第 2章 命題と論理

基礎応用数学
第 2 章 命題と論理
第 2 章 命題と論理
§ 2.1 命題
1. 命題 (proposition)
命題とは、ある事柄に対する判断あるいは主張を文で表したものである。
命題は、真であるか偽であるか判定できなければならない。命題が真であることを、命題の真理値が真
であると言い、偽であるときは真理値が偽であるという。
《例 1》 『雨が降っている』は、このままでは真偽が判定できないので命題とはならない。時刻と場所を
特定すれば、真偽が判定できるので命題となる。
2. 合成命題
いくつかの命題を組み合わせた、あるいは否定した命題を、合成命題あるいは複合命題という。これに
対して、元の命題を単純命題という。 複合命題も単純命題と同様に真偽が判定できなければならない。
連言
命題 p、q に対して、 p および q のいずれも真であるときのみ真となり、他の場合に偽となる合成命題
を連言命題といい、 p ∧ q ( p and q · · · 論理積) と表す。
《例》 『A君は英語もドイツ語も話せる』=『A君は英語が話せる』∧ 『A君はドイツ語が話せる』
選言 (包含的選言)
命題 p、q に対して、 p あるいは q のどちらかが真であるとき真となり、他の場合に偽となる合成命題
を包含的選言命題といい、 p ∨ q ( p and/or q · · · 包含的論理和) と表す。
単に選言命題 ( p or q · · · 論理和) と述べた場合は、包含的選言命題のことをさす。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
《例》 『A君は英語かフランス語が話せる』=『A君は英語が話せる』∨ 『A君はフランス語が話せる』
排他的選言
命題 p、q に対して、 p あるいは q のどちらかのみ真であり他方が偽であるときに真となり、他の場合
に偽となる合成命題を排他的選言命題といい、 p ∨ q ( p exclusive or q · · · 排他的論理和) と表す。
《例》 『A君は英語かフランス語のどちらか一方が話せる (が両方は話せない)』=『A君は英語が話せる』
∨ 『A君はフランス語が話せる』
3. 否定
命題 p に対して、p が真のとき偽、p が偽のとき真となる命題を否定命題といい、∼ p または p̄ と表す。
《例》 『「A君は英語が話せる」ということはない』=『A君は英語が話せない』
合成命題の否定
選言命題『 p または q が真』の否定は、
『 p および q が偽』である。すなわち選言命題の否定は、それぞ
れの否定命題の連言である。逆に、連言命題の否定命題は、それぞれの否定命題の選言になる。
定理 2.1 、ド・モルガンの法則
∼ (p ∨ q) = (∼ p) ∧ (∼ q)
(2.1 a)
∼ (p ∧ q) = (∼ p) ∨ (∼ q)
(2.1 b)
2-1
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第 2 章 命題と論理
二重否定命題
否定命題を否定した命題を、二重否定命題 ∼ (∼ p) という。その真偽は、元の命題 p の真偽に等しい。
《例》 『「A君は英語が話せない」ということはない』=『A君は英語が話せる』
¶例題 2-1
³
次の命題の否定命題を文章で述べよ。
(1) 『A君はドイツ語かフランス語のどちらかが話せる』
(2) 『A君はドイツ語とフランス語のどちらも話せる』
☞ (1) 『A君はドイツ語もフランス語も話せない」
(2) 『A君はドイツ語かフランス語のどちらかが話せない』
µ
´
4. 真理表
単純命題の真偽によって、合成命題の真偽がどうなるかを示した表を真理表という。このとき真は
T(True)、偽は F(False) で表す。否定命題および連言命題、選言命題の真理表は以下のようになる。
p q ∼p
∼q
p∧q p∨q
T T F
F
T
T
T F F
T
F
T
F T T
F
F
T
F F T
T
F
F
2 つの合成命題の真理表が一致するとき (縦の列が等しいとき)、同値である、といい、記号 ≡ で結ぶ。
¶例題 2-2
³
ド・モルガンの法則 (2.1 a)、 (2.1 b) 式を、真理表を作成して確認せよ (解答略)。
µ
´
5. 条件文
2 つの命題 p および q を、『 p ならば q である』という形式で結んだ文を条件文という。このとき p を
仮定、q を結論といい、 p → q と表す。
条件文も合成命題の一種である。条件文 p → q を言い換えると、『「 p であって、q でない」ということ
はない』となる。記号で書けば ∼ (p∧ ∼ q) となる。これに、ド・モルガンの法則 (2.1 a) 式を適用すれば、
(∼ p) ∨ (∼ (∼ q)) すなわち、 (∼ p) ∨ q と同値であることがわかる。 すなわち、次の定理が導かれる。
定理 2.2 『 p ならば q である』という条件文は、
『 p でないか、または q である』という命題と同値である。
すなわち、 p → q ≡ (∼ p) ∨ q
条件文の否定
『 p ならば q である』という条件文の否定は、∼ ((∼ p) ∨ q) = p ∧ (∼ q) であるから、 『 p であって、q
でない』となる。
『 p ならば q でない』とはならない。
2-2
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第 2 章 命題と論理
双条件文
『 p ならば q であり、かつ q ならば p である』という条件文を双条件文といい、 p ­ q と書く。これは、
『 p であれば q であり、 p でなければ q でない』と言いかえることもできる。
6. 条件文の逆・裏・対偶
条件文の逆
『 p ならば q である』という条件文に対して、『q ならば p である』という条件文を、元の条件文の逆と
いう。記号で書けば、q → p である。
条件文の裏
『 p ならば q である』という条件文に対して、『 p でないなら q でない』という条件文を、元の条件文の
裏という。記号で書けば、∼ p →∼ q である。
条件文の対偶
『 p ならば q である』という条件文に対して、『q でないなら p でない』という条件文を、元の条件文の
対偶という。記号で書けば、∼ q →∼ p である。
対偶律
条件文、およびその逆、裏、対偶の真理表は次のようになる。
p q p→q
q→ p
∼ p →∼ q
∼ q →∼ p
T T T
T
T
T
T F F
T
T
F
F T T
F
F
T
F F T
T
T
T
条件文とその逆や裏は同値でない、すなわち条件文が真でも逆や裏は必ずしも真ではない。しかし条件文
とその対偶の真理表は一致しているので、同値であることがわかる。
定理 2.3 対偶律
条件文とその対偶は、一方が真であることがわかれば、他方もまた真である。
また「逆」と「裏」は、やはり対偶関係にあり、真理表よりその真偽が一致していることがわかる。
¶例題 2-3
³
次の条件文の、否定、裏、逆、対偶を、それぞれ文章で述べよ。
『もし君が行ったのであれば、私も行く』
☞ 否定:『君が行っても、私は行くとは限らない』
裏:
『君が行っていないなら、私も行かない』
逆:
『私が行くのは、君が行ったときだけだ』
(『私が行くなら、君も行った』では時間的に合わない)
対偶:
『私が行かないのは、君が行っていないときだけだ』
µ
´
2-3
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第 2 章 命題と論理
7. 必要条件と十分条件
p → q であるとき、q を p であるための必要条件、 p を q であるための十分条件という。
《例》 x = −1 → x2 = 1 であるから、x = −1 は x2 = 1 の十分条件、x2 = 1 は x = −1 の必要条件である。
必要十分条件
p → q であり、かつ q → p であるとき、q を p であるための必要十分条件、あるいは単に条件といい、
p ­ q と表す。このとき p と q は同値であるという。
¶例題 2-4
³
次の ( ) の中に当てはまる語を入れよ。
(1) x2 = y2 は、x = y であるための、( )条件である。
(2) a, b が実数のとき、a + b > 0、a b > 0 は、a > 0、b > 0 であるための、( )条件である。
☞ (1) 必要 (2) 必要十分
µ
´
8. 真理集合
命題関数
集合 Ω の元 x ∈ Ω に対して、その真偽が判定できるような条件 p が与えられたとき、 p(x) を Ω を定義
域、値域を { 真, 偽 } とする関数とみなし、命題関数または開いた文という。
真理集合
命題関数で、 p を真にするような x の元による Ω の部分集合、すなわち関数値 { 真 } の逆像 P を、真
理集合といい、P = { x | p(x) = 真 } あるいは略して P = { x | p(x) } と書く。
《例》 条件 p を『絶対値が 1 未満』
、条件 q を『正』としたとき、P = { x | p(x) } は { x | − 1 < x < 1 } の区
間、Q = { x | q(x) } は { x | x > 0 } の半直線になる。
合成命題の真理集合
命題 p の真理集合を P、命題 q の真理集合を Q とすると、次の関係が成立する。
(1) ∼ p(x) の真理集合は、Pc
(2) p(x) ∧ q(x) の真理集合は、P ∩ Q
(3) p(x) ∨ q(x) の真理集合は、P ∪ Q
(4) p(x) → q(x) の真理集合は、Pc ∪ Q
必要条件・十分条件の真理集合
命題 p の真理集合が P、命題 q の真理集合が Q であるとき、
(1) P ⊆ Q ならば、 p は q の十分条件、q は p の必要条件である。 この逆も成り立つ。
(2) P = Q ならば、 p は q の必要十分条件である。この逆も成り立つ。
9. 全称命題と特称命題
全称命題
『全ての x ∈ A について、 p(x)』の形の命題を、全称記号 ∀ を使って ∀x ∈ A, p(x) と書き、命題関数の全
称量化といい、この形の命題を全称命題という。 p(x) の真理集合を P とすると、全称命題は、
A ⊆ P のとき真であり、それ以外のときには偽、である。
特称命題
『ある x ∈ A について、 p(x)』 または 『 p(x) である x ∈ A が存在する』の形の命題を、 存在記号 ∃ を
使って ∃x ∈ A, p(x) と書き、命題関数の特称量化あるいは存在量化といい、この形の命題を特称命題 、 あ
2-4
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第 2 章 命題と論理
るいは 存在命題 という。また全称量化と特称量化を合わせて 量化 という。 p(x) の真理集合を P とする
と、特称命題は、
A ∩ P 6= 0/ のとき真であり、それ以外のときには偽、である。
全称命題は特称命題を含意しない。すなわち『全ての x ∈ A について、 p(x)』が真でも、 『ある x ∈ A
について、p(x)』は真とは限らない。 それは集合 A が空集合の時、全称命題は真であるが、特称命題は偽
になるからである。
《例》
「全ての UFO は空を飛ぶ」という全称命題は、UFO が unidentified flying object の略であることを
考えると、空を飛ばないものは UFO とは言わないから、真だと考えられる。 しかし、これは「ある UFO
は空を飛ぶ」という特称命題が真であることを意味しない。これが真であるためには、UFO が存在する
ことを示さなければならない。
全称命題・特称命題の否定
『全ての x ∈ A について、p(x)』という全称命題の否定は、
『ある x ∈ A について、p(x) でない』という否
定の特称命題になる。逆に特称命題の否定は、否定の全称命題となる。これもド・モルガンの法則という。
定理 2.4 、ド・モルガンの法則-その2
全称命題、特称命題の否定に対して、次の定理が成り立つ。
∼ (∀x ∈ A, p(x)) = ∃x ∈ A, (∼ p(x))
(2.2 a)
∼ (∃x ∈ A, p(x)) = ∀x ∈ A, (∼ p(x))
(2.2 b)
とくに、∀x ∈ A, p(x) という命題が偽であることを証明するには、その否定が真であることを証明すれ
ばよく、これは (2.2 a) 式より、p(x) でない x ∈ A が一つでも存在することを示せれば十分である。これを
反例という。
量化の順序
複数の量化を行う場合、現れる順序に注意が必要である。たとえばパーティ会場で、
(i) 『すべての出席者が、すべての料理を食べた』と
(i0 ) 『すべての料理を、すべての出席者が食べた』
のように「すべて」あるいは「ある」だけで量化が行われる場合は、順序を変えても意味が変わらないが、
(ii) 『ある出席者が、すべての料理を食べた』と
(ii0 ) 『すべての料理を、(それぞれ) ある出席者が食べた』
を比較すると、(ii0 ) のときは料理ごとに食べた出席者が異なってもよいので、意味が異なる。
この例のように「すべての」と「ある」が混在する場合には、一般にその順序を変えると意味が変わる。
数学では、しばしば「それぞれ」という語を略して記述するが、意味は上記の通りであるので、両者を混
同してはならない。
¶例題 2-5
³
上記の (i)、(ii)、(ii0 ) の否定命題を、それぞれ文章で述べよ。
☞ (i) 『ある出席者が、ある料理を食べなかった』
(ii) 『すべての出席者は、(それぞれ) ある料理を食べなかった』
(ii0 ) 『ある料理を、全ての出席者が食べなかった』
µ
´
2-5
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第 2 章 命題と論理
§ 2.2 推論
1. 関係 (relation)
関係の定義と記号
集合 X 、Y の元 x ∈ X 、y ∈ Y を定義域とし、x と y にそれぞれ X と Y の元を代入したとき、真または
偽の値を取る命題関数 R(x, y) を、関係 という。 R(x, y) はまた、xRy と表されることもある。
《例》 a, b が自然数であるとき、「aRb ≡ a は b の約数である」
逆関係
関係、xRy に対して、yR−1 x で定義される関係を、R の 逆関係 という。 逆関係 yR−1 x の逆関係は、も
との関係 xRy である。
「 bR−1 a ≡ b は a の倍数である」 は互
《例》 a, b が自然数であるとき、
「aRb ≡ a は b の約数である」と、
いに逆の関係にある。
反射律
xRx が常に真であるとき、関係 R は 反射的である、あるいは反射律 (reflective law) をみたすという。
対称律
xRy が真であれば yRx も真であるとき、言いかえれば xRy と yRx の真偽が常に等しいとき、関係 R は
対称的である、あるいは 対称律 (symmetric law) をみたすという。
推移律
xRy と yRz がともに真であるとき xRz も常に真であれば、関係 R は推移的である、あるいは 推移律
(transitive law) をみたすという。
反対称律
xRy と yRx がともに真であれば、x = y であるとき、関係 R は反対称的である、あるいは 反対称律
(asymmetric law) をみたすという。
同値関係
関係 R が、反射律、対称律、推移律をみたすとき、これらを合わせて R は 同値律 をみたすといい、R
を 同値関係 (equivalence relation) という。
順序関係
関係 R が、反射律、反対称律、推移律をみたすとき、R を 順序関係 (order relation) という。
グラフ
集合 X と集合 Y をそれぞれ定義域とする x、y に対して、関係 xRy が定義されているとき、直積集合
X ×Y の元 ( x, y ) の部分集合で、 xRy が真になるもの全体からなる集合、G = {( x, y ) | xRy = T} を R の
グラフ という。
¶例題 2-6
³
次の関係が、反射律、対称律、推移律、反対称律をみたすか、それぞれ調べよ。
(1) a, b が自然数であるとき、aRb ≡ a は b の約数である。
(2) a, b が整数であるとき、aRb ≡ a − b は偶数である。
☞ (1) 反射律、推移律、反対称律をみたす (順序関係)。
(2) 反射律、対称律、推移律をみたす (同値関係)。
µ
´
2-6
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第 2 章 命題と論理
2. 真理関数
真理関数
複合命題 f の真偽は、それを構成する単純命題 p, q, r, · · · の真偽の組み合わせによって決まることを、
真理集合の項で述べた。 これより、単純命題 p, q, r, · · · を (真、偽) のどちらかの (論理) 値を定義域とする
変数と考え、複合命題 f は (真、偽) のどちらかの (論理) 値を値域とする、写像とみなすことができる。
このように考えたとき、単純命題 p, q, r, · · · を 命題変項 といい、複合命題 f をその 真理関数 という。
恒真関数 (トートロジー)
命題変項の真偽にかかわらず、常に真の値を取る真理関数を、恒真(関数) または トートロジー
(tautology) という。 また、常に偽の値を取る関数を恒偽(関数) または 矛盾 という。
《例》 p∨ ∼ p の論理値は常に T である。 したがって、 p に「A君は英語が話せる」という命題変項を代
入した、 『A君は英語が話せるか、英語が話せない』 は、 p の真偽によらず常に真である。
3. 含意 (implication)
論理式 f および g に対して、 f → g が恒真であることを、「論理式 f は論理式 g を含意する」といい、
f ⇒ g と書きあらわす。このとき f を前提 あるいは前件、g を 結論 あるいは後件という。
《例》 論理式『私は A 大学か B 大学を受験する』かつ『私は B 大学を受験しない』は、論理式『私は A
大学を受験する』を含意することを示す。 「私は A 大学を受験する」という命題を p、
「私は B 大学を受
験する」という命題を q とすると、上の条件式は次のように書くことができる。
( p ∨ q )∧ ∼ q → p
ここで、( p ∨ q )∧ ∼ q ≡ (p∧ ∼ q) ∨ (q∧ ∼ q) ≡ (p∧ ∼ q) ∨ F ≡ p∧ ∼ q であり、 p∧ ∼ q → p であるか
ら、この条件式は恒真であり、
( p ∨ q )∧ ∼ q ⇒ p
と、表すことができる。
4. 推論
推論
上の例のように、いくつかの命題 (前提、仮定) から、論理的に他の命題 (結論) が導かれる、という主張
を推論という。数学的には、いくつかの条件式の連言から、含意関係を導くことを意味する。すなわち命
題 f1 , f2 , · · · , fn および g を論理式で表した真理関数に対して、
f1 ∧ f2 ∧ · · · ∧ fn ⇒ g
が成り立つとき、推論は妥当 である、という。
《妥当な推論の例 1》選言三段論法
上の例は以下のように表記される。この推論は妥当である。
p ならば q である 私は A 大学か B 大学を受験する
q でない 私は B 大学を受験しない ∴ p である ∴ ゆえに、私は A 大学を受験する
《妥当な推論の例 2》 条件三段論法
p ならば q である 人間は哺乳類である
q ならば r である 哺乳類は動物である ∴ p ならば r である ∴ ゆえに、人間は動物である
2-7
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第 2 章 命題と論理
《妥当な推論の例 3》 選言・条件三段論法
p あるいは q である 私は A 高校に進学するか、B 高校に進学する
q ならば r である 私は B 高校に進学すれば野球部に入る ∴ p あるいは r である ∴ ゆえに、私は A 高校に進学するか、野球部に入る
《妥当な推論の例 4》 ジレンマ
p ならば q である 私が教師の言うことをきけば、父に怒られる
p でなければ r である 私が教師の言うことをきかなければ、教師に怒られる ∴ q あるいは r である ∴ ゆえに、私は父に怒られるか、教師に怒られる。
謬論
命題 f1 , f2 , · · · , fn および g を論理式で表した真理関数に対して、
f1 ∧ f2 ∧ · · · ∧ fn ⇒ g
が成り立たないとき、すなわち前提がすべて真であっても、結論が偽である場合が存在するとき、この推
論は妥当でないといい、妥当でない推論のことを 謬論 あるいは虚偽 という。*1
《謬論の例 1》 逆の謬論
p ならば q である 日本人ならば、日本語を話せる ∴ q ならば p である ∴ ゆえに、日本語を話すならば、日本人である
《謬論の例 2》 後件肯定の謬論
p ならば q である 彼女が私のことを好きならば、私の誕生日を祝ってくれる
q である 彼女は私の誕生日を祝ってくれた ∴ p である ∴ ゆえに、彼女は私のことを好きである
《謬論の例 3》 前件否定の謬論
p ならば q である 英語の成績がよければ、入試に合格できる
p でない 英語の成績がよくなかった ∴ q でない ∴ ゆえに、入試に合格できなかった
推論の検証
ある推論が妥当な推論であるか、あるいは謬論かを示すには、前提が結論を含意するかどうかを調べれ
ばよい。すなわち真理表を書いて、命題変項の真偽にかかわらず、条件式が恒真であるかどうかを見れば
よい。
5. 証明法
直接証明法
(1) 演繹法
仮定から、論理的に正しい推論を用いて、演繹的に結論を導く証明法。たとえば、p → r を示すために、
命題 q を差し挟み、 p → q および q → r を示すことより、条件三段論法で p → r を導く、という論法。
(2) 対偶法
対偶律により、 p → q が真であることを示すために、その対偶 ∼ q →∼ p が真であることを示す、とい
う証明法を対偶法という。
*1
推論が正しい、正しくないというのは、論理の形式をいうのであって、結論が真であるか偽であるかとは無関係である
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基礎応用数学
第 2 章 命題と論理
《例》 「x + y > 2 ならば、x > 1 または y > 1 である」という命題を証明するために、
「x <
= 1 かつ y <
=1な
らば、x + y <
= 2 である」という命題を証明する方法。
¶例題 2-7
³
対偶法が妥当な推論であることを示せ。
☞ (∼ q →∼ p) ⇒ (p → q) であること、すなわち (∼ q →∼ p) → (p → q) が恒真であることを示せ
ばよい。
p q (∼ q →∼ p)
(p → q)
(∼ q →∼ p) → (p → q)
T T T
T
T
T F F
F
T
F T T
T
T
F F T
T
T
したがって、恒真である。
µ
´
間接証明法
(3) 転換法 (分類法)
命題の逆を証明するために使われる方法である。次の 3 つの条件、
(i) 場合分け p1 , p2 , · · · により、すべての場合が尽くされている。
(ii) p1 → q1 、 p2 → q2 、· · · が真である。
(iii) q1 , q2 , · · · のどの組合せも両立しない。
が成立するとき、 q1 → p1 、q2 → p2 、· · · も真である。これを転換法という。
《例》「三角形 ABC において、対辺をそれぞれ a, b, c とすると、a2 = b2 + c2 のとき ∠A = ∠R、a2 > b2 + c2
のとき ∠A > ∠R、a2 < b2 + c2 のとき ∠A < ∠R である」という命題を証明するとき、
(i) ∠A = ∠R のとき a2 = b2 + c2 を示す。
(ii) ∠A > ∠R のとき a2 > b2 + c2 および ∠A < ∠R のとき a2 < b2 + c2 を示す。
ことにより、元の命題を証明することができる。
¶例題 2-8
³
(p → q) かつ (∼ p →∼ q) であるとき、(q → p) であることを示せ。
☞ (p → q) ∧ (∼ p →∼ q) ⇒ (q → p) であること、すなわち (p → q) ∧ (∼ p →∼ q) → (q → p) が恒
真であることを示せばよい。
p q p→q
∼ p →∼ q
(p → q) ∧ (∼ p →∼ q)
q→ p
T T T
T
T
T
T
T F F
T
F
T
T
F T T
F
F
F
T
F F T
T
T
T
T
与式
したがって、恒真である。
µ
´
(4) 同一法
p → q を証明するために、q の条件を満たす r を考え、q と r が一致することから、結論を導く。
2-9
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第 2 章 命題と論理
(5) 背理法
題意が成り立たないとして推論を進めていくと、仮定が矛盾が生じることを示す。これにより、逆に題
意は成り立たなければならない、という論法を背理法という。つまり、p → q =∼ p ∨ q が真であることを
示すためには、これを否定した ∼ (∼ p ∨ q) = p∧ ∼ q が偽であることを示すことと同値である。
《例》 ユークリッドの素数定理 「素数は無限に存在する」を背理法によって証明する。
素数が有限個であると仮定する。その数を n とすると、それらは p1 , p2 , · · · pn ただし (p1 < p2 < · · · < pn )
と表すことができる。ここで自然数 q = p1 · p2 · · · · pn + 1 を考えると、q は p1 , p2 · · · pn のどれでも割り切
れない。 すなわち q が素数とすれば、n 個以外にも素数があることになり、q が合成数とすれば、pn より
も大きい素数があることになる。 いずれの場合も仮定に矛盾する。
¶例題 2-9
³
√
p
2 が無理数であること、すなわち p, q を整数として、 の形で表せないことを証明せよ。
q
☞ 背理法で証明する。
√
p
p, q を互いに素な自然数として 2 = と置けると仮定する。
q
上式を両辺 2 乗して分母を移項すれば、2q2 = p2 。ここで q が自然数なら q2 も自然数だから、右
辺は 2 の倍数、すなわち偶数である。
もし p が奇数ならば p2 も奇数となるので、 p は偶数でなければならない。すなわち p = 2p0 と置
ける。これを代入すると、2q2 = 4p02 。両辺を 2 で割って q2 = 2p02 となる。
同様の議論により q も偶数でなければならない。これはもとの p, q が互いに素な自然数であると
いう仮定と矛盾する。したがって
√
2 は有理数として表せない。すなわち無理数である。
µ
´
数学的帰納法
自然数 n ∈ N についての命題 p が、
(1) n = n0 で p が真である。
(2) n = k で p が真であれば、n = k + 1 でも p は真である。
ことが証明できれば、すべての n >
= n0 で p が真であることが示される。これを数学的帰納法という。
あるいは、(1) の代わりに、次の条件でもよい。
(1’) n <
= n0 で p が真である。
¶例題 2-10
n
Sn =
∑ k2 =
k=1
³
n(n + 1)
であることを示せ。
2
☞ 数学的帰納法で証明する。
1
(1) n = 1 の場合、S1 =
∑ 12 =
k=1
1(1 + 1)
であるから、上式は成り立つ。
2
k(k + 1)
(2) n = k で、Sk =
が成り立つとすると、
2
k(k + 1)
(k + 1 + 1)(k + 1) (k + 2)(k + 1)
Sk+1 =
+ (k + 1)2 =
=
2
2
2
であるから、k + 1 でも成り立つ。
ゆえに、数学的帰納法により、すべての n ∈ N で成り立つ。
µ
´
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基礎応用数学
第 2 章 命題と論理
2 章 の 練 習 問 題 A
【 問題 2-1 】 (否定命題)
次の命題の否定を文章で述べよ。ただし、単に全体を「∼でない」と否定しただけのものは不可とする。
(1) A 村の全ての若者は、女友達を持っている。
(2) B 村のある者は、すべての村人と知り合いである。
【 問題 2-2 】 (真理集合)
次の不等式の中で、方程式、x2 + p x + q = 0 が虚根をもつための、必要条件、十分条件になっているも
のはどれか。
(1) q > p2 (2) q > p − 1 (3) q > −p
【 問題 2-3 】 (数学的帰納法)
N 枚の金貨がある。その中に見かけは変わらないが、少しだけ目方が軽いにせ金が 1 枚だけ混じってい
る。そのにせ金を、天秤を用いて 確実に 見分ける方法を考える。ただし、天秤には同じ枚数ずつ何枚で
も乗せることができる。また、天秤はどちらが重いか、あるいは釣り合うかを見分けられるだけとする。
(1) 3 枚の金貨から、1 回の天秤操作でにせ金を見つける方法を示せ。
(2) 9 枚の金貨から、2 回の天秤操作でにせ金を見つける方法を示せ。
(3) 一般に N = 3n 枚の金貨から、n 回の天秤操作でにせ金を見分ける方法を、数学的帰納法により示せ。
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基礎応用数学
第 2 章 命題と論理
2 章 の 練 習 問 題 B
【 問題 2-4 】 (否定命題)
次の命題の否定を文章で述べよ。ただし、単に全体を「∼でない」と否定しただけのものは不可とする。
(1) A も B も、C の友人である。
(2) D は、物理か化学の、どちらか一方の科目だけを選択した。
(3) すべての新入生がそれぞれ、どれかの科目で「優」を取った。
(4) 試験勉強をしなければ、必ず落第する。
【 問題 2-5 】 (条件)
命題「A、B、C の 3 人の中で、少なくとも 2 人は女性である」が成り立つために、次の命題 (1)-(10) が
・十分条件であるが、必要条件でないならば、十 ・必要条件であるが、十分条件でないならば、必
・必要十分条件であるならば、必十 ・必要条件でも、十分条件でもないならば、無
とそれぞれ記せ。ただし、言及のない者については、性別は不明であるとする。
(1) A は女性である (B と C については不明、以下同様)。
(2) B と C は女性である。
(3) A も B もCも女性である。
(4) A または C が女性である。
(5) A または B、または C のいずれかが女性である。
(6) B または C が男性である。
(7) A は女性、B は男性である。
(8) B が女性であれば、A または C は女性である。
(9) A が男性であれば、B と C は女性である。
(10) A が男性ならば B は女性、そして B が男性ならば C は女性、そして C が男性ならば A は女性で
ある。
【 問題 2-6 】 (背理法)
√
p
3 が無理数であること、すなわち p, q を整数として、 の形で表せないことを証明せよ。
q
√
p
✌ 分子分母が公約数を持つならば約分できるので、 p と q は互いに素と置いてよい。そこで 3 = とお
q
いて両辺を 2 乗し、 p, q を 3 で割ったときの余りを場合分けし、互いに素という仮定に矛盾することを
示せ。
【 問題 2-7 】
「 p であるか q である。かつ q でない。ゆえに p である」という推論の形式を選言三段論法という。が
恒真であることを、真理表を用いて示せ。(p ∨ q) ∧ (∼ q) → p
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