[01]労働 CSR が組織コミットメントに 与える影響に関する理論的研究

【経営学論集第 86 集】院生セッション
[01]労働 CSR が組織コミットメントに
与える影響に関する理論的研究
関西大学
矢 野 良 太
【キーワード】労働 CSR(labor CSR),企業の社会的責任(corporate social responsibility),組織コミットメント
(organizational commitment),人的資源管理(human resource management),社会的に責任ある人的資源管理
(socially responsible human resource management)
【要約】本研究は,労働 CSR が組織コミットメントに与える影響を考察することで,企業による労働 CSR の取り
組みに対して労働者がどのような反応を示すのか明らかにすることを試みる試論的研究である。労働 CSR は人的資
源管理を社会的責任ある方法で行うことと言い換えられる。人的資源管理は組織コミットメントに影響する可能性
が高いといわれており,労働 CSR が人的資源管理のあり方を左右するのであれば,人的資源管理と同様に労働 CSR
が組織コミットメントを動かすということが考えられる。そこで本研究では,労働 CSR が人的資源管理として組織
コミットメントにどのように影響するか検討を行うことにより,この研究課題を明らかにすることを目指した。そ
の結果,本研究では,労働 CSR は労働者にとって誇りを感じられる人的資源管理となり,組織コミットメント,特
に情緒的コミットメントを高めるという結論に至った。
1.は じ め に
本研究は,労働 CSR が組織コミットメント(Organizational Commitment,以下,OC)に与える影響を考
察することで,企業による労働 CSR の取り組みに対して労働者がどのような反応を起こすかを明らかに
することを試みる,試論的研究である。
今日,大企業を中心に多くの会社が企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility,以下,CSR)に取
り組んでおり,その労働分野である労働 CSR への取り組みも多く行われている。労働 CSR は労働のあり
方を問う概念であると考えられる。企業が労働 CSR に取り組み,労働のあり方を問おうとしている以上,
労働者に何らかの影響が起こっているであろう。しかし,労働 CSR に関する研究の多くは法学の領域で
行われており,法令遵守との関係で扱われることは多いが,企業が労働 CSR に取り組むことで,その企
業で働く人々にどのような影響をもたらすのかはほとんど明らかにされていない。そこで本研究は,労働
者の反応を捉える概念として OC を用いて,労働 CSR が労働者にどのような影響を与えているのか明ら
かにすることを目標とする。
2.労働 CSR とは何か
まずは労働 CSR とは何か整理する。労働 CSR とは,CSR の労働分野(稲上 2007)であり,CSR の下
位概念である。CSR とは,
「法令遵守を徹底したうえで,それぞれの企業が経営活動において自主的に社
会に対する課題を考え,それに責任を持って取り組むと共に説明すること」
(矢野 2012,55 頁)と定義出
[01]-1
来る。
CSR に取り組むということは,経営活動に CSR を組み込むことと考えられている(谷本 2006;労働に
おける CSR のあり方に関する研究会 2004)。現に,CSR を経営の中核と考える経営者は 71%と非常に多い(経
済同友会 2014)。また,海野・谷本(2004)では,CSR を事業の中に組み込む考え方は欧米企業の間で増
えているといい,また,
「CSR の本質は,新しい市場社会の潮流を見据え,社会的公正性や環境・人権な
どの配慮を踏まえた基本的な価値観(コア・バリュー)をベースに事業を展開していくことである」
(海野・
谷本 2004,260 頁)ともいう。このように,CSR に取り組むには CSR を経営に組み込むことが必要であ
る。経営活動に CSR を組み込むには,CSR を企業経営全体で捉え(経済同友会 2003)て,企業経営すべ
てを問いなおすことが必要になる。すなわち,CSR は日常的な企業経営のあり方を問うもの(谷本 2006)
と考えられる。
CSR が日常的な企業経営全体を問うものであるならば,労働分野に関する CSR である労働 CSR に取
り組むということは,日常的な企業内での働かせ方と働き方である労働のあり方すべてを問うことになる。
ここでは,働かせ方である制度だけが変わっても実際に労働者の働き方が変わらないことにはその制度は
実態を伴わず,社会に対する影響に変化はないことに着目する必要がある。例えば,制度として長時間労
働の削減を目指す施策を導入したとしても,実際に労働時間が短縮されなければ,働かせ方は変えたが働
き方は変わっていないことになり,社会への影響は変わらず,社会に対して責任を果たせているとはいえ
ない。そこで,人が働く際に適用される制度である「働かせ方」とその制度の下での労働者らの実際の「働
き方」をまとめて「労働のあり方」と呼び,労働のあり方全体を労働 CSR が問うものとする。
CSR 報告書に書かれている労働 CSR に関する記載を分析した志野(2010)の研究によると,労働 CSR
として取り組んでいる項目として圧倒的に多いのは,人材育成とワーク・ライフ・バランスであった。そ
して,障がい者雇用,職場の安全,メンタルヘルスケア,女性へのキャリア支援と続く。また,労働 CSR
の取り組みの方向性を先行研究やガイドラインなどから整理すると,「私生活との両立が可能な環境の整
備」
,
「安心して働ける安全な環境の整備」
,
「企業における教育」
,
「公平な雇用・労働」,
「雇用の保障」と
まとめられる(矢野 2012)。このように,労働 CSR の取り組みは,労働のあり方に関連する多くの領域に
広がっている。
労働 CSR と同様に,こうした労働者,つまり人的資源を扱う概念として経営学には人的資源管理
(Human Resource Management,以下,HRM)がある。労働 CSR に取り組むことは,日常的に労働者を社
会的に責任ある方法で扱うことであることからすれば,労働 CSR に取り組むということは,社会的に責
任ある方法で HRM を行うことともいえる。そのため,第 6 節で取り上げるように,社会的に責任ある人
的資源管理(Socially Responsible Human Resource Management,以下,SR-HRM)という言葉を用いる論者
も見受けられるようになっている。
3.組織コミットメントを用いる理由
さて,冒頭でも述べたように,本研究では,労働 CSR に企業が取り組むことが労働者に与える影響を
明らかにするため,OC を用いる。本節ではその理由を提示する。前節で述べたように,労働 CSR に取
り組むということは,労働のあり方を問うことにつながり,それはすなわち,社会的に責任ある方法で
HRM を行うことといえる。そこで,労働者の反応を捉えるに際し,労働 CSR が HRM として労働者に
どう影響するかを考える。
「HRM 施策の評価を重視する」
(松山 2008,40 頁)といわれる Beer, et al.(1984)は,HRM の成果を
評価するのに適切な指標として,OC,労働者の能力,コスト,HRM と労働者の整合性の 4 つをあげて
いる。この 4 つの指標の中で,HRM としての労働 CSR がどう労働者に影響するかを捉えるのに適切な
のは OC だと考えられる。
人材育成が労働 CSR に含まれており,労働 CSR に取り組むことは労働者の能力形成にも貢献するとい
う考え方が成り立つとしても,それは労働 CSR の一部に過ぎず,能力だけで労働 CSR が労働者にもたら
す影響を包括的に測定するのは妥当ではない。また,労働 CSR は単に人的資源に関連するコストを削減
するためのものではなく,むしろ,人件費の膨張につながるものである(稲上 2007)とも指摘されており,
[01]-2
積極的に人的資源に投資を行いつつ得られる利益を高めようとするものであるとも考えられる。そのため,
コスト面で労働 CSR による成果を測るのは適切ではない。HRM と労働者の整合性に関しては,労働者
も労働 CSR に取り組む主体であるとともに取り組まれる側でもあるため,労働 CSR に取り組むには,労
働 CSR を踏まえた HRM と労働者の意識の整合性が重要になるだろう。経営の制度やシステムは,人の
内面,つまり精神を媒介にして影響を及ぼす(加護野 2010)ため,整合性がなければ,結局は実態のない
制度となってしまう。しかし,整合性が担保され,企業と労働者が一体となって労働 CSR の取り組みが
進んだとしても,その結果,労働者にどう影響したかを把握することは出来ない。
このように,OC 以外の尺度では,労働 CSR による労働者への影響を限定的にしか捉えることが出来
ない。しかし,OC は組織と人間の心理的距離を測る概念(田尾 1997)であり,離職の可能性や欠勤率,
職務成果などさまざまな職務態度を生む(Meyer and Allen 1997)。そのため,労働 CSR が制度として人の
精神をどう媒介して,結果としてどのような職務態度を生むかを把握することが出来る。つまり,OC は
労働 CSR による労働者への影響を包括的に見ることが出来る概念であると考えられる。実際,企業によ
る CSR の取り組みと労働者の職務態度の関係を調べた Peterson(2004)において,企業が CSR に取り
組むことによる職務態度への影響を測るのに OC が用いられている。そこで,労働 CSR による労働者へ
の影響を包括的に捉えるのであれば OC を用いるのが最も相応しいと考え,本研究では OC を用いる。
4.組織コミットメントの捉え方
OC は,「組織と人間の,いわば心理的な距離を測るために非常に使い勝手の良い概念」(田尾 1997,5
頁)である。もとは離職を減らす指標として見られていた OC だが,さまざまな職務態度も生む(Meyer and
Allen 1997)ため,それ以外の指標としても有益である(Allen and Meyer 1990)とみなされるようになり,
HRM の評価に用いる指標として適切である(Beer, et al. 1984)とも考えられている。
OC にはいくつかのモデルが存在するが,Meyer and Allen(1991)が示した 3 つの構成要素からなる
OC の概念が最も主流であると見られる。同構成要素を用いた Meyer and Allen(1997)に対して,鈴木
(2002)は「現在最も体系化された組織コミットメントのモデルと言うことができよう」
(21 頁)といい,
Shen and Zhu(2011)は Meyer and Allen(1991・1997)を支配的な OC の枠組みであるという。また,
CSR と OC の関係を扱う研究の多くがこのモデルを採用している。そこで,本研究においても Meyer and
Allen(1991)の 3 つの構成要素からなる OC モデルを用いることとする。
この Meyer and Allen(1991)のモデルの構成要素 3 つとは,
「従業員による組織への感情的な愛着,
一体感,関わり」を示す情緒的コミットメント(affective commitment),
「継続的に雇われることへの義務
感の反映」
(67 頁)を示す規範的コミットメント(normative commitment),
「組織を離れるコストの認識」
を示す存続的コミットメント(continuous commitment)であり,このモデルの特徴は,規範的コミットメ
ントを含めた点(田尾 1998;高木 1997)といわれる。
表1
OC の 3 構成要素とそれが招く結果との相関関係
情緒的
コミットメント
規範的
コミットメント
存続的
コミットメント
強く負
負
やや負
負
わずかに正
わずかに正
職務成果
強く正
正
負
組織市民行動
強く正
正
ほぼなし
ワーク・ファミリー
コンフリクト
負
正
ほぼなし
ストレス
負
正
不明
結果\OC の種類
離職意思
常習的欠勤
(出所)Meyer, et al.(2002)から筆者作成。
(注)背景色が灰色のセルは,一般に企業にとって望ましいと思われる結果を示す。
これら 3 つの OC が招く結果を分析した Meyer, et al.(2002)は,企業にとって最も望ましい結果を
[01]-3
招くのは,3 つの OC のうち情緒的コミットメントであるという分析結果を示している(表1)。CSR と
OC の関係を調べた研究(Brammer, et al. 2007;Turker 2008)を含め,OC に関する研究では,企業にもっ
とも望ましい結果をもたらす,この情緒的コミットメントに注目することが多い(松山 2008)。しかし労
働 CSR は,これら 3 つの OC すべてに影響するとも考えられる(Shen and Zhu 2011)ため,本研究では 3
つすべての OC への影響を捉えるが,先行研究と同じく,情緒的コミットメントを高めることが最も企業
にとって理想的であるという考え方を前提に,情緒的コミットメントを重視して論を進める。
5.労働 CSR が組織コミットメントに影響する理由
では,企業が労働 CSR に取り組むことで,労働者の OC にどのような影響がもたらされるのか。1 つ
目に,社会的責任ある行動を行う良い評判を持つ企業に属することによる影響,2 つ目に,HRM への反
応としての影響が考えられる。
まずは 1 つ目の観点である。労働 CSR の上位概念である CSR に関しては,OC との関係についての研
究がいくつか行われている。それらは,自身を集団の中に位置づけてその集団と自己を一体化することを
説明する,社会的同一性理論(social identity theory)を使用し,社会的責任ある行動を行う企業は良い評
判を持つことになり,そうした良い評判を持つ組織に属することが労働者の自己概念に影響を与え,結果
として OC が高まる(Brammer, et al. 2007;Peterson 2004;Turker 2008)という論理を導いている。労働
CSR も CSR の一領域である以上,これと同じ論理を用いることで,労働 CSR が OC を高める理由を説
明出来ると思われる。
これは,労働者が評判の良い企業に属することに誇りを持ち,組織に愛着がわくという論理であるため,
OC の中でも,企業との愛着を示す(Meyer and Allen 1991)情緒的コミットメントに強く関係すると考え
られる。実際,先に示した,この論理による研究では,情緒的コミットメントを用いるのが主流であり,
その他のコミットメントを用いている研究を目にしたことがない。
次いで 2 つ目の観点である。第 2 節で述べたように,労働 CSR は,社会的に責任ある方法での HRM
ともいえるため,HRM としても OC に影響すると思われる。なぜなら,HRM は OC に影響を与える可
能性が高い(Meyer and Allen 1997)と考えられており,HRM の成果を評価する尺度として OC が適切で
ある(Beer, et al. 1984)といわれている。HRM が OC に影響し,その影響を捉えることが HRM の成果を
評価するのに適しているならば,労働 CSR を HRM として見た場合,労働 CSR は OC に影響するといえ
る。そこで,労働 CSR が HRM として OC に与える影響を検討する。
以上の 2 つの理由から,労働 CSR は OC に影響を与えると考えられるが,本研究では後者の論理に焦
点を絞る。なぜなら,他の CSR と比較した場合の労働 CSR の大きな特徴として,労働者に直接働きかけ
るものであるという点がある。HRM としての OC への影響を検討すれば,この労働 CSR の特徴を活か
すことが出来る。また,この論理は,前者の論理に比べると研究の蓄積がより乏しいことから,取り上げ
る必要性が高い。
6.人的資源管理としての影響
では,労働 CSR は HRM として OC にどのような影響を与えるのか。第 2 節で述べたように,労働 CSR
に取り組むことは,HRM を社会的に責任ある方法で行うことと言い換えることができる。HRM は OC
に影響する可能性が高いといわれているため,労働 CSR が HRM のあり方を左右するならば,労働 CSR
も OC を動かすということが考えられる。
Meyer and Allen(1997)によると,労働者がその HRM に対して誇りであると受け止めた場合は情緒
的コミットメントが,その HRM の下にいるという状況を失うことを費用だと受け止めた場合は存続的コ
ミットメントが,その HRM を受けることに報いる義務があると受け止めた場合は規範的コミットメント
が高まるとされる。
この Meyer and Allen の研究を踏まえ,Shen and Zhu(2011)は法令遵守指向の HRM(legal compliance
HRM),
従業員指向の HRM(employee-oriented HRM),
一般的 CSR 促進指向の HRM(general CSR facilitation
[01]-4
HRM)の 3 つに分類した SR-HRM と OC の関係を以下のように推察した。第一に,SR-HRM は労働者
の組織への尊敬感を生み,組織との一体感を強めるから,情緒的コミットメントを高める。第二に,
SR-HRM は労働者が組織に報いる倫理的義務感を感じさせるので,規範的コミットメントを高める。第
三に,労働者は他の企業に転職した場合にも同じように企業から扱いを受けることが出来るかどうかわか
らないため,存続的コミットメントが高まる。そしてこれらを前提とし,SR-HRM と OC の関係を分析
することで,SR-HRM は従業員指向の HRM と存続的コミットメント間の関係という 1 つの例外を除い
て,OC を高めていることが明らかにされた。加えて,SR-HRM は 3 つの OC のうち,情緒的コミット
メントへの影響が最も大きいことも明らかにされた。
Shen and Zhu(2011)が分析に用いた 3 つの SR-HRM に含められている施策を,類型化した労働 CSR
施策の方向性(矢野 2012)と照らし合わせると,法令遵守指向の HRM には公平・公正な雇用・労働と安
心して働ける安全な環境の整備が,従業員指向の HRM には人材育成,私生活との両立が可能な環境の整
備が,一般的 CSR 促進指向の HRM には安定した雇用が含まれていることがわかる。そのため,Shen and
Zhu(2011)の分析結果を援用することで,労働 CSR の 5 つの方向性が情緒的コミットメントを高めると
推考することが出来る。
これまで,日本の労働者はアメリカと比べると OC が低い(鈴木 2002;若林・城戸 1986)と指摘されて
きた。また,OC が低い中でも存続的コミットメントは高いといわれており,その背景には,長期間同じ
会社で働き続けないと賃金と貢献が均衡しないこと,企業特殊技能を高める傾向があること(鈴木 2014)
がいわれている。そして,このように全体的に OC が低い中,存続的コミットメントのみが高い傾向は,
近年より強まりつつある(宮入 2004)ことが明らかにされている。
このように OC が低い原因として,若林・城戸(1986)は,労働条件の悪さや報酬配分の不公平さ,仕
事のストレスが強すぎることをあげている。こうしたことは,ブラック企業といった言葉が広く使われて
いるように,今日でも完全に改善されているとは考えにくい。
そのような中,企業が労働 CSR に取り組むということは,その方向性が「私生活との両立が可能な環
境の整備」
,
「安心して働ける安全な環境の整備」
,
「企業における教育」
,
「公平な雇用・労働」
,
「雇用の保
障」といったものであるならば,労働の質の改善が期待出来る。労働の質が改善されれば,全体的に低い
といわれる OC の底上げが実現されよう。そして Shen and Zhu(2011)の研究が示すように,特に情緒
的コミットメントが高まる。HRM が情緒的コミットメントを高めるのは,それが誇りであると労働者に
受け止められた場合(Meyer and Allen 1997)であることを踏まえれば,労働 CSR は労働者にとって誇り
と感じられる HRM になるといえる。
7.む す
び
本研究では,労働者の反応を捉える概念として OC を用いて,企業が労働 CSR に取り組むことが労働
者にどのような影響を与えているのか明らかにすることを目的とした。
OC は労働者の企業との心理的な距離感を表す概念であり,さまざまな職務態度を生むと考えられてい
る。加えて,HRM の評価を行うのに適切な尺度であるとも考えられている。この OC にはモデルがいく
つか存在するが,その中でも最も主流である Meyer と Allen の 3 つの構成要素から成る OC のモデルを
採用した。そして,その 3 つの構成要素のうち,企業にとって最も望ましいと考えられる結果を招く。
労働 CSR が OC に影響する要因は 2 つ考えられるが,本研究では,労働 CSR が HRM として OC に
影響を与えるという論理を採用した。そして,労働 CSR は HRM を社会的に責任ある方法で行うことと
もいえるため,HRM は OC に影響する可能性が高いといわれていることから,労働 CSR が HRM のあ
り方を左右するのであれば,HRM と同様に労働 CSR が OC を動かすということが考えられた。先行研
究によると,社会的に責任ある HRM は,組織コミットメントのうち,情緒的コミットメントと強く関係
があるとされる。日本的経営下の労働者は,存続的コミットメントは高いが全体的に組織コミットメント
は低いといわれていた。そこで,日本企業が労働 CSR に取り組むことは,労働の質の改善を通して OC
が低い原因を排除するとともに,労働者が誇りと感じる方向に HRM を変えることに繋がり,情緒的コミ
ットメントを高めることに結び付くと結論付けた。
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