終末期の症状緩和(倦怠感・輸液・鎮静)

あさひかわ緩和ケア講座 2013
あさひかわ緩和ケア講座 2013
第11講 終末期の症状緩和
(倦怠感・輸液・鎮静)
旭川医科大学病院
緩和ケア診療部 阿部泰之
あさひかわ緩和ケア講座 2013
がん終末期の特徴
A
B
C
体力・
機能
体力・機能
死
死
D
体力・機能
体力・機能
死
死
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身体症状が出現してからの生存期間
最新緩和医療学1999 恒藤
100
累積頻度
75
全身倦怠感
食欲不振
6~1か月
数週間
数日
数時間
ターミナル前期
ターミナル中期
ターミナル後期
死亡直前期
痛み
便秘
不眠
呼吸困難
50
悪心・嘔吐
25
混乱
死前喘鳴
腹水
(%)
不穏
腸閉塞
0
~60
45
30
生存期間
15
0 (日)
死亡
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終末期には何が大切?
•
•
•
•
心理的サポート?
周囲の配慮?
プライバシーの保たれた環境?
スピリチュアルな支え?
• これらも大切ですが・・
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身体症状の緩和が先決
スピリチュ
アルな問題
社会的な問題
精神心理的な問題
身体的な問題
シビアな身体症状により
他の苦痛はマスクされる
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終末期の症状緩和にあたって
• 決して言ってはならない
– 「手は尽くした」
– 「もう、できることはない」
– 「終末期だからしかたがない」
• 医学的評価を続ける
– 原因は何か、治療法にエビデンスはあるか
• その上でちょっとした大胆さも必要
– 長期の副作用は気にしない
– 不要な薬剤は整理する
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終末期の症状緩和にあたって
• 予測的対処・検討
– 予測できる症状に備える
•
•
•
•
倦怠感の増強
食欲不振、摂食不良
鎮静の可能性
・・・
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倦怠感
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倦怠感の定義
• 労作に比例せず日常生活を妨げるような極度
の疲労
NCCN, Practice Guidelines in Oncology, 2010
• 1次的倦怠感(Primary Fatigue)
– 腫瘍そのものによる倦怠感
→ケアが中心
• 2次的倦怠感(Secondary Fatigue)
– 貧血、感染や薬剤などに関連する倦怠感
→治療ができるかも
EAPC, 2008
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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倦怠感の疫学
• 倦怠感はがん患者におきる最も頻度の高い症状の1
つであり、有病率は78-96%と推定される
Portenoy RK, Oncologist, 1999
• 外来通院中のがん患者の58%で倦怠感が日常生活
に影響を及ぼしている
• 疼痛(22%)、嘔気・嘔吐(18%)より多い
Stone P, Ann Oncol, 2000
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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倦怠感のスクリーニング
• 患者(66%)は医師と倦怠感についての話
をしない
Passik SD, J Pain Symptom Manage, 2002
• 倦怠感の存在を想定して患者に聞く
• 表現は様々
– だるい、疲れやすい、億劫だ、こわい、動きたく
ない、重い、痛だるい・・
– どのような支障があるかを聞く
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倦怠感の評価
• 治療可能な倦怠感の原因を検索する
– 薬剤
– 痛み、不眠、発熱
– 貧血、高カルシウム血症、感染症
– 抑うつ、睡眠障害
など
• 倦怠感の原因は1つとは限らない
Wang XS, Clin J Oncol Nurs, 2008
• 倦怠感の原因が病期とともに変化していく
Barsevick, A. M, Clin J Oncol Nurs, 2008
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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倦怠感を来たす薬剤(意外と使ってますよ)
• 抗精神病薬
– セレネース、コントミン、リスパ
ダール、セロクエル・・
• 抗不安・睡眠薬
– セルシン、リーゼ、デパス、レ
ンドルミン、ロヒプノール・・
• 制吐剤
– プリンぺラン、ノバミン
• 抗ヒスタミン薬
– トラベルミン、アタP、ポララミ
ン・・
• オピオイド
– モルヒネ、オキシコンチン、フェ
ンタニルパッチ・・
• 鎮痛補助剤
– リリカ、ガバペン、テグレトール、
リボトリール・・
• 筋弛緩薬
– ミオナール、テルネリン・・
• 抗生剤(抗結核薬なども)
• 利尿薬(低Kのため?)・・
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倦怠感と抑うつ・睡眠障害
• 倦怠感と抑うつが関係している可能性
Respini D, Crit Rev Oncol Hematol, 2003
• 非薬物療法による睡眠障害の改善によって
倦怠感が軽減される可能性
Dirksen SR, J Adv Nurs, 2008
• 最後まで出来る限り睡眠覚醒リズムは整って
いたほうが良い(個人的見解)
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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倦怠感と抑うつ・睡眠障害
• しかしながら、抗うつ薬・睡眠薬は倦怠感のリス
ク薬剤でもある
• 抑うつとの鑑別も難しい
• 抑うつだったとしても、薬物療法の時間がない
• ミルタザピン(リフレックス®、レメロン®)はいい
かもしれない
– H1受容体遮断による鎮静作用
– 嘔気が少ない(むしろ制吐作用?)
– 抗うつ効果の発現が早い
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感 染
• 解剖学的変化や免疫能の低下を背景とした
感染が多い
• 腫瘍熱との鑑別が必要
• 緩和ケアを受けている患者の64%が抗生剤
の投与を受けている、72%が有効
Stiel S, Support Care Cancer, 2011
• 抗生剤投与前後で倦怠感は改善傾向 (有
意差は出なかった)
Mirhosseini M, J Palliat Care, 2006
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腫瘍熱
• 感染症の鑑別は必要
• ①悪寒戦慄に乏しく熱感のみのことが多い
②頻脈や精神状態の変化がないか軽度
③アセトアミノフェンに対する反応は乏しい
Chang JC, J Clin Oncol, 1985
• ナプロキセンテスト有用
Chang JC, Heart Lung, 1987
• ステロイドよりもナプロキセンが有効
Chang JC, J Pain Symptom Manage, 1988
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ステロイド
• ステロイドは進行がんに伴う倦怠感や、他の
原因による倦怠感を改善するかもしれない
Bruera E, Cancer Treat Rep, 1985
• 倦怠感に対する効果のエビデンスは十分で
はないが経験的に使用されている
• ステロイドは予後と効果・副作用を考えて使
用する
– 予後予測が3ヶ月未満の場合に投与を検討
– 高血糖、胃潰瘍、精神症状などの副作用
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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ステロイド
• ステロイドの定期投与 (処方例)
• ベタメタゾン(リンデロン®) 4~6mg/日を数日投与する
効果がない場合は中止し、効果を認める場合は漸減し、
効果の維持できる最小量 (0.5~4mg/日)で継続する
• 投与は昼頃までに行い24時間持続投与は
なるべく避ける
• 至適用量・投与法に関して明確なエビデンス
はない
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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神経刺激薬
• 本邦での実態調査
80%の緩和ケア病棟でメチルフェニデートを使用
半数の緩和ケア医が倦怠感に対して適応と考えていた
Matsuo N, JPSM, 2007
• ペモリンはメチルフェニデートと同様に倦怠感に有効
AIDS患者の倦怠感を対象としたランダム化比較試験(RCT)
Breitbart W, Arch Intern Med, 2001
• 精神刺激薬(メチルフェニデート)の有効性の予測因子
抑うつ、眠気があるかないかは有効性と無関係
倦怠感が強いほど有効
投与1日目に有効であれば、長期的に有効な可能性
Yennurajalingam S, Oncologist, 2011
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モルヒネ
• 倦怠感に対する効果のエビデンスはない
• が、潜在している疼痛や、倦怠感の訴え自体
が疼痛を表していることもある
• それまでに使用していなければ特に、使用を
検討する
• モルヒネの注射剤が良い印象
(これにもまったくエビデンスはなし、経験上)
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体力温存法(エネルギー温存療法)
• 患者とその介護者によるセルフケア
• 体力の消耗を避けるために意図的にエネルギー消費
を調節する
• 活動と休息のバランスを取ることで価値ある活動を
続けられるようにする
NCCN, Practice Guidelines in Oncology, 2009
• 患者が大事にしたいこと、優先したいことを一緒に
考えることが重要
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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運動療法
• がん治療中、治療後の患者にとって運動療法
は倦怠感を和らげる効果がある
Cochrane Database Syst Rev, 2008
• 終末期においては、倦怠感を強めるのでは?
という懸念もあるが、身体をほぐすような他動
運動など“手をかけること”による心身への好
影響はある(個人的見解)
PEACE緩和ケア研修会資料より引用改変
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悪液質の診断
• 12か月以内に5%以上の体重減少(もしくは
BMIが20Kg/m2未満)
+
• 5つのうち3つ以上を満たす
– 筋力低下
– 疲労感
– 食欲不振生活
– 除脂肪量低下
– 血液検査異常(炎症マーカー上昇、貧血、低アルブミン血症)
Evans WL, Clin Nutr, 2009
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栄養管理
前悪液質
悪液質
治療不応性悪液質
Normal
栄養療法の
適応
Death
栄養療法の
可能性あり
栄養療法の弊害
がでる可能性
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倫理の話
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倫理とは
• 対立する事象の選択など是非が問われる問
題に関して、論理的に(筋道を立てて)考えら
れるようにする方法、およびその学問
• 臨床の倫理的課題
–
–
–
–
–
–
人工妊娠中絶、人工授精、代理出産
出生前診断、遺伝子治療、クローン技術
安楽死、生命維持治療の差し控えと中止
脳死、臓器移植
医療資源の配分
研究倫理
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なぜ臨床で倫理が必要なのか
– 「医学知識(エビデンス)と技術がしっかりあれば
自ずと答えは出る。倫理なんて必要ない」?
• 価値観の違い、個体差、タイミング・・
• 同じ知識や技術であっても、目的と状況に
よって答えは変わる
– 患者、家族、医師、コメディカル間で考えの不一致
– 前回は上手くいったのに今回は上手くいかない
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倫理的な考え方ができないと
• 行き当たりばったりで、一貫した考えがない
or
• 状況に応じた柔軟性がなく、いつも同じ対応
• 倫理的考え方を身につけることで、是非の問
われる状況も論理的に判断できるようになる
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終末期には
• 倫理的判断を要する課題が多い
–
–
–
–
–
–
補液をしないでいていいのか
持続的鎮静の適応はどうか
輸血をするべきなのか
散歩に連れ出しても大丈夫か
決定を家族に委ねてもいいか
・・・
• 少なくとも輸液と鎮静のことは倫理的問題
(知識があればいいというものではない)
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輸液(と栄養)
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終末期の輸液(と栄養)
• がん終末期には、摂食量が減っていく
• 食べなくちゃ、食べさせなくちゃ、でも食べれ
ないという苦痛を生じる
• 輸液はしたくないという患者、輸液をしてほし
いという家族、輸液をどうしたいいかと悩む
医療者・・
• 輸液をしない=餓死なのでは?:倫理的葛藤
→論理的に考えておくべき問題
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判断材料としての医学知識
• 患者・家族はさまざまな考えを持っている
– 「輸液をしないと必要な栄養が得られない」
– 「輸液をしないと死期が早まる」
– 「水分補給をしないと患者が非常に苦しくなる」
– 「輸液のせいでさらに苦痛が増える」
Parkash R, et al. J Palliat Care 1997
Morita T, et al. Am J Hosp Palliat Care 1999
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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判断材料としての医学知識
• 経腸栄養(胃管、胃瘻など)の適応
– 一時的に経口摂取が不可能な状態
– 神経障害:嚥下障害など
– 口腔内、頸部、上部消化管の機械的閉塞
Shike M. Hematol Oncol Clin North Am, 1996
• 終末期の経腸栄養
– 死が近づいた時には、ほとんどの患者に必要なも
のは少量の食物と水分のみである
Arends J, et al. Clinical Nutrition 2006
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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判断材料としての医学知識
• 終末期の高カロリー輸液
– 経口摂取、経管栄養ができない
– 腫瘍の進展より早く飢餓による全身状態悪化が
予想されるとき(典型的には嚥下障害や消化管閉
塞の場合)、予後が2-3カ月あるとき
Bozzetti F, et al. Clinical Nutrition 2009
• 高カロリー輸液の合併症
Whitworth MK, et al. JCO 2004
– 9-22%に起こる
– 感染、敗血症、血栓塞栓、肝障害
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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判断材料としての医学知識
• 終末期の輸液により
– 意識障害、ミオクローヌス、嘔気が改善する
可能性がある
Good P, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2008
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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判断材料としての医学知識
• 1000ml以上の輸液により、腹水による症状が悪化
する可能性がある。
1
症状 強い
0.9
0.8
:輸液群(n=59)
:非輸液群(n=167)
0.7
0.6
P=0.005
0.5
死亡3週間前
死亡1週間前
死亡1週間前
T. Morita, Ann Oncol. 2005
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判断材料としての医学知識
• 輸液は口渇を緩和しない
– 丁寧な看護ケアが有効である
–水分の摂取、氷片、口腔ケア
Fainsinger RL, et al. Support Care Cancer 1997
McCann RM, et al. JAMA 1994
終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン 2006
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判断材料としての医学知識
• 生命予後が数日と考えられる患者に気道分泌によ
る苦痛を認めた場合、気道分泌による苦痛の緩和を
目的として
– 抗コリン薬やケアを行う
– 輸液量を500ml以下に減量または中止するた
めには、予後を予測する必要がある
終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン 2006
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判断材料としてのケア・工夫
• 「何かをしてあげたい(何もしてあげられな
い)」という気持ちに対して傾聴・共感し、対応
する
• ケアをしていることを示す他の方法は?
– 必要とされていることを伝える
– 清潔ケア
– マッサージやタッチング
McClement, et al. J Palliat Med 2003
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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判断材料としてのケア・工夫
• 食事の工夫に関する提案をする
– 患者・家族とともに考える
– 栄養士・NSTへのコンサルテーション
• 輸液や栄養の代替手段について検討する
– 『何かしてあげたい気持ち』への配慮
– 日常のケア、口腔ケア、水分や氷片
• 心地よさを提供し、見捨てないことを保証
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
あさひかわ緩和ケア講座 2013
判断材料としてのケア・工夫
• 一般的なこと
– 少量で(食べられそうな量で)用意
– おいしそうな盛り付けを工夫
– 親しい人たちと一緒に楽しく
• 食事の時間・回数・カロリー
– 食べたい時に食べたい量を、分食も考慮
– 間食の活用(カステラ、プリン、アイス、フルーツなど)
– 栄養価や量にとらわれず、食べられる物を
がん緩和ケアガイドブック 2008
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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判断材料としてのケア・工夫
• 消化がよい料理
– おかゆ、うどん、雑炊など
• 口当たりがよい料理
– 茶碗蒸し、そうめん、ゼリー、シャーベットなど
• においへの配慮
– 冷たくして食べるとよいことがある
• 味付けの工夫
– 味覚が変化:おいしいと感じる味を探す
がん緩和ケアガイドブック 2008
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
あさひかわ緩和ケア講座 2013
判断材料としてのケア・工夫
• つらくない姿勢で
– 飲み込みやすい(嚥下しやすい)体位で
• 患者のペースに合わせて
• 適切な量で
– 無理に口に入れると誤嚥の原因になる
– 嚥下機能が低下していることがある
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
あさひかわ緩和ケア講座 2013
輸液と栄養の検討
• 輸液に関する患者・家族の考えを尋ねる
• これからの過ごし方の意向を共有する
• 医学的・倫理的観点から検討
– 輸液や栄養が意向に沿うか
– 利益と不利益はなにか
• これら全体のバランスを考えて決定
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苦痛緩和のための鎮静
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苦痛緩和のための鎮静は倫理的問題か
• 極めて低いが⽣命予後に影響する可能性
• 患者の尊厳に直接かかわる問題
• 早すぎれば過剰な鎮静となる
• 遅すぎれば無⽤な苦痛を与える
• “施⾏”に⾄る“思考”が重要!
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鎮静実施のアルゴリズム
(1) 耐えがたい苦痛
and
(2) 治療抵抗性の苦痛
(3) 全身状態・生命予後の評価
(4) 患者・家族への説明と意思確認
鎮静の希望あり
鎮静の
希望なし
適応外
浅い鎮静・間欠的鎮静
無効
深い持続的鎮静
PEACE project 緩和ケア研修会
プレゼンテーション資料より引用改変
あさひかわ緩和ケア講座 2013
安楽死(euthanasia)
• 相当の混乱が生じている
– 「きっとつらいと思うので死なせてあげた」
→慈悲殺
– 「死にたいというので薬を持たせた」
→自殺幇助
– 「死にたいというので塩化カリウムを注射した」
→自発的積極的安楽死
– 「延命は不要という患者に人工呼吸をしなかった」
→自発的消極的安楽死
– 「死期が迫っており、苦痛の除去を目的として鎮静剤を投与した。
副次的に死が早まった」
→間接的安楽死(?)
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苦痛緩和のための鎮静は安楽死か
鎮静
意図
方法
苦痛緩和
苦痛が緩和される
だけの鎮静薬の投与
積極的安楽死
患者の死亡による
苦痛緩和
致死性薬物の投与
意図と方法の相違により、鎮静と積極的安楽死は
異なる医療行為だという考えが一般的
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
あさひかわ緩和ケア講座 2013
鎮静の分類
持
続
的
間
欠
的
深い
浅い
【持続的深い鎮静】
【持続的浅い鎮静】
終末期の場合「亡くなるまで」
最も倫理的配慮が必要
うとうとしているが話せる
浅くても苦痛軽減するとき
【間欠的深い鎮静】
【間欠的浅い鎮静】
夜だけ鎮静する
苦痛に波があるとき
苦痛を伴う処置時 など
睡眠補助程度の使用
せん妄に対するHPDの使用
(通常治療範囲内か?)
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鎮静の対象になりうる症状・・・
•
•
•
•
•
•
•
せん妄(臓器不全を伴わないせん妄は除く)
呼吸困難
過剰な気道分泌
疼痛
嘔気・嘔吐
倦怠感
痙攣・ミオクローヌス
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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・・・鎮静の対象になりうる症状
• 不安
• 抑うつ
• 心理・実存的苦痛(スピリチュアルペイン)
※不安、抑うつ、心理・実存的苦痛のみで深い
持続的鎮静を行うコンセンサスは得られていない
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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鎮静実施のアルゴリズム
(1) 耐えがたい苦痛
and
(2) 治療抵抗性の苦痛
(3) 全身状態・生命予後の評価
(4) 患者・家族への説明と意思確認
鎮静の希望あり
鎮静の
希望なし
適応外
浅い鎮静・間欠的鎮静
無効
深い持続的鎮静
PEACE project 緩和ケア研修会
プレゼンテーション資料より引用改変
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耐え難い苦痛であることの判断
• 患者自身が耐えられないと表現する
あるいは
• 患者が表現できない場合、患者の価値観に
てらして、患者にとって耐えがたいことが家
族や医療チームにより十分推測される
→苦痛は耐えがたいと評価
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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治療抵抗性の定義
• 全ての治療が無効
あるいは
• 患者の希望と全身状態から考えて、予測さ
れる生命予後までに有効で、かつ、合併症の
危険性と侵襲を許容できる治療手段がない
→苦痛は治療抵抗性と評価する
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
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チェックリスト
資料 治療抵抗性判断のためのチェックリスト
鎮静を考慮している苦痛を同定し,以下の項目について確認してください。
①せん妄
□ 環境調整を行ったか。
□ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。
(高カルシウム血症,低ナトリウム血症,高アンモニア血症,感染症,低酸素
血症,血糖異常,脱水,脳腫瘍など)
□ 薬剤の調整を検討したか。
(必須ではない薬剤・神経毒性を有する薬剤の減量・中止・変更)
□ 疼痛・呼吸困難など緩和されていない苦痛の治療を検討したか。
□ 残尿,便秘による不快がないか。
□ 向精神薬投与を検討したか。
http://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/2010/index.php
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特に注意すべきこと
• 高カルシウム血症
– 進行~終末期がん患者には高頻度に認める
– カルシトニンとビスフォスフォネートで治療可能
– 半数は30日以内に亡くなる
• 抑うつ(うつ病)
– 食欲不振、体重減少など、多くの身体症状ががんの症状
とかぶる
– 薬物療法が進歩して安全な治療が可能となってきた
• 肝不全
– 終末像としての肝不全にアミノ酸製剤などを使うと、苦し
みを味あわせるために覚醒させる結果になることもある
あさひかわ緩和ケア講座 2013
鎮静に用いられる薬剤
• 注射剤:一般的
– ドルミカム® (ミダゾラム)
– ロヒプノール® (サイレース® )
– アタラックスP®
– 坐剤:在宅でも使用可能
– ダイアップ®
– セニラン®
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鎮静に用いられない薬剤
• オピオイドの増量は・・・
• 意識の低下をもたらす作用は弱い
• 深い持続的鎮静に用いる主たる方法としては
推奨されない
• 疼痛および呼吸困難を緩和するためには必
要なので併用してよい
PEACE project 緩和ケア研修会プレゼンテーション資料より引用改変
あさひかわ緩和ケア講座 2013
鎮静に用いられない薬剤
•
•
•
•
•
•
ハロペリドール(セレネース®)など抗精神病薬
特に大量となった場合
あれは“眠っている”のではない
いわゆる「ミネラリゼーション」
苦痛を訴えられなくなっているだけ
単独・大量使用は推奨されない
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家族の満足度
• 78%の遺族は鎮静に満足
• 25%は強い精神的苦痛
• 家族が精神的につらくなった要因
– 鎮静後に苦痛が十分に緩和されなかった
– 意思決定の責任を負うことが負担これから
– 患者の状態の変化に心構えができていなかった
– 医師や看護師に気持ちを十分に汲み取ってもら
えないと感じた
緩和ケア病棟の遺族280名を対象とした質問紙調査
あさひかわ緩和ケア講座 2013
そうはいっても・・・
• 結局は、やはり私が“ 手をかけた” のではない
だろうか・・・(医師)
• 眠らせる前に、もっとできることがあったので はな
いか・・・(スタッフ)
• 私が「もういいです」って言ったために、早く 逝か
せてしまった・・・(家族)
• つらい時に「眠る?」って聞かれたから「うん」 と
言ったけど、こんなつもりじゃなかった(患者)
あさひかわ緩和ケア講座 2013
苦痛緩和のための鎮静は
• 誰でも迷っている、悩んでいる
• 確たる自信を持っているのは・・・危険
• だからこそ
• 慎重に適応を判断し
• 決して1人で決めず、相談し
• 患者・家族とも一緒に悩む
• このプロセスを大事に!
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Take Home Message!
 終末期の症状緩和をあきらめずに行うことが大切
 倦怠感は“忘れ去られた”症状であり、積極的に聞
いていくことが必要
 2次的倦怠感の原因を突き止めて治療する
 終末期には倫理的判断が必要となる場面が増える
 終末期の輸液は利益と不利益をよく考えて施行する
 苦痛緩和のための鎮静と安楽死の違いを知る
 チームでの十分な判断のもと鎮静を行う
あさひかわ緩和ケア講座 2013