第7章 光の放射

第7章 光の放射
赤外線よりも波長の短い(振動数の高い)
電磁波を光という。
光の放射は,原子内の電子がエネルギー
の高い状態から低い状態へ遷移することに
よって発生する。
エネルギー準位と光の放射
原子内の電子は勝手な軌道を取ることが出来ず,特定のエネル
ギーをもつ軌道のみが許される。それぞれの軌道がもつエネル
ギーのことをエネルギー準位(energy level)という。
放射
ƒ 原子核から遠く離れた電子ほど,高いエ
ネルギー準位にある。
ƒ 光の放射は,原子内の電子が高いエネ
ルギーから低いエネルギー準位に遷移
することによって生じる。
ƒ 原子内の電子は,光を吸収することに
励起
よってより高いエネルギー準位へと 遷
移する。電子がより高いエネルギー準位
へ遷移することを励起(excitation)という。
光子
光は波(電磁波)であると同時に,光子(photon)と呼
ばれる質量をもたない粒子の集まりでもある。
ƒ 原子内の電子が高いエネルギー準位から低いエネルギー準位
に遷移する際に放射されるのは,光子である。
ƒ エネルギー準位は原子の種類によって決まっており,その結果,
原子から放射される光子のエネルギーも原子の種類によって
決まっている。
光子のエネルギーを E とすると,E はエネルギー準位の差に等
しい。また,エネルギー E 〔J〕の光子からなる光の振動数をν
〔Hz〕とすると,
E = hν
が成り立つ。ここで,h はプランク定数(Planck s constant)と呼ば
れる普遍定数である。
色
色(color)は生理学上の現象であって,見る人の目の
中に宿るものである。光の振動数の違いは,色の違いと
して認識される。
ƒ 物体の多くは光を放射するよりは反射している
のであり,しかも,物体に入射する光の内の一
部分だけを反射している。その反射光が物体
に色を与える。
選択反射
物体が入射する光の内の一部分だけを反射する現
象を選択反射(selective reflection)という。
ƒ 原子内の電子は,特定の振動数で振動する。この特定の振動
数のことを固有振動数(eigenfrequency)という。
ƒ 固有振動数に等しいかまたはそれに近い振動数の光が入射
すると,光子は原子に吸収され,原子内の電子は高いエネル
ギー準位に遷移することなく固有振動数で振動する。しかし,
振動はいつまでも続くわけではなく,電子は元の振動していな
い状態に戻る。このとき,原子から光子が再放射される。
ƒ 入射する光の振動数が固有振動数と大きく異なっていると,原
子に吸収された光子のエネルギーは熱エネルギーに変わる。
ƒ すべての振動数の光(電磁波)を吸収する物体を黒体(black
body)という。炭は黒体に近い物体である。
太陽光の放射曲線と色の混合
光の放射の強さと振動数(波長)との関係を示す曲線を放射曲線
(radiation curve)という。
太陽光の放射曲線は,黄緑部分が一番強い形になっている(a)。放射曲線を単
純化し(b),三つの領域に分割する(c)。振動数の一番低い領域は赤に見え,真中
の領域は緑に見え,一番高い領域は青に見える。
加法混合と加法3原色
白いスクリーンから反射された光の色の混合は,人がその光を見る前に行わ
れているので,加法混合と呼ばれる。
赤(R),緑(G),青(B)の光を混合することでどんな色でも作り出すことができ
るので,これらの色を加法3原色という。
赤+緑=黄
赤+青=マゼンタ(深紅色)
緑+青=シアン(青緑色)
赤+緑+青=白
減法3原色
マゼンタ,黄,シアン色の顔料をいろいろな割合で混合すること
で,どんな色の顔料でも作り出すことができるので,これらの色を
減法3原色という。
ƒ マゼンタ色の顔料は,緑の光を吸収する。
ƒ 黄色の顔料は,青の光を吸収する。
ƒ シアン色の顔料は,赤の光を吸収する。
マゼンタ+黄
=赤
黄+シアン=緑
マゼンタ+
シアン=青
マゼンタ+黄+シアン=黒
散乱
波がその波長に比べてあまり大きくない物体に当たったときに,
その物体を中心として周囲に広がっていく波が生じる現象を散乱
(scattering)という。また,散乱を引き起こす物体を散乱体または
共鳴体という。
ƒ 波の振動数が散乱体の固有振動数に近いとき,
散乱体に強制振動が起こり,強い散乱が起こる。
ƒ 波の振動数が散乱体の固有振動数に近いほど
散乱は強くなり,波の振動数が固有振動数に一
致するとき,散乱は最大になる(散乱体は共鳴
振動する)。
ƒ 光子が原子に衝突すると,原子内の電子を強制
振動させる。振動して電子は,いろいろな方向に
光子を再放射することで,元の振動していない
状態に戻る。
空はなぜ青いのか
大気の大部分を占める窒素や酸素の分子は,紫外線部分に相
当する固有振動数をもつ光の散乱体である。
ƒ 太陽からの紫外線はオゾン層で大部分吸収されるが,透過した
紫外線は大気中の窒素と酸素の分子によって強く散乱される。
ƒ 紫の可視光は,その振動数が窒素や酸素の分子の固有振動
数に十分に近いので,かなり強く散乱される。
ƒ 太陽の可視光が地球の大気中に入射すると,受ける散乱は紫,
青,緑,黄,橙,赤の光の順に弱くなる。
ƒ 散乱される光子の数は紫の方が青よりも多いが,人間の目は
紫の光に対して感度がそれほど良くないので,空は青く見える
のである。
ƒ 大気が塵などの大きな粒子で満たされると,低い振動数の光が
もっと強く散乱されるようになり,空の青さが減り,白っぽい空に
なる。
日没の太陽はなぜ赤いのか
地球の大気層を通過する際に,高い振動数の光は強く散乱され
るが,低い振動数の光はあまり散乱を受けずにそのまま通過する。
ƒ 最も散乱の弱い赤の光は,他の色の光に比べて容易に大気層を透過する
ことができる。
ƒ 日光が大気層を通過する距離が最も長くなるのは日没時であり,その時,
散乱の機会が最も多くなる。これが白い太陽が日没時に赤く見える理由で
ある。
ƒ 真昼には太陽が黄色く見えるが,これは大気層の通過距離が最短となるの
で,散乱される青い光の量が少なくなるためである。