
「安いと思ってもらえる」ホテルだと
小規模ホテルではそれが細やかな魅力
で大震災……。やはりリスクを抑える
思っています。支払った料金が内容や
を打ち出すうえで重要だと思います。
ことを重視し、攻めよりも守りの意識
サービスと比べると断然安い。それが
しかし、同時に企業化も図っていかな
が強くなっているといえます。
リピートに不可欠です。客室の内容、
ければならない。スタッフが安心して
地域全体で価格低下が進み、フレッ
接客、サービスなど総合力が問われま
働ける職場とするためにも企業として
クスタイム制なども広がっています。
す。そのなかでも飲食サービスを重視
の確立を進めたいと思っています。
しかし、高稼動できる地域ではないの
しています。飲食の割引クーポンも発
将来的には、店舗数を増やしたい。
で、客単価を確保しながら確実に固定
行。実質の割引額は原価なので、客室
そのためにも、まず現在のホテルで、
客化を図らなければならない。同時
料金の割引よりも大きな割引イメージ
利益を確保していかなければならな
に、建物自体の経年劣化に対するコス
をアピールできます。また「割引期限
い。今後、消費税も増税されます。上
トもかかり始めている。利益確保の取
が迫っているから行こう」と来店のき
乗せしてお客様が納得するのかどう
組み方がますます重要になってきてい
っかけにしてもらいたいという狙いも
か。それでも「安い」と思ってもらう
ますが、集客力につながるコストは削
あります。
ためには何が必要なのか。従来以上
減できない。そこで昨年から今年にか
もうひとつネットの情報発信も重
に、お客様の視点で、客室内容、設備、
けLED化に取組み(本誌前号参照)
、
視。地元に住む人たちでも、当社ホテ
サービスを見直していくことが求めら
電気代の大幅な削減を図りました。同
ルを知らない人は多いはず。新規客の
れると思います。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
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[二代目経営者インタビュー]
定期的なリニュールで新鮮さを持続
4号だからできる空間演出にも注力
加藤商事㈲ 代表取締役
加藤 美智子
<かとう・みちこ>
■事業の現状
■経営・運営の重視ポイント
ホテル事業は、現会長の父親が25年
最も重要なことは、他ホテルとの差
ほど前にはじめ、11年前に4店舗を引
別化、オリジナリティの確立だと思い
き継ぎ、3年前に1店舗を取得・改装
ますが、なかなか難しい……。全店舗
オープンさせ、現在5店舗を経営して
とも4号営業ですので、そのメリット
は、何といっても清潔さです。どんな
います。
を活かし4号だからできる空間演出も
に立派な客室でも、たった1本の髪の
会長のホテル事業に対する取組み方
取り入れていきたい。
毛で雰囲気が台無しになってしまう。
は、駅前の集客しやすい好立地に新築
今年7月に改装した店舗の一部客室
当社の人件費率は30%強。当初よりは
で開設し、できるだけ価格を抑えて多
には、電車や教室、病院等をイメージ
多少抑えてきましたが、一般的な指標
くの人に利用してもらおうという方向
したコンセプトルームも設けました。
より高い比率です。しかし、商品であ
です。私が引き継いでから、単価も重
鏡やSM的な演出も行なっていますが、
る客室のクオリティを維持するために
要と考え、定期的な改装とサービス等
抵抗を感じる女性もいますから、鏡に
は、無理な人件費の削減は危険だと思
の付加価値付けも重視して取り組んで
はブラインドを備えるといった工夫も
います。
きました。
施しています。この店舗の利用者は年
これから年末に向けて、毎年、各店
昨年は、大震災後の計画停電が売上
齢層が高く、周辺のさまざまなホテル
舗でスタンプラリー等のイベントを実
げに大きく影響しましたが、今年前半
も利用している。インパクトの強い客
施していますが、恒例化を印象づけて
は回復し前年比微増で推移。ただ、夏
室と同時に落ち着いて過ごせる客室な
年末に魅力的なイベントをやるホテル
以降は前年比微減の状況です。宿泊減
ど多彩なデザインの客室を設けまし
とのイメージを確立させたいですね。
少の傾向が続いているのが厳しい要因
た。同じ関東でも、店舗によって客層
また、もう1店舗、年末までに改装を
のひとつです。
はみな異なります。地域のニーズを捉
する計画です。
当社の場合、各店舗とも4~5年を
えた客室づくりやサービスが必要で
現在、当社では本部を置き、本部社
目安に改装に取り組んでいます。コス
す。全店で同じサービスができれば手
員が各店舗の点検管理、支配人との打
トを抑えた客室の表層変更等が中心で
間もコストも楽なのですが、それでは
合せ、企画、経理等を担当しています。
すが、“客室は商品” ですから、お客様
お客様に響きません。
組織化、企業化は、今後、店舗数拡大
を飽きさせないためにも、定期的な改
また、私自身が利用者と同世代の女
のためにも不可欠です。とくに若い人
装が必要と考えています。実際に改装
性ですので、このメリットは十分に活
たちにもっとこの業界で働いてほしい
した店舗は売上げが上がり、改装から
用したい。女性視点で流行をチェック
と思っており、人材獲得のためにも、
時間が経過したホテルは下がる。その
し、景品やコスメ、アメニティ等の選
魅力的なホテルづくりとともに、母体
バランスでトータルとして前年比微増
定に反映させています。
がしっかりとした企業であることが必
を目指していきたい。
もうひとつ、女性に支持される条件
要だと思っています。
34
LH-NEXT 2012 ● vol.14
1975 年生まれ。父親が始めたホテル
事業を 11 年前に引き継ぎ、07 年に代
表取締役に就任。「K-WAVE」等の名称
で埼玉、千葉で5店舗を経営。
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
ネットを情報発信と運営に活用し
立地に合った取組みで売上維持を目指す
㈱大宗 営業部長
島田 盛行
■事業の現状
空いていないと帰るケースもあるな
<しまだ・もりゆき>
ど、料金にシビアな状況が続いていま
1971 年生まれ、41 歳。ゼネコン勤務
当社のホテル事業は、1976年に父
す。とくに渋谷エリアは、有数の繁華
親が東京・渋谷で始め、85年に神奈
街とはいえ、ホテル数も多く競合が厳
川・相模原に2号店を開業。私は、ゼ
しいことから、料金の低下傾向もまだ
ネコンに勤務し土木施工監理をしてい
続いている状況です。
たのですが、2000年に自社のホテル
事業に転職。最初の半年間は、アルバ
■経営・運営の重視ポイント
を経て 2000 年からホテル事業に携わ
る。東京と神奈川で「HOTEL Festa」、
「HOTEL Sala」を経営。
が、道路を歩きながらスマホで情報検
索をしている時代です。ホームペー
ジ、ブログ、ツイッターを使ったホテ
イトとして相模原の店舗に住込みで清
明確な差別化を図り集客していくた
ル情報の発信は、今後、もっと充実さ
掃業務をしていました。この店舗は
めには全面リニューアルをしたいとこ
せていかなければならないと思ってい
2001年に父親主導で全面リニューア
ろですが、現在の状況では難しい。現
ます。 ルし、私も社員として管理する立場と
状では、ホテル営業の基本といえる、
また、ネットは運営面でも活用し始
なりました。改装後は好調な売上げで
お客様の肌が直接触れる部分、布団や
めました。「LINE」というアプリを使
したが、その後、徐々に低下。ホテル
ソファ、浴室、トイレの便座などの清
ってのスタッフとのコミュニケーショ
に携わってまだ数年で、何をどうすれ
潔感の維持に注力しています。清掃や
ンです。これは登録者だけが書込み・
ばよいか分からない。他の繁盛店を参
メンテナンスにしっかり取り組んでも
閲覧できるチャット。各スタッフが
考にしながら運営やサービスに悩んで
経年劣化が進みますから、定期的な交
iPadやスマホで引継ぎに必要な情報な
いたときに、近隣の先輩経営者から勧
換を重視しています。ただ、布団など
どを書込む。リアルタイムで全スタッ
められ地域の組合に参加するようにな
でも全室交換となると大きなコストに
フが情報を共有できるメリットに加
った。そこから同業者とのつながりが
なるので数室ずつ交換するといった方
え、チームで仕事に臨むという意識面
広がり、先輩経営者や同世代の経営者
法で臨んでいます。
でも効果があると感じています。
と出会い、情報交換させていただいた
また、繁華街と郊外では、お客様の
宿泊業態のボーダレス化が進み、ビ
ことは非常にプラスになっています。
ニーズがかなり違うのでその対応も重
ジネスやシティホテルがレジャーホテ
2006年からは渋谷の店舗も管理す
視しています。例えばランジェリー販
ルに近づいてきています。しかしレジ
るようになりましたが、両店舗とも、
売。新商品を定期的に追加すると同時
ャーホテルは、ビジネスやシティホテ
この数年、売上げは低下傾向でした。
に、両店でラインナップを変えていま
ルのお客様を取り込めていない。これ
ただ、今年に入ってからはトータルで
す。相模原は “ 女性が着たい” という
は、今後の課題だと思います。カップ
は前年並みの状況です。しかし、低下
視点、渋谷は “男性が着てもらいたい”
ルのラブニーズに対応するという基本
傾向が底を打ったとは言い切れませ
という視点で選んでいます。
から外れず、他業態のお客様を取込め
ん。実際に店舗でお客様の動きをみて
もうひとつ、昨年から重視している
るホテルづくりも考えていかなければ
いると、中高年層でも低料金の客室が
のがネットの活用です。お客様の多く
ならないと思っています。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
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[二代目経営者インタビュー]
大人の利用者ニーズへの対応を重視し
基本の「安心」と「信頼」を徹底追求
㈲ティーアンドティー ホテル部門課長
■事業の現状
田野邊 了
の提供は、宿泊業の基本という父の考
<たのべ・さとる>
え方からです。
1985 年生まれ、27 歳。レジャーホテ
ル歴8年。東京・湯島の「ホテルマリ」
当社のホテル事業は、50年ほど前
同時に運営の細部も、この方針に則
にスタートしました。湯島のホテルは
って臨んでいます。タオル類は、自社
9年前に別館を、5年前に新館を全面
で洗濯し高温殺菌乾燥させて提供。食
改装し、浜松のホテルは2年前に一部
器類も熱殺菌できる業務用食器洗浄機
“お忍び”で訪れるお客様が多く、現在
改装して現在に至っています。
を使用。手間とコストのかかる取り組
も同様です。こういったお客様は、目
私は、三代目で8年前から自社ホテ
み方ですが、お客様からの信頼を得る
新しさよりも宿泊施設としての基本部
ルに携わり、最初はアルバイトスタッ
ために必要と考えています。
分で信頼でき、安心して快適に利用し
フとしてルームメイクを、数年してフ
もちろん、客室の清潔さは最も重要
たいというニーズが強い。それだけ
ロントを担当し、現在は、湯島の別
との認識で取り組み、休憩後の清掃で
に、今後もこれまでの方針に沿ったホ
館・新館の支配人として勤務していま
も20 ~ 30分の時間をかける丁寧な清
スピタリティをさらに高めていきたい
す。また、浜松の店舗は月に何回か訪
掃を実施。湯島の2店舗・29室でス
と思っています。
れる形態で管理しています。
タッフ数は30人、そのうち社員が5
ただ、現在の20代の層はやはり繁
湯島の店舗のこの数年の売上げはや
人。人件費率は高めですが、当社の求
華街のホテルに向かってしまう。湯島
はり微減傾向です。リーマンショック
める運営をするためには必要だと思っ
という地域自体への関心も低い。将来
の影響はあまりなかったのですが、昨
ています。
に向けて集客を維持していくためには
年の大震災の影響が大きかった。今年
一方、飲食についてはホテル内では
若い世代の取込みも必要です。ネット
に入ってそれがようやく回復してきた
調理せず、近隣のレストランから取寄
の検索サイトへの広告や、『an・an』
状況です。浜松の店舗は、改装後の集
せ、湯煎等で提供しています。しっか
等の雑誌広告などで、20代への認知
客回復に1年程度かかりましたが現在
りとした調理体制で臨んでも、どのよ
度の向上にも取り組み始めています。
は順調な状況で推移しています。
うに調理されているのか、お客様には
私自身は、まだまだ勉強中です。当
見えません。それで信頼してもらうこ
面は、現場でお客様に接しながらサー
とは難しいというのが理由です。ただ
ビス業として求められるホスピタリテ
当社が、最も重視しているのは、お
し、飲料の充実には注力しています。
ィをもっと学ばなければならない。同
客様が「安心」して利用できる「信頼」
こういった取組み方は、お客様に認
時に、ホテル自体の今後については、
されるホテルづくりです。湯島のホテ
知してもらうべく、ホームページにも
例えば近隣のカフェやバー、飲食店な
ルは、改装の際に耐震基準を上回る内
掲載しています。
どの異業種とコラボレーションした展
容での耐震構造を施しました。お客様
当社ホテルの利用客層は年齢層が高
開なども含め、従来にない新しい魅力
の目に見えない部分であり、大きなコ
く、30 ~ 50代がメインです。湯島の
の創出にも取り組んでいきたいと思っ
ストもかかりますが、
「安心・安全」
ホテルは、昔から大手町や銀座から
ています。
■経営・運営の重視ポイント
36
LH-NEXT 2012 ● vol.14
別館/新館と、静岡・浜松の「ホテル
101PATIO」を経営。
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
短周期の改装で新鮮さを維持
組合・町会の活動で地域調和も重視
㈲中澤商事 代表取締役
中澤 隆司
<なかざわ・たかし>
■事業の現状
■経営・運営の重視ポイント
父親が渋谷でホテル事業を始めたの
2年前の改装では、ファザードの一
は45年以上前。私は飲食店勤務を経
部と客室の表層や什器等を変更しまし
て20年ほど前からホテルに携わって
た。それに伴い休憩で500円、宿泊で
きました。
1,000円 程 度 の 料 金 値 上 げ を 実 施。
ぎ、そして次の世代に受け渡していく
渋谷の円山町や道玄坂は、都内でも
少々キレイになった程度で値上げをす
ことが重要だと思っています。
有数のレジャーホテル集積地です。た
れば、1回は来店しても次はありませ
私も含め二代目経営者は、やはり先
だ、2006年に渋谷区がラブホテル建
ん。そこで改装と同時に、アメニティ
代の資産を守ることがまず念頭にあ
築規制条例を制定し、以降、新規店舗
や飲食メニューと交換できるサービス
り、守りの経営姿勢になりがちです。
は建築されておらず、ホテル数は若干
カードを200種類くらい作りフロント
ただし、守りばかりでは新たな利益は
ですが減少しています。渋谷地区のホ
横の壁面に並べて設置し、お客様に好
産み出せない。攻めの経営も必要です。
テルも売上げは全体的に低下傾向が続
きなカードを選んでもらうサービスを
次の改装では、4号営業ゆえの利点
いています。お客様の数も減少してい
開始しました。休憩利用者へは原価
を活かした客室の演出に取り組みたい
ますが、若者層が中心で低料金へのニ
300円程度、宿泊利用者へは500円程
と思っています。現在のレジャーホテ
ーズが強いことから料金の低下が著し
度の内容です。そして、その内容はど
ルは、どこもお洒落で綺麗でカッコい
い。組数の減少よりも客単価の低下の
んどん変えていく。手間はかかります
い。でもシティホテルにはないレジャ
影響のほうが大きいと思います。
が、お客様からは好評です。
ーホテルゆえの魅力が薄れている。万
当社ホテルは、何とか客単価を維持
渋谷地区は同業者の結束が強く「渋
人に好感をもたれることを目指せば
したいと考え、10年に1度の大きな
谷ホテル旅館組合」(全旅連の渋谷地
80点のホテルにしかならない。ター
改装ではなく、3年程度の短い周期で
区の組織)にレジャーホテルの約9割
ゲットを絞り、そのニーズに特化すれ
小規模改装を続けるという取組み方を
が加盟しており、この組合を通して地
ば120点のホテルができる。そういっ
してきました。女性の化粧方法も3年
域の行政とも良好な関係が維持できて
た方向で臨みたいと考えています。
経てば大きく変わる。ホテルも変化が
います。また、組合として町会の活動
また、将来的には新店舗にもチャレ
なければ飽きられてしまいます。とは
にも積極的に参加しています。ホテル
ンジしたい。これまでのレジャーホテ
いえ、やはりリーマンショックや大震
事業は、地域との調和が不可欠です。
ルの延長ではなく、現在の若者の行動
災の影響は大きく、売上低下を余儀な
地域との良好な関係は、諸先輩方が長
や価値観を考えると、カップルも同性
くされました。ようやく今年に入って
年かけて築いてこられたもの。私も組
の友人同士も利用でき、ドミトリー的
大震災前のレベルには回復しました
合では副組合長、町会では防犯部長を
な利用やイベント利用もできるよう
が、数年前の売上げにはまだ戻ってい
していますが、地域との関係の保持
な、宿泊業の新業態をつくれば、新し
ません。
を、私たちの世代もしっかり引き継
い需要が生み出せると思います。
1968 年生まれ、44 歳。20 年前からホ
テ ル 事 業 に 携 わ り「HOTEL TEN-UN」
「HOTEL ELEGANCE」 を 東 京・ 渋 谷 で
経営。7年前に代表取締役に就任。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
37
[二代目経営者インタビュー]
10年後の躍進を見据えて
幅広い分野に積極的にチャレンジ
アムリタホールディングス㈱ 代表取締役 西間木
■事業の現状
父親が栃木で2軒のホテルを営業し
勉
注ごうと取り組んでいます。
■経営・運営の重視ポイント
<にしまぎ・つとむ>
1980 年生まれ、32 歳。11 年前に父親
の営むホテル事業を継ぐ。栃木、福島、
青森で3店舗を直営。運営受託や温浴、
ており、11年前に福島に3店舗を開業
現在のラブ/レジャーホテルの状況
したときホテルに入り支配人として勤
は、追加投資をしても売上げが回復し
務。その後、社長に就任し、6年前に
ない、あるいは採算がとれるだけの回
スタッフからマネージャーに、そして
青森に1店舗を開業し、福島では2軒
復は難しいとの見方も少なくありませ
経営者に、その情報が集約されるため
の温浴施設も運営してきました。しか
ん。資金調達が難しく追加投資ができ
の、人材育成と情報伝達の仕組みが必
し、昨年の大震災で栃木の1ホテルが
ないという現実もある。しかし、ホテ
要です。ホテル自体については「喧嘩
半壊し閉鎖、温浴施設も原発事故の影
ル事業は、手をかければ必ず結果に現
したカップルでも、仲良くなって帰る」
響で1施設の閉鎖を余儀なくされ、デ
れます。売上げの維持・向上のために
……抽象的ですがそんなホテルを目指
イサービス施設に変更しました。ま
はハード・ソフト両面から継続的な魅
したい。現在のホテルは、どこもお洒
た、昨年は運営受託にも取り組み、5
力の付加が必要だと思っています。
落な内装で清潔でサービスも豊富で、
店舗を管理する運営会社の社長にも就
また、事業の成否を決めるのは、最
決定的な差がなくなってきています。
任。今年10月からはその社長職を退任
終的には人材です。経営者の価値観や
そのようななかで、今後、選ばれるホ
し、直営事業と新たな運営受託・コン
方向性に共感して事業に臨める社員が
テルにするためには、4号営業ならセ
サルティング業務に取り組んでいます。
必要です。そこで昨年、学生時代の運
ックスプロデューサー的な視点で、気
直営3ホテルの状況は、昨年は大震
動部の後輩など20代の社員3人を採用
持ちのいいセックスができる空間の提
災の影響で売上が低下しましたが、今
しました。社員の採用は人件費率が高
案も必要だと思います。女性にも受け
年に入ってからは回復傾向で、一昨年
くなってしまいますが、将来の事業拡
入れられるために、過激さよりもさり
レベルの売上状況で推移しています。
大に向けて欠かせない要素です。い
げないなかでの演出を考えていきたい
ホテル事業を始めた当初は、直営で
ま、仕事だけではなくプライベートも
と思っています。
の多店舗展開を目指しましたが、その
含め、できるだけ同じ時間を共有し価
業界全体で料金低下が進んでいます
後、融資環境が厳しくなり店舗数拡大
値観等を共有できるように取り組んで
が、やはり適正な料金が必要です。利
が難しい状況が続いています。もちろ
います。
益の出ない過剰サービスになっても事
ん将来は多店舗展開をしていきたい。
ホテルの集客力については、お客様
業として成立しない。あくまで料金と
現在は、10年後に大きく飛躍できるよ
が退室した客室の中にカギが隠されて
価値がイコールの状態を作らなければ
うに、ホテルの運営受託、さらに温浴
いると思っています。客室の使われ方
ならない。そのために常に、この料金
施設などホテル以外の分野も含めた新
を見れば、何がよくて何がダメなの
の価値があるホテルなのかどうか、細
しいチャレンジで、幅広いノウハウの
か、分かります。しかし、それを日頃
部にわたって検証し続けることを重視
蓄積など事業展開の基礎づくりに力を
目にするのはメイクスタッフ。メイク
しています。
38
LH-NEXT 2012 ● vol.14
デイサービス施設の運営にも取り組む。
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
追加投資の決断と日々の地道な取組み、
自社ホテルに自信とプライドをもって臨む
丹羽産業㈱ 代表取締役常務
丹羽 英章
■事業の現状
ています。
<にわ・ひであき>
確かに、この厳しい環境下での2年
不動産会社勤務を経て、父親が始めた
ホテル事業を 14 年前に引き継ぐ。愛
当社のホテル事業は、昭和39年にス
連続の大改装には大きな不安がありま
タート。14年前に4店舗目の新築を機
した。同時に、過去に地域1番店の実
に、それまで勤務していた東京の不動
績もあり再生は可能という自信もあっ
産会社を退職してホテル事業に携わり
た。不安と自信の葛藤……。でも、金
スの価値を失くすとともに、スタッフ
ました。二代目というのは、無から有
融機関にも応援していただき現在の情
のモチベーションにも影響します。
を生み出すのではなく、初代が築いた
勢下で改装できるのは大きなチャンス
現在のお客様に訴求力のあるホテル
土台をいかに現代のニーズにアレンジ
ですから、自分の中で自信が不安を上
というのは、言葉にするのは難しい…
し、どれだけプラスアルファできるか
回った瞬間に「ゴーのスイッチ」を入
…。強いて言えば、経営者として「自
だと思って事業に臨んでいます。
れて決断しました。
社ホテルに自信とプライドがもてるか
愛知の市場状況は、全国的な景気悪
化のなかでも2005年の愛知万博特需
■経営・運営の重視ポイント
知県内、名古屋市等で「LUXE」グルー
プ4店舗を経営。
どうか」だと思っています。それだけ
に現状では、店舗数拡大よりも自分の
があり、地元のトヨタが好調だったこ
2年連続で全面改装に取り組みまし
目の届く範囲で事業に臨みたい。退室
とから、2~3年前までは他地域より
たが、ホテルの経営・運営においては、
直後の客室や仕上がった客室を見て、
も良好だったといえます。しかしリー
基本的に、堅実に日々コツコツと地道
さらにお客様の声を聞いていくと、
マンショック後のトヨタの業績悪化以
な取組みが最も重要だと考えていま
日々、解決しなければならない問題が
降、急速に冷え込んでいます。
す。改装して新しくなっただけでは集
数多くあります。それらに地道に対応
当社は、新規オープン後、できるだ
客力は持続しません。メイクやメンテ
していく。ホテル経営には、営繕から
け長期間にわたり大きな改装は行なわ
ナンス、サービスなどの細部に不備が
設備管理、営業まで非常に幅広く深い
ず、丁寧なメンテナンスと内装の変更
あればお客様の満足度は一気に落ちて
ノウハウが要求されます。決して1人
や什器・設備の入れ替え等のマイナー
しまう。お客様の要望やクレームに真
ではホテルは経営できない。金融機関
チェンジをこまめに繰り返して集客力
摯にスピーディに対応していくことが
や関連企業との信頼関係は不可欠であ
を持続させるという方向でホテル事業
不可欠です。
り、また業界の先輩方からもまだ数多
に取り組んできました。しかし、築後
また、適正な料金で納得してもらえ
くのノウハウや知識を学ばなければな
30 ~ 40年経過すればやはり集客力の
る客室とサービスを提供することも基
らないと思っています。いま厳しい市
低下は否めず、昨年6月に名古屋市内
本方針。低価格路線では短期的に集客
場環境とはいえ、将来に向けて発展さ
の1店舗を、今年7月には一宮の1店
できても将来の追加投資が捻出できな
せることができる事業だと思っていま
舗を全面改装しました。厳しい経済環
くなってしまいます。サービスも無料
すので、今後も、当社の基本方針「お
境下でも全面改装の効果は大きく、両
化は避けたい。フードサービスも有料
客様に満足してもらえるホテル」づく
店舗とも順調に売上回復の傾向を示し
で実施していますが、無料化はサービ
りに積極的に取り組んでいきます。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
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[二代目経営者インタビュー]
顧客満足重視の丁寧な運営に加え
将来に向けて組織化、企業化にも着手
㈲丸昌 専務取締役
文 博信
■事業の現状
「HOTEL RIZE」は34年前に開業し、
ざるを得ないと思います。
■経営・運営の重視ポイント
<ぶん・ひろのぶ>
1978 年生まれ、34 歳。コンピュータ
ソフト会社を経て、6年前に自社飲食
店を担当、4年前から「HOTEL RIZE」
(埼
その後、改装や名称変更を経て現在に
これまで当社ホテルが支持されてき
至っています、私は、コンピュータソ
た要因は、客室空間の品質、各種設備
フト会社を経て、6年前に自社飲食店
の充実、徹底した清掃やメンテナンス
トや各種最新機器の扱いに戸惑う人は
を担当、2年後にホテルに移り支配人
による清潔さ、と思っています。
いなくなるはず。その推移を見極めな
として現場を管理してきました。
私が担当してからも、パソコンの客
がら、設備の変更や導入を考えること
父親のホテル事業への取組み方は、
室設置やVODの入替え、一部客室への
が必要だと思っています。
高品質な客室を提供し適正な単価を得
3Dテレビの採用などを行ない、今年
当社ホテルは、30室の規模ながらス
るという方向。私も同じ考えで臨んで
に入ってからは、客室ごとに浴槽の取
タッフ数は28人、そのうち社員が9
いますが、やはり世代感覚の違いや品
替えを進め10室が完了したところで
人。売上が低下傾向でも品質保持のた
質へのこだわりの違いもあり、設備や
す。本来なら、管理コンピュータシス
めに必要と考え削減はしていません。
サービスのあり方については、よく議
テムも含めた全面改装をしたい時期で
勤続年数の長いスタッフが多いのです
論しています。
すが、やはり現在の環境を考えると難
が、やはり入れ換わりもある。これま
全面改装をしてから約14年が経過
しい。当面は、これまでの部分的な変
では、お客様に満足を提供するにはマ
し、設備や什器等の入替え・変更をこ
更で新鮮さを維持させる取組み方で臨
ニュアルでは対応できないという考え
まめに行なってきましたが、やはり売
んでいこうと考えています。また、特
から、私自身が現場で陣頭指揮を取っ
上げは低下傾向です。ピーク時に比べ
別室については客室全体を改装した
てきました。しかし、将来を考えると
2割程度低下しています。ただ、ホテ
い。ホテルのセールスポイントとして
私やサブマネージャーが不在でも均質
ルの立地するJR大宮駅周辺は競合店の
打ち出せるような訴求力のある内容に
のサービスを実現しなければならな
数が少なく、他のエリアに比べれば恵
したいと検討しています。
い。そこで、いまマニュアル制作も含
まれた環境といえます。値下げをせず
当社ホテルのメイン客層は中高年層
め組織的な運営体制の構築に着手しは
ショートタイムも採用せず頑張ってい
です。若者層のように新しいものに飛
じめました。家業から企業へ進化させ
ますが、宿泊の減少や付帯売上の減少
びつくことはありませんが、その分、
事業発展を進めることも、二代目とし
から客単価は微減、組数も微減の傾向
品質への要求は高い。客室に置くアメ
ての役割だと思います。
です。当社の飲食店の動向を見ても、
ニティなどもオーソドックスながら質
将来的には、2号店の開設はもちろ
宴会利用が減少し単価も減少してい
のよいものの提供を重視しています。
んホテル以外の事業にも取り組みた
る。売上減少の理由を不況のせいには
また、現在の中高年層は、アナログ世
い。そのためにも、事業拡大できる体
したくありませんが、やはり将来が見
代で最新の機器の操作等が苦手な方も
制を整えるとともに、現在のホテルの
えない社会情勢では、消費が冷え込ま
多い。しかし10年後の中高年層はネッ
売上確保に力を注いでいきます。
40
LH-NEXT 2012 ● vol.14
玉・大宮)の経営に取り組む。
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
“失敗してもいい”新しいチャレンジを
続けることがお客様獲得につながる
ホソダグループ 代表
細田 悠太
<ほそだ・ゆうた>
■事業の現状
■経営・運営の重視ポイント
父親が亡くなってホテルを引き継い
お客様がホテルに求めることは、や
だのが4年前。市場環境が最も厳しい
はり “新しいモノ・サービス ” だと思
時期にスタートしたこともあって、現
います。世の中に新しいもの、面白い
在の環境は上向きになっていると感じ
ものが出てきた時点で、ホテルに取り
テルの情報を伝えるために、メルマ
ています。10年前に比べたら悪化して
入れられるかどうかを検討し、可能な
ガ、ツイッター、フェイスブックを活
いるといえるでしょうが、それでも他
ものはスピーディに採用していく。多
用しています。1人でも多くのお客様
の業種は現在もっと厳しい状況だと思
少のクレームが発生しても、それを厭
に自社ホテルの魅力を知ってもらうこ
います。
わずチャレンジしていくことが大切だ
とが大切ですから、手間がかかります
実際に、当ホテルの売上げは、ホテ
と考えています。
が、情報を発信し続けることが必要だ
ルを引き継いで以降、毎年、前年比約
常に新しい何かを提供してホテルが
と思っています。
10%増で推移しています。政令改正前
変化していくことが、お客様の評価、
レジャーホテルに限らず、将来的に
に、一部ホテルのリニューアルを行な
集客につながると考えています。厳し
企業が生き残っていくためには、社会
ったことも売上増の要因になっている
い環境だからと保守的になれば、気が
情勢や顧客ニーズの変化に迅速に対応
と思います。
付いたら周辺ホテルと同じサービスレ
していくことが必要不可欠です。です
全店舗とも、商圏内では高い料金設
ベル、設備レベルになってしまうと思
から「失敗してもいい、新しいモノ・
定です。集客のために値下げはしない
います。
サービスにスピーディにチャレンジし
というのが基本的な方針。値下げはホ
昨年末には、オーダーシステムを組
続ける」という姿勢で、事業に取り組
テルの価値を下げることです。さらに
み込んだiPadを全室に導入しました。
んでいきます。
適正な単価が得られなければ今後の設
導入検討時に調査したところ、全室に
いま若者の人口が減少し、いわゆる
備投資ができなくなってしまいます。
iPadを備えるホテルは世界に3店舗し
草食化も進んでいます。そういったな
高単価でもお客様が納得する設備やサ
かなかった。オーダーシステムを備え
かで、お客様を増やしていかなければ
ービスの充実を図っていくというスタ
たiPadは世界初です。もっと安価なタ
ならない。各種法令を遵守して業界の
ンスで臨んでいます。
ブレットPCも検討しましたが、やはり
ネガティブなイメージを払拭し、安心
少々サービス過剰の傾向があり、コ
iPadのブランド価値は高くホテルの価
して利用できる信頼される業種にして
ストが掛かり過ぎかなと思うときもあ
値の向上につながると判断して導入を
いく。それもこの業種のファンを増や
りますが、サービスも含めたホテルの
決定。やはり訴求効果は高く、導入コ
すうえで重要なことだと思います。こ
総合的な価値を、設定した料金と比べ
ストはほぼ2か月の売上増加分で回収
れは同業者が一致団結して、真剣に取
てお客様に納得してもらうことが、こ
できました。
り組まなければならない課題だと思っ
の事業の前提だと思っています。
こういった新しい取組みも含め、ホ
ています。
1981 年生まれ、31 歳。金融機関勤務
を経て4年前からホテル事業を引き継
ぎ、「南の風風力3」ブランドのホテ
ルを経営。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
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[二代目経営者インタビュー]
スタッフの意識改革をベースに、
常に変化するホテルづくりで売上回復傾向
㈲グランド商事 専務
堀 花織
■事業の現状
るという意識があるとミスが減少し仕
<ほり・かおり>
上がりも違ってきます。フロントスタ
1980 年生まれ。父親が社長を務める
愛知・豊田のビジネスホテルの経理・
当社のホテル事業は、25年前に愛
ッフはスーツ着用とし接客教育を進
知・豊田でビネスホテルを開業し、15
め、メイクスタッフには仕事の意味を
年前に岐阜でレジャーホテルをスター
伝えていきました。その結果、スタッ
ト。社長は父親で、両ホテルを両親が
フの意識が変わり、顧客満足を自ら考
設計デザイナーと、パートナーとして
管理してきました。私は当初、ビジネ
えるようになり、新しいサービスの提
一緒に取り組むことが必要だと思いま
スホテルに携わっていましたが、2年
案もされるようになってきました。ス
す。
前から両ホテルを担当しています。
タッフの意識・スキルの向上はすべて
また、女性が最も求めるのは安心感
レジャーホテルは、当初は非常に高
のベースですから、今後も力を注いで
です。それはホテル自体にも提供する
売上げだったようですが、景気の悪化
いく考えです。
サービスや用品にも求められる。たと
に併なって徐々に低下し改装等も行な
また、ホテルは、常に変化し新しい
えば、フェイスパックは数種類用意
わなかったこともあり、私が担当する
魅力を提供し続けることが重要だと思
し、お客様の肌質を確認できるチャー
ことになった2年前には、かなり落ち
っています。アウトレットモールなど
トをつくり最適なタイプを安心して選
込んだ状態でした。
も、定期的に新店舗を投入することで
べるようにして提供。このひと手間が
売上回復のために何らかの対策をす
集客力を持続させていますからね。
女性への訴求力になると考えています。
るにしても、ホテルを実際に動かすの
ただ、現在の市場環境を考えると大
お客様ニーズの把握も重視していま
はスタッフです。そこでミーティング
きな追加投資はむずかしい。2月の改
す。フロントで、お客様の年齢層とオ
等を通してスタッフの意識改革を進
装も、当初、社長は反対でした。そこ
ーダーしたサービスや料金の内訳など
め、同時に今年2月に外装の一部と1
で、まず稼動の低い1室を改装し、稼
を記録し、毎月、集計して分析してい
フロア9室を改装。以降、売上は回復
動と売上アップの実績を示して説得し
ます。漠然とサービスの充実を図るの
傾向を示し、現在、前年比20 ~ 30%
ました。今後も、財務的に無理のない
ではなく、やはり対象を絞り込んで考
増で推移しています。
範囲で、数室ずつの改装を続けていく
えたサービスでないとお客様に伝わら
考えです。
ないと思います。
客室は、女性への訴求力を考え “可
いま、やらなければならないこと、
レジャーホテルのスタッフは、裏方
愛い” “温かい” 雰囲気を重視していま
できることはたくさんあります。それ
でルーティンワークの作業に終始する
す。郊外立地で滞在時間が長いことか
を、ひとつずつ形にしていく。売上げ
傾向が強い。しかし、電話応対の仕方
ら、非日常性よりもリラックスして心
が回復傾向とはいえ、まだピーク時に
ひとつでホテルに対する印象は大きく
地よく過ごせる空間を目指したい。自
は及びません。ハード・サービス両面
変わってしまいます。客室メイクでも
分の求める客室を具現化していくに
から顧客満足を高め、さらに売上げを
お客様に満足してもらえる客室をつく
は、考え方を理解し感性を共有できる
伸ばしていきたいと思っています。
■経営・運営の重視ポイント
42
LH-NEXT 2012 ● vol.14
運営管理を担当し、2年前から岐阜の
レジャーホテル「Twin J」も担当。
[特集]二代目に求められる経営姿勢
二代目経営者インタビュー
女性視点のこだわりを重視し
固定客の満足を図り新規客の獲得を進める
㈱アイカス
横田 咲
<よこた・さき>
■事業の現状
■経営・運営の重視ポイント
名古屋で事業を営む父親が、10年前
「女性がキレイに可愛らしくなり、
に縁あって新横浜のホテルを取得。老
男性はカッコよくなる」
、そんなホテ
朽化が進み全面改装が必要となり、そ
ルづくりを目指しています。オリジナ
の際にそれまで勤めていた名古屋のTV
ルデザインの黒いガウンを備えたり、
出して高額ではないのですが “高そう
制作会社を辞めホテル事業に就きまし
アメニティを可愛らしくラッピングし
と思われ敬遠される” ケースもあるこ
た。全面改装するからには他にないホ
て提供したり、コストや手間がかかっ
とがわかり、6月に「モニタープライ
テルにしたいと、5人の設計デザイナ
てもそういった女性視点のこだわりを
スキャンペーン」を実施。男女別のア
ーの競作でフロアごとに異なるデザイ
重視しています。
ンケートへの回答とフードメニューの
ンを施し、また経営経験がありません
現在の若者層はお金がない、セック
注文を条件に半額近い料金で利用でき
からとにかく利用者視点を重視し、ベ
スに積極的でない、と言われていま
るキャンペーンです。2日間限定でホ
ッドと浴槽は集客の基本と考え全室
す。しかし、既婚の中高年層よりも、
ームページからチケットをダウンロー
210㎝ のベッドと500~ 750ℓの浴槽を
自由に使えるお金も時間もある若者層
ドできるようにしたのですが、その利
備え2008年12月にオープンしました。
も少なくありません。確かに料金の安
用が約20組あり、そのうちの数組がリ
オープン後は、リーマンショックで
いホテルのニーズもあります。でも、
ピーターになっています。新規客獲得
業界全体が厳しい状況でしたが、全面
私としては「女性には一緒に遊ぶとき
に有効であり、11 ~ 12月にも第2弾
改装が奏功し順調に売上げを伸ばして
にお金を使う男性を選んでほしいし、
を実施する予定です。
きました。しかし、昨年は大震災の影
男性がお金を使ってくれる女性になっ
また、女子会やシングルユースでも
響もあって低下。今年に入ってから
てほしい」と思う。そういったお客様
利用できる新しいタイプのホテルを目
は、月によって前年比増・減の波があ
に選ばれるホテルにしたいのです。
指しているのですが、女子会は社会的
る状況が続いています。
固定客化の取組み方も、例えば、ポ
なイメージからまだ利用件数が少ない
客単価は8,500円前後で推移してお
イントサービスの景品などは利用回数
のが現状。しかし、ビジネス客のシン
り、周辺より高めながらリピーター比
が多くなっても本当にほしいと思われ
グルユースは徐々に増えています。
率が高く、メンバー登録をしていない
るものを揃えることを重視していま
昨年の大震災後、ホームページに非
リピーターも含めれば固定客は7割強
す。高額のブランド品の交換もありま
常口の場所が分かる平面図を掲載し、
です。ただ、レジャーホテルは利用頻
すが、プラチナ電子ローラー美顔器や
館内にも非常口を示すサインを増やし
度の高い固定客でも、別れれば利用さ
ナノケアドライヤーなど、注目されて
ました。宿泊施設として信頼されるた
れなくなる。リピーターの満足度を高
いるが自分では購入に踏み切れない商
めにも、安心・安全の取り組みはもち
め再来店を促すと同時に新規客の獲得
品は訴求力がありますね。
ろん、それをお客様に伝えることも大
にも注力しようと思っています。
一方、実際には周辺ホテルに比べ突
切だと思っています。
1982 年生まれ。名古屋の TV 制作会社
勤務を経て、2008 年からホテル事業
に就く。「HOTEL The SCENE」
(神奈川・
新横浜)を経営。
LH-NEXT 2012 ● vol.14
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