概要 - 政策研究大学院大学

管理不全空き家等の外部効果及び対策効果に関する研究
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム
MJU13601 粟津 貴史
はじめに
近年、維持管理が適正に行われないまま放置され、管理
不全な状態になっている管理不全空き家等が増加傾向にあ
り、これらが周辺地域に防災性・防犯性の低下や生活環境
の悪化等の様々な影響を与え、問題となっている。このよ
うな管理不全空き家等に対処すべく、地方自治体では空き
家等の適正管理の義務付け及び履行確保措置を定めた条例
(以下「空き家条例」)の制定、管理不全空き家等の除却に
係る補助や税制特例措置の適用除外等の対策を行っている。
しかしながら、管理不全空き家等の外部効果や、地方自治
体が講じている各種対策の効果を実証した研究は見当たら
ない。このため、本稿では、管理不全空き家等の外部効果
についてミクロ経済学による理論分析及びヘドニック・ア
プローチiによる実証分析を行うとともに、地方自治体が講
じている各種対策の効果について実証分析を行う。
2.
管理不全空き家等の定義
本稿では「管理不全な状態」にある「空き家等」を「管
理不全空き家等」と定義する。具体的に「管理不全な状態」
とは、(1) 樹木が越境したり雑草が繁茂している状態(以
下「樹木雑草繁茂状態」)、(2) 害虫・害獣が発生したり小
動物の糞尿が散乱している状態(以下「害虫・小動物等発
生状態」)、(3) 老朽化等により建物が毀損・崩壊したり建
材等が飛散する危険性がある状態(以下「老朽化建物毀損・
飛散危険状態」)、(4) ゴミ・タバコの吸い殻・郵便物等が
放置されている状態(以下「ゴミ・郵便物等放置状態」)の
4類型とし、
「空き家等」とは賃貸用、売却用及び二次的利
用用以外の人が住んでいない又は利用されていない住宅・
非住宅建築物及びその敷地とする。
3.
管理不全空き家等の外部効果の定量的分析
1.
図1
管理不全空き家等による外部不経済の発生
下「lm 以内ダミー」)、どのような管理不全な状態の影響が
大きいかを見るための②「管理不全な状態ダミー」(前述
2(1)~(4)の 4 つ)、管理不全空き家等の悪化の状況やその状
態の深刻度を見るための代理変数である③「各条例措置が
発動されるほどの状態ダミー」
(指導、勧告及び命令の 3 つ、
以下「措置発動状態ダミー」)の3つを主要な説明変数の要
素とした以下の推計モデル 1~6 を設定し、①の l を 20m
から 300m まで 10m 刻みで変化させながら、それぞれ OLS
で分析を行った。推計モデルの頑健性を高めるべく、これ
らの推計結果から係数が有意にマイナスに出た 3 つの交差
項を抽出し、これらを組み合わせて新たに推計モデル 7 を
設定した。推計モデル 7 の結果より距離別、管理不全な状
態・措置発動状態別に地価への影響について分析を行った。
さらにその結果を踏まえ、管理不全空き家等の「隣地」(l
は係数が有意にマイナスとなる最小の値)の地価関数を推
計モデル 8 として設定し、分析を行った。
<各推計モデルにおける主要な説明変数>
・推計モデル 1:①のみ
・推計モデル 2:①、①×②(1 つずつ)
・推計モデル 3:①、①×②(4 つ全て)
・推計モデル 4:①、推計モデル 2 及び 3 で有意に係数が
マイナスとなった①×②(害虫・小動物発生状態ダミー)
及び①×②(老朽化建物毀損・飛散危険状態ダミー)
・推計モデル 5:①、①×③(1 つずつ)
・推計モデル 6:①、①×③(3 つ全て)
・推計モデル 7:①、推計モデル 4 及び 6 で有意に係数が
マイナスとなった①×②(害虫・小動物等発生状態ダミー)、
①×②(老朽化建物毀損・飛散危険状態ダミー)、①×③
(命令発動状態ダミー)
・推計モデル 8:①(20m 以内ダミー)×②(害虫・小動
物発生等状態ダミー)、①(30m 以内ダミー)×②(老朽
化建物毀損・飛散危険状態ダミー)、①(90m 以内ダミー)
×③(命令発動状態ダミー)
(2) 使用するデータ
被説明変数は 2012 年の固定資産税に係る標準宅地の価
3.1. 理論分析及び分析手法
管理不全空き家等が存在することにより、当該地域にお
ける宅地需要が減ると、均衡地価は下がり、周辺地域の宅
地の資産価値が減少して、外部不経済を発生させることと
なる(図 1)。これについて具体的な地域を対象として、ヘ
ドニック・アプローチにより管理不全空き家等の周辺地域
の地価に与える影響及びその要因を分析し、分析手法(OLS
及び固定効果モデル)の妥当性を検証する。
3.2. 実証分析の対象
対象地域は空き家条例を最初に策定した埼玉県所沢市と
し、対象とする管理不全空き家等は「管理不全な状態」に
なっていると所沢市に 2012 年度末までに相談のあった管
理不全空き家等のうち、2013 年 9 月末時点においても管理
不全な状態にある市街化区域内にあるもの(44 件) iiとす
る。
3.3. 実証分析 1(OLS による推計)
(1) 推計モデル
管理不全空き家等がもたらす影響の範囲を見るための①
「管理不全空き家等からの離隔距離 lm 以内ダミー」iii(以
1
格(円/㎡)の対数値とした。主要な説明変数は推計モデ
ルごとに 3.3(1)<>書きのとおりとし、コントロール変数
は標準宅地に係る前面道路幅員(m)、建ぺい率(%)、最
寄り駅から東京駅までの鉄道所要時間(分)、最寄り駅まで
の距離(m)ivの他、地域の住宅需要等をコントロールする
ための当該年度の町丁別人口の変化率とした。
(3) 推計結果
頑健性の高い推計モデル 7 の結果から①×②(害虫・小
動物発生等状態ダミー)の係数は l=20m~30m,60m~
90m で、①×②(老朽化建物毀損・飛散危険状態ダミー)
の係数は l=30m~220m で、①×③(命令発動状態ダミー)
の係数は l=90m でそれぞれ有意にマイナスとなった。
また推計モデル 8 の結果から、隣地に「害虫・小動物等
発生状態」、「老朽化建物毀損・飛散危険状態」又は「命令
発動状態」の管理不全空き家等があれば、このような状態
の管理不全空き家等が周辺にない宅地の平均的な地価より
も、それぞれ約 1 割程度低くなった(表 1)。
表 1 推計モデル 8 の推計結果
被説明変数
置発動状態ダミー」に、管理不全な状態の発生前後の影響
を見るための④「管理不全空き家等に係る相談が寄せられ
た年度の前後ダミー」(以下「相談前後ダミー」)を加えた
4つを主要な説明変数の要素とした推計モデル 9 を設定し、
①の l を 20m から 300m まで 10m 刻みで変化させながら
固定効果モデルで分析を行った。推計モデルの頑健性を高
めるべく、この推計結果から係数が有意にマイナスに出た
2 つの交差項を抽出し、これらを主要な説明変数とする推
計モデル 10 を設定した。これより距離別、管理不全な状
態・措置発動状態別に地価への影響について分析を行った。
<各推計モデルにおける主要な説明変数>
・推計モデル 9:④、④×①×②(4つ全て)、④×①×③(3つ全て)
・推計モデル 10:④、④×①×②(老朽化建物毀損・飛散
危険ダミー)、④×①×③(命令発動状態ダミー)
(2) 使用するデータ
被説明変数については、2009~2012 年度の固定資産税路
線価(円/㎡)の対数値とした。主要な説明変数は推計モ
デルごとに 3.4(1)<>書きのとおりとし、コントロール変
数は前年度に対する当該年度の町丁別人口の変化率及び年
度ダミーとした。
(3) 推計結果
頑健性の高い推計モデル 10 の推計結果から、④×①×②
(老朽化建物毀損・飛散危険状態ダミー)の係数は l=100m
~300m(係数は約-0.6%~-0.3%)で、④×①×③(命令発
動状態ダミー)は l=90m~300m
(係数は約-1.1%~-0.9%)
で有意にマイナスとなった。また、l=100m とした場合の
推計モデル 10 の推計結果を表 2 に示す。
の推計結果(l=100m の場合
の場合)
表 2 推計モデル 10 の推計結果(
)
ln(標準宅地の価格)
説明変数
係数
標準誤差
(20m 以内ダミー)×(害虫・小動物発生等状態ダミー)
-0.113138
***
(30m 以内ダミー)×(老朽化建物毀損・飛散危険状態ダミー)
-0.102296
**
0.051055
( 90m 以 内 ダ ミ ー ) ×( 命 令 発 動 状 態 ダ ミ ー )
-0.124792
***
0.012059
前面道路の幅員(m)
0.0129990
***
0.001222
建ぺい率(%)
0.0074552
***
0.000926
最寄り駅から東京駅までの鉄道所要時間(分)
-0.021611
***
0.001201
-0.00022
***
0.000014
町丁別人口変化率
0.0024002
**
0.00106
定数項
12.811940
***
0.099366
最寄り駅までの距離(m)
観測数
0.010355
502
自由度調整済決定係数
0.7240
※
***,**はそれぞれ 1%,5%有意水準に対応する。
被説明変数
(4) 考察
推計モデル 7 の結果より、
「害虫・小動物等発生状態」の
管理不全空き家等からの離隔距離 l=20m~30m,60m~
90m 以内、また「老朽化建物毀損・飛散危険状態」の管理
不全空き家等からの離隔距離 l=30m~220m 以内であれば、
これら以外の宅地の平均的な地価より低くなり、外部不経
済が発生していることが明らかになった。特に「老朽化建
物毀損・飛散危険状態」の管理不全空き家等は、隣地への
危険はもちろん、風によって部材が飛散したり、通勤・通
学路上に倒壊しそうな建物があったりする場合には周辺地
域や通行人等にも危険が及ぶことが想定されることから、
その影響は「害虫・小動物等発生状態」に比べてより広い
範囲に外部不経済を発生させているものと解釈できる。
また、
「命令発動状態」である管理不全空き家等からの離
隔距離 l=90m 以内であれば、管理不全な状態の深刻度の
面からも地価が低くなり外部不経済が発生していることが
明らかになった。これは、命令が発動されるまでにある程
度の期間を必要とすることから、この間に管理不全な状態
の深刻度が増し、命令が発動されるほどの状態ではない管
理不全空き家等と比べて、より強い外部不経済をもたらし
ているものと解釈できる。
3.4. 実証分析 2(固定効果モデルによる推計)
(1) 推計モデル
①「lm 以内ダミー」、②「管理不全な状態ダミー」、③「措
ln(固定資産税路線価)
説明変数
係数
標準誤差
相談前後ダミー(ds)
-0.0007166
(ds)×(100m 以内)×(老朽化建物毀損・飛散危険状態ダミー)
-0.0033095
*
0.001847
(ds)×(100m 以内)×(命令発動状態ダミー)
-0.0104231
**
0.004044
0.0001875
***
0.000066
2010 年度
-0.0315617
***
0.000508
2011 年度
-0.0517789
***
0.000517
2012 年度
-0.0581227
***
0.000547
定数項
11.699850
***
0.000363
観測数
2184
町丁別人口変化率
自由度調整済決定係数
0.001056
0.9990
※
***,**,*はそれぞれ 1%,5%,10%有意水準に対応する。
(4) 考察
推計モデル 10 の結果より、「老朽化建物毀損・飛散危険
状態」の管理不全空き家等からの離隔距離 l=100m~300m
以内、また「命令発動状態」の管理不全空き家等からの離
隔距離 l=90m~300m 以内であれば、これら以外の宅地の
平均的な地価より低くなり、外部不経済が発生しているこ
とが明らかになった。これは OLS による実証分析1の結果
と概ね整合している。しかし、推計方法によって比較対象
は必ずしも一致しないが、
「老朽化建物毀損・飛散危険状態」
又は「命令発動状態」であれば、OLS ではそれぞれ地価が
約 1 割低下、固定効果モデルではそれぞれ約 1%低下とな
り、結果には差がある。これは固定効果モデルでは、対象
期間中に変化しない要素は固定効果として除去されるので、
過少定式化バイアスの影響は OLS よりも小さく、より正確
な結果が導かれているものと考えられる。
2
4.
老朽危険空き家等の除却対策の効果の定量的分析
4.1. 実証分析の対象及び仮説
空き家条例を 2010 年度~2012 年度に公布した 115 市区
が講じている対策を分析の対象とするv。これには大きく空
き家条例(適正管理義務、強制措置、支援措置)、補助制度
vi、税制措置viiがあるviii。
これらについて、以下のような仮説を設定した。
(1) 空き家条例
空き家条例を定めても、適正管理義務の履行確保に係る
強制措置の発動実績がなければ、行政の信頼性を下げ、放
置しておくインセンティブが所有者に働くのではないか。
(2) 支援的措置
緊急安全措置、寄附、補助制度等は、その支援対象にな
るまで放置しておくインセンティブを所有者に与えている
のではないか。
(3) 税制措置
外部不経済を発生させる老朽危険空き家等を適用対象と
する「住宅用地に対する固定資産税・都市計画税の課税標
準の特例」ix(以下「課税標準特例」)は、所有者が自ら除
却することを阻害しているのではないか。
4.2. 実証分析
(1) 推計モデル
推計モデル 1 では空き家条例が公布される前後の影響を
見るための①「空き家条例公布年度の前後ダミー」と②「各
種対策の有無ダミーx」の交差項を主要な説明変数としてア
ナウンス効果を、推計モデル 2 ではさらに各種対策が実際
に発動されたことによる影響を見るための③「前年度の各
種措置の発動実績xi」を主要な説明変数に加えて措置発動効
果を固定効果モデルにより推計する。
(2) 使用するデータ
被説明変数については、統計データとして老朽危険空き
家等の実態を示すものがないため、代理指標として「老朽
危険を原因として除却された建築物の床面積の合計(㎡)」
(建築物除却統計)xiiの対数値とした。主要な説明変数に
ついては推計モデルごとに 4.2(1)のとおりとし、コントロ
ール変数は地方自治体ごとの 65 歳以上の高齢者の人口の
対数値及び財政力指数の対数値とした。
(3) 推計結果
推計モデル 2 の結果より、①×②(罰則グループ)及び
①×②(緊急安全措置)の係数はともに有意にマイナスと
なり、それぞれ除却面積が 210%、33%の減少となった。ま
た、①×②(寄付)及び③(命令発動実績)の係数はとも
に有意にプラスとなり、それぞれ除却面積が 99%、94%の
増加となった。なお、推計モデル 1 の推計結果は推計モデ
ル 2 の推計結果と係数の符合や値がほぼ同じであったため、
ここでは推計モデル 2 の結果を表 3 に示す。
(4) 考察
罰則については、刑法が適用されない 5 万円以下の過料
である上、発動実績がないことから、より費用の高い除却xiii
を行わずに放置しておくインセンティブが働くと考えられ
る。ただし「罰則グループ」は 1 自治体しかなく、当該自
治体固有の特性をコントロールできずに係数が過大に出て
いる可能性がある。なお、重い刑罰に強化してもこのよう
表3
推計モデル 2 の推計結果
ln(老朽危険を原因として除却された
被説明変数
建築物の床面積(㎡)の合計)
推計モデル 2
説明変数
(措置発動効果も加味)
係数
空き家条例公布年度の前後ダミー(dkn)
標準誤差
0.8373402
0.7270630
-0.5834796
1.0019930
(dkn)×(公表グループダミー)
-0.8221104
0.7220832
(dkn)×(行政代執行グループダミー)
-0.7015550
(dkn)×(罰則グループダミー)
-2.0981560
(dkn)×(罰則+行政代執行グループダミー)
-0.3040337
(dkn)×(緊急安全措置ダミー)
-0.3290516
(dkn)×(事前同意型代執行ダミー)
-0.0162259
(dkn)×(命令グループダミー)
(dkn)×(寄附ダミー)
0.9949454
(dkn)×(補助制度ダミー)
-0.1865671
(dkn)×(税制措置ダミー)
-0.2086604
0.7176196
*
1.0644720
0.8157126
*
0.1966279
0.1886757
**
0.3984337
0.2550971
0.8141260
前年度の命令の発動件数
0.9377666
前年度の行政代執行の発動件数
0.0709157
1.5067970
前年度の補助の発動件数
-0.0350506
0.0668380
ln(65 歳以上の高齢者人口)
-0.5179712
1.5981040
ln(地方自治体別財政力指数)
-1.1584770
1.1578920
定数項
13.136790
16.014960
観測数
458
自由度調整済決定係数
*
0.4987436
0.7045
※
**,*はそれぞれ 5%,10%有意水準に対応する。
な行政刑罰に対して関係当局が対応する確証はないxiv。
緊急安全措置については、最終的に地方自治体が対処す
るため、所有者には自ら除却をしないインセンティブが働
くと考えられる。費用回収が困難な場合もあり、結果とし
て地方自治体(納税者)が負担することとなる。
寄附については、建物部分の除却費等を所有者が負担す
る必要がない場合が多く、遠方に居住する所有者等にとっ
て寄附を活用するインセンティブが働くと考えられるが、
費用の大半を地方自治体(納税者)が負担することになる。
命令の発動実績については、実際に氏名公表等に結びつ
くため、除却インセンティブが働くと考えられるが、命令
は裁量行為(できる規定)であり、発動の基準が明確でな
い上、発動実績も少なく、実際に発動される確証はない。
行政代執行については有意な結果は出ていないが、複
雑・大量な執行手続きに係る行政コストが多額になるが費
用徴収が困難である、裁量行為であり必ずしも外部不経済
の程度に応じて発動されるわけではない等の課題があるxv。
補助制度については有意な結果は出ていないが、費用の
一部を地方自治体(納税者)が負担するとともに、周囲に
悪影響を及ぼす等の補助要件を満たすまで放置しておくイ
ンセンティブをもたらすという問題がある。
税制措置については有意な結果は出ていないが、元々住
宅である老朽危険空き家等があれば課税標準特例が適用さ
れ、更地化するよりも優遇されることから、放置しておく
インセンティブをもたらしており、明らかに問題である。
5.
まとめ
本稿では、管理不全空き家等による外部不経済の発生を
示すとともに、現行の各種対策が必ずしも有効・効率的に
機能していないことを示した。これより今後の対策のあり
方としては、外部不経済を適切にコントロールして管理不
全空き家等を放置するインセンティブをなくすとともに、
空き家等の適正管理義務の履行確保方策として、行政の裁
3
測する手法を検討すること、複数の「管理不全な状態」の
組み合わせや立地状況等による影響も加味した推計モデル
を検討すること、また外部不経済を適時適切かつ簡便に計
測できるようにするための地理空間情報に係る総合的なデ
ータベースを構築することが上げられる。さらに、今回分
析を行った老朽危険空き家等の除却対策だけではなく、管
理不全空き家等の再生・再利用方策についても検証を行う
ことが必要である。
量がなく、履行義務の内容に見合った合理的な方策を講じ
ることが求められる。
このため、まずは「居住の用に供する家屋」でない管理
不全空き家等には課税標準特例が適用されない旨を地方税
法その他の法令において明記することが必要である。ただ
し、これだけでは非住宅建築物と同様の扱いになったに過
ぎず、不十分である。そこで次に経済的インセンティブを
活用した外部不経済のコントロール手法を検討する。具体
的には、(1)管理不全空き家等がもたらす外部不経済を定量
化し、(2)汚染者責任原則に立ってそれに基づいたピグー税
をこれらの所有者に賦課し徴収することが考えられる。
(1)については 3 での手法をベースに管理不全空き家等
の地域性や立地特性等も十分に考慮しつつ、様々な地域で
実証分析を行い、一層精度を上げていくことが必要である。
(2)については、空き家等が管理不全な状態にならないよ
う適正な管理を行わなければならない義務のある所有者に
自ら義務を履行させるためには、あらかじめ義務不履行の
場合には過料を課すことを予告するとともに、義務不履行
の場合にはその都度過料を徴収することによって義務の履
行を促す、金銭的間接強制の方法である「執行罰」xviが考
えられる。これは制裁としての罰ではなくxvii、将来にわた
る義務の履行確保の手段の一つであり、過料の金額は目的
達成の観点から政府が合理的に設定することが可能で何度
でも課すことができる上、最終的には国税の滞納処分の例
により強制徴収するよう仕組むことも可能であるxviii。外部
不経済に見合った過料は管理不全空き家等の状態ごとに異
なること、また改善しても再度管理不全な状態になること
もあることから、執行罰により外部不経済をコントロール
し、義務の履行を確保することには合理性がある。しかし、
義務履行確保の手段である執行罰は条例では規定できない
こと、過料の強制徴収の実効性確保のために新たな体制整
備が必要となることから現状では導入は困難である。
そこで次に既存制度の活用による行政コストの効率化の
観点から、固定資産税xix・都市計画税xxでの対応を検討する。
管理不全空き家等の存在により周辺地域の地価が下落すれ
ば固定資産税の課税標準額が下がり両税は減収となるので、
汚染者責任原則に立てば管理不全空き家等の所有者に外部
不経済に見合った負担をさせ、社会的余剰を最大化するべ
きであるxxi。このため、固定資産税・都市計画税の課税標
準額の算定方法を、管理不全空き家等の存在による資産価
値の減少分を考慮したものに改めることが必要である。同
時に、外部不経済の発生状況に応じて課税標準額を柔軟に
見直せるようにしておくことも必要である。さらに所有者
が適切に納税した場合は、当該税の増収分を周辺住民に対
して適切に還元することが所得分配上必要である。
また、管理不全空き家等の所有者の特定、管理不全空き
家等がもたらす外部不経済の定量化及び徴税(滞納処分含
む)を確実に行うためには、これらの業務に携わる組織・
人員体制の強化が不可欠であり、現状では縦割りになって
いる固定資産税等関連業務と空き家対策関連業務を一体的
に執行できる体制を構築することが必要である。
最後に、今後の課題として、
「管理不全な状態」は地域性
を考慮したものに細分化した上で、その深刻度を精緻に計
参考文献
・金本良嗣(1997)『都市経済学』東洋経済新報社
・阿部泰隆(1997)『行政の法システム(上)(下)[新版]』有斐閣
・福井秀夫(1996)「行政代執行制度の課題」『公法研究』58,206-219
金本良嗣(1997)参照。
管理不全空き家等に関する情報は、所沢市総務部危機管理課防犯対策室
より入手した。この情報を元に管理不全な状態を筆者において(1)樹木雑
草繁茂状態(34 件)、(2)害虫・小動物等発生状態(13 件)、(3)老朽化建
物毀損・飛散危険状態(21 件)、(4)ゴミ・郵便物等放置状態(14 件)
(以
上重複あり)と分類した。また、44 件のうち空き家条例に基づく指導、
勧告及び命令まで発動されたものはそれぞれ 28 件、4 件、3 件である。
なお、条例措置の発動は指導、勧告、命令の順に行われる。
iii
一般財団法人資産評価システム研究センターが提供している全国地価
マップ(http://www.chikamap.jp/)における地図を活用した。
iv
標準宅地に係る前面道路幅員(m)、建ぺい率(%)、最寄り駅までの距
離(m)に関する情報は、所沢市財務部資産税課より入手した。
v
一般社団法人すまいづくりまちづくりセンター連合会による HP「空家
住宅情報」に掲載の空き家条例等のリスト(2013.10.1 時点)を元に、
2012 年度までに「公布」された空き家条例を抽出した。なお、環境系の
条例や火災予防系の条例など空き家に特化していない条例は対象外とし、
空き家条例に規定された各措置のアナウンス効果も見るため、条例の施
行年度ではなく公布年度としている。
vi
除却費や廃材運搬費等の一部を補助するもの。補助対象上限額(100 万
円等)を設け、補助率を 1/2,1/3 等としているものが多い。
vii
「住宅用地に対する固定資産税・都市計画税の課税標準の特例」の管理
不全空き家等への適用解除及び一定年数の減免措置。
viii
各種対策の有無及び発動実績は、2013 年 11 月から 12 月にかけて、分
析対象の 115 市区に対してアンケートを行うことにより把握した。
ix
地方税法第 349 条の 3 の 2[第 702 条の 3]に基づき、一般住宅用地(住
宅の敷地で住宅1戸につき 200 ㎡を超え、家屋の床面積の 10 倍までの
部分)については固定資産税の課税標準が 1/3[2/3]に、小規模住宅用
地(住宅の敷地で住宅1戸につき 200 ㎡までの部分)については固定資
産税の課税標準が 1/6[1/3]になる特例。[ ]書きは都市計画税。
x
空き家条例における最も強制力のある措置により分類した 5 グループ
(命令グループ(1)、公表グループ(51)、行政代執行グループ(57)、罰則グループ(1)、
罰則+代執行グループ(4))、空き家条例における 3 つの支援措置(緊急安全
措置(17)、事前同意型代執行(24)、寄附(6))、補助制度(15)、税制措置(1)
のダミー変数。空き家条例に強制措置ではない「勧告」までしか位置づ
けていない地方自治体が 1 ある。なお、( )書きは地方自治体数である。
xi
命令(2011 年度:3 件)、行政代執行(2011 年度:1 件)、補助制度(2009
年度:7 件、2010 年度:3 件、2011 年度:32 件)である。
xii
国土交通省が毎月調査しており、2009~2012 年度のデータを 115 市区
毎に集計した。
「老朽危険を原因として除却された建築物」の除却される
直前の状態は、活用されず空いているものと考えられる。なお、建築物
の全部又は一部を除却し、引き続き建替えや増改築を行う場合は「建築
着工統計調査」で集計され、本統計には含まれていない。
xiii
補助制度の補助対象上限額が 100 万円等となっていることから、最大
5 万円の過料と比べて除却費の方が一般的には高くなると考えられる。
xiv
阿部泰隆(1997)参照。
xv
福井秀夫(1996)参照。
xvi
阿部泰隆(1997)参照。行政命令による義務不履行に対する執行罰に
係る規定は、現在は明治 30 年に制定された砂防法第 36 条のみである。
xvii
この観点から福井(1996)は用語としては処罰を連想させず、法的性
格が同様である「賦課金」が適切としている。
xviii
砂防法第 38 条参照。
xix
地方税法第 341 条~第 441 条参照。
xx
地方税法第 702 条~第 702 条の 8 参照。固定資産税とは税率は異なる
ものの課税標準は同じである。
xxi
福井(1996) 参照。
i
ii
4