1 「施設の事故対応について」 番号 1 利用者 サービスの種類 妻 夫 介護老人福祉施設 夫は要介護5。施設に面会に行くと車イスで食事中だった夫が足の痛みを 訴えた。手も熱かったので職員に聞くと、2~3日前からとの事。様子がお かしいので部屋へ戻って看護師に病院受診を依頼したが、医師の許可がいる ことと様子を見るので帰るように言われた。救急車をと思ったが、後ろ髪を 引かれる思いで帰宅したところ、その日の夜急変し病院に入院した。受診の 結果、病気以外にレントゲンにて大腿骨骨折がわかった。 ・ 初期対応が悪く、家に連絡がなかった。 ・ いつ、どの様に骨折をしたのか、何回聞いても回答がない。 ・ 夫の状況変化について、職員間の引き継ぎがなく記録もない。危機感が なくプロの仕事とは思えない。 ・ 一人の人間として利用者に接してほしい。 ※今後の利用者の為にも施設には改善して良くなってもらいたい。 苦 情 申 立 内 容 1 調 査 結 果 相談者 骨折が判明するまでの利用者の状況と施設の事故対応について (1)〇月〇日の滑落事故について ・ベッドから滑落した利用者を介護職員が発見した。看護職員は、外傷がなかっ たため家族に報告しなかった。職員は、原因や対応策を検討しヒヤリハット記 録に記載した。 ・電動ベッドは、低床にして床に安全マットを使用していたが、滑落後は電動で はないベッドの足を切り高さを更に低くした。 ・ベッド柵に足をかけたり股関節周辺まで足を入れて身体をねじったり、自力で は抜けず職員が足を柵から抜くことが度々あったが、危険防止対策の検討はし なかった。 (2)利用者の足の痛みについて ※ 右大腿骨骨折の報告を受けた生活相談員は、足の症状に関する記録がなかっ たため職員に情報収集を行った。その結果、以下の情報があった。 ・オムツ交換時や清拭中、離床や移乗の際に、痛みの訴えがあったが、触ると「痛 くない。」と言い、どこが痛いかわからなかった。 ・看護師が痛い部位を尋ねると、利用者は「両足が痛い。」と言うが、異常は見 られず経過観察とし、看護師は看護記録に記載し申し送りをした。 ・看護師は、発熱があることを主治医に報告し、抗生剤の内服と血液検査の指示 が出た。翌日も熱があり、主治医より病院受診の指示があり、診察の結果、検 査入院となった。看護師は、足の痛みが気になっていたのでレントゲンを撮っ た方が良いと思い、病院の看護師に申し送った。 2 家族への対応について ・家族から「骨折」の連絡を受け、すぐに生活相談員は職員を集め情報収集を 行った。生活相談員は、家族に最初の痛みに気付いた日時と骨折の原因にオム ツ交換や移乗時、滑落などいろいろな可能性があることを告げ、全職員に確認 をしてから再度説明したい旨を伝えた。後日、家族に職員から聞き取りした内 容とヒヤリハット記録、事故報告書を渡して説明をした。 1 「施設の事故対応について」 3 調 査 結 果 指 導 及 び 助 言 記録等について ・介護日誌は、毎日リーダーが申し送りの必要な利用者のみを記録し申し送る。 介護記録は、利用者の担当職員が記録し、勤務以外の日は介護日誌から利用者 の記録を抜粋し介護記録に転記する。看護師の記録も、利用者個々と申し送り 用がある。 ・介護職員は、利用者から痛みの訴えを聞いていたが、記録に記載していないた め痛みの状況は全く確認できない。 看護師も同様で、介護職員から痛みがあることは聞いていたが、記録はせず医 師への報告もしていない。 ・滑落事故については、ヒヤリハット記録はあるが介護日誌や介護記録には記載 がない。 ・記録について問題提起はあったが、見直しをしていなかった。事故とヒヤリハ ットの区別が曖昧だった。 4 苦情対応について ・原因を解明できなかったことに対して、家族は施設が何か隠しているのではな いかと疑い、説明に納得してもらえなかった。 ・損害賠償の話に発展し、保険会社と顧問弁護士に対応を依頼したため、施設は 苦情対応を行っていなかった。 ・施設に対する改善要望だったため、苦情とは受けとめていなかった。苦情対応 の記録がないため、調査において対応したことの回答が曖昧だった。 厚生労働省令第137号(平成20年9月1日付け)の指定介護老人福祉施設の 人員、設備及び運営に関する基準(以下、「基準」という)に則り改善を図り、 適切な運営に努めること。 1 状態悪化時や事故の対応について 利用者の心身の状況は日々変化し急な状態悪化も予測されるので、医師と連 携し、その都度家族に説明しておくこと。 日頃から利用者の健康管理に努めるとともに、事故予防のための検討や工夫 を行い、マニュアルの内容や看護・介護技術、緊急時対応の研修等を充実させ、 介護サービスの質の向上を図ること。 2 家族への説明について 施設は骨折の原因の可能性の1つとして、ベッドからの滑落を挙げている が、このことと足の痛みを訴えていたことは骨折が判明して初めて家族に伝え ている。 さらに記録がなく原因も分からないという説明だったため、施設は何か隠して いるのではないかという不信感につながったと思われる。特に職員の記憶によ る聞き取りの結果を家族に伝えている。 今後家族等に説明する際は、事故の発生状況や対応、推定される原因やその 後の防止策など、記録に基づいて丁寧に説明を行うこと。 3 記録について 記録は、施設が利用者に提供したサービスの具体的な内容や状態悪化時の対 応、事故対応について実証し、利用者の状態を適切に把握するために重要なも ので、利用者及び家族等から説明を求められた時の説明資料となる。 施設では、記録等の不備について検討を行ったことの記載があったが、見直 しがされていなかった。職員は、記録の目的等を十分理解し、安定したサービ スが継続して提供できるよう、必要な記録類の整備に早急に努めること。 1 「施設の事故対応について」 4 指 導 及 び 助 言 1 2 改 善 状 況 報 告 3 4 苦情対応について 施設では、骨折が判明した後すぐに訪問等を行い対応していたが、家族は明 確な回答が得られず、一人の人間として大切に接してもらっていたのだろうか という思いが強くなり、苦情申し立てをするに至ったと思われる。 今回の苦情申し立てをきっかけとして、今後は組織として苦情内容の検討を 行い、迅速かつ適切に対応するとともにその経過を正確に記録に残し、サービ スの質の向上につなげること。 状態悪化時や事故の対応について 今回の様に原因不明の痛みに対しては、看・介護職員の判断だけでなく主治 医にも相談し、常に骨折や疾病が隠れていないか疑問をもち対応・受診を行う。 受診前(状態変化に気付いた時点)と受診後には必ず施設(主に看護職員)か ら家族に報告する。また、朝・夕のミーティングに昼を追加し状態把握に努め る。 職員の研修に関しては、年3回以上の研修を実施する他、外部の研修にも積 極的に参加し、研修終了後は反復研修を実施し、介護サービスの質の向上に 努める。 家族への説明について 利用者の状態に変化が生じた場合は、受診の有無に関わらず現段階での状 態・対応方法を家族に報告する。また、事故の場合は検証を行い記録し、それ を元に本人・家族へ説明する。 記録について 利用者に携わった職員は、できるだけその都度、時系列で記録する。その場 面で記録できなかった場合は、メモに要点を書き留めておき午後からの記録の 時間に書くようにする他、パソコンを導入して看介護・生活相談員が各自で記 録していたケース記録を一つにまとめ、閲覧しやすいように改善する。 記録するにあたっては、今回のような漏れがないよう注意すると共に、業務 に入る前に介護記録を読み、特記事項等を確認後押印してから業務に入る。 苦情対応について 上記 1・2・3 に記した事を全職員が念頭におき介護する他、苦情対応 にあたる職員は、今後このような事例を出さないよう改善した事を元に的確 な対応に努める。また、新しく苦情等のマニュアルを作成し、全職員が共通 の認識を持てるよう努力する。
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