野趣あふれるシューマッハ・カレッジライフ

付録:特別寄稿2
付録:特別寄稿1
「野趣あふれるシューマッハ・カレッジライフ」
2008 年 3 月
岡本享二
セミナー受講生
2月 24 日にロンドン到着。翌 25 日(月)~28 日(木)に 6 つの企業や NGO/NPO を訪ねた。
Forum for the Future,
AccountAbility, Vodafone, People Tree, SustainAbility Ltd,
EIRiS である。2 月 29 日(金)がプリマス大学。翌 3 月 1 日、2 日はエデンプロジェクトを
視察。その後、3 月 3 日~14 日までシューマッハカレッジでセミナーを受講した。
同僚の ESD センターフェロー中野民夫(博報堂)に送ったメールを基に、特別紀行として
赤裸々にカレッジライフを報告する。
日記風に記述しているので、俗人の「心の移ろい」を感じていただければ幸いである。
3 月 5 日(水)
今、ガーデニングから戻ったところです。毎日役務(中野さんのいうところの作務)があるの
で閉口しています。風邪は、喉から気管、右肺に移転して月曜日は最悪でしたが、火曜日
に直りました。食事はすべて植物というか付近でとれる野草が多いいせいか、火曜日の夜
まで下痢気味でした。それも治っていよいよパワー全開です。
朝7時の瞑想に始まり、夜10時まで授業とディスカッション。その間に輪番制で「食事
当番」「掃除当番」「ガーデニング」「食器洗い当番」「講義をよりよくするための相談当番」
1
の5つを受講生が手分けして行っています。学生のうちなら寄宿舎生活も苦にならないで
しょうが、ぜいたくをしてきた身としては収監されたらこんなもんかと思うような簡素な
6畳一間です。
生徒は26人。年齢が意外と高くて私より上の人がかなりいます。若い女性が多いだろう
と思っていたのも期待はずれでした。皆さん文句を言わずに当たり前のように役務に励ん
でいます。私は役務が嫌いなのですが、考えてみたら世の中は表と裏があって、裏方の仕
事もしなければならないのに「日本ではすべてのサービスが行き届きすぎて、きれいなと
ころ(目的のもの)だけを提供する社会になってしまったんだ」と、変なところでこの大学の
制度に感心しています。
学内には大勢のボランティアがいます。我々のクラス担当として 4 名が紹介されました。
その中の一人ヘレナは素朴でかわいい女性です。野の花をとってきて各部屋や公共の場に
飾ってくれます。食事の用意も役務についた生徒をリードしながらこまめにやってくれま
す。ヘレナはピアノとバイオリンが得意だとのことで、楽器の演奏(ピアノと縦笛)を共にし
「ミとファはドレミのためいきだよね」とかの会話を楽しんでいます。
授業中はスイスから来た Gillian の横に座わって、ノートをとってもらい、意味の分からな
い単語の意味を聞いています。頭の回転の速い女性で、非常にサポータブルです。
3 月 7 日(金)
現在 4 時半。朝型はこちらに来ても変わりません。
食事はひどいね。なにしろこの近辺の野草(ハーブというべきか)を 49 種類見つけた博士
がいて、それを食べさせられてるわけです(ゲロゲロ)。昨日は豆腐料理が出ましたが、そ
の豆腐は腐りかけていました(においでわかる)。豆腐には鮮魚同様の鮮度があることを知
らず!
この前、味噌汁が出てきたときも西洋のスープのように何十分も煮たからだと思
うが、豆腐が固まっていた。必要最小限の加熱調理という手法を知らず!!
私がきちんと教えなければいけないね。
一昨日の授業で「Gardens tour with Mary Bartlett」というのが行われたのですが、たど
りついてみれば日曜日(3 月 2 日)に宿泊していたホテル Darington Hall の庭でした。一つ
一つの草や木の説明、庭の作られた由来、手入れ法など、本当に植物を愛している人なら
ではの話を草木花を見ながら 2 時間かけて伺いました。
輪番制で「食事当番」「掃除当番」「ガーデニング」「食器洗い当番」「講義をよりよくする
ための相談当番」の5つの役務を毎日やっています。役割がきつくて泣けてきます。皆さ
2
ん文句を言わずに、あたり前のように役務に励んでいるように見えていたのですが、一番
よく働く Frank Buddingh がリーダー役の若い職員がいなくなったとたんに悪口を山ほど
いい、オーストラリアから来ている上品そうな Dimity も負けずにののしるのでした。「な
ぁんだ、みんなすごいなぁと思っていたのに、役務が大嫌いだったんじゃん」と納得した
のでした。昨日の役務は午前中が畑仕事、夕方が食
器洗いとモップ掛けでした。土を起こす作業は深く
根の張った草や小石があって、土も重くつらかった
です。食器は 40 人分もあると量も多くて重たいで
す。モップ掛けは床をきれいに拭いた後、モップを
水で洗うのがつらかったです。今日の役務はクッキ
ング。最近は台所に立っていませんが、役務として
は楽なほうでしょう。
授業は順調に進んでいます。何事も積極的に学ぶ
(というか自分から問いかけ、だれとでも議論し、
調べ、再確認し、仲間を納得させる)ことが大切で
..
“役務”のメンバー
す。私は Holistic Approach を駆使して滞在 2 週間
で岡本享二の何者かを全員に理解してもらい、余韻
を残してシューマッハカレッジを去ることを考えています。
私の提唱している Fermentation 理論は大変受けが良く早速何人かの仲間ができて、先に英
文のしっかりした理論が出来そうです。その間に4月末締め切りの拙著「進化する CSR(仮
題)」の原稿 10 万字を執筆しています。日本で約 5 万字書いてきたのであと半分です。
土曜日はクラスメイトの Frank Cook が森林散策を企画しているので、それに参加すること
にしました。日曜日は Gillian とサイクリングに行く約束をしました。彼女は風邪をひいた
ので昨晩から私がロンドンの中華街で買った、用済みになった3種の中国薬草風邪薬を回
しておきました。彼女は私の代わりに講義録を書き取ってくれます。こうした仲間に世話
になりながら講義をこなしています。
今週の講師はメキシコの Gustavo Esteva。講義内容は「From underdevelopment to post
development」「People’s reaction」「The commons – a contemporary answer」「Cultural
regeneration」というテーマで、熱のこもった講義とディベートが繰り返されました。
メキシコの一地域(Region)であるオハカ(Oaxaca)市民がメキシコ政府から独立を勝ち取
るまでの過程を、豊富な映像と現地人の証言で構成した今までに体験したことのない形態
の講座です。メキシコの一地区住民の抵抗運動から現代社会の表裏を俯瞰します。「教育は
体制化された時点で古いものになり、政府によって良い意味でも悪い意味でも管理される」
「女性の活躍こそ 21 世紀に期待される最大のものである。単なる男女機会均等を超えて、
3
女性がもっともっと表に出てくることが望まれる」など、力強いメッセージが続きました。
これに対し受講生も多様な意見を発します。
「そんな一地方に偏らないでもっとグローバル
な視点で講義をしてほしい」「この話を 10 年前に聞きたかった」等など。Gustavo も負け
ていません「真理は現場にあり、現場を知らずして世界を語れず。もっと発展途上国の現
地の声や現状に目を向けよ。そこに 21 世紀の発展がある」
「歴史や国がいう真実(各種報道)
などはまやかしが多い。現場を通してこそ次の世代に真実を伝えることができる」と。
受講生は一日の講義が終わると、小グループに分かれて意見を交換し、さらに図書館で彼
の書物に目を通し、インターネットで過去の歴史や真実を調べます。ついに Yvan Rytz に
いたっては「自分の目で確かめてくる」と、この講座が終わった後、早速メキシコの Oaxaca
に行くことを決めました。この身軽さ、この発想こそ真実を求めるシューマッハカレッジ
の真骨頂だろうか。
3 月 10 日(月)
徹底した野草食事に体も慣れ、体調はすっかり戻りました。きょうは土・日のイベントを
中心にお話します。8日(土曜日)は有名な森林ネイチャーリストの Frank Cook の野外講座
(Wild Seminar)に参加しました。彼のことはグーグルで調べたら写真付きで紹介されてい
るので見てください。髪の毛を21年間伸ばし放題にしていてまるで森の中の木のような
風貌です。彼も26名中の一受講生です。だんだんわかってきたのですが参加26名はそ
うそうたるメンバーです。親しくなった Gillian に"Frank Cook looks like a Tree(フランク
って木みたいなやつだね)"と同意を求めたら、”Lord of Trees!(森の王様だよ!)"と言い返
してきました。それほど古木のようなやつなのです。容貌も考えも!!
さて、その講座は「森の中で沈思黙考し」「みんなで思ったことを互いに話し合い」「野草
の説明を受けてはそれを直接食する」ことでした。昼食前にお腹がいっぱいになるほど野
草を食べました。動物好きの私も馬や牛が草をはむのが不思議でしたが、やっと草のうま
さを納得しました。「結構いいもん食ってたんじゃん!」スパイシー、ガーリック味、体が
いやされそうなものなど各種食しました。Frank いわく「マックのハンバーガーを食うよ
りよっぽど安心できるぜ!」。野草は一切洗わずそのままの状態で食べます。小さな棘(とげ)
ある草も手のひらで丸めてぱくりと食べました。
「犬がおしっこかけてるかもしれないけど、
気にするな。よっぽど農薬漬けの野菜より安全だよ」「手のひらの中にもバクテリアが何百
万匹もいて一つの世界を作っているから、手も極端にきれいに洗わないほうがいいよ。人
間の体の中にはそういう菌を殺す作用がたくさんあるのに、現代生活はそれらを使わなく
なっている」と警戒も発するのでした。ううんすごい。Amazing!!
4
9日(日)は完全休養日なのでかね
て予定していたようにトットネス
の中心街に自転車でサイクリング
しました。Gillian と一緒に行く予
定でしたが、約束の10時に現れな
かったので一人で行きました。久し
ぶりに乗る3x6段ギア付きのマウ
ンテンバイクに心も踊ります。アッ
プダウンが結構あって体力的には
きつかったのですが、Darington
Hall を通ってさらに川沿いのサイ
クリングコースを行き、中世の街並みそのものトットネスにたどりつきました。ところど
ころにローマ帝国時代の要塞(あとで Bill が教えてくれた)、石畳、砦があり、まるで物語の
街並みそのものです。
中心街は丘の上にあり、ミサでも
あるのか教会の鐘が30分ほど
鳴り響いていた、のどかな街です。
小一時間ほどで街を見つくした
ころ、通り雨を避けてアーケード
のある商店街で自転車を止め、雨
宿りしていたら、なななんと
Gillian にばったり出会いました。
私が出たあとを追いかけてきた
そうです。もしも雨が降らなかっ
たら、いかに小さな街といえども
動き回る私の性格から出会えた
トットネス市内の様子
かどうかわかりません。あとを追いかけてくれた、その心意気に感激し(全く信じられない
偶然の結果のような気がして)思わず二人で抱き合い、耳たぶまで噛んでしまいました。
Gillian も街並みが気に入って「まるでディズニーランドみたい!」と意気投合。来てよか
った、お茶でも飲もうということになり、目の前にあったカフェに入りましたが、Gillian
は気に入らず、しばらくして店を出ました。すでに街中を調査していた私が「街はずれに
ホテルが2軒あって名前が面白いから、そこの BAR に行こう」と提案。一方が牛ホテル(Bull
Inn)もう一方は馬ホテル(Horse Inn)です。おそらく中世に馬小屋や牛小屋があったか、そ
れらの商売のための「はたごや」だったのではと思います。
5
最初に入った Bull Inn は化学薬
品で掃除をした直後なのか私も
匂いが気になりました。スイスの
銀行家の娘で気高き Gillian はす
ぐに「トイレの臭いよ、出ましょ」
となり、斜め向かいの Horse Inn
へ。ここはロンドンで行ったこと
のある BAR の感じでなかなか雰
囲気の良いところ。私はスコッチ
のオンザロックを彼女はコーヒ
ーで一時間ほどだべりました。
泣かせてくれたのは「私は家族に3枚絵ハガキを書いたから Kyoji も一枚書きなさい」と絵
はがきとペンを手渡されたことでした。家族とはメールでやり取りしていたので、しょう
がないから(実は嬉しかった)田舎の母と姉あてに書きました。支払いはすべて彼女が持って
くれました。
「Every Hour(毎時間でも)コーヒーが必要なの」という Gillian に「味はどう
かと」聞いたら、渋い顔
を返して来ました。あげ
くチップに用意していた
1ポンド硬貨を引き払っ
たから、コーヒーの味は
気に入らなかったみたい
です。彼女は夕食調理の
ボランティアに手を挙げ
ているということで、3
時過ぎにはシューマハカ
レッジに戻りました。
クラス内でも有名になっ
馬ホテル ―Horse Inn― へ
た私と Gillian の仲のよ
さは、最初の授業がきっ
かけです。偶然、隣合わせで座ったところ、「メモを忘れたので 2,3 枚紙をちょうだい」
と私のオレンジ色の Jotter(メモ帳)を見て声をかけてきました。Gustavo の聴き取りにくい
英語(本人いわく Spanglish)ではメモをとる余裕がないと感じていた私が「このメモ帳はあ
なたにあげるから、ちゃんとメモをとって後でコピーをちょうだい」と Eden Project 視察
の時にお土産で買った Jotter をプレゼントしたのが始まりです。親子ほどの年齢差ながら、
どちらが親でどちらが子供かわからないほど、まったく対等にやりあい、ケンカも数回。
6
彼女の好奇心、行動力、頭の回転のよさ、それにもまして、だれもが嫌がる休日の役務(受
講生に義務はない)を積極的に受けているボランティア精神!
感心を通り越して尊敬して
いたので、それが彼女にも伝わっていたのでしょう。
夕食時にあすからの講師である Vandana Shiva さんが来ていました。日曜日に残っていた
全員で食事をし、そのあと Vandana を含む10数人で BBC 制作の自然を賛歌する映画を
観ました。Vandana はやさしそうな、柔和な感じの上品な Lady でした。今週の講義で彼
女の思想、哲学、行動の全貌がわかってくると楽しみにしています。
3 月 12 日(水)
シューマッハカレッジでの完全菜食生活にすっかり慣れ、都会生活でありがちな肩のコリ
や目の疲れもおこらず、体が軽くなった感じがします。私は積極的なベジタリアンではあ
りませんでした。魚を好み、私自らは肉を求めて食べることはないがパーティーやレセプ
ションで出てきたら、いとわず食べてしまうという程度のものでした。帰国後はかなりな
ベジタリアンになりそうです。
ベジタリアンになった人の話
を総合すると;
①自分自身の健康のため
②食物の効率を良くするため
(穀物を餌にする牛肉は1Kg
作るのに9Kg の穀物が必要)
③動物の命を大切にするため
(人間と機会均等にする。一方
的に殺生しない)のようです。
Vandana の前半二日間の授業
も大変感銘深いものでした。
ひと言でいうとパワフルです。
昨日の午後は輪になって午前
中の話をベースに全員でディスカッション(ディベート)をしたのですが、24 人の参加者
が束になっても Vandana 一人のパワーに押されていました。目の輝き、真理を求めてやま
ない真摯さ、歯に衣着せぬ物言いの裏に事実を積み上げてきた学術的な強みと聡明さがう
かがえました。
私とはとても気があって、月曜日には二人して図書館で話し会い、火曜日には晩餐をとも
にしました。そして「インドにいらっしゃい」と誘われました。
「ううーん、インドねぇ?」
7
と考え込んでしまいましたが、日本での仕事を早くスタッフに任せて、まず3週間くらい
様子を見に行ってから、長期滞在の可能性を探ろうかなと思っています。インドでブレー
メン・コンサルティングの世界戦略を練るのです。
Vandana Shiva 氏と
Vandana の文章やスピーチには独特の力があります。
“それはなぜか”を考えました。真理
を追究してきた者の Conviction(真理に基づいた自信)と、語彙力が卓越していることが大き
な理由です。私が知らない単語がぽんぽん出てきます。それを聞いた端から電子手帳で意
味を探ります。私がスペルに迷っていると、すぐに横から Gillian がメモ帳にスペルを書い
て教えてくれます(阿吽の呼吸が嬉しい)。そうしてたまった単語は毎日 7~80 語。それらは
電子手帳で調べた順に再生できるので、順番に覚えていきます。覚え漏れたものは結局最
後まで電子手帳に残っていきます。こうして新しく知り得た単語が真珠のように輝いてい
ます。使用目的に意味がぴったりです。単語に歴史があります(どうしてこの単語がこう
いう局面で使われるか)。彼女が高度な教育を受けたことを感じさせます。たとえば;
Symptom:
兆候、きざし、しるし(通例、望ましくない、悪い出来事に用いる)
Solidly:
強固に、堅固に、満場一致して
Fear:
(悪いことが起こる)可能性、恐れ
Exploitation:
開発、開拓(に名を借りた搾取、私的利用)
Disparate:
まったく異なる、本質的に異なるもの
などなどです。
先ほど文中に書いた Conviction(事実に基づく確信、信念)についても IBM 時代には同意
8
語の Confidence(単なる確信、自信)を使っていました。Confidence と Conviction の違
いが Vandana にはあるのです。
夜 Gillian と二人、図書館で勉強しているとき私が
「Vandana に感心している。彼女は腕っ節も強そ
うだから腕相撲に挑戦したい」と言ったら Gillian
は「それだけはやめときな。バシッとはたかれる
よ」と注意されました。ちなみに Gillian とは勝負
がついていて、楽勝でした。腕の太さは彼女のほ
うが太いと思うけど、、、
3 月 14 日(金)
2 週間すべての授業が終わりました、今晩の送別 Party を残すのみです。
昨日、13 日(木)は最もきつい一日でした。朝 10 時に授業が始まって、夜の 10 時まで 12 時
間の長い一日。実際には朝 7 時からなんやかんやるので 15 時間です。
7:15-7:45
Meditation←黙想。お祈りみたいなもの
7:45-8:30
朝食←簡素なベジタリアン食
8:30-8:45
朝会←その日の予定確認と、希望者によるお薦め本の朗読
8:45-9:30
その日の役務
10:00-13:00 までに授業が2回に分かれていて(10:00-11:15、11:45-13:00)、今週は
Vandana の授業というわけです。午後は 14:00-18:00 まで Wild Walking と称して 40 億
年まえから 100 万年前までの地層の草原を歩きました。40 億年というとすごそうに聞こえ
ますが、単に過去の生い立ちが分かっているということで別に変ったところを歩いたわけ
ではありません。たぶん日本の各地にも同じようなところがあるはずです。要は地質学的
に調べがついているか否かの違いだと思
います。
小雨でしたが、雨の中を歩くのも悪くな
い気分でした。驚いたのは 23 人参加し
て、傘をさして歩いたのは私と
Dimity( オ ー ス ト ラ リ ア の NPO と
Bill(カナダから来ている元教師)だけで
した。逆にいうと、皆さん雨の中でも濡
れない、頭からかぶれて、ズボンもおそ
ろいの装備をしっかりしているのでした。私は大きな長靴を借り、防水の利いたコートに
9
帽子をかぶって行きました。装備としては悪くなかったのですが、日本と違って気候が変
わりやすいうえに温度や風が急に強くなったり高くなったりするので、気候に合った服装
が求められと思いました。
途中から小降りになったので傘はたたみました。水泳と自転車で体を鍛えておいてよかっ
たと思います。ブラジルから来ている Homero は時々息を切らせていました。ともかく 6
時までは「雨もまた楽し」で過ごしました。夕食も気の合う Vandana と一緒でした。「イ
ンドの 11 月 12 月は最高よ、You must come!」と誘われたので思わず「必ず行きます。英
語もしっかり勉強しておきます」と言ってしまいました。
さて、そこまでは楽しい 1 日で心ウキウキ、メールが出せると思っていたのですが、8:15
-9:45PM に見た映画がものすごく怖くて一気に気分が沈んでしまったのです。
野菜や牛肉、豚肉、鶏肉の製造過程を隠しカメラでビデオ撮りした映画です。野菜に関し
ては農薬をたっぷりまかれていること、栽培方法が想像できない規模(4 キロ四方)で、収
穫も超大型の機械を使い、木の実を落とすのに、木をゆするマシンが登場してびっくりし
ました。動物の場面は見るのがつらかったです。雛(ひよこ)はベルトコンベアーでテニスボ
ールのように仕訳られ、最後は雛同士が狭い鶏舎でけんかをしないように機械で嘴(くちば
し)がカットされます。路地で普通に育てば 2 か月後にせいぜい 500~600g ですが、ここで
は 2~3 キロに太らせて、最後は羽根を高水圧で飛ばしてブロイラーの完成です。
牛はギロチン台のような壇上で脳天を高圧スタンガンで撃たれ、気を失ったあとは機械で
次々と解体されてしまいます。それもかなり無残なやりかたで。
うう――寝られない。と思っていたけど結構ぐっすり寝てしまいました。
きょう 14 日(金)は5時に目覚めました。
鳥の鳴き声が騒がしいので目覚まし時計は不要です。
「Early Bird(早起き鳥)」とはよく言ったもので夜明け前から騒ぎだします。シューマッハ
カレッジ近辺の鳥は一羽一羽に存在感(自己主張)があるのが不思議です。いつも見かけるつ
がいの鳥が縄張りを主張し、人間のことをよそ者が歩いていると見降ろしているように感
じます。なにはともあれ、食料に関する怖い映画を見たにもかかわらず、結局よく寝たの
ですが、欧米でベジタリアンが増えてきたのはこういう背景がだんだんわかってきたから
だと思います。動物の命を工場生産するような方法で食料にすることは問題だと思いまし
た。生まれてから肉になるまでまったく生き物としての尊厳と自由がないのです。
きょうが最後の授業になりました。今回の春季短期講座(Development: What next?)は、3
週間のコースです。1週間の人が3人、2週間の受講生が私を含めて4人いました。11 月
のインド行きの決定をはじめ、考えさせられることがいっぱいあった収穫の多い、今後の
良い指針が得られた 2 週間でした。10 カ国以上の仲間ができたことも喜びです。
10
最終日は午前中が Vandana の授業 2 コマ、午後は全員でのコースレビューでした。私も負
けずに次のような意見や持論を述べました。
①製品、製造工程、社会システムのすべてにおいて、もっと生物から学ばねばならない。
②グローバル化でますます複雑化してきた管理・監視・監査は生物の法則に従ってもっと
単純化できる。
③経済中心の時代は「個人→部門→企業(組織)→社会→生態系(自然)」の発想で物事を考え
ていた。部門や企業(組織)のための利益のみを考えていた。最近ようやく CSR の名のもと
に社会項目も考えだしたが、まだまだ見せかけの CSR が多い。まして生態系(自然)までは
十分に考えられていない。
④これからは「生態系(自然)→社会→企業(組織)→部門→個人」で考えていきたい。生態系
によいことは社会にもよい。社会によいことは企業(組織)にもよい。企業(組織)によいこと
は部門や個人にとってもよいことだ。
⑤株式会社の仕組みも、金融の仕組みも最近数百年、急発展したのはほんの数十年のこと
である。自然界が何千万年~何億年かけて作られたことと比較して、あまりに人為的かつ
躁急に作り過ぎだ。自然界にそった方法で造り変えねばならない。
⑥Sustainable な世界を実現するためには利益や売上高を第一義にしない経営手法の創出
が必要だ。Fermentation Theory として現在まとめているところである。世界中の仲間で
作りだしていきたい。みんなで創ろうと呼び掛けているのは Copy Right の世界から Copy
Left(特許や知財で押さえつけない)の時代にならねばならないからだ。
Vandana の授業は期待通りのものでした。グローバル化の問題点をこれでもかというくら
い実例をあげて説明し、コーポレーション(巨大グローバルカンパニー)を糾弾します。
説得力があり、Development という名を借りた巨大資本や国政による破壊活動から、
Localization による国や地方の再生が必要と強調していました。文化、生物の種、教育にお
いても多様性が非常に大切だと実例を多数あげて説くのでした。ディベートは白熱し、時
に深夜に及びました。私も彼女の著書に図書館で目を通して参加していたので理解は十分。
最後によい質問をして締めくくることができました。
「Corporation(グローバルな大企業)を責めるばっかりではなく、そういう力のある企業と
協働で解決を探る道があるのではないか?」と。この質問には受講者の賛同が多かったよ
うに思いました。
夜は Soiree/Party です。Soiree は辞書で「夕べ、夜会」なっていますからだべりあいの簡
単なパーティーといったところです。写真をたくさん撮りました。
11
3 月 17 日(月)
帰路の JAL 機内ではベジタリアン食を頼んでなかったので、当然のことながら普通の食事
が出てきました。今までなら何の抵抗もなく食べることのできた、豚のベーコン、鶏肉の
ソーセージ、卵のオムレツ巻に心身ともに拒否反応を示したのには、われながらびっくり
し ま し た 。 ま ず 精 神 が 「 え っ 、 こ ん な の 食 べ て い い の 」 と 内
心に問い。食べようとすると体が「草食獣が肉食獣にそう簡単に変われるのか」と拒否す
るのでした。
ううーん2週間のベジタリアンライフ恐るべし!でした。
いま、魚から徐々に食べ始めています。
わずか 2 週間のシューマッハカレッジでの生活で心身ともに様変わりしたことに驚いてい
ます。まさに Development: What Next?の講座で問うてきたのは「自然に逆らわず、動植
物と同じ目線で物事を考え、文化や生物種の多様性を守るためにも、グローバリゼーショ
ンからローカライゼーションを進める」ことではないでしょうか。
Warm Regards,
12