「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子

「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
34
35
しない場合に、匿名出産制度や Babyklappe など匿名で親権を手放せるシステ
ムが用意されている。このように匿名で親権を放棄できるシステムは、社会制
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
──ドイツの Babyklappe, アメリカの Safe Haven Laws との比較から
度が何重にも機能しているなかで嬰児殺を防止する最後の安全網としての機能
を果たす。
「ゆりかご」は Babyklappe をモデルにつくられたというが、避妊の方法を
吉田一史美
含めて妊娠から「ゆりかご」へと足を向けるまでの過程を考えてみると、諸外
国と日本では妊娠した女性やカップルが選べるライフスタイルや諸制度の整備
に違いがある。子捨て・子殺し事件を発端にする点では同じシステムといえる
はじめに──「こうのとりのゆりかご」をめぐる諸問題
が、それぞれの社会が持つ背景が異なることに注意しなくてはならない。そこ
で本稿では、ドイツの Babyklappe とアメリカ Safe Haven Law との比較を通
新生児が公衆トイレやゴミ捨て場などに遺棄され、死亡するという痛ましい
して、日本の社会で「ゆりかご」が提起する問題は何なのかを考える。
「ゆり
事件はなくならない。発覚するのは全体のごく一部であるともいわれ、思わ
かご」の是非を論ずるのではなく、日本では「ゆりかご」のオータナティブと
ぬ妊娠をした女性とその子どもが陥る最悪のケースを回避するための対策が必
なるはずの選択肢がどのようなもので、どのように機能している/いないのか
要である。熊本県の慈恵病院が運営する「こうのとりゆりかご」(以下「ゆりか
を検討する。
ご」)は、このような今も絶えない子捨て・子殺し事件を受けて創設された。
「ゆりかご」に類似するシステムは、
「ゆりかご」がモデルにしたというドイ
1.「こうのとりのゆりかご」の創設と利用
ツの Babyklappe をはじめ、イタリアの Culla per la vita、フランスの匿名出
産制度、アメリカの Safe Haven laws など欧米を中心に存在する。親が新生児
「ゆりかご」はどのような背景、意図のもとで設立されたのか。慈恵病院
を匿名で手放すことを可能にしたシステムは、育児放棄を助長するという懸念
のホームページによると、モデルになったのはドイツの Babyklappe である。
や出自を知る権利などの人権的な観点から批判されている。どの国でも物議を
Babyklappe はドイツ国内で 70 ヶ所以上あり、年間約 40 人の子どもが預けら
呼んでいるシステムであり、賛否両論である。しかし、それでもなお欧米諸国
れている。慈恵病院理事長の蓮田太二は 2004 年にドイツへ視察に赴き、それ
でこのようなシステムが存続あるいは採用されているのは、それが各々の社会
を同病院でも採用したのだという。蓮田は「ゆりかご」の設立にあたって日本
で安全網としての役割を持つと考えられているからである。
の社会情勢について述べており、とくに熊本県内で嬰児が遺棄されて死体で発
では、
「ゆりかご」のようなシステムが利用される状況とはどのようなもの
見されたという事件が年間で 3 件あったことや、
「18 才の無職の少女が産み落
なのか考えてみる。女性が思わぬ妊娠をしたとき、まず産むか/産まないかの
としたばかりの女児を殺して庭に埋める事件や、21 才の専門学校生が汲み取
選択があり、産まない場合は人工妊娠中絶(以下、中絶)の手術を受ける。産
り式トイレで女児を産み落とし窒息させ 6 年の実刑判決を受けるといった痛ま
む場合は、育てるか/育てないかの選択がある。育てる場合の環境は法的婚
しい事件」に触れている。さらに、親子間の殺人事件や児童虐待に関する相談
姻・事実婚・シングルマザー・シングルファーザーがありうる。産むけれども
件数および児童の虐待死件数なども、今後の子捨ての増加を懸念させると指摘
育てない場合の選択肢として養子縁組がある。そして、それらのいずれも選択
している。この若い女性たちが起こす「痛ましい事件」への言及に続いて、蓮
00立命館本文no.10.indd 34-35
09.12.17 3:08:45 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
36
田は以下のように設立の趣旨を述べている。
37
営開始から 1 年 4 ヶ月後であった。慈恵病院の「ゆりかご」について検証する
「こうのとりのゆりかご検証会議」(柏女霊峰淑徳大教授ほか)が熊本県庁でひ
神様から授かった尊い生命を、何とかして助けることができなかったのか?
らかれ、2008 年 9 月 8 日に中間報告が熊本市に提出された。2007 年 5 月 10 日
赤ちゃんを生んだ母親もまた救うことができたのではなかろうか? という悔
から 2008 年 3 月 31 日までの期間に合計 17 人の子ども(男児 13・女児 4、新生
しい思いをし、そしてどうしても赤ちゃんを育てられないと悩む女性が、最終
児 14・乳児 2・幼児 1) の預け入れがあり、うち親の居住地が判明している 10
的な問題解決としてドイツと同じように赤ちゃんを預けるところがあれば、母
件について親の状況が報告された(熊本県少子化対策課 2008)。それによると、
子共に救われると考え、今回当院にそのような設備を整えることとしました。
判明した居住地はすべて熊本県外で、母親の年齢は 10 代 1 割、20 代 3 割、30
代と 40 代で 6 割であった。母親の状況は、未婚者の事例は確認されておらず、
こうして 2007 年の 5 月 10 日に運用を開始した「ゆりかご」であったが、初
既婚事例 6 割、ひとり親家庭 4 割であった。預け入れられた子どもにきょうだ
日に預けられたのは 3 歳児だったというニュースに驚いたのは記憶に新しい。
いがいる事例は 9 割を占めた。子どもを預け入れに来た者は、母親一人で来た
この事実は、育児放棄を助長するという「ゆりかご」への批判を高めるには十
事例、男女で預け入れに来た事例、祖父母が預け入れに来た事例などさまざま
分であった。読売新聞は以下のように報じている。
であった。既にきょうだいが養育困難として乳児院に入所措置されているなど、
親の居住地の児童相談所が関わっていた事例があり、また預け入れる前の段階
病院は 10 日正午、ゆりかごの運用を開始。関係者によると、男児が預けられ
で親が居住地の児童相談所に相談している事例が複数あった。報告書では外国
たのはその 2、3 時間後らしい。男児は名前を名乗り、
「父親から(ゆりかごに)
人の子どもや障がいのある子どもが預け入れられたケースがあったことも明ら
入れられた」と話している。話の内容から、熊本県外から連れて来られたとみ
かにされている。
られる。健康状態は良好で、身元を示すものはないという。県警は男児の身元
この報告に関する記事の見出しは「赤ちゃんポストに子ども預けた母親、6
を特定し、保護者から事情を聞く方針。蓮田太二副院長は 15 日、
「もし事実だ
割 30 〜 40 歳代」(『読売新聞』2008.9.9) と書かれ、
「ゆりかご」の設立当初の
としても、そうでないとしても、医療人としてコメントできない」との談話を
想定と利用者の現実との差異を報じている。しかし、17 件のうち親の居住地
出した。4 月 5 日にゆりかご設置を許可した熊本市も「児童福祉法や市情報公開
が判明している 10 件の状況が全体を反映しているわけではなく、残りの 7 件
条例に基づき、子どもの人権を守る立場にある。事案の有無を含めてコメント
における 10 〜 20 代、未婚者の割合については明らかではない。
「ゆりかご」
できない」としている。(『読売新聞』2007.5.15)
が救おうとした「痛ましい事件」の女性と子どもは、報告書では明らかでない
7 件にどれくらいあったのだろうか。
病院も熊本市も公表していないにもかかわらず、その後もメディアはそれま
この報告書の公表により、
「ゆりかご」設置の衝撃と報道の過熱は落ち着
で預けられた人数や性別を明らかにしていった。報道内容の多くは、預けられ
いた。そして運営開始から 2 年が経過した 2009 年 5 月 25 日、熊本市は 2008
た時間帯や健康状態を公開し、親の刑事責任の有無を判断している。「ゆりか
年度に「ゆりかご」が受け入れた子どもが 25 人に上ることを明らかにした。
ご」は「赤ちゃんポスト」と呼ばれ、育児放棄を助長し、子捨てを増加させる
2007 年 5 月〜昨年 3 月末の初年度に比べて 8 人増えて、運用開始から 2 年間
などと批判された。
の累計は 42 人となった。性別は男児 13 人で、女児 12 人、年齢は子どもとと
過熱する報道のなか、
「ゆりかご」の利用状況が公式に発表されたのは、運
もに残された手紙や医師の診断によると、生後 1 か月未満の新生児が 21 人、
00立命館本文no.10.indd 36-37
09.12.17 3:08:45 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
38
39
生後 1 歳未満が 3 人、就学前の幼児が 1 人であった。このうち 2 人は治療が必
産や Babyklappe は子の出自を知る権利をめぐる問題性などをめぐって、
「ゆ
要な状況だったが、虐待の痕跡はなかったという。現在、ゆりかごの日常的な
りかご」創設以前から法学等の分野で注目されていた(床谷 2003 など)。現在、
運用については、同市が設置する専門部会が約 3 カ月ごとに状況をチェックし
日本における「ゆりかご」の議論の際に登場するのは Babyklappe と匿名出産
ており、これまでの運用では違法性や子どもの安全確保に問題はなかったとし
である。
ている。また、県の有識者会議が社会的な問題や課題を検証しており、この秋
Babyklappe の目的は子どもの生命を保護することであり、また殺害や遺棄
に最終報告書をまとめるという。
といった女性の犯罪行為を防ぐことである。この目的は「ゆりかご」と同じ
であるが、両者のもつ社会的背景は異なっている。ハンブルグ州の調査では、
2.Babyklappe と移民問題
ドイツで子どもを遺棄せざるを得ない苦境にあるのは、不法滞在の外国人女
性、麻薬常習者、性犯罪や DV の被害者、10 代の若い女性であるという(佐
日本の「ゆりかご」の先例として、ドイツの Babyklappe がしばしば比較
藤 2004)
。つまり Babyklappe は、不法移民や麻薬常習者などの公的なサービ
対象に挙げられる。ドイツに「捨て子ポスト」「捨て子箱」が存在すること
スを何らかの事情で受けられない状況にある女性、また性犯罪被害者や DV 被
は、2007 年に「ゆりかご」が運用開始する前から注目されていた(『朝日新
害者、10 代の若い女性など、妊娠出産の事実を近親者にさえ秘匿したい事情
聞』2002.1.30、『読売新聞』2003.7.15)
。Babyklappe の研究を続けている阪本恭
のある女性たちに対する緊急の救済システムという位置づけができる。
子(2008) によると、ドイツで初めて設置されたのは 1999 年で、バイエルン
落美都里(2008)は Babyklappe について、ドイツにおける移民問題の深刻
州の小さな町アンベルグにあるカトリック系の女性支援団体(Donum Vitae in
化をその社会的背景に挙げている。ドイツは欧州屈指の移民大国である。2005
Bayern e. V.)によるものであった。社会的に弱く、困難な立場にある非婚の妊
年の小規模国勢調査によれば、ドイツ国内の移民系住民は約 1530 万人で、全
娠女性やシングルマザーとその子どもを救済する「モーゼのプロジェクト」の
人口の約 18.6%を占める。そのうち 8.9%の約 730 万人が外国籍、9.7%の約
一環であったが、利用者ゼロの年が続いて現在は閉鎖されている。しかし、翌
800 万人がドイツ国籍である。移民系住民は 2 〜 25 歳の人口の 27.2%、600 万
2000 年にハンブルグのシュテルニ・パーク(SterniPark e. V.) が Babyklappe
人を占め、6 歳以下に限れば全体の 3 割を占める。ちなみに出身国はトルコが
を開設して、メディアを利用したキャンペーンを行うなど活発な運動を現在も
最多で、旧ユーゴスラヴィア、旧ソ連、ポーランド、イタリアが高い割合を占
展開しているという。現在ではドイツ国内に 80 近くの Babyklappe が設置され、
めている。ハンブルグ州の調査でも、移民系住民のうち不法滞在者である場合
年間約 40 人が預けられている。
は、無保険状態であったり強制退去措置を恐れたりして、当局との接触を避け
Babyklappe と関連づけて論じられるものに匿名出産がある。どちらも子ど
るために匿名出産制度や Babyklappe を利用してしまうことが指摘されている。
もは「捨て子」として扱われる点では同じだが、匿名出産は女性が専門家の支
ドイツにおける子どもの遺棄の理由に「未婚」はなく、それは婚外子が社会
援を受けないで出産する危険を回避するための制度という側面が加わる。フラ
的に社会福祉の対象とされているからだという(佐藤 2004)。現在ドイツでは
ンスでは中絶規制と子捨て・子殺し問題を背景に、女性が匿名で出産できるよ
全出生数の 3 割近くが婚外子である。これは事実婚の増加など婚姻法にかかわ
うに 1941 年に創設され現在まで存続している(西 2001)。阪本(2008)による
ることや、相続などに関して法律上に「摘出概念」が存在しないこと、未婚で
と、Babyklappe を有するドイツでも北東の連邦州には匿名出産が可能な病院
子どもを育てるシングルマザーへの公的援助が充実していることが要因となっ
が多く、出産はすべて総合病院または大学病院で行われているという。匿名出
ている。確かに婚外子が生まれやすい社会ということは、婚外子を育てるシン
00立命館本文no.10.indd 38-39
09.12.17 3:08:45 PM
40
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
41
グルマザーが生きやすい社会といえる。しかし、これはシングルマザーになら
ずに子どもを手放そうとする女性が嬰児の殺害や遺棄をしないという十分な理
3.Safe Haven Law と中絶問題
由ではない。ドイツには Babyklappe の他に、女性が思わぬ妊娠をした際に利
用可能な社会制度があるということである。
未婚のシングルマザーが増加しており、また養子縁組大国といわれるア
「ゆりかご」に関する従来の議論においては、ドイツでは Babyklappe や匿
メリカでも、新生児を匿名で手放すことができるシステムが存在する。Safe
名出産のようなシステムの前に「養子縁組」が選択肢として用意されている
Haven laws である。新生児の遺棄事件の増加を受けて、1999 年にテキサス州
ことはあまり論じられていない。ドイツでは刑法第 218 条と第 219 条によっ
が Baby Moses laws を成立させた。この法律によってテキサスでは、生後 60
て、中絶には非医師である専門家との相談義務がある。ドイツの中絶相談所は
日以内の子どもであれば親は匿名で親権を放棄できるようになった。このシス
希望があれば匿名で相談を受け付け、夫婦・家族問題の相談所、青少年やシン
テムの特徴は特定のボックスを設置していない点であり、任意の病院や救急救
グルマザーを支援する福祉団体の紹介、そして養子斡旋所への仲介を行う(阪
命センター、認可された児童保護団体の職員に子どもを託すことが可能である。
本 2008)
。ドイツでは女性の思わぬ妊娠に際して、養子縁組という出産と養育
新生児を受け入れる側は、子どもに虐待やニグレクトの形跡がない限り、親に
を切り離した選択肢が、中絶とシングルマザーと同列に提示されるのである。
対する拘束や追跡は義務付けられていない。また、親は個人情報の提供を求め
高橋由紀子(2001, 2007)の報告によると、ドイツではピルによる避妊の浸透
られることはないが、子どもに関する医学的な情報などを残すための書類への
や事実婚の一般化、民法上の婚外子差別の撤廃、一人親家庭への支援拡大にと
記入が勧められる。子どもは養親候補が一時的に里親となり、実親の親権が自
もなって養子となる子どもの数は減っているという。しかし、2005 年には継
動的に終了する期限を待ってから養子縁組の手続きがすすめられる。
親子養子を除いて 2,170 人の子どもが養子となっており、771 人の子どもが養
テキサスの Baby Moses laws は、その後 Safe Haven laws としてアメリカ
子縁組のために仮登録されている。養子候補と養親希望者は 1:12 の比率と計
国内で拡大していった。翌 2000 年には、カリフォルニア・フロリダ・ミシガ
算され、養子大国といわれるアメリカやフランスと同様にドイツでも国内の養
ン・カンザスなど 14 州が、2001 年にはさらに 17 州が Safe Haven laws を採
子候補が不足しており、近年は国外に養子をもとめる国際養子縁組が増加して
用した。2002 年にはブッシュ大統領(当時)が Safe Haven のプログラムに対
いる。養子縁組の斡旋ができるのは公的少年援助機関と州によって認可された
する資金・広報・訓練・援助を許可する法案に署名した。こうして 2006 年ま
民間の養子縁組サービス機関で、望まない妊娠をした女性の相談などの支援も
でにアメリカの 47 州およびプエルトリコが Safe Haven のプログラムを創設
行っており、養子縁組で子どもを手放す親は 10 代の未婚女性が圧倒的に多い
し、同年までに Safe Haven laws を採用しなかったのはハワイ・アラスカ・ネ
という。ドイツでは養子縁組は児童福祉の重要な一領域であると同時に、思わ
ブラスカとコロンビア特別区となった。
ぬ妊娠をした女性にたいする社会福祉としての機能が定着していると考えられ
ハワイ州知事リンダ・リングルは 2003 年に Safe Haven Bill に拒否権を行使
る。このように、女性の妊娠に際して養子縁組などいくつかの選択肢が用意さ
している。その根拠は、ハワイでは拡大家族も核家族の一部だと一般に認識さ
れたうえで、移民問題を背景とした Babyklappe の必要性と出自を知る権利な
れており、また「ハナイ」と呼ばれるハワイにおけるオープンアダプション
どに関わる問題性の緊張関係がドイツでは議論されている。
の慣行も健在であることから、この法案が女性の思わぬ妊娠に対する既存の
(1)
サポートシステムにとって好ましくない影響を持ちうるというものであった
(Lingle 2003)
。またリングルは、国内の専門家たちが Safe Haven laws に批判
00立命館本文no.10.indd 40-41
09.12.17 3:08:46 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
42
43
的になりつつあると指摘した。
あると考えられる。
現在では、ハワイを含めた 50 州すべてが Safe Haven laws を採用している。
キャロル・サンガー(2006)は、Safe Haven laws について以下のように述
各州で Safe Haven laws の内容は異なる。2007 年時点で各州の法令をまとめ
べている。
た資料によると、受け入れる新生児の年齢に関しては、15 州が生後 72 時間以
内、14 州が生後 1 ヶ月以内と定めており、その他の州では、生後 5 日、7 日、
この法律はより大きな政治的文化おいて適切に理解されている。その文化と
14 日、45 日、60 日、90 日、1 年以内といった年齢制限を設定している。Safe
は、胎児の生命保護をめぐって構築されつつある、「いのちの文化(culture of
Haven として機能を果たしうるのは、8 州が病院のみと規定しており、他の州
life)」と自称するものである。子どもの生命を胎児の生命と、嬰児殺を中絶と
は病院に加えて救急救命サービス、警察署、消防署を Safe Haven として指定
結びつけることで、Safe Haven laws は「いのちの文化」の政治的な目的、すな
している。また 4 州で通報を受けて駆けつけた救急救命士も子どもを引き受け
わちロウ・ウェイド判決の逆転を巧妙に促進している。同法が成し遂げた重要
ることが可能であり、プエルトリコでは教会も Safe Haven として機能するこ
なことは、犯罪学的なものではなく文化的なものであったのかもしれない。
とが認められている。
ネブラスカ州は 2008 年に Safe Haven laws を採用したが、受け入れる子ど
サンガーは州における Safe Haven law の立法化過程を調査し、中絶問題を
もの年齢を制限していなかったことで、10 代の子どもを含む年長児の置き去
めぐるレトリックとポリティクスが全米における同法の短期間での立法化を膳
りを同法の下で容認せざるをえない事態に陥った。2008 年に 30 人以上の子ど
立てたことを示唆している。さらに、立法上および社会的なメカニズムが未婚
もがネブラスカの Safe Haven で保護されたが、乳児はおらず、約半数が 10
女性の妊娠と中絶を議論から除外しており、そしてそれが若い女性を心理的な
代で、さらに数名が州外から連れて来られていた。これを受けてネブラスカ
危機に陥れ、不幸にも生まれたばかりのわが子を遺棄させることになっている
は年齢制限を新設して「30 日以内」と規定している(USA today, November 14,
ということも指摘している。
2008; New York Times, November 23, 2008)
。
アメリカにおける中絶めぐる論争や中絶反対派による過激な闘争については、
ネブラスカの件にかぎらず、Safe Haven laws に対する批判的な見解があ
荻野美穂(2001)が詳細に研究している。1971 年と 72 年に連邦最高裁で公判
る。とくに養子縁組について研究をしているアダム・パートマンらは、Safe
が開かれたロウ対ウェイド訴訟は、プライバシー権を根拠に、1875 年以来母
Haven laws の創設によって新生児の遺棄や殺害の件数が減少したとはいえな
体の生命救済以外の理由での中絶を禁じてきたテキサス州法の違憲性を問うも
いと報告しており、また同法の利用者へのカウンセリングがなされないために
のであった。判決は、判事 9 人のうち 7 対 2 の大差で女性が中絶を選ぶ権利を
同法の効果を確認することができていないとして、Safe Haven laws の影響力
憲法に保証されたプライバシー権として認めるという、誰も予想しなかったリ
について懐疑的である(Pertman and Deoudes 2008)。
ベラルなものであった。この 1973 年のロウ・ウェイド判決以来、中絶は激し
ドイツの Babyklappe や日本の「ゆりかご」には法的な裏づけがなく、賛否
い論争のテーマになっており、大統領選挙をはじめとする政治の場面において
両論のなかで行政の対応が後手に回る状況で、民間で運営と活動が続けられて
も重要な争点となっている。この中絶反対派と中絶擁護派の対立は、言論上だ
いる。しかし、アメリカでは同様のシステムを州が法律で規定している。しか
けでなく反対派による中絶クリニックへのテロ、中絶を求める女性へのいやが
もこの Safe Haven プログラムがわずか数年のあいだにアメリカ全土へ拡大し
らせ、さらには中絶を行う医師の殺害という暴力行為を伴っており、アメリカ
たというのは驚異的といえる。その背景にはアメリカ社会に根強い中絶問題が
社会で「25 年戦争」
「新しい内戦」と呼ばれるまでに深刻化している。
00立命館本文no.10.indd 42-43
09.12.17 3:08:46 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
44
45
最近でも 2009 年 5 月 31 日にカンザス州ウィチタ市内の教会で、中絶手術を
子どもの権利条約において子ども出生による差別が禁止された。これらの条約
行う産婦人科医が銃撃されて死亡するという事件が起きた。死亡したジョー
に基づき、欧州を中心に世界の国々が婚外子差別の撤廃を行っていった。現在、
ジ・ティラー医師は妊娠後期の中絶手術を行う数少ない医師の 1 人で、16 年
婚外子相続差別を法律で規定している国は、フィリピンと日本だけだといわれ
前にも自身の診療所付近で銃撃されている。カンザス州では妊娠第 3 期(28 週
ている。
以降)の中絶について、
「母体に回復できない障害を残す」などの場合に限り
民法改正運動に携わる坂本洋子(2008)は、日本における嫡出推定規定、国
認めている。そのため、中絶手術をもとめる妊婦たちが全米から同医師のクリ
籍法の婚外子差別規定、そして民法の婚外子相続差別規定のそれぞれの問題
ニックを訪れていた。ティラー医師射殺事件後、遺族はクリニックを閉鎖した
性は通底していると指摘する。日本の民法や諸制度には「嫡出概念」が存在
という(『毎日新聞』2009.7.16)。
し、
「嫡出子」であるか否かでさまざまな差別がある。民法の「第 5 編 相続」
アメリカでは中絶手術を受けるのも施すのも「命がけ」と表現されることも
には「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の 2 分の 1」という規
あるように、容易に中絶手術を受けられない。そもそも中絶を行っている医
定(900 条 4 号但し書き)があり、法律婚をしていないカップルの子どもは、法
師・病院が少なく、Planned Parenthood などの家族計画団体によるボランテ
律婚をしているカップルの子どもの半分しか相続できない。この規定について、
ィア活動に支えられている面もある。こうした中絶をめぐる社会的および政治
1993 年には東京地裁で婚外子相続差別は憲法違反であると判断されたものの、
的な背景が、アメリカの Safe Haven laws の成立にはある。
1995 年の最高裁判決では違憲判断はなされなかった。しかし、この地裁の判
決は婚外子について相続差別だけでなく社会的差別にも言及した画期的なもの
4.日本の未婚母・婚外子をめぐる問題
であった。
かつて明治民法では、夫が妻以外の女性との間に子どもをもうけた場合、認
ドイツの Babyklappe には移民問題が、アメリカの Safe Haven laws には中
知すれば「庶子」
、認知しなければ「私生子」として区別していた。妻との間
絶問題が背景にあった。日本の「ゆりかご」にはどのような社会的背景がある
に子どもがいなければその子どもが家督を相続し、また「嫡出の女子」より
だろうか。日本における新生児の遺棄や殺害においては、「未婚」という要素
「庶子の男子」が相続上は優遇された。相続における妻の地位は低く、夫の財
がいまだ中核を成していると考えられる。ここでは日本における婚外子および
産に対する権利も法律上保証されていなかったため、現行民法の婚外子差別規
未婚母をめぐる問題を取り上げる。
定は「妻の座を守るもの」と考えられることが少なくないという。この規定は、
現在、ドイツやアメリカをはじめ多くの国では法律上の婚外子差別は撤廃さ
戦後の民法改正で「法律婚の尊重」と「嫡出でない子の保護」との調整を図っ
れている。キリスト教文化圏では性を抑圧する規範があり、また婚姻契約は神
たものとされている。しかし、生まれる前の両親の行為で子が不利益を被るべ
聖なものと考えられていたため、未婚母や婚外子への法的・社会的制裁は強力
きではないと坂本は指摘している。
であった。
「未婚の母の家(unmarried mothers'home)」の存在は、未婚の妊娠
婚外子に対する差別は相続問題だけでない。佐藤文明(1984)などによる婚
女性の保護を要請するほどに厳しい差別の実態を伝えるものとしてとらえるこ
外子差別撤廃運動が訴えてきたように、戸籍や住民票などの日常で利用する諸
ともできる。そして、婚外に生まれた子どもは「罪の果実」として「親の罪を
制度の細部にまで及んでいた。これまで戸籍の続柄記載では婚内子は「長男」
贖罪させるべき」存在として冷遇されていた。しかし、20 世紀になって子ど
「長女」
、婚外子は「男」
「女」と記載されていた。また住民票では婚内子は
もの権利が重視されると、欧州人権条約、婚外子の法的地位に関する欧州条約、
「長男」
「長女」
、婚外子は「子」とのみ記載された。住民票や戸籍の記載に
00立命館本文no.10.indd 44-45
09.12.17 3:08:46 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
46
47
おける差別撤廃運動や提訴は主に事実婚をしているカップルによって続けられ
一方、スウェーデンでは、父親確認については母親の同意が必要であり、社
た。その結果、1994 年に旧自治省が住民票の親子関係の記載はすべて「子」
会福祉委員会という公的機関が関与している。子どもの人権の観点から、でき
と統一するよう通達を出した。そして住民票記載の改正から遅れること 10 年、
るだけ早く父親を見つけ出して確定することが地方自治体の任務とされており、
2004 年に地裁判決が「婚外子と判別できる記載はプライバシーの権利を侵害
社会福祉委員会が父親確定のために父親の捜索・調査(情報収集、DNA 鑑定)
する」と判断したことを受けて、同年に法務省は戸籍法施行規則の改正を行っ
する義務を負い、子の出生から原則 1 年以内に調査を行われなければならない。
て婚外子も「長男」
「長女」という記載に統一した。
男性が父親確認に応じない場合は、子を原告として社会福祉委員会および母親、
婚外子の親は事実婚実践者とシングルマザー・シングルファーザーであるが、
あるいは社会福祉委員会だけで訴訟を起こす。原告の子どもは無収入であるこ
日本における婚外子差別撤廃運動は事実婚実践者が担っている。1980 年代の
とから、DNA 鑑定や裁判の費用などの諸経費すべて公費でまかなわれる。父
終わり頃から夫婦別姓を求める運動が広がり、名字を変えないために事実婚を
親の捜索・調査が中止されるのは、父親に関して必要な情報の取得が不可能な
する夫婦の子どもが婚外子として扱われることに疑問の声があがったのが、婚
場合、裁判所において訴えの維持が不可能とみなされる場合、また子どもの父
外子差別撤廃運動のはじまりである。事実婚の実践者はさまざまな事情や信念
親が犯罪者や母親の近親者である場合などで、母親の同意を得て中止する。
からそのライフスタイルを選択するのだが、「事実婚の婚外子の親たちは、不
また、父親確定ののちの養育費の問題についても善積(1992)が紹介してい
当な差別に立ち向かい、行政を相手どって闘う気力を持ちうるほどに、日常生
る。スウェーデンでは父親の子の扶養責任は子どもが成人するまで存在すると
活の中では差別に打ちのめされる経験をしてこなかったともいえる」と自己分
法律で定められている。一方の親が子どもを育てている場合、他方の親は法に
析している(大田 2004)。日常生活における婚外子差別は、事実婚家庭に対す
よって定められた額の養育費を仕送ることが義務付けられ、義務の履行が徹底
るものより一人親家庭に対するものが強く、なかでも離婚や死別ではなく非婚
的に追求される。養育費の送金が遅滞すると、養育費立替制度に基づいて行政
のシングルマザーの家庭がもっとも厳しい差別の現実を知る。彼女らは「未婚
から同額がただちに支払われると同時に、送金遅滞者へ厳しく返済を請求する。
の母」として妊娠し、出産するときから、偏見と差別にさらされながら選択を
ただし、養育費の支払いが困難なほど経済状況が悪い場合は、政府が養育費を
迫られている。
肩代わりする。
婚外子差別が相続問題や諸行政手続きにもあらわれているように、未婚母へ
日本では父親から認知や養育費を得ることが容易でないだけでなく、家族や
の差別もまたさまざまな場面でみられる。ここではその一例として、日本にお
親類、友人から出産に反対されるなど私的な問題もあって未婚母は孤立しがち
ける子の認知をめぐる制度の問題性を取り上げる。善積京子(2004)は日本と
である。また、未婚での妊娠に対する偏見から産休明けに解雇されたり、その
スウェーデンの父親確定制度を比較している。日本の認知制度では、子どもの
後の再就職が困難だったりと雇用における問題もある。さらに子育てにおいて
人権よりも父親の意思が優先されている。子どもが未成年であれば子どもや母
は、児童扶養手当制度の運用で離婚・死別のシングルマザーとの差別化が生じ
親の承諾なしに、いつでも役所の窓口で簡単に受理される。しかし、母親や子
ていることも指摘されている(松村 2004)。日本における未婚母をめぐる社会
どもの側から父親に認知させようとすると、裁判所に強制認知の訴えを起こさ
的、経済的、法制度的な問題は深刻であり、妊娠をした未婚女性が子どもを産
ねばならず、DNA 鑑定の費用も自己負担となる。このように、日本では母親
んで育てることを選択したとき、さまざまな困難に直面することになる。
の意志の尊重や子どもの父親を知る権利の保証が十分になされていない状況で
しかし、日本の未婚女性はシングルマザーとして生きにくい一方で、中絶手
ある。
術を受けることに社会的・制度的な障害はない。日本では妊娠満 22 週まで中
00立命館本文no.10.indd 46-47
09.12.17 3:08:46 PM
48
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
49
絶ができ、ほとんどの病院やクリニックで中絶手術は可能で、手術前にカウン
ている。一方、日本の出生数に占める婚外子の割合は 2.1%(2006 年)と極め
セリングを受ける義務もない。このような中絶手術が容易に受けられるという
て低い。1980 年代は 0.8%であり、依然として婚外子とその母親に対する社会
環境で、児童扶養手当制度などの運用において未婚のシングルマザー家庭が積
的差別や偏見が根強いことがうかがわれる。
極的に援助されないということは、未婚女性の妊娠に際しては自力で養育でき
婚外子・未婚母をめぐる問題が根強く残る社会とその問題と向き合ってきた
る者だけが産むということが前提されているのかもしれない。日本では思わぬ
社会においては、
「ゆりかご」のようなシステムに期待されていることも大き
妊娠をした未婚女性は、多くが中絶を選択せざるをえない仕組みになっている
く異なるだろう。日本では、
「ゆりかご」の設置のまえに、女性が非婚のシン
といえる。
グルマザーとして子どもとともに生きていける社会を実現する必要がある。
中絶した女性が妊娠に際してどのように選択をしたのかということについ
て、2002 年に日本産婦人科医が中絶を受けた 10 代の女性を対象に実施したア
5.特別養子制度の成立と利用
ンケート(施設数 91,回答数 565) が参考になる。妊娠が分かったときの気持
ちについて「嬉しかった」が 32.6%で、
「困った」が 68.1%であった。「嬉しか
未婚母らの中絶に関して問題なのは、多くの場合に「産みたい/産みたくな
った」の割合は年齢が上昇するにつれて増加し、19 歳女性では 34.5%であっ
い」にかかわらず「育てられない」という理由で中絶が選択されていることで
た。産みたいと思ったかという質問に対しては「産みたかった」が 39.3%、
「産
ある。さまざまな事情から「産みたい、あるいは産むしかない、産んでしまっ
みたくない」が 18.1%で、
「産みたかった」の割合は年齢の上昇と共に増加し
た。でも育てたくない、あるいは育てられない」という場合は、やはり「ゆり
て 19 歳女性では 41.8%に上り、
「産みたくない」の割合は減少して 19 歳女性
かご」へ子どもを連れて行くしかないのだろうか。日本における「ゆりかご」
では 14.7%に過ぎなかった。中絶を選択した理由に関しては、経済的な理由が
の問題を考えるには、シングルマザーや中絶に加えて、もう一つの重要なオー
67.7%と最多で、次いで「若すぎる」63.7%、「未婚のため」46.3%、「子育てに
タナティブとして養子制度を検討する必要がある。
自信がない」44.2%、
「学業に差し支える」38.7%、「親の反対」27.3%が上位
「ゆりかご」に関する議論では、特別養子縁組は「ゆりかご」のあとに控え
を占めた。このアンケートでは「産みたかった」と回答した人が 4 割近くに上
る児童福祉制度として紹介されることが多い。ドイツの Babyklappe および匿
っており、婚外子の出生や未婚母らによる養子縁組の利用を考える上で注目す
名出産では、8 週間の猶予期間に実親が名乗り出なければ、自動的に養子縁組
べきデータである。
の手続きが開始される。アメリカの Safe Haven laws のもとで保護された新生
法制度的な問題から明らかであるように、日本は婚外子が生きにくい社会
児もまた同様のプロセスを経て養子縁組の手続きが進められる。しかし、湯沢
であるが、それは同時に日本は未婚母が子どもを産めない、婚外子が生まれ
雍彦(2007)によれば、日本の「ゆりかご」に預け入れられた子どもは、通告
にくい社会であるということでもある。婚外子差別を撤廃した国では出生数
を受けた児童相談所によって乳児院に委託され、2 年前後で児童養護施設へ移
に占める婚外子の割合が高く、たとえば早期に撤廃したスウェーデンでは 56.6
るコースを辿ることになるという。そして湯沢らが取材した限りの多くの出産
%(2006 年) と生まれる子どもの半数以上が婚外子である(坂本 2008)。2005
女性はその道を望んでおらず、なるべく早く適切な夫婦の養子になることを希
年に婚外子差別を完全に撤廃したフランスでは 50.5%(2007 年)と初めて過半
望しているという。確かに、
「ゆりかご」の後に控える特別養子制度が十分に
数となった。アメリカは 38.5%(2006 年)、ドイツは 29.3%(2006 年) である。
活用されていないことは問題である。しかし、
「ゆりかご」を利用する前の段
この数値はこれらの国々おけるシングルマザーの増加と事実婚の一般化を示し
階において特別養子制度が思わぬ妊娠をした女性を対象とした社会福祉の制度
00立命館本文no.10.indd 48-49
(2)
09.12.17 3:08:46 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
50
51
として機能していないことが、まず重要な課題として議論される必要がある。
欧米における養子法は、中絶が規制されるなかで婚外子や孤児の救済を目的
1970 〜 80 年代、日本で子捨て・子殺し事件がメディアを騒がした。「コイ
として作られたことから、人身売買の防止や実母のプライバシー保護への配慮
ンロッカーベビー」や母子心中などの事件の報道が相次ぎ、「母性崩壊」が嘆
がある。とくに養子の出自を知る権利やオープンアダプションの試みは、つね
かれた。1986 年には匿名で子どもを預けることができる「天使の宿」が群馬
に実母のプライバシー保護の必要性との緊張関係のなかで追求されてきた。特
県大胡町に設置され、6 年間で約 10 人が預け入れられた。「ゆりかご」の先駆
別養子制度が実母の戸籍に出産・縁組記録を残す根拠として養子の出自を知る
けである。特別養子制度もこの時期に「望まれずして出生する子」と「子育
権利の保証が強調されたが、それは欧米の養子制度における実母のプライバシ
てを熱望する夫婦」の出会いの場の提供を目的として新設が検討され、1987
ー保護の必要性を前提とした議論と異なるものであった。欧米の養子制度と日
年に成立した(大森 1983)。しかし、その件数は制度導入直後から減少し続け、
本の特別養子制度のこの違いはどのようにして生まれたのか。特別養子制度の
現在は年間 300 件程度が認容されている(最高裁判所事務局)。その大部分は同
成立過程を概観する。
制度の成立以前から同数程度存在した里親と里子による養子縁組のケースが占
「特別養子」の構想はまず、1959 年に法制審議会によって発表された(法務
めており、同制度は潜在していると考えられた養子縁組希望者に利用されてい
省民事局 1959)
。以下がその抜粋である。
(3)
ない。なぜ特別養子制度は「ゆりかご」のオータナティブとして十分に機能し
ていないのだろうか。
同制度の利用実態についてグッドマン(2000=2006) は、日本の戸籍制度で
第二十七 通常の養子のほかに、おおむね次のような内容の「特別養子」の
制度を設けることの可否について、なお検討する。
は未婚母等の出産・縁組に関する記録が公開されるために養子縁組が中絶に対
(イ)特別養子となるべき者は一定の年齢に達しない幼児に限る。
抗する選択肢となりえていないこと、そして実母の親族が縁組を妨げるために
(ロ)特別養子はすべての関係において養親の実子として取り扱うものとし、
養子縁組への実母の同意を得られないケースが多いことを指摘している。また
菊池(1998)によれば、女性の出産・縁組に関するプライバシーが守られてい
戸籍上も実子として記載する。
(ハ)養親の側からの離縁を認めない。
ない現状では、母親によって出生届がなされない無戸籍児が施設におり、その
ような子どもたちの養子縁組は手続きが難しいという。さらに、特別養子をめ
法制審議会の部会長であった我妻(1959)は、
「この制度に対する要望として、
ぐる問題として、特別養子縁組の手続きを踏まずに高額の金銭の授受を伴って
虚偽の出生届の慣行の存在と養親による身勝手な離縁という不合理から、養子
海外の養親に斡旋されるケースが一定数存在することも報告されている(高倉
を戸籍記載と法律関係の両方で実子として扱う必要性と合理性が挙げられてい
2006)。
る」と述べている。つまり 59 年の構想の目的は、福祉ではなく戸籍をめぐる
従来の特別養子制度の研究は比較法学を中心になされてきた。そこでは特別
違法な届出の抑制であった。この時点での法案の内容は養子をめぐる戸籍記載
養子制度は児童福祉型の養子制度として捉えられ、その視点から同制度の具体
と法律関係を実子と同様にするというシンプルなものであり、斡旋機関や斡旋
的な改善点が論じられている。具体的には、養子斡旋に関する法規の整備や専
に関する法規、また実母のプライバシー保護などは備えていなかった。しかし、
門の斡旋機関の設置、実母のプライバシー保護、縁組における無戸籍児問題や
この 59 年の構想は保留となったまま 20 年以上が経過する。
実親の同意をめぐる問題への対策などの必要性が指摘されている(湯沢 2001,
日本における特別養子制度の立法化の契機となったのが、1973 年に起きた
2007; 菊池 1998; 鈴木 1998)。
実子斡旋事件、いわゆる菊田事件であった。菊田事件とは、産婦人科医の菊田
00立命館本文no.10.indd 50-51
09.12.17 3:08:47 PM
52
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
53
昇が、養育できない子どもを妊娠した妊娠後期の妊婦に対して中絶ではなく出
制を目的に設計された 59 年案を雛型にしており、実母となる女性を対象に含
産をすすめ、生まれた子を不妊夫婦へ実子として斡旋し、それを制度化する
めた社会福祉をその射程に入れた養子制度とはいえない設計になっている。こ
「実子特例法」を提唱した事件である。菊田はその個人的体験から、女性は出
の結果はいくつかの偶然が重なったものなのかもしれない。しかし、特別養子
産・縁組に関するプライバシーが守られれば中絶を思い留まることができると
制度の成立過程における専門家らの議論には、未婚母の妊娠・出産を「不始
確信し、実子斡旋の事実を公表したという(菊田 1979)。菊田は、中絶を選択
末」として非難する発言がみられ、
「非婚アレルギー」(米倉 1986b)と表現さ
する女性や子捨て・子殺しの危機にある未婚女性らの利用を念頭に、実母の出
れる未婚母差別があった。
産・縁組記録を縁組当事者を除いて非公開にする養子制度を提唱した。この菊
田事件はコインロッカーベビーなどの子捨て・子殺し事件とともにメディアや
6.特別養子制度と未婚母差別
世論の関心を集め、自治体レベルでは「実子特例法立法化に関する意見書」が
各地で採択された。同事件によって、養子制度の議論にはじめて養親による虚
1959 年の特別養子法案は、虚偽の出生届による法律関係の矛盾解消という
偽の出生届を望む実母の存在が取り上げられたが、これは 59 年にはなかった
「戸籍の信頼性」に力点をおくため、実母の出産・縁組の戸籍への記載は必須
視点である。しかし、70 年代と 80 年代を通して、多くの法学者は実母のプラ
であった。1970 〜 80 年代に入っても、養子縁組をした実母、すなわち出産と
イバシー保護の必要性を重要視せず、未婚母の妊娠・中絶にかかわる倫理的問
養育を切り離した選択をした女性たちが、現実に生きていくための配慮の重要
題は民法学の議論では論外とされた。
性はなかなか認識されなかった。特別養子制度の成立期には、未婚女性の妊娠
実子特例法を支持するメディアや市民運動の高まりを受けて、1982 年に法
と実母のプライバシー保護に関してどのような議論がなされたのか。
制審議会の審議が再開し、59 年以来の新しい養子制度の構想が本格化する。
菊田の立場を不利にしたのは、日本母性保護医協会と産婦人科学会が彼の実
この頃に、法学者の米倉明(1986a) が「家庭に恵まれない子に対して家庭を
子斡旋行為を公式に非難したことである。これらの団体は新しい養子制度その
提供し、そのことを通じて子の養育──成長を促進、保障する」ことこそが特
ものにも反対した。諸外国においては、特別養子に類する制度に賛成した人び
別養子制度の目的であると定義した。この児童養護問題という児童福祉の視点
とは縁組の第一線にいるケースワーカーや産婦人科医であり、日本の産科婦人
の導入によって、菊田が提起した望まない妊娠や中絶をめぐる倫理的な問題が
医の団体が同制度に反対したことは極めて異質であった。
「実子特例法につい
見えにくくなり、制度設計が容易になって立法化が加速したと考えられる。さ
て」という座談会に出席した松山栄吉(当時の東京厚生年金病院産婦人科部長・
らに子どもの健全な成長には養親と養子の心理的安定が重要だという観点から、
東京大学講師)は、
「我々産婦人科医の立場としては、とにかく自分の子供は親
59 年の審議会が提示した法案の必要性が再認され、その正統性が強化された。
が望んで産むべきだというそういう根本原則があるわけですね。初めから要ら
その結果、制度の設計において実母のプライバシー保護の要請は受け入れられ
ない子供を産んで始末するというような考え自身がおかしいと思う」(中川・
ず、また人身売買を防止する斡旋に関する法規などは組み込まれず、59 年に
野田・松山ほか 1973)と述べている。
設計されたものが新制度として実現した。
また、医師の高世幸弘は、実母のプライバシー保護について「国家が戸籍で
87 年の特別養子制度成立においては、新しい養子制度への期待と、この制
出産していないと保証して将来の善良な夫をだます手伝いをすることになる」
度の目的と構造の三つが一致しない状態で、特別養子制度が成立してしまった
と強く反対した(『朝日新聞』1985.12.3)。これへの反論として菊田医師(1986)
といえる。特別養子制度は児童福祉を目的に掲げているが、虚偽の出生届の抑
は、女性を妊娠させた男性の戸籍には何も記載が残っていないという非対称性
00立命館本文no.10.indd 52-53
09.12.17 3:08:47 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
54
55
を指摘している。これは女性の身体の経歴を戸籍によって保証、公示すること
き記載をすることにしておけばよい」と言明した。実母のプライバシー保護を
には、
「子どもは産んだ母親が育てるべきであり、育てられない子どもを産む
論点として注目しつつも懐疑的あるいは慎重な見解が多くみられたなかで、山
べきではない」という規範とは別の次元の問題があることを示している。例え
本は菊田の立場にもっとも近い法学者であった。菊田は実子特例法の私案のな
ば、菊田を擁護した法学者の中川高男の私案でさえ、実母に出生届を出させて
かで、実母の出産事実が記載された出生証明書の保管と養親の名が記載され
出産・縁組記録を戸籍に載せたあとに、プライバシー保護のための戸籍の特別
た出生届の受理という「入籍前の養子縁組」が認められるよう求めていた(菊
再製を縁組手続きのオプションとして提示することが限界であった。その根拠
田 1979)
。山本のいうように、子どもが出自を知りたい際のアクセスが戸籍で
は、
「子を育てることは、人間として当然の義務であり、またそれが社会に対
公示される必要はなく、出生証明書の保管で十分であった。現在でも出生証明
する義務や権利でもあるから」というものにくわえて、「子を産んだという厳
書の添付された届出は、受理後 27 年間保存されており(戸籍法施行規則 49 条 2
粛な事実は人間として否定されるべきではないから」女性の戸籍に記載すると
項)、必要であればこれの期間を伸長するだけでよいのだが、この案が制度成
いうものである(中川 1986)。しかし、こうして女性の生殖が戸籍によって厳
立時に検討、採用されることはなかった。
格に管理される一方で、非配偶者間人工授精(AID)児の父親であるドナーが
特別養子制度をめぐる現在の議論では、実母のプライバシーの必要性は十分
戸籍に記載されないことは実質不問にされており、戸籍をめぐるダブル・スタ
認識されており、重要な課題として挙げられている。しかしながら、
「ゆりか
ンダードとなっていた。
ご」をめぐる議論において特別養子制度に期待されることは、
「ゆりかご」に
実母の戸籍の特別措置については、立法過程で多くの法学者、立案者が論外
預けられる子どもを対象にした児童福祉しての機能にとどまることが多い。現
としたが、
中川以外にも関心を示した何人かは私見を述べている。米倉(1987)
在の日本では、特別養子制度に残る未婚母差別をなくし、思わぬ妊娠をした女
は、同措置は将来的に未成年者や性犯罪被害者に適用の必要があると示唆した
性が「ゆりかご」のオータナティブとして現実的に利用可能な養子制度を作る
が、未婚母一般を対象とすることに関してはなお調査、検討を要するとした。
ことが先決である。
(4)
特別措置の具体的な方法として、オリジナルの帳簿に出産の事実を記載して表
向きの帳簿には記載せず、しかし両者をしかるべく連結させた二重帳簿制を米
おわりに──「こうのとりのゆりかご」のまえにできること
倉は支持した。また、児童福祉司の鈴木政夫(1987)からは、思わぬ妊娠をし
た女性への支援は戸籍の問題ではなく、社会福祉の機能に期待されるべきとい
親が匿名で子どもの親権を放棄できる制度は、嬰児殺の防止のための最後の
う見解が示された。そのなかで鈴木は、子どもの出自を知る権利を実母がもつ
手段である。しかし、妊産婦の身体的な危険および精神的な負担が大きく、そ
戸籍特別措置の希望に優先させ、
「妊娠に到る経過の中で、他の道を選択でき
して子どもの出自を知る権利は保証されないという問題がある。それでもなお
る可能性があった場合に、
「未婚の母として戸籍をよごしたくない」という希
このようなシステムが必要になる状況が生じているのであれば、それが利用さ
望をそのまま社会的制度としていいかどうかは疑問」であると述べ、また戸籍
れないように対策を講じていく必要がある。本稿では、
「ゆりかご」を手がか
の特別措置は実母の「混乱した精神状態下での即自的願望」であると解釈した。
りに、日本における婚外子・未婚母をめぐる問題を検討した。それは「ゆりか
実母の戸籍特別措置に反対する根拠としてしばしば「子の出自を知る権利」
ご」とドイツの Babyklappe、アメリカの Safe Haven laws がもつ社会的背景
が持ち出されていたが、山本正憲(1986)は「養子のルーツ探しという避けて
と比較することでより明確になった。Babyklappe を抱えるドイツ社会が移民
通れない厄介な問題は、戸籍にではなく、出生届、殊に出生証明書にしかるべ
問題を認識し、Safe Haven laws を有するアメリカ社会が中絶問題と向き合う
00立命館本文no.10.indd 54-55
09.12.17 3:08:47 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
56
57
ように、日本社会も未婚母・婚外子をめぐる問題を女性の身体や子どもの生命
どに関して日本社会がまだ多くの課題を抱えていることを示している。こうい
というレベルから真剣に考えていかなければならない。
った「ゆりかご」の周辺にある諸問題を考えたうえで、
「ゆりかご」を要請し
「ゆりかご」の周辺にある諸制度が改善、整備されることによって回避でき
た社会的課題が何なのか確認してはじめて「ゆりかご」の是非に関する議論が
る子捨て・子殺しがある。
「ゆりかご」の是非を論じる前にできることは、ま
できるだろう。
ず、シングルマザー・シングルファーザーという生き方を社会のなかで確立さ
せ、支援することである。そして、思わぬ妊娠をした女性たちが中絶かシング
ルマザーかという二択にせまられることなく、養子縁組を利用できるように養
◆註
子制度を改善することである。養子縁組は、「ゆりかご」や匿名出産では保証
(1)オープンアダプションとは実父母と養親家庭の間に何らかのコ
できない、子どもが自分のルーツを辿る方法を残すことができる。またオープ
ミュニケーションがあり、その関係を維持する養子縁組のタイプを
ンアダプションの試みは、養子の苦悩だけでなく子を手放した後の女性たちが
目指す。仲介者なしで実父母と養親家庭が直接会う、または電話を
抱える不安を和らげることにもつながるため、実母のプライバシー保護ととも
するなどオープン度の高いケースから、ソーシャル・ワーカーを通
に今後の日本の養子制度の課題となるだろう。
して手紙や写真の交換をするなどの比較的オープン度の低いケース
また、日本でも不法滞在者や麻薬常習者、DV や犯罪の被害者などさまざま
がある。オープンアダプションは子どもの利益のために推奨され、
な事情を抱えた人がおり、女性の身体は妊娠をしてしまう。どのように法制度
現在ではカリフォルニア州などで法律化されている(桐野 2000)
。
を整備しても、窮地の母子が陥る痛ましい事件がなくなることはないかもしれ
(2)特別養子縁組では実親子の法的関係が終了し、養親子の離縁は
ない。そのときは、
「ゆりかご」ではなくて、年長児の育児放棄の受け皿とな
原則認められず、戸籍の記載が実親子とほぼ同様になる。家庭裁判
らずかつ安全な出産を提供することができる「匿名出産」の発想が先にあって
所の審判で成立し、斡旋手続きは児童相談所を通じて行われる。
もよいとおもわれる。
本稿では論じなかったが、女性にとってもっとも確実な避妊法である「低用
(3)特別養子制度成立過程や法学者の議論の詳細に関しては、吉田
(2009)で論じている。
量避妊ピル」の利用が事実上制限されている日本の現状は問題である。どのよ
(4)AID は体外受精と異なって技術的に容易であるため、不妊治療
うな事情があったとしても、中絶や「ゆりかご」はその利用者が心から望んだ
の一つとして国内で 60 年近い歴史があり、1 万人以上が誕生して
選択とはいえない。欧米における避妊はピルが主流であり、また「中絶天国」
いるとされる。また、1978 年には世界初の「試験管ベビー」ルイー
と称されるほどに日本の中絶件数が多いことは知られている。この問題は現在
ズ・ブラウンが英国で生まれ、日本でも 1983 年に東北大付属病院
ノーグレン(2001 = 2008)などによって論じられており、今後ますます重要
で初の体外受精児が誕生しており、生殖補助技術への関心は高まっ
な課題となるだろう。ピルの入手を容易にすることも「ゆりかご」を設置する
ていたと考えられる。山本(1986)では AID 児をめぐる法的な問
まえにできることの一つであり、ピルの安全性に関する情報提供や入手方法の
題も言及されている。
簡易化を行うことによって、女性が思わぬ妊娠をして窮地に陥ることをいくら
か回避することができるはずだ。
◆文献
未婚母や婚外子をめぐる問題は、避妊・中絶・シングルマザー・養子縁組な
Bazar, Emilly and Wendy Koch, 2008,“Nebraska’s‘safe haven’
00立命館本文no.10.indd 56-57
09.12.17 3:08:47 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
58
session starts: Many are split over setting age limit for law,”USA
today, November 14, 2008.
Child welfare information gateway, 2007, “Infant Safe Haven
Lingle, Linda, 2003,“Statement of Objects to House Bill No. 133”(http://
www.americanadoptioncongress.org).
松村たつえ,2004,
「児童扶養手当制度と非婚の母と子への差別」婚
Laws: Summary of State Laws”(http://www.childwelfare.
差会『非婚の親と婚外子──差別なき明日に向かって』青木書店 .
gov/systemwide/laws_policies/statutes/safehavenall.pdf, September
中川高男,1986,
「基本的に賛成、ぜひ実現を」
『新しい家族』8: 18-47.
06, 2009)
中川高男・野田愛子・松山栄吉・原秀男・石川利夫・阿川清道・内藤
Coodley, Lauren, 2009,“Nebraska Safe Haven Laws: A feminist
Historical Analysis,”Pediatric Nursing, 35(1): 60-63.
Goodman, Roger, 2000, Children of the Japanese State: The Changing
頼博,1973,
「
(座談会)実子特例法について」
『法の支配』26: 3-40.
西希代子,2001,
「母子関係成立に関する一考察──フランスにおけ
る匿名出産を手がかりとして」
『本郷法政研究』10: 397-431.
Role of Child Protection Institutions in Contemporary Japan,
Norgren, T., 2001, Abortion Before Birth Control: The Politics of
Oxford University Press.(= 2006,津崎哲雄訳『日本の児童養護─
Reproduction in Postwar Japan, Princeton University Press.
─児童養護学への招待』明石書店)
(=2008,岩本美砂子監訳『中絶と避妊の政治学──戦後日本のリ
蓮田太二,2007,
「
“こうのとりのゆりかご”設立にあたって」
(http://
www.jikei-hp.or.jp/yurikago/1-1.html,2009.9.06).
幡研一,2003,
「10 代の人工妊娠中絶についてのアンケート結果から」
(http:// www.jaog.or.jp/japanese/MEMBERS/TANPA/H15/030217.
htm,2009.09.06).
法務省民事局,1959,
「民法親族編の改正について」
『法律時報』31(9):
987-992.
菊田昇,1986,
「出産・養子縁組のプライバシー保護は特別養子の必
須条件」
『新しい家族』8: 24-27.
────,1979,
『天使よ大空へ翔べ──一産婦人科医の闘い』恒友
出版 .
菊池緑,1998,
「特別養子制度と戸籍」榊原富士子編『子どもの人権
双書 10 戸籍制度と子どもたち』明石書店 .
桐野由美子,2000,
「法律化されたアメリカのオープンアダプション」
『京都ノートルダム女子大学研究紀要』30 : 77-91.
熊本県少子化対策課,2008,
「
「こうのとりのゆりかご」検証会議「検
証結果の中間とりまとめ」について(要約)
」.
00立命館本文no.10.indd 58-59
59
プロダクション政策』青木書店 .)
荻野美穂,2001,
『中絶論争とアメリカ社会──身体をめぐる戦争』
岩波書店 .
大木季子,2004,
「日本の婚外子と非婚の親の明日に向かって」婚差
会『非婚の親と婚外子──差別なき明日に向かって』青木書店 .
落美都里,2008,
「子どもの将来から見る「赤ちゃんポスト」──ド
イツの現状と比較して」
『レファレンス』6 : 53-72.
Pertman, Adam and Georgia Deoudes, 2008,“Comment: Evan B.
Donaldson Adopton Institute Response,”Child Maltreatment, 13(1):
98-100.
最高裁判所事務局,
『司法統計年報・家事編』.
阪本恭子,2008,
「ドイツと日本における「赤ちゃんポスト」の現状
と課題」
『医学哲学 医学倫理』26: 21-29.
坂本洋子,2008,
『法に退けられる子どもたち 岩波ブックレット
792』岩波書店 .
佐藤文明,1984,
『戸籍がつくる差別』現代書館 .
佐藤隆夫,2004,
「人とは何か──ドイツのベビークラッペンと匿名
09.12.17 3:08:47 PM
「こうのとりのゆりかご」と未婚母・婚外子
60
出産」
『戸籍時報』577: 78-83.
Sanger, Carol, 2006,“Infant Safe Haven Laws: Legislating in the
Culture of Life,”Columbia Law Review, 106(4): 753-829.
鈴木博人,1998,
「福祉制度としての養子制度」
『法学新報』104(8・9):
371-422.
高橋由紀子,2001,
「ドイツの未成年養子制度」湯沢雍彦監修・養子
と里親を考える会『養子と里親』日本加除出版 .
61
────,2004,
「スウェーデンの婚外子と婚姻制度」婚差会『非婚
の親と婚外子──差別なき明日に向かって』青木書店 .
湯沢雍彦編,2007,
『要保護児童養子斡旋の国際比較』日本加除出版 .
湯沢雍彦監修・養子と里親を考える会,2001,
『養子と里親──日本・
外国の未成年養子制度と斡旋問題』日本加除出版 .
我妻栄・中川善之助・奥野健一・小澤文雄・村上朝一・唄孝一,1959,
「
(座談会)親族法の改正」
『法律時報』31(11): 1245-1276.
────,2007,
「ドイツの養子縁組斡旋制度──現実の問題に追い
つこうとする法の努力」湯沢雍彦編『養子斡旋の国際比較』日本加
除出版 .
高倉正樹,2006,
『赤ちゃんの値段』講談社 .
Tenbo, Margaret Graham, 2001,“Taxas Idea Takes off: States look safe
haven laws as a protection for abandoned infants,”ABA Journal,
September 2001: 30.
山本正憲,1986,
「特別養子と戸籍──生まれながらの特別養子と
は?」
『新しい家族』8: 45-47.
米倉明,1986a,
「わかっちゃいない議論──養育という原点に立って
考える必要性」
『養護施設 40 年 原点と方向をさぐる』全養協(再
録:1998,
『特別養子制度の研究』新青出版 , 181-230).
────,1986b,
「特別養子制度における議論の仕方について──議
論の観点をシフトさせる必要、未婚の母の戸籍上の処遇についての
考え方」
『新しい家族』8 : 51-58.
────,1987,
「特別養子の成立をどう受け止めるべきか(上・中・
下)
」
『ジュリスト』894 : 54-61, 895: 86-94, 896: 90-97.
吉田一史美,2009,
「特別養子制度の成立過程──福祉制度の要請と
特別養子制度の設計」
『立命館人間科学研究』19(発行予定).
善積京子,1992,
「婚外出生と身分登録制度──日本・スウェーデン・
アメリカの三国比較」善積京子編『非婚を生きたい──婚外子の差
別を問う』青木書店 .
00立命館本文no.10.indd 60-61
09.12.17 3:08:48 PM