東京都食品環境指導センター Vol. 41 2000.10

東京都食品環境指導センター
●特集 プラスチック
●衛生局改革アクションプラン(第2次)
●アレルギー疾患に関する全都調査結果(続報)
●ダイオキシン類生物汚染状況調査
●毒キノコにご用心!
Vol.
41
2000.10
特集:プラス チ ック
器具、容器・包装
プラスチックの安全性の話
プラスチックは、私達の生活のあらゆるところに使用され、現代の生活において欠かす
ことができないものの一つになっています。
今回は、プラスチックの歴史を振り返りながら、プラスチック製の食器・容器・包装を
中心に、私達の生活や健康に関して様々な点から取り上げてみました。
プラスチックの歴史
プラスチックの安全性への疑問
プラスチック(合成樹脂)の歴史は、1800
年代後半のベークライト、セルロイドの発明に
始まりました。20世紀に入ると、高分子化技
術の開発と工業化が急速に進み、本格的なプラ
スチック時代を迎えました。
特に、1950 年代以降、石油化学の発展に伴
う「エンジニアリングプラスチック」の開発は、
プラスチックを、それまでの食器や繊維などの
日用製品から、自動車用部品、ボルト、電気製
品、CD-ROM など金属素材に代わる新たな素材
として、その利用範囲を拡大しました。
プラスチックの新規開発は、現在、減少傾向
にありますが、既存のプラスチックを応用した
技術の開発が進められています。
同様に、食器、容器・包装用のプラスチック
についても、これまでの 30 年ほど、新規の素
材開発は進んでいません。
プラスチックは、原油を熱分解して得られた
ナフサから、原料となる低分子の石油化学基礎
製品を作り、それを重縮合することによって得
られる高分子材料の総称です。
プラスチックの安全性については、プラスチ
ックそのものは合成の高分子化合物であるた
め体内に入っても、物理的な危害を除けば、分
解・吸収されることはなく、本来的には安全な
物質です。
表-1 食器用プラスチックの開発年代と種類
年代
食器用
食器用等プラ
等プラスチックの
ックの種類
1800
開発期(ベークライト・セルロイド)
1900
1920
フェノール樹脂
ユリア樹脂、ポリ塩化ビニル
1930
ポリスチレン、メラミン樹脂、
低密度ポリエチレン、ポリウレタン
1940
ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂、
ABS 樹脂
高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、
ポリカーボネート
1950
1970
2
ポリエチレンテレフタレート(ボトル)
くらしの衛生
しかし、原料が石油であることや加工すると
きに様々な添加剤の使用や不十分な重縮合の
場合などの要因で、プラスチック製品によって
は、その素材や添加剤等の化学物質が溶出し、
食品中に移行する可能性もあり、それらが健康
に悪影響を与えるのではないかと心配されて
います。
このようなプラスチックの安全性に関する
論議は、1960 年代に消費者団体の調査で、プ
ラスチック食器からホルムアルデヒドの溶出
を確認したことが発端となりました。それ以後、
安全性に関して様々な問題が指摘されるよう
になりました
Vol.41(2000)
特集:プラス チ ック
表-2 は、プラスチックの安全性に関するこれ
までの法的規制と問題提起の内容を年代別に
示したものです。
そこで、長期間の使用に耐え、見た目にもき
れいな食器やおもちゃなどを作ったり、プラス
チックの多用な用途を可能にするために様々
な添加剤等が使用されることがあります。
表-2 プラスチックの安全性に関する問題
年代
1940
安全性に関する問
する問題等
表-3プラスチック製品に使用される主な添加剤
添加剤
用
途
添加剤の例
・食品衛生法制定(1947.12)
・器具、容器包装の規格基準制定
・旧乳等省令制定
酸 化 防 止 空気等による酸化の
剤
抑制
フェノール類
他
1950
・厚生省告示370号(新たな食品、添加物
等の規格基準)制定
ベンゾフェノ
ン誘導体他
1960
・消費者団体から、ホルムアルデヒドを検出
したユリア樹脂製食器の安全性に疑問の
指摘
・厚生省、告示434号により合成樹脂試験
法の一部を改正し、ホルムアルデヒド(規
格値4ppm 以下)、重金属、蒸発残留物な
どの試験法を規定
・通産省、プラスチック製食器の新しい衛生
基準を告示
紫 外 線 吸 日光、その他の光に
収 剤 、 光 よる劣化を抑制
安定剤
1970
1980
・フタル酸エステルの毒性
・硬質容器に使用されているポリ塩化ビニル
の安全性
・市販容器から危険濃度をこえる塩化ビニル
モノマーを検出(1975 東京都)
・厚生省、容器に含まれる塩化ビニルモノマ
ーの暫定基準の設定
・厚生省、容器包装の規格基準に塩化ビニル
モノマーを追加し、残留濃度を1ppm 以
下に規制
・ポリプロピレン食器から酸化防止剤(BHT)
の溶出
・厚生省、合成樹脂、陶磁器、ガラスなど各
種の器具、容器の規格基準を統合
・ラップフィルムの可塑剤の発ガン性
1990 ・都の調査によりポリカーボネート製ほ乳ビ
ンから、ビスフェノールAの溶出を確認
・都の調査によりカップ麺容器からスチレン
モノマーの溶出を確認
それでは、なぜ、プラスチックから様々な物
質が溶出してくるのでしょうか。
プラスチックの原料と添加剤
プラスチックは、原油から蒸留して得られる
低沸点の炭化水素混合物(ナフサ)から製造さ
れます。このナフサから石油化学基礎製品であ
るエチレン、プロピレン、ブタン、ブチレン等
を作り、これを重縮合して高分子化します。プ
ラスチックは、そのままの基礎製品では、加工
時の熱、空気中の酸素、日光の紫外線等により、
分解が進み、次第に劣化していきます。
くらしの衛生
可塑剤
弾性、柔軟性を増し、 フ タ ル 酸 エ ス
高温での加工性をよ テル他
くする
安定剤
成形時の加熱による
樹脂の分解を抑制す
る
アニオン・カチ
オン系金属石
鹸
滑
加工時に樹脂同士が
摩擦したり、接着し
ないようにする
パラフィン系
剤
発泡剤
樹脂 を発泡さ せる ハロゲン系金
(発泡スチロール) 属石鹸
着色剤
樹脂を自由、安定的
に、美しく着色する
樹脂により着
色剤の適性が
異なるため、
様々な着色促
進剤が使われ
る
プラスチックからの化学物質の溶出は、原材
料に起因するものと、添加物に起因するものが
あります。
[原 材 料]
原材料からの溶出物質は、重縮合が不十分で
あった場合などに生じる原料(低分子量のモノ
マー)などの溶出が主なものです。
①ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒドは、ユリア樹脂、メラミン
樹脂、フェノール樹脂の主たる原料として使用
されます。ホルムアルデヒドは、高濃度に接触
すると皮膚、鼻粘膜などへの刺激のほか、蛋白
凝固壊死作用や中枢神経抑制作用など、人体に
悪影響を与えます。
1960 年代に消費者団体の調査で、これらホ
ルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)を原料
としたプラスチック食器からホルムアルデヒ
ドが溶出したとの指摘がありました。
これをきっかけに、プラスチック製品の安全
性論議が始まり、厚生省は、告示434号によ
って合成樹脂の試験法を改正し、溶出ホルムア
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3
特集:プラス チ ック
ルデヒドの基準が定められました。また、容器
の品質表示や使用方法の表示が導入(通産省)
されました。
②塩化ビニルモノマー
塩化ビニルモノマーは、ポリ塩化ビニルの主
原料ですが、重合工程に携わる作業者への健康
影響が指摘され問題化しました。
東京都は、昭和 50 年、当該プラスチック食
器、フィルムなどの安全性調査を行いました。
スーパーマーケットで販売されているポリ
塩化ビニル製容器に入った食品 217 検体につ
いて、それぞれ容器と食品とに分けて検査した
ところ、容器 24 検体から1ppm を超える塩化
ビニルモノマーを検出しました。そのうち、5
検体については、食品からも塩化ビニルモノマ
ーが検出され、これは容器から溶出した塩化ビ
ニルモノマーが食品に移行した結果と考えら
れました。
都は、食器等を製造するポリ塩化ビニル容器
加工業者に、自主検査の徹底と衛生的な取り扱
いの遵守等を指導するとともに、国にも規格基
準の早期設定を要望しました。これを受け、厚
生省は、昭和 50 年 12 月「塩化ビニル樹脂製容
器包装の取り扱いについて」を通知し、材質中
の塩化ビニルモノマーの残留限度及び試験法
などの規定をしました。
これ以降、塩化ビニルモノマーの溶出問題は
聞かれません。
③ビスフェノールA
ビスフェノールAは、ポリカーボネートやエ
ポキシ樹脂の原材料ですが、細胞を使った培養
試験で、女性ホルモンの一種であるプロゲステ
ロンのレセプターの出現が確認されたこと等
4
くらしの衛生
により、環境ホルモン作用が指摘されています。
ポリカーボネート製食器は、ほ乳ビン、乳幼
児用食器、学校給食用容器に多く使用されてい
ましたが、ビスフェノールAの環境ホルモン作
用が指摘されてから、学校や保育園などでは代
替食器を導入するところが増えてきました。
平成 9∼10 年、都におけるほ乳ビンの検査結
果からみると、新ほ乳ビンでは、煮沸、消毒を
5回行った後には 1ppb 以下、また、使用済み
ほ乳ビンでは、平均 0.8ppb と低レベルながら
ビスフェノールAの溶出を確認しました。
都は、この検査結果を待って、ビスフェノー
ルAの健康影響等を考慮し、できるだけ溶出を
少なくするよう要望し、業界では、それに向け
て自主基準を策定しました。
[添 加 剤]
プラスチックの成形、加工時に使用する種々
の添加剤が溶出し、これらが健康に影響を与え
るのではないかとの指摘があります。こうした
添加物について少しお話します。
①BHT(酸化防止剤)
酸化防止剤は、プラスチックが空気等による
酸化を抑制するために使用されますが、学校給
食用ポリプロピレン食器については、安全性に
疑問があるとして BHT(ブチルヒドロキシトル
エン)を使用していません。
②フタル酸エステル
フタル酸エステルは、各種可塑剤の中でも最
も多く使用され、特に、ポリ塩化ビニル製品に
汎用されています。
安全性に対する論議は、1970 年代に、ベト
ナム戦争で導入されたプラスチックの輸血用
血液バックの使用により「ショック症状」を引
き起こした事例に始まりました。このとき、こ
のプラスチックの可塑剤であるフタル酸エス
テルの溶出が原因ではないかといわれました。
また、健康影響ばかりでなく、船舶塗料や印
刷インキ、殺虫剤などにも広く使用されていた
ことから環境や生態系にも影響があるでは、と
注目されました。
このフタル酸エステル、例えば、DEHP(フタ
ル酸ジ-2-エチルヘキシル)についても、環境
ホルモン作用が指摘されていますが、この可塑
剤を使って製造するプラスチックの血液バッ
ク、点滴セットなどについては、薬事法に基づ
き、血液や血液成分の保存に影響を及ぼさない、
無菌、非発熱性で毒性がなく、使用条件の下で
あぶなくないこと等が基準として通知されて
います。
Vol.41(2000)
特集:プラス チ ック
厚生省は、平成 10 年 11 月「内分泌かく乱化
学物質の健康影響に関する検討会中間報告」で、
現段階では、塩化ビニル樹脂から溶出するレベ
ルのDEHP等による人の健康に重大な影響
を及ぼす科学的な知見は得られていないとし
ています。
現在、食品用塩化ビニル製の軟質業務用フィ
ルムなどについては、可塑剤としてフタル酸エ
ステルは使用されていない傾向にあり、アジピ
ン酸エステル、クエン酸エステルが代替可塑剤
として使用されています。
【ミニ用語】
[優先してリスク評価すべき9物質]
環境庁が、平成 10 年 5 月に公表した「環境ホ
ルモン戦略計画 SPEED’98」において、内分泌
かく乱作用が疑われる 67 物質のうち、平成 12
年 4 月、本委員会の作業グループである「内分泌
かく乱作用が疑われる物質のリスク評価検討会」
により、平成 12 年度に優先してリスク評価に取
り組むべき物質が 9 つ選定されました。
検討 9 物質の内訳は、優先してリスク評価すべ
き物質として①トリブチルスズ化合物 ②4-オ
クチルフェノール ③ノニルフェノール ④フ
タル酸ジ-n-ブチルの 4 物質です。
何ら規制がなく、有害性の確認が不十分である
ため、有害性を確認する必要がある物質として、
①オクタクロロスチレン ②スチレン 2・3 量体
③ベンゾフェノン ④フタル酸ジシクロヘキシ
ル ⑤n-ブチルベンゼンの 5 物質です。
環境庁の諮問機関である「内分泌かく乱化学物
質問題検討会」は、国民の安全安心にかかわる重
大事項であることから、速やかにリスク評価を実
施し、その結果を公表するとともに、必要な行政
措置を講じる必要があるとしています。
④着色料(カドミウム、鉛などの顔料)
着色料は、食用色素以外を使用してはならな
いと規定されています。その但し書きとしとし
③ノニルフェノール
て「着色料が溶出又は浸出して食品に混和する
ノニルフェノールは、プラスチック製品を作
ことがないように加工されている場合は、この
るときに使用する安定剤であるトリスノニル
規定を除外する」としています。
フェニルフォスファイトや界面活性剤である
本年 7 月、食品環境指導センターが、都内の
ポリオキシエチレンアルキルフェノールが分
スーパーで収去検査した外国産ストロー2検
解して生成されます。
体から、それぞれ、131ppm、140ppm(基準値
このノニルフェノールは、平成 10 年環境庁
が公表した
「環境ホルモン戦略計画 SPEED’98」 100ppm 以下)の鉛を検出しました。このスト
ローは、食品衛生法第10条第2項違反として
において内分泌かく乱作用が疑われる 67 物質
輸入者を所轄する県に通報し、全品回収の措置
のうち、平成 12 年、優先してリスク評価すべ
き 9 物質の一つとしてリストアップされました。 をとりました。
ノニルフェノールは、我が国の土壌調査にお
いて、測定値は検出限界以下でしたが、水質、
底質、水生生物及び野生生物調査の一部で検出
されています。
また、幼若ニジマスにノニルフェノールを投
与した試験から、ノニルフェノールの環境ホル
モン作用が示唆されています。
ノニルフェノールについては、平成 11 年度
から、東京都食品環境指導センターでもラップ
フィルム等に対する調査を行っています。
くらしの衛生
Vol.41(2000)
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特集:プラス チ ック
[そ の 他]
スチレンダイマー及びトリマーは、ポリスチ
レンを製造する際の副産物ですが、これの環境
ホルモン作用については、これまでのところ、
確認されていません。
ポリスチレンは、カップ麺や弁当の容器など、
広く食品用容器に用いられています。
平成 11 年、都の調査で、カップ麺の容器か
らこれらの物質がスープと麺に移行すること
が分かりました。都は、東京都の内分泌かく乱
化学物質専門家会議のコメント「スチレンダイ
マー及びトリマーの人への健康影響が明確に
なっていない現段階において、直ちに使用禁止
の措置を講ずる状況ではないが、使用者の不安
を解消するため、より溶出を少なくすることが
必要である」との報告を受けて、容器の成形法
や材質等を充分に配慮するようメーカーや関
係団体に要望しました。
プラスチックの安全性確保のための食品衛生法
食品衛生法第 7 条、第 10 条の規定に基づき、昭和 34 年厚生省告示第 370 号をもって「食品
及び添加物、器具及び容器包装」について「食品、添加物等の規格基準」が、以下のように定め
られています。
[一般規格]全てのプラスチックに適用されます。
材質試験:鉛、カドミウム
溶出試験:重金属、過マンガン酸カリウム消費量
さらに、プラスチックごとに個別規格が下表のように定められています。
[個別規格]
合成樹脂製器具・
器具・容器包装
規
格
ホルムアルデヒドを原料とす
るもの(メラミン樹脂など)
溶出試験:フェノール、ホルムアルデヒド、蒸発残留物
ポリ塩化ビニル(PVC)
材質試験:ジブチルスズ化合物、クレゾールリン酸エステル、塩化ビニル
溶出試験:蒸発残留物
ポリメタクリル酸メチル
(PMMA)
溶出試験:メタクリル酸メチル、蒸発残留物
ポリエチレン(PE)及び
ポリプロピレン(PP)
溶出試験:蒸発残留物
ポリスチレン(PS)
材質試験:揮発性物質
溶出試験:蒸発残留物
ポリ塩化ビニリデン
(PVDC)
材質試験:バリウム、塩化ビニリデン
溶出試験:蒸発残留物
ポリエチレンテレフタレート
(PET)
溶出試験:アンチモン、ゲルマニウム、蒸発残留物
ナイロン(PA)
溶出試験:カプロラクタム、蒸発残留物
ポリメチルペンテン(PMP)
溶出試験:蒸発残留物
ポリカーボネート(PC)
材質試験:ビスフェノールA、ジフェニルカーボネート、アミン類
溶出試験:ビスフェノールA、蒸発残留物
ポリビニルアルコール(PVA) 溶出試験:蒸発残留物
【ミニ用語】
「家庭用品品質表示法(合成樹脂製容器包装について)」
この法律では、プラスチックの食器や容器など日用品を購入する際、事業者が使用目的や使用上
の注意事項など、
「品質に関する表示」をすることにより、消費者を保護しようとするものです。
プラスチックの品目ごとに、表示者の住所、氏名(又は、電話番号)
、原料樹脂、耐熱温度、取り
扱い上の注意、必要に応じて、その他の表示が義務づけられています。
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くらしの衛生
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衛
衛生
生局
局改
改革
革ア
アク
クシ
ショ
ョン
ンプ
プラ
ラン
ンに
につ
つい
いて
て
東京都衛生局は、平成12年8月、衛生局改革アクションプラン(第2次)を発表しました
ので、その概要と食品保健関連について紹介します。
この衛生局改革アクションプランは、社会経済的状況の変化や本格的な少子高齢社会の到来、介護保険制
度の実施などの衛生行政を取り巻く環境の変化に的確に対応し、新たな視点に立った衛生行政の構造改革を
押し進めるために策定されたものです。
平成11年11月に策定した第1次プランでは、施策の再構築における当面の取り組みを中心に示しまし
た。今回発表された第2次プランは、第1次プランを踏まえ、衛生局の中長期的な改革への道すじ及び具体
的な取り組みを示した行動指針です。また、平成15年度を目途とした年次計画を示すとともに、16年度
以降についてもできる限り明確化しています。
衛生局改
衛生局改革アクションプラン(
革アクションプラン(第2次)
第2次)
第2次プランにおける改革の基本目標としては、「都民の生
命と健康に関する365日24時間の安全・安心を目指す」こ
ととし、改革戦略として「社会経済状況の変化にふさわしい改
革」
「地方分権の時代にふさわしい改革」
「低成長の時代にふさ
わしい改革」の3つあげ、それらに対応する7つの視点を示し
ています。
主な衛生局改革への取り組みの内容は、次のとおりです。
(1)
(1)施策の再構築
流通食品を監視する食品衛生監視員
アクシ
アクション1→「東京発の医療改革」
ョン1
初期救急医療や小児救急医療の充実、
「患者の声」相談窓口の設置、など
アクシ
アクション2→「多様化する健康危機への機敏な対応」
ョン2
環境ホルモン等有害化学物質の対策の充実、HACCPの導入推進、輸入食品の監視体
制の整備など
アクシ
アクション3→「地域主体の保健医療施策の展開」
ョン3
地域ケアシステムの整備、予防重視の施策展開、都保健所の再編整備など
(2)
(2)都立病院の改革
(3)都民サービスの向上
(4)
(4)監理団体の総点検
食品保健
食品保健に関する再構築の考え
に関する再構築の考え方
食品保健関連については、アクション2の中で、具体的に行うべきことを次のように示しています。
①増加する輸入食品や広域流通食品及び市場流通食品に対して、的確に対応するため、都区の監視内容を
整理して、広域監視の強化を図る。また、市場流通食品については、効率的な組織再編を図り、より一
層の食品の安全性を確保する。
②食品の輸入実態や農薬使用実態等の変化に応じた検査法の開発や遺伝子組み換え食品の法制化への対応、
また、指定添加物、放射能汚染食品などについても、時代の変化に応じた対策を強化する。
③HACCP導入への動機付けとなる具体的な方策を基本方針として策定し、食品関係営業者の衛生管理
への意識を高めつつ、自主的衛生管理を推進する。
④健康危機管理体制として、
東京都食中毒対策要綱の改正及び都区間の応援に関する規定等の整備を図り、
大規模食中毒対策を早期に確立するとともに、
集団給食施設や鶏卵取扱業者への届出制を導入していく。
くらしの衛生
Vol.41(2000)
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アレルギー疾患に関する全都調査の結果(続報)
3 歳児・大気汚染認定患者の実態調査
東京都衛生局は、平成 11 年度に都内全域を対象にしたアレルギー疾患に関する実態及びニーズ調査を
実施し、本年 7 月に最終的な調査結果を発表しました。本調査は、東京都内の3歳児及び大気汚染認定患
者のアレルギー疾患全般の実態をはじめて明らかにしたのものです。
■調査対象
3歳児健診対象者とその父母
18歳未満の大気汚染によるぜん息認定患者
■調査項目
アレルギー疾患り患状況
生活習慣及び生活環境
アレルギー疾患に関するニーズ
■調査結果
▼3歳児実態調査結果
3歳児のうちほぼ 5 人に 2 人(41.9%)が何らか
のアレルギー疾患を現在又は過去に持っていました。
また、男子の方が女子よりもアレルギー疾患を持
つ者の割合が高いことがわかりました。
3歳児の各アレルギー疾患の有症率は、次の表の
とおりです。
各アレルギー疾患の有症率(既往を含む、%)
アトピー性皮膚炎
18.0
じんましん
15.0
ぜん息・ぜん鳴
9.5
食物アレルギー
9.4
アレルギー性鼻炎
7.5
アレルギー性結膜炎
5.1
その他のアレルギー
3.7
何らかのアレルギー疾患 *
41.9
* 種類を問わず、いずれかのアレルギーを持っていた人
3歳児の各アレルギー疾患の有症率を地域別にみ
ると、アレルギー性鼻炎では、区部の 6.8%に対し、
市町村部が 8.8%と差がみられましたが、他の疾患で
は地域による差は見られませんでした。
また、アレルギー疾患有症者は他のアレルギー疾
患を高頻度に合併すること、アレルギー疾患有症者
の父母の 84%はアレルギー疾患有症者であること
がわかりました。
▼大気汚染認定患者実態調査結果
大気汚染認定患者のぜん息を重症度別に分類する
と、軽症が 55%、中等症が 37%、重症が 8%でした。
しかし大気汚染認定患者のぜん息の重症度と、地域
との間に明らかな関連はみられませんでした。
大気汚染認定患者のぜん息の平均発症年齢は 3 歳
2 か月(38.4 か月)でした。
8
くらしの衛生
▼両調査の結果から
アレルギー疾患に関して困っていること(3歳児、%)
通院(受診)に時間がかかる
37.0
薬以外で治療方法がわからない
27.4
薬についての正しい情報を得にくい
26.9
アレルギーに関する情報がありすぎて迷う
22.7
アレルギーについて気軽に相談する場がない
17.2
生活環境の改善の仕方がよくわからない
15.1
医師に相談する時間が少ない
13.5
スキンケアの方法がよくわからない
13.2
食生活の改善の仕方がよくわからない
11.1
同じ悩みを持つ人と交流する場がない
5.8
保育園などで治療への協力を得にくい
5.4
参考になる本が見つからない
3.1
その他
18.1
アレルギー疾患に関して困っている内容として、
両調査とも、治療に関連する事項とともに、適切な
情報・相談の機会を求める回答が多く得られました。
また、アレルギー疾患に関して相談にのってもら
いたい場所として、医療機関以外に、保健所・保健
センターをあげる人が多く見られました。
アレルギー疾患に関して相談に乗ってもらいたい場所
(%)
医療機関
80.1
保健所・区市町村保健センター
64.4
保育園や学校
20.8
希望しない
3.8
その他
1.5
■生活環境との関係など
アレルギーの発症や症状の増悪を予防するには、
カビやダニの発生を抑えたり、ペットやタバコの煙
など、家庭内での環境への配慮が必要とされます。
アレルギー疾患有症者では、掃除の頻度が多いな
ど、症状の増悪予防に努める傾向がみられました。
東京都衛生局では、今回の調査結果を踏まえなが
らアレルギー疾患対策に反映させるとしており、現
在、アレルギー疾患対策のあり方について検討を進
めています。
Vol.41(2000)
ダイオキシン類生物汚染状況調査
本年 7 月 13 日、東京都衛生局は、平成 11 年度ダイオキシン類生物汚染状況調査の結果を公表しました。
東京都内湾の5地点で、4種類の魚貝類について各10検体採取し、可食部分(筋肉など)のダイオキシ
ン類濃度を測定した結果、調査した全ての魚貝類の検体からダイオキシン類が検出されています。
▼生物のなかで、魚類のダイオキシン類* 濃度は比較的高いことが知
られています。魚類の体内に蓄積されたダイオキシン類の濃度は、魚
類が生息する環境の汚染状況を反映していると考えられることから、
東京都では、東京湾の汚染状況を監視するため、東京湾の魚貝類のダ
イオキシン類濃度調査を実施しています。
▼平成 11 年度の魚貝類の採取地点は、
右の図に示した東京都内湾の5
地点です。魚類については平成元年度から、貝類については平成 10
年度から継続して調査しています。
平成 11 年度の調査結果は、右下のグラフのとおりです。なお、前年
度との比較では、ダイオキシン類濃度の増減は魚貝類の種類により異
なり、一定の傾向はみられませんでした。
今年度からは、対象魚種を追加して調査する予定としています。
▼魚類のダイオキシン類濃度の経年変化は次のとおりです。
荒川河口
隅田川河口
東京湾
中央防波堤外側
多摩川河口
魚貝類の採取地点
6
pgTEQ/g
PCDD+PCDF
コプラナーPCB
5
pgTEQ/g
コプラナーPCB
PCDD+PCDF
10
4
3
5
2
3
4
5
6
7
8
魚類のダイオキシン類濃度の経年変化
9
10
11
年度
(コプラナーPCB の調査は平成 10 年度から開始)
約 10 年の間に、ダイオキシン類濃度の長期的な増加傾向や、大きな
変動は見られていません。
平成 10 年度から調査を開始したコプラナーPCB については、特に魚
類中のダイオキシン類全体に占める割合が高いことが注目されます。
現在では、家庭ごみなどの焼却がダイオキシン類の主要な発生源で
すが、20∼30 年前まで、PCB 製品や除草剤などに含まれるダイオキシ
ン類からの汚染が大きな比重を占めていたとされています。
コプラナーPCB について、平成 9 年度以前は調査していないため、
過去の状況は不明ですが、コプラナーPCB の大部分が由来する PCB 製
品が、25 年あまり前の 1974 年に製造販売が禁止されていることを考
慮すると、PCB が長期間にわたって環境に影響を及ぼしていることが
うかがえます。コプラナーPCB による生物汚染の今後の動向について、
継続した調査が必要と考えられます。
*
ダイオキシン類:ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)
、
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル
(コプラナーPCB)
くらしの衛生
Vol.41(2000)
ムラサキ
イガイ
2
コノシロ
元
ボラ
0
スズキ
0
1
平成 11 年度の魚貝類別濃度
調査対象の魚貝類
■スズキ:魚食性。沿岸部に
多いが、回遊範囲は広い。主
に 40cm 前後のものを検体と
して採取している。
■ボラ:底性動物や藻類を泥
とともに食べる雑食性。河口
付近に生息。
■コノシロ:別名はコハダ。
プランクトン食、砂泥域の
表・中層に生息。
■ムラサキイガイ:外来種、
通称ムール貝。岩礁や岸壁な
どに付着している。
9
毒キノコにご注意!
これからの季節、街を離れ、思い切りアウトドアライフを楽しむのはいかがでしょうか。でも、自然の中には、
楽しめるものもいっぱいあれば、思わぬところに危険も潜んでいます。山で採取した毒キノコによる食中毒は
その一つです。今回は、キノコ狩りのシーズンに備えて、キノコについてちょっと勉強をしてみましょう。
現在、日本で知られているキノコは、約2000種といわれています。しかし、日本に発生するキノコを、分類学的に
全て明確に分類することは難しく、不明種のキノコもたくさんあります。東京の多摩地区では、三十数種類の毒キノコの
発生が認められていますが、今回は、その主なものを紹介しましょう。
☆ 毒 キ ノ コ
【
【ク
クサ
サウ
ウラ
ラベ
ベニ
ニタ
タケ
ケ】
】
関東で一番食中毒の多いキノコで、キノコ食中毒の約1/3を占めています。その理由は、 ①近郊の山で容易に採取
できる ②大量に採取できること
③食用できるハタケシメジ、ウラベニホテイシメジとよく似ているためです。
カサは、ネズミ色∼灰褐色で、わずかに光沢、ヒダは、初めは白色だが、後にピンク色になる。柄は、5∼10 ㎝、白色
で中空、ややもろい。広葉樹林や松の混生した林の地上に生える。食中毒症状は、下痢、おう吐、腹痛など。
ヒダの色は、初め白色だが、後にピンク色になる。
【
【ツ
ツキ
キヨ
ヨタ
タケ
ケ】
】
食用のシイタケやムキタケとよく似ており、間違えて食べると食中毒になります。クサウラベニタケについで食中毒が
多いキノコです。カサは、丸、半円形、柄がカサの中心から偏ってつくことが多い。8∼25 ㎝、初め黄褐色、後に紫褐色
∼暗褐色、ヒダは、始め淡黄色、成長すると白色、暗闇で青白く発光する。柄は、太くて短い、縦にさくと黒いシミ。
御嶽山、三頭山等のブナの倒木、枯れ木に重なって生える。食中毒症状は、腹痛、おう吐、下痢など。
(ツキヨタケの特徴)
断片に黒色のシミ
リング状の隆起状帯
【
【ド
ドク
クツ
ツル
ルタ
タケ
ケ】
】
ドクツルタケは、キノコの中でも最も毒性が強く、食べると死に至ることがあり
ます。柄にささくれのないシロタマゴテングタケも猛毒であり、シロオオハラタケ
など類似のキノコとの鑑定はとても難しく、
この種のキノコは採取しない方が安全。
全体が白色、ツボがある。カサは、6∼15 ㎝で白色。ヒダは、柄に離生、やや密、
白色。柄は、14∼24 ㎝、白色でささくれがある。上部にツバ、根元に袋状のツボが
ある。秋、広葉樹林に発生。森の妖精を連想させる真っ白なキノコ。食中毒症状は、
重篤で、おう吐、下痢、肝臓や腎臓機能障害、死に至ることもある。
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くらしの衛生 Vol.41(2000)
ヒダが暗闇で発光
【
【カ
カキ
キシ
シメ
メジ
ジ】
】
カキシメジは、クサウラベニタケ、ツキヨタケと並び、毒キノコの御三家。地味
な色のキノコで、古くなるとヒダに赤褐色のシミができるのが特徴。
カサは、3∼8 ㎝、表面は、ぬれると粘性があり、赤褐色∼茶褐色。
ヒダは、白色で、後に赤褐色のシミが生じる。柄に湾生、やや密。柄は、カサの
色より淡い赤褐色、上の部分は白色。秋に、広葉樹や松との混成林の地上に単生あ
るいは群生する。
松に生えるものをマツシメジとよび、
いかにも食べられそうだが、
おう吐、腹痛、下痢などの食中毒症状を起こす毒キノコ。
【
【ニ
ニガ
ガク
クリ
リタ
タケ
ケ】
】
1年中発生する。硫黄色のキノコで、かむと苦く、ヒダの色が、初めは黄色で、
後でオリーブ褐色となる。
カサは、1∼5㎝、柄は、2∼12㎝、カサとほぼ同じ色で、中空、上部に消え
やすいが繊維状のツバがある。発生場所は、各種樹木の枯れ木、切り株、束生する
ことが多い。中毒症状は、おう吐、下痢、けいれんなど、調理をすると苦みが消え
ることがあるが、毒性には変化がない。
【ヒダの構造】(柄とヒダの付き方)
キノコの用語
キノコは、比較的簡単な構造をしており、カサと
柄が主な構造物です。形態的には、このカサと柄を
中心に、ヒダ、ツボ、ツバを観察し、また、臭い、乳
液の有無、味、胞子紋の色、胞子の形などで鑑定し
ます。群生や単生、周辺の樹木の種類、枯れ木に生
えていたなど、発生状況も重要な見分け方のポイントとなります。
【生え方】
【体の構造】
【注 意!】
キノコの鑑定は、専門家でもなかなか困難です。安易に野生のキノコを食べるのは止めましょう。
①キノコは発生時期、発生場所などで形が変わることが多いので、図鑑や写真、絵はあまりあてにならいことがあります。
②食べられると思って採ったキノコの中に、有毒種が混入していることがあるので、少しでも不審があったら食べない。
③キノコが有毒か否かには、様々な俗説・迷信があるので注意すること。
「ナスと一緒に料理」
「油で炒める」と無毒化す
るなどは、俗説!
くらしの衛生 Vol.41(2000)
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都庁展示ホール健康情報館 からのお知らせ
本年7月に都庁第一本庁舎2階北側展示ホールに開設した「健康情報館」は、開設から約一ヶ月半で入館
者数が1万人を超え、順調な滑り出しを見せています。食品環境指導センターでは、この「健康情報館」を
もっと多くの都民に活用していただくために、各種の企画や展示を行っていますので、ぜひご来館下さい。
夏休み企画として行った
都庁見学スタンプラリー
【ミニミニ講習会】
健康情報館では、見学時に、一般の方々をはじめ、地域の勉強会グループや小中学生を対象として20分
程度の「食と住まいの衛生に関するミニミニ講習会」を受講することができます。
(無料、要予約)
申し込み先
東京都食品環境指導センター業務課普及啓発係に電話で事前に予約してください。
(直)03−5320−5982
予約の内容は、受講希望日、参加人数、希望テーマなど
【衛生教育用ビデオの貸出しサービス】
健康情報館では、食品取り扱い従事者や学校教育用の衛生教育ビデオテープの貸出しを行っています。
貸出し希望の方は、健康情報館案内カウンターで申し込みしてください。貸出し期間は、1週間単位で3本
まで利用できます。
(無料)
ホームページで「くらしの衛生」の内容が見られます
本誌『くらしの衛生』の内容を、Vol.36(平成11年6月)からインターネット『食品衛生の窓』に掲載しています。
記事の内容を早急に入手したい方や遠隔地の方等のご利用をお待ちしています。アドレスは下記をご覧下さい。
☆健
健康情報館(食と住まいの衛生コーナー)では、都民の皆様の食生活の安全確保と住環境の衛生に関する不安や
疑問にお答えするために、資料の展示、配布、相談を行っています。
開館時間 月∼金曜日 午前9時から午後5時まで。
☆イ
インターネット「食品衛生の窓」 アドレス http://www.tokyo-eiken.go.jp/shokuhin/index.html
表紙の写真
: 奥多摩町大丹波
●本誌の内容等を転載する場合は、下記まで連絡をお願いいたします。
●本誌は、当センター以外に都民情報ルーム(都庁第一本庁舎3階)
、食品保健課(都庁第一本庁舎27階)
、都・区保健所、都
・区消費者センター等で配布しています。
●本誌の郵送を希望される方は、A4サイズの入る封筒に140円切手(1部の場合)を貼り、あて先、希望の号を明記のうえ、
当センター業務課普及啓発係にお送りください。
●本誌に関するご意見、問い合わせがございましたら、下記までご連絡ください。
発行/東京都食品環境指導センター 〒163−8001 新宿区西新宿2丁目8番1号
印刷物規格表第1類
印刷番号(12)5
平成12年10月発行
電話03(5320)5982
印刷/共信印刷株式会社
くらしの衛生
Vol.41(2000)