議事録 - 文部科学省

科学技術・学術審議会
生命倫理・安全部会
特定胚等研究専門委員会
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会(第 9 回)
議事録
1. 日時
平成 27 年 5 月 22 日(金曜日)10 時 00 分~11 時 53 分
2. 場所
文部科学省 13 階 13F1 会議室
3. 出席者
(委 員)須田主査、高坂主査代理、阿久津委員、大西委員
窪田委員、相賀委員、古江-楠田委員
(事務局)御厩安全対策官、丸山室長補佐、神崎専門職
(有識者)横尾教授(東京慈恵会医科大学)
4. 議事
(1) 動物性集合胚の取扱いに係る科学的観点からの検討について(ヒアリング)
(2) その他
5. 配付資料
資料1
「動物性集合胚を用いない臓器再生技術は可能か?」(横尾隆東京慈恵会医科大
学主任教授提出資料)
資料2
参考資料
動物性集合胚の取扱いに係る科学的観点からの調査・検討事項の整理(案)
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会の設置について
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6. 議事
【須田主査】
それでは、定刻となりましたので、ただいまから第 9 回動物性集合胚の
取扱いに関する作業部会を開催いたします。
まずは、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【丸山室長補佐】
それでは、配付資料の確認をさせていただきます。議事次第の裏面
に、配付資料一覧がございます。各資料の右肩に振ってある資料番号として、資料 1、2、
参考資料の 3 点でございます。さらに、机上資料として、プレスリリースのペーパーと、
ドッチファイルの参考資料を準備しております。不備、不足等がございましたら、事務局
までお知らせください。
なお、本日は、相賀委員が初めて出席されておりますので、御紹介いたします。
また、本日は、東京慈恵会医科大学の横尾教授に御出席いただいております。
なお、審議の円滑な進行のため、頭撮りはここまでとさせていただきます。
以上です。
【須田主査】
それでは、相賀先生、ちょっと簡単に自己紹介を。
【相賀委員】
遺伝学研究所から参りました、相賀と申します。この会に参加させてい
ただきますのはきょうが最初になりますけれども、キメラ作成とか、そういうようなこと
に関しては、私も実際にマウス-マウスでやったことがありますので非常に興味があると
いうことで、サイエンティフィックな面から何かコントリビューションできればいいと思
います。よろしくお願いいたします。
【須田主査】
よろしくお願いします。
それでは、議事に入りたいと思います。本日は、関連研究者からのヒアリングというこ
とで、東京慈恵会医科大学の横尾主任教授にお越しいただいております。ありがとうござ
います。
この部会では、動物の胚にヒトの細胞を入れる動物性集合胚について、今後の取扱いを
検討しております。横尾先生は、動物の胎仔にヒトの細胞(間葉系幹細胞)を入れるとい
うアプローチをされておりまして、そのお話を今回お伺いしたいというふうに思っており
ます。動物性集合胚との対比などの観点から、ディスカッションができればいいと思いま
す。
それでは、横尾先生、よろしくお願いいたします。
【横尾教授】
慈恵医大の横尾でございます。本日は、このような場にお呼びいただき
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まして、誠にありがとうございます。
私、15 年以上、再生医療という言葉が出ないうちから少しやらせていただいていて、当
時は、ES 細胞ができてちょっとたって、まだ研究もできない。iPS 細胞もないと。しかも
我々には胚をいじくる能力もなかったわけで、初めからそういったことなしにやってきて
おりますので、本日、この場にふさわしいかどうか、ちょっと分かりませんけれど、先ほ
ど須田先生がおっしゃられたように、対比という形で聞いていただければということであ
ります。私は、のっけから動物性集合胚を用いないということで、そういったアプローチ
はどんなことが考えられるのか、そういったことは可能なのかというようなことをお話し
させていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、ここに書いてあるように、腎臓を専門にしております。腎臓というと、透析やら、
移植やらがありますので、そもそも、こんな研究をして何になるのだ、腎臓が悪くなった
ら透析すればいいじゃないか?
もちろんそういうような御批判もあるわけですけど、こ
ういった研究にお金を掛けたり、若しくは時間を掛けたりする必要はあるのか。つまり、
そもそも臓器再生は必要なのか、特に私の場合は腎臓ということを考えておりますので、
ここの点からお話しさせていただければというふうに考えております。
答えは、やはり必要であろうというのが、私たちが考えていることでありますが、基本
的には社会問題化してしまっている。もちろん、心臓移植、肝移植、そういった臓器を作
るということは非常に大切ではある中で、腎臓はどちらかというと患者さんの数は少ない、
30 万人そこそこしか透析患者さんはいないわけですけど、それしかいないにもかかわらず、
お金がすごく使われてしまっている。これより更に増えたということでありますけれど、
透析医療だけで 1.4 兆円。さらに、透析患者さんは 1 級身障者でありますので、それに対す
る福祉のお金、若しくは透析することによって会社を首になったりして生活保護を受けた
りとかいうようなことがありますので、この目に見えないお金がかなり膨らんで、社会問
題化している。さらには、患者さんも、週 3 回透析をやったりとか、いろいろ生活の制限
がありますし、高いモータリティーがある。じゃあ移植すればいいじゃないかということ
でありますけれど、ドナー不足であるということが問題になっている。実際に血液透析を
やったりとか、腹膜透析若しくは移植をするという末期腎不全、昔だったら亡くなってい
たわけですけど、それが生命を長らえることはできると。ただ、それに頼って、ほかの、
例えば肝不全では亡くなるし、心不全でも亡くなるのだけど、腎不全では直接的には亡く
ならないということで、ここにすごくお金が投入されているわけですけれど、今、この患
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者さんがどんどん増えている。さらに、国際的に見ても、これは先々週の『The Lancet』
から取ってきましたけれど、透析は世界的にも社会問題になっていると。要は、ここに日
本がありまして、日本は真っ赤っかですけれど、これは透析患者さんが多いということで
すね。人口当たりの透析患者さんが非常に多い。この部分でも多いのですけど、やはり貧
富の差といいますか、貧しいと言われている国では非常に低い傾向があって、この差は透
析を受けられずに死亡していて、お金がある国の特権化していると。これは何とかしなき
ゃいかんということで、この格差をなくすためにもう少し透析医療をやった方がいいとい
うような論調ではある。ただ、それだけの財源があるのかというと、なかなかそういう問
題ではない。ドナーがいるのかというと、そういうわけでもない。ということを考えると、
これは今後もっともっと社会問題化するということでありますので、やはりお金・時間を
掛けて新規治療法の開発に挑戦をするということが、我々の使命というふうに考えていま
す。
実際に複雑な構造を持つ臓器をどうやって作るのかということではあるのですけれど、
腎臓は一番難しいのでないかと言われている。これは複雑だということだけを示したい図
ではあるのですけれど、ネフロンという糸球体というところでろ過されたものが、近位尿
細管、遠位尿細管、集合管と、こういったもので最終的に膀胱にたまる尿が作られるわけ
ですけど、こういったネフロンというものが 1 個の腎臓に約 100 万個あると。二つ合わせ
ると、200 万個。1 個の細胞を作るのがやっとなのに、どうやってこんな複雑なものを作る
のか。例えばβ細胞だけとか、心筋細胞を作るのにも、それはもちろんハードルは低くな
るわけですけど、こういった構造を作るのは難しい。さらには、尿を作るだけではなくて、
腎臓はほかにも、内分泌機能を持ったりとか、骨を強くしたりとか、エリスロポエチンを
作ったりとか、いろんな複雑な構造を持っていると。
で、これはよく言われることですけど、40 億年前に生まれた生命体、地球上が海で囲ま
れていたときにできた生命体が、多細胞になり、海中で生活できるようになり、両生類に
なって陸地に上がってきて、二本足で立って歩くと。こういった 40 億年前の環境を陸地に
持ち込む、そのためのファンクションは全部腎臓に任せられた。つまり、周りに水があっ
たり、塩があったりとかするような環境を体に持ち込むために、体の中に海を作るといい
ますか、ためるところを作って、要らないときに排出し、入ってくるときに入れるという
排泄系を作る。さらには、二本足で立つためには骨を強くしなくちゃいけないし、酸素を
体中に巡らせるためにエリスロポエチンを作ったりと。要は、40 億年掛けてあんな複雑な
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ものを作ってきたということではあるのですけれど、最近は文明が進化を通り越してしま
ったので、腎臓病が増えてしまった。
いずれにしても、あんなに複雑な構造を作るのは無理だろうというふうに考える。これ
はまさに文部科学省から提示していただいたロードマップで、これに関して言うと、腎細
胞ですら 10 年たっても臨床研究に入れるのかというようなところで、はっきり言うと、あ
んな複雑な機能を持ったものを作るのは基本的には無理であろうというのが世の中の考え
でありますし、また、医師の中でもそういった考えを持っている方がほとんどである。こ
れは否めない事実だと思うのですけど、じゃあどうしていくかというと、やはり特殊な方
法が必要であろう。再生医療、いろいろありますけど、新たに腎臓を作るためには、ああ
いった複雑なものを作るにはどうしたらいいのかということではあるのですけど、世界的
に見ると、こういった複雑な、とにかく複雑な腎臓を作ろうというのは、五つの方法があ
るかと思うのですけれど、ここで一個一個細かくお話ししても本来のお話の趣旨と変わっ
てきてしまいますので、まさに先生方が今回この部会でお話をされている胚盤胞補完法と
我々が行っている胎生臓器ニッチ法、これは考えが少しかぶる部分があるので、この二つ
について、対比という形でお話しさせていただきたい。
どういうところが似ているかというと、我々は、iPS 細胞なり ES 細胞、若しくは組織に
分化した組織の幹細胞なり、とにかく、体に分化する、体のいろんなパーツに分化するよ
うな細胞は得ている。ここから複雑な構造を持つものを作るということで、ここの間には
かなり複雑なメカニズムがある。当然ですけど、細胞がこんな複雑なものになるわけです。
これは非常に奇跡的に複雑なプログラムがここに加わっていて、恐らく未知なものもたく
さんあるだろう。これは分からない。これを一個一個解明していけば、いろんなものを加
えて、このタイミングで何かを加えて、このタイミングで何かを加えてということを、全
くそれを模倣することができるのであれば、腎臓ができるだろう。ただ、これは分からな
いものが余りにも多過ぎるのではないか。空間的にも、時間的にも、かなり複雑なメカニ
ズムが働いている。だったら、これはブラックボックスのままでいいじゃないかという考
え、この部分が胚盤胞補完法と我々の方法が似ている部分ではあろう。つまり、我々が生
まれる約 10 か月前は 1 個の細胞であったのだけど、十月十日たって生まれてきたときには
全ての臓器を持っている。つまり、この 10 か月の間にいろんなプログラムが働いている。
ラットとかマウスだったら、わずか二十日間で成体ができてくる。このプログラムが先ほ
ど申しましたように 1 個 1 個分かればこういう成体ができるわけですけど、分からないの
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だったら借りちゃおうよということで、初めから借りちゃうというのが胚盤胞補完法で、
臓器ができるときだけ借りちゃおうというのが、我々の方法ということになります。
もう少し詳しくお話しさせていただきましょう。これが、余り批判的なことではありま
せんが、基本的には胚盤胞補完法の将来図という形になるかと思うのですけど、これは普
通のブタの正常分娩。普通に交配して受精卵が子宮の中にできて、それが育って胎仔にな
って、仔ブタとして生まれてくる。当然、ブタからブタに生まれる。胚盤胞補完法に関し
ては、膵臓とか腎臓ができないブタを作って、その受精卵にヒトの iPS 細胞若しくは ES
細胞を打つ。これを子宮に戻して、胎仔が大きくなる。生まれてくる。そうすると、ヒト
とブタのキメラが生まれてくるわけですけど、腎臓だけは iPS 細胞由来である。これが育
って大きくなったら、移植すればいいじゃないかと。これは非常に、倫理的なことを除き、
サイエンティフィックには超えなくちゃならない部分はもちろんあろうかと思うのですけ
ど、ストーリーとしては可能であろうと。ただ、私、以前の議事録とかもちょっと拝見さ
せていただきましたけれど、十分理解してない部分があるかと思いますが、やはり倫理的
に問題がある部分は、恐らくは、いろいろあると思うのですけど、キメラ動物ができてし
まうことが、国際的にも批判の一つの論拠になっているのかなというふうになっています。
恐らくは、例えば神経系とかがヒトで体がブタというようなものもできる可能性があるし、
一部だけブタということもあり得ると。こういうことが危惧されているので、議論が起こ
っているのかなと。
ただ、その中でもサイエンティフィックには非常に確立されてきたかなという印象があ
って、これは先生方の方がお詳しいのかもしれませんけれど、中内先生たちは、膵臓欠損
マウスにラットの iPS 細胞を打って、あいのこのキメラを作って、膵臓だけはラットの iP
S 細胞由来。異種間でもできるということを証明されて、5 年前に『Cell』に報告されて、
さらに、大型化させるために、膵臓ができないブタを作って、これはブタ-ブタ間ですけ
れど、大きな臓器を作るということにも成功なさっている。腎臓に関して言うと、大分ハ
ードルが上がるらしくて、膵臓はなくても生まれてくるわけですけど、腎臓がないと生ま
れてこないわけで、かなりそこに、臓器の胎生期における重要性というのはちょっと差が
あるのかもしれませんけど、腎臓に関してはマウス-マウス間でも余りうまくいってなく
て、少なくとも、生まれてはくるのだけれど、それらしい格好はしているけど、機能を持
たせているかどうかということははっきりしないという状況がある。でも、理論的には、
膵臓がいくのであれば、腎臓もいくのではないかと。
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今まで議論が恐らくあったかと思うのですけれど、僕が考える課題をちょっと挙げさせ
ていただくと、今まで議論し尽くされたのかもしれませんが、iPS 細胞のキメラ形成能とい
う問題とか、発がん性。先ほど申しましたように、膵臓だけとか腎臓だけに iPS 細胞を分
化させる。さらに、血管系を患者さん由来にする。要は、血管を患者さん由来にするのは、
非常に難しいかと思う。先ほどの方法だと、血管系若しくは神経はキメラになるわけなの
で、拒絶の最前線は血管の内皮細胞でありますので、これを患者さん由来にしなければ、
せっかくうまくいっても、せっかく臓器ができましたよといっても、移植したらあっとい
う間に異種拒絶で廃絶してしまう可能性がある。ここをクリアしなくちゃいけないし、そ
もそも、ラットとマウスでできるけど、ヒトと家畜で本当にできるのかとか、こういうよ
うなところは問題になる。あと、安全性はもちろん、そして最終的には倫理的な問題、こ
の辺が議論をするところかなと。
先生方は御存じかと思うのですけど、少しだけ取組としては、キメラ形成能ということ
に関しては、プライム型からナイーブ型にするような方法が幾つか報告されていると。こ
れは、先々週ぐらいですか、『Science』に出ていましたけど、2 種類のケミカルを加える
ことによって、少なくともヒトとマウス間でのキメリズムが成立するというようなところ
までできるというようなことも報告されて、これはやはり、こういったバイオロジストた
ちは物すごく優秀な方が多いのでクリアできるのかなということと、あと、神経系に行っ
たらどうなのかとか、そういうような問題に関しては中内先生たちも当然問題視していら
したようで、先々月だと思うのですけど、膵臓は内胚葉由来なので、内胚葉だけに、要す
るに神経系に入らないようにということで、Mixl1 のインデューシブルを使うことによって
内胚葉だけを補完するような方法を成功させた。腎臓に関しては、中胚葉ですし、これを
使って、膵臓に入る神経、若しくは腎臓に入る神経、そのほかのものもクリアしなくちゃ
いけないので、本当にこれは大丈夫ですよというようなところまで行くのは、ちょっとま
だ時間があるのかなということになります。
そういうことを考えると、やはり胚盤胞補完法若しくは動物性集合胚でない方法という
ことも一つ考えなければいけないのかなということで、先ほどの倫理的な問題は十分ここ
で今後もお話しされるかと思うのですけれど、それ以外にも、費用とか、時間とか、それ
だったらバンク化したらどうかとかいう話もありますけれど、こういった発がん性とか、
いろいろ問題がありそうだということで、今までは iPS 細胞若しくは ES 細胞といったプル
リポテンシー(多能性)というものに注目が集まってきたわけですけど、実は、それより
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もう少し進んでいる臓器前駆細胞というもの、マルチポテンシーの方がいい部分もあるの
ではないかと。そこにももう少しスポットライトを当ててあげてもいいのではないかなと
いうのが、私の考えであります。
私は、当時手に入れられる幹細胞、中胚葉系に分化できる細胞というのはこれしかなか
ったから、これをやったというものでもあるのですけど、当時使われていたのは、特に患
者さん若しくは成人の脂肪とか骨髄から取れるということで非常にメリットがある、間葉
系の幹細胞。これは中胚葉系の方に分化が進んじゃっているので集合胚を作れないという
ことで、この細胞を幾ら受精卵に打っても、キメリズムどころか、特にインテグレートも
されない。発がんの報告は、いろんな臨床応用もされていますけれど、今まで一例もない。
簡単に樹立できるということがありまして、安いし、短時間で、2 週間あればヒトの骨髄若
しくは脂肪から樹立できますし、遺伝子導入の必要ない、自家移植が可能ということにな
りますので、こういった点はメリットになるのかな。すごく増え方が多いので、簡単に増
えてくれるし、増え方が早いので十分な細胞が得られやすいし、とにかく簡単ということ
なのですけど、例えば、大学院生が突然来て、二、三週練習させれば細胞のメンテナンス
ができるぐらいで、研究者間のばらつきが少ない。こんなところは、欠点でもあり、利点
でもあると。今後のことに関して言うと、こういうようなものがたまたまうまくワークし
ていたのかなと思いますけど、少なくとも我々はこういった細胞を使っていた。
先ほど申しましたように、胚盤胞補完法のこういった流れではなくて、我々はもう少し
臓器に特化した方法でやってきたと。要は、胎仔ができた段階で、腎臓ができる部位に腎
臓に分化しやすい幹細胞を打つと。それが育ってきて、腎臓の芽ができたら、取り出しち
ゃう。取り出してしまって、あとの成長は、生体、患者さんの体の中で発育させる。それ
を尿につなげればいいのではないか。つまり、これはキメラを作るリスクが少ないという
利点があるということと、非常にシンプルであろうというふうに考えて、こういった研究
を進めてまいりました。つまり、初めから最後まで発生のプログラムを借りるのか、臓器
特異的に借りるのかが、この上と下の違いというふうに御理解いただきたいというふうに
考えております。
その研究に至った経緯ですけれど、腎臓というのは、中腎管のところの脇の中間中胚葉、
まさに間葉系幹細胞から分化したような細胞が、腎臓になれというプログラムを受けて、
腎臓になっていくということであります。最近、自己組織化の、基本的には何かしらの、
間葉系幹細胞だけではなくて、iPS 細胞、ES 細胞も、1 個の細胞に分化するのではなくて、
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組織に分化する能力があると。もともと、笹井先生をはじめ、いろんな先生が証明されて、
脳だとか、いろんなところの臓器、副腎だとか、腸管粘膜だとか、眼球だとか、そういっ
たものに分化するようになっている。要は、最初にスイッチを入れちゃえば、3 次元になっ
ていくような能力を持っている。腎臓というのは、きょうはお話しいたしませんが、自己
組織化能、あれだけ複雑な能力を持っているので、自分自体、要するに幹細胞自体が組織
に変わって腎臓になろうというような力が非常に強いことが分かっている。だったら、こ
こに患者さんから取った間葉系幹細胞を打って、ニッチの中で腎臓になれというスイッチ
を入れてもらう。そうすると、あとは勝手にぱたぱたぱたっと腎臓になっていくのではな
いかというふうに考えたわけです。
それを、本当に 20 年近く前の話ですけど、ラットでやりました。ラットの胎仔を取り出
してきて、ヒトの間葉系幹細胞を腎臓ができるところに打ち込む。そのままだと死んでし
まうので、東北大学の大隅先生のところに習いにいって、全胚培養で腎臓にスイッチを入
れている間は生かしておく。その後、腎臓を取り出してきて、今度は血管を入れるために
ラットの大網に移植する。そうすると、ヒトの間葉系幹細胞由来の腎臓がラットの大網の
中にできるのではないかというふうに考えました。
これは、ラットの子宮から卵を取り出して、腎臓ができる直前の 11.5 日のラットの卵で
すけど、今、脱落膜を取って、大体、ここからここまで 5~6 ミリなのですけれど、これ、
今、ライヘルトメンブレインを取って、こっち側が胎盤になります。Yolk sac(卵黄嚢)
上のこういった血管を傷つけないように開けていく。それで、ここに胎仔の頭。ちょっと
画質が悪くて大変恐縮ですけれど、頭が出てくる。そうすると、腎臓ができる部位は、ソ
ーマイトナンバーの 26 番、ちょっとだけ尾側にあるので、そこに斜め 45 度に打ち込む。
そうすると、腎臓ができる、芽ができるところに打ち込める。打ち込んでいるのは、患者
さん由来の間葉系の幹細胞。で、このままだと胎仔は死んでしまいますので、大隅先生に
習った全胚培養器を使って成長を続けさせる。これは、くるくる回る機械の中に先ほど打
った胎仔がちゃんと入っているわけですけど、プログラム化された酸素がフラッシュされ
ていて、胎仔が少なくとも 48 時間は生きられる。つまり、腎臓ができる直前から直後まで
は、胎仔が生きることができる。心臓が動いているので何となくオリエンテーションつく
と思いますけど、こっち側が頭で、こっち側が後ろ足。胎盤があって、Yolk sac がありま
すけど、この胎仔の体の中には先ほど打ったヒトの間葉系幹細胞が腎臓のできるところに
あって、そこで腎臓になれというスイッチを入れてもらっている。スイッチが入ったもの
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を取り出して、大網に移植する。成長は、さらに大網の中で血管を巻き込んでいく。そう
すると、これはうまくいって、ラットの大網の中にヒトの間葉系幹細胞の腎臓らしきもの
ができたよということを、10 年以上前に御報告いたしました。しっかり見ると、すごく微
細構造、腎臓の微細構造を持っていますし、これだけ微細な構造を持っているのだから尿
も作れるのではないかということで、これを置いておいたら、水腎症になる。水腎症にな
るということは、尿ができなければ水腎症になりませんので、これを取り出してきてみた
ら、やっぱり腎臓にすごく近い液体であったということで、これも報告させていただいた。
つまり、ヒトの間葉系幹細胞から尿ができるような構造物を作ったということまで、うま
くいったと。
じゃあ、血管系はどうするのよと。血管系は、患者さん由来じゃなければ、拒絶が最も
起こると。これは胚盤胞補完法でも一番問題になった。じゃあ、血管はどうやってどこに
スイッチさせるのか、血管ができないような動物を作るというのはできるのかとかいうよ
うなことがありましたけど、我々の方法は、これが患者さん由来でできるということを証
明しました。どうやって証明したかというのは、本当に簡単な方法なのですけど、これは
擬似的な患者さんであるわけで、ヒトの間葉系幹細胞、患者さんから取ってきて、最終的
に患者さんに移植するわけですけど、こっち由来の血管系で育っているということを証明
するために、こっち側を LacZ トランスジェニックラットにして移植する。そうすると、血
管系ですけれど、血管系が外からどんどん入っていって、行くということが分かって、さ
らには遺伝子発現もちゃんとホスト由来であるということを、内皮細胞がホスト由来であ
るということも確認できましたので、少なくとも血管系は我々の方法でやると患者さん由
来に置き換えることができるということが確認できました。
時間の関係で進めさせていただきますけど、じゃあ大型化できるの?
というようなお
話がちょっとあるかと思います。胚盤胞補完法の大型化をしておりますけれど、我々もブ
タを使わせていただいた。なぜかというと、先ほど腎臓になれというプログラムを借りる
というお話だったのですけど、ラットのプログラムを借りてしまうと、ラットの大きさに
なったらそこで止まりなさいよというプログラムも入ってしまうので、ラット以上の大き
さにならない。つまり、腎臓の大きさが、ヒトか、それより大きいような動物の胎仔のプ
ログラムを借りなければ腎臓サイズにならないということが分かっておりますので、ブタ
を用いた。ブタを選んだ理由は、先ほど申しましたように、腎臓の大きさがヒトに近いし、
ここはまだまだ議論をしなくちゃいけないのですけど、倫理的なところとして、豚肉はよ
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く食べられているので許容される可能性が高いとか、若しくは異種免疫のデータとかが豊
富ということがあります。これはまさにここにいらっしゃる大西先生のところで撮らせて
もらった写真ですけれど、子宮を取り出してくると、これは双角子宮ですから、ここに卵
巣が見えていますが、ここからここまでが大体 1.2 メートルぐらいだと思いますけれど、1
個 1 個の房の中に胎仔がいて、それが羊水の中でぷかぷか浮いていると。先ほどのラット
のときは顕微鏡下で的確に打てたわけですけれど、これは大西先生と一緒に何年やりまし
たか。これはまさに大西先生のラボの写真ではあるのですけど、実はうまくいかなかった
写真を引っ張り出してきたので見ていただきたいのですけど、週齢を合わせていただいた
妊娠ブタから子宮を取り出して、どこにいるのか。多分、この右手は大西先生の手だと思
いますけれど、ここに胎仔がいる。腹腔鏡のデバイス、いろんな種類のデバイスを買って
試したのですが、うまくいかない。なぜうまくいかないか。これは、一方から押さえて、
一方から見て、三方目から打つということでやっていたわけですけれど、これはなかなか
うまくいかない。何でうまくいかないか。腹腔鏡のデバイスだからだと、最終的にはそう
いうことなのかなと思うのですけど、胎仔がうまいことつかめなかったりとか、若しくは、
打つのも、これはすごく細い 29 ゲージの針ですけど、こんなにでかく見えちゃうと。これ
はいろいろ改良が必要だということで、今は、これはデバイスの開発というステップに入
っていて、日大の工学部の村山先生という先生にお願いして、ナビゲーションでうまいこ
と打てないかというようなことを検討している。うまいことちゃんと打てれば、少なくと
も大きめなものはできるのではないかなというふうには考えている。こうやっておなかを
閉じれば、ちゃんと胎仔が障害を受けなければ、成長を続ける。5 匹あると、うまくいくと
きでも 2 例ぐらいで、操作しても少なくとも腎臓は育ちそうなので、うまいこと打てれば
いいのではないかなというふうには考えている。
じゃあ本当にうまくいったときに尿はどれぐらいちゃんと出るのということを確認する
ために、これは明治の長嶋先生のところで作ったクローンブタで、この胎仔から取った腎
臓をお母さんブタに移植する。そうすると、クローンブタなので子供から親に移植しても
自家移植になるので、要するに免疫抑制がかからない状態で尿がちゃんと出るのかという
ことを確認してみる。そうすると、僕は知らなかったのですけど、ブタってこれだけ太っ
ていても大網には脂肪がほとんどないということで、5 週たつと大体 30 グラムぐらいの腎
臓。我々の腎臓は大体 150 グラムぐらいですから、5 分の 1 ぐらいの大きさと。これは大
網から血管が入っていますけれど、腎臓の機能は 5 分の 1 あれば十分なのですけど、これ
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を 2~3 個移植してちゃんと尿が出るようになってくれば、恐らく腎臓の機能は代替できる
のではないかなと。少なくとも、透析を 3 回から 2 回、2 回から 1 回ぐらいにできるのでは
ないかなというふうには考えています。こういうのは尿が作れることが分かった。後でち
ょっと述べますけど、これをうまいこと表に出せれば、どんどん尿が出て、少なくとも水
の排泄ということはできそうだということです。
続けますけれど、安全性を少し担保しなくちゃいけない。発がん性の問題とか、いろん
なものはないということは言われておりますけど、本当にないのか。しかも、要らなくな
ったら捨てられるのかというようなことで、不要になったら除けるかということを確立し
なくちゃいけない。我々は何とかヒトに応用したいというふうに考えておりますので、で
きればこういったところも安全性を高めたいということで、少し進めました。樹立された
ものは今の段階ではキメラなのだけど、要らないところは除きましょう。そうしないと、
いつまでたっても免疫抑制剤を飲まなくちゃいけないし、生理的な不快感があるので、ス
イッチをピッと入れたら、要らないところはさっと消えるようなシステムが必要だと。茶
色の部分は要らなくて、要るものだけを残すということをやりたいということでやったこ
とは、最初はマウスなのですけど、薬剤、タモキシフェンの投与下で全身がアポトーシス
を起こすようなものを作る。それをドナーとして使えば、要らなくなったら、タモキシフ
ェンを患者さんに飲んでもらえば、要らない部分、要するに異種の部分は全部アポトーシ
スで除けるのではないかということで、タモキシフェンを飲んだら、E2F1、異所性に出る
ところがアポトーシスを起こす遺伝子を全身に持ったマウスを作りました。このマウスの
腎臓の芽をラットに移植して、このラットにタモキシフェンを飲ませる。要らなくなった
ときにタモキシフェンを飲ませて、後腎由来の組織を除けるかということを検討してみま
した。
結果ですけれど、うまいことこれはワークして、しっかり、親ラットというか、ホスト
側がタモキシフェンを飲んだら要らない部分は除けて、かつ、免疫抑制はなくしてもエリ
スロポエチンとかの産生能は維持できますので、これは使うことができそうだということ
が報告されました。我々、マウスをやってもどうしようもないので、ブタでいきましょう
ということで、これは明治の長嶋先生のラボでやっていることですけれど、AZT、ブタは
胎生 5 か月ぐらいで子供が……。
【大西委員】
【横尾教授】
114 日。
114 日掛かるものを二つ掛け合わせて作るというのはちょっとできないの
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で、一つのブタでできるようなシステムを作りましょうということで、AZT 投与下にアポ
トーシスを起こすようなブタを作っていただいた。これは、あそこの方法でやると、繊維
芽細胞をまず起こして、それがちゃんと AZT で消えることを確認してからブタを作って、
これが濃度依存的にアポトーシスを起こすことを確認して、それの子供が 2 匹できたので、
これを移植すると、これもうまくいきそうだと。このシステムを使えばブタでもうまくい
きそうだということで、これをもう少し確立していこうというふうに考えています。
先ほど尿がこれだけ出ましたよなんていうビデオをお見せしたのですけど、毎回、尿を
出すためにおなかを開くわけにいきませんので、尿の排泄経路はどうするのかと。この 6
番に関しては、パブリッシュ前で、今、レビューの段階なので、ここの部分はほかに持ち
出さないようにしていただきたいのですけど、いずれにしろ、尿の排泄をどうするか。要
は、再生腎臓ができて、尿がたまってくる。出口がないから、結局は水腎症になって腎臓
が廃絶してしまうということで、この部分を何とか人工のチューブで膀胱とつなごうとし
たのですが、全然うまくいかない。しっかりつなげているにもかかわらず、水腎症がどん
どん進行してしまう。なぜかというと、尿管も臓器であって、発生の段階で蠕動運動をし
て、一生懸命、尿をかき出そう、かき出そうとするのです。だから、この部分も尿をかき
出そうというような力が働かないと、水腎症になってしまう。体内なので電気が発生した
りするようなものとかを作れなくて、これも工学部の先生とかにいろいろ相談して、何と
か陰圧を掛けられるようなシステムはできないかとかやったのですけど、結局うまくいか
なかった。どうしたかというと、うまくいったのは、膀胱、尿管をそのまま、一体になっ
て体の中で成長させる。そうすると、尿管が目に見えない蠕動を始めて、膀胱の原器に尿
がちょっとたまり始める。その段階で、今度はネイティブの尿管とつなぐ。そうすると、
ここからここまでちょっとした蠕動運動があって、ここは大きな蠕動運動がある。二つの、
ダブルのステップアップの蠕動運動をすることによって、腎臓が作った尿を膀胱まで導く
ことができるということが分かりました。
これはラットですけど、再生腎臓は大動脈のすぐ脇に作ったわけですが、腎臓と、尿管
がこう流れていて、そこの蠕動とともに尿ができるかということを確認しました。これは、
ちゃんと尿をここから回収することと、蠕動運動をしながら尿が出てくるというところを
見ていただきたいので、ここの尿管を切ってみます。これはまさに再生腎臓から出てきた
尿管ですけれど、ちょっと見にくくて大変恐縮なのですが、この切れ端がある。ここは切
れ端があるのですけど、腎臓がぐっと蠕動運動するとともに、ここに尿が出てくる。ここ
- 13 -
も切り口ですけど、ぐっとしぼみますとともに、尿が出てくる。これは別のラットですけ
ど、ここに切り口があって、内腔がちゃんと空いているということを確認しまして、これ
は尿が出てきているのですけど、ちょっと分かりにくいかもしれないですが、顕微鏡下で
見ると、しっかりぐっとしぼまったときに尿が出るということが分かる。実際には、造影
剤でやってもちゃんと染まってくるし、普通は、ああいうことをやると、4 週間以上たつと
水腎症でだめになっちゃうのですけど、これは 8 週です。それから更に 4 週後にサクリフ
ァイスしたのですけど、そうすると、ちゃんと機能していて、こっち側がウレアで、こっ
ちはクレアチンですけど、実際の自分の尿の大体 3 分の 1 ぐらいの濃度のクレアチンを排
泄できる。ということは、三つ続ければ、100%できるのではないか。1 個でも 3 分の 1 な
ので、これくらいの機能を持たせることができるということが分かった。
じゃあということで、両方の腎臓がなくても生きられるのではないかなと思って、両方
の腎臓を取ったのですけど、これは余りうまくいかない。なぜかというと、両方の腎臓を
取ると、余りにも急激に尿毒症が進行してしまうので、ばたばた死んじゃうのです。その
中でもあの腎臓があるとちょっとは生命予後が延びるので、ゆっくりゆっくりですけど腎
不全が進行して死亡するようなラットのモデルを使って、この差がもっともっと広がるの
かどうかということを調べています。同じことをブタでもやったのですけれど、ブタは実
は、しっかり育っていくのだけれど、残念ながらうまくいかなかった。なぜかというと、
これは後でもしかしたら大西先生からコメントを頂けるかもしれないのですけど、やはり
飼育環境の問題で、どうしても尿路感染症を非常に起こしちゃうのですね。ずっと尿が汚
い。これは膀胱に水がおりてこないのですね。水腎症になっちゃっている、せっかくこう
いうことをやったのに。よくよく調べてみると、ずっと長いこと尿管が感染を起こしてい
るので、中にデブリスといって、泥みたいなのが詰まっちゃうのですね。ここを切って開
けてみると、どろっと出てくるのが見てわかると思うのですけど、こういうのが出てくる
のですが、こういうようなものがずっとたまっていて、やってもやっても、ブタではうま
くいかない。ただ、これ、ブタを治すためにやっているわけじゃないので、こういうのが
たまっちゃって水腎症になっちゃうのですけど、すごくいい環境下でやってうまくいくか
というよりは、もう少し別な環境下で飼えるような動物で検証をしていきたいというふう
に考えています。
私、間葉系幹細胞がいいと申しましたけれど、実は余りよくない部分がありまして、ど
ういうことかというと、例えば iPS 細胞だったら、患者さんの体から取ったもので、一回
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よみがえらせることができる、若返ることができるので、それぐらいメリットがある。つ
まり、患者さん由来の、患者さんから取った幹細胞なので、特に透析患者さんとかはずっ
と尿毒症の状態を維持しているので、体の中にそれだけいたもの、幹細胞が劣化している
可能性がある。若しくは高齢の患者さんから取った幹細胞というのは、それだけ年取って
いるわけなので、患者さん由来のもの、若しくは高齢の患者さんのものを使えるのかとい
うのが、生体の幹細胞を使う一つの大きなデメリットというふうに考えている。実際に使
えるのかなということを検証しました。要するに、長期の透析患者さんの間葉系幹細胞は、
劣化している可能性がある。要は、ずっと尿毒症物質と共にあるわけなので、できないの
かなと。健常人から取ったものはできるのだけど、患者さんから取ったものはできないの
では困るということで、透析患者さん、2 年以上の透析歴を持っている患者と、全く腎臓が
悪くない患者さんの脂肪を取ってきて、間葉系幹細胞を立ち上げて、いろんな分化能とか、
増殖能とか、そこら辺を調べてみた。そうすると、ほとんど劣化しない、少なくとも 2 年
ぐらいの透析歴では劣化しなそうだということが分かりました。分化能もそうですが、増
殖能とか、老化のマーカーとかで調べても、そんなに差がなかった。ただ、ちょっと気に
なるのは、PCR アレイをすると、PCAF というヒストンのアセチル化を介して、血管新生
に関与する因子がちょっとダウンレギュレーションしている。なので、血管新生能と腎臓
再生能というのは全く同じではないのですけど、もしかしたらここら辺がよくない部分、
我々の方法としては、患者さんから取ったものをそのままやるのは難しい。だから、腎臓
が悪くなる前に間葉系の幹細胞を取っておいて、それをキープするとか、そういうような
方法、若しくは iPS 細胞にしてから間葉系の幹細胞にするとか、そんなような方法がもし
かしたら必要になるのかなというようなことを考えている。
これは最後の問題点ですけど、我々の方法というのは、社会的なコンセンサスを得るに
は、ヒトのために動物をあれだけあやめていいのか。発生のプログラムが非常に複雑であ
ったので異種の体のプログラムを借りるわけなので、ということは異種の胎仔を犠牲にし
なければいけない。これは先ほど申しましたように非常に難しいプログラムで、一個一個
解き明かすことはできないと。やろうとしているけど、まだまだ時間がかかる。社会問題
化したら、今の臓器不足はせっぱ詰まった状態になっているので、このプログラムを借り
なければいけないのかなというふうには考えているのですけど、ただ、ヒト以外ではどう
なのと。ほかに恩恵を受ける伴侶動物とかがいるのではないのかというようなことを考え
て、研究をやりました。これは、日本で飼われているペットイヌ・ネコの数ですけど、透
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析患者さんの大体 80 倍いると。実際に子供の数を上回っていて、このペットたちは愛され
て、なくてはならない存在になっている。うちもペットネコを飼っていますけど、一つの
ペットネコを家族全員がかわいがるわけなので、このペットネコたちの数の何倍もの人た
ちがペットネコの健康を望んでいる。いろんなデータがありますけれど、日本におけるネ
コの死因の大体 3 割ぐらいが腎不全。これはだんだん弱っていくわけなのですね。高齢化
というか、17 歳、18 歳で亡くなるネコがいるわけですけど、昔より平均寿命が延びてきて
いる。交通事故とかを除けば、基本的には腎臓が悪くなるような動物である。獣医さんた
ちは、ネコの腎不全の進行を遅らせることが急務になっている。
実際にこのネコは腎不全なのですけど、ちょっとこの写真だと分かりにくいのですが、
ネコは、調子が悪くなると、食べないし、飲まないし、ぐったりしていて、要はヒトの腎
不全と違うのですね。ヒトは、どうしてもおなかがすくから食べちゃうし、飲んじゃうか
ら、毒素はたまるし、水分はたまるのだけど、ネコの場合は、腎不全が進行すると、食べ
ないし、飲まない。だから、むくまないし、がりがりにやせて、筋肉量が減るから、クレ
アチンは大して上がらない。じゃあ何で死ぬのかというと、よく見られるのは、腎性貧血
で死ぬことが多い。じゃあリコンビナントを打てばいいじゃないかということがあるので
すけど、ネコの場合は、リコンビナントを打っても、抗体ができちゃうのです。同種でも
抗体ができてしまう。なので、一、二回は効くのだけど、結局は効かなくて、失血死に近
いような状態で亡くなる場合がある。
ということで、我々、先ほどのデバイスを開発するのに、今、日大の先生にお願いして
いると申しましたけど、その間に時間がありましたので、あのシステムは、尿を作るとい
うことに関してはそれが必要なのだけれど、我々の方法は自己の細胞からエリスロポエチ
ンを作るところまでは完成しているので、ネコで治してあげようというふうに考えた。ま
ずは獣医さんとコラボレーションして、ブタの胎仔から後腎を取り出して、ネコに移植し
ていく。これはペットのネコですけど、本当にきれいな状態で手術をする。これは、もち
ろん倫理委員会を通して、飼い主さんにも本当に詳しく説明して、同意を得てやっている。
このネコは軽度の腎不全はあるのですけど、まだ体重が落ちるほどではない。貧血もそん
なに進行してないネコだったので、とりあえずこれがうまくいくかということだけを確認
するために御協力いただいたということになります。今取り出したのは大網で、ブタより
よっぽど大網に脂肪が付いているのですけど、脾臓があって、胃の下の部分があるので、
大網というのが分かっていただけると思うのですけど、これをやりながら、ブタの後腎を
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取ってくると。移植と言っているのですけど、我々の方法、先ほど申しましたように、血
管を結ぶわけではなくて、患者さんの体の中で成熟型にしている。患者さんの体の中で血
管を入れるということです。だから、血管が患者さん由来なわけですけど、血管を結び必
要はなくて、脂肪の中にめり込ませるだけでいいわけです。めり込ませて、これで移植完
了です。それをおなかの中に戻す。普通におなかを閉じてあげて、実際に入れたものがち
ゃんと育つのか、そこからエリスロポエチンは出るのかというようなことを確認しました。
これは 3 週間後ですけど、1 回目の手術の瘢痕が残っているので同じネコだというのが分か
っていただけると思うのですが、ちゃんとできているのかなということを見て、おなかを
開けていく。腎臓のスイッチが入ったばかりの腎臓の芽というのは、大体 1 ミリ弱なので
す。ブタの腎臓でも 1 ミリ弱。3 週間たつと、大体 1 センチを超えるぐらいの大きさまで育
っているということが分かった。このときは 11 匹の胎仔がいましたので、22 個植えました。
ビギナーズラックで、100%の回収率、22 個回収できたのですけど、育っているのは全部、
元はブタの腎臓の芽だったのですけど、これから強烈にエリスロポエチンを出していると
いうことが分かりました。一部で尿も作り始めちゃうので、この場合は、先ほどの尿を外
に出すということをやっていませんので、水腎症で、4 週間で大体マックスでエリスロポエ
チンは下がってくるのですけど、こういうようなことをやっても、次の日になったら、ネ
コちゃんはすごく元気にしているし、よく食べるし、よく遊ぶし、おなかを切ったり張っ
たりとかっていうのと、何か取ったりとかするのではなくて、おなかを広げてちょっと入
れて、すぐ閉じるので、腎不全がある程度進行していても、全身麻酔をかけられるような
状況であれば、十分対応できるということが分かった。
ぼんぼんエリスロポエチンは出るというお話をしましたけど、エリスロポエチンはネコ
由来だということがわかった。初めはここまでうまくいくと思わなかったですけど、ブタ
のものを入れたにもかかわらず、ネコのものが出るということが分かった。これは本当か
よということで、実際にラット-マウス間でやってみて、マウスの腎臓の芽をラットに移
植して、ラットのエリスロポエチンが出るかということを確認したのです。そうすると、
ちゃんと出るということが分かって、移植実験とかしますと、結局、エリスロポエチン産
生細胞が骨髄から入ってきて、分化する最中にエリスロポエチンになっていくということ
が分かった。ここら辺は細かいのでちょっと飛ばした方がいいかと思うのですけど、例え
ばネコにブタの腎臓の芽を植えても、ここに血管が入ってきて、エリスロポエチンに関し
ては、分化する細胞が骨髄から入ってきて、そこでエリスロポエチン産生を始めるという
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ことが分かった。
ということで、これは北里大学の獣医学部でやったのですけど、北里大学、慈恵医大の
倫理委員会を通させてもらって、ほぼ腎臓が機能してなくて尿が出なくなったネコちゃん、
あとは数日で死を待つというような患者ネコに御協力いただいた。そのネコに、我々は透
析が専門でありますので、腹膜透析で生命を維持するという状態で、一般の方もいらっし
ゃるので申し上げにくいのですが、これは全て倫理委員会を通しておりますけれど、尿が
出ない腎臓を取らせてもらった。それでエリスロポエチンが回復するかということをチェ
ックしたわけですけれど、両方の腎臓を取るとエリスロポエチンが出てこなくなって、今
度はブタの構造に移植してもネコのエリスロポエチンが出るということが分かった。とい
うことで、このネコは当然、腹膜透析で生命はちゃんと維持できておりますし、エリスロ
ポエチン産生によって貧血は多少なりとも改善しているということで、ネコが貧血で苦し
んでいるのに関して、助けてあげられないかなということでやった。
これはちょっとだけあれなのですけど、最近のペットネコは非常にいろんなものを食べ
るので、もともと抗ブタ抗体を持っているネコがおりまして、そういうようなネコにも対
応できるように、本当にやるのであれば、ネコ化ブタを作らなくちゃいけない。ネコに移
植しても急性拒絶が起きないようなブタを作成しなきゃということで、そういったものを
クローニングとかをして、それを本当にネコの臨床に使うためには、抗ブタ抗体、既存抗
体を持っていても使えるようなブタを開発しようということで、こういうような研究も進
めています。イメージとしては、こういった遺伝子改変ブタをバンク化して、腎不全のネ
コがいたら、クリニックに行って移植して、エリスロポエチン産生細胞ができたら、先ほ
ども言ったタモキシフェンとか、若しくは AZT を飲ませて自分だけのエリスロポエチン産
生臓器を作れば、少なくとも、寿命を延長させるかどうかというのは難しいですけど、分
かりませんけど、例えば最後の 1 年間を元気に過ごさせるというようなことは可能じゃな
いかなというふうに考えて、これは、獣医さんと手を組みながらやって、社会的なコンセ
ンサスを得られるような、ヒトだけのものではなくて、もう少し広い範囲の動物を助ける
ことができるのではないかということをアピールしていきたいなというふうに考えており
ます。
これは最終的なイメージ図ですけど、透析患者さんがいたら、そこから脂肪を取るか、
骨髄を取って、間葉系の幹細胞に分化させる。そこで、腎臓ができないようなブタの腎臓
ができるところに注入して、腎臓の芽を作る。それを腹腔鏡下で大網に移植して、さらに
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それを膀胱とつないでいけば、透析から離脱できるのではないかなというふうに考えてい
ます。こちらが先ほど言った胚盤胞補完法になりますけれど、我々の方法は、キメラを作
らないということと、発がん性がない MSC を使うということで、代替案としてはこういう
ようなものができるのではないかなというふうに考えています。15 年、20 年ぐらい前は、
再生医療という言葉もありませんし、腎臓を作ると言ったら、ばかじゃないかってさんざ
ん言われてきましたけど、やっとここに来て何とか、道筋をたどれば腎臓ができるのでは
ないかなと、僕は楽観主義者なのでそういうふうに考えて、今年から、霊長類の研究施設
を慈恵医大の中に造りまして、この方法が霊長類でも可能かというようなことを検証しな
がら、我々の方法で、腎臓再生、臓器再生が可能であるかということを検証して、本気で
患者さんに提供できたらいいなというふうに考えております。
以上です。御清聴ありがとうございました。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
本当に究極の臓器構築なのですけれども、最初にいかに腎臓疾患において臓器形成が必
要かという話をされて、そして、胚盤胞補完法との対比の中で先生の間葉系の細胞を使っ
ての腎臓の構築という話をされました。いろいろと示唆に富むところが多いと思いますけ
れども、まず、質疑応答からいきまして、あと、ここの生命倫理委員会の方で議論してお
ります集合胚取扱いの問題についても言及したいと思います。
まず、今の横尾先生の発表に関しまして、御質問ありましたら、何でも結構ですから、
よろしくお願いします。
それじゃあ、私から。先生は間葉系の細胞を使っていらっしゃるのですけど、特に最初
の話だと、間葉系の細胞に GDNF を入れていらっしゃる。これだけで RET のシグナルを
入れて腎臓形成が進んでいくわけですか。
【横尾教授】
実は、ほかにもあるのかなとは思っているのですけど、ちょうど腎臓が
できるときに尿管芽が入ってくる、その Tip(先端)のところに RET があって、GDNF を
入れるとき、そっちにあるかないかで、全然でき方が違う。それを引き寄せるというパワ
ーを持たせるためにこれをやったわけですけど、ただ、大体 30%ぐらい、マックス 50%ぐ
らいしかできないので、別なものを加えればもっとうまいこといくのかもしれないですけ
ど、少なくとも全く GDNF を入れないと 2~3%しか尿管芽をこっちに引き寄せられないの
ですね。そういった意味では、これを入れないとできないということはあるのですけど、M
SC は割と遺伝子操作しやすい細胞ではあるので、割と楽にできる。
- 19 -
【須田主査】
それと連関するのかもしれないのですけど、後半で話されました、エリ
スロポエチン産生細胞は間葉系の細胞だという話があった。でも、その間葉系の細胞とい
うのは、どうも骨髄から来ている間葉系だというお仕事なのですね。
【横尾教授】
はい。
【須田主査】
結局、この実験だと骨髄由来ということになるのですけど、それが腎臓
の周りのかなり未分化な間葉系細胞としてあって、腎臓ができる、特に間質にありますよ
ね。間質の細胞というのは、意外とその辺のものを組み込みながら、腎臓ができていって
いるのですかね。
【横尾教授】
基本的に、我々の持っている腎臓にあるエリスロポエチン産生細胞はニ
ューラルクレストから入るということがあります。かなり特殊な、我々は全然別なところ
に腎臓の芽を入れているので、普通の発生の段階と全く違うシステムなのかなと思います。
ただ、先生おっしゃられましたように、骨髄からも入っているのだけど、実際にそこら辺
にいる間葉系の細胞が分化しているかどうかという検証はできてないので、もしかしたら
そちらの方が多いのかもしれないのですけれど。
【須田主査】
でも、すごくおもしろい仕事ですね。
【横尾教授】
ありがとうございます。
【須田主査】
相賀先生。
【相賀委員】
ちょっとフォローできなかったところを教えていただきたいのですけれ
ども、最初は腎臓の芽を入れて腎臓を作った。だけど、尿が問題だからって、尿管の方も。
尿管の方は、何を入れて、どうできたのか、ちょっとフォローできなくて。
【横尾教授】
全くそこの話は飛ばせていただいたので、分かりにくくなって、申し訳
ありません。尿管、膀胱に関しては、まだうまいこといってないのですね。それごと植え
ればちゃんと動くことは分かっているのですけど、そこをどうやって間葉系幹細胞に変え
るのかというのは、研究を始めたばかりで、いろんなアイデアはあるのですけど、例えば
途中で尿管芽が伸びるときに、もう少し早い段階、尿管芽がおりてくる途中で間葉系の幹
細胞を入れることによって、その下は打ち込んだヒト由来に変えるということは、ニワト
リでは成功しました。そうすると、膀胱も尿管芽も全部、ヒト由来にできる。何でニワト
リでは成功してラットでは成功しなかったかというと、ニワトリはすごく早い時期から操
作ができるのですけど、ラットは早くても胎生の 9.5 日で。そうすると結構下までおりてき
てしまっているので、ラットではできなかった。これをもう少し大きなブタでやったとき
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に、そういった途中で尿管芽も変えるというようなことができるかどうかということを今
後検証しなくちゃいけない。
【相賀委員】
今回は、尿管そのものを取って、一緒に移植したということですか。
【横尾教授】
そういうことです。
【須田主査】
大西先生。
【大西委員】
ブタの場合、大網にはほとんど脂肪がありません。網の状態になってい
るので、ほかの動物とちょっと違います。今、腎臓のもとを作る研究は、例えば横浜市立
大学が行っていますが、ブタの場合、後腎ができる胎齢期は約 35 日齢となり、(胎児への
注入操作等をするうえで)一番扱いにくい時期になります。例えば、腎臓のもととなる組
織を、胎齢期より進んだ発生途上の腎臓に打ち込んだ場合に、尿路の問題等が解決できる
可能性はあるのでしょうか?
【横尾教授】
やったことがないので何も言えないですけど、きょうは対比で出しまし
たけど、実は一番いい方法は、合わせ技だと思うのですね。どういうことかというと、腎
臓ができない、若しくは膵臓ができないブタで、少なくとも膵臓の場合は、生まれるまで
は膵臓ができないわけなので、打ち込むポイントがピンポイントじゃないと。ウインドー
が広がるのかなと。要は、妊娠がもっともっと進んだ、40 日とか、扱いやすい時期になっ
ても、まだそこでニッチが空いていて、そこに入れても、その後の発生でうまくいくので
はないかなというふうには考えていて、これ、動物性集合胚は使わないのだけど、膵臓若
しくは腎臓ができないブタを使うということはあった方がいいのかな。そうすると、恐ら
くもっともっと扱いやすいし、かつ尿管とかっていうことも置き換えられるのではないか
なというふうに考えて、実際に今、腎臓ができないマウスでその研究を始めていて、それ
は割とうまいこといっていて、本来だったらピンポイントで、マウスの場合は 9.5 日で打た
なくちゃいけないのだけど、11 日で打っても割と腎臓っぽくなっているので、そういった
ことはうまくいくのではないかなと。希望的観測ですけど。
【大西委員】
恐らくブタだと、50 日以降であれば、腎臓の部位特異的な打ち込みはで
きると思います。
【横尾参考人】
なるほど。そこまでウインドーが広がるかどうかということに関して
は、やってみないと分からないということでしょうか。
【大西委員】
そうですね。
【須田主査】
ほかにありますか。
- 21 -
【高坂主査代理】
ちょっとフォローできてないのかもしれないのですが、要するに、
ヒトの間葉系幹細胞をピンポイントに腎臓ができるであろう部位にまず打ち込むと。で、
ヒト由来の腎臓の芽ができると。それはいいのですけど、そのときにホスト側の腎臓の芽
はどうなるのですか。
【横尾教授】
完全にそれは、これもちょっと対比して出せばよかったのですけど、ホ
スト側とのミックスですね。キメラになっちゃうので、それが育つときに要らない部分を
除くというストラテジーでやっている。
【高坂主査代理】
キメラ状態のホスト由来のやつを除くっていうのは、どうやってや
るのでしょうか。
【横尾教授】
薬剤でアポトーシスを起こすような遺伝子を持ったホストにしておくの
で……。
【高坂主査代理】
【横尾教授】
そういうことですか。
最初はミックスなのだけど、要らない方が落ちていくと。中内先生の方
は、初めからない。だから、それをミックスさせたいなというふうに思っている。
【高坂主査代理】
【大西委員】
なるほど。よくわかりました。
ネコの研究で教えてほしいのですが、ブタの後腎を(ネコの)大網に入
れています。35 日齢ぐらいの後腎を入れていると思いますが、委嘱する後腎には抗原性が
ないのでしょうか?
【横尾教授】
持ってない。だから、きょう言い忘れましたけど、ちょっと少ない量の
シクロスポリン A は使っているのですね。それは毎日飲んでもらって。
【大西委員】
ブタに対する抗体を持っている場合には、Gal の組換え(ノックアウト)
を用いるのでしょうか?
【横尾教授】
そうです。
【大西委員】
分かりました。
【高坂主査代理】
もう 1 点よろしいですか。非常にシンプルなクエスチョンなのです
けど、大網部分に入れたときに、血管が中に入ってくると。それはいいのですが、動脈系
と静脈系で、細動脈みたいな感じで入ってきますよね。そのときに、要するに抗ミュラー
フィルトレーションレートというものをするためには血圧の差が非常に重要になってくる
のですが、そこら辺はどうなのですか。
【横尾教授】
実は、これも飛ばさせていただいたのですけど、大網、大網とずっと申
- 22 -
しましたが、大網だと、先生おっしゃるように、圧力がないのですね。動脈血ではあるの
ですけれど、圧力が足りないので、要は、それこそフィルトレーションのパワーがなくて、
結局、いろんなところを探しているのですけど、最後の最後のラットがそうだったのです
が、大動脈と大静脈の間に植えるとかなりの圧力で太い血管が迷入することが分かりまし
て、今はそっちで小動物の場合はやっているのですけど、ただ、ブタの場合はそこまで手
が入らないのすね。奥なので大動脈のそばまで行けないので、しようがなくてそれをやっ
ているのですけど、実際にヒト若しくはサルでやるときは、そこまで到達して、もっと圧
力が高く得られるような場所でやらなくちゃいけないということになる。
【高坂主査代理】
なるほど。
【横尾教授】
ありがとうございます。
【須田主査】
それでは、次はちょっと議論の方向が変わるのですけど、横尾先生が、
スライドで言うと 18 番ですが、胚盤胞補完法の課題というのをまとめていただいているの
で、これに沿って、ここは動物性集合胚の取扱いに関する作業部会ですので、議論をした
いと思います。
例えば、キメラ形成能を持つヒト iPS 細胞の樹立というのは、以前、この作業部会でも
議論したことがあるのですが、やはりプライム型よりはナイーブ型の iPS を用意する必要
があると。今は、幾つかの論文が出てきて、ヒトの iPS、ナイーブ型も作れるようにはなっ
たのですが、この前、中内先生と話したときに、ナイーブ型のまま維持することは必ずし
も容易ではないと。まだこの方法が完全に確立されたわけではないというのが、現状かと
思います。
次の iPS 細胞、ES 細胞の発がん性の問題、これは横尾先生の未分化なセルを使った場合
でも気にされるぐらいで、iPS、ES だともっと発がん性の問題はあるのですが、これは、
こういう多能性、人工の幹細胞の根本的な課題であると思いますので、今回は議論をしな
いと。
その次の、特定の臓器だけに iPS を分化させる。これは、イントロダクションの方でも
言われていましたけれども、臨床応用するときには全ての分化機構が分かる必要ももしか
したらなくて、ある程度、腎臓ができてくればいいと。それはある意味自己形成能かもし
れませんが、できてしまえばいいのですが、しかしながら、全然あなた任せでいいかとい
うと、そういうわけにはいかなくて、それの心配が結局、スライド 14 にあるような、特に
一般の人が気にするキメラ動物で、この写真なんかはすごく印象的ですけど、こういうイ
- 23 -
メージをパブリックのコメントの中では非常にみんな意識しているわけですね。このあた
り、横尾先生はどうお考えなのですか。普通、サイエンティストだと、ここまではいかな
いだろうというような感じもあるのですけど、それをどう説明していったらいいのかとい
うのは、いかがですか。
【横尾教授】
それは私にはなかなか難しい問題ですけど、海外の研究者と話すと、モ
ンスターという言い方をします。そうすると、おまえはキメラ動物でモンスターを作るつ
もりかと。恐らく、そこまではないという印象を現場では持っていても、何となく社会的
には化け物ができちゃうのではないかというイメージがどうしても付きまとってしまうの
で、それは可能性でいったらゼロではないということになってしまうと、すごくそこを誇
張されてしまうのですけど、中内先生たちもなさったように、少なくとも神経系に入らな
いとか生殖系に入らないということは、第一段階はそれをクリアされていると思うので、
その次に本当に臓器特異的な方法ができるということを言うことと、私の意見としては個
体として産むまで行くのはちょっとあれだと思うので、そこの部分も恐らく、胚盤胞補完
法で始まっていたとしても、腎臓の芽ができたら、そこで落して産ませないというような
部分は本当は必要かもしれないかなというふうには考えております。
【須田主査】
先生は最初の方で、いかに腎臓という組織を用意することが重要か。透
析患者の数も増えているし、移植に頼るわけにもいかないと。だから、患者さんとか一般
の人に説明するのに、臓器形成は必要なのですよと、それは納得してもらえると思うので
すね。しかし一方では、こんな動物ができたら、モンスターができたらどうしますかとい
うのを否定するのに、普通は、最小限、マイクロキメラみたいのは完璧に否定することは
難しいですね。そのあたりの説明の仕方というのが、特に先生は臨床の方にいらっしゃる
ので、必要性と、危険性を 100%否定できるかという問題なのですけど。
【横尾教授】
私の考えは、腎臓になれとか、若しくは膵臓になれというスイッチが入
った、胎仔のごくごく初期の段階で落とす。要は産ませない。芽が入ったら患者さんに戻
してしまって、その段階で妊娠は中絶するという形で、間違っても産ませない。妊娠初期
の段階になりますけど、中期になる前で落とすということが、一番ひっかからないのかな
というふうには考えている。要は、最後のスライドに、一番の方法は、回避ではなくて、
合わせ技かなと。つまり、ここで始めることが問題であれば、ここを飛ばして、要するに
腎臓ができないブタを作る。そこで打つと。それで腎臓の芽ができたら、産ませないで、
ここで取り出して、これはキメラ動物ですけど、初期の段階なので、これを落とすことで、
- 24 -
例えば、神経系がヒトであろうと、生殖系がヒトであろうと、生まれてこなければ問題に
なることは少ないかなと思って、これがキメラであっても、芽が出たら、患者さんに戻し
てしまう。方法としては、三つあると思うのですね。異種の胚を作って、このままいくの
ではなくて、打った後に、腎臓の芽ができたら、患者さんに戻す。こういう方法と、あと
は、腎臓ができないもので打って、ここへ行くと。その二つであれば、少なくともキメラ
の個体はできないので、中内先生はどうお考えかはちょっと分からないのですけど、生ま
れてしまうと万々が一ということがあるので、腎臓若しくは膵臓ができてスイッチが入る
というのも本当に初期なので、この時期で落とすということでクリアできるのではないか
なというふうに考えております。
【須田主査】
そういう考え方ですね。
【相賀委員】
その場合、サイズというのは、結局、かなり大きくする前に移植すると
いうことになってしまうのですね。
【横尾教授】
そうですね。血管が入る前ですね。腎臓の芽ができて、2 日目ぐらいから
血管がわーっと入り始める。血管が入ってしまうと、血管を置き換えられなくなってしま
うので、打ってから 2 日若しくは 3 日間ですぐ取り出してしまうので、本当に最初の 2 日
間ぐらい……。
【相賀委員】
結局、ヒトに移植する場合は、小さい芽を……。
【横尾教授】
本当に小さい場所です。
【相賀委員】
アダルトにおいても小さい芽を移植することになるわけですか。
【横尾教授】
そうです。それでも、先ほどクローンブタの実験で出したように、本当
に 1 ミリぐらいのものでも、5 週もたつと 30 グラムになっているので。
【相賀委員】
それは大網のところですね。
【横尾教授】
そうです。
【相賀委員】
実際に患者さんにやるときには腎臓を取る?
【横尾教授】
取らないです。取らないで、もともとある腎臓はそのままで……。
【相賀委員】
そのままで、全く別のところで成長させるということですか。
【横尾教授】
そのとおりです。
【須田主査】
今まで、そういう話はあまりしませんでしたね。何となくイメージとし
ては、完成した腎臓を作って、その組織を使うのかなと思っていたのですけど、先生言わ
れるように、途中で腎芽の状態で移植してしまうという。そうすると、個体は作出しない
- 25 -
ということですね。
【横尾教授】
そういうことですね。
【須田主査】
そういう可能性もあるということ。
【相賀委員】
そのサイズは、全く別のところに置いても、ちゃんとヒトのサイズに合
わせたものができ得る? それはどっちに由来? 要するに移植……。
【横尾教授】
先生のおっしゃること、すごく分かります。そんなに小さいものがヒト
サイズになるのかということがある。いろんな大きさの動物の腎臓の芽を大網とかに移植
するということは、我々の考えではなくて、随分前から腎臓領域でやられていて、ラット
-マウス間とか、ブタとかのを使っていろいろやっているのですけど、結局は、植え込む
臓器の、例えばブタだったらブタの腎臓の芽、ラットだったらラットの腎臓の芽を植えた
動物のサイズまで大きくなる。つまり、例えばラットにブタの後腎を植えると、ラットの
腎臓より大きくなるのです。そういった報告もありますので、既に腎臓の芽の段階でどこ
まで大きくなるのかというのは運命付けられているということが分かっているので、そう
いった意味では、ブタの体で作ったものはブタに近いサイズまで行くということは言える
かと思います。
【須田主査】
またスライド 18 に戻るのですけど、次に、先生は血管系を患者由来にす
るということの重要性を言われましたが、キメラ胚の場合には多分、ホストの方の血管に
なっていくわけですね。そうして作った、今、中内先生がやられているのは膵臓ですけれ
ども、膵臓、腎臓、臓器が果たして移植などに使えるのかという問題があると思うのです
が、そういう質問に対しては、どれぐらいの免疫抗原性があるかが一つと、もう一つは、
仮にあったとしても、免疫抑制の研究が進んでいるから、コントロールできるのではない
かと。そのあたりはいかがでしょうか。
【横尾教授】
免疫抑制剤はかなり副作用がありますし、それを一生涯飲むということ
を考えると、そこを前提に、そっちが進んだからという言い訳はなかなか受け入れられな
い人が多いのかなという気がしております。膵臓の場合は、例えば、そこからβ細胞とか
ランゲルハウス島だけ取って、それをカプセルに入れるとか、血管系がなくてもいくと思
うので、そういった意味ではハードルはかなり低くて臨床に近いのかなと思うのですけど、
腎臓の場合は先ほどおっしゃられたように圧力がある血管が入ってこなくちゃいけなく
て、まさに血管の塊のような臓器なので、そういった意味では、もし中内先生の方法でい
くのであれば、血管ができないもので血管も全部ヒトにするとかいうことが必要になって
- 26 -
きてしまうのではないかなというので、中内先生はどう考えているか分かりませんけど、
なかなかそこは難しいのかなと。また手前みそになってしまいますけど、そうだったら、
血管系が入る前に移植してしまって、血管系も患者さん由来にするということが、少なく
とも腎臓の場合は必要かなというふうには考えています。
【須田主査】
これは大事な議論だと思いますね。確かに膵臓のように、特に糖尿病の
患者さんを想定するときには、βセルというか、シングルセルレベルでもある程度機能す
るだろうと。でも、先生おっしゃるように、腎臓というのは本当に、ろ過装置だから、血
管その他の構築がしっかりしてない限りは働かないわけです。肝臓もそういうところがち
ょっとありますよね。そういう意味では、組織として機能することが必要なのか、細胞レ
ベルでいいのかというのは、議論の分かれ目になるかもしれませんね。
【大西委員】
今の件で一つ。結局、異種移植の世界になると思います。ブタの血管内
皮細胞では、マウスでは発現していませんが、ヒトと同じでクラス II の MHC が発現して
いるため、異種移植の際には血管内皮の問題を解決する必要があります。結局、αGal ノッ
クアウトや、DAF の発現等、異種移植の研究で進んでいる、血管内皮の拒絶反応の制御技
術との組み合わせになると思います。
【須田主査】
そうですね。
【古江-楠田委員】
済みません、ちょっと素人的な質問かもしれないのですけど、腎
芽を悪い腎臓に直接移植しても、分化はしないのですか。
【横尾教授】
実は、健康な腎臓の皮膜下に植えると、結構育って、そこから尿が出る
ということは随分前に分かっているのですが、腎臓が悪くなってくるとだんだん堅く小さ
くなって萎縮してくるのですけど、透析患者さんの腎臓なんてぺらぺらな器質で、そうい
うのに移植しても、全然大きくならないです。健康なときに健康なものを作っても余り意
味がなくて、結局、悪くなり始めた、若しくは悪くなり切っちゃった腎臓に移植しても、
これはうまくいかない。でも、先生がおっしゃるように、健康なやつに入れると、結構そ
こで分化して、尿を作り始めるというのは、ほかのグループですけど、報告はあります。
【須田主査】
それでは、次に、ヒトと家畜は遠くて、キメラはできるのかと。これは
この部会でも時々話題になることで、マウス-ラットはうまくいっても、ヒト-ブタで本
当にそういうキメラ胚が育つのですかと、そういう疑問はみんな持っているのですね。だ
からこそ、そこのところを少し解禁して、やってみなければ分からないのではないですか
という議論もあるのですね。これは、できる、できないということと、そういう研究をし
- 27 -
ていいか、悪いかというのとは、ちょっとまた別の次元だと思われます。
その次の異種内でできた臓器の安全性、これは、さっきの発がん性とか、その他、感染
の問題とか、そういうのがあると思いますが、これは今回置いておいて、最後にちょっと、
倫理的問題でこの際お聞きしようと思ったのは、先生はあえて、ネコとか、イヌとか、今
はペットアニマルが非常に大事にされる時代だと。そういうことから言うと、動物愛護の
方なんかも、ブタは食用にもしているから、ペットでもないし、ブタは道具として使って
いいのかと、そういう議論もあるのですね。動物実験というのは基本的に、数を減らしま
しょう、あるいは、サルの実験を減らしてマウスでできないか、マウスの実験をショウジ
ョウバエでできないかと、そういうふうに考える方向もありますよね。数を減らす、対象
の動物のあれを変えていく。そういうことから言うと、ブタは本当にいいのですかという。
【横尾教授】
痛いといいますか、まさにそのとおりかなと。全ての生命体が同じよう
に扱われなくちゃいけないというのはあると思うし、そういった考えに関して全く否定も
しませんし、これで全部解決できる、要するに、伴侶ネコ、伴侶動物が使えたらいいのか。
それで解決するとはちょっと思えないのですけれど、少しでも理解をしていただくために
努力しているという姿勢と、あとは、肉は食べるけどペットを飼っているという方がほと
んどだと思うので、そこら辺の方々の何割かでも御理解いただければなと。これでこうや
ってうまくいったら初めて、最終目標は、異種の動物を使わずに、スイッチが分かったと
ころで異種のプログラムを借りずに自分たちでプログラムを作るということにつながると
思いますけど、その前に、せっぱ詰まった状況プラス、それを一回完成させてから解き明
かした方がもっと最終目標に近付くのではないかなというふうに考えて、ここをできれば
進めさせていただきたいなと思っています。
【須田主査】
そうですね。確かに、GDNF だけでいくのだったら、最初に患者さんに
それを打ってというのもあり得ますね。しかし、先生おっしゃるように、1 回これは実現可
能にしておかない限りは縮小もできないという、そういう説明も。
【横尾教授】
ええ。
【須田主査】
何しろブタって代替動物に近いので、マウスの問題なんかとは違う問題
があるような気もするのですね。
【大西委員】
実験動物のブタの使われ方が、EU とアメリカでは全然違います。EU は
霊長類とイヌはほとんど使えない状況になっていて、その代わりの動物として、約 9 万頭
のブタを用いています。今はブタの利用は大分プラトーに達しましたが、霊長類とイヌの
- 28 -
利用は下がっています。それに対してアメリカでは、ブタは 6 万頭ぐらいが利用されてい
ますが、イヌもサルもそれを上回る頭数が用いられています。ですから、国により考え方
の違いが反映していて、日本の場合はまだ、ブタの利用頭数は 3,000 頭にも達していない
状況です。日本が、EU 型を目指すのか、アメリカ型を目指すのか、そこにすら至ってない
のかもしれません。
【窪田委員】
それについて少しですけど、どういう生命にも等しく価値があるという
のは、どっちかというと日本的な発想なのですね。
【須田主査】
仏教的な文化です。
【窪田委員】
我々はそれが何となく常識的のように思っているのですけれど、ヨーロ
ッパ人から見たときに、彼らは長い動物虐待の歴史があったと。だからこそ動物愛護とい
う運動があるわけで、彼らから日本のスタンダードを見たときに、みんな等しく大切に思
っているというのを分からなくて、ルールがないからとんでもなく野蛮じゃないかという
ふうに見えるというところがあるのですね。だから、何らかのスタンダードがあれば、も
ちろんそれに対して反対する人もいれば、賛成する人もいるのでしょうけど、立ち位置は
分かるというところがある。
【高坂主査代理】
【窪田委員】
イルカの追い込み漁みたいなものですね。(笑)非常に難しい。
インターネットのブログか何かで、動物実験に反対している人がいるけ
れど、私は、動物実験のおかげで命を長らえている、医薬品の恩恵を被っていると書いた
ら、そんなことは誰も望んでいないと、あんたが死んだ方がよかったと言われたのもあっ
て、その人は相当悩んだみたいですけど、価値が非常に極端に振れているので、だから、
みんなの意見を満たすことはなかなかできない。
あともう一つ、ヨーロッパは、動物愛護というのを一つの経済的な戦略にしていますの
で、それに外れているものは受け入れないという価値観もあるのですね。少しアメリカと
スタンダードが違うというのは、そこら辺が原因だと思います。
【須田主査】
これは一回、それこそ人文系の方にも来ていただいて、議論をする必要
があると思うのですね。全ての生命体が同じように価値があるというような、蚊も殺して
はいけないというような仏教的な世界に入ると、すごく原理主義に走ると思うので、大西
先生が言われたように、例えば EU とアメリカの霊長類に対する考え方とか、それぞれ違
うと思うので、日本はどの立ち位置にあるのかというのは、将来、これをまとめるときに、
我々も用意しておかなきゃいけないのかなと。ペットとブタは違いますよね。ブタは飼育
- 29 -
して増やしているのだから、自分たちが増やしているものに対してはある程度許されると
いう。逆に言えば、イルカなんかは、自分たちが増やしてない、野生の動物に手をかけて
いるというところで、結構、クジラとかイルカに対しては、思いのほか日本人あるいはノ
ルウェー人は野蛮だと思われているのかもしれないし、その辺、ちょっと何か理屈を考え
ておかなきゃいけませんね。
【高坂主査代理】
ただ、EU 型あるいはアメリカ型という、どちらの立ち位置に我々は
立つかということをやっても、恐らく解決はしないのですね。やはり一番大事なのは、や
ろうとしていることがどういう目的でやるかという、ヒトだけ考えちゃいけないのですけ
れども、いかにベネフィットがあるかというところですね。100 万人いて、皆さんが、この
目的であればやむを得ないというものがあれば、それでいいのだろうと思うのですね。例
えばアメリカなんかでは、ウシとかブタをぼんぼん殺しているわけですね、食のために。
それは神から自分たちが与えられたものであるから食べてもいいのだというふうにしてや
っているので、自分たちが生きるためにという大目的があるわけですね。だから、そうい
ったしっかりとした目的というものは、我々はこういう考え方でやっているのですよとい
うことをしっかり出していく。
【須田主査】
そうですね。目的を……。
【高坂主査代理】
だろうと思いますね。なので、こういうことを我々はやっているの
ですね。
【須田主査】
はい。
ほかに、この際、横尾先生に聞いておきたいとか、議論したいことはありますでしょう
か。
横尾先生の方から、例えば生命倫理に関して何か。急に変な議論が始まったなと思われ
ていますか。
【横尾教授】
いや、あの……。中内先生が『Cell』にキメラで出されて、そのときにや
はり、国際的な学会に出ると、ちょっと覚えてないのですけど、新聞に出た 2 週間後に『N
ature Medicine』か『Science』にかなり厳しめな論調が出たりして、本当にやるのってい
う感じですごく、産んでもいいというような図まで出ていたので、それはかなり、国際的
な批判というか、議論を吹っ掛けられるのではないかなというふうに思っていたので、こ
ういうことでしっかり日本としての考えを出していくことはなさるだろうなと思ってい
て、実際にこの部会ができたので、非常によかったといいますか、日本の方針を定めてい
- 30 -
ただければ海外の人に説明しやすいと申しますか、日本としての考えをまとめていただけ
ればというふうに思っております。
【須田主査】
どうもありがとうございます。
特に中内先生のお仕事って、JST の CREST か ERATO のサポートを受けて、国のお金
でやっているというところも問題で、そうすると、日本というのはそういうことを許可し
ているのかという解釈になるのですね。だから、僕も聞いたことがあります、『Cell』のエ
ディトリアルにいる人から。かなり反発する投書が来ているのだよと。まだそれは顕在化
してないのですけれども、そういうことに日本は「go」のサインを出したのかと。一方、
中国あたりで彼が発表しているのを聞くと、これはまさに革命的ですばらしい仕事だと、
無条件で受け入れる人もいるし、随分違うなというふうに思いますね。だからこそ、この
会議で一応、一定の見解は出さなきゃいけないのかなというふうに思っています。
ほかにございますでしょうか。
それでは、きょうは主にレクチャーを聞くということなのですが、もう一つ、追加資料
としてありました、「ご参考」と書いてある、これについて、事務局の方でちょっと説明
をしていただいて。ちょうど横尾先生もきょうはこの論文も紹介されましたので、これを
どう取り扱うかということについて、専門家がいらっしゃるから、議論をしたいなと思い
ます。
事務局の方で何か、追加はありますか。
【御厩安全対策官】
それでは、資料 2 を説明いたします。これまで作ってきた表でご
ざいますが、前回までに頂いた御意見なども踏まえて、修正しております。修正箇所は、
網掛けで示しております。
まず、冒頭、このペーパーの位置付けについてということで、きょうのお話もそういう
部分あるわけですけれども、「現時点では不可能なことが可能になるなど、一定の仮定の
下で記載した箇所も少なくないが」という断り書きを入れております。
また、1 ポツの「動物性集合胚の作成目的として、何が考えられるか?」という欄でござ
いますけれども、まず、多能性幹細胞の分化能の検証のところは、右の二つの目的を達成
するための前提になるということについて、阿久津先生からの御意見を踏まえて記載しま
した。その隣の疾患モデル動物の作成という目的の名称ですけれども、「疾患」という文
言を取ったらどうかということで、消してあります。仮に疾患にかかってないとしても、
ヒトの細胞から成る臓器等ができているのであれば、非臨床試験などでも有益ではないか
- 31 -
という御意見を踏まえての修正案です。その隣のヒト臓器の作成のところは、これは臨床
で使うということですので、この二つの目的は、非臨床と臨床という違いで理解してはど
うかということでございます。
その下の注書きで、胚の定義を付けております。クローン法の中では、胚というのは「胎
盤の形成を開始する前のもの」ということで定義しております。言い換えると、着床前の
ものを単に「胚」と、クローン法の中では呼び、それ以降のものは「胎児」と定義してお
ります。胎児にヒトの細胞を入れることについては、クローン法では規制していないとい
うことでございます。
続きまして、3 ページを御覧ください。3 ポツの「動物性集合胚により、どのような科学
的知見等が得られると期待されるか?」という表でありますけれども、一番下の括弧書き
の中に、こういった科学的知見が社会や生活にどのように還元されるのかということも含
めて一般向けの資料を別途作成する、と記載しました。前回、古江先生からいただきまし
た御指摘を踏まえたものです。別途、分かりやすい資料を作らないといけないということ
であります。あと、※1 のところは、個体産生後もそうなのですけれども、臓器の形成や疾
患の発症時期というのはそれぞれ異なりますので、それに対応した研究期間を設けること
が必要になるということで、注書きに加えております。
4 ページを御覧ください。in vitro で多能性幹細胞を培養する方法と集合胚の比較のとこ
ろで、集合胚の方は、比較的簡単な方法であるということと、移植してから短期間で勝負
がつく、分化能の検証ができるということ、これは、前回、小倉委員から御指摘があった
ところです。
次の 5 ページを御覧いただきますと、疾患モデル動物のところですが、動物性集合胚と
の比較で、ヒトの疾患に近い病態をその発生過程も含めて再現できるということで、これ
は阿久津先生から御意見があったところです。また、4 ポツの免疫不全動物を用いる方法と
の比較のところで、免疫不全ブタの開発も進んでいるという、大西先生から頂いた情報を
加えております。その下の 5 ポツの疾患 iPS 細胞との違いでありますけれども、疾患特異
的 iPS を導入して集合胚を作成することも想定されると、それも意義があるということで、
これは高坂先生からいただきました御意見をもとに補足しております。
6 ページを御覧いただきますと、これは先ほど須田先生から御紹介があった事例を丸印の
ところに加えております。マウスの子宮から取り出した着床後の胚――これは、クローン
法では、先ほど説明しましたけれども、胎児扱いとなります。そこに ES・iPS を入れると
- 32 -
いうことで、机上資料としてプレスリリースをお配りしております。この研究について、
お呼びしてお話を聞くのか、どうするのか、後ほど御意見を頂ければと思っております。
8 ページに飛んでいただきまして、臓器別の分析をしております。まず、肝臓につきまし
て、肝臓全体ではなくて、血管系の問題もあるということで、肝細胞であれば、それを大
量に取得する、その手段として集合胚に意義があるのではないかという、大西先生からの
御意見を踏まえて、追記しております。
次の修正箇所は、10 ページになります。右下の欄、骨ですとか、筋肉ですとか、そのあ
たりですけれども、「また」以降のところで、細胞以外の素材を用いた人工器官等につい
て追記しました。人工関節などの例を引いて、前回、須田先生からいただきましたコメン
トを踏まえたものです。
最後の※ですが、その他の方法で挙げているものは再生医療関連のものに偏っている傾
向があるという御指摘が前回ありましたので、注書きをこのように付けております。当然
ながら、再生医療以外の手法で医薬品・医療機器、治療法等の開発が進められております
ので、それが進んでくれば、わざわざキメラを使ってということも要らないのではないか
という趣旨でございます。
次に、11 ページですが、実験動物、ホストとして用いる動物の例ですとか、あるいは、
脳神経細胞、生殖細胞を対象とする必要性などについて、表で整理しております。前回の
御議論の中で小倉先生から、生殖細胞については、始原生殖細胞までは体外で作成可能で
あるということを踏まえれば、キメラを通じて作成する必要はないのではないかというコ
メントを頂きつつ、一方で、高坂先生からは、脳神経細胞については、周囲の多くの細胞
等との相互関係の中で分化、移動するということで、生体内で機能するモデルが必要だと
いうコメントをいただきましたので、それを記載しております。
最後の※のところは、これも高坂委員から御紹介があった点ですけれども、筋ジス犬な
どもあるということで、ホストとして用いられる動物はほかにもあるのだという注書きを
付けております。
最後に、12 ページを御覧いただきますと、ここではターゲット以外のものへの分化制御
について整理しておりますが、脳神経細胞や生殖細胞など目的外に分化した場合には、そ
れが消滅するような仕掛け(自殺遺伝子の導入など)も可能と考えられるということで、
前回、須田先生から頂いたコメントを加えております。
最後の※のところは、マイクロキメラといいますか、どの程度までのキメラならば社会
- 33 -
的に許容されるのかということについては、倫理的、法的、社会的な視点も踏まえて別途
検討するということを書いております。
7 ポツのところは、変えておりませんけれども、このことに関連して、動物愛護といいま
すか、動物福祉といいますか、こういう面も倫理的な検討の中ではしていく必要があると
考えております。
御説明は、以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
今までの議論を非常に的確に入れていっていただいたと思います。これからも、きょう
の横尾先生のも含めて、例えば腎臓においては血管系の構築というのが極めて重要だとか、
そういうコメントが入っていった方がいいと思います。これって、書き尽くせるものでは
ないと思いますけれども、現時点でサイエンティフィックに共通認識を持てることはでき
るだけ書き込んで、2015 年あるいは 2016 年の資料という形で出すのが、我々の責任かな
というふうに思います。
【高坂主査代理】
今お話しになったのは非常によくまとめていただいていると思うの
ですが、修正点で、私、前に聞いたときはよろしいのではないかと思ったのですが、疾患
モデル動物の作成の「疾患」というのを取ることになりますよね。そうすると、モデル動
物の作成となって、そのモデル動物って何のモデルなのでしょうかという、曖昧になっち
ゃうのですね。そこら辺は、今、例えば創薬に使えるようなというのもお話しになったと
思うのですが、モデルというのを明確にしておく必要があるのではないかなと思ったので
すが。
【御厩安全対策官】
1 ページをもう一回御覧いただきますと、疾患モデル動物の作成、
「疾患」は見え消しで消してありますけれども、目的は、疾患メカニズムの解明ですとか
創薬、新たな治療法の開発などのためと整理しております。端的に目的を表現したときに
「疾患」が残った方がよいのであれば、「疾患等」とするなど、表現を工夫してみます。
【高坂主査代理】
正常細胞も含むということでしょうね、要するに。個人的な意見で
すけど、そういうふうに感じました。
【須田主査】
これからポリッシュの段階に入りますので、皆さん、これをもう一度読
み直していただいて、付け加えるべき、あるいは、ちょっと言い過ぎになっている、独断
になっている部分がありましたら、是非、ここでもいいですし、事務局の方にもお伝え願
いたいと思います。改善していきたいと思います。
- 34 -
それで、さっきもちょっと紹介しましたけれども、参考資料として上げられているエピ
ステムセルの話なのですが、これはどうですか。僕はまだ原著を当たってないのですけれ
ども、そう特別な話なのかなというふうには思っているのですが、いかがでしょうか。
阿久津先生、大西先生、いかがですか。これって、すごく画期的なのですか。
【阿久津委員】
そんなに画期的でもないというか、体外培養系でオーガンカルチャー
のちょっとした変法かなとは思っています。要は、論文内の多能性幹細胞は、多能性が高
いナイーブ型でもなくて、特定の発生系統の領域に分化できるような細胞とも受け取れる
のですけれども、そうすると、単なる多能性より一段下がった幹細胞なのかなという気は
します。
【須田主査】
だから、エピステムと。しかしこれも、近畿大学の広報では、副題みた
いので「ブタなどの動物でのヒトの臓器作成技術に発展する可能性も」って、こういう宣
伝をされてしまうのですね。ブタでヒト臓器を作ることが当然という、こういう感覚は、
今はもうちょっと保留があってもいいのではないかなというのが、私自身の気持ちなので
すね。当然こういう方向に日本人はみんな賛成して進んでいますというのが何か気になり
ますけど、サイエンス自体は領域特定的なエピステムセルを作ったということです。
相賀先生、何かこれ……。
【相賀委員】
読んでないので、ちょっと。読んでおけばよかったと思っていますけど。
【須田主査】
僕も読めてないのです。
それじゃあ、また、取り上げるかどうかは……。
【阿久津委員】
今、須田主査がおっしゃったことはとても大事で、要は社会と研究界
の理解が少し乖離しているというか、こちらからの説明も不足しているというのは、自己
反省もあるのですけれども、例えば、昨年度のセンター試験にもこれが出ていましたので、
そこは本当に、何とかしなければいけないのかなという認識はちょっと強いです。
【須田主査】
阿久津先生が言われるように、僕もパブコメとのギャップをできるだけ
小さくするのが我々の役割かなと思っているので、何も考えてないようなニュースリリー
スのされ方とか入試の取扱いをされると、非常にぐあいが悪いなと思うのですね。だから、
それこそさっきちょっとペットアニマルとブタのことも言ったのですけど、お互い議論が
近付くような、さっきの事務局の説明の中でもあったように、パブリックにはもう少し分
かりやすい言葉で理解できるようにしゃべらないと、こんな表が行ったって、一般の人は
何も分からないと思うのですね。だから、そういう意味ではここの議論も、常に一般の方
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はどう受け止められるかということを気にしながら、議論を続けたいなと思います。
何かほかに、コメントありますでしょうか。もしなければ、今後の予定などについて、
お願いします。
【御厩安全対策官】
次回は、既に御案内のとおりですが、6 月 10 日の 1 時半からとい
うことで、3D バイオプリンターで臓器作成を目指しておられる、富山大学の中村先生から
のヒアリングを予定しております。
また、7 月、8 月の日程調整を追ってさせていただきますので、よろしくお願いいたしま
す。
【須田主査】
ほかに特に何もありませんでしたら、きょうは、横尾先生にお忙しいと
ころを来ていただきまして、非常に、対比できて、いい議論ができたと思います。ありが
とうございました。
本日は、これで閉会いたします。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
- 36 -