人材集積の誘因と地域に与える影響に関する研究 西森 雅樹(長崎大学) Keyword: 地方創生、クリエイティブクラス、共分散構造分析 【背景】 なモデルを仮定した。このモデルでは、地域の多様性・ 日本の地方は、都市部との経済格差の存在や少子高齢化 寛容性を人口移動の間接的要因と仮定する。はじめに、 の急速な進行等、様々な課題を抱えている。参考文献[1] ある地域の多様性・寛容性に惹かれて、文化を生み出す では、出産可能な若年女性人口に着目して長期間の人口予 層である作家・デザイナー・ミュージシャン・俳優等(以 測を行い、地方の自治体の消滅可能性について問題提起を 下、 「ボヘミアン」 )が地域に集積する。次に、多様性・ 行っている。政府からは、現状のまま特段対策を講じない 寛容性と彼らが生み出す文化に惹きつけられたクリエイ 場合、約 100 年後(2100 年)には国内人口が 5,000 万人を ティブクラスが地域に集積し、彼らが主に従事するハイ 切るという推計が公表されている[2]。人口の減少幅を抑え、 テク等の高付加価値型の産業が集積する。産業集積によ 長期的に一定水準の人口規模を確保するため、地方創生の る経済成長が所得水準の向上につながり、豊かさを求め 総合戦略が策定されたが[3]、当戦略は、出産・子育てが困 て新たに人々が地域に流入する(図 1) 。 難で、地方と比較して出生率が低い東京圏への人口流入を このようなモデルに基づき共分散構造分析を行い、さ 抑制し、地方に若年層を定着させることによって、人口減 らに、雇用創出、育児支援等の施策が特に若年層の流入 少を抑制することを目指す。具体的には、現在毎年 10 万人 に効果を持つかについて検討を行った。 の東京圏への人口入超を、2020 年には地方から東京圏への 転入を 6 万人減少させ、東京圏から地方への転出を 4 万人 増加させることによって転出入を均衡させることを目標と している。目標実現のために、当戦略は、雇用創出や結婚・ 出産・子育て支援等の施策を用意し、さらに、全国の地方 公共団体にも同様の長期人口予測と戦略策定を求めている。 すなわち、 政府は、 若年層を出生率の低い東京圏ではなく、 出生率の高い地方に定着させることで、人口減少を抑制し ようとしていると言える。 一方、海外の参考文献[4][5]では都市の多様性を経済発 図1 人材・産業集積、所得、人口の関係 (2) データ 全国の人口 10 万人以上の市と東京 23 区を対象として、 以下のデータを用いて推計を行った。 ① 多様性・寛容性 展の基盤と位置付けている。また、参考文献[6][7]では、 多様性・寛容性を示す指標として、参考文献では、同 作家、デザイナー、ミュージシャン、俳優等の集積を示す 性愛者世帯、海外出身者比率等が用いられている。本研 「ボヘミアン指数」 、同様に同性愛者、外国人の集積を示す 究では、女性の社会進出と外国人の居住に着目した。女 「ゲイ指数」 、 「メルティング・ポット指数」から構成され 性の社会進出については、市議会・区議会における女性 る寛容性指標は、新しく価値を創造して地域発展の原動力 議員の比率と女性の就業率、外国人については、外国人 となる人材である「クリエイティブクラス」と、技術・ハ 住民の比率を採用した。なお、女性議員比率については、 イテク産業の集積に影響を与えることで、地域の経済成長 2016 年 2 月時点の各市・区のホームページに記載されて に影響を与えるとされている。 いる議員名簿を基に集計を行った。女性就業率の上位 10 地方から都市圏への人口流出を解消すべき課題と捉える 市は一見傾向が見られないが、女性議員比率が高い市に のであれば、その原因を明らかにした上で、関連施策の問 は東京都、千葉県、神奈川県内の市・区が多く含まれて 題意識の適切さとその有効性の検証が求められている。 いる(表 1) 。外国人比率の上位には東京 23 区、大阪府、 【研究内容】 ブラジル人、ペルー人等が集積している市が含まれる。 (1) 地域間の人口移動のメカニズム 地域間の人口移動が起こるメカニズムを明らかにする ため、所得格差に関する参考文献を踏まえ、以下のよう 地方公共団体 女性議員 地方公共団体 女性就業率 地方公共団体 外国人 1 13110 目黒区 41.7% 1 17203 小松市 61.3% 1 13104 新宿区 7.9% 地方公共団体 製造業 地方公共団体 情報通信業 1 13210 小金井市 41.7% 2 06203 鶴岡市 60.6% 2 13103 港区 6.3% 1 23211 豊田市 80.4% 1 13104 新宿区 17.5% 22211 磐田市 72.9% 2 13108 江東区 16.3% 3 13105 文京区 41.2% 3 17210 白山市 60.6% 3 13116 豊島区 6.3% 2 4 13213 東村山市 40.0% 4 20205 飯田市 60.6% 4 13118 荒川区 5.7% 3 12219 市原市 71.4% 3 13113 渋谷区 14.0% 5 13203 武蔵野市 38.5% 5 32203 出雲市 60.2% 5 13106 台東区 4.5% 4 23213 西尾市 71.3% 4 13109 品川区 11.2% 6 12227 浦安市 38.1% 6 15204 三条市 59.9% 6 10204 伊勢崎市 4.1% 5 11215 狭山市 69.9% 5 13103 港区 9.1% 7 13116 豊島区 36.1% 7 18201 福井市 59.2% 7 23219 小牧市 3.8% 6 23222 東海市 68.8% 6 12222 我孫子市 8.8% 8 13224 多摩市 36.0% 8 03205 花巻市 58.7% 8 27100 大阪市 3.6% 7 35206 防府市 67.8% 7 13210 小金井市 7.5% 3.6% 8 24207 鈴鹿市 67.7% 8 13105 文京区 7.0% 3.5% 9 35215 周南市 66.9% 9 27100 大阪市 6.4% 10 23212 安城市 65.4% 10 37201 高松市 6.3% 地方公共団体 金融・保険 地方公共団体 不動産・物品賃貸 1 13116 豊島区 37.6% 1 13203 武蔵野市 13.9% 1 13203 武蔵野市 1.6% 2 21201 岐阜市 32.4% 2 27202 岸和田市 9.2% 2 27202 岸和田市 0.9% 3 13105 文京区 25.0% 3 13120 練馬区 8.4% 3 13120 練馬区 1.4% 4 13103 港区 19.6% 4 13104 新宿区 8.1% 4 13104 新宿区 3.8% 5 42201 長崎市 19.5% 5 13113 渋谷区 8.0% 5 13113 渋谷区 5.2% 6 26100 京都市 19.5% 6 11235 富士見市 7.7% 6 11235 富士見市 1.2% 7 13202 立川市 19.2% 7 13229 西東京市 6.9% 7 13229 西東京市 0.8% 8 11100 さいたま市 18.1% 8 13202 立川市 6.7% 8 13202 立川市 1.6% 9 02201 青森市 18.0% 9 13214 国分寺市 6.7% 9 13214 国分寺市 16.6% 10 47201 那覇市 17.8% 10 11208 所沢市 6.4% 10 11208 所沢市 0.9% 9 9 13208 調布市 12212 佐倉市 35.7% 35.7% 9 10 22213 掛川市 06204 酒田市 58.4% 58.2% 9 10 13108 江東区 13117 北区 表1 多様性・寛容性指標上位の市 ② 人材集積 地域の多様性・寛容性とボヘミアン集積が、クリエイ ティブクラスの集積に影響を与えると考える。人材集積 を示す指標として、国勢調査における宗教家、著述家・ 記者・編集者、美術家・デザイナー・写真家・映像撮影 者、音楽家・舞台芸術家をボヘミアン、専門的・技術的 職業従事者と管理的職業従事者をクリエイティブクラス 地方公共団体 学術研究、 専門・技術サービス 表3 産業集積上位の市(産業別) ⑤ 人口移動 と定義して就業人口に占める割合を求め、また、同様に 地域間の所得水準格差が人口移動に影響を与えると考 大卒・院卒比率も集計して比較を行った。ボヘミアン、 える。参考文献[1][2]が指摘するとおり、地方から東京、 クリエイティブクラス、大卒・院卒のいずれも、東京都 特に区内に人口が流入している(表 4) 。 の区・市で高い比率を示す(表 2) 。 地方公共団体 ボヘミアン 1 13113 渋谷区 8.8% 2 13115 杉並区 3 4 5 入超比率 1 13101 千代田区 4.1% 2 13101 千代田区 8,484 2 13102 中央区 2.6% 1 13203 武蔵野市 38.1% 3 13113 渋谷区 7,364 3 13103 港区 1.8% 28.6% 2 13101 千代田区 36.7% 4 13102 中央区 5,950 4 13106 台東区 1.5% 13103 港区 28.0% 3 13115 杉並区 36.2% 5 13110 目黒区 5,869 5 13113 渋谷区 1.4% 13203 武蔵野市 27.9% 4 13210 小金井市 35.8% 6 13105 文京区 5,749 6 13224 多摩市 1.4% 35.8% 7 13112 世田谷区 5,336 7 13105 文京区 1.3% 13203 武蔵野市 5,013 8 13108 江東区 1.2% 1 13105 文京区 29.7% 7.6% 2 13101 千代田区 13110 目黒区 6.9% 3 13112 世田谷区 6.9% 4 5 地方公共団体 10,232 大学・大学院 クリエイティブ 6.7% 課税対象所得 13103 港区 地方公共団体 地方公共団体 13103 港区 地方公共団体 1 13113 渋谷区 27.1% 5 13102 中央区 6 13203 武蔵野市 6.6% 6 14204 鎌倉市 27.0% 6 13105 文京区 35.6% 8 7 13104 新宿区 6.3% 7 08220 つくば市 26.6% 7 13214 国分寺市 35.2% 9 13104 新宿区 5,006 9 13107 墨田区 1.1% 8 13105 文京区 6.3% 8 13115 杉並区 25.3% 8 14204 鎌倉市 35.0% 10 12227 浦安市 4,622 10 13203 武蔵野市 1.1% 9 13114 中野区 6.1% 9 29209 生駒市 25.3% 9 29209 生駒市 34.2% 10 14204 鎌倉市 5.8% 10 13214 国分寺市 25.1% 10 12227 浦安市 34.0% 表2 人材集積指標上位の市 ③ 産業 参考文献では、人材集積が技術とハイテク産業の集積 表4 所得水準、人口流入上位の市 【分析結果】 共分散構造分析を行ったところ、以下の結果が得られ た。推計にあたっては、モデルで仮定された経路以外も につながるとされているが、本研究では産業の集積を示 推計を行い、その有意性を判定した す指標として、平成 26 年度経済センサス基礎調査(総務 ① 人材集積の要因 省)における情報通信業、製造業全般、さらに、第 3 次産 多様性・寛容性は、クリエイティブクラス集積への弱 業において高い付加価値を生み出す分野として金融業・ い直接効果と、ボヘミアン集積を通じた間接効果を持つ。 保険業、不動産業・物品賃貸業、学術研究、専門・技術 女性議員、外国人比率はボヘミアン指数に有意に関係 サービス業も取り上げ、各産業の売上比率を集計した。 があるが(図 2、表 5) 、女性就業率は標準化回帰係数が 製造業は、大企業の企業城下町等、地方の市が上位に マイナスの値を取る(図 3) 。多様性・寛容性を示す指標 入る一方、情報通信業、金融業・保険業、不動産業・物 としての女性の社会進出は、単に就業している割合が多 品賃貸業、学術研究、専門・技術サービス業は、上位に いだけでは不十分で、社会の上層部にまで女性が進出し は都市圏の市・区が多い(表 3) 。 ていることが重要であることが示唆される。 ④ 所得水準 また、外国人比率は説明変数として有意であるが、説 人材集積が直接的に、または産業集積等を通じて間接 明能力は低い。その原因として、歴史的要因等によって、 的に、地域の所得水準を向上させる。地域の所得水準を 特定の国籍の外国人が集積している地域があるが、この 示す指標として、 平成27年度市町村税課税状況等の調 (総 ような集積は、地域の多様性・寛容性につながっておら 務省)から、一人当たり課税対象所得を集計した。都市 ず、ボヘミアン集積の誘因となっていない可能性がある。 部、特に東京 23 区が上位を占める(表 4) 。 クリエイティブクラスの代わりに大卒・院卒の集積を採 用したモデルでも、ほぼ同様の傾向の結果が得られたが (図 4) 、ボヘミアンから受ける影響、情報通信業に与え る影響のいずれも、クリエイティブクラスと比較すると 標準化回帰係数が低下する。 ボヘミ アン クリエイティブクラスの集積は、情報通信業、金融業・ 保険業、不動産業・物品賃貸業、学術研究、専門・技術 サービス業のいずれに対しても、有意にプラスの効果を .59 5 .58 .56 2 .73 .86 2 女性議員 -.0019 1 .2 .52 クリ エイティ ブ .25 3.9 情報通信業 .27 -.086 -.16 1 1.3 外国人 有意にマイナスの効果を与える(図 8) 。 -2.1 .46 3 .55 与える(図 2、4、6、7) 。一方で、製造業全般に対しては .33 ボヘミ アン .019 1 1.1 女性議員 .69 1 入超比率 4 .2 3.9 .71 外国人 所得 .046 .0093 1 287 .084 .55 .06 .71 入超比率 .47 4 -3.2 OIM Std. Err. Coef. -.63 -.029 .33 1 1.3 = 金融保険 .52 3 -.053 -.16 図 2 女性:女性議員、人材:クリエイティブクラス、産業:情報通信業 Number of obs .39 クリ エイティ ブ .46 -3 .85 2 .86 -.0061 .24 Structural equation model Estimation method = ml Log likelihood = 2642.8195 .6 .56 .081 2 .067 5 .59 所得 .06 z P>|z| [95% Conf. Interval] 図 5 女性:女性議員、人材:クリエイティブクラス、産業:金融業・保険業 Structural ク リ エ イ テ ィ ブ <ボヘミアン 女性議員 外国人 2.31727 -.0007419 -.4987346 .1255253 _cons .118176 .0163424 .113696 .0027596 19.61 -0.05 -4.39 45.49 0.000 0.964 0.000 0.000 2.085649 -.0327724 -.7215747 .1201165 2.548891 .0312886 -.2758946 .130934 ボヘミ アン 5 .6 .59 .56 入 超 比 率 <クリエイティブ ボヘミアン 情報通信業 所得 女性議員 外国人 .0028415 -.0344954 .0172862 4.34e-06 .0034107 .0319473 -.0147629 _cons .0108862 .0369575 .0116362 4.54e-07 .0029185 .0234405 .0015222 0.26 -0.93 1.49 9.56 1.17 1.36 -9.70 0.794 0.351 0.137 0.000 0.243 0.173 0.000 -.0184951 -.1069307 -.0055203 3.45e-06 -.0023095 -.0139952 -.0177462 .0241782 .0379399 .0400927 5.23e-06 .0091308 .0778899 -.0117795 1 -.0061 .2 .24 3.9 .0066654 .0551445 .0013153 11.98 4.17 5.31 0.000 0.000 0.000 .0667681 .1218617 .0044091 .0928959 .3380244 .0095649 .3659723 -.0483956 .0352502 .0062379 10.38 -7.76 0.000 0.000 .2968832 -.0606217 .4350615 -.0361695 _cons 情 報 通 信 業 <クリエイティブ _cons .62 不動産 -.16 -1.2 .5 3 .15 -.061 .33 1 1.3 .079832 .2299431 .006987 .48 クリ エイティ ブ 外国人 ボ ヘ ミ ア ン <女性議員 外国人 .77 2 .86 2 女性議員 所得 .036 .033 1 .09 .75 .034 .7 入超比率 .47 4 -3.2 所 得 <クリエイティブ 情報通信業 13215.52 9251.964 883.3397 1123.109 1603.533 186.3811 11.77 5.77 4.74 0.000 0.000 0.000 11014.27 6109.098 518.0395 15416.77 12394.83 1248.64 mean( 女 性 議 員 ) mean( 外 国 人 ) .1725679 .0130906 .0050066 .0006051 34.47 21.63 0.000 0.000 .1627553 .0119045 .1823806 .0142767 var(e. ク リ エ イ テ ィ ブ ) var(e. 入 超 比 率 ) var(e. ボ ヘ ミ ア ン ) var(e. 情 報 通 信 業 ) var(e. 所 得 ) var( 女 性 議 員 ) var( 外 国 人 ) .0003448 .0000108 .000086 .0003758 277333.5 .0071938 .0001051 .0000288 9.02e-07 7.18e-06 .0000314 23151.36 .0006005 8.77e-06 .0002928 9.17e-06 .000073 .0003191 235475.3 .0061081 .0000892 .0004061 .0000127 .0001013 .0004426 326632.4 .0084726 .0001238 _cons cov( 女 性 議 員 , 外 国 人 ) .0002167 .0000529 4.10 0.000 .0001131 図 6 女性:女性議員、人材:クリエイティブクラス、産業:不動産業・物品賃貸業 ボヘミ アン 5 .6 .59 .56 1 -.0061 .2 .24 .67 1 1.3 外国人 5 所得 .012 .73 2 入超比率 .73 .35 クリ エイティ ブ 情報通信業 .52 4.4 .55 1 図7 女性:女性議員、人材:クリエイティブクラス、産業:学術研究、技術・専門サービス業 -2.1 .46 3 .27 -.0013 -.15 1.3 外国人 .32 ボヘミ アン 所得 .12 女性議員 .7 2 1 4 .2 3.9 1.3 外国人 1 製造業 4.1 .51 3 .037 .33 所得 .028 -.013 1 .11 5 .71 -.14 -.16 図 3 女性:女性就業率、人材:クリエイティブクラス、産業:情報通信業 -.49 クリ エイティ ブ .45 -4.2 .76 .86 -.0061 .24 入超比率 ボヘミ アン .6 .56 .056 2 .057 5 .59 1.1 .04 1 .41 -.2 .74 .59 .58 入超比率 .56 2 .8 4 .43 -2.6 .71 2 1 .47 4 -3.1 -.063 .028 女性議員 .06 .83 8.4 1 .64 .7 4.9 -.4 女性就業率 -1.5 .052 .33 .041 1 .084 ボヘミ アン 学術 .51 3 -.046 -.16 表 5 図 1 に関する統計量一覧 .41 クリ エイティ ブ 3.9 .0003204 .83 2 .86 2 女性議員 .19 .2 .25 .45 大卒院卒 1 3 情報通信業 1 ③ 所得向上の要因 .29 .3 所得 .024 .2 1 .071 2.4 .11 .63 クリエイティブクラス集積は所得水準に直接プラスの 効果を与えるが、同時に、情報通信業、不動産業・物品 入超比率 4 .42 -3 図 4 女性:女性議員、人材:大卒・院卒、産業:情報通信業 ② 産業集積の要因 図 8 女性:女性議員、人材:クリエイティブクラス、産業:製造業全般 -.57 .39 -.19 -.011 1.3 外国人 .61 賃貸業に関しては、産業集積を通じて所得水準をある程 度向上させる間接効果が有意に見られた(図 2、6) 。一方 で、金融業・保険業、学術研究、専門・技術サービス業、 製造業については、有意でないか標準化回帰係数が 0 の 性・寛容性と文化を生み出す人材を惹きつけるような地 近いかのいずれかとなり、産業集積を通じた所得水準向 域づくりが求められる。雇用対策を行うのであれば、地 上の効果は見られなかった(図 5、7、8) 。 域を豊かにする新しい価値を生み出す創造的な人材の雇 ④ 人口流入の要因 用創出が効果的である。人口移動の主要要因が所得水準 推計を行ったいずれのモデルについても、所得水準の 格差であることからも、雇用対策によって低賃金な職種 みが、人口流入に有意にプラスの影響を与えた。寛容性・ の雇用しか創出できないのであれば、施策の効果は限定 多様性、クリエイティブクラス集積、産業集積のいずれ 的となる。 も有意に所得水準には影響を与えなかった。 【考察】 また、女性の就業率向上は、人口流入に影響を与えな い。保育所整備等の女性就業と出産・子育ての両立支援 地域間の人口移動は、所得水準の格差によってほぼ説 は、就業率・出生率向上につながっても、人材・産業集 明できる。多様性・寛容性、人材集積、産業集積は所得 積につながらない限り若年人口の流出抑制・流入促進効 水準を通じた間接効果を持つが、直接効果は持たない。 果が期待できず、その効果は限定的となる可能性がある。 地方公共団体が、都市圏への人口流出を防ごうとするの 今後の課題として、今回はデータ制約によって分析が であれば、所得水準向上につながる施策が効果的である。 できなかった点を更に精査する必要がある。人種のばら クリエイティブクラスの集積は、所得水準向上に対して、 つきも考慮した外国人集積データと、より細分化された プラスの直接効果だけではなく、情報通信業等の産業集 産業分類データに基づく分析が実現すれば、より明確な 積を通じた間接効果も持つ。 傾向が観測される可能性がある。また、パネルデータ分 人材集積を大卒・院卒で推計した場合も、ボヘミアン 析は、クリエイティブクラスに関する研究に対して指摘 集積、産業集積、所得水準との関係性を示す結果は、ほ されることが多い因果関係の問題に、より説得力のある ぼ同じ傾向であったが、標準化回帰係数はクリエイティ 回答が可能となることが期待される。 ブクラスのそれよりも低下する。これは、最終学歴は有 【参考文献】 効な人材指標になり得るが、現在どのような職業に就い [1] 増田 寛也, 2014, 『地方消滅-東京一極集中が招く ているかの方がより重要であることを示唆する。 人口急減』, 中公新書 女性議員・外国人比率によって示される社会の多様 [2] まち・ひと・しごと創生本部, 2014, 『まち・ひと・ 性・寛容性は、クリエイティブクラスの集積に有意に効 しごと創生長期ビジョン―国民の「認識の共有」と「未 果がある。多様性・寛容性の指標とボヘミアンの相関は、 来への選択」を目指して―』 多様性・寛容性の指標とクリエイティブクラスの相関よ [3] まち・ひと・しごと創生本部, 2014, 『まち・ひと・ りも強く、多様性・寛容性からクリエイティブクラスへ しごと創生総合戦略』 の直接効果は弱い。クリエイティブクラス集積は、多様 [4] ジェイン ジェイコブズ, 山形 浩生 訳, 2010, 『ア 性・寛容性自体よりも、それらに惹きつけられたボヘミ メリカ大都市の死と生』, 鹿島出版会 アン集積によって向上した文化水準に強く影響を受けて [5] ジェイン ジェイコブズ, 中村 達也 訳, 2012, 『発 いる。 展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済 外国人比率とボヘミアン集積の関係は有意だが弱い。 学』, ちくま学芸文庫 特定国籍の外国人のみが集積している場合、高い外国人 [6] リチャード フロリダ, 小長谷 一之 訳, 2010, 『ク 比率が必ずしも地域の多様性・寛容性を意味しない。こ リエイティブ都市経済論-地域活性化の条件』, 日本評 れが関係性の弱さにつながっている可能性があり、この 論社 影響を除外した分析が必要である。 [7] Florida, R., Mellander, C., Stolarick, K., 2008, また、女性議員比率には、ボヘミアン集積との間に関 ‘Inside the black box of regional development – Human 係性が見出される一方で、女性就業率は関係性が見出さ capital, the creative class and tolerance’, Journal れなかったことは、女性就業が直ちには社会の多様性・ of Economic Geography, Vol.8, pp.615-649 寛容性を意味しないことを示唆する。女性が社会上層に 進出して初めて寛容性・多様性な社会が実現する。 地方からの人口流出を抑制するためには、地域の多様
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