第一章 マリンエンジンメーカー マリンエンジンのすべて すト べー てハ にツ 迫の る photography by KAWAI Shinya 56 OCEAN LIFE ブランドヒストリー photography by “SUSHI” トーハツ (株) の本社で保管中のオリジナルオートバイ 「ラ ンペット」 。バイクでも一世を風靡した。 その後の再建の過程でも船外機は非 日本初のアウトボードエンジン 常に順調で、1970年にはロングセラーモ トーハツ (株) が、 その産声を上げたの デルとなる 「B13A」 (8馬力) を開発。この は1922(大正11)年のこと。この年の4 モデルはマイナーチェンジをしつつも15 月、 トーハツ (株) の前身に当たるタカタモ 年間も販売が続いた優良機種だった。 ーター研究所が、高田益三によって設立 1971年、更生法手続が完了する。また同 される。同研究所は発動機付き揚水ポン 年、船外機では「B10A2」 「B30A」 と相 プを製造、東京の公共機関に納入し、高 写真提供=トーハツ (株) 最新鋭のテクノロジーが導入された115馬力モデル・MD115A。 い評価を受けた。経営が軌道に乗ってき た1925年、タカタモーター企業社に改変 され、同社は国産初の軌道用モーターカ 次ぎ新型機種を市場に投入する。これは 外国製船外機の輸入が完全自由化にな り、競争が激化した背景があった。 の指定は解除される。志村の東京工場は 1972年、社名をトーハツ (株) に改める。 ー 「MF-70A」 を製作。その後、陸軍の要 幸いにも戦禍を免れ、終戦後の1945年 この頃には船外機が同社の主力となる。 請により無線通信用の発電機や、鉄道省 暮れには再稼働の準備が始まり、翌年1 1974年には国内販売の2倍以上が輸出 からの発注で可搬発動発電機を製造して 月からは操業を再開した。再開後は軌道 されるようになる。新機種の発表もアメリ いる。1932年には、個人会社から資本金 用モーターカーや、漁船用の発動機を製 カやオーストラリアで先に行われるように 50万円で、タカタモーター製作 (株) に改 造。1949年には国産初の可搬消防ポン なった。1976年には「M35A」 (35馬力) 組する。初代社長は高田ではなく研究所 プを開発する。消防の世界ではトーハツ を国内発売。この船外機は国産500ccク の設立に尽力した武井銀次であった。 のポンプは圧倒的なシェアであり、船外機 ラスの船外機の先鞭となる。しかも1977 1935年、国内では初めてとなる船外機の この頃に現在の礎が築かれた。 と同様、 年以降、熱海レースで連続制覇を果たし、 製造に成功する。 「2F-50」 というモデル その後、 トーハツは二輪用発動機にも目 高い評価を受けることになった。その後 で、2ストローク、2気筒、3馬力というスペ を向ける。当初は自転車に取り付けるタ は船外機と消防ポンプを二つの柱として ックだった。小型艇の船べりに簡単に取 イプのエンジンを製造するが、1951年、 トーハツは発展を遂げることになる。その り付けられる船外機で、当時は 「操舟機」 「トーハツ・バンブル・ビー号」 を発売する。 後、1984年に新経営陣は、以前から所有 「舷外機」 などという呼称も用いられた。今 1953年には「バビー号」 を発売。その後、 していた不動産を利用した賃貸事業もス や世界で圧倒的なシェアを誇る日本製船 トーハツは二輪と消防ポンプを軸に急速 タートする。 外機の誕生だった。 に発展した。1955年には二輪でシェアト 1988年にはマーキュリーの親会社であ 1937年、 それまで品川にあった工場 ップを誇るようになる。船外機は1935年 る米国のブランズウィック社との合弁によ を、板橋区志村町 (現・小豆沢3丁目) に移 の国産初以降はしばらくブランクがあった り、 トーハツマリーンを立ち上げる。そして 転。1939年には東京発動機 (株)へと改 が、1956年に1.5馬力の「OB型」 を開発 1990年には自社独自のフィッシングボー 名する。それと同時に役員は創業者であ し、再び船外機の分野へ進出を果たす。 トの開発にも乗り出す。1998年、 トーハツ り常務取締役となった高田を除いて退任 1960年代初頭にはランペットという一世 初の4ストローク船外機を開発する。一 した。1940年、国家総動員法に基づき、 を風靡する二輪車を発売した。60年代 方、2000年には、2ストロークの直噴化、 軍の協力管理工場となり、唯一の小型ガ は経営悪化で困難な時代を迎えるが、 そ TLDIを開発する。経営方針に「社会貢 ソリンエンジンの軍需工場に指定された。 んな中でも船外機は圧倒的なシェアを誇 献」 を掲げる同社の環境保全への答えが 戦中の1943年、東京空襲が予想される った。60年代初頭の生産実績は日本全 4ストロークと直噴2ストロークとなった。 中、長野県岡谷での新工場建設が決ま 体で1万2000台程度であったが、 そのう 2002年、米国ダラスにアメリカの販売会 る。1944年、創業者の高田益三が初め ちの1万台近くをトーハツが占めていたの 社となるTAC(トーハツアメリカ) を設立、 て社長に就任する。 だ。しかし二輪の業績悪化から1964年、 2003年には駒ケ根に新工場を建設し、 会社更生法の適用を受ける。 現在に至る。 1945年8月の終戦とともに、軍需工場 OCEAN LIFE 57 第一章 マリンエンジンメーカー トーハツのすべてに迫る マリンエンジンのすべて ト ッ プ イ ン タ ビ ュ ー フルスロットルで降りていき、 さまざまな走 実際にトーハツでは、漁の解禁に向け安 行テストを行ったそうだ。実際に横に乗っ 全操業を目指し操業前点検を販売店中心 ている金子さんにしてみれば非常に厳し に行っている。その操業前点検をメーカ い体験だったそうだが、 今になってみれば ーとしても支援している。その結果、漁場 良い思い出になっている。 でのトーハツ船外機の実情把握ができ、 その頃から、せっかく海に関わりを持 ち、 マリンエンジンを作っているメーカーに 吸収できるのだ。 いるのだから、 とボートにも乗れるように 「常に良い品質のものを作り続けていか なりたい、 という想いがあったそうだ。そ なければならないんです。そして品質向上 のため会社の優遇制度を利用して小型船 とコスト低減、 この二つを実現する。今ま 舶免許を取得した。管理部門を歴任して での品質以上であり、 どんな環境下で使 きた金子さんだが、ボートに乗れるように われても良いような商品、 それを常に目指 やかな笑顔を絶やさない金子満さ 穏 なれれば、 自社製品に愛情を持つようにも しています」 んは、 日本で初めて船外機の製造 なると、 今でもその姿勢は変わらない。当 販売を行った歴史を持つトーハツ (株) の 然、現在でも社員への免許取得補助は行 金子さんは、 その上で顧客満足と社会貢 トップである。現在は長野県の駒ケ根に っているという。 「乗る喜び、造る喜び、 レ 献を果たしていくことが大切だと語る。顧 新たに構えた大規模な工場でほとんどの ジャーへ参加する喜びの創造」そういうス 客満足を充実させるために表す言葉とし 船外機を製造、世界でも有数の船外機メ ローガンを謳う同社だけに、自社製品へ て 「3つの"S"、3S」 を挙げる。3Sとはセー ーカーとして知られている。またトーハツは の愛情、ひいてはユーザーへのサービス ルス、 サービス、 サービスパーツの3つ。セ 船外機以外にも消防用ポンプの国内マー の充実につながればと実施しているのだ。 ールスはしっかりとした販売網を指す。サ と、同社のメーカーとしての姿勢を語る。 ケット50%以上のシェアを誇るトップメーカ 実際に現在の社員にも趣味が釣りとい ービスはユーザーやディーラーへの例え ーでもある。そんな同社の代表取締役社 うスタッフは多く、船を仕立てて釣りに行 ばクレーム処理の仕方やいかに顧客の希 長に2006年6月に就任、現在に至る。 ったり、 トーハツの所有艇を使ったウエイ 望を適えるかなどソフト面での対応のこ 金子さんがトーハツに入社したのは クボード、花火大会の観覧などが行われ と。そしてサービスパーツはいかに滞りな 1971年のこと。もともと管理部門のスタッ ているという。またマリンスポーツ財団が くパーツの供給を行うか、 いわばハード面 フとして入社したが、当時は技術系スタッ 行う、 キッズ体験乗船会や親水事業への でのサービスを指す。これら3つの"S"に フの支援要員として良く新型船外機のテ 人員派遣などを実施しており、 子どもたち よってトーハツでは顧客満足度を高め、 さ ストに駆り出されたという。もちろんテスト への海の遊びの普及、将来のマリンスポ らには商品を通した地域社会への貢献を であるから四季を問わずで、真冬は安全 ーツの普及活動を行っている。 果たしていくという。 靴にヘルメットという出で立ちでテスト艇 photography by “SUSHI” 多くのフィードバック、まさしく現場の声を 社長就任後も精力的に各地を回ってい なかなかプライベートでボートに乗る機 に乗り込む。ガソリンの補給を行ったり、 る金子さんだが、 やはり常に現場の声に 会は無いそうだが、 自らボート免許を取り 速度などのデータ取りをしたりというのが は耳を傾けているようだ。営業・技術のス 「自社製品に愛情を持つ」 と社員に教育し テスト時の任務。今から30年以上前の タッフとともに利尻、礼文島の販売店を訪 ていく姿、 さらには自ら現場の顧客の声を 話、 とのことだが当時の技術系スタッフは、 れた時には、昆布漁で小型船外機を利用 吸収する姿は、物作りを行っていくメーカー 金子さんのお話を聞く限りかなりワイルド している漁師さんたちから、率直な言葉 のトップの鑑であり、翻ってはそれが同社 だった様子。テスト艇となる和船で荒川を が返って来て非常に参考になったという。 の製品の信頼にもつながっていくのだろう。 photography by “SUSHI” トーハツ(株) 金子 満 ユーザーから生の声を聞き、製品へのフィードバックを行う。金子さ んご自身も、自ら現場へ出て行き漁業者と話すこともあると言う。 さん 代表取締役社長 1971年入社。財務・総務・不動産などの管理部門に一貫して携わり、 2006年1月にトーハツマリン社長に就任、 その年の6月にトーハツ (株) の代表取締役社長となる。 写真提供=トーハツ (株) 58 OCEAN LIFE 写真提供=トーハツ (株) OCEAN LIFE 59 第一章 マリンエンジンメーカー トーハツのすべてに迫る マリンエンジンのすべて トーハツエンジンラインアップ エンジン名 気筒数 MD115 MD90 MD70 4気筒 MD40 最大出力 115馬力 総排気量 1,768cc 1,267cc 697cc 88×72.7mm 86×72.7mm 68×64mm ボア×ストローク 90馬力 70馬力 始動方式 リモートコントロール 前進/中立/後退 2.0(13:26) 2.0(13:26) トランサム高 2.33(12:28) 駒ケ根工場。船外機生産を一手に引き受ける。 L:530mm/UL:657mm 無鉛レギュラーガソリン オイルタイプ 純正オイル (MDプラチナ) フューエルタンク オルタネーター出力 1.85(13:24) L:517mm/UL:644mm 燃料 重量(最軽量値) 40馬力 リモートコントロール/バーハンドル ギアシフト 減速比 50馬力 エレクトリックスタータ コントロール方式 TLDI MD50 3気筒 25Lポータブル 178kg 143kg 12V490W(40A) 94.5kg 12V280W(23A) 最大使用回転範囲 photography by KAWAI Shinya 5,150∼5,850rpm トーハツTF250SC MD115搭載モデル。 エンジン名 MFS30 気筒数 最大出力 総排気量 MFS25 MFS20 30馬力 25馬力 20馬力 コントロール方式 9.9馬力 9.8馬力 8馬力 リモートコントロール/バーハンドル リモートコントロール/バーハンドル 2.15(13:28) S:413mm/L:562mm 12Lポータブルタンク 重量(最軽量値) 71.5kg 51.5kg 37kg 12V180W(15A) オプション:12V145W(12A)エレクトリックスタート仕様は標準 オプション:12V80W(6A)エレクトリックスタート仕様は標準 5,400∼6,100rpm MFS2 4馬力 3.5馬力 2馬力 85.5cc 55×36mm マニュアル バーハンドル 前進/中立/後退 前進/中立 2.08(13:27) 2.15(13:28) API分類SF、SG、SH、SJ級のSAE 10W-30/40 12Lポータブルタンク 5,000∼6,000rpm MFS3.5 無鉛レギュラーガソリン API分類SF、SG、SH、SJ級のSAE 10W-30/40 5,250∼6,250rpm MFS4 S:435mm/L:562mm 無鉛レギュラーガソリン 25Lポータブル 最大使用回転範囲 5馬力 59×45mm 55×44mm フューエルタンク オルタネーター出力 6馬力 123cc エレクトリックスタータ&マニュアル/マニュアル L:522mm/UL:679mm MFS5 209cc 61×60mm 1.92(12:23) MFS6 1気筒 前進/中立/後退 オイルタイプ OCEAN LIFE MFS8 エレクトリックスタータ&マニュアル/マニュアル 燃料 60 MFS9.8 2気筒 351cc ギアシフト トランサム高 15馬力 526cc 始動方式 減速比 MFS9.9 2気筒 ボア×ストローク 4ストローク MFS15 3気筒 5,000∼6,000rpm 5,000∼6,000rpm 12Lポータブルタンク/1.3Lインテグラルタンク 1.3Lインテグラルタンク 25kg 26kg オプション:12V60W(5A) 4,500∼5,500rpm 1.0Lインテグラルタンク 18.4kg なし 5,000∼6,000rpm 4,500∼5,500rpm OCEAN LIFE 61 第一章 マリンエンジンメーカー トーハツのすべてに迫る マリンエンジンのすべて トーハツエンジンの 2ストローク&4ストローク 写真提供=トーハツ (株) 米国での評価が高まるTLDI。 MD115の透視図。 提供=トーハツ (株) 提供=トーハツ (株) MD115のスケルトンイラスト。 提供=トーハツ (株) 本で販売されているトーハツの船外機 日 ラインアップには現在、2ストロークと4 ストロークのモデルが、馬力帯を違えて併存 している。30馬力以下の小型モデルは4ス トローク、40馬力以上の中・大型モデルは2 ストロークという風に大きく分けられている。 近年のエンジンの排ガス規制の流れを受け て、現在のラインアップが形作られてきた。 本来同社は一貫して2ストローク路線を 歩んできた。しかし米国の排ガス規制に 対応するにはどうしたら良いか、同業他社 のビッグパワー路線に対抗するにはどうす れば良いか、 それを念頭に置いて検討し 提供=トーハツ (株) 提供=トーハツ (株) た結果、40馬力以上は2ストローク、 「直 噴」路線を進むことになったのだ。2スト ロークのシンプル、軽量コンパクト、パワフ る訳では無い。そうなるとメンテナンスの TLDI船外機にはインディビジュアルセ 2ストロークでここまでたどり着くにはト ルの特徴を活かしつつ、排ガス規制をク 関係でどうしても従来モデルの2ストロー ンサーと呼ばれる多数のセンサー類を搭 ーハツのたゆみない研究開発と工夫の努 リアするには? その答えが、直噴に結び クは必要になってくるという。 載し、 これらのセンサーで刻々と変化する 力の積み重ねがあった。そこに少しのき つく。大馬力モデルはさまざまなデバイス トーハツ製小型4ストロークモデルは世 エンジン各部の状況を即座に把握してい っかけがあり、世界的にTLDI――直噴 を着けてもコスト・メリットをキープすること 界的に高い評価を受けている。しかしト る。さらには運転状況や操作環境を判断 タイプの2ストローク船外機が見直されて は可能である。そのため他社があまり手 ーハツの真骨頂は何と言っても2ストロー し、最適な燃料噴射を制御する32ビット きた。アメリカでエビンルードの直噴2ス を広げていない2ストロークの道を進むこ クモデルにある。もちろん現在の2ストロ ECU (Engine Control Unit ) を搭載。 トロークモデルであるE-Tecシリーズが とになる。しかし30馬力以下の場合、環 ークモデルは直噴タイプの環境対応が念 最新鋭のテクノロジーが導入された船外 伸びた結果、 トーハツのTLDIが再評価 境対応のためにさまざまなデバイスをつけ 頭に置かれた高性能モデルだ。 機なのだ。ECUは燃料噴射量、タイミン されることになったのだ。2ストローク本 るのはサイズ的にもコスト的にも合わない。 同 社 の 2 ストローク船 外 機 は T L D I グ、点火時期を制御する。TLDI筒内直接 来の加速性、メンテナンスが少なくすむ点 (Two-stroke, Low pressure, Direct 燃料噴射方式と呼ばれる、直接に気筒内 などが評価されている。もちろんオイルは 進むことになった。その他、現在も従来型 Injection) と呼ばれる直噴機構を採用し に燃料を噴射することでより 「クリーン&エ 消費するが、良質のオイルを入れておけば の2ストローク (キャブ仕様) は製造してい ている。その特徴は2ストロークならでは コノミー」 を実現。またTLDIのピストンは 良い。直噴の場合、オイルもいっしょに燃 る。これはアフリカや南米などの排ガス規 の「コンパクト」 「加速パワー」 、 さらに 「クリ 専用開発された凹型状のホールが施され 焼させている。だから本来CO2やNoX 制の無い国向けである。重量・パワフル ーン&エコノミー」 という要素が加わってい た特殊なもの。これにより飛躍的に燃料 を減少させるのは困難なはずであり、規 結果こちらは独自の4ストローク化の道を photography by KAWAI Shinya さ、メンテなどの現状を考えると規制のな る点だ。実際に、2ストロークモデルなが 効率がアップしている。さらには音も2ス 制をクリアするのも困難なはず。しかしな い地域では圧倒的に2ストロークの需要 ら、TLDIシリーズはEPA(アメリカ合衆 トロークとは思えないほど静かだ。特にア がらこれらをクリアした事実。TLDI、 トー がある。アフリカや南米では、 日本や欧米 国環境保護庁) や日本舟艇工業会自主規 イドリング時の排気音を低減し、 トローリン ハツの2ストローク直噴船外機のパワーと のようにどこにでもサービス店が揃ってい 制などの排気ガス規制をクリアしている。 グ時の快適な走行を実現しているのだ。 環境性能をぜひとも体験して欲しい。 揖斐川河口を行くTF250SC搭載のMD115。 62 OCEAN LIFE OCEAN LIFE 63 第一章 マリンエンジンメーカー トーハツのすべてに迫る マリンエンジンのすべて イ ン タ ビ ュ ー 取 締 役 営 業 本 部 長 マ リ ン 営 業 部 長 若 林 弘 ト ー ハ ツ ︵ 株 ︶ さ ん う。例えばマリーナでボートユーザー同士 イ ン タ ビ ュ ー で呑む。そんな時に新しいエンジンを搭 取 締 役 載したと言っても、DIであっても2ストロ ークと聞いただけでそっぽを向かれたほ 技 術 部 長 どだ。しかし近年はその流れに変化が見 えている。 トーハツのTLDIだけでなく、 マ ーキュリーのOpti-Max、 ヤマハのHPDI などの直噴タイプが再評価されている。明 らかな意識の変化が観られるという。その きっかけとなったのがエビンルードのETecだ。世界で初めて船外機を造り、今 年100周年を迎えたエビンルードが満を 持して投入したE-TecもTLDI同様に直 噴タイプの2ストロークテクノロジーである。 広 瀬 光 夫 ト ー ハ ツ ︵ 株 ︶ さ ん エビンルードの精力的なプロモーショ ちの強い意志が反映されているのだろう。 広瀬さんが近年携わっていた可搬消防 ポンプは、本来であれば船外機との共用 がかなり難しい商品。もちろん個々の部品 での共用は多少あったものの、エンジン ブロック自体の共用は、ポンプが横型、船 外機が縦型でなかなか進まなかった。し かし最新の4ストローク可搬消防ポンプ の「VF53AS」 「VF63AS」は、唯一の4 ストロークタイプであるとともに、30馬力4 ストローク船外機「MFS30」のブロックが ベースになっている。 従来、 可搬である以上、軽量化が必須。 そのためどうしても2ストロークエンジンが ンのおかげでアメリカ市場では直噴タイプ 主力とならざるをえなかった。しかしパワ の2ストロークの良さが広まる。4ストロー ーヘッドを縦のままポンプユニットを下に持 クから2ストロークへの回帰ともいうべき ってくるという新発想で「VF」は開発され 現象が起きているそうだ。実際にE-Tec た。しかもFIモデルであり、バッテリーレ は全ラインアップでCARBの3スターを取 スエンジンというのは業界初だった。消防 ポンプは非常用でありバッテリーレスは重 得している。トーハツのTLDIもエンジン photography by “SUSHI” を模索する姿は、広瀬さんたち技術者た photography by “SUSHI” ブロック単体で見るとE-Tecに遜色ない 要なメリットとなった。静かで煙が出ない という。例えば静穏性では負けない。E- 上に、FIは燃料劣化が少ないというのも Tecは分厚い遮音材を使っているが、カ 大きなポイントだ。従来、 キャブのフロート AC (トーハツアメリカ) の社長も兼任 全世界85∼95万台と言われる船外機 バーをとった状態で比べればトーハツの っぱら技術畑を歩み、 可搬消防ポン チャンバー内に残ったガスが劣化して始 マーケット、 トーハツ製はそのうちの20万 エンジンの方が静かであるという。また燃 も させるのに苦労したという。ようやく商品が している若林弘さんは、現在トーハツ プの開発や、船外機の開発、車両用 できたが、 自社製品をアピールするにはど 動性を悪化させることがあったが、FIの (株) 取締役営業本部長マリン営業部長と 台を占めているが「ものすごく少ないとい 費性能についても中速域であれば負けて 冷凍機の開発などに携わってきた広瀬光 うしたら良いのか?広瀬さんが見出した答 場合はガスの密閉度が高く劣化が少なく いう肩書き。元々は電子機器メーカーや大 う気持ちが強い」 と語る。確かに30馬力 いないそうだ。現在、 トーハツでは順次 夫さんは、現在、 トーハツ (株) の取締役技 えはレースだった。当時のレースカテゴリ 済むのだ。特に消防ポンプのように長期 手商社で建設機械の海外向けの流通・販 以下の小型船外機の市場だけで見ると、 CARBの3スター取得を進めている。来 術部長の任にある。1973年のトーハツ入 ーには500ccエンジンのクラスがあり、 こ 間保管しておいて、 いきなり使用する必要 れに参入する。調査に2年間をかけて、 V に迫られるようなエンジンの場合、 このメ ハルのレース艇を購入。当時の500ccク リットは大きい。これは船外機で培った技 開発が主で、現職の前には防災担当営業 ラスのレース・エンジンはボルボ、 アルキメ 術が可搬消防ポンプに結実した一例だ。 部長を歴任している。 デスなど外国エンジンばかり。そこに初め 個人的には釣りもやれば、水上スキー T 売に関わる業務を行ってきた。2003年、 トーハツの4ストロークモデルは高いシェ 年にはすべてのモデルで3スターを取得 社以来、開発・製造の業務を行ってきた トーハツ (株) に入社した後も、 これまで積 アを誇るが、 もう少し高馬力でのシェア拡 できる見込みだという。 が、最近の20年間は可搬消防ポンプの み重ねてきた経験を活かし、海外でのデ 大、勝負をしたいと言う。 ィストリビューションをコントロールしている。 こういった世界の流れをダイレクトに伝 アメリカと日本とを往復する日々が続い えるのが若林さんの大きな役目である。そ 実際にはマーケットリサーチ、資金調達な ているが、船外機を取り巻く状況は、 この ういう若林さん自身のマリンとの接点はト 子どもの頃から根っからの機械いじり て日本製アウトボードで出場する。広瀬さ もやって来たという広瀬さん。入社してす どの分野で辣腕を振るっているが、かつ 6年間で大きく流れが変わったという。 ーハツ入社前からあった。商社時代、 ロン 好きだったという広瀬さんは、 やはりエン ん自らがドライバーを務め、 そして見事に優 ぐに、船遊びをせずに船外機を作れるの て携わっていた建設機械のノウハウと、船 「4 2003年時点ではアメリカの市場動向は ドン駐在だった頃に、 イギリスのカナルク ジンへの興味は強かったという。中学生 勝。一躍トーハツ船外機は脚光を浴びる。 か?という疑問にぶつかった。ではと、 自ら 外機やポンプであってもいっしょだという。 ストローク至上主義」 とでも呼べるような状 ルーズを経験したそうだ。イギリスにはか の頃には、模型エンジンを搭載した模型 船外機のシェアトップを走っていたトー 「マリンエンジンのトレンドをしっかりと掴む 況だった。実際にEPAの規制を含めて つて全長5000マイルに及ぶ運河が張り巡 飛行機にのめり込んでいたそうだ。もっと ハツと広瀬さんには 「常に他とは違うもの 2年間で合計40名余に手弁当で免許講 こと、お客様のニーズを掴むことが仕事で 何が何でも4ストロークでなければならな らされ、交通の大動脈を担っていたが、鉄 も高校は普通科へ通う。まさかのその後、 を市場に投入しないといけない」 というポ 習を行ったという。船外機の使い方が解 すね」 と情報収集の大切さを説く。アメリカ いという流れがあったという。そんな中に 道と自動車の普及で衰退する。しかし近年 エンジンメーカーに就職することになると リシーがあった。広瀬さんは 「それこそが らなくて船外機を販売できるのかあるい は当時は思ってもいなかったという。 開発者としての面目躍如」 と語る。今も2 は作れるのか、という精神は現在にも ストロークTLDIというトーハツ独自の路 脈々と受け継がれている。 のマーケットで情報をまとめて、 それを日本 トーハツはTLDIモデルを投入したが、非 見直され現在も全長2500マイルはある。 の開発陣へフィードバックしているという。 常に悪い反応しか帰って来なかったとい カナルボートは20∼40フィートの細長い船 入社してしばらくは船外機の開発がメイ で小型のディーゼルエンジンを搭載してい ンだった。ちょうど広瀬さんが20代の頃の る。当時、 そのディーゼルエンジンを扱って 話だ。当時は25馬力がマックスでカワサ いた関係もあって、家族で1週間のカナル キ、 ミツビシ、 ヤンマーなども船外機を製造 ツアーに出かけたこともあるそうだ。 していた時代だった。 トーハツでは、 500cc、 さまざまなマリン普及 活動に携わるのもトー ハツの業務の一環だ。 写真提供=トーハツ (株) 64 OCEAN LIFE また現在もアメリカに滞在している時 35馬力という、 その当時としてはまったくの は、従業員の家族といっしょに人造湖など 未知の世界のエンジン開発をスタート、広 でポンツーンボートを使った遊びをしてい 瀬さんもそれに携わることになった。決め るそうだ。TACのあるテキサス州ダラス られた質量の中で、 いかにパワーを上げ 郊外には多数の人造湖があり、 そういう遊 て行くのかを研究しながらも、低速性能を びにはうってつけのようである。 向上させるという相反する部分をバランス 勉強し他の社員たちに免許講習を行い、 ミニボートフェスティバルな どへも積極的に参加して 裾野の拡大を目指す。 トーハツのもう一つの柱である可搬消防 ポンプ「VF63AS」。30馬力船外機の ブロックを応用したバッテリーレス、DI、 4ストロークの新世代消防ポンプだ。 写真提供=トーハツ (株) OCEAN LIFE 65
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