Château Gruaud Larose Vertical Tasting シャトー・グリュオー・ラローズ バーティカル・テイスティング 170 年の歴史を遡るテイスティングが、 サンジュリアンのグリュオー・ラローズで 行なわれた。1831 年から 2001 年まで の 12 ヴィンテージ。度重なる戦争や自 然災害など波乱に満ちた歴史を乗り 越え、現在に至ったボトルたちだ。 1831年〜 2001 年までの12ヴィンテージ Photo & Text : Tomoko Inoue 1981 初のヴィネクスポ開催。 1987 AOC ぺサック・レオニャ ン誕生。 1991 湾岸戦争 1992 フレンチ・パラドックス 論発表。 2001 アメリカ同時多発テ ロ事件(9.11 テロ事件) 廃藩置県 1874 自由民権運動の始 まり。 1870 普仏戦争、ナポレオ ン3 世退位。 1871 パリ・コミューン 1875 オペラ座完成。 1880・ 1881 明治 14 年の政変 1889 大日本帝国憲法発 布。 1889 第 4 回パリ万博 エッフェル塔完成。 1863 フランス最初のフィロキ セラがガール県で発見されたの を皮切りに、20 世紀初頭まで の約 40 年間、フランス全土を 襲い、壊滅的な打撃を与えた。 1870∼ ボルドーでもフィロキ セラの被害が蔓延。1850 年代 に 14 万 ha あったとされるボル ドーのブドウ畑は激減し、フィ ロキセラの被害を免れた畑は、 80 年 は 7 万 ha、90 年 は 5 万 ha、1900 年には 3 万 ha となっ た。 1880 フィロキセラに強いアメ リカブドウを親株とした台木 が普及。またボルドー地方は ネゴシアンの推進によって瓶 詰めが加速する。 1881∼ ベト病の被害。ボル ドー液によって解決する。 1890・ 1894 日清戦争 1896 アテネで第 1 回オリ ンピック大会。 1900・ 1904 日露戦争 1900 パリにメトロ開通。 アール・ヌーヴォー流行。 1900 ∼ フィロキセラ後、ブド ウの植樹が進む。生産量が激 増し、00 年、07 年、14 年には 500 万 hℓを超えた。 1905∼35 AOC 制度の発布。 1910・ 1913 大正政変 1914 第一次世界大戦始 まる。 毎年世界中からジャーナリスト やワイン 評 論 家 が 集 結 するプリ 1870・ 1871 1862 オペラ座の建設開 始。 トーでは趣向を凝らしたイベント 1868 明治維新 1861 アメリカ、南北戦争 ムール。その期間前後に、各シャ 1980 イラン・イラク戦争 1989 ベルリンの壁崩壊。 桜田門外の変 1867 大政奉還 が開催される。今年、グリュオー・ 1860・ 1860 1 ﹂のつく 年 の 1970 19 世紀後半フィロキセラ 被害に蔓延された時期、ネゴシ アンによってボルドーワインに 北ローヌやアルジェリアのワイ ンがブレンドされたといわれる 頃があったが、原産地呼称規 制後に、この手法をとる生産 者が発覚し、スキャンダルに。 1855 メドック・ソーテルヌ地 区格付け。 6 ラローズ では、 ﹁ 1963 ボルドー大学に醸造研 究所が設置される。すでに 40 年代後半から活躍するエミー ル・ペイノーらによって醸造の 近代化がさらに促進された。 1852 ∼ フランス国内の鉄道 が発達。輸送手段の確保で国 内のワイン消費量も増える。 1850 年∼ 80 年にかけて、ひと り当たりの年間消費量は 50ℓ ∼ 80ℓだったという。 19 バーティカル・テイスティングが行 1956 欧州が歴史的な寒波に 見舞われる。ボルドー地方も 連日 -15 度に(北の地方は -30 度!) 。続く 4 年間にわたって 収 穫 量に影 響を与え、ボル ドーだけでも年間 4 分の 1 の 収量を失った。 1851∼53 ウドンコ病の被害。 そのため続く10 年間は生産量 が 3、4 割減。 なわれ、 世紀の ヴィンテージ 1852 ルイ・ナポレオン(ナ が皇帝に。 ポレオン3 世) が 登 場。フランスのベルナール・ 1851 第 1回ロンドン万博 W ビュルチ、香港のジェイニー・チョ・ 黒船(ペリー) 来航 1855 安政の大地震 リーM らが、やや緊張した面持 1840 ∼ アヘン戦争 ちで現れた。 九州・沖縄サミット 1840 ナポレオン1 世の遺 骸帰還。 80 グリュオー・ラローズは、ミンデ ル氷河期に形成された砂利質を含 2000・ 2000 天保の改革開始 む台地に ヘクタールの畑をもち、 阪神大震災 地下 鉄サリン事件 1830 7 月革命 ポイヤックのような力強さとマル 1990・ 1995 ゴーのエレガンスを併せもつとい 143 リクルート事件 所有する領土は、現在もほぼ同じ ※ 19 世紀のボトルに関しては、1996 年にリコルクしているもの。 1840・ 1841 1978 ロバート・パーカーが 100 点法による無料のワイン ガイドを発行開始。1982 年の 評価で一躍有名に。 1989 平成元年 われている。1725 年に創立、 1975 ベトナム戦争終結。 形で後継している。現オーナーの 1973 石油ショック フランス、ボルドーワインの 出来事 1831 ドラクロワが『民衆を 導く女神』 をサロンに出品。 1973 ムートンが第 1級となる。 1980・ 1988 年以来、有機栽培を強化し、さら 1976 ロッキード事件 天保の大飢饉 ジャン・メルロー着任の1997 1968 5 月革命 1968 東大闘争。学生運 動活発化。 大阪万博 なる品質向上に努めている。 1954 アルジェリア戦争 1991 2001 1830・ 1833∼ 1830 ∼ 1910 フランス及び世界の出来事 (ナポレオン1世の時代が終わり、 王政復古へ) 1855 第 1回パリ万博 収穫開始日:9 月 30 日 収穫年の特徴:4 月 21 日の霜の被害で収穫の 60%を失う。この霜害は 1977 年よりひどく、1945 年の被害に相当する。とはいえ、被害を免れ たブドウの出来は上々で、メルロで 12.5 度、カベルネで 11 度の潜在アル コール度数に達した。 色あい:明るく軽やかな色あい。 香り:デリケートで緑葉やフローラルな香り。 味わい:骨格はバネがあり、しなやか。テクスチャーはやや硬く厳格な造り。 収穫開始日:9 月 26 日 収穫年の特徴:ブドウの生育の進みは早く、5 月最終週に開花期が訪れ た。5 月、6 月は乾燥した気候で、7 月は雨が多かった。8 月は暑く平均 的な雨量。9 月の平均気温は例年より 1.1 度低かった。 色あい:深みがあり濃厚。 香り:若々しく、リッチで複雑。やや動物系の香りも。 味わい:しっかりとした骨格で力強い。タンニンは存在感があり、複雑 性にも富んでいる。 日本の出来事 (日本は江戸時代後期) 1850・ 1853 1945 世界大戦終結 1964 東京オリンピック 1970・ 1970 さて、テイスティングは1831 年を皮切りに順に遡り、フィロキ 日米安保条約発効。 セラ被害前後の時代を経て 世紀 1960・ 1960 年、 年と現代に駆け上った。 1981 20 1848 フランス2 月革命 1940 パリ陥落。ドイツ軍 占領下に。 1959 グラーヴ地区格付け。 収穫開始日:9 月 28 日 収穫年の特徴:5 月は雨が多く、7 月はとても乾燥した気候。収穫開始 時にやや雨が降ったが、ブドウの質に影響はなかった。ボリュームも平 年並みで質も良好。 色あい:明るいガーネットで 1971 年より透明感がある。 香り:ややアニマル系、シャルキュトリーの香りにカシスの香りが見え隠 れする。力強くリッチな感じ。 味わい:アタックは心地よく、豊満で複雑。 61 に入り、世紀の収穫年と謳われる サンフランシスコ講 和条約締結。 21 ■ 日本、フランスをはじめとする世界の出来事 1949 湯川秀樹、日本人 初ノーベル賞受賞。 1950・ 1951 まず、固唾を呑む中で抜栓され た1831年。色や味わいはかな 1945 広島、長崎原爆投 下。終戦。 1935 フランスの原産地呼称 規 制 制 度 を 統 括 する 機 構 創立。 (INAO) り削ぎ落とされてはいるが、脆弱 太平洋戦争始まる。 1939 第二次世界大戦始 まる。 1929 ∼ 世界恐慌でワインの 需要が激減。生産量と消費の バランスがとれず、値崩れ。 な様子ではなく、香りの存在感は 1940・ 1941 1933 ヒトラー内閣成立 フランス、ボルドーワインの 出来事 見事。試飲2時間後のグラスの残 満州事変 1936 2.26 事件 り香から、180年前の喧騒が聞 1926 昭和元年 1930・ 1931 ∼現在 フランス及び世界の出来事 (ナポレオン1世の時代が終わり、 王政復古へ) 1929 世界大恐慌 こえてきそうなくらい。続く驚きは 関東大震災 虎ノ 門事件 1871年。色合いから1971 1920・ 1923 年の間違いでは! と思わせる濃厚 日本の出来事 (日本は江戸時代後期) 種の構成が変わったためか、当時 ■ 日本、フランスをはじめとする世界の出来事 1920 さと若さ。フィロキセラ前後で品 シラーをブレンドする慣習があっ たせいか⋮⋮などの声が飛び交っ 61 た。 ︵ 真相はベールに包まれたま ま︶ 。そして1921年と 年。色 合い、香り、味わいともに健康的 で若々しく、堂々たる出立ちでみ 40 なを唸らせた。 1971 収穫開始日:9 月 27 日 収穫年の特徴:春は気温が低く、雨量も多かった。花ぶるいの被害が大 きく、収穫量は 20hl/ha と少なくなった。柔らかさはないがエレガント。 色あい:濃厚で深みがある。 香り:デリケートで野菜やハーブの香りが際立つ。 味わい:タンニンはやや乾いた感じで厳つさがあり、骨格のしっかりとし た味わい。 年を費やしたフィロキ 復興に セラなど至難を乗り越えた180 1961 収穫開始日:9 月 22 日 収穫年の特徴:4 月、5 月と雨が多く涼しかったものの、年間を通して日 差しが多く乾燥した気候。夏と 9 月の収穫まで猛暑が続いた。程よい雨 量で、遅めの収穫に利。収穫量は少なめだが、 「世紀のヴィンテージ」と 謳われる類稀なクオリティ。 色あい:ガーネットで深みと透明感のある色あい。 香り:1921 年よりアタックは閉じた感じだが、見る見るうちに華やか に。若々しくフレッシュで、柑橘系を思わせる香りも。 味わい:アタックは甘さが際立っているが、骨格はリッチでしなやか。酸 味、甘み、タンニン、すべての質と存在感は驚くほど。余韻も長く、複雑 性も素晴しい。 年の歴史を、今こうして味わえる。 1921 収穫開始日:9 月 15 日 収穫年の特徴:極めて暑く、例外的に乾燥した年。ただ 4 月 21 日の霜害 により、3 分の 1 の生産量を失った。結果的に質は高いが収穫量は平年 並み。 「世紀のヴィンテージ」と評価は高い。 色あい:年を感じさせない若々しく健康的な色あい。 香り:炒ったアーモンドの芳ばしい風味とフローラルな香りが絡み合う。 とてもリッチで複雑な力強い香り。際立ってピュア。 味わい:リッチで深みのあるアタック。素材がしっかりとしており、タン ニンも柔らかいが存在感がある。余韻も複雑で長い。濃厚で複雑、そし てフレッシュさが際立っている。 ワインの魅力は果てしない。 写真右/テイスティングが行なわれた熟成カーヴ内には、プライベート・カーヴ が併設されており、貴重なアンティーク・ワインが静かに眠っている。中には 19 世紀のワインも。 中/世紀のヴィンテージとして名高く、今回のテイス ティングでも賞賛を浴びた 1921 年と 61 年。 左/ 1997 年からオーナーと なったジャン・メルロー。シャトーに残された情報を元に、昔の収穫状況や試 飲コメントを語ってくれた。 シャン・メルローによるコメント 1831 収穫開始日:9 月 14 日 収穫年の特徴:優れた年だが収穫量はごく少ない。まろやかさが際立つ年。 色あい:ややオレンジがかった褐色。 香り:ほのかにコーヒーやシガー、燻した香りとパン・デピスの風味があ り、複雑で洗練された心地よい香り。 味わい:わずかに揮発酸を感じるが、デリケートで繊細。酸もアルコール もタンニンも時とともに研ぎ澄まされ、核心を味わう感じ。色、味わい ともに透明感がある。余韻も程よく長い。 1841 収穫開始日:9 月 18 日 収穫年の特徴:収穫量がとても多く、優良年。 色あい:1831 年より淡く、やや褐色がかっているが、オレンジの色あい が強い。 香り:樽から由来するわずかな燻し香とプルーンの香り。 味わい:素材感のしっかりとした濃密な味わい。酸はわずかだが見事な品格。 1851 収穫開始日:9 月 27 日 収穫年の特徴:収穫量は例年通りで、濃厚なワインが生まれた年。 色あい:色あいは非常に弱く、やや褐色がかったオレンジ色。 香り:アタックは閉じているが、フローラルな香りと、ハーブや野菜の香 りが見え隠れする。 味わい:1831 年や 1841 年と比較して、微粒子ではあるが、よりタンニ ンの存在感がある。またさらに酸、揮発酸が感じられる。少し微発泡も。 1871 収穫開始日:9 月 18 日 収穫年の特徴:収穫量はかなり多く、軽やかでエレガントな年。 色あい:とても濃密で深みのある色あい。 「1971 年では?」と思わせる 濃厚さ。 香り:香りも濃厚。ナッツやプルーンといったドライフルーツの香りとロー リエのようなハーブ香、コーヒーの風味。エルミタージュを彷佛させる特徴。 味わい:とてもタンニンが強く、やや乾いた感じ。驚くほどの濃厚さと 力強さ。 1881 収穫開始日:9 月 12 日 収穫年の特徴:収穫量はあまり多くない。柔らかさはなくがっしりとした年。 色あい:1871 年より淡い色。やや褐色がかったオレンジ色。 香り:芳ばしく、砂糖菓子のような甘いタッチとともに、イキイキとした 酸でフレッシュ。素晴しい複雑性も。 味わい:リッチで力強く、見事なアタック。やや揮発酸が感じられるが、 ふくよかさとうま味があり、余韻が長い。 1891 収穫開始日:10 月 2 日 収穫年の特徴:平均的な収穫量。平凡でやや青さを感じる年。 色あい:色あいは淡く、オレンジの色あい強い琥珀色。 香り:とても個性的で、火打石やシレックスのような風味と芳ばしいア タック。野菜、草木やキノコの香りも際立つ。 味わい:溌剌とした酸で若さを感じる。 参考文献:Bordeaux Vignoble Millenaire, Le Guide des Vignobles et des Vins Bordeaux, Un siecle de Millesimes 142
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