【特別支援学校:肢体不自由】 自立活動学習指導案 広島県立広島特別支援学校 指導者 篠原 浩美 1 2 3 4 日時,場所 平成20年2月28日(木) 11:50~12:40 教室 学年 高等部3年生3組 題材名 「給食」 題材設定の理由 ○ 生徒観 本生徒は,生活リズムを整え,日常生活動作やコミュニケーションの力を育てることを大きな目標 としているため,自立活動を中心とした教育内容を学習している。 生徒の生活リズムを整えて行くために,呼吸状態や体温を整え快適に生活することをまず大切にし ている。このために,活動と休息のバランスに配慮した学校生活の過ごし方や多様な姿勢の保持,身 体の柔軟性の維持に特に気を付けている。生活のリズムを整えていくことによって健康状態が良好に 保たれ,これを土台に,気持ちの安定や活動への意欲の向上,人とのかかわりやすさといった生活の 広がりがもたらされると考える。 日常生活は全面的な介助を必要としている。場面や介助の動きを理解しており,意識して身体を動 かしている。年々身体のコントロールがスムーズになっており,首のすわりも安定してきている。自 力排痰の様子もしっかりとしてきている。 食事についても,全面介助であるが,好きなものと嫌いなものとでは,口の動きや表情の違いがは っきりとしている。促しに応じて,短時間であれば口唇を閉じることはできるが,日常的には開いて いることが多い。また,肩が上がり,首が後傾しやすいこともあり,喘鳴は多い。こうした状態であ るため,飲食の際にはなるべくむせないよう気を付けている。 ○ 題材観 「給食」では,毎時食物形態や摂食・嚥下時の姿勢や介助方法等に配慮し,安全で快適な食事しや すい環境を整えながら,個別の指導計画に沿った食事にかかわる活動に取り組むなかで,食事に関す る基本的な力を育成している。 「給食」は,生徒の嗜好や健康を考えて様々な食材が使われ,たいへん多くの献立が用意されてい る。その一方,家庭では比較的子どもの好むものが用意されている場合が多い。そうした意味で,給 食は児童生徒の食べる力やコミュニケーションをはぐくむ一つの柱である。 重度の運動障害のある生徒の給食指導では,味の好みだけでなく,その形態,介助方法,食べるタ イミング,食器の大きさ,スプーン類等,テーブルに並ぶもの全てが教材である。その教材が生徒に とって適切になっているかを見極め生徒の食べる様子や表情を確かめながら,コミュニケーションを 深め給食をすすめていくことが,食べる楽しさを高め, 「生きる力」につながると考える。 ○ 指導観 自分で食べ物を口に運ぶことができない場合,生徒はスプーン等で口元や口の中へ運ばれた食べ物 を食することになるが,メニューや食形態,量,食べ物を口の中に取り込む位置,食べ物を口に運ぶ タイミング,食事姿勢等によって,食事の在り方が変わってくる。 食事は,生理的欲求によるものであり,極めて感覚的なものである。その感覚とは,味だけでなく, 大きさ,固さ,温度,匂い等をまとめたものであり,空腹感も影響する。こうした感覚への理解を大 切にするとともに,生徒の食べる力に応じた食事のすすめ方,食べる力を引き出す食事の在り方をみ ていきたい。つまり,食べたいから,食べたくなるから,楽しい食事になるのであり,食べにくい状 態は楽しくない食事になってしまう。食べやすさ,食べにくさ,食べたいという意欲等を理解し,そ れに応じた対応が給食指導では必要になると考える。 こうしたことを踏まえ,一人で食事を取ることの難しい生徒には,そうした息のあった食事(食事介 助)を行い,生徒が主体となる食事の在り方を求めていきたいと思う。 5 題材の目標 ○ 場面や活動内容に応じた身体の動きをする。 ○ 身体の変形を予防し,柔軟性を維持する。 ○ 呼吸状態や体温を整え,健康に過ごす。 ○ 食べる人が変わっても,食量をあまり変えずに食べる。 ○ 自分の意思をはっきり伝える。 6 指導計画 [ 全 185 時間 ] (本時 180/185) 毎時 飲食や咳,排痰のしやすさにかかわる自身の身体のコントロール,口唇閉鎖を意識した飲食,奥歯 での咀嚼,コップやストローでの牛乳の飲用,食事への要求表現の引き出し,食後の顔のマッサージ 7 本時の目標 これまでの様子 ○ 側彎の影響があり,左に向きやすい。友達の様子等興味が引かれることへ顔を 向けることが多いので,集団を右側にした座席配置にしている。右手の先が机か らはみ出ることが多くなってきている。 ○ 装具の影響があり,座位保持装置の長時間使用は熱がこもり,体力消耗につな がることがある。 ○ 周囲の環境により気が散漫になると食量が減る。周りの様子に楽しくなり,上 を向いて笑ったりしゃべったりするとむせることが多い。人の動きを気にして目 で追い続けてむせることもある。場面や介助者が変わると食量が減ることがある。 ○ 咳き込んだ後などは足底が外側に傾き,フットステップにしっかりと着かなく なる。 ○ 家庭では普通食だが,給食では飲み込みのしやすさと食量を増やすためにペー スト食を中心としており,これに加えて嗜好を大切にして普通食も少量食べてい る。 ○ 好き嫌いがあり少し食べてもすぐに口から出すこともある。食事の初めに食べ たがらなかったものでも,後半になると食が進むこともある。味の濃いもの,野 菜,麺,甘いものは好きである。好きな食べ物には口を開けて食事介助を待つそ ぶりをする。食に対する意欲が増してきており,好きな献立を食した後たずねる と「うま」と伝えることが多くなってきている。 ○ 食べる際に,捕食については口唇閉鎖をよくするようになった。奥歯での咀嚼 は左側が優位である。咀嚼は上手であり歯ごたえのあるものをよく喜ぶが,飲み 込む力が弱いときがあり,噛んだり啜ったりした食べ物が口から出ることがある。 飲み込みにくいときは,上を向き重力を利用して嚥下をする。 ○ 意識して身体をよくコントロールし,様々な身体部位を目的的に動かせる。動 かす際には,声かけをよく意識している。 ○ 液体は後傾位で飲用することが多かったが,ヘッドコントロールが安定してき ており,家庭で見られてきた前傾姿勢でのコップ飲用が,給食でも概ね見られる ようになってきた。飲用中,水分が口からあふれることがある。 ○ 対象物については,視線を向け続けることが多くなってきており,献立をよく 選択し,食の好みを明確に周囲に伝えている。 ○ 姿勢や飲み込み具合等から活動中,咳き込んだり排痰することがある。 ○ 苦手な時や気の進まないときには,食事の中盤以降「でた」と尿意を伝えるこ とが多かったが,最近はほとんどなくなってきており,落ち着いている。 ○ 顔のマッサージは好きであり喜ぶ。期待して待つ様子も見られる。上唇周辺に 過敏性が見られたが,少なくなってきている。 目 標 ○ 食事に概ね集中する ○ スム ーズに食事 を し,全量の7割は食す る。 ○ あまり体力を消耗し ないように食事をす る。 ○ 身体を正面にし,前 傾位になる等,飲食や 咳,排痰がしやすい姿 勢になるよう,自らコ ントロールする。 ○ 食べたいもの食べた くないものに対する要 求を繰り返し指導者に 伝える。 ○ 概ね口唇閉鎖をして 捕食する。 ○ 前傾姿勢で牛乳をあ まりこぼさずに飲む。 ○ 食事を楽しみ,活動 内容や指導者に自分か らかかわる。 ○ 奥歯での咀嚼,口に 含んだ水の吹き出しへ の経験を深める。 ○ 顔のマッサージに期 待感を持ち,喜んです る。 8 準備物 給食,エプロン,タオル,薬さじ,箸,予備食器,調理用はさみ,歯ブラシ,コップ,CDデッキ,食事 用音楽CD,ペーパータオル,ウェルパス 9 指導過程 学習活動・学習課題(・・・) ○支援事項・留意点 ☆評価 1 食べやすい姿勢が整うよ ○ リラックスした雰囲気の食事となるようBGMを準備する。流涎等で着衣 が汚れないようにエプロン等の準備をする。食べこぼしたものや痰を受ける う,意識して手や首を動か ペーパータオルを準備する。食事用の机を車椅子に取り付ける。肩ベルトを す。紹介された献立を意識し し,座位保持装置を前傾させる。食事姿勢について尋ね,必要に応じて手や て視線を向ける。 (5分) 首の位置を調整するよう声かけをする。献立を味見し,食物の粘度等を確認 する。生徒が見やすく体感しやすいようにして献立紹介をする。 ☆ 食事姿勢について確認し,必要に応じて手や首を動かしたか。献立を見て, 確認したか。 2 前傾姿勢で食事をする。 ○ 食事に集中しやすいよう,座席の配置や食事介助を工夫する。集中力が切 れたときは,一息入れて再度給食に集中するよう環境を整える。食べたい食 集中して食事をする。唇を尖 べたくないの要求が出やすくなるよう,食物をよく見るよう促す。表現が出 らせる等して,食べたいもの たら,献立を変え,スムーズなやりとりになるようにする。身体の正面で食 食べたくないものを指導者 物を食べるよう,固定した位置で食物を提示する。正面に向きにくい状態が に伝える。食物をよく見て, 続く時は,食物を盛ったスプーン等で下唇に合図を出し,身体の向きを正面 食事中適時食べやすい姿勢に にするよう促す。首の傾きや両唇の閉じ具合を確認しながら食事介助する。 なるよう意識して上半身を 食物は舌尖部周辺に置くように介助し,口唇閉鎖を促す。適時,飲み込みや コントロールする。首を前傾 すさや噛みやすさ等,課題に応じた食隗になるよう再調理し,また介助食器 させ口唇を閉じて食物を取 も使い分ける。コップで牛乳を飲む際は,顎を支え,器を下唇に当てて生徒 り込む。適度な硬さがあり噛 が首を前傾させるまで待ち,液面に上唇が触れているのを確認しながら介助 みやすい食物を奥歯で噛ん する。むせや痰が生じたら,咳や排痰がしやすい姿勢を促す。生徒の活動が で食べる。前傾姿勢で牛乳を 活発になるよう,状態や状況に応じた働きかけをする。食事中の疲労が過度 あまりこぼさず飲む。むせや にならないよう気を付ける。 排痰の際は,咳や排痰しやす いよう姿勢を整える。食事を ☆ 主体的な食事となったか。食事に集中していたか。要求を繰り返し指導者 に伝えたか。飲食や咳,排痰がしやすい姿勢になるよう,自らコントロール 介しての指導者とのやりと したか。概ね口唇閉鎖をして捕食したか。前傾姿勢で牛乳をあまりこぼさず りを深める。 (40 分) 飲用したか。奥歯での咀嚼に取り組めたか。 3 食後の薬をこぼさずに飲 ○ 歯を磨く箇所をガイドし,歯磨きへの協力を促す。歯磨き中,適時舌や唇 を指で押さえ,磨き難い所も歯ブラシを当てるようにする。歯磨き後の水で む。仕上げ磨きを意識して, は,前傾位をとり,一旦水を口に含み,その後吐き出すよう繰り返し働きか 大きく口を開ける。歯磨き後 ける。顔拭きへの期待感を高めるような働きかけをする。顔拭きでは,口唇 の水を口に含んだ後,吐き出 周辺や頬のマッサージも同時にする。 す。食後の顔拭きに期待感を 持ち,顔拭きを喜ぶ。 (5分) ☆仕上げの歯磨きに自らかかわろうとしたか。一旦口に含んだ水を吐き出すこ とができたか。顔拭きを楽しめ,口腔周辺のマッサージにもなったか。 ※ 全体を通して,活動内容や介助動作に対する声かけや動作の導入をする。窒息や誤嚥事故につながらないよ うに,表情や身体状況に気を付けて活動に取り組む。特に首の後屈に注意する。感染事故につながらないように, 手指等の清潔に配慮する。スプーンを上顎に擦り付ける等の食事に対する不快感が生じるような介助動作はしな い。食事がよりしやすいようにリラックスし,また活動中の体重移動がしやすくなるよう,膝・肩・股間・膝等 の関節が屈曲し,足底をフットステップにしっかりと着けた左右対称な姿勢を促す。 10 評価の観点 〔生徒の活動に関する評価〕 ○ 学習課題に応じた食事の学習に取り組めたか。 ○ 活動に対して主体的に取り組み,食事に意欲的であったか。 〔指導状況に関する評価〕 ○ 生徒が活動しやすいように,活動内容や健康面に対する姿勢・運動面への適切な支援をしたか。 ○ 活動に対して,自発的な動作や応答を十分待つ等生徒の主体性が引き出せるようなかかわりをしたか。 ○ 活動内容が生徒に分かりやすくなるよう教材・教具を適切に提示したか。 ○ 生徒の活動への取り組みに対して,生徒の意欲が高まるような評価を速やかに表現したか。 11 年間指導計画 ○ ねらい 個々の課題に基づいて,食事に関する基本的な力を付ける。 ○ 計画 年間を通して,個別の指導計画に沿った食事にかかわる活動を行う。 12 教室内配置図 略
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