国民投票法案の問題点 2007年3月13日 平和への大結集・千葉の研修会にて 弁護士 廣 瀬 理 夫 1 国民投票法案を巡る経緯 (1)1952年 選挙制度調査会が「日本国憲法改正国民投票法案」要綱を内閣に答申 (2)1953年 自治省(当時)が法案作成。しかし、内閣内での調整がつかず結局国会へは提出 されることなく推移。 (3)2001年11月 憲法調査推進議員連盟(いわゆる改憲議連)が「日本国憲法改正国民投票法案」 要綱を発表 (4)2004年12月 自民・公明与党協議会実務者会議において、議員連盟案に修正を加えた「日本国 憲法改正国民投票法案骨子(案)」を作成 (5)2006年5月26日 与党及び民主党がそれぞれ法案を国会に提出(第164通常国会) 内容は、国民投票法(国民投票の手続法)+国会法「改正」(発議の手続について) を合わせたもの (6)2006年12月14日 与党及び民主党がそれぞれ修正案を公表 現在第166回通常国会において審議中 2 憲法改正の根拠 (1)明文上 憲法96条 衆・参両院議員の3分の2以上で発議+国民投票で過半数 (2)国民投票法制定の必要性としてあげられている理由 ① 憲法に改正が明記されているのに、手続法がないのは不自然 ② 国民投票法はあくまでも手続法であって、憲法改正の議論とは無関係 ③ 住民の意思を確認する手段として住民投票が実施されることが多くなっている 3 与党・民主党両案の問題点 (1)与党案と民主党案の相違点 ① 投票対象議題 ② 賛否の記載 ③ 国民投票運動のための広告放送禁止内容 その他に若干の相異部分が存するが、実質的には同一内容 4 具体的問題点 (1)投票の方式及び発議方式について ① 投票方式は、憲法改正案毎に一人一票(48条。以下条文はいずれも与党案によ る) ② 発議は、「内容において関連する事項毎に区分して」発議(151条) ここでの「関連する」という具体的内容及び誰がそれを判断するかが問題。 (2)国民投票運動の規制、特に公務員・教育者に対する運動規制について ① 公務員・教育者について地位を利用した運動を禁止(104条、105条) 「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行いうるような影響力(教 育者にあっては、学校の児童、生徒及び学生に対する影響力)又は便益を利用する」 国民投票運動を禁止。 原案にあった罰則規定は修正案においては撤廃されたが、運動の禁止そのものは 残っている。―→服務規程違反などを理由にした懲戒処分などの可能性が残る ② 特定公務員に対する全面禁止 ③ 多数人買収罪の新設 組織による多数人の投票人に対する買収や利害誘導等を禁止し、違反者には罰則 規定あり―→構成要件が曖昧・不明確であり、捜査機関の恣意を許す恐れがある。 (3)メデイアを通じた意見広告(積極利用)について――最大の問題点? ① 修正案では国民投票期日の7日または14日前から投票期日までの間の意見放送 を禁止。―→一律禁止は不合理(議論を活発化させるためには意見交換必要) ② 政党等に広報協議会の定めるところにより無料の意見放送・意見広告を認める。 放送時間や広告回数は広報協議会が定める。―→多数党(賛成党)の恣意運営の可 能性 修正案では「賛成の政党及び反対の政党の双方に対して、同一の時間数・同等の 時間帯を与える」―→その具体的方法が不明確 更に「政党等」に限る点も問題(国民的議論であるべき) ③ メデイアを通じた有料広告が自由 意見広告には多額の費用が必要―→資力により意見広告内容が一方の意見に偏す る危険性 (メデイアにとって多額の広告収入が見込める) 一般選挙においては「投票勧誘(選挙運動)のためのCM」は禁止されている。 何らかのルール作りが必要、その場合表現の自由に対する配慮が絶対必要―→慎 重な議論必要 ※ その具体的先例として、イタリアにおける状況。 国民投票運動(選挙運動も含む)における有料政治広告は全国放送局において は禁止、無料政治広告の原則。 情報通信の監督に関する独立行政委員会(アウトリタ)の役割。 ④ 憲法改正広報協議会によるメデイア利用の危険性 (11条以下。特に12条3項、14条、15条2項など) 協議会の構成が各会派の所属議員数の比率により構成され、議決は出席議員の3 分の2以上。―→このような広報協議会が、改正案並びにその趣旨及び解説などの 他国民投票広報の原稿作成をするにあたり、その広報内容に公平性が担保されるか。 しかも、この協議会の手続違背については、無効訴訟提起が不可能。 (4)最低投票率・有効投票率を定める必要性 与党案も民主党案も最低投票率について規定がない。 ―→日本国憲法が硬性憲法である趣旨からも多数の国民の改正意見がない場合に は、改正を望んでいないものとして取り扱うべきであり、最低投票率を定めるべ きである。 (5)「その過半数の賛成」の意味について 与党案、民主党案はいずれもその修正案においては「投票総数の2分の1と規定 しながら、その「投票総数とは、賛成票+反対票である」としているため、白票や 無効票は計算されないこととなる。 ―→積極的な賛成でないものを除外する結果は不合理 (6)周知期間の問題について 両案とも周知期間を「発議から60日以降180日以内」としている。 ―→憲法のような重要な事項を議論する時間としては短すぎる。1年以上は必要 ではないか。 (7)投票年齢について 修正案では両案とも「満18才以上」で一致。但し与党案は施行までに公選法、 民法などの改正を図り、改正されるまでは満20歳以上。 (8)憲法審査会の常置について 憲法改正が容易に出来ることとなり、硬性憲法の性質とは相容れない。 (9)国民投票無効訴訟について 無効訴訟の対象が狭いことや提訴期間(結果告示の日から30日以内)が短すぎ る。
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