GPS時計を内蔵するデータ収録システムの構築

GPS 時 計 を 内 蔵 す る デ ー タ 収 録 シ ス テ ム の 構 築
福井工業高等専門学校
前澤廣道
1 はじめに
マ ザー ボー ド
地球物理関連の自然現象観測における不可欠な項目の一つとして、事象が発現した正確な時
刻の取得がある。このために大学等の研究機関では原子時計など高精度の時計を有している。し
か し 、本 校 の よ う な 小 規 模 な 研 究 施 設 や 野 外 で の 臨 時 観 測 に お い て は 、個 々 に PC 内 蔵 時 計 や JJY 、
ラジオ時報等を利用したシステムを使用してきた。
これらのシステムで得られたデータを解析する上
RAM
GPS 時計
で常に問題になるのが時刻精度である。そこで、
観測の時刻精度を向上させるため、最近急速に利
HDD
用 が 進 ん で い る GPS( Global Positioning System) の UTC
同期シグナルを使用た時計を用いることで、原子
A/D 変 換ボ ー ド
CD- R
時計に匹敵する正確な時計を持つ計測システムを
作ることができるようになった。本報告書では、
Fig.1 PC デ ー タ ロ ガ の ダ イ ヤ グ ラ ム
Fig.1 、 Fig.2 に 示 し た よ う な PC マ ザ ー ボ ー ド + A/D
変 換 ボ ー ド を 用 い た PC デ ー タ ロ ガ ( 前 澤 ,2001) に
GPS 時 計 を 内 蔵 さ せ た デ ー タ 収 録 シ ス テ ム を 製 作
し た の で 紹 介 す る 。 ま た 、 GPS 時 計 の か わ り に JJY
電波時計を使用したシステムも製作し、これらの
時計精度の比較検討も行ったので併せて報告する。
2 PC デ ー タ ロ ガ
2.1 ハ ー ド ウ ェ ア 構 成
Fig.2 に 今 回 製 作 し た GPS 時 計 内 蔵 PC デ ー タ ロ ガ
の 写 真 を し め す 。 PC デ ー タ ロ ガ に つ い て は 平 成 12
年度東北大学技術研究会でその有用性などを詳し
く紹介したので、ここでは今回の製作に使った主
な構成部品とスペックを示す。
コンピュータ部
Motherboard GIGA-BYTE GA-61EM (815E)
CPU
Celeron 1.1GHz
RAM
256MB
HDD
60GB
A/D 変 換 ボ ー ド
MicroScience ADM676PCI (16bit 16ch A/D board)
OS とプログラミング言語
Microsoft Windows 2000 , Visual Basic Ver.6
Fig.2 製 作 し た PC デ ー タ ロ ガ の 内 部
<http://microscience.co.jp/>
今 回 の 製 作 に 当 た っ て 、 観 測 点 で の 取 扱 い を 考 慮 に 入 れ 、 信 号 入 力 部 、 GPS 等 の 操 作 パ ネ ル は
筐 体 の 前 面 に 配 置 、 ま た デ ー タ の 収 録 を 行 う た め に CD-RW を 内 蔵 し た 。 さ ら に 、 制 御 の た め に
必要なケーブル類を極力少なくするため、可能な限り筐体の内部に取り込んだ。
デ ー タ 収 録 は デ ー タ の 取 扱 い や デ ー タ の 長 期 収 録 を 考 慮 し 、 約 10MByte 程 度 の LHA 圧 縮 フ ァ
イ ル 単 位 ( 8ch,256Hz/hour ) で 、 1 日 ご と の LHA 書 庫 フ ァ イ ル と し て 保 存 し て い る 。 容 量 60GB の
HDD で 約 3 ∼ 6 ヶ 月 間 の 連 続 観 測 の デ ー タ 保 存 が 可 能 で あ る 。
2.2 観 測 プ ロ グ ラ ム Tideni-676
観 測 プ ロ グ ラ ム は VB で 作 成 し た 。 こ の プ ロ グ ラ ム は ADM-676PCI A/D 変 換 ボ ー ド 専 用 の デ ー
タ 収 録 プ ロ グ ラ ム で 、 OS の 安 定 性 を 考 え Windows2000 で 稼 働 す る よ う に し た 。 観 測 中 の 表 示 画
面 を Fig.3 に 示 す 。 観 測 に 必 要 な 設 定 は す べ て こ の 画 面 か ら 操 作 で き る よ う に な っ て お り 、 入 力
設定は多様な観測に対応できるよう、下記の6項目の選択ができるようになっている。また、観
測中の停電を考慮し、電源再投入後、自動的に復帰するようにした。
A/D 変 換 の 選 択 及 び 設 定 項 目
分解能
12,14,16bit か ら 選 択
入力方法
シ ン グ ル or 差 動 入 力
周 波 数 ク ロ ッ ク 10MHz or 8.192MHz
入力レンジ
± 5V or ± 10V
入 力 チ ャ ン ネ ル シ ン グ ル 1 ∼ 16ch
差 動 1 ∼ 8ch
サンプリング
1 ∼ 200kHz/ch
( 差 動 8ch で max 16kHz)
3 時計
3.1 GPS 時 計
最 近 急 速 に 利 用 が 進 ん で い る GPS 受 信 機 が
低価格で市販されるようになり、これを用い
Fig.3 観測プログラム Tideni-676 の観測中の表示画面
ることで原子時計に匹敵する正確な時刻を得
る こ と が で き る よ う に な っ た 。 今 回 の シ ス テ ム に 使 用 し た GPS レ シ ー バ モ ジ ュ ー ル は 2 万 円 前
後 で 販 売 さ れ て い る ( 株 ) SPA の 「 ジ ュ ピ タ ー 」 <http://www.spa-japan.co.jp/>で あ る 。 こ の 「 ジ ュ
ピ タ ー 」 の 特 徴 は 形 状 が コ ン パ ク ト で か つ 低 価 格 で あ る こ と と 、 GHS 時 計 と 呼 ば れ る 専 用
LSI (GHS-2 ) 及 び そ の 周 辺 LSI 、 回 路 図 が 公 開 、 配 布 さ れ ( 早 水 勉 他 ,2000 ) 非 常 に 使 い 勝 手 が よ い
点 で あ る 。 さ ら に 、 GPS 利 用 PC 内 部 時 計 校 正 ソ フ ト 「 Satk 」 <http://www7.ocn.ne.jp/~set/ > の よ う な
フリーソフトも有り、使用環境が充実している。
今 回 の シ ス テ ム に 組 み 込 ん だ GPS 時 計 は 早 水 氏 他 が 開 発 さ れ た GHS-2 を 使 用 し 、 こ の 1PPS と
分 予 告 信 号 の 出 力 を 重 ね 、 A/D 変 換 ボ ー ド に 入 力 し て い る 。
3.2JJY 長 波 時 計
JJY 長 波 時 計 は 独 立 行 政 法 人 通 信 総 合 研 究 所 日 本 標 準 時 グ ル ー プ <http://jjy.crl.go.jp/> が 標 準 電 波
に重畳し伝送しているタイムコードを活用した時計で、多くの民生品が有り普及している。
長 波 帯 JJY は 、 臨 時 観 測 等 に よ く 使 用 さ れ て い た 短 波 帯 に よ る JJY 放 送 が 2001 年 3 月 31 日 で
停 波 し 、 そ の 次 世 代 JJY と し て 、 1999 年 6
月 よ り 40kHz 、 空 中 線 電 力 50kW で 福 島 県 お
お た か ど や 山 頂 よ り 送 信 が 開 始 さ た 。 2001
年 10 月 に は 日 本 全 土 を カ バ ー す る た め 、 佐
賀 県 は が ね 山 に 2 局 目 の 長 波 帯 JJY 送 信 所
が 60kHz で 稼 動 し て い る 。
今 回 試 験 的 に 用 い た 長 波 時 計 は C-dex 社
<http://www.c-dex.co.jp/> JST2000「 電 波 修 正 時
計 」( 周 波 数 40kHz) で PC の 時 刻 校 正 が 行
える仕様の電波時計である。この時計本体
基 板 か ら JJY タ イ ム コ ー ド シ グ ナ ル を 取 り
出すことができる。これに簡単な回路を付
加 し 、 A/D 変 換 ボ ー ド に 取 り 込 め る よ う に
した。
Fig.4 各時計の出力コード例( 60Sec )
3.3 時 計 の 時 刻 精 度
今回使用している時計の時刻精度はそれぞれの取扱い説明書によると次の通りである。
GPS 時 計
± 500nSec
GPS 受 信 機 「 ジ ュ ピ タ ー 」 の 1PPS
± 1 µSec ( こ の 出 力 を 使 用 し て い る )
GHS-2 出 力 の 1PPS
± 30mSec( 受 信 状 態 が 良 好 な 場 合 )
JST2000 「 電 波 修 正 時 計 」 の 1PPS
± 100mSec ( 受 信 状 態 に Error が あ る 場 合 )
Fig.5 に 時 刻 精 度 の 比 較 を 行 っ た 結 果 を 示 す 。 こ れ は 上 記 シ ス テ ム を 使 い 1mSec の 時 刻 精 度 を
議 論 す る た め に 2048Hz で サ ン プ リ ン グ し た 。実 線 は GPS 時 計 、波 線 は JST2000 、点 線 は NTT の 177
に よ る 時 報 で あ る 。 そ れ ぞ れ の 精 度 を 見 る と 、 GPS 時 計 の 立 ち 上 が り が 常 に 早 く 、 NTT の 時 報 は
こ れ と 比 較 す る と 常 に 5mSec 程 度 遅 れ る 傾 向 に あ る 。 こ の 遅 れ は ほ ぼ 一 定 で 、 使 用 し た 電 話 が 福
井 高 専 物 理 教 室 の 学 内 電 話 回 線 で あ る た め NTT か ら の 時 報 送 信 に か か る 途 中 経 路 に よ る 遅 れ と
解 釈 す る と 説 明 が つ く 。 JST2000 と GPS 時 計 で は 10 ∼ 30mSec の 遅 れ が 認 め ら れ た 。 ま た 、 こ の
遅れは一定ではなくずれ幅はふらつく傾向にあ
った。この理由として、長波アンテナを福井高
専 本 館 (4F) 物 理 教 室 東 側 窓 (2F ) の 外 に 置 き 測 定
を実施したことによる、電波受信状態の揺らぎ
に起因するものと思われる。
GHS-2 の 1PPS 出 力 は 早 水 勉 他 に よ る 精 密 測 定
で ±1 µSec と 高 精 度 で あ り 、 言 う ま で も な く
1mSec 以 上 の 性 能 を 有 し て い る と 思 わ れ る 。 ま
た 、 GPS 時 計 は 衛 星 を 3 個 以 上 捕 捉 す る と 測 位
状 態 と な り 、 GHS-2 が 正 分 に ク リ ア さ れ 正 し い
UTC を 表 示 す る 。 ま た 、 GPS レ シ ー バ 「 ジ ュ ピ
ター」は衛星を1個以上捕捉すると衛星に同期
Fig.5 各時計の時刻精度比較
す る 1PPS を 出 力 し た 。
4 まとめ
地球物理関連の観測を目的とした、
「 GPS 時 計 を 内 蔵 す る 観 測 用 デ ー タ 収 録 管 理 シ ス テ ム 」
を 製 作 し 、試 験 観 測 を 行 っ た と こ ろ 非 常 に 良 い 結 果 を 得 た 。本 報 告 書 で は こ の シ ス テ ム の PC
デ ー タ ロ ガ と こ れ に 組 み 込 ん だ 時 計 シ ス テ ム の 紹 介 を し た 。 特 に GPS を 利 用 し た 時 計 シ ス
テムは精度も高いと考えられ、臨時観測や当校のように高精度時計システムを保有してい
な い 研 究 機 関 に お い て 有 用 と 思 わ れ る 。 ま た 、 GPS 衛 星 を 捕 ら え る こ と の で き な い 観 測 点 で
の 時 計 シ ス テ ム と し て JJY 長 波 時 計 は 有 用 で あ る と 考 え ら れ る 。 そ れ ぞ れ の 観 測 点 の 立 地 条
件 に 合 っ た 時 計 シ ス テ ム を 組 み 込 む こ と で 、 JJY 長 波 時 計 で は 若 干 精 度 が 落 ち る も の の 、 異
なる観測点のデータをサンプリングインターバルの時刻精度がある時間軸で扱う事が可能
に な っ た 。 な お 、 い ず れ の 時 計 シ ス テ ム も DC12V で 作 動 す る の で 他 の シ ス テ ム へ の 応 用 も
可能である。
現 在 、 福 井 高 専 物 理 教 室 が 観 測 を 行 っ て い る 今 立 郡 池 田 町 谷 口 ( TIJ) に GPS 時 計 を 内 蔵
す る シ ス テ ム を 、 京 都 大 学 防 災 研 究 所 北 陸 観 測 所 坑 内 ( 鯖 江 市 、 HKJ ) に は JJY 長 波 時 計 を
組 み 込 ん だ シ ス テ ム を 設 置 し 、 平 成 14 年 12 月 よ り 256Hz サ ン プ リ ン グ に よ る 地 電 位 、 地 震
等 の 常 時 観 測 を 開 始 し た。本 報 告 書 で は 観 測 で 得 ら れ た デ ー タ 、事 象 の 紹 介 が で き な か っ た が 、
研 究 会 で は そ れ ら を 含 め て 報 告 す る 予 定 で あ る 。 ま た 、 福 井 県 の よ う な 積 雪 地 帯 で の GPS ア ン
テナ設置においていくつかの工夫を行ったので併せて報告する。
5 謝辞
本 研 究 は 平 成 14 年 度 科 研 費 補 助 金「 奨 励 研 究 」課 題 番 号 14916021 の 補 助 を 受 け て 行 い ま し た 。
本 研 究 を 進 め る の に 当 た っ て 、 筐 体 の 製 作 に は 本 校 実 習 工 場 竹 間 晴 也 氏 、 GPS 時 計 に つ い て は
電子情報工学科前川公男助教授に、地震観測等については一般科目助教授岡本拓夫氏に多くのア
ド バ イ ス を 頂 き ま し た 。ま た 、本 研 究 の メ イ ン と な っ た GPS 時 計 に は 早 水 勉 他 が 開 発 さ れ た GHS-2
時計を使用させて頂きました。さらに、これに関する資料、回路図等についてはせんだい宇宙館
の ホ ー ム ペ ー ジ < http://uchukan.sendai-net.jp/ > を 始 め 、関 連 ホ ー ム ペ ー ジ を 参 考 に さ せ て 頂 き ま し た 。
GPS 受 信 機 「 ジ ュ ピ タ ー 」 と PC 内 蔵 時 計 の 同 期 に は 瀬 戸 口 貴 司 氏 の 作 成 さ れ た Satk - Satellite
Assisted Time Keeper < http://www7.ocn.ne.jp/~set/> を 使 用 さ せ て 頂 き ま し た 。 観 測 プ ロ グ ラ ム の デ ー タ
圧 縮 に は M i c c o 氏 作 成 の "UNLHA32.DLL" を 使 用 さ せ て 頂 き ま し た 。 以 上 の 方 々 に 記 し て 感 謝
します。
参考文献
前 澤 廣 道 「 Windows 環境での A/D 変換と地球物理観測への応用」 平 成 12 年 度 東 北 大 学 技 術 研 究 会 報 告 ( 2001.03 )
早 水 勉 他 「 星 食 か ら 生 ま れ た GHS 時 計 」 日 本 天 文 学 会 誌 2000Vol.93No.12(2000.12)
( 株 ) SPA 「 ジ ュ ピ タ ー 仕 様 書 」 (2000.05)
( 株 ) C-dex 「 JST2000 仕 様 書 」 (2001.08)