要旨集 2012, 11/17(Sat)10:00∼ 〈 札幌市立大学 〉 シンポジウム1 『大学と動物園の新たな連携プロジェクト』 ンポジウム2 シ 『野生生物の保全』 2012, 11/18(Sun)10:30∼ 〈 札幌市円山動物園 〉 円 山 動 物 園 の 展 示 紹 介 』 『 『ジェーン・グドール記念講演会』 主 催 :SAGA15 実行委員会 協力:札幌市立大学 札幌市円山動物園 後援:日本動物園水族館協会 札幌市 札幌市教育委員会 Support for African/Asian Great Apes アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い A G A ―目次― スケジュール・プログラム P 2 会場地図 P 4 開催挨拶 P 7 シンポジウム1講演要旨 P 9 シンポジウム2講演要旨 P 19 ポスター発表要旨集 P 24 バス時刻表 P 44 1 《プログラム》 【1 日目】11 月 17 日(土) 於:札幌市立大学 シンポジウム【C201 大講義室】 10:00 オープニング 司会:友永 雅己(京都大学霊長類研究所) 開会挨拶 SAGA 代表 伊谷 原一 (京都大学野生動物研究センター) 学長挨拶 札幌市立大学学長 蓮見 孝 10:20 シンポジウム1「大学と動物園の新たな連携プロジェクト」 基調講演:いま動物園は、何を打ち立てていくべきか 原田 昭(札幌市立大学 デザイン学部、元札幌市立大学学長) 10:50 その1 わくわくと学びを伝える展示デザインの支援 ◆動画配信と SNS を使ったアニマルファミリーシステム 11:10 酒井 正幸(札幌市立大学 デザイン学部) ◆飼育展示施設のデザインについて 斉藤 雅也(札幌市立大学 デザイン学部) 11:50 片山めぐみ(札幌市立大学 デザイン学部) ◆ユニバーサル・サインデザイン 12:10 吉田 和夫(札幌市立大学 デザイン学部) <質疑> 12:20 13:20 <昼食> その2 教育の場としての動物園活用 ◆動物園内の環境教育の場のひとつとしてのビオトープデザイン 13:40 矢部 和夫(札幌市立大学 デザイン学部) ◆飼育員の発話から見た来園者の学びに関する研究 14:00 町田 佳世子(札幌市立大学 デザイン学部) <質疑> 14:05 シンポジウム2「野生生物の保全」 基調講演:北海道と世界の野生動物保全 ‐ 共通する課題と解決策について 14:45 吉田 剛司(酪農学園大学 農食環境学類 環境共生学類) <休憩> 14:55 その1 世界における保全 ◆地域住民による生物多様性保全活動@マレーシア 赤松 里香(NPO エンヴィジョン環境保全事務所) 15:25 ◆野生チンパンジーの過剰な人慣れがもたらす諸問題と対策 ~ too close for comfort ~ 山越 言(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科) 15:55 その2 北海道における保全 ◆ヒトのコントロールが課題!知床における野生動物の保全と管理 16:25 石名坂 豪(公益財団法人 知床財団 研究員) 2 16:55 ◆エゾシカの保全と管理 伊吾田 宏正(酪農学園大学 農食環境学類 環境共生学類) <質疑> 閉会挨拶 SAGA 代表 伊谷 原一 ポスター発表【スカイウェイ】 17:10 ポスター発表(18:30 まで) 18:45 懇親会(20:00 まで) 【2日目】11 月 18 日(日) 於:円山動物園 円山動物園の展示紹介【動物科学館ホール】 10:30 円山動物園の展示紹介 司会:柴田 千賀子(円山動物園) 園長挨拶 札幌市円山動物園長 見上 雄一 10:35 ◆ボルネオオランウータンのこと 吉田 淳一(円山動物園 学芸員・飼育員) 山崎 彩夏(東京農工大学 博士課程) <休憩> 11:20 ◆は虫類・両生類の繁殖 本田 直也(円山動物園 学芸員・飼育員) 12:00 13:15 <昼食> 園内解説タイム 13:15 ~ 13:30 類人猿館 / は虫類・両生類館 13:40 ~ 13:55 類人猿館 / は虫類・両生類館 <園内自由見学> 14:30 プレトーク 松沢 哲郎(京都大学霊長類研究所) 15:00 ジェーン・グドール講演会「Reason for Hope」 Jane Goodall(動物行動学者、国連平和大使) 通訳:松沢 哲郎(京都大学霊長類研究所) 16:50 閉会 ■類人猿の絵画展 11 月 18 日(日) 於:札幌市円山動物園(動物園センター 情報ホール内) 掲示時間:09:00 ~ 16:00 ■ブース出展 11 月 17 日(土) 札幌市市立大学(スカイウェイ) 11 月 18 日(日) 札幌市円山動物園(動物園センター情報ホール内、動物科学館内 出展時間:10:00 ~ 15:00 3 《会場:札幌市立大学》 会場案内図 一般教育棟 E棟(旧専攻科棟) W C 3A 室 究 教員 応接室 ゼ ミ 1 研 室 室 究 研 吹抜 EV 研 4階 ゼ ミ 3 室 究 研 2 ミ ゼ 究室 研 究 究 研 W C 室 アト リエ B 3階 D リエ アト W C 専門教育B棟 コンテンツ デザイン4年 アトリエ 実習室 コンテンツ デザイン3年 アトリエ 研 研 究 室 W C 究 室 EV プラザA 開発研究 室1 研 W C 研 究 研 究 室 究 EV 機械室 塗装樹脂 写真スタジオ 成型室 B1階 版画工房 材料実験室 セラミック 木工準備室 工房 前室 1階 W C プラザA 空間 デザイン4年 アトリエ メディア デザイン4年 アトリエ 吹抜 C-102 WC WC EV 倉庫 控室 WC C-201 レクチャールーム 設備機械室 受水 槽室 電 気 室 学生相談室 倉庫 1A 1B WC 階段教室 学生コミュニティ ルーム 受付 1階 懇親会会場 (クローバーホール) 空調制御室 トレー ニング室 開架閲覧室 特別閲 覧室 教員閲 覧室 EV 吹抜 階段 開架閲覧室 館長室 ポスター発表 ブース展示会場 (スカイウェイ) 観覧席 講演会場 (C201) WC 調整室 学生 スタジオ 専攻科棟へ 世話人控え室 (c102) 資料室 2階 EV 札幌市立大学 芸術の森キャンパス 施設配置図 地下連絡通路 1階 コンピュータ 室3 ラウンジ EV 女 B1階 電気室 保健室 自販機コーナー C-101 WC EV WC 第2消火ポンプ室 第2電気室 ガスメーター室 エントランス 映像編集室1 積層 映像編 映像 造型室 集室3 編集室2 WC WC 管理センター 男 B1階 研究室 第2機械室 メディア デザイン3年 アトリエ 男 C-104 C-103 前室 EV機械室 WC EV 1階 EV 情報システム室 地下 WC EV 女 1階 EV 総務課 経営企画 地域連携 高専事務局 キャリア 支援室 WC WC 印刷室 コンピュータ室 1 WC 2階 給湯室 学生課 EV 女 コンピュータ室 2 2A 2B 収蔵庫 WC EV 男 WC EV EV 談話室 C-301 談話室 C-302 WC 2階 エントランス ホール 製品 デザイン4年 アトリエ ゼミ1 3階 WC 院生アトリエ EV 製品 デザイン3年 アトリエ 倉庫 デザイン 実習室1 吹抜 C棟 3階 WC 空間 デザイン3年 アトリエ 研究室 WC EV 1階 屋上 機械室 2階 倉庫 ポンプ室 院生アトリエ プレゼン ルーム 大型P室 木工室 金工室 大学院棟 2階 WC プラザB 大学院棟へ EV 暗室 大会議室 控室 3階 デザイン 実習室2 倉庫 研究室 金工準備室 EV 専門教育A棟 W C 前室 プラザB 4階 共用実験室 2階 機械室 教材室 電気室 EV機械室 吹抜 室 室 WC EV 吹抜 1階 会議室 室 ゼミ4 究 デザイン 実習室3 3階 秘書室 コンピュータ室 4 W C 研 理事会室 学部長室 学長室 2階 吹抜 講義室1 WC倉庫 事務局長室 EV 屋上 コン ピ 5室 ュータ 講義室2 デザイン 実習室4 本部棟 アト リエ C EV 吹抜 アト リエ A EV 3B 吹抜 放送室 EV機械室 階段 EV ライブラリー 用具室 EV機械室 集密書架 スタジオ ライブラリー シアター 塵芥庫 WC コピー室 WC クラブルーム ミーティングルーム 更衣室 シャワー室 体育用具庫 控室 倉庫 グループ EV 荷解室 学習室 給湯室 大学院棟 EV 電気室 EV ブラウジング アリーナ 第1機械室 消火 ポンプ室 2階 アリーナ ステージ エントランスホール 倉庫 事務室 正面玄関 1階 市道石山 3 号線 B1Fの玄関から外へ出られます 受付・会場(C-201) *学生食堂は閉店しておりますが、昼食を ご持参頂、お食事場所としてご利用頂く ことはできます。 EVで2Fへ 運 動 場 *バス停はエントランスから 200m ほど先 のコンビニエンスストア前にあります。 正面玄関 *地下鉄「真駒内駅」行きのバス時刻表は 最終ページに掲載されています。 4 《会場:札幌市円山動物園》 5 正門 円山公園入ったら左手の道路を進む 「動物園はこちら」のタイルがあります。 樹木の間を歩き・・ 円山公園入口 歩道が狭いです・・ 信号渡って、時計塔 ケンタッキーさん 札幌市円山動物園 地下鉄東西線 住所:札幌市中央区宮ケ丘3番地 円山公園駅 電話:011-621-1426 3番出口 番出口 札幌駅から:地下鉄南北線札幌駅⇒大通駅⇒(東西線乗換)⇒円山公園駅 円山公園駅から:徒歩 15 分 (約 1.2km) < JR 札幌駅から> 1. 地下鉄さっぽろ駅より南北線真駒内行き乗車、2.「大通駅」で乗り換え、東西線宮の沢行き に乗車、3.「円山公園駅」下車 <地下鉄東西線「円山公園駅」から> 徒歩:地下鉄円山公園駅 3 番出口より徒歩 15 分 バス:JR 北海道バス 下鉄円山公園駅バスターミナルから ●〔円 15〕動物園線に乗車、動物園前下車、●〔円 14〕荒井山線に乗車、総合グラウンド前下車、 (いずれも所要時間 8 分) 6 SAGA15 の開催にあって SAGA15 を開催するにあたり、世話人を代表して一言ご挨拶を申し上げます。 SAGAは 1998 年に犬山市で第 1 回目を開催してから、今回で 15 回目を数えます。この間、岡山、 東京、京都、大阪、名古屋、北九州、神奈川、熊本と各地を移動し、今回はついに北海道に上陸す ることになりました。最初は大学や研究機関での開催が主でしたが、6 回目からは動物園と大学の 連携開催という形が定着しつつあります。当初 6 人だった世話人も、今では研究者や動物園関係者 など 35 人に増えています。 SAGA は、”Support for African/Asian Great Apes”(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援 する集い)の略称です。しかし、最近のシンポジウム内容を振り返ると、大型類人猿だけでなく地 球上に生息する多様な動物の研究、飼育、保全が対象になりつつあります。SAGA という名称は、 ”Support for All Great Animals”( 全ての偉大な動物たちを支援する集い ) と読み替えても良いのかも しれません。近年、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンという 3 属の大型類人猿はもちろんで すが、地球上に生存する約 4,500 種の哺乳類のうち、20%以上が絶滅の危機に瀕しています。こ の集いの目的は、そうした動物たちや人を含む動物同士の関係について理解を深めるとともに、野 生での保全や飼育下での福祉を推進することにあるのです。 SAGA では(1)大型類人猿ならびにその生息地の保全のための活動を行う、(2)飼育下の大型 類人猿の「生活の質 (QOL: Quality of Life)」を向上させる、(3)大型類人猿を侵襲的研究の対象と せず、非侵襲的手法による科学的研究によって彼らへの理解を深める、という 3 つの提言を掲げて きました。そして 2006 年に SAGA の大きな目的の一つであった大型類人猿を対象とした侵襲的医 療実験の廃絶が実現し、今年は医療実験施設で飼育される類人猿数がゼロになりました。今後は、 類人猿を含む偉大な動物たちを対象とするエンターテインメント・ビジネスの廃絶と、飼育下にお けるバックヤードの環境改善を推進していくべきでしょう。その一方で、非侵襲的な学際研究を発 展させるとともに、これまでに蓄積された成果や技術を地球上のあらゆる生きものとの調和ある共 存のために活かすべきでしょう。 今回は、国連の平和大使であり、野生チンパンジー研究のパイオニアでもあるジェーン・グドー ル博士が SAGA15 のために来日してくださいます。同博士は SAGA のシンボルともいえる存在で、 SAGA は同博士の活動と共に歩んできたと言っても過言ではないでしょう。これまで何度となく来 日されていますが、北海道を訪問されるのは初めてです。2 日目の円山動物園では同博士の講演も 予定されています。グドール博士の静かながらも、説得力のあるお話しに魅了されてください。 最後に、SAGA15 の開催にあたって札幌市立大学の片山めぐみ先生、札幌市円山動物園の柴田千 賀子さん、そして両機関の関係者の方々には多大なるご尽力を賜りました。この場を借りて深く御 礼申し上げます。また、札幌での SAGA15 の開催を実現させてくれた世話人会ワーキング・グルー プのメンバーにも心より感謝の意を表したいと思います。 平成 24 年 11 月 12 日 SAGA 世話人、京都大学野生動物研究センター 伊谷 原一 7 学長挨拶 第 15 回を迎えられた「SAGA シンポジウム」のご開催、まことにおめでとうございます。 北海道では初めてのご開催とお聞きしました。そしてこの札幌市立大学・芸術の森キャンパスでご 開催いただきますことを誠に光栄と思い、みなさんに感謝申しあげますとともに、心から歓迎いた します。狭いキャンパスではありますが、どうぞ充実したシンポジウムの時間をお過ごしください。 私は、今年の4月からこの大学の学長になった新米です。いつまでも新米と言っていると前任の 原田昭先生から叱られてしまいそうですが、正直に告白いたしますと、SAGA(Support for African / Asian Great Apes)という学術団体が存在することを知りませんでした。 ただ、わたしは動物が大好きで、38 年前の結婚式の時、今はなき父親が式の最後の挨拶で、 「孝(私) は何の取り柄もないけれど、犬猫をはじめ、動物ならなんでもかわいがる。きっと新妻も幸せにす るだろう」などと言って、妻の家族から顰蹙を買っていたことを思い出します。 大型類人猿にももちろん興味があり、2006 年に出版された共著本である「多次元のコミュニケー ション」の第4章「感性によるコミュニケーション」では、京都大学霊長類研究所と東京工業大学 の共同研究チームがおこなった研究を紹介しています。 みなさんよくご存じとは思いますが、それは、ヒトと類人猿の発話特性の類似性に注目したもので す。150 人の大学生を対象に、電話の第一声を記録したところ、目上の先輩から受けた電話では、 多くの場合「あ、」という第1声を発し、目下の後輩からの電話では、「お、」と発する。それが、 類人猿が自分より弱い相手に発する「おっ、おっ」という威嚇の声と、強い相手に発する「あっ、あっ」 という恭順の声と共通しているというものです。 別の本では、類人猿も沈みゆく西日を見て感傷にふける、と書いてありました。私は動物学が専 門ではありませんので、みなさんに笑われてしまうかもしれないのですが、「感性」という認知の 泉には、多くの部分で類人猿や他の動物たちと共有するものがあると信じています。論理は比較的 コンピュータに置き換えられやすいものと思いますが、感性は人工知能をつくる上からも、不可思 議な面が多すぎて、解明しきれていません。 私たちは、人間の思考や理屈で世界を変えてきましたが、その陰で多くの自然の魂、すなわちア ニマを迫害し消し去ってきたのかもしれません。 ぜひ SAGA の有益な活動が、ますます活発に推進され、大きな研究活動の実りを生みますように、 こころから期待をいたします。 最後になってしまいましたが、札幌市立大学では、札幌市営の円山動物園において、大学を挙げ て様々な動物園支援の活動をおこなって参りました。この後の原田先生の講演や本学教員の研究発 表で詳しく紹介していただけるものと思います。そして明日は円山動物園で、展示紹介やジェー ン・グドール博士のご講演も予定されているとお聞きしています。札幌はもう雪の季節になってい きますが、どうかお風邪などめしませんように、充実した2日間をお過ごしください。この度の SAGA15 ご開催にあたり、遠路より札幌にお越しいただき、誠にありがとうございました。 札幌市立大学学長 蓮見 孝 8 《シンポジウム1》 いま動物園は、何を打ち立てていくべきか ー生き物とヒトを繋ぐ公共サービスー 札幌市立大学 デザイン学部 札幌市円山動物園市民動物園会議議長 原田 昭 1.動物園の生き物は市民からの信託物 生き物を市民のファミリーの一員とみなし、動物園がお預かりしている生き物とその市民ファミリーが出 会う場所が動物園であるという 「意識」 を持つことが必要である(アニマルファミリー)。この考えによって 「生 き物と市民とが共に生きてゆく動物園」が誕生する。 2.動物園は生物多様性の保全 動物園にどのような期待を持った人々が訪れてくるのか。生き物とヒトとの関わりを経験、想像する環境 作りが必要。絶滅の危機にある生き物を救うためには、生き物を市民に理解してもらう場として動物園が機 能する。 3.デジタル化動物園の実現 デジタル化ネットワーク技術を活用し、動物園、水族館、植物園、自然公園、博物館、民俗資料館、図書 館、開拓記念館、大学、研究機関、企業等とが連携した社会教育活動へ展開することが必要である。 4.生き物とヒトとの関わりあいのアーカイブの制作 生きている動物ばかりでなく、生き物の生態、行動のデジタル画像、「生き物の骨格標本」、「生き物の文 様」 、 「生き物の音楽」 、 「生き物と玩具」 、「生き物と儀礼」等々の画像アーカイブ制作と展示は生き物と人間 文化とのかかわりを知るうえで大きな資産となる。 5.動物園は生き物の環境への適応力検証の場 生き物は先天的能力ばかりでなく後天的経験によりその行動能力は獲得される。生き物たちにとっても乳 幼児期における環境学習がとりわけ重要な意味を持っている。生き物が生き生きと生活できる環境整備が求 められる。 6.動物園は生き物とヒトとの関わり方をライブで学習する場所 ライブカメラによる画像観察は生き物の真実の世界を知るために有効な方法である。シロクマのツインズ 誕生の際に、母親を驚かさないよう暗視カメラによって赤ちゃんの動きや母親の対応の動画像がHPで放映 され人気を博した。 7.動物園は子どもたちと生き物の体験の場 単に動物を見せるのではなく、1日間子どもたちをお預かりして、餌をやったり、ケージの掃除をしたり、 動物を写生したり、動物を粘土でつくったり、観察日記を書いたり、のような生き物との「体験」を伴った 1日となるような多様なイベントを学校の先生方と共同して提供するプログラムがあってもよい。 8.動物園による地域の活性化 動物園内活動にとどまらず、各地域にあるまちづくりセンター等と協力して、あらゆる町に、動物園情報 パネルを設置して「生き物とまちの関わり」などのイベント情報を配信する等、まちの活性化に積極的に関 わってゆくことが大切であろう。 9.家畜・家禽動物園 野生動物を対象とした動物園ばかりでなく、家畜、家禽といった生き物の人間生活面や産業面での活用の 側面から家畜・家禽動物の科学館としての新たな動物園の可能性が残されている。 9 動画配信と SNS を使ったアニマルファミリーシステム 札幌市立大学 デザイン学部 酒井 正幸 本研究は既存の動物園に ICT(情報技術)を導入することにより動物園の持つ潜在的な魅力を引 き出し、顧客満足度を向上させることを目的とし、札幌市円山動物園を実証実験サイトとしてス タートした。ここでは、動物園を生態展示サービスと捉え、そのサービスの生産性向上という視 点からシステムの構築と実証実験を行った。 一般にVA (Value Analysis) とよばれる価値分析では、価値は次式のようにコストと機能の比で 表される。 価値 (V) = 機能 (F) / コスト (C) 一般に ICT の導入は、分母である人件費等のコスト削減を主目的に実施されるケースが多いが、 本研究では分子である機能(付加価値)の増大をコストを抑えつつ図ることを主目的とした。 報告者らは、付加価値を高める方策として次のようなコンセプトを立案した。 1)顧客ひとりひとりが、園内にそれぞれの顧客にとって特別の動物が存在することにより、自 分自身の動物園という意識を持ってもらうことを狙ったアニマルファミリー制度を ICT 導入 によって強化する。 2)園外からも対象動物のリアルタイム映像が観察可能なライブカメラの設置 3)インタネット上で、顧客と飼育員、および顧客同士がインタラクティブに参加できる動物園 を核としたコミュニティの提供 4)現場で顧客が飼育員を通じて対象動物とのコミュニケーションを図る機会の提供 今回の実証実験の対象動物として、行動展示方式の効果が得られやすいオランウータンを選 定した。 報告者らはこれを「ビフォー・アフター動物園コンセプト」と名づけた。すなわち、園内滞在 時は飼育員を通じた観客と動物と現実的な触れ合い、自宅にあってはインタネットを通じてコミュ ニティサイト、ライブカメラなどの仕組みを利用した仮想的な動物との触れ合いにより、動物園 に行く前も、滞在時も、そして帰った後も動物園を楽しめるというコンセプトである。 今回の一連の実証実験の結果から、ICT は RFID カードによる入退場・顧客管理、SNS サイトや、 携帯メールを通じての顧客への迅速な案内情報提供等、従来の人的サービスに代わり、分母であ るコスト削減に寄与することが示唆された。 一方、分子については、ライブカメラやSNSサイトの導入により、閉園時間後も自宅におい て顧客の動物園への関心を維持するといった、いわば ICT による時間の延長や、自宅にいる顧客 と動物園との距離を短縮する効果があったと考えられる。すなわち、動物園に ICT を導入し、現 場でのリアルな体験にインタネットを通じたバーチャルな体験を付加することにより、顧客満足 度が増幅される可能性が確認された。これは財政的な制約の多い、わが国の動物園にとって、実 現性の高い現実的な顧客満足度向上施策であると考えられる。 (本事業は平成 19 年度経済産業省サービス産業生産性向上支援調査事業として実施した) 10 動物の熱環境に配慮した動物舎のデザイン -飼育・展示環境における温・冷放射デザインの可能性- 札幌市立大学 デザイン学部 斉藤 雅也 最近、わが国の動物園では「環境エンリッチメント」と呼ばれる動物舎内における生体の生活環 境の質を高める工夫が積極的に実践されている。本報告では、札幌市円山動物園にて、環境エンリッ チメントの工夫に加えて動物の熱環境(温・冷放射)に配慮した動物舎デザインを試み、動物の動 きを活性化させ、生体の魅力がより際立ち来園者も高揚感を与えることに成功した実践例を述べる。 2007 ~ 08 年に「類人猿館 屋外放飼場」の改修に関わる機会を得た。事前調査で、夏の屋外放 飼場全体を赤外線放射カメラで撮影すると、改修前は平均表面温度が 50℃(コンクリート表面は 60℃)に達していた。当時、飼育されていたオランウータン(雄:当時 11 歳)は日中、ほとんど 動きがなく 35℃前後の奥の壁面に背中を寄せていたが、強い熱放射の曝露が行動抑制の原因と考 えられた。そこで改修では従来までの熱放射を緩和すべく樹木・池・遊具を配置した。その結果、 全体の表面温度は 30℃以下になり、外気温に近い状態に改善された。改修前後でオランウータン の行動を比較した結果、改修後は改修前の 3 倍の移動距離になった。この行動変化は強い熱放射の 緩和、温・冷放射を放飼場全体に配置したことによると考えられる。 2008 ~ 11 年にかけて「は虫類・両生類館」の新築計画を行なった。爬虫類や両生類は変温動 物のため、熱環境のみならず、光・空気・水環境のコントロールに配慮する必要があった。新築さ れた「は虫類・両生類館」は、日射が直接入る「大型種ゾーン」と人工的に光・熱を管理する「小 中型種ゾーン」に分け、温・冷放射を UV ランプや放射パネルなどによって、飼育員の判断により 生息地の気候のリズムを再現できるようにした。その結果、来園者による爬虫類・両生類の展示デ ザインに対する入館前後の評価では 9 割以上が「個体の美しさ」、「個体の多様さ」など、生体とそ の生息地の気候の関係について理解を示す結果を得た。建物は年間を通してコンクリート躯体の温 度を一定に保つ外断熱工法を採用し、現「は虫類・両生類館(900㎡)」のエネルギー使用量は、旧「爬 虫類館(600㎡)」の 70%程度に抑える省エネルギー効果も得られた。 熱環境に配慮した動物舎のデザインは国内外を通じて事例が少ないので、今後、コンセプトを含 めて普及すると良いと考えられる。その際、空気温湿度のコントロールを優先することが多いが、 屋外は夏の日射遮へい性、室内は壁や窓の断熱性を高めて、温・冷放射(表面温度)を適切にコ ントロールすることによって、対象動物にとって野性下に比較的近い熱環境が再現できることがわ かった。 11 動物園デザインの理論化とデザインマネージメントに関する考察 ー観る人と動物の “ ワクワク ” をかたちにする方法ー 札幌市立大学 デザイン学部 片山 めぐみ 動物園の施設をつくる背景には、“ 観る人のワクワク ” と “ 動物のワクワク ”(動物の居住心理) がある。私自身、“ 見る人のワクワク ” については、設計者および環境心理学の立場から、“ 動物の ワクワク ” については、動物のプロである飼育員や動物行動学者のアイディアをかたちに落とし込 むインタープリターの立場から取組んできた。本発表では、国内外の事例調査と円山動物園リスター トプロジェクトでの経験をふまえ、動物園設計の理論的枠組みとデザインの効果的な進め方につい て考察する。 動物園の来園者は、まず、動物のいる場所まで決められた経路を進む。適切にデザインされた経 路で期待や高揚感が高められることによって、出会った際に受ける動物からの影響は増幅される。 そして、放飼場の前では、まるで生息地に迷い込んだかのように、動物の世界に浸り込みたいと思 うものである。欧米の動物園デザインには、こういった見る人の心理をたくみにかなえてくれる、 動物との心理的・空間的関係性からみた展示デザインが多くある。これらについて理論化を試み、 デザイン事例集を作成した。 動物園主体でプロジェクトを進めるためには、コンセプトが反映されたデザインの選択肢が複数 提示され、誰もが分かるかたちで比較できることが計画の大きな方向性を決める。また、作った環 境の動物行動学的評価(Post Occupancy Evaluation =居住環境評価)を蓄積し、建築学や造園学 として体系化していくことが、同様の施設の質を全国的に高めることにつながる。 最後に、施設デザインの仕上げとして、“ 動物のワクワク ” と見る人の “ ワクワク ” を、異なる立 場(視点)から協同してアプローチする “ デザインの場 ” の創出が重要である。飼育員と設計者な ど、それぞれの目利きが互いの知見をぶつけあって生きた環境づくりを行うことによって、動物を 活かし、その存在を人々のために活かすことにつながるのではないだろうか。円山動物園では、 「評 価グリッド法」というインタビュー手法を用いて展示コンセプトを共有したり、模型を用いて具体 的な形態を確認する工夫を行っている。 12 円山動物園サイン計画について — ユニバーサルデザイン視点/園内景観との調和/楽しさ・期待感の創出 — 札幌市立大学 デザイン学部 吉田 和夫 札幌市立大学では、2009 年から円山動物園と協同で様々な取り組みを行っている。本報告では、 すべての来園者にとってわかりやすい順路の案内を目指して行った「円山動物園サイン計画」の趣 旨・成果を、主にグラフィックデザインの視点から述べる。 幼児から高齢者、車椅子ユーザ、外国人など多様な属性の人々がさまざまな目的で訪れ、それぞ れの時間を過ごす動物園では、サイン計画にも多くの機能性が要求される。本サイン計画では、 「ユ ニバーサルデザイン視点」、「園内景観との調和」、「楽しさ・期待感の創出」の3点に留意した。 「ユニバーサルデザイン視点」では、弱視者への配慮として園内総合マップやその他の表示面に おける文字の大きさ・配色コントラストなどの検討、車いす使用者に向けては立位の場合よりおよ そ 40cm 後退した視距離、視点の高さは立位 156cm/ 車いす 117.5cm の中間値 135cm を基準と して設計している。近年増加してきた外国人観光客に向けては、英語・韓国語・中国語(簡体・繁体) を適宜併記し、低学年児童の学びに合わせては漢字にふりがなを付けている。併せて、ピクトグラ ムの積極的な利用は多くの来園者の直感的な理解を促している。 「園内景観との調和」の観点では、園内に点在する仮設の各種ポスター、催事告知、飼育員手作 りによる楽しい動物ニュースなどとの棲み分けに配慮している。これら仮設情報表示の多くは、賑 やかさ・楽しさを演出するものと位置づけられ、表示方法への配慮は必要だが無くてはならないも のである。サイン表示とこれらとの棲み分けを明快にすることで、園全体としては情報表示方法の 自由度を増し、バランスのとれた景観生成および情報伝達が可能となる。このためサイン本体の意 匠は、円山動物園の主な環境色と言える深緑色を基調として、園内景観に調和しつつ適度な誘目性 を持った落ち着いたデザインとした。 「楽しさ・期待感の創出」としては、動物ピクトグラムの積極的利用と今後の多彩な展開への可 能性があげられる。ピクトグラムは主にユニバーサルデザインの観点で用いているが、楽しさ・期 待感の創出も目的としている。他方、個々の動物種を表したピクトグラムは、円山動物園オリジナ ルの動物イラストレーションとも言える。識別目的でデザインされた動物ピクトグラムに、配色な どによるデザイン要素を付加することで、楽しさ重視型の装飾サインや様々なオリジナルグッズへ の展開なども考えられる。今後の展望として、これらピクトグラムデザインを円山動物園のビジュ アルアイデンティティ形成の一要素として活用したいと考えている。なお、現状 40 点程のピクト グラムを制作しており、今後も充実させていく予定である。 13 動物園内の環境教育の場のひとつとしてのビオトープデザイン 札幌市立大学 デザイン学部 矢部 和夫 1 動物園の森の概要 ≪空間づくり≫ 50 年ほど前、植物も豊かだった円山付近の自然と、札幌の原風景を取り戻す。 (ここで意味する原風景とは、学術的な調査記録や札幌市民の記憶に残っているかつての札幌であ り、また札幌が大きく変わってしまう昭和 47 年の札幌オリンピックの前頃である) ≪活動≫ 身近な環境について学ぶ “ キッカケ ” を提供する環境教育の場とする。 (来園者が動物や植物についてその素晴らしさや大切さを気軽に感じることができる場であり、市 民参加による外来種駆除やガイド活動を行う) ≪管理・運営≫ 今ある生物多様性を最大限に活用した順応的管理を行う。 当面は外来種駆除を行いながら在来種の増加を促す。 管理方針については動物園と協議会(動植物の専門家)とで検討しながら進める。 ≪公開について≫ 現在は主に土曜・日曜・祝日に動物園のドキドキ体験メニューの一環である「森の散策タイム」 でボランティアスタッフによるガイドツアーを行っている。 14 2 ビオトープの管理 ≪森林ビオトープ≫ 現在検証を行っている実験は次の 3 つである:1)林床クマイザサの刈取りによる出現種の増加 効果、2)外来種オオハンゴンソウとイワミツバ除去による在来種回復効果、3)イワミツバと在 来 3 種(オオウバユリ、オオハナウド、コンロンソウ)の競争試験。これらの成果をもとにして、 2 ビオトープの管理 ボランティア事業として、毎年ササ刈取り事業や外来種抜き取り事業を行っている。 ≪森林ビオトープ≫ 現在検証を行っている実験は次の 3 つである:1)林床クマイザサの刈取りによる出現 ≪水辺ビオトープ≫ 種の増加効果、2)外来種オオハンゴンソウとイワミツバ除去による在来種回復効果、 水辺復元の第一歩として、両生類の産卵場所となる止水ビオトープを造成した。造成直後からエ 3)イワミツバと在来 3 種(オオウバユリ、オオハナウド、コンロンソウ)の競争試験。 ゾアカガエルとエゾサンショウウオの産卵が観察された。今後は、上陸後の幼生の成育環境の充実 これらの成果をもとにして、ボランティア事業として、毎年ササ刈取り事業や外来種抜 を図る。 き取り事業を行っている。 流水ビオトープは、円山川流域に残存するニホンザリガニの退避生息地として造成した。園内の枝 ≪水辺ビオトープ≫ 水辺復元の第一歩として、両生類の産卵場所となる止水ビオトープを造成した。造成直 沢から流水ビオトープへ導水し、ニホンザリガニの導入試験を始めている。 後からエゾアカガエルとエゾサンショウウオの産卵が観察された。今後は、上陸後の幼 ≪希少種オオムラサキの保全≫ 生の成育環境の充実を図る。 園内に自生していたエゾエノキ(本種の寄主植物)の稚樹を、本種に利用されやすい動物園の森 流水ビオトープは、円山川流域に残存するニホンザリガニの退避生息地として造成し 林内に移植した。動物園の森に自生するエゾエノキを被圧していたイタヤカエデの枝の一部を切り た。園内の枝沢から流水ビオトープへ導水し、ニホンザリガニの導入試験を始めている。 落とし、日照等の変化がエゾエノキの生育や本種の産卵、死亡要因などに及ぼす影響について継続 ≪希少種オオムラサキの保全≫ 園内に自生していたエゾエノキ(本種の寄主植物)の稚樹を、本種に利用されやすい動 的に調査している。 物園の森林内に移植した。動物園の森に自生するエゾエノキを被圧していたイタヤカエ デの枝の一部を切り落とし、日照等の変化がエゾエノキの生育や本種の産卵、死亡要因 3 ボランティアの活動内容 などに及ぼす影響について継続的に調査している。 ・「森の散策タイム」のガイド(年 100 回程度、ガイド従事者は毎回約 3 人) ・外来種駆除作業(年間 15 日程度) 3 ボランティアの活動内容 ・「森の散策タイム」のガイド(年 100 回程度、ガイド従事者は毎回約 3 人) ・イベントの実施(自由散策やその他単発的なもの) ・外来種駆除作業(年間 15 日程度) ・植物調査(通年で、動物園の森内にある植物の生息状況をリスト化) ・イベントの実施(自由散策やその他単発的なもの) ・講習会等による学習(年 4 回程度、その時に応じてボランティアが興味のあるものを自分 ・植物調査(通年で、動物園の森内にある植物の生息状況をリスト化) 達で開催) ・講習会等による学習(年 4 回程度、その時に応じてボランティアが興味のあるも ・登録者数:37 人(平成 24 年のを自分達で開催) 11 月 1 日現在) ・登録者数:37 人(平成 24 年 11 月 1 日現在) 4 来園者数と動物園の森入場者数 4 来園者数と動物園の森入場者数 H22 H23 H24 動物園の森 795 622 529 (散策タイム) 574,425 人 動物園入園者数 832,419 人 791,754 人 (4 月~10 月) ※「森の散策タイム」は毎回 15 名限定のガイドツアー ※ H24 では自由散策日を 2 回実施しており、その際の入場者数は計 982 名 ※「森の散策タイム」は毎回 15 名限定のガイドツアー ※ H24 では自由散策日を 2 回実施しており、その際の入場者数は計 982 名 15 !"!!!% 飼育員の発話から見た来園者の学びに関する研究 札幌市立大学 デザイン学部 町田 佳世子 !"!!!% SAGA15 シンポジウム1 大学と動物園の新たな連携プロジェクト 教育の場としての動物園活用 町田佳世子*1・河村奈美子*2・柴田千賀子*3・千葉司*3・石橋佑規*3 *1 札幌市立大学 *2 大分大学 *3札幌市円山動物園 (科研費23501226) 飼育員とともに飼育作業を体験する超人気プログラム 体験終了後 大人の参加者にインタビュー 対象:おとな(16歳以上)子ども(小学校4∼6年生) 約4倍 約7倍 内容:獣舎の清掃、 の準備など 時間: 9:00 ∼12:00 飼育体験 13:00 ∼14:30 動物病院見学やレクチャー 開催時期:おとな(夏季1回、冬季2回 各10人) こども(夏休み4回各22人、冬休み4回各10人) 一 日 い く が か り ☆体験の感想を自由に お話ください 合計23名(協力率77%) (男性5名 女性18名) ! Ëßëib%v3:oz xqÕ'Ä QFNXBRVö sÃ6sÃ%Ø~=¦ : sà PI@?'ò÷sÃ"'¿1:íeø sÃ6×lÚc·% し !"!!!% '` ÷sº$#ø 8% c·j¡ 15% ×l'ËÛ u 18% á8;:"\ !"!!!% ôÖ 52% " ¥sà 7% 95+$2.% 6#4!" 95+$)-#78 飼 育 員 20107³d'1°ôÖe2°ì 201011³^'1°ôÖe2°ì ®['Ëß. ÷3±ìø '.28| ªIXE% l¶÷A4Â700OXCø さ ん !"!!!% # sÃ4×l8É:¹m: ×l8É:3% ôÖ(sÃ"# í< : 加者 参 ×l(sÃ"# í<:=Ô: 16 $ sÃ4×l8É:¹m: ×l8É:3% ôÖ(sÃ"# í< : !"!!!% 加者 参 ×l(sÃ"# í<:=Ô: !! MU" 'Îâ6_],9 !! sÃ-' !! ôÖ·t' $¢ úùêÉsÃ%" !"!!!% WsÃ'sÃ(< $ :¡!4$ érg &$§î !! sÃ"' $äð !! ôÖ'Æ '11%$8$(*7 !! »"''´ñ W+; % WôÖ"sÃ(åz ^ì(DJTD!: ´Ì%(8(h8%¸<;$æ[$ '!çn% 6 ¸ ";4DJTD %$91 ûùêÉsÃ"å:"($ !"!!!% & üùêÉsÃ(#>$$sÃ!4wï!: 44h'=Û :>!7&õ= 6 :8$>!#&!4¥²< 8iÁÛ}4$!7&´%k 4'$" ÷HTLÊÑ=Û :"øsÃ"å:> $" 5$!å:<$ >!8# Ô 444^ì { l9z $'%£ :" '(Ö ;8! 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約の付属書に記載されることが「保護」である勘違いする傾向も強い。 熱帯地域に比べると外来動物の定着数は少ない北海道であるが、北海道の生態系と農林業は意外 と脆弱であり、繁殖力が強い外来動物の導入による影響は極めて大きい。特に本州以南の動物が道 内に定着していることは楽観視すべきでない。 また最近での大きな課題として、札幌都市圏にシカやクマが頻繁に出没する。Urban deer はアメ リカでもヨーロッパでも抱える大きな問題であり、さらにアフリカ、アジア各地でも都市圏や住宅 街で野生動物が増えて人間社会との軋轢が激増しつつある。 今後は、北海道で地域社会と野生動物との共生を可能とする社会形成こそ世界の野生動物保全の モデルにもなり得る。 19 地域住民による生物多様性保全活動@マレーシア 特定非営利活動法人 EnVision 環境保全事務所 赤松 里香 マレーシア、サバ州(ボルネオ)には、オランウータンを含む10種類の霊長類が同所的に生息 するといわれている地域があります。州を東西に横断するように流れるキナバタンガン川の下流域 です。 ボルネオが生物多様性の高い地域、と言われて久しく、行政、研究者、国内外の NGO の方々によっ て多くの努力が傾けられていますが、依然として、アブラヤシプランテーションの拡大等によって、 野生動植物の生息地は、質・量ともに減少に歯止めがかけられません。 そうした中で、地域の自然を保全し、再生し、うまく利用することで生計を立てようとしている バトゥプティという村があります。その活動は、住民主体の生息地保全活動として、さらに、熱帯 雨林再生活動として、多くの賛同と称賛を得、サバ州内外から広く注目を集めています。今回は、 その活動についてご紹介させていただきたいと思います。 20 野生チンパンジーの過剰な人慣れがもたらす諸問題と対策 ~ Too close for comfort ~ 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 山越 言 ヒトは太古より、狩猟採集・牧畜・農耕といった生業に対応して、大型野生獣との間に追跡、忌避、 馴致、依存といったさまざまな関係を築いてきた。ヒト側が野生獣との近接関係を維持し許容する 関係としては、家畜化のプロセス、宗教的禁忌に基づく許容などが挙げられよう。さらに近代以降 には、動物生態学者による野生個体群の観察や、野生動物観光・エコツーリズムという関係のあり 方が新たに加わった。 ギニア共和国ボッソウ村は、村人から祖霊の化身と信じられている野生チンパンジーが、村落周 辺の里山的森林に生息していることで世界にその名を知られてきた。奈良公園のシカと同様に、宗 教的禁忌により野生動物が人の生活と隣接して生息することを許されている一事例である。 ギニアの独立後の 1960 年代以降、人の接近を怖れないため観察が容易なボッソウのチンパンジー を対象に、さまざまな研究が行われてきた。1976 年以降は、京都大学の研究チームが今日まで長 期継続研究を行っている。研究成果が世に知られるにつれ、チンパンジーを観察したいという観光 客も同村を頻繁に訪れるようになった。ボッソウ村の人とチンパンジーの距離関係は、現在、村人 の伝統的な禁忌に基づく近接関係を基盤インフラとして、やはり動物との接近を求める研究者や観 光客が混在した複雑な様相を示している。 現在ボッソウの野生チンパンジー個体群では、人獣共通感染症の潜在的脅威、村人に対するチン パンジーの攻撃事例の増加、畑荒らしの被害の増加、移入個体の不在による個体群の高齢化といっ た保全上の諸問題が顕在化している。いずれもその根本原因として、過剰な人慣れが想定されるた め、これ以上の人慣れを防ぐための早急な対策が求められる。研究目的であれ観光目的であれ、意 図して人と大型野生獣との距離を縮めようとする場合には、人慣れのネガティヴな側面に配慮した、 慎重な倫理デザインが必要である。 21 ヒトのコントロールが課題! 知床における野生動物の保全と管理 公益財団法人 知床財団 石名坂 豪 北海道の北東端にある知床半島は、オホーツク海に突き出た長さ約 70 km、幅約 20 km の細長 い急峻な半島である。中央部には標高 1500 m 級の脊梁山脈が連なっており、半島の東側(羅臼町) と西側(斜里町)とでは気候や生物相が異なっている。同半島はその「生態系」と「生物多様性」 が評価され、2005 年に国内 3 番目の世界自然遺産に登録された。世界遺産登録エリアは半島先端 寄りの計 710 km2(陸域 386.3 km2・海域 223.5 km2)であるが、陸域は札幌市の面積の 34.5 % 程度で、けして広大とは言えない。多数の野生動物がこの狭い半島に生息しているが、同じエリア を年間約 120 万人の観光客が訪れ、1 万 9 千人の住民も暮らしているため、野生動物とヒトとの 間には様々な問題が発生している。ここでは、陸域のヒグマ、海域のトドを例に挙げ、野生動物の 保全や管理のためには、野生動物自体の管理よりも、ヒトの行動などの管理の方が重要かつ困難な ケースが多いことをお話ししたい。 知床半島において最近発生している問題のうち、陸域のヒグマが関係するものとしては、1)ヒ グマの人馴れ、2)ヒトのヒグマ慣れ、3)ヒグマの餌付け(生ゴミの屋外放置や不法投棄など非意 図的な場合も含む)の 3 つが、海域のトドが関係する問題としては、4)トドの個体数回復や魚類 の資源状態の変化に伴う漁業被害増加、5)小定置網などの漁業活動に伴うトドの混獲死亡、6)お そらく混獲死亡後に合法的に沖合で投棄された後、海岸に漂着したトド死体へのヒグマの執着など が挙げられる。 詳細は当要旨では割愛するが、これらの問題解決のためには、地道な普及啓蒙活動や教育活動の 継続だけでは不十分であると考えている。ヒトの望ましくない行動を抑制し、あるいは望ましい方 向へと誘導するための法律や条例などの整備や、対応するための人員体制拡充などの施策が、是非 とも必要である。 22 エゾシカの保全と管理 2012/11/12 酪農学園大学 農食環境学類 環境共生学類 伊吾田 宏正 絶滅寸前から爆発的増加へ エゾシカの保全と管理 • • • • • 1900年 エゾシカ猟解禁,乱獲 1903年 記録的大雪→大量死 1920 年 再び全面禁猟(その後37年間) 1957年 オスジカ猟解禁 1990年代 爆発的増加(保護政策・少雪・オオカミ絶滅・生 息地改変)による農林業被害の激化 • 1994年 メスジカ猟も解禁 140,000 6,000 捕獲数 被害額 捕獲数 100,000 80,000 禁猟 2,000 1,000 20,000 農林業被害額(百万円) 0 0 1870 1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 北海道資料 4,000 3,000 60,000 40,000 酪農学園大学 狩猟管理学研究室 伊吾田宏正 5,000 被害額(百万円) 120,000 アーバンディア問題 7000 札幌市でも年間30件以 上の出没例 6000 警官が警棒と 縄で「逮捕」! 5000 4000 3000 2000 1000 0 H1 H3 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 H19 H21 H23 2007/11/1札幌市白石区 (産経新聞より) 絶滅危惧種”hunter nippon” シカを減らすには 現状は・・・ • 繁殖率が高い • 自然死亡率が低い • 豪雪が少ない 減る要素が殆どない。 • ハンターは減少 • 捕食者が殆どいない 趣味のハンターに依存した現体制には限界がある • 年率( 1979-2008年)平均3.6%で減少 現 10年後 在 69% 20年後 48% 40年後 24% →新しい個体数管理の枠組みが必要! 1979 1983 1987 1991 1995 1999 2003 2007 2011 2015 2019 2023 2027 2031 2035 2039 2043 2047 500000 450000 400000 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0 09/10/26札幌市中央区中島公園 (北海道新聞より) 第1種銃猟免許所持者数 23 1 《ポスター発表要旨集》 (17 日(土)於:札幌市立大学 スカイウェイ) 発表 発表 グ 番号 ルー プ 筆頭発表者 所属 発表タイトル 1 A 井上 紗奈 (株)林原類人猿研究センター オスのチンパンジーにとって魅力的なのは? 2 A 林 煜欽 慶應義塾大学医学部生理学教室 iPS細胞及び精子幹細胞技術を用いた霊長類遺伝子資源の保存 行動観察を補助するアンドロイドアプリの紹介 3 A 小倉 匡俊 京都大学野生動物研究センター・日本 学術振興会 4 A 江草 真治 広島市安佐動物公園 チンパンジー舎放飼場の改修工事について 5 A 早川 卓志 京都大学霊長類研究所 オランウータンにも苦味感覚の地域差があるか? 6 A 蔦谷 匠 東京大大学院 新領域創成科学研究科 炭素・窒素同位体分析を利用した飼育条件下チンパンジーの食性復元 先端生命科学専攻 7 A 堀田 里佳 札幌市立大学大学院デザイン研究科 円山動物園チンパンジータワーの樹上空間再現性評価の試み 8 A 黒澤 圭貴 立命館大学経済学部 チンパンジーは自分の選択の正誤を判断しているか? 9 A 長野 秀美 京都大学農学部 パパ・ママ・コドモは三者三様〜アミメキリンの行動調査〜 10 A 渡邉 祥平 京都大学霊長類研究所 新チンパンジー大型ケージの紹介 11 A 久川 智恵美 わんぱーくこうちアニマルランド チンパンジーの皮膚及び口腔内常在菌の検索について(予報) チンパンジーにおける数の大小の相対比較 12 A 友永雅己 13 A 石塚 真太郎 京都大学農学部 京都大学霊長類研究所 京都市動物園のチンパンジーにおける行動と個体間関係における調査 14 A 平賀 真紀 横浜市立よこはま動物園ズーラシア 飼育チンパンジーの繁殖に伴う群れの個体間関係と行動の変化 15 A 戸田 克樹 鹿児島大学農学部 飼育下チンパンジーおよびゴリラにおける性格評価と糞便中コルチゾル濃 度との関連 16 A 西村 剛 京都大学霊長類研究所 チンパンジーにおける鼻腔の生理学的機能に関する数値流体力学的 京都大学霊長類研究所 人類進化モデ 老齢チンパンジーの慢性便滞留による腹囲膨満に対するコロンハイドロセ ル研究センター ラピー(大腸洗浄法)の試み 双子のチンパンジーの比較発達研究における高知県立のいち動物公園の 高知県立のいち動物公園 協同体制 17 A 渡邉 朗野 18 A 山田 信宏 19 A 藤澤 加悦 よこはま動物園 インドゾウの夜間行動の発達にともなう変化 20 A 森 ことの 岐阜大学応用生物科学部 物理的、社会的環境の変化がチンパンジーの行動に与える影響評価 21 A 有賀 菜津美 日本大学生物資源科学部 放飼場の改修工事がチンパンジーに与える影響評価 ―利用場所につい て― 22 A 平栗 明実 日本大学生物資源科学部 チンパンジーの群れ再編に伴う社会関係の変化 23 A 長尾 充徳 京都市動物園 ニシゴリラの健康管理のための心音測定 24 A 藤森 唯 京都大学霊長類研究所 エンリッチメントへの取り組みにおける加齢の影響 25 A 山梨 裕美 京都大学霊長類研究所・日本学術振興 チンパンジーの体毛からストレスを測る 会 26 A 秋吉 由佳 岐阜大学応用生物科学部 チンパンジーの発達に伴う社会関係の変化~最近接個体の縦断的解析~ 27 A 加藤 洋子 千葉市動物公園 夜間同居時に発生した地震に対する飼育チンパンジーの反応 28 A 加藤 洋子 千葉市動物公園 金環日食における飼育チンパンジーの行動:MLを活用した日本国内7園館 の比較 29 A 平田 聡 京都大学霊長類研究所 熊本サンクチュアリ「比較認知科学実験用大型ケージ」の完成と稼働 30 A 木村 元大 岐阜大学応用生物科学部 ふたごチンパンジーの成長にともなう社会関係の変化 31 B Yena Kim Primate Research Institute, Kyoto University Orangutans do not benefit others 32 B 打越 万喜子 京都大学霊長類研究所 第1回国際テナガザル飼育管理会議 参加報告 33 B 櫻庭 陽子 京都大学霊長類研究所 障がいをもつチンパンジーにおける認知課題のリハビリテーションへの応 用 34 B 村松 明穂 京都大学 霊長類研究所 チンパンジーとヒトの作業記憶課題における年齢変化 24 発表 発表 グ 番号 ルー プ 筆頭発表者 35 B 落合 知美 京都大学霊長類研究所 類人猿の飼育履歴:GAINウェブサイトの紹介 36 B 田中 正之 京都大学野生動物研究センター 京都大学野生動物研究センターと京都市動物園の連携の4年間 王子動物園のアビシニアコロブス集団における母、子、他のメスの関係に 出産が及ぼす影響 所属 発表タイトル 37 B 大井 裕典 大阪大学人間科学部比較行動学研究 分野 38 B 山内 直朗 日立市かみね動物園 チンパンジーの人工保育個体の群れ復帰について 39 B 吉川 翠 東京農工大学大学院 自動撮影カメラを用いたチンパンジーとその採食競合者の調査 40 B 島田 かなえ 岐阜大学応用生物科学部 集団編成が飼育下チンパンジーの社会行動に与える影響 41 B 森村 成樹 京都大学野生動物研究センター 熊本 サンクチュアリ 42 B 市野 悦子 京都大学霊長類研究所 チンパンジーの夜間の最近接距離個体(NN)調査:就眠場所の記録 43 B 鵜殿 俊史 京都大学 野生動物研究センター 熊 本サンクチュアリ 歩行障害および呼吸困難を呈したチンパンジーの子宮内膜症疑い例 44 B 花塚 優貴 中央大学大学院文学研究科 iPadを用いたオランウータンの描画行動を探る試み 飼育チンパンジーの複雄複雌の群れ作り事例 チンパンジー飼育施設をむすぶ連結ケージの導入 45 B 廣澤 麻里 京都大学野生動物研究センター 熊本 サンクチュアリ 46 B 三家 詩織 京都大学 野生動物研究センター ニシゴリラ乳児の発達に伴う養育者との関係性の変化 47 B 片山 洸彰 大阪大学人間科学部 王子動物園のチャップマンシマウマにおける行動の発達的変化 48 B 佐藤 杏奈 京都大学霊長類研究所 サルは赤ちゃんが好き?~霊長類における乳児画像への選好性の検討~ 49 B 久世 濃子 京都大学野生動物研究センター リハビリタントの雌オランウータンの繁殖に影響する要因:若い初産年齢と 短い出産間隔 50 B 鈴木 健太 岐阜大学 応用生物科学部 チンパンジーに対する認知的エンリッチメント:東山動植物園での3年間の 活動 51 B 大崎 康平 NPO法人市民ZOOネットワーク エンリッチメント大賞2012の紹介 52 B 綿貫 宏史朗 京都大学霊長類研究所 日本におけるチンパンジーの飼育下個体群の変遷 53 B 大橋 岳 ボッソウからリベリアの森へ 54 B 野田 龍之介 岐阜大学 地域科学部 NPO法人東山動物園くらぶの名古屋市東山動物園における協働事業「公 開セミナー」の紹介 55 B 久保 統生 岐阜大学 応用生物科学部 名古屋市東山動物園における協働事業「東山こどもガイド」の紹介 56 B 夏目 尊好 京都大学霊長類研究所 ニホンザル飼育環境への植物導入の取り組み 57 B 橋本 直子 京都大学霊長類研究所 飼育下ニホンザルにおける正の強化トレーニングを用いた福祉向上の取り 組み 58 B 河村 あゆみ 京都市動物園 飼育課 東アフリカ・タンザニア連合共和国における野生動物生息地研修報告 59 B 髙木 直子 キリンの健康管理としての体重測定と発達の指標 60 B 座間 耕一郎 (株)林原 類人猿研究センター 飼育チンパンジーの寝相の季節変化 61 B 奥村 太基 名古屋市東山動物園における協働事業「東山動物園プレ検定」の紹介 財団法人日本モンキーセンター 京都市動物園 飼育課 岐阜大学 応用生物科学部 25 #01 #03 オスのチンパンジーにとって魅力的なのは? 行動観察を補助するアンドロイドアプリの紹介 井上紗奈((株)林原類人猿研究センター) 小倉匡俊(京都大学野生動物研究センター・日本学 チンパンジーにおいてメスの性皮腫脹は、性的状 術振興会) 態(最大腫脹付近は排卵期)を示す指標となってい 飼育動物への環境エンリッチメントの実施には、 る。本研究では、性皮腫脹の有無によって個体選好 行動観察に基づいた評価が欠かせない。従来、行動 がおきるか視線検出装置を使って検討した。5 個体(オ 観察の結果は紙媒体に手書きで記録されてきた。ま ス 2、メス 3)を被験対象とし、対象と面識のないメ た、分析のためには観察終了後に改めてコンピュー ス 3 個体の画像を実験にもちいた。性皮腫脹のある ターに入力する必要があった。この方法は導入コス 画像 (S:1 個体 ) とない画像 (NS:2 個体 ) を同時に トが低く開始が容易である反面、紛失や破損をしや モニタ呈示し、視線を抽出した。訓練では性皮部分 すい、記録した結果の共有が難しい、入力に時間が が写っている画像、テストでは写っていない画像を かかるなどといった短所もあった。そこで、これら もちいた。その結果、オスにおいて、訓練では S へ の点を解決するため、行動観察用のアプリケーショ の注視量が NS より多かったが、テストでは反応が逆 ンを開発した。本アプリケーションはアンドロイド 転した。また、どの画像を最初に注視したか調べると、 スマートフォン/タブレット上で動作し、瞬間サン 訓練では NS への注視が S より多かったが、テストで プリングで行動記録をおこなうことができる。観察 は反応が逆転した。メスではいずれも差はなかった。 者が自作した行動目録から行動を選択して記録する よってオスは、訓練で個体の性的状態を弁別したう ことができ、記録時刻や GPS を利用した位置情報な えで、テスト時に個体の観察を変えていることがわ どは自動的に記録される。記録したデータはエクセ かった。またその変化は、訓練 ~ テスト間の実際の ルで編集可能な形式で保存される。本アプリケーショ 時間経過に基づいている可能性が示唆された。 ン を 無 料 で 公 開 し た(http://goo.gl/8Al9Y) た め、 飼育動物や野生環境で暮らす動物の行動観察に利用 されることを期待している。 #02 iPS 細胞及び精子幹細胞技術を用いた霊長類遺伝子資 源の保存 #04 林煜欽、今村公紀、岡野ジェイムス洋尚、岡野栄之(慶 チンパンジー舎放飼場の改修工事について 應義塾大学医学部生理学教室)、松永英治、田岡三希、 江草真治(広島市安佐動物公園) 入来篤史(RIKEN BSI)、今井啓雄、平井 啓久(京都 広島市安佐動物公園では,チンパンジーの群れ飼 大学霊長類研究所)、佐々木えりか(実験動物中央所) 育の実現を目指し,現在 , 雄 2 頭,雌 3 頭を飼育し 希少な霊長類動物種の遺伝的多様性を保つことを ている . しかし , 従来の施設は放飼場が狭く,来園者 考えた際、既存の遺伝子資源の保存は重要な任務の から 180°囲まれる構造であり,来園者の視線から逃 一つである。我々は霊長類遺伝子資源を保存するた れることのできる場所や障害物がなかったため,遠 めの手法として、マーモセット・ニホンザル・チン 足などの団体来園者に取り囲まれたり,工事などの パンジーをモデルケースに二つの細胞生物学的アプ 車両の通行などにより刺激を受けた大人雄は頻繁に ローチについて検証を行っている。まず一つ目の方 興奮し,雌達は絶えず緊張を強いられていた.そこ 法として、チンパンジー繊維芽細胞からの iPS 細胞 でチンパンジーの群れの安定化を図るために,放飼 の作成を行っている。また、二つ目の方法としては、 場のモートを土で埋め全体を金網で囲い,これまで 上記 3 種の霊長類成体精巣を用いた精子幹細胞の長 脱出防止のためのチンパンジーにとって利用するこ 期培養についても試みている。自己複製能を有する とのできなかった空間をすべて利用可能とする改修 iPS 細胞および精子幹細胞の培養と、それらの細胞を 工事を行った.工事は 2011 年 12 月から3か月半を 利用した精子形成が実現すれば、細胞の由来となっ 要した.新しい放飼場は,幅 25m,奥行き 13m,高 た霊長類個体の遺伝子情報を持つ精子を半永久的に さ 10m のケージで囲まれ,内部には高さ 10m のタ 産出することが可能となる。将来的には、これらの ワーを4基配し,多数の丸太や消防ホースを設置す 精子と生殖補助医療技術の適用によって、霊長類の ることにより空間全体をチンパンジーが利用できる 人工繁殖に貢献し得るものと期待している。 ようにした.また放飼場前面下部を強化ガラスにし 26 て,来園者の観覧スペースを確保した。 食事の観察,および,毛と糞の分析の結果,母乳摂 取量や個体ごとの食物の好みを,体組織の同位体分 析データから推定できる可能性が示唆された. #05 オランウータンにも苦味感覚の地域差があるか? 早川卓志(京都大学霊長類研究所、日本学術振興会)、 #07 今井啓雄、郷康広(京都大学霊長類研究所) 円山動物園チンパンジータワーの樹上空間再現性評 苦味の受容は食物の良し悪しを区別する、動物に 価の試み とって無くてはならない感覚の一つである。私たち 堀田里佳、羽深久夫(札幌市立大学大学院デザイン はこれまでの研究において、チンパンジーはその苦 研究科) 味受容体遺伝子が地域間(亜種間)でよく分化して 1998 年に筆者らは京都大学霊長類研究所の協力を おり、採食環境の違いに適応して苦味感覚を進化さ 得て札幌市円山動物園チンパンジー館の設計を行い、 せた可能性があることを示した。チンパンジーの亜 環境エンリッチメントの観点から屋外に 15 m、室内 種は赤道アフリカを流れる河川などに地域集団が分 に 8 mと 6.5 mのタワーを設置した。2000 年の施設 断されて生じたものであるが、同じ大型類人猿であ オープン後 12 年が経過し、現在は新施設で誕生し成 るオランウータンにも、東南アジアのボルネオ島と 長した個体も含め 10 人のチンパンジーが暮らしてい スマトラ島とに隔離された種が存在する。本研究で る。本研究は空間デザインの観点からタワーを構成 は、ボルネオおよびスマトラオランウータンそれぞ 材料や形態により約 70 の要素に分解し、動物園観客 れ 5 個体の全ゲノム配列データを利用して、苦味受 の目にとまりやすい身体運動を伴う三次元行動が発 容体遺伝子の地域差を同定することを試みた。その 現する際にタワーのどの要素が使用されているかに 結果、チンパンジーと同様に明瞭な地域分化が存在 着目して行動調査を行い、その結果を数値化し分析 することを検出した。このように、アフリカのチン することにより樹上性類人猿のエンリッチメントに パンジーとアジアのオランウータンで、独立に生じ 実践的に役立つ情報を提供することを目的としてい ている苦味感覚の地域差の進化について、その生態 る。今年度は最適な調査方法を抽出するための予備 学的意義を考察する。 調査として、11 日間延べ 25 時間に渡りチンパンジー の屋外タワー上での行動を画像撮影しその一部をサ #06 ンプルに樹上率の計算、全行動のカテゴリー分類と 炭素・窒素同位体分析を利用した飼育条件下チンパ 継続時間、各行動に使われたタワー構成要素の記録 ンジーの食性復元 を行った。その結果 70 ~ 100%という極めて高い樹 蔦谷匠(東京大大学院 新領域創成科学研究科 先端生 上率が得られ、またタワー上での三次元行動の際に 命科学専攻)、近藤裕治、山本光陽 ( 名古屋市東山動 利用される頻度の高い要素の傾向も把握された。 物園 )、米田穣 ( 東京大学 ) 食物の炭素・窒素同位体比は,C3 植物や陸上哺乳 #08 類といった大きなカテゴリーごとに特有の値をとる チンパンジーは自分の選択の正誤を判断しているか? ことが知られており,それらの消費者の体組織がど 黒澤圭貴(立命館大学経済学部)、川口ゆり(京都大 のような値をとるか調べることで,実際に摂取され 学文学部)、友永雅己(京都大学霊長類研究所) た食物の割合を定量的に推定できる.同位体分析を 認知課題中のチンパンジーでは、チャイムなどの 用いた食性復元は,動物生態学や考古学において多 外部からの正誤フィードバックに対して情動反応を 用されてきたが,大型類人猿を対象にしたものはそ 示すことが知られている。このような正誤フィード れほど多くない.また,野外での応用研究の結果を バック後の チンパンジーの行動は数多く研究されて 詳細に議論するためには,霊長類における同位体の いるのに対し、正誤フィードバックが与えられるよ 挙動を理解するための基礎的な研究も必要である. り以前の行動に焦点を当てた研究は、今までなされ 本研究は,同位体分析による食生態復元の基礎的な ていない。チンパ ンジーは自分の選択反応の正誤を 知見を得ることを目的に.名古屋市東山動物園に飼 自分で判断しているのだろうか。そこで本研究では、 育されているチンパンジーの群れを対象にして,行 チンパンジー 1 個 体(アイ)を対象に、認知課題に 動観察と同位体分析を同時に行なった.母子接触と 対する選択反応と正誤フィードバックの間に遅延時 27 間を挿入し、そこでの行動の分析を行った。その結果、 れまで使用していたサンルームを、比較認知科学実 アイは、課題に正解 した場合には、正誤フィードバッ 験用大型ケージに改修したので紹介する。これまで クより前に報酬を供給する給餌器を確認する行動の サンルームの既存屋根部分の金網が一重であったた 割合が増加し、不正解の場合はその割合が低下する め、チンパンジーが金網等に接触することを制限し という行動パターンを示 した。このことから、アイは、 ていた。今回の改修により、既存屋根部分の鉄骨・ 正誤フィードバック以前にある程度の課題の正誤を 金網を撤去し、空間を垂直方向に伸長し高さ約 13 m 自分の中で判断していることが強く示唆された。 となり、さらに金網を二重化にしたことで、ケージ 内の空間が拡大し、また最大限に利用が可能となっ た。ケージ上部に実験スペースを設置したことで、 #09 研究者がチンパンジーを実験ブースに連れて行かな パパ・ママ・コドモは三者三様〜アミメキリンの行 くても、実験に参加できるようになった。またチン 動調査〜 パンジーが好きなときに実験ブースを使えるという 長野秀美(京都大学農学部)、高木直子、岡部光太、 エンリッチメント効果をねらった。2012 年 5 月 24 塩田幸弘(京都市動物園)、田中正之(京都大学野生 日から大型ケージの終日利用を開始している。 動物研究センター) 京都市動物園では、現在飼育中のキリンのペアで これまでに 3 度の繁殖に成功しており、現在もメス #11 が第 4 子を妊娠中である。繁殖に成功しているキリ チンパンジーの皮膚及び口腔内常在菌の検索につい ンの放飼場での行動を知ることは、より良い飼育環 て ( 予報 ) 境を考える一助となる。観察個体は、アミメキリン ( 成 久川智恵美、早川大輔、吉川貴臣(わんぱーくこう 獣雄 1 頭、成獣雌 1 頭、幼獣雌 1 頭 ) の計 3 頭である。 ちアニマルランド)、鵜殿俊史、森村成樹(京都大学 観察は 2012 年 5 月から 10 月に、3 頭が同一の野外 野生動物研究センター 熊本サンクチュアリ) 放飼場にいる 9 時から 16 時の間に行った。1 分間 群れ飼育のチンパンジーでは、咬傷により皮膚裂 隔のスキャンサンプリングにより、3 頭の行動と位 創が生じることが多い。皮膚裂創に対する有効な抗 置を記録し、併せて行動の記録も行なった。合計約 菌剤選択のためには口腔内、皮膚表面などに常在す 34 時間の観察により、個体ごとに他の個体には見ら る細菌種の特定が必要であるが、これまで報告例が れない特異的な行動パターンが記録された。オスは、 なかった。そこで今回、口腔内、皮膚表面、皮膚裂 設置された樹の枝を角で突く行動をとった。メスは 創の優勢菌を検索し、同時に薬剤感受性調査を実施 餌がなくなると歩行距離が長くなった。幼獣は地面 した。京都大学野生動物研究センター熊本サンク の草を抜く頻度と、水を飲む頻度が高かった。個体 チュアリで飼育されているチンパンジー 12 個体から 間距離は母子間で常に、最も近く保っていることが 口腔内、項部皮膚、下腿後面皮膚の、2 個体から皮 分かった。社会行動は、母子間や父母間では頻繁に、 膚裂創の、それぞれスワブを採取した。口腔からは また、父子間でも観察され、個体同士が密に影響を Neisseria sp.、α -Streptococcus など、項部皮膚から 及ぼし合っていることが示唆された。 は MSCNS ( メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブド ウ球菌 )、MSSA ( メチシリン感受性黄色ブドウ球菌 ) など、下腿後面皮膚からは MSCNS、Bacillus cereus ( セ #10 レウス菌 ) などが主に検出され、薬剤感受性調査にお 新チンパンジー大型ケージの紹介 渡邉祥平、前田典彦、熊崎清則、足立幾磨、林美里、 友永雅己、松沢哲郎(京都大学霊長類研究所) いて複数の薬剤に対する耐性を確認した。また、皮 膚裂創からは MSSA が検出され、ペニシリン系 (PCG, ABPC) の 2 剤に耐性を確認した。今後、他飼育施設 京都大学霊長類研究所では、1998 年より 15 mの との比較を行い、有効な抗菌剤選択への提言を試み トリプルタワーの放飼場と東西に配置された 2 つの たい。 サンルームを、チンパンジーの飼育場所として利用 してきた。昨年度、最先端研究基盤事業・心の先端 研究のための連携拠点(WISH)構築のため、こ 28 #12 で互いにグルーミングが多く見られた。優位オスに チンパンジーにおける数の大小の相対比較 対して、発情周期のあるメスに対してより頻繁にグ 友永雅己(京都大学霊長類研究所)、森裕介(京都大 ルーミングが行わる傾向は見られたが、一貫した傾 学熊本サンクチュアリ) 向は見られなかった。 熊本サンクチュアリに暮らすチンパンジーを対象 に、対面場面での認知実験への馴致として、食物報 #14 酬などの数の相対的大小判断を訓練した。2つの同 「飼育チンパンジーの繁殖に伴う群れの個体間関係と 型の皿に同サイズのリンゴ片を2個対1個(2-1)、 行動の変化」 3-1、3-2、4-2の割合で提示した。チンパ 平賀真紀、小川直子、富岡由香里、小倉典子、小林和彦、 ンジーは選んだ方の皿の中にあるリンゴ片を食べる 齋藤憲弥(横浜市立よこはま動物園ズーラシア)、森 ことができた。実験1では25個体がこの課題に参 村成樹(京都大学野生動物研究センター) 加した。その結果、数の差が2の方が差が1の対よ よこはま動物園ズーラシアでは、2009 年より雄 りも成績が良いことが明らかとなった。また実験2 2 個体、雌 5 個体からなるチンパンジーの飼育を開 では、リンゴ片だけでなく、食べることのできない 始した。その後、2011 年 8 月から 7 個体の繁殖も コインも同時に提示し、「もの」の個数としては右の 計画しつつ複雄複雌集団を長期的に安定維持する 方が多いが、リンゴの個数は左の方が多いというよ ことを目指し、2 個体間関係を評価する社会ネット うな条件下でテストを行った。その結果、チンパン ワーク分析を用いた社会管理手法の開発のための行 ジーは全体のものの個数ではなく、リンゴ片の個数 動観察を行っていたところ 2012 年 1 月と 9 月に繁 の差に適切に応答した。以上の結果から、チンパン 殖に成功し、赤ん坊が生まれる前と生まれた後の群 ジーが異質な物体を「数え分けて」いる可能性が示 れの個体間関係の変化と母親 2 個体・赤ん坊2個体 唆された。 の行動について 2011 年 8 月~ 2012 年 9 月までの 13 ヶ月間の観察から、大人 7 個体・赤ん坊 2 個体の 社会関係とその時間的変化について分析した。 #13 京都市動物園のチンパンジーにおける行動と個体間 関係における調査 #15 石塚真太郎(京都大学農学部)、長野秀美、金子祐希、 飼育下チンパンジーおよびゴリラにおける性格評価 本村実香子、中北尚子、野本繭子、山本浩大(京都 と糞便中コルチゾル濃度との関連 大学動物園ポケゼミ隊)、田中正之(京都大学野生動 戸 田 克 樹( 鹿 児 島 大 学 農 学 部 )、Alexander Weiss( 物研究センター) Edinburgh University )、川村誠輝(山口大学農学部)、 動物を飼育する上で、個体ごとの行動、関係を理 坪川桂子(京都大学大学院理学研究科)、村山美穂(京 解することは重要である。本調査では、2012 年 4 月 都大学野生動物研究センター)、藤田志歩(鹿児島大 3 日から 9 月 19 日まで、合計約 40 時間の観察をお 学共同獣医学部) こなった。京都市動物園で飼育される 4 個体のチン 動物園における環境エンリッチメントでは、飼育 パンジー ( コイコ、タカシ、ジェームス、スズミ ) の 個体のストレス軽減が一つの指標とされるが、スト 行動、個体間関係を調べた。行動については、チン レス感受性は個体によって異なると考えられる。本 パンジーたちが運動場に出ている間、個体ごとに 1 研究は、京都市動物園および東山動物園のゴリラ 6 分間隔のスキャンサンプリングで、連続する 10 分間 個体と日本モンキーセンターのチンパンジー 7 個体 の行動を記録し、行動の割合を算出した。観察中に を対象に、飼育員へのアンケート調査による性格評 グルーミングが見られれば、開始、終了時刻、相手 価とストレスレベルとの関連について調べた。アン の個体名を記録し、個体ごとに時間や、相手の割合 ケート調査は 54 の質問項目について 7 段階で評定 を算出した。行動の割合に関しては、どの個体も休 し、評価者による評価傾向などを補正したのち主成 憩している時間が長い点は同じだったが、採食行動 分分析を行い、6 つの性格特性(優位性、不安性、 の多い雄がいたり、分類不能の行動の多い雌がいた 外交性、協調性、および知的好奇心)を抽出し点数 りと、個体差が見られた。個体間関係では、雄同士 化した。また、糞便中コルチゾル濃度を EIA 法によ 29 り測定し、各個体の定常状態におけるストレスレベ #17 ルを比較した。各性格特性についてコルチゾル濃度 老齢チンパンジーの慢性便滞留による腹囲膨満に対 との相関分析を行った結果、チンパンジーではコル するコロンハイドロセラピー(大腸洗浄法)の試み チゾル濃度は外向性との間に高い負の相関がみとめ 渡邉朗野、兼子明久、渡邉祥平、前田典彦、 (京都大 られ(P<0.05)、ゴリラでは協調性との間に高い負の 学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)、熊 相関がみとめられた(P<0.05)。 崎清則、友永雅己、林美里、松沢哲郎(京都大学霊長 類研究所)、渡辺成利、大西由希子、古川裕祥(日本 #16 CHC ㈱) チンパンジーにおける鼻腔の生理学的機能に関する 京都大学霊長類研究所 46 歳の雌チンパンジーに 数値流体力学的研究 長期間にわたり、腹囲膨満が認められた。MRI 撮像 西村剛(京都大学霊長類研究所)、森太志(東京大学 により腸管内に多量の便の滞留が確認された。下剤、 大学院情報学環、東京大学地震研究所)、埴田翔(北 胃腸管機能改善薬による改善は認められず、食欲が 陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科)、熊畑清 あるにも関わらず、体重が減少し削痩しはじめた。 (理化学研究所計算科学研究機構)、石川滋(金沢市 今回初めてコロンハイドロセラピー機を利用した大 立病院耳鼻咽喉科)、鈴木樹理、宮部貴子、林美里、 腸洗浄法を試みたので、その経過を報告する。 友永雅己、松沢哲郎(京都大学霊長類研究所)、松澤 大腸洗浄の目的は、腸管内停留便を負荷をかけず排 照男(北陸先端科学技術大学院大学シミュレーショ 出し、正常な腸管蠕動運動の回復を計ることである。 ン科学研究センター) 肛門にチューブを接続し、温湯で大腸内還流を行い、 我々が有する鼻は、おおよそ 250 万年前に現れた 同時に小腸と大腸のマッサージを行った。 ホモ属 ( いわゆる原人 ) で獲得された。その適応進化 施術 5 日後では、施術 2 日前より覚醒時空腹時で、 を探るために、それ以前の鼻を持たない人類のモデ 体重 0.5kg の減少、腹囲は 11cm の減少となった。 ルとしてのチンパンジーにおける鼻腔の生理学的機 現在、施術前より体重 11k gの増加、腹囲は 1cm の 能を明らかにした。コンピューター断層画像 (CT) に 増加となり、不自然な腹囲膨満を伴わない健康な状 より得られるデジタル鼻腔形状データを用いて、鼻 態で体重が回復している。 腔の生理学的特性を組み込んだ計算モデルによる数 値流体力学的シミュレーションを行い、鼻腔内での #18 吸気の流れと、加温と加湿能力を検討した。チンパ 双子のチンパンジーの比較発達研究における高知県 ンジー 6 個体の頭部を CT 撮像し、そのうち 4 個体 立のいち動物公園の協同体制 のデータをもとに、高温寒冷、湿潤乾燥のそれぞれ 山田信宏、小西克弥、福守朗、笠木靖、木村夏子(高 条件の外気で検討したところ、チンパンジーでは、 知県立のいち動物公園)、友永雅己、市野悦子、藤森 いずれの条件でも、ヒトに比べてよく加温、加湿さ 唯(京都大学霊長類研究所)、安藤寿康(慶応義塾大 れていることが示された。この結果は、ホモ属で現 学)、岸本健(聖心女子大学)、西内章、吉井喜美(の れた鼻には、吻がなくなったのにともなう鼻腔の生 いち動物公園ボランティアーズ)、木村元大(岐阜大 理学的機能の低下を補償するための機能的貢献があ 学) ると示唆する。 2009 年 4 月 18 日,チンパンジーの雌(推定 33 歳)が二卵性の双子を出産した.チンパンジーの双 子の出産例は国内外を見てもきわめて少数で,日本 国内では6例目である.また,両方の子どもが母親 の自然哺育により無事に成育しているのは今回が日 本で初めての例であり,この双子のチンパンジーの 発達過程の詳細な観察と記録は,様々な分野におい て貴重な知見をもたらす可能性がある.そこで,主 にチンパンジー単生児との比較による双子の社会的 発達,及び認知発達について京都大学霊長類研究所 30 と,さらにヒトとの比較分野について慶應義塾大学、 キラ群の 8 個体(移入後は♂ 2 個体、♀ 6 個体)を 聖心女子大学と共同研究を行うこととした.こうし 対象に、各個体 10 分間 15 秒間隔の瞬間サンプリン たことにより専門性の高いデータ収集や分析が可能 グによる行動の記録をおこなった。2011 年 6 月から となった. 2012 年 10 月にかけての総観察時間は 2300min. で ある。結果として、新サンルームでは休息時間の減 #19 少と移動時間の増加がみられた。また、ロープに掴 インドゾウの夜間行動の発達にともなう変化 まって立つ、棒でサンルーム外の植物を引き寄せる 藤澤加悦、古田洋、佐藤英雄、栗原幹尚、太田真琴、 など工事前にはあまり見られなかった行動が観察さ 林臨太郎(よこはま動物園)、田中正之(京都大学野 れ、逆に糞食が見られなくなるなど行動のレパート 生動物研究センター) リーが変化した。採食、グルーミング等の基本的な 動物園で飼育されているゾウは夜にどれくらい寝 行動の頻度は環境によらず安定しているが、生活環 ているのだろう?そんな素朴な疑問からゾウの夜の 境の変化によって行動レパートリーが変化したと考 行動観察を始めた。対象としたのはよこはま動物園 えられる。 で飼育されているオスのインドゾウ 1 個体(22 歳) である。観察は 18 時から翌朝の 8 時までの 14 時間 #21 分のビデオ記録から、1 か月のうち連続する 3 日間 放飼場の改修工事がチンパンジーに与える影響評価 を選んで行った。観察期間は 2011 年 8 月から 2012 ―利用場所について― 年 7 月までの 1 年間であった。よこはま動物園では、 有賀菜津美(日本大学生物資源科学部)、森ことの(岐 2000 年から 2001 年にかけて、同じ個体(当時 10 歳) 阜大学応用生物科学部)、山梨裕美(京都大学霊長類 を対象として同様の夜間行動の記録を取っていた。 研究所、日本学術振興会)、林美里(京都大学霊長類 この記録と比較して、オス個体の幼少期と現在の行 研究所) 動の発達的変化を分析した。夜間に横臥状態になる 京都大学霊長類研究所では、チンパンジーの屋 時間(横臥睡眠)は、現在は観察時間中の合計で平 内放飼場(サンルーム)の改修工事がおこなわれ、 均 4.5 時間、起立状態で同じ姿勢を保っている時間(立 2012 年 5 月より運用を開始した。本研究では、その 位睡眠)は平均 4 時間であった。幼少期と比較すると、 飼育環境の変化がもたらすサンルームの利用場所に 横臥睡眠時間は発達に伴って減少し、立位睡眠時間 ついて、2011 年 6 月~ 2012 年 10 月の期間調査し が大きく増加していることが分かった。今後も継続 た。調査群は、霊長類研究所で暮らす 2 群れのうち、 して観察を行うことで、ゾウの生理的変化や、季節 アキラ群 8 個体(♂ 2 個体、♀ 6 個体)である。フォー による行動変化を知り、繁殖や飼育環境の改善へ繋 カルアニマルサンプリング法を用いて各個体 10 分 げていく。 間、15 秒ごとの瞬間サンプリングで利用場所を記録 した。その結果、サンルーム内の上部の空間利用が #20 有意に増えた。新サンルームに作られた 3 つの回廊 物理的、社会的環境の変化がチンパンジーの行動に は上部に位置し、特に利用頻度が高い。これは、旧 与える影響評価 サンルームに比べ上部に空間が広がり、同時に複数 森ことの(岐阜大学応用生物科学部)、有賀菜津美(日 個体が利用可能になったからだと考えられる。また、 本大学生物資源科学部)、山梨裕美(京都大学霊長類 赤外線サーモグラフィを用いてサンルーム内の温度 研究所、日本学術振興会)、林美里(京都大学霊長類 計測もおこない、よく使われる場所が夏場に安定し 研究所) て涼しいということも分かった。 京 都 大 学 霊 長 類 研 究 所 で は、2011 年 8 月 か ら 2012 年 5 月まで屋内放飼場(サンルーム)の改修工 事をおこなった。2012 年 6 月には、パンとパルの 2 個体の女性チンパンジーがアキラ群へ移入した。本 研究の目的は、これらの群れ環境の変化がチンパン ジーの行動に与える影響を調査することである。ア 31 #22 れる。また,雌個体では妊娠中の心拍数は出産後と チンパンジーの群れ再編に伴う社会関係の変化 比較して有意に高かった。これもヒトやチンパンジー 平栗明実(日本大学生物資源科学部)、秋吉由佳、森 同様,妊娠中は心拍数が増加し,心臓への負荷が大 ことの(岐阜大学応用生物科学部)、林美里(京都大 きくなると思われる。 学霊長類研究所) 京都大学霊長類研究所では、13 個体をアキラ群と #24 ゴン群の 2 群に分けて飼育してきた。2012 年 6 月、 エンリッチメントへの取り組みにおける加齢の影響 計画的妊娠を実施するためにゴン群に居たパン (29 藤森唯、ゴドジャリ静、渡邉祥平、前田典彦、松沢 歳♀ ) と娘のパル (11 歳 ) をアキラ群へ移入させた。 哲朗(京都大学霊長類研究所) 避妊のためピルをのませていたが、パンはそれを中 京都大学霊長類研究所には 14 個体のチンパンジー 止して、性周期を戻した。本研究では、移入前と移 が暮らしており、彼らに対して日々の飼育の中でい 入後 ( 各 3 カ月 ) における母子と男性個体の社会関係 くつかの採食エンリッチメントを実施している。現 の変化を調べるために、アキラ群 8 個体 ( ♂ 2 個体、 在は、消防ホースやペットボトルの中に野菜を入れ ♀ 6 個体 ) を対象に、1 分毎のスキャンサンプリング たり、枝などを使って手の届かないところにある野 で、8 個体の最近接距離個体 (Nearest Neighbor:NN) 菜やフィーダーを引き寄せさせるといったエンリッ を記録した。移入前は、パンは男性個体が NN にな チメントを実施している。こうしたエンリッチメン る割合よりも女性個体が NN になる割合が高かった トに対して、すぐに取り組める個体とそうでない個 が、移入後は女性個体よりも男性個体が NN になる 体がいた。対象となる 13 個体のチンパンジーを老年・ 割合が高くなった。一方、パルはパンほど大きな変 壮年・若年の 3 世代に分けて各エンリッチメントの 化は見られなかった。また、アキラは移入前に比べて、 達成度を見てみると、世代による有意な差は認めら 女性個体が NN になる割合が増加していた。今回の れなかったが、若年個体よりも老年個体の方が達成 移入により、性周期のある女性が群れに入ると、男 度のばらつきが大きかった。このことから、若年個 女の近接度が高まることが示された。 体は新規物に対して比較的柔軟に対応し、その個体 差も小さいが、加齢とともに取り組みの度合いに個 #23 体差が大きく影響するようになるということが推察 ニシゴリラの健康管理のための心音測定 される。しかし、すぐに取り組めない個体でも、馴 長尾充徳、釜鳴宏枝,山本裕己(京都市動物園),田 致をおこなうことでエンリッチメントに参加できる 中正之(京都大学野生動物研究センター) ようになることもわかった。 心疾患は飼育下大人ゴリラの死亡原因の約 40%を 占め,簡便な方法で不整脈の有無などを発見する検 #25 査法の開発が望まれている。また,無麻酔での健康 チンパンジーの体毛からストレスを測る 管理は日本国内に於いては課題となっている。本研 山梨裕美(京都大学霊長類研究所、日本学術振興会)、 究では,京都市動物園で飼育中のニシゴリラ3頭(11 森村成樹、不破紅樹、森裕介、野上悦子(京都大学 歳雄,25 歳雌,10 ヶ月雄)を対象に,ハズバンダリー・ 野生動物研究センター)、平田聡、林美里、鈴木樹理(京 トレーニングによる電子聴診器での心音のサンプリ 都大学霊長類研究所) ングを行い,各個体 100 拍を採取し,音響解析ソフ 長期的なストレスは福祉に大きな影響を与える可 トウェアを利用して,拍動の間隔を測定した。また, 能性があるため、客観的な評価が重要である。発表 雌個体は妊娠中からサンプリングを開始したため, 者らはこれまでに、体毛中コルチゾルがチンパンジー 妊娠中と出産後の比較も行った。3 個体の計測結果 の長期的なストレス状態と関連している可能性を報 は,平均心音間隔:0.85,0.56,0.601 秒,平均心 告した。今回はこれまでに開発してきた手法を用い 拍数:70.6,107,100 拍 / 分,心音間隔の変動係 て、異なる飼育環境における体毛中コルチゾル濃度 数 C.V.:0.09,0.083,0.097 であった。いずれの の違いについて発表する。霊長類研究所 (PRI)・熊本 個体も C.V. の値が低く,異常値が無かったことから サンクチュアリ (KS)・林原類人猿研究センター (GARI) 考えると,不整脈がある可能性は低い。雄と雌では の計 50 個体のチンパンジーの肘の毛をハサミで切っ ヒトと同様に,心拍数の性差がある可能性も考えら た。アッセイには ELISA 法を用いた。結果、KS のオ 32 スは他の施設の者よりも有意にコルチゾル濃度が高 間同居時に地震が発生した。地震直後、チンパンジー かった。また、同じ KS の飼育環境のメスよりもオス たちに飛び起きる、叫ぶ、動き回るといった顕著な の方が高かった。異なる社会特性・行動特性をもつオ 反応が観察された。睡眠行動については、総睡眠時間、 スとメスは、飼育環境から受けるストレスに差がある 睡眠と覚醒のバウトを分析した。2 度の地震による のかもしれない。ただし、KS のオスには遊び行動な 睡眠の直接的な変化は見られなかった。しかし、睡 どポジティブな福祉を示す行動も見られた。今後は行 眠の総時間が全体的に短い傾向を示しており、2011 動と体毛中コルチゾルのさらに詳細な検討をするこ 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震以後、長く続 とで今回の結果がチンパンジーの福祉にどのような く余震による長期的影響を受けていることが疑われ 意味をもつのか明らかにしていきたい。 た。本報告では、東北地方太平洋沖地震当日とその 後に千葉市動物公園で観察された動物たちの行動に ついても合わせて報告する。 #26 チンパンジーの発達に伴う社会関係の変化~最近接 個体の縦断的解析 ~ #28 秋吉由佳、森ことの(岐阜大学応用生物科学部)、平 金環日食における飼育チンパンジーの行動:ML を活 栗明実(日本大学生物資源科学部)、林美里(京都大 用した日本国内 7 園館の比較 学霊長類研究所) 加藤洋子(千葉市動物公園)、平賀真紀(よこはま動 京都大学霊長類研究所では、2000 年に 3 個体のチ 物園ズーラシア)、近藤裕治(名古屋市東山動物園)、 ンパンジー、アユム ( ♂ )、パル ( ♀ )、クレオ ( ♀ ) 市野悦子、櫻庭陽子(京都大学霊長類研究所)、川上 が生まれた。この 3 個体の発達に伴う社会関係の変 博司(神戸市立王子動物園)、田中豊(徳島市立とく 化を調べるためにビデオ観察をおこなってきた。1 しま動物園)、山田信宏(高知県立のいち動物公園) 歳 か ら 12 歳 ま で の ビ デ オ 総 観 察 時 間 は 950 時 間 2012 年 5 月 21 日朝、九州地方南部、四国地方南 である。このビデオから、最近接距離個体 (Nearest 部、近畿地方南部、中部地方南部、関東地方など広 Neighbor:NN) を 1 分毎のタイムサンプリングで記録 範囲に金環日食が観測された。国内で金環日食が観 した。1 歳から 4 歳までは 3 個体ともに母親が NN 察されたのは 25 年ぶりだった。今回、中心食帯に当 になる割合が最も高かった。7 歳以降もパルとクレオ たるチンパンジー飼育施設 7 カ所が協力し、50 個体 の女性 2 個体は母親が NN になる割合が高く、また (0 ~ 62 歳、国内飼育個体数の 15%)について金環 母親にとっても子どもが NN になる割合が最も高かっ 日食時の行動を直接観察やビデオ撮影などで記録し た。しかし、アユムは 7 歳から 9 歳にかけて同じ群 た。ほとんどの施設で、チンパンジーの行動に顕著 れの最優位の男性であるアキラが NN になる割合が最 な変化は観察されなかった。ただ、神戸市王子動物 も高くなった。そして、10 歳以降は母親を含めた女 園においてはジョニーが太陽に向かい叫ぶ行動が観 性が NN になる割合が高くなった。アユムの母親であ 察された。本発表では、金環日食という希な自然現 るアイは、アユムが 3 歳になるまでは NN がアユム 象に対するチンパンジーの反応を記録する 7 施設で になる割合が最も高かったが、それ以降は群れの他個 の取り組み、その他の観察事例等を紹介する。 体の NN が最も高くなることが多く、他個体との関係 #29 を広げていると考えられる。 熊本サンクチュアリ「比較認知科学実験用大型ケー #27 ジ」の完成と稼働 夜間同居時に発生した地震に対する飼育チンパン 平田聡(京都大学霊長類研究所)、森村成樹(京都大 ジーの反応 学野生動物研究センター)、友永雅己(京都大学霊長 加藤洋子(千葉市動物公園) 類研究所、京都大学野生動物研究センター熊本サン 千葉市動物公園では、週に 1 度、屋内展示室を使っ クチュアリ)、松沢哲郎(京都大学霊長類研究所) てチンパンジー 3 個体の夜間全頭同居をおこなって 熊本サンクチュアリに、比較認知科学実験用大型 いる。19:00 ~翌朝 7:00 までの 12 時間、睡眠の状 ケージが完成した。チンパンジーの日々の暮らしの 況を調べる目的でビデオカメラにて夜間行動を記録 場であり、そして巨大なテストケージである。既設 した。2012 年 5 月 28 日と同 8 月 20 日の 2 度、夜 の建物の屋上に、広さ 100 平米弱、高さ 4.5m の新 33 たな空間が 2 つ建築された。眼下に有明海、島原湾 #31 を望み、海の向こうには普賢岳を眺めることができ Orangutans do not benefit others る。この空間の中で、複数のチンパンジーたちが日 Yena Kim, Masaki Tomonaga(Primate Research 常を過ごし、上下左右に広く動き回ることができる。 Institute, Kyoto University), Jae Chun Choe(Division それがそのまま研究の場になる。コンピュータで制 of EcoScience, Ewha Womans University, Republic 御するタッチパネルを備えるなど、研究するための of Korea), Hyuntak Park(Seoul Zoo, Republic of 工夫が施されている。新機軸は大きく 3 つあげられ Korea) る。第 1 は、日常を過ごす空間なので、1 日 24 時間 Humans are unique in the way of voluntary すべてが研究の時間になるということである。日々 helping to each other even though it sometimes の暮らしの中から認知研究を構想することで、日常 demands substantial costs. However, there has 生活に根差した行動を研究対象とすることができる。 also been growing evidence for prosociality among 第 2 は、集団全体が研究の対象であるということで non-human primates, especially chimpanzees and ある。複数のチンパンジーの相互交渉を見ることを capuchins, living in complex societies. Prosociality 通して、彼らの社会を解明したい。第 3 は、認知研 has often been described as a major factor which 究が福祉につながるという点である。採食時間の延 facilitates group living. However, there has never 長、認知的エンリッチメントを通じて、生活の質の been explored whether the solitary primates, such 向上を目指す。 as orangutans, share those propensities or not. Here, we tested 4 orangutans, 2 males (sub-adult and #30 juvenile) and 2 sub-adult females, using an apparatus ふたごチンパンジーの成長にともなう社会関係の変 which allows them to make either prosocial (both an 化 actor and a recipient get rewards) or selfish choice 木村元大(岐阜大学応用生物科学部)、市野悦子、藤 (only an actor gets a reward). Two orangutans (sub- 森唯、友永雅己(京都大学霊長類研究所)、福守朗、 adult male and female) played an actor’s role, and 小西克也、山田信宏、笠木靖、多々良成紀(高知県 all individuals participated as a recipient. When the 立のいち動物公園) subjects were tested without a recipient to confirm 高知県立のいち動物公園では、2009 年にサンゴ if they understand the apparatus, they chose a が二卵性双生児のダイヤ(オス)とサクラ(メス) prosocial option significantly more often than を出産した。現在は群れの他のチンパンジーと一緒 expected by chance (87.3% in average) to get the に暮らしている。本研究では、ふたごの成長にとも rewards from the recipient’s side in addition to the なって社会関係がどのように変化するのかを調べる actor’s side. However, when they were paired, they ために、ふたごを中心とした観察をおこなった。ダ did not show any significant prosocial bias toward イヤとサクラを対象に、月に 3 ~ 4 日 1 時間ずつ、 the recipients (51.3% in average). Our results suggest 1 分ごとの瞬間サンプリングで、最近接距離個体 that the orangutans may not be sensitive to the (Nearest Neighbor, NN)、2 番目に近い個体(second others’ welfare. This supports the previous findings NN, 2NN)および行動を記録した。NN になる割合は、 that prosocial propensity has been elicited from ダイヤではサンゴが、サクラでは非血縁個体である complex social environments. チェリー(メス)が高くなった。しかし、36 か月齢 以降はそれぞれ減少傾向が見られた。また、コユキ(メ #32 ス)がふたごの NN となる割合が増加した。行動では、 第 1 回国際テナガザル飼育管理会議 参加報告 遊びでは NN がふたご同士になることが多くなった。 打越万喜子(京都大学霊長類研究所) また採食ではダイヤはサンゴが、サクラではチェリー 2012 年 6 月にアメリカで開催された第 1 回国際 やコユキが NN となる割合が高くなった。NN と行動 テナガザル飼育管理会議に参加したので、その概要 の結果から、成長にともなってふたごの社会関係に を報告する。ノースカロライナ州グリーンズボロ自 変化が見られること、行動によって NN が変化する 然科学センターで 4 日間おこなわれ、会期前日にア ことなどが示唆された。 メリカ動物園水族館協会フクロテナガザル種保存計 34 画のミーティングが併催された。アメリカから 54 人 イと息子アユムを比較し,作業記憶課題において年 と日本・インドネシア・オーストラリア・カナダ・ 齢変化が生じている可能性を示唆した。しかし,縦 インド・タイ・イギリスの 7 か国から 1 ~ 3 人ずつ、 断的比較やヒトでの検討は行われていない。本研究 計 70 名ほどが集まった。飼育・保全・研究・教育の では,同じ装置・課題を用い,チンパンジーとヒト トピックごとに半日から1日の発表があった。事前 の作業記憶課題における年齢変化について調べた。 アンケートの結果をもとに、食事・医療・個体群管 チンパンジーはアユム・アイ,ヒトは若齢群・高齢 理・施設設計等の様々な点での課題共有や情報交換 群を対象とした。課題では,画面上のスタートキー をした。交流の時間も多くあり、参加者は互いをよ をさわると,非連続 5 数字が呈示され,一定時間経 く知ることができた。今後の連携協力活動の可能性 過後,自動的に全数字がマスキングされた。参加者 が議論され、非常に有意義な会となった。次回はオー は,マスキングされた刺激を小さい数字から順にさ ストラリアのパース動物園で 2014 年 11 月に開催さ わるよう求められた。アユムの正答率はアイより有 れる。生息地国に近いため、また違った層の方々の 意に高かった。しかし,両個体とも 5 年前より正答 出席が期待できる。日本にもテナガザル飼育施設は 率が下がった。従って,チンパンジーでは,縦断的・ 多数あるので、積極的に参加いただけるようにご案 横断的比較から年齢変化の存在が認められた。ヒト 内していきたい。 では若齢群の正答率が高齢群より有意に高く,横断 的な比較によって,ヒトでも年齢変化の存在が示唆 された。 #33 障がいをもつチンパンジーにおける認知課題のリハ ビリテーションへの応用 #35 櫻庭陽子、友永雅己、林美里(京都大学霊長類研究所) 類人猿の飼育履歴:GAIN ウェブサイトの紹介 京都大学霊長類研究所には 14 個体のチンパンジー 落合知美、綿貫宏史朗、今井啓雄、郷康広、西村剛、 が暮らしており、その中のレオというオトナオスは 友永雅己、松沢哲郎(京都大学霊長類研究所)、伊谷 2006 年 9 月に急性横断性脊髄炎を発症し寝たきりの 原一(京都大・野生動物) 状態になった。その後スタッフによる治療とリハビリ 「大型類人猿情報ネットワーク」(略称 GAIN)は、 により、後肢に障がいが残っているものの、自力で寝 文部科学省の補助金事業であり、国内で飼育されて 起きや移動ができるまでになった。2009 年 11 月か いる類人猿 ( チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、 らは PC とタッチパネルを用いて認知課題を解き、正 テナガザル ) に関する情報を収集し、和英で一般に開 解すると約 2m 離れたところから食物報酬 1 片 (1 セッ 示し、学術研究の推進に供している。すでに、血統 ション約 100 片 ) が提示されるという、「歩く」リハ 登録された個体のデータベース化は完了した。生存 ビリをおこなっている。本研究では得られたデータよ 個体数や個体経歴などがウェブサイトで確認できる。 りこのリハビリの評価を試みた。2010 年と 2011 年 現在は、国内類人猿の過去にさかのぼった全体像を において、① 1 試行にかかる時間 ( 正答試行のみ )、 より正確に把握するため、血統登録されていない過 ② 1 セッションでおこなう試行数を比較したところ、 去の個体の情報収集をおこなっている。動物園の飼 2011 年の方が①は短く②は減少していた。①よりこ 育台帳や記念誌、機関誌のバックナンバー、地域の のリハビリが歩く速度の回復に一定の効果があるこ 図書館にある郷土資料 ( 新聞記事、報告書など ) から とと同時に、②では途中でリハビリをやめてしまうな 情報を収集した。その結果、どの動物種でも血統登 どモチベーションに変化があることが示唆された。今 録が開始される以前、特に 1950 ~ 1980 年に未登 後は維持リハビリとしてモチベーションの向上につ 録の個体が発見された ( チンパンジーで約 180 個体 )。 いて考えていきたい。 調査結果はデータベースに追加し開示している。今 年度から、各施設の飼育履歴年表がウェブサイトで 見られるようになったので、それについても紹介す #34 る。http://www.shigen.nig.ac.jp/gain チンパンジーとヒトの作業記憶課題における年齢変化 村松明穂、松沢哲郎(京都大学 霊長類研究所) Inoue & Matsuzawa(2007) は,チンパンジーのア 35 #36 は、授乳だけでなく、温もりとしての他者が必要で 京都大学野生動物研究センターと京都市動物園の連 あったため、きょうだいの世話に集中する母親では 携の4年間 なく、母親以外のメスとの接触を増加させることで、 田中正之(京都大学野生動物研究センター)、長谷川 温もりを獲得していたのかもしれない。 淳一、秋久成人(京都市動物園) 2008年に京都大学と京都市が野生動物の研究 と教育にかんする連携協定を結んで4年が経過した。 #38 この間の活動について報告する。①チンパンジー、 チンパンジーの人工保育個体の群れ復帰について テナガザル、マンドリルを対象としたアラビア数系 山内直朗、大栗靖代(日立市かみね動物園) 列の学習を公開している。②希少動物の出産の機会 2011年2月7日生れのメスのチンパンジーの がある度に、職員との共同研究として映像記録を取 ゴウが、人工哺育から実母と一緒に1才4ヵ月で群 り、分析をおこなった。③京都大学ポケットゼミナー れ復帰した事例について報告する。 ルとして、学部学生によるチンパンジー他の動物観 母親のヨウは、他園で3回の出産経験があったが、 察をおこなっている。観察結果は、今回のサガ15 育児の学習ができておらず、いずれも人工哺育となっ で発表している。④毎月1回、京大教員(田中)が ていた。2008年に35才でかみね動物園に来園 研究の解説をおこなっている。⑤毎年8月に京都市 し、2010年2月9日にオスの子どもを産む。ヌ 動物園職員2名を、アフリカ、タンザニアの国立公 イグルミを使って赤ん坊を抱く練習をして迎えた出 園等に派遣している。今年で4年目となり、計8名 産だったが、残念ながら死産状態だった。そして再 の職員がアフリカを訪れた。アフリカ研修について びちょうど一年後の2011年2月7日、元気なメ も、今回のサガ15で発表予定である。⑥連携記念 スの子どもを出産する。赤ん坊に対してごくわずか のシンポジウムや講演、実習を毎年おこなっている。 な関心を示すものの、触ることすらしてくれない状 この他にも様々な活動をおこなってきたが、今後は 態だったため、取り上げの判断をする。人工哺育を ただ実施するだけではなく、それぞれの活動の評価 行いながら母親との接触、同居を続けていく中で、 をし、展開を検討しなければならない。 突然の受け入れ、そして、少しずつ関係が良好になり、 2012年3月には、飼育担当者の直接接触は終了 #37 し、24時間完全に母親と過ごせるようになった。 王子動物園のアビシニアコロブス集団における母、 5月にはアルファオスである父親と合流でき、6月 子、他のメスの関係に出産が及ぼす影響 には他の大人たち全員と合流することができた。 大井裕典(大阪大学人間科学部比較行動学研究分野)、 中道正之、山田一憲(大阪大学大学院人間科学研究科) #39 神戸市立王子動物園のアビシニアコロブス集団(成 自動撮影カメラを用いたチンパンジーとその採食競 体オス1、成体メス3)において、2011 年 6 月- 合者の調査 2012 年 8 月の観察期間中に 2 頭の成体メス(アヤ、 吉川翠(東京農工大学大学院)、小川秀司(中京大学), アビ)がそれぞれ 2 頭ずつ、計 4 頭のアカンボウを 小金澤正昭(宇都宮大学),伊谷原一(京都大学) 出産した(アヤ '11、アヤ '12、アビ '11、アビ '12)。 2012 年 7 月 31 日から 8 月 14 日に,タンザニア 通常、アビシニアコロブスの妊娠期間は 5 ヵ月、授 のウガラ地域ングェ地区(05°13′S, 30°27′E)で, 乳期間は 1 年、出産間隔は 16 - 22 ヵ月とされてい 9 台の自動撮影カメラ(Bushnell TROPHY CAM)を る。本研究において、アヤはアヤ '11 を出産した約 8 ヵ 用 い て チ ン パ ン ジ ー (Pan troglodytes) と チ ン パ ン 月後にアヤ '12 を出産した。アヤ '11 は、7 ヵ月齢で ジーの採食樹に訪れる哺乳類の動画撮影を試みた。8 授乳が終了し、その後成体メスのシロロとの接触行 月 1 ~ 5 日にはチンパンジーが果実を採食していた 動が頻繁に見られるようになった。一方で、13 ヵ月 常緑樹の下で,8 月 2 ~ 4 日には常緑樹林内のチン 齢になってから年下のきょうだいが生まれたアビ '11 パンジーの通り道でチンパンジーが撮影された。ま では、授乳が 11 ヵ月齢まで継続しており、シロロ た,チンパンジーが果実を採食する落葉樹 Parinari を含む他のメスとの接触行動はほとんど記録されな curatelliifolia に は, キ イ ロ / ア ヌ ビ ス ヒ ヒ(Papio かった。通常よりも早い段階で離乳が訪れたアヤ '11 cynocephalus/anubis)の群れが頻繁に訪れたほか, 36 ブルーモンキー(Cercopithecus mitis)やモリイノシ 4 月、2 つの飼育棟をむすんでチンパンジーの往来を シ(Potamochoerus porcus)等が撮影された。チン 可能にした「連結ケージ」が完成した。まず、運動 パンジーの直接観察が難しい本地域のような場所で 場 1 カ所と連結ケージを開放して、訓練を開始した。 は,自動撮影カメラを用いて,チンパンジーと採食 数個体が分かれてパーティーを形成する、季節の変 競合者との関係やチンパンジーのパーティー構成や 化に応じて快適な場所を利用するなど、生活に選択 移動様式等を探れる可能性が示唆された。 の幅が広がった。連結ケージ内を自在に動き回るも のもいれば、誤って坂を転がり落ちるなど見たこと #40 のない一面も観察された。近い将来、53 個体すべて 集団編成が飼育下チンパンジーの社会行動に与える が KS にある設備を利用できるようになるだろう。研 影響 究・飼育管理において低コストで利便性の高い仕組 島田かなえ、二宮茂(岐阜大学応用生物科学部)、森 みが実現した。チンパンジーが連結ケージを利用す 村成樹(京都大学野生動物研究センター)、友永雅己 る様子を紹介する。 (京都大学霊長類研究所) 野生のチンパンジーは、日常の様々な場面で選択 #42 をしながら生活しており、飼育下でも選択の機会が チンパンジーの夜間の最近接距離個体(NN)調査: あることは重要と考えられる。現在、京都大学熊本 就眠場所の記録 サンクチュアリでは、チンパンジーの雄 15 個体が 1 市野悦子、足立幾磨、松沢哲郎(京都大学霊長類研 群で飼育され、5 個体・10 個体・15 個体と集団編成 究所) を変える試みがおこなわれている。本研究では、個 京都大学霊長類研究所では 2 群のチンパンジーが 体数が増えるほど交渉相手を選択する機会は増える 飼育されており、現在、2 群間での個体の移籍や飼 と考え、集団の個体数の変更がチンパンジーの社会 育施設の改修工事がおこなわれている。2012 年 6 行動に与える影響を調べた。12 個体を対象に、1 日 月にはゴン群からアキラ群へメス 2 個体(パン、パル) 午前・午後 60 分間ずつ、1 分間隔の瞬間サンプリ が移入した。また本研究所では 2001 年より、チン ング法を用いて社会行動とその対象個体を記録した。 パンジーの社会関係の変化を調べるために、最近接 結果、社会行動の時間配分は平均 19.2% だった。交 距離個体(Nearest Neighbor, NN)の調査がおこなわ 渉する個体数は 5 個体編成に比べ 10 個体・15 個体 れているが、これは日中に限ったものだった。そこで、 編成で有意に増加したが、社会行動の時間配分は変 次世代の育成や一群化の実践に向けての基礎資料と 化しなかった。また、特定の交渉相手を選ぶ傾向に するために、夜間の個体間関係や屋外施設の利用状 あった。このことから、様々な個体と同居する機会 況を調査した。2012 年 6 月 25 日より、チンパンジー を作ることは、チンパンジーがより強い関係を形成 の夕食後に就眠場所を記録し、各個体の NN を調べた。 できる個体と出会う機会となることが示唆された。 結果、アキラ群のアユム(オス)とパンの全体的な 近接率は、他個体と比較して低かった。しかし 2 個 #41 体の距離はパンの性周期によって変化し、性皮腫脹 チンパンジー飼育施設をむすぶ連結ケージの導入 時の就眠場所では NN となっていることがわかった。 森村成樹(京都大学野生動物研究センター熊本サンク また、夜間に屋外施設を利用した個体は、13 個体中 チュアリ)、平田聡(京都大学霊長類研究所)、友永雅 7 個体であり、その個体数の変化と気温との間には 己(京都大学霊長類研究所、京都大学野生動物研究セ 相関関係がみられた。 ンター熊本サンクチュアリ)、松沢哲郎(京都大学霊 長類研究所) #43 野生チンパンジーは、遊動域内を 1 日に 2 ~ 5km 歩行障害および呼吸困難を呈したチンパンジーの子 移動する。生活場所を様々に変えており、これに伴い 宮内膜症疑い例 パーティーも変化する。一方、飼育施設では生活場所 鵜殿俊史、廣澤麻里、野上悦子、寺本研、藤澤道子、 や同居する個体をチンパンジーが自由に決めることが 友永雅己(京都大学野生動物研究センター熊本サン できない。熊本サンクチュアリ(KS)では、現在 53 クチュアリ) 個体が飼育棟 2 カ所に離れて生活している。2012 年 症例は熊本サンクチュアリで飼育される雌チンパ 37 ンジー(個体名ミロ、初診時推定36歳、未経産)で、 #45 2009 年 9 月の月経期に、体動を嫌い重篤な歩行障害 飼育チンパンジーの複雄複雌の群れ作り事例 を示した。検査では、下腹部に拳頭大硬結を触知し、 廣澤麻里、寺本研、野上悦子、森村成樹(京都大学 子宮壁内に径3cmの高輝度球形エコー像が見られ 野生動物研究センター熊本サンクチュアリ) た。X線で異常は認められなかった。血液所見では、 2011 年 3 月にオスのチンパンジー・ベルが当施 白血球数増加(23700/mm3)、CRP 高値 6.11 (mg/ 設へ戻ってきた。そこで、ベルを含めた新たな複雄 ml)、CA125(卵巣・子宮腫瘍マーカー)の上昇(106U/ 複雌群の構成を試みた。まず 5 月からコテツとの同 ml)が認められた。抗生剤及び消炎鎮痛剤投与で症 居を開始し、次第に追いかけっこをするようになっ 状は改善されず、合成黄体ホルモン剤投与で症状は た。ベルはメスたちと面識がなく、複雄複雌群にし 速やかに改善した。2012 年 1 月には喘鳴、呼吸困難 た場合に劣位になる可能性があったので、先にベル を示し、胸部X線検査で気胸と胸水を認めた。診断 とメスたちとの単雄複雌群をつくることを計画した。 的治療法として子宮内膜症治療薬ダナゾール200 2012 年 1 月、ベルとメスとの同居を開始したが、 ~250mgを 4 ヶ月間投与したところ、症状は消 ベルがメスに攻撃を加えるようになった。そこで計 失し治癒したと思われた。検査所見及び治癒経過か 画を変更し、ベルのメスに対する攻撃を抑えるため、 ら、本症例は子宮内膜症および月経随伴性気胸であっ 先にコテツとメスとの単雄複雌群をつくり、メスた たと思われる。 ちとコテツの関係を強めた。一方で、オス同士の関 係も深めるため、ベルとコテツの同居も毎日継続し #44 た。2012 年 6 月、ベルが群れに合流する形で、オス iPad を用いたオランウータンの描画行動を探る試み 2 個体とメス 4 個体の複雄複雌群がまとまった。ベ 花塚優貴(中央大学大学院文学研究科)、木村幸一、 ルは優位な状況において相手を攻撃するという問題 今西鉄也(名古屋市東山動植物園)、田中正之(京都 行動を示したが、コテツの存在により問題行動が抑 大学野生動物研究センター)、緑川晶(中央大学文学 制され、群れのメンバーと安定した関係を築くよう 部) になったと考えられる。 飼育下の大型類人猿では、紙とクレヨン等の画材 を与えると描画行動を示すことが知られている。本 #46 研 究 で は 描 画 行 動 の た め の 新 た な ツ ー ル と し て、 ニシゴリラ乳児の発達に伴う養育者との関係性の変 iPad を導入し、これにオランウータンが紙と同様 化 の描画行動を示すかどうか検討した。対象は名古屋 三家詩織、田中正之(京都大学野生動物研究セン 市東山動植物園にて飼育されているスマトラオラン ター)、長尾充徳、釜鳴宏枝、山本裕己(京都市動物園) ウータン 3 頭、ネオ(メス・42 歳)、アキ(メス・ 大型類人猿の子どもが社会性を獲得するためには、 27 歳)、ピカ(オス・12 歳)とした。結果、ネオは 群れの中で同種他個体とともに育つことが必須であ iPad に対して描画行動を示したのに対し、アキ、ピ る。2011 年 12 月 21 日に京都市動物園で生まれた カは描画行動を示さなかった。クレヨンでは描画行 ニシゴリラ(オス、愛称 ゲンタロウ)は、出産直 動が見られないネオが iPad においては描画できたの 後から母親が抱いていたが、育児がうまくできずに に対し、クレヨンで描画行動を示すアキが、iPad で 衰弱した。子どもの生命を優先し、生後5日目より は描画しないという結果は、クレヨンでの描画と指 人工哺育に切り替えた。動物園では、この子どもの を用いる描画が質的に異なる能力であることを示し 将来を考えて、両親への馴致などの試みを続けてい ている。本発表ではさらに、描画行動を示したネオ る。本研究の目的は、主たる二人の養育者(飼育員) の描画プロセスに焦点をあて、オランウータンの描 によって育てられている子どもが、養育者との間に 画行動を分析するためのツールとしての iPad の可能 形成する関係を探る事である。今回の発表では、毎 性について言及したい。 日 1 時間の公開展示中のビデオ記録から、子どもと 各養育者との接触・近接の程度や二者関係の変化、 それらの反応に関する養育者間の差を分析した。子 どもの発達とともに養育者から離れて活動している 38 時間が増え、養育者間の差が縮小する傾向が見られ トナメスの画像と、乳児 ( 0歳児 ) の画像を対呈示し ている。今後はさらに観客や母親といった他の社会 て、注視時間を分析した。その結果、両種とも乳児 的刺激への反応や、環境への探索等の個体的な行動 の画像に対して注視時間が長くなった。特に、キャ についても分析する。 ンベルズモンキーでは、ニホンザルを見たことがな いにもかかわらず、ニホンザルでの結果と同様に乳 #47 児画像に対する注視時間が長くなった。これら結果 王子動物園のチャップマンシマウマにおける行動の は、種を超えた選好性が存在している可能性を示唆 発達的変化 している。本研究から、ヒト以外の動物における乳 片山洸彰、中道正之、山田一憲(大阪大学人間科学 児画像への選好性について議論する。 部人間科学研究科) 神戸市立王子動物園において、チャップマンシマ #49 ウマの子の行動観察を生後 21 日目より 10 カ月間 リハビリタントの雌オランウータンの繁殖に影響す 行った。子はシマウマ舎において母と 2 頭で飼育さ る要因:若い初産年齢と短い出産間隔 れていた。観察期間中に、子の採食行動と授乳行動 久世濃子(京都大学野生動物研究センター)、デイビッ において、顕著な発達変化があった。子の採食の生 ド・デラトワー(スマトラ・オランウータン協会)、 起率は 0 カ月齢から 3 カ月齢にかけて急激に上昇し、 グラハム・L・バーンズ(マックスプランク進化人類 4 カ月齢以降は 60% 前後に落ち着いた。授乳の生起 学研究所)、ペーター・プラトジェ(フランクフルト 頻度や 1 回の平均継続時間は 0 カ月齢から 8 カ月齢 動物学協会)、田島知之(京都大学理学研究科)、アン・ に至るまでになだらかに低下した。また、子の他の E・ラッソン(ヨーク大学) 動物園への転出に向けた訓練期間(母子分離状態) オランウータンの繁殖パラメーターに影響する要 において、鳴く、採食頻度が低下する、飼育舎内を 因を明らかにし、オランウータンの野生復帰事業の 長い時間歩き回るといった通常場面では見られない 改善に資する為に、7 ヶ所のリハビリテーションセ 子の行動も観察することができた。チャップマンシ ンターのオランウータン(リハビリタント)の雌の マウマの行動について、生後初期から長期にわたる 繁殖パラメーターについて調べ、飼育下および野生 記録は少ない。本研究によりチャップマンシマウマ 下と比較した。スマトラでもボルネオでも、リハビ の採食行動や授乳行動は発達に伴ってどのように変 リタントの初産年齢は若く(10.6-14.7 歳)、出産間 化するのか、母と離れたとき子はどのように行動す 隔は短く(65.1-90.1 ヶ月)、乳児死亡率は高かった (18-61%)。若い初産年齢と短い出産間隔は、給餌に るのかについて、新たな知見を得ることができた。 よって栄養状態が良かったことが原因と考えられ、 スマトラでもボルネオでも栄養状態が良いと繁殖ス #48 ピードが加速することが明らかになった。高い乳児 サルは赤ちゃんが好き? ~霊長類における乳児画 死亡率は、人工哺育のリハビリタントの育児能力が 像への選好性の検討~ 低いことが要因として考えられた。またリハビリテー 佐藤杏奈、香田啓貴、南雲純治、正高信男(京都大 ションセンターでは生息密度が高く、人間との接触 学霊長類研究所)、Alban Lemasson( レンヌ第一大学 ) 乳児に特有な物理的特徴(大きな瞳や小さな鼻・口、 広く突き出た額など)は鍵刺激となり、養育行動を 機会も多い為に、感染症のリスクが高くなり、高率 の乳児死亡率を引き起こした可能性も考えられた。 引き出していると、動物行動学者のローレンツは提 唱した。これはローレンツの幼児図式仮説と呼ばれ #50 ている。幼児図式 ( 乳児特有の物理的な特徴 ) は哺乳 チンパンジーに対する認知的エンリッチメント:東 類と一部の鳥類に普遍的存在しているとされている 山動植物園での 3 年間の活動 が、ヒト以外の動物ではほとんど検討されてこなかっ 鈴木健太、木村元大、島田かなえ、渡邉みなみ(岐 た。本研究では、ニホンザルとキャンベルズモンキー 阜大学応用生物科学部)、櫻庭陽子、市野悦子、足立 を対象に、視覚対呈示法を用いて乳児への選好性の 幾磨(京都大学霊長類研究所)、近藤祐治、山本光陽、 有無について検討した。実験では、ニホンザルのオ 木村幸一(名古屋市東山動植物園) 39 名 古 屋 市 東 山 動 物 園 と 京 都 大 学 の 連 携 に よ り、 #52 2008 年 12 月からチンパンジー舎屋外展示場横に設 日本におけるチンパンジーの飼育下個体群の変遷 置された実験ブース(名称:パンラボ)で、チンパ 綿貫宏史朗、落合知美、平田聡、松沢哲郎(京都大・ ンジーの知性展示を実施してきた。具体的には 1 台 霊長研)、森村成樹(京都大・野生動物) のタッチパネルを用いて 8 個体を対象に認知実験を 飼育下個体群の全体像をより正確に把握し、個体 行ってきた(内、1 個体は転出)。見本合わせ課題と 群の適切な維持管理や動物福祉に役立てるため、日 数字系列課題を行っている。4 個体が見本合わせ課題 本におけるチンパンジーの個体群の経時的な動態と を習得した。1 個体は既に 9 までの数字系列を学習し、 その特徴について分析をおこなった。「大型類人猿情 現在はマスク課題を訓練している。また、2010 年か 報ネットワーク」(GAIN)のデータベースに 2012 年 ら 2012 年の各個体の実験への参加率を比較、分析 10 月までに登録されたチンパンジー全 879 個体の情 した。年により参加個体に傾向がみられ、群内の社 報をもとに、日本でチンパンジーの飼育が開始され 会的地位や、高順位個体の実験に対する意欲の変化 た 1926 年以降の個体群の変遷や来歴などについて や飽きが影響していると考えられる。2012 年 7 月生 集計した。輸入数と国内繁殖数はほぼ同数であった まれの個体は翌年 8 月の初めての実験参加以来、低 ものの、個体数は 1995 年をピークに減少傾向にあ 順位にも関らず積極的に参加している。大人達も寛 り、高齢個体の割合が増加するなど年齢階層の偏り 容に受け入れており、認知的エンリッチメントとし も生じていて、今後の個体群維持への影響が予測さ てだけではなく、多様な社会交渉の場としても機能 れる結果となった。ワシントン条約批准直前の輸入 していると考えられる。 数の急増と、その後の野生由来個体の輸入の停止な ども現在の個体群構成に影響していると考えられる。 #51 今後、野生個体群の動態との比較や、性別・血縁別・ エンリッチメント大賞 2012 の紹介 施設別などの解析も必要となると考えられるが、現 大崎康平、大橋民恵、落合知美、綿貫宏史朗、さと 時点までの中間報告として発表したい。 うあきら、永井和美、石郷岡玲未、杉本悠真、西谷 知佳(NPO 法人市民 ZOO ネットワーク) #53 「エンリッチメント大賞」は、環境エンリッチメン ボッソウからリベリアの森へ トに取り組む動物園・水族館と飼育担当者を応援す 大橋岳(財団法人日本モンキーセンター) ることなどを目的として毎年一回市民 ZOO ネット ギニア共和国ボッソウでは、1976 年より長期に継 ワークが開催しているものである。今年は 2 ヶ月間 続して野生チンパンジーの研究がおこなわれてきま の公募期間ののち、第一次審査を経て、応募書類や した。2 つの石を使ってアブラヤシの種子を叩き割 調査資料をもとに動物や動物園に関する専門家によ る行動など、ユニークな行動がしられています。こ る審査委員会をおこなった。結果、大賞に選ばれた のような行動はどのチンパンジーの群れにもみられ のは、 「チンパンジーの森の植樹祭と群れづくり」(日 るわけではありません。文化的行動として考えられ 立市かみね動物園)、「シカとカモシカの谷」(埼玉県 ていて、群れ生活するなかで、他個体から社会的な こども動物自然公園)、「大空をはばたくアフリカハ 影響を受けて技術を獲得していくようです。このよ ゲコウ」(秋吉台自然動物公園)の 3 件である。いず うなボッソウの群れですが、少子高齢化が進んでい れも、従来の展示の概念にとらわれず、当たり前の ます。群れの存続、文化の存続のためには、周辺の ようにエンリッチメントを導入し、かつ継続的に取 群れとの交流が不可欠です。東にそびえるニンバ山 り組んでおり、エンリッチメントの新しい指針を示 にはチンパンジーの群れが確認されており、群れ間 すような “ 第 2 章 ” の始まりにふさわしい取り組みだ の往来を促進するために、緑の回廊とよぶ植林活動 と言える。エンリッチメント大賞の今後の課題や目 をつづけています。一方で、ボッソウから西に目を 標を検討しつつ、今年の受賞内容について紹介した むけるとリベリアとの国境を越え森が連続している い。 ことがわかります。そこにはチンパンジーがすんで いるのでしょうか。発表者が 2006 年よりおこなっ ているリベリアでのチンパンジー調査の近況を報告 します。 40 #54 ガイドされた動物をもとに当団体では東山動物園の NPO 法人東山動物園くらぶの名古屋市東山動物園に ガイドブックを出版することができた。さらに関わっ おける協働事業「公開セミナー」の紹介 た学生が動物園に就職するという効果も出ている。 野田龍之介(岐阜大学地域科学部)、奥村太基、久保 今年で 6 年目をむかえたイベントであるため、初回 統生、長谷川沙世 ( 岐阜大学応用生物科学部 )、櫻庭 参加者が大学受験を控えている可能性がある。この 陽子、落合知美、堤創 (NPO 法人東山動物園くらぶ ) イベントがきっかけで動物関連の大学に入学した場 東山動物園くらぶとは、名古屋市東山動物園を中 合は次世代の育成の目的を果たしていることにつな 心として市民の環境意識や社会貢献意識を高め、動 がるだろう。 物園の振興に寄与することを目的として設立した NPO 法人である。本発表では、市民が動物や動物園 #56 についての知識や興味を深め、さらに動物園関係者 ニホンザル飼育環境への植物導入の取り組み の方と交流できる場を提供するため、2010 年から 夏目尊好、橋本直子、松沢哲郎(京都大学霊長類研 おこなっている「公開セミナー」について紹介する。 究所) 講師として東山動物園関係者の方をお招きし、担当 野生のニホンザルは、多くの植物にかこまれ、そ 動物やエンリチメント、動物園の歴史など、様々な れらを利用しながら暮らしている。京都大学霊長類 話題で講演をしていただく。講演後は、質疑応答や 研究所リサーチリソースステーション(RRS)では、 懇親会など、市民が直接動物園関係者と交流できる 自然林を生かした屋外放飼場でニホンザルを飼育し 場も設けている。2012 年 10 月に 7 回目の開催を ている。その一方、グループケージで飼育せざるを 果たしている。参加者も増加してきており、高校生 得ないサルには自由に植物を与えられない。そこで から動物園ガイドボランティアの方など幅広い層の RRS では、2012 年 5 月から環境エンリッチメント 方々が参加している。今後もより多くの参加者を獲 の一環としてグループケージのニホンザルに対して 得していくため、告知方法や開催内容を向上させて 植物の積極的な導入に取り組んできた。例えば、週 いく必要があるだろう。 に 1 ~ 2 回、RRS の雑木林から葉付きの枝を切りだ して与えている。この取り組みは、葉や樹皮を食べ #55 ることによる採食品目の増加や、採食行動の多様化、 名古屋市東山動物園における協働事業「東山こども 繊維質の摂取による便状の改善などが期待された。 ガイド」の紹介 また、消防ホースやゴムロープと同様にグループケー 久保統生、奥村太基、長尾彩加 ( 岐阜大学応用生物科 ジの空間利用の一助として丸太を取りつけている。 学部 )、野田龍之介 ( 岐阜大学地域科学部 )、櫻庭陽子、 植物によるメリットが期待される一方、植物をめぐ 落合知美、堤創 (NPO 法人東山動物園くらぶ ) る闘争の増加や、飼育管理業務の煩雑さなども懸念 東山こどもガイドとは、NPO 法人東山動物園くら される。今回は RRS における植物を導入する取り組 ぶ設立のきっかけともなった大きなイベントである。 みから分かった良い点や問題点、将来への展望を報 このイベントは、次世代の育成や子どもたちの社会 告する。 貢献意識の向上、動物の正しい知識や理解の獲得を 目的としている。イベント参加者は小学校 4~6 年生 #57 で、3 日間かけておこなう。1 日目は大学生メンバー 飼育下ニホンザルにおける正の強化トレーニングを が先生役として動物について教え、さらに動物園で 用いた福祉向上の取り組み 実習をしてガイドする動物について深く学ぶ。2 日 橋本直子、夏目尊好(京都大学霊長類研究所) 目は得た知識をもとにガイドグッズを作成し、ガイ 飼育下のサル類において日常管理や研究利用のた ドの練習をする。最終日は 1 日かけて来園者に担当 めに福祉的手法である正の強化トレーニング(PRT) 動物についてガイドする。最終日は来園者イベント の利用が推奨されている。しかしこれには時間的労 としてシールラリーを同時に開催しており、ガイド 力の問題がつきまとう。 を聴いてもらえる工夫をしている。このイベントは われわれは京都大学霊長類研究所リサーチリソース 抽選になるほど人気のイベントになっており、また ステーションにおいて雌雄ペアあるいは 3 頭でケー 41 ジ飼育されているニホンザル 16 頭を対象に、PRT の #59 手法を用いてターゲット訓練(ターゲットへの接触・ キリンの健康管理としての体重測定と発達の指標 誘導など)ならびに移動用ボックス訓練(ボックス 髙木直子、成田正行、中野和彦、岡部光太、和田晴太郎、 への進入・滞在)などを進めている。訓練は 1 個体 山本裕己、伊藤英之、塩田幸弘(京都市動物園飼育課) につき 1 日 2 ~ 3 分程度である。これまでの訓練経 京都市動物園では 2003 年 10 月から現在までに 験などにより個体ごとの進捗状況にばらつきはある 32 回、日常の健康管理の指標とするためキリンの体 ものの、多くの個体が早い段階でターゲット訓練を 重測定を行ってきた。対象個体は現在 13 歳のオスと 達成できた。また、ターゲットにより優位個体を誘 11 歳のメス、そしてその 2 頭の間に生まれた 3 頭で 導しておくことで劣位個体も積極的に訓練に応じる ある。2007 年 7 月に第一子が誕生するまでは 6 ヶ ことができ、社会的闘争の緩和といった効果も期待 月毎、それ以降は子供の成長が著しいため 3 ヶ月毎 できた。これまで約 1 カ月間の進捗状況をふまえ、 に測定した。測定は室内で軸重型車両重量計((株) 多くの時間的労力を費やさなくとも PRT によって日 ブリヂストン社製)を使用した。その結果、成獣オ 常管理を改善できたことについて報告する。 スは 9 歳から約 800㎏で安定し、成獣メスは現在 4 度目の妊娠中であるが、出産に伴う増減を繰り返し #58 ながらも約 750㎏の体重を維持している。また、生 東アフリカ・タンザニア連合共和国における野生動 後 1 ヶ月から 21 ヶ月までの幼獣は 3 頭とも同じよ 物生息地研修報告 うな成長曲線を描いており、生後 3 ヶ月の体重は約 河村あゆみ、釜鳴宏枝、山下直樹、高木直子、坂本 185㎏で、それ以降 3 ヶ月毎に平均 65.5㎏増加して 英房、伊藤二三夫、山本裕己、岡橋要、松永雅之(京 いた。成獣は季節による増減がみられ、食欲が落ち 都市動物園飼育課)、田中正之(京都大学野生動物研 る夏を経過した時期の測定では減少することが多く、 究センター) 逆に食欲のある秋から冬を経過した時期での測定で 京都大学との連携事業として、今年 8 月 17 日か は増加する傾向にあった。長期の継続的な測定によ ら 26 日までの 10 日間で、タンザニアへ野生動物 り飼育動物の健康状態や発達の指標として役立てて の生息地観察研修に参加し、ゴンベ、セレンゲティ いると同時に、数少ないキリンの体重のデータを今 の 2 つの国立公園での野生動物と生息環境の観察を 後も集積していきたい。 行った。この時期は乾季で、セレンゲティは日中最 高気温 36℃、湿度 30 ~ 40% に対し、朝は 13.5℃、 #60 89% を記録した。雨が滅多に降らない時期であるが、 飼育チンパンジーの寝相の季節変化 昼夜の寒暖差により水分が発生することで、萌芽し 座馬耕一郎、不破紅樹、洲鎌圭子、田代靖子、楠木希代、 ており、乾季は常に乾燥した気候だろうという想像 井上紗奈、藤田心((株)林原 類人猿研究センター) に違いがあった。担当動物のリクガメの飼育に温度・ 動物にとって睡眠は脳や体を休める重要な行動で 湿度の変化をつける方法に新たな工夫が考えられた。 ある。本研究は、季節等の気温の変化に対し、チン また、野生動物を取り巻く自然環境と地元の人間と パンジーがいつベッドを作り、どのような姿勢で眠っ の関わりについて、貧困層の生活に密接した焼畑と ているか調べた。調査は林原類人猿研究センターの それによる森林破壊の問題、現金収入に繋がる農法 2 頭のチンパンジー(ミサキ:オトナメス、ハツカ: 指導や学業の普及といった生活水準向上のための解 コドモメス)を対象に、2011 年 4 月から 1 年間行っ 決策の模索など、現代の日本における環境教育の取 た。夜間の様子を赤外線カメラで撮影し、各月、2 り組みとは違った現地での活動に身近に触れること 夜分について 10 分毎のスキャンサンプリングを行っ ができたことは興味深く、今後の来園者への教育普 たところ、各個体とも夏に仰向けで眠る頻度が高く 及に役立てていきたい。 なり、また眠り始めの宵のうちにも仰向けがよく観 察された。一方で冬にはワラを体の周りに集めてベッ ドを作る頻度が高くなり、ベッド上では仰向けで寝 ることが少なかった。このことから、夏や宵のうち の気温が高いときは腹を上にして熱を逃がし、冬な 42 どの気温の低いときには仰向けをやめ、ワラで体を 囲っていると推測された。本研究は京都大学野生動 物研究センターの共同利用・共同研究として実施さ れた。 #61 名古屋市東山動物園における協働事業「東山動物園 プレ検定」の紹介 奥村太基、久保統生(岐阜大学応用生物科学部)、野 田龍之介 ( 岐阜大学地域科学部 )、櫻庭陽子、落合知美、 堤創 (NPO 法人東山動物園くらぶ ) NPO 法人東山動物園くらぶとは、名古屋市東山動 物園を中心として市民の環境意識や社会貢献意識を 高め、動物園の進行に寄与することを目的として設 立した NPO 法人である。より多くの市民が動物園に ついて知り、興味を持って動物園に足を運んでもら うことは動物園の振興につながるという目的で始め られた東山動物園プレ検定は、2013 年度以降おこな う予定である東山動物園検定の模擬として、今年初 めて試みた。参加者の年齢制限は設けず、東山動物 園の個体情報や歴史など今年当団体で発売したガイ ドブックを元にして 50 問を当団体のメンバーで作成 し、4 択のマークシート形式でおこなった。参加人 数は 79 人で、5 歳から 75 歳までが参加し、最高得 点は 98 点で高校生が獲得し、平均点は 64 点であっ た。幅広い年齢層の方々がプレ検定に参加し、テレ ビ局からも注目が浴びた今回のイベントは、多くの 市民が東山動物園に興味を持っていただけたと思う。 43
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