130304【上海】駐在員レポート本文(H25.2)

2013 年 2 月 20 日 中国の旅行市場の変化と中国人から見た福岡の魅力とは 上海事務所 西岡 貴弘 日本は少子高齢化の中、観光を利用した地域活性化等が注目され始めており、
日本の観光産業が今後大きな成長の可能性を秘めている。特にこれまで以上に
外国人観光客の取り組みが期待される中、潜在的ニーズが高い中国の旅行市場
を分析しながら福岡へ呼び込む方法を、実際の活動を交えながら取り上げる。 1.中国の旅行市場の変化 (1)今後ますます拡大する個人旅行客とその背景
先日中国旅遊研究院と C trip1 が共同発表した「中国自由行発展報告」による
と、中国の旅行業は個人旅行客化とインターネット化時代を迎え、自由旅行と
いう新方式が今後発展の傾向にあることを伝えた。同報告は、2012 年に C trip
を利用した約 100 万人の顧客データを元に作成、2012 年の海外旅行者のうち、
個人旅行客が 70%以上2 を占めたことが明らかになった。各国が中国人旅行客に
対するビザ手続きを簡素化したことが背景にあるという。また、今年 2 月に中
国国務院が有給休暇制度を充実させるためのガイドライン「国民旅遊休閑綱要」
を公表。国民に一定のレジャー時間を保障、
「有給休暇条例」の制定で各企業に
柔軟な休暇日の設定を認めることを掲げていることも今後期待できる。
(2)キーワードは中国人から見た「性価比」
中国人は個人旅行に何を求めているのか?「性価比」という中国語があるが、
中国人とモノやサービスの価格の話をすると頻繁に出てくる言葉である。日本
語で訳すとすれば「コストパフォーマンス」であり、
「性価比」が高いほどよい
というのは万国共通であるが、中国人は特にこの「性価比」を重視し、合理的
に消費している。ただしよく勘違いされるのは、あくまで中国人から見て「性
価比」が高いことが重要で、ここを履き違えて日本人目線で、いいものを勧め
れば高くても買ってくれるとは限らない。特に伝統工芸品などは、その商品と
価格だけ見ても、日本の文化に造形が深くない中国人旅行客にとっては、その
質の高さと価格のバランスを理解するのは容易ではない。さらに中国人にとっ
ては、消費と面子はリンクしており、自分が如何に「性価比」の高い消費をし
たか友達などと自慢し合う。例えばこれは極端な例だが、中国の友人に日本旅
1
携程旅遊。中国大手の旅行予約サイト
個人旅行の人気目的地は、香港がトップ。2 位以下はマカオ、プーケット、モルディブ、ソウル、バリ
島、シンガポール、台北と続き、日本では東京が 9 位であった。
2
1
行の楽しみは何か尋ねたところ、桜や紅葉、雪などの季節に公園で散歩しなが
ら、時折落葉や雪の絨毯を写真やビデオに収め、家族や大切な人と楽しむとい
う言葉が返ってきた。理由を訊ねると、中国は人が多いので、落葉や雪なども
誰かが既に足を踏み入れてしまっており、自然のままを見る機会が少ないらし
い。日本では何気無いものに思えるが、中国人にとってはかけがえの無い非日
常体験らしく、帰っても撮った写真を友達などに見せて自慢するらしい。個人
旅行も中国人から見た「性価比」がポイントなのである。
(3)日本国政府は個人旅行ビザ発給条件の更なる緩和を
表 1 は 2012 年における中国人の訪日客数であるが、尖閣諸島の問題が発
生した 9 月以降、日本を訪れる中国人旅行客は大きく減少、特に中国の旅行各
社が日本向け団体ツアーを相次ぎ自粛、一時的に市場から姿を消した。団体旅
行客はビザを申請するにあたり、中国の旅行社を通じてツアー申込とビザ申請
をせねばならず、日本に行きたくても実質行く手段がなくなってしまった。最
近ようやく改善の兆しが見えはじめ、市場にも出るようになったが、まだ完全
回復とまでは至っていない。しかし、それでも通年で見ると前年比 37.1%増と
なっていることに注目したい。日本政府観光局(JNTO)によると、個人観光数
次ビザの解禁や個人観光ビザの発給要件緩和により個人旅行客が増加したこと
が要因の 1 つであると分析している。個人観光ビザの発給に関しては、在中国
日本国領事館の管轄のもと発給されるため、原則上中国国内の干渉を受けない
はずである。だとすれば、中国からの団体旅行客が落ち込んだ 9 月以降、個人
観光ビザ発給要件の更なる緩和などの対策を講じ、個人旅行者をさらに積極的
に取込むことは今後も検討すべき事項であると思う。なぜなら、日本への個人
旅行におけるビザ発給条件は引き下げられたとはいえ、未だ申請者はパスポー
ト、身分証の他に資産証明書3などをその都度事前に準備しなければならず、ま
だまだ面倒である。韓国を例にとると、 表1 中国人の訪日客数
総数(人) 伸率(%)
自国を 3 回以上訪問もしくは米国、欧 年月
(前年同月比)
州、日本、豪州、ニュージーランドな
どに旅行したことのある者は、パスポ 2012 年 8 月
193,800
88.8%
ート、身分証のみで申請可能であり、 2012 年 9 月
123,500
9.8%
合理的に簡素化されている。こういっ 2012 年 10 月
▲33.1%
71,000
た観点からも個人旅行客にとって、日 2012 年 11 月
▲43.6%
52,000
本は地理的には近いが意識的にはまだ 2012 年 12 月
▲34.2%
52,400
まだ遠い外国なのである。
1~12 月(Total)
1,430,000
37.1%
出典:日本政府観光局(JNTO)統計資料より抜粋
不動産取得証明書、運転免許証、10 万元(約 140 万円)以上の銀行証明書もしくは納税証明書のいずれ
か少なくとも1項目以上の提出が必要。
(ゴールドカード以上の国際クレジットカードの保有者は、カード
原本、6 ヶ月以内の明細表、そのカードで旅行費用を支払った証明書を提出すればよい)
3
2
2.福岡・九州へ個人旅行客を呼び込むには (1)福岡・九州の知名度は?
では個人旅行客を福岡・九州へ呼び込むにはどうしたらよいのか?残念な
がら中国において福岡・九州は何があるのか、まだほとんど知られていないの
が現状である。よって、まずは九州のゴールデンルートを徹底的に磨くことが
不可欠であり、その候補はやはり九州新幹線を使った縦のルート(福岡〜熊本
〜鹿児島)であろう。さらには中国からの直行便があり九州の玄関口となりう
る福岡の知名度向上が何よりも先決だと考える。また、東京ならショッピング、
静岡なら富士山、京都なら日本文化など分かりやすい代名詞も必要で、福岡も
当然色々あるがその中でも「食」を代名詞としてはどうかと思う。表 2 は、福
岡市が今年 1 月に上海森ビルの施設内で行った観光イベントで取得したアンケ
ート結果である。その結果によると、日本へ旅行する目的は、
「ショッピング」、
「温泉」、「食」の順となっており、また知りたい福岡の情報でも「美食情報」
がトップとなっており、「食」への期待と関心は予想以上に大きい。
表 2 観光イベントでのアンケート結果
質問
回答(集計数 538 件 女性:469、男性 63、不明:6)
日本に行った事があるか?
有 230/無 290
日本に行く目的 (※複数回答可) ショッピング 317/温泉 312/グルメ 292/リラックス 243
日本文化 226/コンサート 32
行った事のある日本の都市は?(※複数回答可) 東京 243/大阪 158/京都 134/北海道 83/福岡 77/沖縄 60
福岡の事を知っていますか? 知っている 474/知らない 38/未回答 25
福岡へ行きたいと思うか?
思う 500/思わない 6/未回答 32
知りたい福岡の情報(各自記入回答形式)
美食情報 35/福岡旅行に関する指南 24/文化・歴史情報 14/観
光スポット情報 10/ショッピング情報 8
出典:福岡市上海事務所の報告書より抜粋
(2)福岡・九州の受け入れ体制
国内の受け入れ体制としてよく言われる改善点が、中国語対応サービスの少
なさであるが、特に福岡市内は街中や地下鉄など公共機関でも英語や韓国語、
中国語での標示やアナウンスが増えてきており、まだまだ十分とは言えないが、
徐々に改善されていると思う。小生は、それを補う形として「中国語版福岡・
九州のガイド本」の必要性をここに訴えたい。現在は中国の書店に行っても、
日本旅行向けガイド本を見かけるようになったが、まだ東京、大阪、京都など
ゴールデンルートや北海道ぐらいで、九州は載っていたとしても数ページのみ
である。各行政も観光客誘致のために様々なパンフレットを作成しているが、
いずれも観光地の名称や写真が載っているだけで、具体的なお店の名前やそこ
までのアクセス方法、地図まで載っているものはほとんどなく、現地に持参し
3
ても使えない内容である。今後個人観光客を取り込むためにも、「中国語版福
岡・九州のガイド本」が待ち望まれる。さらに日本の WIFI 対応施設の少なさ
も不満の多くとして挙げられる。中国でもスマートフォンなどの普及が急速に
進んでおり、上海など都市部の施設では一般的に無料の WIFI が完備されてい
ることからも、速やかな改善が必要である。
(3)上海事務所の取り組み〜「チーム九州」の活動内容
同事務所の主要業務の1つとして中国からの観光客誘致に力を入れているが、
巨大な中国市場に向けて福岡だけで誘致活動するのは至難の業である。そこで、
上海に事務所を構える九州・沖縄各自治体ならびに JR 九州、西鉄旅行にて「チ
ーム九州」を編成し、観光・物産の分野を中心に九州一体となった PR 活動を行
っている。特に観光では、九州観光推進機構とも密に連携し、
「九州・沖縄」ブ
ースとして観光展へ出展、九州へ現地メディアツアーを招聘するなど、他地域
ではまだほとんど見られない先進的な取組みである。その活動の一環として、
今年 1 月 16~22 日にかけて、C trip の VIP 客計 12 名を対象にしたモニターツ
アーを九州4 に招聘したのでここに紹介したい。今回当事務所は、久留米市や商
工会議所ならびに地元関係者の多大な協力を得て、
「食文化」にスポットをあて
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久留米での行程を組み、
「酒蔵」
、
「日本舞踊 」、
「ラーメン6 」の 3 点に絞って紹
介した。帰国後参加者全員に詳細なヒアリングを行ったところ、特に印象に残
った訪問地について、参加者全員が鹿児島や別府の「温泉」を挙げていたのは
妥当な線ではあるが、温泉に次いで、何と 12 名のうち 8 名までもが、久留米で
の体験がとても印象に残ったとの感想であった。他の地域はいずれも 1 泊以上
滞在していることを考慮すると、久留米は半日間のみの滞在であったにも関わ
らず、好評価を得ることが出来た。その要因を分析すると、観光スポットを訪
れるだけでなく「日本の食文化・伝統文化」を理解でき、
「人との触れ合い」も
楽しむことが出来たという点であった。もちろんこういった個人旅行客を受け
入れるには、まだ多くの課題が残されており、特に前段で述べた国内の受け入
れ体制(言語の壁やアクセス方法)の整備が不可欠であることは言うまでもな
いが、今回多くのヒントを得る事が出来た。
酒蔵見学の様子 折り鶴を教える日本舞踊の方々 4
ラーメン横丁の様子 鹿児島市内、指宿、熊本市内、阿蘇、別府、北九州市内、門司、久留米、太宰府、福岡市内
市内繁華街の飲食店や関係団体でつくる「文化街さくら会」が「久留米さくら粋社」を結成し、日本舞 踊を復活させる取り組みを行っている。
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久留米ラーメン会が中心となり、豚骨ラーメン発祥地にふさわしい「ラーメン横丁構想」を進めている。
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(4)春秋航空上海〜佐賀便の徹底活用
最近筆者は至るところで春秋航空上海〜佐賀便の徹底活用を提案している。
同便は、現在週3便、最安値で片道 3,000 円7、約1時間半のフライト時間であ
る。福岡から韓国釜山へ行くのと同じように、上海から九州は最も近くて安く
行ける外国なのである。機内は若干狭く感じるが、近くて安いことを考慮する
と「性価比」が非常に高く、中国人個人旅行客はもちろん、日本人駐在員や日
系企業などの社員旅行の取込みも可能であると見ている。現に当事務所を訪れ
る方へ紹介すると、月曜の1日だけ休暇を取れば、土日を活用して手軽に日本
を満喫出来るということで好評である。現在佐賀県が西部(嬉野、武雄、長崎
県など)への誘客に力を入れているが、昨年 9 月以降搭乗率が落ち込んでいる。
九州への観光客誘致のためにも直行便の存在は貴重であり、九州全体でもっと
活用すべきであろう。例えば福岡空港は九州の縦のルートを、佐賀空港は横の
ルートを強化することで棲み分けできる。佐賀空港から近い久留米や柳川など
福岡県南部や熊本県北部、大分県と連携を強化し、「医療ツーリズム」や「食」
など特定のテーマでの広域なまちづくりや行程の作り込みが考えられる。また、
インフラの面から見ても、双方向の利用促進がより効果的であるが、佐賀空港
は駐車場が無料ということもあり、中国からだけでなく福岡県南部や熊本県北
部からの出張者にとっても利便性が高く、かつコストも抑えられるため、広域
的に更に利用促進していくべきである。
(5)おわりに
現在、各自治体が中国人観光客誘致に力を入れているが、残念ながらどこも
同じような問題に陥ってしまっている。誘致する側とすれば、地元の観光資源
を色々と紹介し、1日でも多く囲い込みたい気持ちは非常に分かるが、そこに
しかない特色あるストーリー(背景や文化など)を語らずして、うちには「自
然」、「食」、「温泉」、「ショッピング」など何でもあります、いいところだから
おいで下さいと訴えても、受け取る側へは他地域との違いが分からず、結果「何
でもあるが何にも無い」にしか伝わっていない。まずは、他にはないストーリ
ー性のある魅力を思い切って1点(多くても2〜3点)に絞って PR し、広域的
に連携しながら譲るところはお互い譲り合うことで地域全体の魅力が高まり、
自ずとリピーターが増えてくるものと確信している。九州にはどの地域よりも
早くそれを実行出来る素地が整いつつあると感じており、楽しみである。
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月・水・土のフライト、別途空港使用料と燃料サーチャージがかかる
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