Ⅳ 植栽管理方針の設定 1.植栽の現状 1-1.植栽概況調査 (1)調査の概要 各都市公園、緑道の植栽地の地形や場所、求められる機能から植栽を公園は 12 区分、緑 道は 5 区分に類型化し、植物の生育状況や管理状況について、目視により状況(種別(樹林 地、単木、芝地)生育状況)を確認し、対象となる植栽地の状況を確認した。その際、成長 しすぎた植栽について密度管理のための間引きや剪定の必要性の有無、日本庭園の植栽にお いて庭園景観として配慮すべき事項など、植栽ごとの留意事項について記録した。 表 公園の植栽地区分 区分 概要 近隣隣接植栽帯 民家や諸建物が近く、落ち葉・枝・日陰などが課題となる植栽帯 外周柵機能植栽帯 公園外周部で、公園機能や利用地域を区分するために設けられた 上記以外の植栽帯 間仕切(目隠し)植栽帯 公園内の施設利用区分のために設けられた植栽帯 高木点在広場 ボール遊びなどを抑制するなどの目的で舗装広場や遊具広場の間 に高木が点在する広場 緑陰植栽広場 ベンチや遊具施設と組み合わせた落葉高木中心の広場 シンボル樹木 公園や緑地の象徴として植えられた木や地区に古くから残る象徴 木など 自然樹林植栽帯 既存樹木を残した樹林や目黒区の古い樹林の再現を目的とした植 栽帯 修景目的植栽帯 周辺からの景観や池・流れなどと一体となってうるおいや安らぎ などを醸し出す植栽帯 建物周辺植栽帯 建物周辺に設けられた植栽帯で、建物との一体感や建物からの景 観を重視した植栽帯 日本庭園 伝統的な修景目的の庭 ふじ棚 緑陰をつくるための植栽 芝生・野草広場 休憩・小運動の場として芝やオオバコなどの地被類で覆われた広 場 32 表 緑道の植栽地区分 区分 概要 宅地に挟まれた路地的空間で、緑道の向きや周辺建物によってそ の環境は大きく左右される、幅員は 4.0m内外より狭い部分が多い 宅地に挟まれた親水空間で、歩道両側・片側に植栽帯を持つ、幅 員 6~8m内外の緑道 道路と併設され歩道的役割のある緑道空間 狭小巾緑道 両側宅地緑道 片側道路緑道 道路と道路に挟まれた緑道空間で、緑道内の植栽帯が片側・両側・ 中島等に変化することで歩行空間を演出している 広い幅の空間の中に流れなどとの併設や、歩行空間機能を細かに 分類するなどされ、より快適な緑道空間 両側道路緑道 親水緑道 (2)調査結果 公園における植栽概要調査の結果をみると、外周柵機能植栽帯がある公園が全体の 89.9% で最も多い。次いで近隣隣接植栽帯がある公園が全体の 88.4%と多く、この 2 種類の植栽帯 が突出して多い。 緑道における植栽概要調査の結果をみると、両側道路緑道がある緑道が全体の 50.0%で最 も多い。次いで狭小巾緑道が 30.0%で多く、そのほかは 1 緑道ずつとなっている。 各公園、緑道の植栽区分の詳細については、P.37、P.38 に示した。 表 各植栽地区分の設置公園数 植栽地区分 箇所数 近隣隣接植栽帯 62 外周柵機能植栽帯 61 間仕切(目隠し)植栽帯 28 高木点在広場 22 緑陰植栽広場 6 シンボル樹木 19 自然樹林植栽帯 9 修景目的植栽帯 18 建物周辺植栽帯 3 日本庭園 2 ふじ棚 9 芝生・野草広場 8 表 割合 89.9% 88.4% 40.6% 31.9% 8.7% 27.5% 13.0% 26.1% 4.3% 2.9% 13.0% 11.6% 各植栽地区分の設置緑道数 植栽地区分 狭小巾緑道 両側住宅緑道 片側道路緑道 両側道路緑道 親水緑道 箇所数 3 1 1 5 1 33 割合 30.0% 10.0% 10.0% 50.0% 10.0% 1-2.単木現況調査 (1)調査の概要 各都市公園、緑道の園路、民有地等に隣接する高木(地上高さ 1.5m で幹周 80cm 以上の ものに限る)およびサクラについて、樹木の位置を平面図に記載した。また、外観診断を行 い樹木の樹勢、樹形、生育状況、キノコ発生状況、倒木による危険の有無について調査し、 健全度判定を行った。 表 健全度 健全か健 樹勢及び樹形の活力度が 1 又は 2 であり、その他の項目に異常が A 全に近い C き被害が ないか、材質腐朽などの被害も軽微なもの。 その他の異常についても、局所的あるいは軽微で当面処置の必要 が無いもの。 樹勢又は樹形の活力度が 3 の段階であるもの。もしくは、今後活 注意すべ B 判定基準 準 健全度 A A 外観診断による健全度の判定基準 都基 B1 力の低下や腐朽の進行が予測され、その他の項目についても被害 見られる が各種見られ注意を要するもの。 著しい被 樹勢又は樹形の活力度が 4 の段階であるもの。もしくは、幹や根 害が見ら B2 の腐朽が著しく進行し、その他の項目についても被害が各種見ら れ注意を要するもの。 れる 樹勢及び樹形の活力度が 5 の段階であるもの。もしくは、幹や根 D 不健全 C の腐朽が著しく、極めて不健全な状態で回復の見込みが無いもの。 また、倒木や幹折れの危険があるもの。 (2)調査結果 単木現況調査の結果、調査対象となった樹木は全部で 3,735 本であった。そのうち、A 判 定が 59.0%(2,205 本)、B 判定が 22.4%(838 本)で合わせて 81.4%と大半を占めている が、C 判定が 15.8%(590 本) 、D 判定が 2.7%(102 本)と劣化が進んだ樹木も存在した。 なお、計画対象の都市公園 79 箇所のうち、16 箇所の公園・緑道については調査対象とな る大きさの樹木が無かった。 34 2.植栽管理方針の設定についての考え方 2-1.管理方針の考え方 植栽の管理については、大きく 2 種類の管理方針を設定する。まず植栽の全体的な管理方 針として、植栽の機能や特徴別に植栽地区分を設定し、標準的な管理方針を定める。また、 管理の現況や公園の地域性等を考慮した管理方法の調整について方針を設定する。次に、高 中木を対象に、単木レベルでの管理方針を設定する。 外周柵機能植栽帯 芝生・野草広場 植栽の種類別に 適切な管理方法 を設定 シンボル樹木 どの植栽地区分におい ても一定の規模以上の 高中木は、単木管理方針 を併せて適用する 近隣隣接植栽帯 図 管理方針の設定イメージ 2-2.全体的な植栽の管理方針(植栽種別管理方針) 公園の植栽を現地調査に基づく植栽地区分に分類し、それぞれの標準的な管理の目標、方 法等を植栽地単位で設定する。 管理方法については、下表の一般的な植栽の維持管理作業のうち、主に太枠内の作業につ いて定める。 表 管理項目 一般的な植栽維持管理作業 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 特記事項 定期管理 特に病虫害管理や危険な枝の処理など 既存樹移植 植栽通常維持管理とは別途計上とする 新規樹木植栽 植栽通常維持管理とは別途計上とする 高・中木剪定 低木剪定 芝刈り・施肥 芝刈り・目土・肥料 除草剤散布 樹木に悪影響のない除草剤 草刈除草 薬剤散布 マシン油 殺虫剤 殺虫剤 予防が必要なときに散布 6.7月は開花後のお礼肥 施肥 35 また、植栽は年数を経過するごとに大きく成長し、同種の管理でも必要な作業が異なって くるため、以下の 3 段階のステージで管理内容を設定する。 表 植栽後の経過年数 高中木の経年変化に応じた維持管理 管理類型 作業内容等 10 年未満 生育管理 整枝剪定、除草、施肥 10 年以上 成長抑制管理 整枝剪定、切詰め・切返し剪定、枝抜き、枝おろし 30 年以上 健康維持管理 根元の土管理、切詰め・切返し剪定、危険な枝おろし、樹 勢状況の管理 2-3.高中木の健全な育成のための管理方針(単木管理方針) 植栽地区分全体の管理方針に対し、高中木の健全に育成し植栽機能の十分な発揮と倒木等 の発生予防を図るため、上記で定めるすべての植栽地区分に適用する単木ごとの管理方針を 設定する。 36 3.植栽地区分別の管理方針の設定 植栽地区分ごとに、標準的な植栽の管理方法を以下のように設定する。また、実際の維持管理を見据え、周囲の環境や利用状況等を勘案した上で公園ごとに管理目標、方法等を調整し設定する。 3-1.公園の植栽管理方針 植栽地 区分 近 隣 隣 接 植 栽 帯 外 周 柵 機 能 植 栽帯 間 仕 切 (目隠し) 植栽帯 概要 生態系 休養 民家や諸建物が隣接し、落ち葉・ 枝・日陰などが課題となる植栽帯 ○ 公園外周部で、公園機能や利用地域 を区分するために設けられた上記 以外の植栽帯 ○ ○ ボール遊びなどを抑制するなどの 高 木 点 目的で舗装広場や遊具広場の間に 在広場 高木が点在する広場 ○ ○ 緑 陰 植 ベンチや遊具施設と組み合わせた 栽広場 落葉高木中心の広場 ○ ◎ 修 景 目 周辺からの景観や池・流れなどと一 的 植 栽 体となってうるおいや安らぎなど 帯 を醸し出す植栽帯 ◎ 管理目標 管理方法 ○ ○ ◎ 周辺住居への日当たり、風通しに配慮しながらプライバ 高・中木、生垣の整枝剪定 シー、防犯及び修景を確保する 低木の抑制剪定 ○ ○ ○ 外周道路との区画と出入口の明確化、交差点部の見通し 高中木の剪定 の確保に配慮しながら修景的に整備 低木の抑制剪定 ◎ ○ 機能確保とともに公園内添景として整備 高中木の剪定 公園内の施設利用区分のために設 けられた植栽帯 公園や緑地の象徴として植えられ シ ン ボ た木や地区に古くから残る象徴木 ル樹木 など 自 然 樹 既存樹木を残した樹林や目黒区の 林 植 栽 古い樹林の再現を目的とした植栽 帯 帯 表 植栽地区分ごとの標準的な管理方法(公園) 機能および配慮事項 延焼防 目隠機 修景 誘導 日照等 止 能 ○ ◎ ◎ 低木の剪定 広場での活動の支障とならないように、また樹勢を維持 高木の整枝・枝抜・枝下し等 するための管理が必要 老木は根元の土掘り起し ◎ 上記同様の管理とともに落ち葉の清掃管理 高木の整枝・枝抜・枝下し等 老木は根元の土掘り起し ◎ 下枝管理や樹勢の保持とともに象徴木として樹形の整正 高木の整枝剪定 に留意する 老木は根元の土掘り起し ○ 基本は樹林帯の自然な変遷に委ねるが、外来種侵入防止 危険な枝の枝下し などの専門的な管理が要求される 林内の除草(外来種除根含む) 高・中木、生垣の整枝剪定 ◎ ◎ 設計趣旨に合った、全体に調和した植栽管理 低木の整枝剪定 地被管理・除草 高・中木、生垣の整枝剪定 建物側からの修景や見え方に配慮した樹形の維持整正に 低木の整枝剪定 留意した管理が特に必要 地被管理・除草 建 物 周 建物周辺に設けられた植栽帯で、建 辺 植 栽 物との一体感や建物からの景観を 帯 重視した植栽帯 ◎ 日 本 庭 伝統的な修景目的の庭 園 ◎ 設計趣旨に合った管理を高度な造園技術により維持管理 上記に同じ する ○ フジなどの樹木の樹勢維持 つる植物の整枝剪定 繁茂抑制の刈込と雑草の除去 芝刈り・施肥・目土 緑陰をつくるための植栽 ◎ 芝生・野 休憩・小運動の場として芝やオオバ 草広場 コなどの地被類で覆われた広場 ◎ ふじ棚 ◎主要な機能・配慮事項 ○ ○副次的な機能・配慮事項 37 3-2.緑道の植栽管理方針 表 植栽地 区分 標準断面図 概要 宅地に挟まれた路地的 空間で、緑道の向きや 周辺建物によってその 環境は大きく左右され る、幅員は 4.0m内外 より狭い部分が多い 狭小巾 緑道 宅地に挟まれた緑道 で、歩道両側・片側に 植栽帯を持つ、幅員 6 ~8m内外の緑道 両側宅 地緑道 生態 系 植栽地区分ごとの標準的な管理方法(緑道) 機能および配慮事項 延焼 目隠 日照 休養 修景 誘導 防止 機能 等 管理目標 該当緑道 ・歩行空間の確保 ・近隣住宅への日照及びプライバ シーの確保 ・道路との交差部の見通しと飛出 し防止 蛇崩川支流緑道 管理方法 低木の定期的剪定 ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ 高中木の抑制剪定 羅漢寺川緑道 同上 谷戸前川緑道 同上 ・歩行空間の確保 ・近隣住宅への日照及びプライバ シーの確保 ・道路との交差部の見通しと飛出 し防止 低木の定期的剪定 高中木の抑制剪定 蛇崩川緑道 サクラ他高木の整枝剪定 片側道 道路と併設され歩道的 役割のある緑道空間 路緑道 ○ ○ ◎ ○ ○ ◎ ・桜並木の維持管理 ・傾斜植込みの景観保持 低木の定期的剪定 九品仏川緑道 (呑川~自由通り) 道路と道路に挟まれた 緑道空間で、緑道内の 植栽帯が片側・両側・ 中島等に変化すること で歩行空間を演出して いる 両側道 路緑道 九品仏川緑道 (自由通り~区境界) ○ ○ ◎ ○ ○ ・サクラ並木の維持管理 ・歩行空間の快適性維持 ・道路交差部の安全確保 呑川本流緑道 呑川柿の木坂支流緑道 呑川駒沢支流緑道 立会川緑道 広い幅の空間の中に流 れなどとの併設や、歩 行空間機能を細かに分 類するなどされ、より 快適な緑道空間 親水緑 道 ◎主要な機能・配慮事項 サクラ他高木の整枝剪定 低木の定期的剪定 高中低木の成育管理 サクラ他高木の整枝剪定 低木の定期剪定 サクラ他高木の整枝剪定 低木の定期剪定 サクラ他高木の整枝剪定 低木の定期剪定 桜の整枝剪定 高中木の剪定 ◎ ○ ◎ ○ ○ ○ ・流れ空間との修景の調和 目黒川緑道 低木の定期的剪定(人力) ○副次的な機能・配慮事項 38 3-3.公園等の状況に応じた管理方法・頻度の調整について 植栽地区分ごとの管理方法については、植栽の健全な育成を図り、それぞれの植栽地が有 する機能をより発揮させるために必要とされる、標準的な管理方法を設定している。しかし、 実際に適切な維持管理作業を行っていくには、その公園の特性や周辺施設の設置状況等の 個々の状況を踏まえた上で、作業内容や頻度について、個々に検討する必要がある。ここで は、具体的な作業内容や頻度を検討する際に、考慮すべき事項を示すものとする。 (1)公園について ・駅前の公園やシンボル樹木等、街の美観向上に寄与する植栽は優先して維持管理を行う。 ・近隣隣接植栽帯など、防犯や利用者、近隣住居の安全確保の上で手入れが必要な植栽は優 先して維持管理を行う。 ・園内の植栽で管理頻度が低い場合は、清掃時のチェック等で安全確認の機会を増やすほか、 園路上への張り出しを少なくする等、利用者の安全確保に努める。 ・自然に近い植栽等で利用者の安全面に影響がない場合は維持管理の頻度を少なくする。 ・遊具などの公園施設と樹木が近接している場合は、利用者の安全を確保しつつ、日照を保 ち、遊具の腐朽、錆びの発生を抑制するよう、剪定などの作業頻度を高めるようにする。 特に水分に弱い木製の施設が設置されている場所の付近の樹木は、さらに剪定の頻度を高 める等の対策を講じ、十分な日照を確保するよう努める。 ・例えば、「森の遊び場」といったテーマに沿って、樹木が点在する場所に遊具を設置する などの場合には、腐朽しやすい木製遊具の設置は避け、腐朽しにくい材質の遊具を設置す るなど、樹木との関係性に考慮して材質や部材を選定する。 ・遊具の周辺や園路等の動線上は安全面やバリアフリーの観点から根上がりによる凹凸の発 生を防止するため、植栽時の樹種選定や遊具等との距離、剪定時のバランスに注意する。 (2)緑道について ・維持管理の頻度が低い場合は、景観に影響が少ない直線的な箇所とくらべ、通行時に視界 に入りやすい曲線箇所等を優先的に管理する。 ・緑道の桜は区内外から見学者が訪れる区の重要な観光資源であるため、優先的に管理を行 う。 39 3-4.密度管理の考え方 樹木は生物であるため、年数が経つごとに成長していく。公園の開設時には植栽木もまだ 低く細いため問題が生じないが、年数を経て樹木が成長するにつれ、高く太くなった木によ り林冠が閉鎖され、照度の低下や見通しの悪化、樹勢の低下を引き起こし、景観や防犯性の 悪化、病虫害の発生等の問題が生じやすくなる。 こうした問題に対し、従来は剪定により枝を透かして園内を明るくすることが一般に行わ れてきたが、剪定を行っても数年後には樹木が再び成長し林冠が塞がってしまうため、問題 の根本的な解決には至らない。また、樹木の上部を剪定することにより下枝が生じやすくな るため、防犯や美観の面で重要な目線の高さの見通しを阻害する可能性も高くなる。 こうした樹木の性質を踏まえ、過密状態にある樹木を間引いて適正な間隔にすることで照 度や見通しを確保する根本的な対策を実施する例が近年は増えている。これは本計画の趣旨 である「樹木の健全な育成により適正に樹木の機能を発揮し、ひいてはコストの縮減につな げる」という考え方に合致する。 したがって、目黒区においても、過密であるか、将来過密になると思われる箇所の樹木に ついては、適宜伐採を行うことで樹林を適正な密度で管理し、樹木の健全な育成を図るもの とする。なお、伐採する樹木は、樹木の健全度調査や植栽区分を踏まえ、各公園のテーマ性 を維持できるように設定する。具体的には、相対的に劣勢な木や、景観支障木、周辺住居へ の落葉落枝や倒木の危険性が高いものを優先的に伐採するが、健全な樹木であっても公園の 特性を充分に発揮させるために必要なものについては、伐採や移植を検討する。 40 4.単木ごとの管理方針 4-1.単木単位での管理の流れ 高中木を健全に育成し植栽機能の十分な発揮と倒木等の発生予防を図るため、単木ごとの 管理方針を設定する。 日常の維持管理 清掃・施設更新等の維持管理作業時の確認 樹木の折損、傾き、腐 朽、樹木密度等の情報 提供 剪定等の植栽管理作業時の確認 公園利用者等からの通報 初期診断 緊急対応が必要 異常あり 専門診断 が不要 専門診断 が必要 撤去(植替え) 異常なし 処置不要 剪定等の処置を実施 剪定等処置 専門診断 外観診断 異常あり 異常なし 著しい 被害 不健全 危険 健全度 D 注意すべき 被害 健全度 C 外観だけで判別 できない場合 健全度 B 健全 健全に近い 健全度 A 一次 判定 外観だけで判別 できない場合 精密診断 二次 判定 健全度 D 健全度 C 健全度 B 健全度 A 撤去(植替え) 短期周期での観察 長期周期での観察 処置不要 内科的処置 外科的処置 物理的処置 環境改善 内科的処置 外科的処置 物理的処置 環境改善 歴史背景、住民 の要望等から保 全が必要な場合 必要な処置の実施 倒木等が発生した場合の影響の大きさに基づく優先度に応じて処置を実施 図 管理の流れ 41 4-2.対策優先度の判定 公園利用者及び周辺住民の安全確保の観点から、樹木の診断の結果、処置が必要な樹木に ついて、樹高や利用者への影響の大きさにより処置の優先度を設定する。 表 優先度の判定基準 区分 判定基準 利用者への影響 周囲への影響 樹高 支柱等の有無 優先度 園路に近接していない 低 園路に近接している 中 園路上に枝・幹が張り出している 高 公園の外周に近接していない 低 公園の外周に近接している 中 公園の外周に枝・幹が張り出している 高 5m 未満 低 5~10m 中 10m 以上 高 支柱や柵等、倒木の発生時に支えになる構造物がある 低 支柱や柵等、倒木の発生時に支えになる構造物がない 高 ■優先度の判定フロー 高 中 低 START 利用者への影響 周囲への影響 樹高 支柱等の有無 高 中① 42 中② 低 4-3.単木現況調査結果に基づく処置方針 判定した健全度ごとの処置方針を以下のように定める。また、その場合に考えられる処置 方法を次ページ以降に記載する。 表 処置の方針及び方法 処置方法 健全度 処置方針 ①観察 A 健全か健 ③外科的 処置 ④物理的 処置 ⑤環境 改善 処置は特に 必要としな い 簡易的な処 置により樹 勢回復を図 る ・長期周期 の観察 ・施肥 ・剪定 ・初期の樹 皮 損 傷 及 び 腐 朽 の 処 置 ・支柱の据 え直し ・客土、土 壌改良 ・踏圧防止 ・過湿障害 対策 ・乾燥害対 策 必要な処置 により樹勢 回復を図る ・短期周期 の観察 ・施肥 ・剪定 ・病虫害防 除 ・材の損傷 及 び 腐 朽 の 処 置 ・支柱設置 ・風圧軽減 剪定 ・客土、土 壌改良 き被害が 見られる 著しい被 C 害が見ら ・物理的処 置 後 の 観察 れる 原則として 撤去する D ⑥伐採 撤去 全に近い 注意すべ B ②内科的 処置 ・踏圧防止 ・過湿障害 対策 ・乾燥害対 策 歴史的価値のある樹木や住民から要望がある場合等、保 存する必要性が強い場合は C と同様に処置し、より高い 頻度で経過観察を行う 不健全 平成 25 年度街路樹診断マニュアル(東京都)を参考に作成 43 撤去(植替 え) (1)観察 ア.維持管理作業時の観察 日常の清掃や剪定などの維持管理作業の中で、樹木の枝折れ、キノコ発生状況等を目視によ り確認し、記録をしておく。 イ.処置後の経過観察 主に健全度判定B,Cである樹木に対して、適切な外科的処置、内科的処置等を実施した後 は、処置後の樹勢回復や以上等の有無について経過観察を行う。 ウ.特に保存が認められる樹木の観察 大径木や歴史的価値のある樹木で、特に保存が必要とされる樹木については、倒木等の恐れ がないよう適切な処置を施した上で、特に観察を要する樹木として、定規的な観察を行う。 (2)内科的処置 ア.施肥 施肥等によって樹勢を回復させ、健全な状態を維持する。ただし、幹・枝・根系の腐朽被 害が大きい場合は、樹勢回復により枝葉が増加し風受け抵抗が増すことにより、腐朽部分の 折損リスクが高まることもあるため安易な樹勢回復処置は避ける。 薬剤・栄養剤を加圧注入する方法もあるが、注入により通導障害が生じることがあるため、 使用にあたっては十分に注意する。 (3)外科的処置 ア.剪定 折れた枝など、部分的な処置を施すことで、状態が改善されると判断される樹木について は、適正な位置で切り戻すなど部分的な剪定を行う。また、全体的な処置が必要と判断され る場合は、樹形を整える整枝剪定や枯枝剪定を行う。 イ.初期の樹皮損傷及び腐朽の処置(主に健全度B判定の樹木) 物理的な衝撃等により、樹皮や辺材に損傷が生じた場合、直ちに処置する。車の接触など 新しい傷や、受傷部の初期腐朽の場合には、表面が平滑になるように鋭利な刃物で最小限に 削り、ゆ合促進剤を塗布する。枝折れなどでささくれた箇所も同様に処置する。 ウ.材の損傷及び腐朽の処置(主に健全度C判定の樹木) 物理的な衝撃などにより、樹皮や材に損傷が生じた場合に処置する。 車の接触などによる傷や、受傷部の腐朽の場合には、表面が平滑になるように鋭利な刃物で 最小限に削り、ゆ合促進剤を塗布する。枝が腐朽している場合は剪定し、切り口にゆ合促進 剤を塗布する。 エ.病虫害防除 病虫害が見られる樹木については、病虫害が発生している枝葉の切除を行う。 44 オ.不定根の発根促進処理 空洞などに取り木の要領で不定根を発根させて育成し、樹勢の回復を図る。ただし、不定根 では強度を期待できない場合や、効果を得るまでに生長するには相当な期間を要する場合があ るため、実施に当たっては慎重に検討する必要がある。 (参考)空洞部の充填処置 空洞部充填は、かえって腐朽を進めてしまう結果になるとも指摘されており、現在では、 樹木の生理的な反応として腐朽部の周囲にできる防御層を傷つけないようにして、樹木の持 つ自然の回復力に委ねた治療法が主流になっている。 修景上の目的から、空洞部の充填を行う場合には、空洞奥まで空間全体を充填せず、空洞 内部の湿度を低く保ち、定期的に空洞内部の腐朽状態の観察が容易にできるよう、表面処理 にとどめる。実施の際には、十分な経験のある専門家に発注する。 (4)物理的処置 ア.支柱設置 二脚鳥居型支柱、ワイヤ支柱、ネットロープなどの支柱を設置するなど倒木防止処置を施 す。実施に当たっては、樹木の生育している場所の気象条件や付近の構造物等との距離関係、 樹木の大きさなどを勘案して、適切な処置方法を選択する必要がある。 イ.風圧軽減剪定 枝折れや倒木の危険を回避するための風圧軽減剪定を行う。 (5)環境改善 ア.客土・土壌改良 高水位や排水不良による過湿障害、乾燥や踏圧等の締め固めによる通気や透水性への障害 等の土壌条件の悪化に対して行う。堆肥や土壌改良資材を投入しての耕耘、各種病原菌の蔓 延等の改善処置としての土壌の入れ替えなどがある。 土壌改良を行う場合には、品質が確保された資材を使用し、土壌病害などの病原菌が持ち 込まれないように十分注意する。 イ.踏圧防止 踏圧を防ぐためには、踏圧防止板や踏み込み防止柵、透水性合材の設置や、地被類や低木 植栽など物理的な処置により、植込み内に歩行者を立ち入りにくくする。 ウ.過湿障害対策 過剰な水分を取り除くための、暗渠設置等による排水、不透水層の破壊による排水、過剰 な水分の流入を防ぐための処置等を行う。 45 エ.乾燥害対策 パーライト、堆肥、高分子系改良材を混入して保水力を高めたり、チップを土壌表面にマ ルチングし水分の蒸散を抑制する。 オ.盛土対策(参考) やむをえず盛土をする場合は、盛土にパーライトなどを混入又は底敷きし、通気穴の設置 などの対策を講じることが望ましい。植付けに当たっては、深植えにしない。 (6)伐採・撤去 健全度 D の樹木は公園利用者等の安全確保の観点から原則として撤去する。ただし、歴 史的価値のある樹木や住民から要望がある場合等、保存する必要性が強い場合については、 支柱を設置する等の倒木を予防するための対策を実施して経過を観察する。その場合は、日 常の維持管理や公園施設の点検時等の経過観察の頻度を高くする。 伐採を行った樹木は以下の 「ア.撤去」の処置を施す。ベッコウタケやナラタケなど根 株を腐朽させる菌類が発生していた樹木については、抜根し客土を必ず行い、必要に応じて 土壌改良も行う。 ア.撤去 材質腐朽菌は残った根や樹木の破材に生き続けていることから、このような菌類が発生し た場合には、伐採した樹木は必ず抜根するとともに、幹の状態や根部の状態を観察・記録し、 樹木診断カルテ等とともに保管する。 客土を必ず行い、必要に応じて土壌改良も行う。 イ.植替え 植替えを行う際、植栽場所の日照条件、植栽桝や植樹帯の規模・構造、土壌条件など、生 育環境が当該樹種では適当でないと判断される場合には、環境に合った樹種に変更すること を検討する。植付けに当たっては、深植えにしない。 新植する樹木は、樹勢が活発な成木初期の樹木とする。成木の初期の樹齢と形状は、おお よそ次の表のとおりである。 46 表 主要樹種 成木の初期の樹齢と形状 成木初期樹齢 樹高(m) 幹周り(m) 枝幅(m) ソメイヨシノ 6~11 年生 3.5 0.15 スズカケノキ 5~10 年生 3.5 0.15 1.0 クスノキ 8~13 年生 3.5 0.20 0.9 シダレヤナギ 5~10 年生 3.5 0.15 1.2 ケヤキ 6~11 年生 3.5 0.15 ユリノキ 8~13 年生 3.5 0.15 トウカエデ 6~11 年生 3.5 0.15 1.5 イチョウ 8~13 年生 3.5 0.15 1.0 ウバメガシ 10~15 年生 2.0 マテバシイ 9~14 年生 3.5 0.18 1.0 アオギリ 7~12 年生 3.5 0.15 0.9 エンジュ 5~10 年生 3.5 0.15 1.5 シラカシ 10~15 年生 3.5 0.15 0.7 トチノキ 12~17 年生 3.5 0.15 備考 ヤマザクラ同様 0.6 ※樹高、幹周りについては、成木初期樹齢の最も若い時期の形状寸法。 ※樹高、幹周りについては、苗圃の状況によっても多少の差が出るため、形状寸法はあくまでも参考値であ る。 47 5.桜の保全・更新についての考え方 前項までに、植栽管理に関する基本的な方針を定めているが、今後、具体的に取り組みを 進めていくにあたっては、より詳細な検討が必要となる。ここでは、本区において、貴重な 観光資源として、また地域の財産として区民からの関心が高い桜を事例に、今後の取り組み の進め方について整理する。 5-1.区内の桜の現状 本区を代表する目黒川の桜は、都内でも有数の花見の観光名所で毎年大勢の区民、来街者 で賑わいがある。また、目黒川以外でも区内の緑道、公園の桜を地域の観光資源として育み、 区民と来街者との交流や消費活動による地域経済の活性化が図られている。また、区民の桜 に対する関心が高く、各所で桜まつりが開催されるなど、地域コミュニティやまちの誇りと 愛着に繋がっている。 計画対象である公園、緑道には約 1,300 本の桜があり、このうち約 900 本が今後 10 年で 樹齢 60 年を超えることとなり、老齢化や環境の変化により樹勢が低下し、樹勢の回復や植 替えなど保全・更新への取り組みが必要となっている。 表 区分 目黒区内の公園等における桜の本数 計画対象 街路樹 公園 緑道 合計 (参考) 桜の本数 うち、樹齢 60 年を超える本数 合計 (参考) 506 783 1,289 1,045 2,334 169 730 899 147 1,046 5-2.桜の保全・更新の事業フロー まず、公園施設長寿命化計画において実施した外観診断により精密診断が必要とされた桜に ついては、樹木医等の専門家による精密診断を実施する。それらの調査結果に基づき事業計 画を策定し、保全、植替え及び植樹等の事業を実施していく。また、事業計画策定の際は、 サクラ単木の保全・更新の視点に加え、サクラがある風景全体の保全という視点を踏まえ、 地域の特性や実状に応じた維持管理手法を検討することとする。 外観診断 (公園、緑道については本計画にて実施) 精密診断 (外観診断で精密診断が必要と判定された桜を対象に実施) サクラ保全計画策定 (年次計画・事業費・事業箇所等) サクラの保全・更新活動の実施 図 桜の保全・更新の事業フロー 48
© Copyright 2024 Paperzz