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高校生に優しいエレクトロニクスの解説(例)
カラー液晶のしんか
−内田先生のサイエンスカフェでの講演から−
<カラー表示の基本;3原色の混色、加法と減法>
図1参照
カラーの画面を撮像して電気信号として記録したり伝送する、更には再現して表示する
には色の基本を理解しなければならない。人の目に見える色は、波長の異なる光の組み合
わせと空間的分布できまる。これらの分布はスペクトルと呼ばれる。人の目で見ることが
できる色は、3 種類の基本スペクトル(原色)の組みあわせで実現できる。照明の光は青、
赤、緑の原色が足し算することで白色光になる。これが高校の物理の教科書に登場する加
法混色である。これに対して、プリンタではシアン、マゼンタ、黄色の3色が混ぜ合わさ
れることで、色が実現する。これは減法混色の原理に基づくものである。
<液晶とは>
表示に用いられる液晶の研究は 1888 年にオーストリアの植物学者ライニツアーがコレス
テロールの植物への影響を研究する中で、ある化合物の結晶が 145.5 度の温度で溶けて濁
った液体になり、178.5 度まで温度を上げると透明な液体に変化することを発見したことか
ら始まる。この物質を分析したレーマンは、温度により屈折率が変化する液体であること
から液体結晶と名づけ、日本では液晶と呼ばれるようになった。
<しんか0;不純物除去>
液晶の実用化の最初の課題は、純度の改善であった。不純物によって電流が流れ、電圧
が加わらず、動作しないのである。有機物の高純度化には化学の専門家も懸念を示したが
克服した。
<しんか1;多層フィルター;複数積層で直列回路>
図 1A参照
初期の表示素子では、透過する光を電気信号によって吸収するよう液晶を制御して明る
さの分布を実現した。初期のカラーは、シアン、マゼンタ、イエローの色素をそれぞれま
ぜた 3 つの液晶層の透過性を表示した。白色の光が直列回路を通過してするのと同じ原理
である。この方法では、色実現に必要ない光が液晶によって除去されている。すなわちエ
ネルギーが浪費されているのである。
<しんか 2;マイクロカラーフィルタ方式;空間を分割し加法混色>
図1B参照
これに対して、赤、緑、青の3原色に対応したフィルタを分割した空間に配置し、対応
した原色のみを透過させると、人間の目が空間的に足し算をして色を認識することができ
る。この方法は現在広く実用化されている。
<しんか 3;フィールドシーケンシャルカラー方式;時間分割で原色切り替え>図1C参照
さらに分割して色つきの液晶を配置する代わりに、3原色を時間的に順次切り替え発光
させ、このタイミングに合せて無色の液晶を高速で透過制御することで人の目にカラー情
報を送る。人の目と脳では、順次送られてくる原色を加法混色して時間平均を取って色を
認識している。人の特質も活用してエネルギーの消費を低減していることが理解できる。
この方式では液晶の状態が高速で変化する必要がある。内田研究室で発明されたOCB
(Optical Compensated Bend)方式結晶はこれを可能とした。
<しんか 4;反射型;自然光採用でバックライト除去>
図1D参照
エネルギーの更なる削減には、蛍光灯や LED のような表示の為の人工光を使うことなく、
太陽光のような自然光や、照明の為の人工光を使うことである。発光する光を見るのでな
く、印刷物や絵画が見えるのと同じ原理を使うのである。インクや絵の具に代わって液晶
が自然光の中の 3 原色の透過特性を制御するのである。色に応じた電気信号によって屈折
率を変化させた液晶の部分を、外部からの光が通過、反射板で反射した後、再度同じ液晶
の部分を透過して表示光となる。
従来の素子では光が素子中を透過するのに対して、この型では、素子の中で光を反射さ
せていることから反射型と呼んでいる。
<しんか 5;反射・散乱の制御で新たな機能>
図2参照
この反射型素子で消費エネルギーの超低減を可能としているのが、特殊な反射板である。
白い紙にあたった光は散乱して、どの方向からみても同じ明るさで見える。エネルギーを
節約するため、内田先生のグループでは見る方向に光が集中して反射・散乱させるよう表
面形状変化させた。すなわち目の方向に光を集め、光の利用効率を高めたのである。利用
効率の改善により照明に必要な光の量を減らす、光の浪費を減らしたのである。表面形状
と反射・散乱の関係は数学の力で解析、最新のナノ技術で作成された。
この場合、照明光の到来する方向以外からの光で像が見えにくくなることを解消する方
法も工夫された。
光は鏡面においてスネルの法則に従った反射をするが、波長と同等の寸法で形状の変化
する面は、こうした法則によらない新しいルールで光の進行を制御することができる。こ
れは広い意味のナノ技術の一種であり、多くの新しい可能性を作り出すのである。
(以上
文章責任
小粥)
図1
カラー液晶の しんか
A.しんか1
しんか0;高純度化
B.しんか2
C.しんか3
カラー実現の原理
D.しんか4
(参考)
図2
反射と散乱の制御で新たなしんか
反射板表面形状の工夫
反射板の表面状態で反射制御