旅行業者の提供する「サービス」の本質

旅行業者の提供する「サービス」の本質
−サービスマーケティングの視点から−
廣 岡 裕 一
Ⅰ.はじめに
2.「旅行業者としてのサービス」提供後の顧客の主観
Ⅱ.「旅行商品」の構成と要素
的評価を高める方法
Ⅲ.「旅行業者のサービス」の構成と要素
Ⅴ.「旅行商品」の購入過程でのサービスの質を高める方法
1.「手配・予約」
1.「旅行商品」購入過程のサービス
2.「統制」
2.契約締結過程の品質に対応するサービスのデザイン
Ⅳ.「旅行業者としてのサービス」の品質を高める方法
Ⅵ.まとめ
1.「旅行業者としてのサービス」の説明
Ⅰ.はじめに
構成されているかを論じる。なぜなら、「旅行業者の提
供するサービス」について論じるには、これらが、いか
サービス商品は、いくつかのサービスが組み合わされ
に構成されているかの検証をはじめに行う必要があるた
て構成されているサービスパッケージである。つまり、
めである。しかし、今まで、サービス商品の構成要素に
それは、顧客に提供される関連したサービス項目のセッ
関して全般的には、論じられているが、日本の旅行業者
1)
トである 。
の提供するサービスについて、この視点から分析したも
サービス商品にパッケージされた各々のサービス項目
のがみられない。前号では、旅行契約とそれについての
は、当該サービス商品の中心となる核的なサービスとそ
顧客の認識を論じたが、これらの構成も旅行契約と同様、
の核を補足あるいは引き立てるサービスとに分けること
個別に検証することによりその特性が明確になる。そし
2)
ができる 。
て、この理解の上に、より効果的に旅行業者がサービス
近藤隆雄によれば、前者のそのサービス商品の中核と
を提供する方策を検討する。
なる機能をコアサービス、後者のコアサービス以外の副
次的なサービスをサブサービスと呼んでいる。さらに、
Ⅱ.「旅行商品」の構成と要素
以上の定常業務に含まれるサービスのほかに、サービス
「旅行商品」には、複数の者によって提供される旅行
商品は、コンティンジェントサービスと潜在的サービス
要素と呼ばれるものから構成されるとしている。コンテ
にかかわるサービスがパッケージされている。
ィンジェントサービスとは、定常的な仕事の流れを乱す
本章では、まず、顧客が旅行業者に支払う旅行代金に
ような攪乱要因に対応するサービスで、このサービスに
より提供を受ける「旅行商品」を単体とみて、その構成
は、あらかじめルールを決めておくことが難しい。また、
と要素がいかなるものであるかを検討する4)。
潜在的サービス要素とは、企業が計画したものではない
「旅行商品」は、サービスの特徴である無形性、生産
が、顧客自身が勝手に見つけ出したサービスの効用であ
と消費の同時性、顧客との共同生産性5)を持つ商品であ
る。もっとも、企業がその効用をあらかじめ認識して予
る。「旅行商品」は、それ自体サービス商品であるが、
定した提供内容に組み込めば、サブサービスの一種と考
その中には、運送機関、宿泊機関などの独立したサービ
3)
えることもできる 。
ス商品がパッケージされていている。なお、図1は、旅
本論文では、サービス商品の構成要素が以上のように
行全体をひとつのシステムとした場合、旅行のためのイ
分類することができるという前提に立ち、まず、
「旅行商
ンプットを行ない、ツーリズムシステムを通じて得られ
品」と「旅行業者の提供するサービス」は、どのように
るアウトプットを示したものである。
−169−
政策科学10−2,Jan. 2003
インプット
旅行者支出→
従業員スキル→
ツーリズムシステム
ディストネーション
サブシステム
運送機関サブシステム
ターミナル
投資家資本→
主たる運送機関
→満足
宿泊施設
ケータリング
文化
ショッピング
風景
アクティビティ
ローカルトラベル
企業創造力→
アウトプット
→報酬
→利益
→旅行地に与える
インパクト
ツーリズムリテーリ
ングサブシステム
↑ ↑ ↑ ↑ ↑
好み 技術 法令 経済状態 人口
外的影響
図1 ツーリズムシステム
出所:Laws. E, Tourism Marketing, Stanley Thornes, 1991, p7
インプット
旅行者支出→
従業員スキル→
企業創造力→
投資家資本→
より作成
「旅行商品」システム
ディストネーション
運送機関サブシステム
サブシステム
アウトプット
→満足
ローカルトラベル
宿泊施設
→報酬
ターミナル
ケータリング
→利益
主たる運送機関
ショッピング
アクティビティ
→旅行地に与える
インパクト
ツーリズムリテーリ
ングサブシステム
ホールセーラーのサービス
リテーラーのサービス
ランドオペレータのサービス
↑
↑
↑
↑
↑
ローカルトラベル ターミナル 文化 風景 顧客行動 1次的外的影響
↑
↑
↑
↑
↑
好み 技術 法令 経済状態 人口
2次的外的影響
図2 「旅行商品」システム(主催旅行の一形態)
出所:Laws. E, Tourism Marketing, Stanley Thornes, 1991, p7
を筆者加工修正
この図1は、旅行全体をひとつのシステムとして表し
ムシステムのいくつかの要素をパッケージしたものであ
ているが、旅行業者が提供する「旅行商品」もパッケー
り、「旅行商品」のシステムとしても図2のような捉え
ジさせたシステムとみることができる。図1にあるツー
方をすることができる。この場合、「旅行商品」に含ま
リズムシステムの一つ一つの要素がパッケージされて
れないツーリズムシステムの要素は直接的に旅行商品に
「旅行商品」となるのであるが、旅行業者が提供する、
影響を及ぼす外的影響の要素となりうるものと考えられ
という点でみるとすべての要素がパッケージされている
る。
訳ではない。しかし、主催旅行においても手配旅行にお
図2の主催旅行商品についてみるのであれば、当該
いても程度の差はあるものの「旅行商品」は、ツーリズ
「旅行商品」はツーリズムシステムに含まれるいくつか
−170−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
の要素をパッケージしたものである。それぞれの要素は
は、サービスパッケージが、顧客の期待したすべての内
各々、コアサービス、サブサービス、コンティンジェン
容を確かに含んでいるかどうか、これら個々の内容が、
トサービス、潜在的サービス要素をパッケージしたサー
顧客の期待する品質評価の基準にどの程度適合している
ビス商品である。
か、の2つの要素で決定される8)。ひとつの「旅行商品」
「旅行商品」は、独立して存在するサービスパッケー
というサービスパッケージ全体の中で顧客の評価にマイ
ジのパッケージであるが、「旅行商品」を単体としての
ナスを与えるものが発生すると、心理的には、「たった
サービスパッケージと考えた場合にそのコアサービスに
1つのマイナスを補うには12個のプラスが必要になる」9)
位置づけられるものは何であると考えればよいか。コア
ほどの影響を与えるため、他の部分にまったく問題がな
サービスは、当該サービスの中核的な機能であるため、
くてもマイナスと評価された「旅行商品」の評価を回復
顧客が何を目的に旅行するかによりコアサービスは決ま
するには相当な努力が必要となってくる。
り、その旅行で受けようとする主たるサービスと考える
したがって、「旅行商品」システムに含まれる要素の
こともできる。例えば、宴会を目的とする旅行では、宴
それぞれのオペレーションは独立しているが、一部の失
会の実施がコアサービスとなり、当該宴会場所までの移
敗が他のオペレーションの効果に有害な影響を与える10)
動に係るサービスなどは、サブサービスであると考えら
こととなる。また、有害な影響を与えたことにより、要
れなくはない。しかし、ここでは、コアサービスとは、
素各部の行動は、そのおかれた必要性と状態により拘束
顧客がどんな場合に顧客は提供されたサービスへの支払
されるし、もし一部分が変われば旅行全体のシステムに
6)
いを拒否でき、また払戻しを請求できる か、すなわち、
影響する11)。つまり、先の要素でマイナスの評価を持っ
顧客は何に対して対価を支払っているかという視点に立
た顧客に対しては、次の要素においては有害な影響を受
って、その対価性のあるものがコアサービスであると考
けた状態で引き継がれ、そのため、当該要素において想
えることとする。なぜなら、上記の宴会旅行の例では、
定していたサービスに手を加えたサービスの提供をする
あらかじめ予定された移動がなされず、宴会が行われ顧
必要がある。そして、そのサービスを提供することによ
客の目的が達せられたとしても、提供されていない移動
り評価を回復しうるとした場合でも、提供することによ
にかかる対価を払い戻さないというわけにはいかないた
りマイナスは回復されているが旅行全体は変わっている
めである。
ということであり、提供しなくてもやはりマイナスの影
このように考えると、「旅行商品」のコアサービスは、
「移動」、「宿泊場所の提供」、「食事の提供」、「観光対象
響を受けた旅行全体に変わるということになる。もっと
も、それぞれの要素のオペレーションは独立しているた
の提供(観光施設入場そのものや見世物を示すこと)」
めマイナスの状態で引き継いだ要素は、その必要性を認
と考えられ、サブサービスは多くの例があるが、航空機
識していないことが多く、また、本来、提供する必要の
の移動に伴う「機内食」、宿泊機関における各種「アメ
ないサービスの提供であるため、認識していたとしても、
ニティ」、「サービスの提供を受けるために必要な手続」
、
当該サービスを提供しないことも考えられる。
「円滑な旅行の実施を確保するための指示」等があげら
れる。また、コンティンジェントサービスとしては、
したがって、「旅行商品」の評価を回復するため、さ
らに「旅行商品」というサービスパッケージにおいて、
「異常事態発生時、事故や病気における対応」、「変更を
それぞれの要素が相互に適切に作用するためには「統制」
必要とする場合の代替サービスの手配及びその提供を受
が必要になる。
「統制」は、「旅行商品」システムの要素
けるための手続」などが考えられる。潜在的サービス要
のひとつといえるが、「統制」を行うとしても「旅行商
素は、サービス体験の持つ記号的な価値と顧客の個人的
品」システムの要素は、それぞれの独立してオペレーシ
な事情を理由に、そのサービスが本来意図している効用
ョンを行っているため限界がある。特に、コアサービス
7)
とはまったく違った意味を与える場合とがある 。前者
はひとつでも不十分な場合、顧客は全体的な不満を感じ
の例としては、旅行に行くことに対する精神的な効用と
る12)、とされ、この不満足が顧客の最低許容水準に満た
いえる「ワクワク感」、後者の例としては、バブル期に
なくなるとゼロ以下のマイナスになった感情や態度を示
あった「内定拘束旅行」などが当てはまるだろう。
すディスサティスファクションとされ不満告発運動をと
顧客が体験するサービス全体についての経験と評価
るような心的状態になる13)回復の難しい(他のプラスの
−171−
政策科学10−2,Jan. 2003
サービスにより回復することができない)不満足になる。
1.「手配・予約」
ところが、「旅行商品」におけるコアサービスについ
コアサービスを、顧客が主にその内容のサービスを利
ては、他の要素が「統制」を行ったり、影響を及ぼした
用するために、料金を支払っているサービスとするなら
りすることが難しいといえる。例えば、運送機関による
ば、旅行業者の提供するサービスパッケージのコアサー
「移動」は「統制」を行う者が安全運行や定時運行の確
ビスは、「手配(あるいは予約)」することということに
保をするために積極的に介入することはできないし、
なる。ただ、他の「旅行商品」システムの中の要素も旅
「宿泊場所の提供」、「食事の提供」、「観光対象の提供」
行業者が提供するか顧客が自ら行うかにかかわらず「手
においても当該コアサービスが期待に見合い評価されう
配」されなければ、その計画されたサービスは利用でき
る提供がなされないと予見される場合において回避しう
ない16)。そのため、「手配・予約」がなされないとその
ることは可能であっても、直接、「統制」や影響を及ぼ
サービスについては最低許容水準以下になり、満足度は
し得ないのは同様である。
ゼロ以下のマイナスになるディスサティスファクション
となるので、この視点で本質的(コア)サービスをみれ
Ⅲ.「旅行業者のサービス」の構成と要素
ば17)「手配・予約」は、「旅行商品」システム全体からみ
ても、コアサービスと考えることもできる。
次に、旅行業者の提供するサービスについて考える。
しかし、コアサービスとサブサービスの区別は常に明
旅行業者は「旅行商品」システムの中のツーリズムリテ
確なものとはかぎらない18)が、手配に関係するサービス
ーリングサブシステム部分を担う。単体として「旅行商
は、「旅行商品」システムの中のそれぞれの要素におい
品」パッケージをみた場合には、旅行業者の提供するサ
ては、サブサービスと考えられている19)。そのため、運
ービスで、コアサービスになるものはない。なぜなら、
送・宿泊機関等と同様に「手配・予約」を位置づけると
コアサービスとは、顧客が主にその内容のサービスを利
「旅行商品」パッケージの中でも、サブサービスである
用するために、料金を支払っているサービスである
14)
と
と考えることになる。
すれば、「移動」、「宿泊場所の提供」、「食事の提供」、
「観光対象の提供」のいずれも旅行業者が、自らサービ
スを提供するものでないためである。
さらに、「手配・予約」を「旅行商品」パッケージの
中でもサブサービスと考える根拠は、旅行する目的は、
「手配・予約」をすることではなく、そのために対価を
では、「旅行商品」システムの中から、旅行業者の提
支払っているのではないことがあげられる。また、「旅
供するサービスパッケージを取り出し、その構成と要素
行商品」パッケージ全体からみれば、
「手配・予約」は、
について考えるとどうであろうか。旅行業者は、ツーリ
主観的には小さくみえることもある。
ズムリテーリングサブシステムに存するが、図2にみる
だが、「手配・予約」ができていないということは、
ようにサブシステムの中では、分業が行われている。し
「移動」、「宿泊場所の提供」、「食事の提供」、「観光対象
たがって、旅行業者といっても、ホールセーラーをさす
の提供」という「旅行商品」パッケージの中でもコアサ
のか、リテーラーをさすのかで違った考察が必要になる
ービスとすることができるサービスが提供されないとい
が、ここでは、わかりやすくするために、ホールセーラ
うことである。そして、これらのコアサービスが提供さ
ー直販型の主催旅行商品を前提として話を進める。
れないと顧客はディスサティスファクションの状態にな
主催旅行において旅行業者が契約上提供するサービス
るが、運送・宿泊機関そのものがサービスを提供してい
は、旅行サービスの手配と旅程管理である。さらに、こ
ない場合も、「手配・予約」ができないためサービスの
の手配や旅程管理の対象となる旅行日程の作成や企画も
提供を受けることができない場合も「サービスが提供さ
旅行業者の提供するサービスといえる。したがって、旅
れない」という表面的な現れは同様である。
行業者の提供するサービスは、手配及び手配の際に必要
つまり、「手配・予約」は、対価の支払いという視点
になる予約と旅程管理を含めて「旅行商品」のそれぞれ
で捉えればサブサービスとなるが、「手配・予約」がで
の要素が相互に適切に作用するためのサービスといえる
きずに、計画された運送・宿泊機関等のサービスの提供
15)
だろう 。
が受けられないという時点になった場合には、「手配・
予約」がなければサービスの提供を受けることができず、
−172−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
識対
あ価
り性
の
認
コアサービス
宿泊場所の
提供
サブサービス
風呂
建物形態
食事場所
等
仲居
識対
な価
し性
の
認
支える
予約・手配
風呂
風呂
宿泊場所の
提供
建物形態
宿泊場所の
提供
食事場所
等
仲居
建物形態
食事場所
仲居
予約・手配
等
予約・手配
これらのサブサービスが欠如しても
コアサービスは提供される
予約・手配がないと
コアサービス、サブサービスは提供されない
図3 「旅行商品」における宿泊サービスの「予約・手配」(筆者作成)
コアサービスであったと認められるサービスであるとい
20)
の要素が相互に適切に作用するためには「統制」が必要
えよう 。ただ、この際、顧客は、明確に「手配・予約」
になる。この「統制」は、「旅行商品」システムの要素
をコアサービスと認めるのではなく、表面的に「サービ
としての旅行業者が自ら提供するサービスのひとつと考
スが提供されない」というコアサービスの不提供という
えられる。
形で認めているにとどまっているとも考えられる。
もっとも、「統制」は旅行業者が存在しなくともない
さらにいえば、主観的な顧客の視点からみると「手
ことはない(航空会社が旅行全体に関係する情報を与え
配・予約」は、当たり前のサービスである。「手配・予
たり、宿泊施設がタクシーや飲食店を紹介したりする)
約」は、「移動」、「宿泊場所の提供」、「食事の提供」、
が、効果的な「統制」は、旅行業者の重要な役割といえ
「観光対象の提供」という「旅行商品」パッケージのコ
よう。ここにおける「統制」の意味はそれぞれの要素が
アサービスのようにはっきりとした認識がなく、これら
相互に適切に作用するためのサービスで、「統制」サー
のコアサービスが提供されている場合には、サブサービ
ビスの結果として「手配・予約」が必要になることが多
スと認識し、提供されない場合にコアサービスと(明ら
いが、「統制」自体は「手配・予約」と同一のものでな
かに「手配・予約」がコアサービスと認識できなくても
く「手配・予約」が必要な場合でもその関係は牽連関係
「サービスが提供されない」と認めることを通じて)認
にあるものにすぎない。
識を改める性格を有するものであると考えればよいので
旅行業者が自ら提供する「統制」サービスの例として
はなかろうか。したがって、旅行業者は、「旅行商品」
は、「異常事態発生時、事故や病気における対応」、「変
パッケージにおいては明確にコアサービスを提供してい
更を必要とする場合の代替サービスの手配及びその提供
るとはみえないが、いわば、「旅行商品」パッケージに
を受けるための手続」という「旅行商品」パッケージの
おいても、隠れたコアサービスを提供し、その隠れたコ
中でコンティンジェントサービスと捉えられるものをま
アサービスが、(現行法制の枠組みにおいては)旅行業
ず思い浮かべることができるが、「サービスの提供を受
者のコアサービスなのである。(図3参照)
けるために必要な手続」「円滑な旅行の実施を確保する
ための指示」「旅行の目的地、旅行日程、旅行行程、旅
2.「統制」
行サービス提供機関の選定等に関する合理的な判断」と
前章で論じたように「旅行商品」システムのそれぞれ
の要素のオペレーションは独立しているため、それぞれ
いうサブサービスと捉えることができるサービスや「北
海道4湯めぐり」や「高級ホテルとグリーン車利用の旅」
−173−
政策科学10−2,Jan. 2003
など「旅行商品」システムの要素相互の価値を高める旅
生時、事故や病気における対応」は、「旅行商品」パッ
行企画や「旅行商品」の説明も「統制」サービスとする
ケージでも、「旅行業者としてのサービス」パッケージ
21)
ことができる 。
においてもコンティンジェントサービスである。
これらの「統制」サービスは、「旅行商品」パッケー
なぜなら、コンティンジェントサービスは、コアサー
ジの中では、サブサービスあるいはコンティンジェント
ビスやサブサービスが定常業務であるのに対し、定常的、
サービスと考えられる。しかし、主催旅行において旅行
安定的な業務の流れをかき乱す攪乱要因の処理を内容と
業者が、自らサービスを提供し、対価を得るサービスは
する「非定常的な業務」22)であるため、どちらのサービ
「手配・予約」と並びこれらの「旅程管理」や「企画」
スパッケージにおいても攪乱要因が発生しなければ提供
されない。
である。もっとも「企画」や「旅行商品」の説明につい
ては、「旅行業者としてのサービス」においても顧客は
なお、攪乱要因は、サービス生産システムの外的な発
主に企画や説明というサービスを利用するために、料金
生環境から発生するものと顧客を原因とするものがある23)。
を支払っているのではないため(旅行相談契約でない以
ここで例をあげたコンティンジェントサービスは、前者
上「手配・予約」の)サブサービスと位置づけることが
のサービス生産システムの外的な発生環境から発生する
できる。
ものに対するサービスであるが、攪乱された定常業務た
るコアサービスやサブサービスは、大部分は「旅行商品」
一方、「旅行商品」パッケージの中での「旅程管理」
は、サブサービスたる「サービスの提供を受けるために
パッケージの中にあっても「旅行業者としてのサービス」
必要な手続」「円滑な旅行の実施を確保するための指示」
パッケージにはないサービスである。後者の顧客を原因
とコンティンジェントサービスたる「変更を必要とする
とする攪乱要因も前者の場合より「旅行業者としてのサ
場合の代替サービスの手配及びその提供を受けるための
ービス」に対する割合は増えるだろうが、その定常業務
手続」に分けることができる。「異常事態発生時、事故
を提供する者は「旅行商品」システムの中の他の要素で
や病気における対応」もコンティンジェントサービスと
ある場合のほうが多いであろう。
もちろん、他の要素もコンティンジェントサービスを
考えてよい。前者の「サービスの提供を受けるために必
要な手続」「円滑な旅行の実施を確保するための指示」
提供する。ただ、他の要素は、自らの提供する定常業務
というサービスは「旅行業者としてのサービス」におい
が攪乱されたことに対してコンティンジェントサービス
てもサブサービスであるが、「手配・予約」を補完する
を提供するのであるが、旅行業者は他の要素が提供する
ために提供することがあるものの、旅行業者が自ら提供
定常業務が攪乱された場合にも適応しなければならな
するコアサービスのサブサービスではなく、運送・宿泊
い。定常業務が攪乱された自ら旅行サービスを提供する
機関等の提供するコアサービスのサブサービスになる部
要素以外の他の自ら旅行サービスを提供する要素は、先
分が大きいということには注意しておかなければならな
の定常業務が攪乱されていなければ、自ら提供しようと
い。後者の「変更を必要とする場合の代替サービスの手
するサービスについては攪乱されなかったのである。
配及びその提供を受けるための手続」及び「異常事態発
定常業務
(定常業務
提供者)
航空機の
定時運行
コンティンジェント
サービス提供者
攪乱要因
天候によるフラ
イトキャンセル
これは、次の例を考えるとわかりやすい。旅行中、航
→
コンティンジェント
サービスの内容
航空会社
→
宿泊、翌日のフライト
の手配
旅行業者
→
宿泊の取消行為、行
程の変更と手配
(航空会社)
原因
影響
攪乱され
ていない
=
宿泊サービ
スの提供
サービス受領
→
不可
(宿泊機関)
図4 天候によるフライトキャンセルの場合のコンティンジェントサービス(筆者作成)
−174−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
空機が天候で飛べなくて、出発が1日遅れた。航空会社
ントサービスであること変わりない。
は、その日の宿泊を用意するのは常であるが、目的地の
コンティンジェントサービスは、攪乱要因が発生しな
宿泊の取消手続きや1日遅れたため変更しなければなら
ければ必要とされない。しかし、攪乱要因が発生したな
ない手配のやり直しまではしない。主催旅行であれば、
らば、主催旅行に参加している顧客は、なぜ旅行業者に
目的地の宿泊の取消手続き以降の業務を提供することを
旅行代金を払い、旅行業者は何のためにあるのかを考え
求められるのは、旅行業者であろう。(図4参照)
ることになる。つまり、ここで、顧客が旅行業者に支払
また、ヨーロッパのホテルでは各部屋が均質でない場
い、主にその内容のサービスを利用するために、料金を
合が多く、契約条件の範囲内であるものの相対的に悪い
支払っているサービスのひとつとして旅行業者が提供す
部屋に当たった顧客に対しては、翌日の宿泊で配慮する
るコンティンジェントサービスを認識するのである。し
24)
ことが求められる 。この配慮も旅行業者に対して求め
たがって、旅行業者の提供するサービスにおいては、状
られるものである。
況適応すべき攪乱要因により変わるが、攪乱要因が発生
これらの場合、顧客は、航空会社に対し手配のやりな
した時点でコンティンジェントサービスは、コアサービ
おしを求めないし、翌日の宿泊の配慮を翌日のホテルに
ス(上記のどこにも宿泊できなかった例)あるいはサブ
は求めない。
サービス(上記の悪い部屋を当てられた例)となる。
前者の例で、手配をやりなおしたけれどもどこにも宿
したがって、旅行業者のコンティンジェントサービス
泊できなかった顧客や後者の翌日も相対的に悪い部屋を
は、隠れたコアサービスあるいは隠れたサブサービスと
当てられた顧客の不満足は旅行業者に向けられるだろ
いい得る。「手配・予約」ができないためにサービスの
25)
提供を受けることができない場合は、運送・宿泊機関に
上の例では、相対的に悪い部屋を当てられた顧客の期
より「サービスが提供されない」という場合と表面的な
待に添えなかったとしても、その顧客の満足度はアンサ
現れが同じである。そのため「手配・予約」ができない
う 。
26)
に振れるだけかもしれない。なぜ
ことでコアサービスが提供できない場合は、
「旅行商品」
なら、「宿泊場所の提供」というコアサービスは提供さ
パッケージでも「手配・予約」はコアサービスとなる。
れているからである。夜に到着したときはわからなかっ
一方、旅行業者のコンティンジェントサービスは、旅行
たけど朝窓を開ければ、他の部屋では見られない素晴ら
業者の提供するサービスの中で、コアサービス、サブサ
しい景色がみられたという状況もあり得る。
ービスとなったと確認されるだけで、「旅行商品」パッ
ティスファクション
しかし、手配をやりなおしたけれどもどこにも宿泊で
ケージの中では、定常業務の攪乱に適応するコンティン
きなかった顧客はディスサティスファクションの状態に
ジェントサービスであることには変わりない。(表1参
なる。このとき旅行業者が提供できなかったコンティン
、、、、
ジェントサービスは、天候という航空会社の定常サービ
照)
スの攪乱に適応できなかったのである。これは、顧客は
、、、、
航空会社の定常サービスの攪乱に適応することも旅行業
アサービスになりうるもので、不満足が顧客の最低許容
27)
旅行業者にとってコンティンジェントサービスは、コ
水準に満なれば顧客はディスサティスファクション状態
者に期待していると考えてよいのではないか 。つまり、
となる。しかも、「旅行商品」パッケージにおけるコア
コンティンジェントサービスは、旅行サービス提供機関
サービスではなく、「旅行業者としてのサービス」パッ
のサービスパッケージにおいては、自ら提供する定常サ
ケージにおいてのコアサービスであり、ディスサティス
ービスの攪乱に適応するためのサービスであるが、「旅
ファクションが生じた場合に「旅行業者としてのサービ
行業者としてのサービス」パッケージにおいては、大部
ス」パッケージに直接ディスサティスファクションが向
分は「旅行商品」パッケージの中の旅行業者以外の要素
かう。また、サブサービスになるコンティンジェントサ
が提供する定常サービスの攪乱に適応するためのサービ
ービスもその効果が直接「旅行業者としてのサービス」
スとなる。繰り返しになるが、「旅行業者のサービス」
パッケージに向かうため、そのサービスの提供は旅行業
としてのコンティンジェントサービスも単体としての
者の中でも特異だとみられる差別化ができれば他の旅行
「旅行商品」パッケージにおいては、
「旅行商品」パッケ
業者との競争で打ち勝つ28)可能性をもつ。なお、次章で
ージの内部の定常業務の攪乱に適応するコンティンジェ
述べるように旅行者は、「旅行商品」パッケージを「旅
−175−
政策科学10−2,Jan. 2003
行業者としてのサービス」商品と混同していることが多
ケージの中の旅行業者以外の要素が提供する定常サービ
分にあるが、この時点において顧客は、旅行業者に主な
スの中でおこり、コンティンジェントサービスを提供す
サービスを利用するために、料金を支払っているのは当
る場合も「旅行商品」パッケージの中の旅行業者以外の
該サービスであるとの認識が高まっているため、サービ
要素の提供するサービスを通じて提供することになるた
スに差が出るのは旅行業者の力量と認識できるだろう。
め、非定常的な状況に対応する決定や臨機応変の判断を
(「手配・予約」のサービスの提供がないときは「旅行商
許すにおいても自ずと限界があるのである。
品」パッケージにおけるコアサービスの欠如と認めるに
以上は、ホールセーラー直販型の主催旅行商品を前提
とどまり得るが、その場合に比してこの場合(コンティ
としているが、ホールセーラー専業やリテーラー、手配
ンジェントサービス)は「旅行業者としてのサービス」
旅行さらにはランドオペレータにおいても「旅行商品」
とは何かの認識が顧客に高まっていると考えられる。)
パッケージの中の要素を多少変えることで、ツーリズム
だが、コンティンジェントサービスは、その性質上あ
らかじめ十分なデザインをしておくことはできない。し
リテーリングサブシステムの要素には類推適用できるの
もと思える。
かし、論理的に予想できる重大な非定常的な状況にはど
のように対応するかは、あらかじめ決め29)ることができ
る。さらに、想定できない状況に対応するためには、担
Ⅳ.「旅行業者としてのサービス」の品質を
高める方法
当者には顧客志向の姿勢と組織運営のバランスが取れ
た、状況にあった適切な判断が求められ、また臨機応変
これまでは、「旅行商品」の構成と要素と「旅行業者
の判断を許す組織風土と高度なリーダーシップが重要に
のサービス」の構成と要素について論じてきた。次に、
30)
なる 。ところが、「旅行業者としてのサービス」を提
「旅行商品」において「旅行業者としてのサービス」が
供するコンティンジェントサービスでは、多くの場合、
いかにすれば、より効果的な提供がなされうるかを検討
攪乱要因が発生したのは、「旅行業者としてのサービス」
してみる。現在の旅行契約の考え方は、旅行業者は「旅
して提供した定常サービスではなく、「旅行商品」パッ
行商品としてのサービス」を提供するのではなく「旅行
表1 「旅行商品」パッケージの構成要素(旅行業者が提供するサービスを中心として)(筆者作成)
当該サービスが提供されなかった
ときにおける顧客の認識
「旅行商品」
サービスパッ
ケージの構成要素
区分
当該サービス
提供者
移動、宿泊場所の提供、食事の提供、観光対象
の提供
コアサービス
旅行サービス
提供機関
コアサービス
手配・予約
サブサービス
旅行業者
コアサービス
価値を高める旅行企画
サブサービス
旅行業者
サブサービス
サブサービス
旅行業者
サブサービス
旅行の目的地、旅行日程、旅行行程、旅行サー
ビス提供機関の選定等に関する合理的な判断
サブサービス
旅行業者
サブサービス
サービスの提供を受けるために必要な手続
サブサービス
旅行業者
サブサービス
円滑な旅行の実施を確保するための指示
サブサービス
旅行業者
サブサービス
異常事態発生時、事故や病気における対応
コンティンジェ
ントサービス
旅行業者又は
旅行サービス
提供機関
コンティンジェ
ントサービス
コアサービス
又は
サブサービス
変更を必要とする場合の代替サービスの手配及
びその提供を受けるための手続
コンティンジェ
ントサービス
旅行業者
コンティンジェ
ントサービス
コアサービス
又は
サブサービス
「旅行商品」パッケージの
構成要素例
「旅行商品」の説明
−176−
「旅行商品」パッ 「旅行業者として
のサービス」パ
ケージとして
ッケージとして
「旅行商品」パ
ッケージと「旅
行業者としての
サービス」パッ
ケージとを区分
しない
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
業者としてのサービス」のみを提供するという考え方で
行業者としてのサービス」を区別できるようにして、い
ある。この考え方は、旅行業の始まりは、国鉄や私鉄の
かにすれば「旅行業者としてのサービス」により旅行業
駅前案内所で、切符の販売や旅館の斡旋が主な業務とな
者を評価するようになるのかを検討するのか、というこ
っており、鉄道会社を補完する役割を担っていたためで
とになる。
31)
、その枠組みの中で発展してきたことによるものとい
前者については、現在取引されている旅行契約の内容
える。枠組みに捕われず「旅行商品」を開発していく検
を再検討する必要もあるため、その検討は、次の機会に
討の必要性も考えられるが、当面、旅行業者の存在をよ
譲ることとし、ここでは、現行の旅行契約を前提として
り有意なものとするためには、あるいは、現行制度の環
後者について論じる。
境をより効果的に活かすためには、現行の制度の枠組み
においていかなる方策が可能であるかを検討することは
1.「旅行業者としてのサービス」の説明
論じるに値しよう。
顧客満足度の評価基準となるサービスの質は、実際提
ところが、旅行業者で「旅行商品」を購入する旅行者
供されたサービスの質から期待していたサービスの質を
は、「旅行商品としてのサービス」と「旅行業者として
引いたものである33)といわれる。しかし、旅行者は「旅
のサービス」を区別できているとはいいがたい32)。
行商品としてのサービス」と「旅行業者としてのサービ
しかし、実際は「旅行商品」システムにおいてはそれ
ス」が区別できていないので、旅行者は、旅行業者に対
ぞれの独立した要素がオペレーションを行っている。
して「旅行商品としてのサービス」を期待する。だが、
「旅行業者としてのサービス」も独立した要素のひとつ
旅行業者が直接的に提供できるのは「旅行業者としての
であり、要素が相互に適切に作用するために「統制」を
サービス」のみであるため、手配サービスや旅行業者と
行ったり、他の要素がより効果的なサービスを提供する
してのサービスとして提供する「統制」や影響の及ぼし
ように影響を及ぼしたりすることはその重要な項目では
うる限界を超えた効果はもっぱら「旅行商品」システム
あるが、他の独立した要素のオペレーションに介入する
の他の要素のサービス行動いかんによることになる。
としても自ずと限界がある。第2章で述べたように、特
そこで、旅行業者は自ら提供できるサービスを超えた
に、他の要素が提供するのコアサービスについては、当
期待がなされると自らはいかんともし難いので、提供さ
該コアサービス提供者以外が「統制」や影響を及ぼすこ
れた「旅行商品としてのサービス」に関して顧客の旅行
とはできない。なぜなら、当該コアサービスを提供する
業者に対する満足度を上げるためには、旅行業者のサー
に当たってはそのサービス提供者固有の能力が必要であ
ビスとして提供するものは何であるかの正確な認知が旅
るためであり、それ以外の者が「統制」や影響を及ぼそ
行者においてなされるような方策をとる必要がある。旅
うとしても能力的に無理なのである。いくつかのサブサ
行業者が「旅行業者としてのサービス」をいかにデザイ
ービスについては、サービス提供者以外の者であっても
ンするかは個々の旅行業者の経営方針によるが、「旅行
「統制」や影響を及ぼすことは能力的には可能であるか
業者としてのサービス」商品を設計するに当たり、「旅
もしれない。しかし、オペレーションの主体が異なるた
行商品としてのサービス」の中で、何が「旅行業者とし
め当該サービス提供者が介入を受け入れなくなればそれ
てのサービス」であるかを明確にしておかなければなら
までで、「統制」や影響を及ぼした効果が生じるか否か
ない。そして、それを目に見える形で顧客に示す方法が
はもっぱらサービス提供者のサービス行動にかかってい
契約ということになる。もちろん「旅行業者としてのサ
るわけである。
ービス」すべてを子細にわたり契約として顧客に示すこ
したがって、旅行業者が顧客から適切な評価を受けよ
とはできないが、「旅行業者としてのサービス」のうち
うとするのであれば、現実の顧客の状態、「旅行商品と
コアサービスになり得、そのコアサービスにかかわる部
してのサービス」と「旅行業者としてのサービス」を区
分、「旅行商品としてのサービス」のうちコアサービス
別できていない状態に合わせ、いかにして旅行業者が
にかかわる部分は、しっかりと示す必要があるだろう。
したがって、「旅行業者としてのサービス」商品は、
「統制」や影響を「旅行商品」システムの他の要素のサ
ービス提供者に及ぼし効果を高めるようにするのかを検
外形的には契約という形で表されることとなる。そのた
討するか、顧客が「旅行商品としてのサービス」と「旅
め、旅行業法では、旅行業者等に旅行業約款を掲示する
−177−
政策科学10−2,Jan. 2003
表2 「消費者問題に関する世論調査」
あなたは、何か商品を購入したり、サービスを利用したり
あなたが契約書や約款の内容をよく読まないのはなぜです
する際、契約書や約款が必要な時、これらの内容をよく読
か。この中からいくつでもあげてください。(M.A.)
む方ですか。この中ではどうでしょうか。
ア 内容を理解するまでよく読む
25.1
ア 内容が難しく読みづらいから
56.9
イ ざっと読む
31.3
イ 分量が多いから
47.7
ウ その時々で違う
15.2
ウ 相手の面前で契約書を読むのは気が引けるから
5.5
エ ほとんど読まない
26.5
エ
契約書は皆が使っているし、それなりの内容
になっていると思うから
14.7
オ
相手を信用するし、仮に問題がおきても話合
いで解決すると思うから
15.5
わからない
1.9
(%)
カ 読む暇がないから
イ・ウ・エ の回答者は右の質問に回答
その他(
資料:総理府広報室「消費者問題に関する世論調査」(調査:
1998年1月)
http://www8.cao.go.jp/survey/shohisha.html より作成
11.4
)
わからない
6.8
1.7
(%)
ことを義務づけ(第12条の2)、契約成立の前後に書面
し、態度を決めて購買するのだから、もし事前に期待が
を交付することを義務づけている(第12条の4、第12条
低いのなら、そもそも購買そのもののアクションをとら
の5)。しかし、現実には、この書面を読んで理解して
ない37)。そのため、積極的に説明をすることにより購買
いる者は少数 34) で、「旅行商品としてのサービス」と
意欲をそぐことを避けるのは理解し得る。ここに購買意
「旅行業者としてのサービス」が区別を示す機会として
欲を高めることとサービスの質を高めることとの間にト
「旅行条件書」の交付が有効な方法になっているとはい
レードオフの関係が成立することになる。
えないのである。「旅行条件書」を工夫することでその
しかし、サービスを提供する産業においてリピーター
有効性は高まる余地はあるが、一般的に契約書や約款は、
は新規顧客よりコストのかからない顧客である。なぜな
顧客にとって読みづらいもので、自ずと限界があろう
ら、リピーターは当該サービスを知り、期待水準がすで
(表2参照)。
に形成され、そのサービスでの自らの位置づけが解って
一方、顧客は、「旅行商品としてのサービス」ではあ
いるからである38)。したがって、旅行業者もリピーター
るが「旅行業者としてのサービス」でないため旅行業者
顧客を増やすことが収益性を高めることとなるため、顧
が責任を負わない事案に対しては、説明書面だけでは納
客が期待したサービスと実際提供されたサービスの差が
得できないが、加えて口頭での説明を受けていれば納得
大きくなり顧客がディスサティスファクションの状態に
35)
できるとする者が多い 。しかし、旅行業者は、旅行業
なるとリピートが期待できないゆえ、示さなければ顧客
者のサービスとして何を提供するか、すなわち何が「旅
がディスサティスファクションの状態になる事項は最低
行業者としてのサービス」で、何が「旅行商品」システ
限示す必要があることになる。
ムの中の他の要素が提供するサービスかを積極的に説明
しているとはいい難い36)。
2.「旅行業者としてのサービス」提供後の顧客の主観
的評価を高める方法
旅行者が「旅行商品としてのサービス」と「旅行業者
としてのサービス」を区別していないゆえ旅行業者とし
次に、サービスが提供された後における顧客の主観的
て提供できるサービスが「旅行業者としてのサービス」
評価が高まるためには、どのような方策が有効であるか
のみであると認識されると旅行者の期待を下げることに
を考える。サービス水準の客観的評価が高まると当然、
なる。それによりサービスの提供が完了した時点での顧
主観的評価の水準も高まるが、客観的評価が変わらない
客満足度の評価基準となるサービスの質は高まることに
とした場合、サービス購入前にサービス提供後の客観的
なるが、顧客はそのサービスがよいものと購買前に期待
なサービス水準よりわずかに高い期待がなされると顧客
−178−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
サ
ー
ビ
ス
水
準
購買前の期
待
購買後客観
的評価
主観的評価
↑
↑↑↑
↓
↓↓↓
0
期待<評価
期待=評価
期待>評価
図5 知覚矯正のメカニズム
出所:嶋口充輝『顧客満足型マーケティングの構図』(有斐閣、1994)77頁より作成
の主観的評価は、顧客は自分の期待に基づいた購買行動
分は「旅行業者としてのサービス」ではないことを顧客
を正当化するため客観的サービス水準より高くなる。逆
に示さなければならない。また、旅行業者が「統制」や
に客観的水準よりわずかに低い期待がなされたときに
影響を及ぼし得ない「旅行商品」システムの中の他の要
は、顧客の主観的評価は客観的水準より低くなるが、期
素が提供するサブサービスを誇張したり、あたかも「旅
待と客観的水準の差が著しく大きい場合には、主観的評
行業者としてのサービス」であるかのように見せたりす
価水準は、期待が高ければ客観的水準より低くなり顧客
ることも期待を高めすぎる要因となることもある。
はディスサティスファクションとなり、期待が低ければ
ただ、「旅行商品としてのサービス」のほとんどを旅
客観的水準より高くなるとされる(図5参照)
。これは、
行業者が自ら提供しているのではないという事実は、旅
期待からあまりにかけ離れた現実の評価に反発が大きく
行業者が直接サービスに責任をもってくれると期待して
なるためである39)。
いた顧客の期待を低下させるので、顧客の主観的評価は
したがって、旅行業者のサービスとして旅行商品にお
客観的水準より低くなるおそれがある。さらに、「旅行
いて何を提供するかを示す場合にも、当該旅行業者が客
商品」システムの中の他の要素が提供している「旅行商
観的に提供できるサービスよりわずかに高い期待を旅行
品としてのサービス」を「旅行業者としてのサービス」
者がもちうるように示すことが適切である。しかし、期
と思い込まれていても当該サービスが滞りなく提供され
待が客観的に提供できるサービスより高くなりすぎると
ていれば顧客に不満は生じないため、「旅行業者として
旅行者はディスサティスファクションとなるため、高す
のサービス」を顧客に認識させることで顧客の主観的評
ぎる期待を招く旅行業者のサービスの示し方は適切でな
価が低くなる危険を冒して顧客の認識を高めるより、い
い。
わば顧客の思い込みにタダ乗りして旅行業者がサービス
ここで、旅行者が高すぎる期待を招くサービスの示し
を広範に提供しているとしておくほうが有利だと考え、
方を検証する必要がある。まず、「旅行業者としてのサ
個々の取引の場面では積極的な説明を行っていないこと
ービス」で提供できないコアサービスについて旅行者が
も理解はできる。
旅行業者にその提供を期待することがあげられよう。
しかし、これはサービスが滞りなく提供されるという
「旅行商品としてのサービス」におけるコアサービスの
僥倖のみによるもので、実際、旅行業者が「統制」や影
うち旅行業者が「統制」や影響を及ぼし得ない要素・部
響を及ぼし得ない結果生じる「期待はずれ」が頻繁に生
−179−
政策科学10−2,Jan. 2003
じると「旅行商品としてのサービス」を「旅行業者とし
の期待に対応するためサービスをいかにデザインするか
てのサービス」と思い込まれていていることは旅行業者
は、前章でも述べたように、個々の旅行業者の経営方針
自体の評価を低下させることになる。さらに、旅行業者
により異なる。そして「旅行業者としてのサービス」の
は「旅行商品としてのサービス」と「旅行業者としての
事後的な品質の評価を高めるためには、「旅行業者とし
サービス」の異なりを正確に示していないため、真に
てのサービス」とは何かを顧客に認識させることも契約
「旅行業者としてのサービス」が何であるかを顧客に示
締結過程において行わなければならない。
せず、それゆえ、それについてのアピールも行ない難く
ただ、この顧客に認識させる行為は、顧客が期待して
なる(注36参照)。つまり、本来提供しているサービス
いたサービスではないことが多く(なぜなら、顧客は
も顧客には示せないことになる。顧客の主観的評価は、
「旅行商品としてのサービス」と「旅行業者としてのサ
客観的水準を正確に説明して客観的水準に近い期待を顧
ービス」とが区別できていないので、この説明がある自
客がする方が、何も説明をされない顧客よりも高くなる
体を想定していない場合が多い)、時間をかけて説明す
40)
ので、旅行業者にとって真に「旅行業者としてのサー
ることは、契約締結過程における品質を低下させうる要
ビス」が何であるかを示せない環境にあることは不利で
因になることも考えられる43)。先に、購買意欲を高める
ある。
こととサービスの質を高めることとの間にトレードオフ
個々の取引で「旅行業者としてのサービス」を顧客に
の関係が成立することになると述べたが、「旅行業者と
認識させるとすると旅行者の期待は少し下がったところ
してのサービス」の質の向上を考えると事後的な品質と
から始まるため、それを回復し実際より少し高い期待を
契約締結過程の品質との間にもトレードオフの関係が成
させることはなかなか難しい。しかし、あらかじめ、
立することにとなり得る。
「旅行業者としてのサービス」とは何かを顧客が認識し
事後的な品質を確保するためには、契約締結過程の品
ていれば、このマイナスは生じず、適度な少し高い期待
質に配慮しながらも個々の取引である程度顧客を納得さ
をさせることは、今より容易になるだろう。旅行業界が
せる必要がある。しかし、旅行業者の従業者は、「旅行
自らのスタンスに現行の制度の枠組みの継続を今後も望
業者としてのサービス」とは何かを積極的に説明してい
むならば業界全体が「旅行業者としてのサービス」とは
るとはいい難い。確かに、事後的な品質は契約締結過程
何かを周知させ、世間に旅行業者の業務の常識を築くこ
の品質とトレードオフの関係にあるのみならず、購買意
41)
とが必要である 。
欲を高めることともトレードオフの関係があるため、旅
行業者としては、事後的な品質を気に掛けながらも、
Ⅴ.「旅行商品」の購入過程でのサービスの
質を高める方法
「旅行業者としてのサービス」とは何かに敢えて積極的
に触れずに、旅行条件書を詳細にするとか、条件書にサ
インを求めるとかの方法に擬制していることは致し方な
1.「旅行商品」購入過程のサービス
いといえないことはない。
前章では、「旅行業者としてのサービス品質」の評価
しかし、「旅行業者としてのサービス」をあいまいに
を高める方法について論じたが、ここでのサービスの品
し、事後的な品質を「旅行商品としてのサービス」が滞
質は、主に「旅行商品としてのサービス」が提供された
りなく提供されるという運まかせに期待することは、リ
後からみて論じたものであった。
ピーターを期待しないのであればともかく継続的に取引
一方、旅行契約が締結される場面では、顧客は「旅行
をしていこうとする場合には賢明ではない。顧客の多く
商品」の購入過程における旅行業者が提供するサービス
は、重要なポイントを短時間で説明されることを望んで
の品質に対しても評価する。これは、サービスが提供さ
いるため、比較的頻繁に発生が想定できる顧客の「旅行
れた後からみたサービスの品質というより、いま経験し
業者としてのサービス」に対する認識が誤っている事項
42)
ているサービスの質に対する主観的評価である 。
については納得させる口頭での説明が望まれる。反対に、
顧客は、「旅行商品」ついての内容の説明を受けるこ
顧客が正しく認識している事項や発生の頻度が低いよう
とや質問に対しての的確な回答、要領よく旅行契約が締
な事項、顧客が納得していたとしても結果的に顧客との
結されるということに対して期待をもっている。これら
関係が破綻するような事項については旅行条件書で擬制
−180−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
する方がよい44)。
マニュアル化の例としては、エイチ・アイ・エスが上
げられよう。社長の澤田が言うように、マニュアルどお
2.契約締結過程の品質に対応するサービスのデザイン
りの応対では明らかな限界がある50)もののマニュアルに
次に、顧客の期待する契約締結過程の品質に対応する
よる販売方式51)が成長に寄与したことは間違いないであ
ためのサービスをいかにデザインするかについて論じ
ろう。また、機械化についてはインターネットによる旅
る。契約締結過程のサービスの品質は、「旅行業者とし
行受付が上げられるが、「旅の窓口」を運営するマイト
てのサービス」の説明のみならず、契約締結過程で旅行
リップ・ネットでは、利用規約で当該システム以外の通
業者が提供する一切のサービスが対象とされる。
信手段による申し込みは受け付けない52)ことで省力化を
観光ビジネスは、基本的にサービス産業であり、必要
なサービス水準を維持するためには、一般に多くの労働
図り、49名(2002年7月現在)の職員 53)で営業してい
る。
力を必要とする45)。特に、旅行業界はそこで働く人の役
エイチ・アイ・エスに対しては、敵意に近い感情を抱
割が高いだけに、人件費率が高いのも特徴で46)あるとさ
いている旅行会社は多く、その体質に対して批判54)もさ
れる。これは契約締結過程でサービスを提供するときも
れていたが、親切・丁寧な対応が客の心をつかみ、待ち
顧客の期待する品質に対応するためには、サービスエン
時間の少なさも評判で、店内には間断なく挨拶が飛び交
カウンターにおいて「人」を欠かすことができず、その
って顧客の反応も上々である55)ともいわれる。顧客の反
「人」には、顧客が期待した対応ができる(はず)と考
応がよい理由としては、この毀誉褒貶が格安航空券業者
えられているためである。ただ、この部分は、一番コス
というイメージに相俟って顧客の対するサービスの期待
トがかかるため、現状では、雇用年数の限られた派遣社
が過剰にならないよう創造され、それにマニュアル化に
員やアルバイトなどを多く配置することで、人件費を削
より均質性が確保された結果、顧客の期待と契約締結過
減しているため、十分に商品知識をもった者が対応して
程で提供するサービスとの間の適正化ができたからとも
47)
いるとはかぎらない 。「旅行商品」が販売される場合、
「旅行商品」のポジショニングごとに顧客対応者が変わ
ることは少なく、概ね、同一販売店であれば同じ対応を
いえる。「旅の窓口」は、従来の旅行業者でなく予約シ
ステム業者であるというスタンスを貫くことによって宿
泊予約サービスのエクセレント化に成功している。
48)
しているといえる 。
以上は、顧客の契約締結過程におけるサービスに対す
また、販売店ごとに契約締結過程の品質への対応は異
る期待をコントロールできている例だといえるが、多く
なるもののその違いを十分アピールしている例は少な
の場合、顧客が契約締結過程において受けるサービスは
い。したがって、顧客の契約締結過程の品質への期待は
担当者の当たり外れによるところが大きい。
「旅行商品」
顧客のみによって創造され、旅行業者へ行けば何でもわ
に対しては、膨大な知識が必要であるため、すべてのサ
かるという過剰な期待を生むことも否定できない。過剰
ービスエンカウンターに十分な対応能力を期待すること
な期待が導く結果は、前章で述べた通りなので、適正な
期待に落ち着くように配慮しなければならない。つまり、
表3 旅行業販売戦略類型
あまり訓練されていない者をサービスエンカウンターに
競 争 戦 略
配置するのであれば、その従業員に対応可能な範囲の期
ターゲット(費用負担)
法人
個人
待を顧客が持つようにサービスのデザインをしなければ
旅
団 コスト・リーダーシップ
J-G-C型 N-G-C型
ならないのである。必ずしも十分訓練された者を配置で
行
体 差別化
J-G-D型 N-G-D型
きない場合、労働力への依存度の高いサービスは、一般
形
個 コスト・リーダーシップ
J-I-C型 N-I-C型
に、提供者によるバラツキが生じやすい傾向にある。こ
態
人 差別化
J-I-D型 N-I-D型
うした事情から、必要なサービス水準を維持し、サービ
スのバラツキを抑えながら、省力化を図り、競争企業に
対するコスト優位を実現しようとする方策が必要とされ
る。これには、機械化やセルフサービス化による省力化
のほか、マニュアル化が有効な方法と考えられる49)。
なお、出所には説明されていないが、左表の、「J」は法人、
「N」は個人(ターゲット)、「G」は団体、「I」は個人(旅行
形態)、「C」はコスト・リーダーシップ、「D」は差別化(競
争戦略)、を示すものと思える。
出所:橋本亮一「私的マーケティング論と『総合旅行会社』の
行方」『週刊トラベルジャーナル』2000.6.5、75頁
−181−
政策科学10−2,Jan. 2003
インターネット
での予約/支払
どちらかといえば
インターネット
どちらかといえば
通常
通常の
予約/支払
インター
ネット計
通常計
10.6 0.0
68.1
31.9
11.1 0.0
63.2
36.8
0.0
45.0
55.0
0.0
44.0
56.0
0.0
66.1
33.9
0.0
58.0
42.0
0.0
33.3
66.7
0.0
58.1
41.9
無回答
(%)
全体(N=4019)
a)安価なパッケージ旅行を利用したい場合
b)人気のエリアに行きたい場合
17.4
d)体験旅行をしたい場合
15.0
e)多くのバリエーション(選択肢)から選びたい場合
26.2
f)特定の希望(宿や航空会社など)がある場合
27.4
g)自分でアレンジも加えたい場合
h)1週間後に出発したい場合
図6
33.1
27.6
21.9
36.7
29.0
19.3
24.9
30.6
29.8
17.1
28.7
38.0
28.3
11.6
22.4
39.8
20.6
12.7
25.7
39.4
23.8
c)あまり人の行かないようなところに行きたい場合
21.3
37.2
30.9
22.6
19.3
あなたがパッケ−ジ旅行の予約(支払い)をするとしたら、インターネットを通じての予約
(支払い)と通常の予約(支払い)ではどちらがよい(向いている)と思いますか。
資料:JATA 調査レポート 「日本人の暮らしと旅行」インターネットと旅行について(調査:2001/02)
http://www.jata-net.or.jp/tokei/005/005_index_v_frame.htm
はできない。
ーシップ戦略をとる場合でも、「旅行」中の生活は、当
しかし、旅行業者は、契約締結過程におけるサービス
該旅行者の普段の生活がそのまま反映されるため、顧客
の提供に対して顧客がもつ期待が適正に落ち着くように
が主観的に必要と考える知識の基準が一定とはいえず、
配慮しなければならない。そのためには、まず販売戦略
顧客が従業者に契約締結過程におけるマニュアルでは対
を類型化し領域ごとにサービスのデザインを考える必要
応しきれない程の量・質のサービスを期待してしまうこ
がある。例えば、表3のように販売戦略を類型化した場
とも否定できない。そのような状況では、旅行業者が実
合、「N-I-D型」では、接客スタッフを指名予約制に
際提供できるレベルに近いサービスへの期待に調整する
し、ベテランの元派遣添乗員など旅行経験豊富な者を対
ことは難しい。単純だがマニュアルにないサービスを期
56)
一方コストリーダーシップ戦略をとる場合に
待した顧客は、訓練されていない従業者が対応できない
は、マニュアル化や自動化を推進させる。この際、「旅
ことに不満を抱く。その場合、サービスエンカウンター
行商品」のポジショニング、「旅行業者としてのサービ
において、人の提供するサービスのマニュアル化以外の
ス」に対するポジショニングに応じて契約締結過程にお
方法も考えなくてはならない。
応させる
けるサービスの提供も異なることを顧客が認識している
ことが重要である。
そのひとつの方策として、サービスエンカウンターに
おける自動化が考えられよう。顧客が期待するサービス
インターネットを契約締結過程に用いる「旅行商品」
に対するギャップは、5つの過程で生じうるとされてい
のポジショニングの顧客認識は、比較的形成されている
る57)が、このうちサービスパフォーマンスギャップとい
といえるが(図6参照)、店舗において販売される「旅
われるサービス設計と従業者がサービスの遂行をできな
行商品」のうちにおいても、よりポジショニングの顧客
いあるいは望まないことによる実際提供されるサービス
の認識を高める方策の推進が図られる必要がある。その
との相違は、機械より人による提供のほうが起こりやす
ための方策の一例としては、サービスの差が顧客の誰に
い58)。また、セルフサービステクノロジーを用いること
でもわかるように示すようにすることが考えられる。
は、顧客は自らサービスを創造するため、その結果に対
マニュアル化の検討過程では、「旅行商品」を取り扱
しより自己の責任を受け入れる。顧客は、不満足でも一
う場合のサービスエンカウンターにおける人の提供する
部を受け入れているため、将来もセルフサービステクノ
サービスをマニュアル化することについて限界を感じる
ロジーを多分使う59)ことになる。現在、インターネット
かもしれない。つまり、販売戦略においてコストリーダ
により顧客が参加し自動化を図っている旅行販売は活発
−182−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
化しつつあるが、それ以外では、自動化のシステムの開
「人による」サービスより自動化されたシステムの方が
60)
発が有効的になされているとはみえない 。店頭や電話
価格のみならず価格以外のコストも小さくなれば当該顧
におけるサービスエンカウンターにおいても顧客にとっ
客にとっての価値が上がることになる。
一方、旅行業者は、「旅行業者としてのサービス」の
て使いやすい自動化のシステムの開発が望まれる。
対価として旅行業務取扱料金を収受できる(主催旅行で
Ⅵ.まとめ
は、旅行代金は包括的に表示されるため旅行代金のなか
に「旅行業者としてのサービス」の対価も含まれること
マーケティング媒介業者の基本的な役割は、異質な供
になる)。しかし、旅行者の多くは、旅行業務取扱料金
61)
給物を人々の欲求にあった品揃えに変換していくことで 、
について「支払うべきものであると考えるが、支払わな
旅行業者においては旅行者とサービス提供者との間にあ
くてもよい旅行会社があればそちらを利用する」と考え、
って双方の需給バランスをとり、双方の取引費用を節減
旅行業者も自信を持って取扱料金は収受しているように
する機能62)を持っているが、顧客が旅行業者の存在価値
は思えない65)。現在の状況では、旅行者は、サービスエ
を取引費用の節減のみに求めているのならば、すなわち、
ンカウンターに対して、対価を支払ってまで「旅行業者
「旅行業者としてのサービス」として契約締結過程にお
としてのサービス」を求めている、あるいは、対価に見
いて「人による」サービスの提供を期待していないのな
合うサービスが提供されることを期待しているとはいえ
らば、自動化のシステムの開発は、省力化とコスト優位
ず、旅行業者も今のサービスエンカウンターにおける
を図ることのみならず、そのような顧客にとってのサー
「旅行業者としてのサービス」では、取扱料金を収受で
ビスの価値を上げることにもなりうる。
きなくても仕方ないと思っているようにみられる。
労賃の高騰などの理由で、人びとは自分でできること
しかし、旅行業者の提供する「旅行商品」サービスは、
は自分でやるようになっていくことが、以前より指摘さ
図7でみるように、「旅行業者のサービスの提供方法」
63)
れている
が、そこには、顧客の取引費用(価格と価格
「旅行業者の提供するサービス」及び「旅行サービス提
以外のコスト)の節減という視点でみれば、使いやすい
供機関によるサービス」の総和である。
自動化のシステムであれば、訓練されていない「人によ
今までの「旅行商品」は、「旅行サービス提供機関に
る」サービスエンカウンターより顧客にとっての価値が
よるサービス」の部分のみにより、差を出してきた。も
高まる可能性は十分に考えられる。
ちろん、この部分が「旅行商品」サービスのコアサービ
顧客にとってのサービスの価値は、サービスの質を価
ス部分であるためそこに比重が置かれてきたことはもっ
格に顧客がそのサービスを得るための価格以外の他のコ
ともなことである。だが、この部分の実質的なサービス
ストを加えて割ったものである 64) といわれているが、
をコントロールすることは難しく、ここでの差は、旅行
旅行業者のサービスの
提供方法
﹁旅
旅行
行業
商者
品の
﹂提
供
す
る
店舗販売
自動化
対面
対面コンサルティング
サービスエンカウンター
低
単品手配
インターネット
通信販売
旅行サービス提供機関
によるサービス
旅行業者の提供する
サービス
組
み
合
わ
せ
複合された企画の手配のみ
手配・旅程管理
+契約上の債務
(旅程管理、特別補償、
旅程保証)
完全保証
(第1次責任を負う)
エコノミー
組
み
合
わ
せ
「統制」能力
スタンダート
スーペリア
デラックス
ラグジュアリー
「手配」能力
サービス自体への
コントロールは難しい
それぞれで使いやすいデザインの構築
図7 旅行業者の提供する旅行商品(筆者作成)
−183−
旅
行
者
の
費
用
負
担
高
政策科学10−2,Jan. 2003
業者の手配能力のみにかかるところが大きい。したがっ
らない。だが、これらが克服されれば、旅行業界全体の
て、手配さえされてしまえば、旅行業者間の「旅行商品」
存在価値は、大いに増すことになるだろう。
にあまり差がつかないのである。
そのため、これからの旅行業者は、旅行業者の提供す
る「旅行商品」サービス全体に着目する必要がある。
「旅行業者の提供するサービス」には、
「手配・予約」サ
ービスだけでなく、
「統制」サービスも含まれる。
「統制」
注
1)リチャード・ノーマン著、近藤隆雄訳『サービス・マネジ
メント』(NTT出版、1993)88頁。
2)前掲書 88頁、では、前者を「コア・サービス」、後者を
サービスは、旅行業者自らデザインでき、コントロール
「周辺的なサービス」と区別している。また、クリストファ
できるため、旅行業者間に差をつくることができる。
ー・ラブロック、ローレン・ライト著、小宮路雅博監訳高畑
通信販売やインターネットの発展で、「旅行業者の提
泰、藤井大拙訳『サービス・マーケティング原理』(白桃書
供するサービス」に至る「旅行業者のサービスの提供方
房、2002)93頁、では、特定の顧客に向けてサービス組織が
法」はある程度差ができてきたが、それぞれの提供方法
供給する中心的ベネフィットをコア・プロダクト、サービス
組織が供給する追加的ベネフィットを補足的サービス要素と
の中で差はあまり出ていない。さらに、「旅行業者の提
し、補足的サービス要素によって、コア・プロダクトに価値
供するサービス」は、旅行者には、主催旅行・手配旅行
を追加し、さらにコア・プロダクトを差別化する、としてい
の違いぐらいしか認識させられていない。これは、旅行
る。
業者は、旅行業約款上の契約内容に拘束されているので、
3)近藤隆雄『サービス・マーケティング』(生産性出版、
致し方ないと思っているかもしれないが、現行制度上に
1999)119-127頁;近藤隆雄「サービスのデザイン」『ダイヤ
おいても特約を結ぶことや旅行業者独自の約款を認可申
モンドハーバードビジネス』Oct.-Nov. 1991.、95-98頁。
4)この章で「提供」と記す意味は、旅行業者が「自ら旅行サ
請することなど方法はあるもの66)と思える。
ービスを提供」という意味ではなく、「顧客が対価と引き換
「旅行サービス提供機関によるサービス」の部分だけ
えに購入するサービスを受ける権利の提供」という意味で捉
でなく、
「旅行業者のサービスの提供方法」「旅行業者の
えるものとする。
提供するサービス」の部分それぞれを組み合わせて旅行
5)Bowen, D. & Cummings, T. Suppose We Took Service
業者は「旅行商品」サービスを提供すれば、旅行業者ご
Seriously? Service Management Effectiveness, Jossey-Bass
Inc., 1990, pp4-5.
との差がわかりやすくなる。現在でも、「旅行業者のサ
ービスの提供方法」にはある程度差があることは先に述
べたが、例えば、インターネットであれば、その提供す
る旅行サービスは、エコノミーからスタンダートが多い。
6)近藤隆雄『サービス・マーケティング』
、120頁。
7)近藤隆雄『サービス・マネジメント入門』(生産性出版、
1995)41-43頁。
8)ノーマン 前掲書、89頁。
もちろん、(3つのうちの)ある部分での旅行者の費用
9)前掲書、90頁。
負担の大きさと他の部分においての費用負担の大きさ
10)Laws, E. Tourism Marketing, Stanley Thornes, 1991, p5.
は、同程度であることは多いであろうが、旅行者は、そ
11)ibid., p6.
れぞれの部分での費用負担に見合う以上のサービスを求
めるわけで、例えば、旅行前は十分なコンサルティング
を期待するが、旅行中は、旅程管理的なサービスは必要
でなく、旅行サービスも高級なものを望まない旅行者も
12)近藤隆雄 前掲書、37頁;嶋口充輝『顧客満足型マーケテ
ィングの構図』(有斐閣、1994)68頁。
13)嶋口 前掲書、51、68頁。
14)近藤隆雄 前掲書、36頁。
15)コトラーは、企業の市場への提供を、「純粋な有形財」「サ
いるだろう。
ービスを伴った有形財」「付随的製品とサービスを伴った主
このように、旅行業者の差をわかりやすくし、旅行業
要サービス」「純粋サービス」までの4つのカテゴリーに分
者がどのような組み合わせが求められているかのニーズ
けているが(フィリップ・コトラー著、村田昭治監修、小坂
恕・疋田聰・三村優美子訳『マーケティング・マネジメント
を的確に掴むことができれば、それぞれの旅行業者の存
[第7版]』(プレジデント社、1996)433頁)、「旅行商品」サ
在理由が明確になってくるだろう67)。もちろん、サービ
ービスは「付随的製品とサービスを伴った主要サービス」で
スエンカウンターにおいても旅行業者の提供するサービ
あるのに対し、「旅行業者としてのサービス」は、「純粋サー
スにおいても、実際に用いられるためには、使いやすく
デザインされ、旅行者にわかりやすいものでなければな
ビス」に近いといえるだろう。
16)ここでは「手配」を、計画された旅行において予定された
−184−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
サービスの提供を受けることができるように段取りするとい
のはオーバーブッキングというホテルの定常サービスの攪乱
う意味で用いている。したがって、計画どおり「旅行商品」
であるため、前日に相対的に悪い部屋を当てられた顧客の場
システムの中の要素のサービスの提供を受けるためには「手
合も旅行業者によるコンティンジェントサービスを期待して
配」が必要で、必ずしも「予約」を要するわけではないが、
いるといえる。
「予約」の必要が伴う場合が多い。なお、運送・宿泊機関等
26)嶋口 前掲書、50-52頁、では、「ディスサティスファクシ
のサービスそのものは、計画された旅行を前提として提供さ
ョン」は不満足が顧客の最低許容水準に満たくなりゼロ以下
れているものでないため、予約サービスはサブサービスであ
のマイナスになった状態であるのに対し「アンサティスファ
る(近藤宏一「旅客交通サービスの特徴と構成」『立命館経
クション」は「満足していない」ので、積極的に購買しない
営学』第38巻第5号(2000)85頁)といえる。
か、あるいは仕方なく購買している状態をさす、としてい
17)嶋口 前掲書、68頁。
る。
18)ノーマン 前掲書、88頁。
27)廣岡 前掲、109-116頁の「旅行契約に関する意識調査」
19)近藤宏一 前掲、85頁。また、ノーマン 前掲書、88-89
では、このような状況については、直接的な質問はないが、
頁、では、航空サービスにおける、「予約」は、「周辺的」
「I.主催旅行における旅行業者の損害賠償への認識と期待」
(サブ)サービスとしている。
の「5:天候による帰着日の変更」では、「責任あり」は
20)したがって、1998年のワールドカップフランス大会に係る
24.5%で、「期待あり」は46.5%であるもののこれは天候によ
「旅行商品」において、大量のチケットが入手できないこと
る帰着日の変更そのものの責任と捉えられているといえ、む
につき「誰もが耳を疑った」(マイストロ・幻のチケット取
しろホテルの場合と同様「8:航空会社のオーバーブッキン
材班編『幻のチケット W杯フランス大会サッカー観戦ツア
グによる出発日の変更」の「責任あり」39.8%、「期待あり」
ー、サポーターたちの記録』(マイストロ、1998)18頁)。そ
80.6%の値が、この場合の顧客の期待を示しているといえよ
して、旅行業界のイメージダウンは計り知れ(『週刊ダイヤ
う。
モンド』1998.7.4、15頁)ず、旅行業者のチケット入手策に
28)マイケル・E・ポーター著、土岐坤・中辻萬治・服部照夫
対する消費者サイドの不信感(『週刊トラベルジャーナル』
訳『新訂競争の戦略』
(ダイヤモンド社、1995)56、58頁。
1998.6.22、22頁)を引き起こした。
29)近藤隆雄「サービスのデザイン」97頁。
21)なお、佐藤喜子光は、「旅行業者は、観光主体(観光客)
と観光客体(宿泊施設・観光対象・交通機関等)の出会いに
30)近藤隆雄『サービス・マーケティング』125頁。
31)トラベルジャーナル編『旅行ビジネス入門』(トラベルジ
よる観光効果(観光客の満足や観光施設経営者の利益等)の
ャーナル、1996)、32頁。
発生を極大化する役割を果たしている。」(佐藤喜子光『旅行
32)廣岡 前掲、109-116頁の「旅行契約に関する意識調査」
ビジネスの未来』(東洋経済新報社、1997)21頁)としてい
や、同103-105頁の旅行業者従業者に対する聞き取り調査な
る。もちろん、「統制」サービスは、「旅行商品」によって求
められるものは異なり、それが「旅行商品」の特性となる。
どからこのことがわかる。
33)Heskett, J., Sasser, E. & Hart, C. Service Breakthroughs,
一方、顧客は、自らの旅行目的を「旅行商品」を通じて達成
The Free Press, 1990, p2.
させることを期待するため、旅行業者が、「旅行商品」の要
34)廣岡 前掲、109頁
素を顧客の旅行目的に沿うように「統制」することにより顧
35)前掲、114-115頁
客の満足度は高まると考えられる。
36)前掲、104頁。なお、旅行業者は契約の締結という場以外
22)近藤隆雄『サービス・マネジメント入門』、39頁。
でも、自ら何が「旅行業者としてのサービス」であるかをア
23)前掲書、39頁。
ピールしているとはいい難い。山田学は、2001年9月11日に
24)廣岡裕一「旅行契約の考え方と認識」『政策科学』第10号
生じたアメリカにおけるテロ事件で、「事件が起きて、テレ
第1巻(2002)、103-105頁の旅行業者従業者に対する聞き取
ビのテロップには旅行会社のツアーに参加して米国へ行って
り調査と同時期に実施した添乗関係従業者に対して行なった
いる人たちの安否を知らせるニュースがいち早く流された」
聞き取り調査による。
が、「お客様の安否確認にいち早く対応した、自分たちが行
25)前掲、109-116頁の「旅行契約に関する意識調査」では、
ったことの重みを(旅行)業界は全くアピールしていない」
直接的には質問しなかったが、「I.主催旅行における旅行
(『週刊トラベルジャーナル』2001.11.5、18頁)としている。
業者の損害賠償への認識と期待」で、「3:ホテルのオーバ
37)嶋口 前掲書、74頁。
ーブッキングによるランクダウンしたホテルへの変更」は、
38)Heskett, Sasser & Hart, ibid., p31.
旅行業者に賠償責任を認めていると思う「責任あり」と回答
39)Anderson, R. Consumer Dissatisfaction: The Effect of
した者は40.8%であった。だが、旅行業者に賠償責任を認め
Disconfirmed Expectancy on Perceived Product Performance
るべきだと考える「期待あり」は92.7%と設定した事例の中
Journal of Marketing Research, Vol.10 1973, p38-44;嶋口
で最も大きい。このコンティンジェントサービスが対応した
前掲書、74-78頁。なお、期待をもって旅行した結果、現実
−185−
政策科学10−2,Jan. 2003
が多少期待に副わないことを自ら自覚しながらも納得しよう
131頁;また、『レジャー白書2002』(財団法人自由時間デザ
とする場合があることは、いくつかの旅行に関するエッセイ
イン協会、2002)63頁、では、17業種の余暇関連サービス業
からも認めることができる。例えば、「(温泉旅館に宿泊した
に対し、経営上の問題点を質問しているが、「人件費コスト
けれども大浴場がやたらに遠いが、[筆者要約])それでも、
の増加」を挙げた「旅行業」の回答は45.1%(全体24.6%)
現実に屈したことを認めるのは悔しいので『アー、やっぱり
気持ちいいわねぇ』などと言ってはみるものの、負け惜しみ
であった。これは17業種の中で最も高い割合である。
47)田仲美穂「旅行業におけるカウンターサービスの評価・分
の感は否めない」
(酒井順子『観光の哀しみ』
(新潮社、2000)
析に関する研究」『日本観光研究学会第13回全国大会論文集』
19頁)や「機内食が出た。僕が和食でスズキ中記者が洋食。
(1998年12月)17-24頁、では、10の旅行業店舗におけるカウ
周りを見回すと、洋食の人が圧倒的に多い。洋食のほうがボ
ンター係員の“対応(動作と言動)”を観察している。その
リュームあるし、見た目も華やかで内容も多彩だ。[中略]
中で、商品知識・業務知識に関する質問を行なっているが、
(しかし、あっちはカロリー高そうだし、オレの選択まちが
「旅券」についての知識はほとんど正確な説明がなされてい
ってなかった)と強引に自分を納得させ」(東海林さだお
るものの、旅行商品を他のコースとの異同を踏まえて明確に
『ショージ君の旅行鞄』(文藝春秋、2001)99-100頁)など。
説明できたケースは3件であった、としている。このことか
40)Anderson, ibid., pp41-42.
ら、知識の積み重ねが必要な頻度の少ない想定できない質問
41)三浦雅生「三浦雅生の新判例漫歩Vol.32」『週刊トラベル
に対しては、顧客の期待に十分応えられる従業者が少ないこ
ジャーナル』2000.11.13、63頁、では、「消費者の『過度の期
とが窺える。
待』というべき『常識』を放置していては、次の約款改正の
48)そのため、仮に、十分な商品知識をもった者のみで時間を
際には、さらなる主催旅行業者の責任の加重が実現するだろ
かけた対応をすれば、対応時のサービスの提供については満
う」としている。実際に、次期旅行業法改正に向けて2002年
足度が高くなるかもしれないが、そのような対応にはコスト
8月7日に始まった旅行業法等検討懇談会(座長:山下友
がかかるため、多くの人員は配置できない。したがって、混
信・東京大学大学院法学政治学研究科教授)では、「主催旅
雑時などには、待ち時間が長くなり満足度が下がる。ちなみ
行業者に一次責任を負わせるような流れの強まり」が感じら
に、黒須靖史「勝手に店舗診断」『週刊トラベルジャーナル』
れた、とされる(『週刊トラベルジャーナル』2002.8.26、16
2002.8.12、51頁、では、カウンターの対応は丁寧だが、来店
頁)。
時待ち人数が5人で、カウンター席が4つあるものの、35分
42)Heskett, Sasser & Hart, ibid., p5.では、サービスの質はサー
待った旅行業者において、その待ち時間の間には、他の2組
ビスの結果と過程で構成されているとしている。本章では、
の客が帰った例をあげている。
契約締結過程における顧客が経験する旅行業者のサービスの
49)東 前掲、129頁。
質について論じる。これは、前章で主に「旅行商品としての
50)澤田秀雄『「旅行ビジネス」という名の冒険』(ダイヤモン
サービス」が提供された後からみた顧客の評価について論じ
たことに対するものである。したがって、本論文におけるサ
ド社、1995)80-81頁。
51)深澤献・宮崎伸一「旅行産業の興亡」『週刊ダイヤモンド』
ービスの結果と過程の意味するところは、標記の書の意味す
るところと必ずしも一致はしない。
1994.7.9、31頁。
52)http://www.mytrip.net/info/agreement.html
43)廣岡 前掲、109-116頁の「旅行契約に関する意識調査」
53)http://www.mytrip.net/CorporateInfo.html
では、契約締結時における口頭による旅行条件の説明につい
54)深澤・宮崎 前掲、28頁。
てどのように考えるかの質問の結果は、「重要なポイントだ
55)岩田千加「トラベルワンダーランド新宿本社の1日」『週
刊トラベルジャーナル』2000.4.10、16頁。
け短時間で説明して欲しい」が最も多かった。
44)なお、Heskett, Sasser, & Hart, ibid., p85.では、品質が向上
56)橋本亮一「私的マーケティング論と『総合旅行会社』の行
方」『週刊トラベルジャーナル』2000.6.5、75-77頁。
するとさらなる欠陥防止のための費用は極めて大きくなるた
め、100%の品質を達成するのではなく、100%より低い
57)Zeithaml, V., Parasuraman, A &. Berry, L. Delivering
(95%の)目標品質レベルを受け入れること、に異を唱えて
Quality Service, The Free Press, 1990, pp35-49. なお、ギャ
いる。この観点からみると、旅行条件書で擬制する部分があ
ップ1は顧客の期待と経営者が知覚する顧客の期待とのギャ
る(すなわち顧客が納得していない可能性がある)というこ
ップ、ギャップ2は経営者が知覚する顧客の期待とサービス
とは、問題があるかもしれない。しかし、ここでは、顧客が
設計とのギャップ、ギャップ3はサービスパフォーマンスギ
説明を受けることに対しての煩わしさを考慮し、敢えてこの
ャップ、ギャップ4は顧客に対する外的情報と実際提供され
ように記述した。
るサービスとのギャップ、ギャップ5は顧客の期待と顧客の
知覚サービスとのギャップとされる。
45)東徹「観光ビジネスの経営」『観光学』(同文舘、1994)
58)ibid, p89.
129頁。
46)高橋一夫「旅行業」
『観光事業論』
(ミネルヴァ書房、2001)
59)Meuter, M., Ostrom, A., Roundtree, R. & Bitner, M. Self-
−186−
旅行業者の提供する「サービス」の本質(廣岡)
Service Technologies: Understanding Customer Satisfaction
めるところによります。」とする「旅行業約款:インターネ
with Technology-Based Service Encounters Journal of
ットの部」を載せている。
Marketing No64, 2000, p53.
67)国土交通省は、外務省海外危険情報の見直しに伴い、通達
60)もっとも、自動化システムの開発の際には、顧客にとって
平成14年4月23日国総観旅第96号「外務省海外危険情報の見
使いやすいものになるようには注意を払わなければならな
直しに係る取扱いについて」で、従来当該情報危険度2に相
い。前述の「旅の窓口」は、自動化のシステムの開発で成功
当する地域には、主催旅行に実施を認めていなかった通達を、
しているといえるが、ユーザーにとっての利便性の高さや使
廃止した。このため、それ以後、当該地域への主催旅行の催
い勝手の良さがなければ、いくら先鞭をつけた存在とはいえ、
行は、旅行業者自ら判断することとなった。これにより、こ
ここまで伸びることもなかった(「乱立する国内宿泊予約サ
のような事態が起これば、旅行業者によって判断が異なるこ
イト」『週刊トラベルジャーナル』2001.9.3、15頁)、といわ
とがありうるようになった。これが、旅行者の多い旅行地で
れる。
現れたのが、2002年10月12日生じたバリ島における爆弾テロ
61)コトラー 前掲書、479頁。
である。外務省は、10月14日にバリ島を、10月15日にはイン
62)高橋 前掲、125頁。
ドネシア全地域(より高い危険度の地域を除く)の危険情報
63)アルビン・トフラー著、徳山二郎監修、鈴木健次・桜井元
を従来危険度2に相当する「渡航の是非を検討して下さい」
雄他訳『第三の波』
(日本放送出版協会、1980)392頁。なお、
に引き上げた。これについての旅行業者の対応は、JTB、
同書では、みずから生産したものをみずから消費する者を
日本旅行が一律に中止、ジャルパックがビンタン島を除いて
プ ロ シ ュ ー マ ー
「生産=消費者」と呼んでいる(382頁)。
中止、近畿日本ツーリストとエイチ・アイ・エスが催行を継
64)Heskett, Sasser & Hart, ibid., p2.
続した。ただし、参加を希望しない旅行者に対する取消料に
65)廣岡 前掲、103、105頁。
ついては、近畿日本ツーリストは収受しないが、エイチ・ア
66)前章で述べたマイトリップ・ネットの運営する「旅の窓口」
イ・エスは原則収受と判断が分かれた(週刊トラベルジャー
のビジネスモデルには、標準旅行業約款は適合しない。した
ナル2002.10.28、14頁)。このような対応の異なりは、旅行業
がって、その「ご利用規約」のサイト(http://www.mytrip.
者の特性を旅行者に示しているといえ、好ましいものと思え
net/info/agreement.html#internet)には、「インターネット予
る。行政の介入が小さくなったことにより、旅行業者の独自
約システムを通して、ウェブ上からの予約を行ったときには、
性が引き出された例といえよう。
当社旅行業約款(手配旅行契約の部)によらず、この部の定
−187−