メディアを活用した情報の表現力の育成

メディアを活用した情報の表現力の育成
−ビデオクリップ簡易作成ツール「かめぞうくん」を活用した
草花たんけん隊の交流学習を通して−
研究の概要
インターネットを活用したメールや電子掲示板などテキストのみによるコミュニケーションでは,
匿名性や無責任性,即時性や公開性等の特性により,互いに誤解を招いてトラブルになる問題が起こ
っている。そこで,タブレットPC画面上で直感的に操作し,相手の表情や感情などを伝え合うのに
有効なメディアの一つであるビデオクリップを撮影・閲覧できるツールを活用して作成し,電子掲示
板上で交流学習を行いながら,情報の表現力を育成する研究を行った。その結果,授業実践の前後を
比較すると,交流のためのメッセージのうち,意図の情報に関する語彙数が有意に上昇し,30 秒程度
の短いビデオクリップで個人の考えや思い,さらに表情や感情等の意図の情報をコミュニケーション
に取り入れるよう促す指導は,事実の情報と意図の情報を織り交ぜた豊かな表現力を高めることに有
効であることが検証された。
[キーワード] メディア 情報 表現力 ビデオクリップ 事実の情報 意図の情報
1
はじめに
分かった喜び等の意図を持って伝えた主観的な情
インターネットの普及に伴い,学校教育でも情
報(以下「意図の情報」)を 30 秒程度の短いビデオ
報を発信する手段と機会は増大しており,情報受
クリップで作成して,電子掲示板で交流学習を行
信型学力から情報発信型学力へと学力観の転換が
う。このビデオクリップでは,意図の情報のうち,
指摘され,分かりやすく伝えることができる豊か
テキストでは表現しにくい表情や感情等の情報を
な表現力や表現技能の育成が求められている
1)。
強調して作成するよう指導する。このことにより,
こうした中,メールや電子掲示板等時間差のある
児童はコミュニケーションの相手と心が通い合っ
非同期のコミュニケーションにより,異地域・多
た実感や,心地よさの体験を積み重ねて,事実の
地点での交流学習を促進する可能性が広がった。
情報だけでなく,意図の情報を織り交ぜた豊かな
ところが,これらのコミュニケーションの多く
表現力を高めることができると考えた。
は,非対面によるテキストが中心であり,匿名性
や無責任性,即時性や公開性等の特性により,誹
2
昨年度までの取り組み
謗中傷等の人権侵害や,他人の生命を脅かす深刻
図1は,岡山大学教育学部附属小学校,総社市
な状況に陥るといった問題が顕在化している。と
立総社東小学校と動植物研究家・写真家(岡山の
りわけ,表現力の未発達な段階にある児童が,非
自然を学ぶ会)が,電子掲示板を介して交流学習
対面によるテキストのみでコミュニケーションを
行うことは,キーボードでの入力に戸惑うだけで
なく,十分な意志疎通が図りにくいといった問題
があり,活用に際して慎重を期す必要がある。
そこで,本研究では,非同期のコミュニケーシ
ョンである電子掲示板において,テキストに加え
てビデオクリップを付加することで,テキストの
みの場合より意志疎通を進展させて,豊かな表現
力や表現技能の育成を行うことを目的とする。
具体的には,観察を行って得た客観的な事実の
情報(以下「事実の情報」)と,個人の考えや感想,
図1
電子掲示板での交流イメージ
を行う様子を表したものである。平成 16 年2月に,
そこで,本研究では,児童がビデオクリップ作
小学校第4学年理科の「四季の移り変わりと植物
成,修正に集中できるよう,小学校中低学年でも,
の成長」の「冬になると」という単元において,
手軽で直感的な撮影と,撮影ファイルのサムネイ
草本が冬越しをする様子(ロゼット)を,異地域
ル化による一覧表示でプレビューができるインタ
・多地点で観察した結果を電子掲示板で情報交換
ーフェイスを開発して研究を深めることとした。
する交流学習を実践した。この学習では,冬越し
する草本の様子を野外観察して,命をつなぐ仕組
3
みを理解したり,異地域間で情報交換することで,
(1) 研究仮説
環境との類似点・相違点に気付いたりして,自然
に親しむ態度を育てるものである。
異地域・多地点での情報交換や交流では,非同
期のコミュニケーションである電子掲示板を活用
研究の方法
本研究で取り組む情報の表現力とは,ビデオカ
メラの前で分かりやすく話す能力に加えて,事実
の情報だけでなく意図の情報を織り交ぜた豊かな
表現を行う能力と定義する。
している。この掲示板での情報のやりとりは,観
30 秒程度の短いビデオクリップを中心とした電
察等の事実の情報に加えて,発見した喜びや感想
子掲示板による交流学習では,次の①,②の指導
等の意図の情報を織りまぜて学習を促進しようと
を行うと,情報の表現力を高めることに有効であ
した。特に意図の情報では,30 秒程度のビデオク
るという研究仮説をたてて実証授業を行う。
リップを作成して掲示板に添付した。
①
ビデオクリップの絵コンテ作成では,観察し
授業実践後の児童の反応は,「私はそんなに観察
た植物の特徴等の事実の情報と,個人の考えや
は得意じゃないし,草花のことも知らなかったけ
思い,さらに表情や感情等の意図の情報をコミ
ど,いろんな草花の特徴,よく生えている場所な
ュニケーションに取り入れるよう促す。
どが分かりました。前よりもより大きなかかわり
②
撮影したビデオクリップは,10 個のチェック
を持つことができるようになったと思います。」,
リストで,自己と他者評価活動を行って改善点
「わたしはいろんなロゼットに『おはよう○○さ
を指摘し合うと共に,交流相手からの評価もビ
ん』といいました。そしたらロゼットから『おは
デオクリップに盛り込む。
よう』と聞こえてくるような気がしました。」等,
(2) 情報の表現力育成の手だて
身近な草花に対する親しみが増した様子が伺えた。
ア
掲示板のテキスト
また,ビデオクリップを作成して掲示板で交流
ビデオクリップ付掲示板「むーびぃぼーど」で
を繰り返した児童は,「ロゼット探しをしてから他
は,テキストと静止画を使って,いつ,どこで,
の学校とも仲良くなれて本当によかった。」
,「私は
何を観察して,分かったことや特徴等,観察して
いつもパソコンのむこうにいた内山さん(植物写
得た事実の情報を中心に短くまとめるよう指導し
真家)と仲良くなれてうれしかったです。」という
た。図2は下書きの用紙である。
感想を抱いていた。
従来の電子掲示板では,テキストが中心であり,
児童の思いを十分に表現して相手に伝えるには限
界があったが,ビデオクリップ付きの電子掲示板
で,交流相手と意志の疎通があったと実感できた
ことが成果であった。一方,ビデオクリップを撮
影編集する過程では,コンピュータへのキャプチ
ャー・編集といった作業が繁雑であり,指導者が
行わざるを得なかった。指導者が一つの班を撮影
している間,複数の班は撮影の順番を待つ状況で
あったため,ビデオクリップの取り直しは一班に
つき数回しかできず,作品の吟味と修正が不十分
であるという課題が残った。
図2 掲示板の下書きシート
イ
ビデオクリップ
て,情報の行き来を活性化した。
撮影したビデオクリップは,図5,6のように,
評価シート「○○さん(受け手)になりきってよ
いところを見付けよう!」を活用して,自己評価,
他者評価活動を行い,修正改善を促した。また,
交流相手からの返信ビデオクリップにも,よく伝
わった点と改善点を指摘していただいた。
(3) 研究の評価
図5 6班の自己評価
図3 児童の絵コンテの例
30 秒程度のビデオクリップ作成では,絵コンテ
を作る際に,観察して分かった事実の情報に加え
て,そのときの感動や不思議に感じたことなどの
意図の情報をまとめるよう指導した。図3は児童
の絵コンテの例である。
図6 6班への他者評価
撮影の際には,カメラの向こうの交流相手にア
イコンタクト,大
情報の表現力が育成されたかどうか検証するた
きな声ではっき
めに,次のような質問紙と調査問題を実証授業の
り,笑顔等の留意
事前事後に,総社市立総社東小学校第4学年 47 名
点を,図4のチェ
に実施し,37 件の有効回答を得た。
ックリストで意識
事前調査は平成 16 年 12 月1日に,事後調査は
化した。特に返信
平成 17 年1月 19 日に実施した。
のためのビデオク
次に,調査問題を示す。
リップ作成では,
ア
ビデオクリップ作成状況の意識調査
相手のビデオやメ
ビデオクリップを作成する際のアイコンタクト
ールを見て何を受
や笑顔,内容のメモ等の状況を5件法で調査し,
け止め,どう感じ
事前事後での学習者の意識の変容を調べる。次
たかという「お返
し情報」を必ず盛
り込むよう指導し
図4 チェックリスト
「ビデオで伝え合えるかな」
は,質問内容である。
①
ビデオカメラに向かって話すとき,「だれからだれ
へ」と話すことができるよ。
②
ビデオカメラに向かって話すとき,相手の人を想像
して話すことができるよ。
③
ビデオカメラに向かって話すとき,マイクで録音で
ウ
調べたことをまとめる際の意識調査
調べたことをまとめる際の意識を5件法で調査
し,事前事後での学習者の意識の変容を調べる。
①
きるよう大きな声で話すことができるよ。
⑥
ビデオカメラに向かって話すとき,笑顔で話すこと
ビデオカメラに向かって話すとき,ていねいな言葉
②
ビデオカメラに向かって話すとき,ゆっくり話すこ
③
ビデオカメラに向かって話すとき,「伝えたいこと
④
ビデオカメラに向かって話すとき,「このように考
ビデオカメラに向かって話すとき,「このように感
じました」と自分の気持ちを話すことができるよ。
⑫
ビデオカメラに向かって話すとき,話すことをメモ
しておくよ。
⑬
エ
⑭
野外での観察では,草本のロゼットの様子をデ
①
②
③
①
④
②
⑤
③
コンピュータに文字を入力するのは苦手だなあ。
④
コンピュータに文字を入力するとき,文字の大きさ
はちょうどいいか気を付けることができるよ。
⑤
コンピュータに文字を入力するとき,文字の色は見
デジカメで写真をとるとき,ちょうどいい大きさを
考えることができるよ。
⑥
デジカメで写真をとるとき,写したものの大きさが
分かるようにできるよ。
⑦
デジカメで写真をとるとき,斜めにならないよう気
を付けることができるよ。
⑧
デジカメで写真をとるとき,逆光になってないか気
を付けることができるよ。
⑨
デジカメで写真をとるとき,ピントを合わせること
ができるよ。
コンピュータに文字を入力するとき,何も見なくて
もローマ字入力できるよ。
デジカメで写真をとるとき,写す角度を考えること
ができるよ。
コンピュータに文字を入力するとき,ローマ字表を
見ればローマ字入力できるよ。
デジカメで写真をとるとき,写すはんいを考えるこ
とができるよ。
夫等の状況を5件法で調査し,事前事後での学習
者の意識の変容を調べる。
デジカメで写真をとるとき,何を写したら伝えたい
ことがはっきりするか考えることができるよ。
電子掲示板へのテキスト入力状況の意識調査
電子掲示板にテキストを入力する際の技能や工
写真を見せるとき伝えたい部分を大きくして見ても
らうよ。
ビデオをとるとき,「逆光になっていないか」と気
を付けることができるよ。
イ
意識の変容を調べる。
ビデオをとるとき,「斜めになっていないか」と気
を付けることができるよ。
⑰
の状況を5件法で調査し,事前事後での学習者の
ビデオをとるとき,「写すはんいはこれでいいか」
と気を付けることができるよ。
⑯
ジカメで記録する学習活動がある。デジカメ撮影
ビデオカメラに向かって話すとき,「ここをこう直
したらいいよ」とアドバイスできるよ。
⑮
デジカメ撮影の意識調査
ビデオカメラに向かって話すとき,話す順番をメモ
しておくよ。
調べたことをまとめるとき,自分の感じたことを書
くのを忘れないよ。
えます」と自分の考えを話すことができるよ。
⑪
調べたことをまとめるとき,調べて分かったことを
書くのを忘れないよ。
⑤
はこれ!」と意識して話すことができるよ。
⑩
調べたことをまとめるとき,どこで調べたかを書く
のを忘れないよ。
とができるよ。
⑨
調べたことをまとめるとき,だれが調べたかを書く
のを忘れないよ。
で話すことができるよ。
⑧
調べたことをまとめるとき,いつ調べたかを書くの
を忘れないよ。
ができるよ。
⑦
コンピュータに文字を入力した後,入力文字にまち
がいはないか見直すよ。
ビデオカメラに向かって話すとき,カメラを見て話
すことができるよ。
⑤
⑥
ビデオカメラに向かってスケッチや写真を見せると
き,伝えたい部分を大きく見せるよ。
④
やすいか気を付けることができるよ。
⑩
デジカメで写真をとるとき,手ぶれしないよう気を
付けることができるよ。
オ
ビデオカメラの前で話す際の留意点
ビデオカメラの前で話す際の留意点を指摘する
問題を作成し,事前事後の変化を調べる(図7)。
右の絵は,伝えたいことをビ
ビデオをとる
写真をとる
デオでさつえいしているよう
す。ビデオカメラの前でお話
しするとき,気を付けること
を思い付くだけぜんぶ書きま
しょう。(3分間)
図7
撮影される際の留意点を指摘する問題
プレビュー
えいぞうをみる
カ
絵コンテ調査問題
ビデオや写真のほぞん場所
うつしたビデオや写真をけすボタン
図9 ビデオクリップ簡易作成ツール
(2) ビデオクリップ付電子掲示板
図 10 は,ビデオクリップを添付できる電子掲示
板「むーびぃぼーど」の機能を児童用に解説した
図である。異地域,多地点での交流学習は,この
ビデオクリップ付掲示板「むーびぃぼーど」を構
築して活用した。なお,肖像権を保護するため,
掲示板にはID,パスワードを設置し,交流学習
図8
絵コンテ調査問題
の学校のみが閲覧できるように配慮した。
図8は,理科の授業で学習したヘチマの様子を,
ビデオを撮影して伝える場合の絵コンテ調査問題
である。この調査を事前事後で実施し,意図の情
報の量的変化を調べる。
4
開発,活用した環境
(1) ビデオクリップ簡易作成ツール
学習者が,短時間のうちに効率的に交流用メッ
セージをビデオクリップに作成,修正して練り上
げていくことができるよう,手軽で直感的に撮影
・再生できる機能に追加して,撮影ファイルのサ
ムネイル化による一覧表示機能を設けた。
図9は,ビデオクリップ簡易作成ツール「かめ
ぞうくん」のインターフェイスを示したものであ
図10 ビデオクリップ付電子掲示板
る。画面の左に,ビデオ撮影の開始「うつす」と
停止「おわる」のボタンを,また,画面の右側に
写真撮影の「うつす」ボタンを配置した。画面の
5
下側には,撮影済みのビデオと写真をサムネイル
(1) 「たねたんけん隊」,「ロゼットたんけん隊」
表示し,クリックすると画面中央で再生(プレビ
交流学習
ュー)する。
実証授業
岡山の自然を学ぶ会所属の植物専門家や写真家
が,小学校第4学年に向けて募集する「たねたん
けん隊」,「ロゼットたんけん隊」では,参加校と
(3) 第5単元第3次「たねたんけん隊」授業概要
の相互の情報交換を3∼4名の班ごとに,ビデオ
【学習目標】
クリップを添付した電子掲示板を活用して行う。
理科
身近な植物のディジタルコンテンツ「草
本研究でも,平成 15 年度の実践と同じく岡山の自
花たんけん隊」の写真家内山氏の草花のたねたん
然を学ぶ会と総社市立総社東小学校,岡山大学教
けん隊員募集の呼びかけを視聴し,たねを観察し
育学部附属小学校の第4学年が交流しながら学習
てつくりと散布のしかたを例を挙げて説明できる。
総合
を深めた。
(2) 第4学年理科の単元計画
草花のたねを採集してスケッチした図を
電子掲示板で送るためにカメラで撮影したり,植
第4学年理科の生物とその環境の領域では,「身
物写真家の方や交流相手へのメッセージをビデオ
近な動物や植物を探したり育てたりして,季節ご
カメラで撮影したりして,事実の情報と意図の情
との動物の活動や植物の成長を調べ,それらの活
報を伝え合うことができる。
動や成長と季節とのかかわりについての考えをも
「 草 花 た ん け ん 隊 」
つようにする。」2)
http://www2.jyose.pref.okayama.jp/e2a/kusabana/index.asp
と小学校学習指導要領解説理
科編で示されている。本研究では,生物とその環
境の領域のうち,第5単元「すずしくなると」及び
【学習活動】
第9単元「寒くなると」の発展的課題として「たね
① 導入
たんけん隊」,「ロゼットたんけん隊」を次のように
図 11 は,草花のた
位置付けた。なお第2,4,6,7,8,10 単元
ねを観察する学習の動
は,物質とエネルギー,地球と宇宙の内容である
機付けを目的に,たね
ため省略した。
たんけん隊募集のビデ
第1単元
あたたかくなると
第3単元
暑くなると
第5単元
すずしくなると
図11 たんけん隊募集
オクリップを視聴している様子である。図 12 は,
そのトップ画面である。「たねのたんけん隊員を募
第1次
ヘチマをサクラとくらべよう
第2次
こん虫の活動の様子をしらべよう
第3次
「たねたんけん隊」(理科,総合)
1
たねたんけん隊(理科1)
2
たねのつくりと運ばれ方(理科2)
3
情報交換,交流(理科1,総合6)
4
デジカメ撮影による表現(総合3)
第9単元
集しとるでぇ。おじさんにおしえてぇな,待っと
るよお。」とメッセージを送る内山氏(岡山の自然
を学ぶ会)のコンテンツを視聴すると,「もう一回
見たい!」,「内山さんは来てるの?」と児童から
声があがった 。「みんなもたんけん隊になってみ
る?」という先生の呼びかけに「なるなる!」と
興味関心が高まった様子が伺えた。
寒くなると
第1次
ヘチマとサクラをくらべよう
第2次
こん虫の活動の様子をしらべよう
第3次
「ロゼットたんけん隊」(理科,総合)
1
ロゼットたんけん隊(理科1)
2
ロゼットと分布(理科2)
3
情報交換,交流(理科1,総合6)
4
内山さんと草花撮影(総合2)
図12 草花のたねたんけん隊のトップ画面
② 草花のたね採集
学校の周辺で,班
ごとに草花のたねを
第 11 単元
生き物の1年をふりかえって
採集した。オオニシ
キソウ,オヒシバ,
※(
)内の数字は単位時間数
セイタカアワダチソ
図13 野外でたねの採集
ウ等,あらかじ
め作成した「草
花のたね図鑑」
をもとに熱心に
採集していた。
図 13 は,野外で
図17 電子掲示板「むーびぃーぼーど」に
たねの採集を行
ビデオクリップを掲示する様子
っている様子で
ある。また,図
図14 「草花のたね図鑑」
14 は,「草花のたね図鑑」の一部である。
③ スケッチ
採集してきた草花とそのたねを双眼実体顕微鏡
で観察して,形・大きさ・色・触った感じ等の特
徴を観察カードにスケッチした(図 15)。
図18 たねたんけん隊の掲示例
図15 双眼実体顕微鏡でスケッチする様子
⑥
電子掲示板「むーびぃーぼーど」で受信
内山氏からの返信内容は,内山氏がチェックリ
④ ビデオクリップ作成
内山氏に,たんけん隊になって発見した内容と
スト(図4)で評価した結果をテキストで掲示し
そのときの感動を伝えるため,班ごとに絵コンテ
た。また,ビデオクリップでは,児童のどのよう
を書いてビデオクリップにした(図 16)。
な気持ちが内山氏に伝わったかコメントしていた
撮影できたビデオクリップの修正は,チェック
リスト(図4)で確認しながら,自己評価と他の
だき,意図の表現を強化した。次に,内山氏の評
価コメントの例を示す。
班による他者評価活動を行って練り上げていった。
2班へのコメントの内容
修正回数は,1時間で 10 ∼ 20 回も行っていた。
「大きな声でききとりやすかったよ。ススキの種をふっ
とふくとどこまでとんでいくかな。やってみたらおもし
ろいよ。」
12 班へのコメントの内容
「目線がいいよ。せっかくかいたりっぱなスケッチをも
うちょっとはっきりみせて。」
図16 ビデオクリップ作成の様子
⑤
電子掲示板「むーびぃーぼーど」で発信
図 17 は,二人1組でワークシートに下書きした
全体へのコメント
「観察したときの様子や気持ちをていねいに話してくれ
ていてよく伝わりました。ありがとうございます。
後,電子掲示板「むーびぃーぼーど」にテキスト
植物の花,種,茎,葉をそれぞれの部分をスケッチした
・写真・メッセージのビデオクリップを掲示して
りデジカメでアップに写してくれると名前も分かりやす
いる様子である。テキストの部分は,観察して分
いので,ぜひ挑戦してみてください。」
かった事実の情報を中心に簡単に書くよう指導し
⑦
デジカメ写真による表現力
た。ローマ字を学習したばかりなので,ローマ字
⑥で示したように,内山氏からの評価コメント
変換表を確認しながら入力する児童も半数いた。
では,「伝えたい部分をアップに」とデジカメ撮影
図 18 は,たねたんけん隊の掲示例である。
技術の課題を提示された。そこで,伝えたいこと
を写真で表現するための学習を3時間行った。1
時間目には,「○○○な先生」の紹介という課題を
①
「だれからだれへ」と話すことができる。
提示した。児童は○○○の部分に,「やさしい」と
②
相手の人を想像して話すことができる。
か「おもしろい」とテーマを決めて撮影した。2
⑤
大きな声で話すことができる。
∼3時間目には,写真を紹介し合って伝えたいテ
⑦
ていねいな言葉で話すことができる。
ーマを表現できているか他者評価し合い,改善点
⑪
自分の気持ちを話すことができる。
を洗い出した上で再撮影に臨んだ。図 19 は,1回
⑫
話すことをメモしておく。
目に「明るい先生」をテーマに撮影した写真(左)
⑭
「こう直したらいいよ」とアドバイスできる。
と,評価後に「がんばりやな先生」というテーマ
⑮
「写すはんい」に気を付けることができる。
で再撮影した写真(右)を示したものである。再
⑰ 「逆光になっていないか」気を付けることができる。
撮影では,撮影の角度を変えることによってテー
表1
マを表現した写真に仕上がっている。
ビデオクリップ作成状況の意識調査
項目
このデジカメ撮影の学習では,ワイドやアップ,
平均値
前
後
標準偏差
前
t値
後
角度等によって伝わる印象が異なることを発見学
① 誰へ
3.59 4.84 0.832 0.374 8.763
習して,撮影技術を
② 想像
3.68 4.30 0.944 0.740 3.556
高めると共に,情報
⑤ 大きな声
3.81 4.49 1.101 0.804 3.894
の発信には,発信者
⑦ ていねい
4.14 4.78 0.855 0.534 4.789
の意図があることを
⑪ 気持ち
3.54 4.24 0.931 0.983 3.499
理解させ,第9単元
⑫ メモ
3.92 4.70 1.038 0.661 4.750
第3次のロゼットた
⑭ ア ド バ イ ス 2.95 3.97 1.026 0.928 5.856
んけん隊でのロゼッ
ト撮影に生かした。
図19
1回目の写真(左)
と再撮影した写真(右)
6
⑮ 写す範囲
3.86 4.65 1.206 0.857 3.462
⑰ 逆光
3.32 4.32 1.355 1.056 3.891
標 本 数 37
結果
本研究での授業時間数は,第5単元第3次「た
イ
6項目のうち,事前事後で有意に上昇が見られ
ねたんけん隊」13 時間と,第9単元第3次「ロゼ
ットたんけん隊」12 時間の計 25 時間である。こ
電子掲示板へのテキスト入力の意識調査
た項目はなかった。
の中で,児童が班ごとに作成したビデオクリップ
電子掲示板への掲示では,テキスト入力を宛先
の数は,「たねたんけん隊」で4クリップ(内山氏
とタイトル等必要最小限にしたため,テキスト入
2クリップ,附属小2クリップ),「ロゼットたん
力の技術が身に付いたと感じる児童が少なかった
けん隊」で2クリップ(内山氏1クリップ,附属
と考えられる。
小1クリップ)の計6クリップである。特に内山
ウ
調べたことをまとめる際の意識調査
氏へのクリップ作りでは,自己評価活動と他の班
5項目のうち,次の3項目で,5%水準で有意
による他者評価活動に加えて,内山氏本人からの
に上昇が見られた。表2に標本数 37 の平均値,標
評価も行っていただき,情報の表現力の育成を行
準偏差,t値を示す。絵コンテを作る際に,いつ,
った。次のア∼カに,結果を述べる。
どこで,何を調べて,何が分かったかという事実
ア
の情報と,そのときの感動や驚き等,意図の情報
ビデオクリップ作成状況の意識調査
ビデオカメラで撮影する際の観点は,17 項目の
をまとめているかどうか繰り返し評価活動を行っ
うち,「誰から誰へ」,「相手を想像して」,「大きな
たため,「いつ」,「どこで」,「感じたこと」の意識
声」,
「丁寧な言葉」,
「自分の気持ち」,
「メモ」
,
「改
が高まったと考えられる。
善のアドバイス」,「写す範囲」,「逆光」の9項目
①
いつ調べたかを書くのを忘れない。
で,5%水準で有意に上昇が見られた。表1に標
③
どこで調べたかを書くのを忘れない。
本数 37 の平均値,標準偏差,t値を示す。
⑤
自分の感じたことを書くのを忘れない。
表2
14
調べたことをまとめる際の意識調査
項目
平均値
前
① いつ調べた
後
標準偏差
前
t値
3.24 4.03 0.983 1.013 4.117
度数
(人)
6
6
3
0
1
2
図 20
4
2
1
0
00
3
4
デジカメ撮影の意識調査
カ
6
6
3
2
に上昇が見られた。表3に標本数 37 の平均値,標
8
5
4
3.76 4.43 0.863 0.689 5.022
10 項目のうち,次の6項目で,5%水準で有意
9
8
標 本 数 37
エ
事前
事後
9
10
後
③ ど こ で 調 べ た 3.51 4.24 1.017 1.090 3.873
⑤ 感じたこと
13
12
2
2
1
5
6
7
8
9
留意点の個数(個)
1
1
10
11
0
12
ビデオカメラの前で話す際の留意点
絵コンテ調査問題
準偏差,t値を示す。デジカメでの撮影経験は,
こんにちは,おばさん,お元気ですか?前のかがやきの時間は
たねのスケッチで1時間,先生紹介で3時間,ロ
いろいろな事を教えてくださってありがとうございました。
ゼットで2時間の計6時間と豊富にあったため,
私はヘチマを育てました。ヘチマからとれるヘチマ水は美容に
児童は撮影技術に自信を持ったと考えられる。
よいそうです。ヘチマの葉は育てているとききゅうりみたいな
④
写す角度を考えることができる。
においがしました。花の色は黄色です。たわしもつくりました。
⑤
ちょうどいい大きさを考えることができる。
ヘチマがくさらないよう水をかえるのがとても大変でした。お
⑥
写したものの大きさが分かるようにできる。
ばさんもヘチマを育ててみたらどうですか。前のかがやきの時
⑧
逆光になってないか気を付けることができる。
間はほんとうにありがとうございました。また,いろんなこと
⑨
ピントを合わせることができる。
を教えてください。
⑩
手ぶれしないよう気を付けることができる。
表3
で囲んだ語彙は意図の表現を示す。図 21 は,意図
デジカメ撮影の意識調査
項目
平均値
標準偏差
前
前
後
t値
後
の表現の個数を調査して,その度数分布を事前,
事後で比較したものである。横軸は,文書中に表
現された意図の表現の個数,縦軸は度数(人)で
④ 写す角度
3.89 4.46 0.699 0.836 3.402
⑤ 適当な大きさ
4.03 4.70 0.799 0.618 4.651
⑥ 大きさわかる
3.38 4.08 0.982 0.829 3.712
⑧ 逆光
3.68 4.49 1.056 0.837 4.478
⑨ ピント
3.78 4.49 1.084 0.768 3.792
⑩ 手ぶれなし
4.19 4.70 0.995 0.571 3.071
標 本 数 37
オ
上記は,事後調査の絵コンテの例である。四角
ある。この図を見ると,事前より事後調査の方が,
意図の表現の個数が多くなっていることが分かる。
また,事前,事後でχ
図 20 は,ビデオカメラの前で話す際の留意点を
本数 46,自由度7,P値 0.0020,χ 2 値 28.23 と
なり,0.1 %有意水準で事前と事後は独立であっ
たことから,事前より事後の方が有意に上昇した
ては,意図の情報に関する能力を育成することに
有効であることが示された。
あげる調査問題の結果を,グラフにしたものであ
る。横軸は,児童があげた留意点の個数,縦軸は
2
検定を行っ
たところ,標本数 41,自由度9,P値 0.00004,
χ 2 値 35.83 となり,0.1 %有意水準で事前と事後
は独立であったことから,事前より事後の方が有
18
度 数 18
(人 ) 16
事前
14
事後
14
11
12
9
9
10
7
8
9
6
6
4
意に上昇したといえる。これにより,本研究の指
2
導の手だては,ビデオカメラの前で話す際の留意
0
1
0
0
1
2
3
4
1
0
5
00
6
0
7
1
0
1
8
意 図 の 表 現 の 個 数 (個 )
点を身に付けさせることに有効であることが示さ
れた。
検定を行ったところ,標
といえる。このことにより,本研究の指導の手だ
ビデオカメラの前で話す際の留意点
度数(人)である。事前,事後でχ
2
図 21
絵コンテ調査問題における意図の表現
7
おわりに
さらに,日頃の学級生活では級友と話をできな
総社市立総社東小学校では,実証授業を平成 16
い児童が,開発したビデオクリップ作成簡易ツー
年 12 月1日から平成 17 年1月 19 日にかけて,計
ル「かめぞうくん」の前では話すことができ,コ
25 時間実践した。また,交流相手の岡山大学教育
ミュニケーションの苦手な児童に対する支援の期
学部附属小学校では,平成 16 年 11 月5日から平
待も高まった。
成 17 年1月 14 日にかけて計8時間実践した。
児童が初めてビデオクリップを撮影したときに
は,意図の情報等の内容を伝えようとすると,ア
今後は,各教科特有の表現力や知識理解の向上
を目的とした活用や特別支援を要する児童への活
用等幅広く実践を深めていきたい。
イコンタクト,笑顔等の基本が不十分であったり,
本研究は,財団法人コンピュータ教育開発セン
また,基本に注意すると内容が不十分であったり
ター(CEC)のIT活用教育推進プロジェクト
という状況であった。しかし,教師の支援を得た
からの委託を受けて進めた。
り,他の班からの他者評価を行ったりしながら,
なお,研究協力委員として,授業設計・実践を
45 分の授業時間内に十数回撮影・修正を重ねて,
進めていただいた岡山大学教育学部附属小学校教
伝えたい事実の情報と意図の情報を整理してビデ
頭吉岡勉先生,総社市立総社東小学校教諭西澤摩
オクリップを作り上げていった。
利子先生,城井田成美先生並びに,ビデオクリッ
本研究における特徴的な指導は,30 秒程度の短
プでの返信に協力していただいた岡山の自然を学
いビデオクリップを作成・発信する過程で,個人
ぶ会会長内山峰人氏に感謝申し上げます。
の考えや思い,さらに表情や感情等の意図の情報
参考文献等
を強調したコミュニケーションを促すことである。
1)北尾倫彦:学習評価の改善,国立教育会館.50
また,撮影したビデオクリップを,10 個のチェッ
2)文部科学省:小学校学習指導要領解説理科編.31 頁
クリストで,自己と他者評価活動を行って改善点
研究協力委員
を指摘し合うと共に,交流相手からも同様の評価
吉岡
を盛り込んだことである。
西澤摩利子
総社市立総社東小学校教諭
城井田成美
総社市立総社東小学校講師
質問紙と評価問題による事前事後の調査結果か
ら,次の①∼⑤の成果が得られた。
①
勉
∼
59 頁
岡山大学教育学部附属小学校教頭
研究評価委員
ビデオカメラで撮影する際の観点は,17 項
近藤
勲
岡山大学教育学部教授
目のうち,
「誰から誰へ」,
「相手を想像して」,
平松
茂
岡山県教育庁指導課参事
「大きな声」,
「丁寧な言葉」,
「自分の気持ち」,
片岡正喜
総社市教育委員会学校教育課指導主幹
「メモ」,「改善のアドバイス」,「写す範囲」,
安田幸穂
総社市立総社東小学校校長
「逆光」の9項目で有意に上昇
平野和司
岡山大学教育学部附属小学校副校長
井本
岡山県小教研情報部会部会長
②
調べたことをまとめる際,
「いつ」,
「どこで」,
実
「感じたこと」の3観点で有意に上昇
③
デジカメ撮影では,「写す角度」
,「適度な大
(岡山市立宇野小学校校長)
竹井皓三
岡山県教育工学研究協議会会長
きさ」,「写したものの大きさ」,「逆光」,「ピ
ント」,「手ぶれ」の6観点で有意に上昇
④
ビデオカメラの前で話す際の留意点をあげ
る個数が有意に上昇
⑤
絵コンテの文章に表現された意図の表現の
個数が有意に上昇
以上のことより,本研究で実施した特徴的な指
導は,上記の①∼④よりビデオカメラやデジカメ
による撮影の観点を身に付け,⑤より意図の表現
力を高めることに有効であるといえる。
(倉敷市立中庄小学校校長)
研究協力企業等
株式会社リットシティ
株式会社富士通岡山システムエンジニアリング
岡山の自然を学ぶ会
なお,岡山県情報教育センターでは,次の者が
本研究に当たった。(◎は,研究主査)
岸
誠一
研修課課長
◎藤本義博
研修課指導主事
高橋伸明
研修課指導主事